2021/6/6 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、テレビの人気自然番組「生きもの地球紀行」や「ホットスポット 最後の楽園」、そして「ダーウィンが来た!」などを手がける名物プロデューサー「岡部 聡(おかべ・さとし)」さんです。
岡部さんは1965年、大阪府生まれ。子供の頃からテレビの自然番組が大好きで、将来は海洋生物学者になりたいという夢を持つ少年だったそうです。そして進学した琉球大学ではサンゴ礁生物学を専攻、主に魚の分類に関する研究をされていたそうです。
そして自然番組の制作を希望し、NHKに入局。その後、手がけた番組が海外の映像関係の賞を受賞するなど、その手腕は高く評価されています。現在はNHKエンタープライズ・エグゼクティヴ・プロデューサーとして活躍。また、先頃出版した本『誰かに話したくなる 摩訶不思議な生きものたち』でも注目されています。
きょうはそんな岡部さんに、生き物の、不思議で奇妙な驚くべき生態、そして「ホットスポット 最後の楽園」のプレゼンターをおよそ10年務めた、福山雅治さんとの取材エピソードなどうかがいます。
☆写真協力:岡部 聡
イルカが漁を手伝ってくれる!?
※新刊『誰かに話したくなる 摩訶不思議な生きものたち』には、岡部さんが世界の取材先で目撃した、生きものたちの、不思議で奇妙な生態が、体験談とともに全部で14編掲載されています。まずはその中から、私が特に気になったお話をうかがっていきましょう。
●まず、人間の漁を手伝うイルカがいるということで、岸にいる人間には魚の群れがいつ、自分たちの前に来るのか分からない、どのタイミングで網を投げるのか、それを教えてくれるのがイルカ、ということですけれども、イルカが合図してくれるっていうのはどういうことなんでしょうか?
「そんなことがあるのかとやっぱり思いますよね。ブラジルのラグーナっていうところの話なんですけれども、非常に特殊な地形をしているんですね。人間が立てるぐらいの砂浜があって、そこからちょっと行くと、もう20メートルくらいまで落ち込んでいるような地形になっているんです。
そこに夏になるとボラが回遊してくるんですけれども、水が結構濁っているので人間からはどこにボラの群れがいるかは、同じ水面に立っている限りは分からないんですね。で、人間が(ボラを)獲る方法は投網ですから、自分の目の前、5〜6メートルぐらいまでしか投網って届かないので、何も見ずに投げると何も獲れないと。
イルカはイルカで闇雲に追いかけてもやっぱり、獲れるでしょうけど、体力を使いますよね。で、人間が立てるくらいの浅瀬があるので、(ボラを)追いかけてもそこにザーッと逃げ込まれちゃうとイルカも獲れないと。それをどうやって解消しているかって言うと、イルカが(ボラを)人間の方に追い込んで、人間が網を投げるとそれでびっくりして、イルカの方に戻ってくるんですよね。それをイルカが獲っているっていう漁の方法で、両方にメリットがあると。
だから人間からするとイルカが追い込んでくれる。イルカからすると人間が沖の方にボラを追い出してくれるっていうような関係があって、確かにボラの群れを追いかけている時のイルカの動きっていうのは、普通の動きとはちょっと違うんですよね」
●どんな動きになるんですか?
「背中を高く上げるような動きになるんですけれども、普通の呼吸とはちょっと違うような動きをするんですね。素人が見ていても言われないと分からないんですけれども、よくよく見ていると、背びれだけが上がるのか、背中全体が上がるのかっていうところで、確かにその1回だけは、全然それまで泳いでいる呼吸のための泳ぎとは違うような動きをするので、ベテランはすぐに、今イルカがこっちに魚を追い込んだっていうのが分かるそうです」
空中の葉っぱに産卵する魚!?
※岡部さんが先頃出された本『誰かに話したくなる 摩訶不思議な生きものたち』には、こんなお話も載っています。
●熱帯魚のコペラ・アーノルディという魚。魚という生き物の常識を超えた、世界で唯一のとびっきり変わった方法で産卵するという風に書かれていますけれども、これは一体どんな方法で産卵するんですか?
