2024/8/25 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、アロマセラピストの「中村姿乃(なかむら・しの)」さんです。
中村さんは子供の頃から植物好き。自宅の近くに大きな公園があり、お母さんやおばあちゃんとよく出かけ、植物の香りを嗅いだり、落ち葉を拾ったり、また植物図鑑も好きな、そんな子供だったそうです。
大学卒業後は、一般企業に就職。そんな中、30歳を過ぎた頃に、蚊に刺されると、熱が出たりするようになり、蚊の唾液によるアレルギーが判明。常に虫除けスプレーを持ち歩く生活になってしまったそうです。そんな頃、精油を使って自分で虫除けスプレーを作れることに気づき、会社勤めをしながら、週末、アロマの学校に通うようになったそうです。そしてアロマの素晴らしさを人に伝えたいと思うようになり、徐々にアロマにシフトしていったそうですよ。
そしてフランス・リヨンの専門学校でアロマテラピーなどの植物療法を学び、現在は都内でアロマテラピースクール&サロンを運営していらっしゃいます。また、先頃、新しい本『歴史や物語から楽しむ あたらしい植物療法の教科書』を出されました。
きょうはそんな中村さんに、植物療法の基礎知識のほか、香りを権力の象徴として使ったクレオパトラの逸話、そして音楽や絵本に登場するハーブのお話などうかがいます。
☆写真協力:関 純一
学びは「リヨン植物療法専門学校」
※専門の知識はフランスのリヨン植物療法専門学校というところで学んだそうですね?
「そうですね。最初は会社員時代は東京の学校でアロマの勉強して、日本のアロマの資格はいくつか取ったんですね。
会社員時代に何をしていたかというと結構面白い仕事をしていて、ジュエリーの仕事だったんですけれども、そのジュエリーのもとになる原石を売っている人たちに、世界中に行って取材をするっていうような仕事をしていたんです。
なので、アロマテラピーを始めた時も、エッセンシャルオイルのボトルの中に入る前の、植物を育てている人に取材してみたいって思うようになって、アロマテラピー発祥の地がフランスだったので、2014年ぐらいから定期的にフランスに行って農場とか精油メーカーを取材するようになったんですね。
で、そこのかたがたにお会いしたりすると、やっぱりフランスの植物学校ってすごくいいよとか楽しいよっていう話をうかがって、リヨンの植物学校に行き着いて勉強したいなっていうふうになりました」
●フランスにいろんな学校がある中で、そのリヨン植物療法専門学校を選んだのは何か理由があったんですか?
「そこはアロマテラピーだけじゃなくって、ハーブとかフラワーエッセンスとか、ペットのために植物を使うこととか、総合的に植物療法を教えている学校で、かなり規模も大きかったのと、私がお世話になっている農場のかたがたの何人かが、そこの学校の卒業生だったりとか講師をされていたりしたこともあったので、ここだったらいいかもっていうふうに思いました」
(編集部注:リヨンの専門学校は、実はコロナのパンデミックで、リアルな授業ができなくなり、それまでやっていなかったオンライン授業をスタート。中村さんはアロマテラピーの学科を1年間受講。授業はもちろんフランス語で、辞書を片手に格闘する日々が続いたそうです。それでも、日本で勉強するアロマテラピーの内容とは異なり、すごく面白かったそうですよ)
※どんな違いがあったんですか?
「例えば日本だと、『腕の痛みにおすすめの精油は何ですか? 理由とともに書きなさい』みたいな、そういう問題が多いと思うんですけど、なんかフランスだからか、すごく物語性があって、『62歳のモーリスさんは絵画をやっていて手を痛めてしまいました。彼はこの秋には個展を開くので、また絵画を再開したいと思っているんですが、お医者様に行ってもお薬では治らず困っています。あなただったらどんな精油をどんなふうに使うように、彼に総合的にアドバイスしますか』とかそんな感じで(笑)、情景が浮かぶようなレッスンとか・・・。
あとは植物について書かれたポエムが載っていたりとか、学習だけじゃなく感性も磨かれるようなレッスンで、それがすごく楽しかったですね」
●好きなことだからワクワクしそうですよね。
「本当にそうですね。フランス語つらいっていう思いもありつつ、やっぱり内容がわかると本当に楽しいっていうのがありました。終わったあとは本当に益々アロマとか植物のことが好きになれたかなっていう感じです」
まるごと一冊、植物療法
※ではここからは、中村さんの新しい本『歴史や物語から楽しむ あたらしい植物療法の教科書』をもとにお話をうかがっていきます。
この本は装丁が百科事典のように立派で、内容は植物療法の基礎知識から歴史、人物、物語など幅広く、読み応えがある、まさに教科書のような本なんです。中村さんはこの本を2年ほどかけて書き上げたそうですが、参考文献をたくさん読み込む日々でもあったそうですよ。
●こんな本にしたいというコンセプトのようなものはありましたか?
