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オランウータンの命運を握っているのは、私たちです。

2024/7/14 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、ネイチャー・フォトグラファー「柏倉陽介(かしわくら・ようすけ)」さんです。

 柏倉さんは1978年、山形生まれ。写真家として、自然風景、野生動物、環境問題など幅広い分野で撮影を続けていらっしゃいます。作品は、アメリカのスミソニアンやロンドンの自然史博物館などで展示。また、「ナショナル・ジオグラフィック」ほかの国際フォトコンテストで入賞するなど、世界的にも注目されています。

 そして先頃、写真集『Back to the Wild〜森を失ったオランウータン』を出されたということで、番組にお迎えすることになりました。

 柏倉さんは、国内では北海道・礼文島に撮影の拠点を置いていらっしゃいます。

 礼文島は、稚内市の西の沖合60キロに位置する最北の離島で、柏倉さんによれば、島には北から南へ1本の道路があり、それが約25キロ、車で30〜40分で走れる、それくらいの大きさの島だそうです。人口は2300人ほど。

 野生の哺乳類は、意外に少なくて、イタチなどがいる程度。ヒグマやキタキツネは生息しておらず、海岸に行くとアザラシや、冬になるとトドがやってくるとのこと。首都圏からのアクセス方法は、羽田から稚内空港、そこからはバスとフェリーになるそうです。

 今回は、礼文島にいる柏倉さんにリモートで島の自然や星空、そしてボルネオ島の「オランウータン・リハビリテーションセンター」のお話などうかがいました。その時の模様をお届けします。

☆写真:柏倉陽介

柏倉陽介さん

礼文島は「花の浮島」

※まずは、礼文島のどのへんに撮影の拠点があるのか、お聞きしました。

「礼文島のいちばん北のスコトン(須古頓)集落という場所にあります。歩いて300メートルぐらい先に“日本最北限の岬”みたいな看板がありまして、そこが有名な『スコトン岬』という場所になっています」

●空き家を改装されたんですよね?

「はい、取材中に偶然そのスコトン集落があるエリアに出会いまして、空き家があるかな? どうかな? ってインターネットで検索してみたら一軒だけありました。それで(借りる人を)募集されていたんですけれども、そこに応募したら偶然選んでいただいたという形ですね」

●そこからは、どんな景色が見えるんですか?

「花畑! 一面の花畑なんです。礼文島って実は高山植物が有名な島で、“花の浮島”とも呼ばれているんですが、ここに高山植物が300種類ぐらい年間咲き誇るんですね。僕が見た光景は『ゴロタ岬』という展望台から風景写真を撮ったんですけれども、その一面の花畑の向こうに半島のような突端があって、その突端にスコトン集落があるという、そういう見事な光景でした」

※柏倉さんの生活の拠点は神奈川だそうですが、なぜ礼文島に撮影の拠点を置くことにしたんですか?

「風景撮影の仕事で偶然(礼文島に)行ったんですね。そこでとにかく一目惚れしてしまったというか・・・。
 風景の中に人が住んでいるっていう世界観というか、世界中いろんな場所に撮影に行くんですけれども、その中には大自然の中にぽつんと一軒家があったりとか、とにかくすごい風景の中にある家がいつも目に入ってきたんですよね。それにすごく近いなと思いまして、そこがポイントですね」

 季節的には6月の上旬から礼文島の固有種が咲き始めて、だいたい8月の上旬までは花の時期が続いていますね。この時期は、礼文島の固有種『レブンウスユキソウ』という花が咲いています。

 「エーデルワイス」の仲間なんですね。これが礼文町の町花に選ばれている花で、実際に白く雪が積もったような白っぽい花なんですけれども、花びらに見えているのが実は葉っぱなんです。花弁はちょっと黄色っぽいんですけど、それを包み込むような、そこから広がっていくような花のようなものに、白い雪が積もっているみたいな見た目ですね。とても美しいので見てもらいたいです」

●街の明かりとかもないから、夜も綺麗なんじゃないですか? 星空が・・・。

「そうですね。とにかく異様なぐらい星が美しいんですよ。やっぱり周りが海に囲まれていることと、それから島の中に街灯も少なくて街明かりもあまりないということで、天の川がすごく立体的に浮かび上がっているような感じで見ることができます」

<コラム:日本列島、その島の数が倍に!?>

 あす7月15日は「海の日」。「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国家日本の繁栄を願う日」なんですね。

 海に囲まれている、いわゆる島国日本は多くの島で構成されていて、その数はこれまで「6852」とされてきましたが、36年ぶりに国土地理院が調べ直したところ、
なんと、倍以上の「14,125」の島があったそうです。

 これは、新たに島が発見されたのではなく、航空写真による測量技術が進化したことで、正確に数えられるようになったからだそうです。ここでいう島の条件は、周囲の海岸線の長さが100メートル以上。

 では、都道府県でいうと、島の数が最も多いのはどこでしょうか? 
 答えは長崎県、その数1479。五島列島などがありますから、確かに多いイメージがありますよね。
2位は、長崎県よりも6つ少ない北海道で1473、3位は鹿児島県で1256 ということです。

ボルネオ島のオランウータン・リハビリ施設

『Back to the Wild〜森を失ったオランウータン』

※ここからは、柏倉さんの最新の写真集『Back to the Wild〜森を失ったオランウータン』について、お話をうかがっていきます。この写真集は、おもにボルネオ島にある「セピロク・オランウータン・リハビリテーションセンター」で撮影した写真で構成されています。

●表紙は水色のタオルを頭から被って、つぶらな瞳で天井を見上げている保護された赤ちゃんオランウータンの写真になっています。なんだか切ない表情というか、寂しそうで不安そうですよね?

「ええ、そうなんです。幼い赤ん坊に近いオランウータンは、ずっと母親の体にしがみついて、一緒に何年も何年も生活していくんですけれども、開発に巻き込まれて母親とはぐれてしまった孤児たちは、しがみつく母親の体を失ってしまったんですね。なので、毎日泊まる場所、檻の中にタオルが敷かれていたりするんですけども、その檻の中のタオルを頭から被って、なんというか・・・寂しさを紛らわしているというか、そういう光景がありましたね」

●この写真からすごく寂しそうな雰囲気が伝わってきました。人間がタオルを被せたわけじゃないってことですよね?

「そうですね。ある日の朝、彼らの寝床のある建物に入って行ったら、やっぱり頭から(タオルを)被っていたりとか、それから体中にタオルを巻きつけていたりとか、そういう光景をよく目にしましたね」

写真:柏倉陽介

●あんなにちっちゃな赤ちゃんオランウータンが、自分でタオルを身にまとっているんですね?

「そうですね。オランウータンは記憶もすごく優れているので、おそらく自分の母親のことを思い出したりとかしているのかなと思うと、胸が苦しくなりますね」

※柏倉さんがこの施設を知ったのはいつ頃で、どんなきっかけがあったんですか?

「もう15年近く前になるんですけれども、環境保全の撮影ツアーがあって、そのツアーに同行して写真を撮るという仕事で行ったんですね。

 『キナバタンガン川』という長大な川がボルネオ島にありまして、そこの川の両岸に野生動物がたくさん出てくるんですよ。で、それを僕は “わ〜、すごいすごい!”と言いながらたくさん写真を撮っていて、その時に同行してくれた環境保全団体の理事長さんが、“どうしてこんなにたくさん動物が現れるかわかりますか?”っていう質問を僕にしてくれました。

 僕はわかんなかったんですけれども、そのなぜかっていうのは、川の両岸にある森の、数十メートルすぐ向こうには人間が開発したアブラヤシ農園がどこまでも広がっていって、動物たちがそこに棲むことができないので、川の両岸に残されたわずかな森の中にどんどん追いやられていることを教えてもらったんですね。

 僕はその追い込まれていた動物を“すごいすごい!”と言いながら撮っていたんですね。それを教えてもらって、これではカメラマンとしても、おかしな方向に進んでしまうし、もっと誰も撮らないようなテーマを見つけて撮影を進めなければいけないなって思ったのがきっかけですね」

熱帯雨林がアブラヤシ農園に!

写真:柏倉陽介

※ボルネオ島というと、熱帯雨林のイメージがあったんですけど、どんどん伐採されている現状があるんですね?

「そうですね。この100年で相当、森林伐採が進んでしまいました。オランウータンは、1960年ぐらいには11万頭ぐらいいたのが、今では3万頭ぐらいまで減ってしまったという状況ですね。ボルネオ島は世界第3位ぐらい広い島なんですけれども、その半分ぐらいの熱帯雨林がなくなってしまったとも言われていますね」

●先ほどのアブラヤシから採れる油はお菓子などの食品から、洗剤とかシャンプーとか口紅とかにも使われているんですよね?

「そうですね。日常の本当に想像もできないところまで深く浸透しているというか、もうこのアブラヤシから採れるパーム油、この植物油なしにはおそらく生活が成り立たないっていうぐらい私たちの生活の身近にありますね」

●私たちの生活に欠かせないものになっているっていうことですよね?

「はい、世界中のパーム油の85%が、実はボルネオ島と隣のスマトラ島かな・・・そこから輸出されているっていう現状があります」

●そうなんですね。柏倉さん自身はアブラヤシ農園に行かれたことはありますか?

「何度かあります」

●どんな印象を受けましたか?

「車で農園の中を走っていても、1時間経っても2時間経っても風景が変わらない感じで、ドローンを飛ばして上から撮影したり、ヘリに乗って上から撮影したりもしているんですけれども、とにかく地平線の果てまで人工的に開発されたアブラヤシ農園が広がっているんですね。50〜60年かけて人間が作った光景とは言っても、大災害に近いような迫力がありましたね」

(編集部注:ボルネオ島は、世界で3番目に大きな島で、その面積は日本の国土のおよそ2倍。インドネシア、マレーシア、ブルネイと、3つの国に分かれています)

木登り、綱渡り、毎日練習!?

※写真集の舞台となっている「セピロク・オランウータン・リハビリテーションセンター」は、マレーシアのサバ州にあって、設立は1964年。親から引き離されてしまった孤児たちが常時、約70頭、世話をするスタッフは50〜60人ほど。

 センターに収容される孤児たちは、森でさまよっているとか、ペットとして密輸されるところを発見されるなど、通報を受けて、スタッフが現場に急行して保護するとのこと。

●保護されたオランウータンの孤児たちは、いずれは森に返すんですよね?

「そうですね。オランウータンの子供は7〜8年、母親の体にしがみつきながら、どういう果物が食べられるか、木の上でどうやってベッドを作るか、寝床を作るかっていうのを何年もかけて、母親がしているいろいろな仕草を見て覚えていくんですね。

写真:柏倉陽介

 ここのオラウータンは、それができなくて保護されてしまったので、このセンターの中で、だいたい10年ぐらいの時間をかけて、木登りの仕方だったりっていうところから教えて・・・10年ぐらい経って森に戻れると判断された個体に関しては、保護区の森に放されたりしていますね」

●その10年はどんなステップがあるんですか?

