2024/11/3 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、秩父でメープルシロップを製造・販売する「TAP & SAP(タップ・アンド・サップ)」という会社の代表「井原愛子(いはら・あいこ)」さんです。
井原さんは地元秩父の豊かな自然に魅せられ、会社を起こし、現在はメープルシロップ作りのほか、いろいろなプロジェクトに取り組んでいらっしゃいます。
きょうはそんな井原さんに秩父のカエデの森や、秩父産メープルシロップの特徴のほか、森づくりやエコツアーのお話などうかがいます。
メープル農家さんを訪ね、本場カナダへ!
※秩父には、もともと20種ほどのカエデが自生していて、地域活性化の事業として、その樹液を採取し、商品を作る取り組みが20年ほど前から行なわれていたそうです。
●井原さんは、秩父のご出身だそうですが、どんな経緯でメープルシロップを作って、販売することになったのでしょうか。
「私が社会人になって、一度、地元を出て横浜で働いていたんですね。そんな時、地元で自生しているカエデの樹液を採取して、メープルシロップとかに商品化しているっていう動きがあるのを知って、その活動に関わっているNPO団体の活動に参加したんです。
ただの面白い取り組みをしているっていうことだけではなくて、将来の森づくりをしているっていうところに感銘を受けて、私も森づくりをすることで地域を活性化していったりとか、森の恵みをみなさんに届けることで、こういう活動を多くのかたに知っていただきたいと思って、思い切って会社を辞めて(秩父に)Uターンしました」
●メープルシロップを作りたい! って思ったとしても、秩父産メープルシロップの製造・販売の拠点作りには資金とかノウハウが必要ですよね?
「そうですね。実は私、最初(秩父産の)メープルをより多くの人に知ってもらいたいって思ったんですが、自分が(メープルシロップを)作るっていうふうには、実は思ってなかったんです。メープルシロップは知ってはいたけど、そこまでメープルシロップが好きというわけではなかったんです。
正直、秩父のみなさんと一緒に活動していくには、やっぱり本場を知らなければと思ったので、まだその時は会社に所属していたんですが、有給を使ってカナダに渡って、現地のメープル農家さんを訪ねる旅をしたりしたんですね。
そこで出会ったのが、今は(秩父に)『MAPLE BASE』がありますけれど、“シュガーハウス”という、カナダのカエデの森の中に小屋がありまして、そこに集めてきた樹液を持ってきて、煮詰めてメープルシロップを作る場所、小屋になりますね」
●本場カナダでは、どんなことを勉強されて、どんなこと体験されたんですか?
「カナダは(メープルシロップの)一大産地ですので、秩父とは本当に次元が違う形になっています。森の中にはパイプラインが張りめぐらされていまして、ポンプで全部集約して小屋まで(樹液を)持って来るっていう(仕組みです)。(煮詰めるのに)ちょっと旧式なんですが、薪を(専用の機械に)くべて湯気が立ち昇る様子が真冬の極寒のカナダで風物詩になっています。
たとえば(メープルシロップ作りの)様子を、スクールバスが乗り付けて、子供たちに見学してもらえるようになっていたりとか、あとはお気に入りのメープル農家さんに、できたてのメープルシロップを買いに行くのが習慣であったりとか、メープル・フェスティバルが各地で開催されていたりとか、地域に根づいている様子でありました。
そういうことを見て、秩父もせっかくメープルを作っているのだから、ただ商品を売ることだけではなくて、そこに来れば、メープルのことを知ったり食べたりしてもらえる、そういう場所作りが必要なんじゃないかなと思うようになりました」
(編集部注:井原さんが参加したのは、NPO法人「秩父百年の森」が主催するエコツアーで、その時、自然の豊かさに驚き、もっと森の恵を届けたいと思い、会社を辞めて地元に戻った井原さんなんですが、周りの人たちは、無謀ともいえる決断にびっくり! NPOの活動では食べてはいけないよと心配されたそうです。
それでも井原さんの本気と熱い思いに応えようと、地元の組合などが協力、地域活性化の事業のひとつとして進み始めます。そして、秩父ミューズパークにあった空き家のログハウスを改装し、2016年に日本初のシュガーハウス「MAPLE BASE」をオープン。本場カナダから輸入した、樹液を煮詰める機械を使って、秩父産のメープルシロップを製造するなど、「MAPLE BASE」を拠点に秩父の森の豊かさを発信されています)
50分の1? 66〜67度?
