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冬の妖精ハクチョウたちを追跡調査する「スワン・プロジェクト」〜カメラ付きGPSロガーから送られてくる画像に注目!

2024/12/8 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、公益財団法人
「宮城県 伊豆沼(いずぬま)・内沼(うちぬま)環境保全財団」の研究室長
「嶋田哲郎(しまだ・てつお)」さんです。

 宮城県北部にある「伊豆沼・内沼」は、毎年たくさんのガンやカモ、ハクチョウ類が飛来する国内有数の越冬地で、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」通称「ラムサール条約」に登録されています。

 千葉県市川市出身の嶋田さんは働きながら、「マガンの越冬生態と保全」というテーマで論文を書き、博士号を取得。縁あって、研究者を探していた財団に勤務することになったそうです。

写真協力:宮城県 伊豆沼・内沼 環境保全財団

 「宮城県 伊豆沼・内沼 環境保全財団」は1988年に設立された公益財団法人で、沼の自然環境の保全や研究、そして環境教育などの啓発活動を実施。普段はガンやカモなど、水鳥の個体数のモニタリングや外来魚の駆除なども行なっていらっしゃいます。

 現在、嶋田さんは伊豆沼・内沼にやってくるハクチョウを調査する「スワン・プロジェクト」に力を入れています。いったいどんなプロジェクトなのか、じっくりお話をうかがいます。

☆写真協力:宮城県 伊豆沼・内沼 環境保全財団

写真協力:宮城県 伊豆沼・内沼 環境保全財団

渡り鳥たちが安心して暮らせる越冬地

※まずは、宮城県北部にある伊豆沼・内沼について。沼自体はどれくらいの大きさなんですか?

「面積は559ヘクタール、東京ドームでいうと110個分ございます」

●おっきいですね~。

「はい、周辺は農地に囲まれています。(沼は)いちばん深いところで1.6メートルというとても浅いって特徴があって、広くて浅い、そういう地形をしています。浅いので、夏になりますと沼一面にハスが咲くんですね。ハス祭りなども開催されています」

写真協力:宮城県 伊豆沼・内沼 環境保全財団

●そちらの財団のホームページを見ると、この伊豆沼・内沼は、秋から冬に極東ロシアからやってくるガンやカモ、そしてハクチョウなどの貴重な越冬地と書かれていました。ほかにも越冬する場所はたくさんありそうな気がするんですが、どうしてこの伊豆沼・内沼にやってくるんでしょうか?

「人も食住というのが大事なように、実は鳥も同じなんですね。伊豆沼には10万羽ほどのマガンですとか非常に多くの鳥が来ます。マガンは沼周辺の農地で、稲刈り後の田んぼに残っている落ちもみを食べています。また、ねぐらとなるこの伊豆沼は凍りにくい特徴があって、天敵となる哺乳類が入って来にくいんですね。そのため安全です。ですので、食もあり安心なねぐらがある、食住が安定しているということが理由で、たくさんの鳥が集まってきます」

●渡り鳥たちは毎年いつ頃やってきて、いつ頃までいるんですか?

「9月の下旬頃に初雁(はつかり)と言って、最初のマガンの初飛来があって、それからどんどん数が増えていきます。だいたい2月上旬には北帰行(ほっきこう)と言って北へ帰る、そういった動きが始まります」

●毎年どれぐらいの数の渡り鳥たちがやってくるんですか?

「年によっても少し異なるんですけども、伊豆沼・内沼ではマガンなどのガン類が10万羽ほど、ハクチョウ類で3000羽、カモ類で4000羽ほどが越冬しています」

写真協力:宮城県 伊豆沼・内沼 環境保全財団

●すごい数ですね。そんなにたくさんだと、渡り鳥たちの食べるものとかなくなっちゃうんじゃないかなって心配になっちゃうんですが・・・。

「沼周辺には非常に広大な農地があって、そこにはたくさんの落ちもみがありますし、実はオオハクチョウはレンコンを食べています。先ほどのハス祭りの後に、ハスが枯れて地中にレンコンができます。それを食べていて、そういったいろんな食物が豊富なので、これだけ多くの鳥を支えていると思います。

 鳥というのは、生態系の食物網の頂点にいる生き物です。つまりこれだけ多くの水鳥がいるということは、それを支えている植物や魚類を含めた生態系が豊かなことを示しています。最近では特にオオクチバスの駆除による保全の成果が見られてきまして、沼の魚が回復してきています。
 また、沈水植物といった水の中に生える植物も増えてきていますので、生態系が回復してきています。こういったことも鳥たちの生活に大きく貢献していると思います」

カメラ付きGPSロガー「スワンアイズ」

※ここからは現在、嶋田さんが進めていらっしゃる「スワン・プロジェクト」についてうかがっていきます。まずはどんなプロジェクトなのか、教えてください。

「このプロジェクトは2023年12月に始まりました。我々の財団ですとか、中国のドルイドテクノロジーといった会社を中心に始まったプロジェクトで、カメラ付きのGPSロガー、通称『スワンアイズ』と呼んでいますけども、それをオオハクチョウ10羽、コハクチョウ10羽に装着して追跡しています。

