2026/2/22 UP!
◎本田優一郎・谷藤万喜子(音楽ユニット「ホラネロ」)
『地域と人のストーリー「ジオミュージック」〜「心の糧」を作りたい』(2026.2.22)
◎加瀬里紗(北海道・羅臼町「加瀬漁業」)
『北海道・羅臼のために〜羅臼昆布に惚れ込んだ漁師の挑戦』(2026.2.15)
◎鈴木浩大(絶景温泉探検家)
『知られざる 世界の絶景温泉を求めて、辺境秘境を探検!』(2026.2.8)
◎奥田悠史(森林ディレクター/株式会社「やまとわ」取締役)
『「森をつくる、暮らしをつくる」〜森林ディレクターの挑戦』(2026.2.01)
2026/2/22 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、北海道・北東部・オホーツクエリアにある遠軽町(えんがるちょう)を拠点に活動する、ギターとフルートの音楽ユニット「ホラネロ」の本田優一郎(ほんだ・ゆういちろう)さんと、谷藤万喜子(たにふじ・まきこ)さんです。
おふたりはご夫婦で、ともに東京学芸大学を卒業後、東京で、ご主人の本田さんはギタリストとして、宇多田ヒカルやアルフィー、大黒摩季ほかの編曲、そしてライヴのメンバーとして活躍。
奥様の谷藤さんは、東京藝術大学大学院を経て、将来を嘱望されるフルート奏者として、首都圏を中心にオーケストラやリサイタルなど、様々なステージで活躍されていました。
きょうはそんなおふたりに、北海道に移り住んだ理由や、独自の音楽「ジオミュージック」、そしてヒグマの骨で作った笛のお話などうかがいます。
☆写真協力:オホーツク音楽工房

遠軽町、黒曜石、四季折々の魅力
※ホラネロは、2012年に遠軽町に移住したタイミングで結成。ユニット名の由来は、東日本大震災のあと、福島県双葉町の避難所でチャリティーコンサートを行なった時に、谷藤さんが大好きな福島の子守唄「ホラねろ ねんねろ」を演奏したのがきっかけ。
実はこの子守唄を、地元福島の人たちも、あまり知らないことがわかり、ならば、多くの人に知ってほしい、そして震災のことも忘れないでほしい、そんな思いがあったそうです。
命名したのは、本田さんと親交があるシンガーソングライターの樋口了一さん。北海道の人気テレビ番組、大泉洋さん出演の「水曜どうでしょう」のエンディング・テーマ「1/6の夢旅人2002」を歌っているかたなんです。
●東京で活動されていたおふたりが、北海道に移住されたのは、どうしてなんですか?
谷藤さん「きっかけは夫の本さんなんですよ。当時子供が5歳と8歳で、まだやんちゃな盛りですけど、“自然の中で伸び伸び子育てしたいね!”ってなって、私の実家がある遠軽町に引っ越したんです。
祖父母が住んでいた家を両親が心よく、“使っていいよ!”って言ってくれたのも背中を押してくれました。今は三世代で行き来も出きて、毎日楽しいです」
●本田さんご自身は東京のご出身ですよね?
本田さん「そうですね、はい」
●都会育ちですと北海道での生活は、がらっと変わって、最初は大変だったんじゃないですか?
本田さん「そうですね。移住したのがちょうど1月2日、お正月だったので、冬の真っ只中でした。
(北海道の)雪景色は見たことがあるんですけれども、実際に(遠軽町の雪に)触ってみると、東京の雪とは全然違ってサラサラと手からこぼれ落ちて、その上を歩いてみると片栗粉を踏みしめたような音が鳴ってすごく新鮮でした。
新しい土地での生活は戸惑うっていうよりも、わくわく感に満ちていました」

●そうだったんですね。現在暮らしていらっしゃる遠軽町は、どんな町なんですか?
谷藤さん「ここは出身の私からお話したいと思います。人口は1万8千人に満たないくらいの小さな町なんですけど、旅の拠点としては結構、面白い町です。
2023年に、白滝という市街地から離れた小さなエリアがあるんですけど、そこから出た黒曜石の石器が日本最古の国宝として話題になったりですとか、あと秋には町民がみんなで手入れして作るコスモスの畑、1千万本咲いているんです」
●すごいですね!
谷藤さん「(コスモスの花を)数えたことはないですけど(笑)、そういうものが見られたり・・・あと、鉄道好きのかたでしたら、動態保存っていう実際に乗れる森林鉄道『雨宮21号』っていうのがあって、それに乗れたりですとか、JRの遠軽駅はスイッチバックでも有名なのでJRの旅もおすすめです」
●この時期は寒さが厳しいんじゃないですか?
「はい、もう流氷が来ています」
●そうですか。遠軽町を訪れるとしたら、いちばんのおすすめの季節はいつになりますか?
谷藤さん「あ~迷いますね・・・本さん、どうですか?」
本田さん「う~ん、北海道はすごく自然がいっぱいあるので、春来たら春の素晴らしい自然がありますし、夏は夏でまたキャンプなんかも楽しめますし、秋は先ほど言っていたコスモスが咲き乱れますし、冬はやっぱりスキーとかスノーボードとか、四季折々楽しめると思います」
●それぞれの良さがありますよね。
本田さん「そうですね」

●本田さんは、自然ガイドとしても活動されているんですよね?
本田さん「そうですね。遠軽町の『白滝ジオパーク』で、先ほど話題に出ていた、ホラネロの曲の題材にもなっている黒曜石、そのジオガイドとして活動しています」
●具体的には、どんなことをやっているんですか?
本田さん「普段は入れない国有林の山に黒曜石の露頭(ろとう)、いわゆる露出している所があるので、そこにバスでお客様をご案内して、黒曜石の成り立ちだったり、遠軽町のいいところをちょっとご紹介して、最後には僕らホラネロの、黒曜石を題材にした曲も聴いていただいたりもしています」
場所と人、出会いから生まれる「ジオミュージック」
※ホラネロのオフィシャルサイトを見ると、音楽のコンセプトとして「ジオミュージック」を掲げていらっしゃいます。この「ジオミュージック」とは、どんな音楽なんですか?
谷藤さん「私たちが自分たちで名付けた音楽のジャンルなんです。自然が豊かな場所に住んでいると見渡すだけで、いろんな魅力が目に飛び込んでくるんですね。暮らしている人も本当に素敵で、そういう場所とか人との出会いを音楽にしているのが『ジオミュージック』です。
ここに住む子供たちにも、自分が暮らしている場所っていいところだな~って感じてもらえたら嬉しいですね。そういった身近な人に喜んでもらえる音楽を届けたいっていう気持ちもあります。
この土地には農家さんですとか漁師さんのように、『命の糧』を作っている人がたくさんいますので、私たちはミュージシャンとして『心の糧』を作れたらいいなって、そういう音楽を『ジオミュージック』って呼んでいます」
●心の糧、素敵ですね!
谷藤さん「ありがとうございます」
●自然からのインスピレーションも大事にして、音楽を作られているっていうことですか?
本田さん「そうですね。自然音を曲にしていると、面白い音とか珍しい音を集めている人っていうふうに思われがちなんですけど、実はそうではないんですね。
インスピレーションは自然からではなく、人との出会いから得ています。各々の土地に根ざした仕事とか文化、いわゆる風土に根差して暮らしている人たちのお話はとっても面白くて、それを音楽を通して発信しています」
●具体的にどんなことに感性を刺激されますか?
本田さん「そうですね・・・今お話ししたようにそれぞれの土地で頑張っている人たちの話を聞くと、やっぱりそれを誰かに伝えたい! って思うんですね。僕らは音楽を創れるので、その音楽を通して、その土地土地のストーリーだったり、その人たちの物語を音楽に乗せるという形を取っています」
●自然だけじゃなく、人との出会いも大切にされているんですね。
本田さん「そうですね。人と出会わないと曲は作れない。なので、そんなにたくさん曲が作れるわけではないんですけれども、今まで出した(アルバム)6枚はすべてに、北海道に移住してからの人との出会いが詰まっています」
ヒグマの骨笛、世界初の試み
※ホラネロのオフィシャルサイトに「音探し遠足」という企画がありました。これはどんな企画なんですか?

谷藤さん「例えば、私がヒグマの骨笛を吹く『ヒグマのうた』っていう曲があるんですけど、曲を作る時に知床ウトロ学校の小学生たちと森に入って、音探し遠足をしたんです。
これは当時の校長先生の提案で授業としてやったんですね。ガイドさんに案内してもらって、クマの巣穴とか木に付いた爪痕なんかを見ながら、クマ追いの“ほいほ~い”っていう声を張り上げながら歩くんですよ。
断崖の上ではオホーツクの波の音を聴いたり、トドが泳ぐのが見えたり、あと草原で大きなオスジカに会ったりもしました。
時期が11月頃だったので、落ち葉を踏むとシャリシャリとした音とか、倒木を木琴みたいに叩く音を集めて、その場で本さんがすかさず録音するんです。木の実がいい音がするので、これもマラカスにしたりもして、そうやって集めた音で森の豊かさを曲にしました」
●先ほどもお話ありましたけど、ヒグマの骨、サイトにその骨笛の写真が載っていました。見た目はオカリナのような感じですよね?

