2024/9/22 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、ドイツ・ミュンヘン在住のシンガー・ソングライター「NILO」さんです。
2007年にボサノヴァ・シンガーとしてメジャー・デビューしたNILOさんは、関西を拠点に音楽活動をしながら、ふるさと札幌でラジオ番組のDJ、さらには趣味の自転車やトライアスロン、アウトドアの体験を雑誌に寄稿するなど、マルチに活躍。
また、元バックパッカーで世界をひとり旅。その後、サイクリストとしても活動していたアクティヴ派で、以前この番組が女子チームを組んで、モンベルの環境スポーツイベント「SEA TO SUMMIT」に出場したときに、自転車のパートを担っていただき、10数キロを激走していただきました。
その後、ひとり旅でハワイの山をトレッキングしていたときに、ドイツ人の男性と知り合い、電撃結婚! 2011年からドイツで暮らしていらっしゃいます。
最初はドイツ語がうまく話せず、また、すぐにお子さんを授かったこともあり、子育てに追われ、慣れないドイツでの生活は毎日大変だったそうです。また、日本にいた頃は、仕事人間だったNILOさん、ドイツではゼロからのスタートとなり、なかなか仕事が見つからず、それもつらかったそうですよ。現在はドイツと日本を行き来しながら、精力的に音楽活動に取り組んでいらっしゃいます。
今回は、現在ミュンヘンで暮らしていらっしゃるNILOさんにリモートでご出演いただき、環境先進国といわれるドイツでの暮らしや、人気のアウトドア・アクティヴィティのほか、ライヴ活動のお話などうかがいます。
☆写真協力:NILO

本場ドイツのビール・フェス!
●NILOさんが暮らしているミュンヘンは、ドイツでは3番目に大きな都市なんですよね。
「結構大きいです。私ふるさとが北海道の札幌なんですよ。同じくらいの大きさで、札幌と似たような感じですね。ここは仕事があるので、以前はたぶん120万人くらいの都市だったんですけど、今は200万人に近いくらい人が増えていますね」
●NILOさんが暮らしていらっしゃる街は、中心地に近い感じなんですか?
「そうですね。去年引っ越しをしたんですけど、その前までは本当に中心地に歩いて行けるぐらい街中に住んでいました。でも今も、自転車でも地下鉄でも20分圏内っていう感じなので、まあ中心地って感じだと思います」
●公園とかはあるんですか?
「ものすごくありますよ。ミュンヘンって、ドイツ全体がたぶんそうなんですけど、緑地面積の広さが結構有名で、緑がとっても多いんですよ。海があまりない分、緑が大事っていうか、みんな自然が好きなんで、緑はものすごく多いですね」

●素敵な場所ですね〜。
「そうですね。特にミュンヘンは治安もとってもいいので、ファミリーには向いているかなと思います」
●この時期は季節的には秋っていう感じですか?
「そうですね。最後ちょっと暖かくなって、9月の終わりぐらいに毎年オクトーバー・フェストっていうのがあるんですけど、それが終わると寒い冬がやってくるって感じで、そこから長いんですよ(笑)。3月ぐらいまでなかなか暖かくならないんで、厳しい冬が来るって感じですね」
●オクトーバー・フェストって、あのビールのフェスですよね?
「そうです!」
●私、ビールが大好きで、日本で開催されているオクトーバー・フェストはよく行くんですけども、いつか本場のオクトーバー・フェストに行ってみたいっていう夢があるんですよ〜。
「もうね、すごいお祭り騒ぎなんで、まあでも1回は来たらいいよって、みんなにお勧めしています! 2週間、開催されるんですけど、その2週間はミュンヘンはエラいことになっていますね。道を酔っ払いの人が歩いているみたいな感じなので、フラ〜フラ〜ってしている人が多かったりして・・・(笑)。
本当の地元の人はあまり行かなかったりもするんですよ。”もうあれはいいわ。疲れるから〜”みたいな、人混みがすごいので・・・でも2週間で一応、毎年600万人くらいの来場者があるらしいですよ」
●ドイツといえば、やっぱりビールってイメージはすごくありますよね〜。
「ええ、美味しいですよ。地元地元のいろんなビールが楽しめるようになっていて、あまり外に出さないんですよね。輸出したりするビールはすごく少ないので、来ないと飲めないっていう感じのコンセプトがあるんですよ。なので、そのビール巡りとかをするのも結構楽しいですね」
●いつか絶対行ってみたいです!
「ぜひ! ぜひ来てほしいです! ビール好きは本当に楽しめますよ」
クロアチアでアイランド・ホッピング!?
●NILOさんは、とにかくアウトドア派なんですよね?
「そうです。気がつけば(そうなってましたね)。ミュージシャンって結構インドアが多いんですよ。私もインドア生活がすごく長いとそうなっちゃう・・・やっぱりずっとものを作ったりすると、全然外に出なくなっちゃうので、若い頃から意識的に体を動かしたりするように気をつけていて、それでアウトドア(活動を)するようになったのかなっていう感じはしますね」
●山登りもそうですけれども、サイクリストでトライアスロンにも挑戦されていたということをお聞きしたんですが・・・?
「そうですね。最近は大会はなかなか出られないし、モチベーション的にもちょっと難しくて・・・早く走るとか競うっていうのが、モチベーション的に最近はあまりないんですけどね。トライアスロンは変わらず、長い間一緒に練習している仲間がいるので、まあゆっくりですけど、走ったり自転車に乗ったり泳いだりというのはコンスタントにやっていますね」
●ドイツでもアウトドアは結構楽しんでいらっしゃいますよね?
「そうですね。こちらは休暇がすごく多くて、子供がだいたい2ヶ月おきぐらいに2週間、学校の休暇あるんですよ。暦でちゃんと祝日があるんですけどね。休暇が多いので、やっぱりどこかに連れて行くっていう感じになっちゃうから、キャンプに行ったり、山に行ったり、川に行ったりとか、いろいろアウトドアしていますね」
●具体的にNILOさんのお気に入りのフィールドはありますか?

「家族で毎年同じ場所にキャンプに行っているんです。クロアチアにキャンプに行っていまして、結構クロアチアってドイツ人に人気あるんですよ。日本からはあまり想像がつかないと思うんですけど、意外と近い、そんなに遠くなくて、車で6時間ぐらいなんですね。で、海があって、島がいろいろあって、私たちは船に乗るのが好きで、私、船舶免許を、いつだったかな・・・それこそコロナの時に取ったんですよ」
●ええっ!? すごい〜!
「コロナで仕事がなくなって、ぽっかり時間ができたんで、なんかやろうかなと思って、その何年か前に旦那が先に取っていて、そのうち私も取ろうと思っていたので、船舶免許を取ったんですよ。
なので、クロアチアにキャンプに行って、クロアチアはあまり波がないんで、たまに揺れる時もありますけど、まあまあ凪いでいるので、船でちょこちょこっと島をホッピングするっていうのが楽しみです。

ギリシャも結構近いし、イタリアとかも近いので、船に乗る人がヨーロッパってとっても多くて・・・なので、その辺の島をホッピングしている人たちもいっぱいいて、そういう人たちと交流したりとか、そんな楽しみを毎年やっていますね」
(編集部注:NILOさんによると、ドイツのかたはアクティヴな人が多くて山登りに、スキーやスノーボード、そしてミュンヘンには川や湖がたくさんあって、ウインド・サーフィン、さらには、フランスまで行ってサーフィンをやるかたもいるそうですよ)

環境先進国ドイツの環境教育
●NILOさんの好きな自転車は、ドイツではどうなんでしょう?
「自転車はすごいですよ、本当に! ここ2年ぐらい、すごくロードバイクが流行っているみたいです。もともと(自転車は)少なくなかったんですけど、最近ちょっと溢れ返るぐらい増えていて、ドイツには自転車専用道があるんですけれど、それじゃ足りないぐらいになってきているので、自転車専用道を増やしたりとかしているぐらい盛んですね」
●ミュンヘンの街も自転車は走りやすい感じなんですか?
「基本的にはとっても走りやすいです。ちゃんと左右の方向とかもはっきりしているし、看板もちゃんと出ていて、“ここは走行、自転車はオッケー”とか“車はダメ!”とかもはっきりしているので、走るところがわかりやすいというか、そういう意味ですごく走りやすいですね」
●NILOさんの好きなサイクリング・コースはあるんですか?
「やっぱりあまり車がないところのほうが走りやすいし、サイクリング・ロードは本当にたくさんあるので、半分オフロード的な、そんなに激しくないですけどね(笑)。半分オフロードっぽい感じのサイクリング・コースで、川沿いとか目指していたりとか、湖を目指したりして走ったりとか、そんな感じですかね」
●環境先進国と言われているドイツですけれども、実際に暮らしていて、エネルギー面だったりとかゴミの削減だったりとか、これはいいなって思うような取り組みってありますか?
「最近の日本も似たような取り組みをしているんじゃないかなと思うんですけど、たぶんドイツのほうがそういうのは早くて、たとえばレジ袋とか、かなり昔からなかったんですよ。自分で袋を持って行く、袋を再利用したりとか、もともと袋は有料だったので、10年以上前、私が住み始めた頃からレジ袋とかなかったですね。
あとは、やっぱり子供の教育が、学校での環境に対する意識を持たせる教育がすごくて、小さい子どもがゴミをあまり出さないように意識したりとか、プラスチック(ゴミ)をあまり出さないようにっていうことを考えていたりとか、子どものレベルで、学校で教えていることがちょっと違うのかなっていうのは、すごく思いますね」
●学校で環境教育の授業があるっていう感じなんですか?
「そうですね。授業の一貫で、たとえばゴミを使って工作をしたりとか、社会見学的なことをして、ゴミがどういうふうに処理されているのかを、日本でもあると思うんですけど、ドイツはそういうのを頻繁にやっているって感じですかね。だから、ちっちゃい子がそういうのを意識した発言をすることに、びっくりする時がありますね」
日本の80’s、ドイツで大流行!?

