2022/10/16 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、一般社団法人「森の演出家協会」の代表「土屋一昭(つちや・かずあき)」さんです。
土屋さんは1977年、東京都青梅市生まれ。2009年からネイチャーガイドとして活動、その後、森林セラピーガイドの資格を取得。そして2015年に森の演出家協会を設立、現在は青梅と奥多摩にある2軒の古民家を拠点に、森・人・食をつなぐ森の演出家として活動されています。
きょうは森林セラピーガイドの活動や、マッチング率抜群のアウトドア婚活イベントのお話などうかがいます。
☆写真協力:一般社団法人 森の演出家協会

東京最後の野生児!?
※土屋さんは「東京最後の野生児」と呼ばれていたそうですね。そう呼ばれるようになったのは、どうしてなんですか?
「僕が高校時代に、フジテレビの『晴れたらイイねッ!』っていう番組で、アナウンサーの益田由美さんが東京最後の野生児と名をつけてくださって、そこからですね、野生児として活動し始めたのは・・・」
●そもそもその番組には、どうして出演することになったんですか?
「その当時、高校の生物部に入っていまして、自分が野鳥と話ができたりとかしていて・・・たまたまテレビ局が来て、自分を出したいということで・・・」
●へぇ〜そうなんですね〜。東京都っていうと高層ビルのイメージすごく強いですけれども、東京の西のほうはそうではないんですね?
「そうですね。自然豊かで自分の住んでいる所は、普通にクマさんがいる場所なので、東京なのに」
●えっ! 青梅で、ですか?
「はい、青梅のちょっと山奥に行くと、今年は栗が豊作で、栗を採りに行っている時もなんか気配を感じて、近くにクマがいたりとかしますね」

●子供の頃の遊び場が地元の森や川だったんですね。
「そうですね。多摩川の、羽田からずっと上っている上流では食べられる、すごく美味しいお魚がいっぱいいます」
●子供の頃はどんな遊びをしていたんですか?
「遊びというか、狩りですね。天然のヤマメを素手で採るっていう、代々受け継がれているんですけど、二代続けてできますね」
●すごいですね。そういうのはお父様から教わるのですか?
「はい、そうです。父親から学んで」
●お父様からの教えで、今でも大切にしていることってありますか?
「やっぱり自然は危ないこともあれば、すごく楽しいこともあるっていうことですね。日々カラダで体験体感しているので、ちょっとでも雨が降ったりとかしたら、いちばん早く逃げるガイドですね。最初に自らカラダが(危険を)感じ取れる、そういうのを目的にずーっと五感で体験して体感していますね」
●確かに自然の中で遊ぶには危ないことも含めて、いろいろ知っておかないといけないことも多いと思うんですけれども、そういうことはすべてお父様から教わってきたんですか?
「はい、そうですね」
ガイドとしての危機察知能力

※先ほど森の中で、危険を感じ取れるとおっしゃっていましたが、具体的にはどうやって察知するんですか?
「例えば、僕は先ほど言ったように五感で体験体感しているので、いつも鼻が効いているんですね。ちょっと風が吹いてきてクマ臭がするとか、例えばこれはサルだなとか、あとイタチ臭、タヌキ臭、全部分かるんですね、ヘビも。
さっき逃げるって言ったのも、いちばん最初に自分が感じて、危ないぞっていうのをまずお客様に知らせたい・・・だけど、クマの場合は逃げちゃいけないんで、クマがいた時には違う対処をするんですけど、なるべくキャーキャー言わせないように、クマがいたと知らせながら、目を離さずに降りていくとか。
ガイドウォークの前にも安全対策として、リスクマネージメントをちゃんとお教えしてから行きますね」
●臭いで分かるものなんですね?
「はい、マーキングをしていて、クマが自分のところに寄ってくるなって臭いを出しているんですね。クマはどんな臭いってよく聞かれるんですけど、自分はよく動物園に行って、クマだったり色んな(動物の)臭いを嗅いできたんですね。わからなかったら動物園に行くのが早くて、クマ臭はそのクマの臭いがすごくわかるんですよ。イノシシも特徴的で、動物はみんな違う臭いがしますね」
●なるほど、それで感知するわけですね。
「はい、ヘビも危ないなって思った瞬間に一瞬で逃げないと、マムシとかってそのまま飛んできたりするので。
ガイドがなんで逃げているんだって言われるかもしれないですけど、いつも体験体感しているからこそ、自分がやられちゃったら、二次被害が起きてしまうかもしれないので、瞬間に自分がぱっと動作をすることによって、お客様に知らせる行動もしているんです」
●天気の急変とかはどうやって感じるんですか?
「それも、急に冷たい風になったりとか・・・あとは土の匂い、雨の匂いがわかってくるんですね。風が読めると、あと10分ぐらいで雨が降ってくるなとか、そういうのもわかってきますね」
●匂いで!?
「匂いと肌感覚で、風が来た時にちょっと冷たく感じたりとかですね。この頃、豪雨も多いので、小っちゃい落ち葉が流れてきた瞬間から、これは上流で(大雨が)降っているから離れましょうとか、そういう形でわかりますね」

鳥の鳴き真似、まるで本物!
※自然遊びの先生はお父さん、ということでしたが、お父さんから鳥の鳴き真似も習ったそうですね?
「そうですね。二代続けて小さい頃から鳥の鳴き声ができるように、歯笛(はぶえ)で・・・父親もちょっと歯に隙間があって、そこに息を吹き込んだりして鳴き真似をするんですね」
●レパートリーってどれぐらいあるんですか?
「だいたい10種類くらいの鳥を呼べますね」
●へぇ〜! 今(鳴き真似を)できたりしますか?
「やってみましょうか」
●やったぁー! お願いします。
「森に来たと思って聴いてみてください。何種類かやってみますね。[土屋さんの歯笛で鳴き真似♪] 聴こえましたか?」
●すごーい! 森ですね!
「森に来ましたか」
●森にいました!(笑)すごーい! 本当に鳥じゃないですか、土屋さん!
「そうですね。きのうもガイドウォークで鳥を呼んだら20羽ぐらいきて、みなさんびっくりしていましたね」
●ちなみに今やっていただいたのは、なんという鳥なんですか?
「シジュウカラっていう鳥と、あとはメジロですね」
●今は歯でやっていたんですよね。
「そうですね。歯の隙間で・・・」
●それで鳥を呼び寄せるわけですね。
「そうです。シジュウカラは何を言っているかがわかるようになってきて、それを研究しているかたもいますね。その鳴き声によって、逃げろーとか、ヘビが来たよーとか、求愛だったりとかですね」
●どうやって聴き分けるんですか?
「鳴き声のトーンがやっぱり違ったりするので・・・。さっきはメジロの高鳴っていうのをやっていて、これは求愛だったんですけど、”チュウチュウチュウチュウ”と上にあがって、ずーっと鳴いていくんですね」
●では、求愛じゃないバージョンもあるっていうことですね。
「はい、鳥をずーっと1年中、見ていると、ウグイスは春から夏にオスしか鳴かなくて、”ホーホケキョ”と。でもそれ以外は地鳴きと言って、”チャッチャ”っていう鳴き声だったりとか、実は1年中、ウグイスはいるんです」
●面白いですね〜。鳴き真似をいろいろ研究するっていうのもいいですね〜。
「そうですね。地方によってウグイスも鳴き方が違ったり、方言があったりとかして面白いですね」
●えーっ! 鳥にも方言があるんですか?
「はい。やっぱりそこにいる鳥の、いちばんかっこいいオスの鳴き真似をするんですね。鳥はそこが面白いんですね」
●鳥の世界にもカリスマがいるんですね!
「そうですね。かっこいい鳴き声がするほど、メスが寄ってくるという・・・」
※もう少し野鳥の鳴き真似を聴きたいと思って、土屋さんにお願いしました。続いては、シジュウカラの求愛です。
[土屋さんの歯笛♪]
●あともうひとつ、なにかあります?
「いちばんみなさんがわかるウグイスですかね。ウグイスの場合は歯笛じゃなくて口笛ですけど、ちょっとやってみましょうか。[土屋さん歯笛♪]」

五感メソッド〜12段の石積み
※森林セラピーガイドとして、一般のかたを森にいざなう活動を続けていく中で「五感メソッド」という手法が確立していったと聞いています。どんなメソッドなのか、教えていただけますか。
「自分の五感メソッドは、やっぱり鳥と会話ができるっていうのが強みですね。見る体験、聴く体験の、五感のうちの二感を自分ができるというのが・・・。
あと調理師(免許)を持っているので、地産地消じゃなくて自産自消ですね。自分が作ったものとか、あとそこにあるものをみなさんで採って食べる・・・食活って言うんですけど、嫌いなものも、お子さんでも自分で採ったものは食べられるっていう食育活動・・・そういうのもやっていますね。
森活と言って、森の活動もしていながら、森の中でゴミ拾いだったりとか、あと森の中に来てもらって、座感って言うんですけど、座って深呼吸してもらったりとか・・・。
普通のガイドウォークではなくて、石積みをするんですね。石も12段積むっていう、これも自分が考えたメソッドに入っているんですけど、5段6段は誰でもできちゃうんです。12段っていう壁がありまして、これは石と意思の疎通ができないと、自分の心と石が体験や体感して、本当に体が一体にならないと12段って結構難しいんですね」
●確かに。石を12段積み上げるんですよね。グラグラしちゃいそうですけれど。
「グラグラしている時は心も揺らいでいたりとか、それこそ本当に石と意思疎通・・・(笑)」
●すごく集中できそうですね。
「最初はみなさん、ちょっと疲れているかたとか、あんまりやりたくなかったりとかする中、それでもよくて、深呼吸をしながら・・・誰かがひとつ達成すると、私も! ってなるんですね。最後には本気で12段を積んで帰って行かれるんですね」
●みなさん、できるようにはなるんですか?
「はい、必ずみなさん、なっていますね。時間はかかりますけど」
(編集部注:土屋さんが森林セラピーガイドの資格を取ることにしたのは、新宿で調理師として働いていた頃、都会の空気や仕事のストレスで体に不調をきたした時に、森の中に座っているだけで体力や気力が蘇ってきたからだそうです。
そんな経験から森には癒しの効果があると確信、その理論や科学的な根拠を身につけるために、試験の3日前に申込み、猛勉強をして見事、合格したそうです)
森の中で婚活イベント
※土屋さんは、意外な活動として、アウトドアでのウェディングや婚活のプロデュースもされていますよね。
「そうですね。自分も装飾デザイナーとかフラワーデザインの資格を取りました。生け花とかもひと通り全部学んで、それもちゃんと勉強したんですけど、やっぱり自然を知っているので、先生たちはなにも教えることがないっていう、最初から基本を知っているというか、自然で僕は生まれているので、ほかの人よりは全然違うというふうに言われましたね」
●さすが野生児ですね!
「もう野生爺になってきましたけど(笑)」
●あははは。アウトドアでのウエディングですとか、婚活のプロデュースっていうのは、具体的にどんなことをされているんですか?
「婚活については、自分が手掛けたのは、森の中で、石のところに女性が座っていて、それで男性がそこに5分なら5分、最初から座ってもらって、リラックスしたアイスブレイクした状態から始まるんですね。だからやっていく回数ごとに結婚された方とかいらっしゃいますね」
●え〜っ! マッチング率が高いんですね。
「マッチング率、すごく高いですね」
●どういうパターンがいちばんマッチング率が高いなって感じましたか?
「やっぱり自然の中で体験や体感することですね。それこそヤマメを手で捕ってもらうとか、男女がキャーキャー言いながら捕って、それを塩焼きにして、みなさん同じ行動をして焼いて食べる、そのヤマメの美味しさと同時に婚活ができるみたいな・・・」
●面白いですね。確かに自然の中でやるっていうのがすごくリフレッシュ、リラックスして、素になれそうな感じもしますよね。
「そうなんです。最初からもう素で、お互いが素で、そこでバーベキューとかすると、所作が綺麗だったりとか、違うところが見えてくるじゃないですか、お互いに。この人、火を起こせてかっこいいって思ったりとか、そういうのが生身の人間なので、最初に飲み会とかではなくて、自分の場合はフィールドが森なので、森の中で演出しながら、森の婚活事業をやっています」

野生児を次世代に
※それでは「森の演出家」としての夢を教えてください。
「夢はやっぱり次世代に残したいなと思って、全国に森の演出家が、森プロがいっぱい増えればいいなと。結構これは難しいと思ってはいるんですけど、野生児を次世代に残さないといけないので、小さいお子さんもどんどんフィールドに行ってもらって、野生児を今増やしているところです」
●では最後に、東京最後の野生児として伝えたいことをお願いします。
「やっぱり野生児は森に生かされている、自然がなければ、森の活動ができないので、自然はやっぱりすごく大切なものですよね。
温暖化になってきましたけど、いろいろなものがやっぱり変わって、東京の奥多摩でも変わってきたり、温度が高くなっているとか・・・そういうことも小さいお子にも学んでもらう、そういう教室も始めていますので、次に繋がる森の演出家になりたいと思っています」

INFORMATION

土屋さんは、東京の青梅と奥多摩の古民家を拠点に森林浴ほか、森の中で鳥の声を聴いたり、多摩川の水に触れたり、森の恵みを食べたりと、五感を使った2時間のガイドウォークを実施。企業研修や免疫力アップなどにも活用されているそうです。
ほかにも森の演出家協会では新潟県長岡で、キャンプのノウハウを、実践を通して学ぶ「キャンプの楽校」なども実施されています。
詳しくは一般社団法人「森の演出家協会」のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎「森の演出家協会」HP:https://www.mori-pro.life/
2022/10/9 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、海洋ごみ由来の再生ポリエステルで作ったウエアを展開するアパレルブランド「マリブシャツ」のブランドマネージャー「菅井章弘(すがい・あきひろ)」さんです。
2004年にアメリカ・カリフォルニアのマリブビーチで誕生したマリブシャツ。創業者はグラフィック・デザイナーで広告デザイン事務所を経営していたデニー・ムーアさん。
若い頃から海とサーフィンを愛し、アンティークな広告アートやサーフシーンの写真をコレクションしていたデニーさんが、Tシャツに、集めたアートや写真をプリントして販売したのがきっかけで、マリブシャツというブランドが生まれたそうです。その特徴はビンテージライクでシンプルなデザイン、ラインナップはTシャツやパーカーがメインとなっています。
日本版のマリブシャツは2021年から販売がスタート。オリジナルのマリブシャツがコットン製なのに対して、日本版は海洋ごみ由来の再生ポリエステルを使っているのが大きな特徴です。
これは菅井さんをはじめとする日本側のスタッフが、ビーチやサーフシーンで愛されているマリブシャツであるならば、ブランドとして自然環境になにか貢献できないか、そんな思いから「海への恩返し」というコンセプトが生まれ、海洋ごみを原料とする再生素材のブランド「マリブシャツ・ジャパン」が誕生しました。キャッチコピーは「このウエアは海をきれいにする」となっています。
菅井さんにお話をうかがう前に、海洋ごみの現状について。
プラごみは、年間におよそ800万トンもの量が世界の海に流れ出ているとされていて、これはごみの収集車に換算すると、1分に1台分のプラごみを海に捨てているのと同じだそうです。このまま増え続けると、世界の海に流れ出ているプラごみは2050年には魚の量を超えると言われています。
海洋ごみの問題にどう取り組んでいくのか、いま私たちの覚悟と行動が問われています。
そこで今週は、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」第9弾! 「SDGs=持続可能な開発目標」の中から「海の豊かさを守ろう」!
☆写真協力:マリブシャツ

シンプルでお洒落! 水陸両用!?
※それでは、ブランドマネージャーの菅井章弘さんに商品の特徴について具体的にお話をうかがっていきます。

●きょうはマリブシャツの商品をたくさんスタジオにお持ちいただきました。ありがとうございます。それぞれ商品の説明をお願いします。これはショートパンツですか?
「これは我々がラッシュガードと呼ぶ素材、あだ名なんですけど、その素材を使用しております。要は海でも街中でもプールでも着用できる、そういうものです」
●すごくシンプルでワンポイントのロゴがあって、これはいいですね。女性も男性も着やすいというか・・・いま菅井さんが着てらっしゃるのもそうですか?
「同じ素材のTシャツです。そもそもこの素材でTシャツを販売していたんですね。で、お客様のリクエストで、この素材でパンツができないですかという声をいくつか聞くようになったのと、あとは今の流行りですけど、セットアップできるとかっこいいので、それでパンツも作ってみたという次第です」

●シンプルですごくお洒落、モダンでかっこいいですね。ほかにもTシャツ、パーカー、ロング Tシャツ、トレーナーなど、いろんな商品をお持ちいただきましたけれども、ひとつずつご紹介いただけますか。
「まず、今おっしゃっていただいたような商品群というかアイテムを作っている理由なんですけど、これも本国のマリブシャツ、彼らも同じようにTシャツやパーカーばかりを作っているんですね。彼らはそのことでカリフォルニアであるとか、ハワイとかの海辺のライフスタイル、これを提案しているんです。
僕らの場合はビーチサイドというよりは、ベイエリアって感じで都市部も含んだ、でも海を感じられるようなリラックスしたライフスタイルの提案をしたいということで、トレーナーやパーカー、Tシャツなどに商品を絞っております。

僕たちの特徴としては、先ほどからお話している海洋ごみからリサイクルされたポリエステルを原料にして商品を作ろうということを決めてやっております。ただポリエステル100%にしてしまうと、作れる商品の幅が狭くなってしまいますので、ポリエステルと綿のミックスのグループであるとか・・・」
●気持ちいいですね、肌触りも・・・。
「これはすごく手をかけて作っております。あとは先ほどのショートパンツや、僕が着ているT シャツに機能を持たせるために、敢えてポリエステル100%で作っている商品のグループもあります」
●撥水加工というか・・・?
「撥水というより、濡れても全然いいっていう状態ですね。これを販売されているアパレル様にも僕ら卸しているんですが、水陸両用なんて言って販売されたりしています」
ONE OCEAN、未来につなぐ
※マリブシャツの素材になっている再生ポリエステルの原料は、どこで作っているんですか?
「北米にある再生原料を主に作っているプラント、企業がございます。そちらから原料を購入して、僕たちが糸から作って生地にして、洋服にしているという流れです。
ここにその見本があるんですが、その北米の企業は大型の船を出して、例えば太平洋でごみを回収するんですね。その回収したごみを自分たちのプラントに持ち込んで、洗浄して砕いたものがこの状態です。ガラスの破片みたいな、これを溶かして、ティペットっていうんですけど、このつぶ状のものがポリエステルの原料です」

●ガラスの破片みたいなものからビーズのような形状になりましたね。
「この状態にすると移動ができるんですね。この状態から様々な、例えばこういうペットボトルも作られます。この状態のものを、彼らが原料を供給する工場が中国にあるんですが、その工場に持ち込んで、この綿の状態にまで彼らがしてくれます」
●ビーズのような状態から綿に・・・?
「溶かして小さなノズルから吹き出すことで、この繊維状のものができるんです。ただこの綿だと洋服にはならないんですね。ここから綿とミックスしたり、いろいろな手法で、僕たちが糸を作るんです。この糸を編んで生地にして洋服になっています」
●なるほど〜、そういう経緯なんですね。海洋ごみ由来のエコ素材の名前が「ONE OCEAN」って言うんですよね?
「マリブシャツを始めるにあたって、立ち上げたというより、そもそも我々が開発を進めていた素材になります。マリブシャツ・ジャパンとしてマリブシャツ・チームとして、今はマリブシャツのためにこのONE OCEANという素材グループを使っております。
ONE OCEANというのは、海洋ごみからリサイクルしたポリエステルを原料にした素材のグループです。その中にこのような、ボクらがTCと呼ぶ、綿と混紡した素材であるとか、ポリエステル100%の素材であるとか様々あります。
我々がONE OCEANっていう名前をこのグループに付けたのは、やはり海はひとつしかない、これに尽きます。しかも未来につなぐのにもひとつしかないから、そのひとつを守ろうという意味でONE OCEANという名前をつけました」
使ったプラごみの量を表示!?
※商品に「ONE OCEAN」のカードが付けられていて、その裏にペットボトルの絵が表示されていますが、これは何ですか?