「10年のステップ・・・まず初めは保護されてすぐは、健康診断とかいろんな予防注射とかそういうのをして、まずは元気になってもらう・・・。それから人間の母親のような立ち位置にいるスタッフがミルクをあげたりして、ある程度体力を回復させることが始まりで、その後は消防ホースをちょっとねじったようなロープを、木の間に渡して・・・2メートルぐらいですかね。そういう高さのところを孤児たちに渡らせる練習をしますね。

写真:柏倉陽介

 そこから先は、ロープを張ってある場所がどんどん高くなっていくんですけれども、自由に綱渡りができるようになった子は、近くにある木々に自分で登ったりとか、いろいろできるようになります。

 それができたら今度は、センター自体が保護区の森の中にあるので、近くの保護区に実際(オランウータンを)放すんですね。その保護の森の中でしばらく生活できてOKだなってなったら、ようやく森に返されますね」

●オランウータンは、生まれた時から木に登ったりできるのかと思っていたんです。
 でもこの写真集に、毎日毎日練習を、っていうふうに書かれていました。そうやってトレーニングしていたんですね?

「そうですね。僕も初めて見た時はびっくりしまして、生まれながらの能力かなと思っていたんですけれども、やっぱり人間が、“ここをつかむんだよ。ここだよ。次はここだよ”って感じで、手で教えてあげないとわからないんですよね。高いところに登ってしまうと怖くて、体が硬直してしまうような子もいましたね」

写真:柏倉陽介

●そうなんですね。スタッフの方々がいちから教えていくっていう感じなんですね?

「はい、結構途方もないプロセスというか、途方もない作業に思えるんですけど、お話を聞いてみると、10年はあっという間に経って、自分たちが面倒を見てきたオランウータンが無事に外に行ったっていう話も聞いたりしています。

 ただ、無事に外に行ったとしても、今度は外の世界が本番の自然の中なので、いろんな危険があったりして、そこから先は彼らの勝負というか、そういう世界になっています」

●ミルクを与えたりとか食事の世話をしたりとか、そういうのも全部スタッフさんたちがするんですよね?

「そうですね。もう何から何まで、本当に人間の赤ん坊とほとんど一緒のことですね」

写真:柏倉陽介

(編集部注:トレーニングは朝から1日に行ない、中には、高いところを怖がって渡らない個体もいるそうです。トレーニングしないと森には戻れないので、人間がどこまで教えられるかの挑戦でもあると、柏倉さんはおっしゃっていました)

動物にも心がある

※オランウータン・リハビリテーションセンターで撮影をしていて、特に印象に残っている出来事があったら教えてください。

「オランウータンの瞳を撮った時にものすごく綺麗な目をしていて・・・ずっと一緒に生活はしてないんですけど、撮影現場でずっと一緒にいたので、どのオランウータンがどういう性格かっていうのも、見ているとだんだんわかってくるんですよね。

 いたずら好きだったりとか、ひとりを好むオランウータンもいたりとか、親友同士いつも遊んでいるオランウータンがいたりとか、オランウータンとひとことで言っても本当に個性豊かな動物たちですね。

 やっぱり改めてそういう姿を見ていると、動物にも心があるんだっていう当然のことがより実感できたというか・・・。(リハビリ施設には)コロナ禍以降はちょっと行けてないんですけども、今でも思い出すような出来事でしたね」

写真:柏倉陽介

●このリハビリ施設に出会って以来、柏倉さんの写真に対する向き合い方に何か変化はありましたか?

「最初はより綺麗な世界とか、より野性的な瞬間とか、いろんな人がすごいねって言ってくれる写真を撮りがちだったんですけれども、ボルネオに行ってこのセンターの撮影を経験して、その素晴らしい、感動する横にあるストーリーっていうのもすごく大事だなっていうか、それも同じく撮って、人に“こんなことがあったよ”と伝える写真が撮れたら、それはカメラマンとしても、より充実した・・・充実というか、自分の理想的な仕事のあり方って、そっちのほうなのかなっていうのも感じることができましたね」

●では最後に、写真集『Bsck to the Wild〜森を失ったオランウータン』を通して、最も伝えたい思いをぜひお話しください。

「自然っていうのは接しないと、例えば山の中でも森の中でも分け入っていかないと、大切な存在って気づきにくいんですよね。山の中に行って登山道を歩かないと、そこに咲いている貴重な花の存在、存在自体がわからないっていうことがあると思うんですね。

 なので、自分たちの自然、自分の身近にある自然を大切にすることが、大切なものの存在に気付くっていうことにもつながりますし、それがいつかボルネオのほうにも波及していけばみたいな、そんなことを考えています」


INFORMATION

『Back to the Wild〜森を失ったオランウータン』

『Back to the Wild〜森を失ったオランウータン』

 柏倉さんの最新の写真集をぜひご覧ください。ボルネオ島の熱帯雨林がアブラヤシに浸食されている実態や野生動物の現状、そしてリハビリセンターに暮らすオランウータンの孤児たちの姿をとらえたリアルなドキュメンタリーです。水色のタオルを頭から被る赤ちゃんオランウータンの表情が、すべてを物語っているように思えませんか。
 エイアンドエフから絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎エイアンドエフ:https://aandfstore.com/products/08730043000000

 写真集の印税はセピロク・オランウータン・リハビリテーションセンターに寄付されます。寄付の方法ついては現在、検討しているとのこと。

 私たちが日本にいてできることとして、ボルネオ島の無謀な開発に手を貸さないためにも、RSPOという認証マークの製品を買うことがあります。

 このRSPOとは、持続可能なパーム油の生産を目的に設立された国際NPOの認証制度です。適性に栽培されたアブラヤシから採れる油を使っている会社の製品を買うことが大事、ということですね。

 ボルネオ島の現状については認定NPO法人「ボルネオ保全トラスト・ジャパン」のサイトを見てください。

◎ボルネオ保全トラスト・ジャパン:https://www.bctj.jp

 柏倉さんの作品や活動については、以下のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎柏倉陽介:https://www.yosukekashiwakura.com

オンエア・ソング 7月14日(日)

2024/7/14 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. THE GIRL FROM IPANEMA / FRANK SINATRA & ANTONIO CARLOS JOBIM
M2. STARLIGHT / TAYLOR SWIFT
M3. A SONG FOR MAMA / BOYZ II MEN
M4. A FOREST / NOUVELLE VAGUE
M5. EVERYDAY LIFE / COLDPLAY
M6. CHERISH / KOOL & THE GANG

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

「山は人生を豊かにしてくれるもの」by登山ガイドWaka「大島わかな」

2024/7/7 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、新潟県南魚沼市を拠点に山岳ガイドとして活躍するWakaこと「大島わかな」さんです。

 大島さんは1995年、静岡県出身。子供の頃、たまに両親に連れられて、近くの山にハイキングに行く程度の山経験だった大島さん、会社勤めをしていた19歳の時に、当時通っていたスポーツジムの富士登山プロジェクトに参加、初めて本格的な山登りを体験します。その時、木が生えていないゴツゴツとした岩場を見て衝撃を受け、山のイメージが一新。標高の高い山にもっと登りたい、と思ったそうです。

 それから毎週のように山に行くほど、のめり込み、いつしか山の仕事がしたいと思うようになったとのこと。でも、一時の気の迷いかもしれないと考え、とりあえず5年間、趣味として山登りをして様子を見ることにしたそうですが、益々、山への思いは強まり、ついには、ご両親に内緒で会社を辞め、山岳ガイドへの道に踏み出します。そして東京にいる頃から、着々と準備に取り組み、ブログで山登りの記録を発信するなど、PRにも力を入れていたそうです。

 そんな大島さんにガイドとしての心得や初心者におすすめの山、そして古民家暮らしのお話などうかがいます。

☆写真協力:大島わかな

大島わかなさん

登山ガイドという資格

※大島さんは、いくつか登山ガイドの資格をお持ちですが、ひとくちに登山ガイドといっても、いろんな資格があるみたいですね?

「登山ガイドは国家資格じゃないので、それぞれ民間の団体がいろいろと・・・その山域に精通した認定資格とかもあるんですね。私が持っているのは2種類あって、日本でいちばん規模の大きい『日本山岳ガイド協会』の資格と、あと花が好きなので、尾瀬ヶ原の、『尾瀬の認定ガイド』っていう資格を持っています」

●どんなお勉強をされたんですか?

「やっぱり動植物とか、歴史とか山に関係するものは全部勉強しましたね。登山ガイドは、自然解説だけじゃなくて、お客さんの安全管理もとっても大事なので、お客さんをいかに安全に怪我させずに案内するかっていう、そういう実践的なことも本で勉強しました」

● 山での講習はあるんですか?

「結構ありますね。私が受けるのは雪山の雪崩講習ですね。もし雪崩にあった時にどうやってお客さんを助けるかとか、そもそも雪崩に合わないためには、どういうことに気をつければいいのかっていうのは専門的すぎて、自分では勉強できないので、やっぱりプロのかたにおうかがいして勉強しました」

●どんな試験を受けるんですか?

「私が受けたものは、筆記試験があって、花の名前ですとか歴史とかの知識を問われますね。あと天気のこととかですね。で、そのあとに実技試験があって、お客さんにどういうふうに解説しながら歩くのかとか、いざとなった時にどうやってお客さんを助けるのかとか、そういうことを実際に山に入って、試験として受けました」

(編集部注:大島さんは、いくつかの山小屋でのアルバイト経験もあります。接客にご飯の用意、掃除、登山道の整備、さらには食材などの荷物を山小屋に運ぶ「歩荷(ぼっか)」もやっていたそうですよ。繁忙期は目の回る忙しさだったようですが、山小屋のオーナーやみんなのために一生懸命がんばったとおっしゃっていました)

東京から新潟へ、夫が勝手に・・・

※大島さんは現在、新潟県南魚沼市にお住まいですが、いつ移住されたんですか?

「去年の3月に東京から引っ越ししました」

●南魚沼を選ばれたのはどうしてですか?

「全く縁もゆかりもないんですけど、今の夫も私も新潟の山がすごく大好きだったので、住むなら新潟に引っ越したいねっていう話をずっとしていたんですね。ちょうどその時に南魚沼市に住んでいる山仲間のかたが、”空き家があるんだけど、どう?”って聞かれて、(そこに)行ったんです。そうしたら、もともと旅館だったお家で、とても巨大な古民家だったので、うちの夫は乗り気だったんですけど、私は掃除が大変だからちょっとここは無理かなって言って、うーんってなっていたんですね。

 で、東京に住んでいて、その時、登山ガイドの仕事もちょっとずつ増えてきたところだったので、今新潟に引っ越したら、その仕事が全部なくなっちゃうのも嫌だなって、ちょっと不安になっていたんですけど、私がガイド(の仕事)で家をあけている時に、うちの夫が勝手に新潟に住民票を移してしまって・・・。

 (夫から)住民票を移しておいたよ〜、感謝してよね〜みたいなことを言われて(笑)、えっ!?ってなって・・・。東京と新潟の2拠点でやっていこうみたいなことを言っていたのに、結局、東京の家賃は高いから解約しようってなって、気づいたら新潟に引っ越しせざるをえなくなっていました(笑)」

●そうだったんですね〜! かなり勢いでっていうところもあったのかもしれませんね。現在暮らしているのはどんなエリアなんですか?

