2025/1/5 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、国立研究開発法人「海洋研究開発機構(JAMSTEC)」の主任研究員「川口慎介(かわぐち・しんすけ)」さんです。
川口さんは1982年、兵庫県宝塚市生まれ。北海道大学・理学部時代は、海ではなく空、それもオゾン層より上の「大気の研究」をしていたそうです。その後、一転「深海の研究」へ。そして東京大学海洋研究所の大学院生時代に、JAMSTECのスタッフと一緒に仕事をしたこともあって、誘われてJAMSTECの職員になり、現在は主任研究員として活躍されています。プライベートではプロレス好きのサッカー部員で、カラオケも得意だとか。SNSでは「海ゴリラ」として知られています。
JAMSTECは、海洋・地球・生命に関する研究や調査を行なう国立の研究機関で、日本が世界に誇る科学調査船「ちきゅう」や有人潜水調査船「しんかい6500」、その母船となる「よこすか」などを保有しています。
川口さんは「しんかい6500」に乗船するなどして、深海や海底に関する研究をされています。そして先頃『深海問答〜海に潜って考えた地球のこと』という本を出されました。
きょうはそんな川口さんに「しんかい6500」による調査のほか、海水に含まれる成分や、海の中で聴こえる音の研究のお話などうかがいます。
☆写真提供:海洋研究開発機構

「しんかい6500」、初めての時の記憶がない!?
※まずは、JASMSTECで、どんな研究をされているのか、教えてください。
「僕は調査船に乗って、陸地から離れた遠洋のほうまで行って、深い海、特に海底の近くで何が起こっているかを実際に潜ったりとか、ロボットを降ろして調べる仕事をしています」
●研究のために川口さんも「しんかい6500」に乗って調査することもあるってことですよね?
「はい、実際に『しんかい6500』に乗り込んで、深い海まで潜ったこともあります」
●これまでに何回ぐらい乗ったんですか?
「僕、実は少なくて、4回だけなんですけども、潜らせてもらっています」
●初めて「しんかい6500」に乗って、深い海に行った時はどんなお気持ちでしたか?
「もう全然覚えてないですね。初めての時のことは全く覚えてないです。きっと興奮していたんだと思います」
●乗る前からワクワクみたいな、そういう感じでしたか?
「う〜ん、もう本当に覚えてないんですけど(苦笑)、どちらかというとやっぱり研究が進む進まないっていう部分のプレッシャーがあったので、そっちでいっぱいいっぱいだったのかもしれないですね」
●(最初の時は)どれぐらいの深さまで潜ったんですか?
「最初の時は2500メートルだったんですけど、その後6000メートルまで潜る機会がありました」
●光が届かない深海って真っ暗ですよね?
「真っ暗ですね」
●外の様子は窓から確認できるんですか?
「はい、窓に顔をへばり付けて、ずっと外を見るんですけど、時々プランクトンとか魚で光るやつなんかがいたりして、ちらっと光が見えたりして幻想的です」
●へえ〜、すごいですね! 1回の潜水時間はどれぐらいなんですか?
「潜水船の蓋が閉じて、潜って帰ってくるまでのトータルで8時間ぐらいですね」
●深海で調査できる時間はどれぐらいなんですか? 到達するだけでも時間はかかりますよね?
「そうなんですよ。だから6000メートルぐらいまで潜ると、行くのに3時間、帰るのに3時間ぐらいで、海底にいるのは2時間もないですね」
●乗船するのは何名ぐらいなんですか?
「潜水船の中には3人乗ります。パイロット側のかたが2名と、研究者1名というのが通常の組み合わせです」
(編集部注:6000メートルくらいまで潜るのに、およそ3時間はかかるというお話でしたが、予定の深さに到達するまでの間、「しんかい6500」の狭い船内で何をされているのか、気になりますよね。お聞きしたら、努めてリラックスするようにしていて、パイロットのかたとおしゃべりをするか、仮眠をとるか、中にはタブレットなどで映画を見る人もいるそうです。
また、船内にはトイレはないので、成人用のおむつを着用して乗船するとのことですが、おむつもどんどん改善されて、不快感はまったくないそうですよ)