●NILOさんは、現在ドイツと日本でライヴ活動をされています。ドイツでは、どんなところでライヴをやることが多いんですか?
「私今、二本立てというか、ふたつの違うジャンルを同時進行で活動していて、ひとつはずっと昔からやっているボサノヴァのフィールドで、ジャズ・バーとかを中心に、あとはビーチ・イベントとか、そういうところで歌ったりしています。
で、もうひとつは今ヨーロッパで若い人を中心になんですけど、日本の80’sの曲がすごく流行っているんですよ。私世代は逆に知らなくって、それよりも若い人たちが、10代とか20代の人たちを中心に、80年代の日本の曲が流行っているという、そういうフィールドがあるんですよね。
“アニメ・コンベンション”っていって、アニメとかゲームが好きな子たちが集まるようなイベントとかで、日本の歌を80’sとかを中心に歌って、自分もそれで(曲を)書くようになったんですけど、ちょっと懐かしい感じの日本の歌、歌謡曲とか、シティ・ポップを歌って、あとは今、日本のイベントも、日本自体がすごくブームで、たぶんフランスもちょっと早めにそのブームが来ていて、ドイツにその後、日本ブームが来たっていう感じですね。
私が昔から出ていた日本系のイベントも、昔はもっとちっちゃかったんですよね。でも今は本当に何千人っていう人が来るようになって、イベント自体が大きくなって、私もやっぱり歌う機会が増えて、日本の歌とか80‘sの歌を歌ったりする機会が今年は特に多くなりましたね」
●80年代の曲をカヴァーしたりとかされるそうですね?
「そうです、そうです! 私が子供の頃ってインターネットとかなかったので、私の世代は・・・(笑)。だからまさか外国の人が日本の曲を聴くようになるなんて思っていなかったんですよね。それを叶えたいというか、外国の人が自分の母国語の歌を聴いてくれたらいいなっていう気持ちはずっとありましたけど、そういうふうになるのは難しいんだろうなと思っていましたね。
でもいつの間にか、インターネットでこういうふうになって、今本当にいろんな人が、どこに住んでいても別に言葉がわからなくても、好きだったら聴けるっていう環境ができて、まさかこんなふうに自分の母国語でドイツで歌って喜んでもらえる日が来るとは思っていなかったから・・・それはなんかすごく感動的なことだし、半分ぐらいはやっぱり起こらないと思っていたことだったから、すごく奇跡的に感じている部分もあって、でも本当に嬉しく思っているっていうことをいつも(ライヴの時に)伝えています」
●カヴァーする時は日本語のままで歌われるんですか?
「はい、日本人がちゃんとネイティヴの日本語で歌うのが、彼らにとってはすごく珍しいことなんですよね。なのであえて、やっぱり“日本語でぜひ歌ってほしい!”っていう要望もあるので、日本語で歌っていますね」

ジャパン・ツアー、コンセプトは「懐かしさ」
●日本でのライヴ・ツアーが決定しているそうですね。いつからいつまでのツアーなんですか?
「9月25日、札幌からスタートして、今回あっという間なので9月30日まで。本当にぎりぎり9月最後まで歌って、その翌日にドイツに帰るって感じです」
●場所は札幌から始まって、その後は・・・?
「札幌で2回やって、その後、大阪、名古屋、湘南、東京と来て、帰ります」
●そうなんですね。今回のツアー・メンバーはどんな感じなんですか?
「私が日本に来たら同じメンバーでやっているんですけど、大体同じかな・・・ 北海道だけ、伝統楽器をやっているメンバーがいて、彼らは伝統音楽だけじゃなくて、ジャズとかポップスとかにも果敢に挑戦して、即興演奏をしたりする人たちなので、尺八と三味線を入れて札幌ではやったり・・・。
大阪、名古屋はこじんまりとベースとギターとボーカルだけで、デュオで回すんですけど、湘南、東京はバンドで、あとパンデイロとギターが入るので、結構派手にバンド演奏できる感じになるかなと思います」
●場所によって、いろいろ(ライヴの)カラーが違うんですね?
「そうですね。なので、プログラムもちょいちょい変えつつ、あとはメンバーが違うので、聴こえ方はその会場会場で違うかなと思います。お近くのかたにはぜひ楽しんでいただきたいです」
●今回のジャパン・ツアー、ここに注目してほしいというのがあれば、ぜひ教えてください。
「今回、私がヨーロッパで80年代の曲を中心に歌っていることで、自分もそういう80年代テイストを出した『懐かしさ』をコンセプトに曲作りしているんですね。で、私のオリジナル曲もやりますし、ボサノヴァだけじゃなくて、80’sの曲も少しやろうと思っているんです。
特に私の上世代とかは懐かしい感じもあると思うんですが、コンセプトが『懐かしさ』なので、ぜひ一緒に、“あれっ! これ懐かしいな~”みたいな、ちょっと自分の若い頃を思い出したりとか(笑)、そんな感じで来ていただいたりしても嬉しいなと思っています。特にこのベイエリアの近くのかたがたは東京、湘南あたりに来ていただけるかなと思うので、ぜひチェックしていただければ嬉しいです!」
(編集部注:実はNILOさん、コロナ禍でライヴ活動ができない時期に、ドイツの大学でオーディオ・エンジニアの勉強をされ、専門用語と格闘しながら、コンソールや機材の使い方、そして録音のノウハウなどをマスター。その集大成ともいえるのが、作詞・作曲・編曲はもちろん、レコーディング、ミキシング、そしてマスタリングまで全部ひとりでこなして完成させた、7月リリースの新曲「フィール・ザ・フロー」で、この日のラスト・ソングとしてオンエアしました)
INFORMATION
NILOさんの今月9月のジャパン・ツアー、日程と会場をおさらいしておくと・・・
9月25日(水)「札幌D-BOP (ディーバップ)JAZZ CLUB」
9月26日(木)同じく札幌の「純喫茶オリンピア」
9月27日(金)大阪・東心斎橋「真心場(まほろば)」
9月28日(土)名古屋・今池「imago(イマーゴ)」
9月29日(日)江ノ島・虎丸座(とらまるざ)
9月30日(月)表参道・ZIMAGIN(ジマジン)となっています。
ぜひライヴ会場にお出かけください。会場によってはソードアウトになっているところもありますので、詳しくはNILOさんのオフィシャルサイトをご覧ください。
◎NILO:https://officenilo.com
2024/9/22 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. TALKIN’ TALKIN’ / NILO
M2. VOLARE / GIPSY KINGS
M3. The Theme From Big Wave / 山下達郎
M4. BICYCLE SONG / RED HOT CHILI PEPPERS
M5. プラスティック・ラブ / 竹内まりや
M6. 真夜中のドア ~stay with me / 松原みき
M7. FEEL THE FLOW / NILO
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2024/9/15 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、女優、そしてタレントとして活躍されている「長沢 裕(ながさわ・ゆう)」さんです。
長沢さんは、日本テレビの「ZIP!」でお天気キャスター、そしてNHK Eテレの「趣味の園芸 やさいの時間」にもレギュラーで出演されていましたよね。現在はYouTubeの人気ドラマ「おやじキャンプ飯」シリーズでもお馴染みです。
きょうはそんな長沢さんに、農作業体験や東京湾での釣り、そしてソロキャンプのお話などうかがうほか、番組後半では「日本シェアリングネイチャー協会」の事務局長「渡辺峰夫(わたなべ・みねお)」さんに加わっていただき、長沢さんの地元福島で開催するキッズ向けネイチャーゲーム・イベントについてもうかがいます。

もう一度、自然の近くに
※テレビの情報番組やドラマ、舞台、CMなど、幅広い分野で活躍されている長沢さん、出身は福島で高校卒業後、大学進学のために上京。私と同じ立教大学の同窓生なんです。
そして、大学在学中に初めて受けたオーディションで合格したWEB版「電波少年Tプロデューサーと行く 海外!究極アポなし旅」でデビュー。Tプロデューサーと一緒に世界を巡ったそうですよ。いきなり海外へ連れて行かれて、さぞかし大変だったんだろうな〜と思ったんですが、ご本人は楽しいロケだったとおっしゃっていましたよ。
●長沢さんは、生まれ育ったのが福島県伊達市、なんですよね。どんなところなんですか?
「伊達市は中通りのいちばん北部に位置する、宮城との県境の場所にあるんですけど、やっぱり第一次産業がすごく盛んです。
私が幼い頃から、祖父母が農業をやっておりまして、春になるとサクランボから始まって夏に桃が獲れて、最後はあんぽ柿という伊達市名産の果物があるんですけれども、そちらを生産していて、本当に季節の移り変わりを食だったり、果物で感じているような幼少期でした」
●素敵な場所ですね~。ということは、子供の頃は自然いっぱいの中を駆けまわるような、そんな少女だったですか?
「そうですね。それこそ家の前が小さな里山みたいな感じだったので、裸足になってフキノトウを採りに行ったり、山菜を採ったり、あと秘密基地を山の中に作って遊んでいました」
●すごく自然と距離が近い場所にいたわけですね?
「そうですね。はい!」
●で、高校を卒業されて、東京の大学に進学されたんですよね。東京での生活はすぐ慣れましたか?
「そうですね。すごく刺激的で楽しかったんですけれども、やっぱり自分が田舎が好きっていうのがあったので、ちょっと息苦しさを感じたと言いますか・・・、食生活とかもすごく荒れてしまって、そしたらお肌とかも荒れてしまったので、そこでやっぱり自然が近くにあった生活が、いかにありがたかったのかを感じるようになりました」
●離れてみて気づく、地元の良さというか・・・。
「そうなんですよ~。お野菜とかも安いお野菜ばっかり買うようになっちゃって、目の前の食卓がすごく白いお野菜ばっかりっていうか、もやしとか水菜とか大根とかばっかり買っていたら、あれっ!? 旬とかその時々に食べていた季節を感じる野菜がいつの間にか自分の食卓からなくなってしまったっていう感覚がすごくありました。そういうところからも、やっぱりもう一度、自然の近くに行きたいってすごく思うようになりましたね。
自然にすごく興味があったので、農家さんのところに行ってみようだとか、あと漁師さんのところに行ってみようっていうことで、岩手県釜石の漁師さんの、その当時はまだ仮設だったんですけど、泊まらせてもらって、ワカメ漁を手伝ったりとか・・・。あとは三重県美杉町にある農家さんのところに行って、1日中、芋掘りをするっていう体験をしていました」
●すごいですね~! 子供の頃の、伊達市の経験が役に立ちそうな感じもありますね?
「そうですね。やっぱり自然とのつながりを感じるっていう部分では、“食”ってすごくわかりやすいなって思っています。自分も今一度、自然とのつながりを思い出したいなって思った時に、やっぱり目の前にある食べ物がどこから来て、誰がどんなふうに作っているのかっていう、その現場を見たいなって思っていました」

