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「ありがとう マウイ」〜大災害に見舞われたマウイ島への思い

2024/3/31 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、「リトルギフトブックス」の代表「増本幸恵(ますもと・ゆきえ)」さんと、ハワイのスペシャリストで、エッセイストの「近藤純夫(こんどう・すみお)」さんです。

 「リトルギフトブックス」は、もともと編集者だった増本さんが、いま世の中に出しておくべき本、贈り物として届けられる本を出していきたいという思いで、去年の3月に鎌倉で立ち上げた出版社です。

 増本さんと近藤さんは、「アロハスタイル」という雑誌の創刊号からの付き合いで、20数年前に最初の取材先としてマウイ島を訪れ、世界最大級の休火山とも言われるハレアカラにも行ったそうです。

 近藤さんはハワイの伝統や文化、歴史、そして自然、特に植物に精通した、まさにハワイのスペシャリストで、この番組の初出演は1995年6月、その時はケービング、つまり洞窟探検のスペシャリストとしてお話をうかがいました。ちなみに火山島のハワイの島々には洞窟がたくさんあって、近藤さんは以前は、洞窟探検のためにハワイに通っていたそうです。

写真協力:リトルギフトブックス

 ハワイは数多くの島や環礁からなる諸島で、おもな島はワイキキのあるオアフ島やビッグアイランドと呼ばれるハワイ島を含め、魅力的で個性的な島が6つあります。そのうち、ハワイ島に次いで2番目に大きな島、マウイ島で昨年8月8日に大規模な山火事が発生、ラハイナという街が焼失してしまったのは、記憶に新しいことだと思います。

 そんなマウイ島の復興支援のために、今年2月に『Dear Maui マウイを巡る12の物語』という本が発売されました。

 今週は、その本を出版した増本幸恵さんと、企画の段階からサポートされた近藤純夫さんをお迎えし、マウイ島への思いや、その後の状況などについてうかがいます。

☆写真協力:リトルギフトブック

マウイへの思い

※「リトルギフトブックス」から出版された『Dear Maui マウイを巡る12の物語』、この本を企画したのは、増本さんなんですよね?

増本さん「企画したというよりも・・・日本で夜、ニュースを見ていたら、マウイの火災のことが飛び込んできまして、本当にどうしようと思って、わなわな震えるような感じでした。まずは、どこに寄付をしたらいいのかを相談しようと思って、近藤さんにメールを送ろうとしていたんですね。

 そのメールの文章を考えて打っている時に、いや、待てよと・・・。私は出版社を立ち上げたばっかりなんだから、もしこれを本にすることができて、それを復興支援に充てられたら、お金もそうですけれども、その本を見てくれた人の気持ちもマウイに向くし、そんなことができないかなと思ったんですね。

 その思いを文章にして、近藤さんにメールでお送りしたんです。そしたら確か夜10時過ぎていたと思うんですけれど、5分も10分経たないうちに近藤さんからお電話をいただいて、よし、やろう! っていうふうに言ってくださったので、企画がスタートしてというよりも、思いつきで走り出したという感じだと思いますね」

増本幸恵さん

●近藤さんは、増本さんからお話を聞いて、いかがでしたか?

近藤さん「災害がかなり激しかったので、これは街のレベルとかハワイ州のレベルを超えて、アメリカ合衆国自体がバックアップしないと、到底復興できないだろうなと感じたんですね。ハワイは、復興基金というのをすぐに立ち上げまして、この復興基金のことを知っていたので、増本さんから相談があった時に、これを寄付するという形が最もストレートに現地に伝わるんじゃないだろうかっていうお話をしました」

(編集部注:本作りの資金は、クラウドファンディングを募り、結果、156名のかたからの支援があったそうです)

※この本には、12名のかたが原稿や写真を寄せていらっしゃいます。みなさん、お知り合いだったんですか?

