2022/8/7 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」の「鈴木敦子(すずき・あつこ)」さんです。
鈴木さんが2003年に設立した「環境リレーションズ研究所」は環境意識が高いといわれている日本の人たちに、もっとアクションを起こしてもらいたい、そのためのプラットフォームを作っていこうと活動をスタート。現在は、森づくりを主な事業として取り組んでいます。
中でも「人生の記念日に木を植えよう」をコンセプトに、2005年から全国で進めている「プレゼントツリー」プロジェクトに注目が集まっています。
いったいどんなプロジェクトなのか、じっくりお話をうかがいます。
☆写真協力:認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」

森林再生の入り口=プレゼントツリー
※この「プレゼントツリー」、文字通り、木をプレゼントする活動のようですが、具体的にはどんなプロジェクトなのか、教えていただけますか。
「森を守ろうというと、9割以上の日本人の方々は賛同してくださるんです。でも、森にまで行ったことのある人って少ないんです。渚沙さんは森に行ったことありますか? 森林再生したことありますか?」
●いや〜確かにそう言われると・・・。
「なかなか入り口がどこにあるかということも含めて、すごく入りにくいのかもしれない。なので、そういう人たちに入り口を設けることで、あなたの大切な人やあなた自身の人生の記念日に木を植えませんか。その木を大切な人にプレゼントしませんかっていう、そういうコンセプトでスタートをしているのが、このプレゼントツリーです。

プレゼントという言葉の意味としては、自分自身へのプレゼント、もしくは大切な人へのプレゼントっていう意味と同時に、森を再生するという意味で森へのプレゼント、そこに記念樹を植えることによって森が再生される。それからひいては日本全体の森が潤っていくというそういうプレゼント、そしてそれは未来の地球に対するプレゼントでもありますよって、そんな意味を込めてプレゼントツリーという名前を付けています。
要するに森が近くにある人たちは、森づくりに参加するのも、もしかしたら簡単なのかもしれないです。でも、都会にいる私も、渚沙さんもきっとそうだと思いますけれども、都心部に住んでいらっしゃるかたがたは、どうも森まで少し距離がある。
精神的な距離もあるとするならば、記念日に記念樹、記念の木を植えることによって、その木を地元と一緒に育てていく。で、育てることによって、やっぱり木って育ちますから、大きくなりますから、そこに愛着が湧いて愛着も大きく育っていくんです。
我々は森林整備協定というのを結びながらやるんです。最低10年、地元の自治体にも入ってもらって、地元の森林保全してくださる林業家さん、森林組合さんであることが多いんですけれども、そういうところにも入っていただきます。
10年以上、都会の記念樹を植えた人たちと、それから地元の主たる人たち、地元の森林行政を司る自治体さん、自治体が市だったら市長さん、それから森林組合さん、もしくは地域に森林組合がない場合は林業家さんに入っていただいて、かつその森の所有者さんと私共と4者で協定を結ぶんです。

10年ってすごく長いじゃないですか。子供が生まれると10歳になっちゃうし、10歳の子の誕生日プレゼントに記念樹を植えれば、その子が20歳になるわけですからね。その長い年月を共に、記念の木を育てていくというプロセスを通じて、その地域とのつながりを作っていく。そうすることによって森だけでなく、地域まるごと元気にしていこうじゃないかっていう、そんな取り組みです」
(編集部注:鈴木さんがおっしゃるには、地域がうるおわないと、森に人手もお金もかけられない。つまり森林再生と地域振興はセットということです)
里親と木の対面に感動
※一般の方が、この「プレゼントツリー」の活動に参加したいと思ったら、どうすればいいですか?
「簡単です。ググって、 プレゼントツリーって入れていただくと、すぐにうちのサイト出てまいります。そのウェブサイトに、だいたい常時5〜6箇所ぐらい、植えられる場所をご準備させていただいております。その中から好きな場所を選んでいただいて、そこに1本植えようとか2本植えようとかってお申し込みいただくと、お手元に、この地域のこの区画にあなたの木が、何番という管理番号のもとに植えられ育てられますよという植樹証明書というものが届きます」
●植える場所も選べるんですね。
「そうですね。木は残念ながら、いろんな木を植えていますので、選べないんですけれども、場所は受け入れている場所であれば選べます」
●木の里親になるっていう感覚ですよね。
「その通りです。さすが!」

●里親になった方々に現場まで来てもらって、木を植えてもらうっていうことなんですか?
「基本的に植物は、植える適切な時期って決まっちゃっています。1年間のうちに、例えば雪がたくさん降るような地域は、だいたい雪の降る直前。それ以外の地域は春植えであることが多いんです。
なので地域によって、春か秋に、その年にお申し込みを受けた人たちの記念樹を、私どもが責任を持って、地域の林業のプロの方々の手で植えていただくんですけれども、年に1回植える、よいタイミングにみなさんをお招きして、参加しませんかってお声がけしますので、その時にもし参加できるようであれば、ご自分で植えられるっていう、そういう仕組みになっています」
※里親になった木がどれくらい大きくなったのか、見てみたい、そう思う方も多いと思いますが、鈴木さんからは、植えられた場所に行くことはできても、どんどん成長して、森のようになっていることが多いので中に入るのは難しいでしょうとのことでした。
それでも、里親と木の対面が実現した、こんなエピソードを話してくださいました。
「千葉県山武市というところで、プレゼントツリーの森を10年前にスタートして、ちょうど去年10年で満了を迎えたんです。その満了を迎える直前に、やっぱり最後にみなさんに集まっていただこうということで、(コロナ禍で)県をまたぐということ自体が推奨できなかったものですから、県内の方々限定で、プレゼントツリー山武の森に植えてくださった里親の方々にお声掛けして、里山体験イベントっていうのをやらせていただいたんです。

その時に、10年前に植えてくださった里親の方が、植樹証明書をお持ちになられて、”私のこの木は、今どこでどんなふうに育っているのか見たくてきました!”っておっしゃってくださって・・・。
その山武エリアは杉の区画もあるんです。山武杉(さんぶすぎ)という有名な地域の杉が、地域資源としてブランドになっているものですから。
我々は天然林の森に戻していくので、広葉樹であることが多いんです。多くの森はたくさんの種類の広葉樹を植えて、もともとその地にあった自然の森の姿に戻していく活動ではあるんですけれども、(山武エリアは)地元の方々のご要望にお応えして一部、杉を植えていました。

その里親の方は、山武杉のエリアだったんです。杉はスッとしていて、下のほうに枝があまりありませんので、入っていけたんですよ。山武杉は育ちの早い杉なので、10年経つと相当大きな杉になっていましたね。ご自分の木を確認いただいて、とても喜んでお帰りいただいたというのは、私自身が感動しました」
もともとの姿の森に
※「プレゼントツリー」プロジェクトでは、どんな木を植えているんですか?
「基本的には、どういう地域からプレゼントツリーのお呼びが掛かるかと言いますと・・・戦後に拡大造林政策っていう、難しい話は端折りますけれども、戦後の復興期に建設ラッシュが起こり、木材が足りなくなってしまって、その時に自然の森はどんどん杉とかヒノキの人工林、要は木材を作るための森に国が主導して変えていったんです。
そういうところが伐期(ばっき)を迎えると・・・同じ時期にいっぺんに自然の森から人工林に変えて、杉とかヒノキを植えてますから、伐る適切な時期を迎えるタイミングが一斉に、広範囲に広面積に同じ時期に伐らなきゃいけなくなっちゃうんです。

そうすると一気にハゲ地が広がりますよね。なんとなく想像してわかりますでしょ。そういうところは、本来は山の所有者さんが再植林、もう一度森に戻すという義務を、日本の法規制上は負っているんです。
でも、プレゼントツリーの活動を始めた2005年頃は、日本の木材自給率がものすごく低くて、20%を切っているか切らないかくらいの頃だったんですね。そういう時は経済的な理由で、(木材を)売ったけれども、そのお金では再植林するコストは賄えませんっていう方々が多かったんです。
そういう森を我々が、山の持ち主さんがもうお手上げですっておっしゃているような森だから、もともとの姿の森に戻そうよ、そういうところからスタートしていますので、その地域に自然に生えてくる樹種、木の種類というものを少し調べさせていただいて、地元の林業のプロの方々と、それから自治体の方々にご相談させていただきながら進めています。
それでも地域に還元されないような樹種を植えても、あまりうまくいきませんから、長続きしませんから、プラス、先ほどの千葉県山武市のように、地元にもともと自然に生えている樹種と同時に、山武杉という有名な杉のブランドがあったので、(地元の方から)これも植えたいんです、みたいな話があると、一部そういうのも植えていきましょうという、かなり多様性に富んだ森づくりを行なっています」
(編集部注:「プレゼントツリー」プロジェクトでは現在、国内37箇所で森づくりを行ない、これまでに植えた木は30万本を超えているとのこと)

災害から守ってくれる森
※鈴木さんが森づくりを主な事業にしようと思ったのは 日本の森が荒廃していくという危機感みたいのものがあったんですか?
「ひとつには、もともとNPOを立ち上げた時の背景と同じように、先ほど来、申し上げているように、これだけ森が好きな国民なのに、なぜ森づくりということをしてくれないんだろう。この人たちが森づくりをしてくれれば、森づくりに参加してくれれば、ハゲ地がもっと減るのになと。
実はハゲ地に再植林できない、なんらかの事情があって、経済的な事情だった時代もあれば、今のように日本全国高齢化していますから、年齢的に森の面倒を見きれません、みたいな事情もあります。
(日本は)これだけ森が豊かだと言われていて、これだけ森林政策、森林行政も相当テコ入れが進んでいるにもかかわらず、ハゲ地の面積って実は減っていないんです。要は伐った後に再植林するスピードが遅いままなんですよ。常時、伐った面積の3分の2ぐらいは、ずーっと再植林できないまま置かれちゃっているんです。
これが目立つので、そこで何が起こっているか分かりますよね。今、ハゲ地にしておくと(ここ数年)豪雨の頻度が高まる、台風の勢力が巨大化している、異常気象が頻発する日本では・・・そういうハゲ地が自然のまんま森に戻るのを待つと、何年かかると思いますか。100年かかっちゃうって言われているんですよ。
だから人の手で木を植えて、森に戻るスピードアップを手伝ってあげないと。その間にどれだけ豪雨が襲いますか。台風が襲いますか。森があれば、そこはそんなに急激に崩れたりとかせずに、土砂災害の被害も小さく抑えられる、阻止することにつながるわけですよね。にもかかわらずハゲ地のままであるから、どんどん崩れていってしまう。
森をつくっておいたところ、特に天然の形の森、もともとその地にあった、その風土にあった、力強い森に戻していたエリアは崩れていないんですよ。やっぱりハゲ地にしておくとそれだけリスクが高い。だからそのままにしておくことがすごく気になって・・・。
森の役割は生き物のため、地球温暖化防止にもなる、それから綺麗な水とか美味しい水も作ってくれるとかいろいろあるんですけれども、やっぱり日本で大事なのは、災害から守ってくれる、地域を守ってくれるっていうのがいちばん大事なんじゃないかなと思います」
●先ほども天然林に近い森にするのが目標だというお話もありましたけれども、やっぱりそれは自然災害にも強いっていう思いがあるってことですね。
「そうですね。その地に昔からあった形に戻すわけですから、やっぱり強い森になります」

全都道府県、100万人100万本
※「プレゼントツリー」プロジェクトの森づくりは、現在、国内37箇所ということですが、今後の目標としては、何箇所くらいまでを見据えているのでしょうか?
「もうね、全都道府県でやりたいなと。というのは、やっぱりそれぞれ人生にはいろいろとストーリーがあって、それぞれの人たちがそれぞれの地域にそれぞれの思い入れがあるので、自分ゆかりの地域の森を応援したいっていうお声もたくさんいただきます。
なので、全都道府県でやりたいなというひとつ大きなビジョンがありますし、もうひとつは100万人100万本、ここまで早く到達できたら嬉しいなと思っています」
●鈴木さんが環境リレーションズ研究所を設立して20年近くが経とうとしています。その間、地球温暖化の影響が顕著なものとなって、その一方でSDGsの達成が私たちには課せられています。最後に鈴木さんに今どんな思いがあるか、改めて聞かせていただけますか。
「はい、ありがとうございます。ありがたいことにSDGsって、いろいろなところで、国連さんが旗を降り始めて、次にESG投資なんていう言葉も、お聞きになったことがある方は多いんじゃないかなと思います。その時々に社会的な背景で、森林ブームとか森づくりブームっていうのがくるんですけれども、一過性のブームで終わらせたくないなっていうのはあります。
2005年にスタートさせた直後も、第一期森づくりブームっていうのが、我々のプレゼントツリーの活動の中で起きたんです。すごくたくさんの人たちが入ってきてくださったんですけども、それが一段落すると一気にいなくなるっていう現象にも悩まされています。
森は100年のビジネス、100年の事業、100年の活動なんです。そのうちの冒頭の10年だけ、みんなで分担し合いましょうよ。11年目以降から100年まで地元の方々に頑張っていただきたいっていう、そういう思いと長期のビジョンを、ぜひみなさんと共有していただけるような、様々なお伝えの仕方をこれから頑張っていきたいなって思っています」
INFORMATION
「環境リレーションズ研究所」が進めている「プレゼントツリー」プロジェクトにぜひご参加ください。あなたの記念日にご自身に、または大切なかたの結婚や出産、誕生日などに木を贈りませんか。鈴木さんもおっしゃっていましたが、それが地域の森や、ひいては地球へのプレゼントになります。
苗木の里親になると、植樹証明書やメッセージカードなどが送られてきます。植える場所、植栽地については、オフィシャルサイトを見ると、現在は8箇所から選べるようになっています。その中には、今年から始まった東京都の檜原村や、首都圏に近い場所として山梨県笛吹市がありますよ。

1本の苗木の里親になる料金は、苗木代や、苗木を守る防護ネット、そして下草刈りの費用などを入れて、1本5000円前後だそうです。ただし、木のオーナーになるわけではないので、10年経ったら地元に戻すことになります。鈴木さんはぜひ、里親として見届けてほしいおっしゃっていました。
「プレゼントツリー」プロジェクトについて詳しくは認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」HP:https://www.env-r.com/
◎「プレゼントツリー」プロジェクト専用サイト:https://presenttree.jp/
2022/7/31 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、沖縄在住のフリーダイバーで写真家の「篠宮龍三(しのみや・りゅうぞう)」さんです。
篠宮さんは1976年、埼玉県出身。人間で初めて素潜りで100メートル超えを達成したジャック・マイヨールに触発されてフリーダイビングの道へ。国内唯一のプロ選手として、世界を転戦し、2010年に115メートルというアジア記録を樹立。
そして2016年に第一線を退いたあとは、沖縄で現役の頃から続けていた、フリーダイビングのスクールや大会を運営。さらに「ONE OCEAN〜海はひとつ」をテーマにした活動もされています。ホームの海は宜野湾だそうです。
そんな篠宮さんが先頃、『HERITAGE(ヘリテージ)』という写真集を出されました。この本は、沖縄近海で捉えたザトウクジラだけを掲載した写真集で、篠宮さんにとっては記念すべき1冊目の写真集です。
水中写真は現役の頃から撮っていたそうですが、野生の生き物が相手の撮影は、競技よりも難しいとのこと。酸素ボンベはつけずに、重いカメラを持って潜る、一息1〜2分の勝負なので、いい写真が撮れた時の感慨はひとしおだそうです。
きょうは、10年撮り続けているザトウクジラへの思いと、海中での驚きのエピソードなどお話しいただきます。
☆写真:篠宮龍三


HERITAGEに込めた思い
※改めて、この『HERITAGE』という写真集を出そうと思ったのは、どうしてなんですか?
「10年ぐらい、ホエールスイムというんですけれども、冬の間、沖縄にやってくるザトウクジラと一緒に泳いだり、撮影をしたりということにチャレンジしてきたんです。10年前は、なかなかやりかたもわからずに、相手は野生動物ですから、どうやって向こうの機嫌を見極めて、うまくアプローチをして撮影をしたりとか、そういうことがまったくわからなかったんですね。
ここ2〜3年で、うまく撮れるようになってきましたし、もしかしたらですけど、ザトウクジラ全体の数が増えているような感じで、より見やすくというか、アプローチしやすくなってきましたので、ひとつ10年という区切りで形に残しておきたいなと思って写真集を作りました」
●撮影場所は沖縄の海のみなんですか?
「はい、沖縄の北部と奄美と、あとは八重山のほうですね。だいたいこの3箇所で撮影しています」

●「HERITAGE」というタイトルに込められた思いは?
「沖縄本島北部と八重山と奄美大島は、去年世界遺産に登録されましたよね。その世界遺産は、英語でいうと”WORLD HERITAGE”ですよね。そこからワンワードもらって”HERITAGE”というタイトルにしたんですけれども、日本語に訳すと多分、伝承とか継承とか、後世に残すという意味があると思うんです。
10年撮ってきて、この先の10年もやっぱりクジラたちが安心して、また沖縄の海に毎年毎年戻って来てくれるようにという、そういう思いを込めて”HERITAGE”という名前をつけました」
●ザトウクジラは一年中、沖縄の海にいるわけではないんですよね?
「そうなんですよ。夏はロシアとかアラスカのほうにいて、いっぱい餌を食べて、身体を太らせて、春になると沖縄に南下して来て、出産とか子育てとか繁殖活動を行なって、それで3〜4ヶ月経ったら、また北のほうに帰っていくっていうことの繰り返しをしているんですね」
●撮影しようと思っても、そんなにいつもは出会えないっていう感じなんですね。
「(出会えるのは)冬の間、3ヶ月くらいですかね」
モノクロ写真は肌の色!?
※この写真集『HERITAGE』は全編モノクロ写真なんですが、あえてモノクロで表現したのはどうしてなんですか?
「クジラの肌というか、地肌がやっぱりモノクロなんですよ。黒と白とそれからグレーの部分があるという感じなんですけども、その色そのものを出すには、写真をモノクロにしてしまったほうが、より雰囲気としては近づけるなというのもありますし、青い海に浮かんでいるクジラってとても綺麗だと思うんですけれども、それほど海は青くはないんです、実は。沖縄の海は結構プランクトンが豊富で、ちょっと緑がかっているんですね。
見た目をよくするために、編集でどんどん青くしちゃったりとか、映える写真にしてしまうんですけど、それだと本質というか、本来のクジラの肌の色は出なくなっちゃうかなとも思いました。見た目が華やかな写真も素敵だと思うんですけど、クジラのそのものの色を出したいなと思って、モノクロで仕上げました」

