2022/2/13 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. TODAY / ZERO7
M2. BEAUTIFUL / CARLY RAE JEPSEN FEAT. JUSTIN BIEBER
M3. CHANGE IN MIND, CHANGE OF HEART / CAROL KING
M4. BEAUTIFUL DAYS / FANTASTIC PLASTIC MACHINE
M5. FRAGMENTS / JACK JOHNSON
M6. SKIN / SADE
M7. GENIUS NEXT DOOR / REGINA SPEKTOR
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2022/2/6 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、岐阜県東白川村(ひがししらかわむら)で林業と製材業を営む「田口房国(たぐち・ふさくに)」さんです。
田口さんは1977年、岐阜県東白川村生まれ。学習院大学を卒業後、家業の林業・製材会社に就職。2007年に三代目社長となり、会社名を「山共(やまきょう)」に変更。理念は、会社名そのもので「山と共に、あしたをつくる」としています。
そして、仲間とともにおよそ400ヘクタール、東京ドーム100個分の、会社の山林を管理。木を植え、育て、伐採し、板や柱などを作る仕事を日々進めていらっしゃいます。ちなみに田口さんのキャッチフレーズは「カントリージェントルマン」なんですよ。
田口さんは、キャンプ好きに向けた森林レンタルサービス「forenta(フォレンタ)」を2年前に始め、アウトドア派だけでなく、全国の林業関係者からも注目を集めています。
きょうはそんな田口さんに「フォレンタ」のシステムや特徴、そして林業や山村への思いについてお話しいただきます。
☆写真協力:田口房国

東濃ヒノキの産地
※森林レンタルサービス「フォレンタ」のお話の前に、田口さんが生まれ育った、岐阜県東白川村はどんなところなのか、お話しいただきました。
「岐阜県には村がふたつしかなくて、ひとつはこの東白川村、もうひとつは合掌造りで有名な白川村があります。名前は東が付くか付かないかの差なんですけれども、場所は全然違っていて、東白川村には合掌造りの家はありません。
昔はよく間違えて、こっちに来られるかたがいらっしゃったので、申し訳ないという気持ちがありましたね。周りは自然に囲まれていて、下呂温泉なんかも近くて、人口が2000人くらいの本当にほのぼのとしたいいところだと思っています」

●木曽地方の木材の産地なんですよね?
「そうですね。木曽というのは厳密には長野県のほうを言います。ただその長野県と隣接しているような場所ですので、こっちのほうを裏木曽って言うんですけども、木曽の裏側というような感じですね。そのような場所です」
●主な木はなんですか?
「やっぱり有名なのはヒノキですね。木曽ヒノキが元々有名ですけれども、このあたりは岐阜県美濃地方の東のほうなので、東濃という地域で呼ばれます。ここのヒノキを東濃ヒノキと言い、これもひとつの銘柄材として有名です。このヒノキとかスギのような針葉樹ですね。建築用材に使われる材料、この辺が有名かなと思います」
●ずっと昔から森作りの技術や文化が、受け継がれてきているような場所なんですか?
「そうですね。うちの近くには神宮備林という伊勢神宮を建てるための専用の山、これ国有林ですけれども、そういうものもあったりして、江戸時代、もしくはそれ以前、昔からの木材の産地ということになっています」
●現在の林業が置かれている状況は、どうなんでしょうか?
「日本全国、同じようなものかもしれませんけれども、木というのは育てるのにやっぱり50年とか100年とか、そういう時間が必要なんですね。それを維持しながら、その時その時でそこに携わる人たちがちゃんと稼ぎながら、人を入れながら、新陳代謝を図りながらやっていくという意味では、短期的にも長期的にも見ていかなければいけない仕事ですので、そういったところは非常に難しいかなと・・・。
木材の単価そのものが昔に比べると、かなり下がっているというところもありますし、肉体労働でもあるし、天気に左右される仕事でもあります。そういったところからなかなか、なり手が不足していたりとか、色々な問題があるかなと思います」

山林購入はハードルが高い。ならばレンタル!
※会社の事業として2020年に森林レンタルサービス「フォレンタ」をスタートされました。このアイデアを思いついたのは田口さんですよね。何かきっかけがあったんですか?
「自粛期間がありましたよね。感染拡大が始まって最初の年の4月から6月あたりですかね。僕自身もあまり外に出ることなく、家でYouTubeを見たりとかしていました。その時にキャンプが最近流行っていると・・・ソロキャンプだとか色んな形で流行っているよっていうのを見ました。
キャンプをしたいがために、山林を購入されるかたも増えているというのを見た時に、山林の購入はやっぱりハードルが高いというか、購入したあと、その山林に対して、単に自分の持ち物というだけではなくて、社会的な役割も山林というのは持っています。そういったところの責任の問題であるとか、もちろん登記とか税金の問題とか、諸々のことを考えていくと、山林を購入するというのはハードルが高いんだろうなということを思いました。
でも一方で、一般のかたが森林に足を踏み入れてくれることは、僕としてはとても歓迎すべきことであると思っているので、それならレンタルという形をとれば、山側の人もそれを利用したい側の人も、両方にとっていいんじゃないかなとひらめいたというか、思いつきましたね」

●森林のレンタルサービスって本当に面白いなって感じたんですけれども、実際スタートするまではなかなか大変だったんじゃないですか?
「そうですね。実際に森林をレンタルするというサービスは、それまで日本ではなかったと思います。僕もそういう事例がないか(ネットで)調べたんですけれども、やっぱりヒットしませんでした。
そんな中、その仕組みをどう作るかがいちばん悩んだところというか・・・実際に借りてくれる人もいるかどうか分からないので、とりあえず自社林で試しにやってみて、その反応を見ようかなと。そんな感じで、とにかくやってみようと思ってやりましたね」
●募集をスタートしたのはいつ頃だったんですか?
「2020年の11月に募集を始めましたね」
●反響はいかがでした?
「先ほども言いましたように、まったく今までにないサービスですし、もちろん知名度もゼロからのスタートでしたので、本当にどれだけ人が来てくれるのかなというのが不安でした。
とりあえず自分の山を17区画に区切って、17人の物好きさんがいてくれればいいかなと思って募集を始めました。募集期間は1か月半くらいとっていたんですよ。そうしたら最初の1週間で、エントリーが100組を超えて、なんかものすごく来た! と、逆にちょっと焦って、1か月半もやったら大変なことになるなと思って、1か月に短縮しまして、11月いっぱいまで。1か月募集して、最終的には444組のエントリーがありましたね」
(編集部注:ここで「フォレンタ」のシステムや使用料について説明しておきましょう。岐阜県東白川村の田口さんの山林の場合は、ひと区画300坪、年間の使用料は66,000円、月割りにすると5,500円。借りるほうからすると、これは安いですよね。田口さんいわく、山林の所有者にとっては、こんなにもらっていいの、という金額だそうです。この料金設定は両者にとっていい価格帯ではないかともおっしゃっていました。
使用する際のルールについては、借りた区画内の細い木は伐ってもよく、キノコや山菜なども採っていいそうです。焚き火もOKですが、直火は禁止。焚き火台などを使い、延焼を防ぐ手立てはしっかりしてくださいとのこと。スギやヒノキを植えた大事な山林をお借りするわけですから、火の取り扱いに十分に注意するのは当たり前ですよね。「フォレンタ」のシステムやルールなど、詳しくはオフィシャルサイトhttps://www.forenta.net/ をご覧ください。
フォレンタが集落に!?

