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2025年11月のゲスト一覧

2025/11/30 UP!

◎村上貴弘(岡山理科大学・理学部の教授)
「アリがしゃべる」!?〜アリ語の解明に挑む「アリ先生」!』(2025.11.30)

◎矢部 淳(国立科学博物館・生命史研究部・進化古生物研究グループ長)
国立科学博物館で開催中の『大絶滅展〜生命史のビッグファイブ』を特集!』(2025.11.23)

◎佐藤成祥(東海大学・海洋学部の准教授)
イカやタコの奇想天外な繁殖方法〜リレーバトン方式!? 電車方式!?』(2025.11.16)

◎中島保寿(東京都市大学・准教授/古生物学者)
海の古代生物たちを「ジュラシック水族館」で展示!?』(2025.11.09)

◎吉田友和(旅行作家)
橋は面白い! 橋旅のすすめ!』(2025.11.02)

「アリがしゃべる」!?〜アリ語の解明に挑む「アリ先生」!

2025/11/30 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、「アリ先生」として知られる岡山理科大学・理学部の教授「村上貴弘(むらかみ・たかひろ)」さんです。

 村上さんは1971年、神奈川県生まれ。茨城大学卒業。北海道大学大学院で博士号を取得。研究テーマは「菌食アリの行動生態」。菌食アリは「菌を食べるアリ」と書くんですが、おもにハキリアリのことだそうです。

 きょうは村上さんが出された新しい本『アリ先生、おしゃべりなアリの世界をのぞく』を参考に、農業をするアリ「ハキリアリ」の、音を使ったコミュニケーションや、コロニーを維持するための高度な社会性など、驚くべき生態に迫ります。

『アリ先生、おしゃべりなアリの世界をのぞく』

地球はアリの惑星!?

※本の最初に「地球はアリの惑星」と書いていらっしゃいます。その心は?

「意外に思われるかもしれないんですが、地球上にいるアリを全部集めて重さを測ると、全人類の重さより重くなるっていう研究があるんですよ」

●あんなに小さいアリなのに!?

「はい、しかも数的には二京、それぐらいの個体数がいて、地球のあらゆるところにいるので、実は地球は『アリの惑星』って言えるんじゃないかっていうことですね」

●ええ~っ! アリはいつ頃地球に出現したんですか?

「かなり昔で、だいたい1億1千万から2千万年前ぐらいにこの地球上に誕生したと言われています。人間が20万年前ぐらい前なんで、そう考えると随分(アリは)先輩だなという感じですね」

●大先輩なんですね~。現在、世界で何種類のアリが確認されているんですか?

「これも毎年新種が出るので、なかなか難しいんですけど、だいたい1万1千から2千種ぐらい記載されていまして、日本国内だと300種類ほど、記載されていますね」

●その中から村上さんがメインに研究されているのが「ハキリアリ」なんですよね?

「はい、そうです」

●改めて、どんな生態を持つアリなのか教えていただけますか。

「テレビとかで、葉っぱ運んでいるアリをよくご覧になることもあるかとは思いますが、あれがハキリアリです。日本には生息してなくて、アメリカ南部とか中米、ブラジルとかパナマとか、そういったところにしか棲んでないんですね。

 森から葉っぱを切り出して、行列で運んで巣に持って帰るんですけど、直接あの葉っぱを食べるわけじゃなくて、それを細かくちぎって丸いボール状にして、そこにキノコを植え付けて、育てたキノコを女王とか幼虫が食べるっていう、そういう農業をするアリなんですよ」

●キノコは、どうやって育てているんですか?

「どうやってっていうか・・・我々、農業をするかたがやっているのと一緒で、肥料をあげたりとか、伸びすぎたら切り取ったりとか、雑草っていうか、ほかの菌が生えたら取り除いたりとかっていうのを、本当に日々細々、ず~っとお世話をして維持しているっていう感じですね」

●キノコアリということですよね?

「基本は、はい」

●そのキノコアリは世界に何種類いるんですか?

「キノコアリは、それも250種か260種ぐらいです」

●ハキリアリも、キノコアリの仲間なんですよね?

「仲間ですね。その中で、いっぱい葉っぱ切るのをハキリアリって呼んでいます。

●キノコを食料としているんですか?

「そうです。ただ働きアリがキノコをいっぱい食べるわけじゃなくて、女王アリと幼虫がメインでキノコを食べています」

●働きアリたちは何を食べているんですか?

「これが意外とご存知ないというか、なかなかシビアな話なんですけど、働きアリになると、実はあんまりご飯を食べないんですよね。だから葉っぱを切っている時にしみ出たお汁をちょっと吸うぐらいで・・・」

●ええ~っ!

「そうなんですよ」

●ハキリアリの女王アリは、ひとつのコロニーに1匹・・・?

「そうです」

●女王アリの寿命は、だいたいどれぐらいなんですか?

「これも非常に驚かれるんですけど、僕が調べた中でも21年ぐらい生きたやつがいて、だいたい20年ぐらいは生きているって言われています」

●その中で生涯産む卵の数はどれくらいなんですか?

「1個体で3000万個以上って言われているんで、それだけいっぱい卵を産むんですよ」

巨大な巣に、天然の換気システム

※ハキリアリの巣の大きさは、どれくらいなんですか?

「これも地域によってサイズがばらつくんですけど、ブラジルの草原に作るやつがいちばん大きくて、それはショベルカーで掘るほどの大きさで、だいたい直径が10mぐらい、深さが5mぐらいの巣になっちゃいます」

●どんな構造になっているんですか?

「だいたい直径15cmぐらいのキノコ畑が、その地中にマンションのように埋まっていて、10mぐらいの巣だと、2000個とか3000個ぐらいのキノコ畑がありますね」

●部屋が分かれている感じなんですね?

「そうですね、はい」

●本に「天然の換気システム」と書かれていました。これはどういうことなんですか?

「僕はテキサスとパナマで、ハキリアリの巣を10個ぐらい掘ったことがあるんですけど、そういったキノコ畑の部屋のほかに、脇のほうにもっと深い地中につながる大きな穴が開いているんですよ。

 そこから冷たい空気がわ~と吹き込んできて、キノコが発酵している熱と混ざって、巣の中が27度、湿度がだいたい70%から80%ぐらいで、ず~っとキープされていて、余分な空気は煙突みたいなところから排気されるっていうふうになっています。なので、全く電気も使わないのにエアコンが完備されているっていう素晴らしいシステムになっていますね」

生まれた時から、仕事が決まっている!?

※そんな大きな巣は働きアリが作っていると思うんですけど・・・「働く」といっても、いろんな仕事があるんですよね?

「そうですね。僕は最初そういう研究をしていました。ハキリアリのワーカー、働きアリに1個1個、点を付けてマーキングして、どの個体がどんな仕事しているのかなっていうのを100時間ぐらい観察して、そうするとだいたい30ぐらいのタスク、お仕事しているっていうことがわかっています。33ぐらい・・・?」

●どんな仕事があるんですか?

「ありとあらゆる仕事があるんですけど、葉っぱを切ってきて戻ってきたら、その葉っぱを綺麗にする係もいれば、細かくちぎって組み上げるのもいれば、肥料をあげる係もいて、ゴミ捨てをする係もいて、巣の掃除、それから幼虫の世話、いろんな仕事がありますね」

●「私、ゴミ捨てやる」とか「私、掃除する」とか、そういうのって、どうやって決まるんですか?

「社会があんまり大きくないアリだと、年齢で決まっているんですよ」

●え~っ!

「これもちょっとなかなか、人間に当てはめると大変なんですけど、歳を取ると危険な仕事するんですよ」

●そうなんですか・・・?

「はい、若いうちに危険な仕事して命を落としちゃうと、コロニー全体の労働力にとって、すごく損失が出ちゃうんで、老い先短いほうが外に出て、何かあったとしても、ほぼ寿命だろうということにするんですが、ハキリアリぐらい(コロニーが)大きくなっちゃうと、それだとなかなか間に合わないので、基本的にハキリアリは遺伝的に生まれた時からだいたい仕事が決まっています」

●そうなんですか。生まれた時から決まっているんですか?

「はい、だから“私はキノコの世話しかしない”ってなったら、死ぬまでキノコの世話しかしない」

●ず~っと同じ仕事やり続けるっていうことなんですか?

「はい」

●え~っ!

「ただ先ほどハキリアリの女王アリは20年、生きるって言ったんですけど、働きアリは3ヶ月しか生きないので、一生と言っても短いんですよね」

●なるほど。働きアリって、休むこともありますよね?

「ハキリアリの働きアリは、ほとんど休まないです」

●そうなんですか。

「だから3ヶ月しか生きない・・・」

(編集部注:ハキリアリに限らず、働きアリは全部メス。女王アリはオスも産むそうですが、オスは1年のうち、限られた時期にしか出てこないそうです。 

 村上さんがおっしゃるには、オスは遺伝子的にいろんなことができないため、普段はなにもせず、巣の中をうろうろしているだけ。働きアリからは、煙たがられているそうです。

 オスは翅があるので飛んでいって、ほかの巣の女王アリと交尾して、一生を終えるとのこと。言ってみれば、オスは繁殖のためだけにいるってことなんですね。

 ちなみに、村上さんが初めてハキリアリに出会ったのは、1993年10月、パナマ運河に浮かぶ「バロ・コロラド島」という無人島。子供の頃から昆虫図鑑で知っていた、憧れのアリの実物に出会えたのは22歳の時で、その後、毎年のようにバロ・コロラド島に通ってハキリアリの調査・研究をされています)

ハキリアリはおしゃべり!?

※村上さんの本『アリ先生、おしゃべりなアリの世界をのぞく』のタイトルにある「おしゃべりなアリ」、これは村上さんが2012年から研究されている、ハキリアリが発する声というか、音なんですよね。

●ハキリアリってしゃべるんですか?

「そうなんですよ。ハキリアリだけじゃなくてアリの(種の)半分ぐらいがしゃべれるんですけど、我々の研究グループで開発した録音装置を使うと、ハキリアリだと、すごくおしゃべりをするっていうのを見つけたのが2012年ですね」

●言葉のようなもので、コミュニケーションをとっているっていうことなんですか?