●なるほどー。写真を見ると、かなり近づいて撮影されているように感じるんですが・・・?
「そんなに近づきすぎるとすごく嫌がるんですよね。野生動物ですし、警戒もしますし、こっちに来るなっていうふうに腕を振ってくる時もあります。
だから、そういうふうにストレスを与えるようなことはしたくないなって思って、レンズを変えたり、ちょっと望遠気味のレンズを使ったりして、寄ったような写真にしているという感じです。そんなにすぐ近くまでは寄らないように気をつけていますね」
●一日かけて撮影に臨むとして、だいたい何頭くらいに出会えるんですか?
「そうですね。いちばんピークの時期、3月中旬とかなんですけれども、5頭から10頭という感じですかね。まあ1頭会えればいいという時もあるし、1頭も会えないという時もありますので、やっぱり自然相手のものだなと思いますね」
表情は目に現れる
※これまでに出会ったザトウクジラで、いちばん大きな個体は全長、何メートルくらいですか?
「おそらく15メートルは超えていると思いますね」
●えーっ、15メートル! 怖くないですか?
「やっぱり15メートルを超えてくると、かなり大きな部類に入ってきますし、水中では屈折率の関係で物が1.4倍に見えるんですよ。なので余計大きく見えるんですね。そういうかなり大きな個体に会った時は、圧倒されて怖くなりますね」
●それはそうですよね〜。ザトウクジラと目が合うこともあるんですか?
「もちろん! やっぱり目を見て、相手の様子をうかがうことが、まず大事だと思っているんですよ。目に表情が現れるんですね、意志というか感情というか。怒っているとか近寄るなとか、受け入れてくれているとかね。
そういうのがすべて目に現れるので、まず目を見て確認をして、もう少し寄っても大丈夫かなとか、これはもう引いた方がいいかなとか。特に子供を連れている、子育てしているお母さんクジラは、神経質になっている場合がありますので、そういう時は離れて見守るとか、そういうこともしていますね」

●目でわかるんですか。すごい!
「まあそうですね。やっぱり同じ哺乳類ですし、ガッと(目を)見開いている時は、怒っていたり驚いていたりとか、そういう状態なので、そういう時は離れるようにしますね」
●ザトウクジラって、近くにいる人間を認知して、大きなヒレが当たらないように避けてくれた、なんて話も聞くこともあるんですけど、そういうこともあるんですか?
「そうですね。とても繊細な生き物なので、間違ってぶつかっちゃったりとか、そういうことは、ほとんどないんですよね。すごく大きな巨体で、胸ビレの長さだけで4メートルくらいあるんですけど、それでもぶつからずにうまく身をかわして避けていくので、すごいなって思いますね」
●撮影中に心がけていることはありますか?
「やっぱり海の中ですから、自然相手の野生動物相手なので、安全に行って帰ってくることをまず大事にしています。それと相手にストレスをかけすぎないっていうか、追いかけすぎないようにしてますね。
親子クジラだと、お母さんクジラがちょっと神経質になっている場合もあるし、子供のほうが逆に興味を持って寄って来てしまうこともあるし、そういう時は逃げないといけないですけどね。そういうふうに向こうの機嫌もよく見ながら、あまり嫌な思いをさせないようにと考えていますけどね」
ザトウクジラの歌
※ザトウクジラは「歌うクジラ」としても知られていると思うんですが、篠宮さんは、ザトウクジラの歌を聴いたことはありますか?

「はい、歌うクジラのことを”シンガー”っていうんです。冬になると、素潜りのトレーニングや講習中によく水底で聴こえてくるんですね。その声がとても、なんというか、切ないというか、狂おしいというか、そういう歌声なんです。
仲間を呼んでいるとか、いろんな説があるんですけれども、オスが歌うので、メスに対して歌っているという説も昔はありましたね。最近では、オスがほかのオスに歌っているとか、オスが小さい子クジラに歌っているとか、そういう研究もあるみたいですね」
●どういう歌声なんですか?
「低い音が多いですかね。唸るような、牛さんが水中で唸っているような感じなんですけど」
●へぇ〜!
沖縄で有名なザトウクジラ
※ザトウクジラの撮影中に遭遇した印象的な出来事ってありますか?
「沖縄に毎年戻ってくる”Z(ゼット)”っていうクジラがいるんです。沖縄でホエールウォッチングとかホエールスイムをしている人の間では、とても人気のある有名なクジラなんですね。そのクジラをどうしても何年もかけて撮影していきたいなって思うようになって、ようやくここ数年撮れるようになったんです。
普段そのZは、けっこう走り回っていることが多くて、早いんですよ、スピードが。ほかのメスを追いかけていたりすることが多いんですけれでも、たまたま止まっていることがありました。これはすごくラッキーだなって思って、今年何回か止まっているZを撮れたんです。
向こうもこちらの存在に気がついて、くるっと振り返って向かい合わせのような形で向き合っちゃったんですね。もうすごくびっくりしまして・・・。
向こうもとても興味を持ってくれたというか、嫌がらずにずーっと何秒か停止してくれました。その瞬間は撮影じゃなくて、どういう機嫌なのかなとか、どういう目をしているのかなとか、もっと探って仲良くなりたいって言ったら、ちょっと変ですけど、もっと自分の肉眼で見て、その場の空気とかその感覚とか時間を感じたいな、共有したいなと思いましたね」

●Zと呼ばれるようになったのは、どうしてなんですか?
「尾ビレの右側にアルファベットのZみたいな文字が、文字のようにみえるキズが刻まれているんですよ。たぶん岩場とか珊瑚礁で擦れたあとだと思うんですけれども、それで通称Zってみんな呼んでいるんです。30年ほど前から毎年、沖縄に来ているみたいなんですね。とても古株というか身体もすごく大きいですし、とても見応えのあるクジラなんですよ」
●どれくらい大きいんですか?
「やはり15メートル以上はあると思いますね」
●わぁ〜!
ONE OCEAN〜海はひとつ
※長年、海と関わっている篠宮さんは、海の変化も感じていて、特にここ数年、沖縄の海の水温が高くなっていることと、海洋ゴミの問題を危惧されています。
活動のテーマにもなっている「ONE OCEAN〜海はひとつ」というメッセージには、どんな思いが込められているのか、改めて教えてください。
「プラスチックゴミとかビニールのゴミは、海中に漂ったり浮かんだりして、いろんな国に流れていってしまうんですよね。自分が住んでいる沖縄でも、文字を読むと隣の国のゴミがあるなと思いますし、こっちでも出しているゴミが太平洋のほうにも行ってしまっているでしょうし、それはもうお互い様だと思うんですね。
やっぱり(海は)ひとつにつながっているからこそ、大切にしていかなければいけないと思いますよね。海がなければ、地球の気候というのは安定しないですし、海がすべての生き物のルーツでもありますから、海に感謝して大切にしていかないといけないなと思いますね」
☆この他の篠宮龍三さんのトークもご覧下さい。

INFORMATION
『HERITEGE』

篠宮さんの初めての写真集です。沖縄の近海で10年撮り続けているザトウクジラだけの写真集。全編モノクロ写真だからこそ感じるクジラの迫力、その雄大さに圧倒されます。静寂さも感じますよ。沖縄では有名なZと呼ばれるザトウクジラの写真も掲載、見応えのある重厚な写真集です。ぜひご覧ください。お買い求めは篠宮さんのオフィシャルサイトから、どうぞ。
篠宮さんが案内する各種ツアーもありますよ。8月は世界遺産の沖ノ島・玄界灘ツアーや小笠原ツアーなど。また、フリーダイビングのスクールも随時開催。詳しくは篠宮さんのオフィシャルサイトをご覧ください。
◎篠宮龍三さんHP:https://apneaworks.com
2022/7/24 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、野鳥と山登りが大好きなイラストレーター「piro piro piccolo(ピロピロピッコロ)」さんです。
「piro piro piccolo」さんは1989年、東京都出身。多摩美術大学卒業。現在は、野鳥をテーマにイラストや小物を制作されています。
小学生の頃にブンチョウを飼っていたこともあり、鳥好きだったpiro piro piccoloさんは大学卒業後に、友人からバードウォッチングに誘われ、公園でカルガモやカイツブリの子育てを観察、可愛いヒナを見て、一気にバードウォッチングにのめり込んだそうです。
そして、初めての山登りが奥多摩、運動が苦手で、それでも汗だくになって登った山で、野鳥のさえずりに包まれ、こんな世界があったのかと感動されたそうです。
そんな「piro piro piccolo」さんが先頃『なつのやまのとり』という本を出されたということで番組にお迎えすることになりました。
今回は、夏山で見られる可愛い鳥たちの個性豊かな生態や、夏鳥たちを観察するおすすめの方法などうかがいます。
☆イラストレーション:piro piro piccolo

夏山で見やすい鳥たち
※それでは、さっそくお話をうかがっていきましょう。
●まずは、お名前のpiro piro piccoloさん、響きもすごく可愛いなあって思ったんですけど、なにか意味があるんですか?
「イタリア語で、イソシギっていう鳥の名前なんです」
●イソシギっていうのは、どんな鳥なんですか?
「水辺にいる小さなシギの仲間で、尾を上下にフリフリとする動きがすごく可愛い鳥なんです。見た目も可愛くって、磯にもいるんですけど、どちらかというと内陸の川にいるようなイメージで身近な存在です」
●イタリア語の名前は、なにか図鑑とかを見てお知りになったんですか?
「はい、イタリアに鳥を見に行った時に図鑑を買ったんですけど、それをパラパラと見ていたら、ピロピロピッコロって書いてあって、その語感がふざけていて可愛いから、作家名に選んでしまいました」
●確かに可愛いですよね! ピロピロピッコロって(笑)
「ありがとうございます!(笑)」
●そんなpiro piro piccoloさんが先頃『なつのやまのとり』という本を出されました。私も読ませていただきました。野鳥たちの可愛いイラストが満載で、とってもほっこりして癒されました。野鳥の生態とか特徴も一目でわかるので、すごく興味深く拝見しました。

この本には46種の野鳥が載っていますが、これが全部、夏の山で見られる鳥なんですか?
「そうですね。夏の山で見やすい鳥をピックアップしてるんですけど、この本では私が東京に住んでいるので、関東甲信越で見やすい鳥に絞っています」
●夏の山の鳥に絞ったのは、どうしてなんですか?
「夏山って鳥のさえずりがすごくて、ちょうど繁殖期なのでパートナーを作るために、そして縄張りを守るために、よくさえずっています。特に初夏がおすすめなんですけど、山を登っている途中に絶えず、なにかしらの鳥が歌っているという感じですね」
●掲載されている46種の野鳥は、図鑑だったら普通は、あいうえお順になっているとか、そういったことが多いですけれども、この本はそうなっていないですよね。何かこだわりがあるんですか?
「はい、麓から登っている間に、会える順番をイメージして描かせていただきました。大体なんですけれども、似た種類の鳥でも標高によって違ったりして、堅苦しくなく親近感がわくように、図鑑とはまた違う観点で描かせてもらいました」
●麓から登っている途中に見られる順っていうことは、標高順に下から上ってことですよね?
「そうですね」
●夏の山にいる野鳥は、一年中いるわけではないんですよね?
「はい、なかにはずっといる鳥もいるんですけど、基本的には繁殖するために来ている鳥たちです。餌が少なくなってくると、冬は平地に降りて行ったりとか、南の暖かい国に海を渡って行ったりします」
鳴き真似をするとモテる!?
※本に載っている野鳥の中から、いくつかピックアップしてお話をうかがっていきたいと思います。「キビタキ」という野鳥は、鳴き真似をすると書かれていますが、そうなんですか?

「あ、はい! すごくよくします。あのツクツクホウシとか、コジュケイっていう鳥がいるんですけど、その鳴き声とか真似します」
●この本にもピッピホイピーとか、周りの声からもいろいろ真似している、学んでいると書いてありましたけど、真似できるんですね。
「たくさん真似することで、メスにアピールしているんです。これくらい俺はできるんだぞ!って。だからモテるために鳴き真似していますね」
●鳴き真似するとモテるんですか?(笑)
「そうなんです(笑)。歌のレパートリーが多いことを自慢しているような感じだと思うんですけど・・・」
●へぇ〜、鳥の世界では鳴き真似できるほうがモテるんですね〜(笑)。
「そうですね〜(笑)」
●ほかにも鳴き真似する鳥はいますか?
「クロツグミとかオオルリとか、コサメビタキっていう小鳥も、けっこう鳴き真似をしています」
●じゃあモテるんですね!(笑)
「そうだと思います!(笑)」
●日本三鳴鳥(さんめいちょう)というのがあると書かれていましたけれども、これはどんな野鳥が鳴鳥なんですか?
「日本の鳥の中でもさえずりが美しいとされる、オオルリ、コマドリ、ウグイスの3種になります」
●鳴く鳥はたくさんいると思うんですけど、その中でもトップ3というか・・・。
「そうですね。個人的にはあまり納得できないんですけど、ほかにも綺麗な鳴き声の鳥たちがいるので・・・ただ昔は、野鳥を飼って鳴き声を楽しむ文化がありまして、その中でも捕まえやすいとか、飼いやすい点を踏まえて、この3種が選ばれたそうです」
●ちなみにpiro piro piccoloさんが三鳴鳥を選ぶとしたら、どんな鳥になりますか?
「すごく難しいんですけど、イカルっていう鳥が含まれていないのが、個人的には納得できなくて・・・何て言えばいいんだろう、牧歌的な綺麗な声でさえずるんですよ。高原にいるような・・・だからその子は入れてあげたいんですね」

●どんな声で鳴くんですか?
「イカルは、地域によって差があるらしいんですけど、私がよく聴くのは”キーコキー”って綺麗な声で鳴きます。あとは、ウグイスは唯一無二の鳴き方なので、そのままでいいなあって思っています。もう一羽入れるとしたら、悩みどころなんですけど、オオヨシキリっていう山にはいない鳥で、鳴き方がすごく変わっていて、個性的なので(三鳴鳥に)入れてあげたいなあって思います」
●どう個性的なんですか?
「”ギョシギョシ ギョギョシギョギョシ”って鳴くんです。その声がすごくうるさい(笑)っていうか、やかましい感じなんですけど、鳴いているだけで、その子がいるなあって気づけるので、とても存在感のある鳥です。それが面白いので入れてあげたいです」
多夫多妻、子育て共同、イワヒバリ
※実は、人をあまり恐れない野鳥も意外といるようで、中でも「イワヒバリ」という鳥はpiro piro piccoloさんのお気に入りみたいですね。どのあたりにいる、どんな鳥なんですか?
「標高2500メートルくらいの高山の岩場に棲む、スズメくらいな小鳥なんですけど、背中が岩みたいな色で、すごく地味な鳥です」

●気づくと足元にいて、こちらが驚くと、本には書かれていましたけど、それぐらい人懐っこいってことですか?
「人懐っこいっていうか、あまり人を気にしない性格なんでしょうね(笑)」
●どんな生態なんですか。イワヒバリって?
「イワヒバリは、子育ての方法がすごく面白くって、まず多夫多妻制で、しかもヒナを共同で育てます。グループで行動しているんですけど、そんな鳥はほかにはいなくって、高山の厳しい環境だからこそ、そういうふうに子育てしないと、確実に子供を育てあげられないんでしょうね。そんな進化の仕方をしたみたいですね」
●みんなで協力しあって育てているんですね! で、岩にいるんですか?
「あ、そうですね。名前の通り、岩場に棲む鳥です。ヒバリって名前がつくように、すごく鳴き声も綺麗で、よく歌いながら歩いている姿を見かけますね」
●そうなんですね〜。
※イワヒバリ以外に特に心惹かれた鳥っていますか?
「あとは、好きな鳥なんですけど、ホシガラスです」

●カラスの仲間なんですか?
「そうなんです。カラスの仲間なんですけど、全身に星模様があって、綺麗な鳥なんです。森林限界って呼ばれる、あまり木が生えない、環境の厳しいところに棲んでいます」
●カラスと言えば、真っ黒いイメージがありますけど、模様があるんですね?
「それが名前の由来になっています」
●(本に掲載されているイラストを見て)ホシガラス、綺麗ですね〜。
「この子が面白くって、その子もあまり人を気にしないタイプの鳥なんです。登山道に出てきて、ハイマツっていうそのあたりに生えている松の仲間の実をくわえて、目の前でほじくり出して、中身を集めるんですね」
●へぇ〜すごいですね〜。
「それを喉いっぱいに溜めて、やっとどこかに運んでいくっていう姿が見られます」
●喉を見るのもなんか楽しいですね。膨らんでいるわけですね。
「けっこう膨らんでいます」
早朝のさえずりのシャワー
※夏山シーズン真っ盛りですが・・・piro piro piccoloさん、野鳥観察に行くのに
これはあったほうがいいという持ち物はありますか?
「絶対に双眼鏡だと思っています」
●双眼鏡!
「双眼鏡さえあれば、荷物になるし、ほかの道具はいらないといっても過言ではないんですけれど、だんだん欲が出てきて、カメラとか録音用の機材とか欲しくなっちゃいますね」

●確かにこの本『なつのやまのとり』にも、PCMレコーダーを持ち歩くって書かれていましたけれども、これは野鳥の鳴き声を録音する機材ってことですよね?
「まさにその通りです。鳴き声を聴いても、鳥の種類が分からないことって多々あるんですね。録音しておくと、家に帰ってから聴き返してネットで検索したりとか、鳴き声のCDが付いている図鑑で調べたりとかして、それでやっと野鳥の種類がわかるっていう、勉強の仕方をしています」
●鳴き声を覚えるのには、やっぱり役立ちますね。
「そうなんですよ。鳴き声って、例えば”ホーホケキョ”とかだったら馴染みのあるので・・・”聞きなし”っていうんですけど、人間の言葉に置き換える方法が難しくって、例えばコサメビタキがどんな声だったかって言われると、ぜんぜん表現できないので、今はそうやって録音することが重要だと思っています」
●野鳥たちは、早朝によく鳴くイメージがあるんですけれども、piro piro piccoloさんは、明け方に山に行ってるんですか?
「はい」
●だいたい何時くらいに?
「夜明け前がベストですね。夏になると(午前)3時くらいに着かないと、朝のさえずりの、始まる時間が楽しめないので、気合いで朝早く山に向かうようにしています」
●なかなかハードなんじゃないですか?
「ハードですよ(苦笑)。私も朝は得意ではないので、きついところはあるんですけど、一度さえずりのシャワーを経験してしまうと、それを聴けないのは損だな〜と思えるようになってしまって、気合いで行くようにしています。
泊まりのパターンもよくありますね。そのほうが楽ではあります。テントに泊まったりすると、鳥の声も近く感じられるし、早朝の第一声を聴くことができるのでおすすめです」
●テントに泊まって、朝を待ってという感じなんですね。
「そうですね」
●夜に野鳥は鳴いたりするんですか?
「実は夜も鳴くんです。フクロウとかヨタカとか、夜行性の鳥はまだわかるんですけれど、特にホトトギスっていう鳥がすごくて、昼も鳴いているのに夜も鳴きながら飛び回っているっていう変わった鳥です」
●テントに泊まるのも楽しそうですね。
「そうですね。たぶん人によっては、うるさくて眠れないっていう人、けっこういらっしゃるかもしれないです」
一生懸命さに心洗われて