※「フォレンタ」ならではの特徴というと、どんなことがありますか?
「やっぱり年間契約というのがいちばん大きな特徴かなと思っています。年間契約ですので、チェックイン、チェックアウトだとか、予約というものが利用者様にとっては必要がないんですね。
例えば急にきょうキャンプしたいな〜って思い立っても来ていただけますし、もちろんいつ帰っていただいても構いません。まず、そういう気軽さというのがあるかなと思います。
あと、これ僕自身も想定していなかったことなんですけども、最初は山を借りたかたがテントを持ってきて、泊まって帰っていく、普通のキャンプをされていくんだろうなって思っていたら、そこに皆さん、いわゆるブッシュクラフトというか、物を作り始めたんですね。
落ちている木を拾ってきて、柵を作ったりとかデッキを作ったりとか、もしくは小屋のようなものを作ったりとかして、だんだんひとつの集落が出来上がってきているような、なんかそんな感じなんです。
1泊2日で帰るようなところだったら絶対無理ですけれども、1年間借りていられる、1年後に更新すればもっと借りられますけれども、そういう長期スパンで同じところを借りていられるっていうところから、皆さん色々なものを作り始めていると、自分だけの秘密基地のようなものを作り始めている、これがフォレンタとほかのキャンプ場の大きな違いじゃないかなと思いますね」

●実際、利用されているかたの反応はどんな感じですか?
「そうですね・・・このフォレンタの場所は、本当に電気も水道もない、全然設備が整っていないところなんですね。仮設トイレをいくつか置いているというくらいの設備しかなくて、本当に、ここに何で皆さん来てくれるのかなっていうのが僕自身も不思議だったんですね。
僕自身も度々(様子を)見に行きまして、ご利用者さんとお話ししていく中で、皆さん、ここのどこがいいんですか? って聞くと、いちばん最初に出てくるのは、静かなところっていうふうに言っていただけるんですね。
ご利用されているかたは、このあたりで言うと名古屋とか、もしくは東京や神奈川からもいらっしゃっているかたもいるんですね。やっぱり日常、どうしても喧騒というか、なんらか音が溢れているところで生活をされていて、週末くらいは静かなところで、自分だけの時間を過ごしたいというようなところが、いちばんニーズとしてあったのかなと。
僕らにとってみれば、静かすぎてごめんなさいという感じですけど、そういうところがよかったのかなと思いましたね」
(編集部注:実は田口さん、キャンプの経験がほとんどなかったので、だれかにキャンプの大事なポイントを教えてもらいたいと、YouTubeで調べていたら、以前この番組にも出てくださった、岐阜県出身のさばいどる「かほなん」さんを見つけ、アドバイスをお願いしたそうです。かほなんさんは快く引き受けてくださり、現地にも来て、いろいろアドバイスをしてくださったそうですよ)
ドイツでは、森林はみんなのもの!?
※田口さんは以前、ドイツの山岳地帯シュヴァルツヴァルト、これはドイツ語で「黒い森」という意味があるんですが、そんな針葉樹の森が広がる場所に視察と研修のために行き、いろいろ見て回ったそうです。滞在中に、なにか発見というか、参考になることはありましたか?
「いちばん驚いたのは、ドイツの人って休みの日になると、みんな森林に遊びに行くんですね」
●へぇ〜!
「もちろん、みんながみんなじゃないでしょうけれども、多くの一般市民のかたが森林に自由に入っていって、そこでハイキングを楽しんだりバーベキューをしたり自転車に乗ったりだとか、そういうことをされているんですね。そこにいちばん驚きましたね。日本もすごく森林は多いんですけれども、日本でそういう光景って見たことないなと。
僕も田舎に住んでいますけれども、そういう光景は全然見なくて、一般の人が森林に気楽に入れるのが、僕らの木材産業にとってみても、そういう文化があるのがとても心強いことですし、森林が一般の人に必要とされているんだなっていう、それがすごく伝わってきたんですね。
もちろんそこに仕組みだとか法律だとか、そういったものが整備されている背景もあるんでしょうけれども、そういうのが日本でも実現できるといいなと思ったのも、このフォレンタを始めたひとつのきっかけですね」
●森林が日常の一部になっているんですね。
「そうですね。日常の一部ですし、みんなのものであるという意識が高いんですね。ドイツも森林は個人が所有しているものでもあるんですけれども、同時にみんなのもの、公共のものということで、自由に森に入ってもいい権利というのがちゃんとあるらしいんですね。それって素敵だなって思いましたね。
どうしても日本だと、個人所有の森林には勝手に入っちゃダメ! って、個人のかたが、どこか強くなっちゃう部分があったりするんですね。歴史的なバックグラウンドもあるんでしょうけれども、ヨーロッパのかたがたのそういう感覚って素敵だなって思いましたね」
山村に自信と誇りを
※「フォレンタ」のサイトで知ったんですが、静岡にも「フォレンタ」があるんですね?
「はい、そうです。この仕組みをフランチャイズにしようと思いまして、その第1号として、静岡の伊東市で”フォレンタ静岡”として、去年の暮れにオープンしましたね」
●今後は色んな場所で展開していくという感じなんでしょうか?
「はい、もうすでに日本全国から、うちの山でも出来ないかな? というようなお問い合わせを毎日のようにいただいています。こういう風に山を活用したいという山主さん側のニーズというか希望もありますし、山を利用したいという利用者様側のニーズもありますので、それにお答えするような形で、どんどん広げていければ嬉しいなと思っています」

●山村地区が抱えている問題の解決にもつながりそうですよね。
「そうですね。このフォレンタという事業が、単に今キャンプブームだから、それに乗っかってというだけではなくて、僕自身の思いですけれども、森林が今まではそこに生えている木材の価値でしか、はかられてこなかったんですね。
僕も木材を取り扱う仕事をしていますけれども、木材の価値が下がったことによって、森林の価値が下がってしまう・・・この東白川村は90%が森林ですけれども、森林の価値が下がるということは、この山村の価値そのものが下がってしまうというふうに思ってしまうんですね。
山村の価値が下がるということは、そこに住んでいらっしゃるかたがたが、みんな自信だとか誇りだとかを失って、例えば子供に、もうこんなところに住まないほうがいいぞと。大人になったら名古屋へ行け、東京へ行けとか言って、どんどん(子供を)送り出して、過疎化が進んでいってしまう・・・そういう悪循環になってしまうと思っているんですね。
でも、一方で森林の価値は木材だけじゃなくって、こういうキャンプ利用もそうですし、そこにまだまだたくさんの魅力があって、恵みがあって、そういったところを再認識出来れば、自ずと森林の価値の高まりにつながっていきますし、それが地元に住んでいる人たちの自信とか誇りにもつながっていくと思うんです。
だからやっぱり、この森林というものに、新しい価値を見出すことで、この山村地域そのものが自信や誇りを取り戻して、また盛り上がっていってくれればいいなというのが僕の思いですね」
INFORMATION

田口さんはいわく、山村には、森が醸し出す空気、水、そして雰囲気がある。「フォレンタ」を通じて、都会のかたが山村にもっと来ていただけるような、そんな仕組みづくりをしていきたいともおっしゃっていました。
「フォレンタ」について詳しくは、オフィシャルサイトをご覧ください。
◎「フォレンタ」HP:https://www.forenta.net/
田口さんは林業や製材業の仕事のほかに、ふるさと東白川村の文化や暮らしを広く発信する活動もされています。ぜひ田口さん個人のサイトも見てくださいね。
◎田口房国さんHP:https://www.fusakuni.com/
2022/2/6 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. LOVE LAND / THE LOST GENERATION
M2. 炎 / LiSA
M3. MY BLUE RIDGE MOUNTAIN BOY / DOLLY PARTON
M4. 炎と森のカーニバル / SEKAI NO OWARI
M5. なんでもないや / RADWIMPS
M6. WIND OF CHANGE / SCORPIONS
M7. PRIDE (IN THE NAME OF LOVE) / U2
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2022/1/30 UP!
◎野村哲也(写真家)
『地球は最高の芸術家〜辺境に住んで、感動を撮る写真家〜』(2022.01.30)
◎前田雄大(脱炭素メディア「エナジーシフト」の編集長)
『「カーボンニュートラル」徹底解説!〜脱炭素社会がもたらす未来生活〜』(2022.01.23)
◎山岸尚之(WWFジャパンの気候変動の専門家)
『「COP 26」地球温暖化対策、1.5度の希望〜「グラスゴー気候合意」徹底解説〜』(2022.01.16)
◎大野裕明(福島県田村市にある「星の村天文台」台長)
『冬の星座と天体ショー!〜心を清めてくれるスターライト』(2022.01.09)
◎雨宮国広(縄文大工)
『Jomonさんがやってきた!〜子供たちに伝えたい「命」のものづくり』(2022.01.02)
2022/1/30 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、写真家の「野村哲也(のむら・てつや)」さんです。
野村さんは「地球の息吹」をテーマに、主に辺境や秘境といわれる、人がほとんど立ち入らないフィールドで撮影を行なっていらっしゃいます。
きょうはそんな「野村」さんに、移住生活をしながら撮影するスタイルや、強く印象に残っている世界の絶景のお話などうかがいます。
☆写真:野村哲也

