2025/8/3 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、プロダクト・デザイナーで「トライポッド・デザイン」株式会社のCEO「中川 聡(さとし)」さんです。
中川さんが1987年に設立した「トライポッド・デザイン」は、デザインに科学の視点を取り入れ、ユニバーサルデザインの開発のほか、人間の感覚とセンサー・テクノロジーを結びつける研究など幅広い分野で、ひとりひとりのためのグッドデザインを追求されています。
今週は、微弱な電気を集める画期的な技術「超小集電」をクローズアップ! スタジオ内で大実験! なんとフランスパンやトマト、土や水などに電極を刺してLEDライトを光らせます。なぜ光るのか、その仕組みと、大きな可能性に迫ります。

微生物燃料電池→超小集電
※「とても小さな電気を集める」という意味の「超小集電」・・・いったいどういう経緯で研究するようになったのか、まずは、そのあたりを中川さんに解説していただきましょう。
「まず、超小集電にどういう形でこの技術に気がついたか、ちょっとだけお話をさせていただきます。
ご存知のように我が国は半導体とかセンサーとか、そういった非常に小さな電気で動く技術に長けた国っていうふうに世界的に知られていますよね。そういう中で、私はその頃、大学の研究室にいて、センサーや半導体をうまく使って、様々な例えばコミュニケーションとか、それからセンシングという、環境なんかをデータを取って調べたりする、そういう開発に関するデザインとエンジニアリングの仕事をしていました。
そういう中でいちばん問題になったのは、例えば私たちが普通の暮らしの中で、一般の電気がある中ですと、そういったことはいつも簡単にできるわけです。ところが、例えば自然界とか、都市から遠く離れたところとか、洋上とか、そういう所だとやっぱりなかなか電力が得られない。せっかくの技術が活かしきれない。では、どうしようかってなった時に、最初に目をつけたのが『微生物燃料電池』という技術だったんです。
みなさん、知っているところだと水田とか湿地帯、粘土質みたいなところで、空気が嫌いなバクテリアと、割と空気が好きなバクテリアの間で、小さな電気が発生する、そこを研究したものが微生物燃料電池というものなんですね。
そこに注目をして、土とか湿地帯とか水辺は世界中あるわけですから、自然の中でもそういう技術をうまく使って、小さな半導体やセンサーを動かそうという研究を始めたんです。
ところがその流れの中で、ある日、海の中にもバクテリアはいるだろうって話になりました。海水での微生物燃料電池を研究している過程で、実は今回ご紹介するすごく小さな電気は、実は微生物ではなくて、みなさんがよく知っている言葉で言いますと、学校で習ったイオン反応、理科の教科書なんかですと、ボルタの電池とかダニエル電池とか、いろいろ勉強されたと思うんですね。
その中でももっと小さな値で、実はいろんなところを電解質にして、電気を集められるそうだな、っていうことに気がついたんですね。
それは海水を電解質に見立て、実は微生物が発生する電気を集めようとしている過程で、いやいやもっといろんなところで、自然界や身のまわりで、様々なものをひとつの媒体として電気を集められそうだ、そういうことに気がついたんですね。
その研究を始めて、少しずついろんなものを対象にして、新たに電気を、我々は集めると言っていますけど、落ちているものを集めるような気持ちで、『集電』っていう言葉にして、気づかなかった小さな電気を集めて使いましょうというそういう研究を、今から6年ぐらい前に本格的にスタートしたということになります」
●中川さんがその可能性に気づいてから、本当にそうなのかを確かめるために様々な実験をされていますよね?
「そうですね。その当時は、そういう可能性もわかるけれども、今私たちの身のまわりは電力網によって、常に安定した電力が供給されている暮らしの中で、電流が日常的に存在する中で、わざわざ小さな電気を集めて、それを何に使うのと・・・。その当時の大学の友人たちもみんな、”考え方はわかるけれども、それが何の役に立つのか”、そういうことはよく指摘されましたね。
そういう中でいろんなものを対象に、とりあえずこの技術の範囲と言いましょうか、対象領域はどうなのかっていうのは研究してみようっていうので、実にいろんなものを電解質に見立てたり、また電極も金属だけじゃなくて、いろんなものを使って、どうやって小さな電気を集めるかってあたりを研究をし始めたっていうのが、発見をしてからの次のステップになります」
●オフィシャルサイトにある映像では、川や畑などでも実験をされていますよね。これはなぜ川や畑を選んだんでしょうか。
「最初に申し上げましたように電気が供給されてないところ・・・我々は電気が通ってない環境を『オフグリット』っていうふうに言うんですけど、一般的な電気が通っているところを、大きな電力網があって供給されているのを『マクログリット』と言います。
それに対して、みなさんご存知のようにいろんなエナジーハーベストで、例えばソーラーとか風力とか、そういうもので、さらにマクログリットを支えているわけですけど、それを『マイクログリット』と言います。
まったくそういうものと無縁の環境、自然界とか海の上、そういうところは電力網から切り離れているので、オフグリットって言うんですけど、そういう中で例えば通信をしようとか様々な環境の情報を集めようとすると、センサーを動かすとか小さなマイクを動かすためにも電力がいるわけです。
言葉を変えて言えば、その場で地産地消型で自給自足できる方法として利用できないかというので、開発の目的をそこにおいて研究を始めたんです」
スタジオ内で大実験! フランスパンにトマト!?

