2025/12/21 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、ベンチャー企業
「モリアゲ」の代表「長野麻子(ながの・あさこ)」さんです。
長野さんは愛知県安城市(あんじょうし)生まれ。東京大学卒業後、94年に農林水産省に入省。キャリア官僚として食品産業や広報の室長などを歴任後、2018年に林野庁の木材利用課長に。この時に森にハマってしまい、2022年に早期退職。その年にモリアゲを設立。現在、森林業コンサルタントとして全国を飛び回り、日本の森を盛り上げる活動に取り組んでいらっしゃいます。
社名の由来は「日本の森をモリアゲる」から来ていて、ご本人曰くダジャレ。創業した頃は、社名を言うのが恥ずかしかったそうですが、わかりやすくて覚えやすいことや、起業から3年で41の都道府県を巡り、講演活動などに取り組んだことで長野さんの知名度もどんどんアップ! 今では業界で「モリアゲねえさん」と呼ばれ、親しまれているそうです。
きょうはそんな長野さんに、農林水産省を早期退職するに至った思いや、企業と森を結びつける「一社一山(いっしゃひとやま)」運動、そして木の暮らしを取り戻すための「ウッド・チェンジ」プロジェクトのことなどうかがいます。
☆写真協力:モリアゲ

企業と森をつなぐ「一社一山」運動
※長野さんは、日本の森をモリアゲるために会社として、そして森林業コンサルタントとして、いろんな活動をされています。どんなことに取り組んでいるのか、教えてください。
「ひとことで言うと、難しいですけど、好きなことをやっているだけなんですよ。日本の森の現状を考えると、これまで先人が植えてくれた木を育てている間に、森にお金が貯まらなくなっちゃったっていうか、儲からなくなっちゃったっていうのがあるんですね。
森にきちんと、次の森を作るためのお金が戻るように、森への資金循環って言ってますけれども、そういうことができるように企業のみなさんに森に関わってもらう「一社一山」運動とかですね。
あとは森林環境税っていう、国民のみなさんからもらったお金を、森の整備に使う仕組みもありますので、そういうものが地域の森のためにうまく使われるようなコンサルティングをしたりしています。
森と人の暮らしが離れちゃったのはなぜかっていうと、木を使わなくなった・・・森の大きな恵みのひとつである木材を、私たちの暮らしに使わなくなったっていうのがあるんですね。
木のある暮らしをもう一度取り戻すという意味で、建物はもちろん、家具ですとか日用品とかっていうものも、鉄とかコンクリートとかプラスチックから、木に替える『ウッド・チェンジ』っていう活動をやり始めて、木のある暮らしをどうやったら楽しくできるかっていうのをアドバイスしたり・・・。
あとは、みんな森に行かなくなったんですね。これだけ日本には森があるのに、森との距離が離れてしまって、ほとんど森に行かなくなってしまったんですよ。もう一度、森のことを学ばないと、なかなかその距離が近くならないということがあって、自然教育とか環境教育・・・企業のみなさんに森のセミナーで、森での学びを提供するような、そういうのを全体まるっとして、森林業コンサルタントと勝手に自称しております」
●「一社一山」ひとつの会社、ひとつの山っていうことですけども、どんな取り組みなんですか?
「一社一山は、企業のみなさんに森に関わってほしいっていう思いがあります。というのも昔、山は地元の名手とかお金を持っているかたが、きちんとその地域のために森が大事だということで、森を持ってお手入れをしてくださっていたんですけど、そういうかたがたもどんどんいなくなってしまったんですね。
今お金があるのはどこかなって考えると、やっぱり企業さんなんですよね。企業さんが森の恵みを受けて、水であるとか空気であるとか、いろんな木材にしても、森の恵みの資源を受けてお仕事されているので、そういうかたに森に少し恩返ししてほしいという意味で、企業のみなさんに、例えば企業の森ということで、〇〇会社の森とか、あとは社有林を持っていただくとか・・・。
あとは企業のみなさんが研修とかセミナーを森の中でやると、すごくリフレッシュもするし、チーム・ビルディングにも役だったりするんですね。企業のみなさんに森を人材育成などにも活用してもらうというような形で、企業と森との関わり合いはいろんな形でできるようになってきていますので、企業のみなさんにいろんな形で森に関わってもらう、自分ごととして森のことを考えていただく運動の名前ですね」

森への思いが抑えきれなくて
※先ほどもお話がありましたが、「ウッド・チェンジ」という活動にも取り組んでいらっしゃいます。これはどんな活動なのか、もう少し詳しく教えていただけますか?