星野道夫さんとの出会い
※1974年、岐阜県生まれの野村さんは高校生の頃に、お兄さんの手ほどきで山登りと写真を始めたそうです。そしてなんと、いまなおたくさんのファンがいる写真家星野道夫さんに出会います。
やはり星野さんとの出会いは、その後を決定づけるものだったんですか?
「星野道夫さんに会った時は、僕は20歳で星野さんは41歳だったと思うんです。とにもかくにも星野道夫というその背中の大きさを・・・写真の撮り方とか教えてくれるんではなくて、写真家とは何だという背中があまりにも大きすぎて・・・星野さんが亡くなってから色んなかたにお会いしていますけれども、あれ以上の背中のでかい人を見たことがないですね。それを20歳の時に見たっていうのは、やっぱり若かりし頃の自分にも本当に衝撃的だったんだろうなっていうのは、今でも思いますね」
●そういった出会いがあって、写真家になって、定期的に住む場所を変えるという移住生活をしながら撮影されているんですよね?
「そうですね。星野さんと実際に、自分が重ねられた時間というのは2年しかなくて、2年後に星野さんはロシアのカムチャツカ半島で衝撃的な死を迎えられたんですね。僕としては本当にアラスカに星野さんを追おう、写真もテーマもアラスカでと思っていたんですけど、亡くなってしまって・・・星野さんがいるアラスカが僕は好きだったみたいで、何も手がつかない時に写真の先輩たちから、南極にでも行ってこいよみたいなことを言われたんですよ。
ペンギンは好きだったので、南極にすごく安く行けるっていう裏技を聞いて、それで行ってみたのが22〜23歳で、南極に2回ほど行かせてもらって、ペンギンの写真集を作りました。
その時、実は南米のいちばん最南端から南極に行ったんですね。その途中で出会ったパタゴニアの風景、南米のアルゼンチンとチリの南のほうをパタゴニアって言うんですけれども、その風景に惚れてしまって、そこから10年ぐらい通い続けて、やっぱり旅行で、旅で撮れる写真に、ある時、限界を感じてしまい、それであればもう住んでみようと。
ちょうどその頃、結婚することになって、奥さんと一緒に住んじゃおうということになりました。そこから2年ごとに住処を変えながら、写真を撮り始めるようになったんです」

●今までどんな場所で暮らしてきたんですか?
「チリの南のほうのパタゴニアで2年間とか、あと南アフリカにも花とか動物の写真を撮るために2年間、またイースター島にも、本を作ろうと思っていたので、全部で6ヶ月ぐらい住んでいました」
●やっぱり住むことで撮れる写真っていうのは、だいぶ変わってくるんですか?
「まずは、結論は変わります。圧倒的に変わります。でも、そこの土地に自分が染まっていって、僕が変わることで、周りの自然の見え方が変わっていくのか、または自分がそこにいることで、根をおろしたから、仕方がないなっていうことで、自然が僕を受け入れてくれるようになったのか、どっちなのかは分かりません。
分からないですけれども、明らかに今まで撮れなかった写真、そこの大地が許してくれるような、優しく接してくれるようなことにはなりますね」
地球がNO.1!
※今までに撮影のために訪れた国は、何カ国くらいあるんですか?
「今、国連加盟国は全部で193カ国あるんですけれども、そのうちの150カ国ほどに足を踏み入れています」
●どうやってこの国に行こうとか、撮影場所を決めるんですか?
「気に入った場所(笑)。でも基本的には僕は、友達にも冷たいやつだって、たまに言われるんですけれども・・・人間も好きなんですが、大好きなんですけれども、それよりも地球のほうが好きなんですよ。
人間よりも地球のほうに興味があるので、簡単に言ってしまうと、人間が作った最高峰の盆栽と、グランドキャニオンと、どっちが見たいって言われたら、僕は別に盆栽が嫌いじゃないですけれども、やっぱりグランドキャニオンを見たいんですよね。
地球が創り上げた、盆栽も自然が創り上げているんですけれども、人の手が全く入っていない、地球が創り上げた造形物のほうに僕は興味があるので、そういう造形物が残っているところを重点的に、やっぱり辺境とか秘境とか、皆さんがなかなか行かない自然が多いところ、大自然の中に行きたいというか、そういうところのほうが多いかもしれないですね」
●これまで野村さんが訪れた場所の中で、個人的にここの絶景すごかった! っていう場所を3つほど挙げていただきたいんですけれども・・・。
「もし答えをひとつって言うなら、地球です! 地球があまりにも美しすぎるので、地球がすべてで、地球がNO.1だと思っていますし、地球が最高の芸術家だとも思っています。
場所を3つって言われると、難しいですけど、まずは地球が創り上げた壮大なもののひとつで、南アフリカにある砂漠が集中的な雨によって花園になるんですよ。それが600キロ続くんですよ。600キロって、東京から岡山まで新幹線に乗って行ったら、左右が全部花園だったら、ちょっとびっくりしません?」

●うわー! すごいですね、そう考えると。
「そんな場所もありますし、この前ちょうどNHKの『ダーウィンが来た』かな。 自分がガイドで入ったんですけれども、ホタル(の乱舞)が100キロ続いたらビビりません?」
●ええ〜! すごい!
「それ、アルゼンチンにあるんですよ。僕たちの中で絶対そんなのあり得ないっていうものが、地球はそんなにちっぽけじゃないので、爆発的な自然(現象)を産むんですよね。そんなことあり得ないっていうことがあり得るのが地球なんですね。
もちろんパタゴニアの山々の険しさっていうか美しさもまた絶景ですね。3つ挙げろと言われたら、それですかね」
(編集部注:野村さんに海外でのコミュニケーションはどうされているのか、お聞きしたら、言葉は英語とスペイン語はしゃべれるそうですが、どちらも通じないときは、笑顔とオーバーリアクションでコミュニケーションをとるとおしゃっていましたよ。笑顔は共通言語なんですね。
野村さんはこのコロナ禍で変わったこととして、みんなが爆笑しなくなったと言ってましたよ。心のことを考えるとマイナスだな〜と心配されています。大自然の中に出かける野村さんは、動物たちと一緒に大笑いしているとおっしゃっていましたよ)
世界に誇れる千葉の宝
※野村さんはいま、新しい本を準備中です。その内容は、国内47都道府県の素晴らしい場所をひとつずつ紹介する、というものなんだそうですが、どんなテーマで選んでいるのか、ちょっとだけ教えていただけますか。
「今回はちょうど今、縄文が数年前からやっぱりブームになっているんですよね。少し前に世界遺産に北海道と北東北(の縄文遺跡群)がなりましたけれども、縄文文化はあまりにも面白くて、そういう目線で僕は47都道府県を見たことがなかったので、新たな目線でまた47都道府県の取材をずっとしてきたこともありましたね」
●例えばどういう場所になるんですか?
「縄文というのは日本中全部にあったんです。僕たちの持っている死生観とか、あと僕たちの核になっている、日本人ってどういう宗教観ですかって言った時に、もちろん仏教徒とかキリスト教徒とかイスラム教徒とか、色々いらっしゃると思いますけれども、基本的にいちばん近いもののひとつは古神道からきていて、八百万(やおよろず)の神信仰というか、アニミズム信仰というか、全ての巨木、全ての巨石、そこに神を見るっていう、だから僕たち日本人はその全部が神なんですよね。
周りにいる全てのもの、関わっているものが神様、ひとりだけじゃなくて、八百万信仰で八百万の神がいるっていう、数えられないくらいの神に自分たちは包まれていて、生かしてもらっているっていう文化が日本文化の神髄のひとつだと思っているんです。
そういうのが実は縄文(時代)からあったことも、縄文文化を学ぶことによって確信したというか、なんて昔の日本は高度だったんだろうっていうことを、遺跡として色んな方たちが必死に守ってきてくれたおかげで、今の僕たちがそれを拝見する、見て学ぶことができるのは非常にありがたいことだなって思いますね」
●例えばベイエフエムの地元千葉だったら、どこを撮影されるんですか?
「千葉はいいところなんですよ。本当に好きなんです、海も綺麗ですし・・・。僕が今、新しい本で取り上げているのは自然が創ったもので、そんなに有名ではなくて、世界に誇れるものなんですよ、むしろ世界唯一のもの。僕はそれが47都道府県に必ずひとつあると思っています。世界唯一です。日本唯一じゃなくて、世界一と言っていいものです。
それぞれ47都道府県の世界一が必ずあるんですけど、千葉は自然っていう視点で見た時にちょっと困ったことがあって、でもこれは絶対何かあると思って探していたら、ぶっちぎり世界一のものがありました!」
●え、何でしょう?
「チバニアンです!」
●あ〜! チバニアン!
「日本中の名前で、(地質)時代の名前に千葉っていう、チバニアンっていう名前が付けられているのは、日本では千葉しかないですからね。それは世界に誇る、俺たちの県は世界の地質年代の、一部の名前として認定されてんだぞって、千葉人は絶対に自信を持って、異国の方たち、または県外の方たちに胸を張って言うべきですね! とんでもなく面白かったです。
チバニアン自体の地球が創り上げた本当に美しいアートが、あんな壁面にあんなにくっきりわかりやすく、それもあんなに簡単に見られてしまう。もう僕は本当に奇跡だと思いますよ。千葉の宝だと思います」