 これまでなかった最大のオリジナリティが、カメラによってハクチョウ目線の画像を見られるってことです。そして位置情報とか画像を一般公開しています。市民のかたがそれを見てハクチョウを見守ろうという、そういった国際共同プロジェクトです」

●野鳥に認識番号付きの足環を付けたりとか、発信器を付けたりするのは聞いたことがあったんですけど、カメラ付きっていうのは画期的ですよね。

「カメラ付きGPSロガーっていうのは、たぶん世界初だと思います」

写真協力:宮城県 伊豆沼・内沼 環境保全財団

●重くないんですか?

「これはちゃんと計算しておりまして、GPSを中心にふたつの小型カメラがついていて、カメラの全体の重さは130グラムです。この重さはオオハクチョウの体重の2%以下ということになっていて、とても軽量なんですね。鳥の行動に影響しない重さで作られています」

●負担はそんなにない感じなんですね。

「はい、ほぼないです」

●(スワンアイズは)自然に外れるものなんですか?

「そうですね。やはり野外でずっと使っているものですので、劣化してだいたい2〜3年で脱落することになっています」

●ハクチョウにカメラ付きのGPSロガー「スワンアイズ」を付けるためには、捕まえる必要がありますよね? どうやって捕まえたんですか?

「なかなかこれが簡単ではないことなんです。オオハクチョウは水と一緒に食物を食べる、漉(こ)しとって食べるので、水があるところが食べやすいんですね。ですので、農家さんのご協力をいただきまして、田んぼをお借りして、そこに水を張ります。そして1ヶ月前から餌付けをするんです。餌付けをしてハクチョウを集めておいて、集まってきたところを網で被せて捕まえるってことをします」

●へぇ~、でも大きい鳥ですから、なかなか大変ですよね?

「大変です。本当に大変です。翼を広げると2.4メートルありますし、体重も10キロ、結構重いんですよ。本当に捕獲作業は泥だけになって、オオハクチョウと格闘しなければなりません」

●格闘の末にカメラを付ける作業になりますけれども、ハクチョウのどこに付けたんですか?

「首です。首についていますので、本当にハクチョウの、若干目線が下がりますけど、ハクチョウ目線に近い形で(撮られた)画像を見ることができます」

写真協力:宮城県 伊豆沼・内沼 環境保全財団

●なんか蝶ネクタイみたいな感じですよね。

「はい、そうです」

●捕獲してスワンアイズを付けるということですけれども、許可は得ているんですよね?

「もちろんです。これは環境省にちゃんと申請をして許可証をもらった上でやっています。また農地は私有地なので、当然その農地のかたに許可をもらってやっていて、全て手続きを済ませた上で実施しています」

ハクチョウ目線の画像に感動!

※「スワン・プロジェクト」のサイトを見ると、ハクチョウそれぞれに名前を付けていますよね。それはなにか意図があるんですか?

「このプロジェクトは、樋口広芳(ひぐち・ひろよし)*先生に顧問になっていただいているんですね。樋口先生はこのスワン・プロジェクトの10年前に、実は“ハチクマ”という鷹の位置情報を一般公開する『ハチクマ・プロジェクト』をやっておられるんです。先生からのご助言で、“愛称をつけたほうが市民に親しみが湧くんです”というアイデアをいただきまして、それでそうさせていただいたんですが、まさにその通りでした!」
(*鳥類学者。東京大学名誉教授。当番組にも出演

●確かに愛着が湧きますよね! スワンアイズからは、定期的にデータが送られてくるっていう仕組みなんですか?

「そうです。携帯電話通信を用いているんですけども、それで位置情報が1日6回、画像が1日4回取得されて、定期的に送られてきます。少しタイムラグがあるんですけども、ほぼリアルタイムで位置情報とか画像を見ることができます」

写真協力:宮城県 伊豆沼・内沼 環境保全財団

●送られてきたデータで、これまでにどんなことがわかってきたんでしょうか?

「やはり位置情報と画像がセットになっているので、ハクチョウがいつどこで何をしているかっていうのが非常によく理解できます。レンコンを食べているとか、田んぼにいるとかっていうこともわかります。それから、飛んでいる画像がありますので、飛行場所の特定できるんですね。どう飛んでいるかっていう、そういったこともわかります。

 さらには、当然ハクチョウは群れで暮らしていますので、同じハクチョウの仲間ですとか、同じガン科の仲間を(カメラが)写します。そうすると、ほかの種や、ほかの個体も映るので、時期とか地域に応じて、異なる鳥同士の関係性が見えてきます。非常に面白いです!」

●ハクチョウが見た景色を画像で見られるってすごいですよね?

「はい、私もやってみて、こんなにすごいとは思ってなくてですね・・・私自身が感動しているところがあります。きっとそれを見ている多くの市民のかたも感じておられると思います」

●私も見せていただいたんですけど、雄大な自然の中を飛んでいる時の画像がありましたよね?