谷藤さん「そうですね。みなさん、よくそうおっしゃいます」
●ヒグマのどの骨というか、どういった状態からオカリナのような形になるんですか?
谷藤さん「私が吹いている笛は、上腕骨の一部になります。切り出して作ったんですけど、尺八奏者の父が短い尺八の構造として作ってくれたんです」
●へぇ~っ! 尺八を私もちょっと趣味で吹くんですけど、穴は5つですね? で、その構造とオカリナの構造が似ているんですか?
谷藤さん「オカリナとは、実際の構造はちょっと違うんですけど、ヒグマの骨笛の場合は尺八より短いので、いちばん下の部分、音が下から抜けていくところがあるじゃないですか。あそこを手で塞いで(音を)出すと、それがオカリナの音により近くなるので、“まるでオカリナを聴いているみたいね”ってよく言われます」
(*ここで谷藤さんにヒグマの骨笛を吹いていただきました)
●わぁ~、すごくいい! 素敵なきれいな音色ですね。
谷藤さん「ありがとうございます」
●最初から、いい音って出たんですか?
谷藤さん「いえいえ! 猛練習しました!(苦笑)」
●(笛の)加工は尺八奏者のお父様がいろいろやってくださったんですか?
谷藤さん「そうですね、はい」
●練習に練習を重ねて、今のような音が出せるようになったという感じなんですね?
谷藤さん「はい。ドレミファソというか、音階を出せるように作ったわけではなくて、とりあえず作ってみようという世界初の試みですので、出来るまで本当に指使いもわからないし、“とりあえず吹いてみよう!”って言って、父とふたりで試行錯誤しました。父から預かって、しばらく私が練習していたら、“ドレミファソ”まで出たんですよ(笑)」
●すごい!
谷藤さん「なので、そのドレミファソでできる曲を作ろうということで、本さんと作り込んでいったのが『ヒグマのうた』です」
(編集部注:ヒグマの骨は、ご縁があった、知床財団の元事務局長で、ヒグマ研究の第一人者「山中正実(やまなか・まさみ)」さんから、ご好意でいただいたそうです。谷藤さんの、世界自然遺産の知床の森の豊かさを、ヒグマの骨を笛にして表現したいという思いに応えて、たまたま山中さんのご自宅にあった骨を1本、いただけることになったそうですよ。

ほかにも「オオイタドリ」という植物の茎をもとに、谷藤さんご自身が作った笛も吹いていただきました。この音色も素敵でした。谷藤さんがおっしゃるには、材料はただで手に入るので、オオイタドリの笛を広めて流行らせたいとのことでした)
「アバリ」〜漁師の伝統・技術
※2024年に発表されたアルバム『ECHOES』には、ヴォーカル入りの曲が2曲収録されています。「アバリ」そして「北のひかり」という曲ですが、これはもともとはインストだったんですよね?
本田さん「そうですね。いわゆる自然音とか漁船の音を取り入れたインスト曲でした」
●インストだったものに、なぜヴォーカルを入れようと思われたんですか?
本田さん「歌にすると間口が広くなって、いろいろなかたに届けやすいのではないかと思って、ヴォーカル入りの曲にしてみました」
●歌っていらっしゃるのは、どなたなんですか?
本田さん「KAZUMIさんというかたで、北海道の江差に住んでいらっしゃるかたなんですけども、江差追分(えさしおいわけ)のチャンピオンです。以前、僕は一緒にツアーでまわったことがありまして、それで知り合って、僕が北海道に移住してきたので、また連絡を取り合うというような仲になりました」
●曲名の「アバリ」というのは、どういった意味なんでしょうか?
谷藤さん「これは私も知らなかったんですけれども、“網の針”と書いて『アバリ』って読むんです。実は私、小さい頃、雄武(おうむ)という町で暮らしていたんですけど、鮭漁が盛んな町で、雄武漁協のみなさんに協力していただいて、定置網の手入れ作業や早朝の漁に同行させてもらいました。
今は消耗品として買って済ませることもできる網なんですけど、雄武漁協では伝統技術を残すためにできるだけ手作業で加工して、あと直したりもしているんですね。
私たちは漁師さんって荒波の中で豪快にっていうイメージがあったんですけど、最初の取材で、黙々とアバリ、針を手に持って動かして糸やロープを編む、すごく繊細な作業風景にびっくりしました。
で、こういった大切な文化を受け継ぐ活動を知ってほしくて、タイトルを『アバリ』にしました」
●この曲はイントロがエンジン音から始まりますけれども、船のエンジンっていうことなんですよね。
谷藤さん「そうです。曲自体、港で船がエンジンをかける、その音から始まって、あと水揚げする時のクレーンの音、鎖の音、そんなものがリズムになっていきます。あと鐘の音が入っているんですけど、“号鐘(ごうしょう)”って聞いたことあります?」
●ごうしょう???
谷藤さん「号鐘、これは一部の漁船には付けなくちゃいけない決まりがあって、その鐘を鳴らすことで漁師さんの命を守るというか、危険を知らせたりする信号のようなものです。
そういった音も入っていたり、あとベース音のように聴こえるのが、実は船のエンジン音という作りです。地域学習では子供たちもこの漁を体験しているって聞いたので、曲の中盤では子供の声も入っていて、なおかつ全体としては結構力強い曲に仕上がっていますね」
たくさんの出会いを求めて
※地域に根ざした音楽づくりに取り組んで、10数年が過ぎたと思います。今後も音楽家としてのスタンスは変わりませんか?
谷藤さん「そうですね。音楽家としてって言えるかは、ちょっとわからないんですけど、地域の魅力は意識して感じようとしないと、案外見えてこないと思うんですね。
なので、やっぱりさっき言ったように日々の暮らしの中の出会いとか、小さな幸せとか風景とか、そういうのを全力で楽しもう! っていうふうに意識しながら暮らしていくことを続けていきたいですね」
●ジオミュージックの新しい展開というのはありそうですか?
谷藤さん「これも毎日の暮らしの中で、わ~っと感動する瞬間があれば、そこでまた新しいジオミュージックが生まれると思うので、たくさんの出会いを求めていきたいなと思います」
●では最後にホラネロの音楽を通して、どんなことを伝えていきたいですか?
谷藤さん「地域ならではの人の営みですとか、自然の豊かさとか、そういう魅力を音で伝えていきたいっていうのが、ホラネロのジオミュージックなんです。
聴いてくれた地元のかたが故郷をもっと好きになってくれたり、ほかの地域のかたが行ってみたいな、暮らしてみたいなって思ってくれたりしたら、すごく嬉しいです」
●本田さんはいかがですか?
本田さん「地域の魅力、自分たちが今住んでいる場所の魅力っていうのは、自分たちがまず楽しんでいかなければ、次の世代には伝わらないと思うので、まず自分たちが楽しんで、そしてそれを子供たちに伝えるというよりは、僕らの姿を見て、自分たちが住んでいるところは、こんなに面白いことがあるんだとか、この人たちはそれを面白いと思っているんだって思ってもらって、それが彼らのアイデンティティを育むきっかけになればと思っています」
INFORMATION

今回は、おもに2024年発表のアルバム『ECHOES』から楽曲をお届けしました。このアルバムには、日本の音楽史に残る坂本九さんの名曲「見上げてごらん夜の星を」と「上を向いて歩こう」のカヴァーが2曲、収録されています。どんなインストに仕上がっているのか、ぜひ聴いてみてください。
ホラネロはこれまでに『ECHOES』を含め、アルバムを6作発表しています。CDはオフィシャルサイトのオンラインショップから購入できますよ。
ライヴ情報としては、4月12日、北海道滝川市の「ホテルスエヒロ」での公演が予定されています。アルバムやライヴ情報など、ぜひオフィシャルサイトをご覧ください。
◎ホラネロ:https://www.horanero.com
2026/2/22 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. 1/6の夢旅人2002 / 樋口了一
M2. ECHOES / ホラネロ
M3. HEART OF THE COUNTRY / PAUL & LINDA McCARTNEY
M4. ヒグマのうた / ホラネロ
M5. Can You Keep A Secret? / 宇多田ヒカル
M6. アバリ / ホラネロ
M7. モリノオト / ホラネロ
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2026/2/15 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、北海道・羅臼町(らうすちょう)で、羅臼昆布漁師のご主人と一緒に「加瀬漁業」を営んでいらっしゃる「加瀬里紗(かせ・りさ)」さんです。
加瀬さんは札幌のご出身で、青山学院大学を卒業されたあと、就職されたということなんですが、そんな加瀬さんが、なぜ羅臼で漁業に従事するようになったのか・・・。
きょうはそのあたりのいきさつや、加瀬さんが惚れ込んだ、旨みたっぷりの羅臼昆布の特徴のほか、地元の浜にオープンした一棟貸しの宿、そして知床・羅臼の海への思いなどうかがいます。
☆写真協力:KOBUSTAY合同会社