「魚って基本的には卵に殻がないので、水中で卵を産むっていうことが前提になっているんですね。それは両生類までは卵に殻がないので、どうしても産卵は水中でやらないといけないと。
爬虫類とか鳥類になってくると殻があるので、陸上に進出できるっていうのが普通の考え方なんですけれども、コペラ・アーノルディっていうのは水面の上にある葉っぱに産卵するんですよね。それは本当にオスとメスが上手く同調して、一緒に飛び上がって、ペタッと葉っぱに引っ付くんですね、2秒とか3秒ぐらい。
その間にパパッと1回あたり多分10個ぐらいの卵を産むんです。その卵もメスが産卵する時にジェル状のものに包まれて乾きにくくはなっているんですね。ただ、そのまま置いておくと乾いてしまうので、オスが下にずっといて1分に1回ぐらいですかね、尾っぽで水を弾いてその葉っぱに、水面の上10センチぐらいの葉っぱに、狙いすましたように水をかけて、卵が乾かないようにします。大体2日くらい孵化するまでかかるんですけれど、ずーっとオスが水をかけ続けるという非常に変わった生態を持っている魚ですね」
●魚なのに水から飛び出して卵を産むってことですね。しかもちょっと上がったところじゃなくて、10センチってかなりピョーンって飛ばないといけないですよね。
「そうですね。体長4〜5センチぐらいの大きくない魚なので、自分の身体の2倍ぐらいの距離を飛んで、しかもピタッとくっ付きますからね。あれはやっぱり初めて見た時はびっくりしましたね。こんなこと本当にするんだと思って(笑)」
●面白いですね〜! なんで水中じゃなくて空中の葉っぱに産卵するんですか?
「コペラ・アーノルディはコペラっていう種類の魚なんですけれども、コペラは他にも何種類かいて、他のやつは水中の葉っぱに産卵するんですよね。水中の葉っぱに産卵してオスが守るっていう生態を持っているんですけれども、アーノルディだけが水面の葉っぱに産卵するっていう方法をとっているんです。
それはもちろん水中にあると当然外敵に食べられる危険が高くなりますから、水面より上に卵を産むことは合理的ではありますよね、外敵のことを考えれば。そんなところまで行って卵を食べようとする奴はいませんから、合理的ではあるけれども、じゃあどうやって乾燥っていうものを解決するのかっていうことが、普通の魚には、こういう言い方するとあれですけれど、思い付かないと思うんですよね。
彼らは、思っているわけじゃないですけれども、普通そんなことはやっぱり考えないですよね。魚って別に水面より上に卵を産むことを前提としてないですから、そんなこと考える必要もないわけですよね。それをどうやって、卵が上にあったら乾くから水をかけないといけないなっていう風なことを、思うことはないんですけど、なんでそういう生態が身に着いたのか、生まれたのかっていうのは本当に不思議で、いくら考えても分からないですね」
福山雅治さんとの撮影秘話!
※岡部さんが手がけた「NHKスペシャル ホットスポット 最後の楽園」では福山雅治さんがプレゼンターをおよそ10年担当されました。長いお付き合いになったんですね?
「そうですね。お互いこんなに長く続くとは思ってなかったんじゃないですかね(笑)」
●福山さんとの撮影で思い出に残っていることなどありますか?
「大スターですから色々思い出はありますけれど、やっぱり第1シリーズで初めて行ったマダガスカルでの腸炎事件ですかね。お腹を壊して福山さんが寝込んでしまったという(苦笑)、ちょっとあれは本当に焦りましたね」
●どうしてお腹が痛くなっちゃったんですか? 何かに当たったとかですか?
「原因はよく分からないんですけどね。インドリっていうサルを見に行ったんですけれども、明日から見に行くぞーって言って、泊まったロッジで朝起きて来なかったと。それでどうしたんですか? って聞いたら、どうもマラリアになったんじゃないかと思うくらい高熱が出ているっていう風に言われて、それはそれは焦りましたね。
結局2本撮りだったんですね。ブラジルの真ん中の草原セラドっていうところに行ったのと、そこから南アフリカ経由でマダガスカルに行くっていう非常にハードスケジュールなロケで、疲れも溜まっていたんでしょうね。
ブラジルを経験していたからちょっと安心っていうか、割と大丈夫かなっていうことがあって。レストランで出た飲み物に入っていた、氷に当たったんじゃないかなと思うんですけどね。結局あの時は福山さんチームとこちらのチーム合わせて7人ぐらいで行っていたんですけれども、その内の5人がもう大変なことになって(苦笑)」
●ええっ!?
