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牛から教わること〜食とは!? 命とは!?

2024/10/20 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、牛写真家の「高田千鶴(たかた・ちづる)」さんです。

 大阪府泉大津市に生まれた高田さんは、子供の頃から動物が大好きで、小学4年生のときに、引っ越した先の近くに農業高校があり、そこで牛との運命の出会いがあったそうです。

 ある日、友人の家に遊びに行こうと、たまたま農業高校のそばを通ったら、牛の「モー」という声が聴こえ、牛がいる学校は楽しそう、中学を卒業したら、その高校に進学すると決めたそうです。そして大阪府立農芸高校に入学。農業の基本を学びながら、畜産を専攻し、「大家畜部」通称「牛部(うしぶ)」で3年間、牛舎の掃除、堆肥作り、餌やり、乳搾りなど、まさに牛まみれとなって、大好きな牛の世話に取り組んでいたそうです。

 卒業後は、酪農ヘルパーとして、2年ほど活躍。365日、休みなく働く酪農家さんの仕事を手伝っていたそうですが、日々、一袋10キロもある餌を運んだり、一輪車で重い牧草を運ぶなどの作業で腰を痛めてしまい、泣く泣く、酪農ヘルパーを辞めることになってしまったとのこと。

 大好きな牛から離れて、心にぽっかり穴が空いたような状態だった高田さんは、ある時、たまたま牛好きな友人が発した「牛の写真集があったらいいのに」というひとことに、それだ! と思い、高校生の頃から、ずっと牛の写真を撮っていたこともあり、作品として牛の写真を撮るために、一眼レフを購入。

 牛の写真集を作ることを目標に、ついには牛写真家として歩み始め、現在は全国の牧場をめぐり、牛の写真を撮り続け、酪農や牛、食と命などをテーマに写真や文章で発信されています。そして先頃、新しい本『牛がおしえてくれたこと』を出されました。

 きょうはそんな高田さんに「食と命」をテーマに酪農のこと、経済動物といわれる牛のこと、そして東京の郊外にある、高田さん憧れの牧場のお話などうかがいます。

☆写真協力:高田千鶴

高田千鶴さん

牛乳は、子牛が飲むはずのお乳

※私たちは牛のお乳を「牛乳」としていただいているわけですが、牛がお乳を出すためには、妊娠と出産が必要なんですよね? 普段私たちは、そのことを忘れてしまっている、そんな気がしているんですが・・・。

「ホルスタインは白黒の、いちばんよく見かける牛だと思うんですけれども、オスでもメスでも、お乳が出るって思っているかたもいらっしゃるんですね。でも、本当に人間と同じで、牛が出しているお乳も子牛に飲ませてあげるためのお乳なので、出産しないとお乳も出ません。

 そういった意味では、私たちは子牛が飲むはずのお乳を分けていただいているっていうのを、改めて酪農と関わるようになって感謝の気持ちと言いますか、やっぱりすごいことだなと思っています」

写真協力:高田千鶴

●すごくありがたみを持っていただかないといけないですよね。牧場で飼育されている牛ってほとんどが人工授精なんですね?

「そうなんです。私は人工授精の資格も実は持っているんです。オスって本当に大きいと1トンぐらいになるんですね。とても扱いが難しいですし、酪農家さんはオスをいっぱい飼うということもできないんですね。それで人工受精っていう形が取られているんです。

 中には牧場の中でオス牛を飼って自然交配しているところもあるんですけれども、やっぱり近親交配が続いてしまうのもいけないので、そういった意味でも人工授精を取り入れながら飼育しています」

●妊娠してから子牛が生まれるまでは、どれぐらいの日数がかかるんですか?

「それも人間と同じで280日、約10ヶ月間なんですね。お腹の中に10ヶ月間いて、人間だと3〜4キロぐらいで生まれてくるところ、牛だと30〜40キロぐらいで生まれてくる、本当に10倍ぐらいの大きさで生まれてくる感じですね」

(編集部注:高田さんは酪農ヘルパー時代に、より深く酪農の仕事に関わりたいと思い、「家畜人工授精師」という資格を取得されています)

乳牛の一生

※酪農家さんにとっては、生まれてくる子牛がオスなのか、メスなのか、そこがポイントになってきますよね?