「この本のコンセプトというか、いちばんしたかったことがアロマテラピー、ハーブ療法、フラワーエッセンスとか、植物療法の中にもいくつかのジャンルがあるんですけれども、そのジャンルを敢えて分断しないで、横断的に見ていくっていうのがまずひとつのコンセプトだったんですね。
かつ、ハウトゥー本みたいな感じではなくて、植物療法全般の歴史とかそれに関わってきた人たちとか物語とか、背景の部分も楽しく読んでいけるっていうのがコンセプトでしたね。
私ももともとそういう本が欲しいなって思っていたところもあったので、それができるっていうのはすごく嬉しかったんですけど、結構プレッシャーもありました(笑)」
●勉強しながら作り上げていったっていう感じなんですね。
「そうですね。終わった今となっても本当にたくさんの学びがあったなっていうふうに思っています」
●すごく分厚くて難しそうな本かなって一見思ったんですけど、読み始めるとスラスラっと読めて楽しかったです!
「ありがとうございます! カラーで写真やイラストも入っているので・・・。4つの章に分かれているんですけれども、基本的にはどこから読んでいただいても大丈夫です。植物療法が初めてのかたは、パート1から読んでいただくといいかなと思うんですけれども、どこからでもお好きなところから読み進めて、ちょっとずつ読むっていうのでも全然大丈夫な本にはなっています」
植物療法の基礎知識
※では具体的に、本に載っていることをいくつかうかがっていきます。
まずは「植物療法の基礎知識」ということで、植物療法とは何か、教えていただけますか。
「植物療法って簡単に言うと、植物の力を使って、私たちがもともと持っている自然治癒力を高めて、病気の予防とか心や体のケアに使っていく。で、健康に導いていくっていうことなんですよね。
だから植物療法って聞くと、ちょっと難しく感じるかもしれないんですけれども、普通にお部屋の中でアロマ・ディフューザーで精油の香りを楽しむとか、ハーブティーを飲むとか、あとは森林に行って深呼吸するとか、植物を育ててすごく癒されるとか、そういうのも全部、植物療法のひとつになっていると思います」
●なぜ植物って癒す力があるんですか?
「細かく見ていくと、理由はちゃんとあるんですけど、植物って基本的には生まれてきた場所から自由に動くことができないので、そこで一生、生きていくために、長い歴史の中で、すごくたくさん進化をしてきているんですよね。
で、植物って常に有害なものから身を守る成分と、これからも地球上から絶えないようにするために、子孫を残す成分っていうのを作り続けているんですね。それが最近でも話題にはなっているんですけど、『フィトケミカル』っていうような成分もそれに含まれていて、それは植物の香りとか苦味とか色素とかを作っているような成分でもあるんですね。
なので、そういった成分に抗菌とか抗ウイルスとか抗真菌の作用があって、植物自身も守られるとともに、それを使った私たちも抗菌とか抗ウイルスの作用で感染症のケアができたりとか・・・。
あとは、そういう植物が作る成分って、紫外線をずっと植物は浴びているので抗酸化作用っていうのがあって、細胞が老化したり酸化したりするのを防ぐような成分が結構あるんですよね。そういうのを私たちが使うことで、ひいては老化の対策ができたりとか、そういったいろんな一面を植物は持っています」
●ひとくちに植物療法と言っても、本当にいろんな療法があるんですよね。
「そうですね。この本の中でもアロマテラピーだけじゃなくて、ハーブ療法とかフラワーエッセンス、森林療法 、園芸療法、ジェモセラピー、ホメオパシーなどなど、たくさんジャンルがあって、本のパート1では、それぞれの特徴もわかりやすく説明をさせていただいているので、ひとつかふたつは自分は知っているけど、ほかのはまだ聞いたことがないっていうかたも読んでいただけると、その違いがわかるかなと思います」
クレオパトラの香り!?
※中村さんの新しい本から、続いては、植物療法の歴史に少し触れたいと思います。本には紀元前3000年頃にはメソポタミアやエジプトで、すでに植物療法が用いられていたと書いてありましたが、どんなものが何に使われていたのでしょう?