羅臼町の浜の活気
※加瀬さんが暮らしていらっしゃる羅臼町は、北海道の北東の端にある、世界有数の漁場を誇る人口4300人ほどの町です。長さがおよそ70キロの知床半島を、斜里町(しゃりちょう)と二分し、根室海峡の沖合、26キロほどの距離に北方領土の国後島(くなしりとう)が一望できる、そんなロケーションにあります。
ちなみに、知床半島は2004年に世界自然遺産に認定されています。
羅臼町は漁業の町で、羅臼昆布を始め、エゾバフンウニ、シャケ、スケトウダラ、ホッケなどは羅臼ブランドとして国内外で高く評価されています。
また、野生動物をベースにした観光業も盛んで、マッコウクジラやシャチなどを見るホエールウォッチングや、絶滅危惧種のオオワシやオジロワシも観察できる、貴重なエリアとして注目されています。

●大学を卒業後、就職するも1年ほどで退職されたそうですが、そのあと、どういう経緯で羅臼で漁業を営むことになったのか、教えていただけますか?
「私、生まれも育ちも北海道札幌市で、大学の時に東京に出て、そして初めての就職で大阪に出たんですけど、どんどん北海道から離れていくたびに、故郷の素晴らしさを改めて感じるようになって、いつかは自分の故郷である北海道に戻って、北海道を盛り上げる地域振興の仕事に就きたいなっていうのを、大阪にいた時に特に感じるようになりました。
町づくりとか地域振興の仕事は、どちらかというと民間ではなくて行政がやるんだろうなっていうのを当初思っていて、そんな中、今住んでいる羅臼町の観光協会事務局長の公募があったんですね。その公募を見て、年齢も不問、経験も不問っていう一般公募を見つけて、これがやりたい! と思って、応募したのがここに来たきっかけです」
●当時、おいくつだったんですか?
「当時25歳でした」
●ご主人の加瀬基敏さんとは、その観光協会のお仕事で知り合ったんですか?
「そうなんです。羅臼町は基幹産業が漁業の漁師町なんですが、私の観光協会での仕事が、基幹産業である漁業を軸とした滞在型の観光にシフトしていこうということでした。
そういったミッションの中で、まずは体中でこの見知らぬ土地の漁業を知らないと、滞在型の観光プログラムの開発ができなくて、まずは漁師さんの船に乗せていただいたり、浜を歩いたりして・・・っていった時に、何人か漁師さんのお友達ができました。その中のひとりだったっていうのが出会いのきっかけです」
●やっぱり漁師さんや漁業は、羅臼町の魅力ですよね。
「そうですね。この浜の活気に、自分がいちば感動したので、そういったことをここに来られるかたにも共有したいなっていう、それは20年経った今でも毎日思っているところです」
(編集部注:日本全国、漁師さんの高齢化や後継者不足が問題になっていますが、加瀬さんにそのことをお聞きしたら、羅臼には若い漁師さんも多く、移住してくるかたもいるので、まだまだ活気があるとのことでした)
天日干しの伝統製法、出汁は黄金色
※加瀬さんが惚れ込んだ「羅臼昆布」について教えてください。ほかの昆布にはない特徴はなんでしょうか?
「北海道には約7種類ほどの素晴らしい昆布があります。利尻昆布、日高昆布、真昆布、長昆布などなど、素晴らしい昆布がある中で、羅臼昆布の特徴をあげると、まずひとつが非常に生産工程のプロセスが多いことが挙げられます。
お店とか空港でよく見られる、袋に入ったようなパッケージになるまでに、20を超えるような工程を経て、あの形になっているんですね。なので、工程がほかの昆布よりも非常に多いのが、まず大きな特徴のひとつです。
もうひとつが熟成期間、熟成でうま味を引き出す工程があります。実際に出汁を取ると黄金かかった、ちょっと黄金色の黄色い出汁が取れます。味わいは非常にパンチのある濃い出汁で、それが羅臼昆布の特徴です」

●加瀬漁業では、採れた天然の羅臼昆布を天日干しにする伝統的な製法がこだわりなんですよね?
「はい、そうですね。まだ数軒ほどやっているかと思うんですが・・・130人の漁師の中で天日干しをしている漁師は、おそらく3〜5軒ぐらいに減ってしまっています。
私どもは二代目の漁業者なんですね。先代の夫のご両親が50年前に開業して、昔ながらの製法を守って、10年ほど前に二代目である私たちの経営になったんです。やはり先代の昔ながらの製法は変えてはいけないなっていうのはあって、なるべく昔ながらの製法で、たとえ一軒になっても残していきたいなって思っています」

●出荷できる羅臼昆布になるまでには、どれくらいの日数がかかりますか?
「まず採取する漁期は、7月中旬から8月いっぱいの、だいたい1ヶ月半ほどの短い漁期なんですね。そのあと、お土産屋さんに並んでいるような製品にするには、あと1ヶ月半ほどかかるので、トータルで毎年3ヶ月ほど、思いを込めて大切に昆布を生産しています」
昆布漁、竿と箱眼鏡
※羅臼昆布は浅い海の岩場で育つんですよね?
「そうですね。浅いところでは1メートル、いちばん深いところで10メートルほどの水深で、漁師さんは漁具を使って採集しております」
●いい昆布が育つ条件を教えていただけますか?
「とてもいい質問ですね。この羅臼昆布の美味しさは・・・まずひとつは流氷のお陰ですね。北半球で流氷が到達する最も南の地域がここ羅臼町、根室海峡なんですね。
その流氷が抱くプランクトンが春先に、流氷が溶け出すとともに爆発的に増殖します。そのプランクトンを食べる小魚が集まって、その小魚を食べる魚が集まって、それを食べる鯨類、大型のシャチやクジラなどが集まる、豊かな生態系を育む海なんです。
羅臼昆布にとっても非常にミネラル豊富な、流氷がもたらす栄養分豊富な海域であることが、羅臼昆布の旨みを引き出す環境なんじゃないかと言われております」

●1回の漁では、どれくらいの昆布が採れるんですか?
「そうですね・・・時期にもよるので、いろいろあるんですけれども、だいたい1000枚〜2000枚、1日に水揚げしています」
●どういう方法で採るんですか?
「ひとり乗りの、船外機と呼ばれるモーター付きの小さな船で出漁します。昆布漁師はここに130人ほどおります。

で、130隻の船が一斉に出漁して、先ほど水深が1メートルから10メートルで採れることもお伝えしたんですが、昆布を採る長いスティック状の竿という漁具を使って巻き取って採っていきます。
船の上から水深に合わせた長さの棒状の竿をさして、その竿の先は二股状になっているので、そこにスパゲッティを・・・そんなに簡単じゃないよって、夫によく怒られるんですけど(笑)・・・ぐるぐるとスパゲッティを絡めるように昆布をねじり上げて、船の上にあげるっていう漁法です」

●でも船は波で揺れていますから、揺れる船の上で昆布を採るのは大変な作業ですよね。
「そうなんです。そのほかにもひとつ大事な漁具があって、箱眼鏡と呼ばれる水中の昆布を探す眼鏡があるんですね。それを水面から覗いて・・・底はガラスが貼ってあるんですけれども、等級のいい昆布を探して、狙ったところに竿をさして、ねじり取るわけなんです。
その漁具も、やはり両手で竿を持たないといけないので、中にあるマウスピースを歯で噛んで箱眼鏡を固定して、波にも負けないように歯で食いしばって(昆布を)巻き取っていく、本当に体力のいる仕事かなと思います」

貸し切り宿「KOBUSTAY」、町のために
※加瀬さんは、去年2月に羅臼の浜に1日ひと組限定の素泊まり貸し切り宿「KOBUSTAY(コブステイ)」をオープンされました。
開業した理由をお聞きしたところ、10年前、先代から漁業権を引き継いだ頃は、3人の子供の子育てと家業を覚えるのに必死だったそうですが、少し余裕が出てきた5〜6年前に、時を同じくして、北海道・知床の海が温暖化の影響で海水温が上がり、冷たい海を好む昆布に、根腐れや生育が芳しくないなどの影響が出始めたそうです。
いつまで昆布漁など、海に依存する漁業を続けられるか、日に日に不安と心配が募った加瀬さんは発想を転換。採ってなんぼの漁業ではなく、新たな価値を生み出すために一大決心! ご主人を説得し、昆布倉庫をリノベーション。2階をキッチンやバスを完備した宿泊できる部屋に、1階を漁師の作業場所 兼 ワークショップのスペースに作り替え、「KOBUSTAY」という名前をつけてオープンされました。