農作業に釣り、自然とつながる
※長沢さんのプロフィール欄に、趣味として「農作業、釣り、キャンプ」などが書いてありました。ここからは、そんな趣味についてうかがっていきたいと思います。まず、農作業なんですが、大学時代に経験されたそうですね?
「そうです。はい!」
●大学時代に農作業って、どういう経緯で、そういう経験につながったんですか?
「上京してから食生活が乱れてしまったっていうのがあって、もう一度目の前にある食がどこから来ているのか、誰が作っているのかを知りたいっていうふうに思って、よし! これは農家さんのところに行ってみようって考えていた時に、ちょうどゼミの先生からご紹介があって、三重県美杉町にある農家さんのところへ行ったんですね。
そこが、すごくニッチの話になってしまうんですけど、自然農を営んでいたかたで、その考え方とか、単に農産物を作るというよりも生き方として(農業を)やっているかただったので、その考え方に触れられたというのも、すごく衝撃を受けたとともに面白い体験でした」
●なんでそもそも農作業体験を? そういうつながりがゼミであったんですね?
「そうです。ゼミがもともと埼玉県の小川町って有機の里で有名な、『オーガニックタウン』っていう形で、今すごく移住者も増えている場所なんですけれども、そこで活動していて農家さん、それこそそこでも農家さんの田植えを手伝ったりだとか・・・。あと『小川町オーガニックフェス』っていうフェスの実行委員などもさせてもらっていて、そこでそういう世界にさらに興味がわきましたね」
●今でもつながっていたりするんですか?
「つながっていますね。その『小川町オーガニックフェス』で出会ったのがご縁で、そのイベントが環境省さんも後援に入ってくださっていたんですね。そのつながりで今でも、環境省さんの『つなげよう、支えよう 森里川海プロジェクト』というのがあるんですが、そこでアンバサダーをさせてもらっています」
●すごい! そうなんですね~。
「はい!」
●長沢さんのブログなどを見ると、最近は釣りにもハマっているんですよね?
「そうですね。釣りは全くの素人だったんですけども、番組の中で体験させていただくようになったので、本当に初めての釣りから、ひとつひとつ積み重ねていく模様を、まさにその番組の中で見ていただけているというか、そういう感じですね」
●私も一度だけ船に乗って、東京湾で釣りしたことがあるんですけれど、改めて釣りにはどんな魅力があると思われますか?
「東京湾は、すごく豊かな漁場が広がっているんですけど、どっちかって言ったら、私は東京湾で釣りってイメージがあんまりなかったんですね。でも、フグだったり、キスだったり、アジだったり、いろいろ釣ったんですけれど、自分たちが食べている魚が、こんなに近くの海から獲れているんだっていう実感もわきましたね。
自分のキーワードの中で、自然とのつながりって、やっぱり人間が生きている上で、みんな外せないものだけど、それってちょっと忘れがちになっちゃうことだとも思うんですね。そのつながりを取り戻していくことが、私は生活の豊かさとか自分の中身の豊かさにもつながっていくんじゃないかなって考えています。
やっぱり釣りは“釣って自分で料理して食べる! あのキラキラした海から獲れた魚!“、それが自分の体の一部になっていくみたいな、その流れをすべて体験できるのがすごく魅力だなって思っていますね」
友達と行くソロキャンプ!?
※長沢さんは、YouTubeドラマ「おやじキャンプ飯」シリーズにレギュラーで出演されていますが、以前からキャンプはやっていたんですか?
「そうですね。子供の頃から父と一緒に家族みんなで(キャンプに)行っていました!」
●キャンプ用のグッズも、ひと通り揃えていらっしゃるんですね?
「そうですね。実家には父が昔から集めてきた年季の入ったキャンプ・グッズがありますし、あと自分ではソロキャンプしたいなって思って、ひとり用のテントを買って・・・」
●そうなんですね~。
「はい、リュックの中にすべて詰めて行くぞ! っていう感じのキャンプ用品を買いました」
●まだソロキャンプはされてはいないんですか?
「2回行きました! なかなか行けてなくて、まだ2回なんですけど・・・」
●もう行かれたんですね! どうでした、ソロキャンプは?
「ソロキャンプは2回行って、友達と行くんですけど、でもソロなんですよ。行くまでは一緒なんですけど、キャンプ場で別れて、ひとりひとりテントを張って、ご飯を食べてっていう感じなんですね。今は“グループキャンプ”って言うんですかね? それなんですけど、すっごく楽しいですよ! やっぱり夜空を眺めながら食べるご飯とか、あと夜の静けさとかはやっぱりキャンプ場じゃないと感じられないなと思いますね」
●そうですよね~。お友達といろいろ喋りながら見るわけじゃなくて、ソロキャンプそれぞれのキャンプだから・・・。
「そうです!」
●自分で見たい時間に星空を見て・・・。
「そうです! もうひと言も喋らないですね (笑)。次の朝、荷物をまとめるまでひと言も喋らなかったです(笑)」
●キャンプのどんなところに魅力を感じますか?
「やっぱり『おやじキャンプ飯』を観ていただくと、特に感じられると思うんですけれども、焚き火のはぜる音だったり、ただ無心で焚き火を眺める瞬間だったり、星を見上げる瞬間だったり、風の音を聴く瞬間だったり・・・キャンプを始めて時間が経つにつれて、五感が解放されていく感覚ってすごくあって、それは体験しないとわからないですし、体験すると病みつきになっちゃうなって思います」
●おすすめのキャンプ飯とか、定番のキャンプ飯っていうのはあるんですか?
「これはやっぱり友達と行った時にやるのが楽しいんですけれど、ちっちゃいスキレットを持っていって、アヒージョをするのがすごく好きですね。アヒージョって何入れても美味しいじゃないですか! なので、その土地のお野菜とか直売所で見つけたお野菜だったりを買って、アヒージョを作るっていうのがすごく好きですね」
『シェアリング・ネイチャー・ウィズ・チルドレン』
※ここからは「日本シェアリングネイチャー協会」の事務局長「渡辺峰夫」さんに加わっていただきます。
長沢さんは地元福島で、キッズネイチャー倶楽部のプロジェクト・リーダーを担っていらっしゃいます。その倶楽部を始めたきっかけや、活動内容などをお話いただきました。

長沢さん「もともと私が日本シェアリングネイチャー協会さんのリーダー養成講座を受けさせていただきまして、それがすごく楽しかったんですよね。自然の中で様々な体験を、ということで、ちょっとしたゲームをするんですけれど、それをぜひ福島にも広めたい! もともと福島にもあるんですけど、もっと活発に子供たちと一緒にネイチャーゲームで遊べたらなって思って、こういう活動をしたいんです! っていうような話をいろんなところでしていたんですね。
その中で昔から私のことをすごく応援してくださっていたかたが手を挙げてくださって、福島テレビさんとも組んでやらせていただくことになりました」
●何かコンセプトのようなものはあるんですか?
長沢さん「これはちょっと個人的な思いにもなってしまうんですが、やっぱり私自身小さい頃、自然の中で遊んでいた体験が、大人になってからもすごくキラキラした思い出として残っているんですね。
それって子供の頃は当たり前にあった風景、たとえばフキノトウを採った思い出とか、すごく暑くて、でも秘密基地を作っていたら、すごく爽やかな風が吹いていったとか、そういった体験が大人になってからも素敵だったな~って思うので、そういうのを子どもたちと一緒に、子どもたちの中にも共有できたらなって思って始めました」
※ネイチャーゲームという名前を初めて聴いたというリスナーさんもいらっしゃると思いますので、改めて、ネイチャーゲームとは何か、ご説明いただけますか?
渡辺さん「ネイチャーゲームは、1979年にアメリカのナチュラリスト、ジョセフ・コーネルが書いた書籍『シェアリング・ネイチャー・ウィズ・チルドレン』、これは“子どもたちと自然を分かち合おう”というタイトルの書籍なんですけども、その中で発表された自然遊びのプログラムになっています」

●具体的にネイチャーゲームは、何種類ぐらいあるんですか?
渡辺さん「今、登録されているゲームは166あるんですね。これはいちばん最初に書かれた本に入っていたものが166なのではなくて、その後に、たとえば日本で“これ、ネイチャーゲームにならないかな?”っていうのを応募してもらって、いろんな段階を経て“これはいいぞ”というやつをネイチャーゲームとして新しく登録しているので、166のうちの半分ぐらいが日本で生まれたネイチャーゲームになっています」
オリジナルのネイチャーゲーム「いろいろ鬼」
※長沢さんがプロジェクト・リーダーのキッズネイチャー倶楽部で、もうすぐイベントを開催するんですよね?
長沢さん「これは子どもたちと一緒にネイチャーゲームを通して、自然の持つ様々な表情だったりとか不思議とか、あと自然の仕組みを学んで、普段気づかないような発見だったり、自然とのつながりを感じましょうというようなものなんですね。
(イベントの)日程をお知らせしますと、9月28日に『ふくしま県民の森 フォレストパークあだたら』、10月6日に『国立磐梯青少年交流の家』そして11月2日に『福島県いわき海浜自然の家』で行ないます。詳しくは『福島キッズネイチャー倶楽部』で検索していただきたいと思います」
●どんなネイチャーゲームをやるのかっていうのは、もう決まっているんですか?
長沢さん「はい、決まっていますね」
●ちょっと教えていただいてもいいですか?
長沢さん「はい、大丈夫です! 何がいいですかね・・・今回『生き物ビッグパズル』というものをやるんですけれども、これは大きなパズルがひとり1枚配られて、それをみんなで完成させるっていうようなものなんですね。
あとは『カモフラージュ』っていうものもやるんです。これは自然の中にちょっとした人工物だったり、自然の中にもいるようなカマキリのフィギュアみたいなものだったりを隠しておいて、それをみんなで列になって、静かに目を凝らしながら探していくようなゲームもやったりします」

●渡辺さんも、そのイベントのサポートをされるんですか?
渡辺さん「はい、私はプログラム作りのサポートをさせていただくんですけど、福島県にいるネイチャーゲームの仲間が長沢さんと一緒にプログラムの指導をすることになっています」
●長沢さんが考えたオリジナルのネイチャーゲームもあるんですか?
長沢さん「基本は(日本シェアリングネイチャー協会の)ネイチャーゲームから選ばせていただいて、アレンジは渡辺さんと一緒に考えさせていただいたんですね。今回はその中でもあれですね・・・『いろいろ鬼』!」
渡辺さん「ああ~!」
長沢さん「これは渡辺さんと話している中でできた遊びで・・・いいですかね?」
渡辺さん「そうですね、はい! いいですね!」
●いろいろ鬼?
長沢さん「はい! これは昨年(イベントを)実施させていただいた時に、最後に子供たちが、最初はみんなちょっとよそよそしいんですけど、ネイチャーゲームを体験していく中で、最後はもう友達みたいになって、いつの間にかみんなで遊び始めるんですよ。その時に“色鬼”を始めたんですよ。
その体験がいちばん、私の中ではやってよかったなというか、こうして人が自然につながって、最後はみんなで遊ぶってすごく素敵だなっていう話を渡辺さんにした時に、“その色鬼、いいかもね!”っていう話をしてくださったんですね。
色鬼ってみなさんご存知だと思うんですけれど、鬼が色を言って、鬼に捕まる前にその色にタッチしたらセーフっていう遊びじゃないですか。その色を言うだけじゃなくて、いろいろなもの、たとえば・・・“チクチクしたもの”とかでもいいかもしれませんし、秋口にやるんであれば、“黄色い葉っぱ”とかでもいいと思うんですけね。そういったいろいろなものを鬼が言って、それを鬼に捕まる前にタッチしてもらうっていうような『いろいろ鬼』を考案させていただきました」
「心の自然」を豊かに
※では最後におふたり、それぞれお聞きします。これまで自然の中に身を置いて、どんなことを感じ、何か気づいたことはありましたか?
長沢さん「私は悩んだ時とか、ちょっと心がモヤモヤした時に自然の中に行くんですよ。それは家の近くで、ただ空を見るでもいいですし、温泉に入りに行くとかもそうなんですけれども、なんて言うんでしょう・・・やっぱりゆっくり自然の中に浸っていると自分を取り戻すことができるんですね。
日々から離れてちょっとゆっくり考える時間を持つとか、それこそ自分の感覚を研ぎ澄ますこととか、それってすごく豊かになるなって思っていて、私は『心の自然』っていう言い方をしているんですね。
やっぱり心の自然が豊かになればなるほど、何か自分が疲れてしまった時とか、あと大変な時にちょっと思い出すだけで、すごく“心の栄養”になると言いますか、自分を支えてくれるものになるなと思っているので、これからもたくさんいろんな経験を自然の中でしていきたいなと思っています」
●渡辺さんはいかがですか?
渡辺さん「はい、自然って言うと大自然みたいなことをイメージするじゃないですか。なので、そういった大自然の中に行って、すごく安らぐなって思われるかたはたくさんいらっしゃると思うんですね。でも、実は自然って大自然ばかりじゃなくて、植木鉢の花とか、あとは車がたくさん通っているところの横に生えている街路樹とか、そういったものも自然なんですよね。
そういう自然に気づけた時に、自然からも安らぎを得られるみたいな、そんなふうになってもらうといいなと思っていて、私自身が昔はそういうことは感じなかったけども、ネイチャーゲームを知って感じられるようになったので、そう思っています」