「僕とヘアメイクさんだけが何ともないっていうような感じで。あの時は、ああもうないなと、今後はないなと思いましたけど(笑)、結局(福山さんは)回復されてインドリにも無事にご対面いただいて、その後もバオバブを見に行ったり、ロケはほぼほぼ予定通り。
2日くらい寝込んでいらっしゃったんですけれども、予定通りロケは終わって帰ってきたら、『笑っていいとも!』でネタにして笑っていました、本人も(笑)」
●福山さんって、画面からはすごく楽しんでいるように見えるんですけれども、やはり福山さんご自身も生き物や自然がすごくお好きなのかな? って印象があったんですが。
「どうでしょうね。僕もそうですけど、多分福山さんは、取り立てて生き物や自然が大好きっていうわけではないと思うんですよね。僕も30年も(自然番組の制作を)やっていたら生き物が好きなんですよね? って言われますけど、いや別に生き物ってそんなに大して好きとかっていうような対象ではないなと思っていて・・・。
その代わり福山さんがよく言われるのは、生き物に対してはやっぱり畏敬の念とか、畏怖の念があるっていう風によくおっしゃっているんですよね。
自然が好きって、多分このラジオのリスナーさんとかはそうだと思うんですけれど、自然が好きっていうのはちょっと語弊があって、それはものすごくよく知っている場所だったり、管理された自然は好きなんでしょうけれども、例えばアマゾンのジャングルの中に裸で放り出されて、でも俺は自然が好き! って言える人っていないと思うんですよね。
自然っていうのは、本来はものすごく恐ろしい場所で、現代人が何の道具も持たずに行って、そこで生きていけるような場所では当然ないわけで、その中で生き物って何の道具も持たずに身体ひとつで生きていますよね。だからそういうところでやっぱり、人間はどうやっても敵わないなっていう思いが、福山さんは、畏怖とか畏敬の念っていう言葉になってくると思うんですよね。
福山さんは非常に言葉を大切にされる方なので、気軽にそんな軽々しく、生き物や自然が好きです! みたいなことは言わないですね。言ってくれって言っても言わないです、全然。それを踏まえた上で、やっぱり原生の自然の中で生き物が生きていること、あるべきものがあるべき場所にあるっていうことの居心地の良さっていうのがある。それを人間が壊していってるんだっていう問題意識は共有できているという風に思っています」
野生のトラに襲われた!?
※新刊『誰かに話したくなる 摩訶不思議な生きものたち』に掲載されている中から、もうひとつ、とんでもない体験談をうかがいましょう。
●地球上で最も怖い生き物ということで、岡部さんがインドのトラをこの本で挙げていらっしゃいますけれども、野生のトラと対峙したことが3回もあるんですよね。しかもその内の1回はトラとの距離が1メートルもなかったと本に書かれていましたけれど、どういう状況だったんですか?
「あれはいつだったかな・・・1993年だったと思うんですけれど、インドの真ん中にバンダウガルっていう国立公園があって、そこにメスのトラを撮りに行ったんですね。動物写真家の飯島(正広)さんがその7年前に撮影に行ってました。
シータっていう名前が付いたメスのトラがいて、その時、やはりトラって、今でもそうですけれど、絶滅の危機にあって・・・国立公園の中にいるんですけれど、人間がどうしてもそこに入っていて、人間との衝突が起こっているっていうことがよく言われていたので、飯島さんが7年前にあったシータが、どういう運命を辿っているのだろうかっていうのを見に行くドキュメンタリーの『生きもの地球紀行』だったんですけれども。
そのシータを見に行くと当然周りにはオスのトラもいるわけですよね。その中でチャージングタイガーって言われている、その時にいちばん若くて大きなトラがいて、それがシータの縄張りと重なっている場所にいたんですね。
シータを追いかけていると当然そのチャージングタイガーとも出くわすわけですよね。メスのトラは割と大人しくて、もちろん怖いんですけど、テレビ的に見るとガオーってこないんですよね、優しいから。
オスのトラはやっぱり獰猛ですから、なんかするとこっちに向かって威嚇してくるので、そういうシーンも必要でしょうと。それだけではないんですけれども、たまたまそのチャージングタイガーがいるっていうことを聞いて、草むらの中にいたんですね。非常に高い2メートルぐらいある草むらの中にいて、この辺にいるって言われたんですけど、どこにいるか分からなかったんです。
でも行かないと向こうから出てくるわけがないので、こっちからゾウの背中に乗って近づいていったんですね。基本的にはトラはゾウには襲いかからないと言われていたので、それを信じて安心して行ってたら、草むらの中から突然、トラが飛びかかってきたというようなことですね(笑)」
●でも、実際襲いかかってきて、岡部さんはどうされたんですか?