開業して1年、当初、加瀬さんは国内から家族連れが多く滞在すると見込んでいたそうですが、蓋を開けてみるとなんと、7割近くが海外からのお客様で、連泊されるかたも多いとのこと。
●貸し切り宿「KOBUSTAY」は目の前が海という最高のロケーションに加え、加瀬さんが羅臼で採れる、いろんな食材を用意するという、心のこもったサービスをされているんですよね?
「素泊まりの宿なんですけれども、やはりここは漁師町なので、その時の旬の魚を切り身にして冷蔵庫に入れて、あとはお米とか卵も、旅先ですから、余って持って帰れないので、人数分の必要最低限のものを入れさせていただいます。
私だったら嬉しいなっていうことを常に思いながら、ゲストに合わせてご準備しています」

●例えば、おすすめのレシピとかってありますか?
「どのゲストにも、羅臼昆布をどうぞご自由に使ってくださいって、ぽんと置いてあるんですね。なので、普段の炊飯でも羅臼昆布をぽんと入れて、一緒に炊飯したりですとか、あとはお味噌汁ひとつでも羅臼昆布を使っていただいたりですとか・・・。
特に難しいことは、漁師飯ですから手を加えずに、魚は今だったらスケトウダラ・・・冬はスケトウダラの鍋に羅臼昆布を入れてもらったり、秋だったら鮭の切り身を入れてみたり、漁師飯は美味しいですから、シンプル・イズ・ザ・ベストで、羅臼昆布を軸に漁師飯を楽しんでもらいたいなと思っています」
●滞在中には、いろんな体験もできるんですよね?
「はい、最近、結構人気なのが、昆布の職人体験とか、昆布漁のレクチャーをしながら、実際の漁具に触れてもらいながらっていうような・・・本当に少人数の極上体験を提供しているんですね。

そのほかに昆布だけじゃなくて、羅臼町の魅力を発信していけるような拠点になりたくて、私が鮮魚市場にガイドとして付いて、毎日水揚げされるいろんな魚を近い距離感で、本物の競りような臨場感ある市場の見学もとても人気なので、食のみならず、町全体のなかなか入れないような領域にも、みなさんお連れしてご案内しています」
●改めてKOBUSTAYを、どんなふうに活用してもらえたら嬉しいですか?
「私も移住者なので、自分の感動がいらっしゃるかたの感動と重なる瞬間は、たまらなく面白いというか・・・なんて言うんですか・・・私の『いいね』をいいねしてもらえると、なんかすごく嬉しいっていう感覚なんですね。
ここのKOBUSTAYは、泊まれても1名から6名までの小さな宿泊施設なんです。来訪者にとってというよりは、地元のかたにとって、こういう宿があったらいいなっていう話をさせていただくとすると、やはり漁業者でも漁業をやりながらでも、こういったゲストハウスはできるので、できるってことを地元のかたにもっともっと広めたくて・・・。
採れなくなったから町を出なきゃならなくなったとかじゃなくて、こういう道もあるんだ、漁師でもこういうことができるんだっていうのを、ひとりでも多くの人と、得た知見をすべて共有したいと思っています。
みんなでやればいいなっていうのは思っているので・・・ただ説得力を増すためにちょっとまだ時間が必要ですけれども・・・そういうひとつの手本っていうか見本になれれば、もっともっと町は活気づくんじゃないかなって思っています」
羅臼の豊かな海に感謝
※羅臼に移住されて、どれくらい経ちましたか?
「ちょうど18年ですね。早いもので・・・」

●羅臼の海、そして自然にはどんな思いがありますか?
「そうですね・・・本当に365日、1日も同じ表情がなくて、猛吹雪の時は出られない日ももちろんあるんです。知床の厳しい環境を毎年感じるんですね。
吹雪で出られない日もあるんですけれども、次の日にはスカ〜ッと青空が広がって、国後島から陽が登って・・・っていうことで、やっぱり1泊では味わえない地域なんですね。
なので、2泊以上の連泊で、いろんな表情の羅臼を感じ取ってもらいたいのと、やはり私たちがこのように漁業をやらせてもらったり、貸し切り宿をさせてもらえてるのは間違いなく、自分たちがすごいんじゃなくって、羅臼の懐の深さがすごいのであって、羅臼の力を少しお借りして・・・。
変わらない景色っていうんですか・・・人口とかどんどん減ってきているんですけれども、知床の野生動物や、変わらない景観、暮らしに生かされているっていうことを忘れずに、この豊かな海の力を借りて開業しているっていう、本当に改めて感謝しているところです」
INFORMATION
加瀬さんは、ぜひ羅臼に来て、昆布洗いを体験するなど、どんなふうに羅臼昆布を生産しているのか、漁師の生活も含めて見てもらい、その上で現地で昆布を購入していただくと、きっと美味しさもひとしおになるでしょうとおっしゃっていましたよ。

加瀬さんが羅臼に開業した貸し切り宿「KOBUSTAY」は、目の前が根室海峡という素晴らしいロケーションにあります。どんな宿なのか、ぜひオフィシャルサイトを見てください。羅臼昆布を始め、加瀬さんおすすめの食材で「漁師飯」を作って、ぜひ味わっていただければと思います。
宿泊のご予約はオフィシャルサイトから、どうぞ。
◎KOBUSTAY:https://kobustay.com
2026/2/15 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. KNOCKIN’ ON HEAVEN’S DOOR / BABYFACE
M2. TAKE ME HOME COUNTRY ROADS / OLIVIA NEWTON-JOHN
M3. NOW AND THEN / BLACKMORE’S NIGHT
M4. OCEAN EYES / BILLIE EILISH
M5. 大空と大地の中で / 松山千春
M6. LOVE, LOVE, LOVE / DONNY HATHAWAY
M7. GREATEST LOVE OF ALL / WHITNEY HOUSTON
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2026/2/8 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、絶景温泉探検家の「鈴木浩大(すずき・こうだい)」さんです。
もともと旅好きだった鈴木さんは、大学生の頃に北海道を車で一周。その時に温泉にハマり、日本全国の温泉を巡るようになったそうです。ところが2000年頃には、国内に行きたい温泉がなくなってしまったそうですが、折しもインターネットの時代が到来、海外の知られざる温泉に目を向けるようになったということです。
そして、世界の辺境秘境にある秘湯を探しあて、これまでになんと! 51カ国1250カ所の知られざる温泉を巡った、唯一無二の温泉探検家なんです。
「絶景温泉探検家」という肩書きは、2023年に初めて本を出す時に出版社のかたが命名。気に入って、そう名乗るようになったとのこと。
「絶景温泉」というのは、鈴木さんがおっしゃるには、温泉からの「眺め」だけでなく、温泉そのものの形や色彩が素晴らしく、また、ほかでは見られない変わった温泉も含め、広い意味で「絶景温泉」と呼んでいるそうです。
きょうは、そんな鈴木さんの新しい本『日本人が知らない 世界の温泉探検録』をもとに、温泉大国フィジーやマダガスカルの凄すぎる温泉、そして水上飛行機をチャーターしてまで行ったカナダの島の温泉など、温泉探検の数々をご紹介します。
☆写真:鈴木浩大

温泉大国フィジー、人が頼り!?
※鈴木さんの新しい本『日本人が知らない 世界の温泉探検録』には、ヨーロッパを除く各大陸から8つの温泉旅が紹介されています。その中から番組で選んだ温泉旅についてうかがっていきます。
まずは、オセアニア編。南太平洋の島国フィジーは、知られざる温泉大国と書いてあります。たくさん温泉があるんですか?
「はい、南太平洋の国々もそうですし、カリブ海とかエーゲ海の国々もそうなんですけれども、島がいっぱいあるところは火山島であることが多いんですよね。フィジーは何十もの島で温泉が湧いているんですけれども、温泉を目的にフィジーに行く人ってあまりいなくて、リゾートアイランドっていうような所ですから・・・。
私は洋書の古書っていうか、古い洋書をインターネットで検索していることが多いんですね。1960年代に書かれた『フィジーの地熱と温泉』という洋書をたまたま見つけて、面白そうだと思って購入してみたら、フィジーにある温泉が何百も載っているんで、これは行かなきゃならない、というようなことがきっかけですね」
●「知られざる温泉大国」の“知られざる”っていうことは、なかなかインターネットにも情報がないってことですか?
「そうですね。今回この本を出版するにあたって、索引を作ろうと思って、インターネットで調べても2、3の温泉を除くとフィジーの温泉は、ほぼインターネットで情報が見つかりません。英語でも全く見つからないので、未だに知られざるままという感じですね」
●どうやって情報を入手したんですか?
「今申し上げた洋書がきっかけなんですけど、今から60年以上前の本ですから、細かなことは、場所とかはあまり詳しく書いてありません。
海外に行く時には、やっぱり車をどう確保するかっていうのがあるんですよね。自分で運転できる国もありますけど、フィジーの離島は、車で川を渡って行くみたいなところが結構あるみたいなので、車を探しましたけど、旅行会社が小さな島には存在しませんでした。
でも、ある旅行会社に温泉リストを見せたら、“大丈夫、大丈夫、みんな行けるよ!”みたいな返事なんで、 “行ったことはあるんですか?”って聞いたら、“いや、ないところも多い”って言うんですよね。でも“大丈夫だ”って言うんで、一応信じて行きました。
そしたらドライバーのかたが、小さな島なのでどの村にも知り合いがいるって言うんですよね。それで村に着いて、知り合いの家をノックして、“この近くに温泉があるか?”って聞くと、“あっ、あるよ!”って言うんで、だいたいどの村でも温泉があってたどり着けました。

