毎回スペシャルなゲストをお迎えし、
自然にまつわるトークや音楽をお送りする1時間。

生き物の不思議から、地球規模の環境問題まで
幅広く取り上げご紹介しています。

~2020年3月放送分までのサイトはこちら

Every Sun. 20:00~20:54

国立科学博物館で開催中の特別展「昆虫 MANIAC」の見所を大紹介!

2024/9/8 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、特別展の総合監修を担当された国立科学博物館の研究員「井手竜也(いで・たつや)」さんです。

 井手さんは1986年、長崎県出身。昆虫少年というよりは野球少年だった井手さんなんですが、生き物は好きで、九州にいるクマゼミをたくさん採っては家の中に放つような子供だったそうですよ。
 そして高校生のときに生物部に入部、そこで昆虫研究の面白さに目覚め、宮崎大学農学部に進学し、昆虫の研究室に所属。おもにキャベツ畑に発生する「蛾(が)」を研究していたそうです。その後、九州大学大学院、森林総合研究所の研究員を経て、現職の国立科学博物館・動物研究部の研究員として活躍されています。

井手竜也さん

 今週は特別展「昆虫 MANIAC」をクローズアップ! マニアックとタイトルづけされた特別展の見所や、井手さんの専門ハチの研究から、香りを運ぶハチや、寄生するハチの戦略など、興味深いお話をうかがいます。

☆写真協力:国立科学博物館

5人の研究者、五人五様のマニアック!?

※今回の特別展、タイトルに「マニアック」とあるのがポイントなんですよね?

「はい、そうですね。虫の色や形、生態とかの多様性にマニアックな視点で迫るっていうのが今回の特別展のポイントになっていて、研究者が監修しているんですね。
 夏は昆虫展がいろんなところで行なわれていて、その中には研究者が監修に関わっているものもあるんですけれど、今回は本当に第一線でやっている、国立科学博物館の昆虫研究者が5人揃って監修していることもマニアックなところです。滅多に見られない昆虫とか、知っている虫でも全然知らないポイントがいろんなところで紹介されているような展示になっています」

特別展「昆虫 MANIAC」

●「トンボの扉」「ハチの扉」「チョウの扉」「クモの扉」「カブトムシの扉」など、いろいろありましたけれども、厳密には昆虫ではないクモとか、ムカデなども展示されていますよね。それは昆虫ではなく、ムシっていう扱いなんでしょうか?

「そうですね。昆虫には定義があるんですよ。ただ“ムシ”っていう言葉には実は定義がなくて、小さな生き物を総称して“ムシ”って呼ぶこともあるんです。なので、ムシの中に昆虫が含まれているっていうことになりますね。クモとかムカデは昆虫ではない、大きくいうとムシだというところですね。

 昆虫の定義は頭、胸、腹に体のパーツが分かれていて、その胸の部分から6本の足が生えているのが、昆虫のいちばんの基本的な定義になるんですね。一方で、クモだったら足が8本で、ムカデだったらもっとあって、多足類って呼ばれていて、たくさんの足が生えているんです。
 ただ、昆虫とかムカデやクモは全部、ひとつの節足動物っていうグループに入るんですね。この特別展では、昆虫と昆虫以外の陸上に生息する節足動物類を、ムシと定義して扱っています」

●展示してある標本などは、すべて国立科学博物館で所蔵しているものということですか?

「そうですね。大部分は国立科学博物館の収蔵庫から、筑波に収蔵庫があるんですけれど、そこから選び抜いて持ってきたもので、いくつかほかの博物館だったり大学だったりからお借りしているものとか・・・。さらには今回の特別展のために研究員が自ら野外で採集してきて、標本を作ったものなんかも展示していたりしています」

●巨大な模型も目を引いて、思わず写真を撮っちゃいましたけど、この精巧な模型にもこだわりを感じたんですが・・・。

特別展「昆虫 MANIAC」

「そうですね! あれは研究者が5人いまして、五体全部、それぞれにこれだ! っていうのを選んで作っているものになるんです。職人のかたがちゃんと一個ずつ作っていて、それを研究者が細かい部分、この部分の形が違うとか、この色が違うとか、そういうところを細かく監修して作ったものなんですよ。

 本当に顕微鏡で覗いた時に感じる、その虫の面白さとか、あと野外で近づいてよく観察した時に見える、その虫のちょっとした動きみたいなところも表現していて、それを大きなもので見ることができるっていう模型になっています」

●ただ単に大きな昆虫の模型っていうよりは、マニアックな視点で見る模型っていう感じですよね?