「南魚沼市の市街地からちょっと離れて、周りは畑とかが多い場所で、八海山というギザギザしていて、かっこいい山が近くに見える場所に住んでいます」

●2拠点生活にしようなんて話もあった中で、でもやっぱり新潟に移住して頑張っていこうと決まって、実際に住んでみてどうですか?

「意外といいなってなりましたね(笑)」

写真協力:大島わかな

●どんなところがいいなって思っていますか?

「まずやっぱり田舎なので、みなさん優しくて・・・家が大きいので、近所に気を遣う必要がないって言いますか、東京に住んでいた頃はアパートだったので、騒音とかにすごく気を遣って暮らしていたんですね。新潟は家も広いし、大きい庭も畑もあって、本当にやりたいことをのびのびとできる環境なので、引っ越してよかったかなって思います」

(編集部注:ご主人が勝手に住民票を移したとおっしゃっていましたが、おそらくご主人は大島さんが絶対に気にいるという確信があったんでしょうね。事実、住めば都、いまは古民家暮らしを楽しんでいらっしゃいますよね。
 広い畑もあるということで、ナス、トマト、メロン、カボチャ、ネギ、スナップエンドウ、ホウレンソウなどなど、いろんな野菜を育てているほか、鶏も飼っていて、とっても可愛いとおっしゃっていましたよ)

写真協力:大島わかな

山スキーが大好き

※大島さんのオフィシャル・サイトを見ていたら、ハイキング、ボルダリング、フリークライミング、さらに、縦走、沢登り、そして山スキー、雪山などなど、山のことなら、なんでもやっているように感じました。

 それは登山ガイドとして意識して、そうしているのか、それとも好きでやっているのか、どうなんでしょう?

「両方あるんですけど、やっぱりいちばんは自分が好きだから、行きたいからっていう気持ちで取り組んでいますね。でも登山ガイドとしても必要だなっていうのは思っていて、そう思わせたのはやっぱりお客さんたちですね。

 みなさん、すごく熱心で毎週毎週、山登りに行かれているんですね。もし私が仕事の山しかやっていなかったら、多分お客さんに技術も体力もそのうち抜かされるんじゃないかって思っていて、それがひとつと・・・やっぱりガイドが、岩とか沢登りとか雪の上でも、どこでも安全に歩けないと、いざという時にお客さんを守れないので、お客さんを守るためにも、そういう登山はこれからも頑張っていこうかなっていうのはあります」

●それぞれに技術や装備、そして経験が必要になってきますよね?

「でも全部楽しいので、装備はあんまりお金は気にせず(笑)、ちょっといろいろかかっていますけど・・・」

●大島さんがいちばん好きというか得意とする山のアクティビティは、どんなことなんですか?

「いちばん好きなのは、山スキーっていうアクティビティです。新潟の山って雪が深いので、そのまま歩くと腰とかまで浸かっちゃうんですよね、雪の中に。で、全然山登りができないので、スキーを履いて山に登るんです。そうすると冬でも雪に(体が)沈まないから山登りを楽しめるんですよ。山スキーは雪があればどこでも歩けるので、やっぱり自由なところが好きで、私のいちばん好きなアクティビティです」

写真協力:大島わかな

●植物も詳しいようですけれども、山で見る植物とかお花からどんなこと感じますか?

「やっぱりたくましいなって思います。山ってやっぱり気象条件が厳しいので、とっても植物が育つのには厳しい場所だと思うんですけど、そういうところでもちっちゃく、たくましく咲いているのを見て、私も頑張んなきゃなみたいな気持ちになります」

●気象のことも勉強されたんですよね?

「そうですね。もともと気象は好きなことでもあるので、意外と勉強はしていないんですけどね。今登山者には『ヤマテン』という会員制の天気予報サイトがあって、そこで山に詳しい気象予報士さんが予報文を出してくれているのと、あと高層天気図というちょっと専門的な天気図を見ることができるんです。

 その高層天気図の見方も、ヤマテンですごく丁寧に解説してくれているので、その天気図をまず見て自分なりに天気予報を考えて、そのあとにその気象予報士さんの文章を読んで、答え合わせをするっていうのをやっていたら、結構自分で天気は読めるようになったかなってところはあります」

南魚沼周辺の山々

写真協力:大島わかな

※現在お住まいの南魚沼市は、山がたくさんあると思うんですけど、周辺の山々の特徴を教えてください。

「登山者に人気の、日本アルプスや北アルプスとかは標高が高いんですよ。山脈が天高く隆起しているんですけれども、新潟の山はそこまで標高が高くなくて、広い範囲で小さい山がポコポコいっぱいあるんですね。だからちょっと山に登れば、すぐに町の景色がなくなって、もう山しかない、山深い景色が広がっているんですけど、それが新潟南魚沼周辺の山々の特徴かな・・・」

●私のような初心者におすすめの山はありますか?

「南魚沼市に坂戸山(さかどやま)っていう山がありまして、地元のかたにも愛されていて、大体往復で3時間半ぐらいで登ってこられる山なんですね。4月頃になると“スプリング・エフェメラル”っていう“春の妖精”って呼ばれている、雪解け後にお花がすごくたくさん咲いて、それを見に東京とか遠方の登山者もはるばる来られるんですけど、そこの山がやっぱりお花の時期に行くと素敵だなって思います。おすすめです。」

写真協力:大島わかな

●大島さんに、私だけとか、私と家族だけ山に連れてってくださいとか、そういうプライベートなツアーをお願いするっていうのもできるんですか?

「はい、できます!」

●どんなツアーに今までご案内されたんですか?

「やっぱり新潟の地元の山も多いんですけど、日本アルプスですね・・・南アルプスの光岳(てかりだけ)っていう山があって、4泊5日、5日間で行くんですけれども、そういう山を個人的にお願いされたこともあります」

●女子だけ参加のガイドツアーとか、そういったこともあるんですか?

「1回やったんですけど、今はちょっとやってなくて・・・男性のお客さんに“俺もその山行きたかったよ”って悲しい顔をされたんで(笑)、ちょっと今は可哀想だからやめております」

自分の体力に見合った山に

※安全に山を楽しむためには、どんなことが大事になってきますか?

「いちばんはやっぱり体力かなって思っています。やっぱり自分の体力に見合った山に行かないと、すごく疲れて楽しいものも楽しくなくなってしまうので、体力に見合った山に行くってことと、もし行きたい山があったら頑張って体力作りをするのが大事かなって思っています」

●登山ガイドとして登山客を案内している時に、どんなことに注意を払っていますか?

「いちばんはやっぱりお客さんの体調にすごく気遣っています。意外とお客さんは、体調が悪かったり怪我していても言わないかたがいらっしゃるんですね。
 以前私が失敗したのが(参加者の中の)ひとりのペースがちょっと遅いなって気になっていたんですけれど、(その時は)何も言わずに帰宅後に、“実は足首をひねって痛めていました”ってあとから連絡が来て、すごく反省したことがあります。

 それ以降はやっぱりこまめに後ろを振り返って、お客さんが転んでないかなとか、あと(参加者の方に)言ってくださいって言ってもやっぱり言わないので、表情とか雰囲気とかをよく観察して、体調を悪くしてないかっていうのを見るようにしています」

●大島さんにとって山は仕事場だと思うんですけれども、大島さんにとって山とはなんでしょうか?

「そうですね・・・いろんな意味を込めて、人生を豊かにしてくれるものかなと思います」

(編集部注: 大島さんはプライベートでもご主人と新潟の山へ出かけるそうです。
 それも4泊5日から6泊7日とわりと長めに山に入って、大好きな沢登りや山スキーを楽しむとか。大島さんいわく、山にはリスクもあるけれど、夫といるとなんとかなるし、がんばれるとおっしゃっていました。山という共通の趣味がある、仲むつまじいご夫婦、いいですね)

写真協力:大島わかな

INFORMATION

 大島さんは、新潟の山を始め、富士山、南アルプス、北アルプスなどなど、1泊2日から4泊5日ほどの、いろいろなガイドツアーを企画されています。

 4人から6人くらいまでの少人数のツアーで、3ヶ月から4ヶ月先まで、すぐ定員に達するほど人気なので、大島さんのツアーに参加したいというかたは、早めにご予約されることをおすすめします。

 また、大島さんにプライベートなツアーを頼みたい場合もオフィシャルサイトからお問い合わせくださいとのことです。

◎大島わかな:https://bigislandyamaguide.com

オンエア・ソング 7月7日(日)

2024/7/7 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. River Deep, Mountain High / Celine Dion
M2. Higher Ground / Stevie Wonder
M3. Take Me Home Country Roads / Olivia Newton-John
M4. 晴れたらいいね / DREAMS COME TRUE
M5. はんぶんこ / 小尾渚沙
M6. I See The Great Mountains / Cecile Corbel
M7. Climb Every Mountain / Peggy Wood

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

2024年6月のゲスト一覧

2024/6/30 UP!

◎田中 新(フラの指導者「クムフラ」)
「メンズフラ」〜キラキラしていれば、世界は輝く』(2024.6.30)

◎ひとでちゃん(サイエンス・コミュニケーター/自然科学教育普及団体「地球レーベル」の代表)
なんでこんな形!? 不思議でユニークな海の「ほねなし」たち』(2024.6.23)

◎太田安彦(一般社団法人「マウントフジトレイルクラブ」の代表理事)
シーズン直前!「初めての富士登山」徹底ガイド!』(2024.6.16)

◎『シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第20弾!シモキタ園藝部〜人と蜜蜂が作る緑の循環』(2024.6.9)

◎工藤誠也(弘前大学の研究員/昆虫写真家)
昆虫写真家 工藤誠也〜寝ても覚めてもチョウに夢虫』(2024.6.2)

「メンズフラ」〜キラキラしていれば、世界は輝く

2024/6/30 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、フラの指導者「クムフラ」の「田中 新(たなか・しん)」さんです。

 最近SNSの動画で話題になっている男性のフラ「メンズフラ」、そのムーヴメントをリードしているのが田中さんなんです。

 田中さんは東京港区三田に本校を構えるフラ教室を主宰、そして先頃『天と地をつなぐ 素晴らしきメンズフラの世界』という本を出されました。

 きょうはメンズフラの魅力のほか、ハワイの人たちにとって、神様に捧げる神事ともいえるフラについて、じっくりお話をうかがいます。

☆撮影:広川智基

撮影:広川智基

フラの祭典「メリーモナーク・フェスティバル」で“絵が見えた”!