「私がもともと農林水産省の林野庁で、木材担当をしていた時に立ち上げた運動なんですけど、木材のいちばんの利用先って建物なんですよね。それが鉄やコンクリート作りになってしまったもんですから、それを木材に替えようと、鉄やコンクリートから木に替える、それを『ウッド・チェンジ』っていうことで、国民運動として展開しようっていうことをやっています。
これは今でも林野庁として、森の国を作ろうっていうことで運動が続いているんですけど、実際に現場で、具体的に建物の建て方に木を使うとか、なるべく内装に木を使っていくとか、家具を日本の木にするとか、そういうことを企業さんと一緒に、また生活者のみなさんと一緒に取り組むというそんな活動ですね」
●今もお話ありましたけれども、長野さんは農林水産省にお勤めだったんですよね?
「ですね。28年やっていました」
●なぜ官僚をやめてベンチャー企業「モリアゲ」を立ち上げることにしたんですか?
「農林水産省の中ではいろんな部署を、例えば2年とかで移動する、そういう立場だったんです。その中でたまたま2018年に森の担当の木材利用課長になったんですね。それでウッドチェンジを立ち上げたりしたんですけども、そこでめっちゃくちゃ森にハマっちゃいましてですね。
当時40代後半だったんですけど、森っていいなとか、森を大事にしないと農林水産省全体の、例えば1次産業の農業でも水産業でも、豊かな水があるのは森のお陰げだったり、水産資源もね。
『森は海の恋人』なんて言って、豊かな森があれば海も大丈夫っていうようなことも言われているので、森がいちばんしっかりしないといけないのに、これからもずっと森で働きたいなって思っていた矢先に、また恒例の人事異動があって、森とは全然関係のない部署に行って・・・それもそれですごく大事な仕事ではあったんですけど、森への思いが抑えきれなくなってやめました(苦笑)」
●官僚を辞めるって、かなり重い決断だったんじゃないですか?
「いや、みんなにそう言われたりするんですけど、確かにね。28年もすごくお世話になったし、とても勉強にもなったので、楽しい場所で働かせていただいたんですけど、どうにも森へ行きたいっていう気持ちが抑えられなくなって(笑)、そういう、まあわがままですね。50歳の時に、年齢とか言っちゃうんですけど、やろうということで、遅咲きでやってみました」
国産材が使われない理由
※日本は国土の約7割が森林なのに、国産材があまり使われない現状があると思います。改めてその原因を教えてください。
「木を使うこと自体がなくなってしまって、森から木を出して使えることをみんな忘れちゃったっていうね。
そもそも森とか木への無関心がすごくあると思いますし、林業の現場だと林業をやったりする人たちが高齢化しています。なかなか木材の採算があわなくて儲からないんで、もう林業をやめちゃいます。製材所も儲かんないからやめちゃいます。
そうすると国産材のサプライチェーンがうまくつながりません。輸入材はあんなに遠くから持ってくるけど、ちゃんと安定供給できるのに、国産材はなかなか安定供給できないというのがあって使われてないのかなと・・・。
ひとつだけの理由じゃないんですけど、みんながもっと国産材を、森のために使おうって気持ちが高まらないといけないのかなと思っています」
●木材の地産地消って、なかなか難しいんですか?
