2024/3/3 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、麻布大学・獣医学部の教授「塚田英晴(つかだ・ひではる)」さんです。
塚田さんは1968年、岐阜県生まれ。愛知に住んでいた頃に、大学にいったら、野生動物の研究をしたいと思い、大自然なら北海道! という理由で、北海道大学に進学。まずはクマの研究をするサークルに入り、痕跡を探すフィールドワークの面白さに目覚め、その後、長年キツネの研究を行なっている研究室に所属。
そしてキツネの調査に出掛けるということで、先生に連れて行ってもらったフィールドがなんと! 町中だったそうです。そこで、町中であっても公園や樹林帯など、ちょっとしたすき間を見つけて、上手に暮らしている「都市ギツネ」の存在を知り、俄然興味がわき、キツネの研究をすることになったそうです。
北海道大大学大学院時代は、キタキツネと人間社会の関わりなどを研究。キツネの研究は30年以上、博士号はキツネの研究で取得。まさに「キツネ博士」でいらっしゃいます。専門は野生動物学、動物行動学など。そして先頃、『野生動物学者が教える キツネのせかい』という本を出されました。
きょうはそんな塚田さんに、賢いとされるキツネの、あまり知られていない生態や鳴き声、そして優れた能力についてうかがいます。
☆写真協力:塚田英晴
キツネは賢い動物!?
※以前、河川敷に暮らすホンドキツネの写真絵本を出された写真家「渡邉智之(わたなべ・ともゆき)」さんにお話をうかがったことがあって、キツネは私たちが生活しているすぐ近くで暮らしていると、教えていただいたことがありました。
でも、意外と見たことがある人は少ないように思うんですけど、どうしてなんでしょうね?
「基本的には、私たちは昼間に活動しますよね。夜も暗闇の中で活動したりすることもありますけども、基本的にキツネは昼間には出てこなくて、夜になってから活動するので、彼らと出会う機会がなかなかないってことが、ひとつあると思いますね。
あと、キツネは群れてなくて、ほぼ単独で生活しているんですね。一頭で歩き回っているっていうような感じなので、見かけることがあっても一頭しかいなくて、私たちを見ると、さっと逃げたりとか隠れたりすると、意外に気づかないっていうことがあるんじゃないかなっていうふうに思いますね」
●キツネは、昔話や童話に出てきて、人を化かしたり、稲荷神社では神様の遣いだったりとか、ほかにもずる賢いなんていうイメージもありますけど、実際のキツネはどういう動物なんでしょうか?
「基本的に肉食性で、獲物を捕らえて食べることがとても好きな動物なので、獲物を捕まえるためには彼らの裏をかいて、ある意味、騙し打ちをしたりとかしないと捕まえられないっていうところがあると思うんですね。なので例えば、死んだふりをして油断させて、ぱっと飛びついたりとか、そんなところが知恵を感じさせるのかなって思いますね。
あとはハンターに追われたりすると、足跡を犬が追ってきますよね。キツネは追われていることを察して、自分の足跡を追う追手をうまくまくために、『止め足』っていうテクニックを使うんですね。普通に進んでいるように見せるんですけども、ある時、少し離れたところにジャンプして、足跡がついてないように見せかけて、どこに行ったんだろうってわからなくさせる、そんなことをするんですね」
(編集部注:キツネは分類でいうと「イヌ科」に属し、日本に生息しているのは、北海道にいるキタキツネと、本州より南にいるホンドギツネ、そしてギンギツネと呼ばれる、毛色が違うキツネがいるそうですが、種でいうと、いずれもアカギツネだそうです。
ちなみに世界には12種のキツネがいるとされていて、ほぼ全世界に分布しているとのこと。好んで暮らしているフィールドは、開けた環境で草原があって林があるような、いわゆる里山。おもな獲物はネズミや小鳥などの小動物、ほかにもバッタなどの昆虫、ヤマブドウやサルナシなどの果実も食べるそうですよ)
優れた聴覚で獲物をゲット!?
※初歩的な質問なんですけど、キツネの大きさや体重は、どれくらいなんですか?
「鼻先から尻尾の先まで含めるとだいたい1メートルぐらいですね。尻尾だけで30センチ強といったところですかね」
●体重は?
「4〜5キロなんですよ」
●意外と軽いんですね。
「そうですね。ちょっと重めの猫とか、小型の犬ぐらいの大きさですね」
●やっぱり見た目の特徴でいうと、長い尻尾だと思うんですけれども、この長い尻尾には、なにか役割はあるんですか?