「そうですね、酪農に関して言えば・・・。やっぱり酪農ってお乳を絞るっていう仕事ですので・・・。メスだと大きくなってから、人工受精して出産して、初めてお乳を出してくれるようになるので、メス牛が生まれると、そのまま牧場で育てていくということになりますね。

 でも、メスばっかり生まれて欲しいっていうわけでもなくて、(メスばかりだったら)だんだん牧場も牛が増えすぎてパンクしてしまいます。なので、オスもメスも生まれてくるんですけど、酪農家さんとしては、いい牛の遺伝子を継いでいるメスの子牛が生まれてきたら、やっぱり嬉しいというのはありますね」

写真協力:高田千鶴

●お母さん牛って毎年、子牛を出産するんですか?

「そうなんです。本当にこれも人と同じなんですけれども、やっぱり赤ちゃんが生まれて2〜3ヶ月ぐらいで、乳量のピークと言いますか、お乳がいっぱい出るようになって、そこからはだんだん減っていきます。

 牛だと1年ぐらいしかお乳は出ないので、また1年後に出産して、お乳を出してもらうというサイクルが理想的とされていますね。そのために出産のあと、しばらくしたら人工授精して、10ヶ月後に生まれるようになって、それがちょうど1年、12ヶ月くらいになるようなペースで考えられています」

●メスは乳牛となってお乳を出してくれますけれども、生まれた子牛がオスだった場合はどうなっていくんですか?

「オスの子牛は肥育農家さんで飼われて、そこで2年ぐらいですかね・・・大きくなるまで育てられて、そのあと出荷っていう感じになりますね」

●乳牛となったメスでも年を重ねると、お乳って出なくなっちゃうものですよね?

「そうですね」

●だいたいどれぐらい・・・平均で何年とかってあるんですか?

「初めて出産するのが成牛、成人みたいな感じで、大人の牛として出産するのがだいたい2歳ぐらいなんです。そこから1年に1回産んでいくペースで3〜4回、多くて5〜6回、もっと長く生きる牛もいるんですけれども、だいたい5〜6回ぐらい出産したとしたら、それプラス2年で7〜8年ぐらいですかね。で、出荷されるっていうのが多いかもしれないです」

●最後はメスでもお肉になっちゃうということなんですね。

「そうですね」

牛との別れ、葛藤

※高校生の頃や酪農ヘルパー時代、牛を可愛いと思って世話をしていても、いずれはお肉になってしまう・・・何度も葛藤があったんじゃないですか?

「そうですね。それは本当にすごくあって、私もやっぱりお肉を食べることに躊躇していた時期もあったんです。(私が通っていた)農業高校も乳牛が多かったんですけれども、肉牛がその時は1頭だけいて、それを先輩から引き継いでお世話をしていたんです。2週間ぐらいしかお世話はしていなかったんですけれども、出荷される日に最後、見送りたいと思って、その子がいるところまで行ったら、もうトラックに乗っていたんですね。

写真協力:高田千鶴

 今まさに屠殺場に向かうトラックに乗っていて、私が聞いたことないような声で鳴いていたんですね。私がトラックの荷台に足をかけて、ほっぺたを撫でてあげると、すごく静かに私のことを見返してきて・・・本当に今でも思い出すと、ちょっと泣いてしまうんです・・・それで撫でて落ち着いて、でももうトラックが行くっていうんで、私も降りて、そうしたらまた大きい声を出しながら遠ざかっていく和牛を見送ったんですけれども、その時に可哀想だから食べられないとか言ってられないなと思って・・・。

 出荷された先でお肉になって、みんなが食べてくれるならいいですけど、余ってどこかで捨てられるぐらいだったら、全部自分が食べたいぐらいに思って・・・何て言うのかな・・・最後にできることって、その命に責任を持って大切に食べるっていうことしかないなと思ったので、可哀想だから食べないっていうよりかは、自分はちゃんと食べようって思ったっていうのがありますね。

 やっぱり消費者としてはスーパーに並んでいる状態が、初めて会うところっていうのが多いと思うんですけれども、その前に生きている牛っていうのも知ってもらいたいというか、もっと身近である存在なのになんか遠い存在、みたいなところを埋められたらなっていう思いはありますね」

牛と人の幸せな牧場

※東京都八王子市に、高田さんが特にお世話になっている牧場があって、今回の本には、そこで撮った写真が多く載っているそうですが、どんな牧場なのか、教えていただけますか?