※野鳥たちを観察するときに心がけていることはありますか?
「自分は彼らにとって邪魔かもしれないって、常に心に思っておくことですね。鳥の気持ちになって考えたら、双眼鏡で覗かれてるって、絶対気持ちよくないものだと思うので、長居はせずに今こうして覗かせてくださいまして、ありがとうございます! っていう、そんな気持ちで(山に)いさせてもらっています」
●なるほど、敬意を持っているわけですね。山で野鳥たちを観察していてどんなことを感じますか?
「みんな頑張って一生懸命生きているなあって思うことばっかりですね。登りで鳴いていたオオルリが、帰りも同じ谷で一生懸命鳴いていたりするんです。そのさえずりのペースも朝よりは下がっていて、それだけずっと鳴いていたんだ〜って、疲れを感じさせたりとか・・・あとヒナがかえるとまた必死さがすごくて、登山道に出てきてまで餌を集めたりとか、そういう姿を見せてもらえるので、みんなすごいな〜って心が洗われる感じです」
●最後にこの本『なつのやまのとり』に込めた思いをぜひ聞かせてください。
「見やすい鳥に絞って46種類載せているんですけれど、こんなにもたくさんの鳥がまさにこの時期に一生懸命、山で子育てをしているんです。なので、山頂を目指さなくていいし、ゆっくり登れば、運動が苦手な私でもなんとかなったので、ぜひみなさん頑張って登って、実物を見に行ってほしいなと、そういう思いで描かせていただきました」
INFORMATION
夏山で見かける野鳥を46種、麓の登山口から頂上に向かうイメージで順番に紹介。野鳥の姿はもちろん、鳴き声や面白い特徴を、きれいで可愛いイラストで解説してあります。ページをめくるたびに、可愛い野鳥たちの虜になると思います。なにより、piro piro piccoloさんの鳥たちへの愛情を感じますよ。ぜひご覧ください。
山と渓谷社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎山と渓谷社HP:https://www.yamakei.co.jp/products/2822590530.html
piro piro piccoloさんのオフィシャルサイトも見てくださいね。
◎piro piro piccoloさんHP:https://iirotorii.tumblr.com/
2022/7/17 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、自然と旅を愛するシンガー・ソングライター「Miyuu(みゆう)」さんです。
Miyuuさんは、VAN LIFE、いわゆる、車を中心にしたライフスタイルに憧れ、高校生の時に体験した家族とのキャンピングカーの旅の思い出も手伝って、日本全国を車でめぐる旅を計画。そして去年、運転免許を取得し、キャンピングカーを借りて、念願の旅に出たんです。
その旅の記録は先頃『30 DAYS VAN LIFE〜Trip on Music』という楽曲付きフォトエッセイとして出版されました。
そんなMiyuuさんに、走行距離6000キロのキャンピングカーの旅や、旅先で行なったフィールドレコーディング、そして自然や環境への思いなどうかがいます。

30日の旅、1日1日を噛み締めて
●今週のゲストはシンガーソングライターのMiyuuさんです。初めまして。よろしくお願いいたします。
「初めまして。よろしくお願いします」
●今年の5月に『30 DAYS VAN LIFE〜Trip on Music~』というタイトルの本を出されました。この本は、VANいわゆるキャンピングカーで、30日間かけて旅された時の体験が記されていますよね。私も読ませていただきました。写真も豊富に載っていて、日本をまわられている様子がすごく素敵で、一緒に旅をしているようなワクワク感を味わうことができました。
「めっちゃ嬉しいですね。まさに一緒に旅しているっていうイメージで作ったので・・・ありがとうございます」

●いつ頃、旅に出たんですか?
「旅自体は去年の10月1日から30日間ですね」
●30日間の旅は、埼玉県の秩父を出発して、群馬県の水上町と尾瀬を経由して、その後は南へ下って、主に西日本・四国・九州を経て、今度は一気に北上して横浜で旅を終えるというルートで、走行距離は6000キロでした。このルートにしたのは、どうしてなんですか?
「もともとは全部の都道府県をまわろうぜ! っていう意気込みだったんですけど、やっぱり各地の、人の生活だったり営みだったりとか、いろんなことをされているかたの思いというのを、もっとより深く知りたいなと思って、旅に出る前にある程度、お話しをうかがいたい人へ連絡をとっていたりしていたんですね。
例えば、もともと関わりがあった日本自然保護協会のかただったりとか、あと広島でビールを作っている若者たちがいて、そのかたには直接お話しをうかがいたいなと思って、旅前に連絡していたんです。
一カ所に2〜3日くらい留まって、そのかたたちといっぱいコミュニケーションをとって、思いだったりっていうのを深く知りたいって思ったら、全国はさすがに行けないな〜って・・・なのでピンポイントで、じゃあここ! って目的地を決めて、その間に出会いがあったらいいな〜みたいな感じで動いていました」
●ひとりで旅に出られたわけではないですよね?
「そうですね。幼馴染みのふたりと行きました。コロナ禍でけっこうみんな生活が変わっちゃって、私自身もぜんぜんライヴができなくなって、なんかちょっと悶々とした気持ちというか、なんかしないといけないなという気持ちがありました。
で、大阪に帰った時に、その幼馴染みたちと喋っていて、“旅出えへん? もうなにかしないとあかん!”みたいになって、最初そんな感じでスタートしたんです。でも3人でキャンピングカーに乗り込むのはいいねんけど、運転できるのはよく考えたら私だけやなって思って(笑)」
●えーっ! じゃあ交代で運転していたわけではなく・・・?
「そうなんです。まだみんな免許を持っていなくて・・・」
●ということは、ずっとMiyuuさんが運転していたんですか?
「そうなんです。私自身も去年の6月に免許を取ったので、免許ほぼ取りたてみたいな感じで、(車の)前後に初心者マークを貼って運転していました(笑)」
●実際にキャンピングカーで旅に出られて、いかがでしたか?
「もう本当にめちゃめちゃ楽しくて・・・3人の中でもいろいろ話し合いがあったりとか、撮影で同行して、また別の車でついてきてくださったスタッフのかたたちとも、30日間の間にすごく話し合いをしました。
(このキャンピングカーの旅は)すぐ終わるんだろうなっていうのは、最初からわかっていたんですけど、本当に一瞬で・・・でも30日っていう制約があったからこそ、1日1日を絶対ムダにしないでおこうって思って、毎日、1日1日を噛み締めて旅ができたかなって思っています」

(編集部注:Miyuuさんは、キャンピングカーのレンタル会社に、こんな旅がしたいんですとご自身で働きかけ、借りることが決まったそうです。そして30日間の旅用に、車の内装を少しカスタマイズすることになり、お料理用にスパイスボックスの棚をつけたり、ウクレレのスタンドを取り付けたり・・・さらに、ベッドを寝心地の良いものに交換してもらい、旅に出たそうですよ。準備段階から自分で動くなんて、行動力がありますよね)
自然にお返し、ビーチクリーン
※キャンピングカーの旅は、どんなところが魅力的ですか?
「私、旅行がもともと好きで、ホテルとか旅館とかに泊まることもあるんですけど、やっぱり時間に縛られないっていうのがいちばん大きいかなって思っています。
例えば、目的地に向かおうって思うけど、きょうはちょっとしんどいなと思ったら、途中で停まって・・・で、行き先も、こっちのほうに行こうと思っていたけれども、きょうはこっちにしようかなってことも、その場で決められるじゃないですか。なので、なんか今を生きているなっていう感じがすごくしましたね」
●車の中で寝泊まりをしていて、幸せを感じる瞬間っていうのはありました?
「毎日幸せでしたね(笑)。車にもよると思うんですけど、雨が降った時にすごく雨音が聴こえたりするんですね。それがたまにうるさいなと思うこともあるかもしれないけど、家では絶対感じられないので、雨を感じられるのは、キャンピングカーの良さかなとも思いますね。あとカーテンを開けた時に毎回違う景色が見られるのも(幸せでしたね)」
●いいですね〜!
※旅の途中、広島県江田島で「日本自然保護協会 (NACS-J)」のビーチクリーン・イベントに参加されていました。これはどんな経緯で参加することになったんですか?

「まず、日本自然保護協会さんとは以前お仕事をご一緒させていただいたことがありました。私自身もやっぱり自然からすごくパワーをもらっていたり、そのパワーを得て音楽を創っていたりするので、今回の旅のテーマとして、自然から(パワーを)もらった分、なにか還元したいなとふわっと思っていたんです。
具体的に何をやればいいのだろうと思った時に、日本自然保護協会さんに、何か一緒に旅中にできるってことってあったりしますか、っていうお話しをさせていただいていました。
そうしたら日本自然保護協会さんが全国でビーチクリーンをするような『全国砂浜ムーブメント』というのを毎年やっていて、その時期にちょうど旅も被っていたので、みんなでどこかで落ち合って、一緒にビーチクリーンしませんか、っていう話から、広島の江田島で牡蠣の養殖のパイプゴミが問題になっているから、そこに行って一緒にビーチクリーンしましょうっていうお話になって実現しました」
●実際に参加されていかがでした?
「そうですね。私、神奈川に住んでいることもあって、湘南とか千葉の海にもよく行くんですけど、場所によって落ちているものが全然違うなって感じて、特に江田島はやっぱり牡蠣の養殖が盛んなので、私が想像していたより(パイプのゴミが)たくさんありましたね。
パイプの形として残っているものもあれば、粉々になって、ほぼ砂のような大きさになっているものとかもあって・・・地元のかたたちともお話しさせていただいて、“やっぱり拾うのが大変なんだよね。だから外から来てくれる人がいて、すごく嬉しい”っていうお声はいただきました」
自然と一体化、フィールドレコーディング
※旅の途中に、自然の中で弾き語りを録音するフィールドレコーディングをされていました。これは旅に出る前からやってみようと思っていたんですか?
「そうですね。フィールドレコーディングは絶対やりたいと思っていて、真っ先にこの旅でやろうって決めていたことなんです。
すごく大好きな映画で『はじまりのうた』っていう、分かりますか。その映画が大好き過ぎて、完全にそれにインスピレーションを得た感じですね(笑)。あの映画は街中でレコーディングしているけど、私は自然の中で・・・森の中のスタジオじゃないですけど、ブースも自分で作ってレコーディングしてみたいって思ってました」
●何ヵ所で録ったんですか?
「(楽曲付きフォトエッセイに)3曲入っているので、3ヵ所で録りましたね」
●それぞれどこで?
「1曲目は旅の前半に行った尾瀬、群馬県の森で録って・・・2曲目は愛媛の、海にいちばん近い駅、梅津寺(ばいしんじ)っていう駅があるんですけど、本当に目の前が砂浜なんです。その砂浜に機材を広げて、電車の音が後ろから聴こえて、船の音だったり、波の音だったりが結構入るところで録音しました。
最後は、最終日に長野県の駒ヶ根高原教会の中で歌わせていただきました。それに関しては、教会で歌うって決めていなかったんですけど、旅中にたまたま出会ったかたが、教会で歌ったら、みたいな感じで言ってくださって、最後はそこでフィールドレコーディングっていう形になりましたね」
●実際にフィールドレコーディングされて、いかがでした?
「なんだろう・・・すっごく自然と一体化している感じを、自分の中で感じながら気持ちよく歌えたなっていうのと、あとやっぱりスタジオの中で歌うと、防音室だとか無音のところで、本当に声を綺麗に録れるっていうのがあるんですけど、フィールドレコーディングは常に何かの音が鳴っている状態なので、自然の音をより自然に聴いてもらいたいなと思えば思うほど、マイクを置く位置がすごく難しくて・・・」

●確かにスタジオで録るのとは、全然違いますよね。
「ですね〜。しかもほぼ一発録りだったので、録っている時間よりもマイクを
セッティングする時間がすごく長かったです」
●スタジオでいざ録るぞ! っていう時よりも開放的になれるというか、気持ちよさそうだなっていうのを感じたんですけど、いかがでした?
「めちゃめちゃ気持ちよかったです!」
自分なりにできることを発信
※先ほどもお話がありましたが、Miyuuさんは「日本自然保護協会(NACS-J)」が行なっている『全国砂浜ムーブメント』というキャンペーンに協力されていて、オンラインのイベントにもMCとして参加されていました。なにか協力するようになったきっかけとか、あるんですか?
「きっかけっていうのは、もともと旅にもご一緒に協力させていただいたりとか、それ以外にもお話をさせていただいたりして、日本自然保護協会さんのテーマである多様性ということについても、自分自身もっと学びたいなって思っていました。
海も山も川もすべてが繋がっていて、切り離せないっていうことをいつも教わっていて、本当にそうだなと思っています。
それって人間関係にも通じることってすごくあるなと思って、今の私がいるのは両親がいて兄弟がいて、仕事仲間がいて友達がいてっていうことで、すべての出来事だったりとか、出会った人が今の自分を作っているんだなって、環境問題から教わったというか、日本自然保護協会さんからいろいろ教えていただきましたね。
自然環境についてより深く掘り下げることで、今後私たちの子供だったりとか次の世代に美しい世界を残していけたりとか、より豊かな自然を残していけるっていうことプラス、自分自身の人生ももっと環境問題を学ぶことで豊かになっていくんじゃないかなって思っています。
なので、協力させてくださいと、むしろ私から学ばせてくださいという感じで、イベントのMCとかもさせていただいたりしています」
●以前から自然や環境を保全するような活動に興味があったんですか?
「そうですね。興味はあったんですけど、どういうふうに自分が踏み出せばいいかっていうのが分からなくて、心の中ではずっとなんかしたいな〜みたいな気持ちがあったんですね。
その気持ちが芽生えたきっかけっていうのが、おばあちゃんが愛媛県に住んでいて、私は大阪で育ったので、いつも瀬戸大橋を渡って愛媛のほうに行くんですけど、その瀬戸大橋から見える工場地帯からすごく煙が上がっていて、子供ながらに空気が汚くなるよみたいな、すごくもやもやした気持ちになったんです。
やっぱり大人になるにつれて、小学校高学年くらいから、ああいう工場があるから自分は今、車に乗れているし、豊かな生活が送れているんだなと思ったら、なんかそれを否定するのも違うな・・・でもやっぱり環境は汚れているし、矛盾だらけで、どうしたらいいんだろうみたいな感じで・・・気づけば、それもまた年が経っていくごとにその感情すらもちょっと薄れていく自分がいて・・・。
でも、そうしているうちに一方で、それに対して声を上げている人たちがいるっていうことを知って、シンプルにそうやって声を上げている人はかっこいいなーって思って・・・自分ができていなかったから、その人たちからいっぱい学べることってあるんじゃないかって思って・・・日本自然保護協会のかたたちもそうなんですけど、一緒に私もそういう人たちから学んで、自分なりにできることを発信したいなって思いました」
知ることの大事さ
※環境問題で今、いちばん気になっていることはありますか?
「ふたつあるんですけど、まずは海ごみの問題、マイクロプラスチックだったりとか・・・。それはシンプルに、私は夏になるとサーフィンをしたりとか、海に行く機会がすごく増えるんですけど、やっぱり汚い海より綺麗な海のほうが自分の心も気持ちよくいられるしって思ったのが、海ごみに関心を持ったきっかけなんですね。
海にはすごくいろんな生物がいて、プラスチック自体がその生物たちの邪魔になっているということも、(以前は)想像力が乏しかったので考えていなかったんですけど、日本自然保護協会のかたから教わったりすることで、人間もそうだし、生き物たちもやっぱり海は綺麗なほうがいいよなって思って・・・。
私がオフィシャルグッズ、自分のグッズを作る時に、できるだけ海を汚さないような工夫をしている企業さんとのコラボ商品を作ったりもしていたり・・・ステンレスストローだったりとか、少しでも長く着られるような素材を使ったTシャツだったりとか、自分ができることをちょっとずつしています。
もうひとつは、洋服の廃棄だったりっていうことなんですけど、このふたつに関心があるのは多分、自分にいちばん身近な問題だったからだと思っています。
大手の企業さんだったりとかファッションブランドさんが、最近着なくなった服を回収してくれるサービスとかあったりするじゃないですか。すごくいろんな取り組みをされているんだなと思って・・・私もやっぱり安い服を買えると嬉しくなるし・・・でもそういうものって生地がちょっと薄かったりとかして、2回着たらもうダメになるとかあるじゃないですか。そういう服をリサイクルできるからと思って、(回収ボックスに)入れていて、それでなんか気持ちよくはなっていたんですね。
ある日、YouTubeで回収された服たちが、どこに行っているのかっていう動画をパッとたまたま見てしまって・・・そうしたら、循環していると思っていた洋服たちが、アフリカのある国に送られているだけで、その人たちもその服を着れないし、必要としていないから、どんどんそこにゴミが溜まっていく、悪循環になっているんだっていう問題提起の動画を見つけたんです。
やっぱり知ることって大事だなと思ったし、その問題を根本から解決するためには、自分が少しでもひとつのアイテムを長く着続けることだなと思って、そういう問題に関心があるというか、まず自分ができることにトライしようかなっていうふうに思いました」
●私たちはどんなことを心がけたらいいんでしょうか?
「私自身も今すごく勉強している段階で、大きいことは言えないんですけど、本当にひとりの小っちゃい力が集まれば、どんなことでも、大きいムーブメントを起こせるんだろうなと思っています。
例えば、さっき言った少しでも自分の持っている服を長く着るとかもそうだし、ステンレスストローにしてみようかなとか、本当に小っちゃいことでもいいと思うんですけど、それをみんなひとりひとりがやったら、気づけば大きいことになっていくので・・・私自身もたまに、タンブラー忘れた! みたいな時もあるけど(笑)、徐々に自分ができることをやっていくのが、いずれは大きなムーヴメントになると信じています」
※では最後に、シンガー・ソングライターとして、今後歌っていきたいことはなんでしょう?
「知ることの大事さをさっきお話ししたんですけど、私はそれを自然環境から学んだんですね。なんか人間関係も同じだと思っていて、大嫌いな人が例えばいるとして、人の悪口をいつも言っていたり、嫌だ、聞きたくないと思う人もいると思うんです。でも私たちってその人の多面的な部分の、ひと部分しか多分見えていないと思うんですね。
イマジネーションというか、その多面的だということを想像することがすごく大事だと思うし、知ることだと思うんです。そういうことの大事さをメッセージとして、音楽で届けていけたらいいなと思って、曲作りもそういうメッセージを込めて作りたいなって思っています」
●Miyuuさんの音楽にやっぱり自然の体験は必要なことですか?
「そうですね。旅だったりとか、自然との関わりから、なにか音楽をやろうって思ったので、すごいきっかけを与えてもらったという意味では、自然と音楽は私自身、切り離せないなってすごく思います」
(編集部注:Miyuuさんは、30日間のキャンピングカーの旅を通して、人はひとりでは生きられないことを再確認したそうです。そして、夢はVAN LIFE! そんなライフスタイルも発信していきたいとのこと)
INFORMATION
『30 DAYS VAN LIFE〜Trip on Music』
Miyuuさんの楽曲付きフォトエッセイをぜひ読んでください。主に西日本から九州を巡る30日のキャンピングカーの旅の記録。旅先で出会った人のインタビューや体験、フィールドレコーディングの裏側なども掲載。1日1日を大切にしながら、ありままを楽しんでいる姿が写真からもよくわかりますよ。ナチュラルなMiyuuさんの音楽、そして生き方に今後も注目です。
このフォトエッセイはMiyuuさんのオフィシャルサイトからお買い求めいただけます。また、お話にも出てきたオリジナルのステンレス・ストローのほか、可愛いトートバックなども販売。ぜひチェックしてください。
◎MiyuuさんHP:https://avex.jp/miyuu/
2022/7/10 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、ガラパゴスバットフィッシュ愛好家で、NPO法人「日本ガラパゴスの会」のスタッフ「バットフィッシャーアキコ」さんです。
アキコさんは1991年、東京都生まれ。上智大学外国語学部卒業。在学中にガラパゴス諸島を訪れ、卒業後には、現地のチャールズ・ダーウィン研究所のボランティア・スタッフとして活動。現在は、日本人でもっとも多くのガラパゴスバットフィッシュを観察してきたスペシャリストとして、講演や執筆、メディアへの出演など、幅広い活動をされています。そして先頃、『バットフィッシュ 世界一のなぞカワくん〜ガラパゴスの秘魚』という本を出されました。
アキコさんのインタビューをお届けする前に、きょうのお話の主人公ガラパゴスバットフィッシュについて説明しておきましょう。ガラパゴス諸島の海に生息するへんてこりんな魚で、英語名が「バットフィッシュ」。「バット」はコウモリのことなので、直訳すると「コウモリのような魚」となりますが、写真を見ると、コウモリには見えません。
見た目の最大の特徴は、真っ赤な口紅を塗ったような唇! 体の大きさは15〜20センチほど、正面から見ると甘食パンのようで、上から見ると矢印のような形、胸びれや腹びれが足のようになっていて、海底の砂地を歩き、魚なのに泳ぎが苦手など、およそ魚らしくない特徴を持っています。
そんなバットフィッシュの存在を知り、一瞬にして虜になったアキコさんは、敬愛の意味と、あまりにも知られていない魚だったので、少しでも知名度を上げたいという強い思いで「バットフィッシャーアキコ」と名乗るようにしたそうです。
きょうは、謎だらけのガラパゴスバットフィッシュについてお話いただくほか、どうしても会いたくてとった、信じられない行動に迫ります。
☆写真協力:バットフィッシャーアキコ