●きょうはその超小集電の実験を、このスタジオの中で再現をしていただけるんですよね。スタジオのテーブルにはたくさんのものが並んでいて、フランスパンだったり、電極、お水、土などがあるんですが、これからどういった実験をしていただけますか?
「電気を得るためにいろんな技術があるわけですが、みなさんがそういうのを勉強された中で、その考え方にちょっと違う角度でアプローチをして、何か気づいてもらうために・・・私は3200種類ぐらいのものを試しました。
いろいろ日常で、2種類の電極を持って、海外に旅行に行く時も常に持って(笑)、電極を刺して、どのくらい電気があるかなって、テスターと電極を常に持ち歩いていたんですよ。そういう中できょうは身近なものとして、目の前にフランスパンがありますよね?」
●はい、フランスパンがあります!
「今使っている電極は片方はカーボンのようなもので、もう片方はアルミニウムやマグネシウムなんかを合金にしたものなんです。これをフランスパンに刺してみますね。対象は食べ物ですよね」
●そうですね。フランスパンという食べ物に今電極が刺さっている・・・。
「今刺した状態で、ここに用意したのは小さな回路にLEDライトが付いています。LEDってご存知のよう小さな電力で動くものですよね。これはトーマス・エジソンの時代にはなかったもので、小さな電気で明かりがつくという、そういう意味では新しい技術ですよね。
もうひとつは、我々が微生物の燃料電池を研究する時に開発したものがあります。このライトの裏側に付いている回路なんですけど、これは専門用語でDCDCコンバーター。一般的にいうと昇圧、例えば電気を溜めて、もう少し大きな電気に変えて使えるようにするのが昇圧・・・昇圧回路で、これをつけてみるとLEDがつくわけですよね」
●そうですね。今この電極につながっている回路のLED ライトが光っています!
「実はイオン反応をベースにしていますから、パンに刺さっている負極側、金属側に接している部分からイオンが出て、金属イオンが分解しながら反対側に、つながっているところに電流を作り出すわけです。小さな電力をちょっと溜めて、回路にLEDをつなげてあげると、今点滅していますけど、LEDがつくんです」
●すごいですね! LEDライトがピカピカと、しっかりちゃんと光っていますよね。
「そうですね」
●続いて・・・ここにトマトがありますよね。
「用意しました。実際に難波さん、やってみますか?」
●やっていいですか?
「先が少し尖っている、三角形ようなふたつの金属片がここにありますけど、片方はステンレスでできていて、もう片方がアルミやマグネシウムなんかを混ぜて作った合金でできている薄いプレート・・・これを僕はいつも持ち歩いていたんですよね」
●このセットを?(笑)
「先ほどお見せしたLEDが付いている昇圧回路の、小さな2cmぐらいの回路が付いたLEDを線でつないで、目の前にあるトマトに、そのプレートを刺していただいて・・・」
●刺していいですか? いきますよ? 刺しました! あっ!?
「ちょっと待っていただくと・・・」
●すごい! LEDライトがつきました! すごい! トマトが・・・?
「電解質になって、刺されたほうの金属の薄い板、片方のステンレス側がプラスの陽極になって、反対側が負極に・・・」
●トマトもイオンを出しているんですか?
「ここでいわゆる塩基性反応が起きて、イオンによる金属の分解・・・ですから、だんだんに、負極側のマグネシウムの合金は時間が経つと電子を出しながら、一般的な言葉でいうと錆びてくような状態ですね」
●フランスパンとトマトの電気の大きさって同じくらいなんですか? どのくらいあるんですか?