「まあ言語と言っちゃうと怒られるんですけど、解析している感覚だとやっぱり言葉に近い、言語に近いものを使っているんじゃないかなって思って解析を進めています」

●どうしてそれに気づいたんですか?

「最初にハキリアリの巣の中に録音装置を入れてイヤフォンで聴いた時に、めちゃくちゃしゃべっているんですよ。音がすごく溢れていて、なんか宇宙人の会話を聴いているような、それぐらい音のやり取りがあって、何かしら意思の疎通をしているんじゃなかろうかっていうぐらい活発な音があって、これはちゃんと解析せにゃいけんなっていう感じでしたね」

●初めて聴いた時はどうでした?

「もう本当にびっくりして・・・なんかちょっと感動というよりは怖かったですね」

●なんだ、これという感じ?(笑)

「なんだ、これはっていう・・・これはやばい世界をそれこそ覗いてしまっている、盗み聴きしてしまっているんじゃないだろうかって・・・」

●ハキリアリにはその声というか、音を出す器官みたいなものがあるっていうことですか?

「はい、半分ぐらいのアリはそもそも発音する器官を持っていて、それは電子顕微鏡とかで確認しているんですね」

●会話ができているっていうことは、耳のような音を聴く器官もあるっていうことですよね?

「はい、意外なことにアリの耳がどこにあるかっていうのを、正確にはまだちょっとわかってなかったんですけど、一応我々の研究チームで耳の研究もしていまして、今のところアリの耳は確実にちゃんと、しかもいっぱいあるっていうのがわかっています」

●いっぱい、あるんですか?

「いっぱいあったんですよ」

●へぇ~、どこにあったんですか?

「各足に2個ずつあって、触覚にもあるので14個あるんですよ」

キュキュ、キョッキョッ・・・アリ語!?

※村上さんはハキリアリの、ごくごく小さな音を録音するために、15年ほど前に専門家と一緒に録音装置を共同開発。それは秋葉原などで市販されている安価なコンデンサーマイクを使って作った録音機材で、アンプとパソコンにつないで増幅して、音を聴くそうです。

●これまでにどれくらいの時間、録音して、どの程度、解析できたんですか?

「いちばん一生懸命、研究しているときだと3ヶ月まるまる使って・・・それでもファイルの時間数でいうと、合計で10時間分くらいなんですね。その解析に例えばひとつ15分のファイルで1ヶ月半ぐらいかかっています。その解析まで含めたら膨大な時間をかけてやっています」

●言葉のようなものをひとつひとつ拾っていくってことですよね?

「しかも別に参照するデータがあるわけじゃないので、この音は例えば僕らが聴こえる音の感じだと、“キュッ”なのか“キョッ”なのか“ギッ”なのかっていうのをちょっと当てはめてメモして、それを切り出して、音素解析っていうのをやっていくんですけど、さっき言った15分のファイルで1ヶ月半かかったファイルだと、7700回くらい音が出ているんですよ。

 大学にいる間に解析が終わらないので、家に帰ってもやるんですけど、あまりに大変で寝落ちしちゃって、娘が起こしてくれたんですけど、その時に娘に向かって“キュキュキュキュ、キョッキョッキョッ”って・・・(笑)。(娘が)“お父さん、お父さん、アリ語、喋っているよ?”ってなってしまったぐらいな感じにはやっています」

●本当にたくさんの時間をかけて研究されていたんですね(笑)。これまでにわかった言葉のようなものって何種類ぐらいあるんですか?

「統計的に優位な差が出ているのは15種類あって、そのうち体のサイズも合わせてやるとなると、条件を厳しくして11種類になっているので、日本語で51音、英語で26音と考えると、音のタイプとしては結構多いんじゃないかなと思います」

●それぞれ意味があるんですよね?

「基本的には、この刺激とかこの状況でこういう音っていう・・・」

(*放送ではここで、特別にお借りしたハキリアリの音のデータを聴いていただきました。流した音は3つ。いずれも働きアリで「マメ科の葉っぱを切る時に発する音」「キノコ畑での警戒音」「幼虫の世話をいている時の音」)

●女王アリも音を発するんですか?

「女王アリの出す音は、ちょっと怖い音を出すっていうのがわかっています」

●ほかのアリとはまた別の音ですか?

「全然違いますね」

●どう違うんですか?

「(女王アリは)ものすごく大きい音を出すんですけど、その音を聴かせると働きアリはその場でフリーズしちゃうんですよ。

 僕が女王アリの音を録っている時の状況は、どうしても巣を破壊している時が多いので、働きアリが右往左往としている時に、女王アリが大きい音を出すと、働きアリはそこで一瞬フリーズするんですね。

 おそらくその隙に女王アリは逃げちゃうと・・・だからその音の役割としては、“あなたたちは、ここに留まって闘いなさいよ”っていう意味なんじゃないかなっていうふうに推測しています」

(*放送ではここで特別に、女王アリが発する音をお聴かせました)

●ハキリアリ以外のアリも、おしゃべりはするんですか?

「そうですね。これも僕の研究なんですけど、社会があまり大きくないグループって、おしゃべりじゃないんですよ。ちっちゃいコロニー、あまり働きアリがいっぱいいないやつは、すご~く静かな社会です。

 社会がどんどん複雑になればなるほど、すごくおしゃべりになっていくので、これは別にアリに限ったことじゃなくて、やっぱり社会を維持するところでは、結構、普遍的な原理なのかなっていうふうに思っています」

アリとネゴシエーション!?

※村上さんの研究で、ハキリアリの言葉のようなものがわかってきて、今後「アリ語」の解明がもっと進めば、どんなことに役立つと思いますか?

「基本的には純粋にサイエンスを追求したいというのがあるんですが、ハキリアリは習性を知っていただければわかるように葉っぱを切っちゃうんで、非常に人間の社会にとっては影響が大きいと・・・。

 例えば農作物とか果樹園の木の葉っぱを切っちゃって農業被害が出ちゃうんですが、ブラジルの国家予算の10%くらいがハキリアリ対策予算って言われていて、それがだいたい化学物質、農薬とか殺虫剤を使っちゃうんですけど、かなり環境の負荷が大きいんですね。

 音を使ってアリに言うことを聞かせるっていうかネゴシエーションして、腹を割って話して、“こっちに来ないで”とか、もうちょっと進んだら、“うちの雑草を刈ってよ”とか、そういうふうなことができると、とてもいいなって思って研究しています」

●村上さんがアリ語をしゃべれたら、アリに何を聞きたいですか?

「もう30年くらいアリを飼育していたり、研究しているので、なんとなくはアリの言っていることはわかる気がするんですね。特別にこれを聞きたいっていうことはないんですけど、まあなんか日常会話をしてみたいなっていう気はしています」

●いずれは「アリ語辞典」とかも作ったりできるってことですよね?

「そうですね。だから一部、そういうふうなものを作りつつあるっていうことだとは思うんですけど・・・」

●寝言でアリ語をしゃべっちゃう村上さんですけど、アリになりたいと思ったことはありますか?(笑)

「だからそういうことしている時って、アリと人間の境目は割とない感じはしていて(笑)、一生懸命、行動観察とかしていても、どっちかっていうとアリの世界の中に降りていっている感じがしているから、既にアリの一部にはなっているんじゃないかなって思っています」

●では最後に、この本『アリ先生、おしゃべりなアリの世界をのぞく』を通して、どんなことをいちばん伝えたいですか?

「そうですね・・・さっきもちょっと言いましたけれど、やっぱりアリの多様な世界を見て、そして我々がなんとなく先入観で、進化ってすごくいいものが残るみたいに思っているんですけど、そうじゃなくて、多様でいろんなものがこの地球上には残る可能性があって、それはあまりカチカチと考えるんじゃなくて、アリをのんびり眺めていれば、よくわかるんじゃないかなっていうのが伝わるといいな~って思っています」

(編集部注:村上さんは小・中学生の子供達と「アリリンガル」プロジェクトを進めていらっしゃいます。アリとおしゃべりするための、アリ語翻訳機を子供たちと一緒に作っているそうですよ)では、結構、普遍的な原理なのかなっていうふうに思っています」


INFORMATION

『アリ先生、おしゃべりなアリの世界をのぞく』

『アリ先生、おしゃべりなアリの世界をのぞく』

 村上さんの新しい本には、アリの生態に魅せられた村上さんの、少年時代のエピソードから、研究者になってからの、とんでもなくユニークな日々が綴られています。老若男女が楽しめるエッセイをぜひ読んでください。

 巻末には、村上さんが描いたイラストによるアリ図鑑も掲載。そしてQRコードからハキリアリの発する音が聴ける特典がありますよ。ぜひ本をお買い求めのうえ、特典にアクセスしてください。

 扶桑社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎扶桑社:https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594101435

オンエア・ソング 11月30日(日)

2025/11/30 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. ありの歌 / やなわらばー
M2. Video / India Arie
M3. Make It On My Own / Alison Limerick
M4. Try Again / Aaliyah
M5. No One / Alicia Keys
M6. Speak Now / Taylor Swift

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

国立科学博物館で開催中の『大絶滅展〜生命史のビッグファイブ』を特集!

2025/11/23 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、国立科学博物館・生命史研究部・進化古生物研究グループ長の「矢部 淳(やべ・あつし)」さんです。

 現在、上野の国立科学博物館で好評開催中の『大絶滅展〜生命史のビッグファイブ』。この特別展は、地球に生命が誕生して40億年の間に起こった「大量絶滅」にスポットを当てた、これまでにはない展示となっています。

 海の古代生物の化石や恐竜の骨格標本など、なかなかお目にかかれない貴重な標本が工夫を凝らして展示。迫力のある映像にも圧倒されます。

 さらに音声ナビゲーターとして「福山雅治」さんが出演。また、福山さんが世界の秘境や辺境で撮った写真も展示されていて、こちらも話題になっています。

 今週はそんな『大絶滅展〜生命史のビッグファイブ』をクローズアップ!