母船に戻ってきたからが勝負!?
※研究にはサンプルの採取が欠かせないと思いますが、どんなサンプルをどんな方法で採取するんですか?
「生物だと、掃除機のような形をしているもので吸い取って、網に引っかけるように集めたりだとか、水を取りたい場合だと、ペットボトルのようなものを持っていって、深海で(水を採取したら)蓋を閉じて持って帰ってくるとか、ということをやっています」
●深海になればなるほど、水圧がとんでもなくすごいですよね。そんな深海で採取したサンプルを船の上まで引き上げると、状態が変わっちゃわないのかなって思うんですが、そのあたりはどうですか?
「めちゃくちゃ変わってしまうんですね。圧力が抜けるので変形するっていうのもあるんですけども、深海は基本的に涼しいというか冷たい環境なので、持って帰ってくるまでに、ぬるくなってしまうのが結構深刻な問題になります」
●ぬるくしないために何か方法があるんですか?
「みんな工夫はしているんですけれど、これという方法はなくって・・・僕は最近そこを解決したくって、冷たくするための装置を開発するような仕事もしています。 冷たいまま持って帰ってきて調べた時に、今までと全然違う見え方をしたら、ぬるくなっているってよくなかったんだなっていうのがわかっちゃう、よくも悪くも判明するかなと思って取り組んでいます」
●採取したサンプルは、船の上ですぐ調べるんですか?
「ものによっては本当にそこの時間が勝負になったりしますね。どんどん腐っていくものもありますし・・・だから潜水船で潜ることの調査なんですけど、潜水船が海の上で待っている母船に帰ってきてからのほうが本当の勝負で、徹夜続きになることもあります」
●では母船には、すぐ研究できるような機器とか施設が揃っているってことですよね?
「母船には冷蔵庫、冷凍庫はあるんですけど、基本的なものしかなくて、航海の度に研究者が自分のツールを持ち込んでそれを使います」
●川口さんの研究でこれまでサンプルを通して分かってきたことがあれば、ぜひ教えてください。
「わかってきたことは・・・まだまだわかんないことがあるなっていうのが毎回わかります」
●(笑)謎が多いんですね?
「謎だらけですね!」
(編集部注:川口さんが開発している冷やす装置はスバリ「深海冷凍装置」。パソコンを冷やす機能を応用しているそうですよ)
海水にはあらゆるものが含まれている!?
※川口さんは先頃『深海問答〜海に潜って考えた地球のこと』という本を出されています。この本を出すにあたって、何かコンセプトのようなものはありましたか?

「海の研究者が書いた海の本っていうのは、僕の師匠とか上司もたくさん本を書いているんですけど、これまでだいたい2種類あって、研究者が自分の専門分野のことを詳しく書いて紹介するタイプの本と、もうひとつは(一般のかたに)海に親しんでもらうために、”海って不思議なところだね”っていうポップな感じで書いてあるものと、だいたい2種類に分かれるんですね。
僕は今回その中間ぐらいの本を書きたいなと思って、ポップで読みやすいんだけど、専門的な話も書いてあるっていう、そこを狙いたいなっていうのがいちばん大きなコンセプトで 書きました」
●本の中から、ほんの少し初歩的なことをピックアップして質問させていただきたいと思います。まず海水はしょっぱいですよね?
「はい、しょっぱいですね」
●しょっぱい、そのもとは食塩の成分ですよね?
「そうですね。食塩の成分である主にナトリウムがしょっぱさの原因だというふうに言われています」
●塩分濃度はどこの海でも同じなんですか?
「これ、ほんとに重要なポイントで、海の塩分はどこの海でもだいたい同じなんですけど、専門家からすると全然違います! っていう言い方をします。ちょっとしか塩分は違わないんですけど、そのほんのちょっとの違いが、海水が動いたりとか混ざったりするのにとても大きな影響を及ぼすんですね。
一般に普通に暮らしている人がなめたら、同じしょっぱさだねっていうレベルの塩分なんですけど、科学的にはこれは全然塩分が違うんだというような言い方をしたりします」
●海水には、ほかにどんなものが含まれているんですか?
「海水にはなんでも含まれています。あらゆるものが含まれている・・・ただ多い少ないというのがあって、塩分、しょっぱいって言っている塩素とかナトリウムはとってもいっぱい溶けていますけど、たとえば鉄はほんの少ししか溶けてないです。でもほんの少しは溶けている、金も銀も銅もほんの少しは溶けているっていうのが海水の正体です」
日本近海にもある海底資源
※海底にある資源については、世界でも関心を持っている国が多いと思いますが、日本近海にも海底資源はあるんですよね?
「はい、日本の近海にも海底の資源が見つかっている場所はあります」
●どんな資源が見つかっているんでしょうか?
「日本の近海でよく見つかるのは、ひとつは銅を多く含むような『熱水性鉱床』と呼ばれるもの。日本列島からは離れてしまいますけども、離島の周りにあるのが『マンガン団塊』とか呼ばれるようなマンガンを主体とする海底資源があります」
●実際に海底から引き上げて資源として利用するとなると、それはそれで莫大な費用がかかりそうですね?
「費用はすごくかかると思いますよ。資源として利用するっていうことは大量に採らなきゃいけなくて、大量に採るっていうことは、それに必要な船も大量だし、働く人も大量だし、かかる時間も長いしっていうので費用はたくさんかかると思います」
●そうなると、国家プロジェクトですよね?
「う〜ん・・・微妙・・・(苦笑)表現が難しいですけど、海底資源ってよく相場で1グラム何円っていう部分があって、そこは変動するじゃないですか。でもここの海底に何グラムありますっていうのは変動しないんですよ。
だからもし、すごく貴重になって価格がすごく上がると、国家プロジェクトじゃなくても儲かるからやるっていう企業が出てくるかもしれない。でもそこに何グラムありますか? っていうのがわかっていないと、やっぱり企業は手が出しにくくて、そういう意味で今の段階では国家プロジェクト的に動いているというのが、海底資源に関する現状だと思っています」