●井原さんの会社「TAP & SAP」で販売されているメープルシロップと樹液、私も取り寄せて試食、試飲させていただいたんですけれども、樹液はほのかな甘さで、水のようなとっても爽やかな感じがしました。一方、メープルシロップは濃厚でコクのある甘さがあって、鼻に抜ける香りもすごく甘くて美味しかったです!
「はい、ありがとうございます!」
●改めて、カエデから採取した樹液がメープルシロップになるまでの工程を教えていただけますか?
「みなさん、樹液という名前を聞くと、どうしてもクヌギとか、カブトムシが食べるようなペトペトしたような甘いものを想像するかと思うんですね。カエデの樹液は、春先の大体2月が最盛期になるんですが、カエデの木が芽吹くための準備として、根から地中の水分をどんどん吸い上げて、枝葉のほうに行き渡らせようとする栄養の水になります。
もともとは水分なので、そこに甘みはないんですけれども、やはり極寒の冬の秩父は、マイナス十数度っていうのはざらにあります。通常それぐらい木の中に水分があると凍ってしまいますよね。 ただの水だと結構、膨張してしまうかと思うんですが、樹液の成分のデンプン質を糖に変えて甘くすることで、よくシャーベットとかだと膨張はせずに、ちょっとシャリシャリしたシャーベット状になるかと思います。
カエデの木の内部は、ちょっとシャーベット状のようになって、その時期にカエデの木に少し穴を開けるとポタポタその樹液が滴り落ちてきます。春に向けてどんどん気温が上がっていく中で、内部のシャーベット状のものが溶け出して樹液として外に出てくる、私たちはその一部をいただいています」
●樹液の段階では、ほんのり甘いぐらいですけれども、それがメープルシロップになるとすごく濃厚な甘さになるっていう、それもすごく不思議だったんですが・・・。
「そうですね。カエデの樹液自体は糖度が大体1.5度から2度ぐらいという、本当に薄っすら甘いぐらいなんですけれども、それを煮詰めていくことで、大体(糖度が)66度から67度になります」
●何時間ぐらい煮詰めるんですか?
「そうですね・・・半日ぐらいはかけて煮詰めていくんですね。メープルシロップを作るまでに工程的には3日間とか、準備まで含めると4日間とか、本当に時間をかけて作っていて、大変手間のかかるものとなっています」
●たとえば、瓶1本のメープルシロップ作るには、どれぐらいの量の樹液が必要になってくるんですか?
「その時の樹液の糖度次第で高ければ少なくて済みますし、糖度が低いとたくさん必要になってくるんですね。今私たちが販売しているメープルシロップが60グラムなので、大体50分の1ぐらいまで煮詰めて作っています。樹液としては3キロぐらいですかね。なので、たくさん樹液が採れて、たくさん作れるぞと思っても、50分の1ぐらいの量になってしまうので、本当に少なくなってしまいます」
まるで黒糖!? 和の味?
※秩父産メープルシロップはカナダ産と比べて、どんな特徴がありますか?
「カナダのメープルの木は、シュガーメープル『サトウカエデ』というんですけれども、私たちは『イタヤカエデ』っていう日本の固有のカエデであったり、モミジと呼ばれるものなど、様々な木を使っています。
味わいの特徴としては、ちょっと黒糖のようなコクのある、和な味がするってよく言われます。そして秩父の土地柄もあるとは思うんですが、カリウムやカルシウムなどのミネラル成分が、カナダのものと比べても多いっていうことがわかっています」
●樹齢何年ぐらいのカエデから樹液を採取するんですか?