INFORMATION
長沢さんがプロジェクト・リーダーの、福島の未来を作るプロジェクト「キッズネイチャー倶楽部」のイベント、日程や場所などをおさらいしておくと・・・
9月28日(土)「ふくしま県民の森 フォレストパークあだたら」、
10月6日(日)「国立磐梯青少年交流の家」、
11月2日(土)「福島県いわき海浜自然の家」、
いずれも午前10時から。各回・定員は80名、参加費は無料です。参加ご希望のかたは、締め切り間近の回もありますので 早めにチェックすることをお勧めします。参加方法など、詳しくはキッズネイチャー倶楽部のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎キッズネイチャー倶楽部:https://kidsnatureclub-ftv.jp
「日本シェアリングネイチャー協会」主催のイベントも来月開催されます。毎年10月の第3日曜日は「全国一斉シェアリングネイチャーの日」で、今年は10月20日(日)の開催となっています。今年のテーマは「はっぱで遊ぼう!」。はっぱや落ち葉を使った遊びが、順次サイトで紹介されていますよ。
参加方法など、詳しくは公益社団法人「日本シェアリングネイチャー協会」のオフィシャルサイトを見てください。
◎日本シェアリングネイチャー協会:https://www.naturegame.or.jp
2024/9/15 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. GET RHYTHM / RY COODER
M2. A PLACE IN THE SUN / STEVIE WONDER
M3. OCEAN BLUE / ABC
M4. SWEET MEMORIES / JADE ANDERSON
M5. また君に恋をする / 西野カナ
M6. RING OF FIRE / JOHNNY CASH
M7. THERE YOU’LL BE / FAITH HILL
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2024/9/8 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、特別展の総合監修を担当された国立科学博物館の研究員「井手竜也(いで・たつや)」さんです。
井手さんは1986年、長崎県出身。昆虫少年というよりは野球少年だった井手さんなんですが、生き物は好きで、九州にいるクマゼミをたくさん採っては家の中に放つような子供だったそうですよ。
そして高校生のときに生物部に入部、そこで昆虫研究の面白さに目覚め、宮崎大学農学部に進学し、昆虫の研究室に所属。おもにキャベツ畑に発生する「蛾(が)」を研究していたそうです。その後、九州大学大学院、森林総合研究所の研究員を経て、現職の国立科学博物館・動物研究部の研究員として活躍されています。

今週は特別展「昆虫 MANIAC」をクローズアップ! マニアックとタイトルづけされた特別展の見所や、井手さんの専門ハチの研究から、香りを運ぶハチや、寄生するハチの戦略など、興味深いお話をうかがいます。
☆写真協力:国立科学博物館
5人の研究者、五人五様のマニアック!?
※今回の特別展、タイトルに「マニアック」とあるのがポイントなんですよね?
「はい、そうですね。虫の色や形、生態とかの多様性にマニアックな視点で迫るっていうのが今回の特別展のポイントになっていて、研究者が監修しているんですね。
夏は昆虫展がいろんなところで行なわれていて、その中には研究者が監修に関わっているものもあるんですけれど、今回は本当に第一線でやっている、国立科学博物館の昆虫研究者が5人揃って監修していることもマニアックなところです。滅多に見られない昆虫とか、知っている虫でも全然知らないポイントがいろんなところで紹介されているような展示になっています」

●「トンボの扉」「ハチの扉」「チョウの扉」「クモの扉」「カブトムシの扉」など、いろいろありましたけれども、厳密には昆虫ではないクモとか、ムカデなども展示されていますよね。それは昆虫ではなく、ムシっていう扱いなんでしょうか?
「そうですね。昆虫には定義があるんですよ。ただ“ムシ”っていう言葉には実は定義がなくて、小さな生き物を総称して“ムシ”って呼ぶこともあるんです。なので、ムシの中に昆虫が含まれているっていうことになりますね。クモとかムカデは昆虫ではない、大きくいうとムシだというところですね。
昆虫の定義は頭、胸、腹に体のパーツが分かれていて、その胸の部分から6本の足が生えているのが、昆虫のいちばんの基本的な定義になるんですね。一方で、クモだったら足が8本で、ムカデだったらもっとあって、多足類って呼ばれていて、たくさんの足が生えているんです。
ただ、昆虫とかムカデやクモは全部、ひとつの節足動物っていうグループに入るんですね。この特別展では、昆虫と昆虫以外の陸上に生息する節足動物類を、ムシと定義して扱っています」
●展示してある標本などは、すべて国立科学博物館で所蔵しているものということですか?
「そうですね。大部分は国立科学博物館の収蔵庫から、筑波に収蔵庫があるんですけれど、そこから選び抜いて持ってきたもので、いくつかほかの博物館だったり大学だったりからお借りしているものとか・・・。さらには今回の特別展のために研究員が自ら野外で採集してきて、標本を作ったものなんかも展示していたりしています」
●巨大な模型も目を引いて、思わず写真を撮っちゃいましたけど、この精巧な模型にもこだわりを感じたんですが・・・。

「そうですね! あれは研究者が5人いまして、五体全部、それぞれにこれだ! っていうのを選んで作っているものになるんです。職人のかたがちゃんと一個ずつ作っていて、それを研究者が細かい部分、この部分の形が違うとか、この色が違うとか、そういうところを細かく監修して作ったものなんですよ。
本当に顕微鏡で覗いた時に感じる、その虫の面白さとか、あと野外で近づいてよく観察した時に見える、その虫のちょっとした動きみたいなところも表現していて、それを大きなもので見ることができるっていう模型になっています」
●ただ単に大きな昆虫の模型っていうよりは、マニアックな視点で見る模型っていう感じですよね?
「そうですね。細かいところを見れば見るほど、ここはこういうふうになっていて、こういう動きに役立っているんだとか、そういうのが見えてくるようなものになっています」
ミツバチはハチ界では珍しい!?
※井手さんの専門は、ハチだそうですね。今回の特別展でも、もちろんハチの展示を担当されていますが、なぜハチを専門に研究することにしたんですか?
「ハチと言っても、実は自分の専門は、タマバチっていうごく小さな、2〜3ミリくらいしかないようなハチなんですね。タマバチからハチの世界に入ったというところで、タマバチの研究をしていく上では、ほかのハチのことを比較対象として知らなければいけないっていうところで、徐々にハチ全体にという感じで、ハチの研究を始めたという感じです」
●タマバチには、どんな特徴があるんですか?
「タマバチは植物に寄生する寄生バチなんですね。要は植物に卵を産みつけて、その部分を“虫こぶ”と呼ばれる、植物の一部が膨れたような巣に変形させるっていう特徴を持っています」
●そもそも井手さんは、どうしてタマバチを研究することになったんですか?
「やっぱり“虫こぶ”を作るっていう生態の面白さから、タマバチの研究をやってみたいって思ったんですけど、タマバチってそもそもほとんど名前が知られていないというか、図鑑にもほとんど載ってないような昆虫です。いわゆる分類学っていう、新種とかもまだまだたくさんいるような、名前がついていないようなハチがたくさんいるようなグループだったんですね。だからそのタマバチの分類学という分野を専門に研究することにしました」
●ハチっていうと、ミツバチとかスズメバチっていうイメージがあったんですけれども、世界的にはハチってどれぐらいいるんですか? 種類でいうと・・・?
「種類でいうと、ハチは名前がついているだけで、いま世界で約15万種って言われています。15万種ってどれくらい多いかっていうと、哺乳類だと世界で約6500〜6600種くらいと言われているので、ハチだけでも圧倒的に哺乳類の全種数を上回るほどです」
●すごい! 日本だと何種類ぐらいのハチがいるんですか?
「日本で、大体6500種以上が知られていますね」
●そんなにいるんですね!
「はい、ただ多分みなさんが知っているのは、ミツバチとかアシナガバチとか
スズメバチとか、そのあたりの名前しかあまり知られてないっていうところがあったりします」
●ミツバチは花粉を運んで、いろんな果実とか野菜などを作ってくれているっていう、人間にとってありがたい存在かなって思うんですけれども、ミツバチ自体の種類は多いほうなんですか?
「いや、これがですね〜、ミツバチっていうのは、ミツバチ族っていうグループがあるんですけど、ミツバチ族は世界で9種しか知られてないですね。しかも日本でいうと2種なんですね。ニホンミツバチとセイヨウミツバチ。もともと日本にいたミツバチはニホンミツバチのたった1種しかいないくらい、実はミツバチってハチ界でいうと、ものすごく珍しい存在と言えるかもしれない昆虫なんですよね」
香りを運ぶハチ、寄生するバチ
※今回の特別展で「香りを運ぶ」ハチのパネルがありました。この「香りを運ぶ」ハチとは、どんなハチなんですか?

「その香り運ぶハチって、中南米だけに生息するシタバチっていうハチなんですね。中南米のシタバチは、ベロが長いようなストロー状の長い口を持ったハチなんですけど、これのオスが、花の香りを集める習性を持っているんですね」
●オスだけなんですか?
「オスだけなんです。オスの後ろ足が太くなっていて、その後ろ足の中がスポンジ状になっているんですね。シタバチのオスは花を見つけると、その花の表面を前足で撫でて、口から出した分泌液と香りを混ぜて、香り成分をその液体の中に閉じ込めるんですね。それをスポンジ状になった後ろ足の中に、後ろ足に隙間が空いていて、そのスリットから分泌液を押し込んで、香りを足に溜め込むっていう習性を持っています」
●その香りがあることで、どうなるんですか?
「香りを集めるオスほど、メスに選ばれやすくなるのが知られていますね。だからメスへのアピールとして使われているっていうところです」
●そのために香りを運んでいるんですね! 特別展の会場でその香りを再現していますよね?
「そうですね。シタバチを採集したり調査する時に、香り成分をぶら下げて、ハチが寄ってくるのを捕まえるんですけど、捕まえる時に使う香り成分を実際に(会場に)置いています。2種類置いていまして、ちょっといい香りとちょっと嫌な感じの香りと、ふたつ置いてあります」
※ほかにも寄生するハチの展示がありました。ほかの虫の幼虫に寄生するハチがいるんですよね?
「そうですね。さっきハチが世界で15万種いるって言ったんですけど、実はその半分以上は“寄生バチ”って言われていて、ハチの中ではいちばんメジャーなグループが寄生バチなんですね。特にいちばん種類が多いのがヒメバチって呼ばれているグループで、ヒメバチって名前がついているだけで約2万5000種、全生物の中でもそのグループの種数が多いものとして知られています。
ヒメバチって英語で『ダーウィン・ワスプ』って呼ばれていて、ダーウィンは進化論で有名なチャールズ・ダーウィンなんですけど、ダーウィンが手紙の中で『神がこんな残酷な生物を作るはずがない!』っていうメモを残していて、だから進化論を考えるに至ったみたいなことが言われています。それに由来して『ダーウィン・ワスプ』って呼ばれているのが、このヒメバチっていうグループがいる寄生バチの仲間ですね」
●ヒメバチは、どんなハチなんですか?
「ヒメバチは今回実は、巨大模型として作ったエゾオナガバチがあるんですけど、それもヒメバチの仲間なんですね。ほかの昆虫に卵を産みつけて、寄生した相手を幼虫が食べて育って、体を突き破って出てくるっていう習性を持ったハチです」