「あれはびっくり! びっくりです!」

写真協力:宮城県 伊豆沼・内沼 環境保全財団

●すごいですよね~! ハクチョウの羽も映っていますし、一緒に飛んでいる6羽の仲間たちも映っていて、本当に感動しました!

「なかなか見られないですよね! 私も感動しました!」

●すごい写真ですよね~。実際、最初に送られてきた写真を見た時は、どんなお気持ちでした?

「思わず声が出ましたね! おぉ~って!(笑)」

●人間じゃ撮れない写真ですからね~。

「そうです! その通りです!」

一般のかたも追跡調査!

※嶋田さんが進めている「スワン・プロジェクト」のサイトにアクセスすると、どなたでも、ハクチョウの位置情報や画像が見られるようになっています。このプロジェクトには、一般のかたも参加できるんでしょうか?

「はい、もちろんです。そのためにX、旧twitterでスワン・プロジェクトを立ち上げています。Xでは、“スワン・プロジェクト”と検索すると、そこのページに行くんですけれども、多くのかたが位置情報を頼りにハクチョウを探しに行っています。探しに行って写真を撮って、その写真を投稿いただいたりとかしているんですね。

 そういったことは観察記録にもつながってくるんです。ですので、多くの市民のかたに関心を持っていただいて、近くにいれば行っていただいて、写真を撮って投稿いただくっていうのは、非常にありがたい話です」

●「スワンアイズ」をつけたハクチョウを見つけました! っていうふうに、Xに写真を投稿するのは積極的にやってほしいっていう感じですか?

「できればやってほしいです。というのはハクチョウ目線の写真はわかるんですけど、全体像がわかんないんですよね、逆に言うと・・・。それを撮っていただくことによって全体像、こういう田んぼにいるんだとか、こういうところにいるんだっていうのがわかるので、とても助かるんです」

●カメラ付きGPSロガー「スワンアイズ」をつけたオオハクチョウたちは、いずれは(越冬を)終えて極東ロシア方面に戻っちゃうんですよね。戻っちゃったらこのデータっていうのはどうなるんですか?

「携帯電話通信を使っていますので、当然圏外だと通信できなくなります。北へ戻ってロシアの繫殖地にいると当然、通信網がないので一定期間通信できなくなります。今年の場合で見るとだいたい6月から9月までは一切通信が入ってきませんでした。だけども日本に帰ってきて携帯電話通信網に入ればまた回復します。そうするとそれまでの間のデータが全部取得できるんですね」

●なるほど・・・。

「それによって、ロシアでの素晴らしい繁殖地の景色なども見ることができました」

写真協力:宮城県 伊豆沼・内沼 環境保全財団

鳥の世界を楽しんで!

※去年から始まった「スワン・プロジェクト」、今後はどんな展開になりそうですか?

「今年も(オオハクチョウなどの)捕獲と装着をやります。このスワン・プロジェクトに関心を持っていただくために、捕獲地なども少し広げたいと思っていますし、これからも続けていきたいなと思っています」

●今後、何年ぐらい続ける予定ですか?

「そうですね・・・まず今年はやります! 今年の様子とか去年の装着した状況とか、今年これからやることは状況を見ながら、いろいろ検討していきたいと思います」

●この「スワン・プロジェクト」でどんなことを伝えたいですか?

「お陰様でXの投稿数ですとかフォロワー数が増えているんですね。これは多くの市民の方に関心を寄せていただいているからだと思っております。位置情報や画像をもとに多くの市民の方がハクチョウを追跡して、Xに投稿していただいている、こういったことは鳥に関心を持つことにつながりますし、または生態の面白さの気づきになると思うんですね。ゆくゆくはそういった研究につながっていって、鳥の世界をお楽しみいただければなっていうふうに思っています」


INFORMATION

 「スワン・プロジェクト」にぜひご注目ください。オフィシャルサイトにアクセスすると、ハクチョウに装着されたカメラ付きGPSロガー「スワンアイズ」から送られてくる位置情報や画像を見ることができます。

 また、嶋田さんもおっしゃっていましたが、一般のかたも調査に参加することができます。特に東北や北海道にお住まいのかたは、位置情報を頼りにハクチョウを探して、その個体がいるフィールドの写真を撮って投稿いただくと、観察記録になるということですので、ぜひご協力をお願いします。

◎スワン・プロジェクト :https://www.intelinkgo.com/swaneyes/jp/

◎スワン・プロジェクト「 X」アカウント:
https://x.com/swaproj?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor

 「宮城県 伊豆沼・内沼 環境保全財団」のサイトもぜひ見てくださいね。
http://izunuma.org

『知って楽しいカモ学講座 : カモ、ガン、ハクチョウのせかい 』

 嶋田さんは3年前に緑書房から『知って楽しいカモ学講座』という本を出されています。ぜひチェックしてください。

◎緑書房:https://www.midorishobo.co.jp/SHOP/1598.html

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