「そうですね・・・こうやってちょっと見ていただくと、どのぐらいの電気が、実際に電気を使った時に出ているかっていうと、少しこっちのほうがゆっくりです」
●あ、そうですね。どちらのLEDも点滅しているんですが、フランスパンのほうが点滅が遅い感じですよね。
「そうです。トマトのほうがおそらくですが、水分とかを多く含んでいて、イオン反応がより活発に起きている・・・ということは電力的に(どうなのか)。
最初、この超小集電がいろんなものに使えるんだろうかっていう疑問のもとになったのは、ひとつはそういう持続性。もうひとつはどのぐらいの電流が出るか。どちらかというと電流が弱いので、人間の体にはそのほうがいいんですけれども、医療用には・・・。一般的な産業用とか暮らしの中の電化製品を使うためには、やっぱり電流が足りないんじゃないかって話が最初からずっとあったんですね。
それをこの5年くらいで、どういうふうにしてうまく積み上げて、電流をより大きくしながら、暮らしの中で身近なものを動かせるような電力にしようかということをずっと研究しています」

水に食塩、LEDライトが光る!
●次の実験では、お水と土にも電極が刺さっていますね。先ほどの回路も付いていて、なんとLEDライトがこれもしっかりとついていますね。
「そうですね」
●先ほどのフランスパンやトマトと比べると、すごく激しく点滅していますね。これは食べ物よりも多くの電力を発生させているということなんでしょうか?
「そうですね。それはすごくいいポイントに気づかれていて・・・実は私がこの技術を特許化する時にいちばん中心となったのは、電流が起こる、電子が飛ぶ、拡散するんですけど、電子がすごい勢いで拡散するには、ひとつの規則的な動きがあるんです。
これを規律の“律”に“速度”って書いて、電子のいわゆる「拡散律速(かくさんりっそく)」って言うんですけど、電気化学的にいうと。それをいろいろ調整することで、調整することができるだろうっていうところで、その特許を申請したんですね。
それをちょっと今からご覧に入れると・・・これは水道水ですけど、水道水に目の前に用意したのは・・・」
●白い粉・・・これは・・・?
「これは、みなさんよく知っている食塩ですね」
●食塩! 塩ですね!
「塩を、ここに入れてみますと・・・」
●今、中川さんが食塩を水の中に入れています。あっ! そうするとLEDライトがさらに激しく光りましたね!
「(点滅の)速度が変わりましたね!」
●変わりました! 先ほどよりも速く光っていますね。
「しかもちょっと明るくなっています」
●なりました!
「つまり、電流の値が変わった瞬間をご覧になったということですね」
●塩分の濃度が高くなると・・・。
「今度は、ちょっと安定したら、もうつきっぱなしになりますね」
●すごい! おそらくお水全体に塩が広がったので、もう今、LEDライトが点滅せずにずっとつき続けている状態になりましたね。
「そうですね」
(編集部注:中川さんは、身近な食べ物や自然界にあるものだけでなく、産業廃棄物といわれるものにも着目。コンクリートや竹を燃やした炭、おがくずや食品の残渣などからも電気が得られることを実証されています。
そして、地域から出る廃棄物などを活かし、たとえば、街の明かりなどに利用できるのではないかと中川さんは考えていらっしゃいます)
未利用の資源を活かす

「きょうは難波さんが意外だな! と思うもので、電気を出してみたと思っているんですが・・・」
●はい、すでに全部意外だったんですけど・・・(笑)
「小さなビーカー、本当に小さなビーカーの中に」
●黒色の? 何ですか、これは?
「石みたいなものが入っていますよね? これにちょっと付けてみますと・・・」
●黒色の石が入ったビーカーに電極が刺さっていて、そこにさきほどの回路を刺しました。すると、あっ! 電気が光っていますね!
「すごく光っていますね」
●はい! 電気が光っています。
「これは何だと思います? ちょっと音を出しますね。こういうふうに・・・」
(*ビーカーを振って音を出しました)
●石ですよね。黒い色の石?
「取り出してみます。どうぞ!」
●(黒い石を手に取り)軽いですね!
「難波さんの世代だとあまり馴染みがないかもしれませんが、僕たちの世代は生活の中でよく使っていたものなんです」
●え~〜、墨ですか?
「実はこれはみなさん名前だけよく知っている・・・石炭なんです」
●石炭・・・?
「火力を得るためのものですよね。蒸気機関車とかタービンをまわすとか、発電するのにも使うかもしれません。実は石炭を細かく粉砕しながら電解質にして電気を出しているものが、このビーカーの中のものです」
●すごい! 石炭で電気ができるんですか?
