2022/9/25 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、中部大学・准教授で、
サボテン博士の「堀部貴紀(ほりべ・たかのり)」さんです。
堀部さんは岐阜県出身。名古屋大学大学院を修了後、1年ほど岐阜放送・報道部に勤務。その後、研究の道に戻り、現在は中部大学でサボテンを研究中。日本では数少ないサボテン博士でいらっしゃいます。
堀部さんがサボテンを研究するようになったきっかけは、日本でいちばんサボテンの生産量が多いとされている愛知県春日井市のお祭りで、食用のサボテンに遭遇したこと。名古屋大学で園芸学や植物生態学を専攻していた堀部さんは俄然、サボテンに興味がわき、また、国内でほとんど研究されていないことを知って、春日井市にある中部大学にいれば、サボテンのサンプルがたくさん手に入る、そう思い、2015年からサボテンを専門に研究されています。
そして先頃『サボテンはすごい! 過酷な環境を生き抜く驚きのしくみ』という本を出されました。
きょうは、ほとんど知られていないサボテンのトゲの秘密のほか、いま世界が注目している、地球を救うかも知れない、サボテンの計り知れない可能性についてうかがいます。
☆写真協力:堀部貴紀

トゲの、驚きの役割
※園芸用として人気の多肉植物がありますが、サボテンも多肉植物、ですよね?
「はい。サボテンも基本的には多肉植物です。ただし、多肉植物って結構いい加減な言葉でして、学術上の定義がないんですね。こうだったら多肉植物という定義がなくて、だいたい水っぽくて膨らんでいたら、多肉植物っていう言葉の使われ方をしているんです。
でもサボテンの中には見た目が樹木みたいな、木みたいなサボテンもいるので、多肉植物じゃないサボテンもいます」
●へぇ~、そうなんですね。アロエはサボテンじゃないんですか?
「よく言われるんですけど、アロエはサボテンじゃないんですね。で、サボテンは何か? ってことなんですけど、サボテンは、バラ科とかイネ科とかあると思うんですけど、サボテン科っていうのがあって、サボテン科に含まれるやつをサボテンと言います」

●サボテンは世界に何種類ぐらいいるんですか?
「だいたい最近の研究だと、2000種類ぐらいですかね。ただし、品種がいろいろあって、イチゴでも『とちおとめ』とか『あまおう』とかあると思うんですけど、そういう品種を入れると、大体8000品種と言われています」
●そんなにあるんですね~。サボテンの原産国はどちらになるんですか?
「サボテンの原産国は、だいたい南北アメリカですね。結構広くて、北はカナダ南部から南はアルゼンチン・パタゴニア地方の先端までですね。南北アメリカ全体にサボテンはいます」

●そうなんですね~。サボテンの大きな特徴といえば、トゲですけれども、あれは何ですか?(笑)
「あれは葉っぱが変化したものだと言われています」
●葉っぱ!?
「昔、サボテンのトゲは葉っぱだったんですけど、葉っぱがだんだんと変化していって、葉っぱになったと考えられています」
●トゲの役割って何ですか?
「実はいろんな役割があって、まずは動物から食べられないように体を守っているよ、っていうのもあるんですけど、ほかにも例えば、強い光から身を守るカーテンみたいな役割をしたりですとか、あと高温とか低温から身を守る毛布みたいな役割をしてたりとか・・・まだまだあって、トゲから蜜をだしてアリを呼んだりとか、あと空気中の水を吸着するような機能も報告されています」
●ほぉ~、そうなんですね。サボテンは独特な形をしていますけど、どうしてあんな形になったんですか?
「まずサボテンは、丸っこいイメージがあるかと思うんですけど、あれはまず体の中に水を貯めているんですね。より具体的にいうと、茎の中に貯水組織といって、水をいっぱい貯める細胞があるんです。それがいっぱいあるから、ああいう丸くて水のタンクみたいになっているんですね。なので、長い期間、雨が降らなくても平気なんです。これまで長いものだと6年間、雨が降らなくても枯れなかったという報告がありますね」

体の一部からも繁殖!?
※植物のほとんどは花を咲かせ、タネを作って自分たちの生存範囲を広げていますが、サボテンはどうやって増えていくんですか?
「ほかの植物と同じようにまずタネで増えます。花が咲いて果実がなって、その中にタネが入っていて、そこから増えるんですけど、もうひとつ特徴的な増え方があって、植物体の一部からも繁殖するんですね。
具体的にはサボテンの枝とか茎の一部がぽろっと落ちて、そこからまた大きくなるんです。そういうのを『栄養繁殖』って言うんですけど、イモとか球根みたいなイメージですね。ぽろっと落ちた茎とかには水分がたくさん含まれているので、タネよりも生存する確率が高くなるんですね。タネはやっぱり小さいし、水もぜんぜん含んでいないけど、植物体の一部ですといっぱい水があるから、生存する確率が高いってことになります」
●サボテンの花は毎年咲くわけじゃないですよね!? 毎年咲くんですか?
「一応、毎年咲くんです。あまりサボテンの花が咲くイメージはないと思うんですけど、花が咲くまでに時間がかかるんです。種類にもよるんですけど、例えば”桃栗三年柿八年”という言葉がありますけれども、サボテンだと長いものだと最初の花が咲くまでに30年ぐらいかかります」
●だから花のイメージがあまりないんですね。
「そうなんですよね。でも1回咲くようになったら、毎年だいたい咲くんですよ」
●受粉は昆虫ですか?
「自生地ですとハチとか、夜咲く花だとコウモリとか蛾とか、まあやっぱり昆虫が多いですね」
●過酷な環境の自然界で、どうやって増えているのか、ちょっと想像がつかない世界なんですけど・・・。
「そうですよね。まあ普通にタネで増えるのもありますし、それこそトゲを使って、ほかの動物にくっついて移動していくサボテンもいるんですよ。
アリゾナ砂漠にいるやつなんですけど、“ジャンピング・カクタス”って呼ばれていて、ちょっとでも触るとトゲで体にくっ付いてくるんですよ。体の一部がぽろっと取れて、それを取ろうとすると、またその手にくっ付くので、ジャンプしているみたいだから、ジャンピング・カクタスっていうんですね。
そういうやつなんかは、本当にすれ違った動物にペタッとくっ付いて運ばれていって、別の場所で落ちて、根を張って成長するみたいな育ち方をするやつもいます。たくましいですね」
巨大なサボテンの林!?

※新しい本に、6〜7年前にアリゾナ州の国立公園に調査に行った話が載っていました。なぜアリゾナに行くことにしたんですか?
「それは、サワロサボテンっていうほんとに西部劇に出てくるような、ザ・サボテンがアリゾナ砂漠にいるんですね。それを見たかったからです」
●本の表紙になっている、大きなサボテンが林のようになっているのがその場所ですよね?
「そうです、そうです! アリゾナのサワロ国立公園っていう所ですね」
●実際にこの大きなサボテンをご覧になっていかがでしたか?
「いや〜もうびっくりというか感動ですよね! 普段そんなに生き物を見て感動するほうではないんですけれども、本当に初めて圧倒されて感動しましたね。おっ! すごいみたいな」

●大木ですよね、このサボテン!
「そうなんです。乾燥地なので木があまり生えていないんですね。さっきの大きなサワロサボテンは10メートル以上になるものも多いんですけど、それが何千本と見渡す限り生えていてなかなか感動ですよ。日本の人にも行ってほしい、本当に!」
●世界最大のサボテンが、このサワロサボテンになるんですか?
「昔はそのサワロサボテンが世界で最大だって言われていたんですけど、実は今は世界最大じゃないんです。
当時1996年には、17.5メートルあったので、ギネス記録を持っていたんですけど、2007年にほかのサボテンが19.2メートルの記録を出して、それは和名でいうと武倫柱(ぶりんちゅう)っていうサボテンがいて、(サワロサボテンと)同じような見た目のサボテンなんですけど、そっちが今は世界最大だと言われています」
●それはどこにいるんですか?
「それもアリゾナに生えているんですね。サワロと同じような場所に生えていて、見た目はそっくりですね」
●そんな大きなサボテンがいるんですね~。
「いやもう~びっくりしますよ! 近くで見たら」
●サワロサボテンに巣を作る鳥がいるんですよね?
「はい、キツツキですね。あとフクロウなんかも棲んでいますね。というのも乾燥地に行きますと木がないもんですから、サボテンがいちばん大きな植物になるんですね。なので、キツツキなんかがサボテンの幹に穴を開けて巣を作って、そこに棲んでいるんです」
●サボテンにキツツキ!?
「実際にソノラ砂漠に行きますと、サワロサボテンは穴だらけなんですよ。いたるところに穴が開いていて、その中に鳥が棲んでいるんですね。(現地に)行った時に幹をパーンと叩いたら、中から鳥がバサバサって出てきたんです。ガイドに怒られましたけれども、叩くなって(苦笑)」
●動物たちとの関係性があるんですね。
「生態系において大事な役割をしている植物を『キーストーン種』というんです」
●キーストーン種!?
「そうです。サワロサボテンはアリゾナ砂漠において、キーストーン種であるっていうふうに言われています。大事な役割をしているよ、っていうことですね」
*編集部注:堀部さんの本には、国内でサボテンを見られるスポットも掲載されています。伊豆シャボテン動物公園や筑波実験植物園などのほかに、なんと千葉県銚子市にあるウチワサボテンの群生地が紹介されています。
銚子市長崎町の海岸沿いにあって、海を背景にサボテンが見られる場所は珍しいそうで、堀部さんいわく、青い海にサボテンが映えて、おすすめだそうですよ。

メキシコは国旗にもスーパーにもサボテン!?
※サボテンといえば、メキシコをイメージするかたも多いと思います。堀部さんは、サボテンの聖地ともいえるメキシコにも調査に行かれていますが、メキシコの国旗には、サボテンが描かれているんですよね?
「そうなんです! あまり知られていないんですけど、メキシコの国旗を見ると、ど真ん中にサボテンが描かれているんですよ」
●知らなかったです! その由来は?
「ちょっと難しい話になっちゃうんですけど、昔アステカ人があちこちさまよっていた時に、神様のお告げとして、サボテンの上でヘビを食らっているワシがいる土地を探しなさい! そういうお告げがあったんですね。
そして見つかったのが、今メキシコシティがある場所なんですよ。そういう建国神話に由来していて、それで未だに国旗にはサボテンとワシが描かれているんです。国旗をよく見ると真ん中にサボテンがあって、その上にワシが乗っていて、さらに(ワシの)口にはヘビをくわえているんですよ」
●なるほど! 神話の通りなんですね。
「そうなんです!」
●メキシコでは食用サボテンをたくさん作っているんですよね。
「メキシコだとサボテンは、どちらかというと野菜なんですね」

●へぇ〜、どんなサボテンが食用に向いているんですか?
「だいたい食べるのはウチワサボテンですね。ウチワ型の平たいサボテンがあるんですけど、それを食べますね」
●どんな味がするんですか? サボテンって。
「日本にいると(サボテンは)食べられるの? みたいな、絶対まずいだろって言われるんですけど、結構美味しいんですよ。ちゃんと調理するとサボテンは美味しいんです! 言い切れますね」
●メキシコのスーパーマーケットに行くと、野菜と同じように食用のサボテンが並んでいるっていうことですか?
「普通に並んでいますし、特設コーナーを設けられることが多いですね、食用サボテン専門のコーナーが・・・。
サボテンはメキシコに行くと普通にその辺に生えているんですね。なので、昔は貧しい人が食べるものだと思われていたらしいんですけど、最近は機能性の報告なんかも多くて、富裕層が敢えてサボテンを食べるようになっているみたいです」

●ちょっとサボテンの味、想像がつかないんですけど〜。
「味はひとことでいうとネバネバして酸っぱいのが、サボテンの味なんですね。ちゃんと理由があって、サボテンはCAM(キャム)型光合成っていうちょっと変わった光合成をしていて、その光合成をするとリンゴ酸っていう酸が溜まるんです。だから酸っぱいっていうのと、ネバネバの物質は多糖なんですけど、水を逃さないためにそういうネバネバ物質を溜めているんですよ。だから酸っぱくてネバネバした味になるんです」
●酸っぱくてネバネバ・・・!?
「日本でいうとオクラとかメカブが近いですね。結構美味しいですよ」
●どうやってサボテンを調理するんですか? どんな料理に使われるんですか?
「日本だとちょっと誤った認識が広がってるんですけど(笑)、まず食べるサボテンは若くて柔らかい時のサボテンを使うんですよ。日本だと大きくなったサボテンをサボテンステーキだって言って食べちゃったりする、あれは違うんですよ。ああいうふうには食べないんですよ。大きいと固くなっちゃって、あまり食べられないんですね、タケノコみたいな感じで・・・。
メキシコや海外だと、柔らかいウチワサボテンを肉料理の添え物にすることが多いですね。というのもヌルネバ系なので、チキンとか赤みの肉とかと一緒に食べると飲み込みやすくなるんですよ。嚥下促進作用(えんげそくしんさよう)があって食べ合わせがいいと・・・。あとはそのままちょっと焼いたりとか、生でサラダに入れたりとかして食べることも多いですよね」

●へぇ〜、食べて見たいです〜。
「美味しいですよ、結構!」
*編集部注:サボテンの生産量と消費量は、やはりメキシコが世界一とされています。
サボテンが地球を救う!?
※サボテンが地球を救うと本に書かれていますが、いま世界でサボテンが注目されているそうですね。
「はい。まずサボテンに注目が集まっている理由はひとことで言いますと、どこでも育てられて用途が広いからなんですね。
具体的に言いますと、例えば野菜が育てられないような乾燥地でもサボテンなら育てられる。なので、地球温暖化や砂漠化に対して強いんですね。用途も例えば野菜にもできるし、家畜の飼料にもできるし、加工食品にもできるし、最近だとサプリメントや化粧品にも使える。つまりなんでも使えると。
さらに少ない水や肥料でも育てられるし、無駄がないと! つまり持続性がある植物として注目が集まっています。すごいんですよね。
2017年には国連食糧農業機関FAOが、これからはサボテンを積極的に使っていこうという声明も出しています。世界が注目!」

●サボテンには知られていないポテンシャルが、もっともっとありそうですね!
「そうなんです! これまでは、今もそうなんですけど、サボテンを食べるっていうことに注目が集まっていたんですね。でも、私が個人的に注目しているのは二酸化炭素の固定です。地球温暖化対策にサボテンが使えるかも知れない、というのに注目しています」
●え〜っ、サボテンが、ですか?
「そうなんです。具体的に言いますと、例えば地球温暖化を防ごうと思ったら、空気中の二酸化炭素を吸収しないといけないんですね。それで植林というのがひとつの選択肢としてあります。木を植えると。ただし、乾燥地だと木が植えられないんですね。でもサボテンだと乾燥地でも植林できる。なので、乾燥地で二酸化炭素を固定できるっていうのがひとつあるんですね。
しかも最近、実際に昨年の11月にイギリスで、COP26気候変動枠組み条約締約国会議というのがあったんですけど、そこでメキシコの企業がサボテンを使った植林事業、カーボンオフセット事業を実際に紹介しているんです。なので、すでに世界の企業は、サボテンを使ったカーボンオフセットを始めているんですね」
●サボテンって本当にすごいですね!
「すごいです! ついでに私の研究も紹介していいですか?」
●もちろんです!
「ちょうどそこをやっていまして、実はサボテンを二酸化炭素の固定に使うメリットがもうひとつあって、サボテンは空気中の二酸化炭素を結晶化することができるんです」
●結晶化!?
「具体的に言いますと、透明な金平糖(こんぺいとう)みたいな結晶に二酸化炭素を変換しちゃうんですよ。バイオミネラルって言うんですけど、石みたいにしちゃうんですね。そうするとなにがいいかって言いますと、普通の木だと枯れた時に木の中にあった二酸化炭素は全部また逃げていっちゃうんです。
なので、保持できるのは一時的なんですけど、サボテンだと体に閉じ込めた二酸化炭素の一部が結晶化しているので、サボテンが枯れても出ていかないんです」
●残るわけですね!
「残るんですね、地面に。なので、二酸化炭素の長期固定にサボテンは使えるかもしれないということです。そうすると1000年以上、安定して二酸化炭素を固定できる、そのメカニズム、どうやってサボテンが二酸化炭素を結晶化しているのかとか、その結晶がサボテンの中で何をやっているのかを私は今調べています」
*編集部注:実は堀部さんはつい最近、カンボジアに行っていたそうです。これは日本の企業や政府機関とともに行なう人道支援事業のためで、カンボジアにたくさん残されている地雷原の跡地に、食用になるウチワサボテンを植え、雇用を産み出し、産業を作るというものだそうです。サボテンの可能性がさらに広がりそうですね。
●では最後に、サボテン博士として研究対象であるサボテンから、改めてどんなことを感じていらっしゃいますか?
「そうですね。正直、サボテンに限ったことではないんですけれども、生き物ってすごいなぁっていうことですね。と言いますのは、サボテンについて調べていると、乾燥とか高温に耐えるための仕組みが何重にも存在するんです。
さっきご紹介した茎の形だったりとかトゲだったりとか、あと根っこの構造なんかも乾燥に強くなるための仕組みが何重にも備わっているんですね。それはサボテンだけではなくて、すべての生き物はそれぞれに特徴的な生きる力っていうのを持っているんです。
そういうのを見るとすごく感心しますし、なんか元気づけられるんです。生き物は、生きるための仕組みをすごく備えて、よくできているから、多分自分も大丈夫なんじゃないかなみたいに思っているんですよね。勝手に励まされるみたいな感じです」
INFORMATION
サボテンに興味を持ったかたは、堀部さんの本をぜひ読んでください。サボテンに関する学術的なことも載っていますが、サボテンの初心者のかたが読んでも「へ〜〜っ! そうなんだ〜!」の連続で、面白いですよ。アリゾナやメキシコに調査に行った時の珍道中も楽しく読めます。サボテン・多肉植物のミニ図鑑も掲載されています。ぜひご覧ください。
ベレ出版から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎ベレ出版HP:https://www.beret.co.jp/books/detail/841
堀部さんの研究室のサイトもぜひ見てくださいね。
◎堀部さんの研究室HP:https://www3.chubu.ac.jp/faculty/horibe_takanori/
2022/9/18 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、フリーライターで写真家の「山本高樹」さんです。
山本さんは1969年、岡山生まれ。出版社勤務と海外を巡る旅のあと、2001年からフリーランスとして活動、2007年からはインド北部の山岳地帯、標高3500メートルの地に広がるチベット文化圏「ラダック」地方を長期取材。
その後もラダックの取材をライフワークとし、現地の人たちやその土地の気候風土と向き合い、丁寧な取材をもとに文章を書き、本として出版されています。そして2020年に出版した『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』が第6回「斎藤茂太賞」を受賞。
そんな「山本」さんが3年ぶりにインド北部を訪れ、先頃帰国されたということで、改めて番組にお迎えすることになりました。
きょうは最新版のラダックの旅、そして先頃出された本『旅は旨くて、時々苦い』から世界の旅で出会った「食」のお話をうかがいます。
☆写真:山本高樹