「私たちは木の直径が20センチ以上25センチとか、ある程度大きく成長した木からしか採らないというルールを設けています。あまり小さい木からは採らないので、樹齢としては50年〜100年以上というか、本当に立派な木からも採っています」
●そういう木から、どうやって樹液を採取するんですか?
「木に少しだけ穴を開けて、そこに管を通してポリタンクに貯めて、それでポリタンクを順次回収していくっていう形ですね」
●樹液を集めて運ぶだけでも重労働ですよね?
「そうですね。今私たちが(樹液を)採っているカエデは自生しているカエデなんです。やはり私たちがアクセスしやすいような場所にある木は、ほとんどがスギやヒノキなんですね。逆にカエデの木はとても根を張るので、たとえば、ここの木を切ったら崖が崩れるとか、ある意味ハードな場所にカエデの木たちは残っています。正直、私たちが採取する時もちょっと崖をまず降りて、川を渡って対岸の急な斜面を登りながら採っていったりとか、場所もバラバラだったりするので、大変手間暇がかかります」
●継続的に樹液を採取するためには、カエデの手入れだったりとか植林だったりとか、森づくりがやっぱり大事になってきますよね?
「そうですね。私たちの特徴としては、ただ採るということではなくて、やっぱり植林することを大事にしています。NPO法人『 秩父百年の森』という団体が、カエデを苗から畑で育てて、ある程度大きくしてから山に返すという、かなり手間暇のかかる作業を行なっています」
新しいハチミツ!? 「第3のみつ」!?
※井原さんが2015年に立ち上げた会社「TAP & SAP」という名前には、どんな思いが込められているんでしょうか?
「まずTAPは、スマホをタップするとか・・・ “タップ・ザ・ツリー”で、実は樹液を取る時に木に穴を開けて、とんとんとんってするのがその由来なんですね。で、SAPが樹液なので、どちらも言葉としてはカエデの樹液とか、カエデの木にまつわるものになっているんです。そういった恵みをより多くの人に届けて、食べてもらって、森づくりにつなげていきたいっていう気持ちを込めて、この名前をつけました」
●メープルシロップの製造・販売のほかに、どんなプロジェクトを進めていらっしゃるんですか?
「この活動や、食べてもらったりするのも大事なんですが、やはり現地を見ていただいたりですとか、そういったこともやっていきたいなと思いまして、エコツアーの開催、コロナ禍でここ数年できてない状態だったんですけれども、そういった活動でみなさんと交流をしたり、現地を見ていただいたりっていうことも行なっています」
●エコツアーは、具体的にはどんなツアーなんですか?
「樹液を採っている場所が私有地になるので、誰でもいつでも入っていいよっていうものではないんです。そういったところにご案内して、実際、樹液が出ている様子を見ていただいたりとか・・・。あとはMAPLE BASEで、いろいろランチを食べたり、樹液からシロップってどうやって作っているの? とか、いろんなワークショップを開催したり、結構盛りだくさんの1日で、参加されたかたには好評となっております」
●井原さんご自身がガイドをされたりするんですか?
