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地球が創り出す神秘「美しい鉱物の世界」

2022/8/28 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、サイエンスコミュニケーターの「渡邉克晃(わたなべ・かつあき)」さんです。

 渡邊さんは1980年、三重県生まれ。子供の頃から石が好きで、家族旅行で海辺や川原に行く度に、綺麗な石を家に持ち帰るお子さんだったそうです。そして、広島大学に進学後は、植物や微生物によって引き起こされる岩石の風化現象を研究。大学卒業後は、東京大学 地球生命圏 科学グループなどで地球科学の研究に従事、その後独立し、現在はサイエンスコミュニケーターとして活躍中。地学博士、そして地質や鉱物の写真家でもいらっしゃいます。

 また、2017年にウェブサイト「地学博士のサイエンス教室 グラニット」を立ち上げ、美しい写真とわかりやすい解説をモットーに運営されています。

☆写真:渡邉克晃

渡邉克晃さん

狙いは美しい写真!

●渡邉さんは先頃『ふしぎな鉱物図鑑』を出されました。私も拝見させていただいたんですけれども、文庫本サイズで、すべてカラー写真なんですよね。とにかく写真が美しくて見入ってしまいました。こんなに色が豊富で多様な鉱物があるんですね。全然知らなかったです。

「ありがとうございます。めちゃめちゃ嬉しいですね。そう言っていただけると」

『ふしぎな鉱物図鑑』

●この本の狙いはどんなところにあるんですか?

「写真の美しさ、写真の綺麗さをいちばんの狙いにして作ったので・・・
嬉しいコメントありがとうございます」

●ほんとに綺麗でしたし美しかったです。

「この鉱物の標本は私の大学時代の恩師で、もう亡くなられた先生なんですけど、広島大学の北川隆司教授が集めていた鉱物コレクションを、ご家族のかたにお願いして、撮影させてもらうことができました。標本も立派ですし、ここを見せたいなというところでアップにしたりとか、角度を変えたり・・・撮り放題、思う存分、写真を撮らせていただきました。

 最高の鉱物の写真を用意して、自分の持っている知識も活かしながら、わかりやすく文章も書いて、そんな感じで作った本なので、いちばんの狙いは写真になります。写真を見てほしいなというところですね」

●鉱物のことは全くの初心者です。なるべくわかりやすく教えていただきたいんですが、まず鉱物とは? 岩や石とは違うんでしょうか?

「ちょっとだけ、定義というか難しい、堅い話なんですけど、鉱物は自然界にあって個体の物質であり、地質作用によってできた物質、これが鉱物の定義としてあるんですね。

石英(水晶)
石英(水晶)

 代表的なものは、皆さんよくご存知の、水晶ってありますよね。尖った六角形の柱みたいな透明な鉱物で自然界のものですよね。人工的に作ったものじゃないので、自然界のものであり、また液体とか気体じゃなくて、かちっとした固体ですね。

 地質作用っていうのがちょっとわかりにくいんですけど、水晶はマグマの熱とか地下水が関係しながらできるものなんです。こういったものは生物的にできたものとか、人工的にできたものじゃなくて、地質作用によってできたものとされるわけです。

 石や岩とは違うのかっていうところなんですけど、ややこしいところで、石ってやっぱりよく使っちゃうんですよね。石はすごく広い意味がある一般的な言葉で、鉱物も石です。岩も石になります。結石とか体の中にできるのも石です。石はすごく意味が広くて、ざっくりとした一般的な呼び名であって、学術的に言えば、石の中の一部が鉱物であり、また岩石である、こういった位置付けになります」

宝石も鉱物!?

ダイヤモンド
ダイヤモンド

●ダイヤモンドやルビーも鉱物ですよね? 宝石になっている鉱物も多いってことですか?

「そうですね。宝石になっている鉱物はすごく多くて、正確なところはわからないですけど、少なくとも代表的なものだけでも20種類以上は知られています。
 ルビーの鉱物名はコランダムって言うんですけど、あとエメラルドの、宝石の鉱物名として緑柱石(りょくちゅうせき)があったり、もちろんダイヤモンドもそうです。あとヒスイという宝石になる翡翠輝石(ひすいきせき)とか、宝石になるものはたくさんありますね」

コランダム
コランダム

●鉱物は何種類くらいに分類されるんですか?

「鉱物種っていう種名としては、今世界中で知られているのは5700種程度ですね」

●5700! そんなにあるんですね。それぞれ何が違うんですか? 

「鉱物種は化学組成という成分です。どんな元素でできているかが、ちょっとずつ違うっていうのがひとつ。あとは結晶の形というか、構造って言っているんですけど、鉱物はだいたい元素が規則的に並んだ形をしています。この規則的な並びがちょっとずつ違っても別の鉱物になるという、そういったこともあります」

緑柱石
緑柱石

鉱物はどうやって生まれるのか!?

※初歩的な質問なんですが、鉱物はどのようにして生まれるんですか? 

「いろんな出来方があって、鉱物は主に地下でできます。例えば地下の深いところで、マグマが冷えて固まる時に岩石ができて、その岩石中にできる鉱物がまずあります。岩石はそもそも鉱物の集まりなので、ツブツブしていますよね。岩石にツブツブの模様が見えると思うんですけど、あのひとつひとつの粒が鉱物になるんです。

 花崗岩(かこうがん)という白っぽくて、ごま塩模様の、お墓の石や建物の壁とかに使われている石があるんですけど、あれは地下でマグマが冷えて固まってできた岩石なんです。地下深いところで、ドロドロのマグマがゆっくり冷えて固まると、あの白っぽい岩石になるんです。
 その白っぽい岩石、花崗岩の中には石英とか長石とか黒雲母とか、いっぱいツブツブとした鉱物が入っているわけなんです。というわけで、マグマが冷えることによって鉱物ができる、鉱物の出来方のひとつとして、それが代表的なものになります」

花崗岩
花崗岩

●鉱物が作られる時に必要な条件はあるんですか?

「先ほどの鉱物の出来方は、代表的なものをひとつだけあげましたが、もっといろいろあるんですね。地下だけじゃなくて、地表で酸素とか空気とか水に触れながら変わったりとか、地下深くで圧力と温度が高くて、新しい鉱物ができたりとか、いろいろあるんです。

 条件としては圧力、温度、あと鉱物は固体なので、固体ができる前の液体状態の時の成分の違い、どんな圧力でどんな温度でどんな液体の成分か、これでどういう鉱物ができるかはだいたい決まっていきます」

●この本を読んで、ほんとにいろんな色の鉱物があるんだなって感じたんですけれども、こんなに多彩で多種多様な鉱物の、色や形の違いを決定づけるものは何でしょうか?

「色は主に成分ですね。鉱物がどういった元素でできているのかに主に関わっています。形のほうは、鉱物はだいたい規則正しく原子が並んでいる構造をしています。そのミクロというか目に見えない、小さい小さい微細な構造が、元素の並び方が鉱物の形を決める大きなひとつの要素になっています。

 どういった原子の並び方をしているかによってだいたい外側の形も、どんな形になりやすいかっていうのは決まってきます。成分と原子の並び方で色や形が決まる、そういったことですね」

輝安鉱(きあんこう)
輝安鉱(きあんこう)

日本は鉱物の宝庫!?

※日本で発見された鉱物は何種類くらいあるんですか?

「日本では1300種くらい知られています。世界中で5700種に対して日本で1300種、日本は世界的に見ても、ほんとにたくさんの鉱物種が産出している国になります」

●それはどうしてなんですか?

「日本の地質環境がちょっと特殊であるというか、バラエティに富むことが理由になっています。日本の国がある場所は、プレートっていう、地球の表面を大きな岩盤が覆っていて、その岩盤が何枚かの板になっていて、それをプレートと言っているんですけど、日本があるところは、太平洋側からユーラシア大陸に向かって、プレートが沈みこんでいる場所になるんですね。

 日本は地質が活発だなっていうのがなんとなくあると思うんですけれども、そういった土地柄で、マグマが上がってきたり、いろんな圧力が加わったりしながら、たくさんの種類の岩石、そして地質の環境というものがあります。複雑に複雑に混じり合っているわけなんです。

 そういった影響で岩石の種類が多ければ、それだけ鉱物の種類も多くなりますし、地質作用が多ければ、それだけ鉱物の種類も多くなる、そういった土地柄が日本の鉱物種の多さに関係しています」

●日本だけで採れる鉱物っていうと、具体的にどんなものがあるんですか?

「例えば、千葉石、辺見石、糸魚川石とか、そういったいかにも日本ぽい名前がついている鉱物がありまして、こういったものが日本でしか採れない鉱物として、いくつか知られています」

(編集部注:世界ではおよそ5700種の鉱物が発見されているということでしたが、渡邉さんによると、新しい鉱物は年間100種ほど見つかっているそうです。

 また、先ほどお話の中で、日本だけで発見された鉱物として「千葉石(ちばせき)」の名前が出ましたが、日本地質学会のサイトによれば、産出されたのは房総半島の南部で、きっかけは1998年にアマチュアの研究家が見つけた鉱物、そのときは内部が変質していたので正体がわからなかったそうです。その後2007年に別のアマチュア研究家が同じ場所から変質していない千葉石を見つけ、新発見につながったそうですよ)

鉱物は傑作品!?

※実際に鉱物を見てみたいと思ったかた、渡邉さんのおすすめは日本全国にある博物館。多くの博物館に石や鉱物の展示コーナーがあるそうです。また、全国46地域にある「ジオパーク」もおすすめだそうですよ。

 ほかにも海岸や川原でも鉱物を見つられますか?

「見つかります(笑)。ただ見るだけじゃなくて、やっぱり自分で拾いたいとか、探したいっていうのはありますよね。楽しいですよね」

●コツはありますか?

「だいたい石は鉱物の集まりでできているので、川原とか海岸に行ってきれいな石を探せば、それが鉱物なんですよね。その鉱物を拾った人が、魅力的だと思うかどうかなので(笑)、コツっていうかなんというか、きれいな自分の好きな石をまず見つけることですよね。

 色がきれいなのか、形がきれいなのか透明感があるのか、自分が実際に行って、あっ、これ、きれい! っていうのをまず見つけてもらいたいと思いますね。そのきれいな石を図鑑で、どんな石なのか、この石にどんな鉱物が含まれているのかを、ぜひ調べていただきたいなっていうのがあります。

 きれいな石を拾ってくるだけだったら、いろんな人がやると思うんですけれども、拾ってきた石がなんていう石なのか岩石なのか、なんていう鉱物を含んでいるのか、これを図鑑とかで調べて、自分なりにでも名前がわかるとすごく楽しくなるんですよね。
 これ、めっちゃきれいだなとか、この緑の石なんだろうな〜って拾ってきて、これ、緑泥石(りょくでいせき)っていうのか! 例えばですけど(笑)、わかったらもう俄然楽しくなるんじゃないかなと思います。石拾いが、鉱物採集が楽しくなると思います」

(編集部注:川原や海岸での石拾い、国立公園や国定公園などでは、持ち帰りは禁止されています。ご注意ください)

●では、最後に渡邉さんが思う鉱物の魅力とは、なんでしょうか?

「鉱物の魅力・・・鉱物は自然界が生み出した、創り出した傑作品であると私は思っています。鉱物を見ていると、色ももちろんきれいなんですけど、形がすごくシャープだったり、きれいなんですね。原子がものすごく規則正しく並んでいる、なんでこんなものが自然界にできるのかなって。自然界は放っておいたら、物はどんどん乱雑な方向、無秩序な方向に進んでいくわけなんですよ。部屋は放っておいたら散らかるみたいな感じなんです(笑)

 でも秩序だったもの、高度に創り上げられたものができるためには、何かしらわざわざエネルギーを使うわけで、わざわざ創り出さないと絶対無理なんです。生物もそうやって自然界に生まれてきたと思いますし、鉱物もあの美しさ、あの規則正しさは、そうやって生み出された、わざわざ創り出されたものなんですよね。そこがほんとに神秘的で、鉱物の魅力だなって感じています」

玻璃長石(はりちょうせき)
玻璃長石(はりちょうせき)

INFORMATION

『ふしぎな鉱物図鑑』

『ふしぎな鉱物図鑑』

 渡邉さんの新しい本をぜひご覧ください。写真家でもある渡邉さんが撮影した鉱物写真、どれも美しい写真で見とれてしまいます。色や形が多種多様で、その多彩さに驚きの連続です。鉱物の不思議をわかりやすく解説しています。オールカラーでポケットサイズなので、フィールドワークや鉱物の展示会のお供にいかがでしょうか。おすすめです。
 「大和書房」から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎「大和書房」HP:https://www.daiwashobo.co.jp/book/b605966.html

 渡邉さんが主宰するウェブサイト「地学博士のサイエンス教室 グラニット」も、ぜひご覧ください。

◎「地学博士のサイエンス教室 グラニット」HP:https://watanabekats.com/

あなたのそばにもいる「ホンドギツネ」〜繁殖、子育て、人との関係、その知られざる生態に迫る!

2022/8/21 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、自然と人をつなぐ写真家「渡邉智之(わたなべ・ともゆき)」さんです。

 渡邉さんは1987年生まれ。現在は岐阜市を拠点に、人の営みの近くで暮らす生き物を撮影。また、ニコンカレッジ名古屋校で講師としても活躍されています。そして先頃『きみの町にもきっといる。となりのホンドギツネ』という写真絵本を出されました。

 きょうは、私たちのすぐそばで暮らしているホンドギツネの繁殖、子育て、そして人との関係など、あまり知られていない生態などうかがいます。

☆写真:渡邉智之

写真:渡邉智之

自然と人のつながり

※渡邉さんは「自然と人をつなぐ写真家」と名乗っていらっしゃいますが、そこにはどんな思いがあるのでしょうか?

「今の時代って人と自然がどうつながっているのかが、すごく見えにくい時代だなって感じているんですね。そういう見えにくい、自然と人のつながっている部分を、なんとか見える化できないかなっていうことを考えています。

 自分からは動物写真家って名乗らないようにしているんですね。動物写真家と名乗ってしまうのは、ありではあるんですけど、僕は動物だけを撮りたいわけじゃないんです。動物と人のつながっていく様子だったり、動物同士のつながっている部分だったりとか、そういう見えにくい部分を表現していけたらなと思っているので、そういう意味で”自然と人をつなぐ写真家”と名乗っています」

渡邉智之さん

●テーマが「自然と人のつながり」ってことなんですね。

「そうですね。なんとなく僕の中のイメージとして、自然と人をつなぐと自分では言ってはいるんですけど、僕の中で人という位置も、ほかの生き物と変わらなくて、結局自然の中で同じように生きている生き物なんですね。特に日本の自然なんかだと、野生動物の生態を撮るにしても野生動物だけで完結するわけじゃなくて、必ずそこには人の気配がどこかしらにあるんですね。

 だから自然と人の関係性だったりとか、自然と人をつなぐというふうにわけていますけれども、自然の中に人は含まれているよっていうのは常に感じていますね」

●都会に暮らしていると、自然とつながっているんだなっていう意識は薄くなってしまう印象はあるんですけど、その辺りはいかがですか?

「そうですよね。田舎に暮らしていても、いま僕、岐阜市に住んでいますけど、県庁所在地で名古屋から20分くらいの場所なので、それなりに都会ではあるんです。

 でも、そういうところに暮らしている人たちと話をしても、自然とそんなに関わっていなかったりとか、自分たちの身の周りでどういう自然現象が起こっていて、自分たちの暮らしにどういうふうに影響があってとか・・・逆に自分達の暮らしが野生動物、自然に対してどういうふうに影響しているのかを、気づかなかったり知らないっていうかたは、ものすごくいっぱいいますね」

昔から身近にいるキツネ

●先頃発売されました写真絵本『きみの町にもきっといる。 となりのホンドギツネ』、まさに自然と人のつながりがテーマになっているなと感じました。

『きみの町にもきっといる。となりのホンドギツネ』

 私もこの写真絵本を読ませていただいて、遊歩道だったり公園だったり、すぐそばでキツネが暮らしていることにすごく驚いたんですね。ほとんどの人間は気づいていないとも書かれていましたが、こんなに人の近くにキツネっているんですね!

「そうなんですよね。みなさん、キツネって聞くと北海道をイメージするかたがすごく多いんですよ」

●はい! まさに私もそう思っていました。

「まさにそうですよね。たぶんそういうかたはすごくいらっしゃって、北海道にしかキツネはいないと思っているかたもいるんですね。
 でもよくよく考えると、お稲荷さんのキツネだったりとか、キツネの能とかお祭りで売っているお面だったりとか、新美南吉(にいみ・なんきち)の童話『ごん狐』だったりとか、身近な場所にキツネに関する文化とか民話とか、そういうのが実はいっぱいあるんですよね。

 そういう文化が生まれてきたっていうことは、つまり昔から人とキツネは常に近くにいて、なにかしらの関わりがあったことの証拠でもあるんですよね。だから昔の人たちは、おじいさん、おばあさんの世代の人たちはよく、キツネに化かされたっていう話を本当に真剣にするかたもいらっしゃいますよね。でも、今の僕たちってキツネに化かされたってほとんど言わないと思うんです。

 それはやっぱり科学がどんどん進んでっていうのもあると思いますけど、僕たちのキツネを感じる、気配を感じることの力がどんどん弱くなっているっていうか、そういうのもあって、キツネはずっと身近にいるんだけど、キツネの存在にどんどん気づけなくなっているような感じはするんですよね」

(編集部注:写真絵本に掲載されているホンドギツネの写真は、主に岐阜市の渡邉さんの住まいからすぐ近くの河川敷で撮ったものだそうです)

写真:渡邉智之

ホンドキツネの繁殖、子育て

 ここで、主人公ホンドギツネがどんな動物なのか、ご説明しておきましょう。

 ホンドギツネは世界中に広く分布しているアカギツネの仲間で、日本では沖縄を除いて、本州より南に生息。見た目は柴犬(しばいぬ)をほっそりさせたくらいの大きさで、体重は4キロから7キロほど。人のそばで暮らしていても警戒心が強く、人前に姿を見せることはほとんどないそうです。

 北海道に生息するキタキツネも同じアカギツネの仲間ですが、ホンドギツネよりも体が少し大きく、足元がくつ下をはいたように黒い個体が多いとか。

 キツネの特徴としては、走るのが得意で、草刈りされた場所や、見通しの良い畑などを好んで狩りをする、ということなんですが、耳がいいので、獲物となる虫や小動物の出す小さな音を聴いて狩りをするそうです。

※ホンドギツネの繁殖シーズンはいつ頃なんですか?