 この特別展の総合監修を担当された国立科学博物館の古生物学者、矢部 淳さんをお迎えし、これまでに地球で起こった5回の大量絶滅を紐解きつつ、今回の特別展の見どころなど、お話しいただきます。

☆写真協力:国立科学博物館

福山雅治さんと矢部淳さん
福山雅治さんと矢部淳さん

5回の大量絶滅「ビッグファイブ」

※矢部さんは1971年、茨城県生まれ。筑波大学から大学院、そして福井県立恐竜博物館を経て、2012年から国立科学博物館の古生物学者として活躍されています。

 ご専門は植物の進化。日本全国、北は北海道から南は沖縄まで調査に出かけ、植物の化石などを採取。植物がどんな環境で移り変わってきたのかに注目し、研究。古代の植物から当時の環境と生き物との関係性を知ることができるそうです。

●それでは矢部さんにお話をうかがっていきます。今回の特別展は「大量絶滅」にフォーカスした展示になっています。大量絶滅をテーマにしたのは、どうしてなんですか?

「大量絶滅、今回は大絶滅という言い方もしているんですけども、みなさん一般的には、おそらく恐竜が絶滅したことがよく知られていると思うんですよね。多くのかたのイメージとしては、恐竜は隕石が衝突して絶滅した、その研究はもう終わってしまっていて・・・というふうな印象があるんじゃないかと思ったんですね。

 実はこのあとお話をする5回の大量絶滅、全部について、現在も多くの研究が行なわれていて、研究会というか学術会ですごくホットなんですよね。

 そういったことを紹介したいなっていうことがひとつと、もうひとつは現在、私たちが暮らす環境において、いろんな生物が絶滅の危機に瀕していることが知られていると思うんですけれども、過去に学ぶことで、私たちの今のことを考えるきっかけになればいいな、そういったふたつの思いがありました」

写真協力:国立科学博物館

●この特別展の副題に「生命史のビッグファイブ」とあります。改めてこのビッグファイブとは、どういったことなんでしょうか?

「目に見えるサイズの化石が見つかるようになったのが、およそ5億4000万年ぐらい前なんですね。それ以降、化石がたくさん見つかるようになります。それはなぜかというと、殻を持つもの、あるいは骨格を持つものがその時期に現れたからなんですね。

 それ以降の時代で、生物の多様性を並べてみた時に5回、多様性がすごく減る時期があることが知られていて、それが大量絶滅と言われるものなんですけれども、その5回を『ビッグファイブ』と呼んでいます」

●先ほど矢部さんからお話がありましたけれども、巨大な隕石が衝突して恐竜が絶滅したという話は聞いたことはありました。それ以外の大量絶滅は、どんな原因があったんですか?

写真協力:国立科学博物館

「まだわかってないこともいろいろあるんですけれども、最近の研究でようやくわかってきたのが、5回のうちの4回、要は恐竜の絶滅以外の4回は、いずれも大規模な火山の活動によるものだったと考えられるようになってきています。

 火山の活動が活発になると、小尾さんもたぶん想像できると思うんですけど、温室効果ガスがたくさん含まれているんですよね。CO2ですけども、それがたくさん含まれているものが放出されると、例えば温暖化するとか、逆に火山灰が地球の成層圏を覆ってしまうと、太陽の光が届かなくて寒冷化するとか、火山の活動がきっかけとなって、いろいろな環境の変化が起こる、それがいろんな生物に影響した、そういったことだと考えられるようになっています」

(編集部注:矢部さんによると、学者や研究者が大量絶滅に気づいたのは、意外に早くて、19世紀の中頃で、地層に残っていた化石が地質年代の前後で大きく変わることから、大絶滅があったとわかったそうです)

「大絶滅展」の監修を務めた10人の研究者
「大絶滅展」の監修を務めた10人の研究者

3番目の大絶滅が最大級!

※5回の大量絶滅それぞれで、どんな生き物が絶滅し、そのあと、どんな生物が繁栄していったのか、教えてください。

「5回の絶滅は古くなればなるほど、みなさんにあまり馴染みのない生き物が多くなるので、ちょっと難しいかもしれないんですが・・・いちばん最初の絶滅、これは古生代の前半、オルドビス紀とシルル紀という時代の境、およそ4億4500万年ぐらい前だと言われているんですね。

 この時期の絶滅は、まだ陸上に生き物がほとんどいなかった時代なので、おもには海で起こっていて、その頃生きていた、例えば三葉虫とか腕足動物とか聞いたことありますかね・・・そういった生き物が大きな影響を受けていますね。

 その後の世界は、実はそれまでにいなかった珊瑚の仲間がすごく発達して、そのお陰でそれを中心とした、例えば顎を持った魚とか、様々な生き物があとの世界で繁栄したと考えられています。

 2番目の絶滅、これはデボン紀という時代の終わり頃に起こったと言われていて、3億7000万年前ですね。この時の絶滅では先ほど言った珊瑚類が結構、実は影響を受けて、三葉虫の仲間も影響を受けて、顎を持たない魚・・・これらの仲間が絶滅をしたと言われています」

 その後の世界に出てくるのが、今私たちの身のまわりにいる魚に近い軟骨魚類、サメとか、硬骨魚類とか、そういった仲間が現れたり・・・この時期、ちょっと特徴的なのは、それより前の時代は海の生き物ばっかりだったっていう話をしたと思うんですけども、このデボン紀という時代の終わりの絶滅以降は、陸上の世界がすごく華やかになったと言われています。

 で、3番目の絶滅ですが、これは古生代末、ペルム紀と中生代の最初の三畳紀という時代の境で起こった絶滅ですね。2億5000万年ぐらい前なんですけども、この時には先ほどまでずっと紹介してきた三葉虫の仲間、ここまでかろうじて生き延びてきたんですけれども、それが完全にいなくなったり、腕足動物もほとんどがいなくなったりというようなことが起こりました。陸上でも非常に大きな絶滅が起こりました。

 実はこの時期の絶滅が5回のうちで最も大きくて、陸でも海でも90%を超えるような絶滅が起こったと考えられているので、本当にありとあらゆるものが絶滅したと言っていいと思うんですね。

 その後は、かろうじて生き残ったものとして、私たち哺乳類につながるような仲間、キノドン類って言うんですけれども、そういった仲間とか・・・海の中では爬虫類の仲間なんですけど、魚竜と言って海の中で生きるような仲間がいるんですけれども、そういった生き物がその絶滅の後に繁栄したと言われたりしています」

進化のきっかけは大量絶滅!?

※続いて、4番目と5番目の絶滅について説明していただきました。

「4番目の絶滅、これは中生代の前半の三畳紀とジュラ紀の間、およそ2億年ぐらい前なんですけども、この時には海にいたアンモナイトであるとか、先ほど言った原始的な魚竜の仲間が絶滅して、その結果として、実は一般にすごく馴染みのある恐竜とか、いわゆる中生代を特徴づけるような生き物がこの後、華やかになっていったと言われています。

写真協力:国立科学博物館

 5番目が、最初のほうにもお話をした中生代と新生代の境界、白亜紀と古第三紀の境界ですね。6600万年前、小惑星の衝突によって起こったという絶滅イベントなんですけども、この時にいわゆる鳥以外の恐竜が絶滅し、ほかにも海ではアンモナイトとか、海生の爬虫類の仲間が絶滅したり、様々な生き物がこの時も絶滅したんですね。その後の世界に私たち哺乳類の繁栄が訪れたということになります。

 植物で言うと、それ以前から現れてはいたんですけれども、この後の時代に花を咲かせる植物、被子植物っていうんですが、それが非常に繁栄した、そんな変化がありました」

●絶滅っていうと、どうしてもネガティブなイメージがありますけれども、生命の進化というふうに考えるとネガティブではなさそうですね?

「いいところを強調していただいてありがとうございます。普段の絶滅というのも、進化の陰でというか、進化と同時に起こっているんですが、大量絶滅が特にその進化に影響したと考えられているんですね。

 なぜかというと、例えば何十%とかっていう種がいなくなってしまうと、それらがいた場所がぽっかりと空くわけですよね。そうするとわずかに生き残った生き物がそこで多様に広がっていく機会ができる、そういった捉え方ができるのかなと思っています」

(編集部注:先ほど、最も大きかった3番目の大量絶滅では、陸でも海でも90%以上の生き物が絶滅したというお話がありましたが、ひとくちに大量絶滅といって40%から70%のこともあったりと、まちまちだそうです。それでも、生き物が60%から70%も絶滅するというのは凄まじいことだと矢部さんはおっしゃっていました)

6つのコーナーを束ねる「大絶滅スフィア」!

※今回の特別展は、総合監修の矢部さんを含め、10人の研究者のかたが監修にあたり、6つのコーナーに分けて、海の古代生物や恐竜の化石などを展示しています。その中から、見どころというか、特徴的な展示をいくつか教えてください。

「実は6つのコーナーを束ねる場所があって、展示のちょうど中央付近、私たち『大絶滅スフィア』って呼んでいるんですけど・・・スフィアってわかりますか? 地球儀のような球体を言うんですが、それが中央にでーんと鎮座しているんですね。

写真協力:国立科学博物館

 そこで何をしているかっていうと・・・先ほどまでお話してきた大絶滅、その大部分が火山の活動で起こっていることがわかってきていて、その火山の活動は、大地の動きが火山の原因であったり、火山の噴火の結果であったりするんですけども、大地の動きと火山の噴火、それがわかるようなモニターとして、大絶滅スフィアを置いています。

 そこが展示のイントロであるとか、展示の全体の関連性みたいなのを知るのにすごくいいところなので、大変美しいモニターですし、ぜひ見ていただきたいなと思っています。

 それ以外にも、本当にたくさんあるんですけども、実は6つのコーナーのそれぞれに、その時代を特徴づけるようなハイライト展示みたいなのを置いているんですね。それはお立ち台のようになっていて、そこにその時代を特徴づける生き物の化石であるとか、それを説明するための原寸大の模型のようなものを置いていて、それが非常にわかりやすいし、迫力があるかなと思っています。

写真協力:国立科学博物館

 展示しているものとしては、チラシとかでも紹介しているんですけど・・・オルドビス紀で言えば、『アノマロカリス』というカンブリア紀を代表する生き物がいるんですけども、それの仲間であるとか・・・。

 私が好きなところでは、2番目の絶滅に関連しているところに『ダンクルオステウス』っていう、甲冑魚みたいな・・・体の外側に甲冑を持っているような巨大な魚で、そういったものが展示されていたり・・・。

写真協力:国立科学博物館

 あとは4番目の絶滅、三畳紀やジュラ紀のところでは、巨大な恐竜と恐竜ではない爬虫類が展示されていたりとか・・・そういったものをぜひ見ていただきたいなと思っています」

(編集部注:今回の特別展では、世界有数のコレクションで知られる、アメリカ・コロラド州にあるデンバー自然科学博物館の貴重な標本の数々が展示されています。その中には日本初公開の標本もあるんですよ)

「大絶滅展」のためにモロッコで発掘調査

※この特別展のためにモロッコで発掘調査をされて、その展示もありました。どうしてモロッコだったんですか?