「そうですね。細かいところを見れば見るほど、ここはこういうふうになっていて、こういう動きに役立っているんだとか、そういうのが見えてくるようなものになっています」

ミツバチはハチ界では珍しい!?

※井手さんの専門は、ハチだそうですね。今回の特別展でも、もちろんハチの展示を担当されていますが、なぜハチを専門に研究することにしたんですか?

「ハチと言っても、実は自分の専門は、タマバチっていうごく小さな、2〜3ミリくらいしかないようなハチなんですね。タマバチからハチの世界に入ったというところで、タマバチの研究をしていく上では、ほかのハチのことを比較対象として知らなければいけないっていうところで、徐々にハチ全体にという感じで、ハチの研究を始めたという感じです」

●タマバチには、どんな特徴があるんですか?

「タマバチは植物に寄生する寄生バチなんですね。要は植物に卵を産みつけて、その部分を“虫こぶ”と呼ばれる、植物の一部が膨れたような巣に変形させるっていう特徴を持っています」

●そもそも井手さんは、どうしてタマバチを研究することになったんですか?

「やっぱり“虫こぶ”を作るっていう生態の面白さから、タマバチの研究をやってみたいって思ったんですけど、タマバチってそもそもほとんど名前が知られていないというか、図鑑にもほとんど載ってないような昆虫です。いわゆる分類学っていう、新種とかもまだまだたくさんいるような、名前がついていないようなハチがたくさんいるようなグループだったんですね。だからそのタマバチの分類学という分野を専門に研究することにしました」

●ハチっていうと、ミツバチとかスズメバチっていうイメージがあったんですけれども、世界的にはハチってどれぐらいいるんですか? 種類でいうと・・・?

「種類でいうと、ハチは名前がついているだけで、いま世界で約15万種って言われています。15万種ってどれくらい多いかっていうと、哺乳類だと世界で約6500〜6600種くらいと言われているので、ハチだけでも圧倒的に哺乳類の全種数を上回るほどです」

●すごい! 日本だと何種類ぐらいのハチがいるんですか?

「日本で、大体6500種以上が知られていますね」

●そんなにいるんですね!

「はい、ただ多分みなさんが知っているのは、ミツバチとかアシナガバチとか
スズメバチとか、そのあたりの名前しかあまり知られてないっていうところがあったりします」

●ミツバチは花粉を運んで、いろんな果実とか野菜などを作ってくれているっていう、人間にとってありがたい存在かなって思うんですけれども、ミツバチ自体の種類は多いほうなんですか?

「いや、これがですね〜、ミツバチっていうのは、ミツバチ族っていうグループがあるんですけど、ミツバチ族は世界で9種しか知られてないですね。しかも日本でいうと2種なんですね。ニホンミツバチとセイヨウミツバチ。もともと日本にいたミツバチはニホンミツバチのたった1種しかいないくらい、実はミツバチってハチ界でいうと、ものすごく珍しい存在と言えるかもしれない昆虫なんですよね」

香りを運ぶハチ、寄生するバチ

※今回の特別展で「香りを運ぶ」ハチのパネルがありました。この「香りを運ぶ」ハチとは、どんなハチなんですか?

シタバチ
シタバチ

「その香り運ぶハチって、中南米だけに生息するシタバチっていうハチなんですね。中南米のシタバチは、ベロが長いようなストロー状の長い口を持ったハチなんですけど、これのオスが、花の香りを集める習性を持っているんですね」

●オスだけなんですか?

「オスだけなんです。オスの後ろ足が太くなっていて、その後ろ足の中がスポンジ状になっているんですね。シタバチのオスは花を見つけると、その花の表面を前足で撫でて、口から出した分泌液と香りを混ぜて、香り成分をその液体の中に閉じ込めるんですね。それをスポンジ状になった後ろ足の中に、後ろ足に隙間が空いていて、そのスリットから分泌液を押し込んで、香りを足に溜め込むっていう習性を持っています」

●その香りがあることで、どうなるんですか?