中には、ものすごく広い草っぱらを歩いて、その先の洞窟の中にあるような温泉もあって、とても案内なしには着けないんですけども、すべての村で人づてでたどり着いたみたいな・・・だから今のインターネット時代とはかけ離れたような、人のつながりで、すべての温泉にたどり着けたというような感じです」
(編集部注:海外の温泉を巡る旅は、現地で雇うドライバーやガイドさん次第で旅の成否が決まるそうですが、フィジーのドライバーさんは優秀で、鈴木さんの意を汲んで、次々に温泉を探し出してくれたそうです)
ゴミひとつない、フィジーの温泉
※フィジーでは何ヶ所の温泉を巡ったんですか?
「全体で行ったのは12〜13箇所ですかね。というのは、フィジーってやっぱりまだまだ観光化されてない、ものすごく閉じた村があって・・・村によっては村に入るのに村長への貢ぎ物を持って、入村の儀式をやって入るとか、それには日を選ぶ必要があるみたいなところもあって、とても短い旅で行けない所もあるので、今回は車でなんとか行けそうな所っていうので、12〜13箇所の温泉を回ってきました」
●お目当ての温泉はいかがでしたか?
「よかったですよ。特に森の中に古代遺跡のような石組みの露天風呂があったりして、これを事前の情報なく発見したら、ものすごい遺跡を発見したんじゃないかと思うようなところもありました。

あと驚いたのが、綺麗に使っているんですよね、村の人たちが・・・。やっぱり国によっては、露天の温泉の周りにゴミがものすごく散乱している所も多いんですけれども、フィジーの場合にはどこに行ってもゴミひとつ落ちてなく、地元の人たちが大切に(温泉を)使っているんだな~という感じでした」
●フィジーには、どこにでも温泉があるんですか?
「そうですね。だいたい多くの所にあって、逆に言うと、昔の時代に温泉が湧く場所に人が住み着いて、村ができたっていうような感じですかね。
ですから、地元の人たちは“温泉”って言うだけで、“〇〇温泉”とは呼んでないんですよね。日本でも田舎でバスに乗ると、“小学校前”とか“病院前”なんてバス停があって、それは小学校前って言えば、〇〇小学校って書かなくても、そこしかないみたいな感じになるんですよね。
フィジーの場合も、なんとか温泉って言う名前は、特にないということで、こちらが村の名前を勝手に温泉にしたっていうようなことですね。
あと意外にほかの村の温泉のことは知らない。自分の村の温泉は温度も高いので、料理にも使えるし、暖房にも使えるし、もちろん入浴もできるし、それで十分っていうような感じでしたね」
●フィジーのかたがたにとって温泉は、生活の一部みたいな感覚ですかね?
「そうですね。今回新しい本で書いた8つの国の中には、やっぱりそういう国が多かったですね。『知られざる温泉』っていうのは、ローカルな人々が温泉の周りに住み着いて、温泉とともに暮らしてきたみたいな温泉が多かったです」
マダガスカル「アンパラキー温泉」!
※続いて、アフリカ編です。アフリカ大陸の南東に浮かぶ島国マダガスカル。おそらく日本人には、温泉のイメージはまったくない場所だと思います。現地の旅行会社のかたも知らなかった温泉を、どうやって見つけたんですか?
「これもインターネットで探していて『マダガスカルの温泉地図』っていうフランス語の文献みたいなのがありました。マダガスカルは昔、フランスの植民地でしたので、フランスが統治していた時代に作った地図のようでした。
その出典とか、どういう背景で作られたのがわらないんですけども、マダガスカルの国全体で100以上の温泉に印が付けられています。ただ印が付いているだけで、なんていう村なのかもわからないので、ちゃんとした地図に重ね合わせて、村にマークをプロットして、それで(温泉を)探しに行ったというような感じですね」
●へえ~、たくさんあるものなんですか?
「全体で100を超えているんですけども、中には山道を歩いて行かなきゃいけない所もあるので、今回は短い滞在中に行けそうな、あるルート沿いを探すというふうに決めました」
●マダガスカルの温泉のハイライトと言えるのが、本の帯の写真になっている「アンパラキー温泉」だと思います。写真を見ると、変わった形と色の岩の前に、山吹色のプールのような湯だまりがあるんですけども、これがアンパラキー温泉なんですよね?
「そうです。ぜひ本を手に取って見ていただけたらと思うんですね。この温泉を表紙と最初のページに持ってきたのは、何と言っても迫力がある黄土色の温泉プール、日本でいう濁り湯なんですけれども、温泉の成分と土とかが混ざって、こんな色になっているというような感じです」
●お湯が山吹色なので、まさかこれが温泉だって思わないですよね?

「奥に『噴泉塔(ふんせんとう)』って言うんですけど、温泉を噴き出す塔があって、そこから湧いているお湯がこのプールに流れ込んでいるというような感じです。実際は温泉と言っても温度がちょっと低めなんですけれども、太陽で熱せられているので、お風呂自体はそんなに冷たくはありません」
●この温泉があるのは、どんな場所なんですか?
「マダガスカルの首都は、アンタナナリボっていうんですけども、長いので地元の人たちは“タナ”って省略しているんですね。そのアンタナナリボから車で4時間ぐらいの場所にあります。アンパラキーっていう村の外れにあるんですね。観光ガイドブックなんかには全く載っていませんので、基本的には地元の人たちが利用する温泉という感じです」
●そうなんですね。鈴木さんもこの山吹色の温泉に浸かったんですか?
「もちろんですね。やっぱり行って温泉があれば、どこでも浸かりますから(笑)、浸かりましたけれども、もともとこれは濃い炭酸泉なので、ちょっとシュワシュワした感じがあるんですね。

炭酸泉は、温度が高くなると炭酸が抜けちゃう、コーラを温めれば、炭酸が抜けちゃうのと一緒なんですけど、比較的に温度が低いままなんで、炭酸がシュワシュワする感じを楽しみながら浸かれる温泉でした」
●匂いとかってするんですか?
「この温泉は見た目に比べて、匂いとかはあまりなくて、舐めると塩味がちょっと強いっていう感じでしたね」
●マダガスカルでは温泉という意味の言葉が、集落の名前になっているということですけれども、それだけやっぱり地元のかたにとっては、温泉は身近なものっていうことなんですか?
「そうですね。さっきのフィジーと一緒で、温泉のある所に村ができて、その村の名前を温泉にしたっていうような感じです。
インターネットのマップでも拡大していくと、『ラヌマファナ』っていうんですけど、ラヌマファナっていう地名が山ほどあります。だけども地元の人たちは、さっきのフィジーの温泉と一緒で、ラヌマファナって言えば、ここを差すっていうことになりますから、ふたつ以上温泉がある場合は“何々ラヌマファナ”って名前が付くっていうような感じですかね」
(編集部注:海外の温泉は、状況にもよるそうですが、水着を着用して入ることも多いそうです。私たち日本人からすると、水着で温泉!?と、思うかも知れませんが、鈴木さんがおっしゃるには、慣れると気にならないそうですよ)
バオバブの並木、沈んでいく夕陽
※マダガスカルというと、「バオバブ」という、木を引っこ抜いて、根を上にして立てたような巨木が有名だと思います。鈴木さんは、バオバブの並木も見てきたんですか?
「このバオバブの並木道は、首都のアンタナナリボから車で15時間ぐらいかかるので、その日のうちには着けないぐらいの場所なんですね。道もものすごく悪くて、舗装されていない道が続くんですけれども、それでもやっぱり行った甲斐がありました。
子供の頃、図鑑でこのバオバブの木を見て、いつか行きたいな〜とは思っていたんですけど、私が子供の頃は海外に旅行する人は周りに誰もいなくて、自分がいつか行くなんていう発想がなかったんですね。
大人になって、いつか行ってみたいな〜と思ってはいたんですけども、なかなか温泉抜きで行くのも考えられなかったので、今回はマダガスカルの温泉地図を見つけたのと、アンパラキーの間欠泉の写真を見つけたのと、よし! 三点セットで、行ってみようということになりました」
●幼い頃からの夢だった、本にも書かれていましたよね。
「そうですね。実際着くと、夕焼けまで2時間ぐらいあるって言われたんですね。2時間もここにいるかな~と思ったんですけども、ちょっと角度を変えると全然違う姿が見えますし、やっぱり飽きないんですよね。