「いやもうね、多分人生で初めて気を失っていましたね、記憶がないんです。いわゆるホワイトアウトしていましたね。目の前で、1メートルのところにトラの大きな顔があって、そこで僕の記憶はもうなくなっている。多分10秒ぐらい気を失っていたんじゃないですかね、あまりの恐怖に」
●ええっ〜!? でも本には、二度と会いたくないと思う一方で、どうしようもなくもう一度、野生のトラを見てみたいと思わせる魔力があるという風に書かれていましたけれども、その魔力っていうのは何なんですか?
「僕の中ではトラってやっぱり地上でいちばん怖い生き物、いちばん強い生き物っていうイメージが今でもありますね。だってオスのトラって頭から尻尾の先まで入れると2メートル50センチぐらいあるんですよね。体重も200キロぐらいあって、その巨体で3メートルぐらい平気で飛ぶんですよね。ゾウの上を飛び越えていくって言いますから、本気出せばね。
そんな身体能力、大型力士が3メートル飛ぶんですよ。そんな生き物、ほかにいないですよね。多分体重200キロですから、あの時僕はゾウに乗っていて、足は下に降ろしていましたから、足にかぶって噛み付かれて引きずり下ろされたら絶対敵わないですよね、もう絶対耐えられないと思います。
それだけすごい生き物が、この地球に一緒に同時代に生きているっていうのはやっぱりすごいことだなと。多分ジュラシックパークじゃないですけど、ティラノサウルスがいたらやっぱり見てみたいと思うじゃないですか。現代で言ったらトラってそれに近いものがあるし、やっぱり簡単に見られないですからね、野生のトラは。あれだけ勇猛果敢な生き物っていうのは、ほかにはちょっと思い浮かばないですね。そういう生き物は、また会いたくないと思う反面、また見てみたいという気持ちは何処かにはあります」
生き物の魅力を伝える
※岡部さんは30年以上、自然番組の制作に携わっていらっしゃいます。海外の辺境や秘境と言われる場所に行って撮影するのは、大変な労力を必要とすると思いますが、その原動力は何ですか?
「やっぱり楽しいっていうのはありますよね。生き物の姿を間近で見るっていうのは楽しいっていうのもありますけれど、原動力っていうとやっぱり、子供の頃からずっと違和感を感じていたのは、この地球上にある土地って誰かのものっていう風に決まっていますよね、大体、国があるところって。地球上で誰のものでもない土地って、南極大陸ぐらいしかなくて。所有者がいますよね、国でも何でも。
土地が所有されているからには、その所有者がどうするか次第で開発されたりしてしまいますよね。でもそこには元々生き物が棲んでいたわけで、じゃあその生き物ってどうすればいいの? っていう風なことを、子供の頃からずっと思っていたんですね。
やっぱり生き物は環境の中で必死になって生きていて、役割があるわけですね。人間だけです、地球上で何の役割も持っていない生き物っていうのは。
環境に対して何の貢献もしていないし、やっぱり自分は人間は生きていたいから生きているだけで、それで環境破壊しているっていうのは、ちょっとおかしなことだなってずっと思っていて・・・生き物の魅力を伝えることで、もうちょっと考えた方がいいなと僕は個人的には思っているので、そういうことをちゃんと伝えたいなということですかね」
●改めて岡部さんが制作する自然番組で、いちばん伝えたいことってどんなことですか?
「伝えたいことは、やっぱり生き物っていうのは長い時間をかけて進化してきたというか、それがどういう風に生きているか。その生き様っていうのは、環境の中で必死になって生きるために、人間が思い付かないような進化を遂げているので、その面白さを伝えたいっていうことですね。そこから後のことはもう見ている人が考えることであって、いちばんやりたいのは、生き物の魅力をどうやったら伝えられるのかっていうことを考えますね 」
INFORMATION
『誰かに話したくなる 摩訶不思議な生きものたち』
岡部さんが世界の取材先で目撃した、生きものたちの、不思議な生態が体験談をまじえて14編掲載されています。改めて生物や自然の奥深さを思い知らされました。ぜひ読んでください。文藝春秋から絶賛発売中です。
◎「文藝春秋」HP:https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163913155