「その頃はどちらかというと、もちろん治療的に使われていたこともあるかもしれないんですけれども、宗教とか儀礼的な舞台で植物の香りが利用されることが多かったみたいです。その頃の遺跡からはペースト状になった油に植物の香りがついた軟膏を入れていたような容器が、すごくたくさん出土しているんですよね。
なので、身分が高いかたが亡くなった時に一緒に棺の中にそういったものを納めたりとか、どちらかというと、暮らしの中で庶民が、っていうよりは、おそらく特別なかたがたが香りを重用していたのかなっていうような痕跡がみられるみたいです」
●歴史上の重要な人物も植物療法に関わっていたということで、例えば古代ギリシャの医者で、医学の父と言われているヒポクラテスは、植物療法の歴史においてどんな役割を果たしたんですか?
「ヒポクラテスが生きていた時代は、病気が神様の怒りに触れたりすることで、みんなに起こってしまうものっていうふうに信じられていたので、基本的に治療は神様の教えに従って神殿の中とかで行なわれていたらしいんですね。
で、ヒポクラテスはそういう呪術ありきの治療法に疑問を呈した人で、病気とか治療法は神様から与えられるものではなくて、理性に基づいた合理的で科学的な説明ができるはずなんだって考えて、彼は環境とか食事とか生活習慣とかが、人々の健康に大きな影響を与えるっていうふうに考えたようなんですね。
そんな中、彼は排泄を促すために下剤とか嘔吐剤とか利尿剤を薬草で作って、それぞれの人にアドバイスをしながら、それを渡したりとか、あとは生活習慣の中で薬草とか野菜とかオリーブオイル、ワイン、蜂蜜を積極的に食事の中に取り入れるといいよっていうようなアドバイスもしていたようなんですよね。
なので、今の私たちからすると生活習慣が健康を左右することになるっていうのは、もう当たり前って感じだと思うんですけれども、やっぱり当時のように長きに渡って病気と迷信がセットになっていた時代に、それを大きな声で発信していったっていうのは、すごく先進的な人だったのかなって思います」
※あのクレオパトラは、権力の象徴として香りを使っていたそうですね?
「彼女もすごく魅力的で頭が良くて、政治的手腕に長けたかただったようなんですけれども、彼女はとっても高価な香りのついた油とか香料をたっぷりと全身に塗ったりとかして、人々を魅了していたみたいなんですね。
特にバラとかジャスミンのお花がすごく好きだったみたいで、権力のある政治家とか軍人を晩餐会に招いた時には、くるぶしぐらいまでバラの花を敷き詰めて招待客を圧倒して、政治的な力を見せつけたっていうようなエピソードもあるみたいです」
●すごいですね〜! バラとかジャスミンのお花を浮かべたお風呂にも入っていたって、本に書かれていましたけれども・・・。
「本当に高貴なかたならではの、香りを使った処世術というか、すごいなと思いますね」
●華やかな香りがしたんでしょうね〜。
「香りがちょっと想像できるような、浮かんできますよね」
(編集部注:日本では、あの聖徳太子が医学や薬草の利用を広める重要な働きをしたそうですよ。興味のあるかたは、ぜひ中村さんの本を読んでくださいね)
ハーブは音楽や絵本にも登場!?
※この本では、植物と人の関わりが記された古典や文学、絵画や絵本、小説や映画、さらにはマンガやアニメなども紹介されていますが、実は音楽にも植物が登場するんですよね?