●なんかすごいですよね・・・エイリアンみたいな・・・寄生するってすごい!
「そうですね。本当にリアル・エイリアンみたいですね」
●ヒメバチって可愛らしい名前なのにすごいですね(笑)
「このヒメバチにすごく近い仲間で、コマユバチっていう寄生バチがいるんですけど、その仲間だと『寄主操作』って言われていて、寄生した相手を操るっていう現象も知られています。実際展示ではコマユバチがシャクトリムシ、シャクガっていう蛾の幼虫なんですけど、寄生したシャクトリムシを操っている様子の動画も見ていただくことができるようになっています」
刺すのはメスだけ?
※ハチは「刺す」昆虫のイメージもありますよね。刺すのはメスだけなんですよね?
「はい、そうですね。おもに毒針を使って刺すのは、メスだけっていうことなんですけど、これって実はいろいろ話があるんです。まず、なぜメスが刺すのかっていうと、メスの毒針はもともと産卵管って呼ばれる、卵を産みつけるための針だったんですね。なので、それを進化させたため、毒針を持っているのはメスだけだからメスしか刺さない、オスは刺さないっていうのが一般的なハチとして知られているところなんですけど・・・。
もう一歩先に行くと、実は刺すオスも見つかっていて、それは毒針で刺すのではなくて、交尾器って呼ばれる、メスと交尾するための部分が針状に変化していて、それで刺すっていうものも見つかっていたりします。
一方でメスであっても毒針を退化させて刺さないハチもいて、それはハリナシバチっていうハチがいるんですけど、そんなものもいるとか・・・例外だらけでひと言で語れないっていう、この面白さを伝えたいっていうのが、今回の『昆虫 MANIAC』のポイントでもあるんですね」
●へぇ~面白いですね~。なんかハチとハエって似ていますけど、近い種だったりするんですか?
「ハチとハエはどちらも『完全変態昆虫』って呼ばれる、さなぎを経て成虫になるタイプの昆虫って意味では近くて、あと、 どちらも翅(はね)が薄い膜状で透明になっているっていうところは共通しているんですけど、ハチとハエ自体は昆虫の進化の流れでいうと、少し離れたところにはいるものになります」
昆虫は多様で面白い
●今回の特別展「昆虫 MANIAC」では、子供たちにも大人気のカブトムシなどの甲虫から、とても美しいチョウだったり、あとパンダのようなアリ、バイオリンのようなカマキリなど、本当にマニアックな標本が展示されていて、昆虫好きにはたまらない特別展だと思うんですけれども、昆虫の世界って本当に多様性に富んでいるんですね?

「そうですね。名前が付いているだけで100万種で、付いてないものも含めると約500万種くらいいるって言われていて、だからもう本当に形にしろ生態にしろ、いろんな多様性が見られるっていうのが面白さですね」
●世界にはもう昆虫だらけってことですよね! 特別展の総合監修を担当された井手さんから今回の特別展のここを見てほしいとか、こんなことを感じてほしいなど、何かありましたらぜひ教えてください。
「会場にはたくさん標本があるんですけれど、標本と一緒に解説パネルがいっぱい用意されているんですよね。全部読まなくてもいいとは思うんですけれど、その解説パネルを読んで、その標本を見ると、なんでこの標本が展示されているんだろうっていうのが見えてきて、それ読んだ上でまた昆虫を見ると、すごく面白く感じていただけると思います。

研究としては標本を基本的に扱っているんですけど、やっぱり生き物なので、自然の中で生きている姿を見てもらうのがいちばんだと思うんですよね。だから博物館でまずは、逆に標本じゃないと細かいところは見られないので、そういうところでいろんなことを知った上で、改めて身近な環境でたくさんの種類に出会うことができる、多様性の面白さを感じられるのが昆虫だと思うので、そういったものになればいいなと思います」
INFORMATION
井手さん始め、5人の研究者がそれぞれの得意分野を存分に発揮して、マニアックに攻めた展示をぜひご覧ください。「トンボ」「ハチ」「チョウ」「クモ」そして「カブトムシ」の5つの扉があなたを待っていますよ。標本、写真パネル、動画、そして精巧に作られた巨大模型にもご注目ください。
音声ガイドナビゲーターは声優の江口拓也さん、公式サポーターはアンガールズで、山根さんが発見した新種の昆虫標本も展示されていますよ。特別展のオリジナルグッズにも注目です。
現在開催中の特別展「昆虫 MANIAC」は10月14日まで。尚、9月9日(月)は休館日となっています。開館時間は午前9時から午後5時まで。入場料は一般と大学生2,100円、小・中・高校生は600円。9月中は、ほかにも休館日がありますので、ご注意ください。詳しくは、オフィシャルサイトをご覧ください。
◎昆虫 MANIAC:https://www.konchuten.jp
井手竜也さんの研究サイトも見てくださいね。
◎https://www.kahaku.go.jp/research/researcher/researcher.php?d=ide
2024/9/8 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. MANIAC / MICHAEL SEMBELLO
M2. MANIAC / CONAN GRAY
M3. HONEY / MARIAH CAREY
M4. HONEY AND THE BEE / OWL CITY
M5. 歌を贈ろう / 竹内まりや
M6. HONEY BEE / BENNY SINGS
M7. WONDERFUL WORLD / SAM COOKE
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2024/9/1 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、バックパッカーそして紀行家の「シェルパ斉藤」さんです。
斉藤さんは1961年、長野県生まれ。本名は「斉藤政喜」。学生時代に中国の大河、揚子江をゴムボートで下ったことがきっかけで、フリーランスの物書きになり、1990年に作家デビュー。
現在もアウトドア雑誌「BE-PAL」の人気ライターとして「シェルパ斉藤の旅の自由型」という連載を30数年続けています。また、1995年に八ヶ岳山麓に移住、自分で建てたログハウスで自然暮らしを送っていらっしゃいます。
今回は、斉藤さんらしい旅のお話として、まずは、新しくなったお札をモチーフにしたユニークな旅、そして新しい本『シェルパ斉藤の山小屋24時間滞在記』をもとに、温泉や食事が抜群の、個性的な山小屋のお話などうかがいます。
☆写真:シェルパ斉藤、イラスト:神田めぐみ、協力:山と渓谷社

1万円札の旅!?
※今回、斉藤さんにお話をうかがったのは先月で、実は前日まで旅をされていて、ご自宅に戻る前だったんです。そんな斉藤さんが、東京に立ち寄った際に時間をとっていただき、まずは最新のユニークな旅のお話をうかがいました。どんな旅だったのか、今回はほんのさわりだけ、ご紹介します。
「行っていたのは九州なんですよね、大分県の中津ってところにいて・・・。で、きのういたのが埼玉県の深谷。まだ家に帰ってないから、旅の途中なんですよ」
●きょうも大きな荷物を持っていますよね。
「ええ、それで中津、深谷でピーンときた人は、相当アンテナを張り巡らせているかただと思うんですけど、最近の日本での大きな出来事でいうと、オリンピックは日本の話じゃないので、その前に1万円札が変わったんですよね」
●新紙幣に!
「はい、それで僕、たまたま3月に九州を旅して、その時は野田知佑さんが亡くなって、追悼する自転車ツーリングに出かけていたんですよ。大阪から自転車で走って、大分県の国東半島に入って、そこからずっと走ったら中津を通ったんですね。で、中津を通ったら、“1万円札、さようなら”みたいな感じで、福沢諭吉の生誕地なんですよ。駅にいろいろとちょっとしたメモリーっぽいものがあったりして・・・。
それを見たあとに、5月かな、今度は旧中山道を旅していて、下諏訪のほうから江戸日本橋を目指して、いろいろ宿場町に寄って深谷に着いたら、新1万円札で、渋沢栄一でガッと盛り上がっているから、それでピーンときて、このふたつを結びつけてみたら面白いなと。だから福澤諭吉の生誕地から渋沢栄一の生誕地まで旅をしようと。で、1万円札の旅なので1万円だけでやってみようと思ったんですよ」
●1万円で、ですか!?
「うん、だから予算1万円の旅。普通はヒッチハイクとか使わない限りできないんですよ、物理的に」
●大分から埼玉ですよね。
「そうなんですよ。いろいろ交通機関を調べても(1万円では)できないんだけど、今この時期、7月から9月10日まで『青春18きっぷ』っていうのが使えるんですよね。あれは12,050円で5枚つづりで、1日あたり乗り放題、だから1枚あたり2,500円くらいになるんですよね。
で、これを使えば、2日で行けたとしたら5,000円分くらいのはずだから、残り5,000円だと多分食事を1日500円を3回としても1,500円、2日間で3,000円で、2,000円くらいだったらネットカフェか、あとベンチに泊まればなんとかなるんじゃないかっていうことで始めたのが・・・ってか、きのう終わったんですけどね」
(編集部注:1万円札リレー旅の結末、気になりますよね〜。果たして、費用が1万円以内で収まったのか・・・「青春18きっぷ」だけで1万円を越えちゃってますからね〜。どうしたんでしょうね〜。
ほかにも、列車の移動はうまくいったのか、福澤諭吉、渋沢栄一、それぞれの生誕地で何を感じたのかなど、旅の顛末は、9月9日発売の「BE-PAL」10月号の連載記事「シェルパ斉藤の 旅の自由型」で明らかになります。ぜひチェックしてください)
山小屋の間取りをイラストに
※ではここからは、斉藤さんの新しい本『シェルパ斉藤の山小屋24時間滞在記』をもとにお話をうかがっていきます。この本は山岳雑誌「PEAKS」に連載していた記事を、大幅に加筆修正してまとめた本ということで、まずは、連載が始まったいきさつについてお話しいただきました。