なぜ、真っ赤な唇!?
●番組の冒頭で、ガラパゴスバットフィッシュの特徴についてご説明しましたが、写真を見て、特に目を引くのが真っ赤な口紅を塗ったような唇です。なぜバットフィッシュの唇が赤いのか、わかってるんですか?
「これは本当に不思議で、おっしゃる通り、口紅を塗ったかのような真っ赤なリップなんですけど、どうしてこんなに真っ赤なのかは、実は全く解明がされていません。そしてもっと不思議なのは、この真っ赤な唇が海の中で見ると全然目立たないんですよ」
●すごく目立ちそうですけどね。
「そうなんです。海の中は陸上と違って、赤色が吸収されてしまう性質があるので、大体水深3メートルくらいから赤色はだんだん色味が暗くなってきて、10メートルを過ぎたあたりから輪郭もぼやけて黒い感じに見えてしまいます。
ガラパゴスバットフィッシュが生息している水深20メートルあたりですと、その真っ赤な唇はなんとなく黒いぼやけた物体のようで、そもそもちょうど顔面の中央に黒っぽい模様がある魚なんですけども、その模様の中に隠れてしまって、どこに口があるか分からないですね。
これは私の個人的な推測なんですけども、唇が赤い理由はもしかしたら、赤いことによって唇を見えなくさせて、例えば獲物となる魚に、ここに自分の口があるよっていうことを悟らせない戦略なのかなと勝手に推測しています」

●そうなんですね〜。その口の上の部分、割と大きな目の先にある出っ張りのようなものは? 尖った鼻のようにも見えるんですけれど・・・。
「すごく不思議ですよね。横から見るとピノキオの鼻のような物体なんですけれども、これは一応、吻(ふん)と呼ばれる名称が付いています。バットフィッシュの仲間全般そうなんですけれども、釣りでいうルアーのような、擬似餌というのをピロピロと出し入れして、獲物をおびき寄せるんです。
この吻の先から出すのかと思いきや、そうではなく、吻の下からその擬似餌をピロピロと出し入れするので、実質その吻は本当に何のためにあるのかが分からないんですね」
●面白いですね〜! 飾りみたいになっちゃってるんですね。
「本当に飾りなのかな〜みたいな感じですね(笑)」
●魚の分類でいうと、どんな魚の仲間なんですか?
「アンコウの仲間ですね。皆さんもご存知のチョウチンアンコウですとか、そういった類の仲間になります。チョウチンアンコウもそうですけれども、擬似餌のようなものをピロピロと出し入れして、獲物となるものをおびき寄せて、パクッと食らいついて生計を立てていると言いますか・・・」
●生息しているのはガラパゴス諸島の海だけなんですか?
「そうですね。ガラパゴスバットフィッシュに関しては、発見された当初はガラパゴス諸島の固有種だとされていたんです。のちに実はペルー沖でも発見しましたという論文が出たんですけれど、その後、現在に至るまで、ほかにペルー沖で発見されたという例ですとか、論文がひとつもないので、実のところ、私個人としてはガラパゴス諸島の固有種と言ってもいいのではないだろうかと考えていますね」
(編集部注:ガラパゴスバットフィッシュが属するアンコウ目アカグツ科ニシフウリュウウオ属の魚は、世界に13種類いるとされ、そのすべてが南北アメリカ大陸の近海に分布しているそうです)

運命の出会い、そしてスペイン語!?
※アキコさんがバットフィッシュの存在を、いつどんなきっかけで知ったのか、気になりますよね。お話によると、高校3年生の夏、「海の日」に下北沢の本屋さんでたまたま手に取った生き物フォトブック、そこに載っていたガラパゴスバットフィッシュの写真に衝撃を受け、一瞬にして虜に!
そしてレジに走り、即お買い上げ! 家に帰る時間ももどかしく、近くのファーストフード店に駆け込み、バットフィッシュの写真を夢中で見続け、気がついたら、2時間、経っていたそうです。
アキコさん、バットフィッシュのどんなところがそんなに魅力的だったんですか?
「なんでしょう・・・フォルムですか・・・甘食パンのようなボディに前足後ろ足が生えてるようなルックスもそうですし、口紅を塗ったかのような真っ赤な唇もそうですし、何か言いたげな目と言いますか、すべてが自分の中で、こんな生き物が地球上に存在したのかという喜びと興奮で一気に惹きつけられて、魅せられてしまいました」

●確かにインパクトのある魚ですけれども、ただただ面白いなと思うだけじゃなくて、アキコさんは行動に移したわけですよね? バットフィッシュに会うためにまず始めたことはどんなことなんですか?
「まず最初に、きっかけとなったバットフィッシュの載っている本を読んでいた時にすぐに思ったのは、この魚に会いたい、どうしたら会えるんだろう、(本を)見たところ、ガラパゴス諸島というところに生息している、ガラパゴス諸島はどうもエクアドル領らしい、エクアドルという国はスペイン語圏・・・ということはスペイン語を勉強すれば、話せるようになれば、会えるじゃん! っていう安直な考えで、当時高校3年生だったこともあり、大学の希望の進路をスペイン語の学科に設定しました(笑)」
●もともと語学は得意だったんですか?
「それが全くだめでございまして、もう本当にガラパゴスバットフィッシュに夢中になってしまったため、自分が語学が嫌いで苦手だということをすっかり忘れていたので、大学に合格してからやっと思い出しましたね」
●すごいですね! 研究者になろうとは特に考えなかったんですか?
「そうなんですよ。本当に会いたい! スペイン語を喋れれば会えるじゃん! っていうことしか思いつかなかった安直な頭だったので、よし、研究者に! っていう考えが全く浮かばなかったんですよね」
●スペイン語を勉強して、初めてガラパゴス諸島に行ったのはいつ頃なんですか?
「初めて行ったのが大学3年生の夏休みですね。語学がすごく苦手だったので、入学してから大変苦労したんですけれども、3年生になると少しばかりは会話もできるようになってきまして、ダイビングのライセンスも取得できたタイミングだったので・・・」
●もともとダイビングとかもされていたんですね。
「実を申しますと、泳ぎが全くダメなんですね(笑)。ただ唯一、会える方法というのがガラパゴス諸島の海でダイビングするという手段しかなかったので、水がそもそも苦手だしカナヅチなんですけれども、決死の思いでダイビングの講習に申し込みまして、すごく苦労しながら、自分で独自の特訓を重ねながら、なんとかダイバーになったという次第です」
報われた瞬間!
※アキコさんが大学3年生の夏休みに、初めて訪れたガラパゴス諸島は南米エクアドルから西へおよそ1,000キロの、太平洋に浮かぶ火山群島。ほかに類を見ない動植物の宝庫で、あのチャールズ・ダーウィンが「進化論」を書くきっかけにもなった島々としても有名。1978年に世界自然遺産の第1号のひとつとして登録された、世界中の研究者たちが注目している生き物たちの楽園です。
アキコさんによれば、日本からガラパゴス諸島に行くまで、トランジットの時間も入れると30時間ほどかかり、動植物の保護のため、検疫など含め、かなり厳しい規則と検査があり、それをパスしてやっと島に入ることができたそうです。
また、島に上陸してからも、野生生物とは2メートルの距離を取るなど、厳しいルールが課せられ、ダイビングできるのは許可されたエリアだけ。船の数や参加人数も制限されていて、ダイビングするためには必ず事前にツアーに申し込まなければいけないそうです。

ツアーに参加して、ダイビングエリアに潜って、すぐにバットフィッシュに会うことはできたんですか?
「私、すごく幸運なことに、初めてガラパゴス諸島に行った年の、本当に初めての1本目のダイビングでお会いすることが叶いました!」
●どうでした? 初めてお会いして。
「何人かのお客さんのグループと一緒に潜ったんですけれども、先頭を泳いでいるガイドが見つけてくださって、いるよって指をさした先に、うわー! いた! って感じだったんです。
でも、元気に泳いでるねっていうのでは全くなくて、砂地の上に静かに佇んでいる、どちらかというと、例えば落し物が落とされたままになっているみたいな空気のほうが近いんです。
すごく静かにひとりで砂地に佇んでいて、しかしその様子を見て、こちらとしてはもう本当に大興奮で、すべての血管という血管がフルで、血潮が駆け巡るような興奮を覚えました」
●苦手な言語も泳ぎも頑張ってよかったですね!
「報われた瞬間でした!」

※初めての出会いから現在に至るまで、何匹くらいのガラパゴスバットフィッシュに出会っているんですか?
「現在、累計55バットに会っておりまして、これをお話すると、意外と少ないじゃん! って、おっしゃるかたもいらっしゃるんですけれども、ガラパゴスバットフィッシュは、ガラパゴス諸島でダイビングすれば、必ずしも会えるという魚ではないんですね。
時期と場所を選んで潜って、そこまでしてでもやっと一回のダイビングにつき、1バット会えるか会えないかぐらいのレア度なので、私にとってはこの55っていうのはとっても大きいですね!」
●これまで出会った55バット、それぞれ個体差とかっていうのはあるんですか?
「例えば見た目、体の模様のつき方ですとか、ピノキオの鼻のような吻の長さが違うといった身体的な特徴はもちろんなんですけれども、何よりも性格に違いがあるなということは実感しています。
例えばバットフィッシュがいた! と言って、私たちダイバーが駆け寄ってカメラを向けた時に、ずーっとぼーっとしている個体もいれば、どうしようって困って後退りをした末に泳いで逃げていく個体もいれば、後退りをした後に諦めてフリーズしてしまう個体もいます(笑)。
あとはもう見るからに怒った顔で、こちらに向けて口をパクパクして何かを訴えてくるような個体もいたり、もう本当に人と同じですよね。反応の違い、性格、本当に一匹一匹違うなということは、すごく実感しました」
チャールズ・ダーウィン研究所で熱く語る!?

※アキコさんは、ガラパゴス諸島のサンタ・クルス島にあるチャールズ・ダーウィン研究所のボランティア・スタッフとして活動していたそうですが、世界中の研究者たちが憧れる研究所に、いったいどんな経緯でスタッフとして入ることができたんですか?
「これがもとを正せば2度目の渡航の時ですね。大学4年生の夏に再びガラパゴス諸島を訪れたんですけれども、その際にチャールズ・ダーウィン研究所にちょっとお邪魔できる機会を頂戴いたしました。
その時に海洋生物部門のオフィスにご案内いただいて、そこで、”ガラパゴスバットフィッシュって研究されていますか?”ってワクワクしながら尋ねたところ、”ん? バットフィッシュ、やっていないよ”っていうふうに返されてしまって・・・。
もう私は大ショックだったんですね。あなたたちのお住まいのこの海に、こんなにも珍しい魚がいるのに、全く研究の対象にしないなんて、もったいないですよ! みたいなことを、ど素人の私がプロの研究者たちに向かって、思わず熱く語ってしまったところ、”そんなに好きなら、うちに来ればいいじゃん!”と声をかけていただけまして・・・。
その時が大学4年生の夏で、あと半年学校が残っていたので、では卒業したら、こちらに来ます! っていう約束をして、無事に卒業をし、来ました〜という勢いで研究所に戻ってきたところ、”ごめん! 実は今、席が空いていないんだ”と言われてしまったんです。
でももう来ちゃったし、どうしようと思っていたら、”それなら私が引き取ります!”と申し出てくださったかたが現れて、そのかたが長をしている、同じダーウィン研究所の植物部門のプロジェクト『ガラパゴス・ベルデ2050』というチームに所属する運びになりました」
●研究者にとってはすごく憧れの研究所ですよね!
「そうですね。私が在籍していた時にも、世界から毎日(研究所に)所属したいという希望が100通以上メールで届いていましたね」
●すごいですね! そういう研究所に所属できるというのは!
「そうですね。すごく幸運なことでございました。平日は自分が所属していた植物部門のチームで、ガラパゴスの在来植物の保全の研究や調査などを行ないながら、休日は個人的に海に行ってダイビングをして、ガラパゴスバットフィッシュの観察を続けて、自分なりにノートに気付いた点とか疑問に思った点を毎回つけていました。
あとは現地の海洋生物学者の皆さまであったり、ダイビング・ガイドの皆さまに聞き込み調査などを行なったりしていましたね」
ガラパゴスで感じた人間のおごり
※ガラパゴスで暮らした経験のある日本人は、ほとんどいないと思うんですけど、実際に暮らしてみて、ガラパゴスの自然や生き物から、どんなことを感じましたか?
「ガラパゴス諸島の生き物は、基本的に人間をあまり恐れないんですね。野生生物に2メートルを越えて近づいてはいけないよっていうルールがあるんですけど、実際にその2メートル・ルールを破ってくるのは、生き物側が多くて、ズカズカズカってこっちに近寄って来ちゃったりするんですね。島に住んだ当初はベンチに座っていると、アシカにベンチを奪われることもあったりしました。