思いっきり感動しようぜ!
※野村さんが主催されているディープ・ツアーがありますよね。これはどんなツアーなんですか?
「僕は基本的に海外にいるので、今までにアラスカやら、ペルーのマチュピチュとか、パタゴニアとか、色んな海外のツアーをしてきているんです。今回1年半、日本にほぼ軟禁状態なので、それだったら国内で、自分が大好きなところ=人が全く知らないところ、人がいないところに行くのが僕の仕事なので、旅行や観光情報サイトにはほぼ載っていないところだけを巡るツアーをしています。
毎月(行き先を)1個ずつ決めて、少し前は沖縄のヤンバルに人をお連れしたんですけど、誰にも会いませんでした(笑)」
●本当ですか!?
「人が来るところに行かないので(笑)。皆さんにも感動してもらいたくて、来月は高知に行って、実は日本最大の磐座(いわくら)があるので、そこの磐座をみんなで巡ろうとか。
3月は北海道に、モモンガってご存知ですか? 真っ白くて目がくりくりのモモンガがいるんですけど、普通会いに行くって言ってもなかなか見られないんですよ。でも一応、僕は写真家なので、モモンガの家を7個ぐらい知っているんですよ。なので、ツアーが始まる前に7個のモモンガの家を、コンコンコン、いますか〜? いますか〜? って、いるよって言ったところに皆さんをお連れしようかなとか」

●行き先も内容もディープになっているんですね。
「そうですね。屋久島に行っても縄文杉には絶対行かないとか。でも人が知らない、縄文杉に負けない杉があるので、その杉に会いにみんなで行きましょうとか」
●定番の場所は行かないんですね?
「一切行かない。だって定番の場所に行っちゃったらディープにならないから(笑)」
●そうか、そうですよね! 面白い、興味深いですね。
「普通、見られないものを見ると、人ってやっぱり感動するんですよね。そのディープツアーには、僕はいつも言っているんですけど、予習は必要ない、予習してこなくて結構ですと。そもそもネットにも載っていないですから、予習のしようがないんですけど。
載っていたとしても予習なんていらない。僕としては、いちばん何が大切かっていうのは、最初に自分がまっさらな、何も知らない状態で会うファーストインパクト、何も知らなかった時に出会って感動したことって、一生で一度きりしかないんですよ。
ファーストコンタクトまでに、予習や復習をしていると色んなバイアスがかかっちゃって、つまんなくなっちゃうと僕は思っています。予習は一切してこずにそのままボーンって放り出しますから、放り出したところで自分の五感を最大限研ぎ澄まして、まず感じてほしいと。例えばモモンガがいたら、そのモモンガの可愛らしさにまず感動して大きく心を揺らしてほしい。
心揺らしたあとにもしかしてモモンガに興味を抱いたら、モモンガの勉強をして復習すればいい、そっちのほうが僕は全然学びとしていいんではないかなと、頭にも定着するんじゃないのかなと思っているんですね。
実は感動も僕はこのコロナ禍で皆さんが失ったもののひとつ、笑いと同じで失ったものではないかなと思っていて、せっかくだったらおもいっきり感動しようぜ! 感動させる場には自分が連れてったるから! って思ってます」
●いいですね〜!
「そこでゲラゲラ笑えればもう言うことないですよね。感動して笑って、最後に学べれば、僕としては言うことないかなって思いますね」

どう感じるかはお任せします
※改めて写真を通して、どんなことを伝えたいですか?
「多分、写真家の方たちは、自分の写真を見て、こういう風に勇気を与えたいです とか、なんとかを感じて欲しいですとか、そう言う方も多いとは思うんですけど、僕はそんなことは言えなくて、写真を見て感じるのはそれぞれの方たちなので、そこはその人たちにお任せします。
僕は、僕の写真を見て、こういうことを感じてほしいとか、それは僕の中ではちょっとおこがましいなって。僕はたまたま自分が見て感動した大自然を出来るだけそのまま、そこのエネルギーも気も含めて封じ込めた状態で写真を撮ってきているつもりなので、その気やエネルギーを感じてもらって、皆さんがどう思うかは、当然僕と同じじゃなくていいですし、違って当たり前ですし、何か感じたことを大切にしてもらえれば、僕はいいのかなって思っています」
☆この他の野村哲也さんのトークもご覧下さい。
INFORMATION
野村さんの写真、そして近況については野村さんのオフィシャルサイト、そしてブログをぜひご覧ください。素晴らしい写真がたくさん載っています。ブログはまめに更新されていて、野村さんがいま何をしているか、よく分かりますよ。
◎オフィシャルサイト:http://www.glacierblue.org/home.shtml
◎ブログ:http://fieldvill.blog115.fc2.com/
野村さんが主催するディープツアーはいずれも定員に達していて、キャンセル待ちの状態だそうです。なお、新型コロナウィルスの影響で延期または中止になることもあります。
2022/1/30 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. OBLIVIOUS / AZTEC CAMERA
M2. LIVING TOGETHER, GROWING TOGETHER / BURT BACHARACH
M3. ALL AROUND THE WORLD / LISA STANSFIELD
M4. TREASURE / BRUNO MARS
M5. BADモード / 宇多田ヒカル
M6. IN TOO DEEP / BELINDA CARLISLE
M7. CAN’T STOP THE FEELING! / JUSTIN TIMBERLAKE
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2022/1/23 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、“世界でいちばん脱炭素に熱い魂!”脱炭素メディア「エナジーシフト」の編集長「前田雄大(まえだ・ゆうだい)」さんです。
前田さんは1984年生まれ。2007年に東京大学を卒業後、外務省に入省。2017年から気候変動を担当。パリ協定に基づく国家戦略の調整にも尽力。そして2020年から「エナジーシフト」の発行人 兼 編集長として活躍中です。週末は群馬のご自宅で有機栽培にも取り組む自然派でいらっしゃいます。
「エナジーシフト」はネットの情報メディアで、脱炭素に関連するニュースが満載! さらにYouTubeチャンネル「エナシフTV」も大人気で脱炭素について熱く語る「ゆーだい」さんの熱量が凄いんです。
そんな前田さんが先頃『60分でわかる! カーボンニュートラル 超入門』という本を出されたということで、きょうはカーボンニュートラルについてわかりやすく解説していただき、さらに脱炭素社会に向けた企業の取り組みや、注目すべき新技術についてもお話しいただきます。
☆写真協力:エナジーシフト

カーボンニュートラルとは
※ここ数年、ニュースなどでも多く取り上げられ、最近ではテレビCMでも見るようになったワード「カーボンニュートラル」、カーボンは炭素のことですが、改めて、カーボンニュートラルとは何か教えていただけますか
「今、世界全体で、これは日本も含めてですけれども、気候変動という問題が大きな問題になってきております。この原因が何かと科学者の方々が突き止めた結果、二酸化炭素が問題であると、主要因であるという形に落ち着きました。
この二酸化炭素は産業革命以後、石油とか石炭とかそういうのを燃やすと当然出るんですけれども、大気中の濃度が濃くなってきているので、これ以上増やしてはならないということになっています。
”カーボンニュートラル”というのはどういう状態かというと、例えば、車がガソリンを使って走った時に CO2を排出します。そういった世界全体で出るCO2の量と、例えば、森林のようにCO2を吸収するものがありますけれども、出る量と吸収される量、これがちょうど同じようになれば、大気中のCO2は増えません。
ニュートラルというのは中立という意味なので、出る量のプラスの分と吸収されるマイナス分、これが等価になるとゼロで中立の状態。これがカーボンニュートラルという状態です」