「モロッコは、実は5回の絶滅事変の1番目、2番目、4番目に関係する地層、そして化石が見つかる場所なんですよ。なので今回『大絶滅展』を展示で扱うにあたって、新しい情報を自分たちで見つけて提供したいなって思った時に、その3つの絶滅事変に関係している地層があるっていうのはすごく魅力的で、それでモロッコで調査をしたいなと思ったわけなんですよね」

●いつ頃、どれぐらいの期間、発掘調査をされたんですか?

「2023年の12月年末ですね。3週間ぐらい発掘をしていました」

●矢部さんも参加されたんですね?

「あ、いえいえ、いかにも(発掘調査に参加)したかのよう言い方をしていましたけども、そうではなくて10名のうちの3名が参加して調査をしてきました」

●どんな化石が見つかりましたか?

「第1章、第2章で展示をしているような様々な無脊椎動物、脊椎動物の化石が見つかっているんですね。ちょっと聞き慣れない言葉かもしれないんですけども、オルドビス紀という、最初の絶滅の前の時代で、今世界的に注目されている化石群集っていうのがあって『フェゾウアタ化石群』っていうんですけども、そこの様々な化石を収集することができました。

 その中には例えば、ウニやヒトデの仲間のとても原始的なものであるとか、先ほど言った『エーギロカシス』っていうアノマロカリス類の仲間であるとか、そういったものが見つかっているところなんです。そのフェゾウアタ化石群で、様々なものを見つけたっていうのがひとつあります。

 もうひとつは、これは共同で発掘した、東京都市大学の発掘で見つかったものなんですね。デボン紀、2番目の絶滅イベントの絶滅前の時代ですけど、先ほど言ったダンクルオステウスっていう甲冑魚、その実物の化石が見つかっていて、それを模型と一緒に展示をしています。

 あとは化石ばかりではなくて、絶滅イベントに関係した、そのきっかけとして火山活動があったと言いましたけども、その大規模な火山活動によって出てきた溶岩流とか、これは三畳紀末のものだったりするんですけども、それを観察して調査をして岩石を採取することができて、それも展示室で見ることができます」

●では最後に「大絶滅展」の総合監修を担当された矢部さんから、ここは特に見てほしい、そしてこんなことを感じてくれたら嬉しい、ということがあれば、ぜひお願いします。

「何度か申し上げていることかもしれないんですけども・・・絶滅というと、どうしてもネガティブに捉えがちだと思うんですけど、実はそうとばかりも言えない側面があることを知っていただきたいなというところですね。

 展示会場は、さすがに(照明が)明るくてってことはないんですけども、デザインもすごくポップで楽しげな展示室にもなっているので、どういうふうにして今の多様な世界につながっているのか、そんなことを感じていただければいいかなと思っています」


INFORMATION

 開催は来年の2月23日まで。開館時間は午前9時から午後5時まで。入館は4時30分まで。入場料は、当日券で 一般・大学生2,300円、小・中・高校生600円。福山雅治さんが音声ナビゲーターとして出演されている、音声ガイドのレンタル機器はおひとり1台650円。矢部さんもナビゲーターとして登場されますよ。

写真協力:国立科学博物館

 第二会場では特別企画として、福山さんが世界の秘境や辺境で撮った生き物や風景の写真を展示。つい最近取材で出かけたというガラパゴス諸島で撮った最新の写真も見ることができます。ぜひお出かけください。

 詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎『大絶滅展〜生命史のビッグファイブ』:https://daizetsumetsu.jp

オンエア・ソング 11月23日(日)

2025/11/23 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. Hello / 福山雅治
M2. LANDSLIDE / FLEETWOOD MAC
M3. LUCKY FELLOW / LEROY HUTSON
M4. I WILL SURVIVE / GLORIA GAYNOR
M5. My Body / HANA
M6. CLEAR THE AREA / IMOGEN HEAP
M7. MORE THAN A FEELING / BOSTON

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

イカやタコの奇想天外な繁殖方法〜リレーバトン方式!? 電車方式!?

2025/11/16 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、東海大学・海洋学部の准教授「佐藤成祥(さとう・のりよし)」さんです。

 佐藤さんは1980年、北海道札幌市生まれ。北里大学水産学部を卒業後、北海道大学 環境科学院で学位を取得。

 ご専門は、動物の行動や進化を研究する「行動生態学」。おもな研究対象はイカやタコ。いろんな生き物がいる中で、なぜイカやタコを選んだのか、それは海の中で独自の生き方をし、面白い特徴があるからだそうです。

 そんな佐藤さんが先頃『イカの恋、タコの愛』という本を出されました。本のタイトルにとても興味を持った当番組のスタッフがどうしてもお話をお聞きしたいということで、学会のために沖縄に出張していた佐藤さんをつかまえて、リモートでお話をお聞きすることができました。

 きょうは、イカやタコの不思議な生態の中から、特に繁殖のための駆け引きや、子孫を残すための驚くべき戦略のお話などをお届けします。

☆写真提供:佐藤成祥

佐藤成祥さん

貝の仲間、頭足類

※まずは、イカやタコがどんな生き物なのか、お聞きしました。

「基本的なところで言いますと、イカやタコは海の中の生き物でいちばん近いのが貝です。貝というと、どっちかというとあまり表情がない・・・みなさん食事でシジミとかアサリとか食べていると思うんですけれども、(イカやタコは)貝殻を失って、その代わりに機動力が増した、動けるようになった仲間がイカやタコですね。

 動けるようになる、そういう進化の過程で、賢くなったり目が良くなったりという・・・我々が見ても顔がなじみのあるような形にどんどんとなっていったということです。今はもう貝とは似ているなという感じには思わなくなってはいるんですけれども、もともとは貝と非常に近いところにいた生き物なんです」

●体付きは人間とは全く違っていて、胴体と足だけに見えますけど、どんな構造になっているんですか?

「よく漫画で、火星人とか頭でっかちで足だけで歩いているような感じで描かれているので、特にタコなんかは胴体というか、頭でっかちって印象があるのかもしれないですけども、あれが全部胴体なんですね。

 頭自体は目があるところの中心に脳みそがある。実は頭はそれほどでかくないんですけれども、その頭から直接手足が生えている。なので、“頭足類”の仲間たちというところですね。体の仕組みは我々とはだいぶ違っている感じになっています」

マダコ
マダコ

●骨はないですよね?

「そうですね。もともと貝類もイカ・タコ類も含めて軟体動物と総称で言われるんですけれども、その名の通り柔らかいんです。それは体を支持する、我々だったら骨があるわけですけれども、そういうのが一切ない。

 逆に骨で体を保つのを外側に持ってきた、いわゆる“外骨格”って言うんですけれども、貝殻を外に持ってきて、それで身を守る。あるいは形を保つようになったのが貝なんですね。

 なので、もともとは骨があって、それが外側にある。我々のように体の中にある骨とは違って、体の外にあるんですけれども、それすらもイカとタコはなくなってしまった、ちっちゃくなってしまったということです」


●イカ焼き食べると、透明なプラスチックのようなものが出てきたりすると思うんですけど、あれは何ですか?

「まさにそれが骨の名残りですね。貝殻は身を守るにはいいんですけれども、やっぱり鎧っていうのは重いですから素早く動けない。そんな時に彼らは素早く動きたい方向に進化したので、外側の殻をどんどん小さくして体の中に収まるようにしていった。なので、いわゆる貝殻の名残り、骨のような名残りみたいな感じなのが、“軟甲(なんこう)”と言われているプラスチックの棒のようなものです」

(編集部注:イカの足は10本、タコは8本ありますが、佐藤さんたち研究者は、足ではなく、腕という認識で、その腕には吸盤と強力な筋肉がついているので、大きい獲物を捕まえることができるそうです)

水を噴射して自由自在!?

※イカやタコは、海中を自由自在に動き回っているようなイメージがありますが、何を使って、どんなふうに泳いでいるんですか?

「イカもタコも昔の漫画とかで、おちょぼ口のような感じで描かれているのが頭に思い浮かぶかと思うんですけれども、あれは口ではなくて “漏斗(ろうと)”と言って水の噴出する管なんですね。

 体の中に水を取り込んで、それを管から水をビュッーと噴射する。それが推進力になって、ジェット噴射をして、高速で移動できるんですね。その管は上下左右いろんな方向に曲げることができるので、その曲げた方向によってはバックもできますし、飛びかかったりっていうことが可能になっています」

●イカやタコの目って大きいですよね? 視力はいいってことですか?