※田中さんがなぜフラの指導者になったのか、その経緯をまとめると・・・実はお母さんがフラの先生で、子供の頃から家には当たり前にフラがあったそうです。でも思春期の男の子にとって、当時女性中心のフラを習うには抵抗があり、高校では大好きな野球に没頭。

 そして卒業後、国際弁護士を目指し、フロリダのカレッジに留学。おもに日本とアメリカの文化の違いを学んでいたそうですが、当時の先生から「君が学ぶべきは文化人類学だ」と諭され、先生の紹介でハワイ大学の大学院に移ります。

 そこでハワイの文化をいちから学ぶことになるんですが、その一方で、田中さんを子供の頃から知る有名な男性フラの先生「チンキー・マーホエ」さんから、フラをやりなさいと再三いわれるも、学業が忙しかったこともあり、何かと理由をつけてやらなかったそうです。そんな田中さんがどうしてフラの道に進むことになったのか、気になりますよね。実はこんなきっかけがあったんです。

「2002年かな・・・『メリーモナーク・フェスティバル』にそれこそチンキーさんが出ると・・・。そこのチームから母の教室に通っていた日本人のかたがハワイに留学していて、このチームから出るということなので、いろんなツテから“新も行ってみる?”って話になって、“行ってみますか、せっかくハワイにいるし・・・”ってことで行ったんですよ」

●「メリーモナーク・フェスティバル」はフラの一大フェスで、トップ・レベルのかたがたの大会というイメージがありますけれども、実際どうでしたか?

「トップ・レベルでした!」

●うわぁ~!

「この頃と、今現代のメリーモナークの、ハワイアンたちの向き合い方はだいぶ変わってきてはいるんですけれど、やっぱり自分たちのルーツというものをしっかり大事にして、勝ち負けというよりかは、自分たちが守ってきたフラのリネージ、系譜を代表してみんなで楽しみましょうっていうのが、基本的なメリーモナークのハワイアンたちの向き合い方で、本気なんですよね。

 日本に来るかたがたもいっぱいいらっしゃいますけども、やっぱり日本だとエンターテイメントという要素が大きくなって、ショー的なものというか・・・本当にみなさん真面目にやっているんだけども、やっぱり本気度が違うので、エネルギーの出し方が違ってくる。見ていてなんか違うな~って思っていたんですが、メリーモナークに行った時に、男性のかたがたがみなさん本気で踊っていると、全然違うなと思いましたね」

●どう違ったんですか?

「会場が広いので、人が米粒ぐらい、ペットボトルのキャップぐらいにしか見えないんだけども、ダンサーたちが踊っている上に絵が見えたんですよ、自分勝手な想像ですけど・・・。そのダンサーたちが見ている世界が投影されているみたいな・・・」

●すごく今、鳥肌が立ちました! え~すごいですね~!

「で、僕の知り合いのアンティーというおばちゃんに(メリーモナークに)連れていってもらったんですけど、隣にいるアンティーに“これ、こういう曲なの? こういうことを話しているの? こうなの? これなの?”っていうふうに聞いたんです。そうしたら“新、お前はハワイ語がわかるのか? やっぱりハワイ大学にいるからハワイ語も習うんだろうな“みたいに言われて、“いや、習ったことないし、話すこともできない”って言ったら、“なんで見えるんだ?”って、“だって見えるもん、すげぇ!”って・・・その時にフラってこうなんだ、っていうふうに思いましたね」

(編集部注:メリーモナーク・フェスティバルの、本気のメンズフラに魅了された田中さん、帰国してからすぐにフラに向かったと思いきや、プロの写真家に師事し、ウェディング・フォトなどを撮る写真の仕事に従事。そんな中、お母さんのフラ教室の発表会を撮影することになり、ファイダー越しに見るダンサーの幸せそう表情に魅了されたそうです。

 その後、日本で長年フラを教えてきたクムフラの30周年記念の発表会で男性フラのメンバーとして踊ることになり、そこでフラの素晴らしさに目覚め、ついにはハワイで「フラの神様」といわれるジョージ・ナオぺの一番弟子「エトア・ロペス」先生について、本格的にフラを学んだそうです)

田中 新さん

フラは、あくまで会話

※そもそもフラはハワイ人のかたたちの、神様に捧げる踊りだったり、祈りや、自然とつながる儀式のようなものなんですよね?

「神事なので、基本的には・・・。神様といっても一神教ではなくて、風の神、太陽の神、大地の神、海、植物、木、いろんなところに神が宿っているという、日本の昔からの八百万の神に通ずるような信仰というか会話、彼らにとってフラを捧げるのは神事の信仰行事ではなくて、あくまでも会話なんですよね。

 だから見えないものと会話をしているというか・・・太陽の光が入ってくる、この光の線に対して“ハ~イ”と言ったりとか、あるいは風がふわっと吹いてきた時に“サンキュー・マハロ”と言ったりとか、誰もいないのに風が当たることによって、風に対して“ありがとう”って答えるとか、そのすべてのものを擬人化して“ありがとうね”って、人間が人間同士でボディタッチで、“ありがとうね”ってやるようなことと同じことをやっている会話なんですよね」

●フラには「カヒコ」と「アウアナ」のふたつがあるということですけれども、改めてどう違うのか教えていただけますか?

「どう違うのかと言われると、本質的にはさほど変わらないんですけれど、時代によって変わってきていて・・・『カラカウア』というハワイの最後の国王がハワイアン・ルネッサンスということで、私たちはハワイアンなんだというふうに、一回弾圧されたフラの信仰をもう一度取り戻したという時代から現代までを『アウアナ』と呼んでいて、それ以前のことを『カヒコ』と呼んでいるんですね。

 カヒコは前から受け継いできたものという意味で、アウアナはこれから流れていくものというふうに分けられていて、それ以前はカヒコという名前もなくて『フラ』というものだったりとか『ハア』だったりとか、という言葉で済まされていたんですね」

●カヒコは「古典フラ」、アウアナは「現代フラ」とも言われたりもしていますけれども、曲調も違いますよね?

「曲調は違いますね。実際にカヒコでは『イプヘケ』と言われるヒョウタンを使った楽器、あるいは『パフ』と言われる木をくり抜いた太鼓を中心に踊っています。アウアナに関しては、みなさんよくご存じのウクレレという弦楽器、あるいはギターという弦楽器ベースで行なわれているのが『フラアウアナ』と言われるもの、現代フラと言われるものですね」

(編集部注:田中さんいわく、現代フラは楽器はなんでもありで、そういう意味ではクリエイティヴ。一方、古典フラは厳粛なもので、変えてはいけないしきたりがあるとのこと)

撮影:広川智基

メリーモナークの変遷

※フラの、ひとつひとつの所作には意味がありますが、男性のフラと、女性のフラの所作で、大きな違いのようなものはありますか?

「これ、難しくて、大きな違いは特になくて、力のかけ具合とかスピードとかが変わっていくだけであって、言うてもそんなに変わらず・・・。
 フラにはひとつひとつのモーション、所作に意味があるんだよねっていうこともこの20年間30年間40年間伝わってきていますけど・・・。“手話みたいなものでしょう?”ってことも言われるんですけれど、実はどちらでもなくて・・・。

 我々がこうやって話している時に、“僕はキュンとしてあなたを好きになっちゃいました”っていうジェスチャーなんですよね。それを形として整えるために、“私はあなたを好きになりました、愛しています”っていうことをやっているだけであって、このモーションの意味はこれというよりかは、こういうことを伝えたいからこういうジェスチャーをしているんだっていう考え方があるんじゃないかなと僕が勝手に思っています。自分が心から今こうやっておしゃべりをしている、これと同じことなので・・・」

●なるほど~。ハワイのかたがたって子供の頃からフラを習うものなんですか?

「まちまちだと思います。日本人が昔から空手を習っているの?とか、柔道を習っているの? 日本舞踊を習っているの?って言われるとまちまち。だけども日本のかたがたが幼い頃から日本舞踊を習うという機会があるその幅よりかは、ハワイの人たちにはフラというものが当たり前に存在しています」

●ハワイ人のかたがたは迫害を受けたという悲しい過去もありますけれども、ハワイの伝統とか文化とか歴史は、今の若いかたがたにも受け継がれているっていうことですか?

「特に今のこの10年ぐらいのほうが受け継がれていることもあれば、調べ直して20〜30年前の事実とは違うんだよって言い始めている時代ですね」

●そうなんですね〜。

「これはこうあるべきなんだよっていうことも、実は間違っていたりとか、もっと昔はこういうふうにされていたとか・・・なので1980年代から1990年代のメリーモナーク、それこそさっき話したメリーモナークと、2024年のメリーモナークとはやっぱり形式が違うんですね」

●何がどう違うんですか?

「昔は自分たちが習っている踊り、本気で習っている踊りを披露する場所みたいな・・・もちろん1曲、テーマというか指定曲があって、その指定曲を踊って、全然関係のない曲を踊ったりとかするんです。だから3〜5曲ぐらいを連続で踊っていたりとかするんですね。

 それで競い合っていたんですけれど、今現代はテーマは自分たちで選びます。でもそのテーマがなんなのかっていうことと、それに付随する曲はなんなのかっていうことと、その1曲に対してどういうストーリーがあるのかっていうのをしっかりと固めておかないと点数が上がらないというか・・・自分たちがやりたい曲をそこに詰め込んだところで何も評価されないので・・・っていう違いはあるかなと思いますね。

 なので、今の人たちのほうがハワイ文化に対して真摯に取り組んでいるんじゃないかな・・・もしこれが何か影響を与えるとか、昔のかたがたを嫌な気持ちにさせてしまったら、ごめんなさいね・・・なんだけれども、今現在いろんなツールを使って、インターネットも普及してきた、図書館に行くにも博物館に行くにもインターネットを使ってやれるってなってくると、やっぱり情報の速さが違いますからね。なので、今の人たちのほうがすごく深いところまでお話ができる人たちが増えてきたなっていう感覚はあります」

大事なのは「ありがとう」

※田中さんは2013年に東京港区三田にフラ教室を開校、その名前は「ハーラウ・ケオラクーラナキラ」。

 ハーラウは「教室」、ケオラは「命」、「クー」は立ちのぼる、そして「ラナキラ」は、先ほども少し触れましたが、ハワイでは「フラの神様」とされ、「アンクル・ジョージ」という呼び名で親しまれていた「ジョージ・ナオぺ」のミドルネームの一部を、許可を得て引用。その教室名には、アンクル・ジョージの遺伝子が立ちのぼっていくように、という願いが込められているそうです。

 三田の本校で行なっているメンズフラの教室は現在、年齢別で13歳から40代、40代から60代、60代から80代の3クラス。年齢も職業も多彩な生徒さんが集まり、最年長はなんと、88歳だそうですよ。田中さんがおっしゃるには、生徒さんはみんな「大人の部活」のように楽しんでいるそうです。

撮影:広川智基

 田中さんに教室で、どんなことを大事にして指導されているのか、お聞きしたら、少し間をおいて、こんなふうに答えてくださいました。

「これね、ずっと考えていたんですよ、どんなことを大事にして指導されているのかっていうこと。それは、ありがとう、と思ってくださいってことかもしれないですね。ここに来させてくれて、ありがとうだったりとか、踊れる体が今ここにあって、ありがとうとか、ここに来て踊れるという気持ちを持っていて、帰って、あ〜楽しかったって思える自分の気持ちがあって、それだけでも本当は感謝なので・・・。