「僕は実は山小屋、あんまり詳しくなかったんですよ。いつもテントを張ってどうこうしているっていうのがあって・・・。それと、なんか山小屋は泊まりにくかったんですよね、なんとなく気分的に。
まずひとつはお金がかかるっていうのがあるし、僕は63歳になったんですけど、若い頃って山小屋はなんか嫌だったんですよ、怖くて親父さんが・・・。すごく怒られるみたいな、”山はそんなもんじゃねえ!”みたいなイメージがあって、頑固親父のイメージがあったんですよね。
それもあって、なかなか山小屋を実は避けていて、これが50歳過ぎてから、とりあえず山小屋に対する抵抗感がなくなってきてというか、やっぱり代も様変わりしていますし、それもあるけど・・・。
僕が住んでいるのは八ヶ岳のふもとなんですよ。ふもとに住んでいるのに地元の山小屋は実は泊まったことがあんまりないなって気づいて、それで『PEAKS』って山雑誌が、なんか連載してくれないかって頼んできて、提案したのが山小屋をやりたい、泊まったことないから。
それでまず八ヶ岳の山小屋を片っ端から泊まってみたいと・・・その時に僕がひとつ提案したのが、この本の売りにもなっている間取りですよね。山小屋ってその地形に合わせて作っているし、自然環境に合わせて作っているので、例えば平地の建売住宅のような同じ建物って絶対作れないんですよ、限られた条件の中で工夫して作っているもんですから。で、さらに建て増し建て増しとかってやっていくと、すごく複雑になっているんですよね。
で、一軒として同じ建物がないこの山小屋の間取りとかをイラストで描いたら面白いんじゃないですかっていう提案をして・・・。で、普通、山小屋ってだいたいご主人とかそこの歴史とかをフィーチャーしていくんだけど、やっぱり建物だけでも面白いから、僕は当然、人物の話を書いたりいろいろしていくんだけど、建物が一発でわかるイラストを載っけたら面白いんじゃないかと・・・。僕が自分で家を作っているってこともあって、ちょっとした建築のことなら少しわかるので・・・。で、編集長に提案して、間取りを描けるイラストレーターを誰か紹介してって頼んで、紹介してもらったのが神田めぐみさん。
ただ、彼女は当時25〜26歳だったかな。まだ駆け出しのイラストレーターだったんですけど、(神田さんは)山に登れるっていうのは聞いていたんですよ。で、その時、僕が“間取りを描けますか?”って聞いたら、”はい、描けます!”って力強く言ってくれたんですけど、あとで聞いたらほとんど描いたことがなかった(笑)」
●そうだったんですね(笑)
「駆け出しだったからやっぱり連載を持てるっていうのに喜んで、それが始まりだったけど、本当に初っ端からかな、すごく上手く描いてくれて、それからコンビでずっと一緒に(山小屋取材に)行くようになりましたね」
(編集部注:イラストレーター神田めぐみさんと山小屋の取材を行なうようになった斉藤さん、年齢的には二回りも違うということで、最初はいろいろ気を遣っていたようですが、神田さんが斉藤さんの話にのってくれるし、同じ視点で見ていることに気がつき、手応えを感じたそうです。また、神田さん自身も山旅を楽しんでいたそうですよ)
「滞在記」がポイント
※取材する山小屋は、どんな基準で選んだんですか?
「この本は全部で4章に別れているんですけど、最初は八ヶ岳編、次は奥秩父編、これは僕の家から近いからっていうか、僕の地元だからっていうことなんですけど(笑)、最初はエリアごとに区切って、奥秩父が終わった段階で全国に足を伸ばそうと。ですから八ヶ岳編、奥秩父編の時には一応全部(山小屋を)選ぶことなしに片っ端から行くっていうのがあったんですね。
で、全国編になってからどこでも行きたいと思ったところに行こうと。その時の基準は・・・基準というか、できない山小屋があるんですよ。それはでかい山小屋、大きな山小屋。これはやっぱりイラストを描くっていう売りなので、大きすぎると描ききれない、ページに収まりきれない。それと僕がいろんな人と話をするのにスタッフが多いとやっぱり無理なんですよね。
僕は普通の宿泊記ではなくて(タイトルを)滞在記にしているのは、そのスタッフのかたと仲よくなる。いろいろと話を聞いたりとか、それにはやっぱり顔と名前を覚えられなければいけないっていうのが僕の中であって、10人くらいまでならまだいいんですけど、大きな山小屋って30人40人、全員と話ができないって状況になると、ちょっとそれは本当にただ宿の紹介だけになっちゃうから・・・。
だからこの滞在記っていうタイトルも、24時間滞在記ってなっているんですけど、要は宿泊じゃなくて滞在したからこそ仲よくなれたりとか、滞在しているからこそ、普段だと聞けないような話も聞けたりとか、ということができたっていうのもあるので、そういう意味では話ができる山小屋というのを前もって、僕も神田さんも山業界にいろいろと知り合いがいるから、あそこはいいよとかっていう情報が回ってくるから、それで選んでましたね」
飲ませ上手な花ちゃんと、しのぶさん
※この本には、唯一無二の個性的な山小屋が145軒、立体的なイラストとともに紹介されているんですが、山小屋のご主人や小屋番、そしてスタッフがこれまた個性的なんです。その中から、南アルプスの「光岳(てかりだけ)小屋」の管理人になった花ちゃんのお話をしていただきました。

「そもそも知り合ったのは、この山小屋の取材で知り合ったんですけど、その時は南アルプスの『鳳凰(ほうおう)小屋』ってところにいたんですよ。そこで知り合って、当時はまだ(彼女は)26歳くらいだったのかな。
で、知り合ってからいろいろと、うちにも遊びに来るようになって・・・そう! 彼女と僕、結構、山に行ったり、いろいろしているんですよね。一緒に東北の山へ、たまたま僕が避難小屋で薪を使ったから、“薪の恩返しに行こう! 付き合う?”って言ったら、わざわざ薪を運んでくれて、東北の山に行ったりとか・・・」
●花ちゃんは、山小屋を転々として管理人さんになったんですよね?
「そうなんですよ。最初は『鳳凰小屋』にいて、それから順番もバラバラなんだけれども、『広河原(ひろがわら)山荘』とか『こもれび山荘』とか、と言っても多分みんなピンと来ないと思いますけれども、『金峰山(きんぷさん)小屋」とか、いろんな小屋を転々と渡り歩いて・・・。
やっぱり山小屋をやっているかたって、自分の山小屋をやってみたいっていう憧れのようなものがあって、要するに雇われているんだけど、管理人としてね。でもやっぱり管理人さんって自分のカラーを出せるわけです、自分の山小屋っていうのは・・・。

その募集があったのが静岡県の『光岳』で、みんな『ひかりだけ』って呼んだりとかするんだけど、すごくマイナーな山なんですよ。一応、深田久弥の『日本百名山』には入っているんですが、みんなここには行きたくないっていうくらいに、“絶望のてかり”って言われていて、それは字で書くと“絶望の光”っていうふうになるんだけど・・・。
普通、山って登ると“やった~、こんな景色が開けていて”っていうのがあるんだけれど、光岳は登っても大して絶景でもないし(笑)、だから“絶望のてかり”って呼ばれているんですけどね。
行くのは遠いんですよ。そこで(花ちゃんが)管理人をやるっていうのがちょうどコロナ禍の時だったのかな、募集があって・・・。だけどコロナ禍になったもんだから、山小屋を開けなくて、準備をコツコツと進めて、ようやく2年前に自分の山小屋として開いたんですよ」
●女性の管理人さんって珍しいですよね?
「最近ちょっと増えているんですよ。光岳の花ちゃんもそうですし、それから南アルプスに『馬の背ヒュッテ』ってあって、そこをやっている斎藤しのぶさんってかたも管理人としてやっているんですね。で、しのぶさんも花ちゃんもどっちも酒を飲ますのがやたらうまい!」
●そうなんですね(笑)
「花ちゃんも自分でいろいろ酒を置いてあるし、特にしのぶさんは本当にお酒が大好き! 自分も好きだし、飲ませ上手なんで、いろんな銘柄を置いてあって、好きに飲めるっていうようなバータイムが始まるんですよ。
特にしのぶさんのところは日本酒なんですけど、飲ませるのがうまいんですよ! 僕は“スナックしのぶ”って言っているんですけど、山の中で気が付けばガンガン飲ませる! でも心地よい飲み方なので・・・ですから、女性ならではの細かいもてなしがあったり。
花ちゃんも(山小屋に)着いたらちゃんと、静岡だから静岡茶のサービスがちょっとあったりとか、そういうきめ細かいサービスがあるところって、ありますよね。なんかそういう意味では(山小屋が)昔のイメージとは全然変わってきて、いいですね」
温泉、混浴、星明かり
※続いては、温泉のある山小屋の、ドキッとして神秘的なエピソードです。
●北アルプスの「白馬鑓(はくばやり)温泉」は男女混浴なんですね?
「だいたい混浴が多いですよね。ほとんど女性は水着を着ているし、男はちょっとね、別にっていう感じで、裸で入ったりしていて、別に決まりじゃないんですよ。女性が水着を着なきゃいけないとかってわけじゃなくて、でも着なきゃ入れないよねっていう・・・。

ただ白馬鑓温泉に行った時は、営業がもうすぐ終わりだったんですよね。白馬鑓温泉って、ほかにも『岳沢(だけさわ)小屋』とか『阿曽原(あそはら)温泉』がそうなんですけど、山小屋ってすごく雪崩が多いところもあるんです。そういうところだと建物も毎回シーズンが終わると撤収するんですよ。撤収してまたシーズンが始まると組み立てる、ですからテントみたいなもんで、それをずっと繰り返すんですね。
それで白馬鑓温泉もそういうふうにシーズン終了に近かったので、全部撤収してっていうので、スタッフが来ていたんですよね。夜、飲んでいるうちにスタッフたちと“お風呂に入ろうよ!”って話になって、それまでは女性もみんな水着とかで入っていたのに、その時はみんなして、すっぽんぽんで!」
●あらっ!!
「僕は男だから当然だけど、女性もすごく気持ち良さそうに(お風呂に)入るんですよね。その時はたまたま、本当に新月で、月明かりもなくて星明かりしかない、だから電気さえつけなければ、本当に真っ暗けなんですよ」
●なるほど~。
「本当にすっ裸で解放感、しかも空を見上げると満天の星だし、その満天の星がたまに湯船に映ったりもして、宇宙を素っ裸でみんなして、仲間になりながらバーっと見上げているっていう感覚は・・・あの感覚はすごくよかったですね」
(編集部注:ほかに苗場にある「赤湯(あかゆ)温泉山口館」は歴史があり、温泉としても旅館としてもよくできているとおっしゃっていました。気なるかたはぜひ、本を見てくださいね)
本格的なフランス料理!? 一流の料亭の味!?
※霧ヶ峰の「鷲ヶ峰(わしがみね)ひゅって」はフランス料理が食べられることで有名なんですよね?

「あそこはちょっと特別ですね。だから山小屋っていう概念じゃなくて、でもペンションでもないし、民宿でもないし、ホテルでもないしっていう独特な世界観がありますね。
ご主人が東京の超一流のシェフから直伝でいろいろ教えてもらって、3年ぐらい修行したとか言ったかな・・・その料理を提供するんですけど、雰囲気もいいから美味しいんですよ。オードブルから始まって本格的なフランス料理が次から次と出てくる!」
●山小屋でフランス料理が食べられちゃうって、すごいですよね~!
「うん、あそこは料理だけでも本当に行く価値があるかなって思いますね。
あとは、おすすめで言うと 『山楽荘(さんらくそう)』って御岳山にあるんですけど、ここはちょっとびっくりするくらいの料理、料亭のように次から次へといろんなものが溢れんばかりに出てきて、しかも一流の料理人のかたが作っているんですけど、そこ自体がもう本当に神の領域なので・・・。
次から次とちっちゃい料理がたくさん出てくる、だから料亭気分ですよね。それを山小屋と言っていいのかっていう感じにはなってしまいますが、あそこもよかったですね~、そういう意味では」
●旅の疲れを取るための山小屋っていうよりは、わざわざ行きたくなる山小屋がいっぱいありますね。
「そうですよね。山小屋は料理もそうですし、それからやっぱりあと場所ですよね。景色はやっぱり行かなければ、見えないものはかなりあるので・・・。
なんでこんなに山小屋がいいのかなって考える時に、日帰りだと多分見えない景色があって、それは山で一日が暮れる、暗くなるまでそこにいられるっていうのは、しかもご飯がちゃんと出てくる、そのあとはそこに暮らしてる仲間たちとお話ができる、夜になると星が出てきて夜明けを迎えられるっていうのは、やっぱりこれ、山小屋の魅力だなっていうのを、山小屋を全然知らなかった人間が言うのはなんですが、それは感じますよね」