「人間の測り方でどれぐらい遠くまで見られるかっていう視力自体は、なかなか測ったことがないので、どの程度、遠くまで見られるかわからないんですけれども、脊椎動物じゃない、いわゆる背骨のない無脊椎動物の中で、我々人間と同じような目の作りをしているんですね。

 それは“カメラ眼”と呼ばれているんですけれども、我々の目には瞳、レンズがあって、目の筋肉を調整することで、レンズの厚さを広げたり細くしたりして、それでピントを合わせることができるんですね。

 なので、我々は非常に細かく詳細な形を知ることができる、目がいい生き物なんですけれども、ほかの無脊椎動物は、そういう力はかなり劣っていると言われています。はっきりとした形を見ることができない無脊椎動物の中で、イカやタコは目がいいという・・・独自に進化したんですね」

●タコが墨を吐くのは、あれは敵から逃げるためなんですか?

「そうですね。タコもイカも普段は体の色を自在に変化させて、とにかく見つからないように生きているんですね。防御力が非常にある。貝殻を失った生き物たちなので、見つかって攻撃されるとすぐ傷つくし、食べられてしまうんです。それを補うようにとにかく見つからないように生きているんですよね。

 そんな中でもやっぱり見つかってしまう。そうなったときにどうするかと言うと、墨を吐いて相手を混乱させる。タコの場合は煙幕のようにバーっと散って視界を塞いでいく。イカの場合はダマになった墨をポンと吐いて、自分の分身を作るような形で、狙いを定めさせないようなことで、その隙に逃げるというそういうことをしています」

(編集部注:イカやタコは墨をはいて、敵から逃げるという話がありましたが、イカやタコのいちばんの天敵は、クジラやイルカなどの鯨類、そしてサメやマグロなどの大型の魚だそうです。特にクジラやイルカは音を使って獲物を探し、捕まえるので、逃げるために吐く墨は役に立たないとか。

 ちなみに世界にはイカの仲間がおよそ500種、タコが300種ほど。日本にはイカがおよそ200種、タコが70種ほどいるそうですよ)

精子のバトンの受け渡し

※ここからは、佐藤さんが先頃出された本『イカの恋、タコの愛』をもとにお話をうかがっていきます。この本はタイトルからもわかるように、ほかの生き物にはない特徴を持つイカやタコの繁殖方法を、ぜひ知ってほしいと思って書いた本だそうです。

『イカの恋、タコの愛』

 第二章に、頭足類の繁殖方法は「精子のバトンの受け渡し」と書いてありました。これはどういうことなんですか?

「生き物の繁殖というと子供を作るための行動なんですけれども、普通は交尾をする。オスの交尾器をメスの交尾器に挿入して精子を噴出し、受精がメスの体内で起こるというパターンと、あるいは海の動物にあるように、卵と精子をそのまま海中に投棄して、それが体の外で受精するという、大体そのふたつのパターンに別れると思うんですね。

 イカとタコに関しては体内受精っぽいですね。いわゆる組み付いて繁殖が開始されるんですけれども、交尾器というもので精子を渡すというよりは、精子のカプセルをオスが手渡しでメスにパスするというそういう特徴があるんですよね。これはほかの動物には全くない、ちょっと変わった行動だったりします」

●確かに面白いですよね。しかも“交尾”じゃなくて“交接”っていうふうに本に書かれていましたけれども・・・。

「そうですね。交尾というと、先ほど言ったように“交尾器“のようなものを交わせて、精子の受け渡しをするということなんですけれども、交尾器がないものっていうか、精子のやり取りをしないので、“交接”というふうに言っていますね」

●その交接方法でも、イカとタコそれぞれに違いがあるんですよね? 

「そうですね。イカは先ほど言ったように、精子のカプセルをオスが手渡しでメスに渡すリレー競争のバトンパスのような方式で行われるんですね。

 タコの場合はちょっとその方法が違っていて、繁殖専用の腕“交接腕”というものをオスがまずメスの体内に入れて、その腕には先端から根元までずっと溝があるんです。その溝に沿って精子のカプセルをずっと走らせて、メスの体内に運んでいく。だから電車をイメージするといいかなと思います。精子のカプセルがメスに向けて走っていくような感じで、受け渡しが行なわれています」

アオリイカ
アオリイカ

※交接のあと、メスが産卵しますが、イカやタコ、それぞれ好んで産卵する場所はどんなところなんですか?

「今回の場合はタコから先にお話しします。タコは巣を持っているんですね。海の底にべったりと這うようにして生きているタコは、普段は岩の陰であったり、あるいは砂の中に穴を掘って巣を構えて、そこを拠点に行動します。産卵の時はその巣の中に卵を産み付けて、それを守るような形です。

 イカに関して言うと、そういう巣は作ることはなくて、自由に遊泳したりしているんですね。産卵の時はサンゴだったり、岩の下だったり・・・産卵基質(さんらんきしつ)と言われている、何か物に対して卵をひとつずつくっつけていくような形で産卵が行なわれます。」

●産卵したら、その後はどうなるんですか?

「イカの場合は、そのまま産みっぱなしです」

●産みっぱなし・・・?

「はい、そうです。産卵したらメスは役割を終えたということで、その場を立ち去ります。しかし、タコに関して言うと、そこからがタコの長い繁殖のスタートで、メスが卵をかいがいしく孵化するまで世話するというようなことが知られています」

(編集部注:タコのメスが巣にとどまって卵を守り、お世話するのは、種類によりますが、数週間から1ヶ月ほど。新鮮な海水を卵に吹きかけて酸素を供給するなど献身的に世話をし、その間、飲まず食わず。そのため、筋肉も細り、体はぼろぼろ。卵が孵化したあと、メスは一生を終えるとか。

 ちなみに寿命はマダコで1年から2年ほど、ミズダコで3年から4年ほど。繁殖期はイカもタコも一生に一回だそうです)

求愛は「ゼブラ・ディスプレイ」

※子孫を残すための求愛行動は、イカやタコでもありますか?

「これに関してはタコは非常に乏しいんですね。この本の中でも書きましたが、“タコの愛”と銘打って、本当はたくさんのタコの繁殖の例を紹介したかったんですけども、研究していてもほとんどその例がないんですね。とても淡白で求愛とかほとんど行なわないんですね。

 それに比べてイカは、沿岸性のコウイカとかヤリイカは、オスがメスに向けて体の色を激しく変化させて求愛を行なことが知られています」

アメリカアオリイカの求愛
アメリカアオリイカの求愛

●いろんな柄になったりするんですよね?

「そうですね。それがイカやタコの面白いところですね。やっぱり普段、身を守るために周りに体の模様を溶け込ませる能力が、ここで求愛に役に立つ。本当に一瞬で体の色をパっと変えることができるんですね。

 とても顕著なのは“ゼブラ・ディスプレイ”といいまして、シマウマ柄ですね。白と黒のシマシマになって、メスに対してアピールをするっていうことが知られています」

●モテるオスの特徴として挙げられることって、どんなことですか?

「はい、これもイカ・タコに限定されず、多くの動物はやっぱり力強いオス、それからキラびやかな、要するにかっこいいオス、強いオスはモテるんですね。それは子孫を残しやすかったり、できた子供が強かったりっていうことがあるんですね。

 しかし、だからといって、絶対必ず大きいオスの交尾を受け入れて、小さいオスの交尾を受け入れないかっていうと、そんなことは全然なくてですね。そこら辺の基準っていうのは、実際に我々もそうですけど、聞いたらわかるものではないので、一体何が起こっているかっていうところがあるんですね。だから必ずしも強いオスだとか、かっこいいオスがモテるわけじゃないっていうのが、イカ・タコの世界でも確実になっています」

(編集部注:近年発見されたタコの興味深い繁殖方法を、佐藤さんが教えてくれました。そのタコは、オーストラリアの「ブルーラインオクトパス」という、毒を持つヒョウモンダコの仲間で、多くのタコと同じようにメスが大きく、オスは小さい。そのため、オスがメスに不用意に近づくと食べられてしまうそうです。

 そこで、ブルーラインオクトパスのオスがとった戦略は、なんと! メスに毒を注入。その毒はフグの毒くらい強いもので、メスは動けなくなり、その間にオスは、精子のカプセルを渡します。メスはその後、ちゃんと回復し、産卵に至るそうです。

 小さなオスが子孫を残すために編み出したひとつの戦略なんですね。詳しくは佐藤さんの本『イカの恋、タコの愛』に載っていますので、ぜひ読んでくださいね)

繁殖の駆け引きが複雑!?

※改めてになりますが、イカやタコの研究をされていて、どんなところにいちばん面白さを感じますか?

「ほかの動物と違って、今回の話でも最初にご紹介していただきましたけれども、精子のやりとりが、普段は我々は見ることができないんですね。我々人間もそうですし、ほかの哺乳類とか多くの動物は、体内でのやりとりで完結するんです。

 イカ・タコの場合は、それを体外でやるので繁殖したあと、メスがやっぱり嫌っていうことで排除することができたりするんですね。そういうふうな駆け引きがイカ・タコの場合は、ほかの動物よりもちょっと複雑で、それを我々は見ることができるのが何よりも特徴なんじゃないかなというふうに考えています」

●では最後にこの本『イカの恋、タコの愛』を読む方が、どんなことを感じ取ってくださったらいいですか?

「単純にイカやタコが面白いなと思ってくれるだけでいいかなと思います。イカやタコに興味を持った人が、さらにプラスで、繁殖についてはこういう側面もあるんだというような感じで、興味がもうちょっと深くなるようなことがあれば、書いて本当によかったなと思う次第ですね」

写真提供:佐藤成祥

(編集部注:佐藤さんのおもな研究対象は世界最小といわれるイカ「ヒメイカ」。体の大きさは1〜2センチほど。ヒメイカを選んだのは、日本各地の浅い海のアマモ場に生息し、網などで採りやすいという理由のほかに、実は飼育が難しいイカやタコの中で飼いやすいからだそうです。

ヒメイカ
ヒメイカ

 ヒメイカは背中に吸着器という器官があって、海藻にくっつくことができる、そんな特徴もあるそうです)


INFORMATION

『イカの恋、タコの愛』

『イカの恋、タコの愛』

 この本には、佐藤さんの研究対象「ヒメイカ」の、これまた面白い恋の駆け引きも紹介。ほかにも、私たちとは似ても似つかない不思議な体を持つイカやタコの、風変わりで面白い生態や繁殖にまつわる研究や情報が満載です。ぜひ、あなたもイカやタコのディープな世界にダイブしてみませんか。

 岩波科学ライブラリーの一冊として絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎岩波科学ライブラリー:https://www.iwanami.co.jp/book/b10140096.html

オンエア・ソング 11月16日(日)

2025/11/16 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. WONDERFUL WORLD / OTIS REDDING
M2. OCTOPUS’S GARDEN / THE BEATLES
M3. CAN’T TAKE MY EYES OFF YOU / ANDY WILLIAMS
M4. I WAS BORN TO LOVE YOU / SHIRLEY WALTON
M5. ビーナスベルト / あいみょん
M6. WHEN A MAN LOVES A WOMAN / PERCY SLEDGE
M7. LOVE, LOVE, LOVE / DONNY HATHAWAY

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

海の古代生物たちを「ジュラシック水族館」で展示!?