 忙しかったらフラに行けないですよね。すごく忙しくてもなんとかこの日は行きたいなって思って、いろいろ工面をしてレッスンに出られますよね。それって時間を作ってくれたのは、もちろん自分なんだけども、いろんな奇跡的なことが重なって、この日は休める、この日は時間を取れる・・・で、取らせてくれた何かがあるわけなので、そこら辺にやっぱり感謝しながらレッスンを受けてもらいたいなと思いますね」

●感謝の気持ち、大事ですね〜。

「レッスンって、僕がお話をします、振り付けをおろします、それを受け取りますということがレッスンではなくて、その場にいることをどれだけ自分の生活の中で感謝できるのかっていうことと、そこで何に気づいたのかっていうことがライフ・レッスンとなるので・・・。

 僕が指導します、あなたこうしなさい、ああしなさい、手は45度で、山が見えるでしょ、山を作りなさいってやっていることはカーナビと一緒で、次は右に行ってください、次は左に行ってください、そこの角に駐車場があります、駐車場に停めて27階まで来てくださいっていうのはナビゲーションじゃないですか、ゴールに到達するわけじゃないですか。それをよしとするのか、何も知らされない状態で、とりあえず自分で探して、ここのスタジオってここにあるんだね、何階だったっけ、あ、27階かって言ったほうがレッスンになるじゃないですか。

 なので、何も教えてくれないわとか、何も伝えてくれないわ、何のレッスンしてるのかしら? っていう、ほかの人が原因で自分にストレスがかかった、じゃなくて、自分が調べないから、そういう状態になるわけなので・・・。自分がこのスタジオってどこにあるんだろう、何階にあるんだろうって調べると、それは自分のためのレッスンになるので、そういうことを僕はしたいなと思っているんですね。

 もちろん振りおろしもしますし、こうして欲しいってことも言いますし・・・でも最終的にはダンサーは自分でその殻を破って、そこから生まれている何かと向き合って会話をしていくということに到達してもらいたいなとは思っています」

撮影:広川智基

思えば、返ってくる

※クムフラとしてレッスンを重ねていく中で、ご自身に何か変化があったりしましたか?

「結局だから、全部自分に返ってきているんだなっていうのがあるので、自分の気を整えないと、ほかの人の気は整えられないかなって思ったりします。もちろん僕が今ものすごく幸せかって言われると、いろいろ思うことはあるけれども、心を豊かにするとか感謝の気持ちを持つとか、自分が感謝の気持ちを持たないと人には伝わらないので・・・例えば、雨が降っている時に雨が降ってうっとうしいな、雨を煩わしいものとして捉えている人たちが多い中で、雨が降ってきて、ありがとうねっていうふうに言えるかどうか・・・」

●素敵な考え方ですね〜。

「我々日本人も雨が降ったら、”恵みの雨”という言葉があるので、本来は感謝していたはずなんだけれども、現代社会になって、それこそテレビで”本日はあいにくの雨ですが・・・”とか、雨をうっとうしいものと思われがちなんだけども、我々は水がないと生きていけないので、ありがとうねって自分から言えないといけないんだなっていうことに気づかされてやっているという感じですね、クムフラとして変化があったといえば・・・」

●改めてになりますが、フラを通して田中さんが伝えていきたいことは、どんなことですか?

「思えば返ってくるっていうことだと思うんです。人を思えばその人から思われることもあるし、自分が本を作りたいって願う、思う、それを自分の現実的なイメージを作り上げていくと現実になったとかするし・・・寂しいなって思った時に実はこうしたいんだなって思うイメージがあったら、どんな形であれ、寂しくない未来がそこにあったりとかする。それに対して、これは僕が思ったことなんだと思って欲しいなと思うので・・・。

 フラを踊る時に見えないものに対して・・・見えないじゃないですか、歌詞の世界なので・・・見えないものに対して何かを思うことによって、その歌詞の世界の中の何か・・・何かっていうとちょっとわからないかもしれないけど、エネルギーとか言われるとわかりやすいかもしれないし、あるいはハワイのかたがただったら『マナ』って言われたらわかるかもしれませんけども・・・何か見えないものが自分の体に宿ってくるので、思えば実現するし、かなうし、いろんなことができるんだよってことはフラを通して伝えていけたらなとは思いますね」

※田中さんに、メンズフラの魅力をお聞きしたら、それは、現在60名ほどいる生徒さんたちが作ってくれている、だから、生徒さんたちに聞いてもらったほうがいいかなと、そうおっしゃっていたんですが、あえていうなら、ということで、こんなふうにお話してくださいました。

「メンズフラの魅力はなんだって言われると、職種も年齢も違う人が集まって部活のように無邪気にはしゃげる場所。男の子が小学生なり中学生なり、仲間たちで一緒に遊んだ、あの記憶を取り戻してくれれば、笑顔が生まれてくるので・・・笑顔が生まれてくれば、その笑顔は感染するし、自分が笑えば人は笑ってくれるので、そのキラキラしたエネルギーというものをみんな伝えてくれたら嬉しいなと思いますね。

 もちろん、キラキラしている女性も魅力的なんだけども、一般人の男性がいつも笑顔でキラキラしていたら、なんとなく嬉しいし、家でお父さんが楽しそうにしていれば、子供たちは輝いてくるし・・・なんか二次的な要素というか、自分たちがキラキラしていれば、世界は輝いていくんだよって思っています」


INFORMATION

『天と地をつなぐ 素晴らしきメンズフラの世界』
田中新著/KADOKAWA刊/定価1870円(10%税込)

天と地をつなぐ 素晴らしきメンズフラの世界

 この本にはフラの用語説明、メンズフラ教室でのレッスンの様子、フラの名曲解説や振り付けのポイントなどが載っていて、メンズフラの魅力を知ることができる一冊です。写真もたくさん掲載されていて、踊っているかたがたの表情がみんな笑顔、見ているだけで幸せな気持ちになりますよ。ぜひチェックしてください。KADOKAWAから絶賛発売中です。詳しくは、出版社のサイトをご覧ください。

◎KADOKAWA :https://store.kadokawa.co.jp/shop/g/g322311000438/

 田中さんが主宰する教室「ハーラウ・ケオラクーラナキラ」は東京港区三田の本校のほかに、鹿児島、広島、鵠沼海岸、そして先頃、千葉にも教室を開いたそうです。男性フラの教室は三田の本校だけで行なっていて、中には福岡や兵庫から通う人もいるそうですよ。メンズフラに興味のあるかた、ぜひオフィシャルサイトを見てください。

◎「ハーラウ・ケオラクーラナキラ」 :http://halaukeolakulanakila.com

オンエア・ソング 6月30日(日)

2024/6/30 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. KU’U HOA / Robi Kahakalau
M2. KUHIHEWA / Chad Takatsugi
M3. Ka Makani Ka’ili Aloha / Nathan Aweau
M4. Pua Olena / Konishiki
M5. Hawai’i Aloha / Na Leo
M6. Kawaipunahele / Keali’i Reichel

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

なんでこんな形!? 不思議でユニークな海の「ほねなし」たち

2024/6/23 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、つくば市を拠点とする自然科学教育普及団体「地球レーベル」の代表で、おもにヒトデの研究をされているサイエンス・コミュニケーター「ひとでちゃん」です。このニックネームは、あの「さかなクン」を意識して、つけたそうですよ。

 そんなひとでちゃんは1988年、栃木県生まれ。子供の頃から、生き物ならなんでも好きだった少女は、中学生のある日、テレビ番組で「タコクラゲ」というクラゲの存在を知り、衝撃を受けます。

 なんとそのタコクラゲは、光合成をする藻類を体の中に共生させて、日向ぼっこをするだけで生きているクラゲ。当時、いろんなことに窮屈さを感じていたひとでちゃんは、そののんびりとした生き方に感動し、一瞬にして虜になったそうです。

 そして新潟大学理学部を卒業後、東京大学大学院へ進学し、ヒトデの系統分類学に没頭。その後、公益財団法人「水産無脊椎動物研究所」を経て、現在は、ひとでちゃんとして、海の生き物の魅力を伝える活動を行なっていらっしゃいます。そして先頃『海のへんな生きもの事典〜ありえないほねなし』という本を出されました。
 この「ほねなし」とは無脊椎動物のことです。

 きょうは海にいる無脊椎動物の中から、ヒトデやウミウシ、フジツボやウミホタルなど、不思議で奇妙な生き物のお話などうかがいます。

☆写真協力:ひとでちゃん

ひとでちゃん

なんでこんな形になった!?

※ひとでちゃんによると、ヒトデはウニやナマコと同じグループで、日本には約350種、世界には2000種ほどもいるそうですよ。

ヒトデには潮だまりや海の底にいて、動かずにじーっとしているイメージがあるんですけど、移動しているんですよね?

「してます、してます!(笑)すっごくゆっくりだけど、しています! 」

●どうやって移動しているんですか?

「ヒトデは星みたいな形をしていて、出っ張っている部分が足だと思っている人が多いんですけれど、あれは一応、学問的には“腕”と呼ばれていて、実は足はひっくり返すと裏側にあるんですね。何百とびっしりチューブみたいな足がたくさん並んでいて、それを使ってゆっくり、もにょもにょもにょっと動きます(笑)」

●へ~!(ヒトデは)何を食べているんですか?

「これもヒトデによって、それぞれ違うんです。ヒトデは結構肉食のものが多くて、貝とかカニとかを食べたり・・・。でも草食のものもいるんで、一概には言えないんですね。ヒトデ自体の動きがゆっくりなので、肉食のものでもやっぱりゆっくりなもの、動かないものを食べていることが多いですね」

●例えばどんなものを?

「巻貝とか二枚貝とかサンゴとか海綿動物とか・・・結構なんでも食べます。死んだ魚とかも・・・」

●へ~!

「死んだ魚にすごく群がっていたりします」

●ひとでちゃんは、ヒトデのどんなところにいちばん魅力を感じていらっしゃるんですか?

「私はやっぱり形ですかね(笑)」

●形!?

「なんでこの形になった!? って思って(笑)」

ヒメヒトデ
ヒメヒトデ

●確かに気になります。どうしてなんですか? 人の手みたいな・・・。

「人の手みたいだし、星みたいだし・・・でも実はそれがまだわかっていなくて・・・というか、いくつか説があるけれど、はっきりとはわかってないっていう状態で、こんな生き物はほかにいないんですよね。

 海にはいろいろ変な生き物だらけなんですけれど、ヒトデは同じパーツが5つ並んで星型になっている、こういうのをちょっと専門的にいうと「五放射相称(ごほうしゃそうしょう)」、5個放射状に等しいものがくっついているって言うんですけど、こんな生き物はほかにいなくて(笑)、とても不思議な魅力的な生き物ですね」

●ヒトデがああいう形になったのは、いろんな説があるということですけれども、有力な説というと、どんなものがあるんでしょうか?