「これはそのものずばりこの商品に含まれている、海で回収されたごみの量を1.5リットルのペットボトルに換算して表しております」
●このパーカーは8本分くらいですね。
「8.3本ですかね。大きなペットボトル8.3本分の、海のプラごみがなくなって、ここに入っているという、その証です」
●そうなんですね〜。地球にいいことしているなっていうことを、着ながら感じられますね。
「そう思っていただきたく・・・」
●ブランド「マリブシャツ」のデザイン的な特徴っていうのは、どんなところなんですか?
「やっぱり僕たち、せっかく海洋ごみを再生して洋服にしたのに、すぐ飽きられて捨てられてしまうようなものを作りたくなかったので、そのことがあって、定番っていうものにこだわりました。
それと本国のマリブシャツも同じ考え方で、カジュアルな定番のお洋服、でもリラックスした生活を提供するっていうのが僕たちの狙いなんで、デザインのこだわりはもうとにかく定番の商品を作ること。
ここには私たちマリブシャツ・チームのメンバーの葛藤もあるんですけど、定番というのはなかなか難しくて、どこまでシンプルにするか、でもこれはデザインのポイントとして入れたい、みたいなことを話し合って、その中からシンプルで長く着られて、様々なコーディネートに取り入れやすいものを狙って作っております」

●シンプルなのに地味すぎないっていうのが、すごいなって思います。お洒落です。 アーティストとのコラボ商品もあるんですよね?
「これが、無地にこだわっている理由なんですが、本国のマリブシャツは、デニーさんが集めたアートをあしらって販売しております。我々もそれを考えたんですが、僕たちだけで洋服を完成させきらず、着てくださるかたとか、外の人たちと何かをすることによって完成する余白を残したいっていうのもあって、僕らは無地がメインになっているんですね。なので、時折アーティストのかたとコラボレーションをして、そのかたのアートをプリントして販売しております。
その中で国内だと、中西伶さんや小泉遼さんの絵をプリントしてっていうことをしております。アーティストさんとのコラボは、いま名前を挙げた画家のかた、あとはカメラマンさんとか・・・アーティストという意味では、フラワーアレンジメントのとても著名というか若いかたなんですけど、元気に活動されているかたがいます。そのかたとも共感した時に、アレンジした花をカメラマンさんに撮っていただいて、コラージュしてっていう形でのコラボもあります。
コラボレーションする時の考え方は、そのかたとシンパシーがあった時とか、アーティストのかたも、マリブシャツが海洋ごみから再生して上質なものを作っている、そういうことに共鳴して(一緒に)やろうって言ってくださったり・・・そういう時にコラボレーションしております」
(編集部注:マリブシャツはアーティストとのコラボのほか、BEAMSのB:MINGやSNIDELといったアパレルブランドともコラボレーションしたことがあるそうです)
マニラ麻やバナナでエコ素材を開発!?
※マリブシャツは、アパレル関連の事業を行なっている「MNインターファッション」という会社のブランドですが、このMNインターファッションでは、マリブシャツで使っている海洋ごみ由来の素材のほかにも、エコ素材を開発しているそうです。どんな素材があるんですか?
「素材では”ブリコ”という素材のブランドを持っております。特徴としては、インドの工場にいらなくなった廃棄衣料を持ち込んで、反毛(はんもう)っていうんですけど、砕くんです。そして綿状にして、ここからまた糸を再生して生地を作る、そういうリサイクルの生地のブランドがあります。
あとは、エコ素材で”ワクロス”あるいは”バナナクロス”という、これも商標をとっている我々の生地ブランドなんですが、綿=コットンは栽培するために水を大量に使う、あるいは土地を痩せさせてしまうことがあるんですね。
なので、綿よりももっと効率的に成長してくれて繊維が取れるもの、ということで、ワクロスには成長の早いマニラ麻を使っています。これはひとつの畑で1年間に何度でも採れるんですね。水を使わずに土地も傷めずにどんどん成長してくれます。このマニラ麻を紙にして、この紙を繊維状にしたものがワクロスです。紙にすると抗菌性とかいろいろな機能がつくので、役に立つ素晴らしい素材になるんです。
あとはちょっと面白いんですけど、バナナクロスはバナナの幹の部分を使っているんですよ。栽培されているバナナは、実を採る時に幹ごと切っちゃうんですよね。実を採ったあとの廃棄される幹はすごい量になるから、これを再利用しようと・・・植物なので幹から繊維が採れますから、その繊維を生地にしたり・・・このような素材があります」
海のごみをなくしたい!
※国連が主導する「持続可能な開発目標=SDGs」もそうですけど、環境に配慮しない企業は今後、生き残れないと思うんですが、菅井さんはどう思いますか?
「これは本当にそう思います。企業にだけその責任を負わせるのではなく、我々も生活の中で、そのことを考えるべきだなってものすごく思います。
そこがそもそもマリブシャツをやろうなんて言い出したところでもあるんですけど、我々マリブシャツ・ジャパンのメンバーはアウトドアとかサーフィンをやるメンバーが多くて、常に自分が触れている自然が汚れているとか、海が汚れているとかって気になるんです。
ほんとに目に見えて分かることだから、まずはそういうこともあるし、あとはカーボンニュートラルのこともそうですけど、とにかく、僕たちが安全に生きるためには、どうしても化学的に作ったケミカルなものも必要だと思うんです。
ただ、やりすぎ、使いすぎで、地球がおかしくなるようなところには行ってはいけないし、行きつつあるから、今おっしゃられたようなサステナブルな目標はいろいろ項目がありますけれども、ちゃんと考えて、それを抑えてやっていく活動がなかったら、もう地球が持たないと思うので必要なことだと思います」
●そうですね。先ほどマリブシャツ・ジャパンのメンバーにはアウトドア好きが多いとおっしゃっていましたけど、菅井さんもサーフィンをされるんですよね。
「恥ずかしながら。もう引退してしまったんですけど・・・」
●引退・・・?
「もう僕は50を越しているので、ちょっと今は行っていないんですけど、40ちょっとまで・・・20代前半ぐらいから20年間ぐらいはサーフィンをやっておりました」
●わ〜〜、どの辺りで?
「僕、生まれが茨城県なのですが、阿字ヶ浦とか大洗とかでガンガンにやっていました」
●かっこいいですねー!
「全然(笑)カッコよくないです。ちょっとここでサーフィンの話を挟みたいんですけど、僕ら茨城勢から見ると湘南のサーファーとかすごくカッコよくて、ウエットスーツとかも綺麗だし、持っているボードのブランドとかも! 千葉もそうですよね、お洒落! だけど茨城のサーファーは今は違うんでしょうけど、僕がやっていた頃はウエットスーツはみんな黒一色だし、あまりカッコよくなかったです」
●え〜〜、そうなんですか(笑)。マリブシャツの創業者デニー・ムーアさんもサーファーなんですよね?
「デニーさんもサーファーです。彼はマリブビーチってところで生まれたから、小さい頃から海に触れ合っていて・・・あとはご両親の趣味なんでしょうね。デニーさんから聞いたんですが、小さい頃からハワイによく連れて行かれていて、日本でいう沖縄旅行みたいなものですよね」
●菅井さんもデニーさんもサーファーということですから、お互いにシンパシーみたいなものを感じたんじゃないですか?
「お互いにルックス的には元サーファーですね。現サーファーって感じじゃないですね(笑)」
※では最後に、ブランド・マネージャーとして、マリブシャツというブランドを、どんな風に育てていきたいですか?
「やっぱり最初に立てた志というか、本当に海洋ごみはすごいことになっていて、これを取り除くためには、ただ取り除いてくださいって言っても、誰も手を出せない。でも取ってくれば、このように原料になって再利用して洋服が作れる。だからこれをどんどんとにかく続けていきたいですよね。そして海のゴミをなくしたい。これが僕たちの今強い思いになっているので、それを続けていくというのが願いですね」

INFORMATION
アパレルブランド「マリブシャツ」

マリブシャツの Tシャツやパーカーは、本当にシンプルなデザインで、カラーの基本は黒と白。素材の質感が素晴らしく、生地もしっかりしているので、長く着られる、まさに定番ウエア、おすすめです。ぜひお試しください。
お買い求めは「マリブシャツ」のECサイトから、どうぞ。
◎「マリブシャツ」HP: https://malibushirtsjapan.com/concept
2022/10/2 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、イラストエッセイストの「松鳥むう」さんです。
漫画風なイラストと親しみやすいエッセイで人気の松鳥さんは、離島とゲストハウス、そして地元滋賀県内の民俗行事をめぐる旅をライフワークとされています。
20歳のときの卒業旅行で、屋久島に行ったことをきっかけに島旅にハマってしまった松鳥さんは、これまでに118の有人島を訪れていて、泊まったゲストハウスは100軒以上。その土地の日常の暮らしに、ちょっとだけお邪魔させてもらう旅が好きで、地元の民俗行事や郷土料理との出会いも大事にされています。
きょうは主に、あまり知られていない珍しい郷土料理のお話などうかがいます。
☆写真&イラストレーション:松鳥むう

元気の素、鹿児島の茶節
※松鳥さんは先頃『むう風土記(ふどき)〜ごはんで紐解く日本の民俗・ならわし 再発見録』という本を出されました。この本の狙いは、どんなところにありますか?

「幅広い年齢のかたに読んでもらいたいのと、自分の地域を改めて見る、みたいなことをしてもらいたいなと思ってるんですね。イラストをいっぱい入れたのは、文字が読めない小っちゃい子でも、イラストを見て面白いなと思ってくれたらいいなと思って・・・。
あと、私がボキャブラリーが少ないっていうのもあるんですけど、わかりやすい言葉で書いているので難しくないです。私が民俗行事にハマった時に、いろいろ面白いなと思って、本をあさったんですけど、先生がたが書いていらっしゃるのが多くて、興味はあるけど難しくて、読んでいる途中からカァーって寝てしまって(笑)・・・もうちょっととっつきやすいのがあったらいいなと思って、そんな感じで書いています」
●とっても読みやすかったです〜。この本に載っている記事の中からいくつかお聞きしたいと思うんですけれども、いろんなご飯が載っていましたね。興味深い食がたくさんあったんですけれども、まずは鹿児島県の”茶節(ちゃぶし)”。これはどんなものなんでしょうか?
「味噌汁を飲むような汁物の茶碗にお味噌を大さじ一杯、鹿児島なんで麦味噌なんですけど、そこに鰹節をひと握り入れて、そこにお茶をかけて飲むんです。簡単に言えば、グツグツしない超簡単な味噌汁ですね」

●本には「元気の素(もと)」、そして「のんべえの安らぎ」とも書かれていましたね。
「後半のは私の感想なんですよ、のんべえなんで(笑)。元気の素は鹿児島の郷土料理で、茶節はそうだって言われているんですけど、おばあちゃん世代でも、今はあまり飲む人がおられないらしくって、だいぶ上のおばあちゃん世代の人たちが毎朝飲んだりとか・・・。
あと、風邪をひいた時に親が作ってくれたという人がいたりしますけど、私はこれ(お酒を)飲んだあとの一杯に絶対いいと思っていて、全国の居酒屋の締めのメニューに入れるべきだと私は思っているんですよ(笑)」
●私ものんべえなので、すごく興味深いです!
「ちょっと飲んだあと、茶節を飲んだら二日酔いないですから、ぜひ飲んでください、簡単なんで」
●味はお味噌汁みたいな感じってことですよね?
「そうですね。お味噌の味と鰹節の出汁が勝っちゃうので、そんなにお茶の味はしないです。自分で作るときは、地元の人がお茶でもお湯でもいいって言ってたんで、自分の家でやるときはお湯をかけてやります」
(編集部注:沖縄にも「カチューユー」という、同じような汁物のお料理があるそうです。茶碗などに味噌と鰹節を入れてお湯を注ぐだけ。食欲がないときや風邪をひいた時などにおすすめだそうです)
記憶を失う!? 白川村の「どぶろく祭り」
※新しい本『むう風土記』で、岐阜県・白川村で開催される「どぶろく祭り」が紹介されていました。これはどんなお祭りなんですか?
「 毎年9月から10月に行なわれるんですけど、私が書いたのはその白川村の中でも平瀬温泉っていう、みなさんが知っているあの観光地の白川郷からちょっと離れているところなんですよ。10数キロ離れているところで、同じ村なんですけど、そこの集落の『どぶろく祭り』にお邪魔したんです。
どぶろくは、みなさんご存知の通り、あの白いどろっとしたやつなんですけど、それを神社で作っていらっしゃいます。全国各地にどぶろく祭りはあって、そういうところはたいがい地元の神社にどぶろくを作る場所があって、地元の人が作らはるんですけど、特別な許可をもらって作っていらっしゃって・・・。
この祭りがすごいのが、コロナ禍ではほかの場所の人とか入れなくてダメなんですけど、コロナ前の時はお客さんとか観光の人も来てよかったんです。観光地の白川郷のほうでも、別の神社でどぶろく祭りがあるんですけど、そっちだと観光客が多いから、どぶろくをひとり一杯ぐらいしかもらえないらしいんです。平瀬温泉のほうはそこまで観光客が来ないらしくて、何杯も飲めるって言われたんで喜んで行ったんですよ。

最初からどぶろくを飲むだけの祭りじゃなくって、ちゃんと獅子舞とかまわったりするんですよ。それで最後、神社でみんなござを敷いて、そこにみんな座って、どぶろくを注いでくれるお姉さまがたが、席をまわってくれはるんです。
まぁ“わんこそば”のように、なくなったと思ったら、いきなり現れてまた注いでいって(笑)、最初は観光客やからあんまり飲んだら申し訳ないと思って、遠慮していたんですけど、あまりにも来てくれるんで、喜んで飲んでいたら、記憶が一瞬のうちに消えて! すごいです、どぶろく。
でも地元の人たちはみんなそれを飲んで、さらにそのどぶろくを飲んだあとに、集落の別のスペースにステージを組んでいて、その平瀬温泉地区に住んでいる人たちはみんな芸達者で、みんなそこのステージで(芸を)発表されるんですよ、どぶろくをたんまり飲んだあとに!
私は記憶がなくなっているから、それを見てないんですけど、見た友達はめっちゃ素晴らしくレベルが高いって言ってはりました。しかもその平瀬温泉集落の人は芸達者の人が多くて、芸能プロダクションみたいなものを自分らで作っていて、若い人からおじいちゃんおばあちゃんまで入ってらっしゃるそうです」
●活気がありますね!
「ありすぎて、普段すごく小っちゃい集落なんで、そんな人がたくさんいるように見えないんですけど、すごいんです」
地元の人でも知らない納豆餅
※松鳥さんの地元滋賀に「納豆餅」という食べ物があるんですね?
「そうなんですよ。滋賀でも、私もその地域の人ではないので、全然知らなかったんですよ。滋賀県の大津市の山のほうに仰木(おうぎ)っていう地区があるんですけど、そこだけで食べられていて、ほかの人は多分、滋賀県の人も全然知らないんですよ」

行事食「納豆餅」
●どんな食べ物なんですか?
「たぶん関東の人は納豆餅っていうと、東北の丸めたお餅に納豆をまぶして食べるっていうのを知っている人が結構多いと思うんですけど、滋賀県のほうのは丸めたお餅を一回開いて、丸い平らな形にして、そこに納豆を置いて、納豆を餅で包んで食べるんですよ。三角チックな形で手も汚れず食べやすいという・・・。
しかもその餅のまわりにきなこをまぶすんですけど、きなこは砂糖じゃなくて塩味にしてまぶすんです。納豆と塩は合うじゃないですか。めっちゃいいですよね。
東北の納豆餅をお箸で食べると、納豆と餅がいつもバラバラになってうまく食べられないんですよね。餅を食べたあとに納豆を食べるみたいになってたから、包んでしまうとめっちゃ食べやすいみたいな・・・」
●なるほど〜。
「その滋賀県の納豆餅が、山を越えた隣の京都の山側にも、同じような納豆餅があって、そちらはバリエーションがもっと豊かなんですよ。
滋賀県と同じ包むバーションもあったり、ロールケーキみたいにして、ロールケーキのスポンジが餅で、中のクリームの部分が納豆みたいなロール状のとか、あと普通に切り餅、餅に埋め込んで四角い、よく売っている形にしたバーションとがあるんですよ」
●へぇ〜すごい。納豆文化があるっていうことなんですかね?
「そうです、そうです。昔から、平安時代の貴族の人は食べていたっていう文献があるらしいので(納豆文化は)あるんですね。その納豆餅のエリアは、田んぼのまわりに昔は大豆を植えていたので、どこの地域でも植えていると思うんですけど、大豆の栄養が稲にいくからいいっていうので、それで大豆があるから納豆を作っていたっていう感じらしいです」
(編集部注:ほかにも松鳥さんの地元滋賀には、ドジョウとナマズとご飯を漬け込み、発酵させた「ドショウとナマズのなれずし」という珍味があるそうです。松鳥さんがおっしゃるには、ブルーチーズの味にやや近い感じだそうですよ)