2025/11/9 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、東京都市大学・准教授で、古生物学者の「中島保寿(なかじま・やすひさ)」さんです。

 中島さんは1981年、東京都生まれ。東京大学から大学院に進み、2013年に理学博士に。現在は東京都市大学・准教授として活躍されています。

 子供の頃から博物館や図鑑に親しみ、化石や恐竜が身近な存在だったという中島さんは、ある科学雑誌の表紙になっていた小型の恐竜「デイノニクス」の絵に釘付けに。

 その絵は、今までのイメージを覆すように活動的に描かれていて、それを見た中島少年は「デイノニクス」がまるで生きているかのように活発に動いている様子をリアルに想像できたそうです。そのことがきっかけとなり、古生物の魅力に取り憑かれ、現在は古生物学者として活躍中。

 そんな中島さんが先頃『ジュラシック水族館へようこそ〜日本の化石からわかる海の古代生物』という本を出されました。

 きょうは、その本をもとに、海の古代生物を再現した架空の水族館や、水中に暮らしていた爬虫類の特徴のほか、化石が密集している地層「ボーンベッド」のお話などうかがいます。

☆写真提供:中島保寿、イラストレーション:工藤なくる(化学同人)

中島保寿さん

海の爬虫類「魚竜」

※中島さんのご専門は古生物学ということなんですが、その中でも海の古代生物、特に爬虫類や魚などの脊椎動物グループを研究されているそうですね。陸上の生き物ではなく、海の生物を専門にしたのはどうしてなんですか?

「もちろん海の生き物は水族館にいたりだとか、ダイビングをして観察したりだとか、それだけでもかなり魅力的なものだと思うんですけれど、そもそも陸の生き物と海の生き物、どっちの化石が多いかっていう話になると、これは圧倒的に海の生き物の化石が多いですね。

 というのも、地球の7割以上は海で覆われていて、その中で砂や泥がたまって地層ができて、そこで化石ができあがっていくわけなんですけど、それが陸上の地層に対して圧倒的に(海のほうが)地層の量が多いと・・・。

 化石もやはり(海のほうの)量が多くて、特に日本でいうと、陸上の動物よりも海の動物の化石がやっぱり圧倒的に多く見つかっています。実際にフィールドに行って化石を発掘して研究を行なっていると、最初に出会うのはやはり海の生き物なんですね。なので、より身近でよりアクセスしやすい化石っていうことで、海の生き物を中心に自然と研究するようになりました」

●おもに海のどんな古代生物を研究されているんですか?

「代表的なところでいうと日本の東北地方、宮城県とかで見つかっている化石で、『魚竜』っていう生き物がいるんですけれど、その魚竜は海に棲んでいた爬虫類の仲間です。爬虫類はトカゲとかヘビとかカメだとか、陸上に棲んでいたり、水辺に棲んでいたり、いろんな生き物がいると思うんですけど、特にその魚竜は完全に海の中で生活ができるように進化した生き物ということがわかっています」

魚竜の頭の化石(レプリカ)
魚竜の頭の化石(レプリカ)

●魚ではなく、爬虫類・・・?

「そうですね。形でいうと魚竜は、魚そっくりの形をしているんです。ただよく見てみると、例えば魚に特徴的なエラがなかったりだとか、鱗みたいなものがなかったり、よく見ると手足の形がちゃんとヒレに残っていたりということで、骨格から爬虫類だということがはっきりわかるんですね」

●化石を採取して研究していくんですよね?

「はい、実際に海岸付近の地層を観察したりとか、海岸に落ちている石をよく見てみたりすると、化石が入っていることがあるんですね。骨だとかそういったものの化石がよく見つかります。それを発掘してきて研究をするということを行なっています」

●メインフィールドはどこなんですか?

「先ほど挙げた東北・宮城県の南三陸が、ひとつの大事なフィールドになっています。この辺りはだいたい2億5000万年ぐらい前の化石が発見されるところです。2億5000万年前というと、かなり古い時代になるわけですけど、その頃に海の爬虫類が一斉に進化してきた、そういった記録が化石として見つかっています」

写真提供:中島保寿

「ジュラシック水族館」その真意

※中島さんの新しい本が『ジュラシック水族館へようこそ〜日本の化石からわかる海の古代生物』。タイトルにある「ジュラシック水族館」というのが気になったんですが・・・どんなコンセプトで書いた本なんですか?

「古生物学者の研究とはどういうものなのかを、包み隠さずに全てをお伝えしたいなというのが、ひとつのコンセプトなんですね。その中で我々(古生物学者)は何を目標にして、どんなことを目指して研究をしているのかを、一言で言い表すとどんなことだろうなって考えたんです。

 で、我々の研究はどんな生き物がいたのかっていうことだけではなくて、どんな場所で何を食べて、どのように生活していたのか、その過去の生き物がどのような生き様だったのか、ということを総合的に明らかにしていくこと。言ってみれば、生き物を飼育したりとか、実際に観察したりということができるようになるっていうのが、究極の理想なんだなっていうことを気がついたんですね。

 我々の研究はまるで、過去の生物が飼育されている水族館を建設するような、そういう作業なんだということで、ひとつの例えとして『ジュラシック水族館』という言葉をつけさせていただきました」

●本の最初にあるカラーの口絵が、まさにこの本を象徴しているような感じですね。日本近海に生息していた古代生物をジュラ紀とか白亜紀などに分けて、それぞれ巨大な水槽で飼育しているように再現しているということで、本当に水族館のような絵ですね!

イラストレーション:工藤なくる(化学同人)

「そこはコンセプトとして、実際に水族館のような形で、過去の生物を展示したらどうなるかというのを、イラストレーターのかたにいろいろとアドバイスをしながら描いていただいたという、そういう口絵になっています」

●これ全部、中島さんがイメージされたものなんですか?

「イメージ、デザインというか、こんな感じでどうかなっていうのを私のほうでアドバイスして、実際に描いているかたは、SNSなんかでも活躍されているイラストレーターのかたなんですけども、研究者でもあるんですね。いろいろ情報を提供して、それを形にしていただいているという感じです」

●具体的に何をもとに、どのようにイメージしたのかってありますか?

「やはり生き物の形だとか姿っていうのは、図鑑を見ればある程度、把握はできるんですけれども、それが実際にどういった動きをして泳いでいたのかだとか、何を食べていたのかだとか・・・・。

 あとは、過去の生き物の集合体で、生態系がありますけれど、生態系の中での生物の組み合わせだとか、相互関係がどこか垣間見えるような、そんな形で描いてほしいと・・・。

 なので、ここで描かれているひとつの水槽の中の生き物は、実際に同じ場所で生活していた生き物たちが、同時に描かれているというコンセプトになっています」

●この本は日本で発見された化石に絞って書いた本ですよね?

「そうですね。おもに日本で発見された化石が、もしかしたら、みなさんが知らないかもしれないけれども、こんなに魅力的な古生物の化石は見つかっているんだよということを紹介するのが、ひとつの本のコンセプトになっています」

(編集部注:中島さんによると、発見される化石の量や質はアメリカやモンゴル、中国などには敵わないそうですが、日本は地形的に化石が見つけづらい。それ故に見つかっていない化石が多くあるはずで、日本の化石発掘には、まだまだ可能性があるとおっしゃっていました)

アンモナイト
アンモナイト

海の生き物か、陸の生き物か、その違いとは

※化石を見て、これは海にいた生き物だとわかるのは、どうしてなんですか?

「それはいろんな理由がありますね。ひとつはまず化石は地層の中から出てくるものなので、岩石だったりとか堆積物って言われている、海底や陸上だったら湖で、たまった砂や泥の中から見つかるわけですね。

 で、その砂や泥が陸ではなくて海でたまったものであろうということは、いろいろな特徴から推測ができるわけです。その堆積物がたまった昔の環境から、生きていた場所を推測するという意味で、海の生き物か陸の生き物かを分けることはあります。

 ただ、ほかにもいろいろ理由はつけられることがあって、今も昔も海にしかいない生き物は、中にはいるわけですね。例えばヒトデだとかウニだとか、そういった棘皮動物って言われているものは、どの時代も淡水とか陸上に上がったことはないんですよね。そういった生き物が出てくると、”ああ、ここは海だったんだな”っていうことが推測できたりとか・・・。

 ほかにも例えば、陸上で生きている生き物たちと、水中で生きている生き物たちとの骨格の違いというのもありますね。
 陸上のほうが生活するには結構、制約が大きくて、重力に骨格が耐えなければいけない。そうすると体を支えるための十分な強度の骨があって、しかもそれは体を動かすために不便にならないように、多少軽くなってないといけないとか、いろんな制約が陸上だと、かかってくるんですね。

 で、海の中だとその制約から、ある程度解き放たれて、骨が例えばスカスカでもいいんじゃないとか、もうちょっと浮力に対して重力を加えて骨が重くなっていったりとか、いろんな変化が起こります。それによって、この生き物は陸上だけではなくて水中にも適応していたんだということがわかったりということも、研究としては行なっています」

古生物学は物的証拠次第!?

※以前この番組で「恐竜展」を取材した時に、最新の研究で映画「ジュラシック・パーク」でもお馴染みのスピノサウルスが陸上で暮らしていたのではなく、水中を泳ぐ生き物だったことがわかったということでした。何がわかって、そう結論づけられたんですか? 

