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生き物の不思議から、地球規模の環境問題まで
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「楽しい」で環境問題を解決!?  〜SDGsとリンクする新しいフィットネス「プロギング」〜

2021/3/28 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、“足元から世界を変える!”プロギングジャパンの代表「常田英一朗(ときた・えいいちろう)」さんです。

 常田さんは愛知生まれ。子供の頃から自然が大好きで、滋賀大学在学中はワンダーフォーゲル部に所属。大学4年生のときに2年間休学、海外にも遠征し、山登りざんまい。卒業後、一般社団法人「プロギングジャパン」を設立、1年足らずで100回以上のイベントを開催し、注目されています。

 「プロギング」とは、ゴミ拾いとジョギングを合わせた新しいフィットネスで、プロギングジャパン主催のイベントが国内数カ所で開催され、大変人気だそうです。

 きょうは常田さんに、プロギングの魅力や、活動を通して伝えたいことなどうかがいます。

☆写真協力:常田英一朗

写真協力:常田英一朗

100カ国以上で楽しまれているプロギング

※ゴミ拾いとジョギングを合わせた新しいフィットネス、プロギングはいつ頃、どこで始まったんですか?

「2016年頃にスウェーデンで始まったフィットネスで、そこからスウェーデンのアスリートが、すごくいい活動だから世界中で真似してみてよ、広げてやってみてよっていうことで、今世界の100カ国以上で楽しまれているフィットネスになります」

●日本では、まだそこまで馴染みがないかなと思うんですけれども、ヨーロッパではすごく盛んっていうことですか? 

「そうですね。ヨーロッパを中心にして、中国とかメキシコでも今かなりブームになっているようです」

●ジョギングしながらゴミを拾うっていうのは、結構体力的にきついんじゃないですか? 

「そうですね。ガチでやるとかなり息があがります。ただ、プロギング自体はジョギングだけでなくて、ウォーキングも含まれていますので、それぞれの体力に合わせてやっていただければいいと思います」

●プロギングのメリットっていうのは、改めてどんなことになるんでしょうか?

「大きく分けると3つありまして、まず1つ目が高いフィットネス効果です。通常のジョギングよりも1.2倍ぐらいカロリーを消費すると言われていますし、拾い方によってはヒップアップとかダイエットにも効果があったりしますので、とても高いフィットネス効果を持っています。

写真協力:常田英一朗

 2つ目が、すごく気持ちがいい。単純に気持ちがいいっていうのが2つ目のメリットになります。
 普段生きていて、結構当たり前のことって多いじゃないですか。朝起きて、しっかりご飯食べて、仕事に行って、勉強とか子育てして、で、次の日に備えて。全部やって当たり前だと思うんですけれど、結構大変じゃないですか(笑)。

 僕は大変で、こんだけ頑張ってるのになかなか認めてもらえないなーって思う方も多いんじゃないかなと思っていまして、その点、ゴミ拾いはゴミ1個でも拾ったら、ものすごいヒーローになれるわけです。
 そこで、お互いに褒めあったりとかしますと、満足感とか自己肯定感が高まってすごく気持ちがいいんですよ。ストレス解消になりますよ、というのが2つ目のメリットになります。

 そして3つ目が、ジョギング自体すごく気持ちがいいです。そして社会貢献もとても気持ちがいいということで、プロギング自体が純粋に、ものすごく爽快感があって気持ちがいいフィットネスになります。それを仲間と共有することによって自然と交流が深まる、友達ができるというのが3つ目のメリットになります」

●ゴミを拾うことで結果がすぐに見えるっていうのも気持ちよさそうですね。

「そうなんですよ。拾ったあとには重さを測ったりするんですけれど、すっごく達成感があります」

●常田さんのプロフィールに、“世界一ゴミ拾いを楽しむ人”とありましたけれども、やはり楽しむっていうことが大事なんですね。

「そうなんです! 楽しむということを私いちばん大事にしていまして、私自身は登山が好きで、自然が好きでゴミを拾っていたんですけれど、ただ、やらされてゴミ拾いしてもなかなか続かないですし、多くの方はそれだとゴミ拾いをやらないと思うんです。そこをフィットネスとか、自分のためになるからということで、楽しんでやってもらいたいなと思ってこのプロギングを広めています」

写真協力:常田英一朗

プロギングで観光や町おこし!