写真:渡邉智之

「早いと11月ぐらいから繁殖期なってきますね。繁殖期になると面白いのが、オスが”コンコン”って鳴きます。”コンコン、コンコンコン”って鳴くんですね。これが実はオスがメスを探して、自分はここにいるよ、メスはどこだい? ってアピールしている時の声なんですよ。

 そういう声を11月くらいの夜に、河川敷や堤防で待っていると結構、聴こえてくるんですよね。その声を聴いて、メスが、あ! オスがいたって分かって、オスとメスが出会えるわけですね。だいたいそれが11月ぐらいから始まって、12月の末とか1月とかに交尾をして、早いと2月の末から3月の中旬くらいに巣穴の中で子供を出産します」

●何匹くらい産むんですか?

「2匹から多いと5匹ぐらいですね」

写真:渡邉智之

●この写真絵本には子育ての様子なども掲載されていましたけれども、メスとオスで一緒に子育てするっていう感じなんですか?

「そうですね。キツネはオスも子育てに参加する動物なんです。オスが子育てに積極的に関わる動物って結構珍しくて、日本ではタヌキとキツネしかいないですよ。ほかの野生動物はメスが主体で子育てをするんですね。キツネの場合だとオスが子供に食べ物を持ってきたりとか、おもちゃを持ってきたり遊んであげたりとか、そういうことをしますね」

●基本的には出産も子育ても巣穴で行なわれているってことなんですね。

「はい、そうですね。巣穴も常に同じ巣穴を使うわけではなくて、お母さんのメスの縄張りの中に巣穴がいくつかあるんですよ。だいたい数十メートル置きぐらいにポンポンポーンとあって、なにかあると巣穴の引越しをして子育てをするっていう感じですね」

(編集部注:渡邉さんによると、いくつかある巣穴の、どれを使っているのかを入念な観察で突き止めても、警戒心がとても強いので撮影が難しく、川をはさんで対岸にブラインドテントをはって、やっと姿を見せてくれるそうです)

※ホンドギツネは夜行性なんですよね?

「はい、夜行性と言われています。基本的に夜に活動するんですね。なんだけど、夜じゃなくても昼間とか、例えば冬だと、雪が降ったあとにちょっと早い時間にキツネが出ていることもあります。
 オスがメスを早い時間から探し出したりとか、子育ての最中だと朝とか昼間とか、お母さんが朝昼晩みたいな感じで(子ギツネに)お乳をあげに来たりするので、夜行性と言われているけど、完全な夜行性ではなくて、昼間でも結構動いています」

●撮影自体は、多いのは夜っていう感じなんですか?

「そうですね。撮影自体は、昼間にそういうふうに見られるのは、そこまで多いことではないので、ほぼほぼ夜の撮影になります」

(編集部注:ホンドギツネの撮影は、観察が8割、そして夜の撮影が多いため、光をどう作るのかが、とても難しいと渡邉さんはおっしゃっていました)

写真:渡邉智之

キツネが腰を抜かした!?

※ホンドギツネの撮影をされていて、思わず見入ってしまった瞬間はありましたか?

「いっぱいあるんですけど・・・面白かったなぁと思ったのは、キツネが腰を抜かした瞬間があって(笑)、人でも腰を抜かすってあんまり見たことないじゃないですか。たぶん一生見ない人もいると思うんですけど、キツネが腰を抜かした瞬間を見たことがあります。

 2匹の子ギツネが夕方、河川敷の草やぶから出てきていて、一段落してちょっと休憩しているような感じでいたんですけれども、そこに突然別の子ギツネが草やぶからぱーっと出てきたんです。

 それに2匹の子ギツネがびっくりして飛び跳ねて、1匹のキツネはほんとに立てなくなっちゃったっていう、本当に腰を抜かして、腰が砕けちゃってヨタヨタしていて、しばらく立てなくて・・・こんなことあるんだなという感じですよね(笑)。人ですら(腰を抜かした瞬間を)見たことないのに、野生動物の腰を抜かす瞬間を見てしまったと、それはちょっとびっくりしましたね〜。

写真:渡邉智之

 ほかにも面白いこととしては、2013年に観察をしていた時に、僕のことを全然気にしないオスがいたんですね。その子は僕に対してすごく興味があるらしくて、毎日のように彼らのところに会いに行くので、彼らが僕のことを覚えてくれるんですよ。

 その中でもその1匹の子は僕にすごく興味を持っていたので、僕が堤防の上で待っていると、草やぶから出てくるんですよ。出てきて、堤防の上に僕を見つけると、わざわざ堤防の上にあがってきて、なぜか僕の横に座って・・・本当に面白いですよね。なんか絵本の世界みたいな感じです。

 僕のすぐ横に座って、一緒に夕陽を眺めたりとか、時間的にどんどん車が渋滞していく時間なので、渋滞する車を一緒に見ていたりとか・・・同じ風の匂いをすぅーっと、あ! 同じ匂いを今嗅いでいるな、みたいなことがあったりとか。それが住宅街のすぐ横であったので、そういうところに絵本みたいな世界があって、それは本当に忘れられない経験だなと思います。

写真:渡邉智之

 子ギツネも遊び好きなんですけど、大人のキツネも遊び好きなんですよ。キツネって、オスが長い棒をくわえて走っているあとを、後ろからメスが追っかけて、追いかけっこをしたりとか、そういうことをするんですよね。結構遊び好きな姿、大人でも子供でも遊んでいたりするのを見ると、なんか人間との共通点じゃないけど、そういう部分も感じて、なかなか面白いですね」

人間をよく見ているキツネたち

※ホンドギツネたちは、人間のそばで健気に、そしてしたたかに生きているような気がするんですけど、渡邉さんはどう思いますか?

「彼らが人のそばで生きることのひとつ大きな理由として、やっぱり食べ物があると思うんですけど、食べ物が比較的手に入りやすいと思いますね。人間がゴミとして出している残飯とかも食べるし、作物とかも食べるし、今の時期は、トウモロコシ好きなんで、トウモロコシもめちゃくちゃ食べるんですよ。

 そういう食べ物を食べたりとか、あとは畑だったらネズミがいっぱいいるので、ネズミを狩っていたりとか。人の近くにいるとキツネが生きていく上で、食べ物が比較的得やすいっていうのはあると思うんですね。

 だから人の近くをずっと彼らは離れないんだろうと思うんですけど、逆にそういういいこともあれば、(キツネが)車にひかれてしまうとか、そういうことも結構あるんですよね」

●可哀想な状況を目にすることも多いですよね。

「そうですね、結構ありますよね。」

●開発も含めた自然環境の変化は、やはり野生動物には厳しいと感じますか?

「そうですね。開発もちょっと難しいところですけど、突然ぐっと大きな変化で、彼らの暮らしが変わることをすごく感じていますね。そんな中でも彼らは上手いこと、人の暮らしをよく見ていて、どういうふうに自分たちがその状況に対応していけるのかっていうのを、常に考えて生きているような感じはするんですね。

写真:渡邉智之

 テトラポットが河川敷にばーっと置かれて、キツネの寝床とか潰れる時があったんですけど、そういう工事のあとでも子ギツネたちは、そのテトラポットの上で翌日には跳ね回って追いかけっこしていたりとか、そういうしたたかさもすごくあると思いますね。確かに開発で彼らの暮らしがどんどん変わっていくっていうのもあるんですけど、同時にそれをうまく許容していって彼らの暮らしもどんどん変化しているなってことは実感していますね」

●改めてホンドギツネを通して見えてきたもの、感じたことってなんでしょうか?

「ずーっと見ていて面白いなって思うのが、彼らって人のことをよく観察しているんですよ。人が気づかないだけで、人が散歩している様子をじーっと見ていたりとか、犬を散歩させている姿を見ていたりとか・・・そういうのを草陰からじーっと観察していて、人がいない時間に合わせて出てきたりとか、草刈りしたりすると、そこで狩りをしたりとか、人の暮らしをよく見ているんですね。

 すごくよく見ているからこそ、僕たちのことをすごく理解しているんですよ、彼らって。それがまず面白いなって思うんですけど、逆に僕たちって彼らのことをどれくらい知っているのかなっていうのは常に思いますね」

写真:渡邉智之

INFORMATION

『きみの町にもきっといる。となりのホンドギツネ』

『きみの町にもきっといる。となりのホンドギツネ』

 渡邉さんの写真絵本をぜひご覧ください。これまでほとんど知られることのなかった、ホンドギツネの生態に迫る初めての写真絵本です。
 こんなに身近にキツネがいることに驚きます。河川敷や畑、公園などで、健気に生きている姿が素晴らしく、子ギツネたちの愛くるしい写真に思わずにっこりしてしまいますよ。ホンドギツネたちは、人の暮らしにひっそりと寄り添いながら、きょうも生きていて、あなたをすぐそばで見ているかも知れません。ぜひお子さんと一緒にホンドギツネの世界を覗いてみてください。「文一総合出版」から絶賛発売中です。

◎「文一総合出版」HP:
https://www.bun-ichi.co.jp/tabid/57/pdid/978-4-8299-9017-9/Default.aspx

 渡邉さんのオフィシャルサイトもぜひ見てくださいね。ホンドギツネ以外にタヌキやムクドリなどの写真も載っていますよ。

◎オフィシャルサイト:https://wtnbtmyk47.wixsite.com/watanabetomoyuki

楽園のような日本の無人島〜生きる喜びに気づける島旅

2022/8/14 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、島に魅せられたライター
「清水浩史(しみず・ひろし)」さんです。

 清水さんは1971年生まれ。早稲田大学卒業。大学時代はクラブの活動として、たびたび島に行き、その一方でバックパッカーとして、アラスカ、インド、南米、アフリカなど、辺境秘境の旅に没頭。大学卒業後はテレビ局に勤務するも、日常の窮屈さから脱出したいと、国内外の島旅は続け、現在はライター、そして編集者として活躍されています。

 これまでに150以上の無人島を取材。人が住んでいない島ゆえに、船の定期便はあるはずもなく、目的の島に行くためには、漁船などをチャーター。島にたどり着いても、船着場はなく、上陸するためには岩場に飛び移るか、浅瀬にドボンと飛び込んで泳ぐしかないそうです。

 清水さんはそんな島や島旅に関する本を多く出版、そして先頃『日本の絶景無人島〜楽園図鑑』という本を出されました。

☆写真:清水浩史

沖縄県多良間村の水納島にて
沖縄県多良間村の水納島にて

純白の楽園「百合が浜」

※『楽園図鑑』には37の島が掲載されています。何か選ぶ基準のようなものはあったんですか?

「無人島の中でも、やはり楽園というイメージと結びつきやすい、とにかく透明度の高い海に囲まれていること、あるいは真っ白な砂浜があること、あるいはサンゴ礁が豊かな島っていうのを厳選したという形なんですね。

 その中でも根幹にあるのは、人工物、人が作ったものがほとんどないっていうところを重視していると言いますか・・・はたからみると、綺麗だけど何もないように見えるかもしれないんですけど、何もないということは、何もかもあるっていう島なのかなって思います」

『日本の絶景無人島〜楽園図鑑』

●どの島も本当に素敵だったんですけれども、特に私が気になった絶景の無人島についてお話をうかがっていきます。まずは、鹿児島県の「百合ヶ浜(ゆりがはま)」。最強の純白楽園と書かれていましたけれども、真っ白な砂浜ですね。

「そうですよね。ここは結構広く、美しい場所として知られていますけれども、本当に美しいんですよね。与論島の大金久(おおがねく)という海岸の1.5キロ沖ぐらいに、毎日あるわけではなくて、大潮あるいは中潮のかなり潮が引いた時、干潮の時だけポコンと現れる真っ白な砂地だけの島ですね。

 与論島の海の青さと砂地の白のコントラストが本当に映えると言いますか、美しいので、出会える回数が少ない分だけ、出会えた時の喜びは大きな島なのかなと思います」

百合ヶ浜(鹿児島県与論町)
百合ヶ浜(鹿児島県与論町)

●確かに幻の浜っていうふうに、この本にも載っていましたけれども、それぐらいなかなか見ることができないっていうことですか? 

「そうですね。百合ヶ浜に限らずなんですが、厳密には島未満の低潮高地と呼ばれるものなんですね。潮が引いた時だけ島が現れる、そういう場所はこの百合ヶ浜はじめ、日本には各地にあるんです。出会えないんですけれども、この幻の美しさが味わえるという、本来の島とはまた違った魅力が低潮高地にはあるのかなと思います」

●現れては消えてしまうっていうことですよね。 

「そうですね。この儚さも魅力と言いますかね」

南バラス島(沖縄県竹富町)
南バラス島(沖縄県竹富町)

サルの楽園「幸島」

●続いては、宮崎県串間市にある「幸島(こうじま)」、サルの楽園と書かれていました。砂浜をサルの親子が走っている写真が載っていましたけど、こうやってサルが頻繁に現れるんですか? 

「ここは野生のサルが90頭くらい生息しているんですね。京都大学の研究員たちが観察のために島を訪れていることもあって、結構人慣れはしていますね。
 宮崎県の石波(いしなみ)海岸から渡し船で、もうほんの数分で渡ることができるんです。島にポッと渡してもらったら、もうそこにはサルが群れているという、異世界に紛れ込んだような楽しさと言いますか・・・美しさもありますし、それでまたそこの海や砂浜が綺麗なんですよ。
 サルを眺めるもよし、綺麗な砂浜で泳ぐもよしと、本当に楽園のような島かなと思いますね」

幸島(宮崎県串間市)
幸島(宮崎県串間市)

●海岸にサルがいるなんて、なかなかないですよね?

「そうなんですよ。私は無人島に行くのはいつもひとり旅ですけれども、サルに見守られて泳ぐって、見守られているような気がして、本当に楽しいですね(笑)」

●人間が近くに行っても、別に恐れるとか怯えてしまうとかはないんですね。

「ないですね。黙々と毛づくろいをしたりとか、本当に人間とサルのいい距離があるのかなというふうに思いますね」

●なぜ幸島にはサルがいるんですか? 

「これは研究員でもまだ分かっていないんですよね。なぜここにサルがいるのかは、ずっと謎なんです。ただこの島で有名になったのは、ここのサルは文化ザルとも言われたんですよ。というのは、60年代だったか、サルが芋を海水で洗って食べる姿が目撃された島なんですね。

 それは、砂を落とすっていうのもあるんですけれども、塩味が付いて芋が美味しくなることをサルは学び、その学んだことが次の世代にも受け継がれていくことが発見された島なんです。これは文化的行動であるということで、この幸島のサルは世界的にも有名になったという貴重な島かなと思いますね」

●サルにとっても楽園なんですね!

「そうですね。それを眺められるという、アクセスできるという幸せと言いますか、そんな貴重な島かなと思います」

北陸のハワイ「水島」、伊豆のヒリゾ浜

●『楽園図鑑』に掲載されている、私が特に気になった無人島。続いては、福井県敦賀市にある「水島(みずしま)」、北陸のハワイとも呼ばれているんですね。

水島(福井県敦賀市)
水島(福井県敦賀市)

「そうですね。無人島に限って言えば、日本海側は本当に綺麗な砂浜だけの島や無人島はほとんどないんですよ。ですので、この水島は真っ白な砂浜が600メートルぐらい続く、本当に美しい島なので貴重かなと思います。
 昨年くらいまでは多少コロナの影響で制限があったものですから、今年からはしっかり楽しめる島かなと思います」

●この海の透明度も高いですね。 

「そうですね。この水島の周辺は遠浅なんですよね。お子さんでも本当に安心して遊べますし、日本海というと、どうしてもちょっと荒々しいイメージがありますけれど、北陸のハワイっていう謳い文句に何ら違和感を覚えないような、素敵な島かなと思います」

●首都圏に住んでいるリスナーさんに向けて、アクセスしやすいおすすめの無人島はありますか?

「伊豆半島の先端にある”ヒリゾ浜”を挙げたいと思います。このヒリゾ浜は伊豆半島にあるので、無人島ではないんですね。ただし、道がないので陸地からアクセスできないんですよ。ですので、中木(なかぎ)っていう港から渡し船で渡るんです。

 ヒリゾ浜に渡ると目の前には岩の島がポンポンと浮かんでいるんですよ。平五郎岩(へいごろういわ)であったり、丘ハヤマっていう岩礁があったりするので、ヒリゾ浜から泳いで岩場の無人島に上陸するっていうことも楽しめます。

ヒリゾ浜(静岡県南伊豆町)。中央に見える岩の島が平五郎岩、 右手の浜がヒリゾ浜。
ヒリゾ浜(静岡県南伊豆町)。
中央に見える岩の島が平五郎岩、右手の浜がヒリゾ浜。

 このヒリゾ浜、何がすごいかっていうと、伊豆屈指の透明度って言われているんですよね。ただでさえ伊豆半島は綺麗ですけれども、どんだけ澄んでいるんだ、どんだけ魚影が濃いんだっていうぐらいお魚にも会えますし、そういう意味ではおすすめしたいなと思います。

 それと、だいたい海水浴っていうのは8月いっぱいで終わってしまう、毎年なんか天候が不順だな〜とか言ったら、あっという間に夏って終わってしまう。ただし、このヒリゾ浜は9月いっぱいまで海水浴をやっているという、ちょっと珍しいパターンなんですね。夏が終わってしまったっていうかたにも、9月いっぱいまで楽しめますので、多くのかたが楽しめる島なんじゃないかなと思いますね」

●まだ間に合いますね! 

「そうですね!」

(編集部注:素朴な疑問として、無人島の所有者は誰なのか、清水さんにお聞きしたら、国が所有していることもあるそうですが、多くは地方自治体で、中には個人または企業が所有している島もあるそうです。無人島を販売しているサイトもあるとのことですから、気になる方はネットで検索してみてはいかがでしょうか)

海と真剣に向き合う

※清水さんが島や島旅に興味を持つようになったのは、何かきっかけがあったんですか?