最初の頃はそれにすごく驚いてしまったんですけれども、住んでいるうちにだんだん、これって、なんというか自分が人間であるおごりだったなというか、人間が座っているのになんで来るんだよっていう思いが、多分どこかにあったのかなって思い始めました。やはりガラパゴスに住んでいると、生き物たちは同じ環境に棲んでいる対等な生物、対等な存在なんだなと思うようになりましたね」
●なるほど〜。今後明らかにしたいバットフィッシュの生態はありますか?
「もうたくさんあるんですけれども(笑)、そのうちのひとつが、私がダーウィン研究所にいた時に海洋生物部門の人に声を掛けていただいたことがあって、その時に”アキコ、この間、自分は海底探査をするために潜水艦に乗ったんだけれど、その時に水深200メートル・エリアにすっごい数のガラパゴスバットフィッシュがいたよ!”って教えていただいて、もうそれを聞いて大興奮ですよね!
普段はダイビングの時だと会えて1バット、基本的に単体でいることがほとんどの存在が、水深200メートル域にすごい数がいたっていうのが、どうしてなんだろうっていうのもありますし、果たしてそこがメインの生息地なのか、もしそこがメインの生息地だとしたら、逆になぜダイビングで見られるような水深20メートル・エリアにも出てくるのか・・・いろいろ謎があるので、とにかくその水深200メートル・エリアのすごい数のバットフィッシュを、自分の目でも是非見てみたいですし、その理由を解明したいです」
●楽しみですね! なんかワクワクしますね!
「ワクワクします!(笑)」
●では、最後にアキコさんにとってバットフィッシュとはどんな存在ですか?
「私にとって最愛の存在であり、人生の起爆剤でもあるかなと思っています。もともと語学も苦手だし嫌いだしっていう人間がスペイン語を勉強して、現地に住むようになったりですとか、泳ぎもダメ、水に触るのも怖かったような人間がダイバーになって、現地の海で潜るようになったりですとか・・・。
ガラパゴスバットフィッシュに出会わなければ、絶対に着手しなかった領域に、私の見識を広めてくれたというか、私の世界を広げてくれた存在なので、本当に人生におけるターニング・ポイントとなってくれたので、本当に感謝していますね」
(編集部注:ガラパゴスバットフィッシュの生態は謎だらけで、何を食べているのかも分かっていません。アキコさんによれば、カニやエビなどの甲殻類や軟体動物ではないか、ということですが、実はだれも捕食シーンを見たことがないそうです。
ガラパゴス諸島の生き物は一切、島外には持ち出せないため、ガラパゴスバットフィッシュは、世界のどこの水族館でも飼育されていないということですが、近縁種のニシフウリュウウオ属の仲間は、国内の水族館で見られるところがあるそうです)
INFORMATION
『バットフィッシュ 世界一のなぞカワくん〜ガラパゴスの秘魚』
ガラパゴスバットフィッシュへの畏敬の念と愛にあふれた本です。ぜひ読んでください。専門の研究者がいない中、地道な観察や、数少ない論文などを参考に書きあげた、世界に誇るバットフィッシュの専門書と言っていいかもしれません。といっても、難しい本ではなく、ガラパゴスでの生活やチャールズ・ダーウィン研究所での体験など含め、楽しく読めます。巻末には、これまで出会った55バットの観察記録が写真入りで掲載されていますよ。
さくら舎から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎さくら舎HP:http://sakurasha.com/2022/04/バットフィッシュ-世界一のなぞカワくん/
バットフィッシャーアキコさんのオフィシャルサイト、そしてアキコさんがスタッフとして活動されている「日本ガラパゴスの会」のサイトもぜひご覧くださいね。
◎バットフィッシャーアキコHP:https://www.batfisherakiko.com
◎「日本ガラパゴスの会」HP:https://j-galapagos.org/
2022/7/3 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、埼玉県ときがわ町で「キャンプ民泊NONIWA」を運営する「青木江梨子(あおき・えりこ)」さんです。
青木さんはご主人の達也さんと一緒に「野あそび夫婦」というユニット名で活動。2019年6月に日本初とされるキャンプと民泊を組み合わせた「キャンプ民泊NONIWA」をオープン、おふたりともキャンプインストラクターの資格を持ち、キャンプの講習会ほか、アウトドア雑誌の企画監修なども行なっていらっしゃいます。そして先頃、『ソロキャンプ大事典』という本を出されました。
きょうはそんな青木さんに、キャンプ民泊NONIWAの特徴やビギナー向け「ソロキャンプのノウハウ」などうかがいます。
☆写真協力:キャンプ民泊NONIWA

ふたりで誰かを喜ばせる
※埼玉県ときがわ町で運営している「キャンプ民泊NONIWA」は具体的には、どんな施設なんでしょうか。
「基本的には、民家の横にあるちょっと広めのお庭みたいなスペースを、キャンプ場としてお客様にテントを張ってもらって、トイレとお風呂とキッチンは自宅のものを使ってもらうというスタイルです。キャンプのハードルを下げるために作った、これからキャンプを始めたいかたに向けた施設になります」
●一般の方にキャンプ場として利用してもらうためには、ある程度広い敷地が必要だと思います。「キャンプ民泊NONIWA」がある埼玉県ときがわ町というのは、どういった場所なんですか?
「そうですね。東京からも大体1時間とか1時間半くらいで来られるような場所にはなるんですが、埼玉でいうと秩父のちょっと手前あたりに位置しています。こんもりした山とか小さな川が流れている里山というような雰囲気の場所になります。なので、長野とか山梨みたいな、広大な敷地のキャンプ場のイメージとはちょっと違う感じなんですけど・・・ちょうどいい町です」

●改めて、このキャンプ民泊を始めるに至った経緯を教えてください。
「私たちはもともと、夫婦で結婚してからキャンプを始めようという形で始めたんですね。その時に周りにキャンプをやっている友達もいなくて、自分たちでインターネットで、どんな道具がいいのか、ルールとかあるのかな、みたいな感じで、いろいろ調べて(キャンプを)始めたんですけど、結構苦労したので、気軽に相談できる人が身近にいたらいいなぁって思っていたことがひとつです。
あと、キャンプをまだやったことがない友達に、キャンプに連れて行ってよ〜! っていう感じで、一緒にキャンプすることがありました。その時にも自分たちにとっては当たり前になっていた、テントに建て方とか、薪の割り方みたいなものが新鮮みたいで友達も喜んでくれたんですね。
今まで私と夫は同じ趣味もなかったので、自分たちがふたりで誰かを喜ばせることができるんだな、キャンプって! っていうことに、そこで気づいたっていうことから、キャンプ民泊をやってみようかなってことにつながりました」
(編集部注:「キャンプ民泊NONIWA」をなぜ埼玉県ときがわ町で開業したのか、実は、青木さんご夫妻はもともと練馬区にお住まいでしたが、ご主人が埼玉県川越でお仕事をされていたので、通える範囲で自然豊かな場所を探していたら、たまたま「ときがわ町」と出会ったそうです)
インストラクター付きキャンプ
※一般のキャンプ場との大きな違いは、どんなところでしょうか。
「まずその規模が、一般のキャンプ場だったら、30張りとか、30組40組とか、もっと多いところもたくさんあると思うんですけど、うちの庭のスペース的にマックスで3〜4組っていう、すごく小規模なところがひとつです。

あとは、これからキャンプを始めたいかた向けのキャンプ場ということでやっているので、最初は手ぶらで来ていただいて、キャンプ道具も全部レンタルして、そして私達がキャンプのインストラクターとして、テントの建て方とか全部お伝えする感じでやっているところが(ほかのキャンプ場との)違いかなと思います」
●初心者としては、どんなテントがいいんだろうとか、そういったことがまだわからない状態なんですけど、心配いらないっていうことなんですね!
「そうですね。テントの大きさとか収納のときのサイズはどれくらいがいいですか? とか、車の大きさとか、家族の人数とかで、あなたにはこういうテントがいいんじゃないんですか、みたいなご提案をしたりしています」
●初歩的なことは、すべて教えていただけるってことなんですね?
「そうですね!」

※NONIWAでは、キャンプの講習会も実施されているそうですね。どんな講習会があるんですか?
「ステップ1、2みたいな感じで進んでいただくんですけど、まずステップ1は日帰り講習という形で、泊まらずにNONIWAに来ていただきます。
キャンプ道具は一般的にどういう物が必要なのか、ずらっと並んだ道具をいろいろ見ていただいて、ご説明をして、キャンプの全体のイメージをつかんでいただいたうえで、テントの建て方とか、タープの建て方とか一緒にやってみます。
最後は焚き火をして、マシュマロを炙って食べて、ちょっとキャンプのイメージをつかんで帰っていただくみたいな感じです。
そしてまた別日にステップ2として、次は宿泊体験! 実際に泊まってみましょうという形で、自分たちでテントとタープを建てて、一晩を過ごしていただくっていうようなキャンプ講習をほぼ毎週やっています」
●やっぱり一歩踏み出す勇気ってなかなか出ないというかたも多いと思うんですけれども、ここまでバックアップしていただけるといいですね! やってみようかなっていう気持ちになりますよね。
「そうですね。多分ここまで、ほぼマンツーマンという形で、キャンプを体験していただく施設はほかにはないかなと思っています」
●NONIWAは誰でも利用できるんですか?
「そうですね。キャンプ講習自体は、ほんとにキャンプをまだやったことがないかたも、どなたでもお申し込みいただけるようになっています。ただ、そのキャンプ講習以外に通常のキャンプ場のような形でも泊まっていただけるんですけれども、それはまずキャンプ講習に来ていただいたかた、もしくは私たち野遊び夫婦と面識があるかたとか、そのご紹介みたいな形で小規模でやっています。
あとは、月に1回くらいオープンイベントというのを開催していて、日帰りで来てくださったかたは、いろいろお話しした上で、今後NONIWAをキャンプ場として使っていただけるようなシステムになっています」
キャンプは、絆が深まる

※ところで、青木さんご夫妻がキャンプをやるようになったのは、どうしてなんですか?
「始めたきっかけが・・・もともと私が小さい時に、家族にキャンプに連れていってもらって、その時の経験がすごくよくって、自分も家族ができたらキャンプを始めたいなって思っていました。
中学生くらいになると、やっぱり部活とかでなかなか家族でキャンプに行けなくなって、疎遠になっていたんですけど、大人になって結婚したらキャンプしたいなってなんとなく思っていたんです。それで夫と結婚したタイミングで、キャンプやってみない? っていうふうに誘った感じなんですけど、夫はキャンプをしたことがなくって、全然アウトドアとは無縁の人だったんですね。でも、意外とハマってくれました」
●ご夫婦でのキャンプの醍醐味ってどんなところですか?
「そうですね。一緒にキャンプをするっていう面でいうと、家族でキャンプをするとチームみたいな感じで、力を合わせないとできないみたいなところがありますね。私はテントのこっち側を持つから、お父さんはそっちを持ってみたいな感じとか、一緒にご飯を作らないと食べられないし、テントを建てないと寝ることができないみたいな感じで、家族がチームになる感じがすごく個人的にはいいなって思っています。
それは夫婦でやった時も一緒で、普通におうちでただテレビを見ながら、ご飯を食べている時とはまた違う経験ができますよね。焚き火を囲んでふたりで話すと、いつもはしないすごく深い話ができて、将来どういうふうにしていく? みたいな話もできて、キャンプ民泊っていうのをやってみようか、仕事を辞めてこっちにシフトしようか、みたいな話もできたので、そういう時間が持てるのがキャンプのいいところかと思います」
●ご夫婦やご家族の絆が深まりそうですよね! アウトドアやキャンプの趣味が仕事になったわけですけれども、好きが仕事になって、ましてやNONIWAを利用されるユーザーさんが自宅にいらっしゃるということもありますよね? オンとオフの切り替えって難しくないですか?
「結構私たちの性格なのか、ぬるっと始まって(笑)、少しずつ来てくれる人が増えていって・・・みなさん本当にいいかたばかりで・・・家族が増えていくようなイメージで、あまりオンとオフみたいに切り離さなくても楽しいかなっていう感じです」
超初心者向け『ソロキャンプ大事典』

※青木さんご夫妻は先頃、『ソロキャンプ大事典』という本を出されました。この本のセールスポイントを教えてください。
「はい、基本的にはNONIWAのキャンプ講習でお伝えしている、基本的な道具の選び方から、テントとかタープの建て方をわかりやすく載せていただいている本なんですね。
大辞典というだけあって、こういう時にどうしたらいいのだろうみたいなこととか、女性のソロキャンパーさんってすごく不安が多いと思うんですけど、こういう時に、たとえば盗難だったりとか、夜怖い思いをしないかみたいな、そういう不安なところまで、こと細かく載せてもらっている本になります。
あとは私たちが体験したことのあるソロキャンプ以外の、いろんなスタイルがあるんですけど、例えば自転車キャンプとか、徒歩で飛行機とかで行くようなキャンプとか、バイクを使ったソロキャンプをやっているかたがたにも協力していただいて、それぞれのキャンプ・スタイルの魅力を対談形式で載せてもらっているのがすごくおすすめです」
●ソロキャンプ、今ブームですよね?
「そうですね。かなり増えてきていて、最初NONIWAでもファミリーキャンプ講習をやっていたんですけど、(お客さんから)ソロでもやりたいです! っていうかたがすごく増えてきて、ソロキャンプ講習も始めていったという形です」
●青木さんご自身もソロキャンプってされたことはあるんですか?
「そうですね。最初から、キャンプを始めたいって時から、やっぱりソロキャンプに憧れがありました。でもやっぱり最初からひとりでやるには、なかなかハードルが高いというか不安だったので、NONIWAで自宅の庭になるんですけど(笑)、”女子ソロキャンプの会”みたいな感じで、同じ境遇の人たちとソロキャンプの練習をするってところから始めました」
●なるほど〜。私のような初心者がソロキャンプに挑戦するとしたら、まず何から始めたらいいんでしょう?
「そうですね〜。小尾さんの周りには、キャンプをしているお友達っていますか?」
●います!
「そしたら、やっぱり一緒に、キャンプに連れて行ってもらうっていうところから始めたらいいかなって思いますね。もし周りにいなかったら、まずは必要最低限の物を持って、日帰りのキャンプから始めるっていうのがいいかなって思っています」
●泊まらないとなると、確かにハードルが下がるかもしれませんね。
「そうですね。テントとか寝袋とか大物はまだ買わなくて、椅子とかお料理が
できるような、おうちにあるものでもぜんぜんいいと思うんですけど、そういうのを持って日帰りでキャンプ場に行ってみるのがいいと思います。
そこでどんな泊まりのキャンプがしたいか、みたいな(周りに)いろんな(スタイルで)キャンプをしている人がいるので、その様子を見て、私はあれよりも小さいテントでいいかなとか、そういう感じで、実際経験してみてから、自分のイメージにあった道具を揃えていくのがいいかなと思っています」
(編集部注:ソロキャンプの初心者が友達のキャンプにお邪魔する時は、防災用にもなるヘッドライトもあったほうがいいでしょう、とのことでした)
ときがわ町をアウトドアタウンに

※NONIWAは、常連さんが増えてきたそうですが、5年後、10年後のNONIWAがどうなっているか、何かイメージのようなものはありますか?
「NONIWAを始めてまだ3年くらいですけど、その中でもやっぱりキャンプの流れというか世の中の流れとかで、私たちがおすすめする(キャンプ)スタイルもどんどん変わっているので、講習の中身も日に日に変わっているイメージなんですね。
今まで来てくれたお客さんの反応とかで、いろいろ変えているので、5年後、10年後はどんなキャンプ講習になっているのかは、まだわからないんですけど、キャンプをやりたいって人はきっといると思うので、5年後、10年後も!(笑)コツコツやっていきたいなと思っています」
●ちなみにこの3年間で、どういった変化があったんですか?
「私たちがそう感じているだけかもしれないんですけど、今までは快適なキャンプをするために、結構道具をたくさん持って行って、グランピングみたいな感じで快適にキャンプをするのがいいよね! っていう時期もあったんですね。
今は逆にどれだけ物を減らして、身軽に苦がなくキャンプに行くっていうような、日常と非日常の垣根があまりないような形のキャンプも見直されています。実際、お客さんが泊まりに来てくれた時に、あまりにも大きなテントを建てていると、結構それだけで消耗しちゃっていたりする人もいるので、なるべくコンパクトで疲れないキャンプをご提案するように変わってきました」
●ユニット「野遊び夫婦」としては、なにか新しい活動とか、夢や目標というのはありますか?
「そうですね。私たちご縁があって、この埼玉県ときがわ町という所で活動させていただいているんですけど、本当にこの町がすごく大好きで移住して来たので、この町の魅力を私たち目線でどう伝えていけるかなっていうのが、日々の課題でもあるんです。
将来的にときがわ町をアウトドアタウンにできたらいいな〜っていう目標があるので、ちょっとずつNONIWAだけじゃなくて、近隣のキャンプ場さんと提携したりとか・・・。
あとは今、新しく夫がやっている、レンタルとかアウトドアのショップみたいなのを、10月くらいにオープンできたらっていう形で活動を始めているところなので、ちょっとずつ町を巻きこんで、面白いことができたらいいなって思っています」
INFORMATION
「キャンプ民泊NONIWA」はキャンプ未経験者に向けた、至れり尽くせりの施設。超初心者の小尾さんもぜひNONIWAでキャンプ体験をしたいということです。番組の取材でお邪魔して実現できればとスタッフは思っています。
ちなみに青木さんご自身が、キャンプの時のいちばん好きな時間は焚き火をしながら、周りの風景と大好きなお酒を楽しんでいる時だそうです。キャンプに焚き火とお酒は欠かせませんね(苦笑)
キャンプ民泊NONIWAについて、以下のオフィシャルサイトをご覧ください。
「野あそび夫婦」の活動については、以下のオフィシャルサイトをご覧ください。
ソロキャンプをやりたいかた、または初心者のかたは、ぜひ「野あそび夫婦」監修のこの本を参考になさってください。ソロ用の道具選び、サイトでの設営・撤収、ソロキャンプのご飯ほか、徒歩、自転車、そしてバイクのソロキャンプスタイルなどを掲載。安全にそして快適に過ごすためのノウハウが満載です。
成美堂出版から絶賛発売中です。詳しくは以下のサイトをご覧ください。
2022/6/26 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、科学ジャーナリストの「柴田佳秀(しばた・よしひで)」さんです。
柴田さんは1965年、東京生まれ。東京農業大学卒業後、テレビ・ディレクターとして、「生きもの地球紀行」や「地球!ふしぎ大自然」などの自然番組を数多く制作。2005年からフリーランスになり、本の執筆、監修、そして講演など、幅広く活動されています。
都市に棲む鳥の観察や研究もされている柴田さんには、3年前にもこの番組に来ていただいて、ベイエフエムのすぐ近くにある公園でバードウォッチングの手ほどきを受けました。

そんな柴田さんの新しい本が『となりのハト〜身近な生きものの知られざる世界』。ハトに関するびっくりするような豆知識がたくさんつまっていて、話題になっています。
きょうはハトの未知の世界にご案内します。
☆写真協力:柴田佳秀

ドバトというハトはいない!?
※ハトは街中や公園など、どこにでもいるように思うんですけど、それだけよく見かけるというのは、たくさんいるということですか?
「そうですね。街の中に、人のそばにいる鳥なので・・・人が活動するところにいるので、よく出会うという感じですかね」
●街中でよく見かけるのは、いわゆるドバトですよね?
「そうです。ドバトと言われているハトですね」
●ドバトという種類ではないんですよね?
「そうですね。よくドバト、ドバトというんですけど、ドバトという名前の鳥はいないんです。正しくは、カワラバトという名前で、それを昔人間が利用するのに家禽化(かきんか)したんですね。それをドバトというんです。だからニワトリやアヒルとかと同じです。
ニワトリという鳥はいないんですね。あれは野生のセキショクヤケイという名前の鳥を、人間が利用するために改良したのがニワトリ、アヒルはマガモというカモを、人間が利用するのに品種改良したのがアヒル、それと同じようにカワラバトを家禽化したのが、ドバトと呼ばれています」
●人が改良したハトっていうことになるわけですね。
「そうですね。人が利用するのに改良したハトです」
●日本には何種類ぐらいのハトが生息しているんですか?
「身近にいるのはドバトなんですけど、日本には12種類、ハトの記録があります。身近にいるのはドバトと、キジバトいわゆるヤマバトとか言われているやつですね。その2種類が身近に、街の中にいます。
そのほかの10種はそう簡単に出会えないものがほとんどです。実はドバトと言われるカワラバトは、日本の鳥ではないです。外来種です。
もともとカワラバトはどこに棲んでいたかというと、エジプトとか中近東、あとは中国の西部やインドの乾燥地帯にいる鳥なので、それを昔連れてきて、逃げたり放したりしたのが野生化して、今街の中にいるのがドバトなんですね」
●世界にはもっと多くのハトがいるってことですか?
「はい、世界には今351種のハトがいます。ただこれは研究者によって分類の仕方が違うので、数の正確さは前後しますけど、大体350種くらいいると考えてもらっても問題ないと思います」
(編集部注:先ほど「家禽(かきん)」というお話がありましたが、「家禽」とは人間が繁殖させ、飼育している鳥のこと。動物だと「家畜」となります。
通称ドバトが、人が近づいても逃げないのは、もともと人が飼っていたから。人に慣れるように改良された遺伝子のハトだけが残り、それが野生化しただけなので、逃げないということだそうです)