あっという間に2時間が経って、夕暮れになると何百人って人たちが集まってきて、バオバブを見上げて、なにか同じ空間を共有しているみたいな雰囲気でしたね。音ひとつない中で沈んでく夕陽がとても素晴らしくて、うちの奥さんはこの写真をスマホの待ち受けにしてくれています(笑)」
水上飛行機で行くカナダの温泉島
※次は北米編です。カナダの西海岸に、その名も「温泉島」、「ホットスプリング・アイランド」という無人島があるんですね。
「カナダの温泉をまとめた本が出ていて、その中で見つけた温泉です。ただやっぱり行き方がとても難しいので、どうしようかと思ったんですけど、ホットスプリング・アイランドっていう名前の島は、世界でもほかに見つけたことがないので、これは絶景温泉探検家を自称する以上、いつか行かなきゃいけないなと思って計画しました」
●どのあたりにあるんですか?
「バンクーバーがカナダの西海岸ではいちばん有名で、日本人にとっても馴染みの深い場所だと思います。ブリティッシュ・コロンビア州の、いちばん南側にバンクーバーがあるんですが、その北の端のほうにある、太平洋に浮かぶ島々ですね。これが『ハイダ・グワイ諸島』っていうんですけれども、そのうちのひとつの島が、この無人島のホットスプリング・アイランドです」

●その温泉島に行くのに水上飛行機をチャーターされたということですが、その行き方しかないっていうことですか?
「ほかにカヌーをやる人なら、カヌーで片道2泊ぐらいかけて漕いでいく、なんていうのもあるらしいんですけども、それができない人には、この水上飛行機が唯一の手段という感じですね」
●実際、温泉島はどんな島でした?
「端から端まで歩いて30〜40分ぐらいの小さな島なんですけれども、温泉が湧いているのは、そのうちの西南方向の一角だけなんですよね。
そこは岩場で水上飛行機が着水できないので、飛行機はその反対側に着水します。そうすると着水してから温泉のある所まで、島の中を30分ほど歩いていくんですね。これが昔のままの原生林みたいな・・・なんて言うんですかね・・・森林浴じゃないですけれども、歩いているだけで気持ちがよくなるような島でした。
先ほどハイダ・グワイ諸島って言いましたけど、ここは昔からハイダ族っていう先住民のかたたちの島で、水上飛行機の会社のかたが、気を利かせて、ハイダ族の女性を案内人として一緒に同行させてくれたので、いろいろ説明をしてくれたり、写真のモデルになってくれたりして助かりました」
●島には温泉は多いんですか?
「本によると源泉は26箇所って書いてあるんですけども、実際に入浴できるような露天風呂、岩場の露天風呂は10箇所ほどありました」
●その写真をご用意いただいているんですけど、海が見える温泉! っていうことですよね。
「そうですね。カナダのその温泉本の中でも、作者が“北米でいちばん美しい露天風呂”と書いているぐらい、まさに絶景のオーシャンビュー温泉でしたね」

●本当にオーシャンビュー温泉っていう感じですね。
「3冊目の新刊の口絵にも載っていますから、ぜひ見てください!」
●この露天風呂の入り心地はいかがでしたか?
「これがまさに適温なんですよね。40度よりちょっとぬるいぐらいなので、日本で入る温泉に比べると、ぬるいと感じるかもしれませんけど、長い時間のんびりと入るには絶好っていうか、体温よりちょっと高いぐらいの温度ですね。
露天風呂によって塩味の濃さが変わったりするので、入り比べるのもちょっと面白いっていう感じでした」
●目の前には海が見えるわけですよね。
「この時も、予約した時に“ちょっとでも天気が悪いと、水上飛行機は飛べない”って言われたんですよね。だからその場合には飛べないってことになるので、“支払いは現地でいいよ”って言われたんですよ。事前支払いは要らないと・・・。
飛べないことが多いんだって言われたんですけど、たまたまこの日は風もなく絶好の天気でした。私はよく“今回も温泉の神様が私を守ってくれた”と言っているんですけど、まさにそんな天気でした」
(編集部注:水上飛行機をチャーターというと、いったいいくらかかるんだろうと思いますよね。鈴木さんにお聞きしたら、現地では移動手段として水上飛行機があるので、複数の会社が運行していて、競合になるので、チャーター代もまちまち。鈴木さんは当時8万円ほどでチャーターしたそうですが、今なら円安なので、倍ぐらいはかかるかも知れないとおっしゃっていました)
源泉掛け流しが当たり前!?
※この本で紹介してあるローカルな温泉は、掘削して温泉を掘り当てたものではないんですよね?
「掘削するっていうのはものすごくお金がかかりますし、またたとえばどこかで湧いている温泉をホテルの浴場まで引っ張ってくるのもお金がかかりますし、温度を保つために、お湯を沸かすっていうのもお金がかかります。
今回の本で紹介したような温泉は、みんなその場で湧いている温泉に、その場で入っているというのが大半ですので、いわゆる“源泉掛け流し”って言葉は、海外のローカル温泉に行ったら当たり前っていうか、そうじゃない温泉はないっていうような感じですね」
●日本では温泉はお風呂、つまり入浴するものと思っていますけれども、海外では利用の仕方がほかにもあったりするんですか?
「そうですね。本の中でも述べているんですけど、マダガスカルのある村なんかは、そこにまさに温泉が湧いているから人々が集まってきて、村になったっていう感じです。
そこは温泉が湧いている場所が3区画ぐらいに別れていて、その湧き出し口の所は料理をしたり、お湯を汲んだり、水を汲むための場所。ちょっと離れた所は体を洗う場所。それでちょっと離れると洗濯する場所っていう感じで、お湯の綺麗さに応じて作業が変わっているという感じですね。
その村は周りの村に比べて、丁度を訪ねた時期が日本でいう5月6月に相当する時期だったんですけど、ほかの村よりも稲の生育がすごく良くて、青々としていたなんていう感じもありますので、あらゆることに温泉が使われているという感じです」
●入浴だけじゃないんですね?
「フィジーでも、ものすごく山奥、さっきお話した川を車で越えていくような村に温泉があったんですけども、そこでその温泉はココナッツを乾燥させるのに使っていたんですね。

ココナッツって中身はミルクとして使うんですけども、殻の内側の部分を乾燥させると肥料になるらしくて、それが産業になっているらしいんですよ。それでその村に行くと温泉の熱で乾燥させているっていう感じなので、とてもエコなシステムなんですよね。
ところがそのフィジーの都会近くにくると、やっぱり油を使ってココナッツを乾燥させているので、ものすごく煙も出ているし、作業している人もつらそうなんですよね。だから便利な場所でそういうつらい作業をするよりも、僻地だけれどもエコな環境でできるっていうのを選んだ人たちが、その村に住み着いているという感じでした」

(編集部注:鈴木さんの本には第2部に「温泉旅の極意」が載っています。これは、温泉でなくても、自分なりのテーマで旅をする時にとても参考になるノウハウが満載なんです。ちょっとだけここでご紹介すると・・・
ネットで探しても情報が得られない場合は現地の人に聞く。それも若い人よりも、地元に長く住んでいる年配のかたがいいそうです。
またネットの場合、翻訳機能を使って、その国の言葉で検索し、お目当ての場所の資料は印刷して持っていく。自分では読めなくても、その国の言葉で書いてある資料を見せると、現地の人は読めるので、目的地に早くたどり着けるなどなど、参考になる旅の極意がたくさん載っていますので、ぜひ鈴木さんの本をチェックしてください)
温泉伝説、調査中!
※鈴木さんは、温泉にまつわる伝説も調査中だそうですね。どんな伝説があるんですか?
「私が最初に温泉の伝説が気になったのは、アルメニアっていう国がコーカサス地方にあるんですが、ある温泉に行ったら、シカのマークがミネラルウォーター(のラベル)に付いていて、町中にもシカがシンボルとして描かれているんですね。