勝手になっている海の音!?
※川口さんは数年前から「海の音」の研究をされているそうですね。これはどんな研究なんでしょうか?
「海の音の研究にもいろんな種類があるんですけど、僕は海に人間が鳴らした音というよりは、勝手に鳴っている音をよく聴くと、海の状況がわかるんじゃないかっていう考え方で取り組んでいます」
●勝手に鳴っている音っていうのは、どういう音なんでしょうか?
「一般的にいちばん鳴る音は、たとえば、雨が”ザア〜ザア〜”降ると海面を叩くので音が鳴るとか、波がじゃぶじゃぶすると”ジャブジャブン”という音がするとか、そういうのが勝手になっている音のひとつです。それとは別に生物が動くことで、浅いところから深いところ、深いところから浅いところへと移動すると、体が”ポキポキ”なる音とか、(生物が)餌を食べる時に海面で”ジャブジャブ“する音が聴こえたりもします」
●そういう音は、どうやって録音するんですか?
「深海で音を録る時は、海底に録音機を設置してただひたすら待つ。録音機に音が入ってくるという形で今は録音しています」
●深い海に録音機を設置するってことですよね? どんな録音機なんですか?
「深海の圧力に耐えられる、海水につけても壊れない特殊な装備をした録音機なんですけれども、それはさておき、そういう録音機をたとえば『しんかい6500』に持たせて潜らせて、海底に置いて帰ってくるという方法をとります。
で、結構大事なところで、『しんかい6500』は船自体から出る音があまりにうるさくて、海の自然な音が聴こえないので、録音機を海底に置いたら一度離れて、船の音が入らない状態にして、自然の音を聴いてもらって、改めてまた回収しに行くというようなことをやっています」
●実際に海の音を研究されて、わかってきたことはあるんですか?
「いや〜わかんないですね(苦笑)まだまだわかんないことばっかりです」
●本当に海って謎だらけなんですね?
「はい、謎だらけです」

●海は本当に広くて深いので調べれば調べるほど、謎が増えていくように思いますけれども、今後、調査研究したいテーマはありますか?
「ひとつ大きいのは、深海生物がどうやって時間を感じているのかっていう研究は、いつかしたいなと思っているテーマです。深海生物が季節とか時間を感じているんじゃないかとか、いや感じてないとかっていうことは、昔から言われています。
いずれにせよ、深海には太陽の光が届かないので、昼と夜ってわからないはずなんだけど、時々(深海生物は)わかっているんじゃないか、みたいなデータが取れることもあって、それが音と関係しているんじゃないかな〜っていう話につなげられると、ロマンがあって面白いかなと思って考えています」
●解明してください!
「(笑)頑張ります。応援してください!」
(編集部注:川口さんは、クジラやイルカなどの鳴き声を含め、海の中で鳴っている音は、きっと深海まで響いているので、その音を研究することで、生物の様子がわかるのではないか、そんなこともおっしゃっていました。
川口さんが携わっている海の音をモニタリングするプロジェクトについて詳しくは、JAMSTECのオフィシャルサイトに情報が載っているので、ぜひチェックしてください)
☆海洋研究開発機構(JAMSTEC ):https://www.jamstec.go.jp/smartsensing/j/
INFORMATION
川口さんの新刊をぜひ読んでください。海とは何か、地球とは何かを、生命の起源や深海の謎、気候変動の対策など、地球規模のテーマにそって探求する問答集です。謎だらけ、わからないことだらけの海について、深く潜って考えてみてはいかがでしょうか。エクスナレッジから絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎エクスナレッジ:https://www.xknowledge.co.jp/book/9784767833187
「海ゴリラ」という名前で展開している川口さんのSNS「X」にもぜひアクセスしてみてください。
◎X:https://x.com/the_kawagucci
◎海洋研究開発機構(JAMSTEC):https://www.jamstec.go.jp/j/