「香りを集めるオスほど、メスに選ばれやすくなるのが知られていますね。だからメスへのアピールとして使われているっていうところです」

●そのために香りを運んでいるんですね! 特別展の会場でその香りを再現していますよね?

「そうですね。シタバチを採集したり調査する時に、香り成分をぶら下げて、ハチが寄ってくるのを捕まえるんですけど、捕まえる時に使う香り成分を実際に(会場に)置いています。2種類置いていまして、ちょっといい香りとちょっと嫌な感じの香りと、ふたつ置いてあります」

※ほかにも寄生するハチの展示がありました。ほかの虫の幼虫に寄生するハチがいるんですよね?

「そうですね。さっきハチが世界で15万種いるって言ったんですけど、実はその半分以上は“寄生バチ”って言われていて、ハチの中ではいちばんメジャーなグループが寄生バチなんですね。特にいちばん種類が多いのがヒメバチって呼ばれているグループで、ヒメバチって名前がついているだけで約2万5000種、全生物の中でもそのグループの種数が多いものとして知られています。

 ヒメバチって英語で『ダーウィン・ワスプ』って呼ばれていて、ダーウィンは進化論で有名なチャールズ・ダーウィンなんですけど、ダーウィンが手紙の中で『神がこんな残酷な生物を作るはずがない!』っていうメモを残していて、だから進化論を考えるに至ったみたいなことが言われています。それに由来して『ダーウィン・ワスプ』って呼ばれているのが、このヒメバチっていうグループがいる寄生バチの仲間ですね」

●ヒメバチは、どんなハチなんですか?

「ヒメバチは今回実は、巨大模型として作ったエゾオナガバチがあるんですけど、それもヒメバチの仲間なんですね。ほかの昆虫に卵を産みつけて、寄生した相手を幼虫が食べて育って、体を突き破って出てくるっていう習性を持ったハチです」

エゾオナガバチ
エゾオナガバチ

●なんかすごいですよね・・・エイリアンみたいな・・・寄生するってすごい!

「そうですね。本当にリアル・エイリアンみたいですね」

●ヒメバチって可愛らしい名前なのにすごいですね(笑)

「このヒメバチにすごく近い仲間で、コマユバチっていう寄生バチがいるんですけど、その仲間だと『寄主操作』って言われていて、寄生した相手を操るっていう現象も知られています。実際展示ではコマユバチがシャクトリムシ、シャクガっていう蛾の幼虫なんですけど、寄生したシャクトリムシを操っている様子の動画も見ていただくことができるようになっています」

刺すのはメスだけ?

※ハチは「刺す」昆虫のイメージもありますよね。刺すのはメスだけなんですよね?

「はい、そうですね。おもに毒針を使って刺すのは、メスだけっていうことなんですけど、これって実はいろいろ話があるんです。まず、なぜメスが刺すのかっていうと、メスの毒針はもともと産卵管って呼ばれる、卵を産みつけるための針だったんですね。なので、それを進化させたため、毒針を持っているのはメスだけだからメスしか刺さない、オスは刺さないっていうのが一般的なハチとして知られているところなんですけど・・・。

 もう一歩先に行くと、実は刺すオスも見つかっていて、それは毒針で刺すのではなくて、交尾器って呼ばれる、メスと交尾するための部分が針状に変化していて、それで刺すっていうものも見つかっていたりします。

 一方でメスであっても毒針を退化させて刺さないハチもいて、それはハリナシバチっていうハチがいるんですけど、そんなものもいるとか・・・例外だらけでひと言で語れないっていう、この面白さを伝えたいっていうのが、今回の『昆虫 MANIAC』のポイントでもあるんですね」

●へぇ~面白いですね~。なんかハチとハエって似ていますけど、近い種だったりするんですか?