「燃やさなくても(笑)」
●え~〜、すごい!
「(続いて)これはもうひとつ、産業の中で生まれてくるもので、今度は白い粉ですね」
●白い粉・・・?
「白い粉ですね。なんなんでしょうかね。実はそれに水を加えて、もうすっかり固まっているんですけど、これにも同じように電極に回路をつなげてみます」
●今ビーカーの中にはちょっと灰色のドロッとしたような、粘土の溶けたみたいなものが入っていますね
「これは固まってしまって、実はコンクリートに近いですけど、セメントに・・・実はこの白いものは、みなさんよく知っている製鉄所から出るスラグっていう残渣(ざんさ)なんですね」
●スラグから今、LEDライトが光っていますね!
「石炭、スラグ、そして3つめ・・・きょうぜひご覧いただきたくて、もうひとつ用意したのは、やっぱりなんか黒っぽいものがありますよね?」
●黒っぽいちょっと細かな粉っぽいものが入っていますね。
「ザラザラとしているものがプラスチックのケースの中に入っていて・・・」
●そこに電極が刺さって・・・。
「これで電気がついていますね」
●あっ! またLEDつきましたね! これは何ですか?
「これは実はブレード、風力発電機の羽根です!」
●え~! 羽根の材料が電気のもとになったということですか?
「それを今、私たちが研究をして、こういうものを粉砕して電解質に変えて、電気を出すひとつの電池の原点みたいなものを作ってみたんです。だから、ありとあらゆるものが、食品の残渣から身のまわりにある産業の廃棄物と言われているものまで・・・。
僕はやっぱりすごく大事なのは、ゴミとか廃棄物とかっていう言い方ではなくて、僕の先生もそうだったんですけど、“未利用の資源として捉えなさい”と、そういうことなんだと・・・僕は若い時にそういうことをずいぶん薫陶されましたから。
すべてのものは何らかの形で一度利用したりして、地球に戻りやすい形にして、地球に返していくと・・・そういうふうなことを真剣に考える必要がある時代に入っているんじゃないかなと思います」
実験棟「KU-AN(空庵)」「RU-AN(流庵)」
※現在「超小集電」の実用化に向けて、どんなことに取り組んでいるのか、教えていただけますか。
「私たちとしては大きく3つのテーマを持って、この電力ならではの使い方っていうか、今までの電力に対する概念をちょっと置いておいて、この電気でできることを考えようと、この数年研究をしてきました。
ひとつは例えば、明かりが消えない街づくりみたいな、災害時でも何かあった時にでも、街の明かりやサインが消えないような、ひとつのデザインによる製品開発。そういう意味では照明や環境を照らす様々な明かりの開発という軸を考えています。
もうひとつは最初からお話しているようにセンサーとして、あとはコミュニケーション、通信用の電力網がないような所でも、通信や例えばインターネットへのアクセスができるような社会にできればいいんじゃないかっていうことです。
世の中にはまだ20億人ぐらいの人たちが日常生活的な電力が得られない暮らしをしています。それから40億人を超える人たちは、実はインターネットの世界と言われていますけれども、その情報化社会の中で“アンコネクティッド”、いわゆるアクセスできないでいる人たちがいるわけですね。そういう人たちのために何らかの、小さな分散型でもいいから、そういうネットワークをつないだり、また明かりを供給できるといいんじゃないかと・・・。
そのためにはやっぱり暮らしの中で、右から左へやってくる電気を使うのではなくて、超小集電は最初からそうなんですけど、小さな電力ですから溜めて使うっていう、ひとつめは明かり、ふたつめはやっぱりセンサーのようなものとかコミュニケーションとしてのデバイスを動かすための、システムを動かすための電力として使う。
3つめは、いざとなった時のために災害時もそうですけど、または暮らしの中での電力ってものを、もっとある意味、産業としてエネルギーとして削減をして、セーブをして使えるために溜めて使うという、そうすると考え方も変わってくると思うんですね。
朝起きて外が晴れていても、なんとなく僕たちもライトつけてしまったりしますけれども、そういう意識が少し変わってくれば、それが世界全体に広がっていくと、電力に対する問題は新しい局面を開くことができるんじゃないかなとは思うんですよね」
(編集部注:「トライポット・デザイン」では茨城県常陸太田市に実験棟「KU-AN(空庵)」を建設。木の骨組みにガラスをはめこんだ、大きな温室のような建物で、その中に木箱に食品堆肥や土を詰めた超小集電用の電池のようなものを1500個、設置したところ、2Wくらいの電気を出し続け、それを溜めて、およそ3年間、毎日一定の時間、LED照明800個の灯りをともし、持続性を検証)

※そこから、こんなことがわかったそうです。
「超小集電の場合は電極となっているものが錆びていく、地球に返っていく中で出る小さな電気を集めていますから、非常に電力が落ちてくるのが緩やかなんですね。
ということは、どういうことがわかってきたかっていうと、電力の総力っていうか総量っていうか、総電力量としてはあまり大きな電力を出さなくても、ずっと長く出続ける、そういうふうな性質を持った、特性を持った電気であるってことがわかってきました。
ですから、大体1年間で2.5%ぐらいだけしか電力量が下がらない。これだときちんと溜めていけば、将来電力網がないところでも普通の暮らしぐらいできるような電気になるんじゃないかと。そういう方向が見えてきたので、今年になってふたつめの今度はそれを実際に実装できるような、もうちょっと大きい建物を建てたんですね」
●そうなんですね!