「そうですね。この本の中でもいくつか、音楽の中に紹介されている植物たちっていうのがあって、例えばサイモン&ガーファンクルの『スカボロー・フェア』っていう曲の中に、パセリとセージとローズマリーとタイムっていう4つの植物が出てくるんですけど、これが何を意味しているのかっていうのを考察してみたりとか・・・。
あとはエディット・ピアフの『バラ色の人生』とか、エド・シーランの『スーパーマーケット・フラワーズ』とか、いろいろな曲の中に出てくる植物と、それがいったい何を象徴しているのかなって、ちょっと考察してみたりしています」
●具体的な植物の名前を出すことで、歌の世界観がやっぱりググッと広がりますよね。
「そうですよね。植物って誰でもなにかしらの思い出があると思うんですよね。なので、植物の名前が出てくることで、自分の中の思い出スイッチみたいなのがちょっと刺激されて、きっとみなさん、心が動くところがあるんじゃないかなって思います」
●親近感にもつながりそうですね! 絵本でいうと「ピーターラビット」のシリーズにはいろんなハーブが出てきますよね。
「そうですね。ピーターラビットってすごく絵が可愛くて、みなさん多分、絵柄はご存知だと思うんですけど、結構、家庭環境が複雑なうさちゃんたちなんですね。
お母さんがひとりで4匹の子うさぎたちを育てていて、生計を立てるためにハーブをすごく使って、例えばハーブのお薬とかローズマリーのお茶とかを販売したりとか・・・。あとはうさぎタバコって言われるラベンダーを乾燥させたものを、みんなに分けたりとかして生計を立てているので、そもそもがハーブがベースになっている暮らしっていうのが描かれているんです。
そのピーターラビットのエピソードの中でも、ピーターがすごくいたずらっ子なので、畑に行ってどんどん野菜を勝手に食べちゃったりするんですけど、そこでピーターは自分で消化にいいハーブをちゃんと食べてケアをしたりとかしているんですよね。
なので、読んでいるとこれにこういう作用があるんだっていうのもわかるんですけど、すごく可愛らしくて、ハーブの情景も浮かんできて、とってもワクワクします」
スクール&サロン「野枝アロマ」
※中村さんが主宰されている都内・西荻窪になるアロマテラピースクール&サロン「野枝(のえ)アロマ」では、どんなレッスンをされているんですか?
「大きく分けると、フランス由来のアロマテラピーとか植物療法をお勉強していただけるレッスンと、あとは日本ならではのアロマテラピーを勉強することができるレッスンというのがあるんですね。
で、フランスの植物療法については、フランス由来のアロマテラピーで使う専用の成分とか、使い方をすごくわかりやすく深く勉強することができるNARD JAPANという協会の認定コースもやっています。あとは私自身がリヨンの植物学校で学んだ内容とか、農場とか精油メーカーを取材してきた内容を、スライドを見ながら楽しく勉強していただけるオリジナルのコースなんかもあります」
●一度だけ体験したいとか、そういうこともできるんですか?
「そうですね。体験レッスンもやっていて、そこでアロマテラピーの最初の一歩のお話をさせていただいたりとか、ルームコロンとか入浴剤とか美容オイルを楽しく作っていただいたりすることもできます。
あとはオンラインで説明会とかワークショップみたいなのをやることもあって、結構いろいろな地域から来ていただいたりもしているので、これからはもう少しオンデマンドの動画レッスンとかオンライン講座もちょっと充実させていきたいなと思っています」
●いいですね〜! フランスには今も定期的に行かれているんですか?
「はい、そうですね。1年に一回くらいは必ず行っています!」
●そうなんですね! で、精油とかアロマとかのメーカーだったり、ハーブの農場とかを周られているんですか?
「そうですね。必ず毎回訪れている農場とか精油メーカーもありますし、彼らに紹介してもらって、また新しい農場に行ったりすることもあります」
●近々行かれる予定はあるんですか?
「もうシーズンが一回終わってしまっているので、次に行くのはおそらく来年の5月6月ぐらいかなと思っていて、そこでは取材とともにリヨン植物療法専門学校で、私が日本のアロマテラピーについての授業もさせていただく予定です」
●そうなんですね、すごい! では最後にアロマテラピーを通して、どのようなことを伝えていきたいですか?
「とにかくアロマテラピーを始めとした植物療法は、私たちの心とか体を元気にしてくれる素晴らしい可能性を秘めているということと、やっぱり古代からずっと私たち人間に、一緒に寄り添っていてくれている植物のことを知ることは、とにかく楽しくて学び甲斐があることだっていうことですね。
なので、そういうことをみなさんにお伝えすることで、今まで何の気なしに見ていた植物に対して、ちょっと興味が湧いたりとか、自分とかご家族の健康に興味が湧いて、自分とか周りの大切なかたがたを植物で癒して元気になっていくきっかけになったら、すごく嬉しいなと思っています」
INFORMATION
中村さんの新しい本をぜひ読んでください。アロマテラピー、ハーブ療法、フラワーエッセンス、森林療法などの解説に加え、植物療法の歴史、人物、物語などなど読み応え、見応えがありますよ。フランスの農場などに行った取材レポートも写真入りで載っていますよ。おすすめです! 翔泳社から絶賛発売中です。詳しくは、出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。
中村さんが主宰されているアロマテラピースクール&サロン「野枝(のえ)アロマ」について詳しくは、ぜひオフィシャルサイトを見てくださいね。
◎野枝アロマ:https://noe-aroma.com
◎インスタグラム::https://www.instagram.com/noe_aroma/