もともとハトは神社の鳥!?
※ドバトは公園や神社、お寺などにたくさんいて、群れているイメージがありますよね。それはハトの習性なんですか?
「そうですね。ドバトの、カワラバトのもともと持っていた習性です。カワラバトというのは、集団で群れで暮らしている鳥なんですね。一方、ヤマバトと言われているキジバトはほとんど群れないです」
●日本にはどちらもいるんですよね。
「どちらもいて、両方とも今、都会では普通にいるんですけど、キジバトのほうはひとりが好きみたいです。あとはペアですね。たまに食べ物がいっぱいあったりすると、ペア同士で集まって来て、群れみたいになるんですけど、それはただ集まっているだけなので、群れとは呼べないですね」

●ハトはハトでもぜんぜん違うんですね。
「神社や公園にいて、よく歩いている奴はドバトですね。それは群れています。なぜ神社にいるかといったら、もともとハトは神社の鳥だったんです」
●えっ!? 神社の鳥というと・・・?
「例えば、もともと八幡様、あの八幡宮のシンボルがハトなんですよ。鶴岡八幡宮に行くとわかるんですけど、鶴岡八幡宮と書いてある看板がありますよね。あれの「八」はハトです。ハトの絵になっていますよね。そして、鶴岡八幡宮ではハトサブレを売っていますよね」
●おおお〜。
「あれは八幡様の鳥がハトだから、そのシンボルとして、ハトサブレを売っているるんです。今(大河ドラマで)やっている鎌倉時代の、源頼朝のあの時代に遡るんですけど、昔はハトが来ると戦いに勝つ! みたいな瑞鳥(ずいちょう)として、八幡宮ではシンボルとされている鳥なので、それでずーっと八幡宮とか、そういうところで可愛がられていたんですね。日本ではそういった神社がいっぱいできて、そこでハトが可愛がられて、神社やお寺中心にハトがいるようになったんです」
●そういう歴史があったんですね!
「そうですね。その辺は話すとすごく長くなるので、一冊本が書けちゃうくらいなんですけど(苦笑)」
●いや〜、奥深いですね、ハトって!

ハトの特殊な能力
※ハト胸という言葉がありますが、胸の部分が盛り上がって見えるのは、どうしてなんですか?
「あれは、実は筋肉がついているんです」
●あれは筋肉なんですね。
「そうです。いわゆる胸肉と言っている、あの筋肉は何をする筋肉かというと、翼を動かすための筋肉なんです。あれだけ大きな筋肉がついているってどういうことかといったら、力強く羽ばたくことができるので、ハトはすごいスピードで飛ぶことができます」
●確かにそうですね。
「スピードも出せるし、さらに距離も長く飛ぶことができます。もともとハトの習性として、お家みたいな、寝るための巣を作ったりする場所があるんですね。
ハトの食べ物って、大体みなさん豆だと思いますよね。確かに豆なんです。豆というか草のタネなんですね。草のタネがなっているところは、結構遠くに行かないとなかったりしますよね。
広い範囲を飛び回って、わーっと群れで行って(タネが)あると、そこにばーっと降りて、食べてまた戻るという、お家に帰るという暮らしをしていたんです。すごく広範囲を飛び回らないと食べ物がないですよね。だから胸の筋肉が発達していて、別に渡り鳥ではないんですけど、ドバトは1日30キロほどの距離を飛びます。
あと水もよく飲みます。食べ物がタネで乾き物なので、水を飲まないとうまく消化できないんですね。だから鳥の中では水もすごくよく飲むんですけど、水を飲みに行くのも遠くまで、砂漠に棲んでいる鳥だったので、胸(の筋肉)が非常に発達していたりします。
森の中に棲んでいるハトも木の実を食べるので、どこか遠くへ木の実を取りに行かないと、いつも同じところにはないですよね。それで遠くまで飛んで行くので、筋肉が発達していて、ハト胸みたいに膨らんでいます」
●そうなんですね〜。
「もうひとつハト胸になる理由があって、それはよくタカに襲われるんです。タカ派とハト派ってあるじゃないですか。ハトってタカに食べられちゃうんですけど、食べられてばっかりだと絶滅しちゃうので、強力な筋肉で早く飛んで逃げ切るんです」
●先ほど水をよく飲むって話もありましたけど、水の飲み方もほかの野鳥とは違うんですよね?
「そうですね。普通、鳥は水を飲む時に、水にクチバシを浸けてから、そのままストローみたいにゴクゴク飲まないで、ちょっと(水を)ふくんでは、上を向いて流し込むような感じ・・・ニワトリはそうしていますよね。
ハトはクチバシを水に浸けて、そのままゴクゴク飲むことができるんです」
●下を向いたまま飲めるってことですよね!
「そうですね。それができるのはハトの仲間とサケイっていう仲間と、一部砂漠にいるキンカチョウっていう小鳥、それぐらいだけで、ほぼハトの専売特許というくらい特殊な飲み方です」
●へぇ〜〜、凄い能力ですね。
「なぜハトにだけそんな能力があるのかっていうのは、実はよくわかっていないんです」
●そうなんですか?
「一説によると、少ない水でも・・・森の中の浅い(水たまりの)ちょっとしかない水でも飲めるようにっていう説があります。とにかくハトは水を飲みたがるので、ちょっとの水でも飲めるように、そういった飲み方をするようになったんじゃないかなっていう説があるんですけど、まだはっきりしたことはわかっていないです」

ハトはミルクで子育てをする!?
※野鳥の場合は、おもに春から夏にかけて、繁殖をすると思うんですけど、ハトも同じような感じなんでしょうか?
「ハトの繁殖シーズンは一年中なんです」
●えっ! 一年中!?
「一年中ですね。春から夏前は多いんですけど、一年中ハトは繁殖します。それはなぜかというと、ハトは結局、タネばかり食べているので、タンパク質がないですよね。そのタンパク質を補うのに普通、タネばっかり食べている鳥でも、繁殖期の時だけは、虫を取って来て(雛に)あげるんですね、スズメとか。
だけど、ハトはずーっとタネを食べているので、ピジョンミルクという特殊な餌を雛に与えて育てるので、季節を問わないんです」
●ミルクで子育てをするってことですか?
「そうなんです。ミルクで子育てをするんです」
●えっ! どうやってミルクを出すんですか?
「鳥なので、おっぱいがあるわけじゃないので、ミルクといっても、まあミルクのようなものが・・・実は口の食道の一部に素嚢(そのう)という袋みたいなのが鳥ってあるんですけど、そこの一部が(ハトに)子供ができると、壁が厚くなるんですね。そこの部分が剥がれて溜まるとチーズみたいな感じになるんです。
すごくタンパク質に富んでいて、それを吐き戻して雛に与えるってことをやっています。ハトの特殊な生態なんですけど、あたかもミルクみたいな感じなので、ピジョンミルクという名前をつけています」
●そのミルクを出せるのはメスだけですよね?
「いや、実はオスも出せるんです」
●え〜〜! じゃあオスのミルクで育っているっていうこともあるんですね?
「そうなんです。オスもメスも両方(雛にミルクを)与えないと、多分足らないんでしょうね。我が身を削って与えるし、そう簡単に食道の素嚢の壁が厚くならないので、だから代わりばんこに与えるんでしょうね。
その代わり、ハトは雛の数が少ないんですよ。一羽か二羽なんですね、一回で育てられるのは。それはおそらく餌の量がそれほど用意できない、だから(オスとメスの)両方で育てないといけない、その代わり一年中、繁殖可能なので、ハトは数を期間で補うという戦略をとっているんだと思います」
(編集部注:ハトの繁殖シーズンは1年中ということで、求愛行動を観察するチャンスも多くあると思います。オスがノドを膨らませて、メスを追いかけ回すそうですが、主導権はメスが持っているとのことですよ。
ちなみにドバトはオスとメスの、見た目の違いはほとんどないので繁殖行動のときに、ノドを膨らませているのがオスだとはっきりわかるそうです。ノドまわりの虹色にも注目してみてください。
ハトはその昔、通信の手段、いわゆる伝書バトとして利用されていました。その起源は一説によれば、紀元前3千年前のエジプト、漁師さんが海に出るとき、ハトを連れて行き、どれくらいの量の魚が獲れたのかをいち早く知らせるために、ハトを使っていたそうです)
※これは、ハトが巣に戻る「帰巣本能」があるからだと思いますが、ハトはどうやって戻る方向を見極めているんですか?
「基本的には近い距離だと景色を憶えているみたいです。伝書バトクラスだと近い距離は憶えていているみたいですね。もうちょっと遠くなってくると、あらゆるセンサーを使って自分の位置がわかるみたいです。ひとつに、地磁気ってありますよね。地球の北とか南とか・・・それが正確にわかるらしいです」
●そういう能力があるんですね!
「そういう能力に長けていて、特にドバト、カワラバトというのはお家みたいなところがあって、どこかに行って帰って来るという、もともとの習性があったので、それをうまく利用したのが伝書バトなんです。だから本来の習性をうまく利用しているんです。
キジバトとかアオバトとか、そういうハトに、それをやらせられるかっていうと、全然そういう習性がないので、やらせるのは無理ですし、賢いと言われているカラスもお家からどこかへ行って、また戻って来る暮らしをしていないので、いくらカラスに教えてもできないです」
(編集部注:ハトは時速60キロくらいで飛ぶことができ、ハトのレースに出場する訓練されたハトは、なんと1000キロほどの距離を休まず、15時間くらいかけて飛ぶことができるそうです。まさにアスリートですね。
ちなみに昭和30年代くらいまで、新聞社は写真を送るために、ハトを使っていたそうですよ)

人間の生活が見えてくる!?
※きょうはハトの驚きの能力など、いろいろお話をうかがってきましたが、ハトのような身近な生きものに目を向けてみるのは、大事なことかも知れませんね。
「そうですね。色んな身近な生き物に目を向けてみると思わぬことがあって・・・
実は僕はそれほどハトが好きではなかったんです。今告白しちゃいますけど(笑)」
●そうなんですか〜。
「実はそうなんですね。鳥を好きな人って、ハト好きはそういないかもしれない」
●ちょっと地味なイメージがありますよね。
「地味ですし、わりと形にバリエーションがないので、まあアオバトとか綺麗なので、それは人気があるんですけど、身近にいるやつは、なんだハトか、なんだキジバトかという感じで、見ない人が多いんですね。
僕もこの本を書くお仕事がきっかけで、ハトを見直してみたんですけど、いや面白いです、非常に! ハトから見えてくることがいっぱいあって、都市の鳥を僕は主に研究しているんですけど、都市の鳥を研究すると、人間の生活が合わせ鏡のように見えてくるので、鳥を見ているんだけど、人を見ているみたいな感じになります」
●例えば、どんなことがわかるんですか?
「ここ毎日ハトがいるな、絶対ここで人が餌をあげているなと・・・ちょっと時間帯を変えてみると、やっぱり餌をあげる人がいて、話をしてみると・・・なんで餌をあげているんですか? って聞いたら、ここでハトに餌をあげられるのは、私くらいしかいなくてっていう人が何人もいたりするんですね(笑)。
あと、街のビルの構造なんかも、あ〜、ハトが巣を作っているなって見えるんだけど、もうちょっと鳥のことを知っていたら、こんなところに巣を作られないように、隙間を作らないようにするんだろうなって思いながら、僕は見ているんです」
●もうちょっと気にしてみるっていうのがいいかもしれませんね。
「そうですね。気にして見ていると世界が変わります。普段の生活がかなり変わりますね」
INFORMATION
柴田さんの新しい本をぜひ読んでください。国内外のハト全般に関する豆知識がたくさん掲載されています。一般的にはフンの被害があったり、時には害鳥として駆除されたりと、マイナスのイメージもあるかと思いますが、この本を読むと、ハトの能力や人とのつながりを知ることができて、見方が変わると思います。ぜひ身近なハトの世界を覗いてみてください。山と渓谷社から絶賛発売中です。
詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎山と渓谷社HP:https://www.yamakei.co.jp/products/2821063100.html
柴田さんの活動についてはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎柴田さんHP:http://shibalabo.eco.coocan.jp/
2022/6/19 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、地球を一周する外洋ヨットレース「GLOBE 40(グローブ・フォーティ)」に挑むセーリング・チーム「MILAI」のスキッパー「鈴木晶友(すずき・まさとも)」さんです。
6月26日にスタートする「GLOBE 40」は、約5万5千キロを9ヶ月かけて走破するまさに地球規模の壮大なレースです。
鈴木さんは1985年生まれ、千葉県出身。小学2年生の時に、稲毛ヨットハーバーのジュニアヨット教室に参加し、ヨットの楽しさに目覚めます。その後もヨットを続け、高校入学後に本格的に競技ヨットを始め、大学生の頃には、大会で優勝するなどの成績をおさめます。社会人になってもヨットへの情熱は燃え続け、ついには会社を辞め、2019年に大西洋横断レース「ミニトランザット」に挑戦し、完走を果たします。
きょうはそんな鈴木さんに「GLOBE 40」にかける思いなどうかがいます。
☆写真協力:MILAI AROUND THE WORLD

チーム名「MILAI」に込めた思い
※鈴木さんが挑む外洋ヨットレース「GLOBE 40」のお話の前に、「MILAI」というセーリング・チームについてうかがいましょう。このチームはいつ頃発足し、メンバーは何人いるんですか?
「私たちは2020年から、今年スタートする『GLOBE 40』を目指して活動を始めました。2020年にMILAIを発足して、最初は私と日本人のスキッパー中川紘司とふたりだったんですけれども、今はチームにセーラーが5人いて、その5人で世界一周をやろうということで活動しています」
●壮大なプロジェクトだと思うんですけれども、メンバーを集めたのは鈴木さんなんですか?
「はい、そうですね。今回の世界一周ヨットレースの前に、2019年に大西洋横断ヨットレース『ミニトランザット』というヨットレースに出場したんですね。その後に世界一周をやろうということで、2020年から活動をすることになったんですが、当時、ミニトランザットで知り合ったセーラーに声をかけて、一緒に世界一周をやらないかということで、みんなに声かけあって、今5人のセーラーで活動しています」
●実際にヨットに乗るメンバー以外に、船の整備をするメカニックですとか、レースを支えるサポート・メンバーもいらっしゃるんですよね?
「そうです。セーリングをする前に船の準備、あとは陸上でのいろんなサポートが必要になるんですけれども、多くのフランス人、あと日本人のスタッフに支えられながら、今全部で総勢5名ぐらいの陸上スタッフがいます。なので、約10名ぐらいのチームとして活動しています」
●チーム名のMILAIには、どんな思いが込められてるんですか?
「MILAIの意味は日本語の、過去未来の未来で、というのも私たち外洋セーリング(のチーム)は今、フランスで活動しているんですけれど、なかなか日本人のセーラー、そもそも日本ってあまりヨットが盛んじゃないんですね。
しかも、セーリングという競技の中で外洋に行くかたって少なくて、若手がなかなか育たないというような状況なんです。なので、私たちのチームMILAIの活動が次の若手のセーラーに、同じようなことやりたいと思ってもらえるようなきっかけになればと思って、MILAIという名前をつけて活動しています」
(編集部注: チーム「MILAI」に所属するセーラーは鈴木さんと中川さんのほかに、フランス人のアンさんと、エステルさんの女性ふたり、そしてイタリア人のアンドレアさんという 国際的なチームなんです)
風の力だけで世界一周!
※今回、鈴木さんたちが挑む外洋ヨットレース「GLOBE 40」、この「GLOBE」とは「地球」、「40」とはヨットの大きさを表わすそうですが、いったい、どんなレースなのか、教えていただけますか。

「GLOBE 40は全長40フィート、メートルにすると12メートルのヨットで、ふたり乗りで世界一周するヨットレースです。モロッコのタンジェというところをスタートして、世界8カ所に寄港しながら来年3月、9ヶ月間かけて世界を一周するヨットレースです」
●今回のGLOBE 40は何カ国から何艇のヨットが出場するんですか?
「国数でいうと、8カ国のセーラーが集まっています。出場数が実は8艇程度と少ないんですけれども、これはコロナウィルスの影響で、大会が1年間延期されたことがひとつ大きな原因としてあるんですね。
それとGLOBE 40は今回が初回の大会となります。これから4年に1回ずつこのGLOBE 40は開催されていくので、いつかは大きなヨットレースになって、1回目に日本人が出たんだねっていうような、ヨットレースになるんじゃないのかなと思っています」
●どんなコースで地球を一周するんですか?
「長いですよ(笑)。スタート地がモロッコのタンジェで、最初にカーボベルデ(共和国)に寄港します。その後、南アフリカのケープタウン沖を通った後に、モーリシャスを経由し、モーリシャスから次がニュージーランド、ニュージーランドからタヒチに一度北上します。
その後、南米(アルゼンチン)のウシュアイア、その後、北上を始めて、ブラジルのレシフェを経由し、カリブ海のグレナダ、そして来年の3月にフランスのロリアンに戻ってくる、全部で3万マイル、約5万5千キロのセーリング・ヨットレースなりますね」