「そうですね。私もそうなんですが、あとは森づくりをしているNPOのメンバーたちにもガイドをしてもらいながら、一緒に冬の森を歩くことも行なっています」
●あと、プロジェクトのひとつ「第3のみつ」についても教えていただきたいんですが・・・。
「はい、メープルシロップも天然の甘味料として有名ですが、もうひとつはハチミツで、実は私たちの活動からちょっと珍しいものが生まれました。それが『第3のみつ』になるんです。実はメープルシロップは春先に近づけば近づくほど、その樹液で作ったメープルシロップって甘いんですけど、エグみがどうしても出てしまうんですね。
まず、最初のきっかけは、このプロジェクトに関わった地元の高校生が、ちょっとエグさがあるメープルシロップを、ハチにあげたら食べるんじゃないかっていうところで実験したところ、ハチさんがエグみのあるメープルシロップを食べて、それで蜜を作ったんですね。
その蜜を埼玉大学の先生に分析をしていただいたら、ハチミツなんですけれども、メープルシロップの成分がきちんと入っている蜜ができたと・・・。なので、これはちょっと新しいハチミツなんじゃないかっていうところで盛り上がったんですけど、厳密にはハチさんに餌をあげて作る蜜は、ハチミツと呼んで売ることができないんです。
それで、その製造等で特許も取りまして・・・メープルシロップは今なかなかたくさん採れるわけではないので、果実とか野菜とか、一般の生のもので販売できないのを、よくジュースにしてしまうと思うんです。そういったものを無駄なく使えるということで、そのジュースをハチに与えることで、そこからできた蜜を! というので、いろんな野菜、果物で実験したところ、ハチさんがいちばんよく食べるのがリンゴジュースだったんですね。
リンゴジュースをハチに与えてできた蜜っていうことで『第3のみつ』の商品化ができるようになりました」
(編集部注:「第3のみつ」商品名は「秘密」の「秘」に 蜂蜜の「蜜」で『秘蜜(ひみつ)』なんです。どんな味がするのか、気になりますよね。「TAP & SAP」のオフィシャルサイト(https://tapandsap.shop-pro.jp)から購入できますよ)
人間が関わる森づくり
●2013年に井原さんが、秩父のカエデの森を歩くエコツアーに参加されたことが、まさにターニングポイントとなって、劇的に井原さんの人生が変わったと言っても過言ではないと思うんですけれども、その時に抱いていた思いは今も変わらずにありますか?
「そうですね〜生まれ育った地元で暮らしていた時には、なかなか感じなかった、自然の豊かさとか森の気持ちよさとか、そういうものは実はもともと自然にあったということではなくて、いろいろな人が気持ちいい森にするために手入れをしていたんですね。
このメープルシロップも目を向けなければ、誰にも気づかれず、日が当たらずにいたものが、みなさんが苦労して頑張ってきたことで、地域の特産となって、今に至っていると思うんです。
そういうことを続けていかないと、結局途絶えてしまうものだと思うので、森づくりもそうなんですが、より若い世代を巻き込みながら続けていけるような、そういう形で今後も活動していきたいと思います」
●メープルシロップは秩父のカエデの恵みだと思いますけれども、30年後、50年後の秩父の森にどんなビジョンをお持ちですか?
「今、秩父のみならず日本全体がそうかと思うんですが・・・半分が人工林のスギやヒノキで、そのほかの半分は広葉樹なんですが、どんな木があるかっていうのはほとんどの地域で知られてないかと思います。私たちが一度関わってしまった森は放置していたら、いつかはもとに戻るかもしれないんですが、それはかなり長い時間を要するんですね。
私たちが今やっているのは、人間が関わっていける森づくりをしたいっていうことで、そのひとつとして、カエデの木を育てて植樹をして、そのカエデの森から将来的にもっとたくさんメープルシロップを作れたり・・・私たちが関わり合い続ける森づくりを一緒にしていきたいと思って活動しています。ですので、森づくりをより多くの方と協力しながら行なっていければと思っています」
INFORMATION
秩父ミューズパーク内にある日本初のシュガーハウス「MAPLE BASE」では、本場カナダから輸入したメープルシロップを製造する機械を見学できるほか、パンケーキなどを食べられるカフェや、メープルシロップなどの商品を購入できるショップもありますよ。
11月23日(土・祝日)には「MAPLE BASE」の芝生エリアで「秩父の森ジャンボリー」を開催、大人も子供も楽しめる催しを予定しているそうですよ。ぜひお出かけください。詳しくは「MAPLE BASE」のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎MAPLE BASE:https://tapandsap.jp/maplebase/
井原さんが取り組んでいる「第3のみつ」やエコツアーなどのプロジェクトについては「TAP & SAP」のサイトを見てください。オンラインで樹液やメープルシロップなどの商品を購入できます。
◎TAP & SAP:https://tapandsap.jp