2025/6/15 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、動物作家で昆虫研究家の「篠原かをり」さんです。
篠原さんは子供の頃から生き物が大好きで、図鑑を何度も見返すようなお子さんだったそうです。そして、いろんな生き物の飼育経験や知識を活かし、2015年に昆虫に関する本で作家デビュー。これまでに生き物に関する本を数冊出版。
また、テレビのクイズ番組などにも出演。現在は慶應義塾大学SFC研究所の上席所員、また日本大学大学院の博士課程に在籍するなど、幅広く活躍されています。
そんな篠原さんの新しい本が『歩くサナギ、うんちの繭 〜昆虫たちのフシギすぎる「変態」の世界』なんです。
きょうはその本をもとに、昆虫の摩訶不思議な「変態」について、いろいろお話をうかがいます。
☆写真協力:篠原かをり

「変態」が創った「昆虫の惑星」
※新しい本は昆虫の変態について書いた本なんですよね。改めて「変態」とは何か、教えてください。
「昆虫が子供から大人になる過程において、幼虫から成虫になる過程において、大きく体の機能を変えるための脱皮のひとつですね」
●体の機能を変えていくんですね! 変態にはいろんな種類がありますよね。代表的な変態はどういったものがありますか?
「いちばん割合として多いのは『完全変態』と言われる、イモムシが蛹(さなぎ)になって蝶になるような、一般的な変態がいちばん数としては多いんです。イモムシと蝶のように大きな変化を伴わずに、見た目は似ている感じだけど、ちょっとずつ機能が変わっていく、蛹(さなぎ)にならないで、比較的シームレスに成虫になっていく『不完全変態』と、大きくふたつあります。
珍しい変態として『無変態』というほとんど変態をしないものと、あとは反対に『過変態』、たくさん変態をしているように見えるものがあります」
●先ほど脱皮という言葉も出てきましたけれども、「変態」と「脱皮」は違うんでしょうか?
「脱皮の種類の中に変態があるという感じです。昆虫って私たち人間のようにちょっとずつ、体の内部で骨が伸びて、筋肉が増えてっていうふうに大きくなるわけではないんです。箱に入った風船のような感じで、中がどんどん膨らんできて、もうこれ以上、大きくなれないよってなったら脱皮をして、さらに大きくなっていくっていう成長の仕方をするんですね。
その脱皮の中でも幼虫と成虫って何が違うかっていうと、(成虫は)卵を産んだりすることができる状態で、あとは多くの昆虫は羽が変態の時に同時に生えるんです。移動能力を今まで以上に手に入れて、卵を産めるようになった状態になるための脱皮が変態と言えます」

●なるほど~、そういうことなんですね。そもそも篠原さんが昆虫の変態に興味を持つようになったきっかけって何かあったんですか?
「変態という現象そのものが昆虫・・・例えば宇宙人が地球を見た時に多分、人間の惑星だとは思わないんですよ。圧倒的に種類が多くて数も多いのが昆虫なので、『昆虫の惑星』と断定するだろうなと思う中で、それほどまでの多種多様な昆虫っていうものを作り上げた現象がこの変態というもので、変態が出現してから昆虫の歴史の中に、特に完全変態が出現してから、数が爆発的に増えたんですよね。
なので昆虫という、私がもともと大好きな生き物の基本となるような、不思議な現象が変態だなと思ったので、その昆虫を好きになって、なんでこんなに多様な魅力に溢れているんだろうと考えた時に、目の前にあったのが変態だったって感じです」
(編集部注:「変態」には蝶のように、幼虫からさなぎになって成虫になる「完全変態」、蛹にはならなくて、ちょっとずつ変わっていくバッタ、そしてセミやトンボのように幼虫からそのまま成虫になる「不完全変態」、このふたつのほかに何度も変態しているように見える「過変態」と、ほとんど形が変わらない「無変態」があるんですね。
篠原さんによると「過変態」の代表が「マメハンミョウ」という、ハチの巣などに寄生する昆虫、そして「無変態」の代表が「シミ」、このシミは紙を食べる小さな昆虫で、古い本などを好むそうです。シミは漢字で「紙」の「魚」と書き、英語名は「シルヴァーフィッシュ」というそうですよ)
幼虫も蛹も光るホタル
※「変態」は昆虫の生存戦略と言っていいのでしょうか?
「そうですね。特に『完全変態』の場合に顕著なんですけど、例えばモンシロチョウの幼虫、アオムシはキャベツを食べるんですけど、モンシロチョウって成虫になると花の蜜を飲むじゃないですか。
親と子供で同じものを食べているとその分、食料が十分にいき渡りにくい、親と子供で競合してしまう可能性があるっていうのと、あとは同じものを食べないことでリスクヘッジにもなっているのがあって、『完全変態』をすることによって、昆虫はより生き残りやすくなったと言えると思います」

