2025/9/28 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、新進気鋭のネイチャー・フォトグラファー「上田優紀(うえだ・ゆうき)」さんです。
上田さんは1988年、和歌山県生まれ。子供の頃から海外へ行く機会が多く、旅好きになった上田さんは、高校・大学の頃もアルバイトでお金を貯めては、度々海外へ。基本はパックパッカーのひとり旅。
そして京都外国語大学を卒業後、24歳の時に初めてカメラを買って、旅に出た上田さん、アラスカから南米、ヨーロッパ、そしてアジアへと、気の向くままに旅を続け、結果的に1年半で、およそ45カ国を巡った世界一周の旅になったそうです。
そんな上田さんが先頃『七大陸を往く 心を震わす風景を探して』という本を出されました。
きょうは過酷な撮影の旅から、南米の高地「ウユニ塩湖」で撮った宇宙のような絶景のほか、北米の奥深い森で出会った神秘的な「スピリット・ベア」のお話などうかがいます。
☆写真:上田優紀

未知の風景を伝える
※1年半の世界一周の旅で、人生を変えるような出会いや出来事はありましたか?
「いちばんやっぱり大きかったのは、写真家になろうと思った出会がたくさんあったことですね。僕はそれまで写真の学校に行っていたわけでも、芸大とか専門学校に行っていたわけでもなんでもなくて、ただただせっかく1年ぐらい海外に行くんだから、カメラぐらい持って行ったほうがいいかなぐらいの感覚で、カメラを持って行ったんですね。
で、自分にとって見たことがない風景を記録していくじゃないですか。それを旅先でいろんな人に見せていくんですよ、現地で暮らしている人たちに。その中で印象深いのがアイスランドの子供たちに砂漠の写真を見せたことがあったんですね。
彼らは砂漠というものはもちろん知っているけど・・・アイスランドっていうヨーロッパの隅っこのほうにある島国で・・・4歳とか5歳ぐらいの子供たちにとって、砂漠の風景みたいなものがあまりリアルじゃなかったんです。
僕の写真とか僕の話を通じて、砂漠という未知の風景に彼らが出会った時に、僕の目には、とても好奇心が宿っているというか、彼らが心がワクワクしているなっていうのが目に見えるというか、僕にはそういうふうに見えて・・・。
で、見たことがない風景っていうものは、人の心をワクワクさせる、豊かにするものなのかなっていう出会いが、アイスランドの子供たちだけじゃなくて、世界中をぐるぐる回っている間にたくさんあったんですよ。
それはニューヨークの若者もそうだし、インドのおじいちゃんとかおばあちゃんもそうだし、アイスランドの子供たちと同じように、想像できない風景と出会った時に目が輝いているように僕には見えたんですね。
そういう出会いはとてもやっぱり大きくて、そういうものを1年半ぐらい積み重ねていくと、未知の風景を人に伝えて、人の心を豊かにすることは僕の人生をかけるに値する、なんか素晴らしいことのように思えたんですよね。
それが僕を写真家に導いた大きなきっかけだったので、そういった各地の人との出会いみたいなものは、僕の人生にとても大きな影響を与えたかなと思います」
●旅がきっかけだったんですね。
「そうですね。旅がきっかけでしたね。全く写真家になろうなんて、旅に出発する前は思っていなかったので・・・」
(編集部注:世界一周の旅から帰国後、上田さんは広告ビジュアルの会社に入社。アシスタントとして2年ほど働き、その後、独立。2016年からフリーランスの写真家として活動されています。
上田さんは写真家として、敢えて厳しい自然環境・・・例えば、8000メートルを超える山々、人間を拒むような鬱蒼とした森、灼熱の大地や砂漠、極寒の海、さらには南極大陸など辺境や秘境をフィールドに撮影されています)
ウユニ塩湖の真ん中で撮影!?