「はい、キツネはネズミを捉える時にジャンプをして捕まえたりするんですけど、空中での姿勢をうまく保つためにバランスを取ったりするのに、長い尻尾は役に立っていると考えられています」
●確かに地面とか草むらに顔から突っ込むような動画を見たことあるんですけど、キツネはどうやって、そこに獲物がいるのを察知するんですか?
「ネズミの場合ですと、キツネが好きなネズミは草と土の間にトンネルを掘って生活しているんですね。なので、動き回ったりするとカサカサっていうような、体が草とこすり合うような音がするんですけども、その音をかなり感度の高い耳でキャッチして、どこにいるのかを正確に突き止めるんです。
あと音も、左右の耳の聴こえ具合で、音が遠くからやってくるとか、右からやってくるとか左からやってくるとかだいたいわかります。それをすごく感度を高くやることができて、数メートル先にいるネズミの位置をピンポイントで捉えて、ジャンプをして、2.5メートル先で5センチぐらい誤差で捕らえることができます」
●すごいですね! 確かにキツネの耳は大きいですよね。聴覚が優れているっていうことなんですね。
「そうですね。人間だとだいたい、高い音だと2万ヘルツぐらいまでしか聴こえないんですけど、キツネの場合は4万8千ヘルツぐらいまで聴こえるので、およそ2倍ぐらい高い音が聴こえますね」
(編集部注:塚田さんによれば、キツネの視覚は人間と比べると、青色がよく見えていないなど、色の感度はあまりよくないそうですが、暗闇でもよく見え、獲物の動きを探知できるようになっているとのこと。また、嗅覚は優れていて、私たちとは違う匂いの世界を持っているそうです)
キツネの子育て、オスは子煩悩!?
※キツネは基本的に夜行性ということですが、オスもメスも単独で行動しているんですよね?
「基本的には一頭で動き回るっていう感じなんですね。ただ交尾の時期、1月から2月にかけて繁殖をする、交流する時期なんですけども、その時はオスとメスが連れ立って歩く、2頭でよく一緒に歩いているのを見かけますね」
●発情期、いわゆる「恋の季節」は1年に1回なんですね?
「はい、1回ですね」
●縄張りみたいなものはあるんですよね?
「はい、動き回る範囲が決まっていて、その範囲を特定のファミリー、オスとメス、あと子供で一緒に暮らしていて、隣のファミリーとはあんまり交わらないような形で暮らしています。そういう意味でテリトリーなんですけども、だいたい広さは数ヘクタールから数千ヘクタールぐらいまでと結構幅があるんです」
●かなり広いところもあるんですね。
「そうですね」
●出産はいつ頃なんですか?
「出産はだいたい3月から4月にかけてですかね」
●一回の出産で、どれぐらいの子供を産むんですか?
「3頭から5頭、まあ4〜5頭そんなところですかね。哺乳類では本当にメスだけが子育てをすることも多いんですけれども、イヌ科の仲間はオスもかなり子育てに参加する特徴があって、キツネも例外ではでなくて、オスは非常に子煩悩ですね」
●子ギツネはどれぐらいの間、親ギツネと一緒に暮らすんですか?
「同じ行動圏の中に暮らしているのが6ヶ月ぐらいですかね。4月に生まれて10月ぐらいになると旅立っていくっていうような感じになります」
●先ほどおっしゃっていた縄張りを出なきゃいけないってことですか?
「そうですね」
●(子ギツネが)出ちゃったら、そのオスとメス、お父さんとお母さんだけが残るっていう感じですか?
「そうですね。基本的にはオスとメスが残るんです。中にはおもにメスなんですけども、娘が行った先からまた戻ってきたりとか、そのまま残ったりとかっていうこともあって、そうすると拡大家族みたいになったりしますね」
(編集部注:塚田さんによると、キツネの寿命は、生まれて最初の冬を乗り越えると、6年から7年くらい。特殊な例として、キタキツネで14年、生きた個体もいたそうです)
子ギツネが、鳴き真似にだまされた!?
※キツネは鳴き声をよく出す動物だと本に書いてありました。どんな声を出すんですか?
「よく”コンコン”って言いますね」
●はい、そのイメージがあります。
「あれは、発情期の声なんですね! (鳴き真似)こんな声です」
●へ~〜、ではコンコンとは鳴かないってことですか?
「そうですね。普段は・・・いろいろな声があるんですけども、例えば(ほかの個体に)近づいて甘えたりすると、”ミーミーミー”っていうような声を出します。あとは警戒をしている時、敵が来たぞっていう時は、”フォンフォンフォン(鳴き真似)“と鳴きますね」
●“コンコン”のイメージしかなかったです。いろいろあるんですね。
「はい、この”フォンフォンフォン“は、要するに”ワンワン”にちょっと似ている感じの声ですかね」
●ほかに特徴的な鳴き声はありますか?