●なるほど~。本の第二章に「昆虫の不思議すぎる変態」として20個の例が載っています。その中から私が特に気になった変態についてお聞ききします。
「サナギも光るホタル」。ホタルの光ってすごく美しいな〜と毎年感じるんですけど、このホタルの変態について教えていただけますか?
「ホタルは、一般的にホタル鑑賞というと成虫の光っている様子を、特にゲンジボタル、ヘイケボタルの光っている様子を見ることが、日本ではほとんどかなと思うんですけど、生涯を通して光り続けるという特徴があって、幼虫も光りますし、蛹(さなぎ)も薄ぼんやりとした感じで光ります。
ホタルは幼虫も蛹も成虫も光るということは、今までホタルの光ってなんのためにあるかっていうと、オスとメスが巡り合うためにあると考えられていたんですけど、幼虫とか蛹の時ってオスとメスが巡り合う必要ってないじゃないですか、まだ産卵しないので・・・。
そうするとホタルの光には、ほかにも役割があるに違いないという考え方につながるので、“毒があるよ”って威嚇のためだったりとか・・・。
(ホタルは)幼虫の時は浅い水の中で生活して、蛹は川岸の土手の中とか土の中にいるので、私たちの目にその光をとらえることはなかなかないんですけど、実はホタルはずっと、私たちが見えないだけで、私たちに向けていない光をほかの虫たちに向けて光を放っているんだなと思うと、人間が見る虫だけじゃなくて、虫の世界の中の虫っていうのも面白いなと思います」
50年幼虫だったタマムシ
※続いて、本に不思議すぎる変態の例として「50年幼虫で過ごす、アメリカアカヘリタマムシ」というのが載っていました。これはどういうことなんですか?
「これは変態の強みが出ている部分かなと思うんですね。なんで50年も成虫にならなかったかっていうと・・・普段はもっと短いスパンで成虫になっていく昆虫なんです。
木の中に卵を産みつけられて、その木を食べながら、中で蛹になって成虫になっていくんですけど、多分そのタマムシが蛹になった時点で、幼虫だったかもしれないですけど、棲んでいた木が伐採されて、家の材料になったんですね。
建築資材になって・・・そうすると、なかなか栄養とかも少なくて、成長するのに適した環境ではなくなってくるので、ゆっくりゆっくり成長して50年間かけて家の柱から出てきたっていう話なんですね。
この蛹っていうのは非常に安定した状態・・・繊細でもあるんですけど、安定した状態なので、結構長い時間を過ごすことができて、例えば日本でも冬を越す間、蛹の姿で冬を越すような生き物もたくさんいるんです。
変態を経ない『不完全変態』の生き物であった場合に、柱の中で成虫になるまで50年生き続けるのは、なかなか難しいことですけど、蛹は新しく何か食べなくてもいいし、じっとタイミングを待てるという、その特殊な時期があったからこそ、50年の時を経て、無事成虫になることができたんだと思います」
●なるほど! でも50年間(柱の)中に入っていて出た時って、どんな気持ちだったんですかね?(笑)
「そうですよね~。結構、昆虫の時間の感じ方って気になるなと思っていて、昆虫より本来はるかに寿命の長い人間からしても、50年ってとんでもない長さじゃないですか」
●そうですよね~。
「本当に浦島太郎状態で(笑)、誰も知り合いとかもいないし、その地域にまだアカヘリタマムシがいるかもわからないぐらいの期間で、全く景色とかも様変わりしているでしょうね。
でも、そのタマムシたちの生涯は1回きりだから、私がもし(アカヘリタマムシになって)出てきたとしても変態ってすごいなって思って、私が同じ立場だったら蛹になって出てきたら、こんなに世界って変わっちゃうんだ、すごいなって思って終わっちゃう気がしますね」
(編集部注:蝶にしても蛹になると、動かなくなるイメージがありますよね。でも篠原さんによると、蛹になっても意外と動くんだそうです。生糸が採れる「蚕(かいこ)」の白い繭(まゆ)は蛹の状態なんですが、繭も動くんだそうですよ)
幼虫が美しい!? ジュエルキャタピラー
※今まで出会った昆虫で、いちばん印象に残っている「変態」する昆虫はなんでしょう?
「『パプアキンイロクワガタ』という親指の先ぐらいの、すごく小さなクワガタがいて、結構メタリックなグリーンとかイエローとか、赤とか青とか様々な色になっていくというか、いろんな色がいるクワガタなんですね。