※上田さんが先頃出された本が『七大陸を往く 心を震わす風景を探して』。まずは、表紙の写真に驚きました。南米ボリビアの「ウユニ塩湖」で撮った写真だということで、満天の星空が上にも下にもあって、その中に上田さんがたたずんでいる、とても神秘的な写真なんです。
●フリーランスになって初めての撮影場所に選んだのが、ウユニ塩湖だったそうですね。なぜそうしたんですか?
「僕はもうウユニ塩湖に5回も6回も行っているんですよ。初めて行ったのは多分19歳とか20歳ぐらいの時で、南米をバックパッカーで旅している時だったんです。その頃はほとんど誰も知らなかったんですよ、まだウユニ塩湖というものを・・・。
なんですけど、当時は今みたいにスマートフォンがあって、すぐ情報が得られるような時代じゃなくて、旅人とのすれ違いのコミュニケーションで、あの場所にはすごい風景があったよとか、あの宿は安かったよとか、このご飯屋さんは美味しいよとか、そういう情報をすごくアナログな方法で、すれ違う旅人同士で情報交換するみたいな文化があったんですね。
その時にウユニ塩湖っていう場所があるっていうのをすれ違いの旅人から聞いて、目的もない旅だったので、その場所にとりあえず行ってみるかと思って行ったら、素晴らしい風景が、水鏡と言われる風景があって、ものすごく感動したんですよ。

こんな美しい場所が地球にあるんだっていう、まさにアイスランドの子供たちが砂漠に出会ったのと全く同じような状況だったんです。
で、そこからその美しさに衝撃的な感動を覚えて何回か通っているうちに、10年ぐらい経って、たくさんの人が観光で訪れるようになっていたんですけれども、僕にとっていちばん最初の大きな感動を覚えさせてくれた印象的な場所だったし・・・。
ウユニ塩湖って四国の半分ぐらいの大きさなんですよ、ものすごく広い場所です。でも観光で行くと割と隅っこのほうに水が溜まっていたりするので、その水たまりを見て、水鏡になっているというふうなことになるんですけれども、そんだけ広ければ、真ん中のほうにはもっと見たことがない風景があるんじゃないかなって・・・。だったら僕にしか撮れないウユニ塩湖を撮影したいなと思ったのが、いちばん最初はここにしようと思ったきっかけですね」
ウユニ塩湖でテント生活!?
※撮影のためにウユニ塩湖でテント生活をしたって、ほんとなんですか?
「そうですね。ほとんどウユニ塩湖って塩の大地みたいなものなんですけれども、そこで40日間テントを張って撮影しました」
●食料とか水は、どうされていたんですか?
「水はボトルに入れて持って行っていたのと、食料は近くにウユニ村っていう村があるんですよ、車で1時間とか1時間半ぐらい離れた場所に。
そこの市場でキャベツとかジャガイモとかトマトとかいっぱいあるので、それを買って、テント生活を始める前に天日干しをして、ドライ・ベジタブルみたいなやつを作って、それをお米と一緒にリゾットというか、おじやというか・・みたいなのを水で炊いて、それをずっと食べていたっていう感じですかね」
●そうだったんですね。でも確かウユニ塩湖って標高が富士山ぐらいの場所にあるんですよね?
「アンデス山脈の上のほうなので、3800とか4000メートル近くありますね」

●そういう場所で生活ってできるんですか?
「している人はいないんですけど・・・あれは生活と言っていいかわからないですけども、一応生き延びることはできましたね」
●気候的にもかなり厳しいですよね?
「かなり厳しかったですね。陽を遮るものがないので陰がないんですよ、何もない土地なので・・・。
だからテントを張っているんですけど、直射日光がすごく強くて、昼間はサウナみたいな、本当にテントの中は40度を超えて50度近くまで上がっている室内になって、外は陰がないから直射日光が強くて、夜になると気温が一桁まで下がってっていうのをずっと繰り返しているような場所なので、かなりしんどかったですね」
360度、水鏡!?
※表紙のような写真を撮るには、条件がありますよね?
「そうですね。そもそも雨が降らないといけないので、あれ(水鏡)って巨大な水溜りと思ってもらったら分かりやすいんですね。
普段は真っ白な砂漠の状態で、そこに雨が降って風がなくて、溜まっている水の量が多すぎず、少なすぎずっていういろんな条件があって、それが重なると出会える風景なんですね。
『奇跡の水鏡』なんて言い方をする人もいるんですけど、僕の(撮影の)時は2週間、雨が降らなかったので、最初の2週間は1枚もシャッターを切ってないですね」
●へぇ~、あの表紙の写真を撮るのに、どれぐらい粘ったんですか?
「あれは・・・2週間後とかなんで、15日目とか16日目ぐらいに撮ったんじゃないのかな」