インド北部、へき地をまわるひとり旅
※山本さんはこの夏に、次に出版する本の取材のためにインド北部を訪れています。3年ぶりの海外ということで、最初は英語のフレーズがすぐに出てこなかったり、荷造りに手間取ったりと、勘が戻らなかったそうですよ。
今回訪れたのは、山本さんのメイン・フィールド、インド北部のラダック地方ということなんですが、日本から目的地まで、どうやって行ったんですか?
「僕が取材した範囲に関しては、インドの首都デリーまで日本から直行便が飛んでいますので、それに乗って行きました。
デリーからラダック地方の中心地になるレイという町までは、飛行機で1時間ちょっとで飛ぶので、往路は飛行機でそこまで行って、そのあとはひたすら1ヶ月半ぐらいずーっと車だったりバスだったり、陸路でだいたい1800キロぐらい移動しました。平坦な道は最後の300キロぐらいしかなくて(苦笑)、あとはずっと悪路でしたね」

●えぇ〜、そうなんですか。タフな旅でしたね。
「そうでしたね。トレッキングはしなかったので、そういう意味では体力は使わなかったんですけど、ずーっと悪路で揺られている状態だったので、別の意味で体力を使う旅だったのかなと思います」
●行かれたのは8月ですか?
「7月の中旬から8月の下旬ぐらいまで、1ヶ月半ぐらいという感じです」
●その頃のインド北部はどんな気候なんですか?
「僕が行った地域は、ほとんど標高が3500メートル以上の富士山ぐらいの標高のところが多くて、日差しは強くて暑いんですけれども、夜は涼しくてクーラーとか全然なくても眠れるような、乾燥してすっきりした気候ですね」
●今回もやっぱり、へき地を巡る旅っていう感じだったんでしょうか?
「そうですね(笑)。本当にへき地ばっかり。ただ、行き慣れている場所ではあるので、新鮮な驚きを持つ旅というよりは、どっちかというと帰省したみたいな感じの(笑)、久しぶりに戻ったなみたいな感じの旅でしたね」
●どのあたりを重点的にまわられたんですか?
「本のための取材という目的があったので、陸路で少しずつ移動しながら、行く先々を少しずつ、町や村の調査をしながらまわってましたね」
●今回もおひとりで行かれたんですか?
「そうですね。僕は職業がライターで、写真も撮る人間なんですね。人件費を余分にかけられないので、写真が撮れなかったらカメラマンさんをお願いするんですけど、僕は自分で撮れるので、より予算を節約するためにひとりで行くというパターンです。どんな仕事でもひとりで取材に行っていますね」

忘れられない衝撃の味
※へき地の旅は体力を維持するためにも、特に食事が大事になってくると思いますが、今回の旅で美味しいものとの出会いはありましたか?
「まわっている中で、スピティというチベット文化圏の、標高4000メートルぐらいのところにあるデムルという村に行ったんですけれども、そこに10年以上前から友達の実家があって、彼の家に泊めてもらったんです。
昔も食べさせてもらったんですけども・・・その村はたくさん牛を飼っていて、新鮮なミルクでヨーグルトやバター、チーズとか作るんですね。そこで朝ごはんにパンに付けて食べたバターやヨーグルトがすっごいフレッシュで、忘れられない衝撃の味で、本当に美味しいんですよ!
標高4000メートルの青い草しか食べていない、牛から採った牛乳で作ったバターとかヨーグルトなので、混じりっけなしのスッキリとした味なんですよ。10年ぶりぐらいに食べさせてもらって、やっぱり感動しましたね」

●いいですね〜。今回そのお友達のおうちにずっと泊まっていたんですか?
「その家に泊まっていたのは、3日間ぐらいでした。たまたま彼と連絡がとれて、行っていい? って言ったら、ちょうど今町まで車で来ているから乗っけてってあげるよって言われて、(彼の家まで連れて行ってもらって)泊まったんです」
●本当にそういうフランクな感じで旅をされているんですね。
「行く先々で知り合いの馴染みの宿のおうちに泊めてもらったりとか、友達が車を出してあげるよって言って、乗っけていってもらったりとか、その友達のやっている宿に泊めてもらったりとか、そのパターンがすごく多いですね」
●今回の旅で印象的な出来事ってありましたか?
「その友達の家に泊めてもらった時に、スピティのデムルという村に滞在している最中に、その村で夏の終わりに収穫祭をやるんですけれども、その儀式に立ち合わせてもらったのがすごく印象的でした。
あまり詳しくは話せないんですけれども、まだマル秘の部分があるので・・・(笑)、すごくいい体験をさせてもらって、いい写真を撮らせてもらって・・・それもたまたま呼んでもらって、たまたまその場に居合わせて、たまたま天気がよくってっていうパターンだったので、本当に運がよかったなと思います」
●次回の本を楽しみにしていますね! 今回の旅を通してインドやラダックの方々に対する思いとか、何か変化はありましたか?
「いや〜どうなんですかね〜。3年ぶりぐらいに行ったので、みんな感動の再会をしてくれると思ったんですけど、全然普通でなんにもなかったです(笑)。あ〜また来たの、みたいな感じで、当たり前のように扱われて、全然なにもなかったですね(笑)」
●ある意味いいですね。家族のような感じでね!
「まったくなんにも・・・親戚に久しぶりに会ったぐらいの感じです(笑)」

旅の記憶は、味の記憶に結びつく

●山本さんは先頃『旅は旨くて、時々苦い』という本を出されました。私も読ませていただいたんですけれども、「人は旅に出るとそのうちのかなりの時間を食べるという行為のために費やす」と書かれていましたね。それぞれの国で出会った「食」と共に、様々な思い出が綴られていて、情景をすごくイメージしながら、一緒に旅をしている気分になれました。
「ありがとうございます!」
●今回、「食」を切り口にした本を出そうと思ったのは、どうしてなんですか?
「もともと僕30年ぐらい前から、あっちこっち旅を繰り返してきていて、その度にまめに日記とか書いていたので、ノートは全部手元にあるんですね。そういう旅の話を、いつか振り返って書く機会があればいいなと思っていたんです。
すごく雑多な記憶の集積だったので、何をどうまとめていいのかみたいなところで考えていたんですけれども、ある時、あ! 食べたことの味の記憶っていうのは、意外とその時、経験した旅の記憶と結びついてよく覚えているなと。
やっぱり味覚って結構、五感全部を使って感じるものなので、そうやって自分の記憶に深く結ぶついた状態で保存されているんじゃないかなと思って、味の記憶を手がかりに記憶を振り返っていくと、たくさん思い出されることがありました。そういうのをまとめていくと、どうなるんだろうと思いついて書き始めたのが、今回の本のきっかけですね」

●確かに旅先での食事は、ただ空腹を満たすだけじゃない何かがありますよね?
「そうですよね。成功する時もあれば、あまりうまくいかないこともあったりとか(笑)、こんなはずじゃなかったものが出てきたりとかしますよね」
●それも思い出になりますよね。
「そうですよね。よく覚えていたりとか・・・あとトラブルにあってすごく困っている時に食べた物ってよく覚えているじゃないですか」
●確かににそうですね。
「逆に誰かに助けてもらった時に食べさせてもらった物もすごくよく覚えているし、そういう物ってずーっと思い続けていくと思うんですよね。そういうのを手がかりに本を、文章を書いてみたらどうだろうって思ったのが、この本のスタートラインだったというところです」
ドイツの安いパンと、ラダックのコーヒー
※この本に載っているエピソードから、いくつかお聞きしますね。「スーパーでいちばん安いパンとベルリンの壁」という記事がありましたが、これはどんなお話なんですか?
「これはひとつふたつ前の話から始まるんですけど、中国を旅したあとに、同じ最初の海外旅行の時に、北京からモスクワまでシベリア鉄道に乗ったんですね。
その時にたまたま同じコンパートメントになったドイツ人の若者がいて、僕とほぼ同じ歳ぐらいの人で、僕がベルリンに行くと言うと、彼がベルリンに来たらうちの大学の学生寮に泊めてあげるよって、夏休みだから空いている部屋あるから来い来い、って言ってくれて、僕はバカ正直に本当に行ったんです。
住所を頼りに出かけて行って、彼のところに1週間ぐらい泊めてもらって、居候させてもらった時の話を書いたんですけれども、今考えると、すごいなと(笑)、無茶やっているなと思うんですけどね。
その時に彼の住んでいた学生寮のすぐ近くにスーパーマーケットがあって、彼に案内してもらって、毎朝、朝ご飯に食べるパンとか、間に挟むハムとかをそこで買っていたんです。彼がいちばん安いパンがいちばん美味いぞ! って言ってくれて、確かにいちばん美味しかったんですね(笑)。
ドイツなのでパンがとても美味しくて、しかもいろんな種類のパンがスーパーに山積みになっていて、店の中にパンの焼きたての香りがふわ〜っと漂っているんです。その中でいちばん安いパンを3つ4つ買って、持って帰って半分に切って、サワークリームを塗ったりハムを挟んだり、みたいな形で食べていたっていうのを思い出して・・・」
●いいですよね〜。
「そういう話はやっぱりよく覚えているんですよね。あの時に食べたパン、美味かったなぁ〜みたいな感じで、なんか似たような匂いとか嗅ぐと、あ! あの時のあれ! みたいな感じで思い出したりとか、そういうことありますよね」
●そうですよね。記憶が蘇ってきますよね〜。あと「スノーキャップ・カプチーノと勉強の日々」、こちらはインドのお話でしたけれども・・・。
「そうですね。今年の夏も行ったラダックという場所での話なんです。僕は2007年から1年半くらい足掛け、時間をかけて、ラダックで長期取材をしていた時期があって、それはラダックについて本を書こうと思い立ったからなんですけれども、そのためには現地の言葉を学ばなければということで・・・」
●ラダック語、ですよね?
「チベット語の方言で、チベット語とも少し発音が違うんですけれども、とにかく学ぶしかないと。ちょっとでも現地の人に近づきたいなと思って・・・やっぱり現地語を喋れると現地の人の心のハードルも下がるので、なんとかしてそういう技術を身につけたいと思っていました。
時間だけはあったので、取材に行かない時に、町にいる時にはずっと勉強していたんです。その時によく通っていたお店の、当時はまともなコーヒーを出してくれる店が、そのレイという町にはあまりなくて、貴重なカフェインを摂取しながら、勉強していた時期を思い出しながら書いた文章ですね」
●「砂漠に降る恵みの雨のような存在」っていうふうに本に書かれていましたね。
「お店の名前が「Dessert Rain Café(デザートレインカフェ)」という名前だったんですね。もう今は閉店してしまったんですけど、あの頃あのお店の中で涼しい風に吹かれながら勉強していた日々を今でもよく覚えています」
(編集部注:山本さん流の美味しいご飯の探し方として、行った先でぶらぶらしながら、地元の人たちが集まっているお店に入って、おじさんたちが食べているものを注文するそうです。ほかにも宿のおかみさんが作ってくれる「おうちごはん」的なものがいいとのことでした。つまり土地の人が食べているものが、いちばん美味しいということなんですね)
※今まで旅先で食べたもので、強烈に印象に残っているお料理はありますか?
「またラダックで食べた物なんですけれども、トレッキングに行っている時に食べさせてもらった”トゥクパ”って言って、すいとんとか、ほうとうみたいな感じで、小麦粉を練ったものを汁で煮込んだ料理があるんですね。
ガイドしてくれた男の人がきょうはヤクの干し肉があるぞ! って言ってくれて・・・ヤクは毛長牛という、ヒマラヤの高地に住んでいる毛が長い牛なんですけど、その肉が美味しいんです。さらにそれを干し肉にしているものがあって、それをトゥクパにして煮込むと素晴らしい旨味が出て、お肉自体もホロホロに美味しくて、それはすごく美味しかったですね。
干し肉は、ラダック人でも高地に行って遊牧民と交渉して、もしあったら買ってきてくれって言われるぐらいすごくレアなものらしくて、とても美味しくいただいた記憶です」

時々いただけるご褒美
※都会で暮らしていると、食材は買ってくるもので、お腹が空けば、食べるものはすぐ手に入ります。でも山本さんが取材に行くへき地では、そうはいきませんよね。
「そうですね。まず大地を耕しタネを蒔くところから始めますからね」
●そうですよね〜。やっぱり現地では食材は育てる物、収穫する物っていう感じなんですか?
「全部が全部、もちろんそうではなくて、やっぱり近代化に伴って外部から輸入している物だったりとかもたくさんあるんですね。でもやっぱり伝統的な料理であったり、そもそも生活を支えている基盤は、農業だったり牧畜だったりしている部分が未だにたくさんあるので、その辺はすごく大事にしているというか、生活に根ざしている、生きるために働いているっていう感じがすごくあると思います」
●食べることと生きることが直結しているんだろうなっていう印象があるんですけれども、実際にいかがですか? 感じられることはありますか?
「やっぱり旅に出ると、食べることと生きることの結びつきみたいなものが、すごく解像度が上がったように感じられる部分があると思うんですよ。
路頭に迷ったら困るじゃないですか。泊まる宿が見つかんなかったり、どこかでご飯を食べようと思ったら、お店が全部閉まっていたりとか、ストライキかなんかでとか、実際にそういうことが時々あるんですね。
そういう時に、どうしようって思った時に、たまたまご飯を見つけられたりとかすると、あ〜食べる物があって良かったなってしみじみ思いますし、お腹を壊して辛い時に、だれか優しい人がお粥とか作ってくれたりすると、なんかそれもしみじみ美味しかったりしますよね。
そういう時にありがたみを感じることがあるので、やっぱり旅は僕たちが生きている、当たり前のことをわかりやすく示してくれる効能があるのかなって思いますね」
●山本さんは旅をされていて、どんな瞬間に幸せを感じますか?
「どうですかね〜。人によっていっぱいあると思うんですけど、今回に関しても自分が想像もしていなかった時にとてつもないギフトを貰える時があって、あまり詳しくは話せないんですけど・・・(笑)。
今までの旅でも、本当に奇跡なんかじゃないかと思うような瞬間に立ち会えることがあったりしたんです。それは狙って体験できるものでは、絶対ないんですけれども、ずっと現地のことを見守り続けていると、時々そういうご褒美をもらえることがあるのかなと思える時があります。
そういう自分がいただいたものを、僕は物書きであったり写真家であったりするので、ひとりでも多くの人に本という形で伝えていけたらなと思っています」
☆この他の山本高樹さんのトークもご覧下さい。
INFORMATION
30年以上、世界を旅してきた山本さんが訪問先で出会った「食」をテーマに書き上げた本です。味の記憶とともに綴られた旅の紀行文を、じっくり味わうことができますよ。ぜひ読んでください。「産業編集センター」から絶賛発売中です。
詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎「産業編集センター」HP:https://www.shc.co.jp/book/17377
本の出版を記念して、鎌倉市大船の書店「ポルべニール ブックストア」で現在、ラオス写真展と、世界の食文化フェアが開催されています。会期は10月3日まで。ぜひお出かけください。
詳しくは「ポルべニール ブックストア」のサイトをご覧ください。
◎「ポルべニール ブックストア」HP:https://www.porvenir-bookstore.com/
山本さんのオフィシャルサイト「ラダック滞在記」そして個人サイトもぜひ見てください。
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2022/9/11 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、京都女子大学・教授、
そして動物行動学者の「中田兼介(なかた・けんすけ)」さんです。
中田さんは1967年、大阪生まれ。子供の頃から生き物好きだったそうですが、ご本人曰く、昆虫少年ではなく、普通の子供だったとか。専門は動物の行動学や生態学で、おもにクモの研究をされていて、「クモ博士」として知られています。
そして先頃、中田さんも所属する「日本動物行動学会」から動物行動学を広める活動や以前出版された『クモのイト』という本が評価され、賞を授与されています。
きょうはそんな中田さんに、生き物たちの摩訶不思議な生態や、クモの驚くべき営みのお話などうかがいます。
☆写真協力:中田兼介、ミシマ社

「りくつ」に込めた思い
※中田さんは先頃『もえる! いきもののりくつ』という本を出されました。本のタイトルに「りくつ」と入れたのは、どうしてなんですか?
「生き物って、やっぱり僕らと全然違いますやん。僕ら人間は、なんとなく自分と違うものを、ちょっと遠ざけたりとか下に見たりとか、そういうことをしがちでしょ?
やっぱりそれって生き物好きとしては悲しいじゃないですか。違うものでも受け入れてもらおうと思ったら、相手もちゃんと理由があって、合理的なもんなんだっていうことがわかれば、ちょっと違うから嫌だ、みたいなところが和らげられるかなと思って、そこの部分を”りくつ”っていう言葉に込めたんですけどね。
全然違う生き物でも、相手がなんでそうしているのかがわかれば、ちょっと近づけるじゃないですか。そういうことです。
人間でもそうでしょ? 全然知らん人がやってきて、なんかわけのわからんことをやっていても、話を聞いてみると、この人こういうことしてんねんやって思ったら、ちょっと近づけるかなっていう感じですね。そういう言葉を“りくつ”っていう言葉に込めたんですね。理屈って、ちょっと堅苦しいなみたいに思われるところがありますけど、まぁそう言わんとっていうところですね」

●この本では81編の生き物たちの面白い生態が紹介されています。その中から気になった生き物についてうかがっていきたいと思います。まずはタツノオトシゴが”イクメン”とありましたが、そうなんですか?
「はい、オスのお腹に育児嚢(いくじのう)っていう小さな袋があるんです。で、メスがその袋の中に卵を産み付けるんです。そうすると、卵からかえって小さなタツノオトシゴが育つまで、時間が掛かるんですけど、その間はお父さんがお腹の中で子供を守っている、育てるっていうんですかね」
●オスが妊娠しているみたいな感じっていうことですか?
「そうです、そうです。で、お腹の中でかえると、ある程度大きくなったタツノオトシゴがたまってくるんだけど、それをギュッとお腹から噴き出させるんです。だからオスが出産するっていうんですかね(笑)」
●すごい! そういう世界がタツノオトシゴにはあるんですね。
「魚の中にはオスが子育てをする、卵を守るっていう種類は結構いるんです」
●メスはその間は何をしているんですか?
「メスは、ほかのオスを探しに行きます」
●え!? そうなんですか。
「だから、逆ですよね(笑)」
卵が育つ場所で性別が変わる!?
※新しい本には、中田さんがご自宅で飼っているイシガメの話が載っています。卵から孵化する子ガメがオスになるのか、メスになるのか、何が作用して、オス・メスが決まるのか教えていただけますか。