●前田さんの新しい本『60分でわかる! カーボンニュートラル 超入門』を 拝見しました。なぜ今、このカーボンニュートラルなのか、その理由や背景について改めて分かりやすく解説していただけますか。
「はい。ひとつには、やはり段々とこの大気中のCO2の濃度が濃くなってきていて、それによってもたらされる地球温暖化、これが進展してきています。今、産業革命以降、地球の平均気温の上昇は1度ぐらい上がっている状況なんですけれども、実は国際社会は、この温度を2度未満の上昇に抑えようということになっています。
2度とか1度とかだと実感として大したことないんじゃないかというふうに思われるんですが、これが2度上昇するだけでも、生態系とかにもかなり大きな影響を及ぼしたりとか、甚大な影響が出ます。
今この1度上がった世界でも、日本でも西日本で豪雨が頻発したりとか、ああいうような被害が出るようになってきていて、世界全体でかなり経済活動にもマイナスの影響を及ぼすようになってきていると・・・。
従いまして、世界全体で自分たちの将来を、子供たちに残していく未来も考えた時に、この気候変動問題にしっかり向き合って対策を取らないといけない、ここが急務になったというところがあります。そのためには、カーボンニュートラルな状態に持っていかなければならないというところがひとつあります。
あともうひとつは、このカーボンニュートラル、例えば車で言えば、EV(電気自動車)とか、電気で言えば、再生可能エネルギーというのが手段としてあるんですけれども、ここのイノベーションの加速度がすごくなっていて、ここを抑えることが未来の経済社会モデルを作る上において、非常に有益だろうと思われるようになってきています。
環境的な側面もそうなんですけれども、経済的な側面でも注目が集まってきています。経済成長しながら地球環境もよくなるという両立の論点が出てきたので注目が集まってきていて、カーボンニュートラルにみんないこう、ということになっています」
●経済とか社会の仕組みを変える可能性もあるってことですよね?
「そうですね。産業革命以後、ずっと化石燃料を燃やしてエネルギーを得るというのがベースになって、普段我々も生活している中で、電気が何由来とかあまり思ったこととかないと思うんですけれども、この電気の成り立ちも変わってくると・・・。
例えば、太陽光パネルの値段も下がってきていますけれども、それに応じて、その便利度合いというのは上がってきているので、家の屋根に太陽光パネルを載っける、これがそんなに値段が高くなく、今はもう載っけられるようになってきているので、お宅の電気代が下がることにもなってきます。
結構発電をしますので、災害時に停電をしてしまっても、そういうお宅のところは電気があることになってきたりとか、生活のあり方もだいぶ変わるようになってきています。
EVも航続距離が延びてきていますので、これを使うと、例えば今キャンプとか流行っていますけれども、キャンプに行った先で、ドライヤーとか普段使えなかったものが車につなぐだけで使えるようになってきたりとか。そういう利便性も増えてきていて、徐々に社会、経済のあり方というのが変わってきています」
(編集部注:日本の国としては2年前に菅前総理が臨時国会で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と発表。カーボンニュートラルと脱炭素社会を目指すと宣言しました。
野心的な目標として国際的にも評価されたということですが、そこに向かうビジョンともいえる「カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」も策定されています。これは前田さんいわく、経済成長していくためのロードマップといえるものだそうです)
EV、モーター、蓄電池
※昨年グラスゴーで開催された気候変動に関する国際会議「COP26」でも、世界の国々による温室効果ガスの削減に向けて、いろいろな合意がなされましたが、企業の取り組みがなければ「脱炭素社会」は実現しませんよね?
「そうですね。CO2の排出はやはり企業から出ている部分がかなり多いというところもあります。商品やサービスを提供するのはやっぱり企業ですので、我々が利用するようなサービスで、例えばCO2が減っているようなものを提供するかどうかというのは、やっぱり企業にかかってきているところがあって、企業の役割というのは非常に大きいかなと思います」
●例えば、国内の産業分野の中から、脱炭素に向けた積極的な取り組みはどういったところがあるんですか?
「今、様々な分野で、このカーボンニュートラルに向けたコミットメントというのは出てきています。最近ですと、ニュースで大きく取り上げられたのはトヨタ自動車ですね。”トヨタイムズ”なんてCM でも、水素社会の実現とか、それから話題になったのはEVの戦略、これも本腰を入れて、レクサスなんかも将来的に全部EVにするんだというような話が出てきました。
やはりそういう有名企業がアクションを起こしているというのは、一般の方々にとっても、”あ、もう脱炭層社会になるんだ!”っていうようなところも、可視化されるという意味においてもいいですし、世界に与えたインパクトっていう意味に置いても大きかったかなと思います」
●トヨタのお話もそうですけれども、様々な企業にとって大きな変化が求められてくるのかなと思うんですけれども、業種によっては追い風となる企業も多いんじゃないですかね?
「そうですね。追い風としているような企業はやはりいらっしゃると思います。例えば、岩谷産業さんですね。ガスを扱っている会社さんですけれども、水素も元々扱われていたというところがあります。水素となると、日本の第一人者が岩谷さんになります。
まさにこの脱炭素方針が示されてから、岩谷さんの株価というのはグッと上がったところもありますので、これまで取り組まれてきた水素の知見を活かして、さらに伸ばしていくというような方向性で事業戦略を組まれていると思いますから、追い風にされてビジネスをされているんだと思います」
●世界の脱炭素に向けて貢献する日本の技術もきっと多いですよね?
「多いと思います。例えば、車もEV化が脱炭素においてはひとつキーとなるんですけれども、そこの中ではモーター、それから蓄電池というこのふたつが結構鍵になります。
モーターは日本電産という企業が非常に高い技術を持って、世界のシェアを多く取りながらやっているところがありますので、このモーター技術を活かして脱炭素社会に貢献していくという文脈もあります。
蓄電池も、アメリカではEVとなると、テスラという会社が非常に有名ですけれども、テスラのこれまでの蓄電池のところを支えてきたのは、日本のパナソニックになっています。今は中国、それから韓国の蓄電池メーカーも台頭してきているので、テスラはそういうところとの提携も始めてはいるんです。
そうは言っても、パナソニックも重要な提携先になっているという意味においては、世界の3強と言われている蓄電池の一角をパナソニックが占めていますので、世界に対して貢献していると言えるんじゃないかなと思います」