●それまでず~っと過酷な生活をすでに15日間されているわけじゃないですか。 あの(写真の)シャッターを切った時は、どんなお気持ちでした?
「ああいう風景は見たことはもちろんあったんですけれども、なんていうんだろう・・・20日間近く、2週間近く本当に過酷で、雷とかも自分の近くに落ちてくるんですよ。
ウユニ塩湖はそんなに広いんだけど、いちばん高い所といちばん低い所の標高の差が、数10センチぐらいしかないって言われているぐらい真っ平な場所なんですね。なので、いちばん背が高いのが僕かテントかみたいな感じだったから、“雷が落ちてきたら死ぬよな”とか、そういうことを考えながら2週間ずっと過ごしている中で、あの風景と出会って、ものすごく感動しましたね。
僕もそれまではウユニ塩湖の淵のほうにしか行ってなかったので、目の前は水鏡だけど、後ろは水鏡になってないみたいな状況はよくあったんですよ。だから360度、上にも下にも星が広がっていて、その世界に僕がひとりしかいない特殊な風景というか、美しい風景にものすごく感動しましたね」
神秘的なスピリット・ベアとの遭遇
※本の第一章に「スピリット・ベア」の話が載っています。これはカナダのどこで撮った写真なんですか?
「カナダの北西部ですね。アメリカとの国境沿いアラスカ側に無人の森があるんですけど、広大な、東京都いくつぶんみたいな、とても大きな関東ぐらいの森が広がっていて、そこで撮影をしました」
●「スピリット・ベア」っていうのは、どういうクマなんですか?
「スピリット・ベアは、種としてはクロクマの種類なんですよ。ブラックベアっていうアメリカやメキシコ、カナダにはよくいるクマの種類なんですね。
その中で数10頭に1頭とか、100頭に1頭ぐらいの割合で白い子が生まれてくることがあって・・・でもそれはアルビノじゃなくて『白変種』っていう白い種類として生まれてくることが稀にあるんですね。森の中に白いクマがいるっていう、ホッキョクグマじゃない、ちょっと不思議なクマがいるんですね。
それだけでもかなり神秘的なんですけれども、神話を持っているということを、もともと知っていたんですね。それがとても僕にとっては魅力的で、現地に住んでいる先住民のかたの神話にスピリットベアが登場するんですよ。
それはなぜ神様が白いクマを人間の世界につかわせるようになったのかっていうお話で・・・人間たちに氷と雪の時代が、厳しい自然の象徴みたいなものですけれども、“氷と雪の時代があったことを時々思い出させるために、クマを白くして、この世界に産み落とすんだよ“っていう神話があるんですね。
それを追ってというか、多分何百年か前の先住民の人たちがその物語を作った時って、森の中で白いクマと出会った時にそういう神話を作らなきゃという気持ちになるぐらい神秘的な気持ちだったと思うんですよ。
そういう気持ちにさせてくれる風景、動物みたいなものは僕も見てみたかったし、今の人にとっても同じような感動というと、ちょっと安っぽいんですけれども、気持ちにさせてくれるクマの風景がそこにはあるんじゃないかなと思って、それでスピリット・ベアを撮影しに行きましたね。
スピリット・ベアに関しては、1日12時間ぐらい川沿いで待ち続けるんですけど、朝、陽が登ってから陽が暮れるまで・・・無人の森なので、ずっと観測をしているんですけれども、3日目に会いましたね。だから割と早かったです」