「スピノサウルスという生物は、もともとは部分的な骨格しか見つかっていなかった、そういう恐竜なんですね。部分的に例えば、顎だとか背骨の一部だとか、そういったものだけを見ると、恐竜であることはわかっていても、近い生き物からすると陸上で生活していた、例えばティラノサウルスとかアロサウルスだとか、そういった陸上の肉食恐竜と近い生き物だろうということで、最初に陸上動物だという仮定がされていたわけですね。

 ところがその後に何十年もかけて、追加の化石が少しずつ見つかってきて、その中で例えば、手足の骨だとか頭の骨、下顎の骨だけじゃなくて頭の骨が出てきたり、最終的には尻尾の骨が出てきたりしたんですね。

 その結果、全身を復元すると、陸上を歩いていた二足歩行の恐竜としてはちょっと短足すぎると、足指も鋭い爪というよりは平たい爪を持っているし、水かきが付いていたんじゃないかなというふうに考える人もいます。

 最終的には尻尾がうなぎみたいに平たくって、それを使えば水の中で泳ぐことができただろうと、どんどん復元図というのも変わっていったし、それに伴って生活のスタイルもどんどん想像が変わっていったという結果で、イメージがどんどん変わってきた、そういう生き物なんですね」

●化石から読み解くのは楽しいですね!

「そうですね。まさにその物的証拠で、我々がその証拠として持っている部分以外は、推測するか想像するかしかないわけなんですね。やはりそれがこちらの期待とか予想を裏切る形で、何か証拠が新たに出てくると、これは大発見! ということで非常に古生物学の面白い部分になってくると思いますね」

いわき市アンモナイトセンター
いわき市アンモナイトセンター

(編集部注:中島さんが初めて化石を発見したのは、大学2年生の時。鉱物・化石サークルに入部して、福島県いわき市のアンモナイトセンターに化石発掘体験に行った時に、たまたま先輩から渡された割れた岩盤の中に、黒光りしている細長い三角形の物を発見!

 それはエナメル質で、鋭く尖っていて滑らかなだったことから、紛れもなく、サメの歯だとわかったとか。化石発掘の経験のない中島さんが白亜紀の地層からあっけなく化石を見つけてしまい、それが古生物の研究にのめり込むきっかけになったそうです)

サメの歯
サメの歯

「ボーンベッド」を見つけたら大成功!

※本の中に「ボーンベッド」という聞きなれない用語が出てきます。これは何なのか、ご説明いただけますか?

「『ボーンベッド』っていうのは、ボーンが骨とか脊椎動物の化石っていう意味で、ベッドが地層っていう意味ですね。ボーンベッドはそれだけで『骨の化石が密集している地層』という意味になります。

 原因はいろいろなんですが、過去にその地層ができる時に骨だとか歯だとか脊椎動物の死体、遺骸っていうのが密集して堆積するっていうことで、地層の中に骨ばっかりが密に集まっている、そういう地層ができることがあるんですね。フィールドでこれが見つかると大成功というか、いろんな生き物の情報がそこに詰まっているわけですから・・・」

●確かにワクワクしますよね。

「そうですね。これ自体を見つける経験は僕も数回しかないですけれど、非常にこれまでの研究で大きな意味を持っていますね」

●ボーンベッドはどうやって見つけたんですか?

「はい、ボーンベッドは、ぱっと見で骨が密集しているとか、化石が密集しているっていうことがすぐにわかるようなものでもなかったので、コツコツと『地質柱状図』っていう地層の記録を1枚1枚取っていく過程で見つけたんですね。

 地質柱状図は地層の特徴から、例えば環境の変化だとか、どのくらいの時代だったのかを推定するために、基礎的なデータを地層から記録していくんですね。

 その中で例えば、砂が多いだとか石が多いだとか、化石が入っているとか入ってないかっていう細かい記録を取っていく中で、これは魚の歯じゃないか! っていうものが最初に見つかって、その周りを見たら同じような化石が同じ層にずっと続いているっていうのがわかったんですね。

 それは1メートルとか5メートルとかではなくて、数キロにわたって同じような地層が続いているということがわかって、これは大きなボーンベッドであるというのが見つかったと、そういうケースがありました」

●見つけた時は、うわぁ~という喜びや感動があったっていう感じなんですか?

「そうですね。大感激大感動なんですけれど、多くの人がやっているような集団でというか、チームで発掘をしていた時ではなくて、ひとりでコツコツと調査していた時だったので、喜びを分かち合う人がいなくて、こっそりガッツポーズをするという、そんな様子でした(笑)」

(編集部注:中島さんが発掘調査の時に心かげているのは、思い込みを捨てること。経験を積めば積むほど、過去の知見にとらわれて見逃してしまうことがある。だから常に初心に立ち返って、先入観なく見ることを心がけているそうです)

写真提供:中島保寿

古生物学の醍醐味は、大逆転!?

※海の古代生物の研究者として、今後解き明かしたいことは何ですか?

「キーワードのひとつとしては、“大量絶滅”というキーワードがあります。大量絶滅というのは生物がこれまで少しずつ進化をしながら、現在の生き物になるまで変化を続けてきたわけなんですけども、それは必ずしもちょっとずつ変化してきただけではなくて、どこかで大事件があって変化を余儀なくされるというような、そういったことがあったんですね。

 それが大量絶滅というやつで、生き物は40億年ぐらいの歴史があって、その後半に5回ぐらい存亡の危機にさらされている、これを“ビッグファイブ”っていうふうに言ったりするんですが、5回のピンチに陥っているんですね。

 完全に生き物がいなくなってしまった可能性もあったぐらいのピンチに陥っていると・・・それはどうして起こって、そこから生物はどうやって回復して、今までなんとか命をつないできたのかということが、ひとつの大きなテーマになっています。

 私が研究している魚竜もひとつのピンチを乗り越えた生物のひとつで、2億5000万年前に大量絶滅という事件が起こって、これは火山の大噴火があったわけなんです。
 その影響で環境が大きく変わって、生き物の8割か9割ぐらいが死滅してしまうという、そういう大事件が起こったんですが、その直後に登場した魚竜たちは、いったいどうしてその後の時代を生き延びることができたのかということが、ひとつの謎として残っています。これを調べていきたいなと思っています」

●古生物学の魅力って何でしょう?

「先ほども少し申し上げましたが、生き物とか地球の歴史を明らかにする方法には、いろんな方法があると思うんですね。今生きている生き物からいろいろ推測をしたりとか、おそらくこうだろうなと推定をしたりとかもできるんですが、古生物学はやはり化石っていう進化の物的証拠を材料としているために、大逆転が起こることがあるんですね。

 これまでの定説を覆すということが、化石発掘っていうすごくアナログで原始的な方法で引き起こすことができる、大逆転することができる新しい発見を野外で行なえるというのが、ひとつの魅力なんじゃないかなと思います」

中島保寿さん

●最後にこの本を通してどんなことを伝えたいですか?

「この本は古生物の魅力そのものだけではなくて、古生物学という学問の魅力も同時にお伝えしたいなと思って書きました。
 学問の魅力っていうのは、まさにその学問に携わる人たちの魅力だと思うんですね。いろんな人たちがいろんな形で古生物学や化石に関わっています。それぞれの人たちの視点に立って古生物学とか化石を眺めてみると、いろんな楽しみ方ができるというのをお伝えしたいなと思いました」

(編集部注:古生物学を目指すかたへのアドバイスとして、好きは揺るがない。そこは持ち続けてほしい。そして小学生や中学生、高校生で学ぶ、すべて科目は無駄になることはない。生物学の研究に必ず必要になってくるので、しっかり勉強してほしいと中島さんはおっしゃっていました)


INFORMATION

『ジュラシック水族館へようこそ〜日本の化石からわかる海の古代生物』

『ジュラシック水族館へようこそ〜日本の化石からわかる海の古代生物』

 中島さんの新しい本をぜひ読んでください。お話にも出てきましたが、中島さんが日本産の化石からイメージして、細かいところまでこだわって、巻頭の口絵にした 架空の古代生物水族館、これは必見です。読み物としては、中島さん個人の数々のエピソードが記され、古生物学研究の舞台裏を知ることができる興味深い内容に溢れています。

 化学同人のDOJIN選書シリーズの一冊して絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎化学同人:https://www.kagakudojin.co.jp/book/b654034.html

 中島さんの研究室のサイトもぜひ見てください。

https://www.fossiljapan.com/japanese

オンエア・ソング 11月9日(日)

2025/11/9 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. DRY BONES / GREGORY PORTER & TROY MILLER
M2. BONES / GALANTIS feat. ONEREPUBLIC
M3. LOVE BONES / JOHNNIE TAYLOR
M4. BONES / JAMES BLUNT
M5. 灯を護る / Spitz
M6. I’M SO GLAD / JIMMY HUGHES
M7. THE BONES OF ANGELS / CHRIS REA

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

橋は面白い! 橋旅のすすめ!

2025/11/2 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、旅行作家の「吉田友和(よしだ・ともかず)」さんです。

 吉田さんは1976年、千葉県生まれ。早稲田大学卒業。2005年に、初めての海外旅行で、新婚旅行を兼ねた世界一周の旅をまとめた本『世界一周デート』で作家デビュー。その後、夫婦で作った世界一周の旅行ガイドや、会社員生活の中で海外旅行の体験を綴った本が話題になり、旅行作家としての活動を本格化。これまでに訪れた国はおよそ90か国だそうです。

 現在は雑誌やWEBメディアなどでの執筆のほか、編集者として旅行ガイドの制作を手がけるなど、旅のスペシャリストとして幅広い活動をされています。

 旅のいろんな楽しみ方を提案されている吉田さんに、3年半ほど前にご出演いただいたときは、自分のうちの近所を、旅感覚で楽しむ『ご近所半日旅』について、いろいろお話をうかがいました。

 今回は、新しい本『橋旅のススメ!』をもとに、海に沈む橋や、ピンクの鉄骨が複雑にからむ橋のほか、吉田さんおすすめの「いい橋」のお話などうかがいます。

☆写真協力:吉田友和

吉田友和さん

橋は面白い!