注目すべき人工光合成の技術
※ほかに前田さんが注目している技術はありますか?
「この脱炭素時代、どうしても再生可能エネルギーのように、これまで出ていたCO2を出さないという方向性にいくものが多いんですけれども、カーボンニュートラルの成り立ち、出すほうもあれば吸うほうもあるというところで、注目している技術として、人工光合成というのがあります。
元々、森林が行なっている光合成、これはCO2を吸収してという話ですけれども、これを人工的に行なうということで、大気中のCO2を活用しながら、別のものを生み出していくというような概念になっています。
これが本当に経済的にもしっかり成り立つような形で確立されると、いくらCO2を出しても、人工光合成で吸収しきれば、カーボンニュートラルになっていきますので、かなり注目かなと思っています。
実は日本の企業も東芝さんとかトヨタさんも取り組まれているんですけれども、世界で最高効率を叩き出していたりもしますので、日本が貢献出来るというところもそうですし、出す側を減らすだけではなくて、どうやってそもそもあるCO2を減らしていくのか、これを突き詰めていくと面白いかなと思っています」
●一方で取り組みが遅れている分野で、ここは頑張って欲しいなっていうところありますか?
「やはりこの脱炭素の流れで、様々なところで取り組みが加速していくことが重要なんですけれども、ベースとなるところで再生可能エネルギーというのがひとつ大きな鍵になってきます。
今この再生可能エネルギーで、拡大していくとみなされているふたつの分野があるんですが、ひとつが太陽光発電、もうひとつが風力発電になります。いずれも日本の企業の存在感が薄くなってきてしまっています。
太陽光発電に関しては2005年ぐらいまでは太陽光パネルは世界のシェアNo. 1は日本だったんですけれども、今はもう1%まで下がってしまっていますので、こうしたところは巻き返しをしてもらってと思いたいところです」
カーボンニュートラルが生活を変える!?
※やはり気になるのが、カーボンニュートラルの社会になると私たちの生活がどう変わるのか、だと思います。生活面でどんな変化がありそうですか?
「世界の潮流から申し上げると、実はこの再生可能エネルギー自体が、コストが下がってきているというところがひとつ特色になっています。この流れをしっかり日本も汲むことができれば・・・今は再生可能エネルギーは国民負担になってしまって、電気代を上げる方向にいってしまっているんですけれども、期待したい方向性としては、日本の電気代が再生可能エネルギーの導入によって長期的に下がる、もしこういうことが出来れば、実感値として出てくるかなという風に思います。
あとは都心と地方で少し変わってくるところはあるかなと思うんですけれども、地方のお宅で太陽光パネルを(屋根に)載せることができれば、今もうそれだけで電気代が下がるようになります。
そうなってくると、それをEVにためるということが出来れば、今もこの瞬間、実はランニングコストでいうと、EVのほうがガソリンで走るよりも電気で走るほうが安いので、そういうところでお財布にも優しくなっていきます。
プラスその車にためた電気を使って、家の電気を効率よく回していくというようなことも出てくるようになるかなと思います。車さえあれば、どこでも電気が使えるようになってくると、車のあり方もまた変わってきます。
カーシェアみたいなことも出てきて、これが例えば、携帯のアプリと連動して、車を持たなくても勝手に車が来るような、車の自動化もこの電動化に合わせて行なわれているところになっていますので、もしかすると交通のあり方も変わってくるかもしれません」
●私たちの生活を振り返ってみると、本当にエネルギーなしでは成立しないですよね。ということはCO2を出さないと生活できないじゃないかって思っちゃいますけれども、カーボンニュートラルは生活全般に関係しているっていうことですよね。
「おっしゃる通りです。今の社会のモデルというのは基本的に何をするにしてもCO2が出る、電気を使おうが車に乗ろうが出るようになっていますので、これがガラッと変わっていく、これが脱炭素トランスフォーメーションと言われている由縁になるんですけれども、ここの前提を変えないといけないというところがあります。今あらゆるところから生活しながら出ているCO2、これが2050年にはゼロになっていくという話ですから、すごいことだなと思います」
※やはり、私たちひとりひとりの意識や行動が大事ですよね。
「今カーボンニュートラルの動きというのは、どうしても国の政策であったり、それから企業の役割であったりというところに焦点が当たりがちなんですけれども、(企業が)供給をするだけではなくて、やはり(消費者から)必要だというニーズが出てきて、歯車が噛み合うような部分もあるかなと思います。
ひとりひとりの取り組み意識が変わって需要が出てくると、そこに目をつけてビジネスが生まれてくるという好循環になるかなと思います。
例えば、地方に住んでいるのであれば、屋根置きの太陽光パネルを載せてみるとかもそうですし、都心であっても再生可能エネルギーの電気のメニューというのが、今はもう電力の小売り自由化になっています。
実は東京電力さんとかの電気プランよりも、再生可能エネルギーなのに安いプランも出ていますので、そうしたものに切り替えていただくというのもそうですし、それから車をEVにしていただくとか、様々あるかなというふうに思います。
ちょっとでもいいので、そういう意識を持っていただくと、需要のほうが動き始めますので、そういうところに取り組んでいただければなと思います」
●個人ひとりひとりが出来ることっていうことですよね。
「そうですね。そういう取り組みが、例えばそこに目をつけた日本の企業がイノベーションを起こして、そのイノベーションが世界に広がると、世界のCO2を減らす方向にもつながるかなと思います。
そうなると世界全体の気候変動が、進展が遅くなる、ないしは改善しますので、例えば日本の、西日本豪雨のようなことがありましたけれども、ああいうようなことが減って、未来の社会が安定したものになる、そういうところにも回りまわってつながると思います」
脱炭素メディア「エナジーシフト」
※前田さんが発行人 兼 編集長を務めるメディア「エナジー・シフト」は脱炭素に関連するニュースが満載ですね。どんなところにポイントをおいているんですか?
「やはり多くの方々に情報を届けたいと思っています。単にそこに存在する情報を横流しにするだけだと、面白いと思っていただけないと思いますので、人がより興味関心を示していただくように、これをどうにか面白いと思っていただけるように出来ないか、掛け算をちょっと意識しながら、日々、人の興味関心に脱炭素が掛け算出来るように意識しながら発信をさせていただいています」

●その「エナジーシフト」から生まれたYouTube チャンネル 「エナシフTV」 では、前田さんが「ゆーだい」として気候変動や再生可能エネルギーなどをテーマに熱く語ってらっしゃいますけれども、パワフルですよね! “世界でいちばん脱炭素に熱い魂”というフレーズが印象的でしたけど、本当に熱いですね!(笑)
「ありがとうございます! もう暑苦しいくらいです(笑)。(世界は)脱炭素を、地球の温度を下げにいく方向性ではあるんですけれども、私自身は熱量を上げにいっているんじゃないかっていう(笑)」
●すごく上がっていますよね!(笑) 本当に脱炭素に人生をかけているんだなっていう印象がありますけれども。
「はい! 人生、もう完全に全振りして、脱炭素にかけてやらせていただいています」
●今後はどんな発信をされていきたいですか?
「そうですね。日本もカーボンニュートラルの宣言が出て、2021年には本当に多くの企業から、脱炭素に関するコミットメントが出てくるようになりました。これが2022年は、加速をしていくことになるかなと思っています。
そうなると、ひとつひとつの単発の情報だけでなくて、これらがどうつながっていくのか、社会全体を網目状に底上げしていくような形にしていきたいなとに思っていますので、そうした形のハブのひとつになれればなと思って、意識しながらやっていきたいなと思っています」
●カーボンニュートラル、そして脱炭素に向けて、改めてリスナーの皆さんにいちばん伝えたいことってどんなことでしょうか?
「はい。デジタルの世界が、デジタルトランスフォーメーションと言われましたけれども、人々の生活を変えて、それが当たり前になったというのが、今の世の中だと思うんです。それが起きる前は、誰もこういうようなことが起きるとは思わなかったと思います。
世界は今、脱炭素の流れというのは、単に持続可能な世界を未来に残すというだけでなく、やはり社会、経済のあり方を変えていくというところにありますので、ぜひアンテナを高く・・・そして社会、経済が便利になる方向に、この流れはいくかなと思いますので、それを上手く活用していただきながら、皆様の生活も豊かになっていくといいかなと思っております」
INFORMATION
『60分でわかる! カーボンニュートラル 超入門』
前田さんの新刊。脱炭素に向けた国内外の動きや取り組み、そして技術などが、図やイラストでわかりやすく解説。さらにYouTubeチャンネル「エナシフTV」と連動しているので楽しみながら理解できますよ。おすすめです! 技術評論社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
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「エナジーシフト」「エナシフTV」
前田さんが発行人 兼 編集長を務めるネットの情報メディア「エナジーシフト」、そしてYouTubeチャンネル「エナシフTV」もぜひ見てくださいね。「ゆーだい」さんの熱さに圧倒されると思いますよ。詳しくは「エナジーシフト」のサイトをご覧いただければと思います。
◎エナジーシフト HP:https://energy-shift.com
2022/1/23 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. A CHANGE IS GONNA COME / SEAL
M2. SUNSHINE / LOUIE VEGA FEAT. BLAZE & RAUL MIDON
M3. CHURCH (FEAT. EARTHGANG) / SAMM HENSHAW
M4. I SAVED THE WORLD TODAY / EURYTHMICS
M5. Wake Me Up / milet
M6. TOP OF THE WORLD / DIANA ROSS
M7. Change / ONE OK ROCK
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2022/1/16 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、WWFジャパンの気候変動の専門家「山岸尚之(やまぎし・なおゆき)」さんです。
山岸さんは、温暖化に対する国際的な取り決め「京都議定書」が採択された1997年に立命館大学に入学、COP3が開催された京都にいたこともあって、気候変動の分野に関心を持ったそうです。その後、ボストン大学大学院を経て、WWFジャパンの気候変動担当オフィサーとして活躍、現在は気候エネルギー・海洋水産室長の責務を担っていらっしゃいます。
気候変動に関する国際会議、通称COP、正式名称は「国連 気候変動枠組条約 締約国会議」に毎年参加され、もちろん、去年英国のグラスゴーで開催された「COP 26」にも参加し、およそ2週間にわたって会議の動向を見てこられました。
今回はそんな山岸さんに「COP26」の成果と、今後の課題についてわかりやすく解説していただきます。
☆写真:WWFジャパン