「ヒトデは進化の過程で、最初は「懸濁物食(けんだくぶつしょく)」と言って、海で流れてくるものをキャッチして食べる、動かないで手を広げるみたいに、流れに沿って手を広げて、キャッチして食べている生き物がヒトデの祖先というか、最初の頃に出てきた形だったと言われています。

 その時に流れてくるものをキャッチするのに、広げる手の数が5がちょうどよかったんじゃないかっていう、多すぎても手と手が重なってしまって効率が悪いし、少なすぎると全部すり抜けてしまう、そういった時に5というか5の倍数ですかね、その数が手を広げて効率よく食べ物をキャッチするのによかったんじゃないかっていう説が有力です」

「ほねなし」と呼んで親しみやすく

『海のへんな生きもの事典〜ありえないほねなし』

※ひとでちゃんは先頃『海のへんな生きもの事典〜ありえないほねなし』という本を出されています。この本では、無脊椎動物を「ほねなし」と表現されていて、おもに海にいる「ほねなし」の生き物を、姿形、生態、そして繁殖の方法に分けて、わかりやすく解説されています。

 改めてなんですが、無脊椎動物とはどんな生き物なんでしょう? 

「漢字で書くと、“無い” 脊椎の動物って書くんですけれども、脊椎は平たく言うと背骨のこと、背中の骨。私たち人間も背骨がまっすぐ1本通っていて、それでおもに体を支えている生き物なんですけれど、無脊椎なので背骨がない生き物の総称になります。

 ただ無脊椎動物ってちょっと言葉がお堅いというか、漢字にすると、どんどんどんどん漢字ーって、やっぱりとっつきにくい感じがずっとしていて、それをもうちょっとみんなに親しみ持ってもらえないかなと思って、『ほねなし』という言葉を最近よく使っています」

●ほねなし! すごく親近感がわきやすくなりますよね、無脊椎動物よりも!

「うんうん」

●海の生き物でいうと、ほねなしはイカとかタコとかクラゲとかですかね?

「はい、そうですね」

●陸上だとほねなし、無脊椎動物はカタツムリとかミミズとか、そういう生き物ですか?

「そうですよ! 素晴らしいですね! 実は昆虫もです。昆虫は私たち脊椎動物とは真逆、私たちって背骨は体の中にあって、内側から体を支えているので、内骨格とか言うんですけど、昆虫とかは外骨格と言って、外側の固い皮膚の表面を硬くして体を支えている、だから中身は全部柔らかいもの。骨はもちろんないし背骨もないし固いので・・・。ほねなしと言うと、カニとかエビとか昆虫はどうなの?って思われるかたもいるんですけど、立派なほねなしですね」

●無脊椎動物と脊椎動物は、地球上にはどちらのほうが多くいるんですか?

「もう圧倒的に無脊椎動物です!」

(編集部注:ひとでちゃんによると、分類学では、動物を基本的な体のつくりで、約34のグループに分け、人間のような背骨がある脊椎動物はその34のグループの中の、なんと! ひとつでしかなく、残りの33は無脊椎動物、ほねなし。その多くは海にいるんだそうです)

フジツボは貝じゃない!?

※ひとでちゃんの新しい本には、いろんな「ほねなし」の生き物がイラストや写真とともに紹介されています。ダイバーにも人気のあるウミウシも載っていて、ウミウシは、漢字にするとその名の通り、海の牛と書きますが、巻貝の仲間というのはほんとなんですか?

「ほんとです!(笑)」

アオウミウシ
アオウミウシ

●青い体に黄色のラインとか、すごくカラフルなイメージがありますけれども、とにかく目立ちますよね!

「そうですね~」

●カラー・バリエーションはいろいろあるんですか?

「ものすご~くバリエーションがあって、カラフルで綺麗なので、本当にダイバーさんとかにはとても人気ですね」

●天敵っているんですか?

「天敵・・・魚とかいろんなものに狙われはするんですけど、それこそなんでカラフルかって言うと、敵を寄せ付けないため。貝殻がなくなっちゃっているんで身を守りづらいんですね。貝殻がある巻貝はその殻の中に隠れれば、ある程度防御ができるんですけど、殻をなくしちゃったので、その代わりに体の中に毒を溜め込んでいるんです。

 なので、魚が食べてもまずい! つまんだけど、ぺっと吐き出されるみたいなことがよくあるんですよ。カラフルな色で“私は毒ですよ! まずいですよ!”っていうアピールをしているんです」

●なるほど・・・。

「だから逆に目立って、自分を食べないほうがいいよって」

●それで身を守っているわけですね!

「そうなんです!」

クロフジツボ
クロフジツボ

●海岸に行くと岩などに張り付いているフジツボ、貝の仲間だと思っていたんですけど、そうではないんですね?

「はい、そうなんです」

●固い殻で動かないっていうイメージですけど、貝の仲間じゃないということは、なんなんでしょう?

「これは実はエビやカニに近い仲間で、エビやカニってよく動くので、”動かないフジツボが?”って思われがちなんですけれど、固い殻の中にエビを、なんていうのかな・・・背中を下にして寝かせたみたいな生き物が入っていて、入口から足だけを出して餌を捕る、そうやって生きている生き物です」

ウミホタルはなぜ光る!?

※首都圏を走るドライバーさんにはお馴染みの、東京湾アクアラインのパーキングエリア「海ほたる」、その名前になっているウミホタルは、青白く光る生物として知られています。

改めてなぜ光るのか、教えてください。

「実は何のために光るかっていうのは、ちゃんとはわかってないんですね。なんですけど、ウミホタルの場合は、実は体が光るんじゃなくて、光る物質を海水中に噴射するんです。だから陸の蛍みたいに自分の体が光るわけじゃない、光る物質を噴射する、それでその光を目くらましにして敵から逃げているって言われていたり・・・。

 あとは海ホタル同士のコミュニケーションとか求愛行動として使われているとか、いろんな説はあるんですけれど、噴射するってところからも敵から逃げるっていうのが大きいのかなとは思います」

●カクレガニという生き物も紹介されていました。アサリのお味噌汁を食べると、アサリの貝の中にいたりして・・・。

「そうそうそう(笑)」

●カニの赤ちゃんではないって、本に書かれていて、あれっ!? と思って・・・。

「そうなんです! 」

●赤ちゃんではなくて?

「ではなくて、大人のカニです。あれは子供の頃にアサリの中に入って、もうそのまま一生(アサリの貝から)出ずに成長して、アサリに寄生して生きているカニです」

●あの小ささがもうマックスの大きさ?

「そうです! そうです! だからたまに卵を持っているのとかもいます。お腹に卵を抱えているやつとか」

●そうなんですね~。

「でも見つけると嬉しいですよね!」

●ミニミニの赤ちゃんサイズですけどね!

「ミニミニの赤ちゃんサイズ(笑)」

イトマキヒトデ
イトマキヒトデ

●やっぱりひとでちゃんには、ヒトデのことを聞かないといけないかなと思うんですけれども(笑)、ヒトデは目よりも鼻で世界を見ると本に載っていました。鼻で世界を見るっていうのはどういうことなんですか?

「ヒトデに限らないんですけどね。やっぱり陸は空気で満たされていて、視界、目で見る情報がとても大事な世界なんですけど、海は逆に視界はそんなによくない。水で満たされていて、いろんな物質が海水中に混ざっている。なので、そういう物質をキャッチするほうが生きていくのには有利というか、生きやすいっていうことで、そういうのが発達している生き物が多いです」

地球のことならなんでもあり!?

※ひとでちゃんが代表を務める自然科学教育普及団体「地球レーベル」は、地元のつくば市で知り合った、地球科学を大学で勉強されていたご夫婦と、2020年に立ち上げ、地球を丸ごと楽しもうというコンセプトのもと、子供たち向けの自然観察会などを実施されています。

 具体的にはどんな観察会をやっているんですか?

観察会の様子

「その観察会によりけりなんですけれど、私が講師の場合は海に行って海の生き物を観察したりとか・・・。山に行って“石と地衣類”っていう、またちょっと変わった生き物を見たりとか、星の観察会をやったりとか・・・なんでもありなんです。地球のことならなんでもありで、その講師がそれぞれ行きたいとこ、やりたいことをやるっていう(笑)で、みんながそれを手伝う感じの、とても自由な団体です」

●ひとでちゃんが磯の観察会で、参加者のかたに必ず紹介する生き物がいるということですけれども、どんな生き物なんですか?

「ヨロイイソギンチャクっていう生き物なんですけれど、イソギンチャクって形わかりますかね。お花が咲いているみたいな、あの形を想像する人が多いと思うんです。イソギンチャクは“巾着袋”から来ているんですけど、閉じるんですよね、お花の部分が。そうするとただの丸い物体になってしまうんですけど、ヨロイイソギンチャクは、そのお花を閉じた状態の時に体の表面に砂粒をたくさんつけているんです。

 それが、鎧をつけているみたいだから、ヨロイイソギンチャクって言うんですね。砂粒をつけるといいことがいくつかあって、まずは乾燥から身を守れる。ヨロイイソギンチャクって、潮の満ち引きが結構ある、海中に入ったり出たりする場所に棲んでいることが多いので、水の外に出ちゃう時もあるんですね。そういった時は閉じて砂の粒で(体を)守っておけば乾燥しないっていう・・・。

ヨロイイソギンチャク、開いている状態と、閉じている状態
ヨロイイソギンチャク、開いている状態と、閉じている状態

 もうひとつは敵から見つかりづらいっていうのがあって、まさに私たちからも最初は見つからない。知らないと本当にただの砂の塊にしか見えないので、知らない人には見つからない。ただ一回、これがヨロイイソギンチャクだよ!って教えてあげると、もうそこらじゅうにいるんです」

●そんなに多いんですか~。

「たくさんいます! すごくたくさんいます!」

●誰でも見つけられる、コツさえつかめば、という感じですか?

「コツさえつかめば、一回わかればいくらでも見つけられます」

本物を見に行こう!

※生きている本物を見ることは、子供たちにはいいことですよね?