「もう30年ほど前なんですが、大学時代、早稲田大学の水中クラブという部に所属していたんですね。この部は年がら年中、島に行って、海にスキューバダイビングで潜り、あるいは素潜りで潜るという、海の探検部みたいな活動内容だったんです。
 毎年夏には1ヶ月以上の島合宿があるんですよ。それで1年生の時に沖縄県の伊江島(いえじま)での合宿で、先輩が助言してくれたんですよ。

 1ヶ月もの集団生活なので、結構人に気を遣って、楽しくしなきゃとか、みんなを楽しませなきゃなんて気を遣っていたんです。それを見た先輩が“清水、そんなに人に気を遣うことなんて必要ないよ。この部ではとにかくひとりひとりが、海の本当の面白さに真剣に向き合ってくれたら、もうそれだけでいいから”みたいなことを言ってくれたんですよね。

 なんかそこからですかね。吹っ切れたように、周りからどう思われてもいいや、どんなにオタクだと思われてもいいから、好きな海にどんどん行こうって。そこから島旅が始まったのかなと思います。

 私は、会社勤めも飽きっぽいところがありますし、長らく大学院で研究もしてたんですけど、その研究生活も飽きるっていう、非常に飽きっぽいんですね(笑)。ただこの島旅だけは、飽きないのはなんでかなって考えたことがあるんですけど、やっぱり有人島、無人島どちらであっても飽きないのは、どんな島に行ってもそれぞれ個性が違うんですよね。

 例えば、距離が近い島であっても、いざ行ってみると全然違う、これはなんなんだろう。島っていうのは小宇宙であって、それぞれ多様な個性の集まりなんだなっていうことが、飽きない理由なのかなと思っていますね」

百合ヶ浜の取材で与論島を訪れた際の写真
百合ヶ浜の取材で与論島を訪れた際の写真

島の人は、旅人にもおおらか

※離れた島「離島」になればなるほど、島独特の文化や豊かな自然が残っていますよね。

「そうですね。開発の波っていうことでいうと、やはり離れれば離れるほど、島独特の文化、豊かな自然は残りやすい傾向にあると思うんですよね。ですので、島旅をすると、今度はもっとあの先の島に行ってみたいな、そしてまたその先の島にも行ってみたいなって、どんどんアイランド・ホッピングをしたくなる。

 それはなんでしょうかね・・・島の大きさがどんどん小さくなったり、距離がどんどん離れたり、人口がどんどん少なくなっていけばいくほど、何か昔ながらのものが残っていることが、やっぱり可能性としては大きいので、島旅はどんどん奥に分け入りたくなるのかなって思います」

●住んでいる人たちのつながりも深そうですね

「そうですね。まあ相互扶助ですよね。物理的な仕事の面でも精神的な面でも、横のつながり、助け合う精神が島には残っています。面白いのは、島の中で助け合いが閉じられているかというと、そうではなくて、結構旅人にも開かれているのが、島旅の面白さかと思うんですよね。

 というのも、私が若い頃、仕事がつらくて、結構島に逃げていたことがあるんですけど、島の人によく言われたのが、そんなに仕事がしんどいんだったら、いつでもこの島に帰って来ればいいからと。あなたの居場所は会社だけじゃないんだから、そんなに気にするな、みたいなことをよく言ってくれたんですね。

 そういう意味で島の人たちの温かさ、おおらかさは、島内部だけではなくて、外部の旅人にも開かれているっていうのが、面白いところかなって思いますね」

(編集部注:清水さんによれば、戦後、150近くの島が無人化。その原因は、高度成長期に出稼ぎで人が出て行ったことや、近年は少子高齢化のために無人化していることが多いそうです。無人島になってしまうと、もう一度、人が住むことはほとんどなく、「人が暮らしていることが貴重なこと」だと清水さんはおっしゃっていました)

中ノ瀬(沖縄県伊江村)
中ノ瀬(沖縄県伊江村)

生きる喜びに気づく

※最後に、これまでたくさんの島を取材されてきた清水さんだからこそ、島を通して、何か見えてきたこと、感じていることはありますか?

「もちろん、島の楽しさ、豊かさに気づけるのがひとつあります。ただし、それと同時にやはり日常、どんなにつまらないと思える日常であっても、島の旅から帰ると、なにか日常の面白さに気づけるんですよね。

 島旅から帰ると少し強く生きられると言いますか、それが島旅の魅力かなと思うんですよね。日頃気づけなくなっている生きる喜びに気づける、ということなのかなと思いますね。

 例えばなんですけども、山口県の情島(なさけじま)に行った時に、大根を育てているおばあさんの話を聞いたんですね。その息子さんは都会で暮らしていて、社長さんになられていてお金持ちなんですね。それでその息子さんは島で暮らす母親に対して、もう野菜なんて買えばいいって! と息子が言うんだよって。お婆さんは、私は野菜は育てたいから育てているんだよって言うんですよね。

 つまり、生きる喜びっていうのは、何か買ったりすることだけではないんだと。何か育てること。もちろん子育てもそうですし、そういうことに気づける。

 ですので、島から帰ると、あれほど嫌だった仕事が何か小さなタネのように思えてきて、この仕事も大根のように手塩にかけて育てていく。だからその過程こそが生きる喜びなのかなって気づけたりする。島旅は帰ってきてからあとの、何か効用があるのかなというふうに思います」


INFORMATION

『日本の絶景無人島〜楽園図鑑』

『日本の絶景無人島〜楽園図鑑』

 清水さんの新しい本、おすすめです。きょうご紹介した島を含め、37の島が掲載。白い砂浜、透明な海、サンゴ礁などなど、楽園のような島が美しい写真とともに紹介されています。どの島にも行ってみたくなりますし、写真を見ているだけでも癒されますよ。この夏、間に合えば、または来年の夏の島旅の参考に、どうぞ。
 河出書房新社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎河出書房新社
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309289731/

◎清水さんのTwitterもぜひ見てくださいね。
https://twitter.com/shimizhiroshi

人生の記念日に木を植えよう〜「プレゼントツリー」プロジェクト

2022/8/7 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」の「鈴木敦子(すずき・あつこ)」さんです。

 鈴木さんが2003年に設立した「環境リレーションズ研究所」は環境意識が高いといわれている日本の人たちに、もっとアクションを起こしてもらいたい、そのためのプラットフォームを作っていこうと活動をスタート。現在は、森づくりを主な事業として取り組んでいます。

 中でも「人生の記念日に木を植えよう」をコンセプトに、2005年から全国で進めている「プレゼントツリー」プロジェクトに注目が集まっています。

 いったいどんなプロジェクトなのか、じっくりお話をうかがいます。

☆写真協力:認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」

鈴木敦子さん

森林再生の入り口=プレゼントツリー

※この「プレゼントツリー」、文字通り、木をプレゼントする活動のようですが、具体的にはどんなプロジェクトなのか、教えていただけますか。

「森を守ろうというと、9割以上の日本人の方々は賛同してくださるんです。でも、森にまで行ったことのある人って少ないんです。渚沙さんは森に行ったことありますか? 森林再生したことありますか?」

●いや〜確かにそう言われると・・・。

「なかなか入り口がどこにあるかということも含めて、すごく入りにくいのかもしれない。なので、そういう人たちに入り口を設けることで、あなたの大切な人やあなた自身の人生の記念日に木を植えませんか。その木を大切な人にプレゼントしませんかっていう、そういうコンセプトでスタートをしているのが、このプレゼントツリーです。

写真協力:認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」

 プレゼントという言葉の意味としては、自分自身へのプレゼント、もしくは大切な人へのプレゼントっていう意味と同時に、森を再生するという意味で森へのプレゼント、そこに記念樹を植えることによって森が再生される。それからひいては日本全体の森が潤っていくというそういうプレゼント、そしてそれは未来の地球に対するプレゼントでもありますよって、そんな意味を込めてプレゼントツリーという名前を付けています。

 要するに森が近くにある人たちは、森づくりに参加するのも、もしかしたら簡単なのかもしれないです。でも、都会にいる私も、渚沙さんもきっとそうだと思いますけれども、都心部に住んでいらっしゃるかたがたは、どうも森まで少し距離がある。
 精神的な距離もあるとするならば、記念日に記念樹、記念の木を植えることによって、その木を地元と一緒に育てていく。で、育てることによって、やっぱり木って育ちますから、大きくなりますから、そこに愛着が湧いて愛着も大きく育っていくんです。

 我々は森林整備協定というのを結びながらやるんです。最低10年、地元の自治体にも入ってもらって、地元の森林保全してくださる林業家さん、森林組合さんであることが多いんですけれども、そういうところにも入っていただきます。

 10年以上、都会の記念樹を植えた人たちと、それから地元の主たる人たち、地元の森林行政を司る自治体さん、自治体が市だったら市長さん、それから森林組合さん、もしくは地域に森林組合がない場合は林業家さんに入っていただいて、かつその森の所有者さんと私共と4者で協定を結ぶんです。

写真協力:認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」

 10年ってすごく長いじゃないですか。子供が生まれると10歳になっちゃうし、10歳の子の誕生日プレゼントに記念樹を植えれば、その子が20歳になるわけですからね。その長い年月を共に、記念の木を育てていくというプロセスを通じて、その地域とのつながりを作っていく。そうすることによって森だけでなく、地域まるごと元気にしていこうじゃないかっていう、そんな取り組みです」

(編集部注:鈴木さんがおっしゃるには、地域がうるおわないと、森に人手もお金もかけられない。つまり森林再生と地域振興はセットということです)

里親と木の対面に感動

※一般の方が、この「プレゼントツリー」の活動に参加したいと思ったら、どうすればいいですか?

「簡単です。ググって、 プレゼントツリーって入れていただくと、すぐにうちのサイト出てまいります。そのウェブサイトに、だいたい常時5〜6箇所ぐらい、植えられる場所をご準備させていただいております。その中から好きな場所を選んでいただいて、そこに1本植えようとか2本植えようとかってお申し込みいただくと、お手元に、この地域のこの区画にあなたの木が、何番という管理番号のもとに植えられ育てられますよという植樹証明書というものが届きます」

●植える場所も選べるんですね。

「そうですね。木は残念ながら、いろんな木を植えていますので、選べないんですけれども、場所は受け入れている場所であれば選べます」

●木の里親になるっていう感覚ですよね。

「その通りです。さすが!」

写真協力:認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」

●里親になった方々に現場まで来てもらって、木を植えてもらうっていうことなんですか? 

「基本的に植物は、植える適切な時期って決まっちゃっています。1年間のうちに、例えば雪がたくさん降るような地域は、だいたい雪の降る直前。それ以外の地域は春植えであることが多いんです。
 なので地域によって、春か秋に、その年にお申し込みを受けた人たちの記念樹を、私どもが責任を持って、地域の林業のプロの方々の手で植えていただくんですけれども、年に1回植える、よいタイミングにみなさんをお招きして、参加しませんかってお声がけしますので、その時にもし参加できるようであれば、ご自分で植えられるっていう、そういう仕組みになっています」

※里親になった木がどれくらい大きくなったのか、見てみたい、そう思う方も多いと思いますが、鈴木さんからは、植えられた場所に行くことはできても、どんどん成長して、森のようになっていることが多いので中に入るのは難しいでしょうとのことでした。
 それでも、里親と木の対面が実現した、こんなエピソードを話してくださいました。

「千葉県山武市というところで、プレゼントツリーの森を10年前にスタートして、ちょうど去年10年で満了を迎えたんです。その満了を迎える直前に、やっぱり最後にみなさんに集まっていただこうということで、(コロナ禍で)県をまたぐということ自体が推奨できなかったものですから、県内の方々限定で、プレゼントツリー山武の森に植えてくださった里親の方々にお声掛けして、里山体験イベントっていうのをやらせていただいたんです。

写真協力:認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」

 その時に、10年前に植えてくださった里親の方が、植樹証明書をお持ちになられて、”私のこの木は、今どこでどんなふうに育っているのか見たくてきました!”っておっしゃってくださって・・・。

 その山武エリアは杉の区画もあるんです。山武杉(さんぶすぎ)という有名な地域の杉が、地域資源としてブランドになっているものですから。
 我々は天然林の森に戻していくので、広葉樹であることが多いんです。多くの森はたくさんの種類の広葉樹を植えて、もともとその地にあった自然の森の姿に戻していく活動ではあるんですけれども、(山武エリアは)地元の方々のご要望にお応えして一部、杉を植えていました。

写真協力:認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」

 その里親の方は、山武杉のエリアだったんです。杉はスッとしていて、下のほうに枝があまりありませんので、入っていけたんですよ。山武杉は育ちの早い杉なので、10年経つと相当大きな杉になっていましたね。ご自分の木を確認いただいて、とても喜んでお帰りいただいたというのは、私自身が感動しました」

もともとの姿の森に

※「プレゼントツリー」プロジェクトでは、どんな木を植えているんですか?

「基本的には、どういう地域からプレゼントツリーのお呼びが掛かるかと言いますと・・・戦後に拡大造林政策っていう、難しい話は端折りますけれども、戦後の復興期に建設ラッシュが起こり、木材が足りなくなってしまって、その時に自然の森はどんどん杉とかヒノキの人工林、要は木材を作るための森に国が主導して変えていったんです。

 そういうところが伐期(ばっき)を迎えると・・・同じ時期にいっぺんに自然の森から人工林に変えて、杉とかヒノキを植えてますから、伐る適切な時期を迎えるタイミングが一斉に、広範囲に広面積に同じ時期に伐らなきゃいけなくなっちゃうんです。

写真協力:認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」

 そうすると一気にハゲ地が広がりますよね。なんとなく想像してわかりますでしょ。そういうところは、本来は山の所有者さんが再植林、もう一度森に戻すという義務を、日本の法規制上は負っているんです。
 でも、プレゼントツリーの活動を始めた2005年頃は、日本の木材自給率がものすごく低くて、20%を切っているか切らないかくらいの頃だったんですね。そういう時は経済的な理由で、(木材を)売ったけれども、そのお金では再植林するコストは賄えませんっていう方々が多かったんです。

 そういう森を我々が、山の持ち主さんがもうお手上げですっておっしゃているような森だから、もともとの姿の森に戻そうよ、そういうところからスタートしていますので、その地域に自然に生えてくる樹種、木の種類というものを少し調べさせていただいて、地元の林業のプロの方々と、それから自治体の方々にご相談させていただきながら進めています。

 それでも地域に還元されないような樹種を植えても、あまりうまくいきませんから、長続きしませんから、プラス、先ほどの千葉県山武市のように、地元にもともと自然に生えている樹種と同時に、山武杉という有名な杉のブランドがあったので、(地元の方から)これも植えたいんです、みたいな話があると、一部そういうのも植えていきましょうという、かなり多様性に富んだ森づくりを行なっています」

(編集部注:「プレゼントツリー」プロジェクトでは現在、国内37箇所で森づくりを行ない、これまでに植えた木は30万本を超えているとのこと)

写真協力:認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」

災害から守ってくれる森

※鈴木さんが森づくりを主な事業にしようと思ったのは 日本の森が荒廃していくという危機感みたいのものがあったんですか?

「ひとつには、もともとNPOを立ち上げた時の背景と同じように、先ほど来、申し上げているように、これだけ森が好きな国民なのに、なぜ森づくりということをしてくれないんだろう。この人たちが森づくりをしてくれれば、森づくりに参加してくれれば、ハゲ地がもっと減るのになと。

 実はハゲ地に再植林できない、なんらかの事情があって、経済的な事情だった時代もあれば、今のように日本全国高齢化していますから、年齢的に森の面倒を見きれません、みたいな事情もあります。

 (日本は)これだけ森が豊かだと言われていて、これだけ森林政策、森林行政も相当テコ入れが進んでいるにもかかわらず、ハゲ地の面積って実は減っていないんです。要は伐った後に再植林するスピードが遅いままなんですよ。常時、伐った面積の3分の2ぐらいは、ずーっと再植林できないまま置かれちゃっているんです。

 これが目立つので、そこで何が起こっているか分かりますよね。今、ハゲ地にしておくと(ここ数年)豪雨の頻度が高まる、台風の勢力が巨大化している、異常気象が頻発する日本では・・・そういうハゲ地が自然のまんま森に戻るのを待つと、何年かかると思いますか。100年かかっちゃうって言われているんですよ。

 だから人の手で木を植えて、森に戻るスピードアップを手伝ってあげないと。その間にどれだけ豪雨が襲いますか。台風が襲いますか。森があれば、そこはそんなに急激に崩れたりとかせずに、土砂災害の被害も小さく抑えられる、阻止することにつながるわけですよね。にもかかわらずハゲ地のままであるから、どんどん崩れていってしまう。

 森をつくっておいたところ、特に天然の形の森、もともとその地にあった、その風土にあった、力強い森に戻していたエリアは崩れていないんですよ。やっぱりハゲ地にしておくとそれだけリスクが高い。だからそのままにしておくことがすごく気になって・・・。

 森の役割は生き物のため、地球温暖化防止にもなる、それから綺麗な水とか美味しい水も作ってくれるとかいろいろあるんですけれども、やっぱり日本で大事なのは、災害から守ってくれる、地域を守ってくれるっていうのがいちばん大事なんじゃないかなと思います」

●先ほども天然林に近い森にするのが目標だというお話もありましたけれども、やっぱりそれは自然災害にも強いっていう思いがあるってことですね。

「そうですね。その地に昔からあった形に戻すわけですから、やっぱり強い森になります」

写真協力:認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」

全都道府県、100万人100万本

※「プレゼントツリー」プロジェクトの森づくりは、現在、国内37箇所ということですが、今後の目標としては、何箇所くらいまでを見据えているのでしょうか?

「もうね、全都道府県でやりたいなと。というのは、やっぱりそれぞれ人生にはいろいろとストーリーがあって、それぞれの人たちがそれぞれの地域にそれぞれの思い入れがあるので、自分ゆかりの地域の森を応援したいっていうお声もたくさんいただきます。
 なので、全都道府県でやりたいなというひとつ大きなビジョンがありますし、もうひとつは100万人100万本、ここまで早く到達できたら嬉しいなと思っています」

●鈴木さんが環境リレーションズ研究所を設立して20年近くが経とうとしています。その間、地球温暖化の影響が顕著なものとなって、その一方でSDGsの達成が私たちには課せられています。最後に鈴木さんに今どんな思いがあるか、改めて聞かせていただけますか。

「はい、ありがとうございます。ありがたいことにSDGsって、いろいろなところで、国連さんが旗を降り始めて、次にESG投資なんていう言葉も、お聞きになったことがある方は多いんじゃないかなと思います。その時々に社会的な背景で、森林ブームとか森づくりブームっていうのがくるんですけれども、一過性のブームで終わらせたくないなっていうのはあります。

 2005年にスタートさせた直後も、第一期森づくりブームっていうのが、我々のプレゼントツリーの活動の中で起きたんです。すごくたくさんの人たちが入ってきてくださったんですけども、それが一段落すると一気にいなくなるっていう現象にも悩まされています。
 森は100年のビジネス、100年の事業、100年の活動なんです。そのうちの冒頭の10年だけ、みんなで分担し合いましょうよ。11年目以降から100年まで地元の方々に頑張っていただきたいっていう、そういう思いと長期のビジョンを、ぜひみなさんと共有していただけるような、様々なお伝えの仕方をこれから頑張っていきたいなって思っています」


INFORMATION

 「環境リレーションズ研究所」が進めている「プレゼントツリー」プロジェクトにぜひご参加ください。あなたの記念日にご自身に、または大切なかたの結婚や出産、誕生日などに木を贈りませんか。鈴木さんもおっしゃっていましたが、それが地域の森や、ひいては地球へのプレゼントになります。

 苗木の里親になると、植樹証明書やメッセージカードなどが送られてきます。植える場所、植栽地については、オフィシャルサイトを見ると、現在は8箇所から選べるようになっています。その中には、今年から始まった東京都の檜原村や、首都圏に近い場所として山梨県笛吹市がありますよ。

写真協力:認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」

 1本の苗木の里親になる料金は、苗木代や、苗木を守る防護ネット、そして下草刈りの費用などを入れて、1本5000円前後だそうです。ただし、木のオーナーになるわけではないので、10年経ったら地元に戻すことになります。鈴木さんはぜひ、里親として見届けてほしいおっしゃっていました。

 「プレゼントツリー」プロジェクトについて詳しくは認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」HP:https://www.env-r.com/

◎「プレゼントツリー」プロジェクト専用サイト:https://presenttree.jp/

ザトウクジラに向き合って10年〜沖縄の海で起きた奇跡

2022/7/31 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、沖縄在住のフリーダイバーで写真家の「篠宮龍三(しのみや・りゅうぞう)」さんです。

 篠宮さんは1976年、埼玉県出身。人間で初めて素潜りで100メートル超えを達成したジャック・マイヨールに触発されてフリーダイビングの道へ。国内唯一のプロ選手として、世界を転戦し、2010年に115メートルというアジア記録を樹立。

 そして2016年に第一線を退いたあとは、沖縄で現役の頃から続けていた、フリーダイビングのスクールや大会を運営。さらに「ONE OCEAN〜海はひとつ」をテーマにした活動もされています。ホームの海は宜野湾だそうです。

 そんな篠宮さんが先頃、『HERITAGE(ヘリテージ)』という写真集を出されました。この本は、沖縄近海で捉えたザトウクジラだけを掲載した写真集で、篠宮さんにとっては記念すべき1冊目の写真集です。

 水中写真は現役の頃から撮っていたそうですが、野生の生き物が相手の撮影は、競技よりも難しいとのこと。酸素ボンベはつけずに、重いカメラを持って潜る、一息1〜2分の勝負なので、いい写真が撮れた時の感慨はひとしおだそうです。

 きょうは、10年撮り続けているザトウクジラへの思いと、海中での驚きのエピソードなどお話しいただきます。

☆写真:篠宮龍三

篠宮龍三さん
篠宮龍三さん

HERITAGEに込めた思い

※改めて、この『HERITAGE』という写真集を出そうと思ったのは、どうしてなんですか?