「カメの仲間って、特にイシガメとかそうなんですけど、卵が育つ場所の温度でオスになるかメスになるかが決まるんです」
●温度が高ければ・・・?
「高いとメスで、低いとオスになります。これ”温度性決定”って言うんです。温度によってオスかメスかの性が決まるっていう意味なんですけど、結構こういうことをする動物はほかにもいて、爬虫類では割といますし、そのほかにも結構いますね」
●例えばオスが欲しいな、なんて思ったら、卵が置かれた場所の温度を低くすれば、オスが産まれる可能性が高いってことですか?
「そうですね。うちで産まれてくる子ガメって、結構オスばっかりなんですよ」
●ということは、温度が低いってことですか?
「多分温度が低いところに産んでいるんでしょうね。ここ3年くらい毎年、子ガメが産まれているんですけど、最初の頃はオスばっかりやったんです。最近ちょっとメスが混じってきているなっていう感じで、暑い夏やからかな〜とか・・・本当かどうかわかりませんけどね(笑)」
●面白い〜! 温度によってどうして性別が変わるんですか?
「それは卵が成長していく時に、そうなるようなメカニズムがあるんですけどね。オスになるのかメスになるのかっていうのは、僕ら人間は遺伝的に決まっていますけど、そんなにカチッとしたものじゃないんです。
遺伝的にはっきり決まっているっていうわけでもないですし、魚の中には性転換するものもいて、若い時はメスだけど、歳をとってくるとオスになるとか、体の中が作り変わるとか、そういうことをするのもいるので、僕らが思っているほど(性別は)ガチっと固まっているものじゃないんです」
つられ「あくび」には意味がある!?
※新刊の『もえる! いきもののりくつ』には「つられあくびのライオンたち」という話が載っていましたが、動物もつられてあくびをするんですね。

「そうですね。結構そういうことが知られている生き物もいますね。猿の仲間とか、豚とか犬とか、うつるみたいですね」
●あくびしているのを見ると、別に眠いわけではないのに勝手に出ちゃいますよね。
「そうですね。そういう動物ってみんな社会で暮らしているから、なんていうか気持ちを同調させるっていうかな、そういう効果があるんじゃないかっていうことを言ってる人もいます」
●ライオンもそうなんですね。
「ライオンもそうだっていう話で、ライオンの場合は誰かがあくびをしたら、ほかにうつるだけじゃなくて、立ち上がったら一緒に立ち上がることもあるみたいで、やっぱりそれが同調の、みんなで気持ちを一緒にするような効果があるんじゃないかっていう、そういう話です。
ただね、あくびをなんでするかって、ほかにもいろんな説があって、脳を冷やすっていう話もあるらしいんですよ。大きく息を吸うでしょ。そうしたら冷たい空気を取り入れて喉を通すと、喉に血管が走っているから、その血管が冷やされて脳が冷やされるという話があってね。脳の大きな動物ほど、あくびがたくさん出るっていう話もあって・・・いろいろあるみたいなんですけどね」

●へ〜! あと、シマウマのシマの謎、これもすごく意外だったんですけれども、ぜひこちらも説明をお願いします。
「シマウマになんでシマがあるかって不思議じゃないですか。昔は、彼らサバンナにいるから、草がいっぱい生えていて、草の陰に自分の身を隠すために役立つんちゃうかっていうようなことを言われていたらしいんです。
ところが調べてみたら、病気を媒介するハエがいるところにシマウマがおるでっていう話があって、ひょっとして病気にならないために、ハエを寄せ付けないためにシマができたんちゃうかって考え始めたんですって。なんでそんなことを思い付いたんか、僕も分からないんですけど(笑)、そういうことを思い付いた人がいて、調べてみたらシマ模様にはハエがとまりにくいらしいんですよ。だから病気になりにくいって効果があるみたいですね」
●シマシマ模様は虫対策ってことですか?
「そういう話らしいんです。ちょっと不思議ですよね。なんか聞いたところによると、黒い部分と白い部分があると、太陽の光を受けて温まるところと、あんまり温まらないところってできるでしょ。それで微妙な気流が生じてハエがとまりにくくなってんちゃうか、みたいなことを言ってる人もいるんです。
ホンマかどうか、こういうのっていろんな論文に書かれているんですけれども、論文に書かれているだけで、即本当かっていうとそれは必ずしもそうではないので、なるほど、こんな説もあるんだなくらいの形で聞いとく感じですね」
クモのギョッとする生態
※中田さんはおもにクモを専門にされているということですが、具体的にはどんな研究をされているんですか?
「最初の頃は網(蜘蛛の巣)の作り方をずっとやっていたんですけど、最近は交尾行動で、なかなかエグいことをするのがいるんですよ、クモの中には。ギョッとするような交尾行動を研究しています」
●クモは、私は正直苦手なんですけど(笑)、クモの研究はどうですか、面白いですか?
「そうですよね(笑)。(クモの研究は)面白いですよ、結構複雑なことをいっぱいしてくれるので、見ていて飽きないですね。網を張るクモはどこかへ行かないんですよ。だから同じ場所で割と長いこと1匹を見続けることができて、いろんなことがわかるんですね」
●そもそもクモは、どうして巣を作れるんですか?
「なんて言うんですか・・・もともと体の中にそういうプログラムを持っているみたいで、体から糸を出すんですけど、その糸を組み合わせて、自分の種類に応じた形の巣を作るんですね。だからどうしてっていうのは・・・これで答えになっていますかね(笑)」

●縦糸と横糸で強度が違う、なんてことも聞いたことがあるんですけど・・・?
「そうですね。いろんな種類の糸をクモは出すことができて、種類によっていろいろなんですけど、最大で7種類の糸を持っているんです。その中には強い糸もあるし、ネバつくのもあるし、すごく伸びるっていうような糸もあって、用途に応じて使い分けているっていう感じなんですね」
(編集部注:クモの糸の特性を研究し、微生物を使ってタンパク質素材を量産、そして作られた糸を使った繊維製品が開発されているそうですよ。今後も注目です)
●先ほど中田さんが、ギョッとする行動をするなんておっしゃっていましたが、どんな行動をするクモなんですか?
「オスとメスが交尾をするんですけど、その時にオスがメスの交尾器を壊して、今後使えなくして去っていくんです。
オスの側からすると、今交尾したメスが自分の子供を確実に産んでくれるかって分からないんですよ。自分が離れたあとに別のオスがやって来て交尾すると、このメスが産む卵がほかのオスの卵になっちゃうかもしれない。それを防ぐために交尾器を壊しちゃうんです。使えなくしちゃうんです。
そうすると、そのあと交尾はできなくなるんですけど、卵は産めるので、自分が後尾したあとの子供は、全部自分のものみたいな・・・(笑)」
●へぇ〜すごい〜!
「ちょっと、人間の目からするとギョッとするんですけど・・・」
※先ほどクモの糸のお話がありましたが、その強度はどれくらいなんですか?

「クモの糸は自然界にあるやつは、めちゃくちゃ細いので・・・あの細いのがそれなりの太さになっていれば、結構強いんです。鋼鉄ぐらいの強さはあります。ここで強さって結構面倒臭くって、切るのにどれぐらいの力が必要かっていう話で言うと、鉄と同じぐらいなんですよ」
●すごい強度ですね!
「それだけじゃなくて、クモの糸は伸びるんですよ! 切るのに力がいるのに加えて伸びるんです。
伸びるとなにがいいかと言うと、虫が飛んできた時にぶつかりますよね、糸に。ぶつかった動きを止めるためには、鉄やったら鉄自体が壊れる割れるとか、そういうことになるんですけど、糸は伸びるから、ぷにょーんって変形して、また伸びたもんが元へ戻る時に動きを止められるので、糸は切れずに止められるんですよ。
これ結構クモにとっては便利で、昆虫がぶつかるたびに糸が切れて、網が壊れていたら餌が獲れなくなるんで、そこがいいところですね」

よく光る糸で作られているそうです。昆虫をおびき寄せる働きがあるらしいと
クモ博士・中田さんに教えていただきました。クモの世界は摩訶不思議!
(編集部注:クモの糸が強くて伸びるというお話で、映画のスパイダーマンを思い浮かべたかたもいらっしゃると思いますが、クモ博士の中田さんは2012年公開の『アメイジング・スパイダーマン』のワールドプレミア、そのYouTubeの生中継にコメンテーターとして登場されたそうですよ。映画好きでクモ好きな中田さんだからこそのエピソードですね)
人間の外側にものさしを持つ
※生き物の生態を知ることは、人間そのものや、人間社会を知る手がかりにもなりますよね?
「なんて言うんかな・・・自分のことを知りたいって思った時に、何かものさしってっていうか基準が必要だと思うんですよ。自分のことを知りたいと思った時に、ほかの誰かと比べてみて、あっ、僕はあの人と比べて、ここが違うから僕はこういう人間なんやと思うと思うんですね。
人間ってなんやろなと思った時に、人間じゃないものを見て比べる、そういうことをすることが、自分自身を、人間を、理解するひとつのやりかたになるんちゃうんかなと思っているんです。
生き物のことを知るっていうのは、人間の外側に何かものさしを持つっていうのかな、そういうことになるんかなと思っています」
●中田さんご自身も生き物たちの行動から学ぶことも多いですか?
「あ〜いやぁ〜、生き物は僕らと違いますから、学ぶとかっていうんじゃないです。生き物がこういうことするから、僕らもっていうのは、それはちょっと違うと思うんです。彼らは彼らだし、僕らは僕らだと。違いがあって、違いがあるけど同じ環境、地球をシェアしている仲間ですからね。そういうものとして、自分たちを位置付けられるようになればいいなって思いますけどね。学ぶっていうのはちょっとなんか違いますね」
●では最後に長年、生き物たちを見てきて、どんなことを感じられていますか?
「なんだろうな・・・いろいろあるんで・・・生き物に対してというか、自分の人生が短すぎるなとよく思います。
僕30年以上も研究しているんですけど、それでわかったことなんて、本当にちょっとしかないんですよ。いろんな生き物がやっていることのちょっとだけしかわかっていなくて・・・まだまだたくさんあるのにね。
自分の寿命が1万年ぐらいあったら、もっと面白いことがわかるのにな〜と思っています」
INFORMATION
中田さんの新しい本をぜひ読んでください。世界の動物行動学者たちの最新研究をもとに、中田さんがわかりやすく解説した、生き物の不思議で面白い生態が81編、載っています。中田さんのキャラクターも垣間見られて、楽しく読めますよ。各解説の最後にQRコードが載っていて、その話のもとになっている論文にリンクしています。
「ミシマ社」から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎「ミシマ社」HP:https://mishimasha.com/books/9784909394729/
動物行動学に興味を持ったかたは中田さんも所属する「日本動物行動学会」のサイトもご覧ください。
◎「日本動物行動学会」HP:https://www.ethology.jp/
2022/9/4 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第8弾!「目指せ! プラスチックフリーのライフスタイル!」。
ゲストは、情報サイト「プラなし生活」を運営されている「中嶋亮太(なかじま・りょうた)」さんと「古賀陽子(こが・ようこ)」さんです。
中嶋さんは実は、国立研究開発法人「海洋研究開発機構」JAMSTECの研究員で、海洋プラスチックの調査・研究をされていて、2年ほど前にもこの番組にご出演いただきました。
古賀さんは、プラなし生活を実践している主婦として、主婦目線で見つけたプラごみを減らすアイデアや優れものの生活雑貨などの情報を発信されています。
きょうはおふたりが先頃出された本『暮らしの図鑑 エコな毎日』をもとにお話をうかがっていきますが、今回は国連サミットで採択された「SDGs=持続可能な開発目標」の中から「つくる責任 つかう責任」そして「海の豊かさを守ろう」について考えていきましょう。

お話をうかがう前に、プラスチックフリーの生活を目指すための基礎知識。
あなたのおうちにプラスチックで作られたもの、たくさんありますよね。実は、毎年作られるプラスチックの4割近くは、食品トレーやポリ袋などの容器包装、いわゆる「使い捨てプラスチック」なんだそうです。
日本は、ひとりあたりが消費する容器包装プラスチックの量は、世界第2位。確かにスーパーに行けば、ほとんどの食材がプラスチックで包まれていますよね。
でも、プラごみを捨てるときは、リサイクルのために、ちゃんと分別しているから、問題はないと思っていたんですが、日本ではプラごみのおよそ70%は焼やしていて、日本国内でリサイクルされているのは、わずか8%ほどだそうです。
世界の海に流れ出ているプラごみは2050年には魚の量を超えるとも言われています。自然環境では分解されることがほとんどないプラごみ、少しでも減らさないと、近い将来、地球は「ごみの星」になってしまうかも知れませんね。
☆写真協力:中嶋亮太、古賀陽子、プラなし生活、海洋研究開発機構
おうちですぐ減らせるプラごみ
※それでは中嶋さんと古賀さんにお話をうかがいます。本に掲載されているアイデアやヒントの中から・・・まずは、生ごみを、ポリ袋ではなく、新聞紙で作ったごみ袋にためて処分することを提案されていますが、新聞紙のごみ袋はすぐ作れそうですね

古賀さん「そうですね。慣れたらひとつ20秒くらいで作れるんですよ。新聞紙にはすごくメリットがあって、ポリ袋だと通気性がないので悪臭がして、虫が寄って来やすくなるんですけど、新聞紙だとそういうことがほとんどなくて、ものすごく快適に生ゴミの処理ができますね。
あとは新聞紙って自然に乾いていくので、焼却する時のエネルギーも少なくて済みます。生ごみの80%が水分って言われているので、少しでも省エネに役立つんじゃないかなと思っています」
●本にはイラストで作り方が載っていました。必要なものは新聞紙1枚、大きなサイズでも新聞紙が2枚あれば作れる、本当に簡単なものですよね。
古賀さん「そうですね。新聞紙を持っているかたは、ぜひ作ってみていただきたいなと思っています」

●あと台所でもお風呂でも、固形の石鹸を使うことを推奨されていましたけれども、固形を使うメリットは、どんなところにあるんでしょうか?
古賀さん「液体の洗剤だと、ボトルとか詰め替えパックがプラスチックのごみになるんですけど、固形の場合は紙包装のものもあるし、仮にプラスチック包装だとしても、すごく小さなごみだけで済みますよね。
あと成分的にも優れていて、石鹸の成分が凝縮されているので洗浄力は高いですし、液体に比べて、刺激の強い成分とか保存料なんかもほとんど入っていないので、洗浄力は高いのに肌に優しいっていうのがすごくいい点です」
●油汚れが落ちにくいイメージだったんですけど、そんなことはないんですね。
古賀さん「そうですね。使い方にちょっとコツがあるんですけど、最初にギトギトした油汚れは、あらかじめいらない布とかで拭き取って洗ってもらうと、すごく綺麗になりますね。
石鹸で洗ったあとも水を張ったタライにつけないほうがいいです。なんでかって言うと、泡の中に閉じ込めた油がタライの水の中に広がっちゃうんですよね。それでほかの食器が汚れちゃったりするので、ためすすぎはせずに一個一個洗っていったほうが綺麗になりやすいです」
●食器洗い用のスポンジは、プラスチック製のものだとダメなんでしょうか?
中嶋さん「プラスチック製のスポンジやタワシは、だいたい使っているうちに小さくなってきたりするんですけど、あれってプラスチックが削れて、微小なマイクロプラスチックになって下水に流れているんですよね。だから使っていくうちにどんどん環境を汚染していくことになるんですよ。なのでプラスチック製のスポンジやタワシを、天然素材に代えることがとってもおすすめなんです」

●例えば、どんなものがいいんでしょうか?
中嶋さん「例えば木綿で作られたガラ紡のふきん、よく『びわこふきん』って名前でも売っているんですけど、これがとってもよく落ちるんですよね。
あとは、ちょっと焦げ付きのものとかであったら、白のタワシ、天然素材でできたタワシもよく落ちます。それだけあれば、まったく困ることないですね」
(編集部注:先ほど、固形洗剤のお話がありましたが、古賀さんによると髪の毛がさらさらになる美容成分の入った固形シャンプーがあるそうですよ。
また、食品用にたくさん使ってしまうラップ、これもすぐごみになってしまいますよね。『暮らしの図鑑 エコな毎日』には、みつろうラップなどで代用するアイデアが載っていますので、ぜひ参考になさってください)
洗濯バサミをステンレス製に
※本ではステンレスの洗濯バサミやハンガーが紹介されていました。プラスチックより、ステンレスのほうがいいということなんですね?