「そうですね。(日本の面積の)7割が森なので、自分が飲んでいる水が来る流域の上流には森があるんですよね。なので、そこの木を地産地消で使いたいと思ったとしても、木を伐ってくれる木こりさんが元気かとか、その木を伐ったあと丸太にして、丸太のままでは使えないので、板とか柱に製材してくれる人たちがちゃんといるかっていうのがあるんですね。
今、小さい製材所はどんどんなくなっていて、山から(木を)出してくる人もいない、それを加工する人もいないっていうのがあるので、林業自体は別ですけれども、場所によっては難しいっていうのがあるのかなと思っています。
人工林っていう人の手で植えられた森が4割あるんですよね。せっかく先人が私たちに使って欲しいと思って植えてくださったので、きちんとそれを使って、そして次の世代にどういう森を残していくかを考えていくのが、今すごく大事な時かなと思っています」
●植林されたスギやヒノキは、今が伐り時だと聞いたことがあります。そうなんですか?
「50年くらい経つと、場所によりますよ、育ち方にもよりますけど、一般的に50年くらい経つと丸太のサイズが、柱が取れるぐらいになるので、使い時、伐り時ですよ~なんていうふうになりますけど・・・場所によります。
50年以上経った森が、今日本の森林面積の6割以上なんですよね。そうすると、だいたい過半は50年以上は経っているんですね。
(木を)伐ってちゃん使う当てがあれば、使う当てがなければ、伐るのはよくないと思いますけど、使えるのであれば、伐ったらいいなと思います。
(木材の)自給率は4割なので、6割は今でも海外の森のお世話になっているわけですね。せっかく先人の森が育って伐り時を迎えているんだったら、それを使ってあげたほうがいいなと思っています」

(編集部注:モリアゲの一社一山運動として、長野県木島平村のカヤの平高原で2023年からブナの植林活動を行なっています。活動場所は、もともとブナ林だった所で、牛を飼うために伐採し、牧草地となっていた跡地。10年ほど前にNPO「森のライフスタイル研究所」がブナの植林を始め、その活動をモリアゲが引き継いだ形だそうです。
モリアゲは、木島平村と「森林(もり)の里親」協定を結び、応援してくださるかたたちと秘密結社「モリアゲ団」を立ち上げ、年に2回、夏と秋に植林。長野県林業総合センターのブナ博士、小山泰弘先生の指導のもと、ブナの実から芽を出した、ブナの赤ちゃんを植えているそうです。モリアゲ団では、Tシャツなどのグッズを作り、その売り上げの一部を活動資金に充てているそうです)
森をつないで、次の世代に
※カヤの平高原で行なっているブナの植林活動には、もちろん長野さんも参加されているんですよね。木を植えているときって、どんな気持ちなんですか?
「カヤの平に行って、大きい空の下でブナの赤ちゃんを探して、みんなでいい汗を流して・・・すごくリフレッシュするしね。
今は私たちが植え替えているので、人の手で植えられた森なんですけど、そのブナたちがまた大きくなって、いくつかは育ってタネを出して、天然の更新っていうんですか。小山先生曰く“ブナの森に戻る”、本当の天然林に、自然の力だけでブナの原生林に戻るのは、あと300年くらいかかるって言われているんですね。
私たちは12年間やったんで、あと288年って言っているんですけど、すごく気の長~い話なんですよ。なんですけど、そういう時間の流れの中で私たちは生かされていて、時間の流れの中に身を置いているなっていう気持ちに行くたびになりますね。
毎年、去年植えたブナたちが雪に埋もれながらも頑張って生きていたりすると、あ~そういう時間の流れに乗ったかな、乗らなかったかな、なんてことを考えたりしますね。
町だといろんなこと考えますよね。私は今もう上司はいないけど、会社の人だったら、何とか計画が~とか、これは儲かるのか~とか考えますけど、そういうこと抜きに純粋な気持ちでというか、森と共にあるなっていう気持ちでやっていますね」
●確かに木を育てて森を再生する活動って、本当に成果が出るまでにすごく時間がかかりますよね。
「そうなんですよ。だから自分がその最終形は見られない、そもそも見られないんですよね。現代の人たちからすると、なかなか理解しがたいというか、それは明日どうなるんだ~みたいなタイム・スケジュールで考えていると、なかなか理解できないことではあるんですけどね。
我々の先祖たちは、そうやって森をつないできてくれて、自分がその木を使えるわけじゃないけど、孫のために植えて時間をつないでくれているんですね。そういうことを私たちの世代で諦めちゃいけないな~っていうのを、勝手な使命感として思っているんですね。本当に長い時間がかかるけど、その長い時間が切れないように、微力ながらつなぎたいなと思っています」

目標は人口の7割を、森を想う人に
※森は、私たちが生きていくために必要な「水」や「酸素」を供給。また、温暖化の原因となっている二酸化炭素の吸収のほか、いろんな生き物を育んでくれています。そんな大切な森が荒れている現状を踏まえ、健康的な森を取り戻すためには、どんなことが必要でしょうか?