※プロギングジャパンでは具体的に、どんな活動をされていますか?

「メインはやはりプロギングイベントの開催です。1つの特徴が、先ほど言ったように、色んないいことがあります。これを基にして色々なイベントとコラボできるというのがプロギングの魅力なんです。

 例えば観光ですね。ゴミを拾う時にちょっと裏路地に入ったりするじゃないですか。そうすると地元の方でも知らなかったような隠れた名店を発見できたりですとか、初めて行った土地でも走りながら、ゴミを拾いながら色んなところを見て回れるので観光になります。

 商店街でやってイベントっぽくしたら町おこしにもなりますし、親子のイベント、子育てに疲れている親御さんにはストレス解消でやってもらって、お子さんには体感で環境問題について考えてもらうという機会になります。朝活でやるのもそうですし、企業の方から言えば、商品のPRに使ったりですとか、あと変化球でいうと婚活とかもあったりします」

●主な開催場所は、どのあたりなんですか? 

「今、主に開催してるのは東京、愛知、京都あたりが多いんですけれども、これからもっともっと広げて日本全国で開催していきたいと思っています」

●大体いつも何人ぐらいの方が参加されているんですか? 

「今ちょっとコロナの関係で募集人数を30名〜40名ぐらいに絞っているんですけれども、大体どのイベントでも1週間前には満員になって、応募は締め切りという形でやらせていただいています」

●実際参加された方々からはどんな反響があります? 

「今プロギングジャパンのイベントでは大体、全体の6割が今までゴミ拾いしたことないですとか、あんまり興味がなかったという方にご参加いただけているんです。そういう方に聞くと、普段歩いている時には気にならなかったゴミが、改めて見てみると結構、街って汚れているんだねと、気づけたという声が多いですね」

●そうなんですね。ホームページを拝見しましたら、写真も載っていて、皆さんすごくいい笑顔をされていたんですよね。だからやはり達成感とか、楽しみとか、色んな感情が味わえるのかなっていう風に思ったんですけど。

「本当に楽しさだけは誰にも負けません! やってみるまでは皆さんジョギングとゴミ拾いってどうなんだろうなという感じの方が多いんです。初めてやる時はどうしても、ジョギング、ゴミ拾い、ジョギング、ゴミ拾いとバラバラになりがちなんですけれども、そこをプロギングジャパンのスタッフが上手くまとめて、こういう楽しみ方をするとすごくいいよ! というのをレクチャーしますので、それで1回やっていただくと、ガラッと意識が変わると思います」

写真協力:常田英一朗

プロギングリーダー検定試験

※ところで常田さん、集めたゴミはどう処理しているんですか?

「集めたゴミは3つ処理方法がありまして、まず1つ目が行政にお願いするというものです。それぞれ皆さんが活動されている地区の、環境事業所などがあると思いますので、そちらに問い合わせていただきますと、地区によってゴミの回収をしますとか、ゴミ袋を支給しますというような色々なサービスがありますので、そちらを利用していただくというのがまず1つ目です。

 2つ目が飲食店などと協力するというので、特に商店街とかでプロギングする際は使っていただきたいんですけれども、お店とか商店街が綺麗になったりとか、PRになるというメリットがありますし、毎日事業ゴミとして色々なゴミを排出していますので、そこに混ぜて一緒に処理してもらうという方法です。3つ目は家庭ゴミとして捨ててもらうという方法になります」

●今年からプロギングリーダーの検定試験を行なうということですけれども、これはどんな目的で始めるんですか? 

「こちらは、おかげさまでだいぶプロギングという言葉が日本中に広がってきまして、やってみようかなという初心者の方もどんどん増えてきました。そういった中で、しっかりと、プロギングの面白さをお伝えしたいなと思っています。

 どうしても先ほど言ったように、初めてやるとジョギングとゴミ拾いがバラバラになりがちで、イマイチ面白さがわからないなという方もいらっしゃると思います。そこをプロギングリーダーの資格を持っている方、この方のイベントですと、しっかりと皆さんを安全に楽しませてあげられますよという、そういった保障になる資格を作りました」

●へ〜! どんな試験になるんですか? 