アカエラミノウミウシ
アカエラミノウミウシ

「そうですね。本当にそこをいちばん大事にしていて、もちろん言葉とか本とかで伝えることも無駄ではないんですけれど、やっぱり本物を見てしまったほうが早いし、やっぱりその子にしか受け取れない感覚が必ずあると思っていて、それを大事にしてほしいですね。

 文章とかだとこっちの解釈が一回挟まっちゃうんですよね。そうじゃなくて、実物そのものから自分で感じたものを大事にしてほしいと思っているので、本当もう実物を見せちゃおう! 行こう!っていうのを大事にしています」

●では最後にヒトデの研究者、または自然科学教育普及団体「地球レーベル」の代表として、改めて伝えておきたいことなどありましたら教えてください。

「私たちこの地球っていう素晴らしい星にみんな生まれているので、本当に一歩でもいいので外に出て、ゆっくり自然とか生き物を眺める時間を作ってもらうと、ひとりひとりが日々豊かな生活を送れると思っているので、外に出ていってもらえたら嬉しいなと思います」


INFORMATION

『海のへんな生きもの事典〜ありえないほねなし』

『海のへんな生きもの事典〜ありえないほねなし』

 ひとでちゃんの新しい本、おすすめです。海にいる無脊椎動物「ほねなし」の生き物を、姿形、生態、そして繁殖の方法に分けて、イラストや写真とともにわかりやすく解説。ひとでちゃんが、海の生き物を研究するようになった、運命のタコクラゲや、磯の観察会で必ず紹介するというヨロイイソギンチャクも載っていますよ。

 この夏、この本を参考書に子供たちと一緒に海辺で生き物を観察されてみてはいかがでしょうか。山と渓谷社から絶賛発売中です。詳しくは、出版社のサイトをご覧ください。

◎山と渓谷社 :https://www.yamakei.co.jp/products/2823064030.html

 「地球レーベル」主催の観察会は、8月11日に「ペルセウス座流星群」を観る会や、8月25日には室内で「海のほねなし動物講座」としてヤドカリの観察などを行なう予定だそうです。また「地球レーベル」では月刊自然観察マガジン「地球らいぶ」を発行しています。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎地球レーベル :https://chikyulabel126014918.wordpress.com/

オンエア・ソング 6月23日(日)

2024/6/23 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. STARFISH / SWAN DIVE
M2. SEASIDE (FEATURING ISABELLE ANTENA) / BUSCEMI
M3. FREE / DONAVON FRANKENREITER FEAT. JACK JOHNSON
M4. NOTHIN’ ON YOU (FEAT. BRUNO MARS) / B.O.B
M5. 小さな恋のうた / 大山百合香
M6. SOMEWHERE THEY CAN’T FIND ME / SIMON & GARFUNKEL
M7. WONDERFUL WORLD / SAM COOKE

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

シーズン直前!「初めての富士登山」徹底ガイド!

2024/6/16 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、一般社団法人「マウントフジトレイルクラブ」の代表理事「太田安彦(おおた・やすひこ)」さんです。

 太田さんは富士山の頂上になんと!600回以上も立ったベテランの登山ガイド。1982年、山梨県富士吉田市出身。富士山を見て育つも、社会人になって地元を離れて初めて、富士山が特別な山だと気づき、22歳の時に初めて頂上に立ったそうです。その時、なんとも言えない達成感を感じ、毎年登りたいという思いに突き動かされ、ついには登山ガイドの道へ。

 そして、32歳の時に行ったカナダやアメリカの国立公園で導入されている、自然や野生動物の保護、そして安全を目的とした規則や仕組みに感銘を受け、その手法を富士山に活かしたいという思いで、2016年に仲間と共に「ヨシダトレイルクラブ」を設立。その2年後、活動の幅を広げるために「マウントフジトレイルクラブ」に名称を変更。

 現在はガイドツアー、安全対策、環境保全の3つの事業を柱に、富士山六合目の「安全指導センター」の運営や救助の手伝い、ゴミ拾いのプロジェクトなどにも取り組んでいらっしゃいます。

 そして先頃、「マウントフジトレイルクラブ」監修の本『はじめての富士山登頂〜正しく登る 準備&体づくり 徹底サポートBOOK』を出版されました。

 きょうはそんな太田さんに、初心者向けの登山プランやルート選び、装備やウエア、そして絶対に守って欲しい注意事項のほか、今年から始まる「吉田ルート」の通行規制や予約システムについてもうかがいます。

 その前に、富士山の基礎知識。
 日本一標高の高い山、富士山。その高さは3776メートル。第二位の北岳(きただけ)が3193メートルなので、群を抜いて高い山です。そして独立峰で、円錐形のような姿はどこから見ても美しくて雄大で、季節や時間によって、いろんな表情を見せてくれます。

 2013年には、富士山とその周辺が世界文化遺産に登録され、観光で来日される海外のかたにも大人気ですよね。夏の登山シーズンには、多くの登山者が集まり、去年のデータによれば、2ヶ月で、およそ22万1000人が訪れたそうですよ。

 そんな富士山の登山シーズンが、いよいよ今年も7月から始まります。登山期間は
今年は山梨県側は7月1日から、静岡県側は7月10日から始まり、いずれも9月10日まで。なぜその期間なのか、太田さんがおっしゃるには、安全を担保できるのが夏だからでしょうとのこと。

 山開きの7月は山頂付近にはまだ雪が残っていて、毎年、雪かきをして登山道を整備。また、8月末から9月にかけては、みぞれや雪もちらつくことがあるとか。日本一標高の高い山、富士山は夏が短く、高所のリスクも高い山なんですね。

☆写真協力:マウントフジトレイルクラブ

太田安彦さん

正しい情報、そして準備

※私のようなまったくの初心者がまず、準備しなければいけないことは、どんなことですか?

「ふたつあると思っていて、まずしっかり正しい情報を得ること。その情報をもとに自分に何が足りないのか、それを準備する、このふたつですね。情報を得ることとそれに対しての準備を整えることですね」

●体力作りも重要になってきますよね?

「そうですね。情報で、富士山はやっぱり10時間以上行動すると知るので、山を10時間歩くことが自分にできるのかっていうところから、運動を始める。そういったところも準備になると思います」

●足腰を鍛えたらいいんですか? どんなことをしたらいいんでしょうか? 

「やはり足腰の筋力も必要だと思いますし、持久力も必要だと思います。とはいえ、それがなければ、絶対登れないということではなくて、私もガイド経験が長いので、富士山はほとんどが運動してない人が来る山っていう特徴もあると思いますね。

 体力がないと、どうなるかっていう話なんですけども、やはり筋肉がつってしまうケースもあります。心肺機能もいきなり心拍数が上がるのに耐えらなくて高山病を誘発してしまうような、高山病じゃなくても具合が悪くなってしまうようなケースもあります。やはり体力があるっていうのは、基礎的なベースとして必要だなっていうのは感じますね」

吉田ルートと富士宮ルート

※富士山の山頂に行くには、いくつかルートがあるんですよね?

「はい、4つあります。私がおもに拠点としているのが吉田ルート、山梨県側になります。それと、途中ぶつかるコースがあって、静岡県側から入ってきて、途中で吉田ルートにぶつかる須走ルート。で、静岡県では富士宮ルートと御殿場ルートがあります」

●初心者におすすめのルートは、どのルートになりますか?

「いちばんよく言われているのは、吉田ルートか富士宮ルート、そのふたつが上がってくるんですけども・・・とはいえ、明らかな違いがあるかって言ったら、私はそうじゃないと思います。

 どの登山口からも10時間近く歩きますし、高低差はそれこそ1000メートルは登って降りくる条件は一緒なので、大きな違いはないんですが、やはり吉田ルートだと山小屋が多くある。要するにそれだけ安全を担保できる、天気が悪くなった時に避難できるとか、具合が悪くなった時に(山小屋に)入れるとか、アドバイスを受けられるとか、そういったことが吉田ルートが人気な理由でもありますね。ほかにもご来光がどこの斜面でも、七合目でも八合目でも見られるというのが吉田ルートの人気の理由だと思います。

 初心者のかたに富士宮ルートも人気があるんですね、なぜかと言ったら、五合目のスタート地点の標高がいちばん上なんですね。2400メートル地点からなので、要するに山頂にちょっと近い、コースがちょっと短いという理由で、おそらく人気なのかなってのは思います」

●本に登りのルートと下りのルートが別々になっていると書かれていましたけれども・・・。

「そうですね。吉田ルートに関しては別々になっています。富士宮ルートは同じ道を帰ってきます。
吉田ルートは下山道が別になった理由がありまして、昭和55年に吉田大沢という沢の中を(登山者が)下山していたんですけども、そこが崩落によって犠牲者が出てしまったんですね。それまで荷物の上げ下げで使っていたブルドーザー道を再整備して下山道を正式につけた、要するに危険を回避するために別のところに下山道をつけたっていうところがありますね」

初心者はガイドツアーがおすすめ

はじめての富士山登頂〜正しく登る 準備&体づくり徹底サポートBOOK

※本ではモデルプランとして、二泊三日のプランをおすすめしています。利点も含めて、どんなプランなのか、教えていただけますか。

「まずは時間をかけて富士山に登る。体力に自信がない人も時間をかければなんとか登れる。一泊二日に比べて休息する日も1日多いので、体力を回復するポイントが多い。そういった意味で利点があるっていうところですね。あと高山病についてもやはり順応していくという人間の体質がありますので、そういった意味でも二泊三日というのは無理のないペースかなとは思います」

●3日間休みが取れないっていうかたでも、やっぱり八合目ぐらいまで行って山小屋に一泊は、したほうがいいですよね?

「そうですね。ほとんどというか、多くの登山者の中で多いスタイルが一泊二日のスタイルが多いと思うんですよ。やはり先ほど言った通り高度順応のためと、その途中で休息、筋力も休められたり、睡眠も取れたりとか、そういったことが利点で一泊二日もおすすめかなとは思いますね」

●初心者はまずガイドツアーに申し込むのがいいですか?

「そうですね。これは私がガイドだからっていうわけではなく、客観的に見ていても、やっぱりいちばんおすすめだと思います。理由はいちばんは、安全がある程度担保できるっていうところですね。

 例えば、悪天候の時の状況判断、登山を続けていいのかどうなのか、雨は強いし風が強くなってきた、これからどうなるのか、ガイドは当然天気は読めているので、その判断もできたりとか・・・。
 あと高山病になった時、自分が深刻で重度の高山病なのか、それともまだ軽い段階で改善の見込みがあるのか、そういったことの判断・・・。例えばもうちょっと歩幅を狭くして歩きましょうとか、ペースをこうやって安定させて歩きましょうとか、深呼吸を随時促すとか、そういったペースメイクですね。ペースメイクっていうのはすごく重要なので、そういったことを担うのがガイドで、それは富士山の登頂率を上げるという意味では大きく役に立つと思います」

●ガイドツアーはだいたいおいくらぐらいなんですか? 

「年々ちょっと変わっているなとは思うんですけれども、今年のツアーを先ほどちょっと確認したら、だいたい2万円前後ぐらいから4万円台のツアーがありました。それはガイド付きツアーで調べたんですけれども、その中に宿泊ですとか富士山までの交通費ですとか、そういったことはすべて盛り込まれて、もちろんガイド料も盛り込まれていました。富士登山の各ツアーを運営しているツアー会社のサイトを見るっていうのがいちばんですね。それで自分に合うのかどうなのかですね」

登山の3種の神器

※装備やウエアはどんなものを用意したらいいですか?

「まず、山の基本でもある3つ、登山靴とザックとレインウエアですね。これは重要になると思います。
 登山靴は長時間歩く登山に適しているというか、登山をするために作られているので、やっぱり長時間歩いても疲れにくいとか、足首をホールドしてくれるとか、あと濡れにくいっていうのも重要で、ゴアテックスを使っていたりとか、発水性のある素材を使っているっていうのは重要ですね。

 急な雨、レインウエアにもつながるんですけども、富士山の雨というのは短時間でドバドバと、バケツをひっくり返したような雨が降ることもあって、やっぱりそういったものに耐えうるカッパがいいですね。よく『100均で売っているようなペラペラのカッパでもいいんですか?』っていう質問があるんですけど、できればそれは避けたほうがいいなと思います。

 というのは、汗を外に出す機能もない、ビニールなので透湿性がなかったり、要するに汗かいて、中がビショビショになって冷えてしまう可能性もあったりですね。あと富士山は寒いので、ビニールガッパだと硬化してパリパリ割れてしまうケースもあります。風も強くてそういったものが機能しないということがあるので、やはり上下セパレートの防水性に優れた、動きやすいカッパがいいなとは思います」

●確かに富士山は、暑さと寒さ、その両方に対処しないといけないですね。ウエア選びはちょっと大変じゃないですか?