「ハチとハエはどちらも『完全変態昆虫』って呼ばれる、さなぎを経て成虫になるタイプの昆虫って意味では近くて、あと、 どちらも翅(はね)が薄い膜状で透明になっているっていうところは共通しているんですけど、ハチとハエ自体は昆虫の進化の流れでいうと、少し離れたところにはいるものになります」

昆虫は多様で面白い

●今回の特別展「昆虫 MANIAC」では、子供たちにも大人気のカブトムシなどの甲虫から、とても美しいチョウだったり、あとパンダのようなアリ、バイオリンのようなカマキリなど、本当にマニアックな標本が展示されていて、昆虫好きにはたまらない特別展だと思うんですけれども、昆虫の世界って本当に多様性に富んでいるんですね?

(左)パンダアリ (右)バイオリンカマキリ
(左)パンダアリ (右)バイオリンカマキリ

「そうですね。名前が付いているだけで100万種で、付いてないものも含めると約500万種くらいいるって言われていて、だからもう本当に形にしろ生態にしろ、いろんな多様性が見られるっていうのが面白さですね」

●世界にはもう昆虫だらけってことですよね! 特別展の総合監修を担当された井手さんから今回の特別展のここを見てほしいとか、こんなことを感じてほしいなど、何かありましたらぜひ教えてください。

「会場にはたくさん標本があるんですけれど、標本と一緒に解説パネルがいっぱい用意されているんですよね。全部読まなくてもいいとは思うんですけれど、その解説パネルを読んで、その標本を見ると、なんでこの標本が展示されているんだろうっていうのが見えてきて、それ読んだ上でまた昆虫を見ると、すごく面白く感じていただけると思います。

特別展「昆虫 MANIAC」

 研究としては標本を基本的に扱っているんですけど、やっぱり生き物なので、自然の中で生きている姿を見てもらうのがいちばんだと思うんですよね。だから博物館でまずは、逆に標本じゃないと細かいところは見られないので、そういうところでいろんなことを知った上で、改めて身近な環境でたくさんの種類に出会うことができる、多様性の面白さを感じられるのが昆虫だと思うので、そういったものになればいいなと思います」


INFORMATION

国立科学博物館 特別展「昆虫 MANIAC」

国立科学博物館 特別展「昆虫 MANIAC」

 井手さん始め、5人の研究者がそれぞれの得意分野を存分に発揮して、マニアックに攻めた展示をぜひご覧ください。「トンボ」「ハチ」「チョウ」「クモ」そして「カブトムシ」の5つの扉があなたを待っていますよ。標本、写真パネル、動画、そして精巧に作られた巨大模型にもご注目ください。

 音声ガイドナビゲーターは声優の江口拓也さん、公式サポーターはアンガールズで、山根さんが発見した新種の昆虫標本も展示されていますよ。特別展のオリジナルグッズにも注目です。

 現在開催中の特別展「昆虫 MANIAC」は10月14日まで。尚、9月9日(月)は休館日となっています。開館時間は午前9時から午後5時まで。入場料は一般と大学生2,100円、小・中・高校生は600円。9月中は、ほかにも休館日がありますので、ご注意ください。詳しくは、オフィシャルサイトをご覧ください。

◎昆虫 MANIAC:https://www.konchuten.jp

 井手竜也さんの研究サイトも見てくださいね。

https://www.kahaku.go.jp/research/researcher/researcher.php?d=ide

前の記事
次の記事
サイトTOPへ戻る
WHAT’s NEW
  • 繊細で緻密、美しい標本画の世界

     今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、標本画家の「川島逸郎(かわしま・いつろう)」さんです。  標本画とは、科学的な裏付けのもとに描かれ、図鑑や科学論文に掲載される動植物の……

    2024/10/6
  • オンエア・ソング 10月6日(日)

    オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」 M1. WRITING TO REACH YOU / TRAVISM2. PICTURE……

    2024/10/6
  • 今後の放送予定

    10月13日 ゲスト:東京都青梅市で「lala farm table」という農園を営むハーブ農家の「奥薗和子(おくぞの・かずこ)」さん  ドイツのお花屋さんで働きながら取得した資格「マイ……

    2024/10/6
  • イベント&ゲスト最新情報

    <川島逸郎さん情報> 2024年10月6日放送 『標本画家、虫を描く〜小さなからだの大宇宙』  川島さんの新しい本には専門家が一目置く、点と線だけで描いた緻密な標本画が10……

    2024/10/6