「試験は一次試験と二次試験に分かれていまして、一次試験が筆記で、二次試験が実技になっています。筆記の方はプロギングの歴史もそうですし、それ以外にも環境問題ですとか、フィットネスに関する基本的な知識を幅広く問う予定です。
 実技試験の方は実際にイベントを開催していただいて、その様子を動画に収めていただいて、それをチェックするという形になっています」

●3月31日まで申し込みということですね。

「そうです。4月3日土曜日に検定があります」

●たくさんの方が応募してくれるといいですよね。

「はい、お待ちしております! 」

できることで返していきたい

※常田さんがプロギングに出会って、すぐに活動を始めるようになったのは何か理由があったんですか?

「元々、プロギングジャパンは2人のクライマーによって作られたんです。私ともう1人、2人で最初立ち上げたんですけれども、北欧にクライミングに行った際に、実際に街中でプロギングの様子を見ました。

 帰ってきてからどんな山だったかと共有するわけですよ。こんな感じでこう登ってというのを共有する中で、そういえば北欧で何か街中走りながら、ゴミを拾っている奴らがおったと聞きまして、調べてみたらプロギングというフィットネスでした。 じゃあ体力をつけたいし、自然にいいこともしたいから、1回やってみようかなと思ったのがきっかけなんですけれども、これやってみたら、環境問題が解決するとかそういうのを抜きにして単純に面白いと、そこにすごく惹かれまして、プロギングを広めていこうと思いました」

写真協力:常田英一朗

●常田さんは大学時代に山登りに夢中になっていたということですけれども、そこからどうして環境問題を意識するようになったんですか? 

「私、山も岩も、滝とかも登ったりするんですけれど、どこに行ってもゴミって絶対にあるんですよね。山に登ったりするのって、私はすごく自然が好きだから行くんですけれど、同時に自然を破壊しているという側面もあります。

 やっぱり人が歩いたところには道がついて、ちょっと自然を破壊しているという側面も絶対あります。そういった中で自然に恩返しじゃないですけれども、何かしら自分ができることを返していきたいなと思って環境問題に興味が湧いてきました」

●そういう下地があったからこそ、プロギングジャパンの設立にすんなり動けたということなんですね。プロギングジャパンの目標は何ですか?

「目標は今、環境問題を解決しようと色々な活動があると思うんですけれども、今の時点ではやはり環境問題に興味がある人がメインで動いていると思っています。そこを全然、環境問題に興味がない人を巻き込んで、全ての人で環境問題を解決していくという意識作りをしていくのがプロギングジャパンの目標です」

環境問題を解決しようとあえて言わない!

※環境問題の危機意識というのか、それを意識していない人に伝えるのは難しいことだと思うんですけど、伝えるときに何か意識していることはありますか?

「私たちは環境問題を解決しようと言わないことを売りにしてるんです」

●え! 言わない!? 

「というのも、ゴミ拾いをされる方、してみたいなって方で多いのが、恥ずかしいと思っている方が結構多いんです。何かちょっといい格好しいみたいな、そんな感じでちょっと恥ずかしいなと思う方が多くて。  

 そこを私たちは、地球にいいから優しいからしようよーということではなくて、フィットネスで皆で楽しく健康になろうぜと、環境問題は一旦置いといて、単純に自分が楽しむためにやろうぜと、そういうことで敷居を下げるようにしています。実際に拾ってみたら絶対何かしら感じることがあるので、環境問題を解決しようよと言わなくとも解決するような活動を目指しています」

●SDGsにしても徐々に浸透はしてきたと思いますけれども、企業レベルならまだしも、やはり一般的にどこか他人事と思っている方も多いと思うんです。プロギングは意識を変えるツールになる可能性はありますよね。

「もちろんです! 本当に企業にお勤めなさっている方でも、なかなか知識では知っていても、体感として理解できていない方も多いと思うんです。

 去年の夏に衝撃的だったのが、SDGsのピンバッチあるじゃないですか、ピンバッチつけてジャケットを羽織っているんですけど、汗だくなんですよ。夏場でジャケットを羽織ってピンバッチつけて、汗だくでクーラーの入った部屋に行くんですけれど、それSDGsじゃないよね? という風にすごく衝撃受けました。

 それにはやっぱり知識ともう1つ、体感、行動で理解するということが必要だと思っていまして、是非プロギングを体験していただければなと思っています。

 プロギングは環境問題の解決だけではなく、健康にもなりますし、ストレス解消、働き方というところでもSDGsにコミットできますし、パートナーシップ、17番目のゴールにもコミットできます。色々なSDGsのゴールを包括、体系的に学べるものですので、色んな方にSDGsと言わずとも、その概念を理解してもらえればなと思っています」

●SDGsに関しての勉強は、どのようにされていたんですか? 