中嶋さん「小尾さんの家に多分、プラスチック製の洗濯バサミがあるかもしれないんですけど、使っているうちに割れますよね。あれ、実はプラスチックが劣化して割れて、そのうちマイクロプラスチックになって、一部が飛んでいって、その割れた小さなプラスチックの破片はずっと消えずに環境に残るんですよ。
どうしてもプラスチックって劣化していく、特に外に置いてある洗濯バサミは青い洗濯バサミが多いですよね。なんでかって言うと、青いと劣化の要因となる紫外線をちょっとはね返すことができるんですよ。だから劣化を少しでも遅らせるために洗濯バサミを青くするんですね。
洗濯バサミだけじゃなくて、外に置いてあるバケツも青いですよね。外に置いてあるコンテナとかも青いですよね。ごみ箱も青いと思います。それはみんな劣化を遅らせるためなんですけれども、やっぱりどうしても、使っているうちに白っぽくなっていきますよね。あれは色が抜けていって、それで劣化して割れてしまうんです。
なので、そういった心配がないステンレス製に代えていく、洗濯バサミもステンレス製に代えれば、ずっと劣化することなく使えますので、とってもおすすめですよ」
●毎日使うものですよね。あとトイレットペーパーを箱買いするというアイデアも載っていました。これはどんなメリットがあるんでしょうか?
古賀さん「小分けで売られているトイレットペーパーもプラスチック包装されていて、消耗品なのでよく買うし、その度にかさばるごみが出てしまいますよね。
いろいろ探してみると業務用のトイレットペーパーを見つけまして、ダンボールに40個ぐらい入っていて、ひとつひとつの包装、紙包装も何もないんですよ。そのままきっちり入っていて、売られているんですね。

そういったものを買って(トイレットペーパーを)一度にまとめ買いしちゃって、たくさんあるのでティッシュペーパーの代わりにもなるんですよ。例えば鼻をかんだりとか、油汚れを拭く時に使ったりもできますね。使う分だけちぎって使えるので無駄がないですし、あとは災害時とか緊急事態の時の備蓄にもなるので安心感もありますね」
●お掃除用の洗剤の代わりに、重曹やクエン酸が大活躍とも書かれていましたね。
古賀さん「はい、以前は私もいくつも専用の洗剤を買っていました。いろんな種類があるから、収納も結構大変なことになってたんですけど、家の汚れって、実はそんなに大したものがなくて、重曹とかクエン酸で十分綺麗になるんですよね。
例えば、台所の油汚れも重曹を溶かしたスプレーをかけておいたら落ちますし、焦げなんかも、重曹は研磨剤の代わりにもなるんで、それを振りかけて擦れば綺麗になりますし、本当にいろんなところに使えますね」
長く続けることが大事
※プラスチックをなるべく使わない生活をしようと思っても、私たちの身のまわりには、プラやビニールがあふれていますよね。やっぱり無理! と思ってしまうかたにアドバイスするとしたら、どんなことがありますか?
古賀さん「確かに自分ひとりではどうにもならないことってたくさんあって、社会が変わらないといけない面もほんとにたくさんあると思います。でもだからといって、何もできないってことはないと思うんですよね。
まずは自分の生活を振り返ってみて、変えられるところから始めてみてほしいんですよ。でも完璧にやるっていうことよりも、長く続けることのほうが大事なので、ほんとに小さなことでも長く続けていけば、大きな成果になっていくと思います。
あとは企業とか、お住まいの地域の自治体に対しても、もっとこういうものがあったらいいなとか、こんな仕組みができたらいいのにっていう要望を伝えていくってことも大事になってきますね」
●主婦のかたですと自分ひとりが気をつけていても、ちょっと主人がとか、息子がとか、いろいろなことがあると思うんですけど、家族みんなで意識を変えるいい方法はありますか?
古賀さん「私も最初は結構突っ走って(笑)、理屈っぽくなったり押し付けみたいな感じになってしまった時がありましたね。でもいくら正論を言ったところで、分かっているけど、ついていけないみたいな感じ、反感をかってしまうことがあるので、そういうのは一切やめましたね。
今は、私はこういうことが気になっているとか、私はこういうことが好きっていうのをさりげなく言ったりしています。なので、ふとした時に周りが、家族が気をつけてくれることが、ちょっとずつ増えてきたような感じがしますね。
あとは家族が興味のあることにリンクさせていくといいかなと思います。例えば、可愛いものが好きなら、海のプラごみで作った綺麗なアクセサリーの話をしたりとか、何か欲しいものがあるんだったら、エシカルな商品を一緒に見たりとか、そこから話題が広がっていったりもしますね」
中嶋さん「さっき話していた新聞紙で作るごみ袋は、子供のお小遣い稼ぎにとっても良くて、1枚作ったら10円とか。そうすると子供たちは楽しみながら作って、その時になんでこうやって(新聞紙のごみ袋を)作らなきゃいけないのっていう話をしたりすると、どうして問題なのかを自然に分かってくれたりしますよね。子供ってとっても敏感なのですぐ理解してくれたりします」
●確かに楽しみながら学べるのは素晴らしいですよね。おふたりはプラなし生活をしてみて、どんなことが喜びとして感じますか?
古賀さん「私は普段使うものに愛着がわくようになりましたね。しっかりひとつひとつ選んで、質のいいものを長く使うことに気をつけていると、ひとつひとつのものに愛着がわいてきて、そういったものを使いこなせていることにも自信がつきますね。なので、使い捨てのものをちょいちょい買う無駄もなくなったっていうのがよかったなって思っています」
中嶋さん「私の場合は、間違い探しでもなくてパズルでもないですけど、“あ! こんなところもプラスチックが使われている”っていうのを見つけて、“これはこれに代えられるじゃん”っていうのを見つけた時の喜びは、僕も古賀さんもとっても大きいですね」
●エコな商品は価格がちょっと高いイメージがあるんですけれども、購入をためらうかたに声をかけるとしたら、どんな声をかけますか?
古賀さん「無理に高いものを買う必要はないですし、一気に買い換える必要はないと思うんですね。今、家にあるプラスチック製品で、まだ使えるものは大事に使い続ければいいと思いますし、新しく買い換える時にひとつずつじっくり選んで欲しいですね。
今は価格が高くても購入者が増えると、ロット数も増えて価格が下がることもあるので、長い目で見て計画的に切り替えてもらうと無理がないかなと思います」
日本近海は、ごみの溜まり場!?
※海洋研究開発機構JAMSTECで海洋プラスチックを調査・研究されている中嶋さんにお話をうかがいます。2年ほど前にご出演いただいたあと、なにか新たな発見などありましたか?

中嶋さん「はい、前回小尾さんと話した時は、深海の水深約6000メートルの海底に行った時の話をしましたよね。なぜあの調査をしたかというと、プラスチックごみが行方不明になっているのが問題だったんですね。
ひとことで言うと、海にはたくさんのプラスチックごみが流れ込んでいるんですけど、実は海面にぷかぷか浮かんでいるごみって、全体の1%くらいしかなくって、残り99%はどこかに行っちゃっている、行方不明になっているというのが問題だったんです。
おそらくほとんど深海に沈んでいるんじゃないかってことで、深海の調査を開始したわけです。前回小尾さんにお話しした時は、水深約6000メートルの海底のごみの調査をした時のお話しをしたんですけども、新たに分かったことは、前回調査した房総半島から500キロメートルぐらい離れた、陸からすごく離れているところの海底に落ちていたごみが、世界でもトップクラスに多かったっていうことがわかったんですよ」

●えぇ〜! 世界でトップクラスですか?
中嶋さん「はい、世界の同じような水深帯で比べたら、間違いなく世界一という、ほかの陸から近いようなところと比べても、やっぱり多かったんですね」
●そんなに!?
中嶋さん「つまり、どういうことかと言うと、やっぱり日本の近海の深海底は、ごみの溜まり場になっていることを意味しているんです。今後は、今年の冬も来年も調査は続けていくんですけど、日本の周辺でもっとごみが溜まっている深海があると予想されているので、そういったところをどんどん明らかにしていく予定です」
●今後、解き明かしたいことと言うと・・・?
中嶋さん「今後解き明かしたいことはやっぱり、日本の近海の海底に沈んでいるプラごみの量を見えるようにすることです。ちょっと難しく言うと可視化するってことなんですけど・・・。
深海に沈んでいるごみって見えないじゃないですか。海に浮いていたら見えるけど、深海にいっていたらまず見えないので、そこにたくさんのごみがあることがだんだん分かってきましたから、日本の周辺のどこの深海にどれだけごみが溜まっているのか、どのように溜まっていくのか、そういったことを知ることが、今後プラごみを減らすための対策を打ち立てていくうえで、とっても重要な情報になるんですね。なので、まずは見えるようにすることが目標です」

●コロナ禍で何か海洋ごみに影響はあったんですか?
中嶋さん「コロナになって、まずはマスクのごみと手袋のごみが世界中で増えたんです。マスクなんて毎月、世界中で数千億枚とか使われていますので、非常にたくさんごみになって環境に漏れ出ていますよね。やっぱり落ちているのを見たことありますよね」
●あります〜。
中嶋さん「ああいうことが世界中で起きていて、それがやっぱり海にも入っていますし、あとコロナ禍になって、使い捨てのプラスチックの消費量が圧倒的に増えました。どうしてもテイクアウトするようになりますし、なんでも使い捨てのほうが安心っていうのもあって、やっぱり使い捨てが増えたのは否めないですね」
目指せ! プラなし生活
※ところでいま、おふたりがいちばん減ったらいいなと思うプラごみは、なんでしょうか。まずは古賀さんからお願いします。
古賀さん「私は個人的にはポリ袋ですね。スーパーでお買い物をした時に、お肉とかお魚を小さなポリ袋に入れて渡されることがよくあるんですけど、毎回レジに行く前に、ポリ袋はいりませんって言わないといけないっていうのがあって・・・。汚れないようにするために、そうしていただいているのは分かるんですけど、せめてレジ袋みたいに、いるいらないを選択できたらいいなって思っています」
●確かにそうですね〜。これ、ポリ袋に入れましょうか? っていうのを聞かれる前にもう入れられていますよね、中嶋さんはいかがですか?
中嶋さん「いろいろありますけど、特に思うのは使い捨てのお手拭きですね。日本ってレストランに行ってもフードコートに行ってもどこに行っても、お手拭きを出されますよね。お弁当の中にも入っていることありますし、こんなにお手拭きを配っている国は日本しかないですよ。
ファミリーレストランでも、お手拭きを何気なく渡されて、当たり前のように開けて手を拭いて、(テーブルに)置いておきますよね。見た目がめちゃめちゃ汚いんですよ。ご飯を食べ終わったあとにトイレに行って戻ってきて(テーブルを見ると)袋とお手拭きがすごく散乱していますよね。
見た目も良くないし、お手拭きの袋もプラスチックでしょ。お手拭き自体もプラスチックでできているんですよ。あれは不織布ですよね。不織布ってプラスチックを混ぜて作りますので、あれは使い捨てプラスチックなんですね。とにかくこれをなるべく出さないようにするには、みんな手を洗えばいいんですよ。
そういうふうにちょっと習慣を変えていくだけでも、ごみの量は大きく減るんじゃないかなと思っています」
●確かに当たり前とみんなが思ってしまっていますよね。
では最後におふたりにお聞きします。プラなし生活を実践してきて、ご自身の中で何が自分でいちばん変わりましたか?
古賀さん「私は使い捨てを見直すようになって、本当に必要かどうかをすごく考えるようになりましたね。新しく買うときもすごく慎重になっていて、ごみになったらどうやって捨てるのかなとかいろいろ考えるようになりました。
あとは買わずに、あるものでどうにかできないかとか、自分で作ることも増えましたね。それによって好奇心みたいなものが満たされて、クリエイティヴなことが増えていくのがすごく楽しいですね」
●中嶋さんはいかがでしょう?
中嶋さん「私はやっぱり研究者なので、こういったプラスチックが健康に影響するかもしれないというのを見つけることにやりがいを感じるようになりましたね。
この問題を解決するのは私たちの世代だけじゃなくて、今の若い世代、あるいは子供たち、未来を担う時代の主役たちに問題を伝えていかなくちゃいけないんだっていう意識が、どんどん高まってきましたね。プラなし生活を通じて、なぜこれは問題なのかっていうことをどんどん広めていって、さらに知ることでアクションにつながるので、そういった活動をもっともっと広げたいなって強く思うようになってきました」
(編集部注: SDGsの目標「つくる責任 つかう責任」そして「海の豊かさを守ろう」は、あまりにもプラスチックに依存している、私たちのライフスタイルを見直すためにある目標なのかも知れません)
INFORMATION
『暮らしの図鑑 エコな毎日〜プラスチックを減らすアイデア75×基礎知識×環境にやさしいモノ選びと暮らし方』
おふたりの新しい本をぜひ参考になさってください。プラスチックを減らすためのアイデアや情報、基礎知識が満載です。写真を豊富に使ってわかりやすく解説、プラなし生活を目指すための、まさに参考書です。おすすめです。
「翔泳社」から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎「翔泳社」HP:https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798173580
情報サイト「プラなし生活」もぜひご覧ください。
◎「プラなし生活」HP:https://lessplasticlife.com/
◎国立研究開発法人「海洋研究開発機構」JAMSTECのオフィシャルサイト:https://www.jamstec.go.jp/j/
『暮らしの図鑑〜エコな毎日』を抽選で3名のかたにプレゼントいたします。
応募はメールでお願いします。
件名に「本のプレゼント希望」と書いて、番組までお送りください。
メールアドレスは flint@bayfm.co.jp
あなたの住所、氏名、職業、電話番号を忘れずに。
番組を聴いての感想なども書いてくださると嬉しいです。
応募の締め切りは 9月9日(金)。。
当選発表は発送をもって代えさせていただきます。
たくさんのご応募、お待ちしています。
応募は締め切られました。たくさんのご応募、誠にありがとうございました。
2022/8/28 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、サイエンスコミュニケーターの「渡邉克晃(わたなべ・かつあき)」さんです。
渡邊さんは1980年、三重県生まれ。子供の頃から石が好きで、家族旅行で海辺や川原に行く度に、綺麗な石を家に持ち帰るお子さんだったそうです。そして、広島大学に進学後は、植物や微生物によって引き起こされる岩石の風化現象を研究。大学卒業後は、東京大学 地球生命圏 科学グループなどで地球科学の研究に従事、その後独立し、現在はサイエンスコミュニケーターとして活躍中。地学博士、そして地質や鉱物の写真家でもいらっしゃいます。
また、2017年にウェブサイト「地学博士のサイエンス教室 グラニット」を立ち上げ、美しい写真とわかりやすい解説をモットーに運営されています。
☆写真:渡邉克晃

狙いは美しい写真!
●渡邉さんは先頃『ふしぎな鉱物図鑑』を出されました。私も拝見させていただいたんですけれども、文庫本サイズで、すべてカラー写真なんですよね。とにかく写真が美しくて見入ってしまいました。こんなに色が豊富で多様な鉱物があるんですね。全然知らなかったです。
「ありがとうございます。めちゃめちゃ嬉しいですね。そう言っていただけると」

●この本の狙いはどんなところにあるんですか?
「写真の美しさ、写真の綺麗さをいちばんの狙いにして作ったので・・・
嬉しいコメントありがとうございます」
●ほんとに綺麗でしたし美しかったです。
「この鉱物の標本は私の大学時代の恩師で、もう亡くなられた先生なんですけど、広島大学の北川隆司教授が集めていた鉱物コレクションを、ご家族のかたにお願いして、撮影させてもらうことができました。標本も立派ですし、ここを見せたいなというところでアップにしたりとか、角度を変えたり・・・撮り放題、思う存分、写真を撮らせていただきました。
最高の鉱物の写真を用意して、自分の持っている知識も活かしながら、わかりやすく文章も書いて、そんな感じで作った本なので、いちばんの狙いは写真になります。写真を見てほしいなというところですね」
●鉱物のことは全くの初心者です。なるべくわかりやすく教えていただきたいんですが、まず鉱物とは? 岩や石とは違うんでしょうか?
「ちょっとだけ、定義というか難しい、堅い話なんですけど、鉱物は自然界にあって個体の物質であり、地質作用によってできた物質、これが鉱物の定義としてあるんですね。

代表的なものは、皆さんよくご存知の、水晶ってありますよね。尖った六角形の柱みたいな透明な鉱物で自然界のものですよね。人工的に作ったものじゃないので、自然界のものであり、また液体とか気体じゃなくて、かちっとした固体ですね。
地質作用っていうのがちょっとわかりにくいんですけど、水晶はマグマの熱とか地下水が関係しながらできるものなんです。こういったものは生物的にできたものとか、人工的にできたものじゃなくて、地質作用によってできたものとされるわけです。
石や岩とは違うのかっていうところなんですけど、ややこしいところで、石ってやっぱりよく使っちゃうんですよね。石はすごく広い意味がある一般的な言葉で、鉱物も石です。岩も石になります。結石とか体の中にできるのも石です。石はすごく意味が広くて、ざっくりとした一般的な呼び名であって、学術的に言えば、石の中の一部が鉱物であり、また岩石である、こういった位置付けになります」
宝石も鉱物!?

