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「馬が合う」馬たちは、古くから私たちの相棒 〜馬のコミュニケーション能力と特性に迫る!

2026/1/11 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、馬のコミュニケーション能力に注目し、研究をされている北海道大学大学院・文学研究院・准教授の「瀧本彩加(たきもと・あやか)」さんです。

 瀧本さんは1984年、和歌山生まれ。京都大学大学院・修了。2015年から同大学院の准教授として活躍されています。

 ご専門は動物心理学、比較認知科学。これまでの研究から人以外の動物にも心があるとされていて、瀧本さんは特に馬のコミュニケーション能力を研究されています。そして先頃、新しい本『馬のこころ〜人の相棒になれた理由(わけ)』を出されました。

『馬のこころ〜人の相棒になれた理由(わけ)』

 ところで、なぜ馬を研究対象にしたのか、実は瀧本さんは京都大学時代は馬術部に所属。入部のきっかけは、入学前に先輩に誘われ、部活を見学。馬の説明をする先輩がまぶしく、また乗馬体験を通して、馬に魅力を感じて入部。

 大学時代は朝6時に集合し、餌やり、掃除、馬術を学ぶ日々。当時の馬術部には17頭の馬がいて部員の数よりも多く、ひとり2頭担当することもあったそうです。

 馬は体が大きいのでたくさん食べるため、年間の餌代が高級車を買えるほどの金額になるとかで、餌代を捻出するために、馬術部員が競馬場などでバイトしていたそうですよ。

 瀧本さん曰く、自分の部屋の掃除より、馬の部屋の掃除。自分の洋服より、馬に着せる布製の上着(馬着)などを買うことを優先。馬にすべてをかけていた大学時代だったそうです。

写真協力:瀧本彩加

 きょうはそんな瀧本さんに、馬どうしはもちろん、人とも絆を築ける馬の驚くべき能力や特性についてうかがいます。

☆写真協力:瀧本彩加

阿吽の呼吸、馬は相棒

※まずは、馬術部での経験が、滝本さんにもたらしたものは、何かお聞きしました。

「ペットも何も飼ったことがなかった私に、人以外の動物がこんなにも豊かな心を持っているっていう可能性を示してくれたのが、馬なんですね。

 馬が何を考えているのか、どうしたら調教中に指示がスムーズに伝わったり、馬に気持ちよく運動してもらえたりするのかを日々馬と向き合う中で考えていて、馬の心をもっとよく知りたい、動物の心理ってどんなものがあるんだろう? って、動物心理学に興味を持つ大きなきっかけを与えてくれたと思います」

(編集部注:人は古くから馬の力を借りてきた、そんな歴史がありますよね。人や荷物を運んだり、軍馬だったり、農作業などの労働力としても、私たちの生活を支えてくれていました)

写真協力:瀧本彩加

※馬が人にとって有益な存在になったのは、どうしてなんですか?

「これはちょっと話が長くなるんですけど、まず馬のもともと持っている習性が家畜化されるのに適していたということが前提としてあります。

餌の調達がしやすいとか繁殖させやすい、気性が荒くない、縄張りを持たずに順位のある群れを形成するので、馬が人も群れの一員、しかも馬にとって人は、馬よりも順位が高いものというふうに理解をすると、人の指示に従ってくれやすい、扱いやすいというようなことがあったと思うんですよね。

 それから馬が草食動物で襲われる側の動物だったので、臆病で周りをよく見聞きして、周りの環境にすごく敏感であったことも大事だったんじゃないかと思っています。そうした特性が、人が示す様々な合図だったり、仕草だったり、表情だったり、声色だったりというシグナルへの感受性を高めたんじゃないかなと思っています。

 そうしたシグナルの意味合いを学習する力が、馬はすごく高くて、その理解に基づいて自分の行動を調整する力に長けていて、どうすればスムーズに人とやり取りすることができるか、そのコツやルールを見い出して、それを実行したり記憶する力も備えていたからではないかと思っています。

 そうして(馬は)阿吽の呼吸で人の思いを汲み取って、相棒として人を支え、人に頼られる存在になってきたのではないかなと思っています」

写真協力:瀧本彩加

馬と人は「馬が合う」!?