●すごいですね。ヨットで世界の海をセーリングするんですよね。
「風の力だけですよ」
●ということは、風がないと進まないっていうことですよね?
「そうです。本当に風の力だけで走るのがヨットです。これはヨットレースなので、エンジンがついているんですけれども、レース中はスクリューを回して動力として使っちゃいけないんですね。
風がない時は船は止まりますし、逆に嵐の時はもうそんな速く走らなくていいよっていうくらいに速く走るので、本当に自然の力を十分に受けるダイナミックなスポーツになります」
●風が吹かない海域っていうのはあるんですか?
「いちばん風が吹かない海域で有名なのは、赤道無風地帯というところで、その無風地帯にハマってしまうと、3日間から4日間、そこからまったく動けないということもありえるみたいですね」
●鈴木さん的にはどのあたりが、今回のレースを左右する地点だとお考えですか?
「ケープタウンを越すところと、あとは南米のケープホーン、この2カ所がいちばん難しいと言われているんですね。低気圧がどんどん来るところで、風速が40メートルにもなるような海域なので、そこを無事に突破できるかが勝負の分かれ目になるじゃないのかなと思っています」
奥さんにありがとう!
※ヨットで世界を一周してみたいという思いはいつ頃、芽生えたんですか?
「もともと世界一周をしてみたいなっていうのは、小学生の頃からうっすら描いていたものはあったんです。ただ、2019年に初めて大西洋横断ヨットレースに出場した後に、急に世界の海はどんな海なんだろうなっていうのを、より強く感じるようになったんですね。なので、大西洋を横断した後から、次は世界一周だっていうのを目指して、この2〜3年、世界に向けて頑張ってきました」
●地球一周のヨットレースに参戦している日本人と言えば、この番組にも何度もご出演いただいている海洋冒険家の白石康次郎さんがいらっしゃいますけれども、やはり白石さんの影響というのは大きかったですか?
「大きいですね。白石さんには大変お世話になっています。というのも、私が今フランスのロリアンっていうところで活動しているんですけど、このロリアンは外洋セーリングの中心地と言われていて、多くの大西洋横断ヨットレースだったり、世界一周ヨットレースだったり、そういう(レースに出場する)ヨットがみんな集まっているような基地になるんです。
そのロリアンに白石康次郎さんもベースを置いているので、ヨットのことだったり、フランスの生活のことであったり・・・例えば、困った時に誰を頼ったらいいのかなど、たくさんのサポートを白石康次郎さんからいただいて、今こうやって活動を続けられています。本当に感謝しています」

●ロリアンという街には、あまり知り合いもいらっしゃらなかったっていうことですか?
「2018年に初めて行った時は、知り合いがまったくいませんでした。フランスのかたは、英語を話さないかたが多いですね。私はフランス語をまったく、今でも話せないんですけど、まずはフランス語ではなくて、英語が話せる人を探すところから始めたのがもう4年前ですね。本当にいい思い出です。
今となってはたくさん仲間ができて、多くの友達もいるので、すごく心地がいいんですけれど、初めてロリアンに行った時は、なんでこんなところ来ちゃったんだろうぐらいの(笑)、完全に地の果てに来てしまったなというような感じでした」
●どうやって地元で人脈を作っていったんですか?
「最初は本当に知り合いもいなくて、ヨット(レースの活動)を2018年に始めた時はお金もなかったので、まず自転車を買おうと思って自転車を買って、いろんなお店に行きました。そこでまず、あなたは英語を話せますか? こんなことで困っているんだけど、助けてください、っていうところから少しずつ始めたんですね。
そうしたら、変わった日本人がいるぞって、ちょこちょこ噂が広まっていくんですよね(笑)。ある日突然、逆になんか困ったことがあったら言ってくれよっていうのを、フランスの現地のかたから声をかけてもらえるようになりました。そういう流れで、今となっては本当にたくさんの仲間たちに囲まれながらフランスで生活しています」

●もともと鈴木さんは会社員だったんですよね?
「そうです」
●会社を辞めて3年ほど前、単身フランスに渡られたというということですけれども、奥様のご理解あってこそですよね?
「ええ、ありがたい、ほんとうにこの場を借りて、奥さんにありがとう! って叫びたいぐらいなんですけど(笑)」
●普通はなかなか理解できないと思いますよ!
「もともと社会人、それからサラリーマンをしていた時も、ヨットは競技としてやっていたので、ヨットをやる旦那だっていうことを理解はしてもらっていたんですけど、まさか旦那が大西洋を渡ったり、世界一周に挑戦するなんて思ってもいなかった! とは今でもよく言われるんですね。ただこのヨットレースに参加するっていうのはある意味、ひとつの安全を確保するということでもあるんですね。
ヨットレースに出場するには、数々の資格が必要だったり、予選レースがあったりとか、ある程度ボーダーを越えないとヨットレースに出られないというラインがあるので、僕はこのヨットレースで横断するんだよ、このヨットレースで世界一周するんだよ、だから僕は大丈夫だよっていうことで、ある意味、妻は納得してくれたというような感じです(笑)」
●そうなんですね〜(笑)
「ただ、妻は日本で生活をしていて、私は日本に帰るのが、半年に一回くらいなので、毎回日本に帰るたびに、玄関のカギ、変わっていないでくれよ! って思いながら帰っています。今のところは家のカギは変わらずに生活しています(笑)」
●素晴らしい奥様ですね!
「ありがたいですね」
イルカの声、満天の星空
※6月26日に始まる本番のレースに向けて、大西洋横断レース「ミニトランザット」にも出場されました。レースとはいえ、ヨットの上で生活もしなくちゃいけませんよね。食事とかはどうされるんですか?

「何を食べているの!? って思いますよね。僕らの船ってヨットレース用なので、海の上でお湯しか沸かせないんですよ。日本人なので私はお米が食べたくなるので、アルファ米といわれる乾燥したお米をお湯で戻して食べたり、あとは日本のレトルト食品を持っていったりとか・・・。基本的には日本だと防災用に使われているような食料を海の上で食べることが多いですね。
あとは、トイレがないんですよ。なので、船のデッキの上にバケツを置いて、そこで用を足して、という形です。用を足している時にイルカたちが来ると、今は来ないでくれ〜って(笑)思うような・・・イルカと会話をしながらの青空トイレです!」
●そうか! イルカやクジラにも遭遇する可能性もあるっていうことですよね。
「ほんとにこんなにもイルカやクジラって海にいるんだなって思うくらい、毎日のように遭遇します」

●すごいですね〜。
「船の中で寝ていると、イルカの声が聴こえるんですよ。”キュルルルル”っていう音が、水中から伝わってくるので、自分が船に乗って大海原を走っているんだなぁっていうのをすごく感じますね」
●すごいことをされているんですね、鈴木さん! 壮大だな〜。
「自分の力で太平洋を横断したい! 世界一周したい! っていうのを叶えられるのは、ヨットしかないので、ヨットで自分の力で走っているという感じですね」
●ふたりで乗っているっていうことですけれども、ということは、睡眠は交代交代で取るっていうことになるんですか?
「そうですね! 基本的にはひとりがオンで、ひとりがオフになるので、僕らは2時間交代制でヨットを走らせているんですね。基本的には2時間、実際は(ネットで)天気を見たりとか、例えばレポートを書いたりしないといけないので、1時間半くらいは1回の睡眠で取ることができます」

●1時間半ごとっていうと、ずっと仮眠状態という感じですね。
「そうですね。小刻み小刻みに1時間半ごとに、24時間ずーっと交代交代に回ってくるんですけれど、3週間とか4週間、海の上にいると、ヨットレースが終わった後に、家に帰っても2時間で起きちゃうんですよ。もうそういう体になっているんですよね」
●そうなんですね〜。鈴木さんは外洋に出られて、これまでにいちばん印象に残っている景色ってありますか?
「海の上は周りにまったく光がないので、月がない夜に空を見上げると、ほんと満天の星空が広がっているんですよ。陸の上で星空を見た時に、オリオン座があそこにあるなぁ〜とか思うんですけど、海の上で満天の星空を見ると、オリオン座がどこにあるか分からないくらい星が綺麗なんですね。
その星空の下でセイリングをしていると、本当に自分が今、地球の上を走っているんだなっていうのを感じますね」
(編集部注:先ほど、ヨットの中で寝ていると、イルカの声が聴こえるというお話がありましたが、イルカやクジラ、そして海鳥など、生き物たちと出会えるのも楽しみのひとつだそうです。海鳥は羽を休めるために一晩中、ヨットにいたこともあるそうですよ)

30年間、抱いてきた夢
※いよいよ6月26日から地球一周の外洋ヨットレース「GLOBE 40」が始まります。ずばり、目標は?
「まずは無事に、船を壊さずに世界一周を遂げることが、私たちの目標です。船を壊さずにしっかり世界一周を遂げれば、それなりの成績がついてくるので、(何位になるかは)私も分かりませんけれども、なるべく上位を目指して、無事にフランスに帰ってきたいなと思っています」
●改めてこのレースを通じて、どんなことを伝えたいですか?
「私はずーっと子供の頃からヨットを続けていて、今回初めて世界一周に挑戦できるんですけども、この夢はずっと30年間、抱いてきた夢なんですね。ずっと抱いてきた夢を諦めずにいたからこそ、今回挑戦できているので、ぜひ次の世代の子たちには夢を諦めずに、何かしらの挑戦を続けてもらいたいなというのを、私の活動を通してお伝えできたらいいなと感じています」

●レース中にネットで、リアルにつながることはできるんでしょうか?
「はい、できます! 実は、今はインターネットが海の上でもつながる時代なので、テレビ電話がなんとできちゃうんですね! 海の上からまたお電話できたら嬉しいです」
●レースに参加している気持ちで応援できるっていうことですね!
「そうです! リアルタイムでつながります。海の上で私たちは24時間、2時間交代で寝起きしているので、いつでもご連絡いただければ、お話できるかなと思います」
●鈴木さん、頑張ってください! 番組でも応援しています!
「ありがとうございます! ぜひよろしくお願いいたします」
●ぜひまたお話し聞かせてくださいね!
「ありがとうございました!」
INFORMATION
今年初開催の「GLOBE 40」は6月26日に、ジブラルタル海峡に面したモロッコのタンジェという港町からスタート、その後、8カ所の港に寄り、およそ9ヶ月かけて、2023年3月にフランスのロリアンに戻る予定です。総距離はおよそ5万5千キロ! 9つの区間(レグ)を鈴木さんは全部乗り、レグごとに相棒を代えて臨むことになっています。
そんなチーム「MILAI」は、活動資金をクラウドファンディングで募っています。世界を巡るヨットレースは、船のメンテナンスやレースの継続などに費用がかかります。ぜひ鈴木さんたちの「夢」と共にご支援していただければと思います。
チームやレースの詳細、そしてクラウドファンディングについては「MILAI」のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎「MILAI」オフィシャルサイト:https://milai-sailing.com
◎「MILAI 」クラウドファンディング:https://milai-sailing.com/crowdfunding.html
2022/6/12 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、秘湯探検家の「渡辺裕美(わたなべ・ゆみ)」さんです。
渡辺さんは奈良県出身。会社勤めをしていた15年ほど前、仕事のストレスで心身のバランスを崩したときに、バックパックを背負い、東北の温泉を巡り、自然と触れ合ったことで、とても癒されたそうです。そしてすっかり秘湯にハマり、これまでに国内外を含め、およそ2500カ所以上の温泉を制覇。温泉ソムリエの資格も取得し、現在は秘湯の旅番組などで活躍されています。
そして先頃、アウトドア雑誌のネット版に連載していた温泉レポをまとめた本『絶景温泉ひとり旅〜そろそろソロ秘湯』を出されました。
きょうはそんな渡辺さんをお迎えし、標高1400メートルの絶景温泉や、山に分け入り、やっとたどりつく、神々しい滝の温泉など、秘湯の話題満載でお届けします。
☆写真協力:渡辺裕美

サバイバル感も楽しめる「野湯」
※「秘湯探検家」という肩書は探検するかのように秘湯を追い求める渡辺さんの活動にぴったりだと思ったんですが、ひとりで行くのは何か理由があるんでしょうか。
「そうですね。やっぱりあんまり大勢で行くと、結局普通のお風呂と同じになっちゃうじゃないですか。やっぱりひとりで行く醍醐味は、自然をまさに独り占めできること。鳥の声、川のせせらぎ、あと自然に湧き出ている温泉そのものだったり・・・それを自分ひとりで満喫できるのは、多分ソロで行く以外できないですよね。
そういう独り占め感と、あと道中なんですね。割と地図がない秘湯に行くことが多いので、何人かで行くとどうしても、おおよその場所が分かっていたり、ヒントを与えられてしまうんだけど、ひとりで行くとサバイバル感っていうか自分でその場所を探し当てるみたいな、そこがすごく楽しいところです」
●この本には、バックパックを背負って秘湯まで山の中を歩いたりっていう写真も載っていましたけど、怖くないですか?
「めっちゃ怖いですね。怖がりなので、人一倍、クマ除けスプレーだったり鈴だったり、例えば川が出てきたら、こう渡ろうとか、川の渡渉のスパッツを一応持って行ったりとかします。自然って何が起こるか分からないので、やりすぎるぐらいの準備をして挑むというのはあると思います。
正直、いちばん怖いのは人間なんですよ。クマさんよりも動物よりもやっぱり人間がいちばん怖いですね。でも自然の中に入ってしまうと、それほど(自然が)怖いっていう感じはあんまりないですね」
●日本には秘湯と言われる場所は、どれぐらいあるんですか?
「秘湯と言うと、割と宿も含んじゃうんで多くなるんですけど、野湯(のゆ)っていう山の中にポツンと湧いている、海岸にポツンと湧いている、そういう自然の温泉は300箇所以上あると思います」
●その中で何箇所ぐらいの秘湯を制覇されたんですか?
「200箇所は超えていると思いますね」
●すごいですね〜! 先ほども野湯のお話がありましたけど、秘湯と一口に言ってもいろいろあると思うんですが、いくつかタイプに分かれているっていうことなんですか?
「そうですね。秘湯って言っちゃうと割と広義な意味になって、秘湯の宿とか、宿も含んじゃうんですけど、野湯はその秘湯ジャンルの中でも、もっとニッチなところにあって、いわゆる未管理の、人間の手が加えられていない温泉です。
山の中とか川にポツンと湧いているような、営業とかもしてないし、ただ湧き出ている、そういう温泉を野湯って言うんです」
湯船の中でご来光!

※新刊『絶景温泉ひとり旅〜そろそろソロ秘湯』には66カ所の秘湯が掲載されています。その中から気になった温泉をうかがっていきます。まずは、表紙になっている、この写真の温泉はどこなんですか?
「これは岩手県の八幡平市にある、本当に八幡平の山頂付近にあるポツンと一軒宿なんですけど、”藤七温泉(とうしちおんせん) 彩雲荘(さいうんそう)”さんって言います。
なんで表紙になったかというと、綺麗なのもあるんですけど、私がすごく感動した、秘湯巡りを始めた初期に、初めて東北の温泉を周った時、この藤七温泉 彩雲荘さんに泊まって、あまりにも素晴らしい温泉でびっくりしたので、そういう印象的な思い出の温泉です」

●どう素晴らしいんですか?
「ほかの温泉と何が違うかっていうと、国立公園の中にいくつもの露天風呂がぽこぽこっていっぱいあるんですよ。それはもう本当に自然の中にただただ湧き出ている、まあ人工的に作ってはあるんですけど、でも本当に見た目は自然の中に湧き出ている、さっき言った野湯に近い形で、温泉も底からプクプクと気泡となって湧き出てくるんですね。
まさに自然のジャグジーみたいな感じで、気泡が背中にポロロンって湧き出た時に付くんですけど、あ、今湧き出た! みたいなのがすごく分かるし、音もぽこぽこっと鳴るんですよ。
これってもう究極の幸せで、温泉って本当に生まれたて、湧きたてがいちばん鮮度抜群なんで、その鮮度と自然の神秘を体感できるのが彩雲荘さんのすごいところです。
あと泥パックとかもできるんですよ。下に泥が溜まっているので、女性のかたはすごく必見というか、顔に塗りたくっているかたもいらっしゃいますね」

●写真を見ると、お湯が確かに白っぽいですけれども、これは泥なんですね。
「そうですね。ちょっとだけ茶色いっていうか薄いミルキーグレーみたいな色で、これがまさに泥と温泉が混ざった状態なんですよ」
●標高もかなり高い場所にあるっていうことですよね?
「標高は1400メートルぐらいですね」
●自然のジャグジー、いいですね!
「そうなんですよ。一回、小尾さんも泊まっていただきたいですけど、この温泉、すごいのが次の日、朝5時ぐらいに岩手山の方向を見るとご来光が出るんですよ。周りがオレンジ色に包まれて、そこにちょこんと露天風呂があるんですけど、その湯船の中でご来光を浴びる、これ最高です。
とにかく朝昼晩、自然の神秘に触れられるっていうのが彩雲荘さんのすごいところかなと思いました」
(編集部注:渡辺さんが野湯に出会ったのも、温泉巡りを始めた15年ほど前、東北の温泉を巡っていた時だったそうです)
神々しい滝の秘湯
※本に載っている秘湯のお話を続けましょう。栃木県の那須方面にある幻といわれる滝の秘湯、これにも驚きました。これはどんな場所にあるんですか?