千葉の郷土料理「しもつかれ」
※千葉県のおすすめの伝統料理はありますか?
「千葉の人には多分メジャーではないと思うんですけど、今回の本にもちょっと書いている”しもつかれ”っていう料理があって、主には栃木県あたりがメインの郷土料理として取り上げられることが多いんですね。
このしもつかれっていうのが千葉と茨城と栃木と埼玉・・・きゅっと集まった県境があるじゃないですか。あの辺の郷土料理で、毎年初午(はつうま)の日に食べられる郷土料理なんです。だいたい2月の節分のあとぐらいなんですけど、その時に農家さんが地元の稲荷神社に、赤飯としもつかれを供えるっていうことなんです。
なぜ名前が“しもつかれか”っていうのは、話が長くなるので、それは本を読んでいただきたいなって思うんですけどね(笑)。
(具材として)入れるのは、大根と人参と油揚げ、あと酒粕と鮭の頭を入れて煮て、大根と人参は“鬼おろし”っていう台所用具でガリガリガリガリ擦って、鮭の頭も細かくなるまで煮る料理なんですね。
昔は年末に“年取り魚”っていって、塩鮭か塩鰤(しおぶり)を食べる文化が昔は各地域にあったんですけど、塩鮭が1月になってもちょこちょこ食べて、最後に余った頭まで残さず全部食べてしまおう、みたいのも合わさってできた郷土料理ですね。酒粕も入れるんで、蔵で酒粕が余っているのを入れるみたいな、農家さんだから大根いっぱい余っているから入れるみたいになったらしいんです。
そこに節分の時に出る大豆も入れちゃう、みたいな・・・それでグツグツ煮るんですね。好き嫌いがぱーんと分かれる郷土料理で、酒粕と鮭の匂いが相まって、嫌いな人は嫌いらしいなんですけど、私は好きなんですけどね。酒粕は好きなんで・・・」
●私、千葉出身ですけど、ぜんぜん知らなかったですね〜。
「千葉も上から下まで広いですもんね! そりゃ知らんですよ」
●興味深いですね〜。
「しもつかれ、ぜひ食べてみてください」
地元のスーパーのお惣菜コーナー!?
●伝統的なお祭りとか行事って、意外と近くにあるのかもっていうのをこの本を読んで思ったんですけど。
「あります、あります! 私もきっかけは、実家の隣の町にたまたま行った日に、神社でお祭りをやっていて、そこで行事食を出されて分けてもらったのがきっかけだったんですよ。
郷土食とか民族行事に興味を持ったのは、30後半か40歳の時なんです。その民族行事に出会ったのが・・・ぜんぜん知らなかったので、探したら多分めっちゃいろいろ出てくると思います。ただ、その料理を作れる人は年配のかたがたが圧倒的に多いので、今のうちに巡っておかないとなくなるなっていうのはありますね」
●旅先で美味しい郷土料理とか、代々伝わる家庭の味に出会うための、なにかコツのようなものってありますか?
「地元の図書館で調べるのと、もうひとつは地元のスーパーのお惣菜コーナーに行くと、知らん食べ物がちょろっと現れるんですよ。だいたいどこに行ってもメジャーなお惣菜は一緒なんですけど、あれ? これなんやろ? みたいなのがあるので、その時はそれを買って食べてみて、みたいな・・・」
●旅先で出会う食から、松鳥さんはどんなことを感じますか?
「材料が当時は豊富にあったであろうから、その郷土料理ができあがったけれど、環境や物流の変化でどんどん変わっていって、逆に揃えるのが大変になって、それでどんどん食べる人がいなくなって、現代の環境と合わないから、廃れていくんだろうなと思いつつ・・・。
でも、その料理がこの食材で作られたのはどうしてかって調べていくと、昔の人の生活とか物とか、人がどういうふうに動いていたのか・・・今とは違うルートで動いているんですよね。離れた地域に同じ食があったりしていて、その辺を巡っていくのも楽しいなって思います」

有人島・沖島から比良山系を望む

☆この他の松鳥むうさんのトークもご覧下さい。
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『むう風土記〜ごはんで紐解く日本の民俗・ならわし 再発見録』
松鳥さんの新しい本をぜひ読んでください。松鳥さんが旅で出会った食文化や伝統行事などがイラストともに紹介されています。こんな郷土料理があったのか、と驚きの連続で、楽しく読めますよ。おすすめです。
「A&F」から絶賛発売中です。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎「A&F」HP:https://aandf.co.jp/books/detail/mufudoki
本の発売を記念して、松鳥さんのトークイベントが10月22日(土)の午後2時から、東京駅前の新丸ビル7階の「MUSMUS」で開催されることになっています。山形県酒田市の郷土ごはんと飲み物がついて、入場料は2,000円。
詳しくは松鳥さんのオフィシャルサイトを見てくださいね。
◎松鳥むうさんのサイト http://muu-m.com
2022/9/25 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、中部大学・准教授で、
サボテン博士の「堀部貴紀(ほりべ・たかのり)」さんです。
堀部さんは岐阜県出身。名古屋大学大学院を修了後、1年ほど岐阜放送・報道部に勤務。その後、研究の道に戻り、現在は中部大学でサボテンを研究中。日本では数少ないサボテン博士でいらっしゃいます。
堀部さんがサボテンを研究するようになったきっかけは、日本でいちばんサボテンの生産量が多いとされている愛知県春日井市のお祭りで、食用のサボテンに遭遇したこと。名古屋大学で園芸学や植物生態学を専攻していた堀部さんは俄然、サボテンに興味がわき、また、国内でほとんど研究されていないことを知って、春日井市にある中部大学にいれば、サボテンのサンプルがたくさん手に入る、そう思い、2015年からサボテンを専門に研究されています。
そして先頃『サボテンはすごい! 過酷な環境を生き抜く驚きのしくみ』という本を出されました。
きょうは、ほとんど知られていないサボテンのトゲの秘密のほか、いま世界が注目している、地球を救うかも知れない、サボテンの計り知れない可能性についてうかがいます。
☆写真協力:堀部貴紀

トゲの、驚きの役割
※園芸用として人気の多肉植物がありますが、サボテンも多肉植物、ですよね?
「はい。サボテンも基本的には多肉植物です。ただし、多肉植物って結構いい加減な言葉でして、学術上の定義がないんですね。こうだったら多肉植物という定義がなくて、だいたい水っぽくて膨らんでいたら、多肉植物っていう言葉の使われ方をしているんです。
でもサボテンの中には見た目が樹木みたいな、木みたいなサボテンもいるので、多肉植物じゃないサボテンもいます」
●へぇ~、そうなんですね。アロエはサボテンじゃないんですか?
「よく言われるんですけど、アロエはサボテンじゃないんですね。で、サボテンは何か? ってことなんですけど、サボテンは、バラ科とかイネ科とかあると思うんですけど、サボテン科っていうのがあって、サボテン科に含まれるやつをサボテンと言います」

●サボテンは世界に何種類ぐらいいるんですか?
「だいたい最近の研究だと、2000種類ぐらいですかね。ただし、品種がいろいろあって、イチゴでも『とちおとめ』とか『あまおう』とかあると思うんですけど、そういう品種を入れると、大体8000品種と言われています」
●そんなにあるんですね~。サボテンの原産国はどちらになるんですか?
「サボテンの原産国は、だいたい南北アメリカですね。結構広くて、北はカナダ南部から南はアルゼンチン・パタゴニア地方の先端までですね。南北アメリカ全体にサボテンはいます」

●そうなんですね~。サボテンの大きな特徴といえば、トゲですけれども、あれは何ですか?(笑)
「あれは葉っぱが変化したものだと言われています」
●葉っぱ!?
「昔、サボテンのトゲは葉っぱだったんですけど、葉っぱがだんだんと変化していって、葉っぱになったと考えられています」
●トゲの役割って何ですか?
「実はいろんな役割があって、まずは動物から食べられないように体を守っているよ、っていうのもあるんですけど、ほかにも例えば、強い光から身を守るカーテンみたいな役割をしたりですとか、あと高温とか低温から身を守る毛布みたいな役割をしてたりとか・・・まだまだあって、トゲから蜜をだしてアリを呼んだりとか、あと空気中の水を吸着するような機能も報告されています」
●ほぉ~、そうなんですね。サボテンは独特な形をしていますけど、どうしてあんな形になったんですか?
「まずサボテンは、丸っこいイメージがあるかと思うんですけど、あれはまず体の中に水を貯めているんですね。より具体的にいうと、茎の中に貯水組織といって、水をいっぱい貯める細胞があるんです。それがいっぱいあるから、ああいう丸くて水のタンクみたいになっているんですね。なので、長い期間、雨が降らなくても平気なんです。これまで長いものだと6年間、雨が降らなくても枯れなかったという報告がありますね」

体の一部からも繁殖!?
※植物のほとんどは花を咲かせ、タネを作って自分たちの生存範囲を広げていますが、サボテンはどうやって増えていくんですか?
「ほかの植物と同じようにまずタネで増えます。花が咲いて果実がなって、その中にタネが入っていて、そこから増えるんですけど、もうひとつ特徴的な増え方があって、植物体の一部からも繁殖するんですね。
具体的にはサボテンの枝とか茎の一部がぽろっと落ちて、そこからまた大きくなるんです。そういうのを『栄養繁殖』って言うんですけど、イモとか球根みたいなイメージですね。ぽろっと落ちた茎とかには水分がたくさん含まれているので、タネよりも生存する確率が高くなるんですね。タネはやっぱり小さいし、水もぜんぜん含んでいないけど、植物体の一部ですといっぱい水があるから、生存する確率が高いってことになります」
●サボテンの花は毎年咲くわけじゃないですよね!? 毎年咲くんですか?
「一応、毎年咲くんです。あまりサボテンの花が咲くイメージはないと思うんですけど、花が咲くまでに時間がかかるんです。種類にもよるんですけど、例えば”桃栗三年柿八年”という言葉がありますけれども、サボテンだと長いものだと最初の花が咲くまでに30年ぐらいかかります」
●だから花のイメージがあまりないんですね。
「そうなんですよね。でも1回咲くようになったら、毎年だいたい咲くんですよ」
●受粉は昆虫ですか?
「自生地ですとハチとか、夜咲く花だとコウモリとか蛾とか、まあやっぱり昆虫が多いですね」
●過酷な環境の自然界で、どうやって増えているのか、ちょっと想像がつかない世界なんですけど・・・。
「そうですよね。まあ普通にタネで増えるのもありますし、それこそトゲを使って、ほかの動物にくっついて移動していくサボテンもいるんですよ。
アリゾナ砂漠にいるやつなんですけど、“ジャンピング・カクタス”って呼ばれていて、ちょっとでも触るとトゲで体にくっ付いてくるんですよ。体の一部がぽろっと取れて、それを取ろうとすると、またその手にくっ付くので、ジャンプしているみたいだから、ジャンピング・カクタスっていうんですね。
そういうやつなんかは、本当にすれ違った動物にペタッとくっ付いて運ばれていって、別の場所で落ちて、根を張って成長するみたいな育ち方をするやつもいます。たくましいですね」
巨大なサボテンの林!?

※新しい本に、6〜7年前にアリゾナ州の国立公園に調査に行った話が載っていました。なぜアリゾナに行くことにしたんですか?
「それは、サワロサボテンっていうほんとに西部劇に出てくるような、ザ・サボテンがアリゾナ砂漠にいるんですね。それを見たかったからです」
●本の表紙になっている、大きなサボテンが林のようになっているのがその場所ですよね?
「そうです、そうです! アリゾナのサワロ国立公園っていう所ですね」
●実際にこの大きなサボテンをご覧になっていかがでしたか?
「いや〜もうびっくりというか感動ですよね! 普段そんなに生き物を見て感動するほうではないんですけれども、本当に初めて圧倒されて感動しましたね。おっ! すごいみたいな」

●大木ですよね、このサボテン!
「そうなんです。乾燥地なので木があまり生えていないんですね。さっきの大きなサワロサボテンは10メートル以上になるものも多いんですけど、それが何千本と見渡す限り生えていてなかなか感動ですよ。日本の人にも行ってほしい、本当に!」
●世界最大のサボテンが、このサワロサボテンになるんですか?
「昔はそのサワロサボテンが世界で最大だって言われていたんですけど、実は今は世界最大じゃないんです。
当時1996年には、17.5メートルあったので、ギネス記録を持っていたんですけど、2007年にほかのサボテンが19.2メートルの記録を出して、それは和名でいうと武倫柱(ぶりんちゅう)っていうサボテンがいて、(サワロサボテンと)同じような見た目のサボテンなんですけど、そっちが今は世界最大だと言われています」
●それはどこにいるんですか?
「それもアリゾナに生えているんですね。サワロと同じような場所に生えていて、見た目はそっくりですね」
●そんな大きなサボテンがいるんですね~。
「いやもう~びっくりしますよ! 近くで見たら」
●サワロサボテンに巣を作る鳥がいるんですよね?
「はい、キツツキですね。あとフクロウなんかも棲んでいますね。というのも乾燥地に行きますと木がないもんですから、サボテンがいちばん大きな植物になるんですね。なので、キツツキなんかがサボテンの幹に穴を開けて巣を作って、そこに棲んでいるんです」
●サボテンにキツツキ!?
「実際にソノラ砂漠に行きますと、サワロサボテンは穴だらけなんですよ。いたるところに穴が開いていて、その中に鳥が棲んでいるんですね。(現地に)行った時に幹をパーンと叩いたら、中から鳥がバサバサって出てきたんです。ガイドに怒られましたけれども、叩くなって(苦笑)」
●動物たちとの関係性があるんですね。
「生態系において大事な役割をしている植物を『キーストーン種』というんです」
●キーストーン種!?
「そうです。サワロサボテンはアリゾナ砂漠において、キーストーン種であるっていうふうに言われています。大事な役割をしているよ、っていうことですね」
*編集部注:堀部さんの本には、国内でサボテンを見られるスポットも掲載されています。伊豆シャボテン動物公園や筑波実験植物園などのほかに、なんと千葉県銚子市にあるウチワサボテンの群生地が紹介されています。
銚子市長崎町の海岸沿いにあって、海を背景にサボテンが見られる場所は珍しいそうで、堀部さんいわく、青い海にサボテンが映えて、おすすめだそうですよ。

メキシコは国旗にもスーパーにもサボテン!?
※サボテンといえば、メキシコをイメージするかたも多いと思います。堀部さんは、サボテンの聖地ともいえるメキシコにも調査に行かれていますが、メキシコの国旗には、サボテンが描かれているんですよね?
「そうなんです! あまり知られていないんですけど、メキシコの国旗を見ると、ど真ん中にサボテンが描かれているんですよ」
●知らなかったです! その由来は?
「ちょっと難しい話になっちゃうんですけど、昔アステカ人があちこちさまよっていた時に、神様のお告げとして、サボテンの上でヘビを食らっているワシがいる土地を探しなさい! そういうお告げがあったんですね。
そして見つかったのが、今メキシコシティがある場所なんですよ。そういう建国神話に由来していて、それで未だに国旗にはサボテンとワシが描かれているんです。国旗をよく見ると真ん中にサボテンがあって、その上にワシが乗っていて、さらに(ワシの)口にはヘビをくわえているんですよ」
●なるほど! 神話の通りなんですね。
「そうなんです!」
●メキシコでは食用サボテンをたくさん作っているんですよね。
「メキシコだとサボテンは、どちらかというと野菜なんですね」

●へぇ〜、どんなサボテンが食用に向いているんですか?
「だいたい食べるのはウチワサボテンですね。ウチワ型の平たいサボテンがあるんですけど、それを食べますね」
●どんな味がするんですか? サボテンって。
「日本にいると(サボテンは)食べられるの? みたいな、絶対まずいだろって言われるんですけど、結構美味しいんですよ。ちゃんと調理するとサボテンは美味しいんです! 言い切れますね」
●メキシコのスーパーマーケットに行くと、野菜と同じように食用のサボテンが並んでいるっていうことですか?
「普通に並んでいますし、特設コーナーを設けられることが多いですね、食用サボテン専門のコーナーが・・・。
サボテンはメキシコに行くと普通にその辺に生えているんですね。なので、昔は貧しい人が食べるものだと思われていたらしいんですけど、最近は機能性の報告なんかも多くて、富裕層が敢えてサボテンを食べるようになっているみたいです」

●ちょっとサボテンの味、想像がつかないんですけど〜。
「味はひとことでいうとネバネバして酸っぱいのが、サボテンの味なんですね。ちゃんと理由があって、サボテンはCAM(キャム)型光合成っていうちょっと変わった光合成をしていて、その光合成をするとリンゴ酸っていう酸が溜まるんです。だから酸っぱいっていうのと、ネバネバの物質は多糖なんですけど、水を逃さないためにそういうネバネバ物質を溜めているんですよ。だから酸っぱくてネバネバした味になるんです」
●酸っぱくてネバネバ・・・!?
「日本でいうとオクラとかメカブが近いですね。結構美味しいですよ」
●どうやってサボテンを調理するんですか? どんな料理に使われるんですか?
「日本だとちょっと誤った認識が広がってるんですけど(笑)、まず食べるサボテンは若くて柔らかい時のサボテンを使うんですよ。日本だと大きくなったサボテンをサボテンステーキだって言って食べちゃったりする、あれは違うんですよ。ああいうふうには食べないんですよ。大きいと固くなっちゃって、あまり食べられないんですね、タケノコみたいな感じで・・・。
メキシコや海外だと、柔らかいウチワサボテンを肉料理の添え物にすることが多いですね。というのもヌルネバ系なので、チキンとか赤みの肉とかと一緒に食べると飲み込みやすくなるんですよ。嚥下促進作用(えんげそくしんさよう)があって食べ合わせがいいと・・・。あとはそのままちょっと焼いたりとか、生でサラダに入れたりとかして食べることも多いですよね」

●へぇ〜、食べて見たいです〜。
「美味しいですよ、結構!」
*編集部注:サボテンの生産量と消費量は、やはりメキシコが世界一とされています。
サボテンが地球を救う!?
※サボテンが地球を救うと本に書かれていますが、いま世界でサボテンが注目されているそうですね。
「はい。まずサボテンに注目が集まっている理由はひとことで言いますと、どこでも育てられて用途が広いからなんですね。
具体的に言いますと、例えば野菜が育てられないような乾燥地でもサボテンなら育てられる。なので、地球温暖化や砂漠化に対して強いんですね。用途も例えば野菜にもできるし、家畜の飼料にもできるし、加工食品にもできるし、最近だとサプリメントや化粧品にも使える。つまりなんでも使えると。
さらに少ない水や肥料でも育てられるし、無駄がないと! つまり持続性がある植物として注目が集まっています。すごいんですよね。
2017年には国連食糧農業機関FAOが、これからはサボテンを積極的に使っていこうという声明も出しています。世界が注目!」