(編集部注:ほかにお料理が素晴らしい山小屋として三重の御在所岳にある「日向小屋(ひなたごや)」をあげてくださいました。海の幸、山の幸がテーブルに載らないほど出てきて、どれも美味しい、それでいて、宿泊費が一泊2食付きでなんと4,000円! ご主人の人柄もよく、斉藤さんいわく、山小屋の概念を超越し、知り合いのうちに遊びに来たような感覚になったそうですよ)
映画で言うなら予告編!?
※改めてなんですが、山小屋の魅力とはどんなところでしょう?
「山小屋って、山頂に登るために泊まる施設なんですよね。それから帰りが遅くなった場合とか、山に登るための補助施設みたいな感じなんですけど、僕はそこを旅の宿として、究極の旅の宿というふうに僕は思っているんですよ。旅ってやっぱり非日常を味わうために行くっていう意味では、あんな非日常の宿はないなと・・・。
まず行くのも、大体のところは車で行けないわけだし、歩いて汗をかかないといけないし、そこには電気がなかったり水もなかったり、限られた中で一生懸命みんな工夫しているんですよね。だから人間の生きる知恵も見える、その中で一生懸命もてなしてくれるっていう意味では、非日常を味わえる究極の宿かな、それが山小屋じゃないかなって僕は思っています」
●最後にこの新しい本『シェルパ斉藤の山小屋24時間滞在記』をどんなふうに活用してくれたら、著者としては嬉しいですか?
「正直ね、これ(「PEAKS」に)連載の時は4ページで、結構大きく割いていたんですよ。で、いろんな写真も載っけていたりとか、僕も文章をしっかり載っけていたんですけど、この本は各山小屋を2ページずつで145軒だから、300ページ以上の本になって、文章をかなり削っちゃったんですよね。
ですから、ワンショート・ストーリー、この山小屋はこういう話だってことで、ショート・ストーリーをずっと綴ったつもりなんですね。神田さんのイラストはそのまま載っけているんだけど、僕の文章に限って言うならば、大幅にカットせざるを得なかった。だから最初は、文章を書く人間としてはそれはすごく辛かったし、いいのかなこれでと思ったんだけど、ある時書いているうちに、これは映画で言うなら、予告編の集まりなんだなっていうふうに思って・・・。
やっぱり面白そうな映画って予告編を見たら本編を見たい!と思って、映画館に行くように、だからこの本を読んで、この山はこういうふうになっていて、こんな感じなのかって思ったら、この山小屋に行ってもらいたいな。だから山小屋へ行くための導きになったらいいな、きっかけになってもらいたいなっていう、そういう意味ではパラパラ見ると大体わかるし・・・。
それから詳しいデータは一切載っけていません! っていうのは、ホームページとか見れば大体わかるから。だから誰もがわかることではなくて、僕が感じたこと、滞在してわかったことを書いているんですね。だけど多分行けば、全然違う体験になるだろうから、それを味わうためにあくまでもインビテーションっていうか、きっかけとしてこれを使ってもらえればなと思います」
(編集部注:今回の本は“24時間滞在記”ということで長く滞在することで、山小屋のスタッフと過ごす時間も増え、お互いに心を開いて話すことができたそうです。なので、山小屋をあとにするとき、スタッフがいつまでも手を振って見送ってくれたそうです。斉藤さんはとてもじーんとしたとおっしゃっていましたよ)
☆この他のシェルパ斉藤さんのトークもご覧ください。
INFORMATION
斉藤さんの新しい本をぜひチェックしてください。全国の山小屋から、実際に訪れた145軒を掲載。オールカラーで、ひとつの山小屋を見開き2ページで紹介。斉藤さんの、エピソードを交えた簡潔な文章を読み、神田めぐみさんの、間取りを立体的に描いたイラストを見る、それだけで山小屋に行きたくなると思いますよ。
山と渓谷社から絶賛発売中です。詳しくは、出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎山と渓谷社:https://www.yamakei.co.jp/products/2824330810.html
本の発売を記念して、イラストの原画展がモンベルストア渋谷店5階のサロンで開催されます。期間は9月13日から20日まで。初日の13日には、夜7時から斉藤さんのトークショー&サイン会が予定されています。詳しくはモンベルのサイトをご覧ください。
◎モンベル:https://www.montbell.jp
斉藤さんのオフィシャルサイトも見てくださいね。
2024/9/1 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. BORN TO RUN / BRUCE SPRINGSTEEN
M2. MONEY, MONEY, MONEY / ABBA
M3. YOU’RE MY BEST FRIEND / QUEEN
M4. LUCKY FELLOW / LEROY HUTSON
M5. MR.PERFECTLY FINE / TAYLOR SWIFT
M6. CLIMB EV’RY MOUNTAIN / PEGGY WOOD
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2024/8/25 UP!
◎中村姿乃(アロマセラピスト)
『私たちの心や体を元気に! 「植物療法」の可能性』(2024.8.25)
◎一日一種(イラストレーター/「いきものデザイン研究所」主宰)
『知っておきたい! 自然や生き物に関する法律やマナー』(2024.8.18)
◎鎌田悠介(自転車旅のエキスパート)
『生き方はいろいろ〜自転車一人旅 アイスランド編』(2024.8.11)
◎木村啓嗣(ヨットで単独 無寄港 無補給による世界一周の日本人最年少記録を樹立)
『木村啓嗣の「231日52,000キロの大冒険!」〜ヨットによる単独 無寄港 無補給 世界一周!』(2024.8.4)
2024/8/25 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、アロマセラピストの「中村姿乃(なかむら・しの)」さんです。
中村さんは子供の頃から植物好き。自宅の近くに大きな公園があり、お母さんやおばあちゃんとよく出かけ、植物の香りを嗅いだり、落ち葉を拾ったり、また植物図鑑も好きな、そんな子供だったそうです。
大学卒業後は、一般企業に就職。そんな中、30歳を過ぎた頃に、蚊に刺されると、熱が出たりするようになり、蚊の唾液によるアレルギーが判明。常に虫除けスプレーを持ち歩く生活になってしまったそうです。そんな頃、精油を使って自分で虫除けスプレーを作れることに気づき、会社勤めをしながら、週末、アロマの学校に通うようになったそうです。そしてアロマの素晴らしさを人に伝えたいと思うようになり、徐々にアロマにシフトしていったそうですよ。
そしてフランス・リヨンの専門学校でアロマテラピーなどの植物療法を学び、現在は都内でアロマテラピースクール&サロンを運営していらっしゃいます。また、先頃、新しい本『歴史や物語から楽しむ あたらしい植物療法の教科書』を出されました。
きょうはそんな中村さんに、植物療法の基礎知識のほか、香りを権力の象徴として使ったクレオパトラの逸話、そして音楽や絵本に登場するハーブのお話などうかがいます。
☆写真協力:関 純一

学びは「リヨン植物療法専門学校」
※専門の知識はフランスのリヨン植物療法専門学校というところで学んだそうですね?
「そうですね。最初は会社員時代は東京の学校でアロマの勉強して、日本のアロマの資格はいくつか取ったんですね。
会社員時代に何をしていたかというと結構面白い仕事をしていて、ジュエリーの仕事だったんですけれども、そのジュエリーのもとになる原石を売っている人たちに、世界中に行って取材をするっていうような仕事をしていたんです。
なので、アロマテラピーを始めた時も、エッセンシャルオイルのボトルの中に入る前の、植物を育てている人に取材してみたいって思うようになって、アロマテラピー発祥の地がフランスだったので、2014年ぐらいから定期的にフランスに行って農場とか精油メーカーを取材するようになったんですね。
で、そこのかたがたにお会いしたりすると、やっぱりフランスの植物学校ってすごくいいよとか楽しいよっていう話をうかがって、リヨンの植物学校に行き着いて勉強したいなっていうふうになりました」
●フランスにいろんな学校がある中で、そのリヨン植物療法専門学校を選んだのは何か理由があったんですか?
「そこはアロマテラピーだけじゃなくって、ハーブとかフラワーエッセンスとか、ペットのために植物を使うこととか、総合的に植物療法を教えている学校で、かなり規模も大きかったのと、私がお世話になっている農場のかたがたの何人かが、そこの学校の卒業生だったりとか講師をされていたりしたこともあったので、ここだったらいいかもっていうふうに思いました」
(編集部注:リヨンの専門学校は、実はコロナのパンデミックで、リアルな授業ができなくなり、それまでやっていなかったオンライン授業をスタート。中村さんはアロマテラピーの学科を1年間受講。授業はもちろんフランス語で、辞書を片手に格闘する日々が続いたそうです。それでも、日本で勉強するアロマテラピーの内容とは異なり、すごく面白かったそうですよ)

※どんな違いがあったんですか?
「例えば日本だと、『腕の痛みにおすすめの精油は何ですか? 理由とともに書きなさい』みたいな、そういう問題が多いと思うんですけど、なんかフランスだからか、すごく物語性があって、『62歳のモーリスさんは絵画をやっていて手を痛めてしまいました。彼はこの秋には個展を開くので、また絵画を再開したいと思っているんですが、お医者様に行ってもお薬では治らず困っています。あなただったらどんな精油をどんなふうに使うように、彼に総合的にアドバイスしますか』とかそんな感じで(笑)、情景が浮かぶようなレッスンとか・・・。
あとは植物について書かれたポエムが載っていたりとか、学習だけじゃなく感性も磨かれるようなレッスンで、それがすごく楽しかったですね」
●好きなことだからワクワクしそうですよね。
「本当にそうですね。フランス語つらいっていう思いもありつつ、やっぱり内容がわかると本当に楽しいっていうのがありました。終わったあとは本当に益々アロマとか植物のことが好きになれたかなっていう感じです」
まるごと一冊、植物療法

※ではここからは、中村さんの新しい本『歴史や物語から楽しむ あたらしい植物療法の教科書』をもとにお話をうかがっていきます。
この本は装丁が百科事典のように立派で、内容は植物療法の基礎知識から歴史、人物、物語など幅広く、読み応えがある、まさに教科書のような本なんです。中村さんはこの本を2年ほどかけて書き上げたそうですが、参考文献をたくさん読み込む日々でもあったそうですよ。
●こんな本にしたいというコンセプトのようなものはありましたか?
「この本のコンセプトというか、いちばんしたかったことがアロマテラピー、ハーブ療法、フラワーエッセンスとか、植物療法の中にもいくつかのジャンルがあるんですけれども、そのジャンルを敢えて分断しないで、横断的に見ていくっていうのがまずひとつのコンセプトだったんですね。
かつ、ハウトゥー本みたいな感じではなくて、植物療法全般の歴史とかそれに関わってきた人たちとか物語とか、背景の部分も楽しく読んでいけるっていうのがコンセプトでしたね。
私ももともとそういう本が欲しいなって思っていたところもあったので、それができるっていうのはすごく嬉しかったんですけど、結構プレッシャーもありました(笑)」
●勉強しながら作り上げていったっていう感じなんですね。
「そうですね。終わった今となっても本当にたくさんの学びがあったなっていうふうに思っています」
●すごく分厚くて難しそうな本かなって一見思ったんですけど、読み始めるとスラスラっと読めて楽しかったです!
「ありがとうございます! カラーで写真やイラストも入っているので・・・。4つの章に分かれているんですけれども、基本的にはどこから読んでいただいても大丈夫です。植物療法が初めてのかたは、パート1から読んでいただくといいかなと思うんですけれども、どこからでもお好きなところから読み進めて、ちょっとずつ読むっていうのでも全然大丈夫な本にはなっています」