「そうですね・・・親が例えば、獲物を巣穴に持ち帰った時、巣穴に隠れている子ギツネを呼び出す時に特徴的な声を出すんですね。喉の奥から”グググググッ”というようなちょっと低い声を出すんですけども、実はその鳴き真似、私、得意です(笑)」
●本にも載っていましたよね!
「そうなんですよ。その鳴き真似をすると、子ギツネが間違えて、ちゃんと巣穴から飛び出してくるんです」
●塚田さんの鳴き声を親ギツネの鳴き声だと思って、子ギツネが出てきたんですね! すご〜い! ちょっと聴かせてください。
「はい、やってみますね。(鳴き真似)こんな声です」
●すごい!
「今すごく喉の奥のほうから出した声なんですけど、これは口に何かをくわえている状態でも出せるんですよ。(鳴き真似)口の先のほうじゃなくて喉の奥のほうで出すので、多分獲物をくわえて帰ってきて、その獲物をくわえている状態でも出せる声なんだと思うんですね。喉の奥のほうから出す“ググっ”という声なんですけども、子ギツネたちがそれを聴くと、(親ギツネが)獲物を持って帰ってきたっていうような感じになるんですかね。それで一斉に巣穴から出てきますよ」
※塚田さんは、どんな方法で野生のキツネの調査をされているんですか?
「昔と今ではだいぶ違うんですけど、昔はどちらかというと、キツネの社会がどんなふうになっているかを調べていたので、キツネの巣穴の前でずっと待っていて、キツネが現れたら、そのあとを追いかけるというような、ちょっと効率の悪いやり方をしていました」
●キツネから警戒されたりとかはしないんですか?
「警戒されますよ。だから、すぐにまかれてしまいます」
●頭がいいんですよね!
「そうなんですよ。だから、まかれないようにずっとずっと根気強くやっていると、(キツネのほうが)またここに来たか! みたいな感じで、それであとをついていけるようになるんです」
●観察中にキツネが見せた行動で、何か印象に残っていることはありますか?
「ずっとつけ回していて、すぐにまかれてしまうんですけども、ある日、私があとをついていくのを許してくれた個体がいて、私がちょっとまかれそうになると待っていてくれて、近づくとまた歩き出して・・・本当に私、この子と友達になれたんじゃないかっていうような気分にもなりましたね。それがとても感動的な思い出としてはありますね」
都市環境を利用する野生動物
※自然環境の変化は、キツネの暮らしにどのような影響を与えていると思われますか?
「私たちはある意味、自分たちが暮らすために森を切り開いて田畑を作って、都市を作っていくようなことによって、(野生動物の)生活場所が脅かされていくんじゃないかっていうようなイメージを受けますよね。どちらかというと、キツネは森林よりも開けた環境が好きなんですね。
私たちがそういった形で森林を切り開いて、開けた環境を作って、農地を作って植物を生やして、そこにネズミとかが増えるような環境を作ると、実はキツネにとって棲みやすい環境を作っているような気がしますね。
自分たちが暮らすために生活を改変していく、環境を変えていくっていうことが、逆にキツネにとって棲みやすい環境を作っているんじゃないかなって思います。
動物なんかいないと思われるような都市の環境でも、最近キツネは入り込んでいて、数を増やしていることが知られています。私たちが作っていく環境、これから都市が地球の中でもいちばん栄えていくような環境と言われていますけども、そういったところでも、したたかに生き残っていけるのが、キツネなんじゃないかなっていうふうに思いますね」
●塚田さんは30年以上キツネを見続けてきて、改めて今どんな思いがありますか?
「やっぱりとてもしたたかで奥深い動物だと思いますね。生き物って多分どんどん変化していくと思うんですけど、(キツネは)そういった変化を非常に短いスパンで見せてくれるような動物なのかなと思っています。そういうところがとても魅力的だし、これからどんなことを見せてくれるのか、楽しみな動物ですね」
INFORMATION
塚田さんの新しい本をぜひ読んでください。童話や映画などに登場するキツネから、野生動物としての生物学的な生態、そして人との関わりなど、キツネに関する幅広い情報を、とてもわかりやすく解説、まさにキツネの教科書的な本だと思います。おすすめですよ。緑書房から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎緑書房:https://www.midorishobo.co.jp/SHOP/1636.html