●サボテンには知られていないポテンシャルが、もっともっとありそうですね!
「そうなんです! これまでは、今もそうなんですけど、サボテンを食べるっていうことに注目が集まっていたんですね。でも、私が個人的に注目しているのは二酸化炭素の固定です。地球温暖化対策にサボテンが使えるかも知れない、というのに注目しています」
●え〜っ、サボテンが、ですか?
「そうなんです。具体的に言いますと、例えば地球温暖化を防ごうと思ったら、空気中の二酸化炭素を吸収しないといけないんですね。それで植林というのがひとつの選択肢としてあります。木を植えると。ただし、乾燥地だと木が植えられないんですね。でもサボテンだと乾燥地でも植林できる。なので、乾燥地で二酸化炭素を固定できるっていうのがひとつあるんですね。
しかも最近、実際に昨年の11月にイギリスで、COP26気候変動枠組み条約締約国会議というのがあったんですけど、そこでメキシコの企業がサボテンを使った植林事業、カーボンオフセット事業を実際に紹介しているんです。なので、すでに世界の企業は、サボテンを使ったカーボンオフセットを始めているんですね」
●サボテンって本当にすごいですね!
「すごいです! ついでに私の研究も紹介していいですか?」
●もちろんです!
「ちょうどそこをやっていまして、実はサボテンを二酸化炭素の固定に使うメリットがもうひとつあって、サボテンは空気中の二酸化炭素を結晶化することができるんです」
●結晶化!?
「具体的に言いますと、透明な金平糖(こんぺいとう)みたいな結晶に二酸化炭素を変換しちゃうんですよ。バイオミネラルって言うんですけど、石みたいにしちゃうんですね。そうするとなにがいいかって言いますと、普通の木だと枯れた時に木の中にあった二酸化炭素は全部また逃げていっちゃうんです。
なので、保持できるのは一時的なんですけど、サボテンだと体に閉じ込めた二酸化炭素の一部が結晶化しているので、サボテンが枯れても出ていかないんです」
●残るわけですね!
「残るんですね、地面に。なので、二酸化炭素の長期固定にサボテンは使えるかもしれないということです。そうすると1000年以上、安定して二酸化炭素を固定できる、そのメカニズム、どうやってサボテンが二酸化炭素を結晶化しているのかとか、その結晶がサボテンの中で何をやっているのかを私は今調べています」
*編集部注:実は堀部さんはつい最近、カンボジアに行っていたそうです。これは日本の企業や政府機関とともに行なう人道支援事業のためで、カンボジアにたくさん残されている地雷原の跡地に、食用になるウチワサボテンを植え、雇用を産み出し、産業を作るというものだそうです。サボテンの可能性がさらに広がりそうですね。
●では最後に、サボテン博士として研究対象であるサボテンから、改めてどんなことを感じていらっしゃいますか?
「そうですね。正直、サボテンに限ったことではないんですけれども、生き物ってすごいなぁっていうことですね。と言いますのは、サボテンについて調べていると、乾燥とか高温に耐えるための仕組みが何重にも存在するんです。
さっきご紹介した茎の形だったりとかトゲだったりとか、あと根っこの構造なんかも乾燥に強くなるための仕組みが何重にも備わっているんですね。それはサボテンだけではなくて、すべての生き物はそれぞれに特徴的な生きる力っていうのを持っているんです。
そういうのを見るとすごく感心しますし、なんか元気づけられるんです。生き物は、生きるための仕組みをすごく備えて、よくできているから、多分自分も大丈夫なんじゃないかなみたいに思っているんですよね。勝手に励まされるみたいな感じです」
INFORMATION
サボテンに興味を持ったかたは、堀部さんの本をぜひ読んでください。サボテンに関する学術的なことも載っていますが、サボテンの初心者のかたが読んでも「へ〜〜っ! そうなんだ〜!」の連続で、面白いですよ。アリゾナやメキシコに調査に行った時の珍道中も楽しく読めます。サボテン・多肉植物のミニ図鑑も掲載されています。ぜひご覧ください。
ベレ出版から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎ベレ出版HP:https://www.beret.co.jp/books/detail/841
堀部さんの研究室のサイトもぜひ見てくださいね。
◎堀部さんの研究室HP:https://www3.chubu.ac.jp/faculty/horibe_takanori/
2022/9/18 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、フリーライターで写真家の「山本高樹」さんです。
山本さんは1969年、岡山生まれ。出版社勤務と海外を巡る旅のあと、2001年からフリーランスとして活動、2007年からはインド北部の山岳地帯、標高3500メートルの地に広がるチベット文化圏「ラダック」地方を長期取材。
その後もラダックの取材をライフワークとし、現地の人たちやその土地の気候風土と向き合い、丁寧な取材をもとに文章を書き、本として出版されています。そして2020年に出版した『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』が第6回「斎藤茂太賞」を受賞。
そんな「山本」さんが3年ぶりにインド北部を訪れ、先頃帰国されたということで、改めて番組にお迎えすることになりました。
きょうは最新版のラダックの旅、そして先頃出された本『旅は旨くて、時々苦い』から世界の旅で出会った「食」のお話をうかがいます。
☆写真:山本高樹

インド北部、へき地をまわるひとり旅
※山本さんはこの夏に、次に出版する本の取材のためにインド北部を訪れています。3年ぶりの海外ということで、最初は英語のフレーズがすぐに出てこなかったり、荷造りに手間取ったりと、勘が戻らなかったそうですよ。
今回訪れたのは、山本さんのメイン・フィールド、インド北部のラダック地方ということなんですが、日本から目的地まで、どうやって行ったんですか?
「僕が取材した範囲に関しては、インドの首都デリーまで日本から直行便が飛んでいますので、それに乗って行きました。
デリーからラダック地方の中心地になるレイという町までは、飛行機で1時間ちょっとで飛ぶので、往路は飛行機でそこまで行って、そのあとはひたすら1ヶ月半ぐらいずーっと車だったりバスだったり、陸路でだいたい1800キロぐらい移動しました。平坦な道は最後の300キロぐらいしかなくて(苦笑)、あとはずっと悪路でしたね」

●えぇ〜、そうなんですか。タフな旅でしたね。
「そうでしたね。トレッキングはしなかったので、そういう意味では体力は使わなかったんですけど、ずーっと悪路で揺られている状態だったので、別の意味で体力を使う旅だったのかなと思います」
●行かれたのは8月ですか?
「7月の中旬から8月の下旬ぐらいまで、1ヶ月半ぐらいという感じです」
●その頃のインド北部はどんな気候なんですか?
「僕が行った地域は、ほとんど標高が3500メートル以上の富士山ぐらいの標高のところが多くて、日差しは強くて暑いんですけれども、夜は涼しくてクーラーとか全然なくても眠れるような、乾燥してすっきりした気候ですね」
●今回もやっぱり、へき地を巡る旅っていう感じだったんでしょうか?
「そうですね(笑)。本当にへき地ばっかり。ただ、行き慣れている場所ではあるので、新鮮な驚きを持つ旅というよりは、どっちかというと帰省したみたいな感じの(笑)、久しぶりに戻ったなみたいな感じの旅でしたね」
●どのあたりを重点的にまわられたんですか?
「本のための取材という目的があったので、陸路で少しずつ移動しながら、行く先々を少しずつ、町や村の調査をしながらまわってましたね」
●今回もおひとりで行かれたんですか?
「そうですね。僕は職業がライターで、写真も撮る人間なんですね。人件費を余分にかけられないので、写真が撮れなかったらカメラマンさんをお願いするんですけど、僕は自分で撮れるので、より予算を節約するためにひとりで行くというパターンです。どんな仕事でもひとりで取材に行っていますね」

忘れられない衝撃の味
※へき地の旅は体力を維持するためにも、特に食事が大事になってくると思いますが、今回の旅で美味しいものとの出会いはありましたか?
「まわっている中で、スピティというチベット文化圏の、標高4000メートルぐらいのところにあるデムルという村に行ったんですけれども、そこに10年以上前から友達の実家があって、彼の家に泊めてもらったんです。
昔も食べさせてもらったんですけども・・・その村はたくさん牛を飼っていて、新鮮なミルクでヨーグルトやバター、チーズとか作るんですね。そこで朝ごはんにパンに付けて食べたバターやヨーグルトがすっごいフレッシュで、忘れられない衝撃の味で、本当に美味しいんですよ!
標高4000メートルの青い草しか食べていない、牛から採った牛乳で作ったバターとかヨーグルトなので、混じりっけなしのスッキリとした味なんですよ。10年ぶりぐらいに食べさせてもらって、やっぱり感動しましたね」

●いいですね〜。今回そのお友達のおうちにずっと泊まっていたんですか?
「その家に泊まっていたのは、3日間ぐらいでした。たまたま彼と連絡がとれて、行っていい? って言ったら、ちょうど今町まで車で来ているから乗っけてってあげるよって言われて、(彼の家まで連れて行ってもらって)泊まったんです」
●本当にそういうフランクな感じで旅をされているんですね。
「行く先々で知り合いの馴染みの宿のおうちに泊めてもらったりとか、友達が車を出してあげるよって言って、乗っけていってもらったりとか、その友達のやっている宿に泊めてもらったりとか、そのパターンがすごく多いですね」
●今回の旅で印象的な出来事ってありましたか?
「その友達の家に泊めてもらった時に、スピティのデムルという村に滞在している最中に、その村で夏の終わりに収穫祭をやるんですけれども、その儀式に立ち合わせてもらったのがすごく印象的でした。
あまり詳しくは話せないんですけれども、まだマル秘の部分があるので・・・(笑)、すごくいい体験をさせてもらって、いい写真を撮らせてもらって・・・それもたまたま呼んでもらって、たまたまその場に居合わせて、たまたま天気がよくってっていうパターンだったので、本当に運がよかったなと思います」
●次回の本を楽しみにしていますね! 今回の旅を通してインドやラダックの方々に対する思いとか、何か変化はありましたか?
「いや〜どうなんですかね〜。3年ぶりぐらいに行ったので、みんな感動の再会をしてくれると思ったんですけど、全然普通でなんにもなかったです(笑)。あ〜また来たの、みたいな感じで、当たり前のように扱われて、全然なにもなかったですね(笑)」
●ある意味いいですね。家族のような感じでね!
「まったくなんにも・・・親戚に久しぶりに会ったぐらいの感じです(笑)」

旅の記憶は、味の記憶に結びつく

●山本さんは先頃『旅は旨くて、時々苦い』という本を出されました。私も読ませていただいたんですけれども、「人は旅に出るとそのうちのかなりの時間を食べるという行為のために費やす」と書かれていましたね。それぞれの国で出会った「食」と共に、様々な思い出が綴られていて、情景をすごくイメージしながら、一緒に旅をしている気分になれました。
「ありがとうございます!」
●今回、「食」を切り口にした本を出そうと思ったのは、どうしてなんですか?
「もともと僕30年ぐらい前から、あっちこっち旅を繰り返してきていて、その度にまめに日記とか書いていたので、ノートは全部手元にあるんですね。そういう旅の話を、いつか振り返って書く機会があればいいなと思っていたんです。
すごく雑多な記憶の集積だったので、何をどうまとめていいのかみたいなところで考えていたんですけれども、ある時、あ! 食べたことの味の記憶っていうのは、意外とその時、経験した旅の記憶と結びついてよく覚えているなと。
やっぱり味覚って結構、五感全部を使って感じるものなので、そうやって自分の記憶に深く結ぶついた状態で保存されているんじゃないかなと思って、味の記憶を手がかりに記憶を振り返っていくと、たくさん思い出されることがありました。そういうのをまとめていくと、どうなるんだろうと思いついて書き始めたのが、今回の本のきっかけですね」

●確かに旅先での食事は、ただ空腹を満たすだけじゃない何かがありますよね?
「そうですよね。成功する時もあれば、あまりうまくいかないこともあったりとか(笑)、こんなはずじゃなかったものが出てきたりとかしますよね」
●それも思い出になりますよね。
「そうですよね。よく覚えていたりとか・・・あとトラブルにあってすごく困っている時に食べた物ってよく覚えているじゃないですか」
●確かににそうですね。
「逆に誰かに助けてもらった時に食べさせてもらった物もすごくよく覚えているし、そういう物ってずーっと思い続けていくと思うんですよね。そういうのを手がかりに本を、文章を書いてみたらどうだろうって思ったのが、この本のスタートラインだったというところです」
ドイツの安いパンと、ラダックのコーヒー
※この本に載っているエピソードから、いくつかお聞きしますね。「スーパーでいちばん安いパンとベルリンの壁」という記事がありましたが、これはどんなお話なんですか?
「これはひとつふたつ前の話から始まるんですけど、中国を旅したあとに、同じ最初の海外旅行の時に、北京からモスクワまでシベリア鉄道に乗ったんですね。
その時にたまたま同じコンパートメントになったドイツ人の若者がいて、僕とほぼ同じ歳ぐらいの人で、僕がベルリンに行くと言うと、彼がベルリンに来たらうちの大学の学生寮に泊めてあげるよって、夏休みだから空いている部屋あるから来い来い、って言ってくれて、僕はバカ正直に本当に行ったんです。
住所を頼りに出かけて行って、彼のところに1週間ぐらい泊めてもらって、居候させてもらった時の話を書いたんですけれども、今考えると、すごいなと(笑)、無茶やっているなと思うんですけどね。
その時に彼の住んでいた学生寮のすぐ近くにスーパーマーケットがあって、彼に案内してもらって、毎朝、朝ご飯に食べるパンとか、間に挟むハムとかをそこで買っていたんです。彼がいちばん安いパンがいちばん美味いぞ! って言ってくれて、確かにいちばん美味しかったんですね(笑)。
ドイツなのでパンがとても美味しくて、しかもいろんな種類のパンがスーパーに山積みになっていて、店の中にパンの焼きたての香りがふわ〜っと漂っているんです。その中でいちばん安いパンを3つ4つ買って、持って帰って半分に切って、サワークリームを塗ったりハムを挟んだり、みたいな形で食べていたっていうのを思い出して・・・」
●いいですよね〜。
「そういう話はやっぱりよく覚えているんですよね。あの時に食べたパン、美味かったなぁ〜みたいな感じで、なんか似たような匂いとか嗅ぐと、あ! あの時のあれ! みたいな感じで思い出したりとか、そういうことありますよね」
●そうですよね。記憶が蘇ってきますよね〜。あと「スノーキャップ・カプチーノと勉強の日々」、こちらはインドのお話でしたけれども・・・。
「そうですね。今年の夏も行ったラダックという場所での話なんです。僕は2007年から1年半くらい足掛け、時間をかけて、ラダックで長期取材をしていた時期があって、それはラダックについて本を書こうと思い立ったからなんですけれども、そのためには現地の言葉を学ばなければということで・・・」
●ラダック語、ですよね?
「チベット語の方言で、チベット語とも少し発音が違うんですけれども、とにかく学ぶしかないと。ちょっとでも現地の人に近づきたいなと思って・・・やっぱり現地語を喋れると現地の人の心のハードルも下がるので、なんとかしてそういう技術を身につけたいと思っていました。
時間だけはあったので、取材に行かない時に、町にいる時にはずっと勉強していたんです。その時によく通っていたお店の、当時はまともなコーヒーを出してくれる店が、そのレイという町にはあまりなくて、貴重なカフェインを摂取しながら、勉強していた時期を思い出しながら書いた文章ですね」
●「砂漠に降る恵みの雨のような存在」っていうふうに本に書かれていましたね。
「お店の名前が「Dessert Rain Café(デザートレインカフェ)」という名前だったんですね。もう今は閉店してしまったんですけど、あの頃あのお店の中で涼しい風に吹かれながら勉強していた日々を今でもよく覚えています」
(編集部注:山本さん流の美味しいご飯の探し方として、行った先でぶらぶらしながら、地元の人たちが集まっているお店に入って、おじさんたちが食べているものを注文するそうです。ほかにも宿のおかみさんが作ってくれる「おうちごはん」的なものがいいとのことでした。つまり土地の人が食べているものが、いちばん美味しいということなんですね)
※今まで旅先で食べたもので、強烈に印象に残っているお料理はありますか?
「またラダックで食べた物なんですけれども、トレッキングに行っている時に食べさせてもらった”トゥクパ”って言って、すいとんとか、ほうとうみたいな感じで、小麦粉を練ったものを汁で煮込んだ料理があるんですね。
ガイドしてくれた男の人がきょうはヤクの干し肉があるぞ! って言ってくれて・・・ヤクは毛長牛という、ヒマラヤの高地に住んでいる毛が長い牛なんですけど、その肉が美味しいんです。さらにそれを干し肉にしているものがあって、それをトゥクパにして煮込むと素晴らしい旨味が出て、お肉自体もホロホロに美味しくて、それはすごく美味しかったですね。
干し肉は、ラダック人でも高地に行って遊牧民と交渉して、もしあったら買ってきてくれって言われるぐらいすごくレアなものらしくて、とても美味しくいただいた記憶です」