最初、蛹だと乳白色のクリーム色っぽい色からどんどん色付いてきて、こういう感じの色の成虫が出てくるのかな? って羽化する数日前になると、ちょっと予想できるような、色が透けてくる感じになるんですけど、実際出てきて見るまでわからないというか、出てきてからもどんどん色が落ち着いてきたり、変わってきたりして・・・。
幼虫の時って全くどれも見分けがつかない、同じようなクリーム色のイモムシ状の幼虫だったものが、同じものを食べて成長して、親も同じ親から生まれていて、いざ成虫になる段階になると、様々な自分だけの色合いをなっていくのが、私は最初見分けがつかなかったけれど、もとからこの人(クワガタ)たちは全部違う見た目になるクワガタになるものとして生まれ育ったんだなと思うと、すごく面白みを感じて・・・なので、私はずっとパプアキンイロクワガタを育てるのが好きでよく育てています」
●成虫よりも幼虫のほうが美しい昆虫っていたりするんですか?
「そうですね。美しさでいうとかなり好みになってしまうんですけど、派手というか、特徴でいうと『ジュエルキャタピラー』と呼ばれる幼虫が、透き通ったグミとかゼリーのような見た目の幼虫から、オレンジとか黄色のひよこみたいなフサフサした成虫になっていくような蛾がいるんです。
蛾も含めてジュエルキャタピラーと呼ばれていることが多くて、幼虫のほうが注目されているのは、非常に珍しいなと思っているんですけど、それもまた不思議な変態です。
最初は本当に寒天というか、向こう側が透けて見えるようなぐらいの透明感を持った幼虫なんです。それが段々色濃くなってきて、最終的に似ても似つかない、本当にひよこのような蛾になっていくので、ひよことグミどっちが美しいかというと難しいんですけど・・・。でも幼虫のほうがより人目を引いて注目されているという点では、ジュエルキャタピラーは珍しい蛾かなと思います」
夏休み、「変態観察」のすすめ!
※夏休みも近いことですし、子供たちに「変態」を観察してほしいですよね?
「そうですね。すごく面白いのは、やっぱり虫のライフサイクルの中でも、飼っていてもサビの部分なんですよ。ずっと同じ虫を飼い続けるのも楽しいですけど、普段から虫を飼い慣れていない子供たちに、最初の一歩として飼ってみるのであれば、まず変態を観察してもらうのが、いちばん昆虫を楽しめるんじゃないかなと思っています。
これからの季節ですと、おすすめとしては蚕って飼いやすくて、昔は桑の葉っぱで育てていたんですけど、今は人工飼料っていう抹茶ようかんのような専用の餌があったりするので、2週間ぐらい観察して、さらに生糸を採ることもできるので、思い出も残すことができるっていうので、蚕飼育はおすすめです。普通にネットで購入もできるので・・・。

あと、身近な美しい昆虫でいうと、ミカンの木とかでアゲハチョウ(の幼虫や蛹)を探すのがいちばん飼いやすく、結構アゲハチョウは外で採ってくると、蛹の中からハチが出てきたりもして、それも面白いと飲み込めるお子様にはかなりおすすめですね」
●え~~、アゲハチョウの蛹の中から出てくるんですか、ハチが・・・?
「そうなんです。かなり寄生されやすい昆虫なので・・・。あとは完全変態以外でも不完全変態っていうのもかなり面白くて、特に大きく変わるものとしてはセミとトンボですね。ヤゴはわかりやすく、かなり飛ぶ力、強い大きな羽を手に入れるので、これから先、6月7月ぐらいになった時には池を探してみたりとか。
あとは、夕方付近に木の根元に小さな穴ぼこが空いていたりすると、大体セミが出てきた穴です。夏場は同じ木の根元から何匹も出てくるので、昼間にセミが出てきた穴を探しておいて、夕方から夜にかけて公園で観察すると、家に昆虫を持ち込まないで欲しいご家族がいらっしゃっても変態を観察できて楽しいと思います」
※もし篠原さんが昆虫になれるとしたら、どの昆虫になって「変態」を経験してみたいですか?
「そうですね~。せっかくなるのであれば、完全変態みたいな生活がガラッと変わって、きょうから大人です! って気持ちになれるほうが楽しいだろうなとは思うんですけど、実際に今の自分が昆虫になったら、多分『シミ』のような無変態の昆虫になるだろうなと思っていますね。
私は本当に物心ついた小学生とか幼稚園の時から今まで、ほとんど生活が変わっていないんですよ。毎日、朝起きて何をしようかなって考えて、虫とかと遊んでっていう生活をしているので・・・家に赤ちゃんとかもいますし、確実に大人になっているんですけど、働いてもいますし・・・どこから大人だったのかって振り返るとわからないんですよ。
なので・・・なってみたいのは、蝶とか蛾とか“鱗翅目(りんしもく)”の完全変態になったら、すごく気分が切り替わって楽しそうだなと思うんですけど、実際には、シミのようにいつ大人になったんだっけな~ってなってしまうような昆虫になると思います」
☆この他の篠原かをりさんのトークもご覧下さい。
INFORMATION
『歩くサナギ、うんちの繭〜昆虫たちのフシギすぎる「変態」の世界』
篠原さんの新しい本をぜひ読んでください。きょう番組内でご紹介できたのは、ほんの一部です。とにかく不思議で面白すぎる変態のお話が満載ですよ。
特別編として巻末に、アゲハチョウやクワガタ、そしてセミの変態を観察する方法が載っています。この夏、お子さんと一緒に「変態」を観察してみませんか。大和書房から絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトを見てくださいね。
◎大和書房:https://www.daiwashobo.co.jp/book/b10107902.html
篠原さんのオフィシャルサイトもぜひご覧ください。
◎篠原かをり:https://shinoharakawori.com/