「本当にそうですね。快晴の時は『登山日和だ! 気持ちよかったね! カッパも使う必要なかった』とか『半袖でよかったんじゃないか?』とか、そういった天気もあれば、風速20メートルで気温も寒気が入って、山頂だと5度以下になったりもします。いきなり冬が訪れるのも富士山なので、標高3000メートルを超えているということで、やはり(ウエア選びは)難しいんですけども、要するにそういった悪天候に備えるのが重要かなというのは思いますね」

●トレッキング・ポールはあったほうがいいですか?

「これは必須ではないんですが、筋力に自信のないかたはそれなりのサポートを考えて・・・下山時に特にボールがなかったら、ふらついて筋力に負担をかけるよりかは、やはり4点で、歩けると安定して歩ける、要するに筋肉にそんなに影響を与えずに歩けるっていうところでは、やっぱりポールはあったほうが便利かなとは思いますね」

(編集部注:装備やウエアは、しっかりしたものを買うとそれなりのお値段になるので、予算的に厳しいというかたは、フルセットのレンタルもあるので、それを利用する手もあるとのこと。また、山好きの友人がいたら、事前に借りて、使ってみて、それから自分に合うものを買うというのもいいかもしれませんね)

呼吸は吐くことを意識

※太田さんによると、富士登山には大なり小なりトラブルはつきもので、多く見受けられるのが高山特有の酸素不足による体調不良だそうです。高山での呼吸の仕方に、コツがあったら教えてください。

「これはシンプルで、吐き出すほうを意識することなんですね。(登山客に)深呼吸してくださいって言うと、吸うほうに意識がいきがちなんですけども、例えば、ろうそくの火を消すように、ふ~っと細く長く吐き出す、しっかり吐き出すと人間は苦しくなって深く吸い込むので、吐くほうを意識するとちゃんと吸い込めます。吸った時に肩がぐっと上がったりとか、胸がぐーっと膨らむぐらいまで深呼吸するのはいいと思いますね」

●なるほど! 吐くほうに意識を向けるということなんですね。登りと下りでバテない上手な歩き方はありますか?

「バテないっていう必殺技みたいなのはたぶんないとは思うんですけども(笑)、それこそ、登りは一足ずつぐらい、足の一足26センチとか28センチとか、本当に一足ずつぐらい、30センチぐらいの歩幅で一歩一歩、歩く。要するにすごく小股で歩くんですね。

 お客さんに最初、このぐらいのペースで歩くんですと、五合目を歩き始めてすぐの上り坂で言うんですね。そうすると『えっ? これ、遅すぎないですか?』って、まずみなさん驚くんですよ。でも九合目になったら、その歩き方でさえもちょっと早いと感じるぐらいの体感があるんですね。なので、小股で歩くのは筋力を使わないとか、ペースを安定させ、心拍数を抑えるために重要ですね。

 カメとウサギの話があると思うんですが、それが結構重要で、ゆっくり歩くと何ができるかって言ったら、心拍数もそれほど上がらない、筋肉をガシガシ使わない、筋肉は酸素で動いたりしますので、効率よく吸った酸素を省エネで使う歩き方、小股で歩くっていうのがポイントですね」

●登山にはいろんなルールとかマナーがあると思うんですけど、これだけは絶対に守ってほしいことってありますか?

「いくつも実はあるんですけども、いちばんはルールを守って人をケガさせないことが重要かなと思います。富士山の特徴のひとつが人が多いこと。当然(登山道で)渋滞ができてしまう時間帯とか場所もあるんですね。山頂付近、九合目付近ですとか・・・。そういった時に何が起こるかと言ったら、登山道以外を歩いたりしてしまうんですね。

 登山道のロープを越えて斜面を直登していく人がたまにいるんですけれども、そういった時には石を落としやすいんですね。その石が当たって亡くなってしまったケースもあります。当然、ケガというケースもあって、毎年のようにヒヤリ・ハットは何件も起きているので、やはりルールを守って人をケガさせないことですね。もちろん自分の体調を整え、ケガをしないっていうことも重要なんですけれども、ひとりひとりがケガさせないようにルールを守っていくと、必然的に自分がケガするというリスクも減っていくんだろうと思います」

(編集部注:下山時の歩き方のコツは、太田さんによると、人にもよるそうですが、下る時も歩幅は狭く、足の裏の全体を地面につけるベタ足が基本で、トントントンと一歩ずつ丁寧に、リズミカルに歩くことだそうですよ)

今年から始まる「吉田ルート」の登山規制

※今年から山梨県側の吉田ルートの登山規制と、通行予約が始まると、ニュースなどで報道されました。この背景には、どんなことがあるのでしょうか?

「やはり弾丸登山ですとか、集中する登山者の抑制につながるという施策だと思います。例えば、去年でいうと4000人を超えた日が何日かあって、その中で弾丸登山が・・・宿泊を伴わないで夜に入ってきて、そのまま山頂へ向かうスタイルを、みなさん弾丸登山と言っているんですけども、その人数が1000人〜1300人ぐらい入った日があって、それはとても危険を感じましたね。

 どんなことかって言ったら、当然その時期は山小屋がいっぱいで予約ができませんし、そんな中、いろんなところに弾丸登山者が寝ている、シュラフですとかビニールシートにくるまって寝ているとか、休んでいるケースが多くて、そこで悪天候になったら、『これはほんと大変危険な状況だ!』とかもあります。それこそ登山道をはみ出して歩く人も何人も何人も見受けられたので、今年はこの規制の効果が見込めるのかなとも思いますね」

●規制は1日何人までになるんですか?

「山梨県側では1日4000人を上限としています」

●安全登山のために、これは致し方ないことなんですか?

「重要なのは今やる施策であって、これがずっと4000人の規制があるかっていうことでは多分ないと思うんですね。とりあえず今ある目先の危険なことに対して、4000人をマックスにしたっていうことで、これが今年すごくいいほうに働いて本当に抑制できるんであれば、なおかつ登山者にとってストレスにならなければ、これはいい施策だったっていうことにもなりますし、もしかしたらまだ問題が出てくる可能性もありますけど、まずは今年これで ひとまずやっていくことで、いいのかなとは思いますね」

●吉田ルートの通行予約は、オフィシャルサイトからできるんですか?

「そうですね。オフィシャルサイトからできます。やっぱりいちばんみなさんが不安に感じているのは、自分がその4000人の中に入れるだろうかっていうところだと思うんですけれども、基本的に宿泊の予約をしていれば、山小宿泊の予約をしていて、その証明があれば4000人を超えていたとしても入山できるんですね。

 なので、宿泊予約をして一泊二日、もしくは二泊三日で予約を取って、登山を計画されているかたは、この規制に対しては全く問題ないので心配されなくて大丈夫だと思います。日登りに対して、日登りとは日中、朝早くから登って夕方には帰ってくるっていうスタイルで、4000人を超えるかどうかっていうとこなので、今までの感覚だとそんなに大きな影響があるかって言ったら、冷静に考えるとそうないのかなとも思いますね」

(編集部注:山梨県側から入る吉田ルートでは、今年から2000円の通行料がかかります。収益は安全対策などに使われるとのことです)

◎富士登山オフィシャルサイト:https://www.fujisan-climb.jp/

富士山は宝物、次の世代へ

※富士山の楽しみ方はいろいろあると思うんですけど、太田さんのおすすめはありますか?

「本当にいろいろあって、自分の興味があることでいいと思うんですね。例えば、歴史とか自然とかにも魅力はあるので・・・。
 自分がちょっとおすすめしたいなっていうのは、やっぱり星が綺麗なんですね、富士山は。例えば、流星群の時は数分に1個流れ星が見られるとか、人工衛星も肉眼で頻繁に見えますので、星空を鑑賞するっていうところでは富士山は適しているのかなと思います」

●富士山に登りたいって思っている初心者のかたがたに向けて、改めて伝えておきたいことなどありましたらお願いします。

「富士山は、本当に準備さえしていれば、登頂率が上がる山なんですね。なので先ほど冒頭でも言った通り、情報を取って自分に何が足りないか、例えば体力、ほんとに運動を全くしていなくて、ちょっと歩いただけでも息が上がって、膝が痛くなるっていうことであれば、富士山はトレーニングが必要だと思いますね。

 日頃運動していて、階段登りもだいぶできるということであれば、登頂率も上がってきます。情報と、それに何が必要かを自分で捉えて、計画的にやってもらえたらいいなと思います。

 ひとつ言うとすれば、焦らず、富士山は逃げない場所なので、こういった規制があったとしても富士山に登れなくなるっていうわけでもないです。むしろ焦って、今年しかチャンスはないんだって思ってケガをして、富士山で嫌な思い出を作って、富士山には一生行かないっていうよりかは、丁寧に準備して思い出を深く、いい思い出にしてもらって、毎年恒例にしようって思うぐらいの富士登山にしてもらえたらいいなと思います」

●では最後に、太田さんにとって富士山とは?

「そうですね・・・ちょこちょここの質問をされて、すごく答えづらくてですね(笑)、まだそんなに俯瞰して見られるというのはないんですけども、強いて言えば、むしろかっこよく言えば、富士山は自分にとって『宝物』という表現をしたいなと思います。

 宝物っていうのは、自分にとって必ず必要なものでもありますし、やっぱり大切にしたくなることでもあります。あとやっぱり自分の子供にもその宝物を譲る場面が出てくると思うので、そういった時にはいい状態で譲りたいなとも思います。
 富士山は自分のものだけではなくて、みんなが共有している、かけがえのないものだと思うので、それをそういった思いでいろんな人に体験してもらいたいなとは思います」


INFORMATION

はじめての富士山登頂〜正しく登る 準備&体づくり徹底サポートBOOK

 富士山を目指す、特に初心者のかたは「マウントフジトレイルクラブ」が監修した本 『はじめての富士山登頂〜正しく登る 準備&体づくり徹底サポートBOOK』をぜひ参考になさってください。トラブルを回避する方法、モデルプラン、ルートガイド、装備やウエア、そして快適登山のための事前予習やトレーニングなど、初心者の知りたいことが、まるわかりのガイド本です。
 メイツユニバーサルコンテンツから絶賛発売中。詳しくは、出版社のサイトをご覧ください。

◎メイツユニバーサルコンテンツ :https://www.mates-publishing.co.jp/archives/29913

 「マウントフジトレイルクラブ」では富士山登頂や周辺を楽しむツアーなども企画しています。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎マウントフジトレイルクラブ :https://mftc.jp/

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