時々いただけるご褒美
※都会で暮らしていると、食材は買ってくるもので、お腹が空けば、食べるものはすぐ手に入ります。でも山本さんが取材に行くへき地では、そうはいきませんよね。
「そうですね。まず大地を耕しタネを蒔くところから始めますからね」
●そうですよね〜。やっぱり現地では食材は育てる物、収穫する物っていう感じなんですか?
「全部が全部、もちろんそうではなくて、やっぱり近代化に伴って外部から輸入している物だったりとかもたくさんあるんですね。でもやっぱり伝統的な料理であったり、そもそも生活を支えている基盤は、農業だったり牧畜だったりしている部分が未だにたくさんあるので、その辺はすごく大事にしているというか、生活に根ざしている、生きるために働いているっていう感じがすごくあると思います」
●食べることと生きることが直結しているんだろうなっていう印象があるんですけれども、実際にいかがですか? 感じられることはありますか?
「やっぱり旅に出ると、食べることと生きることの結びつきみたいなものが、すごく解像度が上がったように感じられる部分があると思うんですよ。
路頭に迷ったら困るじゃないですか。泊まる宿が見つかんなかったり、どこかでご飯を食べようと思ったら、お店が全部閉まっていたりとか、ストライキかなんかでとか、実際にそういうことが時々あるんですね。
そういう時に、どうしようって思った時に、たまたまご飯を見つけられたりとかすると、あ〜食べる物があって良かったなってしみじみ思いますし、お腹を壊して辛い時に、だれか優しい人がお粥とか作ってくれたりすると、なんかそれもしみじみ美味しかったりしますよね。
そういう時にありがたみを感じることがあるので、やっぱり旅は僕たちが生きている、当たり前のことをわかりやすく示してくれる効能があるのかなって思いますね」
●山本さんは旅をされていて、どんな瞬間に幸せを感じますか?
「どうですかね〜。人によっていっぱいあると思うんですけど、今回に関しても自分が想像もしていなかった時にとてつもないギフトを貰える時があって、あまり詳しくは話せないんですけど・・・(笑)。
今までの旅でも、本当に奇跡なんかじゃないかと思うような瞬間に立ち会えることがあったりしたんです。それは狙って体験できるものでは、絶対ないんですけれども、ずっと現地のことを見守り続けていると、時々そういうご褒美をもらえることがあるのかなと思える時があります。
そういう自分がいただいたものを、僕は物書きであったり写真家であったりするので、ひとりでも多くの人に本という形で伝えていけたらなと思っています」
☆この他の山本高樹さんのトークもご覧下さい。
INFORMATION
30年以上、世界を旅してきた山本さんが訪問先で出会った「食」をテーマに書き上げた本です。味の記憶とともに綴られた旅の紀行文を、じっくり味わうことができますよ。ぜひ読んでください。「産業編集センター」から絶賛発売中です。
詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎「産業編集センター」HP:https://www.shc.co.jp/book/17377
本の出版を記念して、鎌倉市大船の書店「ポルべニール ブックストア」で現在、ラオス写真展と、世界の食文化フェアが開催されています。会期は10月3日まで。ぜひお出かけください。
詳しくは「ポルべニール ブックストア」のサイトをご覧ください。
◎「ポルべニール ブックストア」HP:https://www.porvenir-bookstore.com/
山本さんのオフィシャルサイト「ラダック滞在記」そして個人サイトもぜひ見てください。
◎「ラダック滞在記」HP:https://ymtk.jp/ladakh/
◎山本高樹さんの個人サイト:https://ymtk.jp/wind/
2022/9/11 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、京都女子大学・教授、
そして動物行動学者の「中田兼介(なかた・けんすけ)」さんです。
中田さんは1967年、大阪生まれ。子供の頃から生き物好きだったそうですが、ご本人曰く、昆虫少年ではなく、普通の子供だったとか。専門は動物の行動学や生態学で、おもにクモの研究をされていて、「クモ博士」として知られています。
そして先頃、中田さんも所属する「日本動物行動学会」から動物行動学を広める活動や以前出版された『クモのイト』という本が評価され、賞を授与されています。
きょうはそんな中田さんに、生き物たちの摩訶不思議な生態や、クモの驚くべき営みのお話などうかがいます。
☆写真協力:中田兼介、ミシマ社

「りくつ」に込めた思い
※中田さんは先頃『もえる! いきもののりくつ』という本を出されました。本のタイトルに「りくつ」と入れたのは、どうしてなんですか?
「生き物って、やっぱり僕らと全然違いますやん。僕ら人間は、なんとなく自分と違うものを、ちょっと遠ざけたりとか下に見たりとか、そういうことをしがちでしょ?
やっぱりそれって生き物好きとしては悲しいじゃないですか。違うものでも受け入れてもらおうと思ったら、相手もちゃんと理由があって、合理的なもんなんだっていうことがわかれば、ちょっと違うから嫌だ、みたいなところが和らげられるかなと思って、そこの部分を”りくつ”っていう言葉に込めたんですけどね。
全然違う生き物でも、相手がなんでそうしているのかがわかれば、ちょっと近づけるじゃないですか。そういうことです。
人間でもそうでしょ? 全然知らん人がやってきて、なんかわけのわからんことをやっていても、話を聞いてみると、この人こういうことしてんねんやって思ったら、ちょっと近づけるかなっていう感じですね。そういう言葉を“りくつ”っていう言葉に込めたんですね。理屈って、ちょっと堅苦しいなみたいに思われるところがありますけど、まぁそう言わんとっていうところですね」

●この本では81編の生き物たちの面白い生態が紹介されています。その中から気になった生き物についてうかがっていきたいと思います。まずはタツノオトシゴが”イクメン”とありましたが、そうなんですか?
「はい、オスのお腹に育児嚢(いくじのう)っていう小さな袋があるんです。で、メスがその袋の中に卵を産み付けるんです。そうすると、卵からかえって小さなタツノオトシゴが育つまで、時間が掛かるんですけど、その間はお父さんがお腹の中で子供を守っている、育てるっていうんですかね」
●オスが妊娠しているみたいな感じっていうことですか?
「そうです、そうです。で、お腹の中でかえると、ある程度大きくなったタツノオトシゴがたまってくるんだけど、それをギュッとお腹から噴き出させるんです。だからオスが出産するっていうんですかね(笑)」
●すごい! そういう世界がタツノオトシゴにはあるんですね。
「魚の中にはオスが子育てをする、卵を守るっていう種類は結構いるんです」
●メスはその間は何をしているんですか?
「メスは、ほかのオスを探しに行きます」
●え!? そうなんですか。
「だから、逆ですよね(笑)」
卵が育つ場所で性別が変わる!?
※新しい本には、中田さんがご自宅で飼っているイシガメの話が載っています。卵から孵化する子ガメがオスになるのか、メスになるのか、何が作用して、オス・メスが決まるのか教えていただけますか。

「カメの仲間って、特にイシガメとかそうなんですけど、卵が育つ場所の温度でオスになるかメスになるかが決まるんです」
●温度が高ければ・・・?
「高いとメスで、低いとオスになります。これ”温度性決定”って言うんです。温度によってオスかメスかの性が決まるっていう意味なんですけど、結構こういうことをする動物はほかにもいて、爬虫類では割といますし、そのほかにも結構いますね」
●例えばオスが欲しいな、なんて思ったら、卵が置かれた場所の温度を低くすれば、オスが産まれる可能性が高いってことですか?
「そうですね。うちで産まれてくる子ガメって、結構オスばっかりなんですよ」
●ということは、温度が低いってことですか?
「多分温度が低いところに産んでいるんでしょうね。ここ3年くらい毎年、子ガメが産まれているんですけど、最初の頃はオスばっかりやったんです。最近ちょっとメスが混じってきているなっていう感じで、暑い夏やからかな〜とか・・・本当かどうかわかりませんけどね(笑)」
●面白い〜! 温度によってどうして性別が変わるんですか?
「それは卵が成長していく時に、そうなるようなメカニズムがあるんですけどね。オスになるのかメスになるのかっていうのは、僕ら人間は遺伝的に決まっていますけど、そんなにカチッとしたものじゃないんです。
遺伝的にはっきり決まっているっていうわけでもないですし、魚の中には性転換するものもいて、若い時はメスだけど、歳をとってくるとオスになるとか、体の中が作り変わるとか、そういうことをするのもいるので、僕らが思っているほど(性別は)ガチっと固まっているものじゃないんです」
つられ「あくび」には意味がある!?
※新刊の『もえる! いきもののりくつ』には「つられあくびのライオンたち」という話が載っていましたが、動物もつられてあくびをするんですね。

「そうですね。結構そういうことが知られている生き物もいますね。猿の仲間とか、豚とか犬とか、うつるみたいですね」
●あくびしているのを見ると、別に眠いわけではないのに勝手に出ちゃいますよね。
「そうですね。そういう動物ってみんな社会で暮らしているから、なんていうか気持ちを同調させるっていうかな、そういう効果があるんじゃないかっていうことを言ってる人もいます」
●ライオンもそうなんですね。
「ライオンもそうだっていう話で、ライオンの場合は誰かがあくびをしたら、ほかにうつるだけじゃなくて、立ち上がったら一緒に立ち上がることもあるみたいで、やっぱりそれが同調の、みんなで気持ちを一緒にするような効果があるんじゃないかっていう、そういう話です。
ただね、あくびをなんでするかって、ほかにもいろんな説があって、脳を冷やすっていう話もあるらしいんですよ。大きく息を吸うでしょ。そうしたら冷たい空気を取り入れて喉を通すと、喉に血管が走っているから、その血管が冷やされて脳が冷やされるという話があってね。脳の大きな動物ほど、あくびがたくさん出るっていう話もあって・・・いろいろあるみたいなんですけどね」

●へ〜! あと、シマウマのシマの謎、これもすごく意外だったんですけれども、ぜひこちらも説明をお願いします。
「シマウマになんでシマがあるかって不思議じゃないですか。昔は、彼らサバンナにいるから、草がいっぱい生えていて、草の陰に自分の身を隠すために役立つんちゃうかっていうようなことを言われていたらしいんです。
ところが調べてみたら、病気を媒介するハエがいるところにシマウマがおるでっていう話があって、ひょっとして病気にならないために、ハエを寄せ付けないためにシマができたんちゃうかって考え始めたんですって。なんでそんなことを思い付いたんか、僕も分からないんですけど(笑)、そういうことを思い付いた人がいて、調べてみたらシマ模様にはハエがとまりにくいらしいんですよ。だから病気になりにくいって効果があるみたいですね」
●シマシマ模様は虫対策ってことですか?
「そういう話らしいんです。ちょっと不思議ですよね。なんか聞いたところによると、黒い部分と白い部分があると、太陽の光を受けて温まるところと、あんまり温まらないところってできるでしょ。それで微妙な気流が生じてハエがとまりにくくなってんちゃうか、みたいなことを言ってる人もいるんです。
ホンマかどうか、こういうのっていろんな論文に書かれているんですけれども、論文に書かれているだけで、即本当かっていうとそれは必ずしもそうではないので、なるほど、こんな説もあるんだなくらいの形で聞いとく感じですね」
クモのギョッとする生態
※中田さんはおもにクモを専門にされているということですが、具体的にはどんな研究をされているんですか?
「最初の頃は網(蜘蛛の巣)の作り方をずっとやっていたんですけど、最近は交尾行動で、なかなかエグいことをするのがいるんですよ、クモの中には。ギョッとするような交尾行動を研究しています」
●クモは、私は正直苦手なんですけど(笑)、クモの研究はどうですか、面白いですか?
「そうですよね(笑)。(クモの研究は)面白いですよ、結構複雑なことをいっぱいしてくれるので、見ていて飽きないですね。網を張るクモはどこかへ行かないんですよ。だから同じ場所で割と長いこと1匹を見続けることができて、いろんなことがわかるんですね」
●そもそもクモは、どうして巣を作れるんですか?
「なんて言うんですか・・・もともと体の中にそういうプログラムを持っているみたいで、体から糸を出すんですけど、その糸を組み合わせて、自分の種類に応じた形の巣を作るんですね。だからどうしてっていうのは・・・これで答えになっていますかね(笑)」

●縦糸と横糸で強度が違う、なんてことも聞いたことがあるんですけど・・・?
「そうですね。いろんな種類の糸をクモは出すことができて、種類によっていろいろなんですけど、最大で7種類の糸を持っているんです。その中には強い糸もあるし、ネバつくのもあるし、すごく伸びるっていうような糸もあって、用途に応じて使い分けているっていう感じなんですね」
(編集部注:クモの糸の特性を研究し、微生物を使ってタンパク質素材を量産、そして作られた糸を使った繊維製品が開発されているそうですよ。今後も注目です)
●先ほど中田さんが、ギョッとする行動をするなんておっしゃっていましたが、どんな行動をするクモなんですか?
「オスとメスが交尾をするんですけど、その時にオスがメスの交尾器を壊して、今後使えなくして去っていくんです。
オスの側からすると、今交尾したメスが自分の子供を確実に産んでくれるかって分からないんですよ。自分が離れたあとに別のオスがやって来て交尾すると、このメスが産む卵がほかのオスの卵になっちゃうかもしれない。それを防ぐために交尾器を壊しちゃうんです。使えなくしちゃうんです。
そうすると、そのあと交尾はできなくなるんですけど、卵は産めるので、自分が後尾したあとの子供は、全部自分のものみたいな・・・(笑)」
●へぇ〜すごい〜!
「ちょっと、人間の目からするとギョッとするんですけど・・・」
※先ほどクモの糸のお話がありましたが、その強度はどれくらいなんですか?

「クモの糸は自然界にあるやつは、めちゃくちゃ細いので・・・あの細いのがそれなりの太さになっていれば、結構強いんです。鋼鉄ぐらいの強さはあります。ここで強さって結構面倒臭くって、切るのにどれぐらいの力が必要かっていう話で言うと、鉄と同じぐらいなんですよ」
●すごい強度ですね!
「それだけじゃなくて、クモの糸は伸びるんですよ! 切るのに力がいるのに加えて伸びるんです。
伸びるとなにがいいかと言うと、虫が飛んできた時にぶつかりますよね、糸に。ぶつかった動きを止めるためには、鉄やったら鉄自体が壊れる割れるとか、そういうことになるんですけど、糸は伸びるから、ぷにょーんって変形して、また伸びたもんが元へ戻る時に動きを止められるので、糸は切れずに止められるんですよ。
これ結構クモにとっては便利で、昆虫がぶつかるたびに糸が切れて、網が壊れていたら餌が獲れなくなるんで、そこがいいところですね」

よく光る糸で作られているそうです。昆虫をおびき寄せる働きがあるらしいと
クモ博士・中田さんに教えていただきました。クモの世界は摩訶不思議!
(編集部注:クモの糸が強くて伸びるというお話で、映画のスパイダーマンを思い浮かべたかたもいらっしゃると思いますが、クモ博士の中田さんは2012年公開の『アメイジング・スパイダーマン』のワールドプレミア、そのYouTubeの生中継にコメンテーターとして登場されたそうですよ。映画好きでクモ好きな中田さんだからこそのエピソードですね)
人間の外側にものさしを持つ
※生き物の生態を知ることは、人間そのものや、人間社会を知る手がかりにもなりますよね?
「なんて言うんかな・・・自分のことを知りたいって思った時に、何かものさしってっていうか基準が必要だと思うんですよ。自分のことを知りたいと思った時に、ほかの誰かと比べてみて、あっ、僕はあの人と比べて、ここが違うから僕はこういう人間なんやと思うと思うんですね。
人間ってなんやろなと思った時に、人間じゃないものを見て比べる、そういうことをすることが、自分自身を、人間を、理解するひとつのやりかたになるんちゃうんかなと思っているんです。
生き物のことを知るっていうのは、人間の外側に何かものさしを持つっていうのかな、そういうことになるんかなと思っています」
●中田さんご自身も生き物たちの行動から学ぶことも多いですか?
「あ〜いやぁ〜、生き物は僕らと違いますから、学ぶとかっていうんじゃないです。生き物がこういうことするから、僕らもっていうのは、それはちょっと違うと思うんです。彼らは彼らだし、僕らは僕らだと。違いがあって、違いがあるけど同じ環境、地球をシェアしている仲間ですからね。そういうものとして、自分たちを位置付けられるようになればいいなって思いますけどね。学ぶっていうのはちょっとなんか違いますね」
●では最後に長年、生き物たちを見てきて、どんなことを感じられていますか?
「なんだろうな・・・いろいろあるんで・・・生き物に対してというか、自分の人生が短すぎるなとよく思います。
僕30年以上も研究しているんですけど、それでわかったことなんて、本当にちょっとしかないんですよ。いろんな生き物がやっていることのちょっとだけしかわかっていなくて・・・まだまだたくさんあるのにね。
自分の寿命が1万年ぐらいあったら、もっと面白いことがわかるのにな〜と思っています」
INFORMATION
中田さんの新しい本をぜひ読んでください。世界の動物行動学者たちの最新研究をもとに、中田さんがわかりやすく解説した、生き物の不思議で面白い生態が81編、載っています。中田さんのキャラクターも垣間見られて、楽しく読めますよ。各解説の最後にQRコードが載っていて、その話のもとになっている論文にリンクしています。
「ミシマ社」から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎「ミシマ社」HP:https://mishimasha.com/books/9784909394729/
動物行動学に興味を持ったかたは中田さんも所属する「日本動物行動学会」のサイトもご覧ください。
◎「日本動物行動学会」HP:https://www.ethology.jp/
2022/9/4 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第8弾!「目指せ! プラスチックフリーのライフスタイル!」。
ゲストは、情報サイト「プラなし生活」を運営されている「中嶋亮太(なかじま・りょうた)」さんと「古賀陽子(こが・ようこ)」さんです。
中嶋さんは実は、国立研究開発法人「海洋研究開発機構」JAMSTECの研究員で、海洋プラスチックの調査・研究をされていて、2年ほど前にもこの番組にご出演いただきました。
古賀さんは、プラなし生活を実践している主婦として、主婦目線で見つけたプラごみを減らすアイデアや優れものの生活雑貨などの情報を発信されています。
きょうはおふたりが先頃出された本『暮らしの図鑑 エコな毎日』をもとにお話をうかがっていきますが、今回は国連サミットで採択された「SDGs=持続可能な開発目標」の中から「つくる責任 つかう責任」そして「海の豊かさを守ろう」について考えていきましょう。

お話をうかがう前に、プラスチックフリーの生活を目指すための基礎知識。
あなたのおうちにプラスチックで作られたもの、たくさんありますよね。実は、毎年作られるプラスチックの4割近くは、食品トレーやポリ袋などの容器包装、いわゆる「使い捨てプラスチック」なんだそうです。
日本は、ひとりあたりが消費する容器包装プラスチックの量は、世界第2位。確かにスーパーに行けば、ほとんどの食材がプラスチックで包まれていますよね。
でも、プラごみを捨てるときは、リサイクルのために、ちゃんと分別しているから、問題はないと思っていたんですが、日本ではプラごみのおよそ70%は焼やしていて、日本国内でリサイクルされているのは、わずか8%ほどだそうです。
世界の海に流れ出ているプラごみは2050年には魚の量を超えるとも言われています。自然環境では分解されることがほとんどないプラごみ、少しでも減らさないと、近い将来、地球は「ごみの星」になってしまうかも知れませんね。
☆写真協力:中嶋亮太、古賀陽子、プラなし生活、海洋研究開発機構
おうちですぐ減らせるプラごみ
※それでは中嶋さんと古賀さんにお話をうかがいます。本に掲載されているアイデアやヒントの中から・・・まずは、生ごみを、ポリ袋ではなく、新聞紙で作ったごみ袋にためて処分することを提案されていますが、新聞紙のごみ袋はすぐ作れそうですね

古賀さん「そうですね。慣れたらひとつ20秒くらいで作れるんですよ。新聞紙にはすごくメリットがあって、ポリ袋だと通気性がないので悪臭がして、虫が寄って来やすくなるんですけど、新聞紙だとそういうことがほとんどなくて、ものすごく快適に生ゴミの処理ができますね。
あとは新聞紙って自然に乾いていくので、焼却する時のエネルギーも少なくて済みます。生ごみの80%が水分って言われているので、少しでも省エネに役立つんじゃないかなと思っています」
●本にはイラストで作り方が載っていました。必要なものは新聞紙1枚、大きなサイズでも新聞紙が2枚あれば作れる、本当に簡単なものですよね。
古賀さん「そうですね。新聞紙を持っているかたは、ぜひ作ってみていただきたいなと思っています」

●あと台所でもお風呂でも、固形の石鹸を使うことを推奨されていましたけれども、固形を使うメリットは、どんなところにあるんでしょうか?
古賀さん「液体の洗剤だと、ボトルとか詰め替えパックがプラスチックのごみになるんですけど、固形の場合は紙包装のものもあるし、仮にプラスチック包装だとしても、すごく小さなごみだけで済みますよね。
あと成分的にも優れていて、石鹸の成分が凝縮されているので洗浄力は高いですし、液体に比べて、刺激の強い成分とか保存料なんかもほとんど入っていないので、洗浄力は高いのに肌に優しいっていうのがすごくいい点です」
●油汚れが落ちにくいイメージだったんですけど、そんなことはないんですね。
古賀さん「そうですね。使い方にちょっとコツがあるんですけど、最初にギトギトした油汚れは、あらかじめいらない布とかで拭き取って洗ってもらうと、すごく綺麗になりますね。
石鹸で洗ったあとも水を張ったタライにつけないほうがいいです。なんでかって言うと、泡の中に閉じ込めた油がタライの水の中に広がっちゃうんですよね。それでほかの食器が汚れちゃったりするので、ためすすぎはせずに一個一個洗っていったほうが綺麗になりやすいです」
●食器洗い用のスポンジは、プラスチック製のものだとダメなんでしょうか?
中嶋さん「プラスチック製のスポンジやタワシは、だいたい使っているうちに小さくなってきたりするんですけど、あれってプラスチックが削れて、微小なマイクロプラスチックになって下水に流れているんですよね。だから使っていくうちにどんどん環境を汚染していくことになるんですよ。なのでプラスチック製のスポンジやタワシを、天然素材に代えることがとってもおすすめなんです」

●例えば、どんなものがいいんでしょうか?
中嶋さん「例えば木綿で作られたガラ紡のふきん、よく『びわこふきん』って名前でも売っているんですけど、これがとってもよく落ちるんですよね。
あとは、ちょっと焦げ付きのものとかであったら、白のタワシ、天然素材でできたタワシもよく落ちます。それだけあれば、まったく困ることないですね」
(編集部注:先ほど、固形洗剤のお話がありましたが、古賀さんによると髪の毛がさらさらになる美容成分の入った固形シャンプーがあるそうですよ。
また、食品用にたくさん使ってしまうラップ、これもすぐごみになってしまいますよね。『暮らしの図鑑 エコな毎日』には、みつろうラップなどで代用するアイデアが載っていますので、ぜひ参考になさってください)
洗濯バサミをステンレス製に
※本ではステンレスの洗濯バサミやハンガーが紹介されていました。プラスチックより、ステンレスのほうがいいということなんですね?