「自分で勉強することももちろんですし、今様々なイベントが開催されていますので、そこに実際に行って、自分が知らない分野を学んでということで、あとはSDGs検定というものがありまして、それもきっかけでSDGsを学びました」

●合格されたんですか? 

「はい、なんとか、1回落ちちゃったんですけれど、2回目でなんとか合格させていただきました!」

●改めて常田さんはプロギングを通して何をいちばん伝えたいですか? 

「私たちがいちばん伝えたいことは、やっぱり楽しみながら皆で変えていこうという、共通意識を持ちたいなと思っています。
 どうしてもネガティブになりがちだと思うんです。環境問題しかり、色々なSDGsの問題、どれも発信する時には、可哀想な人がいてとか、こんだけゴミが落ちていて、泣いたり悲しかったり怒りがあったり、そういったネガティブな感情が大きいと思うんです。

 でも、そういうネガティブな感情で世界を動かしていくんじゃなくて、私は未来は明るいから全員でもっともっと楽しい未来作っていこうよと、ポジティブな力で世界を変えていけるんだぞというところを、皆様にお伝えしたいなと思って頑張っています」


INFORMATION


一般社団法人「プロギングジャパン」


写真協力:常田英一朗

 プロギングジャパンではだれでも参加できるプロギングイベントを定期的に行なっています。開催の1週間前には定員に達するほど人気なんだそうです。いつどこで開催するのかは、オフィシャルサイトにどんどんアップされていますので、ぜひチェックしてください。

 近いところでは4月10日(土)に千代田区の日比谷公園で開催される予定です。

 初めて行なわれる「プロギングリーダー」検定試験、応募の締め切りは3月31日です。

 詳しくはプロギングジャパンのオフィシャルサイトをご覧ください。

◎プロギングジャパンHP:http://plogging.jp

観天望気で安全登山! 〜雲が知らせる山の危険〜

2021/3/21 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、山の天気予報サービス「ヤマテン」の代表で、山岳気象予報士「猪熊隆之(いのくま・たかゆき)」さんです。

 猪熊さんは1970年、新潟生まれ。中央大学卒業。在学中は登山部で山の経験を積み、卒業後は海外の山にも遠征。そして2007年に気象予報士の資格を取得。2011年に国内唯一の山専門の気象予報会社「ヤマテン」を設立し、山岳気象予報のエキスパートとして多方面で活躍されています。

 きょうは猪熊さんに、山で見かける雲の特徴や、急変する山の天候から身を守るリスクマネジメントのお話などうかがいます。

そして猪熊さんの本『山の観天望気〜雲が教えてくれる山の天気』のプレゼントがありますよ。応募方法は こちらから。

☆写真協力:猪熊隆之

平地と山の天気の違い

※本のタイトルにある「観天望気」という言葉、いまはあまり馴染みのない言葉だと思うんですが・・・猪熊さん、どんな意味なんでしょうか。

「簡単に言うと空を観て天気を読むということで、例えば雲とか、風の変化ですね、そういったものから今後の天気を予想していく、そういう方法を観天望気と言います」

●この本では山で見かける雲というものがキーワードになっていますけれども、やはり雲にまつわる観天望気というのが多いんですか? 

「はい。空気っていうのは残念ながら目に見えませんよね? ですが、雲っていうのは見えない空気がですね、気持ちというか状態を表してくれるものなんですよ。ですから、雲の動きとか変化から、そのあとの空気の変化を読むことができますので、雲を使うことがいちばん多いですね」

●山で見かける雲については、後ほど詳しくおうかがいしたいと思うんですけれども、まずは初歩的な質問からさせてください。山と平地ではどうして天気が違うんですか? 