写真協力:高田千鶴

「磯沼牧場っていう磯沼正徳さんっていうかたがオーナーとして(運営)されているんです。磯沼さんが『牛と人の幸せな牧場』っていうのを大切にされていて、放牧とかもしていたりして、牛も本当に幸せそうで、そこに来る人たちも笑顔になれるような牧場ですね。
 観光牧場ではないんですけれども、オープン・コミュニティーファームとして開放していて、誰でも来て見学することができるっていう、本当に東京になくてはならない牧場だなっていうのをいつも感じていて、すごく家族でもお世話になっているところです」

●その磯沼牧場では、何頭ぐらいの牛が飼育されているんですか?

「子牛とか全部合わせると100頭ぐらいいるんです。磯沼牧場の、私のいちばんの推しのポイントは、7種類の牛がいることなんですね。日本で言うと、99%以上はホルスタインっていう白黒の牛が乳牛としては多いんですね。それに加えて、ジャージーとブラウンスイスとエアシャー、ガーンジー、ミルキングショートホーン、モンペリアルドっていう牛7種類を飼っているんです。

 それってすごいことで、ひとつの牧場で7種類も飼っているのは、本当に磯沼牧場だけで、それが酪農の盛んな北海道ではなく東京にあって、消費者に近いところにあるっていうのが本当にすごいなって思っています。

 私はいつも、もっとこのすごさを伝えたいってすごく思っているんですね。本当にここ東京なのかな? っていう・・・今はカフェができて(牧場の)上のほうまで牛は来ていないんですけれども、カフェができる前はいちばん上まで牛が来ていて、(道路を)車で走っていると、“えっ!? 牛?(笑)”みたいな、信号待ちしている人がみんなびっくりして、え~! って見るぐらい・・・八王子なので都会とは言えないんですけれども、ここが東京なのか! っていう、すごくいいところなんです」

写真協力:高田千鶴

(編集部注:磯沼牧場のサイトを見ると、里山の緑の中に牛が放牧されていて、ほんとにここが東京!? と思ってしまう、のどかな風景が広がっているんです。ぜひオフィシャルサイトをご覧ください。
☆磯沼牧場:https://www.isonuma-milk.com

カウボーイ・カウガール

※磯沼牧場では、子供たちが酪農の仕事を体験する「カウボーイ・カウガール」というスクールをやっているそうです。そのスクールに高田さんのお子さんが小学校3年生の時に友達と一緒に参加したそうですね。牛の世話をしているお子さんを見て、どんなことを感じましたか?

「私は高校で酪農を、というか畜産を学んでいたんですけれども、子供に関しては大事なことを牛から教わっているなっていうのをすごく感じましたね。私たち大人が“食べ物を大事にしなさい”とか“命を粗末にしてはいけないよ”とか、口で言うことよりも、牛と触れ合って自分自身で命の大切さを、牛から教わって学んでいるなっていうのをすごく感じました」

写真協力:高田千鶴

●高田さんご自身も、磯沼牧場から学ぶことっていうのは多いですか?

「そうですね。磯沼さんがおっしゃっていた、私の好きな言葉があって、“同じ釜の飯を食った牛は、やっぱり仲間のことをよく覚えている”っておっしゃっていたんです。
 息子がカウボーイ・カウガール・スクールに入って、名前をつけた子牛がいるんですけれども、同時期に生まれた牛にお友達が名前をつけて、その子たちを見ていると、やっぱりいつも寄り添っているというか、ずっと一緒にいて、生きている牛には感情があるんだなっていうのを改めて思い出させてくださったというか・・・。

 あと磯沼さんは、すごくチャレンジ精神の旺盛なかたで、そういうところは本当に見習いたいなっていうのをいつも感じています」

(編集部注:磯沼牧場の「カウボーイ・カウガール・スクール」は現在、磯沼さんのご都合で開催していないそうです。

 高田さんによると「酪農教育ファーム」という活動があって、これは一般社団法人「中央酪農会議」という団体が認定した全国各地の牧場で、地域の子供たちに酪農を体験してもらったり、牧場から小学校へ牛を連れて行き、乳搾りなどで触れ合ってもらい、子供たちに食や命の大切さを伝える、そんな取り組みだそうです。「酪農教育ファーム」については、高田さんの新しい本に詳しく書かれていますので、ぜひ読んでください)

牛が笑っている!?