中嶋さん「小尾さんの家に多分、プラスチック製の洗濯バサミがあるかもしれないんですけど、使っているうちに割れますよね。あれ、実はプラスチックが劣化して割れて、そのうちマイクロプラスチックになって、一部が飛んでいって、その割れた小さなプラスチックの破片はずっと消えずに環境に残るんですよ。
どうしてもプラスチックって劣化していく、特に外に置いてある洗濯バサミは青い洗濯バサミが多いですよね。なんでかって言うと、青いと劣化の要因となる紫外線をちょっとはね返すことができるんですよ。だから劣化を少しでも遅らせるために洗濯バサミを青くするんですね。
洗濯バサミだけじゃなくて、外に置いてあるバケツも青いですよね。外に置いてあるコンテナとかも青いですよね。ごみ箱も青いと思います。それはみんな劣化を遅らせるためなんですけれども、やっぱりどうしても、使っているうちに白っぽくなっていきますよね。あれは色が抜けていって、それで劣化して割れてしまうんです。
なので、そういった心配がないステンレス製に代えていく、洗濯バサミもステンレス製に代えれば、ずっと劣化することなく使えますので、とってもおすすめですよ」
●毎日使うものですよね。あとトイレットペーパーを箱買いするというアイデアも載っていました。これはどんなメリットがあるんでしょうか?
古賀さん「小分けで売られているトイレットペーパーもプラスチック包装されていて、消耗品なのでよく買うし、その度にかさばるごみが出てしまいますよね。
いろいろ探してみると業務用のトイレットペーパーを見つけまして、ダンボールに40個ぐらい入っていて、ひとつひとつの包装、紙包装も何もないんですよ。そのままきっちり入っていて、売られているんですね。

そういったものを買って(トイレットペーパーを)一度にまとめ買いしちゃって、たくさんあるのでティッシュペーパーの代わりにもなるんですよ。例えば鼻をかんだりとか、油汚れを拭く時に使ったりもできますね。使う分だけちぎって使えるので無駄がないですし、あとは災害時とか緊急事態の時の備蓄にもなるので安心感もありますね」
●お掃除用の洗剤の代わりに、重曹やクエン酸が大活躍とも書かれていましたね。
古賀さん「はい、以前は私もいくつも専用の洗剤を買っていました。いろんな種類があるから、収納も結構大変なことになってたんですけど、家の汚れって、実はそんなに大したものがなくて、重曹とかクエン酸で十分綺麗になるんですよね。
例えば、台所の油汚れも重曹を溶かしたスプレーをかけておいたら落ちますし、焦げなんかも、重曹は研磨剤の代わりにもなるんで、それを振りかけて擦れば綺麗になりますし、本当にいろんなところに使えますね」
長く続けることが大事
※プラスチックをなるべく使わない生活をしようと思っても、私たちの身のまわりには、プラやビニールがあふれていますよね。やっぱり無理! と思ってしまうかたにアドバイスするとしたら、どんなことがありますか?
古賀さん「確かに自分ひとりではどうにもならないことってたくさんあって、社会が変わらないといけない面もほんとにたくさんあると思います。でもだからといって、何もできないってことはないと思うんですよね。
まずは自分の生活を振り返ってみて、変えられるところから始めてみてほしいんですよ。でも完璧にやるっていうことよりも、長く続けることのほうが大事なので、ほんとに小さなことでも長く続けていけば、大きな成果になっていくと思います。
あとは企業とか、お住まいの地域の自治体に対しても、もっとこういうものがあったらいいなとか、こんな仕組みができたらいいのにっていう要望を伝えていくってことも大事になってきますね」
●主婦のかたですと自分ひとりが気をつけていても、ちょっと主人がとか、息子がとか、いろいろなことがあると思うんですけど、家族みんなで意識を変えるいい方法はありますか?
古賀さん「私も最初は結構突っ走って(笑)、理屈っぽくなったり押し付けみたいな感じになってしまった時がありましたね。でもいくら正論を言ったところで、分かっているけど、ついていけないみたいな感じ、反感をかってしまうことがあるので、そういうのは一切やめましたね。
今は、私はこういうことが気になっているとか、私はこういうことが好きっていうのをさりげなく言ったりしています。なので、ふとした時に周りが、家族が気をつけてくれることが、ちょっとずつ増えてきたような感じがしますね。
あとは家族が興味のあることにリンクさせていくといいかなと思います。例えば、可愛いものが好きなら、海のプラごみで作った綺麗なアクセサリーの話をしたりとか、何か欲しいものがあるんだったら、エシカルな商品を一緒に見たりとか、そこから話題が広がっていったりもしますね」
中嶋さん「さっき話していた新聞紙で作るごみ袋は、子供のお小遣い稼ぎにとっても良くて、1枚作ったら10円とか。そうすると子供たちは楽しみながら作って、その時になんでこうやって(新聞紙のごみ袋を)作らなきゃいけないのっていう話をしたりすると、どうして問題なのかを自然に分かってくれたりしますよね。子供ってとっても敏感なのですぐ理解してくれたりします」
●確かに楽しみながら学べるのは素晴らしいですよね。おふたりはプラなし生活をしてみて、どんなことが喜びとして感じますか?
古賀さん「私は普段使うものに愛着がわくようになりましたね。しっかりひとつひとつ選んで、質のいいものを長く使うことに気をつけていると、ひとつひとつのものに愛着がわいてきて、そういったものを使いこなせていることにも自信がつきますね。なので、使い捨てのものをちょいちょい買う無駄もなくなったっていうのがよかったなって思っています」
中嶋さん「私の場合は、間違い探しでもなくてパズルでもないですけど、“あ! こんなところもプラスチックが使われている”っていうのを見つけて、“これはこれに代えられるじゃん”っていうのを見つけた時の喜びは、僕も古賀さんもとっても大きいですね」
●エコな商品は価格がちょっと高いイメージがあるんですけれども、購入をためらうかたに声をかけるとしたら、どんな声をかけますか?
古賀さん「無理に高いものを買う必要はないですし、一気に買い換える必要はないと思うんですね。今、家にあるプラスチック製品で、まだ使えるものは大事に使い続ければいいと思いますし、新しく買い換える時にひとつずつじっくり選んで欲しいですね。
今は価格が高くても購入者が増えると、ロット数も増えて価格が下がることもあるので、長い目で見て計画的に切り替えてもらうと無理がないかなと思います」
日本近海は、ごみの溜まり場!?
※海洋研究開発機構JAMSTECで海洋プラスチックを調査・研究されている中嶋さんにお話をうかがいます。2年ほど前にご出演いただいたあと、なにか新たな発見などありましたか?

中嶋さん「はい、前回小尾さんと話した時は、深海の水深約6000メートルの海底に行った時の話をしましたよね。なぜあの調査をしたかというと、プラスチックごみが行方不明になっているのが問題だったんですね。
ひとことで言うと、海にはたくさんのプラスチックごみが流れ込んでいるんですけど、実は海面にぷかぷか浮かんでいるごみって、全体の1%くらいしかなくって、残り99%はどこかに行っちゃっている、行方不明になっているというのが問題だったんです。
おそらくほとんど深海に沈んでいるんじゃないかってことで、深海の調査を開始したわけです。前回小尾さんにお話しした時は、水深約6000メートルの海底のごみの調査をした時のお話しをしたんですけども、新たに分かったことは、前回調査した房総半島から500キロメートルぐらい離れた、陸からすごく離れているところの海底に落ちていたごみが、世界でもトップクラスに多かったっていうことがわかったんですよ」

●えぇ〜! 世界でトップクラスですか?
中嶋さん「はい、世界の同じような水深帯で比べたら、間違いなく世界一という、ほかの陸から近いようなところと比べても、やっぱり多かったんですね」
●そんなに!?
中嶋さん「つまり、どういうことかと言うと、やっぱり日本の近海の深海底は、ごみの溜まり場になっていることを意味しているんです。今後は、今年の冬も来年も調査は続けていくんですけど、日本の周辺でもっとごみが溜まっている深海があると予想されているので、そういったところをどんどん明らかにしていく予定です」
●今後、解き明かしたいことと言うと・・・?
中嶋さん「今後解き明かしたいことはやっぱり、日本の近海の海底に沈んでいるプラごみの量を見えるようにすることです。ちょっと難しく言うと可視化するってことなんですけど・・・。
深海に沈んでいるごみって見えないじゃないですか。海に浮いていたら見えるけど、深海にいっていたらまず見えないので、そこにたくさんのごみがあることがだんだん分かってきましたから、日本の周辺のどこの深海にどれだけごみが溜まっているのか、どのように溜まっていくのか、そういったことを知ることが、今後プラごみを減らすための対策を打ち立てていくうえで、とっても重要な情報になるんですね。なので、まずは見えるようにすることが目標です」

●コロナ禍で何か海洋ごみに影響はあったんですか?
中嶋さん「コロナになって、まずはマスクのごみと手袋のごみが世界中で増えたんです。マスクなんて毎月、世界中で数千億枚とか使われていますので、非常にたくさんごみになって環境に漏れ出ていますよね。やっぱり落ちているのを見たことありますよね」
●あります〜。
中嶋さん「ああいうことが世界中で起きていて、それがやっぱり海にも入っていますし、あとコロナ禍になって、使い捨てのプラスチックの消費量が圧倒的に増えました。どうしてもテイクアウトするようになりますし、なんでも使い捨てのほうが安心っていうのもあって、やっぱり使い捨てが増えたのは否めないですね」
目指せ! プラなし生活
※ところでいま、おふたりがいちばん減ったらいいなと思うプラごみは、なんでしょうか。まずは古賀さんからお願いします。
古賀さん「私は個人的にはポリ袋ですね。スーパーでお買い物をした時に、お肉とかお魚を小さなポリ袋に入れて渡されることがよくあるんですけど、毎回レジに行く前に、ポリ袋はいりませんって言わないといけないっていうのがあって・・・。汚れないようにするために、そうしていただいているのは分かるんですけど、せめてレジ袋みたいに、いるいらないを選択できたらいいなって思っています」
●確かにそうですね〜。これ、ポリ袋に入れましょうか? っていうのを聞かれる前にもう入れられていますよね、中嶋さんはいかがですか?
中嶋さん「いろいろありますけど、特に思うのは使い捨てのお手拭きですね。日本ってレストランに行ってもフードコートに行ってもどこに行っても、お手拭きを出されますよね。お弁当の中にも入っていることありますし、こんなにお手拭きを配っている国は日本しかないですよ。
ファミリーレストランでも、お手拭きを何気なく渡されて、当たり前のように開けて手を拭いて、(テーブルに)置いておきますよね。見た目がめちゃめちゃ汚いんですよ。ご飯を食べ終わったあとにトイレに行って戻ってきて(テーブルを見ると)袋とお手拭きがすごく散乱していますよね。
見た目も良くないし、お手拭きの袋もプラスチックでしょ。お手拭き自体もプラスチックでできているんですよ。あれは不織布ですよね。不織布ってプラスチックを混ぜて作りますので、あれは使い捨てプラスチックなんですね。とにかくこれをなるべく出さないようにするには、みんな手を洗えばいいんですよ。
そういうふうにちょっと習慣を変えていくだけでも、ごみの量は大きく減るんじゃないかなと思っています」
●確かに当たり前とみんなが思ってしまっていますよね。
では最後におふたりにお聞きします。プラなし生活を実践してきて、ご自身の中で何が自分でいちばん変わりましたか?
古賀さん「私は使い捨てを見直すようになって、本当に必要かどうかをすごく考えるようになりましたね。新しく買うときもすごく慎重になっていて、ごみになったらどうやって捨てるのかなとかいろいろ考えるようになりました。
あとは買わずに、あるものでどうにかできないかとか、自分で作ることも増えましたね。それによって好奇心みたいなものが満たされて、クリエイティヴなことが増えていくのがすごく楽しいですね」
●中嶋さんはいかがでしょう?
中嶋さん「私はやっぱり研究者なので、こういったプラスチックが健康に影響するかもしれないというのを見つけることにやりがいを感じるようになりましたね。
この問題を解決するのは私たちの世代だけじゃなくて、今の若い世代、あるいは子供たち、未来を担う時代の主役たちに問題を伝えていかなくちゃいけないんだっていう意識が、どんどん高まってきましたね。プラなし生活を通じて、なぜこれは問題なのかっていうことをどんどん広めていって、さらに知ることでアクションにつながるので、そういった活動をもっともっと広げたいなって強く思うようになってきました」
(編集部注: SDGsの目標「つくる責任 つかう責任」そして「海の豊かさを守ろう」は、あまりにもプラスチックに依存している、私たちのライフスタイルを見直すためにある目標なのかも知れません)
INFORMATION
『暮らしの図鑑 エコな毎日〜プラスチックを減らすアイデア75×基礎知識×環境にやさしいモノ選びと暮らし方』
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◎「翔泳社」HP:https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798173580
情報サイト「プラなし生活」もぜひご覧ください。
◎「プラなし生活」HP:https://lessplasticlife.com/
◎国立研究開発法人「海洋研究開発機構」JAMSTECのオフィシャルサイト:https://www.jamstec.go.jp/j/
『暮らしの図鑑〜エコな毎日』を抽選で3名のかたにプレゼントいたします。
応募はメールでお願いします。
件名に「本のプレゼント希望」と書いて、番組までお送りください。
メールアドレスは flint@bayfm.co.jp
あなたの住所、氏名、職業、電話番号を忘れずに。
番組を聴いての感想なども書いてくださると嬉しいです。
応募の締め切りは 9月9日(金)。。
当選発表は発送をもって代えさせていただきます。
たくさんのご応募、お待ちしています。
応募は締め切られました。たくさんのご応募、誠にありがとうございました。
2022/8/28 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、サイエンスコミュニケーターの「渡邉克晃(わたなべ・かつあき)」さんです。
渡邊さんは1980年、三重県生まれ。子供の頃から石が好きで、家族旅行で海辺や川原に行く度に、綺麗な石を家に持ち帰るお子さんだったそうです。そして、広島大学に進学後は、植物や微生物によって引き起こされる岩石の風化現象を研究。大学卒業後は、東京大学 地球生命圏 科学グループなどで地球科学の研究に従事、その後独立し、現在はサイエンスコミュニケーターとして活躍中。地学博士、そして地質や鉱物の写真家でもいらっしゃいます。
また、2017年にウェブサイト「地学博士のサイエンス教室 グラニット」を立ち上げ、美しい写真とわかりやすい解説をモットーに運営されています。
☆写真:渡邉克晃

狙いは美しい写真!
●渡邉さんは先頃『ふしぎな鉱物図鑑』を出されました。私も拝見させていただいたんですけれども、文庫本サイズで、すべてカラー写真なんですよね。とにかく写真が美しくて見入ってしまいました。こんなに色が豊富で多様な鉱物があるんですね。全然知らなかったです。
「ありがとうございます。めちゃめちゃ嬉しいですね。そう言っていただけると」

●この本の狙いはどんなところにあるんですか?
「写真の美しさ、写真の綺麗さをいちばんの狙いにして作ったので・・・
嬉しいコメントありがとうございます」
●ほんとに綺麗でしたし美しかったです。
「この鉱物の標本は私の大学時代の恩師で、もう亡くなられた先生なんですけど、広島大学の北川隆司教授が集めていた鉱物コレクションを、ご家族のかたにお願いして、撮影させてもらうことができました。標本も立派ですし、ここを見せたいなというところでアップにしたりとか、角度を変えたり・・・撮り放題、思う存分、写真を撮らせていただきました。
最高の鉱物の写真を用意して、自分の持っている知識も活かしながら、わかりやすく文章も書いて、そんな感じで作った本なので、いちばんの狙いは写真になります。写真を見てほしいなというところですね」
●鉱物のことは全くの初心者です。なるべくわかりやすく教えていただきたいんですが、まず鉱物とは? 岩や石とは違うんでしょうか?
「ちょっとだけ、定義というか難しい、堅い話なんですけど、鉱物は自然界にあって個体の物質であり、地質作用によってできた物質、これが鉱物の定義としてあるんですね。

代表的なものは、皆さんよくご存知の、水晶ってありますよね。尖った六角形の柱みたいな透明な鉱物で自然界のものですよね。人工的に作ったものじゃないので、自然界のものであり、また液体とか気体じゃなくて、かちっとした固体ですね。
地質作用っていうのがちょっとわかりにくいんですけど、水晶はマグマの熱とか地下水が関係しながらできるものなんです。こういったものは生物的にできたものとか、人工的にできたものじゃなくて、地質作用によってできたものとされるわけです。
石や岩とは違うのかっていうところなんですけど、ややこしいところで、石ってやっぱりよく使っちゃうんですよね。石はすごく広い意味がある一般的な言葉で、鉱物も石です。岩も石になります。結石とか体の中にできるのも石です。石はすごく意味が広くて、ざっくりとした一般的な呼び名であって、学術的に言えば、石の中の一部が鉱物であり、また岩石である、こういった位置付けになります」
宝石も鉱物!?

