2025/6/8 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは気象予報士、そして空の写真家の「菊池真以(きくち・まい)」さんです。
菊池さんは茨城県出身。慶應大学在学中に気象予報士の資格を取得し、気象予報士として活動。その後、NHKの気象キャスターとして活躍。現在は、お天気関連の記事の執筆や講演活動のほか、いつも持ち歩いているミラーレスの一眼レフ・カメラで撮った、大好きな空や雲の写真を本などで発表、また写真展も開催するなど、幅広く活躍されています。
そんな菊池さんの新しい本が、文庫サイズとなって発売された『ときめく図鑑Pokke! ときめく雲図鑑』。この本には菊池さんが撮影された雲や空の素敵な写真が満載なんです。
きょうはそんな菊池さんに、好きな雲の風景や珍しい雲のほか、雲や空を上手に撮影するコツ、そして気になるこの夏の気温と傾向などうかがいます。
☆写真:菊池真以『ときめく図鑑Pokke! ときめく雲図鑑』(山と溪谷社)

「わた雲」から「入道雲」、天気急変!?
※雲の色は「白」、そう思っているんですが、それは正しいですか?
「そうですね。太陽の光が散乱して雲が白っぽく見えているんです。例えば雨雲は雨を降らせるくらいですから厚みがあるんです。分厚いんです。積乱雲ですと地上から13キロとか15キロぐらいとか、飛行機が飛ぶ高度よりも高いので厚みがあるんですよ。なので、太陽の光が底のほうまで届かないので、底のほうは黒っぽく見えるんですよね」
●そういうことなんですね〜。
「はい。なので、黒い雲を見かけたら天気急変に注意なんていうふうに言いますよね」
●確かに聞いたことあります。
「そうなんです」
●菊池さんはこの本で、雲の観察の基本となる10種類の雲をあげて説明されていますよね。今お話にあった雨雲だったり、うす雲、うね雲など、あまり聞いたことがない雲もありました。
その中で最低限この雲のことを知っていると、私たちも天気の変化を予測できたり、日常生活でも役立つよっていう雲があれば、教えてください。

「やはりこれからの季節は、わた雲かなって思います。わた雲がどんどん大きくなっていきますと最終的に入道雲になるんですね。その入道雲が激しい雷雨をもたらす雲になります。夕立を降らせるような雲ですね。
そのわた雲から入道雲に成長していくので、わた雲が朝からたくさん並んでいるような日は、ちょっときょうは天気急変に注意が必要かなというふうに思ったりできます」
入道雲のてっぺん「かなとこ雲」
※季節によって、雲はいろんな表情を見せてくれます。また、時間帯によって朝日だったり夕陽だったり、雲と空と太陽が作り出す風景も素敵ですよね。菊池さんが好きな雲の風景は、どんな風景ですか?
「例えば春ですと、わた雲が気温によって大きくなったり、背が高くなったり平べったいままだったりするんですね。気温が低いと、平べったいフランスパンのような形って言ったりもするんですけども、扁平雲(へんぺいうん)と呼ばれる細長い形になります。
それが気温が上がってくると、ちょっともくもくっとしてくるので(背が)高くなる。なので、ちょっとマニアックなんですけども、雲の高さを見て暖かくなってきたな〜なんていうふうに私は見ています」
●すごいです! 雲の高さでそれを思うんですね!
「はい。で、夏ですと入道雲。入道雲はどんどん高くなっていくんですけども、雲ができる限界の高さっていうのがあります。これ以上、高くなれないよっていう高さがあるんですね。入道雲って大きくなっていくと、その高さに達すると、どうなると思いますか?
●どうなる・・・!? 雨が降る?
「雨が降りやすくなるんですけれども、もうそれ以上、上に行けないので横に広がるんですよ」

●そういうことなんですね!
「なので、上が平べったくなっている雲が見えたら、入道雲のいちばんてっぺんの部分が平たくなっているのを、かなとこ雲って呼んだりするんですけれども、かなとこ雲のその平べったいところを見て、私はあそこが雲ができる限界の高さだなっていうふうに思って見ています。ちょっとマニアック過ぎますか(笑)」
●考えたこともなかったです。面白いです!
「で、秋はすじ雲、うろこ雲、ひつじ雲ですかね。上空の風が強まってきて、空高い雲がたくさんできるようになります。その繊細な感じも好きですね。
北風が強まってきますので、太平洋側の地域は晴れる日が多くなるんですが、その北風に飛ばされて雲が小っちゃくなるんですよ。飛ばされて小っちゃくなると、それは断片雲(だんぺんうん)って呼んだり、呼び方によっては、ちょうちょ雲、ちょっと風流じゃないですか。なんかちょっとひらひらっと舞っているような感じが好きですね」
珍しい「穴あき雲」、印象的な「ゆきあいの空」
※滅多に見られない雲の風景はありますか?
「穴あき雲ですかね」
●穴あき雲?
「雲が空一面に広がっている時に、ちょうどそこだけ穴が開いたように見える雲があるんですね。そのことを穴あき雲と言います。で、その穴あき雲なんですけれども、この本に載せているんですよ。いるんですけども、これ多分ね、5年以上かかったと思います、撮るのに」