それで(町の人に)聞いてみると、この村の温泉は、傷ついているシカが温泉に浸かっているのを人が見つけて、そのシカの傷が治っていくのを見て、温泉を発見したというようなことで、日本各地にある『鹿の湯』って名乗るような温泉と全く同じ伝説が、これだけ距離の離れたヨーロッパにもあるのか、というので、気になったというのがきっかけです。
それから調べてみると、非常に離れた場所でありながら、日本と全く同じような伝説もあれば、全然異なるような文脈の伝説もあって、伝説について調べ始めると、人々と温泉の関わりの原点を知るみたいな面白さがありました。
というのは、昔の人にとって大地からお湯が湧いているというのは、ものすごく不思議な現象だし、何か神様の力なんじゃないかと思うようなところがあるわけですよね。だからそういう意味で、それを昔の人がどうやって解釈したのかっていうのがとても面白くて、温泉の発見伝説っていうのを調べています」
●温泉は地球からの贈り物かもしれませんね。
「そうですね。さっきの伝説の話でもそうですけれども、昔の人が不思議に思ったのは、まさにそこに人を助けてくれるような話があるわけです。
ニュージーランドの先住民でマオリ族っていうかたがたがいますけども、マオリ族のかたたちは、まさにニュージーランドに湧く温泉の所に住み着いて、文化を発展させたっていうようなことです。今でも高い地熱の場所に、肉とか野菜を埋めて蒸して食べる料理がマオリ族の伝統料理として知られていて、観光客もそれを楽しむことができます。
蒸し料理は日本でもありますし、世界各地にあるので、温泉の地熱を利用しておいしく食べようと考えた人たちは、世界中にいたっていうことなんだと思います」
●今年2026年の温泉旅は、どこに行くか決まっているんですか?
「私は1年中ここに行ってみたい! っていう温泉旅行を妄想しているんですけど、その中でやっぱりヨーロッパに温泉発見伝説に関するちょっと興味深い温泉が多いので今調べています。
1回の旅でいけるのは1週間としたときに、その1週間でどこを回れば効率的に回れるかみたいなのを、パズルのように解いていくんですけど、まさにそういうパズルのような作業をやっている最中です」
●では最後に温泉の神様がいるとしたら、どんなことをお願いしますか?
「やっぱり温泉旅を本で紹介したいって言ったときに、重要なのは天気なんですよね。同じ温泉でも土砂降りだったら全く絵になりません。
さっきお話ししたアンパラキーの間欠泉でも土砂降りだったら、全然映えない写真になってしまいます。そういう意味では晴れている状況で旅行したい。さっきの温泉島もめったにないいい天気だったと言われたように、温泉の神様にいちばんお願いしたいのは、訪ねる温泉で雨が降らないで欲しい! ということだと思います」
INFORMATION
鈴木さんの新しい本をぜひ読んでください。ヨーロッパを除く各大陸から、とびきりの8つの温泉旅が載っています。その名の通り、私たちが知らない辺境秘境の温泉、そしてそこにたどり着くまでの、探検のような旅の逸話が満載ですよ。また、日本と海外の温泉文化に関する興味深いコラムや、旅好きにはとても参考になる温泉旅の極意も必見です。
産業編集センターの「わたしの旅ブックス」シリーズの一冊として絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎産業編集センター:https://book.shc.co.jp/22259
2026/2/8 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. SOMEWHERE IN MY HEART / AZTEC CAMERA
M2. CAN’T STOP THE FEELING! / JUSTIN TIMBERLAKE
M3. AFRICA / TOTO
M4. CAN’T STOP THIS THING WE STARTED / BRYAN ADAMS
M5. DREAMS / THE CRANBERRIES
M6. LOVELY DAY / BILL WITHERS
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2026/2/1 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、株式会社「やまとわ」の取締役で、森林ディレクターの「奥田悠史(おくだ・ゆうじ)」さんです。
長野県伊那市、通称「伊那谷(いなだに)」に拠点を置く「やまとわ」は、森と暮らしをつなぐような、いろいろ事業を展開している会社で、奥田さんは創業メンバーのおひとりです。
1988年、三重県生まれの奥田さんは子供の頃、長野の山の風景に圧倒され、いつかは長野に住みたいと思い、信州大学に進学。農学部・森林科学科で、年輪の研究を行ない、気候の変化が木の成長に影響を与え、年輪の幅が変わることに着目し、歴史上の出来事との関係性などを調べていたそうです。
「やまとわ」の創業は2016年。創業メンバーは家具職人3人と奥田さんの、合わせて4人。現在は樹木医やクライマー、元林野庁や製材会社のスタッフなどなど多彩な顔ぶれ20数人が集う会社となっています。
きょうはそんな奥田さんに「森をつくる、暮らしをつくる」をテーマにした、多岐にわたる活動や今の仕事につながるバックパッカー世界一周の旅で得た体験のほか、未来の森をデザインする大切さなどうかがいます。
☆写真協力:やまとわ

森を作る暮らし
※なぜ会社をやろうと思ったんですか?
「森の課題と言いますか、日本の森が荒れているみたいなことに大変関心がありました。僕はその時、デザイン事務所をやっていたんですけど、デザイナー(の仕事)だけじゃなくて、森のことに直接触れていきたいなって思っていた時に、そういう思いを持った家具職人の中村さんと出会って、一緒にやっていこうというような感じで会社を立ち上げました」
●「やまとわ」の理念は、どういうものがあるんですか?
「『森をつくる 暮らしをつくる』というのが、僕らの理念なんですね。森と暮らしが離れてしまっている現在において、森が荒れているから手入れをしていこうよっていう話をしても、なかなか響かないと思うんです。
森があるから嬉しい暮らしって、どんな暮らしなんだろうかっていうことを、改めて現代の中で問い直していくのがやりたいことというか、そうしないと森が良くなんないんじゃないかなって思って、森を作る暮らしを探求するようなことを理念にしています」
●具体的には、どんな事業を行なっていらっしゃるんですか?
「すごく多岐に渡っていまして、僕らの会社(の事業)はめちゃくちゃわかりづらいんです。夏は農業をして冬は林業をするっていう農林業のチームから、その地域の山の木を使った物づくりですとか、薪ストーブの販売みたいなこともやっています。
ほかにも森の中で遊んだり学んだりするような企画ですとか、あとは行政のかたや、企業さんと一緒に森のデザインをし直すと言いますか、森がどうやったらよくなるのかなみたいなことを一緒に考えるような伴走事業みたいなこともやっていたりします」
●様々なことをやっていらっしゃるんですね。
「そうなんです。幅広にいろいろやらないと、森のことってわかんないなっていう中で、とりあえず思いつくことをいろいろやっているんですけど(笑)」

「森林ディレクター」とは
※奥田さんが「森林ディレクター」という肩書きで仕事をするようになったのは、「やまとわ」を創業してからですか?
「そうです、そうです」
●自分で考えた肩書きなんですか?
「そうなんですよ。大学は林学と言いますか、森林科学を専攻していたんですけど、森のことが幅広すぎて、自分で何ができるかわかんないっていう状況の中で、一度その情報を伝えるっていうことで、編集者とかデザイナーになったんですね。
そのあとに山に実際に関わるようになってきて・・・で、僕がやってきた編集とかデザインと、森林の管理とか、そういうものを組み合わせたことを仕事にできる、今ならできるかもしれないということで、アートディレクターっていう肩書きもあると思うんですけど、それの森林ヴァージョンみたいな形で、森林ディレクターと自分で名付けて活動しています」
●「やまとわ」が手がける事業のディレクションをするのが、まさに奥田さんの役割っていうことですか?
「そうですね。そんな感じです」
●ディレクションをする時に心掛けていることってありますか?
「やっぱりアート・ディレクターだと、クライアントさんがわかりやすく、企業さんだったりするんですけど、森林ディレクターの場合は、もちろん社会ですとか企業さん、暮らしている人たち、あと森林とか自然そのものもいい状態になるっていう、いろんな目線で関係性を見ながら、企画とか商品開発をしていくことが重要なのかなと思っているので、その辺をすごく大事にしていますね」
バックパッカー世界一周の旅で得た体験
※奥田さんは信州大学在学中に、バックパッカーとして世界一周の旅に出たそうですね。なぜ旅に出ようと思ったんですか?
「世界一周って行きたくないですか? っていう感じが、僕の中にあったんですけど(笑)、行けるなら行きたい、世界を巡るみたいなことがあって・・・で、大学生のうちにぜひ行きたいなっていうことを、入学と同時に決断しまして、世界一周の準備を大学に入ってから始めたみたいな感じなんです。世界中を訪ねて、いろんな景色を見たいっていうのは大きかったですね」
●休学して旅に出られたんですか?
「そうです、そうです」
●何か国、行ったんですか?
「30か国ぐらいです。世界を一周するいろんな人たちがいるので、あまり多くはないんですけど、1年だとそれぐらいなのかなっていう感じです」
●特に印象に残っている場所はありますか?
「ふたつ挙げると、ひとつはスイスのマッターホルンの雪山なんです。山岳文化みたいなものにとても感動して・・・自然を見て涙が出るような体験は、本当にそのスイスの山並みだったんですね。
もうひとつはペルーのクスコです。そちらも山岳地域なんですが(苦笑)、その地域の土を使って家を建てることで風景が作られている。そこでインディヘナのお母さんたちの民族衣装が普段着のように使われていて、文化とかその土地の自然、インディヘナのかたの服も、その土地の草木染めをしてることが多くて、そこにいちばん感動したっていうのが僕の原体験ではすごくあります。
やっぱりそういうものをこの日本でも、地域の資源を活かした感動を作りたいなっていう、体験としてはあります」
自然資本とデザイン
※奥田さんは先頃『自然資本とデザイン 〜地域の風景と生きていくための思考法』という本を出されました。短い時間では、とても本全体の内容をご紹介できませんので、奥田さんから、この本の特徴などをお話しいただきたいのですが・・・
やはりタイトルの「自然資本とデザイン」に著者の想いが込められているんですよね?