●ダイヤモンドやルビーも鉱物ですよね? 宝石になっている鉱物も多いってことですか?
「そうですね。宝石になっている鉱物はすごく多くて、正確なところはわからないですけど、少なくとも代表的なものだけでも20種類以上は知られています。
ルビーの鉱物名はコランダムって言うんですけど、あとエメラルドの、宝石の鉱物名として緑柱石(りょくちゅうせき)があったり、もちろんダイヤモンドもそうです。あとヒスイという宝石になる翡翠輝石(ひすいきせき)とか、宝石になるものはたくさんありますね」

●鉱物は何種類くらいに分類されるんですか?
「鉱物種っていう種名としては、今世界中で知られているのは5700種程度ですね」
●5700! そんなにあるんですね。それぞれ何が違うんですか?
「鉱物種は化学組成という成分です。どんな元素でできているかが、ちょっとずつ違うっていうのがひとつ。あとは結晶の形というか、構造って言っているんですけど、鉱物はだいたい元素が規則的に並んだ形をしています。この規則的な並びがちょっとずつ違っても別の鉱物になるという、そういったこともあります」

鉱物はどうやって生まれるのか!?
※初歩的な質問なんですが、鉱物はどのようにして生まれるんですか?
「いろんな出来方があって、鉱物は主に地下でできます。例えば地下の深いところで、マグマが冷えて固まる時に岩石ができて、その岩石中にできる鉱物がまずあります。岩石はそもそも鉱物の集まりなので、ツブツブしていますよね。岩石にツブツブの模様が見えると思うんですけど、あのひとつひとつの粒が鉱物になるんです。
花崗岩(かこうがん)という白っぽくて、ごま塩模様の、お墓の石や建物の壁とかに使われている石があるんですけど、あれは地下でマグマが冷えて固まってできた岩石なんです。地下深いところで、ドロドロのマグマがゆっくり冷えて固まると、あの白っぽい岩石になるんです。
その白っぽい岩石、花崗岩の中には石英とか長石とか黒雲母とか、いっぱいツブツブとした鉱物が入っているわけなんです。というわけで、マグマが冷えることによって鉱物ができる、鉱物の出来方のひとつとして、それが代表的なものになります」

●鉱物が作られる時に必要な条件はあるんですか?
「先ほどの鉱物の出来方は、代表的なものをひとつだけあげましたが、もっといろいろあるんですね。地下だけじゃなくて、地表で酸素とか空気とか水に触れながら変わったりとか、地下深くで圧力と温度が高くて、新しい鉱物ができたりとか、いろいろあるんです。
条件としては圧力、温度、あと鉱物は固体なので、固体ができる前の液体状態の時の成分の違い、どんな圧力でどんな温度でどんな液体の成分か、これでどういう鉱物ができるかはだいたい決まっていきます」
●この本を読んで、ほんとにいろんな色の鉱物があるんだなって感じたんですけれども、こんなに多彩で多種多様な鉱物の、色や形の違いを決定づけるものは何でしょうか?
「色は主に成分ですね。鉱物がどういった元素でできているのかに主に関わっています。形のほうは、鉱物はだいたい規則正しく原子が並んでいる構造をしています。そのミクロというか目に見えない、小さい小さい微細な構造が、元素の並び方が鉱物の形を決める大きなひとつの要素になっています。
どういった原子の並び方をしているかによってだいたい外側の形も、どんな形になりやすいかっていうのは決まってきます。成分と原子の並び方で色や形が決まる、そういったことですね」

日本は鉱物の宝庫!?
※日本で発見された鉱物は何種類くらいあるんですか?
「日本では1300種くらい知られています。世界中で5700種に対して日本で1300種、日本は世界的に見ても、ほんとにたくさんの鉱物種が産出している国になります」
●それはどうしてなんですか?
「日本の地質環境がちょっと特殊であるというか、バラエティに富むことが理由になっています。日本の国がある場所は、プレートっていう、地球の表面を大きな岩盤が覆っていて、その岩盤が何枚かの板になっていて、それをプレートと言っているんですけど、日本があるところは、太平洋側からユーラシア大陸に向かって、プレートが沈みこんでいる場所になるんですね。
日本は地質が活発だなっていうのがなんとなくあると思うんですけれども、そういった土地柄で、マグマが上がってきたり、いろんな圧力が加わったりしながら、たくさんの種類の岩石、そして地質の環境というものがあります。複雑に複雑に混じり合っているわけなんです。
そういった影響で岩石の種類が多ければ、それだけ鉱物の種類も多くなりますし、地質作用が多ければ、それだけ鉱物の種類も多くなる、そういった土地柄が日本の鉱物種の多さに関係しています」
●日本だけで採れる鉱物っていうと、具体的にどんなものがあるんですか?
「例えば、千葉石、辺見石、糸魚川石とか、そういったいかにも日本ぽい名前がついている鉱物がありまして、こういったものが日本でしか採れない鉱物として、いくつか知られています」
(編集部注:世界ではおよそ5700種の鉱物が発見されているということでしたが、渡邉さんによると、新しい鉱物は年間100種ほど見つかっているそうです。
また、先ほどお話の中で、日本だけで発見された鉱物として「千葉石(ちばせき)」の名前が出ましたが、日本地質学会のサイトによれば、産出されたのは房総半島の南部で、きっかけは1998年にアマチュアの研究家が見つけた鉱物、そのときは内部が変質していたので正体がわからなかったそうです。その後2007年に別のアマチュア研究家が同じ場所から変質していない千葉石を見つけ、新発見につながったそうですよ)
鉱物は傑作品!?
※実際に鉱物を見てみたいと思ったかた、渡邉さんのおすすめは日本全国にある博物館。多くの博物館に石や鉱物の展示コーナーがあるそうです。また、全国46地域にある「ジオパーク」もおすすめだそうですよ。
ほかにも海岸や川原でも鉱物を見つられますか?
「見つかります(笑)。ただ見るだけじゃなくて、やっぱり自分で拾いたいとか、探したいっていうのはありますよね。楽しいですよね」
●コツはありますか?
「だいたい石は鉱物の集まりでできているので、川原とか海岸に行ってきれいな石を探せば、それが鉱物なんですよね。その鉱物を拾った人が、魅力的だと思うかどうかなので(笑)、コツっていうかなんというか、きれいな自分の好きな石をまず見つけることですよね。
色がきれいなのか、形がきれいなのか透明感があるのか、自分が実際に行って、あっ、これ、きれい! っていうのをまず見つけてもらいたいと思いますね。そのきれいな石を図鑑で、どんな石なのか、この石にどんな鉱物が含まれているのかを、ぜひ調べていただきたいなっていうのがあります。
きれいな石を拾ってくるだけだったら、いろんな人がやると思うんですけれども、拾ってきた石がなんていう石なのか岩石なのか、なんていう鉱物を含んでいるのか、これを図鑑とかで調べて、自分なりにでも名前がわかるとすごく楽しくなるんですよね。
これ、めっちゃきれいだなとか、この緑の石なんだろうな〜って拾ってきて、これ、緑泥石(りょくでいせき)っていうのか! 例えばですけど(笑)、わかったらもう俄然楽しくなるんじゃないかなと思います。石拾いが、鉱物採集が楽しくなると思います」
(編集部注:川原や海岸での石拾い、国立公園や国定公園などでは、持ち帰りは禁止されています。ご注意ください)
●では、最後に渡邉さんが思う鉱物の魅力とは、なんでしょうか?
「鉱物の魅力・・・鉱物は自然界が生み出した、創り出した傑作品であると私は思っています。鉱物を見ていると、色ももちろんきれいなんですけど、形がすごくシャープだったり、きれいなんですね。原子がものすごく規則正しく並んでいる、なんでこんなものが自然界にできるのかなって。自然界は放っておいたら、物はどんどん乱雑な方向、無秩序な方向に進んでいくわけなんですよ。部屋は放っておいたら散らかるみたいな感じなんです(笑)
でも秩序だったもの、高度に創り上げられたものができるためには、何かしらわざわざエネルギーを使うわけで、わざわざ創り出さないと絶対無理なんです。生物もそうやって自然界に生まれてきたと思いますし、鉱物もあの美しさ、あの規則正しさは、そうやって生み出された、わざわざ創り出されたものなんですよね。そこがほんとに神秘的で、鉱物の魅力だなって感じています」

INFORMATION
渡邉さんの新しい本をぜひご覧ください。写真家でもある渡邉さんが撮影した鉱物写真、どれも美しい写真で見とれてしまいます。色や形が多種多様で、その多彩さに驚きの連続です。鉱物の不思議をわかりやすく解説しています。オールカラーでポケットサイズなので、フィールドワークや鉱物の展示会のお供にいかがでしょうか。おすすめです。
「大和書房」から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎「大和書房」HP:https://www.daiwashobo.co.jp/book/b605966.html
渡邉さんが主宰するウェブサイト「地学博士のサイエンス教室 グラニット」も、ぜひご覧ください。
◎「地学博士のサイエンス教室 グラニット」HP:https://watanabekats.com/
2022/8/21 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、自然と人をつなぐ写真家「渡邉智之(わたなべ・ともゆき)」さんです。
渡邉さんは1987年生まれ。現在は岐阜市を拠点に、人の営みの近くで暮らす生き物を撮影。また、ニコンカレッジ名古屋校で講師としても活躍されています。そして先頃『きみの町にもきっといる。となりのホンドギツネ』という写真絵本を出されました。
きょうは、私たちのすぐそばで暮らしているホンドギツネの繁殖、子育て、そして人との関係など、あまり知られていない生態などうかがいます。
☆写真:渡邉智之

自然と人のつながり
※渡邉さんは「自然と人をつなぐ写真家」と名乗っていらっしゃいますが、そこにはどんな思いがあるのでしょうか?
「今の時代って人と自然がどうつながっているのかが、すごく見えにくい時代だなって感じているんですね。そういう見えにくい、自然と人のつながっている部分を、なんとか見える化できないかなっていうことを考えています。
自分からは動物写真家って名乗らないようにしているんですね。動物写真家と名乗ってしまうのは、ありではあるんですけど、僕は動物だけを撮りたいわけじゃないんです。動物と人のつながっていく様子だったり、動物同士のつながっている部分だったりとか、そういう見えにくい部分を表現していけたらなと思っているので、そういう意味で”自然と人をつなぐ写真家”と名乗っています」

●テーマが「自然と人のつながり」ってことなんですね。
「そうですね。なんとなく僕の中のイメージとして、自然と人をつなぐと自分では言ってはいるんですけど、僕の中で人という位置も、ほかの生き物と変わらなくて、結局自然の中で同じように生きている生き物なんですね。特に日本の自然なんかだと、野生動物の生態を撮るにしても野生動物だけで完結するわけじゃなくて、必ずそこには人の気配がどこかしらにあるんですね。
だから自然と人の関係性だったりとか、自然と人をつなぐというふうにわけていますけれども、自然の中に人は含まれているよっていうのは常に感じていますね」
●都会に暮らしていると、自然とつながっているんだなっていう意識は薄くなってしまう印象はあるんですけど、その辺りはいかがですか?
「そうですよね。田舎に暮らしていても、いま僕、岐阜市に住んでいますけど、県庁所在地で名古屋から20分くらいの場所なので、それなりに都会ではあるんです。
でも、そういうところに暮らしている人たちと話をしても、自然とそんなに関わっていなかったりとか、自分たちの身の周りでどういう自然現象が起こっていて、自分たちの暮らしにどういうふうに影響があってとか・・・逆に自分達の暮らしが野生動物、自然に対してどういうふうに影響しているのかを、気づかなかったり知らないっていうかたは、ものすごくいっぱいいますね」
昔から身近にいるキツネ
●先頃発売されました写真絵本『きみの町にもきっといる。 となりのホンドギツネ』、まさに自然と人のつながりがテーマになっているなと感じました。

私もこの写真絵本を読ませていただいて、遊歩道だったり公園だったり、すぐそばでキツネが暮らしていることにすごく驚いたんですね。ほとんどの人間は気づいていないとも書かれていましたが、こんなに人の近くにキツネっているんですね!
「そうなんですよね。みなさん、キツネって聞くと北海道をイメージするかたがすごく多いんですよ」
●はい! まさに私もそう思っていました。
「まさにそうですよね。たぶんそういうかたはすごくいらっしゃって、北海道にしかキツネはいないと思っているかたもいるんですね。
でもよくよく考えると、お稲荷さんのキツネだったりとか、キツネの能とかお祭りで売っているお面だったりとか、新美南吉(にいみ・なんきち)の童話『ごん狐』だったりとか、身近な場所にキツネに関する文化とか民話とか、そういうのが実はいっぱいあるんですよね。
そういう文化が生まれてきたっていうことは、つまり昔から人とキツネは常に近くにいて、なにかしらの関わりがあったことの証拠でもあるんですよね。だから昔の人たちは、おじいさん、おばあさんの世代の人たちはよく、キツネに化かされたっていう話を本当に真剣にするかたもいらっしゃいますよね。でも、今の僕たちってキツネに化かされたってほとんど言わないと思うんです。
それはやっぱり科学がどんどん進んでっていうのもあると思いますけど、僕たちのキツネを感じる、気配を感じることの力がどんどん弱くなっているっていうか、そういうのもあって、キツネはずっと身近にいるんだけど、キツネの存在にどんどん気づけなくなっているような感じはするんですよね」
(編集部注:写真絵本に掲載されているホンドギツネの写真は、主に岐阜市の渡邉さんの住まいからすぐ近くの河川敷で撮ったものだそうです)

ホンドキツネの繁殖、子育て
ここで、主人公ホンドギツネがどんな動物なのか、ご説明しておきましょう。
ホンドギツネは世界中に広く分布しているアカギツネの仲間で、日本では沖縄を除いて、本州より南に生息。見た目は柴犬(しばいぬ)をほっそりさせたくらいの大きさで、体重は4キロから7キロほど。人のそばで暮らしていても警戒心が強く、人前に姿を見せることはほとんどないそうです。
北海道に生息するキタキツネも同じアカギツネの仲間ですが、ホンドギツネよりも体が少し大きく、足元がくつ下をはいたように黒い個体が多いとか。
キツネの特徴としては、走るのが得意で、草刈りされた場所や、見通しの良い畑などを好んで狩りをする、ということなんですが、耳がいいので、獲物となる虫や小動物の出す小さな音を聴いて狩りをするそうです。
※ホンドギツネの繁殖シーズンはいつ頃なんですか?

「早いと11月ぐらいから繁殖期なってきますね。繁殖期になると面白いのが、オスが”コンコン”って鳴きます。”コンコン、コンコンコン”って鳴くんですね。これが実はオスがメスを探して、自分はここにいるよ、メスはどこだい? ってアピールしている時の声なんですよ。
そういう声を11月くらいの夜に、河川敷や堤防で待っていると結構、聴こえてくるんですよね。その声を聴いて、メスが、あ! オスがいたって分かって、オスとメスが出会えるわけですね。だいたいそれが11月ぐらいから始まって、12月の末とか1月とかに交尾をして、早いと2月の末から3月の中旬くらいに巣穴の中で子供を出産します」
●何匹くらい産むんですか?
「2匹から多いと5匹ぐらいですね」

●この写真絵本には子育ての様子なども掲載されていましたけれども、メスとオスで一緒に子育てするっていう感じなんですか?
「そうですね。キツネはオスも子育てに参加する動物なんです。オスが子育てに積極的に関わる動物って結構珍しくて、日本ではタヌキとキツネしかいないですよ。ほかの野生動物はメスが主体で子育てをするんですね。キツネの場合だとオスが子供に食べ物を持ってきたりとか、おもちゃを持ってきたり遊んであげたりとか、そういうことをしますね」
●基本的には出産も子育ても巣穴で行なわれているってことなんですね。
「はい、そうですね。巣穴も常に同じ巣穴を使うわけではなくて、お母さんのメスの縄張りの中に巣穴がいくつかあるんですよ。だいたい数十メートル置きぐらいにポンポンポーンとあって、なにかあると巣穴の引越しをして子育てをするっていう感じですね」
(編集部注:渡邉さんによると、いくつかある巣穴の、どれを使っているのかを入念な観察で突き止めても、警戒心がとても強いので撮影が難しく、川をはさんで対岸にブラインドテントをはって、やっと姿を見せてくれるそうです)
※ホンドギツネは夜行性なんですよね?
「はい、夜行性と言われています。基本的に夜に活動するんですね。なんだけど、夜じゃなくても昼間とか、例えば冬だと、雪が降ったあとにちょっと早い時間にキツネが出ていることもあります。
オスがメスを早い時間から探し出したりとか、子育ての最中だと朝とか昼間とか、お母さんが朝昼晩みたいな感じで(子ギツネに)お乳をあげに来たりするので、夜行性と言われているけど、完全な夜行性ではなくて、昼間でも結構動いています」
●撮影自体は、多いのは夜っていう感じなんですか?
「そうですね。撮影自体は、昼間にそういうふうに見られるのは、そこまで多いことではないので、ほぼほぼ夜の撮影になります」
(編集部注:ホンドギツネの撮影は、観察が8割、そして夜の撮影が多いため、光をどう作るのかが、とても難しいと渡邉さんはおっしゃっていました)

キツネが腰を抜かした!?
※ホンドギツネの撮影をされていて、思わず見入ってしまった瞬間はありましたか?
「いっぱいあるんですけど・・・面白かったなぁと思ったのは、キツネが腰を抜かした瞬間があって(笑)、人でも腰を抜かすってあんまり見たことないじゃないですか。たぶん一生見ない人もいると思うんですけど、キツネが腰を抜かした瞬間を見たことがあります。
2匹の子ギツネが夕方、河川敷の草やぶから出てきていて、一段落してちょっと休憩しているような感じでいたんですけれども、そこに突然別の子ギツネが草やぶからぱーっと出てきたんです。
それに2匹の子ギツネがびっくりして飛び跳ねて、1匹のキツネはほんとに立てなくなっちゃったっていう、本当に腰を抜かして、腰が砕けちゃってヨタヨタしていて、しばらく立てなくて・・・こんなことあるんだなという感じですよね(笑)。人ですら(腰を抜かした瞬間を)見たことないのに、野生動物の腰を抜かす瞬間を見てしまったと、それはちょっとびっくりしましたね〜。

ほかにも面白いこととしては、2013年に観察をしていた時に、僕のことを全然気にしないオスがいたんですね。その子は僕に対してすごく興味があるらしくて、毎日のように彼らのところに会いに行くので、彼らが僕のことを覚えてくれるんですよ。
その中でもその1匹の子は僕にすごく興味を持っていたので、僕が堤防の上で待っていると、草やぶから出てくるんですよ。出てきて、堤防の上に僕を見つけると、わざわざ堤防の上にあがってきて、なぜか僕の横に座って・・・本当に面白いですよね。なんか絵本の世界みたいな感じです。
僕のすぐ横に座って、一緒に夕陽を眺めたりとか、時間的にどんどん車が渋滞していく時間なので、渋滞する車を一緒に見ていたりとか・・・同じ風の匂いをすぅーっと、あ! 同じ匂いを今嗅いでいるな、みたいなことがあったりとか。それが住宅街のすぐ横であったので、そういうところに絵本みたいな世界があって、それは本当に忘れられない経験だなと思います。

子ギツネも遊び好きなんですけど、大人のキツネも遊び好きなんですよ。キツネって、オスが長い棒をくわえて走っているあとを、後ろからメスが追っかけて、追いかけっこをしたりとか、そういうことをするんですよね。結構遊び好きな姿、大人でも子供でも遊んでいたりするのを見ると、なんか人間との共通点じゃないけど、そういう部分も感じて、なかなか面白いですね」
人間をよく見ているキツネたち
※ホンドギツネたちは、人間のそばで健気に、そしてしたたかに生きているような気がするんですけど、渡邉さんはどう思いますか?
「彼らが人のそばで生きることのひとつ大きな理由として、やっぱり食べ物があると思うんですけど、食べ物が比較的手に入りやすいと思いますね。人間がゴミとして出している残飯とかも食べるし、作物とかも食べるし、今の時期は、トウモロコシ好きなんで、トウモロコシもめちゃくちゃ食べるんですよ。
そういう食べ物を食べたりとか、あとは畑だったらネズミがいっぱいいるので、ネズミを狩っていたりとか。人の近くにいるとキツネが生きていく上で、食べ物が比較的得やすいっていうのはあると思うんですね。
だから人の近くをずっと彼らは離れないんだろうと思うんですけど、逆にそういういいこともあれば、(キツネが)車にひかれてしまうとか、そういうことも結構あるんですよね」
●可哀想な状況を目にすることも多いですよね。
「そうですね、結構ありますよね。」
●開発も含めた自然環境の変化は、やはり野生動物には厳しいと感じますか?
「そうですね。開発もちょっと難しいところですけど、突然ぐっと大きな変化で、彼らの暮らしが変わることをすごく感じていますね。そんな中でも彼らは上手いこと、人の暮らしをよく見ていて、どういうふうに自分たちがその状況に対応していけるのかっていうのを、常に考えて生きているような感じはするんですね。