●高田さんが撮った牛の写真を、この本でもたくさん拝見しました。本当に可愛い顔をしていますよね~。

「そうですよね~(笑)、ありがとうございます! そうなんです。私、酪農家さんに言っていただいた言葉で、ちょっと嬉しかったなって思うのが、“高田さんが撮った牛は、すごく笑っているように見える”って、“自分たちが毎日見ている牛とは、また違った顔をしている”っておっしゃっていただいたんです。“それは多分、写真を撮っている時に高田さんが笑っているからなんだろうな“っていうのを言っていただいて・・・。

写真協力:高田千鶴

 思い返してみれば、やっぱり可愛い! と思っている瞬間を切り取っているので、それを見て可愛いと思っていただけたら、すごく嬉しいなっていうのを思いながらいつも撮っています」

●牛の写真を撮っている時に、どんなことを牛から感じますか?

「本当に牛って表情が豊かだなっていうのを感じるんですね。私が撮った牛を可愛いって思ってくださるとしたら、その可愛い表情になるのは、牛がやっぱりリラックスしていて、穏やかな気持ちでいられるっていうことなので、酪農家さんが大切に育ててくださっているんだろうなっていうのを感じながら撮っていますね。

 あと本当に酪農家さんがいなければ、私の仕事も成り立たないですし、大好きな全国の牛に会いに行けるのも、酪農家さんが本当に大変な思いをされながらも(牛に)向き合って、頑張ってくださっているからだなっていうのをいつも感じながら撮影しています」

『牛がおしえてくれたこと』

●では最後に、新しい本『牛がおしえてくれたこと』を通して、いちばん伝えたいことはなんでしょうか?

「そうですね・・・私、農業高校に入学したのがちょうど30年前なので、本当に30年間、牛と向き合ってきて、自分自身もそうですけれど、やっぱり息子が体験しているのを見て、本当に牛から教わることってすごく多いし、すごく大事なことを、『食と命』っていう、人間が生きていく上でどうしても必要な部分を・・・それを牛は教えてくれているつもりはないかもしれないですけれども、すごく教わることが多いなって思います。

 この本をもし読んでくださったかたがいらっしゃったら、牛に興味を持って、じゃあちょっと家族で牧場に行ってみようかとか、その行った先でたくさん牛と触れ合って、酪農家さんとお話されたりとか・・・そういった意味で、牛乳を飲んでいただいたりとか、酪農のファンになってくれたらいいなっていうのを思っています」

(編集部注:私たちの食と健康を支えてくださっているといっても過言ではない酪農家さんたちなんですが、全国の牧場をつぶさに見てこられている高田さんによると、今年2月の時点で、全国の酪農家さんは約1万2千戸、それがどんどん減っていて、もしかしたら年内に1万戸を切るかもしれないそうです。

 そのおもな原因は、ロシアのウクライナ侵攻による世界的な餌不足や円安など。飼料価格の高騰が酪農家さんを直撃しているとのこと。酪農家さんの減少は、酪農発祥の地、千葉県でも例外ではなく、ここ数年、全国的につらい状況が続いていると心配されていました)


INFORMATION

『牛がおしえてくれたこと』

『牛がおしえてくれたこと』

 高田さんの新しい本をぜひ読んでください。高田さんの牛への愛情や、酪農家さんへの思いに溢れた本です。牛の可愛い写真が満載! ほんとに笑っているように見えるから不思議です。漢字には全部、ふりがながふってあるので、ぜひお子さんと一緒に見ていただければと思います。緑書房から絶賛発売中です。詳しくは、出版社のサイトをご覧ください。

◎緑書房 :https://www.midorishobo.co.jp/SHOP/1644.html

 高田さんのオフィシャルサイトも見てくださいね。

◎高田千鶴:https://ushi-camera.com

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