「そうですね。自然資本っていうのを・・・(タイトルに)“資本”って付いているのでちょっと固く感じるんですけど、どちらかというと生きていくための土台としてあるものが自然資本だと思っています。それをどのようにケアしながら共生、共存していくのかを考えたような内容になっています。
そもそもやっぱり僕が大学時代に森林とか自然っていうものに対して、何か自分がアクションしたいって考えた時に、あまりにも大きすぎる世界っていうか、大きすぎる対象の中で、何をやっていくかわかんないな~みたいなことをすごく感じて・・・ある種の絶望みたいなものを感じたんですけど、それに対してわからない問題をどうやって紐解いていくのかみたいなことも、ひとつのテーマとして考えていました。
小さなアクションでもすごく意味、意義があるんじゃないかってことと、それを紐解いていくためには課題を、力いっぱい引っ張るというよりは、どうやって緩めていくのかみたいなことをデザインの視点から考えているような本になりますね。
いろんなことがあると思うんですけど、どんな状態になっていたらいいのかっていうことを改めて捉え直して、そこに向かうために何をすべきかっていうのを考える枠組みみたいなのが、デザインなのかなと僕は思っております」
●自然資本を活かしながらデザインしていくことで、いちばん心掛けていることってありますか?
「やっぱりその土地の良さとか面白さみたいなことは、自然由来なことがすごく多いと思うんですよね。自然と人の営みの接地面に文化が生まれるみたいなことで、例えば、静岡であればお茶の産地になっていたりとか、そういうような土地が持つ力と、そこで人が何かをやっているってことが合わさった時に、それが価値に変わるという気もするんですけどね。
なので、その場所に何がどんな状態であるのかっていうことと、そこにどんな人たちがいるのかってことが、どちらも大事だと思っているんです。
僕は長野県でやっていますけども、長野の伊那谷であれば、こういう自然資本、自然資源がいっぱいあって、そこにこういう人たちがいるんであれば、こんなつなぎ方・・・こんな状態になったら自然も活かされるし、自分たちの暮らしも豊かになるんじゃないか、みたいなことを考えながらデザインしているような、そんな流れになりますかね」
(編集部注:「やまとわ」が取り組んでいる、森と暮らしをつなぐような事業は、ひとつのモデルケースになるので、森林の事業などで課題に直面している地方自治体や地域のかたなどが、相談や見学にやって来ることも多いそうです。奥田さんがおっしゃるには、失敗も含めて包み隠さず伝え、共有してから、一緒に事業設計をすることもあるそうです)

森にはヴィジョンが必要!?
※自分たちが住んでいる地域の森をどうしていきたいのか、いわゆるヴィジョンが必要だと思いますが、実際はそういうことを考える機会はないんでしょうか?
「僕らはちょこちょこやるんですけど、日本の森においてはヴジョンのある山は、実際ほとんどないです」
●それってすごくもったいないことですよね?
「そうですね。なので(山の)所有者さんに聞いても森林組合さんとか事業者さんに、“この森はどういうヴィジョンで管理をしていきますか”って聞いても、ほとんどないっていうのが現状です。それを作り直していくのも大事なのかなって思っていますね」
●「やまとわ」では「SATOYAMA CONCEPT MAPs」を作っています。これはどういうものなんでしょうか?
「これは普通の山の、例えばマップって考えると、現状どういう山かがマップに載っていると思うんですけど、SATOYAMA CONCEPT MAPsは、その山の15年とか20年後どうなっていてほしいかっていうことを、いろんなリサーチをした上で作っていくものなんですね。
なので、50ヘクタールとか100ヘクタール、面積で言うとわかりづらいんですけど、それなりの規模の山を林業だけじゃなく、いろんな手法を用いて持続していくような山にするにはどうしたらいいんだろうっていうのを問いにしながら、この山のヴィジョンを作って、それをイラストにして関係者のかたがたと共有しながら、“ここにいくためには、こんなふうにステップを踏んでいかないといけませんね“みたいなことを話すためのマップを作るようなサービスとか仕事をしています」
●地域のかたがたが共有できるっていうことなんですね。
「そうですね。所有者さんもそうですし、地域のかたにももちろん共有していくっていうようなことをやっています」
●今後どういう森にしていきたいかっていうのを考える時にすごく参考になりそうですね。
「そうですね。ワクワクしてもらえるといいなと思うんですけど、確かにこうなったらいいよね! みたいなことが、いろんな人と話せると面白いのかと思ったりはしています」
里山は、日本の大きな可能性
※日々、森や樹木に向き合って、どんなことを感じますか?
「やっぱり僕、森はすごく大好きではあるんですけど、その森にいると心地よかったり、気持ちよかったりする山もたくさんある一方で、暗く不安になる山とか怖いなと思うことってたくさんあるんですよね。
そういう率直な感覚はすごく大事なのかなと思っています。この山は不安だな~とか怖いな~みたいなことを思いながら、そこをより良い状態といいますか、心地いい状態とか、いい森にしていくことをしていきたいなって日々考えているんで、いろんな形で森の状態を肌で感じている、そんなところですかね」
●森で働いていって、どんな時にいちばん喜びを感じますか?
「森そのものが変化していくこともすごく嬉しいんですけど、例えば薄暗くなった森に陽の光が入って、そこに下層植生、次の世代の木々が生えてくるみたいな風景はすごく嬉しいですね。
それだけじゃなくて、一緒に携わってくださっている山主さんですとか、関係者のかたがたが喜んでくださるような瞬間もやっぱり僕としては嬉しいですね。
人と森の共存みたいなことを考えると、森が喜んでいるのを人が喜んでいるっていう状態が、簡単に作れるわけじゃないんですけど、作れそうだなとか、そういう風景がちょっと見えるなっていう時がいちばん僕がワクワクするので、やっぱり森も人もすごく大事だなと思います」
●では最後に森林ディレクターとして、未来に向けた日本の森のコンセプト・マップを作るとしたら、どんなデザインになりますか?
「日本は本当に面白いんですよね。生態系も自然も本当に豊かな国なんですけど、僕らがそれをすごく忘れがちになってしまう中で、特にSATOYAMA CONCEPT MAPsっていう名前つけていますけど、里山とか里が日本のすごく大きな可能性だなと思っています。
人と自然の、それこそ共有とか響き合いみたいなことによって生まれている風景とか、そこから生まれた文化や価値みたいなものが、すごくたくさんあるんですけど、今それがすごくなくなってきているなっていう感覚を持っているので、改めて日本の里山っていうものを再提案・再定義しながら、林業の森と里的なものをちゃんと描き直していくことができたらいいなと思っています」
INFORMATION
『自然資本とデザイン 〜地域の風景と生きていくための思考法』
奥田さんの新しい本には、奥田さんが「やまとわ」で取り組んでいる、多岐にわたる事業や、その思いが綴られた一冊です。経営やビジネスのヒントにもなると思いますよ。宇宙飛行士・土井隆雄さんとの興味深い対談も掲載。ぜひ読んでください。
築地書館から絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎築地書館:https://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN978-4-8067-1699-0.html
株式会社「やまとわ」の事業について詳しくは、ぜひオフィシャルサイトを見てください。
◎やまとわ:https://yamatowa.co.jp
2026/2/1 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. A FOREST / NOUVELLE VAGUE
M2. FOREST OF MY HEART / DANA AND SUSAN ROBINSON
M3. A THOUSAND MILES / VANESSA CARLTON
M4. SOMEWHERE ONLY WE KNOW / KEANE
M5. lulu / Mrs. Green Apple
M6. ONE VISION / QUEEN
M7. GRAVITY / JOHN MAYER
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」