●初めて現れた時どんなお気持ちでした?
「すごくテンションが上がって、とかって感じではなくて、“来た、来た”っていう感じっていうよりも、一瞬シャッターを切るのを忘れるぐらい神秘的なものに出会ったという気持ちになりましたね。
だからすごく念願の・・・念願のというか、待って待ってっていうふうな出会いのはずなんだけど、喜びよりも・・・なんか神聖なものに出会って、はしゃいじゃダメだなとか・・・おごそかなっていうとあれですけど、そういう気持ちになるような・・・だから神様がつかわしたっていう物語を作ったんだなということを納得するような気持ちになりました」
(編集部注:スピリット・ベアとの初めての出会いは、上田さんによると、深い緑の森の中から「白い動物」が、のそのそと近づいてくる。それは異様とも言える光景で、神様と出会ったときに、こんな気持ちになるのかも知れないという、神秘性を感じたそうです)
生活の向こうに、別世界の風景
※いろいろお話を聞いていると、上田さんのフィールドは、まさに「地球」だと感じました。まだまだ行きたい場所、出会いたい生き物はいますよね?
「いっぱいあって、この人生で(撮影が)終わるかなというのが、ちょっと不安になっているぐらいです。
それこそ七大陸は旅しているんですけど、七大陸それぞれの最高峰っていうものがあるんですね。七大陸最高峰って言うんですけど、それを登ろうかなって、この1年間2025〜2026年は登ろうかなと思っているところだったりとか、宇宙の撮影をしたいなと思って、いろいろ動いていたりとか、動物ももっと撮りたいものもいるし、行きたい場所はまだまだ尽きないって感じですね」
●上田さんなら宇宙の写真も撮っちゃいそうな感じしますね。
「10年後ぐらいには行きたいなと思って、いろいろ動いているところです」
●楽しみにしています!
「はい、ありがとうございます」
●では最後に、この本『七大陸を往く 心を震わす風景を探して』を読む読者のかたがたが、どんなことを感じ取ってくれたら、著者としては嬉しいですか?
「この世界にこんな風景があるんだっていうことを知ってもらえたら、もうそれでいいなと思っています。
僕たちが、日本とか海外でもそうですけど、人々の生活の中で生きていると、なかなか出会うことができない風景の写真がたくさんあったりとか、そういう場所での物語というものを書きました。
そういう風景が・・・僕たちが朝起きて、ご飯を食べて仕事に出かけてとか、学校に出かけてとか、お子さんを育児してとかっていう生活の、別の世界が、美しい世界がこの同じ時間軸で、同じ地球上に存在していると想像できることが大事というか・・・人の心を豊かにする何かになるんじゃないかな~と思っているんですね。
だからすごくつらいいことがあった夜とかに、今ここの空はつらいように見えるかもしれないけれども、世界のどこかにはこんなに美しい星空が輝いているんだって思えることって、何か大事なことのような気がしていて・・・。
そういう別の世界の風景を詰め込んでいるので、それを知ってもらうきっかけになれば、嬉しいなっていうのと、一緒に旅した気持ちになって本を読んでもらえたら、嬉しいなっていうふうに思います」
(編集部注:上田さんは陸上だけでなく、海中での撮影も行なっていて、至近距離で撮ったザトウクジラやマッコウクジラの、迫力のある写真も本には載っています。
辺境・秘境に行くのは、そこに伝えたいものがあるから。だれも見たことがないような風景を届けたいという使命感にも似たような気持ちがあるとのこと。
その一方で、自然は容赦ない。写真家は伝えること、作品を見てもらうことがゴールなので、生きて帰ってくるために120%の準備をして臨むともおっしゃっていました)

INFORMATION
世界85カ国を訪れた自然写真家の、旅の記憶と挑戦の記録が、175枚の素晴らしい写真と、親しみやすい文章で綴られています。副題にあるように、心が震えるシーンに出会えますよ。ウユニ塩湖で撮った神秘的な写真は、特に必見です。
光文社新書シリーズの一冊として、絶賛発売中! 詳しくは出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎光文社:https://books.kobunsha.com/book/b10143515.html
上田さんのオフィシャルサイトやSNS もぜひ見てくださいね。
◎上田優紀:https://yukiueda.jp
◎上田優紀Instagram:https://www.instagram.com/photographer_yukiueda/