温暖化の計り知れない影響
※ここ数年、異常気象による自然災害が国内外で目立つようになりました。このまま温暖化が進めば、もっと自然災害は増えていきますよね?
「今は大体、産業革命の前から1度くらい世界の平均気温は上がっているんですけど、このまま温暖化が進んで、1.5度とか2度とかになってくると、もっとこうした異常気象が増えてくるっていうのは科学的に予測されています」
●災害だけでなく、作物が育たなくなったりとか、食料が不足したりとか、そういったことも考えられますよね。
「やっぱり気温は農作物にとっても大変大事なファクターなので、それがあまりに高くなってしまうと、今だったらここで育つものが将来育たなくなってしまうとか、そういう被害が考えられています。そのほか感染症が拡大するという危機も懸念されています」
●今、感染症という言葉がありましたけれども、蚊が媒介するマラリアなどの感染症がもっと人間を脅かすかもしれないっていう話も聞いたことがあるんですけれども・・・。
「そうですね。今までだったら蚊があまり多くなかったような場所にも、蚊の分布域が広がっていくことによって、感染症も一緒に広がっていくんじゃないかと懸念されていて、それは日本でも実は懸念されているんですよね」
●平均気温が上昇することで、ほかにどんな影響が出てきますか?
「端的にいうと、平均気温が上昇すると、北半球では段々と自分たちが住んでいる場所の緯度が上に上がっていく、それに近いわけですよね。だから東京が沖縄みたいな気温になっていくとか、気候的にもそういう風に少しずつシフトしてしまうっていうのがあります。
それから、いわゆる異常気象だけではなくて、作物に対する被害であったりとか、干ばつが発生する可能性もありますし、異常に雨が降ることもあるし、台風が強力になるみたいなこともあるし、本当にいろんな被害が考えられますね。
気温が上がるっていうとなんとなく単純な話のように聞こえますけど、やっぱり気候が変わるっていうのはそれだけ自然にとって、そして人間にとっての環境全部が変わることを意味しているので、影響はかなり計り知れないものがあります」
●しかもそれが地球規模ですよね。
「そうですね。カナダのリットンっていう場所で、49度ぐらいの気温が記録されています。そこは夏場でも平均気温20度台なんですよね。そんなところで40何度っていう気温が記録されると、それは元々暑いところで、例えば中東とかで40度とかいくようなところで、49度を記録するのと全然意味合いが違ってきますよね。
社会のインフラが全然対応できていないわけじゃないですか、そんなに熱くならないんだから普通。そうすると人に対する被害が発生する、熱中症だとかそういった病気にかかってしまう人も増えますし、健康的な被害もどんどん出てくるようになるだろうということが懸念されていますね」
このあと山岸さんには「COP 26」の解説をしていただきますが、その前に2015年に採択された「パリ協定」について、ちょっとだけおさらいしておきましょう。
「パリ協定」とは1997年の「京都議定書」に続く、温暖化対策の新しい枠組みで、「世界の気温上昇を産業革命前に比べて2度より十分に低く保ち、できれば1.5度に抑える努力をする」という世界共通の目標が掲げられました。
この目標に向かって、先進国だけでなく、途上国も含むすべての参加国が温室効果ガスの削減に取り組むという点で、この「パリ協定」は歴史的かつ画期的な枠組みといわれています。
「グラスゴー気候合意」3つのポイント

※実は、COP 26が開催される直前に、国連環境計画がこんな発表をしました。それは、世界各国が温室効果ガスの削減目標を達成しても、今世紀末には世界の平均気温は産業革命前から2.7度上がるというショッキングな報告でした。
山岸さんは現場にいらして、この報告を各国はどんな風にとらえていたのか・・・何か感じることはありましたか?
「やっぱりここ数年、危機意識の高まりがすごく大きくて、そのひとつは先ほども冒頭でお話があった異常気象が、本当に世界の色んなところで観測されるようになって、温暖化とか気候変動は将来の問題ですっていう雰囲気ではもうなくなってきたんですね。そこで起きているじゃないか! という危機意識が高まって、人的被害も結構発生しているので、どうにかせんとあかんという雰囲気は高まっていたと思います。
今回の会議には多くの国が首脳クラスを送ったんですよ。日本で言ったら岸田首相、それが120カ国ぐらいが来ていたので、それはやっぱりすごいことですよね。それだけ大事な会議だっていう意識の表れだと思います」
●COP26では「グラスゴー気候合意」というものが採択されました。このグラスゴー気候合意にはどんなことが盛り込まれたんですか?
「色んなことが書いてあるので、たくさん説明しちゃうと分かりにくくなるので、3つぐらいのポイントに絞ってお話しします。
ひとつめが、世界全体のゴールがパリ協定にはあって、世界の平均気温を2度より十分低くっていうのと、それから1.5度に抑える努力を追求するっていう文言があるんですよ。有り体に言えば、2度に抑えるのが主目標で、1.5度はある種の努力目標みたいな書き方がされているんですね。
なんだけど、今回の会議ですごく明確になったのは、やっぱり1.5度に抑えないとだめだよねっていうことに、国際的な合意がされたっていうことでした。グラスゴー気候合意はそういう1.5度の特出しみたいな書き方がされているのが、ひとつめのポイントです。
ふたつめのポイントは、これもさっきお話ししたことに関わるんですけど、1.5度に抑えましょうっていう風に国際的になったのはいいことなんだけど、でもやっぱり現状の各国の対策は全然それに追いついていないと。だからもう1回強化をするために、来年も見直して持って来てよっていう指令が出たのがふたつめですね。
3つめは、これは結構意外だったのが、日本の新聞でも話題になったんですけど、石炭火力発電は段階的に削減していきましょうねっていう文言が入ったんですね。国連の会議は各国の主権を尊重するので、普通あんまり国内の情勢について、国内で何をやるかっていうことについてまで、あまり書かないのが暗黙の了解みたいな感じなんですね。
こういう風に石炭火力発電を、どうするみたいなことを指定して書くのは結構、国連会議としては異例の措置です。でも裏を返すと、今回のグラスゴー気候合意でそれが入ったのは、それだけ国際的に、さすがに石炭火力発電はもうやめていかないとだめだよねっていう合意が出来始めている証拠になりますね。この3つが大きな成果かなと思います」
石炭火力発電を削減!

※気温上昇を1.5度にするために、各国にどんなことが課せられたのか、もう少し詳しく教えてください。
「これはやっぱりすごく大変な目標で、 本当に出来るのかな、出来ないのかなっていうレベルでの難しい目標です。端的にやらなきゃいけないこととしては、1.5度に抑えるためには削減目標を強化していかないといけないっていうのがあります。
もちろん目標を強化するだけじゃなくて、それに伴ってやる対策も強化していかなきゃいけないってことですけど、今回のグラスゴー気候合意で言われているのは、先ほどのふたつめのポイント、来年までにもう1回、各国の2030年に向けての目標を見直してきてよっていう指令と言いますか、要請が出されました」
●温室効果ガスの排出をもう実質ゼロにしないと、1.5度には抑えられないんじゃないかって思いますけれども・・・。
「1.5度に抑えようとした時に、科学的に分かっていることは、1.5度に抑えようと思うと、世界全体の温室効果ガスの排出量、特にCO2の排出量を2050年までに事実上ゼロにしていかないといけないっていうことです。2度だともうちょっとあとでも、60年代から70年代でもなんとかなるかなっていうのが科学的な知見なんですけれども、1.5度にしようと思えば2050年にはゼロにしていかないといけないというのが分かっています」
●そして石炭火力発電ですけれども、なかなか国連の会議で話し合われることではないんですね?
「そうですね。先ほど申し上げたように、特定の燃料を狙い撃ちにするのは、国連の会議自体ではあまりやりたがらないことなんです。なんだけれども、今回はそれでも敢えてやらなきゃいけないっていうことと、特に議長国だったイギリスがここは(グラスゴー気候合意に)入れたほうがいいと強く押したみたいで、それが功を奏したってところがありますね」
●やっぱり石炭の火力発電は二酸化炭素の排出量が多いっていうことですよね。
「ふたつポイントがありまして、ひとつはCO2の排出量を見た時に、やっぱり原因は化石燃料を燃やしていることなんですね。なんで燃やしているかってエネルギーが欲しいから燃やすわけなんですけれども、その燃やしている化石燃料の中でいちばんCO2の排出量が多いのが石炭なんです。これがひとつめのポイントです。
ふたつめは、世の中の色んな部門を見た時に、いちばん排出量が多い部門、経済の部門ってどこなのかっていうと電力なんですよね。その電力はやっぱりいちばん排出量が大きい部分なので、対策をしていかなきゃねっていうのがコンセンサスなんです。
だからいちばん排出量が大きい部門の、いちばん排出量が大きい燃料を、まずはどうにかしましょうっていうので、石炭火力発電はまず最初にやめていかないとだめだよねっていうのが、国際的なコンセンサスになってきていることですね」
●日本は火力発電に依存していますよね?
「そうですね。特に震災で原発が止まって以降、火力発電に対する依存度が高まっていて、今でも多分30%近くが石炭火力発電ですね。エネルギー基本計画っていうのがあって、その中に書かれているんですけど、2030年時点でも19%ぐらい石炭火力発電はとっておこうっていう計画に今はなっているんです。
これが国際的にはすごく評価が悪くて。というのは今回、議長国だったイギリスは、先進国は少なくとも2030年までに石炭火力発電はやめていこうぜっていう呼びかけをしていたんですね。そこにきて、日本は2030年までに19%まだとっておきたいですって言っていたので、国際的な感覚からズレてしまっているというのがありますね」
「パリ協定」ルールブック