「10年ぐらい、ホエールスイムというんですけれども、冬の間、沖縄にやってくるザトウクジラと一緒に泳いだり、撮影をしたりということにチャレンジしてきたんです。10年前は、なかなかやりかたもわからずに、相手は野生動物ですから、どうやって向こうの機嫌を見極めて、うまくアプローチをして撮影をしたりとか、そういうことがまったくわからなかったんですね。

 ここ2〜3年で、うまく撮れるようになってきましたし、もしかしたらですけど、ザトウクジラ全体の数が増えているような感じで、より見やすくというか、アプローチしやすくなってきましたので、ひとつ10年という区切りで形に残しておきたいなと思って写真集を作りました」

●撮影場所は沖縄の海のみなんですか?

「はい、沖縄の北部と奄美と、あとは八重山のほうですね。だいたいこの3箇所で撮影しています」

『HERITEGE』

●「HERITAGE」というタイトルに込められた思いは?

「沖縄本島北部と八重山と奄美大島は、去年世界遺産に登録されましたよね。その世界遺産は、英語でいうと”WORLD HERITAGE”ですよね。そこからワンワードもらって”HERITAGE”というタイトルにしたんですけれども、日本語に訳すと多分、伝承とか継承とか、後世に残すという意味があると思うんです。

 10年撮ってきて、この先の10年もやっぱりクジラたちが安心して、また沖縄の海に毎年毎年戻って来てくれるようにという、そういう思いを込めて”HERITAGE”という名前をつけました」

●ザトウクジラは一年中、沖縄の海にいるわけではないんですよね?

「そうなんですよ。夏はロシアとかアラスカのほうにいて、いっぱい餌を食べて、身体を太らせて、春になると沖縄に南下して来て、出産とか子育てとか繁殖活動を行なって、それで3〜4ヶ月経ったら、また北のほうに帰っていくっていうことの繰り返しをしているんですね」

●撮影しようと思っても、そんなにいつもは出会えないっていう感じなんですね。

「(出会えるのは)冬の間、3ヶ月くらいですかね」

モノクロ写真は肌の色!?

※この写真集『HERITAGE』は全編モノクロ写真なんですが、あえてモノクロで表現したのはどうしてなんですか?

「クジラの肌というか、地肌がやっぱりモノクロなんですよ。黒と白とそれからグレーの部分があるという感じなんですけども、その色そのものを出すには、写真をモノクロにしてしまったほうが、より雰囲気としては近づけるなというのもありますし、青い海に浮かんでいるクジラってとても綺麗だと思うんですけれども、それほど海は青くはないんです、実は。沖縄の海は結構プランクトンが豊富で、ちょっと緑がかっているんですね。

 見た目をよくするために、編集でどんどん青くしちゃったりとか、映える写真にしてしまうんですけど、それだと本質というか、本来のクジラの肌の色は出なくなっちゃうかなとも思いました。見た目が華やかな写真も素敵だと思うんですけど、クジラのそのものの色を出したいなと思って、モノクロで仕上げました」

写真:篠宮龍三

●なるほどー。写真を見ると、かなり近づいて撮影されているように感じるんですが・・・?

「そんなに近づきすぎるとすごく嫌がるんですよね。野生動物ですし、警戒もしますし、こっちに来るなっていうふうに腕を振ってくる時もあります。
 だから、そういうふうにストレスを与えるようなことはしたくないなって思って、レンズを変えたり、ちょっと望遠気味のレンズを使ったりして、寄ったような写真にしているという感じです。そんなにすぐ近くまでは寄らないように気をつけていますね」

●一日かけて撮影に臨むとして、だいたい何頭くらいに出会えるんですか?

「そうですね。いちばんピークの時期、3月中旬とかなんですけれども、5頭から10頭という感じですかね。まあ1頭会えればいいという時もあるし、1頭も会えないという時もありますので、やっぱり自然相手のものだなと思いますね」

表情は目に現れる

※これまでに出会ったザトウクジラで、いちばん大きな個体は全長、何メートルくらいですか?

「おそらく15メートルは超えていると思いますね」

●えーっ、15メートル! 怖くないですか? 

「やっぱり15メートルを超えてくると、かなり大きな部類に入ってきますし、水中では屈折率の関係で物が1.4倍に見えるんですよ。なので余計大きく見えるんですね。そういうかなり大きな個体に会った時は、圧倒されて怖くなりますね」

●それはそうですよね〜。ザトウクジラと目が合うこともあるんですか?

「もちろん! やっぱり目を見て、相手の様子をうかがうことが、まず大事だと思っているんですよ。目に表情が現れるんですね、意志というか感情というか。怒っているとか近寄るなとか、受け入れてくれているとかね。

 そういうのがすべて目に現れるので、まず目を見て確認をして、もう少し寄っても大丈夫かなとか、これはもう引いた方がいいかなとか。特に子供を連れている、子育てしているお母さんクジラは、神経質になっている場合がありますので、そういう時は離れて見守るとか、そういうこともしていますね」

写真:篠宮龍三

●目でわかるんですか。すごい!

「まあそうですね。やっぱり同じ哺乳類ですし、ガッと(目を)見開いている時は、怒っていたり驚いていたりとか、そういう状態なので、そういう時は離れるようにしますね」

●ザトウクジラって、近くにいる人間を認知して、大きなヒレが当たらないように避けてくれた、なんて話も聞くこともあるんですけど、そういうこともあるんですか? 

「そうですね。とても繊細な生き物なので、間違ってぶつかっちゃったりとか、そういうことは、ほとんどないんですよね。すごく大きな巨体で、胸ビレの長さだけで4メートルくらいあるんですけど、それでもぶつからずにうまく身をかわして避けていくので、すごいなって思いますね」

●撮影中に心がけていることはありますか?

「やっぱり海の中ですから、自然相手の野生動物相手なので、安全に行って帰ってくることをまず大事にしています。それと相手にストレスをかけすぎないっていうか、追いかけすぎないようにしてますね。

 親子クジラだと、お母さんクジラがちょっと神経質になっている場合もあるし、子供のほうが逆に興味を持って寄って来てしまうこともあるし、そういう時は逃げないといけないですけどね。そういうふうに向こうの機嫌もよく見ながら、あまり嫌な思いをさせないようにと考えていますけどね」

ザトウクジラの歌

※ザトウクジラは「歌うクジラ」としても知られていると思うんですが、篠宮さんは、ザトウクジラの歌を聴いたことはありますか?

写真:篠宮龍三

「はい、歌うクジラのことを”シンガー”っていうんです。冬になると、素潜りのトレーニングや講習中によく水底で聴こえてくるんですね。その声がとても、なんというか、切ないというか、狂おしいというか、そういう歌声なんです。

 仲間を呼んでいるとか、いろんな説があるんですけれども、オスが歌うので、メスに対して歌っているという説も昔はありましたね。最近では、オスがほかのオスに歌っているとか、オスが小さい子クジラに歌っているとか、そういう研究もあるみたいですね」

●どういう歌声なんですか?

「低い音が多いですかね。唸るような、牛さんが水中で唸っているような感じなんですけど」

●へぇ〜!

沖縄で有名なザトウクジラ

※ザトウクジラの撮影中に遭遇した印象的な出来事ってありますか?

「沖縄に毎年戻ってくる”Z(ゼット)”っていうクジラがいるんです。沖縄でホエールウォッチングとかホエールスイムをしている人の間では、とても人気のある有名なクジラなんですね。そのクジラをどうしても何年もかけて撮影していきたいなって思うようになって、ようやくここ数年撮れるようになったんです。

 普段そのZは、けっこう走り回っていることが多くて、早いんですよ、スピードが。ほかのメスを追いかけていたりすることが多いんですけれでも、たまたま止まっていることがありました。これはすごくラッキーだなって思って、今年何回か止まっているZを撮れたんです。
 向こうもこちらの存在に気がついて、くるっと振り返って向かい合わせのような形で向き合っちゃったんですね。もうすごくびっくりしまして・・・。

 向こうもとても興味を持ってくれたというか、嫌がらずにずーっと何秒か停止してくれました。その瞬間は撮影じゃなくて、どういう機嫌なのかなとか、どういう目をしているのかなとか、もっと探って仲良くなりたいって言ったら、ちょっと変ですけど、もっと自分の肉眼で見て、その場の空気とかその感覚とか時間を感じたいな、共有したいなと思いましたね」

写真:篠宮龍三

●Zと呼ばれるようになったのは、どうしてなんですか?

「尾ビレの右側にアルファベットのZみたいな文字が、文字のようにみえるキズが刻まれているんですよ。たぶん岩場とか珊瑚礁で擦れたあとだと思うんですけれども、それで通称Zってみんな呼んでいるんです。30年ほど前から毎年、沖縄に来ているみたいなんですね。とても古株というか身体もすごく大きいですし、とても見応えのあるクジラなんですよ」

●どれくらい大きいんですか?

「やはり15メートル以上はあると思いますね」

●わぁ〜!

ONE OCEAN〜海はひとつ

※長年、海と関わっている篠宮さんは、海の変化も感じていて、特にここ数年、沖縄の海の水温が高くなっていることと、海洋ゴミの問題を危惧されています。

 活動のテーマにもなっている「ONE OCEAN〜海はひとつ」というメッセージには、どんな思いが込められているのか、改めて教えてください。

「プラスチックゴミとかビニールのゴミは、海中に漂ったり浮かんだりして、いろんな国に流れていってしまうんですよね。自分が住んでいる沖縄でも、文字を読むと隣の国のゴミがあるなと思いますし、こっちでも出しているゴミが太平洋のほうにも行ってしまっているでしょうし、それはもうお互い様だと思うんですね。

 やっぱり(海は)ひとつにつながっているからこそ、大切にしていかなければいけないと思いますよね。海がなければ、地球の気候というのは安定しないですし、海がすべての生き物のルーツでもありますから、海に感謝して大切にしていかないといけないなと思いますね」

☆この他の篠宮龍三さんのトークもご覧下さい

写真:篠宮龍三

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『HERITEGE』

『HERITEGE』

 篠宮さんの初めての写真集です。沖縄の近海で10年撮り続けているザトウクジラだけの写真集。全編モノクロ写真だからこそ感じるクジラの迫力、その雄大さに圧倒されます。静寂さも感じますよ。沖縄では有名なZと呼ばれるザトウクジラの写真も掲載、見応えのある重厚な写真集です。ぜひご覧ください。お買い求めは篠宮さんのオフィシャルサイトから、どうぞ。

 篠宮さんが案内する各種ツアーもありますよ。8月は世界遺産の沖ノ島・玄界灘ツアーや小笠原ツアーなど。また、フリーダイビングのスクールも随時開催。詳しくは篠宮さんのオフィシャルサイトをご覧ください。

◎篠宮龍三さんHP:https://apneaworks.com

夏山の鳥に会いに行こう!

2022/7/24 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、野鳥と山登りが大好きなイラストレーター「piro piro piccolo(ピロピロピッコロ)」さんです。

 「piro piro piccolo」さんは1989年、東京都出身。多摩美術大学卒業。現在は、野鳥をテーマにイラストや小物を制作されています。

 小学生の頃にブンチョウを飼っていたこともあり、鳥好きだったpiro piro piccoloさんは大学卒業後に、友人からバードウォッチングに誘われ、公園でカルガモやカイツブリの子育てを観察、可愛いヒナを見て、一気にバードウォッチングにのめり込んだそうです。
 そして、初めての山登りが奥多摩、運動が苦手で、それでも汗だくになって登った山で、野鳥のさえずりに包まれ、こんな世界があったのかと感動されたそうです。

 そんな「piro piro piccolo」さんが先頃『なつのやまのとり』という本を出されたということで番組にお迎えすることになりました。

 今回は、夏山で見られる可愛い鳥たちの個性豊かな生態や、夏鳥たちを観察するおすすめの方法などうかがいます。

☆イラストレーション:piro piro piccolo

イラストレーション:piro piro piccolo

夏山で見やすい鳥たち

※それでは、さっそくお話をうかがっていきましょう。

●まずは、お名前のpiro piro piccoloさん、響きもすごく可愛いなあって思ったんですけど、なにか意味があるんですか?

「イタリア語で、イソシギっていう鳥の名前なんです」

●イソシギっていうのは、どんな鳥なんですか?

「水辺にいる小さなシギの仲間で、尾を上下にフリフリとする動きがすごく可愛い鳥なんです。見た目も可愛くって、磯にもいるんですけど、どちらかというと内陸の川にいるようなイメージで身近な存在です」

●イタリア語の名前は、なにか図鑑とかを見てお知りになったんですか?

「はい、イタリアに鳥を見に行った時に図鑑を買ったんですけど、それをパラパラと見ていたら、ピロピロピッコロって書いてあって、その語感がふざけていて可愛いから、作家名に選んでしまいました」

●確かに可愛いですよね! ピロピロピッコロって(笑)

「ありがとうございます!(笑)」

●そんなpiro piro piccoloさんが先頃『なつのやまのとり』という本を出されました。私も読ませていただきました。野鳥たちの可愛いイラストが満載で、とってもほっこりして癒されました。野鳥の生態とか特徴も一目でわかるので、すごく興味深く拝見しました。

『なつのやまのとり』

 この本には46種の野鳥が載っていますが、これが全部、夏の山で見られる鳥なんですか?

「そうですね。夏の山で見やすい鳥をピックアップしてるんですけど、この本では私が東京に住んでいるので、関東甲信越で見やすい鳥に絞っています」

●夏の山の鳥に絞ったのは、どうしてなんですか?

「夏山って鳥のさえずりがすごくて、ちょうど繁殖期なのでパートナーを作るために、そして縄張りを守るために、よくさえずっています。特に初夏がおすすめなんですけど、山を登っている途中に絶えず、なにかしらの鳥が歌っているという感じですね」

●掲載されている46種の野鳥は、図鑑だったら普通は、あいうえお順になっているとか、そういったことが多いですけれども、この本はそうなっていないですよね。何かこだわりがあるんですか?

「はい、麓から登っている間に、会える順番をイメージして描かせていただきました。大体なんですけれども、似た種類の鳥でも標高によって違ったりして、堅苦しくなく親近感がわくように、図鑑とはまた違う観点で描かせてもらいました」

●麓から登っている途中に見られる順っていうことは、標高順に下から上ってことですよね?

「そうですね」

●夏の山にいる野鳥は、一年中いるわけではないんですよね?

「はい、なかにはずっといる鳥もいるんですけど、基本的には繁殖するために来ている鳥たちです。餌が少なくなってくると、冬は平地に降りて行ったりとか、南の暖かい国に海を渡って行ったりします」

鳴き真似をするとモテる!?

※本に載っている野鳥の中から、いくつかピックアップしてお話をうかがっていきたいと思います。「キビタキ」という野鳥は、鳴き真似をすると書かれていますが、そうなんですか?

イラストレーション:piro piro piccolo

「あ、はい! すごくよくします。あのツクツクホウシとか、コジュケイっていう鳥がいるんですけど、その鳴き声とか真似します」

●この本にもピッピホイピーとか、周りの声からもいろいろ真似している、学んでいると書いてありましたけど、真似できるんですね。

「たくさん真似することで、メスにアピールしているんです。これくらい俺はできるんだぞ!って。だからモテるために鳴き真似していますね」

●鳴き真似するとモテるんですか?(笑)

「そうなんです(笑)。歌のレパートリーが多いことを自慢しているような感じだと思うんですけど・・・」

●へぇ〜、鳥の世界では鳴き真似できるほうがモテるんですね〜(笑)。

「そうですね〜(笑)」

●ほかにも鳴き真似する鳥はいますか?

「クロツグミとかオオルリとか、コサメビタキっていう小鳥も、けっこう鳴き真似をしています」

●じゃあモテるんですね!(笑)

「そうだと思います!(笑)」

●日本三鳴鳥(さんめいちょう)というのがあると書かれていましたけれども、これはどんな野鳥が鳴鳥なんですか?

「日本の鳥の中でもさえずりが美しいとされる、オオルリ、コマドリ、ウグイスの3種になります」

●鳴く鳥はたくさんいると思うんですけど、その中でもトップ3というか・・・。

「そうですね。個人的にはあまり納得できないんですけど、ほかにも綺麗な鳴き声の鳥たちがいるので・・・ただ昔は、野鳥を飼って鳴き声を楽しむ文化がありまして、その中でも捕まえやすいとか、飼いやすい点を踏まえて、この3種が選ばれたそうです」

●ちなみにpiro piro piccoloさんが三鳴鳥を選ぶとしたら、どんな鳥になりますか?

「すごく難しいんですけど、イカルっていう鳥が含まれていないのが、個人的には納得できなくて・・・何て言えばいいんだろう、牧歌的な綺麗な声でさえずるんですよ。高原にいるような・・・だからその子は入れてあげたいんですね」

イラストレーション:piro piro piccolo

●どんな声で鳴くんですか?

「イカルは、地域によって差があるらしいんですけど、私がよく聴くのは”キーコキー”って綺麗な声で鳴きます。あとは、ウグイスは唯一無二の鳴き方なので、そのままでいいなあって思っています。もう一羽入れるとしたら、悩みどころなんですけど、オオヨシキリっていう山にはいない鳥で、鳴き方がすごく変わっていて、個性的なので(三鳴鳥に)入れてあげたいなあって思います」

●どう個性的なんですか?