「今度は今年の後半を使って大体12V、12Vっていうのは車の電力ぐらい・・・人間が触ってもあまり痺れない程度なんです。それはUSBで使えるような電力なんですけど、それで100Wっていう、100Wっていうのは相当大きい電力で、最初に建てた建物が2Wぐらいでしたから、50倍ぐらいの容量を出せるような社会実証のための実験棟『RU-AN(流庵)』っていうのを建てて、そういう実験を始めたっていうところですね」
超小集電は「みんなの電気」
※「超小集電」の今後の課題としては、どんなことが挙げられますか?
「やっぱりいちばん大きな課題は、充電ではないかと思うんです。今素晴らしい、リン酸鉄なんかを使ったものとか、リチウム電池は充電器もいっぱいあるんですけれども、ご存知のように最近では火災が起きたり、熱に弱いとか・・・すべての技術は良い面と欠点、それは超小集電でもあると思うんですね。電流が弱いとか、そういうところあるんですけれども、とにかくいかに安全に充電するかっていうのが、我々としては技術課題だと思っています。
あとは様々な地域に行った時に、きちんとプログラムができていて、地元の人たちが電池を作り出せる、そういうふうな技術として、もう少し研究を体系化して整理して技術情報として、いろんな地域の人に渡せるようにするのもひとつ大きな課題かもしれませんね」
●「超小集電」が実用化されていけば、世界は劇的に変わっていくと思ったんですけれども・・・。
「僕、よく言うんですけど、アイザック・ニュートンが生まれる前から、実はリンゴは落ちていたと・・・多分僕がたまたま気づきましたし、うちのスタッフがいろいろ研究し、技術を開発してきましたけれども、大切なことは、この電気はやっぱり“みんなの電気”だってことだと思うんですね。
もともと地球のメカニズム、私たちが生きていることに非常に近い、“電気”と“自然”と“私たち”を近づける、ひとつの気づきを教えてくれたものじゃないかなと思っています。
より大きな電力、より巨大なマーケットに対して大量生産をして、発達していった工業社会とか、より早く情報を伝える、スピードや大きさを競ってきた中で、そうじゃなくて、適切な小さな電力でも豊かに暮らせるかもしれないとか・・・。
そういった近代から現代の工業中心社会に対して、もう少し再生循環型で、自然からもらってきたものとか、我々がもともと持っている生命としての力みたいなもの、その辺をもう少し見直す機会になればいいと思いますね。
やっぱり子供たちの世代になった時に、こういう電気があることで、“あっ! こういうふうにして電気も利用するし、取り出すこともできるんだ”っていうことに気づける環境があることが、僕はとても大事なんかじゃないかなと思います。
これが何か社会に役立ったり、災害の時に明かりの手がかりになったりすることは、もちろん期待はしているんですけど、それ以上に“気づき”ですかね。
普段、水とか電気とか何も考えないで、当然あるだろうと思っていたことに対して、違った視点を与えて、違った答えの出し方もあるんだっていう可能性に気づかせる存在として、社会の一部に技術として残っていてくれればいいなと思っています」
INFORMATION
茨城県常陸太田市に建てた実験棟「KU-AN(空庵)」と「RU-AN(流庵)」、どんな建物なのか、オフィシャルサイトに写真が載っていますので、ぜひ見てください。
この実験棟は、定期的に一般公開して、ワークショップなどを開催しているそうです。ワークショップや「超小集電」について、詳しくは「トライポッド・デザイン」のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎トライポッド・デザイン:https://tripoddesign.com