※「馬が合う」という表現があります。馬と人は古くから「馬が合う」関係だったんですか?

「これは私の憶測になってしまうんですけど、最初は人が馬をよく見て、人のほうが馬に合わせて、人が馬にとってのリーダーになると馬は納得して、そのリーダーに従うっていう関係性を構築していく側面が強くあったと思うのですね。

 そのうちにいい関係性、馬が納得して人に従うことができるようになってくれば、馬のほうも人に合わせて、互いに歩み寄って『馬が合う』環境を作ってこられたんじゃないかなというふうに思っています」

●馬が人に合わせてくれていたんですね。馬は「人を見る」ということも聞いたことがあります。その人が馬を好きか、怖がっているかって、馬はわかるんですか?

「そうですね。わかると思います。馬の視力は、人の視力検査の0.8と言われています。猫や犬だと0.2とか0.3だと言われているので、猫や犬に比べると随分視力がいいんですよね。そして(馬は)目で見て些細な変化も見逃さない・・・。

 私たちの研究からも馬が人の表情や声色に敏感で、表情から声色を連想しつつ、人の感情を読み取っていることがわかってきています。馬はその人が馬を好きなのか怖がっているかというのは、馬を前にした人の緊張が、表情や姿勢のリラックス度合い、こわばり度合いから推察できると思います」

馬の目と口、耳を見よ!

※馬がいまどんな状態なのか、リラックスしているのか、怒っているのか、どこを見ればわかりますか?

「リラックスは目と口、怒りは耳を見るとわかりやすいかなと思います。リラックスしている時は、目がとろ~んとちょっと眠そうに見えたり、あと口の周りの筋肉も緩んで力が入っていない感じで、年を取った馬だと下唇がビローンとたるんで見えたりもします(笑)。

 マッサージしてもらって、“気持ちがいい~”っていうリラックスの感じだと、馬の鼻の下の、上唇のあたりがちょっと伸びた感じで、すごく気持ち良さそう~な顔をしていたりします(笑)。

 一方、怒っている時は、両耳が揃って後ろに深く伏せられて、時には歯を剥き出しにして威嚇してくるようなことがあるので、耳を後ろに伏せだしたら、ちょっと怒っているかもしれないということで、馬から距離を置いた方が安全ですね」

●馬の鳴き声にも意味はあるんですよね?

「そうですね。馬の鳴き声として、みなさんが一般にイメージするのは、“ヒヒーン”という嘶きだと思うんですけど、この嘶きには馬の感情が現れることがわかっています。
 例えば、馬は群れで生活する動物なので、ほかの仲間と引き離されると、ちょっと悲しい不安な状態になるんですね。そういう時は高くて長い嘶きを発すると言われていて、例えばこんな感じです。“ヒ~ヒヒヒヒヒヒ~ン”みたいな・・・」

●へえ~〜っ!

「で、逆に仲間と再会できて、ほっとした時には、短く低い嘶きを発することがわかっていて、こんな感じです。“ヒヒヒヒヒヒン”みたいな・・・(笑)」

●へえ~、面白い! 同じ“ヒヒーン”でも全然違うんですね?

「そうですね」

写真協力:瀧本彩加

喧嘩の仲裁をする馬!?

※馬は群れで暮らす動物ですから、「馬が合う」のは、馬どうしでもありますよね?

「そうですね。馬は『相互毛繕い』と言って、お互いに迎え合わせになって、首のあたりとかお尻のあたりを甘噛みして毛繕いをするんですね。

 この毛繕いは、自分では首を伸ばして口でかけないところ、見えないところを相手の馬にかいてもらうことになるので、相手を信頼していないと毛繕い相手としては認めないというか、誰とでも毛繕いができるわけではなくて、30頭ぐらいで暮らしていても、毛繕い相手は5、6頭だけみたいな、選りすぐりの相手がいるんですよね。

 私が観察してきた中では、10年ほど同じ毛繕い相手とずっと毛繕いしているペアがいたりするので、特定のお気に入りのお友達がいるというような感じです。

 あとは血縁度が高い、つまり血のつながりが強くあるほど、あとは群れの中の順位が似ているほど・・・私たちの研究では、年齢が近い子供だと誕生日が近いほど仲良くなりやすいってデータも出てきています」

●面白いデータですね。喧嘩する馬たちがいると、仲裁する馬も出てくるんですか?