「”ギョシギョシ ギョギョシギョギョシ”って鳴くんです。その声がすごくうるさい(笑)っていうか、やかましい感じなんですけど、鳴いているだけで、その子がいるなあって気づけるので、とても存在感のある鳥です。それが面白いので入れてあげたいです」

多夫多妻、子育て共同、イワヒバリ

※実は、人をあまり恐れない野鳥も意外といるようで、中でも「イワヒバリ」という鳥はpiro piro piccoloさんのお気に入りみたいですね。どのあたりにいる、どんな鳥なんですか?

「標高2500メートルくらいの高山の岩場に棲む、スズメくらいな小鳥なんですけど、背中が岩みたいな色で、すごく地味な鳥です」

イラストレーション:piro piro piccolo

●気づくと足元にいて、こちらが驚くと、本には書かれていましたけど、それぐらい人懐っこいってことですか?

「人懐っこいっていうか、あまり人を気にしない性格なんでしょうね(笑)」

●どんな生態なんですか。イワヒバリって?

「イワヒバリは、子育ての方法がすごく面白くって、まず多夫多妻制で、しかもヒナを共同で育てます。グループで行動しているんですけど、そんな鳥はほかにはいなくって、高山の厳しい環境だからこそ、そういうふうに子育てしないと、確実に子供を育てあげられないんでしょうね。そんな進化の仕方をしたみたいですね」

●みんなで協力しあって育てているんですね! で、岩にいるんですか?

「あ、そうですね。名前の通り、岩場に棲む鳥です。ヒバリって名前がつくように、すごく鳴き声も綺麗で、よく歌いながら歩いている姿を見かけますね」

●そうなんですね〜。

※イワヒバリ以外に特に心惹かれた鳥っていますか?

「あとは、好きな鳥なんですけど、ホシガラスです」

イラストレーション:piro piro piccolo

●カラスの仲間なんですか?

「そうなんです。カラスの仲間なんですけど、全身に星模様があって、綺麗な鳥なんです。森林限界って呼ばれる、あまり木が生えない、環境の厳しいところに棲んでいます」

●カラスと言えば、真っ黒いイメージがありますけど、模様があるんですね?

「それが名前の由来になっています」

●(本に掲載されているイラストを見て)ホシガラス、綺麗ですね〜。

「この子が面白くって、その子もあまり人を気にしないタイプの鳥なんです。登山道に出てきて、ハイマツっていうそのあたりに生えている松の仲間の実をくわえて、目の前でほじくり出して、中身を集めるんですね」

●へぇ〜すごいですね〜。

「それを喉いっぱいに溜めて、やっとどこかに運んでいくっていう姿が見られます」

●喉を見るのもなんか楽しいですね。膨らんでいるわけですね。

「けっこう膨らんでいます」

早朝のさえずりのシャワー

※夏山シーズン真っ盛りですが・・・piro piro piccoloさん、野鳥観察に行くのに
これはあったほうがいいという持ち物はありますか?

「絶対に双眼鏡だと思っています」

●双眼鏡!

「双眼鏡さえあれば、荷物になるし、ほかの道具はいらないといっても過言ではないんですけれど、だんだん欲が出てきて、カメラとか録音用の機材とか欲しくなっちゃいますね」

イラストレーション:piro piro piccolo

●確かにこの本『なつのやまのとり』にも、PCMレコーダーを持ち歩くって書かれていましたけれども、これは野鳥の鳴き声を録音する機材ってことですよね?

「まさにその通りです。鳴き声を聴いても、鳥の種類が分からないことって多々あるんですね。録音しておくと、家に帰ってから聴き返してネットで検索したりとか、鳴き声のCDが付いている図鑑で調べたりとかして、それでやっと野鳥の種類がわかるっていう、勉強の仕方をしています」

●鳴き声を覚えるのには、やっぱり役立ちますね。

「そうなんですよ。鳴き声って、例えば”ホーホケキョ”とかだったら馴染みのあるので・・・”聞きなし”っていうんですけど、人間の言葉に置き換える方法が難しくって、例えばコサメビタキがどんな声だったかって言われると、ぜんぜん表現できないので、今はそうやって録音することが重要だと思っています」

●野鳥たちは、早朝によく鳴くイメージがあるんですけれども、piro piro piccoloさんは、明け方に山に行ってるんですか?

「はい」

●だいたい何時くらいに?

「夜明け前がベストですね。夏になると(午前)3時くらいに着かないと、朝のさえずりの、始まる時間が楽しめないので、気合いで朝早く山に向かうようにしています」

●なかなかハードなんじゃないですか?

「ハードですよ(苦笑)。私も朝は得意ではないので、きついところはあるんですけど、一度さえずりのシャワーを経験してしまうと、それを聴けないのは損だな〜と思えるようになってしまって、気合いで行くようにしています。
 泊まりのパターンもよくありますね。そのほうが楽ではあります。テントに泊まったりすると、鳥の声も近く感じられるし、早朝の第一声を聴くことができるのでおすすめです」

●テントに泊まって、朝を待ってという感じなんですね。

「そうですね」

●夜に野鳥は鳴いたりするんですか?

「実は夜も鳴くんです。フクロウとかヨタカとか、夜行性の鳥はまだわかるんですけれど、特にホトトギスっていう鳥がすごくて、昼も鳴いているのに夜も鳴きながら飛び回っているっていう変わった鳥です」

●テントに泊まるのも楽しそうですね。

「そうですね。たぶん人によっては、うるさくて眠れないっていう人、けっこういらっしゃるかもしれないです」

一生懸命さに心洗われて

※野鳥たちを観察するときに心がけていることはありますか?

「自分は彼らにとって邪魔かもしれないって、常に心に思っておくことですね。鳥の気持ちになって考えたら、双眼鏡で覗かれてるって、絶対気持ちよくないものだと思うので、長居はせずに今こうして覗かせてくださいまして、ありがとうございます! っていう、そんな気持ちで(山に)いさせてもらっています」

●なるほど、敬意を持っているわけですね。山で野鳥たちを観察していてどんなことを感じますか?

「みんな頑張って一生懸命生きているなあって思うことばっかりですね。登りで鳴いていたオオルリが、帰りも同じ谷で一生懸命鳴いていたりするんです。そのさえずりのペースも朝よりは下がっていて、それだけずっと鳴いていたんだ〜って、疲れを感じさせたりとか・・・あとヒナがかえるとまた必死さがすごくて、登山道に出てきてまで餌を集めたりとか、そういう姿を見せてもらえるので、みんなすごいな〜って心が洗われる感じです」

●最後にこの本『なつのやまのとり』に込めた思いをぜひ聞かせてください。

「見やすい鳥に絞って46種類載せているんですけれど、こんなにもたくさんの鳥がまさにこの時期に一生懸命、山で子育てをしているんです。なので、山頂を目指さなくていいし、ゆっくり登れば、運動が苦手な私でもなんとかなったので、ぜひみなさん頑張って登って、実物を見に行ってほしいなと、そういう思いで描かせていただきました」


INFORMATION

『なつのやまのとり』

『なつのやまのとり』

 夏山で見かける野鳥を46種、麓の登山口から頂上に向かうイメージで順番に紹介。野鳥の姿はもちろん、鳴き声や面白い特徴を、きれいで可愛いイラストで解説してあります。ページをめくるたびに、可愛い野鳥たちの虜になると思います。なにより、piro piro piccoloさんの鳥たちへの愛情を感じますよ。ぜひご覧ください。
 山と渓谷社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎山と渓谷社HP:https://www.yamakei.co.jp/products/2822590530.html

 piro piro piccoloさんのオフィシャルサイトも見てくださいね。

◎piro piro piccoloさんHP:https://iirotorii.tumblr.com/

30日間6000キロ! キャンピングカーの旅〜Miyuuの自然と旅と音楽と〜

2022/7/17 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、自然と旅を愛するシンガー・ソングライター「Miyuu(みゆう)」さんです。

 Miyuuさんは、VAN LIFE、いわゆる、車を中心にしたライフスタイルに憧れ、高校生の時に体験した家族とのキャンピングカーの旅の思い出も手伝って、日本全国を車でめぐる旅を計画。そして去年、運転免許を取得し、キャンピングカーを借りて、念願の旅に出たんです。

 その旅の記録は先頃『30 DAYS VAN LIFE〜Trip on Music』という楽曲付きフォトエッセイとして出版されました。

 そんなMiyuuさんに、走行距離6000キロのキャンピングカーの旅や、旅先で行なったフィールドレコーディング、そして自然や環境への思いなどうかがいます。

Miyuuさん

30日の旅、1日1日を噛み締めて

●今週のゲストはシンガーソングライターのMiyuuさんです。初めまして。よろしくお願いいたします。

「初めまして。よろしくお願いします」

●今年の5月に『30 DAYS VAN LIFE〜Trip on Music~』というタイトルの本を出されました。この本は、VANいわゆるキャンピングカーで、30日間かけて旅された時の体験が記されていますよね。私も読ませていただきました。写真も豊富に載っていて、日本をまわられている様子がすごく素敵で、一緒に旅をしているようなワクワク感を味わうことができました。

「めっちゃ嬉しいですね。まさに一緒に旅しているっていうイメージで作ったので・・・ありがとうございます」

Miyuuさん

●いつ頃、旅に出たんですか?

「旅自体は去年の10月1日から30日間ですね」

●30日間の旅は、埼玉県の秩父を出発して、群馬県の水上町と尾瀬を経由して、その後は南へ下って、主に西日本・四国・九州を経て、今度は一気に北上して横浜で旅を終えるというルートで、走行距離は6000キロでした。このルートにしたのは、どうしてなんですか?

「もともとは全部の都道府県をまわろうぜ! っていう意気込みだったんですけど、やっぱり各地の、人の生活だったり営みだったりとか、いろんなことをされているかたの思いというのを、もっとより深く知りたいなと思って、旅に出る前にある程度、お話しをうかがいたい人へ連絡をとっていたりしていたんですね。

 例えば、もともと関わりがあった日本自然保護協会のかただったりとか、あと広島でビールを作っている若者たちがいて、そのかたには直接お話しをうかがいたいなと思って、旅前に連絡していたんです。

 一カ所に2〜3日くらい留まって、そのかたたちといっぱいコミュニケーションをとって、思いだったりっていうのを深く知りたいって思ったら、全国はさすがに行けないな〜って・・・なのでピンポイントで、じゃあここ! って目的地を決めて、その間に出会いがあったらいいな〜みたいな感じで動いていました」

●ひとりで旅に出られたわけではないですよね?

「そうですね。幼馴染みのふたりと行きました。コロナ禍でけっこうみんな生活が変わっちゃって、私自身もぜんぜんライヴができなくなって、なんかちょっと悶々とした気持ちというか、なんかしないといけないなという気持ちがありました。

 で、大阪に帰った時に、その幼馴染みたちと喋っていて、“旅出えへん? もうなにかしないとあかん!”みたいになって、最初そんな感じでスタートしたんです。でも3人でキャンピングカーに乗り込むのはいいねんけど、運転できるのはよく考えたら私だけやなって思って(笑)」

●えーっ! じゃあ交代で運転していたわけではなく・・・?

「そうなんです。まだみんな免許を持っていなくて・・・」

●ということは、ずっとMiyuuさんが運転していたんですか?

「そうなんです。私自身も去年の6月に免許を取ったので、免許ほぼ取りたてみたいな感じで、(車の)前後に初心者マークを貼って運転していました(笑)」

●実際にキャンピングカーで旅に出られて、いかがでしたか?

「もう本当にめちゃめちゃ楽しくて・・・3人の中でもいろいろ話し合いがあったりとか、撮影で同行して、また別の車でついてきてくださったスタッフのかたたちとも、30日間の間にすごく話し合いをしました。

(このキャンピングカーの旅は)すぐ終わるんだろうなっていうのは、最初からわかっていたんですけど、本当に一瞬で・・・でも30日っていう制約があったからこそ、1日1日を絶対ムダにしないでおこうって思って、毎日、1日1日を噛み締めて旅ができたかなって思っています」

Miyuuさん

(編集部注:Miyuuさんは、キャンピングカーのレンタル会社に、こんな旅がしたいんですとご自身で働きかけ、借りることが決まったそうです。そして30日間の旅用に、車の内装を少しカスタマイズすることになり、お料理用にスパイスボックスの棚をつけたり、ウクレレのスタンドを取り付けたり・・・さらに、ベッドを寝心地の良いものに交換してもらい、旅に出たそうですよ。準備段階から自分で動くなんて、行動力がありますよね)

自然にお返し、ビーチクリーン

※キャンピングカーの旅は、どんなところが魅力的ですか?

「私、旅行がもともと好きで、ホテルとか旅館とかに泊まることもあるんですけど、やっぱり時間に縛られないっていうのがいちばん大きいかなって思っています。
 例えば、目的地に向かおうって思うけど、きょうはちょっとしんどいなと思ったら、途中で停まって・・・で、行き先も、こっちのほうに行こうと思っていたけれども、きょうはこっちにしようかなってことも、その場で決められるじゃないですか。なので、なんか今を生きているなっていう感じがすごくしましたね」

●車の中で寝泊まりをしていて、幸せを感じる瞬間っていうのはありました?

「毎日幸せでしたね(笑)。車にもよると思うんですけど、雨が降った時にすごく雨音が聴こえたりするんですね。それがたまにうるさいなと思うこともあるかもしれないけど、家では絶対感じられないので、雨を感じられるのは、キャンピングカーの良さかなとも思いますね。あとカーテンを開けた時に毎回違う景色が見られるのも(幸せでしたね)」

●いいですね〜!

※旅の途中、広島県江田島で「日本自然保護協会 (NACS-J)」のビーチクリーン・イベントに参加されていました。これはどんな経緯で参加することになったんですか?

Miyuuさん

「まず、日本自然保護協会さんとは以前お仕事をご一緒させていただいたことがありました。私自身もやっぱり自然からすごくパワーをもらっていたり、そのパワーを得て音楽を創っていたりするので、今回の旅のテーマとして、自然から(パワーを)もらった分、なにか還元したいなとふわっと思っていたんです。

 具体的に何をやればいいのだろうと思った時に、日本自然保護協会さんに、何か一緒に旅中にできるってことってあったりしますか、っていうお話しをさせていただいていました。
 そうしたら日本自然保護協会さんが全国でビーチクリーンをするような『全国砂浜ムーブメント』というのを毎年やっていて、その時期にちょうど旅も被っていたので、みんなでどこかで落ち合って、一緒にビーチクリーンしませんか、っていう話から、広島の江田島で牡蠣の養殖のパイプゴミが問題になっているから、そこに行って一緒にビーチクリーンしましょうっていうお話になって実現しました」

●実際に参加されていかがでした?

「そうですね。私、神奈川に住んでいることもあって、湘南とか千葉の海にもよく行くんですけど、場所によって落ちているものが全然違うなって感じて、特に江田島はやっぱり牡蠣の養殖が盛んなので、私が想像していたより(パイプのゴミが)たくさんありましたね。

 パイプの形として残っているものもあれば、粉々になって、ほぼ砂のような大きさになっているものとかもあって・・・地元のかたたちともお話しさせていただいて、“やっぱり拾うのが大変なんだよね。だから外から来てくれる人がいて、すごく嬉しい”っていうお声はいただきました」

自然と一体化、フィールドレコーディング

※旅の途中に、自然の中で弾き語りを録音するフィールドレコーディングをされていました。これは旅に出る前からやってみようと思っていたんですか?

「そうですね。フィールドレコーディングは絶対やりたいと思っていて、真っ先にこの旅でやろうって決めていたことなんです。
 すごく大好きな映画で『はじまりのうた』っていう、分かりますか。その映画が大好き過ぎて、完全にそれにインスピレーションを得た感じですね(笑)。あの映画は街中でレコーディングしているけど、私は自然の中で・・・森の中のスタジオじゃないですけど、ブースも自分で作ってレコーディングしてみたいって思ってました」

●何ヵ所で録ったんですか?

「(楽曲付きフォトエッセイに)3曲入っているので、3ヵ所で録りましたね」

●それぞれどこで?

「1曲目は旅の前半に行った尾瀬、群馬県の森で録って・・・2曲目は愛媛の、海にいちばん近い駅、梅津寺(ばいしんじ)っていう駅があるんですけど、本当に目の前が砂浜なんです。その砂浜に機材を広げて、電車の音が後ろから聴こえて、船の音だったり、波の音だったりが結構入るところで録音しました。

 最後は、最終日に長野県の駒ヶ根高原教会の中で歌わせていただきました。それに関しては、教会で歌うって決めていなかったんですけど、旅中にたまたま出会ったかたが、教会で歌ったら、みたいな感じで言ってくださって、最後はそこでフィールドレコーディングっていう形になりましたね」

●実際にフィールドレコーディングされて、いかがでした?

「なんだろう・・・すっごく自然と一体化している感じを、自分の中で感じながら気持ちよく歌えたなっていうのと、あとやっぱりスタジオの中で歌うと、防音室だとか無音のところで、本当に声を綺麗に録れるっていうのがあるんですけど、フィールドレコーディングは常に何かの音が鳴っている状態なので、自然の音をより自然に聴いてもらいたいなと思えば思うほど、マイクを置く位置がすごく難しくて・・・」

Miyuuさん

●確かにスタジオで録るのとは、全然違いますよね。
 
「ですね〜。しかもほぼ一発録りだったので、録っている時間よりもマイクを
セッティングする時間がすごく長かったです」

●スタジオでいざ録るぞ! っていう時よりも開放的になれるというか、気持ちよさそうだなっていうのを感じたんですけど、いかがでした?

「めちゃめちゃ気持ちよかったです!」

自分なりにできることを発信

※先ほどもお話がありましたが、Miyuuさんは「日本自然保護協会(NACS-J)」が行なっている『全国砂浜ムーブメント』というキャンペーンに協力されていて、オンラインのイベントにもMCとして参加されていました。なにか協力するようになったきっかけとか、あるんですか?

「きっかけっていうのは、もともと旅にもご一緒に協力させていただいたりとか、それ以外にもお話をさせていただいたりして、日本自然保護協会さんのテーマである多様性ということについても、自分自身もっと学びたいなって思っていました。

 海も山も川もすべてが繋がっていて、切り離せないっていうことをいつも教わっていて、本当にそうだなと思っています。
 それって人間関係にも通じることってすごくあるなと思って、今の私がいるのは両親がいて兄弟がいて、仕事仲間がいて友達がいてっていうことで、すべての出来事だったりとか、出会った人が今の自分を作っているんだなって、環境問題から教わったというか、日本自然保護協会さんからいろいろ教えていただきましたね。

 自然環境についてより深く掘り下げることで、今後私たちの子供だったりとか次の世代に美しい世界を残していけたりとか、より豊かな自然を残していけるっていうことプラス、自分自身の人生ももっと環境問題を学ぶことで豊かになっていくんじゃないかなって思っています。
 なので、協力させてくださいと、むしろ私から学ばせてくださいという感じで、イベントのMCとかもさせていただいたりしています」

●以前から自然や環境を保全するような活動に興味があったんですか?