近藤さん「メンバーのうちの3分の2ぐらいは僕の知り合いでもありますので、直接お願いする形を取ればよかったんですが、やっぱりこの企画の発起人は増本さんなので、増本さんを通じて、みなさんに依頼を差し上げたという形です。みなさん、ふたつ返事で、すぐにやるよ! って言ってくださったのはすごく感謝ですよね。

近藤純夫さん

 ラハイナの災害というのはよく知られているんですけれども、実はこの火災はラハイナだけじゃないんですよ。ラハイナの北の街でもあったし、南の遥か離れたところにもありましたし、なんとハワイ島にも起きたんですね。相当離れたところに広範囲に火災が起きていたんですけれども、その中でもマウイ島はかなりの場所で火災が起きましたので、島全体も含めてラハイナを応援したいなというのがまず基本にありました」

●増本さんは12名のかたからそれぞれ原稿があがってきて、編集者としてどんなお気持ちでしたか?

増本さん「12名の中でいちばん最初に写真をあげてくださったかたが、佐藤秀明さんという写真家のかたなんですね。写真とエッセイをいただいたんですけれども、そのエッセイのいちばん最初が『ありがとうマウイ』っていうひとことで始まっていたんです。それを見て涙が出そうになって・・・。

 その後、みなさんからいろんな原稿が届く中で、なるほどなって・・・みなさん『ありがとうマウイ』っていう気持ちで書いてくださったり、寄せてくださったんだなっていうのがわかったので、そこからスムーズに、例えば順番だったり写真の選び方だったりっていうのは、本当にスムーズに流れていきました。写真家さんにしてもテキストを書くかたも全然個性が違うので、すごく面白かったです。編集自体はとっても面白かったですね」

(編集部注:『Dear Maui マウイを巡る12の物語』に原稿や写真を寄せている12名のかたはボランティアという形で協力されています)

歴史的にも重要な島

※近藤さんはマウイ島、そしてラハイナにもよく出かけていたんですよね?

近藤さん「仕事柄ハワイのことをやっていますので、等しくいろいろな島に行きましたけれども、マウイ島は・・・僕は中でも植物のことを結構よく本にしていまして、その先生がマウイ島にいるんですね。なので、一般には行かないマウイ島の素顔みたいなものをいろいろと教えていただいたこともあって、思いはたくさんありました。
 ラハイナは兎にも角にも昔のハワイ州の首都ですから、そういう意味でもいろいろと象徴的なものがたくさんあったところなんですよね。それがすっかりなくなったことには相当ショックを受けました」

写真協力:リトルギフトブックス

●改めてマウイ島はどんな島で、ラハイナはどんな町だったのか、教えてください。

近藤さん「ラハイナは先ほど言いましたように、かつてハワイ州の首都だったんですね。首都っていうことは国だったわけですけど、国である前の、まだ伝統文化の社会の時代からいちばん大事な場所だったんですね。それはハワイ諸島の右側、つまり東側に当たるところに大きなハワイ島という島があって、左側の日本側になる西側には小さな島がいくつも連なるんですけど、(マウイ島は)ちょうどその真ん中にあるんですよ。

 だから、このマウイ島を制するものは全部の島々を制するみたいなものが、ずっと伝統文化の時代にあったんですね。厳密にはマウイ島の左端にあるラハイナと、右端にあるハナという街、このふたつが最も重要な街だったんですね。

 なので、ここからいろんなものが始まっていますし、それから現代になって、つまり国が、ハワイ王国というのが作られた後からも、ハワイで最初に文字が・・・ポリネシアって文字がないので言葉だけなんですけど、最初に文字が作られたところなんですよ。

 その文字を学んで、いわゆる識字率と言って、読んだり書いたりできる人たちは、当時アメリカ合衆国全体でも2番目に高かったという場所なんですね。そういう伝統的にも文化的にもハワイの象徴と言える街だっていうのがあって、ハワイの人たちにとってラハイナは特別な場所だったんですよね」

(編集部注:近藤さんによれば、さとうきびから砂糖を作る産業に多くの日本人移民が関わっていた歴史があり、明治から大正にかけて、ラハイナに暮らしていた人たちの半分以上が日本人だったそうです。ハワイと日本の結びつきを感じますよね)

写真協力:リトルギフトブックス

※増本さんは初めてマウイ島に行った時は、どんな印象を持ちましたか?

増本さん「行くまでは本当にハワイのイメージは、いかにもワイキキなイメージだったんですけれども、例えばハレアカラは、圧倒的なスケールで迎えてくれましたね。それからハナのほうに行くと全然違う景色で、緑が豊かで田舎の漁村のような雰囲気も残っていて、そしてちょっと行くと素敵なリゾートホテルがあったりという、すごく面白い島ですね。でもなんていうか、地球の鼓動というか、ハワイ島とも違う営みを感じました」

忘れてほしくない

※増本さんはマウイ島に、お知り合いはいらっしゃるんですか? 