●え、撮影するのに? すごく珍しいんですね!
「はい、時間がかかりました! でも一回見つけると、ちょっとコツをつかむんですよ。なので、これを撮ってからは比較的、毎年見ていますし、1年に何回か見ていますね」
●季節は問わないんですか?
「そうですね。天気でいうと天気がよくなったり悪くなったり、変化する時に多いですかね。うろこ雲が空一面に広がっている時になんらかの衝撃を受けて、雲の一部がなくなっているような状態、穴あき曇って言います」
●見つけた時はラッキーなことが起こりそうですよね(笑)
「はい(笑)、もう慌ててカメラを取りに行きます」
●そうですよね〜。今までに見た雲の風景で、最も印象的だったなっていう風景ってありますか?
「あ、それはこの本の終わりに載せた写真なんです。私がカメラで写真を録り続けたいなと思った最初の瞬間かもしれない、この雲の風景なんですね。
当時コンパクト・デジタルカメラ、比較的小っちゃいカメラを持って、ここに行ったんです。この空が本当に綺麗で、場所は富士山の5合目になります。中腹ですね。

そこまで車で登ることができるので、みなさんにも行っていただきたいんですけども、ちょうど夏から秋へと季節が変わっていく頃でした。まだ下のほうには夏のもくもくとした雲が見えて、上空の高いところには秋の雲が見え始めていて、秋と夏の雲が同じ空に見られたんですね。
で、私はこの写真を撮った時は知らなかったんですけども、こういった夏と秋がゆきあう季節に見られる空のことを、ゆきあいの空って言うんですって。その言葉を聞いて、益々この空、綺麗だったなと思いまして、すごく記憶に残っております」
(編集部注:お話に出てきた「ゆきあいの空」。菊池さんによると、珍しい現象ではなく、夏から秋へ変わる頃、お盆過ぎあたりに、開けた場所で見られるそうですよ)
この夏は暑くなる!?
※多くのかたが気になっているのが、今年の夏の気温と傾向だと思います。この時点での予測は難しいと思いますが、今年の夏も暑くなりそうですか?
「はい、暑くなりそうなんですよね~。ベースとして地球の気温が上がってきています。それに加えて、海の温度で長期的な予報を予想するんですけども、普段の天気予報、あすあさっての天気は地上の空気の温度から計算して出していきます。長期的な予報は海の温度を見て、そこから予想を立てていきます。
というのは、水は温まりにくく冷めにくいですよね。なので、影響を受けにくいので、長期的な予報をする時に役立つんですね。
その海の温度が太平洋の西側、つまり日本の南の海域に近いところで、今年は高めになりそうなんです。そうなりますと、日本の南にある太平洋高気圧の勢力が強まりやすい。なので暑くなる。その傾向がちょっと強いかなと思います」
●なるほど~。あと、気象衛星やハイテク機器の発達で、天気予報の精度が上がった一方で、私たちはゲリラ豪雨だったり局地的な大雨だったり、急激な変化に見舞われることが多くなったように思います。やはりこれは地球温暖化の影響と言っていいんですか?

「これは(地球温暖化の影響と)言っていいと思います。激しい雨の数というのも実際に増えていますし、私が気象予報士(の資格)を取ったのは、もう19年前(笑)、それくらい前だったんですけど、その頃と比べて極端な現象が増えたと感じております」
●そうなると短時間の予報、例えば1時間後、2時間後の予報も難しくなっていて、これって気象予報士泣かせですよね?
「そうですね(笑)。ただ、昔と比べてコンピューターの精度がものすごく上がってきているんですよね。今は数日前、3日4日、5日ぐらい前に、例えば関東地方の北部で、この日は急な雷雨がありそうだ、といったことは、なんとなく予想がつくんですよ。結構コンピューターの精度はいいです。
ただ、このスタジオ近くの海浜幕張駅でとか、ピンポイントの場所や、例えば午後2時など、ピンポイントの時間になると、なかなか難しいわけなんですね」
線状降水帯、要注意!
※天気予報で使われる気象用語で、これには注目しておいたほうがいいという用語はありますか?
「やはり雨の季節になってきますので、線状降水帯は本当に大事なキーワードだと思います。これは何かというと活発な雨雲、大雨を降らせる雨雲が線状に列を連なるように並んでいるような状態です。
何が危険かというと、活発な雨雲が線状に並んでしまうと、大雨が同じところでずーっと長く降り続いてしまうんですね。積乱雲ひとつの寿命っていうのは1時間ぐらいなんですけれども、それがいくつも並ぶことで、同じところにかかってしまうことで、長い時間大雨が続いてしまう。結果として災害をもたらすような雨になってしまうわけなんです」