テトラポットが河川敷にばーっと置かれて、キツネの寝床とか潰れる時があったんですけど、そういう工事のあとでも子ギツネたちは、そのテトラポットの上で翌日には跳ね回って追いかけっこしていたりとか、そういうしたたかさもすごくあると思いますね。確かに開発で彼らの暮らしがどんどん変わっていくっていうのもあるんですけど、同時にそれをうまく許容していって彼らの暮らしもどんどん変化しているなってことは実感していますね」
●改めてホンドギツネを通して見えてきたもの、感じたことってなんでしょうか?
「ずーっと見ていて面白いなって思うのが、彼らって人のことをよく観察しているんですよ。人が気づかないだけで、人が散歩している様子をじーっと見ていたりとか、犬を散歩させている姿を見ていたりとか・・・そういうのを草陰からじーっと観察していて、人がいない時間に合わせて出てきたりとか、草刈りしたりすると、そこで狩りをしたりとか、人の暮らしをよく見ているんですね。
すごくよく見ているからこそ、僕たちのことをすごく理解しているんですよ、彼らって。それがまず面白いなって思うんですけど、逆に僕たちって彼らのことをどれくらい知っているのかなっていうのは常に思いますね」

INFORMATION
渡邉さんの写真絵本をぜひご覧ください。これまでほとんど知られることのなかった、ホンドギツネの生態に迫る初めての写真絵本です。
こんなに身近にキツネがいることに驚きます。河川敷や畑、公園などで、健気に生きている姿が素晴らしく、子ギツネたちの愛くるしい写真に思わずにっこりしてしまいますよ。ホンドギツネたちは、人の暮らしにひっそりと寄り添いながら、きょうも生きていて、あなたをすぐそばで見ているかも知れません。ぜひお子さんと一緒にホンドギツネの世界を覗いてみてください。「文一総合出版」から絶賛発売中です。
◎「文一総合出版」HP:
https://www.bun-ichi.co.jp/tabid/57/pdid/978-4-8299-9017-9/Default.aspx
渡邉さんのオフィシャルサイトもぜひ見てくださいね。ホンドギツネ以外にタヌキやムクドリなどの写真も載っていますよ。
2022/8/14 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、島に魅せられたライター
「清水浩史(しみず・ひろし)」さんです。
清水さんは1971年生まれ。早稲田大学卒業。大学時代はクラブの活動として、たびたび島に行き、その一方でバックパッカーとして、アラスカ、インド、南米、アフリカなど、辺境秘境の旅に没頭。大学卒業後はテレビ局に勤務するも、日常の窮屈さから脱出したいと、国内外の島旅は続け、現在はライター、そして編集者として活躍されています。
これまでに150以上の無人島を取材。人が住んでいない島ゆえに、船の定期便はあるはずもなく、目的の島に行くためには、漁船などをチャーター。島にたどり着いても、船着場はなく、上陸するためには岩場に飛び移るか、浅瀬にドボンと飛び込んで泳ぐしかないそうです。
清水さんはそんな島や島旅に関する本を多く出版、そして先頃『日本の絶景無人島〜楽園図鑑』という本を出されました。
☆写真:清水浩史

純白の楽園「百合が浜」
※『楽園図鑑』には37の島が掲載されています。何か選ぶ基準のようなものはあったんですか?
「無人島の中でも、やはり楽園というイメージと結びつきやすい、とにかく透明度の高い海に囲まれていること、あるいは真っ白な砂浜があること、あるいはサンゴ礁が豊かな島っていうのを厳選したという形なんですね。
その中でも根幹にあるのは、人工物、人が作ったものがほとんどないっていうところを重視していると言いますか・・・はたからみると、綺麗だけど何もないように見えるかもしれないんですけど、何もないということは、何もかもあるっていう島なのかなって思います」

●どの島も本当に素敵だったんですけれども、特に私が気になった絶景の無人島についてお話をうかがっていきます。まずは、鹿児島県の「百合ヶ浜(ゆりがはま)」。最強の純白楽園と書かれていましたけれども、真っ白な砂浜ですね。
「そうですよね。ここは結構広く、美しい場所として知られていますけれども、本当に美しいんですよね。与論島の大金久(おおがねく)という海岸の1.5キロ沖ぐらいに、毎日あるわけではなくて、大潮あるいは中潮のかなり潮が引いた時、干潮の時だけポコンと現れる真っ白な砂地だけの島ですね。
与論島の海の青さと砂地の白のコントラストが本当に映えると言いますか、美しいので、出会える回数が少ない分だけ、出会えた時の喜びは大きな島なのかなと思います」

●確かに幻の浜っていうふうに、この本にも載っていましたけれども、それぐらいなかなか見ることができないっていうことですか?
「そうですね。百合ヶ浜に限らずなんですが、厳密には島未満の低潮高地と呼ばれるものなんですね。潮が引いた時だけ島が現れる、そういう場所はこの百合ヶ浜はじめ、日本には各地にあるんです。出会えないんですけれども、この幻の美しさが味わえるという、本来の島とはまた違った魅力が低潮高地にはあるのかなと思います」
●現れては消えてしまうっていうことですよね。
「そうですね。この儚さも魅力と言いますかね」

サルの楽園「幸島」
●続いては、宮崎県串間市にある「幸島(こうじま)」、サルの楽園と書かれていました。砂浜をサルの親子が走っている写真が載っていましたけど、こうやってサルが頻繁に現れるんですか?
「ここは野生のサルが90頭くらい生息しているんですね。京都大学の研究員たちが観察のために島を訪れていることもあって、結構人慣れはしていますね。
宮崎県の石波(いしなみ)海岸から渡し船で、もうほんの数分で渡ることができるんです。島にポッと渡してもらったら、もうそこにはサルが群れているという、異世界に紛れ込んだような楽しさと言いますか・・・美しさもありますし、それでまたそこの海や砂浜が綺麗なんですよ。
サルを眺めるもよし、綺麗な砂浜で泳ぐもよしと、本当に楽園のような島かなと思いますね」

●海岸にサルがいるなんて、なかなかないですよね?
「そうなんですよ。私は無人島に行くのはいつもひとり旅ですけれども、サルに見守られて泳ぐって、見守られているような気がして、本当に楽しいですね(笑)」
●人間が近くに行っても、別に恐れるとか怯えてしまうとかはないんですね。
「ないですね。黙々と毛づくろいをしたりとか、本当に人間とサルのいい距離があるのかなというふうに思いますね」
●なぜ幸島にはサルがいるんですか?
「これは研究員でもまだ分かっていないんですよね。なぜここにサルがいるのかは、ずっと謎なんです。ただこの島で有名になったのは、ここのサルは文化ザルとも言われたんですよ。というのは、60年代だったか、サルが芋を海水で洗って食べる姿が目撃された島なんですね。
それは、砂を落とすっていうのもあるんですけれども、塩味が付いて芋が美味しくなることをサルは学び、その学んだことが次の世代にも受け継がれていくことが発見された島なんです。これは文化的行動であるということで、この幸島のサルは世界的にも有名になったという貴重な島かなと思いますね」
●サルにとっても楽園なんですね!
「そうですね。それを眺められるという、アクセスできるという幸せと言いますか、そんな貴重な島かなと思います」
北陸のハワイ「水島」、伊豆のヒリゾ浜
●『楽園図鑑』に掲載されている、私が特に気になった無人島。続いては、福井県敦賀市にある「水島(みずしま)」、北陸のハワイとも呼ばれているんですね。

「そうですね。無人島に限って言えば、日本海側は本当に綺麗な砂浜だけの島や無人島はほとんどないんですよ。ですので、この水島は真っ白な砂浜が600メートルぐらい続く、本当に美しい島なので貴重かなと思います。
昨年くらいまでは多少コロナの影響で制限があったものですから、今年からはしっかり楽しめる島かなと思います」
●この海の透明度も高いですね。
「そうですね。この水島の周辺は遠浅なんですよね。お子さんでも本当に安心して遊べますし、日本海というと、どうしてもちょっと荒々しいイメージがありますけれど、北陸のハワイっていう謳い文句に何ら違和感を覚えないような、素敵な島かなと思います」
●首都圏に住んでいるリスナーさんに向けて、アクセスしやすいおすすめの無人島はありますか?
「伊豆半島の先端にある”ヒリゾ浜”を挙げたいと思います。このヒリゾ浜は伊豆半島にあるので、無人島ではないんですね。ただし、道がないので陸地からアクセスできないんですよ。ですので、中木(なかぎ)っていう港から渡し船で渡るんです。
ヒリゾ浜に渡ると目の前には岩の島がポンポンと浮かんでいるんですよ。平五郎岩(へいごろういわ)であったり、丘ハヤマっていう岩礁があったりするので、ヒリゾ浜から泳いで岩場の無人島に上陸するっていうことも楽しめます。

中央に見える岩の島が平五郎岩、右手の浜がヒリゾ浜。
このヒリゾ浜、何がすごいかっていうと、伊豆屈指の透明度って言われているんですよね。ただでさえ伊豆半島は綺麗ですけれども、どんだけ澄んでいるんだ、どんだけ魚影が濃いんだっていうぐらいお魚にも会えますし、そういう意味ではおすすめしたいなと思います。
それと、だいたい海水浴っていうのは8月いっぱいで終わってしまう、毎年なんか天候が不順だな〜とか言ったら、あっという間に夏って終わってしまう。ただし、このヒリゾ浜は9月いっぱいまで海水浴をやっているという、ちょっと珍しいパターンなんですね。夏が終わってしまったっていうかたにも、9月いっぱいまで楽しめますので、多くのかたが楽しめる島なんじゃないかなと思いますね」
●まだ間に合いますね!
「そうですね!」
(編集部注:素朴な疑問として、無人島の所有者は誰なのか、清水さんにお聞きしたら、国が所有していることもあるそうですが、多くは地方自治体で、中には個人または企業が所有している島もあるそうです。無人島を販売しているサイトもあるとのことですから、気になる方はネットで検索してみてはいかがでしょうか)
海と真剣に向き合う
※清水さんが島や島旅に興味を持つようになったのは、何かきっかけがあったんですか?
「もう30年ほど前なんですが、大学時代、早稲田大学の水中クラブという部に所属していたんですね。この部は年がら年中、島に行って、海にスキューバダイビングで潜り、あるいは素潜りで潜るという、海の探検部みたいな活動内容だったんです。
毎年夏には1ヶ月以上の島合宿があるんですよ。それで1年生の時に沖縄県の伊江島(いえじま)での合宿で、先輩が助言してくれたんですよ。
1ヶ月もの集団生活なので、結構人に気を遣って、楽しくしなきゃとか、みんなを楽しませなきゃなんて気を遣っていたんです。それを見た先輩が“清水、そんなに人に気を遣うことなんて必要ないよ。この部ではとにかくひとりひとりが、海の本当の面白さに真剣に向き合ってくれたら、もうそれだけでいいから”みたいなことを言ってくれたんですよね。
なんかそこからですかね。吹っ切れたように、周りからどう思われてもいいや、どんなにオタクだと思われてもいいから、好きな海にどんどん行こうって。そこから島旅が始まったのかなと思います。
私は、会社勤めも飽きっぽいところがありますし、長らく大学院で研究もしてたんですけど、その研究生活も飽きるっていう、非常に飽きっぽいんですね(笑)。ただこの島旅だけは、飽きないのはなんでかなって考えたことがあるんですけど、やっぱり有人島、無人島どちらであっても飽きないのは、どんな島に行ってもそれぞれ個性が違うんですよね。
例えば、距離が近い島であっても、いざ行ってみると全然違う、これはなんなんだろう。島っていうのは小宇宙であって、それぞれ多様な個性の集まりなんだなっていうことが、飽きない理由なのかなと思っていますね」

島の人は、旅人にもおおらか
※離れた島「離島」になればなるほど、島独特の文化や豊かな自然が残っていますよね。
「そうですね。開発の波っていうことでいうと、やはり離れれば離れるほど、島独特の文化、豊かな自然は残りやすい傾向にあると思うんですよね。ですので、島旅をすると、今度はもっとあの先の島に行ってみたいな、そしてまたその先の島にも行ってみたいなって、どんどんアイランド・ホッピングをしたくなる。
それはなんでしょうかね・・・島の大きさがどんどん小さくなったり、距離がどんどん離れたり、人口がどんどん少なくなっていけばいくほど、何か昔ながらのものが残っていることが、やっぱり可能性としては大きいので、島旅はどんどん奥に分け入りたくなるのかなって思います」
●住んでいる人たちのつながりも深そうですね
「そうですね。まあ相互扶助ですよね。物理的な仕事の面でも精神的な面でも、横のつながり、助け合う精神が島には残っています。面白いのは、島の中で助け合いが閉じられているかというと、そうではなくて、結構旅人にも開かれているのが、島旅の面白さかと思うんですよね。
というのも、私が若い頃、仕事がつらくて、結構島に逃げていたことがあるんですけど、島の人によく言われたのが、そんなに仕事がしんどいんだったら、いつでもこの島に帰って来ればいいからと。あなたの居場所は会社だけじゃないんだから、そんなに気にするな、みたいなことをよく言ってくれたんですね。
そういう意味で島の人たちの温かさ、おおらかさは、島内部だけではなくて、外部の旅人にも開かれているっていうのが、面白いところかなって思いますね」
(編集部注:清水さんによれば、戦後、150近くの島が無人化。その原因は、高度成長期に出稼ぎで人が出て行ったことや、近年は少子高齢化のために無人化していることが多いそうです。無人島になってしまうと、もう一度、人が住むことはほとんどなく、「人が暮らしていることが貴重なこと」だと清水さんはおっしゃっていました)

生きる喜びに気づく
※最後に、これまでたくさんの島を取材されてきた清水さんだからこそ、島を通して、何か見えてきたこと、感じていることはありますか?
「もちろん、島の楽しさ、豊かさに気づけるのがひとつあります。ただし、それと同時にやはり日常、どんなにつまらないと思える日常であっても、島の旅から帰ると、なにか日常の面白さに気づけるんですよね。
島旅から帰ると少し強く生きられると言いますか、それが島旅の魅力かなと思うんですよね。日頃気づけなくなっている生きる喜びに気づける、ということなのかなと思いますね。
例えばなんですけども、山口県の情島(なさけじま)に行った時に、大根を育てているおばあさんの話を聞いたんですね。その息子さんは都会で暮らしていて、社長さんになられていてお金持ちなんですね。それでその息子さんは島で暮らす母親に対して、もう野菜なんて買えばいいって! と息子が言うんだよって。お婆さんは、私は野菜は育てたいから育てているんだよって言うんですよね。
つまり、生きる喜びっていうのは、何か買ったりすることだけではないんだと。何か育てること。もちろん子育てもそうですし、そういうことに気づける。
ですので、島から帰ると、あれほど嫌だった仕事が何か小さなタネのように思えてきて、この仕事も大根のように手塩にかけて育てていく。だからその過程こそが生きる喜びなのかなって気づけたりする。島旅は帰ってきてからあとの、何か効用があるのかなというふうに思います」
INFORMATION
清水さんの新しい本、おすすめです。きょうご紹介した島を含め、37の島が掲載。白い砂浜、透明な海、サンゴ礁などなど、楽園のような島が美しい写真とともに紹介されています。どの島にも行ってみたくなりますし、写真を見ているだけでも癒されますよ。この夏、間に合えば、または来年の夏の島旅の参考に、どうぞ。
河出書房新社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎河出書房新社
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309289731/
◎清水さんのTwitterもぜひ見てくださいね。
https://twitter.com/shimizhiroshi
2022/8/7 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」の「鈴木敦子(すずき・あつこ)」さんです。
鈴木さんが2003年に設立した「環境リレーションズ研究所」は環境意識が高いといわれている日本の人たちに、もっとアクションを起こしてもらいたい、そのためのプラットフォームを作っていこうと活動をスタート。現在は、森づくりを主な事業として取り組んでいます。
中でも「人生の記念日に木を植えよう」をコンセプトに、2005年から全国で進めている「プレゼントツリー」プロジェクトに注目が集まっています。
いったいどんなプロジェクトなのか、じっくりお話をうかがいます。
☆写真協力:認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」

森林再生の入り口=プレゼントツリー
※この「プレゼントツリー」、文字通り、木をプレゼントする活動のようですが、具体的にはどんなプロジェクトなのか、教えていただけますか。
「森を守ろうというと、9割以上の日本人の方々は賛同してくださるんです。でも、森にまで行ったことのある人って少ないんです。渚沙さんは森に行ったことありますか? 森林再生したことありますか?」
●いや〜確かにそう言われると・・・。
「なかなか入り口がどこにあるかということも含めて、すごく入りにくいのかもしれない。なので、そういう人たちに入り口を設けることで、あなたの大切な人やあなた自身の人生の記念日に木を植えませんか。その木を大切な人にプレゼントしませんかっていう、そういうコンセプトでスタートをしているのが、このプレゼントツリーです。

プレゼントという言葉の意味としては、自分自身へのプレゼント、もしくは大切な人へのプレゼントっていう意味と同時に、森を再生するという意味で森へのプレゼント、そこに記念樹を植えることによって森が再生される。それからひいては日本全体の森が潤っていくというそういうプレゼント、そしてそれは未来の地球に対するプレゼントでもありますよって、そんな意味を込めてプレゼントツリーという名前を付けています。
要するに森が近くにある人たちは、森づくりに参加するのも、もしかしたら簡単なのかもしれないです。でも、都会にいる私も、渚沙さんもきっとそうだと思いますけれども、都心部に住んでいらっしゃるかたがたは、どうも森まで少し距離がある。
精神的な距離もあるとするならば、記念日に記念樹、記念の木を植えることによって、その木を地元と一緒に育てていく。で、育てることによって、やっぱり木って育ちますから、大きくなりますから、そこに愛着が湧いて愛着も大きく育っていくんです。
我々は森林整備協定というのを結びながらやるんです。最低10年、地元の自治体にも入ってもらって、地元の森林保全してくださる林業家さん、森林組合さんであることが多いんですけれども、そういうところにも入っていただきます。
10年以上、都会の記念樹を植えた人たちと、それから地元の主たる人たち、地元の森林行政を司る自治体さん、自治体が市だったら市長さん、それから森林組合さん、もしくは地域に森林組合がない場合は林業家さんに入っていただいて、かつその森の所有者さんと私共と4者で協定を結ぶんです。