植物療法の基礎知識
※では具体的に、本に載っていることをいくつかうかがっていきます。
まずは「植物療法の基礎知識」ということで、植物療法とは何か、教えていただけますか。
「植物療法って簡単に言うと、植物の力を使って、私たちがもともと持っている自然治癒力を高めて、病気の予防とか心や体のケアに使っていく。で、健康に導いていくっていうことなんですよね。
だから植物療法って聞くと、ちょっと難しく感じるかもしれないんですけれども、普通にお部屋の中でアロマ・ディフューザーで精油の香りを楽しむとか、ハーブティーを飲むとか、あとは森林に行って深呼吸するとか、植物を育ててすごく癒されるとか、そういうのも全部、植物療法のひとつになっていると思います」
●なぜ植物って癒す力があるんですか?
「細かく見ていくと、理由はちゃんとあるんですけど、植物って基本的には生まれてきた場所から自由に動くことができないので、そこで一生、生きていくために、長い歴史の中で、すごくたくさん進化をしてきているんですよね。
で、植物って常に有害なものから身を守る成分と、これからも地球上から絶えないようにするために、子孫を残す成分っていうのを作り続けているんですね。それが最近でも話題にはなっているんですけど、『フィトケミカル』っていうような成分もそれに含まれていて、それは植物の香りとか苦味とか色素とかを作っているような成分でもあるんですね。
なので、そういった成分に抗菌とか抗ウイルスとか抗真菌の作用があって、植物自身も守られるとともに、それを使った私たちも抗菌とか抗ウイルスの作用で感染症のケアができたりとか・・・。
あとは、そういう植物が作る成分って、紫外線をずっと植物は浴びているので抗酸化作用っていうのがあって、細胞が老化したり酸化したりするのを防ぐような成分が結構あるんですよね。そういうのを私たちが使うことで、ひいては老化の対策ができたりとか、そういったいろんな一面を植物は持っています」

●ひとくちに植物療法と言っても、本当にいろんな療法があるんですよね。
「そうですね。この本の中でもアロマテラピーだけじゃなくて、ハーブ療法とかフラワーエッセンス、森林療法 、園芸療法、ジェモセラピー、ホメオパシーなどなど、たくさんジャンルがあって、本のパート1では、それぞれの特徴もわかりやすく説明をさせていただいているので、ひとつかふたつは自分は知っているけど、ほかのはまだ聞いたことがないっていうかたも読んでいただけると、その違いがわかるかなと思います」
クレオパトラの香り!?
※中村さんの新しい本から、続いては、植物療法の歴史に少し触れたいと思います。本には紀元前3000年頃にはメソポタミアやエジプトで、すでに植物療法が用いられていたと書いてありましたが、どんなものが何に使われていたのでしょう?
「その頃はどちらかというと、もちろん治療的に使われていたこともあるかもしれないんですけれども、宗教とか儀礼的な舞台で植物の香りが利用されることが多かったみたいです。その頃の遺跡からはペースト状になった油に植物の香りがついた軟膏を入れていたような容器が、すごくたくさん出土しているんですよね。
なので、身分が高いかたが亡くなった時に一緒に棺の中にそういったものを納めたりとか、どちらかというと、暮らしの中で庶民が、っていうよりは、おそらく特別なかたがたが香りを重用していたのかなっていうような痕跡がみられるみたいです」
●歴史上の重要な人物も植物療法に関わっていたということで、例えば古代ギリシャの医者で、医学の父と言われているヒポクラテスは、植物療法の歴史においてどんな役割を果たしたんですか?
「ヒポクラテスが生きていた時代は、病気が神様の怒りに触れたりすることで、みんなに起こってしまうものっていうふうに信じられていたので、基本的に治療は神様の教えに従って神殿の中とかで行なわれていたらしいんですね。
で、ヒポクラテスはそういう呪術ありきの治療法に疑問を呈した人で、病気とか治療法は神様から与えられるものではなくて、理性に基づいた合理的で科学的な説明ができるはずなんだって考えて、彼は環境とか食事とか生活習慣とかが、人々の健康に大きな影響を与えるっていうふうに考えたようなんですね。
そんな中、彼は排泄を促すために下剤とか嘔吐剤とか利尿剤を薬草で作って、それぞれの人にアドバイスをしながら、それを渡したりとか、あとは生活習慣の中で薬草とか野菜とかオリーブオイル、ワイン、蜂蜜を積極的に食事の中に取り入れるといいよっていうようなアドバイスもしていたようなんですよね。
なので、今の私たちからすると生活習慣が健康を左右することになるっていうのは、もう当たり前って感じだと思うんですけれども、やっぱり当時のように長きに渡って病気と迷信がセットになっていた時代に、それを大きな声で発信していったっていうのは、すごく先進的な人だったのかなって思います」

※あのクレオパトラは、権力の象徴として香りを使っていたそうですね?
「彼女もすごく魅力的で頭が良くて、政治的手腕に長けたかただったようなんですけれども、彼女はとっても高価な香りのついた油とか香料をたっぷりと全身に塗ったりとかして、人々を魅了していたみたいなんですね。
特にバラとかジャスミンのお花がすごく好きだったみたいで、権力のある政治家とか軍人を晩餐会に招いた時には、くるぶしぐらいまでバラの花を敷き詰めて招待客を圧倒して、政治的な力を見せつけたっていうようなエピソードもあるみたいです」
●すごいですね〜! バラとかジャスミンのお花を浮かべたお風呂にも入っていたって、本に書かれていましたけれども・・・。
「本当に高貴なかたならではの、香りを使った処世術というか、すごいなと思いますね」
●華やかな香りがしたんでしょうね〜。
「香りがちょっと想像できるような、浮かんできますよね」
(編集部注:日本では、あの聖徳太子が医学や薬草の利用を広める重要な働きをしたそうですよ。興味のあるかたは、ぜひ中村さんの本を読んでくださいね)
ハーブは音楽や絵本にも登場!?
※この本では、植物と人の関わりが記された古典や文学、絵画や絵本、小説や映画、さらにはマンガやアニメなども紹介されていますが、実は音楽にも植物が登場するんですよね?
「そうですね。この本の中でもいくつか、音楽の中に紹介されている植物たちっていうのがあって、例えばサイモン&ガーファンクルの『スカボロー・フェア』っていう曲の中に、パセリとセージとローズマリーとタイムっていう4つの植物が出てくるんですけど、これが何を意味しているのかっていうのを考察してみたりとか・・・。
あとはエディット・ピアフの『バラ色の人生』とか、エド・シーランの『スーパーマーケット・フラワーズ』とか、いろいろな曲の中に出てくる植物と、それがいったい何を象徴しているのかなって、ちょっと考察してみたりしています」
●具体的な植物の名前を出すことで、歌の世界観がやっぱりググッと広がりますよね。
「そうですよね。植物って誰でもなにかしらの思い出があると思うんですよね。なので、植物の名前が出てくることで、自分の中の思い出スイッチみたいなのがちょっと刺激されて、きっとみなさん、心が動くところがあるんじゃないかなって思います」

●親近感にもつながりそうですね! 絵本でいうと「ピーターラビット」のシリーズにはいろんなハーブが出てきますよね。
「そうですね。ピーターラビットってすごく絵が可愛くて、みなさん多分、絵柄はご存知だと思うんですけど、結構、家庭環境が複雑なうさちゃんたちなんですね。
お母さんがひとりで4匹の子うさぎたちを育てていて、生計を立てるためにハーブをすごく使って、例えばハーブのお薬とかローズマリーのお茶とかを販売したりとか・・・。あとはうさぎタバコって言われるラベンダーを乾燥させたものを、みんなに分けたりとかして生計を立てているので、そもそもがハーブがベースになっている暮らしっていうのが描かれているんです。
そのピーターラビットのエピソードの中でも、ピーターがすごくいたずらっ子なので、畑に行ってどんどん野菜を勝手に食べちゃったりするんですけど、そこでピーターは自分で消化にいいハーブをちゃんと食べてケアをしたりとかしているんですよね。
なので、読んでいるとこれにこういう作用があるんだっていうのもわかるんですけど、すごく可愛らしくて、ハーブの情景も浮かんできて、とってもワクワクします」
スクール&サロン「野枝アロマ」
※中村さんが主宰されている都内・西荻窪になるアロマテラピースクール&サロン「野枝(のえ)アロマ」では、どんなレッスンをされているんですか?
「大きく分けると、フランス由来のアロマテラピーとか植物療法をお勉強していただけるレッスンと、あとは日本ならではのアロマテラピーを勉強することができるレッスンというのがあるんですね。
で、フランスの植物療法については、フランス由来のアロマテラピーで使う専用の成分とか、使い方をすごくわかりやすく深く勉強することができるNARD JAPANという協会の認定コースもやっています。あとは私自身がリヨンの植物学校で学んだ内容とか、農場とか精油メーカーを取材してきた内容を、スライドを見ながら楽しく勉強していただけるオリジナルのコースなんかもあります」

●一度だけ体験したいとか、そういうこともできるんですか?
「そうですね。体験レッスンもやっていて、そこでアロマテラピーの最初の一歩のお話をさせていただいたりとか、ルームコロンとか入浴剤とか美容オイルを楽しく作っていただいたりすることもできます。
あとはオンラインで説明会とかワークショップみたいなのをやることもあって、結構いろいろな地域から来ていただいたりもしているので、これからはもう少しオンデマンドの動画レッスンとかオンライン講座もちょっと充実させていきたいなと思っています」
●いいですね〜! フランスには今も定期的に行かれているんですか?
「はい、そうですね。1年に一回くらいは必ず行っています!」
●そうなんですね! で、精油とかアロマとかのメーカーだったり、ハーブの農場とかを周られているんですか?
「そうですね。必ず毎回訪れている農場とか精油メーカーもありますし、彼らに紹介してもらって、また新しい農場に行ったりすることもあります」

●近々行かれる予定はあるんですか?
「もうシーズンが一回終わってしまっているので、次に行くのはおそらく来年の5月6月ぐらいかなと思っていて、そこでは取材とともにリヨン植物療法専門学校で、私が日本のアロマテラピーについての授業もさせていただく予定です」
●そうなんですね、すごい! では最後にアロマテラピーを通して、どのようなことを伝えていきたいですか?
「とにかくアロマテラピーを始めとした植物療法は、私たちの心とか体を元気にしてくれる素晴らしい可能性を秘めているということと、やっぱり古代からずっと私たち人間に、一緒に寄り添っていてくれている植物のことを知ることは、とにかく楽しくて学び甲斐があることだっていうことですね。
なので、そういうことをみなさんにお伝えすることで、今まで何の気なしに見ていた植物に対して、ちょっと興味が湧いたりとか、自分とかご家族の健康に興味が湧いて、自分とか周りの大切なかたがたを植物で癒して元気になっていくきっかけになったら、すごく嬉しいなと思っています」

INFORMATION
中村さんの新しい本をぜひ読んでください。アロマテラピー、ハーブ療法、フラワーエッセンス、森林療法などの解説に加え、植物療法の歴史、人物、物語などなど読み応え、見応えがありますよ。フランスの農場などに行った取材レポートも写真入りで載っていますよ。おすすめです! 翔泳社から絶賛発売中です。詳しくは、出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。
中村さんが主宰されているアロマテラピースクール&サロン「野枝(のえ)アロマ」について詳しくは、ぜひオフィシャルサイトを見てくださいね。
◎野枝アロマ:https://noe-aroma.com
◎インスタグラム::https://www.instagram.com/noe_aroma/