増本さん「例えば今回の著者のひとり、岡崎友子さんはマウイ島にお住まいで、ご自分でも支援活動に回っていらしたんですね。みなさん、火災のあとは無事に過ごされているんですが、最初に聞こえてくる声と今聞こえてくる声は随分違っています。

 初期の頃はとにかくメディアの人たちが、日本に限らず世界中のメディアの人たちが、悲惨なラハイナを撮りたい、聞きたいというオファーがすごくあって、困ったっていう声が聞こえてきたりしていたんですが、だんだん落ち着いてきました。今お話をしていると、復興は進んでいるそうですが、問題もいろいろあるようです。

 こんな本を作ったよ! ってお伝えすると、すごく喜んでくださるんですよね。
というのも、もう7か月ぐらい経ちますけれども、世界の人はラハイナに火事があったことを忘れかけているんじゃないか、自分たちのことは忘れられているんじゃないかって、なんとなくうちひしがれているところに、日本でこんなに応援してくれている人がいることに勇気づけられたっていう声を聞きます」

●近藤さんの知り合いのかたは、みなさんご無事でしたか?

近藤さん「レストランを経営している友達とか、先ほど言いました学者のかたとか、いろいろと(知り合いが)いまして、地元で長く暮らしているんですけども、多くのかたがやっぱり増本さんが言われるように、忘れて欲しくないというのは、強い思いとしてあるんですね。でも一方で、我々日本人も正月から能登の大災害を見たりして、やっぱり災害は次々起きるので、そうするといつも同じ気持ちを持ってということはできませんよね。

 で、思ったのが、増本さんとも強く話をしたんですけども、本という形を取って、我々は物書きだったり写真家だったりするわけですから、その持っているパワーでできることをしたい。でもそれがすぐ消えてしまうような類いの本であってはよくないんじゃないかと・・・。ずっとわずかであっても、そう言い続けることができるような立ち位置の本を出したいという気持ちが強くありました。

 それを伝えたところ、本という形でこれが残るっていうことはすごくいいことだと言っていただいてはいます。なので、その気持ちも大切に、またハワイに関わっていく身としては、これからも忘れずにマウイという島を見続けていきたいなっていうのは、今の偽らざる気持ちです」

『Dear Maui マウイを巡る12の物語』

大火災の原因は?

※去年8月8日に発生したマウイ島の山火事、その原因は特定されたんでしょうか?

近藤さん「特定はされていませんけれども、ほぼという形で一応言われているのが火の不始末です」

●火の不始末?

近藤さん「ハワイは、この大火災で世界中に知られましたけど、山火事は毎年起きています。それがいろいろな悪いタイミングで重なったために大きな災害となったんですけれども、その8割が人の火の不始末と言われています。その不始末のうちのしかも半分以上が観光客じゃないかと言われているんですね。だから我々にとっては他人事ではないということですよね」

●やっぱり気候変動による乾燥とかも影響しているんですか?

近藤さん「それもあるとは思います。ハワイはすごくざっくりと言うと、島の右上と左下で気候が全く違うんです。なぜかというと、広い太平洋を北東側から、つまりアメリカ大陸の側からずーっと湿った風が来るんですけれども、山に当たると全部雨で落ちるんです。

 だから地図の右上は緑が生い茂っているんですけど、山を越えると、もともと乾燥しているんです。だから火事は起きやすいんですね。右上では起きないけど、左下では起きる。でも悪いことばっかりじゃなくて、左下は晴れていることが多いってことですから、リゾート地はどの島でも左下にあるんですね」

●なるほど・・・。私もフラダンスを習っていて、フラの仲間とみんなで寄付させていただいたんですけれども、焼失から7ヶ月余り経ってラハイナの復興は、現状はどういう感じなんでしょうか?