「はい、それは私の静内(しずない)の研究牧場で観察したエピソードにはなってしまうんですけど、そういうこともあります。

 どういうことかと言うと、若いメス同士が蹴り合って悲鳴をあげながら大喧嘩をしていたんですね。そこに群れのナンバー2の長老メスが駆け寄っていって、“もういい加減、喧嘩をやめなさい!”とでも言うかのように、若いメスの片方のお尻をガブっと噛んで喧嘩を一旦やめさせました(笑)。

 それだけでは終わらなくて、まだ2頭が近くにいて、また喧嘩を再開させるような素振りがあったので、ほかのメスがやってきて、2頭のお尻をそれぞれ押して、馬と馬の距離を開けて、その仲裁に入ってきた馬の、仲のいいほうの若いメスを囲うようにして距離を開けさせるっていう、なんか連携して仲裁するみたいなことも見られたりしました(笑)」

写真協力:瀧本彩加

馬も嫉妬する!?

※人は、好きな異性がほかの人と一緒にいたりすると、嫉妬したりしますが、馬でもありますか?

「異性間の嫉妬もあるかもしれないんですけど、私はまだ見たことがないし、論文にもなってはいないんですよね。ただ論文で報告があるのはメスの同性間の嫉妬で、自分と仲のいい馬がほかの馬と毛繕いをして、仲良くしたりしているのを見ると、それを邪魔してやめさせるようなことがあります」

●馬の、人を巡る嫉妬っていうのもあるんですか?

「これは私が実験しようとして失敗してしまったものですが、実験の手続きを工夫すれば、うまく取り出せるんじゃないかなとは思っています。

 エピソードとしては、私が馬術部だった時に担当していた馬の一頭がものすごく美形で、女子にすごく人気があったんですよね。

 すごくチヤホヤされていてプリンスのように扱われてきていたので、担当者の私が(馬の)手入れをする時に何頭か隣に並ばせているんですけど、ほかの馬を可愛がったりしていると、自分のところに戻ってこいっていうことで、前足を掻き鳴らして、“早く戻って来い!”という要求行動というか、そういうことがあって、戻るとその要求行動はやむので、戻ってきて欲しかったのかなって思ったりしたことはあります」

写真協力:瀧本彩加

(編集部注:ここでちょっと「馬のミニ知識」。瀧本さんによると、野生の馬は世界中、どこにもいないとのこと。野生のように暮らしている馬はいますが、もともとは家畜化した馬。それが逃げ出したりしたもので、「再野生化した馬」と呼ぶそうです。

 日本の、再野生化した馬の代表が、宮崎県串間市(くしまし)の都井岬(といみさき)に生息する「御崎馬(みさきうま)」。そして日本の在来種は8品種で、全部で約1600頭。中でも北海道和種馬(わしゅば)「どさんこ」が1000頭以上いるとのこと。

 日本で飼育されている馬のうち、サラブレッドを含む、競走馬がおよそ7割で、サラブレッドの生産は98%が北海道で行なわれているそうです)

競走馬の「リ・トレーニング」

※乗馬クラブで飼育されている馬たちは、もともとは競走馬だったんですよね?

「日本の場合は、そうですね。乗馬クラブや大学馬術部に、もともと競争馬だったサラブレッドが多くいます。

 馬の寿命はだいたい25歳程度、長生きする馬は30歳とか35歳を超えることもあるんですけど、競争馬の引退は3歳から5歳がほとんどで、人の年齢に例えると15歳から21歳くらいで引退するということになります。

 つまり、その後の余生のほうが競争馬としての現役の時代よりも長くて、引退後のセカンド・キャリアをどう過ごせるかというのが大切になってきます」

●でも、そもそもその競争馬たちは速く走ることに特化していたわけですよね。いわゆるアスリートだと思うんですけれども、それを乗馬クラブ用の馬にするには、何か特別なトレーニングとかされるんですか?