「そうですね。興味はあったんですけど、どういうふうに自分が踏み出せばいいかっていうのが分からなくて、心の中ではずっとなんかしたいな〜みたいな気持ちがあったんですね。
 その気持ちが芽生えたきっかけっていうのが、おばあちゃんが愛媛県に住んでいて、私は大阪で育ったので、いつも瀬戸大橋を渡って愛媛のほうに行くんですけど、その瀬戸大橋から見える工場地帯からすごく煙が上がっていて、子供ながらに空気が汚くなるよみたいな、すごくもやもやした気持ちになったんです。

 やっぱり大人になるにつれて、小学校高学年くらいから、ああいう工場があるから自分は今、車に乗れているし、豊かな生活が送れているんだなと思ったら、なんかそれを否定するのも違うな・・・でもやっぱり環境は汚れているし、矛盾だらけで、どうしたらいいんだろうみたいな感じで・・・気づけば、それもまた年が経っていくごとにその感情すらもちょっと薄れていく自分がいて・・・。

 でも、そうしているうちに一方で、それに対して声を上げている人たちがいるっていうことを知って、シンプルにそうやって声を上げている人はかっこいいなーって思って・・・自分ができていなかったから、その人たちからいっぱい学べることってあるんじゃないかって思って・・・日本自然保護協会のかたたちもそうなんですけど、一緒に私もそういう人たちから学んで、自分なりにできることを発信したいなって思いました」

知ることの大事さ

※環境問題で今、いちばん気になっていることはありますか?

「ふたつあるんですけど、まずは海ごみの問題、マイクロプラスチックだったりとか・・・。それはシンプルに、私は夏になるとサーフィンをしたりとか、海に行く機会がすごく増えるんですけど、やっぱり汚い海より綺麗な海のほうが自分の心も気持ちよくいられるしって思ったのが、海ごみに関心を持ったきっかけなんですね。

 海にはすごくいろんな生物がいて、プラスチック自体がその生物たちの邪魔になっているということも、(以前は)想像力が乏しかったので考えていなかったんですけど、日本自然保護協会のかたから教わったりすることで、人間もそうだし、生き物たちもやっぱり海は綺麗なほうがいいよなって思って・・・。

 私がオフィシャルグッズ、自分のグッズを作る時に、できるだけ海を汚さないような工夫をしている企業さんとのコラボ商品を作ったりもしていたり・・・ステンレスストローだったりとか、少しでも長く着られるような素材を使ったTシャツだったりとか、自分ができることをちょっとずつしています。

 もうひとつは、洋服の廃棄だったりっていうことなんですけど、このふたつに関心があるのは多分、自分にいちばん身近な問題だったからだと思っています。

 大手の企業さんだったりとかファッションブランドさんが、最近着なくなった服を回収してくれるサービスとかあったりするじゃないですか。すごくいろんな取り組みをされているんだなと思って・・・私もやっぱり安い服を買えると嬉しくなるし・・・でもそういうものって生地がちょっと薄かったりとかして、2回着たらもうダメになるとかあるじゃないですか。そういう服をリサイクルできるからと思って、(回収ボックスに)入れていて、それでなんか気持ちよくはなっていたんですね。

 ある日、YouTubeで回収された服たちが、どこに行っているのかっていう動画をパッとたまたま見てしまって・・・そうしたら、循環していると思っていた洋服たちが、アフリカのある国に送られているだけで、その人たちもその服を着れないし、必要としていないから、どんどんそこにゴミが溜まっていく、悪循環になっているんだっていう問題提起の動画を見つけたんです。

 やっぱり知ることって大事だなと思ったし、その問題を根本から解決するためには、自分が少しでもひとつのアイテムを長く着続けることだなと思って、そういう問題に関心があるというか、まず自分ができることにトライしようかなっていうふうに思いました」

●私たちはどんなことを心がけたらいいんでしょうか? 

「私自身も今すごく勉強している段階で、大きいことは言えないんですけど、本当にひとりの小っちゃい力が集まれば、どんなことでも、大きいムーブメントを起こせるんだろうなと思っています。
 例えば、さっき言った少しでも自分の持っている服を長く着るとかもそうだし、ステンレスストローにしてみようかなとか、本当に小っちゃいことでもいいと思うんですけど、それをみんなひとりひとりがやったら、気づけば大きいことになっていくので・・・私自身もたまに、タンブラー忘れた! みたいな時もあるけど(笑)、徐々に自分ができることをやっていくのが、いずれは大きなムーヴメントになると信じています」

※では最後に、シンガー・ソングライターとして、今後歌っていきたいことはなんでしょう?

「知ることの大事さをさっきお話ししたんですけど、私はそれを自然環境から学んだんですね。なんか人間関係も同じだと思っていて、大嫌いな人が例えばいるとして、人の悪口をいつも言っていたり、嫌だ、聞きたくないと思う人もいると思うんです。でも私たちってその人の多面的な部分の、ひと部分しか多分見えていないと思うんですね。

 イマジネーションというか、その多面的だということを想像することがすごく大事だと思うし、知ることだと思うんです。そういうことの大事さをメッセージとして、音楽で届けていけたらいいなと思って、曲作りもそういうメッセージを込めて作りたいなって思っています」

●Miyuuさんの音楽にやっぱり自然の体験は必要なことですか? 

「そうですね。旅だったりとか、自然との関わりから、なにか音楽をやろうって思ったので、すごいきっかけを与えてもらったという意味では、自然と音楽は私自身、切り離せないなってすごく思います」

(編集部注:Miyuuさんは、30日間のキャンピングカーの旅を通して、人はひとりでは生きられないことを再確認したそうです。そして、夢はVAN LIFE! そんなライフスタイルも発信していきたいとのこと)


INFORMATION

『30 DAYS VAN LIFE〜Trip on Music』

『30 DAYS VAN LIFE〜Trip on Music』

 Miyuuさんの楽曲付きフォトエッセイをぜひ読んでください。主に西日本から九州を巡る30日のキャンピングカーの旅の記録。旅先で出会った人のインタビューや体験、フィールドレコーディングの裏側なども掲載。1日1日を大切にしながら、ありままを楽しんでいる姿が写真からもよくわかりますよ。ナチュラルなMiyuuさんの音楽、そして生き方に今後も注目です。

 このフォトエッセイはMiyuuさんのオフィシャルサイトからお買い求めいただけます。また、お話にも出てきたオリジナルのステンレス・ストローのほか、可愛いトートバックなども販売。ぜひチェックしてください。

◎MiyuuさんHP:https://avex.jp/miyuu/

秘魚「ガラパゴスバットフィッシュ」に魅せられて

2022/7/10 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、ガラパゴスバットフィッシュ愛好家で、NPO法人「日本ガラパゴスの会」のスタッフ「バットフィッシャーアキコ」さんです。

 アキコさんは1991年、東京都生まれ。上智大学外国語学部卒業。在学中にガラパゴス諸島を訪れ、卒業後には、現地のチャールズ・ダーウィン研究所のボランティア・スタッフとして活動。現在は、日本人でもっとも多くのガラパゴスバットフィッシュを観察してきたスペシャリストとして、講演や執筆、メディアへの出演など、幅広い活動をされています。そして先頃、『バットフィッシュ 世界一のなぞカワくん〜ガラパゴスの秘魚』という本を出されました。

 アキコさんのインタビューをお届けする前に、きょうのお話の主人公ガラパゴスバットフィッシュについて説明しておきましょう。ガラパゴス諸島の海に生息するへんてこりんな魚で、英語名が「バットフィッシュ」。「バット」はコウモリのことなので、直訳すると「コウモリのような魚」となりますが、写真を見ると、コウモリには見えません。

 見た目の最大の特徴は、真っ赤な口紅を塗ったような唇! 体の大きさは15〜20センチほど、正面から見ると甘食パンのようで、上から見ると矢印のような形、胸びれや腹びれが足のようになっていて、海底の砂地を歩き、魚なのに泳ぎが苦手など、およそ魚らしくない特徴を持っています。

 そんなバットフィッシュの存在を知り、一瞬にして虜になったアキコさんは、敬愛の意味と、あまりにも知られていない魚だったので、少しでも知名度を上げたいという強い思いで「バットフィッシャーアキコ」と名乗るようにしたそうです。

 きょうは、謎だらけのガラパゴスバットフィッシュについてお話いただくほか、どうしても会いたくてとった、信じられない行動に迫ります。

☆写真協力:バットフィッシャーアキコ

バットフィッシャーアキコさん

なぜ、真っ赤な唇!?

●番組の冒頭で、ガラパゴスバットフィッシュの特徴についてご説明しましたが、写真を見て、特に目を引くのが真っ赤な口紅を塗ったような唇です。なぜバットフィッシュの唇が赤いのか、わかってるんですか?

「これは本当に不思議で、おっしゃる通り、口紅を塗ったかのような真っ赤なリップなんですけど、どうしてこんなに真っ赤なのかは、実は全く解明がされていません。そしてもっと不思議なのは、この真っ赤な唇が海の中で見ると全然目立たないんですよ」

●すごく目立ちそうですけどね。

「そうなんです。海の中は陸上と違って、赤色が吸収されてしまう性質があるので、大体水深3メートルくらいから赤色はだんだん色味が暗くなってきて、10メートルを過ぎたあたりから輪郭もぼやけて黒い感じに見えてしまいます。

ガラパゴスバットフィッシュが生息している水深20メートルあたりですと、その真っ赤な唇はなんとなく黒いぼやけた物体のようで、そもそもちょうど顔面の中央に黒っぽい模様がある魚なんですけども、その模様の中に隠れてしまって、どこに口があるか分からないですね。

 これは私の個人的な推測なんですけども、唇が赤い理由はもしかしたら、赤いことによって唇を見えなくさせて、例えば獲物となる魚に、ここに自分の口があるよっていうことを悟らせない戦略なのかなと勝手に推測しています」

写真協力:バットフィッシャーアキコ

●そうなんですね〜。その口の上の部分、割と大きな目の先にある出っ張りのようなものは? 尖った鼻のようにも見えるんですけれど・・・。

「すごく不思議ですよね。横から見るとピノキオの鼻のような物体なんですけれども、これは一応、吻(ふん)と呼ばれる名称が付いています。バットフィッシュの仲間全般そうなんですけれども、釣りでいうルアーのような、擬似餌というのをピロピロと出し入れして、獲物をおびき寄せるんです。

 この吻の先から出すのかと思いきや、そうではなく、吻の下からその擬似餌をピロピロと出し入れするので、実質その吻は本当に何のためにあるのかが分からないんですね」

●面白いですね〜! 飾りみたいになっちゃってるんですね。

「本当に飾りなのかな〜みたいな感じですね(笑)」

●魚の分類でいうと、どんな魚の仲間なんですか?

「アンコウの仲間ですね。皆さんもご存知のチョウチンアンコウですとか、そういった類の仲間になります。チョウチンアンコウもそうですけれども、擬似餌のようなものをピロピロと出し入れして、獲物となるものをおびき寄せて、パクッと食らいついて生計を立てていると言いますか・・・」

●生息しているのはガラパゴス諸島の海だけなんですか?

「そうですね。ガラパゴスバットフィッシュに関しては、発見された当初はガラパゴス諸島の固有種だとされていたんです。のちに実はペルー沖でも発見しましたという論文が出たんですけれど、その後、現在に至るまで、ほかにペルー沖で発見されたという例ですとか、論文がひとつもないので、実のところ、私個人としてはガラパゴス諸島の固有種と言ってもいいのではないだろうかと考えていますね」

(編集部注:ガラパゴスバットフィッシュが属するアンコウ目アカグツ科ニシフウリュウウオ属の魚は、世界に13種類いるとされ、そのすべてが南北アメリカ大陸の近海に分布しているそうです)

『バットフィッシュ 世界一のなぞカワくん 〜ガラパゴスの秘魚』

運命の出会い、そしてスペイン語!?

※アキコさんがバットフィッシュの存在を、いつどんなきっかけで知ったのか、気になりますよね。お話によると、高校3年生の夏、「海の日」に下北沢の本屋さんでたまたま手に取った生き物フォトブック、そこに載っていたガラパゴスバットフィッシュの写真に衝撃を受け、一瞬にして虜に! 

 そしてレジに走り、即お買い上げ! 家に帰る時間ももどかしく、近くのファーストフード店に駆け込み、バットフィッシュの写真を夢中で見続け、気がついたら、2時間、経っていたそうです。

 アキコさん、バットフィッシュのどんなところがそんなに魅力的だったんですか?

「なんでしょう・・・フォルムですか・・・甘食パンのようなボディに前足後ろ足が生えてるようなルックスもそうですし、口紅を塗ったかのような真っ赤な唇もそうですし、何か言いたげな目と言いますか、すべてが自分の中で、こんな生き物が地球上に存在したのかという喜びと興奮で一気に惹きつけられて、魅せられてしまいました」

写真協力:バットフィッシャーアキコ

●確かにインパクトのある魚ですけれども、ただただ面白いなと思うだけじゃなくて、アキコさんは行動に移したわけですよね? バットフィッシュに会うためにまず始めたことはどんなことなんですか? 

「まず最初に、きっかけとなったバットフィッシュの載っている本を読んでいた時にすぐに思ったのは、この魚に会いたい、どうしたら会えるんだろう、(本を)見たところ、ガラパゴス諸島というところに生息している、ガラパゴス諸島はどうもエクアドル領らしい、エクアドルという国はスペイン語圏・・・ということはスペイン語を勉強すれば、話せるようになれば、会えるじゃん! っていう安直な考えで、当時高校3年生だったこともあり、大学の希望の進路をスペイン語の学科に設定しました(笑)」

●もともと語学は得意だったんですか? 

「それが全くだめでございまして、もう本当にガラパゴスバットフィッシュに夢中になってしまったため、自分が語学が嫌いで苦手だということをすっかり忘れていたので、大学に合格してからやっと思い出しましたね」

●すごいですね! 研究者になろうとは特に考えなかったんですか? 

「そうなんですよ。本当に会いたい! スペイン語を喋れれば会えるじゃん! っていうことしか思いつかなかった安直な頭だったので、よし、研究者に! っていう考えが全く浮かばなかったんですよね」

●スペイン語を勉強して、初めてガラパゴス諸島に行ったのはいつ頃なんですか? 

「初めて行ったのが大学3年生の夏休みですね。語学がすごく苦手だったので、入学してから大変苦労したんですけれども、3年生になると少しばかりは会話もできるようになってきまして、ダイビングのライセンスも取得できたタイミングだったので・・・」

●もともとダイビングとかもされていたんですね。 

「実を申しますと、泳ぎが全くダメなんですね(笑)。ただ唯一、会える方法というのがガラパゴス諸島の海でダイビングするという手段しかなかったので、水がそもそも苦手だしカナヅチなんですけれども、決死の思いでダイビングの講習に申し込みまして、すごく苦労しながら、自分で独自の特訓を重ねながら、なんとかダイバーになったという次第です」

報われた瞬間!

※アキコさんが大学3年生の夏休みに、初めて訪れたガラパゴス諸島は南米エクアドルから西へおよそ1,000キロの、太平洋に浮かぶ火山群島。ほかに類を見ない動植物の宝庫で、あのチャールズ・ダーウィンが「進化論」を書くきっかけにもなった島々としても有名。1978年に世界自然遺産の第1号のひとつとして登録された、世界中の研究者たちが注目している生き物たちの楽園です。

 アキコさんによれば、日本からガラパゴス諸島に行くまで、トランジットの時間も入れると30時間ほどかかり、動植物の保護のため、検疫など含め、かなり厳しい規則と検査があり、それをパスしてやっと島に入ることができたそうです。

 また、島に上陸してからも、野生生物とは2メートルの距離を取るなど、厳しいルールが課せられ、ダイビングできるのは許可されたエリアだけ。船の数や参加人数も制限されていて、ダイビングするためには必ず事前にツアーに申し込まなければいけないそうです。

写真協力:バットフィッシャーアキコ

 ツアーに参加して、ダイビングエリアに潜って、すぐにバットフィッシュに会うことはできたんですか?

「私、すごく幸運なことに、初めてガラパゴス諸島に行った年の、本当に初めての1本目のダイビングでお会いすることが叶いました!」

●どうでした? 初めてお会いして。

「何人かのお客さんのグループと一緒に潜ったんですけれども、先頭を泳いでいるガイドが見つけてくださって、いるよって指をさした先に、うわー! いた! って感じだったんです。
でも、元気に泳いでるねっていうのでは全くなくて、砂地の上に静かに佇んでいる、どちらかというと、例えば落し物が落とされたままになっているみたいな空気のほうが近いんです。

 すごく静かにひとりで砂地に佇んでいて、しかしその様子を見て、こちらとしてはもう本当に大興奮で、すべての血管という血管がフルで、血潮が駆け巡るような興奮を覚えました」

●苦手な言語も泳ぎも頑張ってよかったですね! 

「報われた瞬間でした!」

写真協力:バットフィッシャーアキコ

※初めての出会いから現在に至るまで、何匹くらいのガラパゴスバットフィッシュに出会っているんですか?

「現在、累計55バットに会っておりまして、これをお話すると、意外と少ないじゃん! って、おっしゃるかたもいらっしゃるんですけれども、ガラパゴスバットフィッシュは、ガラパゴス諸島でダイビングすれば、必ずしも会えるという魚ではないんですね。

 時期と場所を選んで潜って、そこまでしてでもやっと一回のダイビングにつき、1バット会えるか会えないかぐらいのレア度なので、私にとってはこの55っていうのはとっても大きいですね!」

●これまで出会った55バット、それぞれ個体差とかっていうのはあるんですか?

「例えば見た目、体の模様のつき方ですとか、ピノキオの鼻のような吻の長さが違うといった身体的な特徴はもちろんなんですけれども、何よりも性格に違いがあるなということは実感しています。

 例えばバットフィッシュがいた! と言って、私たちダイバーが駆け寄ってカメラを向けた時に、ずーっとぼーっとしている個体もいれば、どうしようって困って後退りをした末に泳いで逃げていく個体もいれば、後退りをした後に諦めてフリーズしてしまう個体もいます(笑)。

 あとはもう見るからに怒った顔で、こちらに向けて口をパクパクして何かを訴えてくるような個体もいたり、もう本当に人と同じですよね。反応の違い、性格、本当に一匹一匹違うなということは、すごく実感しました」

チャールズ・ダーウィン研究所で熱く語る!?

写真協力:バットフィッシャーアキコ

※アキコさんは、ガラパゴス諸島のサンタ・クルス島にあるチャールズ・ダーウィン研究所のボランティア・スタッフとして活動していたそうですが、世界中の研究者たちが憧れる研究所に、いったいどんな経緯でスタッフとして入ることができたんですか?