「栃木県の那須郡にある「両部(りょうぶ)の滝」ですね。那須の茶臼岳の八合目付近に潜んでいる温泉の滝なんですよ。実はこれ全然知らなくて、情報を誰かから聞いたんです。こういうのがあるよ、みたいなのを・・・。
ただ地元の人も誰も知らないし、ガイドブックでも一切紹介されていなくて、地元の観光協会や山岳クラブみたいなところに電話したんですけど、いや知らない!の一辺倒。知っていたとしても、そこはもう言えません! みたいな感じで、すごく隠している、じゃないですけど、ほとんど知られていないのが8割で、一部は知っているけど、知らんふりみたいな感じでした。
いろんな情報を一生懸命探して、行ってみたんですよ。温泉の滝なんですけど、すごいのが温泉の滝にもうひとつ向かい合うように普通の沢水の滝があって、ふたつの滝が向かい合って落ちているんです。本当に神々しい、絶景を超えて神々しい雰囲気が漂っている場所なんですね。
温泉は100メートルくらい上流の岩場から湧き出ているんですけれども、滝に行き着くまでに、(温度が)40度くらいから30度弱くらいになるんですね。それでも外気温が結構冷たい時は、あたりに湯気がふわぁ〜っと舞って、本当に神々しいの一言ですね」

●ネットとか雑誌にも載っていないような場所なんですね。すごい! まさにパワースポットですね!
「そうなんですよ。本当にパワースポットでした!」
●知る人ぞ知るというか・・・。
「そうなんですよ。いろいろ歴史を調べていくと、もともと100メートル上流の源泉湧出地が、江戸時代からずっと山岳信仰の御神体みたいになっていたところで、結構、信仰者たちがそこをお参りするのがひとつの流れだったようです。それぐらい温泉と信仰が結びついていることにも、神秘的というかストーリーを感じました」
●そうですね〜。
「これはすごい滝でした。この滝は正直(温度が)30度もないので、温かいっていうわけではないんですけど、見るだけでも、さっきおっしゃったパワーをもらえるような、そういう場所ですね」
※続いて、私が特に気になった温泉が岩手県にある「国見(くにみ)温泉」、お湯がグリーンなんですよね?
「そうなんですよ。あそこは私も藤七温泉の次の日に行ったんですけど、本当に入浴剤みたいな色でびっくりしました!
面白いのが、すごくきつい炭みたいな、墨汁みたいな、よくアブラ臭とかって表現されるんですけど、独特な匂いもするんですよ。すごく成分が濃い温泉で、不思議な墨汁みたいな匂いがして、入ったら、服を着替えてもTシャツにずっと匂いが付いて、帰る新幹線まで匂っているみたいな感じです。
色も強烈、匂いも強烈な国見温泉はぜひ温泉、秘湯巡りを始めたいっていう人にまず足を運んでいただきたい場所です。岩手県の雫石っていうところにあります。一軒宿です」

ルールとマナーを守って楽しむ
※秘湯に行くときに心がけていることはありますか?
「野湯は調べていくと、結局あんまり責任者がいないんですよ。個人の敷地にあったら、その人のものだったりするんですけど、例えば国有林の中にあるような野湯は、森林管理者さんが森林を保全するために管理しているだけで、野湯は特に管理もされていないし、入浴を認めてくれているかっていうと、そうでもなかったりします。
その中でマナーが悪かったり、ちょっとした事故が起こったりすると閉鎖されたりとか、いろいろそういう事象があって・・・私たち野湯愛好家は、その土地にある自然公園法だとか、そういうルールを守って、環境保全に配慮しながら温泉を楽しまないと、いつかなくなっちゃうかもしれないような温泉なんですよ。
街のスーパー銭湯とかだったら、廃業しないかぎりは絶対に維持されていくじゃないですか。そこがすごく違うところですね。
結構、幻の野湯ってあるんですよ。あの時、何十年前はあったよね! みたいな。だから本当に個人のマナーとルールに任されているっていうか・・・なので、できるだけ温泉に着いたら、温泉そのものを楽しむけど、余計な手は加えない。人工物を置いたり、形を大きく変えたりとかしないで、そのままありがたく自然の恵みを楽しむ、みたいなことを私は結構心がけています」
ワクワク探検! サバイバル感!
※ネットで検索しても出てこないような秘湯の情報は、どうやって調べているんですか?
「結構難しいですね。例えばですけど、国土地理院の地図、温泉マークってあるんですよ。全然知らなかった温泉が湧出してたりとか。ぼこぼこって出てるんですけど、噴気のマークとかってあるんですよ。そういうところをたどったら、実は新しい野湯が出てましたとか。あと地元の林業関係者のおじさんにめっちゃ聞いたりします。
山を知っている人って、意外にそういう温泉も知っていたりするので、この辺にこういうのありますか? とか聞いたり、聞き込み調査! あとGoogleの航空写真! 上から見て、山肌に白いのが付着しているのが見えたりするんですよ。そういうところは、ピンを付けておいて、どういうふうにアプローチしたらいいのかを見て行ったりします」
●まさに探検ですね! ワクワクしますね〜。
「そう、むちゃくちゃワクワクしますね!(笑)。温泉にたどり着くよりもそこがメインになってきていて、去年も北海道なんですけど、往復11時間かけて、温泉は20分もなかったかな。 浸かったといっても本当に寝転がっただけで、冷たい20度の温泉が岩盤を這うように流れているだけのところなんですけど、そのためだけに往復11時間歩いて(笑)、それぐらい自然と一体化できる道中に、また最高のものがありますね! 癒されるというか」
●改めて、ソロで行く秘湯の魅力とはなんでしょうか?
「そうですね。やっぱりふたつ! 自然との一体化、サバイバル感、道中ですよね! あと温泉の独り占め感! このふたつに尽きると思います。
日本にはいろんな素晴らしい秘湯があって、実はガイドブックにも出ていない、実は地元の人も知らない、みたいなところが結構あるんですよ、探していくと。そういう自然の素晴らしさがやっぱり野湯にはあると思うので、これからも行きたいなと思っています」

INFORMATION
渡辺さんの新しい本をぜひお買い求めください。これまでに訪れた温泉の中から厳選した66ヶ所の秘湯を掲載。中にはここが温泉!?と、目を疑うような写真に驚きますよ。写真がたくさん載っているので、見ているだけでも楽しい! そしてお話の中にもありましたが、野湯を楽しむときのルールやマナー、注意事項についてもしっかり掲載されています。小学館から絶賛発売中です。
◎小学館HP:https://www.shogakukan.co.jp/books/09311507
◎渡辺裕美さんのブログ:http://shifukuonsen.blog94.fc2.com/
2022/6/5 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、ドキュメンタリー映画
『杜人〜環境再生医 矢野智徳の挑戦』の監督「前田せつ子」さんです。
前田さんは1984年に現在のソニー・ミュージックエンタテインメントに入社、音楽雑誌などの編集者から、フリーランスとなり、雑誌「Lingkaran(リンカラン)」ほかの編集や執筆に携わります。
映画『杜人(もりびと)』は、孤高の造園家、矢野智徳(やの・とものり)さんに3年間密着したドキュメンタリーで、前田さんにとっては初の長編作品なんです。主人公の矢野さんは植物や自然の再生を、経験に裏打ちされた矢野理論ともいえる手法で取り組み、全国各地の庭園やお寺の植栽などを見事に蘇らせています。
この4月に公開された同作品は、公開直後から評判を呼び、続々と上映する映画館が決まり、全国でいま静かなブームとなっています。きょうはそんな『杜人』、そして矢野さんについて、監督の前田さんにじっくりお話をうかがっていきます。
☆写真協力:Lingkaran Films

「杜人」に込めた思い
※まずは映画のタイトル「杜人」、これは木編に土と書く、杜の人です。このタイトルした理由はなんでしょうか?
「木編に土と書く”杜”っていう字は、この場所を傷めず、けがさず、大事に使わせてくださいと、人が森の神に誓って紐を張った場、という古語だそうです。昔の民が使っていた言葉で、今、辞書を引いても出てこないんですね。
主人公の矢野智徳さんはこの言葉の意味を3日かけて、国会図書館に行って必死で探して、この言葉にたどり着いたそうなんです。
で、やっぱりそういう自然と人との関係が蘇りますようにという願いを込めて、木と土と人と書いて”杜人”というタイトルをつけました」
(編集部注:造園家の矢野智徳さんは1956年、北九州市生まれ。父親が私財を投じて造った花木植物園「四季の丘」で、子供の頃から植物の世話をしながら育ちます。そして、東京都立大学在学中に1年間、休学し、日本全国の自然環境を見て回ったあと、1984年、28歳のときに「矢野園芸」をスタートさせています。
前田さんと矢野さんとの出会いは2014年、前田さんが暮らす東京都国立市で街路樹の桜を一斉に伐採する計画が持ち上がったときだったそうです。住民から、本当に伐る必要があるのかを矢野さんにも見てもらいたいという要望を受け、桜を1本1本診断してもらった結果、ちゃんと手当てすれば、まだ大丈夫という矢野さんのアドバイスもあり、一斉伐採は見送られたそうです)

虫、草の視点
※矢野さんの活動を撮影し、映画にしようと思ったのは、どうしてなんですか?
「初めて矢野さんの言葉を聞いた時に衝撃を受けたんですね。衝撃っていうよりは、なんか救われるような気がしたんです。2014年の、桜を全部伐採するっていう計画は、矢野さんを始め、全国の心ある造園家のかたが駆けつけてくださって、市民と共に動いたことで、痛んだ桜だけを植え替えるっていうふうに、市は方針を変えてくれました。
その翌年、運動というか動いていたことがきっかけで、矢野さんの講座が国立市内で開かれて、私はその時は市議会議員ではなかったので、2日間その講座に参加しました。それで改めて矢野さんの自然を見る目に触れて、すごく驚いたんです。
例えば、植物に虫がつくと、ついつい人は殺虫剤を撒いたりしがちなんですけど、矢野さん曰く”葉が混み合っていて、風通しが悪いから虫がつく。虫たちは葉っぱを食べて、空気の通りをよくしてくれているんです”っていうことをおっしゃったんですね。
それは、世界が180度クルッと違って見えてくる気がして・・・あー虫たちって、ただ単に葉っぱが食べたくて食べているんじゃなくて、そうやって風通しをよくしてくれている、そんなふうに世界を見られたら、この世界はまた違って見えてくるし、人間はもっと豊かに生きられるなっていう感じがしたんです。
草も、生えてくるのがよくて、根こそぎ抜いたり、地ぎわから刈ったりするから反発して暴れる。でも風が揺らすところで刈ってやると、途端に大人しくなるっておっしゃるのを聞いて、なんか子育てと繋がっているような気もして、とっても肩の力が抜けるというか自分が楽になってくる気がしました。
大地が人間と同じように呼吸しているっていう言葉を聞いた時に、水のことは考えていても、空気のことは全然考えていなかったなって思って・・・。
そんな視点というか、自然と人との関係がとても新鮮だし、すごく嬉しかったんですね。講座が終わったあと、すぐに矢野さんのところへ行って、“本とかDVDとかなんかないですか?”って聞いたら、忙しくて何もないんですって言われて・・・あ〜なんてもったいないんだろうって思ったのと、もっと知りたいって思ったことが、最初の動機です」

風の草刈り
※映画には矢野さんの自然や植物、そして造園に対する考え方が随所に出てきます。その中から印象に残った言葉をいくつかお聞きしたいと思います。まずは結ぶと書く結(ゆい)、これはどんな意味なんですか?
「映画の中では矢野さんは、ほかの動物たちには動物たちなりの結(ゆい)があって、人社会には人が群れをなす時の大事な連携機能として、結のコミュニケーションがあるっておっしゃっています。
もともと結作業ってどんな集落にもあったもので、人間がまだ重機とかそういう動力を持たなかった時代には、人ひとりひとりがやるんじゃなくて、みんなが群れをなして、自然と向き合うことが必要とされていました。
その中で、大人も子供も歳を取ったかたも女性も男性も、みんなが群れをなしてひとつの目的に向かって、その集落が無事であるようにという祈りを込めて、結作業をやって、そこに教育もあれば、コミュニケーションがあって、自分の居場所があったっていうことなんです。
かつての結作業を、大地の再生講座をやる中で復活させたっていうのか、やっていたら、いやおうなくその結作業になっちゃったって、矢野さんはおっしゃっていました。
その結って、人と人との関係もそうですけど、人と自然もやっぱりその結のコミュニケーションがあって、言ってみれば、同じ目的に向かって同じ祈りを込めて共同作業をするっていうことなんですね。
それが今現代社会の中ではとっても失われているので、作業をされたかたの表情とかを見ていると、とても大変だけど、とっても清々しい楽しそうな顔をして作業されているのが、ずっと印象に残っています」
●そうなんですね。続いて「風の草刈り」と表現されて、草を刈っていらっしゃいましたけれども、この言葉の裏にはどんな意味があるんでしょうか?
「風の草刈りって、すごく詩的な表現だと思うんですね。まさに風がやるように草を刈る。文字通り、風に揺らしてみると、草がある一定の点で揺れる。そこを鋸鎌(のこがま)って言われる小さな手鎌で、ちょんちょんとはねてやると、草は風がやったと思い込んで、これ以上伸びてもまた風が吹いてきたら、ここを折られるからと思って、構造を変える。そこから枝分かれして、それと同時に地下の根っこを細根にして細い根をいっぱい生やして安定しようとする。
そうなると、細い根ができると地下に空気がたくさん通るようになるので、雨が降っても、ちゃんと雨も浸透するし、空気と水の循環がよくなって、すごく合理的で持続可能なやり方が、風の草刈りです」
●風で揺らぐ部分を切るってことですね。
「自分が風になったつもりっていうか、自分の鋸鎌が風になっているのを感じるくらいに一体となって、自然と一体、自分が風なんだっていう感じでやると、みんなが帯のようになって、風の草刈りをやっていたところに、本当に風がすーっと通るんですよね。その時、みんなが同じ感覚を味わって、“今(風が)通ったね〜”って、すごく嬉しそうな顔されるんです。
風の草刈りは、本当に根こそぎ刈っていくよりずっと楽しいし、見た目も綺麗だし、綺麗っていうよりは、遠くの山々と一体化した一枚の風景になって、草はとっても大事な風景の一部だなって思います」

水脈と点穴
※続いては、矢野さんの自然再生手法のポイントともいえる「水脈と点穴(てんあな)」について。どういうことのなのか、教えていただけますか。
「大地は人間と同じように呼吸しているって、矢野さんはおっしゃっています。水脈は人間の身体でいうと血管のようなもので、大地の中にも動脈から毛細血管まで様々な脈が流れて、空気や水を循環させているというのが、矢野さんのひとつの理論というか、植物の命と長く向き合ってきて、見えない空気が大切であることを発見されたんですね。
自然はもともと、ちゃんと脈が地面の下に、人間に脈があるのと同じように大地にも脈があって、それを塞いできてしまって、今の大地は息苦しくなっているから、そこに溝を掘ったり、その溝は流線型で掘っていくんですけど、その所々に点穴と呼ばれる穴を掘って、より一層脈が渦を巻くように作っていくのが水脈と点穴なんですね。
東洋医学でいうと、筋に当たるのが水脈で、ツボに当たるのが点穴みたいな感じです。そこを押してあげると、人間もちょっと体調がよくなったりするように、ペたーんとまっ平らにしてしまった地面に溝を掘って穴を開けてあげると、本当に地面が柔らかくなるし、立った時に空気が変わるんです。
(大地の)脈をすごく大事にされているので、地上と地下の脈を循環させる。そのいちばんの立役者が植物だってよく言われています」
大地の深呼吸
※映画の中では、ここ数年の自然災害で大変ご苦労をされたかたたちとの出会いや支援活動のシーンもありました。その中で矢野さんの「土砂崩れは大地の深呼吸」という表現も強く印象に残りました。このあたりのご説明もお願いできますか。

「2018年の5月から(矢野さんを)追いかけ始めたんですけど、その2ヶ月後に、矢野さんに初めてお会いした時からずっと警告されていた、そのうちひどい土砂災害が起きますよっておっしゃっていたことが現実になりました。西日本豪雨で広島や岡山、愛媛のほうも土砂災害が起きて、亡くなられたかたには本当に胸が詰まる思いです。
なぜ土砂崩れが起きるのか、ただ単に雨がたくさん降って大雨のせいで土砂崩れが起きるわけじゃなくて、やっぱりどこかしら人間が止めているから、その脈を取り戻そうとして、自然は土砂崩れを起こしているっていう見方を(矢野さんは)されていました。
私は正直、その土砂災害の現場に矢野さんが行くからついていくってことは、戸惑いもあったんです。被災地でみなさん本当に困ったり、またボランティアのかたが一生懸命、復旧作業をされている中にカメラを持っていくってことは、とても申し訳ないし、不躾な行為だと思ったんですね。でもやっぱり矢野さんが行くって言うんだったら、私も行こうと思って一緒に行きました。
崩れた現場にはU字溝っていう小さなU字型のコンクリートブロックが必ずあって、それがバンッて崩れていて、ちょっと山のほうを見ると砂防ダムって言われるコンクリートの塊がありました。
で、その先のほうに崩れている、岩がむき出しになった爪で引っ掻いたような跡があって、本当にコンクリートがせき止めていることで、この土砂崩れが起きて、土砂崩れは呼吸を取り戻すための最後の自然の抵抗なんだなっていうのを目の当たりにしたんですね。
そこには自然界が一晩で作ったS字のカーブの水脈ができていて、自然が作った点穴がありました。で、必ず痛んだ木が、その大地が詰まっていたんだってことを証明するかのように、葉が茶色くなった松がいて、幹がボロボロになった梅の木があって、植物が警告を発していたんだなっていうのが分かる光景がそこにありました」
同じ生き物同士と思える感覚
※最後に改めて、この映画でいちばん伝えたいことを教えてください。
「撮っている時に思ったのは、映画を見る前と後とで木の見え方が違ってくるっていうか、植物や自然の見え方がちょっと違って見えるような映画になるといいなっていうのをずっと思っていましたね。
今、街路樹が鳥の糞が落ちるからだとか、落ち葉が汚いからだとか、むげに伐られることも多いし、いろんなところで木が伐採されているんですけど、木がどれほどのことをやってくれているかっていうことを、もっと私たち人間が分かれば、そんなに簡単に伐れなくなると思っています。

植物のことを語る時の矢野さんって、すごく愛おしそうに語られるんですよね。
本当に植物みたいな人にはなれませんと・・・こんなに苦しめられても、何かちょっと手をかけてやると、すごい勢いで復活してくる健気な存在とおっしゃっている、そんな感じを映画をご覧になったかたが植物に対して、この自然界のあらゆる生き物に対して、持ってもらえるといいなって思っています。
今回映画を公開した時に、矢野さんに植物の声って聞こえているんですか? って、あえて舞台挨拶の時に質問したら、聞こえませんよって。聞こえる人もたまにいらっしゃるみたいだけど、僕には聞こえません。でも感じはするっておっしゃっていました。
ひとりで深夜までずっと作業していると、何かが背中を触って、あれ何かな? と思って振り返ると、それは動物じゃなくて、しだれ桜の枝が自分の背中をふっとさすった・・・それを見た時に、同じ生き物同士分かり合えるのかなって、感じたんですとおっしゃっていました。
同じ生き物同士っていうふうに、植物にも小さなアリやチョウやトンボにも、その同じ生き物同士って思える感覚が、人間にはまだまだ動物だった頃の記憶がちゃんとあると思うので、そういう気風が生まれてくるといいなって思っています」
INFORMATION
前田さんの初めての長編ドキュメンタリー作品をぜひご覧ください。
映像はもちろんなんですが、ぜひ音楽にもご注目を。
優れた音楽家のかたによるサウンドトラックに前田さんのこだわりを感じますよ。
今後、英語の字幕を入れたインターナショナル版と、
子供向けのチャイルド版を作ることにしているそうです。こちらも楽しみですね。
*上映情報
首都圏で現在上映されているのは千葉県柏の「キネマ旬報シアター」で6月10日まで、逗子の「シネマアミーゴ」で6月18日まで、
「あつぎのえいがかんkiki」で6月17日までとなっています。
ほかにも東京や栃木、埼玉や群馬など、続々と上映が決まっています。
詳しくは「杜人」のオフィシャルサイトでご確認ください。
◎「杜人」HP:https://lingkaranfilms.com/