「そうですね。もともとは競争馬として速く走って、ほかの馬と競って勝つ! というための調教をされていたんですけど、これをリセットして、大人しく従順に、ほかの馬を気にすることなく、乗っている人の指示に集中して運動することができるように、再調教『リ・トレーニング』をします。

 そのリ・トレーニングの中では、慌てずにゆっくり歩くこととか、しっかり止まることも教えられて、プロだけではなくて子供など初級者が乗った時に、馬が乗った人の先生になって振る舞えるように、指示が違うと動かず、言うことを聞かないで、“正しい扶助はそれじゃないよ、こうするんだよ!”って、騎乗者に教えられるくらいに調教が徐々に進められていくという感じになります」

●トレーニングで従順な馬になるんですね?

「そうですね。その過程で馬が“この人と一緒にいると安心できる”とか、“この人の言うことだったら聞きたい”って思えるような関係性を築きながら、調教することも大事なのかなとは思うんですね。

 従順に従うような馬に(していく)、競争馬時代もプロの言うことは聞いていたと思うんですけど、乗馬になると、より乗る人が多様になるので、その人に合わせて下手な人の指示にでも従えるように基礎を叩き込まれるというか、そんな感じですかね」

写真協力:瀧本彩加

温かくて大きな存在に安心感

※ホースセラピーを体験できる乗馬クラブも多くありますが、馬と接すると癒されるのは、どうしてなんでしょうね?

「これは私が思うには・・・馬は触れるとほんのり温かいんですよね。それもそのはずで、人よりも体温が1度高いんですよね。平熱が37度で38度を超えると熱があるっていう感じなんですね。

 そして(馬の)目を見ると、つぶらな大きな瞳が優しくこちらを見つめてきてくれると、温かくて大きな存在に受け入れられると特別に安心感があるっていうか・・・赤ちゃんがお母さんに抱っこされると安心するみたいな・・・そういうところがあるんじゃないかなと思って、そういう安心感が得られることが、癒されるということの正体ではないかな~と思っています。

 あとは、この人は安全で大丈夫な人だ!と馬が思うと、馬のほうから、あの大きな体で人に甘えてきたりするので、そういう可愛らしさもあるかなと思います」

●馬のどんなところにいちばん魅力を感じていますか?

「それは・・・大きくてかっこいい見た目なんだけれども、実は繊細で優しい一面もあるというギャップ! 怒ることもあるけど、懐いて甘えてきたり頼ってきたりして、母性本能をくすぐられるというか(笑)、そういうところがあるからというふうに思っています」

●馬の研究者として今後、解き明かしたいことがあればぜひ教えてください。

「まだちょっと具体的には考えきれてはいないんですけれども、馬の福祉向上というのを目指して、人馬における望ましい関係性、つまり互いに一緒にいると居心地がいいと思えるような関係性を築いて、それを維持するために人ができることは何だろうということを明らかにしていきたいと考えています」

写真協力:瀧本彩加

(編集部注:瀧本さんは、北海道大学の静内研究牧場で「どさんこ」の子育てを10年以上観察しているそうです。基本はお母さん一頭で育てるそうですが、ほかの個体が手伝ったりすることもあるので、その違いがどうして起こるのか、その性質を研究しているとおっしゃっていました)


INFORMATION

『馬のこころ〜人の相棒になれた理由(わけ)』

『馬のこころ〜人の相棒になれた理由(わけ)』

 瀧本さんのお話を聞いて、もっと馬のことを知りたいと思ったかたは、新しい本をぜひ読んでください。特に馬が持つコミュニケーション能力と、その最新の研究結果は必読です。「馬の心」に迫った、とても示唆に富んだ一冊です。

 岩波書店の岩波科学ライブラリー・シリーズの一冊として絶賛発売中! 詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎岩波書店:https://www.iwanami.co.jp/book/b10151778.html

 瀧本さんの研究室のサイトもぜひ見てください。

◎瀧本彩加研究室:https://www.let.hokudai.ac.jp/staff/takimoto-ayaka

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