「これがもとを正せば2度目の渡航の時ですね。大学4年生の夏に再びガラパゴス諸島を訪れたんですけれども、その際にチャールズ・ダーウィン研究所にちょっとお邪魔できる機会を頂戴いたしました。

 その時に海洋生物部門のオフィスにご案内いただいて、そこで、”ガラパゴスバットフィッシュって研究されていますか?”ってワクワクしながら尋ねたところ、”ん? バットフィッシュ、やっていないよ”っていうふうに返されてしまって・・・。

 もう私は大ショックだったんですね。あなたたちのお住まいのこの海に、こんなにも珍しい魚がいるのに、全く研究の対象にしないなんて、もったいないですよ! みたいなことを、ど素人の私がプロの研究者たちに向かって、思わず熱く語ってしまったところ、”そんなに好きなら、うちに来ればいいじゃん!”と声をかけていただけまして・・・。

 その時が大学4年生の夏で、あと半年学校が残っていたので、では卒業したら、こちらに来ます! っていう約束をして、無事に卒業をし、来ました〜という勢いで研究所に戻ってきたところ、”ごめん! 実は今、席が空いていないんだ”と言われてしまったんです。

 でももう来ちゃったし、どうしようと思っていたら、”それなら私が引き取ります!”と申し出てくださったかたが現れて、そのかたが長をしている、同じダーウィン研究所の植物部門のプロジェクト『ガラパゴス・ベルデ2050』というチームに所属する運びになりました」

●研究者にとってはすごく憧れの研究所ですよね!

「そうですね。私が在籍していた時にも、世界から毎日(研究所に)所属したいという希望が100通以上メールで届いていましたね」

●すごいですね! そういう研究所に所属できるというのは!

「そうですね。すごく幸運なことでございました。平日は自分が所属していた植物部門のチームで、ガラパゴスの在来植物の保全の研究や調査などを行ないながら、休日は個人的に海に行ってダイビングをして、ガラパゴスバットフィッシュの観察を続けて、自分なりにノートに気付いた点とか疑問に思った点を毎回つけていました。
 あとは現地の海洋生物学者の皆さまであったり、ダイビング・ガイドの皆さまに聞き込み調査などを行なったりしていましたね」

ガラパゴスで感じた人間のおごり

※ガラパゴスで暮らした経験のある日本人は、ほとんどいないと思うんですけど、実際に暮らしてみて、ガラパゴスの自然や生き物から、どんなことを感じましたか?

「ガラパゴス諸島の生き物は、基本的に人間をあまり恐れないんですね。野生生物に2メートルを越えて近づいてはいけないよっていうルールがあるんですけど、実際にその2メートル・ルールを破ってくるのは、生き物側が多くて、ズカズカズカってこっちに近寄って来ちゃったりするんですね。島に住んだ当初はベンチに座っていると、アシカにベンチを奪われることもあったりしました。

写真協力:バットフィッシャーアキコ

 最初の頃はそれにすごく驚いてしまったんですけれども、住んでいるうちにだんだん、これって、なんというか自分が人間であるおごりだったなというか、人間が座っているのになんで来るんだよっていう思いが、多分どこかにあったのかなって思い始めました。やはりガラパゴスに住んでいると、生き物たちは同じ環境に棲んでいる対等な生物、対等な存在なんだなと思うようになりましたね」

●なるほど〜。今後明らかにしたいバットフィッシュの生態はありますか?

「もうたくさんあるんですけれども(笑)、そのうちのひとつが、私がダーウィン研究所にいた時に海洋生物部門の人に声を掛けていただいたことがあって、その時に”アキコ、この間、自分は海底探査をするために潜水艦に乗ったんだけれど、その時に水深200メートル・エリアにすっごい数のガラパゴスバットフィッシュがいたよ!”って教えていただいて、もうそれを聞いて大興奮ですよね! 

 普段はダイビングの時だと会えて1バット、基本的に単体でいることがほとんどの存在が、水深200メートル域にすごい数がいたっていうのが、どうしてなんだろうっていうのもありますし、果たしてそこがメインの生息地なのか、もしそこがメインの生息地だとしたら、逆になぜダイビングで見られるような水深20メートル・エリアにも出てくるのか・・・いろいろ謎があるので、とにかくその水深200メートル・エリアのすごい数のバットフィッシュを、自分の目でも是非見てみたいですし、その理由を解明したいです」

●楽しみですね! なんかワクワクしますね!

「ワクワクします!(笑)」

●では、最後にアキコさんにとってバットフィッシュとはどんな存在ですか?

「私にとって最愛の存在であり、人生の起爆剤でもあるかなと思っています。もともと語学も苦手だし嫌いだしっていう人間がスペイン語を勉強して、現地に住むようになったりですとか、泳ぎもダメ、水に触るのも怖かったような人間がダイバーになって、現地の海で潜るようになったりですとか・・・。

 ガラパゴスバットフィッシュに出会わなければ、絶対に着手しなかった領域に、私の見識を広めてくれたというか、私の世界を広げてくれた存在なので、本当に人生におけるターニング・ポイントとなってくれたので、本当に感謝していますね」

(編集部注:ガラパゴスバットフィッシュの生態は謎だらけで、何を食べているのかも分かっていません。アキコさんによれば、カニやエビなどの甲殻類や軟体動物ではないか、ということですが、実はだれも捕食シーンを見たことがないそうです。
 ガラパゴス諸島の生き物は一切、島外には持ち出せないため、ガラパゴスバットフィッシュは、世界のどこの水族館でも飼育されていないということですが、近縁種のニシフウリュウウオ属の仲間は、国内の水族館で見られるところがあるそうです)


INFORMATION

『バットフィッシュ 世界一のなぞカワくん〜ガラパゴスの秘魚』

『バットフィッシュ 世界一のなぞカワくん 〜ガラパゴスの秘魚』

 ガラパゴスバットフィッシュへの畏敬の念と愛にあふれた本です。ぜひ読んでください。専門の研究者がいない中、地道な観察や、数少ない論文などを参考に書きあげた、世界に誇るバットフィッシュの専門書と言っていいかもしれません。といっても、難しい本ではなく、ガラパゴスでの生活やチャールズ・ダーウィン研究所での体験など含め、楽しく読めます。巻末には、これまで出会った55バットの観察記録が写真入りで掲載されていますよ。
 さくら舎から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎さくら舎HP:http://sakurasha.com/2022/04/バットフィッシュ-世界一のなぞカワくん/

 バットフィッシャーアキコさんのオフィシャルサイト、そしてアキコさんがスタッフとして活動されている「日本ガラパゴスの会」のサイトもぜひご覧くださいね。

◎バットフィッシャーアキコHP:https://www.batfisherakiko.com

◎「日本ガラパゴスの会」HP:https://j-galapagos.org/

野あそび夫婦の「キャンプ民泊NONIWA」〜キャンプ未経験者におすすめ!

2022/7/3 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、埼玉県ときがわ町で「キャンプ民泊NONIWA」を運営する「青木江梨子(あおき・えりこ)」さんです。

 青木さんはご主人の達也さんと一緒に「野あそび夫婦」というユニット名で活動。2019年6月に日本初とされるキャンプと民泊を組み合わせた「キャンプ民泊NONIWA」をオープン、おふたりともキャンプインストラクターの資格を持ち、キャンプの講習会ほか、アウトドア雑誌の企画監修なども行なっていらっしゃいます。そして先頃、『ソロキャンプ大事典』という本を出されました。

 きょうはそんな青木さんに、キャンプ民泊NONIWAの特徴やビギナー向け「ソロキャンプのノウハウ」などうかがいます。

☆写真協力:キャンプ民泊NONIWA

写真協力:キャンプ民泊NONIWA
写真左:戸井田夏子 写真右:猪俣慎吾 

ふたりで誰かを喜ばせる

※埼玉県ときがわ町で運営している「キャンプ民泊NONIWA」は具体的には、どんな施設なんでしょうか。

「基本的には、民家の横にあるちょっと広めのお庭みたいなスペースを、キャンプ場としてお客様にテントを張ってもらって、トイレとお風呂とキッチンは自宅のものを使ってもらうというスタイルです。キャンプのハードルを下げるために作った、これからキャンプを始めたいかたに向けた施設になります」

●一般の方にキャンプ場として利用してもらうためには、ある程度広い敷地が必要だと思います。「キャンプ民泊NONIWA」がある埼玉県ときがわ町というのは、どういった場所なんですか?

「そうですね。東京からも大体1時間とか1時間半くらいで来られるような場所にはなるんですが、埼玉でいうと秩父のちょっと手前あたりに位置しています。こんもりした山とか小さな川が流れている里山というような雰囲気の場所になります。なので、長野とか山梨みたいな、広大な敷地のキャンプ場のイメージとはちょっと違う感じなんですけど・・・ちょうどいい町です」

写真協力:キャンプ民泊NONIWA

●改めて、このキャンプ民泊を始めるに至った経緯を教えてください。

「私たちはもともと、夫婦で結婚してからキャンプを始めようという形で始めたんですね。その時に周りにキャンプをやっている友達もいなくて、自分たちでインターネットで、どんな道具がいいのか、ルールとかあるのかな、みたいな感じで、いろいろ調べて(キャンプを)始めたんですけど、結構苦労したので、気軽に相談できる人が身近にいたらいいなぁって思っていたことがひとつです。

 あと、キャンプをまだやったことがない友達に、キャンプに連れて行ってよ〜! っていう感じで、一緒にキャンプすることがありました。その時にも自分たちにとっては当たり前になっていた、テントに建て方とか、薪の割り方みたいなものが新鮮みたいで友達も喜んでくれたんですね。

 今まで私と夫は同じ趣味もなかったので、自分たちがふたりで誰かを喜ばせることができるんだな、キャンプって! っていうことに、そこで気づいたっていうことから、キャンプ民泊をやってみようかなってことにつながりました」

(編集部注:「キャンプ民泊NONIWA」をなぜ埼玉県ときがわ町で開業したのか、実は、青木さんご夫妻はもともと練馬区にお住まいでしたが、ご主人が埼玉県川越でお仕事をされていたので、通える範囲で自然豊かな場所を探していたら、たまたま「ときがわ町」と出会ったそうです)

インストラクター付きキャンプ

※一般のキャンプ場との大きな違いは、どんなところでしょうか。

「まずその規模が、一般のキャンプ場だったら、30張りとか、30組40組とか、もっと多いところもたくさんあると思うんですけど、うちの庭のスペース的にマックスで3〜4組っていう、すごく小規模なところがひとつです。

写真協力:キャンプ民泊NONIWA

 あとは、これからキャンプを始めたいかた向けのキャンプ場ということでやっているので、最初は手ぶらで来ていただいて、キャンプ道具も全部レンタルして、そして私達がキャンプのインストラクターとして、テントの建て方とか全部お伝えする感じでやっているところが(ほかのキャンプ場との)違いかなと思います」

●初心者としては、どんなテントがいいんだろうとか、そういったことがまだわからない状態なんですけど、心配いらないっていうことなんですね!

「そうですね。テントの大きさとか収納のときのサイズはどれくらいがいいですか? とか、車の大きさとか、家族の人数とかで、あなたにはこういうテントがいいんじゃないんですか、みたいなご提案をしたりしています」

●初歩的なことは、すべて教えていただけるってことなんですね?

「そうですね!」

写真協力:キャンプ民泊NONIWA
写真:猪俣慎吾

※NONIWAでは、キャンプの講習会も実施されているそうですね。どんな講習会があるんですか?

「ステップ1、2みたいな感じで進んでいただくんですけど、まずステップ1は日帰り講習という形で、泊まらずにNONIWAに来ていただきます。

 キャンプ道具は一般的にどういう物が必要なのか、ずらっと並んだ道具をいろいろ見ていただいて、ご説明をして、キャンプの全体のイメージをつかんでいただいたうえで、テントの建て方とか、タープの建て方とか一緒にやってみます。
 最後は焚き火をして、マシュマロを炙って食べて、ちょっとキャンプのイメージをつかんで帰っていただくみたいな感じです。

 そしてまた別日にステップ2として、次は宿泊体験! 実際に泊まってみましょうという形で、自分たちでテントとタープを建てて、一晩を過ごしていただくっていうようなキャンプ講習をほぼ毎週やっています」

●やっぱり一歩踏み出す勇気ってなかなか出ないというかたも多いと思うんですけれども、ここまでバックアップしていただけるといいですね! やってみようかなっていう気持ちになりますよね。

「そうですね。多分ここまで、ほぼマンツーマンという形で、キャンプを体験していただく施設はほかにはないかなと思っています」

●NONIWAは誰でも利用できるんですか?

「そうですね。キャンプ講習自体は、ほんとにキャンプをまだやったことがないかたも、どなたでもお申し込みいただけるようになっています。ただ、そのキャンプ講習以外に通常のキャンプ場のような形でも泊まっていただけるんですけれども、それはまずキャンプ講習に来ていただいたかた、もしくは私たち野遊び夫婦と面識があるかたとか、そのご紹介みたいな形で小規模でやっています。

 あとは、月に1回くらいオープンイベントというのを開催していて、日帰りで来てくださったかたは、いろいろお話しした上で、今後NONIWAをキャンプ場として使っていただけるようなシステムになっています」

キャンプは、絆が深まる

写真協力:キャンプ民泊NONIWA
写真:赤井恒平

※ところで、青木さんご夫妻がキャンプをやるようになったのは、どうしてなんですか?

「始めたきっかけが・・・もともと私が小さい時に、家族にキャンプに連れていってもらって、その時の経験がすごくよくって、自分も家族ができたらキャンプを始めたいなって思っていました。
 中学生くらいになると、やっぱり部活とかでなかなか家族でキャンプに行けなくなって、疎遠になっていたんですけど、大人になって結婚したらキャンプしたいなってなんとなく思っていたんです。それで夫と結婚したタイミングで、キャンプやってみない? っていうふうに誘った感じなんですけど、夫はキャンプをしたことがなくって、全然アウトドアとは無縁の人だったんですね。でも、意外とハマってくれました」

●ご夫婦でのキャンプの醍醐味ってどんなところですか?

「そうですね。一緒にキャンプをするっていう面でいうと、家族でキャンプをするとチームみたいな感じで、力を合わせないとできないみたいなところがありますね。私はテントのこっち側を持つから、お父さんはそっちを持ってみたいな感じとか、一緒にご飯を作らないと食べられないし、テントを建てないと寝ることができないみたいな感じで、家族がチームになる感じがすごく個人的にはいいなって思っています。

 それは夫婦でやった時も一緒で、普通におうちでただテレビを見ながら、ご飯を食べている時とはまた違う経験ができますよね。焚き火を囲んでふたりで話すと、いつもはしないすごく深い話ができて、将来どういうふうにしていく? みたいな話もできて、キャンプ民泊っていうのをやってみようか、仕事を辞めてこっちにシフトしようか、みたいな話もできたので、そういう時間が持てるのがキャンプのいいところかと思います」

●ご夫婦やご家族の絆が深まりそうですよね! アウトドアやキャンプの趣味が仕事になったわけですけれども、好きが仕事になって、ましてやNONIWAを利用されるユーザーさんが自宅にいらっしゃるということもありますよね? オンとオフの切り替えって難しくないですか?

「結構私たちの性格なのか、ぬるっと始まって(笑)、少しずつ来てくれる人が増えていって・・・みなさん本当にいいかたばかりで・・・家族が増えていくようなイメージで、あまりオンとオフみたいに切り離さなくても楽しいかなっていう感じです」

超初心者向け『ソロキャンプ大事典』

『ソロキャンプ大事典』

※青木さんご夫妻は先頃、『ソロキャンプ大事典』という本を出されました。この本のセールスポイントを教えてください。

「はい、基本的にはNONIWAのキャンプ講習でお伝えしている、基本的な道具の選び方から、テントとかタープの建て方をわかりやすく載せていただいている本なんですね。
 大辞典というだけあって、こういう時にどうしたらいいのだろうみたいなこととか、女性のソロキャンパーさんってすごく不安が多いと思うんですけど、こういう時に、たとえば盗難だったりとか、夜怖い思いをしないかみたいな、そういう不安なところまで、こと細かく載せてもらっている本になります。

 あとは私たちが体験したことのあるソロキャンプ以外の、いろんなスタイルがあるんですけど、例えば自転車キャンプとか、徒歩で飛行機とかで行くようなキャンプとか、バイクを使ったソロキャンプをやっているかたがたにも協力していただいて、それぞれのキャンプ・スタイルの魅力を対談形式で載せてもらっているのがすごくおすすめです」

●ソロキャンプ、今ブームですよね?

「そうですね。かなり増えてきていて、最初NONIWAでもファミリーキャンプ講習をやっていたんですけど、(お客さんから)ソロでもやりたいです! っていうかたがすごく増えてきて、ソロキャンプ講習も始めていったという形です」

●青木さんご自身もソロキャンプってされたことはあるんですか?

「そうですね。最初から、キャンプを始めたいって時から、やっぱりソロキャンプに憧れがありました。でもやっぱり最初からひとりでやるには、なかなかハードルが高いというか不安だったので、NONIWAで自宅の庭になるんですけど(笑)、”女子ソロキャンプの会”みたいな感じで、同じ境遇の人たちとソロキャンプの練習をするってところから始めました」

●なるほど〜。私のような初心者がソロキャンプに挑戦するとしたら、まず何から始めたらいいんでしょう?

「そうですね〜。小尾さんの周りには、キャンプをしているお友達っていますか?」

●います!

「そしたら、やっぱり一緒に、キャンプに連れて行ってもらうっていうところから始めたらいいかなって思いますね。もし周りにいなかったら、まずは必要最低限の物を持って、日帰りのキャンプから始めるっていうのがいいかなって思っています」

●泊まらないとなると、確かにハードルが下がるかもしれませんね。

「そうですね。テントとか寝袋とか大物はまだ買わなくて、椅子とかお料理が
できるような、おうちにあるものでもぜんぜんいいと思うんですけど、そういうのを持って日帰りでキャンプ場に行ってみるのがいいと思います。

 そこでどんな泊まりのキャンプがしたいか、みたいな(周りに)いろんな(スタイルで)キャンプをしている人がいるので、その様子を見て、私はあれよりも小さいテントでいいかなとか、そういう感じで、実際経験してみてから、自分のイメージにあった道具を揃えていくのがいいかなと思っています」

(編集部注:ソロキャンプの初心者が友達のキャンプにお邪魔する時は、防災用にもなるヘッドライトもあったほうがいいでしょう、とのことでした)

ときがわ町をアウトドアタウンに

写真協力:キャンプ民泊NONIWA

※NONIWAは、常連さんが増えてきたそうですが、5年後、10年後のNONIWAがどうなっているか、何かイメージのようなものはありますか?