●ダイヤモンドやルビーも鉱物ですよね? 宝石になっている鉱物も多いってことですか?
「そうですね。宝石になっている鉱物はすごく多くて、正確なところはわからないですけど、少なくとも代表的なものだけでも20種類以上は知られています。
ルビーの鉱物名はコランダムって言うんですけど、あとエメラルドの、宝石の鉱物名として緑柱石(りょくちゅうせき)があったり、もちろんダイヤモンドもそうです。あとヒスイという宝石になる翡翠輝石(ひすいきせき)とか、宝石になるものはたくさんありますね」

●鉱物は何種類くらいに分類されるんですか?
「鉱物種っていう種名としては、今世界中で知られているのは5700種程度ですね」
●5700! そんなにあるんですね。それぞれ何が違うんですか?
「鉱物種は化学組成という成分です。どんな元素でできているかが、ちょっとずつ違うっていうのがひとつ。あとは結晶の形というか、構造って言っているんですけど、鉱物はだいたい元素が規則的に並んだ形をしています。この規則的な並びがちょっとずつ違っても別の鉱物になるという、そういったこともあります」

鉱物はどうやって生まれるのか!?
※初歩的な質問なんですが、鉱物はどのようにして生まれるんですか?
「いろんな出来方があって、鉱物は主に地下でできます。例えば地下の深いところで、マグマが冷えて固まる時に岩石ができて、その岩石中にできる鉱物がまずあります。岩石はそもそも鉱物の集まりなので、ツブツブしていますよね。岩石にツブツブの模様が見えると思うんですけど、あのひとつひとつの粒が鉱物になるんです。
花崗岩(かこうがん)という白っぽくて、ごま塩模様の、お墓の石や建物の壁とかに使われている石があるんですけど、あれは地下でマグマが冷えて固まってできた岩石なんです。地下深いところで、ドロドロのマグマがゆっくり冷えて固まると、あの白っぽい岩石になるんです。
その白っぽい岩石、花崗岩の中には石英とか長石とか黒雲母とか、いっぱいツブツブとした鉱物が入っているわけなんです。というわけで、マグマが冷えることによって鉱物ができる、鉱物の出来方のひとつとして、それが代表的なものになります」

●鉱物が作られる時に必要な条件はあるんですか?
「先ほどの鉱物の出来方は、代表的なものをひとつだけあげましたが、もっといろいろあるんですね。地下だけじゃなくて、地表で酸素とか空気とか水に触れながら変わったりとか、地下深くで圧力と温度が高くて、新しい鉱物ができたりとか、いろいろあるんです。
条件としては圧力、温度、あと鉱物は固体なので、固体ができる前の液体状態の時の成分の違い、どんな圧力でどんな温度でどんな液体の成分か、これでどういう鉱物ができるかはだいたい決まっていきます」
●この本を読んで、ほんとにいろんな色の鉱物があるんだなって感じたんですけれども、こんなに多彩で多種多様な鉱物の、色や形の違いを決定づけるものは何でしょうか?
「色は主に成分ですね。鉱物がどういった元素でできているのかに主に関わっています。形のほうは、鉱物はだいたい規則正しく原子が並んでいる構造をしています。そのミクロというか目に見えない、小さい小さい微細な構造が、元素の並び方が鉱物の形を決める大きなひとつの要素になっています。
どういった原子の並び方をしているかによってだいたい外側の形も、どんな形になりやすいかっていうのは決まってきます。成分と原子の並び方で色や形が決まる、そういったことですね」

日本は鉱物の宝庫!?
※日本で発見された鉱物は何種類くらいあるんですか?
「日本では1300種くらい知られています。世界中で5700種に対して日本で1300種、日本は世界的に見ても、ほんとにたくさんの鉱物種が産出している国になります」
●それはどうしてなんですか?
「日本の地質環境がちょっと特殊であるというか、バラエティに富むことが理由になっています。日本の国がある場所は、プレートっていう、地球の表面を大きな岩盤が覆っていて、その岩盤が何枚かの板になっていて、それをプレートと言っているんですけど、日本があるところは、太平洋側からユーラシア大陸に向かって、プレートが沈みこんでいる場所になるんですね。
日本は地質が活発だなっていうのがなんとなくあると思うんですけれども、そういった土地柄で、マグマが上がってきたり、いろんな圧力が加わったりしながら、たくさんの種類の岩石、そして地質の環境というものがあります。複雑に複雑に混じり合っているわけなんです。
そういった影響で岩石の種類が多ければ、それだけ鉱物の種類も多くなりますし、地質作用が多ければ、それだけ鉱物の種類も多くなる、そういった土地柄が日本の鉱物種の多さに関係しています」
●日本だけで採れる鉱物っていうと、具体的にどんなものがあるんですか?
「例えば、千葉石、辺見石、糸魚川石とか、そういったいかにも日本ぽい名前がついている鉱物がありまして、こういったものが日本でしか採れない鉱物として、いくつか知られています」
(編集部注:世界ではおよそ5700種の鉱物が発見されているということでしたが、渡邉さんによると、新しい鉱物は年間100種ほど見つかっているそうです。
また、先ほどお話の中で、日本だけで発見された鉱物として「千葉石(ちばせき)」の名前が出ましたが、日本地質学会のサイトによれば、産出されたのは房総半島の南部で、きっかけは1998年にアマチュアの研究家が見つけた鉱物、そのときは内部が変質していたので正体がわからなかったそうです。その後2007年に別のアマチュア研究家が同じ場所から変質していない千葉石を見つけ、新発見につながったそうですよ)
鉱物は傑作品!?
※実際に鉱物を見てみたいと思ったかた、渡邉さんのおすすめは日本全国にある博物館。多くの博物館に石や鉱物の展示コーナーがあるそうです。また、全国46地域にある「ジオパーク」もおすすめだそうですよ。
ほかにも海岸や川原でも鉱物を見つられますか?
「見つかります(笑)。ただ見るだけじゃなくて、やっぱり自分で拾いたいとか、探したいっていうのはありますよね。楽しいですよね」
●コツはありますか?
「だいたい石は鉱物の集まりでできているので、川原とか海岸に行ってきれいな石を探せば、それが鉱物なんですよね。その鉱物を拾った人が、魅力的だと思うかどうかなので(笑)、コツっていうかなんというか、きれいな自分の好きな石をまず見つけることですよね。
色がきれいなのか、形がきれいなのか透明感があるのか、自分が実際に行って、あっ、これ、きれい! っていうのをまず見つけてもらいたいと思いますね。そのきれいな石を図鑑で、どんな石なのか、この石にどんな鉱物が含まれているのかを、ぜひ調べていただきたいなっていうのがあります。
きれいな石を拾ってくるだけだったら、いろんな人がやると思うんですけれども、拾ってきた石がなんていう石なのか岩石なのか、なんていう鉱物を含んでいるのか、これを図鑑とかで調べて、自分なりにでも名前がわかるとすごく楽しくなるんですよね。
これ、めっちゃきれいだなとか、この緑の石なんだろうな〜って拾ってきて、これ、緑泥石(りょくでいせき)っていうのか! 例えばですけど(笑)、わかったらもう俄然楽しくなるんじゃないかなと思います。石拾いが、鉱物採集が楽しくなると思います」
(編集部注:川原や海岸での石拾い、国立公園や国定公園などでは、持ち帰りは禁止されています。ご注意ください)
●では、最後に渡邉さんが思う鉱物の魅力とは、なんでしょうか?
「鉱物の魅力・・・鉱物は自然界が生み出した、創り出した傑作品であると私は思っています。鉱物を見ていると、色ももちろんきれいなんですけど、形がすごくシャープだったり、きれいなんですね。原子がものすごく規則正しく並んでいる、なんでこんなものが自然界にできるのかなって。自然界は放っておいたら、物はどんどん乱雑な方向、無秩序な方向に進んでいくわけなんですよ。部屋は放っておいたら散らかるみたいな感じなんです(笑)
でも秩序だったもの、高度に創り上げられたものができるためには、何かしらわざわざエネルギーを使うわけで、わざわざ創り出さないと絶対無理なんです。生物もそうやって自然界に生まれてきたと思いますし、鉱物もあの美しさ、あの規則正しさは、そうやって生み出された、わざわざ創り出されたものなんですよね。そこがほんとに神秘的で、鉱物の魅力だなって感じています」

INFORMATION
渡邉さんの新しい本をぜひご覧ください。写真家でもある渡邉さんが撮影した鉱物写真、どれも美しい写真で見とれてしまいます。色や形が多種多様で、その多彩さに驚きの連続です。鉱物の不思議をわかりやすく解説しています。オールカラーでポケットサイズなので、フィールドワークや鉱物の展示会のお供にいかがでしょうか。おすすめです。
「大和書房」から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎「大和書房」HP:https://www.daiwashobo.co.jp/book/b605966.html
渡邉さんが主宰するウェブサイト「地学博士のサイエンス教室 グラニット」も、ぜひご覧ください。
◎「地学博士のサイエンス教室 グラニット」HP:https://watanabekats.com/
2022/8/21 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、自然と人をつなぐ写真家「渡邉智之(わたなべ・ともゆき)」さんです。
渡邉さんは1987年生まれ。現在は岐阜市を拠点に、人の営みの近くで暮らす生き物を撮影。また、ニコンカレッジ名古屋校で講師としても活躍されています。そして先頃『きみの町にもきっといる。となりのホンドギツネ』という写真絵本を出されました。
きょうは、私たちのすぐそばで暮らしているホンドギツネの繁殖、子育て、そして人との関係など、あまり知られていない生態などうかがいます。
☆写真:渡邉智之

自然と人のつながり
※渡邉さんは「自然と人をつなぐ写真家」と名乗っていらっしゃいますが、そこにはどんな思いがあるのでしょうか?
「今の時代って人と自然がどうつながっているのかが、すごく見えにくい時代だなって感じているんですね。そういう見えにくい、自然と人のつながっている部分を、なんとか見える化できないかなっていうことを考えています。
自分からは動物写真家って名乗らないようにしているんですね。動物写真家と名乗ってしまうのは、ありではあるんですけど、僕は動物だけを撮りたいわけじゃないんです。動物と人のつながっていく様子だったり、動物同士のつながっている部分だったりとか、そういう見えにくい部分を表現していけたらなと思っているので、そういう意味で”自然と人をつなぐ写真家”と名乗っています」

●テーマが「自然と人のつながり」ってことなんですね。
「そうですね。なんとなく僕の中のイメージとして、自然と人をつなぐと自分では言ってはいるんですけど、僕の中で人という位置も、ほかの生き物と変わらなくて、結局自然の中で同じように生きている生き物なんですね。特に日本の自然なんかだと、野生動物の生態を撮るにしても野生動物だけで完結するわけじゃなくて、必ずそこには人の気配がどこかしらにあるんですね。
だから自然と人の関係性だったりとか、自然と人をつなぐというふうにわけていますけれども、自然の中に人は含まれているよっていうのは常に感じていますね」
●都会に暮らしていると、自然とつながっているんだなっていう意識は薄くなってしまう印象はあるんですけど、その辺りはいかがですか?
「そうですよね。田舎に暮らしていても、いま僕、岐阜市に住んでいますけど、県庁所在地で名古屋から20分くらいの場所なので、それなりに都会ではあるんです。
でも、そういうところに暮らしている人たちと話をしても、自然とそんなに関わっていなかったりとか、自分たちの身の周りでどういう自然現象が起こっていて、自分たちの暮らしにどういうふうに影響があってとか・・・逆に自分達の暮らしが野生動物、自然に対してどういうふうに影響しているのかを、気づかなかったり知らないっていうかたは、ものすごくいっぱいいますね」
昔から身近にいるキツネ
●先頃発売されました写真絵本『きみの町にもきっといる。 となりのホンドギツネ』、まさに自然と人のつながりがテーマになっているなと感じました。

私もこの写真絵本を読ませていただいて、遊歩道だったり公園だったり、すぐそばでキツネが暮らしていることにすごく驚いたんですね。ほとんどの人間は気づいていないとも書かれていましたが、こんなに人の近くにキツネっているんですね!
「そうなんですよね。みなさん、キツネって聞くと北海道をイメージするかたがすごく多いんですよ」
●はい! まさに私もそう思っていました。
「まさにそうですよね。たぶんそういうかたはすごくいらっしゃって、北海道にしかキツネはいないと思っているかたもいるんですね。
でもよくよく考えると、お稲荷さんのキツネだったりとか、キツネの能とかお祭りで売っているお面だったりとか、新美南吉(にいみ・なんきち)の童話『ごん狐』だったりとか、身近な場所にキツネに関する文化とか民話とか、そういうのが実はいっぱいあるんですよね。
そういう文化が生まれてきたっていうことは、つまり昔から人とキツネは常に近くにいて、なにかしらの関わりがあったことの証拠でもあるんですよね。だから昔の人たちは、おじいさん、おばあさんの世代の人たちはよく、キツネに化かされたっていう話を本当に真剣にするかたもいらっしゃいますよね。でも、今の僕たちってキツネに化かされたってほとんど言わないと思うんです。
それはやっぱり科学がどんどん進んでっていうのもあると思いますけど、僕たちのキツネを感じる、気配を感じることの力がどんどん弱くなっているっていうか、そういうのもあって、キツネはずっと身近にいるんだけど、キツネの存在にどんどん気づけなくなっているような感じはするんですよね」
(編集部注:写真絵本に掲載されているホンドギツネの写真は、主に岐阜市の渡邉さんの住まいからすぐ近くの河川敷で撮ったものだそうです)

ホンドキツネの繁殖、子育て
ここで、主人公ホンドギツネがどんな動物なのか、ご説明しておきましょう。
ホンドギツネは世界中に広く分布しているアカギツネの仲間で、日本では沖縄を除いて、本州より南に生息。見た目は柴犬(しばいぬ)をほっそりさせたくらいの大きさで、体重は4キロから7キロほど。人のそばで暮らしていても警戒心が強く、人前に姿を見せることはほとんどないそうです。
北海道に生息するキタキツネも同じアカギツネの仲間ですが、ホンドギツネよりも体が少し大きく、足元がくつ下をはいたように黒い個体が多いとか。
キツネの特徴としては、走るのが得意で、草刈りされた場所や、見通しの良い畑などを好んで狩りをする、ということなんですが、耳がいいので、獲物となる虫や小動物の出す小さな音を聴いて狩りをするそうです。
※ホンドギツネの繁殖シーズンはいつ頃なんですか?

「早いと11月ぐらいから繁殖期なってきますね。繁殖期になると面白いのが、オスが”コンコン”って鳴きます。”コンコン、コンコンコン”って鳴くんですね。これが実はオスがメスを探して、自分はここにいるよ、メスはどこだい? ってアピールしている時の声なんですよ。
そういう声を11月くらいの夜に、河川敷や堤防で待っていると結構、聴こえてくるんですよね。その声を聴いて、メスが、あ! オスがいたって分かって、オスとメスが出会えるわけですね。だいたいそれが11月ぐらいから始まって、12月の末とか1月とかに交尾をして、早いと2月の末から3月の中旬くらいに巣穴の中で子供を出産します」
●何匹くらい産むんですか?
「2匹から多いと5匹ぐらいですね」

●この写真絵本には子育ての様子なども掲載されていましたけれども、メスとオスで一緒に子育てするっていう感じなんですか?
「そうですね。キツネはオスも子育てに参加する動物なんです。オスが子育てに積極的に関わる動物って結構珍しくて、日本ではタヌキとキツネしかいないですよ。ほかの野生動物はメスが主体で子育てをするんですね。キツネの場合だとオスが子供に食べ物を持ってきたりとか、おもちゃを持ってきたり遊んであげたりとか、そういうことをしますね」
●基本的には出産も子育ても巣穴で行なわれているってことなんですね。
「はい、そうですね。巣穴も常に同じ巣穴を使うわけではなくて、お母さんのメスの縄張りの中に巣穴がいくつかあるんですよ。だいたい数十メートル置きぐらいにポンポンポーンとあって、なにかあると巣穴の引越しをして子育てをするっていう感じですね」
(編集部注:渡邉さんによると、いくつかある巣穴の、どれを使っているのかを入念な観察で突き止めても、警戒心がとても強いので撮影が難しく、川をはさんで対岸にブラインドテントをはって、やっと姿を見せてくれるそうです)
※ホンドギツネは夜行性なんですよね?
「はい、夜行性と言われています。基本的に夜に活動するんですね。なんだけど、夜じゃなくても昼間とか、例えば冬だと、雪が降ったあとにちょっと早い時間にキツネが出ていることもあります。
オスがメスを早い時間から探し出したりとか、子育ての最中だと朝とか昼間とか、お母さんが朝昼晩みたいな感じで(子ギツネに)お乳をあげに来たりするので、夜行性と言われているけど、完全な夜行性ではなくて、昼間でも結構動いています」
●撮影自体は、多いのは夜っていう感じなんですか?
「そうですね。撮影自体は、昼間にそういうふうに見られるのは、そこまで多いことではないので、ほぼほぼ夜の撮影になります」
(編集部注:ホンドギツネの撮影は、観察が8割、そして夜の撮影が多いため、光をどう作るのかが、とても難しいと渡邉さんはおっしゃっていました)

キツネが腰を抜かした!?
※ホンドギツネの撮影をされていて、思わず見入ってしまった瞬間はありましたか?
「いっぱいあるんですけど・・・面白かったなぁと思ったのは、キツネが腰を抜かした瞬間があって(笑)、人でも腰を抜かすってあんまり見たことないじゃないですか。たぶん一生見ない人もいると思うんですけど、キツネが腰を抜かした瞬間を見たことがあります。
2匹の子ギツネが夕方、河川敷の草やぶから出てきていて、一段落してちょっと休憩しているような感じでいたんですけれども、そこに突然別の子ギツネが草やぶからぱーっと出てきたんです。
それに2匹の子ギツネがびっくりして飛び跳ねて、1匹のキツネはほんとに立てなくなっちゃったっていう、本当に腰を抜かして、腰が砕けちゃってヨタヨタしていて、しばらく立てなくて・・・こんなことあるんだなという感じですよね(笑)。人ですら(腰を抜かした瞬間を)見たことないのに、野生動物の腰を抜かす瞬間を見てしまったと、それはちょっとびっくりしましたね〜。