10年ってすごく長いじゃないですか。子供が生まれると10歳になっちゃうし、10歳の子の誕生日プレゼントに記念樹を植えれば、その子が20歳になるわけですからね。その長い年月を共に、記念の木を育てていくというプロセスを通じて、その地域とのつながりを作っていく。そうすることによって森だけでなく、地域まるごと元気にしていこうじゃないかっていう、そんな取り組みです」
(編集部注:鈴木さんがおっしゃるには、地域がうるおわないと、森に人手もお金もかけられない。つまり森林再生と地域振興はセットということです)
里親と木の対面に感動
※一般の方が、この「プレゼントツリー」の活動に参加したいと思ったら、どうすればいいですか?
「簡単です。ググって、 プレゼントツリーって入れていただくと、すぐにうちのサイト出てまいります。そのウェブサイトに、だいたい常時5〜6箇所ぐらい、植えられる場所をご準備させていただいております。その中から好きな場所を選んでいただいて、そこに1本植えようとか2本植えようとかってお申し込みいただくと、お手元に、この地域のこの区画にあなたの木が、何番という管理番号のもとに植えられ育てられますよという植樹証明書というものが届きます」
●植える場所も選べるんですね。
「そうですね。木は残念ながら、いろんな木を植えていますので、選べないんですけれども、場所は受け入れている場所であれば選べます」
●木の里親になるっていう感覚ですよね。
「その通りです。さすが!」

●里親になった方々に現場まで来てもらって、木を植えてもらうっていうことなんですか?
「基本的に植物は、植える適切な時期って決まっちゃっています。1年間のうちに、例えば雪がたくさん降るような地域は、だいたい雪の降る直前。それ以外の地域は春植えであることが多いんです。
なので地域によって、春か秋に、その年にお申し込みを受けた人たちの記念樹を、私どもが責任を持って、地域の林業のプロの方々の手で植えていただくんですけれども、年に1回植える、よいタイミングにみなさんをお招きして、参加しませんかってお声がけしますので、その時にもし参加できるようであれば、ご自分で植えられるっていう、そういう仕組みになっています」
※里親になった木がどれくらい大きくなったのか、見てみたい、そう思う方も多いと思いますが、鈴木さんからは、植えられた場所に行くことはできても、どんどん成長して、森のようになっていることが多いので中に入るのは難しいでしょうとのことでした。
それでも、里親と木の対面が実現した、こんなエピソードを話してくださいました。
「千葉県山武市というところで、プレゼントツリーの森を10年前にスタートして、ちょうど去年10年で満了を迎えたんです。その満了を迎える直前に、やっぱり最後にみなさんに集まっていただこうということで、(コロナ禍で)県をまたぐということ自体が推奨できなかったものですから、県内の方々限定で、プレゼントツリー山武の森に植えてくださった里親の方々にお声掛けして、里山体験イベントっていうのをやらせていただいたんです。

その時に、10年前に植えてくださった里親の方が、植樹証明書をお持ちになられて、”私のこの木は、今どこでどんなふうに育っているのか見たくてきました!”っておっしゃってくださって・・・。
その山武エリアは杉の区画もあるんです。山武杉(さんぶすぎ)という有名な地域の杉が、地域資源としてブランドになっているものですから。
我々は天然林の森に戻していくので、広葉樹であることが多いんです。多くの森はたくさんの種類の広葉樹を植えて、もともとその地にあった自然の森の姿に戻していく活動ではあるんですけれども、(山武エリアは)地元の方々のご要望にお応えして一部、杉を植えていました。

その里親の方は、山武杉のエリアだったんです。杉はスッとしていて、下のほうに枝があまりありませんので、入っていけたんですよ。山武杉は育ちの早い杉なので、10年経つと相当大きな杉になっていましたね。ご自分の木を確認いただいて、とても喜んでお帰りいただいたというのは、私自身が感動しました」
もともとの姿の森に
※「プレゼントツリー」プロジェクトでは、どんな木を植えているんですか?
「基本的には、どういう地域からプレゼントツリーのお呼びが掛かるかと言いますと・・・戦後に拡大造林政策っていう、難しい話は端折りますけれども、戦後の復興期に建設ラッシュが起こり、木材が足りなくなってしまって、その時に自然の森はどんどん杉とかヒノキの人工林、要は木材を作るための森に国が主導して変えていったんです。
そういうところが伐期(ばっき)を迎えると・・・同じ時期にいっぺんに自然の森から人工林に変えて、杉とかヒノキを植えてますから、伐る適切な時期を迎えるタイミングが一斉に、広範囲に広面積に同じ時期に伐らなきゃいけなくなっちゃうんです。

そうすると一気にハゲ地が広がりますよね。なんとなく想像してわかりますでしょ。そういうところは、本来は山の所有者さんが再植林、もう一度森に戻すという義務を、日本の法規制上は負っているんです。
でも、プレゼントツリーの活動を始めた2005年頃は、日本の木材自給率がものすごく低くて、20%を切っているか切らないかくらいの頃だったんですね。そういう時は経済的な理由で、(木材を)売ったけれども、そのお金では再植林するコストは賄えませんっていう方々が多かったんです。
そういう森を我々が、山の持ち主さんがもうお手上げですっておっしゃているような森だから、もともとの姿の森に戻そうよ、そういうところからスタートしていますので、その地域に自然に生えてくる樹種、木の種類というものを少し調べさせていただいて、地元の林業のプロの方々と、それから自治体の方々にご相談させていただきながら進めています。
それでも地域に還元されないような樹種を植えても、あまりうまくいきませんから、長続きしませんから、プラス、先ほどの千葉県山武市のように、地元にもともと自然に生えている樹種と同時に、山武杉という有名な杉のブランドがあったので、(地元の方から)これも植えたいんです、みたいな話があると、一部そういうのも植えていきましょうという、かなり多様性に富んだ森づくりを行なっています」
(編集部注:「プレゼントツリー」プロジェクトでは現在、国内37箇所で森づくりを行ない、これまでに植えた木は30万本を超えているとのこと)

災害から守ってくれる森
※鈴木さんが森づくりを主な事業にしようと思ったのは 日本の森が荒廃していくという危機感みたいのものがあったんですか?
「ひとつには、もともとNPOを立ち上げた時の背景と同じように、先ほど来、申し上げているように、これだけ森が好きな国民なのに、なぜ森づくりということをしてくれないんだろう。この人たちが森づくりをしてくれれば、森づくりに参加してくれれば、ハゲ地がもっと減るのになと。
実はハゲ地に再植林できない、なんらかの事情があって、経済的な事情だった時代もあれば、今のように日本全国高齢化していますから、年齢的に森の面倒を見きれません、みたいな事情もあります。
(日本は)これだけ森が豊かだと言われていて、これだけ森林政策、森林行政も相当テコ入れが進んでいるにもかかわらず、ハゲ地の面積って実は減っていないんです。要は伐った後に再植林するスピードが遅いままなんですよ。常時、伐った面積の3分の2ぐらいは、ずーっと再植林できないまま置かれちゃっているんです。
これが目立つので、そこで何が起こっているか分かりますよね。今、ハゲ地にしておくと(ここ数年)豪雨の頻度が高まる、台風の勢力が巨大化している、異常気象が頻発する日本では・・・そういうハゲ地が自然のまんま森に戻るのを待つと、何年かかると思いますか。100年かかっちゃうって言われているんですよ。
だから人の手で木を植えて、森に戻るスピードアップを手伝ってあげないと。その間にどれだけ豪雨が襲いますか。台風が襲いますか。森があれば、そこはそんなに急激に崩れたりとかせずに、土砂災害の被害も小さく抑えられる、阻止することにつながるわけですよね。にもかかわらずハゲ地のままであるから、どんどん崩れていってしまう。
森をつくっておいたところ、特に天然の形の森、もともとその地にあった、その風土にあった、力強い森に戻していたエリアは崩れていないんですよ。やっぱりハゲ地にしておくとそれだけリスクが高い。だからそのままにしておくことがすごく気になって・・・。
森の役割は生き物のため、地球温暖化防止にもなる、それから綺麗な水とか美味しい水も作ってくれるとかいろいろあるんですけれども、やっぱり日本で大事なのは、災害から守ってくれる、地域を守ってくれるっていうのがいちばん大事なんじゃないかなと思います」
●先ほども天然林に近い森にするのが目標だというお話もありましたけれども、やっぱりそれは自然災害にも強いっていう思いがあるってことですね。
「そうですね。その地に昔からあった形に戻すわけですから、やっぱり強い森になります」

全都道府県、100万人100万本
※「プレゼントツリー」プロジェクトの森づくりは、現在、国内37箇所ということですが、今後の目標としては、何箇所くらいまでを見据えているのでしょうか?
「もうね、全都道府県でやりたいなと。というのは、やっぱりそれぞれ人生にはいろいろとストーリーがあって、それぞれの人たちがそれぞれの地域にそれぞれの思い入れがあるので、自分ゆかりの地域の森を応援したいっていうお声もたくさんいただきます。
なので、全都道府県でやりたいなというひとつ大きなビジョンがありますし、もうひとつは100万人100万本、ここまで早く到達できたら嬉しいなと思っています」
●鈴木さんが環境リレーションズ研究所を設立して20年近くが経とうとしています。その間、地球温暖化の影響が顕著なものとなって、その一方でSDGsの達成が私たちには課せられています。最後に鈴木さんに今どんな思いがあるか、改めて聞かせていただけますか。
「はい、ありがとうございます。ありがたいことにSDGsって、いろいろなところで、国連さんが旗を降り始めて、次にESG投資なんていう言葉も、お聞きになったことがある方は多いんじゃないかなと思います。その時々に社会的な背景で、森林ブームとか森づくりブームっていうのがくるんですけれども、一過性のブームで終わらせたくないなっていうのはあります。
2005年にスタートさせた直後も、第一期森づくりブームっていうのが、我々のプレゼントツリーの活動の中で起きたんです。すごくたくさんの人たちが入ってきてくださったんですけども、それが一段落すると一気にいなくなるっていう現象にも悩まされています。
森は100年のビジネス、100年の事業、100年の活動なんです。そのうちの冒頭の10年だけ、みんなで分担し合いましょうよ。11年目以降から100年まで地元の方々に頑張っていただきたいっていう、そういう思いと長期のビジョンを、ぜひみなさんと共有していただけるような、様々なお伝えの仕方をこれから頑張っていきたいなって思っています」
INFORMATION
「環境リレーションズ研究所」が進めている「プレゼントツリー」プロジェクトにぜひご参加ください。あなたの記念日にご自身に、または大切なかたの結婚や出産、誕生日などに木を贈りませんか。鈴木さんもおっしゃっていましたが、それが地域の森や、ひいては地球へのプレゼントになります。
苗木の里親になると、植樹証明書やメッセージカードなどが送られてきます。植える場所、植栽地については、オフィシャルサイトを見ると、現在は8箇所から選べるようになっています。その中には、今年から始まった東京都の檜原村や、首都圏に近い場所として山梨県笛吹市がありますよ。

1本の苗木の里親になる料金は、苗木代や、苗木を守る防護ネット、そして下草刈りの費用などを入れて、1本5000円前後だそうです。ただし、木のオーナーになるわけではないので、10年経ったら地元に戻すことになります。鈴木さんはぜひ、里親として見届けてほしいおっしゃっていました。
「プレゼントツリー」プロジェクトについて詳しくは認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」HP:https://www.env-r.com/
◎「プレゼントツリー」プロジェクト専用サイト:https://presenttree.jp/
2022/7/31 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、沖縄在住のフリーダイバーで写真家の「篠宮龍三(しのみや・りゅうぞう)」さんです。
篠宮さんは1976年、埼玉県出身。人間で初めて素潜りで100メートル超えを達成したジャック・マイヨールに触発されてフリーダイビングの道へ。国内唯一のプロ選手として、世界を転戦し、2010年に115メートルというアジア記録を樹立。
そして2016年に第一線を退いたあとは、沖縄で現役の頃から続けていた、フリーダイビングのスクールや大会を運営。さらに「ONE OCEAN〜海はひとつ」をテーマにした活動もされています。ホームの海は宜野湾だそうです。
そんな篠宮さんが先頃、『HERITAGE(ヘリテージ)』という写真集を出されました。この本は、沖縄近海で捉えたザトウクジラだけを掲載した写真集で、篠宮さんにとっては記念すべき1冊目の写真集です。
水中写真は現役の頃から撮っていたそうですが、野生の生き物が相手の撮影は、競技よりも難しいとのこと。酸素ボンベはつけずに、重いカメラを持って潜る、一息1〜2分の勝負なので、いい写真が撮れた時の感慨はひとしおだそうです。
きょうは、10年撮り続けているザトウクジラへの思いと、海中での驚きのエピソードなどお話しいただきます。
☆写真:篠宮龍三


HERITAGEに込めた思い
※改めて、この『HERITAGE』という写真集を出そうと思ったのは、どうしてなんですか?
「10年ぐらい、ホエールスイムというんですけれども、冬の間、沖縄にやってくるザトウクジラと一緒に泳いだり、撮影をしたりということにチャレンジしてきたんです。10年前は、なかなかやりかたもわからずに、相手は野生動物ですから、どうやって向こうの機嫌を見極めて、うまくアプローチをして撮影をしたりとか、そういうことがまったくわからなかったんですね。
ここ2〜3年で、うまく撮れるようになってきましたし、もしかしたらですけど、ザトウクジラ全体の数が増えているような感じで、より見やすくというか、アプローチしやすくなってきましたので、ひとつ10年という区切りで形に残しておきたいなと思って写真集を作りました」
●撮影場所は沖縄の海のみなんですか?
「はい、沖縄の北部と奄美と、あとは八重山のほうですね。だいたいこの3箇所で撮影しています」

●「HERITAGE」というタイトルに込められた思いは?
「沖縄本島北部と八重山と奄美大島は、去年世界遺産に登録されましたよね。その世界遺産は、英語でいうと”WORLD HERITAGE”ですよね。そこからワンワードもらって”HERITAGE”というタイトルにしたんですけれども、日本語に訳すと多分、伝承とか継承とか、後世に残すという意味があると思うんです。
10年撮ってきて、この先の10年もやっぱりクジラたちが安心して、また沖縄の海に毎年毎年戻って来てくれるようにという、そういう思いを込めて”HERITAGE”という名前をつけました」
●ザトウクジラは一年中、沖縄の海にいるわけではないんですよね?
「そうなんですよ。夏はロシアとかアラスカのほうにいて、いっぱい餌を食べて、身体を太らせて、春になると沖縄に南下して来て、出産とか子育てとか繁殖活動を行なって、それで3〜4ヶ月経ったら、また北のほうに帰っていくっていうことの繰り返しをしているんですね」
●撮影しようと思っても、そんなにいつもは出会えないっていう感じなんですね。
「(出会えるのは)冬の間、3ヶ月くらいですかね」
モノクロ写真は肌の色!?
※この写真集『HERITAGE』は全編モノクロ写真なんですが、あえてモノクロで表現したのはどうしてなんですか?
「クジラの肌というか、地肌がやっぱりモノクロなんですよ。黒と白とそれからグレーの部分があるという感じなんですけども、その色そのものを出すには、写真をモノクロにしてしまったほうが、より雰囲気としては近づけるなというのもありますし、青い海に浮かんでいるクジラってとても綺麗だと思うんですけれども、それほど海は青くはないんです、実は。沖縄の海は結構プランクトンが豊富で、ちょっと緑がかっているんですね。
見た目をよくするために、編集でどんどん青くしちゃったりとか、映える写真にしてしまうんですけど、それだと本質というか、本来のクジラの肌の色は出なくなっちゃうかなとも思いました。見た目が華やかな写真も素敵だと思うんですけど、クジラのそのものの色を出したいなと思って、モノクロで仕上げました」

●なるほどー。写真を見ると、かなり近づいて撮影されているように感じるんですが・・・?
「そんなに近づきすぎるとすごく嫌がるんですよね。野生動物ですし、警戒もしますし、こっちに来るなっていうふうに腕を振ってくる時もあります。
だから、そういうふうにストレスを与えるようなことはしたくないなって思って、レンズを変えたり、ちょっと望遠気味のレンズを使ったりして、寄ったような写真にしているという感じです。そんなにすぐ近くまでは寄らないように気をつけていますね」
●一日かけて撮影に臨むとして、だいたい何頭くらいに出会えるんですか?
「そうですね。いちばんピークの時期、3月中旬とかなんですけれども、5頭から10頭という感じですかね。まあ1頭会えればいいという時もあるし、1頭も会えないという時もありますので、やっぱり自然相手のものだなと思いますね」
表情は目に現れる
※これまでに出会ったザトウクジラで、いちばん大きな個体は全長、何メートルくらいですか?
「おそらく15メートルは超えていると思いますね」
●えーっ、15メートル! 怖くないですか?
「やっぱり15メートルを超えてくると、かなり大きな部類に入ってきますし、水中では屈折率の関係で物が1.4倍に見えるんですよ。なので余計大きく見えるんですね。そういうかなり大きな個体に会った時は、圧倒されて怖くなりますね」
●それはそうですよね〜。ザトウクジラと目が合うこともあるんですか?
「もちろん! やっぱり目を見て、相手の様子をうかがうことが、まず大事だと思っているんですよ。目に表情が現れるんですね、意志というか感情というか。怒っているとか近寄るなとか、受け入れてくれているとかね。
そういうのがすべて目に現れるので、まず目を見て確認をして、もう少し寄っても大丈夫かなとか、これはもう引いた方がいいかなとか。特に子供を連れている、子育てしているお母さんクジラは、神経質になっている場合がありますので、そういう時は離れて見守るとか、そういうこともしていますね」

●目でわかるんですか。すごい!
「まあそうですね。やっぱり同じ哺乳類ですし、ガッと(目を)見開いている時は、怒っていたり驚いていたりとか、そういう状態なので、そういう時は離れるようにしますね」
●ザトウクジラって、近くにいる人間を認知して、大きなヒレが当たらないように避けてくれた、なんて話も聞くこともあるんですけど、そういうこともあるんですか?
「そうですね。とても繊細な生き物なので、間違ってぶつかっちゃったりとか、そういうことは、ほとんどないんですよね。すごく大きな巨体で、胸ビレの長さだけで4メートルくらいあるんですけど、それでもぶつからずにうまく身をかわして避けていくので、すごいなって思いますね」
●撮影中に心がけていることはありますか?
「やっぱり海の中ですから、自然相手の野生動物相手なので、安全に行って帰ってくることをまず大事にしています。それと相手にストレスをかけすぎないっていうか、追いかけすぎないようにしてますね。
親子クジラだと、お母さんクジラがちょっと神経質になっている場合もあるし、子供のほうが逆に興味を持って寄って来てしまうこともあるし、そういう時は逃げないといけないですけどね。そういうふうに向こうの機嫌もよく見ながら、あまり嫌な思いをさせないようにと考えていますけどね」
ザトウクジラの歌
※ザトウクジラは「歌うクジラ」としても知られていると思うんですが、篠宮さんは、ザトウクジラの歌を聴いたことはありますか?