※今回の新刊は国内での「橋旅」がテーマになっています。改めて「橋旅」とは、 何か定義があるんでしょうか?

「定義というかその名の通りで、橋を旅しようっていうコンセプトです。全国各地にある面白い橋を、そこを目的地として旅行に出かけて、その橋を見たりとか渡ったりというのを楽しもうっていう、そういった旅ですね。

 で、橋というとやっぱり交通のインフラで、土木とかそういったところの興味なのかなって、よく聞かれるんですけど、実はあまりそういうところはないんです。
 学術的に橋の成り立ちとかテクニカルな知識に興味があるというよりは、橋そのものの歴史だったりとか、その土地の感じとか、風景だったりっていうところに純粋に興味を持って旅行するような感じですね」

●「渡りたい時が渡りどき」と本にも書かれていました。この新しい本には30の橋旅が載っていますが、今までどれくらいの橋旅を体験されたんですか?

「橋旅と自分の中で明確に意識するようになったのは、ここ数年ではあるので、それに関しては今回の新刊で8割ぐらいは掲載したかなと思っています。ただそれまでにもいろんなところを旅する中で、結構、橋って各地にあるので、その都度、渡ってきたかなっていうような感じではあるんですけど・・・」

●今まで渡った橋は大体、数で言うとどれくらいになりますか? 

「橋自体は相当渡っているんじゃないですかね。海外とかも含めれば、100とかは渡っていると思います」

●橋にこだわった旅を始めたのは、何かきっかけがあったんですか?

「いちばん最初は、ミャンマーに『ウーベインブリッヂ』っていう、すごく長い木の橋があるんですよ、ミャンマーのマンダレイっていうところなんですけど・・・。そこの橋が面白そうだったので、結構前になるんですけど、そこを目的として旅行で行きました。それがきっかけと言えばきっかけというか、橋は面白いなと思ったんですよね。

 で、そのあとコロナもあって、ご近所旅で東京のレインボーブリッジとかを渡ってみて、やっぱり橋は面白いなみたいな・・・そこで改めて実感して、そこからいろいろと日本各地の橋を周るようになったかなって感じですね」

(編集部注:参考として、日本全国にはどれくらいの橋があるのか、国土交通省のサイトにはおよそ73万の「道路橋」があると記載されています)

渡れば長生きできる橋!?

※ここからは、本に載っている橋の中から、特に気になった橋についてうかがっていきましょう。

写真協力:吉田友和

●まずは本の表紙にもなっている石川県の「あやとり橋」。赤色で可愛いというか綺麗な橋ですよね、鉄骨の橋!

「そうなんですよ。表紙にここを選んだのも、やっぱり見た目のインパクトがあるかなって思いました。『あやとり橋』っていわゆる、あやとりのように鉄骨が入り組んでいる、そういった造形になっています。なんかちょっと現代アートみたいな感じなんですよ、橋と言っても・・・。なので、外観もユニークですし、渡ってもすごく変わった景色が楽しめます。

 石川県の加賀温泉郷の山の中にありまして、温泉街なんですけど、山歩きをちょっと楽しめたり・・・。下に川が流れていて、川床があって、そこにカフェがあったりとかして、ちょっとスウィーツを食べたりとかしつつ、夜は温泉宿に泊まってゆっくりしたりという、旅行のついでに橋も一緒に楽しめるみたいなところで、非常におすすめですね」

●それから青森県の「鶴の舞橋」。「渡れば長生きできる? 日本一長い木の橋を目指して!」ということで、橋の全長がおよそ300メートルもあるんですね?

写真協力:吉田友和

「そうですね。ここも見た目にインパクトがあって、湖の上に太鼓橋がかけられていて、絵になるようなところなんですね。都内でも駅の構内とかにポスターが貼ってあったりして、目にしたことがある人は結構いるんじゃないかなと思っているんです。

 先ほどお話ししたミャンマーの、最初に私が行った橋とすごく似ているなと思ったんですよね。やっぱり木でできた橋で、ミャンマーのほうが1キロぐらいあって長いんですけど、それでも国内で300メートルは結構長い橋です。長い木の橋って木の長さが長いっていうのと、長生きできる橋みたいなそういった意味もあるらしくて・・・長生きの橋ですね」

●長〜い木の橋、長生きの橋!

「そうです。長生きの橋みたいな、そこもちょっと面白いかなと思いますよね」

水没する橋!?

●あと沖縄県の「シールガチ橋」、こちらは「海にかけられた不思議な橋を見に南の島へ行く」というふうに書かれていましたけれど、久米島なんですね?

写真協力:吉田友和

「久米島ですね。満潮の時に(橋が)水没しちゃうんですよね。潮が引いている時にしか歩いていけないみたいなところです」

●橋の一部が水没するということですね?

「そうですね。水没してそこだけ陸につながらなくなってしまうので、何て言うんですかね・・・『モンサンミッシェル』みたいな感じですよね」

●タイミングを見て渡るっていうことですよね?

「そうですね。タイミングを見て渡る感じで、干潮時も岩場だったりして、歩いても結構大変なところではあるんですけど、橋に着くまでが冒険みたいな感じですよね」

(編集部注:吉田さんによると、特に珍しい橋として「日本三奇橋」といわれる橋が3つあるそうです。諸説あって、山梨県の珍しい構造の「猿橋(さるはし)」と山口県の木造の橋「錦帯橋(きんたいきょう)」は、どの説にも入っているそうですが、あとひとつはいろいろあって断定できないとのこと)

旅行プランは地図アプリ!?

※橋の名前で、これはいいネーミングだな〜と思った橋はありますか?

「ネーミング、そうですね・・・『ニライカナイ橋』というのが(沖縄の)本島にあります。ニライカナイというのは、沖縄で“理想郷”みたいな意味の言葉だそうなんです。

写真協力:吉田友和

 名前からして素敵ですし、沖縄って絶景もすごく多いと思うんですけど、そこはかなり私、個人的に沖縄で1、2を争う好きなスポットですね。海に向かって橋が伸びていて、ちょっと(橋が)カーブしていて美しい曲線を描いているみたいなところなんですよ。なので、晴れた天気のいい日に行くと、海をバックに青い空に橋が伸びているみたいな写真が撮れたりして、すごく素敵なところですね」

●お目当ての橋の情報は、どうやって集めるんですか?

「地図を見るのが好きで、地図アプリですね。地図をいろいろぐるぐる動かして拡大とかしていくと、たとえば半島とその先の小島の間に橋がかかっていたりとかわかるじゃないですか。“ここは橋でつながっているんだ”とか、そういうのがわかったりして・・・大きな湖にやたら長い橋がかかっているのを見つけたりとか、そういうきっかけがいちばん多いですね。そこから、気になったら細かく調べていく、みたいな感じですね」

●地図アプリを見て、それをもとに橋旅のプランを立てるっていう感じなんですか?

「そうですね。やっぱりどこの橋に行くかっていう、橋ありきではあるので、橋の所在地がわかったら、そこにどうやって行くのか、そこに行ったらほかにどんな楽しみ方ができるのか、どんな美味しいものがあるのかとか、そういうのを調べていくと、橋だけではなくて、ほかも含めて旅のプランってできていくのかなっていうふうに思います」

見た目が素敵、渡って楽しい

※橋旅は、その土地の文化や歴史を知るきっかけにもなりますよね?

「そうですね。きっかけは“橋”なんですけど、実際その地に行ってみると、ほかのものにもいろいろ興味がわいてきて調べたりもします。やっぱり橋だけではなくて橋を含めて、その土地や街のことを知るいいきっかけになるのかなとは思っています」

●橋の大小にもよると思うんですけど、渡り切った時とか渡っている最中にどんなことを考えているんですか?

「そうですね・・・橋旅に行く時って最初にまず橋にいきなり行くんですよ。いちばんのメインのテーマなので、それを逃しちゃいけないって、最初に行くんですよね。なので、渡り終わってお腹が空いていたりとかすることが多くて(笑)、じゃあ何を食べようかなみたいな・・・無事にミッション達成! みたいなところがあるので、渡り終えて打ち上げじゃないですけど、その土地の美味しいもの食べに行ったりとかっていうふうになりますね」

●吉田さんが思う“いい橋”ってどんな橋ですか?

「やっぱり見た目が素敵なのと、渡って楽しい! このふたつかなと思いますね。両方満たしている橋は、なおいいかなっていう・・・」

●吉田さんにとって「橋旅」とは?

「先ほども話が出ましたけど、橋だけではなくて橋のある街を旅するきっかけになって、結果的にその街を好きになったりとか、その土地のことを詳しくなったりとか、興味を持ったりとかっていうことがあるので、橋だけじゃなくて旅であるので、旅のひとつのテーマとして、自分の中ではすごく熱いテーマかなというふうに思っています」

『橋旅のススメ!』

●著者として新しい本『橋旅のススメ!』で、改めてどんなことを伝えたいですか?

「橋によっては、橋自体で観光地化していて名所になっているようなところもあるんですけど、割と今回の本では特に観光地ではないような橋も取り上げています。そういうところって昔から地元に普通にあって、地元のかたにとっては見慣れた景色みたいな感じだと思うんですけど、意外とそういうところは面白かったりするので、日本の各地にある橋が実は面白いっていう視点が、少しでも伝わればいいかなというふうに思っていますね」


INFORMATION

『橋旅のススメ!』

『橋旅のススメ!』

 この本では日本全国の橋を巡る旅の中から、30の橋旅を紹介。橋そのものの魅力はもちろん、街の名物やグルメなどの情報も載っていて、橋旅を体験しているような感覚になると思いますよ。この本を参考に、あなたも「橋旅」に出てみませんか。

 産業編集センターから絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎産業編集センター:https://book.shc.co.jp/22052

 吉田さんのオフィシャルサイトもぜひ見てください。

◎吉田友和:http://tomotrip.net

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