ほかにも面白いこととしては、2013年に観察をしていた時に、僕のことを全然気にしないオスがいたんですね。その子は僕に対してすごく興味があるらしくて、毎日のように彼らのところに会いに行くので、彼らが僕のことを覚えてくれるんですよ。
その中でもその1匹の子は僕にすごく興味を持っていたので、僕が堤防の上で待っていると、草やぶから出てくるんですよ。出てきて、堤防の上に僕を見つけると、わざわざ堤防の上にあがってきて、なぜか僕の横に座って・・・本当に面白いですよね。なんか絵本の世界みたいな感じです。
僕のすぐ横に座って、一緒に夕陽を眺めたりとか、時間的にどんどん車が渋滞していく時間なので、渋滞する車を一緒に見ていたりとか・・・同じ風の匂いをすぅーっと、あ! 同じ匂いを今嗅いでいるな、みたいなことがあったりとか。それが住宅街のすぐ横であったので、そういうところに絵本みたいな世界があって、それは本当に忘れられない経験だなと思います。

子ギツネも遊び好きなんですけど、大人のキツネも遊び好きなんですよ。キツネって、オスが長い棒をくわえて走っているあとを、後ろからメスが追っかけて、追いかけっこをしたりとか、そういうことをするんですよね。結構遊び好きな姿、大人でも子供でも遊んでいたりするのを見ると、なんか人間との共通点じゃないけど、そういう部分も感じて、なかなか面白いですね」
人間をよく見ているキツネたち
※ホンドギツネたちは、人間のそばで健気に、そしてしたたかに生きているような気がするんですけど、渡邉さんはどう思いますか?
「彼らが人のそばで生きることのひとつ大きな理由として、やっぱり食べ物があると思うんですけど、食べ物が比較的手に入りやすいと思いますね。人間がゴミとして出している残飯とかも食べるし、作物とかも食べるし、今の時期は、トウモロコシ好きなんで、トウモロコシもめちゃくちゃ食べるんですよ。
そういう食べ物を食べたりとか、あとは畑だったらネズミがいっぱいいるので、ネズミを狩っていたりとか。人の近くにいるとキツネが生きていく上で、食べ物が比較的得やすいっていうのはあると思うんですね。
だから人の近くをずっと彼らは離れないんだろうと思うんですけど、逆にそういういいこともあれば、(キツネが)車にひかれてしまうとか、そういうことも結構あるんですよね」
●可哀想な状況を目にすることも多いですよね。
「そうですね、結構ありますよね。」
●開発も含めた自然環境の変化は、やはり野生動物には厳しいと感じますか?
「そうですね。開発もちょっと難しいところですけど、突然ぐっと大きな変化で、彼らの暮らしが変わることをすごく感じていますね。そんな中でも彼らは上手いこと、人の暮らしをよく見ていて、どういうふうに自分たちがその状況に対応していけるのかっていうのを、常に考えて生きているような感じはするんですね。

テトラポットが河川敷にばーっと置かれて、キツネの寝床とか潰れる時があったんですけど、そういう工事のあとでも子ギツネたちは、そのテトラポットの上で翌日には跳ね回って追いかけっこしていたりとか、そういうしたたかさもすごくあると思いますね。確かに開発で彼らの暮らしがどんどん変わっていくっていうのもあるんですけど、同時にそれをうまく許容していって彼らの暮らしもどんどん変化しているなってことは実感していますね」
●改めてホンドギツネを通して見えてきたもの、感じたことってなんでしょうか?
「ずーっと見ていて面白いなって思うのが、彼らって人のことをよく観察しているんですよ。人が気づかないだけで、人が散歩している様子をじーっと見ていたりとか、犬を散歩させている姿を見ていたりとか・・・そういうのを草陰からじーっと観察していて、人がいない時間に合わせて出てきたりとか、草刈りしたりすると、そこで狩りをしたりとか、人の暮らしをよく見ているんですね。
すごくよく見ているからこそ、僕たちのことをすごく理解しているんですよ、彼らって。それがまず面白いなって思うんですけど、逆に僕たちって彼らのことをどれくらい知っているのかなっていうのは常に思いますね」

INFORMATION
渡邉さんの写真絵本をぜひご覧ください。これまでほとんど知られることのなかった、ホンドギツネの生態に迫る初めての写真絵本です。
こんなに身近にキツネがいることに驚きます。河川敷や畑、公園などで、健気に生きている姿が素晴らしく、子ギツネたちの愛くるしい写真に思わずにっこりしてしまいますよ。ホンドギツネたちは、人の暮らしにひっそりと寄り添いながら、きょうも生きていて、あなたをすぐそばで見ているかも知れません。ぜひお子さんと一緒にホンドギツネの世界を覗いてみてください。「文一総合出版」から絶賛発売中です。
◎「文一総合出版」HP:
https://www.bun-ichi.co.jp/tabid/57/pdid/978-4-8299-9017-9/Default.aspx
渡邉さんのオフィシャルサイトもぜひ見てくださいね。ホンドギツネ以外にタヌキやムクドリなどの写真も載っていますよ。
2022/8/14 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、島に魅せられたライター
「清水浩史(しみず・ひろし)」さんです。
清水さんは1971年生まれ。早稲田大学卒業。大学時代はクラブの活動として、たびたび島に行き、その一方でバックパッカーとして、アラスカ、インド、南米、アフリカなど、辺境秘境の旅に没頭。大学卒業後はテレビ局に勤務するも、日常の窮屈さから脱出したいと、国内外の島旅は続け、現在はライター、そして編集者として活躍されています。
これまでに150以上の無人島を取材。人が住んでいない島ゆえに、船の定期便はあるはずもなく、目的の島に行くためには、漁船などをチャーター。島にたどり着いても、船着場はなく、上陸するためには岩場に飛び移るか、浅瀬にドボンと飛び込んで泳ぐしかないそうです。
清水さんはそんな島や島旅に関する本を多く出版、そして先頃『日本の絶景無人島〜楽園図鑑』という本を出されました。
☆写真:清水浩史

純白の楽園「百合が浜」
※『楽園図鑑』には37の島が掲載されています。何か選ぶ基準のようなものはあったんですか?
「無人島の中でも、やはり楽園というイメージと結びつきやすい、とにかく透明度の高い海に囲まれていること、あるいは真っ白な砂浜があること、あるいはサンゴ礁が豊かな島っていうのを厳選したという形なんですね。
その中でも根幹にあるのは、人工物、人が作ったものがほとんどないっていうところを重視していると言いますか・・・はたからみると、綺麗だけど何もないように見えるかもしれないんですけど、何もないということは、何もかもあるっていう島なのかなって思います」

●どの島も本当に素敵だったんですけれども、特に私が気になった絶景の無人島についてお話をうかがっていきます。まずは、鹿児島県の「百合ヶ浜(ゆりがはま)」。最強の純白楽園と書かれていましたけれども、真っ白な砂浜ですね。
「そうですよね。ここは結構広く、美しい場所として知られていますけれども、本当に美しいんですよね。与論島の大金久(おおがねく)という海岸の1.5キロ沖ぐらいに、毎日あるわけではなくて、大潮あるいは中潮のかなり潮が引いた時、干潮の時だけポコンと現れる真っ白な砂地だけの島ですね。
与論島の海の青さと砂地の白のコントラストが本当に映えると言いますか、美しいので、出会える回数が少ない分だけ、出会えた時の喜びは大きな島なのかなと思います」

●確かに幻の浜っていうふうに、この本にも載っていましたけれども、それぐらいなかなか見ることができないっていうことですか?
「そうですね。百合ヶ浜に限らずなんですが、厳密には島未満の低潮高地と呼ばれるものなんですね。潮が引いた時だけ島が現れる、そういう場所はこの百合ヶ浜はじめ、日本には各地にあるんです。出会えないんですけれども、この幻の美しさが味わえるという、本来の島とはまた違った魅力が低潮高地にはあるのかなと思います」
●現れては消えてしまうっていうことですよね。
「そうですね。この儚さも魅力と言いますかね」

サルの楽園「幸島」
●続いては、宮崎県串間市にある「幸島(こうじま)」、サルの楽園と書かれていました。砂浜をサルの親子が走っている写真が載っていましたけど、こうやってサルが頻繁に現れるんですか?
「ここは野生のサルが90頭くらい生息しているんですね。京都大学の研究員たちが観察のために島を訪れていることもあって、結構人慣れはしていますね。
宮崎県の石波(いしなみ)海岸から渡し船で、もうほんの数分で渡ることができるんです。島にポッと渡してもらったら、もうそこにはサルが群れているという、異世界に紛れ込んだような楽しさと言いますか・・・美しさもありますし、それでまたそこの海や砂浜が綺麗なんですよ。
サルを眺めるもよし、綺麗な砂浜で泳ぐもよしと、本当に楽園のような島かなと思いますね」

●海岸にサルがいるなんて、なかなかないですよね?
「そうなんですよ。私は無人島に行くのはいつもひとり旅ですけれども、サルに見守られて泳ぐって、見守られているような気がして、本当に楽しいですね(笑)」
●人間が近くに行っても、別に恐れるとか怯えてしまうとかはないんですね。
「ないですね。黙々と毛づくろいをしたりとか、本当に人間とサルのいい距離があるのかなというふうに思いますね」
●なぜ幸島にはサルがいるんですか?
「これは研究員でもまだ分かっていないんですよね。なぜここにサルがいるのかは、ずっと謎なんです。ただこの島で有名になったのは、ここのサルは文化ザルとも言われたんですよ。というのは、60年代だったか、サルが芋を海水で洗って食べる姿が目撃された島なんですね。
それは、砂を落とすっていうのもあるんですけれども、塩味が付いて芋が美味しくなることをサルは学び、その学んだことが次の世代にも受け継がれていくことが発見された島なんです。これは文化的行動であるということで、この幸島のサルは世界的にも有名になったという貴重な島かなと思いますね」
●サルにとっても楽園なんですね!
「そうですね。それを眺められるという、アクセスできるという幸せと言いますか、そんな貴重な島かなと思います」
北陸のハワイ「水島」、伊豆のヒリゾ浜
●『楽園図鑑』に掲載されている、私が特に気になった無人島。続いては、福井県敦賀市にある「水島(みずしま)」、北陸のハワイとも呼ばれているんですね。

「そうですね。無人島に限って言えば、日本海側は本当に綺麗な砂浜だけの島や無人島はほとんどないんですよ。ですので、この水島は真っ白な砂浜が600メートルぐらい続く、本当に美しい島なので貴重かなと思います。
昨年くらいまでは多少コロナの影響で制限があったものですから、今年からはしっかり楽しめる島かなと思います」
●この海の透明度も高いですね。
「そうですね。この水島の周辺は遠浅なんですよね。お子さんでも本当に安心して遊べますし、日本海というと、どうしてもちょっと荒々しいイメージがありますけれど、北陸のハワイっていう謳い文句に何ら違和感を覚えないような、素敵な島かなと思います」
●首都圏に住んでいるリスナーさんに向けて、アクセスしやすいおすすめの無人島はありますか?
「伊豆半島の先端にある”ヒリゾ浜”を挙げたいと思います。このヒリゾ浜は伊豆半島にあるので、無人島ではないんですね。ただし、道がないので陸地からアクセスできないんですよ。ですので、中木(なかぎ)っていう港から渡し船で渡るんです。
ヒリゾ浜に渡ると目の前には岩の島がポンポンと浮かんでいるんですよ。平五郎岩(へいごろういわ)であったり、丘ハヤマっていう岩礁があったりするので、ヒリゾ浜から泳いで岩場の無人島に上陸するっていうことも楽しめます。

中央に見える岩の島が平五郎岩、右手の浜がヒリゾ浜。
このヒリゾ浜、何がすごいかっていうと、伊豆屈指の透明度って言われているんですよね。ただでさえ伊豆半島は綺麗ですけれども、どんだけ澄んでいるんだ、どんだけ魚影が濃いんだっていうぐらいお魚にも会えますし、そういう意味ではおすすめしたいなと思います。
それと、だいたい海水浴っていうのは8月いっぱいで終わってしまう、毎年なんか天候が不順だな〜とか言ったら、あっという間に夏って終わってしまう。ただし、このヒリゾ浜は9月いっぱいまで海水浴をやっているという、ちょっと珍しいパターンなんですね。夏が終わってしまったっていうかたにも、9月いっぱいまで楽しめますので、多くのかたが楽しめる島なんじゃないかなと思いますね」
●まだ間に合いますね!
「そうですね!」
(編集部注:素朴な疑問として、無人島の所有者は誰なのか、清水さんにお聞きしたら、国が所有していることもあるそうですが、多くは地方自治体で、中には個人または企業が所有している島もあるそうです。無人島を販売しているサイトもあるとのことですから、気になる方はネットで検索してみてはいかがでしょうか)
海と真剣に向き合う
※清水さんが島や島旅に興味を持つようになったのは、何かきっかけがあったんですか?
「もう30年ほど前なんですが、大学時代、早稲田大学の水中クラブという部に所属していたんですね。この部は年がら年中、島に行って、海にスキューバダイビングで潜り、あるいは素潜りで潜るという、海の探検部みたいな活動内容だったんです。
毎年夏には1ヶ月以上の島合宿があるんですよ。それで1年生の時に沖縄県の伊江島(いえじま)での合宿で、先輩が助言してくれたんですよ。
1ヶ月もの集団生活なので、結構人に気を遣って、楽しくしなきゃとか、みんなを楽しませなきゃなんて気を遣っていたんです。それを見た先輩が“清水、そんなに人に気を遣うことなんて必要ないよ。この部ではとにかくひとりひとりが、海の本当の面白さに真剣に向き合ってくれたら、もうそれだけでいいから”みたいなことを言ってくれたんですよね。
なんかそこからですかね。吹っ切れたように、周りからどう思われてもいいや、どんなにオタクだと思われてもいいから、好きな海にどんどん行こうって。そこから島旅が始まったのかなと思います。
私は、会社勤めも飽きっぽいところがありますし、長らく大学院で研究もしてたんですけど、その研究生活も飽きるっていう、非常に飽きっぽいんですね(笑)。ただこの島旅だけは、飽きないのはなんでかなって考えたことがあるんですけど、やっぱり有人島、無人島どちらであっても飽きないのは、どんな島に行ってもそれぞれ個性が違うんですよね。
例えば、距離が近い島であっても、いざ行ってみると全然違う、これはなんなんだろう。島っていうのは小宇宙であって、それぞれ多様な個性の集まりなんだなっていうことが、飽きない理由なのかなと思っていますね」

島の人は、旅人にもおおらか
※離れた島「離島」になればなるほど、島独特の文化や豊かな自然が残っていますよね。
「そうですね。開発の波っていうことでいうと、やはり離れれば離れるほど、島独特の文化、豊かな自然は残りやすい傾向にあると思うんですよね。ですので、島旅をすると、今度はもっとあの先の島に行ってみたいな、そしてまたその先の島にも行ってみたいなって、どんどんアイランド・ホッピングをしたくなる。
それはなんでしょうかね・・・島の大きさがどんどん小さくなったり、距離がどんどん離れたり、人口がどんどん少なくなっていけばいくほど、何か昔ながらのものが残っていることが、やっぱり可能性としては大きいので、島旅はどんどん奥に分け入りたくなるのかなって思います」
●住んでいる人たちのつながりも深そうですね
「そうですね。まあ相互扶助ですよね。物理的な仕事の面でも精神的な面でも、横のつながり、助け合う精神が島には残っています。面白いのは、島の中で助け合いが閉じられているかというと、そうではなくて、結構旅人にも開かれているのが、島旅の面白さかと思うんですよね。
というのも、私が若い頃、仕事がつらくて、結構島に逃げていたことがあるんですけど、島の人によく言われたのが、そんなに仕事がしんどいんだったら、いつでもこの島に帰って来ればいいからと。あなたの居場所は会社だけじゃないんだから、そんなに気にするな、みたいなことをよく言ってくれたんですね。
そういう意味で島の人たちの温かさ、おおらかさは、島内部だけではなくて、外部の旅人にも開かれているっていうのが、面白いところかなって思いますね」
(編集部注:清水さんによれば、戦後、150近くの島が無人化。その原因は、高度成長期に出稼ぎで人が出て行ったことや、近年は少子高齢化のために無人化していることが多いそうです。無人島になってしまうと、もう一度、人が住むことはほとんどなく、「人が暮らしていることが貴重なこと」だと清水さんはおっしゃっていました)

生きる喜びに気づく
※最後に、これまでたくさんの島を取材されてきた清水さんだからこそ、島を通して、何か見えてきたこと、感じていることはありますか?
「もちろん、島の楽しさ、豊かさに気づけるのがひとつあります。ただし、それと同時にやはり日常、どんなにつまらないと思える日常であっても、島の旅から帰ると、なにか日常の面白さに気づけるんですよね。
島旅から帰ると少し強く生きられると言いますか、それが島旅の魅力かなと思うんですよね。日頃気づけなくなっている生きる喜びに気づける、ということなのかなと思いますね。
例えばなんですけども、山口県の情島(なさけじま)に行った時に、大根を育てているおばあさんの話を聞いたんですね。その息子さんは都会で暮らしていて、社長さんになられていてお金持ちなんですね。それでその息子さんは島で暮らす母親に対して、もう野菜なんて買えばいいって! と息子が言うんだよって。お婆さんは、私は野菜は育てたいから育てているんだよって言うんですよね。
つまり、生きる喜びっていうのは、何か買ったりすることだけではないんだと。何か育てること。もちろん子育てもそうですし、そういうことに気づける。
ですので、島から帰ると、あれほど嫌だった仕事が何か小さなタネのように思えてきて、この仕事も大根のように手塩にかけて育てていく。だからその過程こそが生きる喜びなのかなって気づけたりする。島旅は帰ってきてからあとの、何か効用があるのかなというふうに思います」
INFORMATION
清水さんの新しい本、おすすめです。きょうご紹介した島を含め、37の島が掲載。白い砂浜、透明な海、サンゴ礁などなど、楽園のような島が美しい写真とともに紹介されています。どの島にも行ってみたくなりますし、写真を見ているだけでも癒されますよ。この夏、間に合えば、または来年の夏の島旅の参考に、どうぞ。
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