※もうひとつの成果として、温室効果ガスの削減量の国際取引を認める仕組みが採択され、「パリ協定」で採択されたルール作りが完成したと、WWFジャパンのサイトでも紹介されていましたが、これはどういうことなんでしょうか?
「2015年にパリ協定がまず採択されたあとに、パリ協定を実際に国際的な仕組みとして動かしていくために、もうちょっと細かいルールを整備する必要があったんです。大方のルールは2018年の、今から3年前の会議の時に合意出来たんですけど、まだ何個か残っていたルールがあったんです。
そのうちのひとつというか、いちばん論争が大きかったのが、この国際的な排出量の取引を認めるっていうルールだったんですね。それが今回、何とかまとまったということで、とりあえずこれをもって、”パリ協定のルールブック”って、よく俗称で呼んでいましたけど、それが完成しましたねっていう評価になっていました」
●これは大きな成果ですよね?
「そうですね。これも期待している人たちも多かったので、それなりに大きな成果ということが言えます。何が大事かっていうと、ふたつぐらいポイントがあって、何のために国際的に排出量の削減量を取引出来るようにするのかっていうと、ひとつは各国が目標を達成しやすくするためなんですよ。国によっては、同じ1トンのCO2を削減しようとした時に、かかるお金、費用が違うんですよ。
すでに色んな技術が進んでいる国、特に先進国でこれから1トン削減しようと思うのと、まだそういう技術が入っていない、先進国だと当たり前のような技術が入っていない途上国で、同じ1トン削減するのにかかる費用が違います。でもCO2の削減っていう意味でいうと地球全体のことなので、別にどこで削減してもいいじゃないですかっていう話があるんです。
ほかの国で削減する代わりに、その削減した量をうちの国で、例えば日本の企業さんがインドネシアに出かけて行って、インドネシアで削減をする代わりに、そこで削減した量を、日本の目標の達成のために使わせてよと。そうするとインドネシアの側からしてみると、日本の企業が入って来てくれて、技術とお金を落っことしてくれるという利点があると。日本の立場からすると、日本で同じ量を削減するよりも安くあがると。そういう利点があるんですよ。
だから目標を達成しやすくする仕組っていう意味でひとつめがあって、ふたつめは、今申し上げたような感じで、日本とインドネシアの間で協力が進みそうな感じがするじゃないですか。日本とほかの国、色んな国同士での協力を進めるみたいな意味合いがこの仕組みにはあるんですね。ただ、ルールをちゃんと作らないと大変な問題になるので、今回まで結構もめていたっていうことがあります」
残された課題は資金支援

※COP 26では、課題も残されたと思います。そのひとつが先進国による途上国への資金支援だと聞きました。これは具体的にどういうことなんでしょうか。
「元々このテーマってすごく大きくて、先進国からしてみると、途上国にもっと頑張ってもらわないという思いがあります。特にここでいう途上国って中国とかインドとかも、いわゆる普通の文脈だと新興国って呼ばれるような国々も含めて途上国と、この交渉の分野ではいうので、そういった国々にも頑張ってもらわないと削減はままならないっていう思いがある一方で、途上国からすると、今の温暖化って基本的に先進国が引き起こしてきたので、その対処がすごく遅れに遅れてここまで来ている・・・アメリカの歴史なんか見ていると、それはすごくよく分かると思うんですけど、そういうのを見ている中で、何で俺たちにしわ寄せが来るんだっていうのが、すごくあるんですよね。
その間を取り持つ議論として、途上国に対する資金支援がすごく大事なお話になっていて、今からもう10年以上前の2009年に、段階で先進国から途上国に総額で公的なお金も、それから民間のお金も合わせて2020年までに、1000億ドル資金の流れを作りますよという風に約束をしているんですね。
これがどうやら達成出来なそうだっていうのが分かっていまして、現状で大体800億ドル弱しかいってなくて、トータルで1000億ドルには届いていないんですよね。なので、途上国の側からからしてみると、いやいや、約束が違うじゃないかっていう話になっているのがひとつ大きな問題です」
COP27の展望と、ユース世代の台頭
※次のCOPは今年エジプトで開催されることになりました。このCOP27に期待することはなんでしょうか?
「はい、COP27はさっきもちょっと申し上げたように、もう1回、各国が削減目標を持ってくるっていう一応約束にはなっているんですよね。そこで、どれくらい積み増し出来るのかを、引き続き見ていかなければいけないことかなと思います。
日本も、例えば今年、削減目標を1回積み増ししているんですよね。元々、2030年までの日本の温室効果ガスの排出量の削減目標は、2013年と比べて26%削減しますっていう目標だったんです。これを46%削減にしますと菅前首相はアナウンスをされて、実際に国連に提出されています。
もうひとつ、その46%には但し書きみたいなものがあって、出来れば50%の高みにチャレンジしていきますというような付け足しみたいのがあるんです。努力目標みたいな奴がね。なので、その50%の方向にどれくらい近づけていけるのかっていうのが、まずひとつは課題になるのかなと日本的にいうとあります。
ほかの国でも、削減目標をちゃんと積み増していくことが大事ですし、それはもうアメリカやヨーロッパの国々みたいな先進国だけじゃなくて、中国とかインドに対しても必要なことで、世界全体で削減目標を積み上げて、何とか1.5度の希望が消えないようにしていくのが、COP27の大きな課題かなと思っています」

●山岸さんは、長年COPの現場に行かれて、気候変動の問題もずっと見てこられたと思うんですけど、山岸さんとしては今、どんな思いがありますか?
「そうですね。やっぱりふたつ相反する思いがありますね。昔から言ってきたけどまだ不十分だなっていう思いと、他方でようやくここまで来たなっていう思いと、ふたつあります。
なるべく希望を持っていただきたいので、後者をちょっと強調して言うと、過去2〜3年の日本の流れを見ていると、ずいぶん変わったなって思うんですよ。何でかって言うと、それこそパリ協定が採択された2015年の段階から、CO2の排出量をゼロにしましょうっていう話って結構あったんですよ、その当時から。
でも、そんなの絶対無理だよ! っていう雰囲気がやっぱり世の中には多かったんですね。今は、まあ今でも無理だよって人は多いですし、実際無理だなって思っている人も多いと思うんだけど、”脱炭素化”っていうキーワードによく表れているように、とりあえずここを目指さないといけないよね! っていう雰囲気はだいぶ、特に大きな企業さんの間では広まってきています。それは本当に隔世の感がありますね。
あとは、若い人の台頭が日本でも見られるようになってきたのは、結構希望が持てるなと思っています。今回のCOP26も若い人が、ユースの方々が何名か、すごく来にくい状況下に関わらず(会場に)来ていたんですよね。で、一生懸命、日本の若者として他国の若者と連帯してメッセージを出していて、岸田首相にお手紙を届けたりとか、そういうことを一生懸命やっていらっしゃいました。
そういう新しい力が、この分野にも流れ込んできているなっていうのはすごく感じるので、そういう意味で言うと、ようやくここまで来たねって、まだまだ希望は捨てられないねっていうのが、18年間くらいかな、このCOPの流れを見てきて、国連気候変動会議の流れを見てきても思うようになりました」
☆この他の山岸尚之さんのトークもご覧下さい。
INFORMATION
COP26については、WWFジャパンのサイトに詳しく載っています。 ぜひご覧ください。また、WWFジャパンでは、活動を支援してくださる会員、そして寄付を随時募集しています。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎WWFジャパン HP:https://www.wwf.or.jp
2022/1/16 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. BAD WEATHER / YOUNG DISCIPLES
M2. STRANGE WEATHER / GLENN FREY
M3. PROMISES / BASIA
M4. ENERGY / KERI HILSON
M5. 懐かしい未来 / 上白石萌音
M6. BRAND NEW SET OF RULES / MICK JAGGER
M7. WE MAKE THE WEATHER / HOWARD JONES
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」