「難しいことじゃなくて、やっぱりその森のことを思うのがまず大事で、現状を知ることが大事だと思います。そういう危機的な状況にあるってことも、都会に暮らしていると知らないと思うんですよね。
だからそういうことを知ってもらって、そこから何ができるかを少し考えて、例えばその地域の木の製品を生活に取り入れてみるとか、お家を建てることがあれば、国産の木を選んでいただくとか、そういうこともできると思います。
あとはやっぱり森に行ってもらって、もちろん自分がリフレッシュするために行っていただいていいんですけど、その森がある山村地域には日本全体の人口の、今だと多分2.5%ぐらいしか住んでないんですよね。その人たちだけで森を守っていくのはどだい無理なので、そこにどうやって町のかたとか、森の恩恵を受ける企業のかたが関わっていけるかっていうことを、少しでも考えていただいて・・・。
例えば、ふるさと納税でお金を出すってことでもいいですし、本当は森に行ってもらって森林浴をしていただいて、その地域にお金を落としていただくとか。森の整備の手が足りていないところであれば、森林ボランティアっていう形で、町や村、地域の森の人たちを少し助けていただくとか、いろんなやり方があると思うんですよね。そういうことを知っていただいて、考えて行動に移していただく、そのステップをみんなにやってもらいたいな~と思っています」
●今後、モリアゲとして、森林業コンサルタントとして、どんなことにいちばん力を入れていきたいですか?
「モリアゲの目標、勝手な目標は日本の森の面積が7割なので、それと同じだけ、人口の7割は森を思ってほしいっていうことを目標にしています。まず知るっていうことが大事だし、興味を持ってもらうことが大事なので、森のことをひとりでも多くのかたに、ちょっと関心を持ってもらえるような活動をしたいなと思っていますね」
●最後に100年後の日本の森はどうあってほしいですか?
「100年後って、もうすぐなんです! 森の時間からするとね(笑)。だから100年後の森を作るには、今どういう森にするかを考えるのがすごく大事ですね。100年後、自分の孫とかにどんな森を見せたいかっていうことを、地域の人が考えてプレゼントとして残してもらいたいなと思っています。
そして、森林面積は変わらないで、森の国であり続けてほしいと思います。地域地域によっていろんな森があると思うので、そういう地域のいろんな森が豊かになっている・・・そしてみんながもっと森と仲よく暮らして、森とのつながりをもう一度取り戻したら、たぶん動物ともうまく住み分けられると思うし、人間が森を放棄してから、どんどんクマとかが出てきちゃうっていうことがあると思うんですよね。
もう一度、森との暮らし方を、現在のライフ・スタイルにどうやって森を取り入れていくかを、100年後に向けて今やっていって、“森があってよかったよね”と、“日本はやっぱり森の国で7割は森だよね”と、“経済も豊かだけど、森も豊かだね”っていう国のままでいてほしいと思います」
INFORMATION
モリアゲでは「一社一山」運動や「ウッド・チェンジ」プロジェクトのほか、各地の森の課題解決のお手伝いもしていて、お困りごとがあったら、ぜひご相談くださいとのことです。
また、秘密結社モリアゲ団のグッズを販売するオンラインショップも運営。サイトには可愛いTシャツがたくさんアップされていますよ。売り上げの一部はブナの植林活動に生かされます。ぜひご支援ください。
長野さんは森林業コンサルタントとして、日本全国を飛び回って、講演活動もされています。長野さんのお話を聞きたいというかた、ぜひご参加ください。いずれも詳しくは、モリアゲのオフィシャルサイトをご覧ください。
◎モリアゲ:https://mori-age.jp