「はい、歌うクジラのことを”シンガー”っていうんです。冬になると、素潜りのトレーニングや講習中によく水底で聴こえてくるんですね。その声がとても、なんというか、切ないというか、狂おしいというか、そういう歌声なんです。
仲間を呼んでいるとか、いろんな説があるんですけれども、オスが歌うので、メスに対して歌っているという説も昔はありましたね。最近では、オスがほかのオスに歌っているとか、オスが小さい子クジラに歌っているとか、そういう研究もあるみたいですね」
●どういう歌声なんですか?
「低い音が多いですかね。唸るような、牛さんが水中で唸っているような感じなんですけど」
●へぇ〜!
沖縄で有名なザトウクジラ
※ザトウクジラの撮影中に遭遇した印象的な出来事ってありますか?
「沖縄に毎年戻ってくる”Z(ゼット)”っていうクジラがいるんです。沖縄でホエールウォッチングとかホエールスイムをしている人の間では、とても人気のある有名なクジラなんですね。そのクジラをどうしても何年もかけて撮影していきたいなって思うようになって、ようやくここ数年撮れるようになったんです。
普段そのZは、けっこう走り回っていることが多くて、早いんですよ、スピードが。ほかのメスを追いかけていたりすることが多いんですけれでも、たまたま止まっていることがありました。これはすごくラッキーだなって思って、今年何回か止まっているZを撮れたんです。
向こうもこちらの存在に気がついて、くるっと振り返って向かい合わせのような形で向き合っちゃったんですね。もうすごくびっくりしまして・・・。
向こうもとても興味を持ってくれたというか、嫌がらずにずーっと何秒か停止してくれました。その瞬間は撮影じゃなくて、どういう機嫌なのかなとか、どういう目をしているのかなとか、もっと探って仲良くなりたいって言ったら、ちょっと変ですけど、もっと自分の肉眼で見て、その場の空気とかその感覚とか時間を感じたいな、共有したいなと思いましたね」

●Zと呼ばれるようになったのは、どうしてなんですか?
「尾ビレの右側にアルファベットのZみたいな文字が、文字のようにみえるキズが刻まれているんですよ。たぶん岩場とか珊瑚礁で擦れたあとだと思うんですけれども、それで通称Zってみんな呼んでいるんです。30年ほど前から毎年、沖縄に来ているみたいなんですね。とても古株というか身体もすごく大きいですし、とても見応えのあるクジラなんですよ」
●どれくらい大きいんですか?
「やはり15メートル以上はあると思いますね」
●わぁ〜!
ONE OCEAN〜海はひとつ
※長年、海と関わっている篠宮さんは、海の変化も感じていて、特にここ数年、沖縄の海の水温が高くなっていることと、海洋ゴミの問題を危惧されています。
活動のテーマにもなっている「ONE OCEAN〜海はひとつ」というメッセージには、どんな思いが込められているのか、改めて教えてください。
「プラスチックゴミとかビニールのゴミは、海中に漂ったり浮かんだりして、いろんな国に流れていってしまうんですよね。自分が住んでいる沖縄でも、文字を読むと隣の国のゴミがあるなと思いますし、こっちでも出しているゴミが太平洋のほうにも行ってしまっているでしょうし、それはもうお互い様だと思うんですね。
やっぱり(海は)ひとつにつながっているからこそ、大切にしていかなければいけないと思いますよね。海がなければ、地球の気候というのは安定しないですし、海がすべての生き物のルーツでもありますから、海に感謝して大切にしていかないといけないなと思いますね」
☆この他の篠宮龍三さんのトークもご覧下さい。

INFORMATION
『HERITEGE』

篠宮さんの初めての写真集です。沖縄の近海で10年撮り続けているザトウクジラだけの写真集。全編モノクロ写真だからこそ感じるクジラの迫力、その雄大さに圧倒されます。静寂さも感じますよ。沖縄では有名なZと呼ばれるザトウクジラの写真も掲載、見応えのある重厚な写真集です。ぜひご覧ください。お買い求めは篠宮さんのオフィシャルサイトから、どうぞ。
篠宮さんが案内する各種ツアーもありますよ。8月は世界遺産の沖ノ島・玄界灘ツアーや小笠原ツアーなど。また、フリーダイビングのスクールも随時開催。詳しくは篠宮さんのオフィシャルサイトをご覧ください。
◎篠宮龍三さんHP:https://apneaworks.com
2022/7/24 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、野鳥と山登りが大好きなイラストレーター「piro piro piccolo(ピロピロピッコロ)」さんです。
「piro piro piccolo」さんは1989年、東京都出身。多摩美術大学卒業。現在は、野鳥をテーマにイラストや小物を制作されています。
小学生の頃にブンチョウを飼っていたこともあり、鳥好きだったpiro piro piccoloさんは大学卒業後に、友人からバードウォッチングに誘われ、公園でカルガモやカイツブリの子育てを観察、可愛いヒナを見て、一気にバードウォッチングにのめり込んだそうです。
そして、初めての山登りが奥多摩、運動が苦手で、それでも汗だくになって登った山で、野鳥のさえずりに包まれ、こんな世界があったのかと感動されたそうです。
そんな「piro piro piccolo」さんが先頃『なつのやまのとり』という本を出されたということで番組にお迎えすることになりました。
今回は、夏山で見られる可愛い鳥たちの個性豊かな生態や、夏鳥たちを観察するおすすめの方法などうかがいます。
☆イラストレーション:piro piro piccolo

夏山で見やすい鳥たち
※それでは、さっそくお話をうかがっていきましょう。
●まずは、お名前のpiro piro piccoloさん、響きもすごく可愛いなあって思ったんですけど、なにか意味があるんですか?
「イタリア語で、イソシギっていう鳥の名前なんです」
●イソシギっていうのは、どんな鳥なんですか?
「水辺にいる小さなシギの仲間で、尾を上下にフリフリとする動きがすごく可愛い鳥なんです。見た目も可愛くって、磯にもいるんですけど、どちらかというと内陸の川にいるようなイメージで身近な存在です」
●イタリア語の名前は、なにか図鑑とかを見てお知りになったんですか?
「はい、イタリアに鳥を見に行った時に図鑑を買ったんですけど、それをパラパラと見ていたら、ピロピロピッコロって書いてあって、その語感がふざけていて可愛いから、作家名に選んでしまいました」
●確かに可愛いですよね! ピロピロピッコロって(笑)
「ありがとうございます!(笑)」
●そんなpiro piro piccoloさんが先頃『なつのやまのとり』という本を出されました。私も読ませていただきました。野鳥たちの可愛いイラストが満載で、とってもほっこりして癒されました。野鳥の生態とか特徴も一目でわかるので、すごく興味深く拝見しました。

この本には46種の野鳥が載っていますが、これが全部、夏の山で見られる鳥なんですか?
「そうですね。夏の山で見やすい鳥をピックアップしてるんですけど、この本では私が東京に住んでいるので、関東甲信越で見やすい鳥に絞っています」
●夏の山の鳥に絞ったのは、どうしてなんですか?
「夏山って鳥のさえずりがすごくて、ちょうど繁殖期なのでパートナーを作るために、そして縄張りを守るために、よくさえずっています。特に初夏がおすすめなんですけど、山を登っている途中に絶えず、なにかしらの鳥が歌っているという感じですね」
●掲載されている46種の野鳥は、図鑑だったら普通は、あいうえお順になっているとか、そういったことが多いですけれども、この本はそうなっていないですよね。何かこだわりがあるんですか?
「はい、麓から登っている間に、会える順番をイメージして描かせていただきました。大体なんですけれども、似た種類の鳥でも標高によって違ったりして、堅苦しくなく親近感がわくように、図鑑とはまた違う観点で描かせてもらいました」
●麓から登っている途中に見られる順っていうことは、標高順に下から上ってことですよね?
「そうですね」
●夏の山にいる野鳥は、一年中いるわけではないんですよね?
「はい、なかにはずっといる鳥もいるんですけど、基本的には繁殖するために来ている鳥たちです。餌が少なくなってくると、冬は平地に降りて行ったりとか、南の暖かい国に海を渡って行ったりします」
鳴き真似をするとモテる!?
※本に載っている野鳥の中から、いくつかピックアップしてお話をうかがっていきたいと思います。「キビタキ」という野鳥は、鳴き真似をすると書かれていますが、そうなんですか?

「あ、はい! すごくよくします。あのツクツクホウシとか、コジュケイっていう鳥がいるんですけど、その鳴き声とか真似します」
●この本にもピッピホイピーとか、周りの声からもいろいろ真似している、学んでいると書いてありましたけど、真似できるんですね。
「たくさん真似することで、メスにアピールしているんです。これくらい俺はできるんだぞ!って。だからモテるために鳴き真似していますね」
●鳴き真似するとモテるんですか?(笑)
「そうなんです(笑)。歌のレパートリーが多いことを自慢しているような感じだと思うんですけど・・・」
●へぇ〜、鳥の世界では鳴き真似できるほうがモテるんですね〜(笑)。
「そうですね〜(笑)」
●ほかにも鳴き真似する鳥はいますか?
「クロツグミとかオオルリとか、コサメビタキっていう小鳥も、けっこう鳴き真似をしています」
●じゃあモテるんですね!(笑)
「そうだと思います!(笑)」
●日本三鳴鳥(さんめいちょう)というのがあると書かれていましたけれども、これはどんな野鳥が鳴鳥なんですか?
「日本の鳥の中でもさえずりが美しいとされる、オオルリ、コマドリ、ウグイスの3種になります」
●鳴く鳥はたくさんいると思うんですけど、その中でもトップ3というか・・・。
「そうですね。個人的にはあまり納得できないんですけど、ほかにも綺麗な鳴き声の鳥たちがいるので・・・ただ昔は、野鳥を飼って鳴き声を楽しむ文化がありまして、その中でも捕まえやすいとか、飼いやすい点を踏まえて、この3種が選ばれたそうです」
●ちなみにpiro piro piccoloさんが三鳴鳥を選ぶとしたら、どんな鳥になりますか?
「すごく難しいんですけど、イカルっていう鳥が含まれていないのが、個人的には納得できなくて・・・何て言えばいいんだろう、牧歌的な綺麗な声でさえずるんですよ。高原にいるような・・・だからその子は入れてあげたいんですね」

●どんな声で鳴くんですか?
「イカルは、地域によって差があるらしいんですけど、私がよく聴くのは”キーコキー”って綺麗な声で鳴きます。あとは、ウグイスは唯一無二の鳴き方なので、そのままでいいなあって思っています。もう一羽入れるとしたら、悩みどころなんですけど、オオヨシキリっていう山にはいない鳥で、鳴き方がすごく変わっていて、個性的なので(三鳴鳥に)入れてあげたいなあって思います」
●どう個性的なんですか?
「”ギョシギョシ ギョギョシギョギョシ”って鳴くんです。その声がすごくうるさい(笑)っていうか、やかましい感じなんですけど、鳴いているだけで、その子がいるなあって気づけるので、とても存在感のある鳥です。それが面白いので入れてあげたいです」
多夫多妻、子育て共同、イワヒバリ
※実は、人をあまり恐れない野鳥も意外といるようで、中でも「イワヒバリ」という鳥はpiro piro piccoloさんのお気に入りみたいですね。どのあたりにいる、どんな鳥なんですか?
「標高2500メートルくらいの高山の岩場に棲む、スズメくらいな小鳥なんですけど、背中が岩みたいな色で、すごく地味な鳥です」

●気づくと足元にいて、こちらが驚くと、本には書かれていましたけど、それぐらい人懐っこいってことですか?
「人懐っこいっていうか、あまり人を気にしない性格なんでしょうね(笑)」
●どんな生態なんですか。イワヒバリって?
「イワヒバリは、子育ての方法がすごく面白くって、まず多夫多妻制で、しかもヒナを共同で育てます。グループで行動しているんですけど、そんな鳥はほかにはいなくって、高山の厳しい環境だからこそ、そういうふうに子育てしないと、確実に子供を育てあげられないんでしょうね。そんな進化の仕方をしたみたいですね」
●みんなで協力しあって育てているんですね! で、岩にいるんですか?
「あ、そうですね。名前の通り、岩場に棲む鳥です。ヒバリって名前がつくように、すごく鳴き声も綺麗で、よく歌いながら歩いている姿を見かけますね」
●そうなんですね〜。
※イワヒバリ以外に特に心惹かれた鳥っていますか?
「あとは、好きな鳥なんですけど、ホシガラスです」

●カラスの仲間なんですか?
「そうなんです。カラスの仲間なんですけど、全身に星模様があって、綺麗な鳥なんです。森林限界って呼ばれる、あまり木が生えない、環境の厳しいところに棲んでいます」
●カラスと言えば、真っ黒いイメージがありますけど、模様があるんですね?
「それが名前の由来になっています」
●(本に掲載されているイラストを見て)ホシガラス、綺麗ですね〜。
「この子が面白くって、その子もあまり人を気にしないタイプの鳥なんです。登山道に出てきて、ハイマツっていうそのあたりに生えている松の仲間の実をくわえて、目の前でほじくり出して、中身を集めるんですね」
●へぇ〜すごいですね〜。
「それを喉いっぱいに溜めて、やっとどこかに運んでいくっていう姿が見られます」
●喉を見るのもなんか楽しいですね。膨らんでいるわけですね。
「けっこう膨らんでいます」
早朝のさえずりのシャワー
※夏山シーズン真っ盛りですが・・・piro piro piccoloさん、野鳥観察に行くのに
これはあったほうがいいという持ち物はありますか?
「絶対に双眼鏡だと思っています」
●双眼鏡!
「双眼鏡さえあれば、荷物になるし、ほかの道具はいらないといっても過言ではないんですけれど、だんだん欲が出てきて、カメラとか録音用の機材とか欲しくなっちゃいますね」

●確かにこの本『なつのやまのとり』にも、PCMレコーダーを持ち歩くって書かれていましたけれども、これは野鳥の鳴き声を録音する機材ってことですよね?
「まさにその通りです。鳴き声を聴いても、鳥の種類が分からないことって多々あるんですね。録音しておくと、家に帰ってから聴き返してネットで検索したりとか、鳴き声のCDが付いている図鑑で調べたりとかして、それでやっと野鳥の種類がわかるっていう、勉強の仕方をしています」
●鳴き声を覚えるのには、やっぱり役立ちますね。
「そうなんですよ。鳴き声って、例えば”ホーホケキョ”とかだったら馴染みのあるので・・・”聞きなし”っていうんですけど、人間の言葉に置き換える方法が難しくって、例えばコサメビタキがどんな声だったかって言われると、ぜんぜん表現できないので、今はそうやって録音することが重要だと思っています」
●野鳥たちは、早朝によく鳴くイメージがあるんですけれども、piro piro piccoloさんは、明け方に山に行ってるんですか?
「はい」
●だいたい何時くらいに?
「夜明け前がベストですね。夏になると(午前)3時くらいに着かないと、朝のさえずりの、始まる時間が楽しめないので、気合いで朝早く山に向かうようにしています」
●なかなかハードなんじゃないですか?
「ハードですよ(苦笑)。私も朝は得意ではないので、きついところはあるんですけど、一度さえずりのシャワーを経験してしまうと、それを聴けないのは損だな〜と思えるようになってしまって、気合いで行くようにしています。
泊まりのパターンもよくありますね。そのほうが楽ではあります。テントに泊まったりすると、鳥の声も近く感じられるし、早朝の第一声を聴くことができるのでおすすめです」
●テントに泊まって、朝を待ってという感じなんですね。
「そうですね」
●夜に野鳥は鳴いたりするんですか?
「実は夜も鳴くんです。フクロウとかヨタカとか、夜行性の鳥はまだわかるんですけれど、特にホトトギスっていう鳥がすごくて、昼も鳴いているのに夜も鳴きながら飛び回っているっていう変わった鳥です」
●テントに泊まるのも楽しそうですね。
「そうですね。たぶん人によっては、うるさくて眠れないっていう人、けっこういらっしゃるかもしれないです」
一生懸命さに心洗われて

※野鳥たちを観察するときに心がけていることはありますか?
「自分は彼らにとって邪魔かもしれないって、常に心に思っておくことですね。鳥の気持ちになって考えたら、双眼鏡で覗かれてるって、絶対気持ちよくないものだと思うので、長居はせずに今こうして覗かせてくださいまして、ありがとうございます! っていう、そんな気持ちで(山に)いさせてもらっています」
●なるほど、敬意を持っているわけですね。山で野鳥たちを観察していてどんなことを感じますか?
「みんな頑張って一生懸命生きているなあって思うことばっかりですね。登りで鳴いていたオオルリが、帰りも同じ谷で一生懸命鳴いていたりするんです。そのさえずりのペースも朝よりは下がっていて、それだけずっと鳴いていたんだ〜って、疲れを感じさせたりとか・・・あとヒナがかえるとまた必死さがすごくて、登山道に出てきてまで餌を集めたりとか、そういう姿を見せてもらえるので、みんなすごいな〜って心が洗われる感じです」
●最後にこの本『なつのやまのとり』に込めた思いをぜひ聞かせてください。
「見やすい鳥に絞って46種類載せているんですけれど、こんなにもたくさんの鳥がまさにこの時期に一生懸命、山で子育てをしているんです。なので、山頂を目指さなくていいし、ゆっくり登れば、運動が苦手な私でもなんとかなったので、ぜひみなさん頑張って登って、実物を見に行ってほしいなと、そういう思いで描かせていただきました」
INFORMATION
夏山で見かける野鳥を46種、麓の登山口から頂上に向かうイメージで順番に紹介。野鳥の姿はもちろん、鳴き声や面白い特徴を、きれいで可愛いイラストで解説してあります。ページをめくるたびに、可愛い野鳥たちの虜になると思います。なにより、piro piro piccoloさんの鳥たちへの愛情を感じますよ。ぜひご覧ください。
山と渓谷社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎山と渓谷社HP:https://www.yamakei.co.jp/products/2822590530.html
piro piro piccoloさんのオフィシャルサイトも見てくださいね。
◎piro piro piccoloさんHP:https://iirotorii.tumblr.com/