近藤さん「まずラハイナと、それからその隣にあるカアナパリとか、さらに上にはカパルアという町がありまして、下のほうには街はそれほどないんですけども、この周辺はほぼ被災しているので、焼け残ったものもわずかながらあるんですが、ホテルを含めてそれはすべて避難所になったんですね。

 だからラハイナにあるホテルで残ったものは、すべて今は避難されているかたが住んでいます。で、カアナパリはラハイナと比べると、もうちょっと大きい街なんですが、ここは被害がラハイナほどではなかったので、ラハイナの住民はここに避難しているかたが多いです。カアナパリから順にホテルの運営を再開しているんですが、それはなぜというと、避難民のための建物を作って、そこに移動できたから(ホテルを)やっているわけですよね。

 ではラハイナはどうだったのか? っていうと、なかなかそう簡単にいかなくて、まずは避難民の落ち着く先がないとどうにもならない。しかも建物が少ないということで、なかなかできなかったんですけど、先月からまずカフェとレストランとがひとつふたつと再オープンしているところで、まだこれからですね。相当先になると思います」

●観光で訪れることができるのは、いつぐらいになりますか?

近藤さん「訪れられます。今も大丈夫ですよ。焼け野原になっていますけども、シャットアウトはしていませんので訪れることはできます」

●そうなんですね。

近藤さん「はい。ただ宿泊施設はないので、そこはどっか遠くから車で移動して、また戻るみたいな形になると思います」

マウイストロング基金

※本の売り上げは、寄付されるんですよね? そのあたりのお話を少し詳しく教えてください。

増本さん「はい、売り上げから利益の分をすべて寄付させていただきます」

●寄付する先は決まっているんですか?

増本さん「はい、マウイストロング基金という地元の支援団体がありまして、そこにとは思っているんですけれども・・・」

近藤さん「もうちょっと詳細にお伝えしますと、マウイストロング基金っていうのは、ハワイコミュニティ財団っていうところが運営しているんですね。これは突然作られたものではなくて、もう100年以上こういう活動をしていまして、すごく長い歴史を持っているんです。
 年間の予算もすごくて、そういうところなもんですから、ハワイ州政府も観光客も含めて、すべてここを起点にして動くようにできているので、ここがいちばん確かだろうということで、我々も(寄付する先を)ここにいたしました」

●そうなんですね。おふたりそれぞれにおうかがいしたいんですけれども、改めてこの本『Dear Maui マウイを巡る12の物語』を通して、どんなことを伝えたいですか? では増本さんからお願いします。

増本さん「なんでしょう・・・私は本当にマウイを好きになってもらうのがいちばん嬉しくて、私が知っていたマウイと、この本を通して知るマウイは全然違うというか、知らないことばっかりだったんですね。なので、この本を見ていただいて、みなさんもマウイを好きになってもらって、マウイに行ってもらうのがいちばん嬉しいです」

●近藤さんはいかがですか?

近藤さん「マウイは観光地としては特別によく知られているところで、結構、長期滞在されるかたの多いところなんですね。でも、逆に言うと歴史とか自然とかそういったものは、あまり多く語られてこなかったところがあります。

 大災害が起きましたけども、これを機会にマウイをリピーターのかたにはもうちょっと深く、新しいかたには観光地の象徴となるラハイナがなくなったことで、これから再建されますけれども、観光地というのをまた違う目で見ていただけたらいいなと思っています。この本がそういうことにはとても役立つと思っていますので、ぜひみなさんに読んでいただきたいなと思っています」

☆この他の近藤純夫さんのトークもご覧ください


INFORMATION

『Dear Maui マウイを巡る12の物語』

『Dear Maui マウイを巡る12の物語』

 今年2月に出版された、マウイ島の復興支援のためのこの本には、近藤さん始め、写真家の佐藤秀明さんや高砂淳二さん、フリーライターの今井栄一さん、ハワイ研究家の平川享さん、そしてオーシャンアスリートの岡崎友子さんほか、合わせて12名のかたが原稿や写真で、マウイ島への思いを寄せていらっしゃいます。本の収益はすべてマウイストロング基金に寄付されます。

 お買い求めは「リトルギフトブックス」のオフィシャルサイトから、どうぞ。

 なお、本の発売を記念して、鎌倉のブック&ギャラリー「海と本」で4月14日までフェアを開催中。また、代々木上原の「シティライトブック」でも、4月19日から24日までフェアを開催。ほかにも本屋さんやフラの大会でブースを出店する予定だそうです。

 詳しくは「リトルギフトブックス」のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎リトルギフトブックス:https://littlegiftbooks.com

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