●「線状降水帯」と聞いた時には、しっかりと対策を打っていく必要がありそうですよね。
「はい、お願いします」
●それから、やっぱり毎年台風も気になるところですよね? ここ数年台風の進路も大きく変化しているように思うんですが、この点はどうでしょうか?
「そうですね。日本のすぐ南の海域がやはり以前より暖かかったりするんですよね。なので、よくあるパターンとしましては、日本のはるか南の海上で台風が発生して、どんどん北上して日本に近づくまでに時間があった。
その時間をかけている間に暖かい海から、台風はエネルギーをもらってどんどん強くなっていくような形、沖縄の近くを通って本州にやってくるようなパターンが多かったんですけれども、日本のすぐ南の海域が暖かいということで、以前よりも日本のすぐ南で台風が発生してしまったり、発生したと思ったら猶予なく急に勢力を増したりすることが多い気がします」
●スーパー台風と呼ばれる、とても勢力の強い台風も発生するようになっていますね。これも地球温暖化の影響なんですか?
「はい、これも地球温暖化の影響と言われています。スーパー台風と呼ぶ基準は、基本的に定められてはいないんですけれども、中心付近のヘクトパスカルが低ければ低いほど、勢力の強い台風になっていくわけなんですね。その勢力の強い台風が増えてきている・・・この先も増えるのではないかというふうに言われています」
スマホで雲を上手に撮るコツ
※本の最終章に「雲を楽しむ」というのがありました。菊池さんがお勧めする「雲の楽しみ方」をぜひ教えてください。
「いろいろあるんですけども、定点観測が結構お勧めですよ! 毎日同じ場所から同じ時間に空を眺めてみる。そうしますと季節によったり時間によったりして、出る雲が変わっていくのをすごく感じられます。毎日見ていると、天気予報ができるようになってきます(笑)」
●え~~本当ですか?
「はい!」
●私もできますかね?
「全然できると思いますよ! 天気が下り坂の時は、上空の薄い雲から厚みのある雲に変わっていきます。なので、もしかしたら“あれ? お昼頃から曇ってくるよって言っていたけれど、ちょっと早いな”とか、“ちょっと低気圧(の移動が)早くなっているのかな? じゃあ雨も早いのかな?”など、自分で予想することができるようになります」

●菊池さんは空の写真家でもありますので、写真を撮るのもいいですよね?
「はい、その瞬間瞬間を誰かと共有することができるのでいいかと思います」
●スマホだったら、こういう撮り方がお勧めとかあったら教えてください。
「まずは何よりもピントですね。ピントを合わせるのが、雲は少し難しかったりす
るものもあります。もし雲でピントがなかなか合わない時は、なるべく遠くの建物とか、山の稜線とかでピントを合わせて撮影すると、雲も遠いところにあるのでピントが合いやすいです。
水平に撮ることもお勧めします。もちろんちょっと気持ち的に右斜め上にしたいとか、そういったこともあると思うんですけども、記録していく時には水平がなるべくお勧めです。あと周りの景色も一緒に入れるといいですよ。“あ、この時にこの雲を撮ったな~”とか、周りの様子もよくわかるので景色も入れるといいです。
あと2点あるんですけれども、スマートフォンは色がちょっと難しかったりもします。空の色が青く出ないことがあります。携帯の種類にもよるんですけれども、ホワイトバランスってありますか?」
●あ~、あります、あります!
「ホワイトバランスが変えられるものは、太陽光だったり太陽マークだったり、機種によってちょっと違うんですけれども、できれば、太陽マークに合わせて撮ってみてください。あと、太陽の光と雲を一緒に撮るのは結構難しいです」
●そうなんですね。
「太陽の光が入ってしまうと、カメラがどっちの光の明るさに合わせようかな~って迷ってしまうんですよ。なので、太陽の光がもし入らなければ、入らない環境で撮るのがお勧めです。太陽と反対の空とかは、比較的青くちゃんと写ります」
●はい。
「でもきっと、太陽の近くに撮りたい雲ってあるじゃないですか?」
●そうですね~。
「その時どうするかというと、なるべく太陽の光を写さないようにアップにしてみたりとか、建物でそこだけ切ってみたり、太陽の光を隠してみたりして撮ると、結構上手くいくことが多いです」
●なるほど~。最後に改めてなんですが、菊池さんが雲を見てときめくのはどうしてなんですか?
「これはもう、雲って毎回違うんですよね。毎回見て違いますし、ちょっと前に見た雲と今見ている雲は全然違いますし、美しさも違ってきます。楽しみ方も違います。だからその一瞬を、一瞬一瞬を見ていくのがとても楽しいです」
●変化するからこそ楽しい!
「そうなんですよね~。その一瞬を収めたくて多分私は、空を撮っているんだな〜と思っています」

☆この他の菊池真以さんのトークもご覧下さい。
INFORMATION
文庫サイズとなって発売された菊池さんの本をぜひチェックしてください。基本の雲10種のほか、身近な雲や珍しい雲など、全部で59種の雲を解説。また、観察のポイントや撮影のコツなども載っていますよ。何より菊池さんが撮った雲の写真が素敵なんです。ぜひご覧ください。山と渓谷社から絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトを見てくださいね。
◎山と渓谷社:https://www.yamakei.co.jp/products/2824050110.html
◎菊池真以オフィシャルサイト:https://www.maisorairo.com/