「NONIWAを始めてまだ3年くらいですけど、その中でもやっぱりキャンプの流れというか世の中の流れとかで、私たちがおすすめする(キャンプ)スタイルもどんどん変わっているので、講習の中身も日に日に変わっているイメージなんですね。

 今まで来てくれたお客さんの反応とかで、いろいろ変えているので、5年後、10年後はどんなキャンプ講習になっているのかは、まだわからないんですけど、キャンプをやりたいって人はきっといると思うので、5年後、10年後も!(笑)コツコツやっていきたいなと思っています」

●ちなみにこの3年間で、どういった変化があったんですか?

「私たちがそう感じているだけかもしれないんですけど、今までは快適なキャンプをするために、結構道具をたくさん持って行って、グランピングみたいな感じで快適にキャンプをするのがいいよね! っていう時期もあったんですね。

 今は逆にどれだけ物を減らして、身軽に苦がなくキャンプに行くっていうような、日常と非日常の垣根があまりないような形のキャンプも見直されています。実際、お客さんが泊まりに来てくれた時に、あまりにも大きなテントを建てていると、結構それだけで消耗しちゃっていたりする人もいるので、なるべくコンパクトで疲れないキャンプをご提案するように変わってきました」

●ユニット「野遊び夫婦」としては、なにか新しい活動とか、夢や目標というのはありますか?

「そうですね。私たちご縁があって、この埼玉県ときがわ町という所で活動させていただいているんですけど、本当にこの町がすごく大好きで移住して来たので、この町の魅力を私たち目線でどう伝えていけるかなっていうのが、日々の課題でもあるんです。
 将来的にときがわ町をアウトドアタウンにできたらいいな〜っていう目標があるので、ちょっとずつNONIWAだけじゃなくて、近隣のキャンプ場さんと提携したりとか・・・。

 あとは今、新しく夫がやっている、レンタルとかアウトドアのショップみたいなのを、10月くらいにオープンできたらっていう形で活動を始めているところなので、ちょっとずつ町を巻きこんで、面白いことができたらいいなって思っています」


INFORMATION

 「キャンプ民泊NONIWA」はキャンプ未経験者に向けた、至れり尽くせりの施設。超初心者の小尾さんもぜひNONIWAでキャンプ体験をしたいということです。番組の取材でお邪魔して実現できればとスタッフは思っています。

 ちなみに青木さんご自身が、キャンプの時のいちばん好きな時間は焚き火をしながら、周りの風景と大好きなお酒を楽しんでいる時だそうです。キャンプに焚き火とお酒は欠かせませんね(苦笑)

 キャンプ民泊NONIWAについて、以下のオフィシャルサイトをご覧ください。

https://noniwa.jp

 「野あそび夫婦」の活動については、以下のオフィシャルサイトをご覧ください。

https://noasobifufu.com

『ソロキャンプ大事典』

『ソロキャンプ大事典』

 ソロキャンプをやりたいかた、または初心者のかたは、ぜひ「野あそび夫婦」監修のこの本を参考になさってください。ソロ用の道具選び、サイトでの設営・撤収、ソロキャンプのご飯ほか、徒歩、自転車、そしてバイクのソロキャンプスタイルなどを掲載。安全にそして快適に過ごすためのノウハウが満載です。

 成美堂出版から絶賛発売中です。詳しくは以下のサイトをご覧ください。

https://www.seibidoshuppan.co.jp

「ハト」の知られざる世界 〜驚きの能力と、人とのつながり

2022/6/26 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、科学ジャーナリストの「柴田佳秀(しばた・よしひで)」さんです。

 柴田さんは1965年、東京生まれ。東京農業大学卒業後、テレビ・ディレクターとして、「生きもの地球紀行」や「地球!ふしぎ大自然」などの自然番組を数多く制作。2005年からフリーランスになり、本の執筆、監修、そして講演など、幅広く活動されています。

 都市に棲む鳥の観察や研究もされている柴田さんには、3年前にもこの番組に来ていただいて、ベイエフエムのすぐ近くにある公園でバードウォッチングの手ほどきを受けました。

柴田佳秀さん

 そんな柴田さんの新しい本が『となりのハト〜身近な生きものの知られざる世界』。ハトに関するびっくりするような豆知識がたくさんつまっていて、話題になっています。

 きょうはハトの未知の世界にご案内します。

☆写真協力:柴田佳秀

『となりのハト〜身近な生きものの知られざる世界』

ドバトというハトはいない!?

※ハトは街中や公園など、どこにでもいるように思うんですけど、それだけよく見かけるというのは、たくさんいるということですか?

「そうですね。街の中に、人のそばにいる鳥なので・・・人が活動するところにいるので、よく出会うという感じですかね」

●街中でよく見かけるのは、いわゆるドバトですよね?

「そうです。ドバトと言われているハトですね」

●ドバトという種類ではないんですよね?

「そうですね。よくドバト、ドバトというんですけど、ドバトという名前の鳥はいないんです。正しくは、カワラバトという名前で、それを昔人間が利用するのに家禽化(かきんか)したんですね。それをドバトというんです。だからニワトリやアヒルとかと同じです。

 ニワトリという鳥はいないんですね。あれは野生のセキショクヤケイという名前の鳥を、人間が利用するために改良したのがニワトリ、アヒルはマガモというカモを、人間が利用するのに品種改良したのがアヒル、それと同じようにカワラバトを家禽化したのが、ドバトと呼ばれています」

●人が改良したハトっていうことになるわけですね。

「そうですね。人が利用するのに改良したハトです」

●日本には何種類ぐらいのハトが生息しているんですか?

「身近にいるのはドバトなんですけど、日本には12種類、ハトの記録があります。身近にいるのはドバトと、キジバトいわゆるヤマバトとか言われているやつですね。その2種類が身近に、街の中にいます。
 そのほかの10種はそう簡単に出会えないものがほとんどです。実はドバトと言われるカワラバトは、日本の鳥ではないです。外来種です。

 もともとカワラバトはどこに棲んでいたかというと、エジプトとか中近東、あとは中国の西部やインドの乾燥地帯にいる鳥なので、それを昔連れてきて、逃げたり放したりしたのが野生化して、今街の中にいるのがドバトなんですね」

●世界にはもっと多くのハトがいるってことですか?

「はい、世界には今351種のハトがいます。ただこれは研究者によって分類の仕方が違うので、数の正確さは前後しますけど、大体350種くらいいると考えてもらっても問題ないと思います」

(編集部注:先ほど「家禽(かきん)」というお話がありましたが、「家禽」とは人間が繁殖させ、飼育している鳥のこと。動物だと「家畜」となります。
 通称ドバトが、人が近づいても逃げないのは、もともと人が飼っていたから。人に慣れるように改良された遺伝子のハトだけが残り、それが野生化しただけなので、逃げないということだそうです)

写真協力:柴田佳秀
ドバト

もともとハトは神社の鳥!?

※ドバトは公園や神社、お寺などにたくさんいて、群れているイメージがありますよね。それはハトの習性なんですか?

「そうですね。ドバトの、カワラバトのもともと持っていた習性です。カワラバトというのは、集団で群れで暮らしている鳥なんですね。一方、ヤマバトと言われているキジバトはほとんど群れないです」

●日本にはどちらもいるんですよね。

「どちらもいて、両方とも今、都会では普通にいるんですけど、キジバトのほうはひとりが好きみたいです。あとはペアですね。たまに食べ物がいっぱいあったりすると、ペア同士で集まって来て、群れみたいになるんですけど、それはただ集まっているだけなので、群れとは呼べないですね」

写真協力:柴田佳秀
キジバト

●ハトはハトでもぜんぜん違うんですね。

「神社や公園にいて、よく歩いている奴はドバトですね。それは群れています。なぜ神社にいるかといったら、もともとハトは神社の鳥だったんです」

●えっ!? 神社の鳥というと・・・?

「例えば、もともと八幡様、あの八幡宮のシンボルがハトなんですよ。鶴岡八幡宮に行くとわかるんですけど、鶴岡八幡宮と書いてある看板がありますよね。あれの「八」はハトです。ハトの絵になっていますよね。そして、鶴岡八幡宮ではハトサブレを売っていますよね」

●おおお〜。

「あれは八幡様の鳥がハトだから、そのシンボルとして、ハトサブレを売っているるんです。今(大河ドラマで)やっている鎌倉時代の、源頼朝のあの時代に遡るんですけど、昔はハトが来ると戦いに勝つ! みたいな瑞鳥(ずいちょう)として、八幡宮ではシンボルとされている鳥なので、それでずーっと八幡宮とか、そういうところで可愛がられていたんですね。日本ではそういった神社がいっぱいできて、そこでハトが可愛がられて、神社やお寺中心にハトがいるようになったんです」

●そういう歴史があったんですね!

「そうですね。その辺は話すとすごく長くなるので、一冊本が書けちゃうくらいなんですけど(苦笑)」

●いや〜、奥深いですね、ハトって!

写真協力:柴田佳秀
渋谷区にある鳩森八幡神社のドバト

ハトの特殊な能力

※ハト胸という言葉がありますが、胸の部分が盛り上がって見えるのは、どうしてなんですか?

「あれは、実は筋肉がついているんです」

●あれは筋肉なんですね。

「そうです。いわゆる胸肉と言っている、あの筋肉は何をする筋肉かというと、翼を動かすための筋肉なんです。あれだけ大きな筋肉がついているってどういうことかといったら、力強く羽ばたくことができるので、ハトはすごいスピードで飛ぶことができます」

●確かにそうですね。

「スピードも出せるし、さらに距離も長く飛ぶことができます。もともとハトの習性として、お家みたいな、寝るための巣を作ったりする場所があるんですね。

 ハトの食べ物って、大体みなさん豆だと思いますよね。確かに豆なんです。豆というか草のタネなんですね。草のタネがなっているところは、結構遠くに行かないとなかったりしますよね。
 広い範囲を飛び回って、わーっと群れで行って(タネが)あると、そこにばーっと降りて、食べてまた戻るという、お家に帰るという暮らしをしていたんです。すごく広範囲を飛び回らないと食べ物がないですよね。だから胸の筋肉が発達していて、別に渡り鳥ではないんですけど、ドバトは1日30キロほどの距離を飛びます。

 あと水もよく飲みます。食べ物がタネで乾き物なので、水を飲まないとうまく消化できないんですね。だから鳥の中では水もすごくよく飲むんですけど、水を飲みに行くのも遠くまで、砂漠に棲んでいる鳥だったので、胸(の筋肉)が非常に発達していたりします。

 森の中に棲んでいるハトも木の実を食べるので、どこか遠くへ木の実を取りに行かないと、いつも同じところにはないですよね。それで遠くまで飛んで行くので、筋肉が発達していて、ハト胸みたいに膨らんでいます」

●そうなんですね〜。

「もうひとつハト胸になる理由があって、それはよくタカに襲われるんです。タカ派とハト派ってあるじゃないですか。ハトってタカに食べられちゃうんですけど、食べられてばっかりだと絶滅しちゃうので、強力な筋肉で早く飛んで逃げ切るんです」

●先ほど水をよく飲むって話もありましたけど、水の飲み方もほかの野鳥とは違うんですよね?

「そうですね。普通、鳥は水を飲む時に、水にクチバシを浸けてから、そのままストローみたいにゴクゴク飲まないで、ちょっと(水を)ふくんでは、上を向いて流し込むような感じ・・・ニワトリはそうしていますよね。
 ハトはクチバシを水に浸けて、そのままゴクゴク飲むことができるんです」

●下を向いたまま飲めるってことですよね!

「そうですね。それができるのはハトの仲間とサケイっていう仲間と、一部砂漠にいるキンカチョウっていう小鳥、それぐらいだけで、ほぼハトの専売特許というくらい特殊な飲み方です」

●へぇ〜〜、凄い能力ですね。

「なぜハトにだけそんな能力があるのかっていうのは、実はよくわかっていないんです」

●そうなんですか?

「一説によると、少ない水でも・・・森の中の浅い(水たまりの)ちょっとしかない水でも飲めるようにっていう説があります。とにかくハトは水を飲みたがるので、ちょっとの水でも飲めるように、そういった飲み方をするようになったんじゃないかなっていう説があるんですけど、まだはっきりしたことはわかっていないです」

写真協力:柴田佳秀

ハトはミルクで子育てをする!?

※野鳥の場合は、おもに春から夏にかけて、繁殖をすると思うんですけど、ハトも同じような感じなんでしょうか?

「ハトの繁殖シーズンは一年中なんです」

●えっ! 一年中!?

「一年中ですね。春から夏前は多いんですけど、一年中ハトは繁殖します。それはなぜかというと、ハトは結局、タネばかり食べているので、タンパク質がないですよね。そのタンパク質を補うのに普通、タネばっかり食べている鳥でも、繁殖期の時だけは、虫を取って来て(雛に)あげるんですね、スズメとか。
 だけど、ハトはずーっとタネを食べているので、ピジョンミルクという特殊な餌を雛に与えて育てるので、季節を問わないんです」

●ミルクで子育てをするってことですか?

「そうなんです。ミルクで子育てをするんです」

●えっ! どうやってミルクを出すんですか?

「鳥なので、おっぱいがあるわけじゃないので、ミルクといっても、まあミルクのようなものが・・・実は口の食道の一部に素嚢(そのう)という袋みたいなのが鳥ってあるんですけど、そこの一部が(ハトに)子供ができると、壁が厚くなるんですね。そこの部分が剥がれて溜まるとチーズみたいな感じになるんです。

 すごくタンパク質に富んでいて、それを吐き戻して雛に与えるってことをやっています。ハトの特殊な生態なんですけど、あたかもミルクみたいな感じなので、ピジョンミルクという名前をつけています」

●そのミルクを出せるのはメスだけですよね?

「いや、実はオスも出せるんです」

●え〜〜! じゃあオスのミルクで育っているっていうこともあるんですね?

「そうなんです。オスもメスも両方(雛にミルクを)与えないと、多分足らないんでしょうね。我が身を削って与えるし、そう簡単に食道の素嚢の壁が厚くならないので、だから代わりばんこに与えるんでしょうね。

 その代わり、ハトは雛の数が少ないんですよ。一羽か二羽なんですね、一回で育てられるのは。それはおそらく餌の量がそれほど用意できない、だから(オスとメスの)両方で育てないといけない、その代わり一年中、繁殖可能なので、ハトは数を期間で補うという戦略をとっているんだと思います」

(編集部注:ハトの繁殖シーズンは1年中ということで、求愛行動を観察するチャンスも多くあると思います。オスがノドを膨らませて、メスを追いかけ回すそうですが、主導権はメスが持っているとのことですよ。
 ちなみにドバトはオスとメスの、見た目の違いはほとんどないので繁殖行動のときに、ノドを膨らませているのがオスだとはっきりわかるそうです。ノドまわりの虹色にも注目してみてください。

 ハトはその昔、通信の手段、いわゆる伝書バトとして利用されていました。その起源は一説によれば、紀元前3千年前のエジプト、漁師さんが海に出るとき、ハトを連れて行き、どれくらいの量の魚が獲れたのかをいち早く知らせるために、ハトを使っていたそうです)

※これは、ハトが巣に戻る「帰巣本能」があるからだと思いますが、ハトはどうやって戻る方向を見極めているんですか?

「基本的には近い距離だと景色を憶えているみたいです。伝書バトクラスだと近い距離は憶えていているみたいですね。もうちょっと遠くなってくると、あらゆるセンサーを使って自分の位置がわかるみたいです。ひとつに、地磁気ってありますよね。地球の北とか南とか・・・それが正確にわかるらしいです」

●そういう能力があるんですね!

「そういう能力に長けていて、特にドバト、カワラバトというのはお家みたいなところがあって、どこかに行って帰って来るという、もともとの習性があったので、それをうまく利用したのが伝書バトなんです。だから本来の習性をうまく利用しているんです。

 キジバトとかアオバトとか、そういうハトに、それをやらせられるかっていうと、全然そういう習性がないので、やらせるのは無理ですし、賢いと言われているカラスもお家からどこかへ行って、また戻って来る暮らしをしていないので、いくらカラスに教えてもできないです」

(編集部注:ハトは時速60キロくらいで飛ぶことができ、ハトのレースに出場する訓練されたハトは、なんと1000キロほどの距離を休まず、15時間くらいかけて飛ぶことができるそうです。まさにアスリートですね。
 ちなみに昭和30年代くらいまで、新聞社は写真を送るために、ハトを使っていたそうですよ)

柴田佳秀さん

人間の生活が見えてくる!?

※きょうはハトの驚きの能力など、いろいろお話をうかがってきましたが、ハトのような身近な生きものに目を向けてみるのは、大事なことかも知れませんね。

「そうですね。色んな身近な生き物に目を向けてみると思わぬことがあって・・・
実は僕はそれほどハトが好きではなかったんです。今告白しちゃいますけど(笑)」

●そうなんですか〜。

「実はそうなんですね。鳥を好きな人って、ハト好きはそういないかもしれない」

●ちょっと地味なイメージがありますよね。

「地味ですし、わりと形にバリエーションがないので、まあアオバトとか綺麗なので、それは人気があるんですけど、身近にいるやつは、なんだハトか、なんだキジバトかという感じで、見ない人が多いんですね。

 僕もこの本を書くお仕事がきっかけで、ハトを見直してみたんですけど、いや面白いです、非常に! ハトから見えてくることがいっぱいあって、都市の鳥を僕は主に研究しているんですけど、都市の鳥を研究すると、人間の生活が合わせ鏡のように見えてくるので、鳥を見ているんだけど、人を見ているみたいな感じになります」

●例えば、どんなことがわかるんですか?

「ここ毎日ハトがいるな、絶対ここで人が餌をあげているなと・・・ちょっと時間帯を変えてみると、やっぱり餌をあげる人がいて、話をしてみると・・・なんで餌をあげているんですか? って聞いたら、ここでハトに餌をあげられるのは、私くらいしかいなくてっていう人が何人もいたりするんですね(笑)。

 あと、街のビルの構造なんかも、あ〜、ハトが巣を作っているなって見えるんだけど、もうちょっと鳥のことを知っていたら、こんなところに巣を作られないように、隙間を作らないようにするんだろうなって思いながら、僕は見ているんです」

●もうちょっと気にしてみるっていうのがいいかもしれませんね。

「そうですね。気にして見ていると世界が変わります。普段の生活がかなり変わりますね」


INFORMATION

『となりのハト〜身近な生きものの知られざる世界』

『となりのハト〜身近な生きものの知られざる世界』

 柴田さんの新しい本をぜひ読んでください。国内外のハト全般に関する豆知識がたくさん掲載されています。一般的にはフンの被害があったり、時には害鳥として駆除されたりと、マイナスのイメージもあるかと思いますが、この本を読むと、ハトの能力や人とのつながりを知ることができて、見方が変わると思います。ぜひ身近なハトの世界を覗いてみてください。山と渓谷社から絶賛発売中です。
 詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎山と渓谷社HP:https://www.yamakei.co.jp/products/2821063100.html

 柴田さんの活動についてはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎柴田さんHP:http://shibalabo.eco.coocan.jp/

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