「それはですね、平地はあまり凹凸(おうとつ)がないですよね。山はでこぼこしていて、凹凸があります。天気が崩れる要因としては雲ができて、雲が成長することがあるんですけれども、曇は水蒸気を含んだ空気が上昇して、その水蒸気が冷やされることで水滴とか氷の粒になって、それが雲になっていきます。

 で、平地は低気圧とか前線とか、そういったものが近づくと天気が崩れていきます。それは低気圧とか前線の近くは、空気が上昇する上昇気流という現象が起きているからなんですね。そうするとその中に水蒸気が含まれていれば、それが冷やされてどんどん雲になっていくということになります。

 でも山は低気圧とか前線が来なくてもですね、簡単に上昇気流が起きてしまうんですね。それは平地では、風が吹いても上昇気流が起きないのに対して、山では風が吹くと風によって空気が動いていきます。それが山にぶつかると山の斜面に沿って昇っていきますので、どうしても上昇気流が起きてしまうんですね。ですから山は上昇気流が起きやすいので、その分、雲ができやすくなります」

●山の天気ってとにかく変わりやすいっていうイメージがありますけれども、登山中の天気の変化ってどんなところに注意したらいいですか? 

「やはり事前に、観天望気より前にですね、登山に出発する前に、天気図とか天気予報からしっかりとその日の天気の状況を、どういった危険があるのかっていうのを把握しておくことが大切になります。その上で実際に山に行った時には、特に風上側ですね、風が吹いてくる方向の空とか、あるいは日本付近では西から東に天気が崩れていくことが多いので、西側の空をチェックしていくといいと思います」

●今はスマホなどで最新情報も入手できますけれども、山では電波が繋がらない! とかそういったこともありますよね。

「そうですね。そういったこともありますし、あと、平地の、皆さんが一般的にテレビとかラジオとかインターネットで入手できるような予報と、山の天気っていうのは大きく変わってしまうこともあるんですよね。そういう風に平地と山の上とで天気が大きく違う時に、気象遭難が発生しやすくなりますので、どうしても天気予報だけではリスクを減らせないということがありますから、やはり雲を観ていくことが大切になっていきます」

要注意! 積乱雲とレンズ雲

猪熊隆之さん

※具体的に、天気が崩れてしまう雲について、これは知っておいた方がいいという例をいくつか教えてください。

「やはりいちばんリスクが大きいのは、突然の雷とか強い雨に襲われる時です。そういったものをもたらす雲は積乱雲と言いまして、入道雲ってご存知ですか? 夏によくソフトクリームみたいなモクモクした雲が出ますよね? あの雲が成長していくと積乱雲になります。

 あの雲が周囲にどんどんやる気を出していく、雲がどんどん成長していく、そういった時は危ないので、早めに避難した方がいいということと、あともうひとつ、山では天気だけではなくて風の強さが登山において大きなリスクになっていきます。

 晴れていても風がものすごく強く吹いていると、風にあおられて滑落してしまったり、あるいはテントが飛ばされたりっていう非常に危険な状態になりますので、風の強さっていうのも知っておくことが大切なんですね。

 で、その強風を知らせるサインとなる雲がレンズ雲という雲になりまして、よく地震雲とか、あるいはUFOみたいな形の雲なので、UFOがきたとか間違えられることがあるんですけれども。メガネのレンズありますよね、そういったレンズの形をした、厚みが一定で、強風に流されたような、そういった雲が出ることがあるんです。

 見ていただくとすぐ分かると思うんですけれども、そういったレンズ雲が出ている時は山の上では風が強くなっていますので、あるいはこれから風が強くなるサインになりますので、無理をしないということが重要になります」

●へ〜! 入道雲やレンズ雲が出てきたら早めに下山するなどした方がいいということですね? 

「そうですね。あるいは風が強くなるところは、樹林帯から樹林がない草原状のところに出るところなんですよね。ですから樹林帯の中までは比較的安全ですので、草原に出るところで雲をもう1回チェックして、その場所の風の強さと合わせて判断していただくといいと思います」

●これから春から初夏にかけて、最も注意しておきたい山の気象の変化っていうのはありますか? 

「春、特にゴールデンウィークには登山者がすごく多くなるんですけれども、ゴールデンウィークによく起きる事故として、低体温症による事故っていうのがあるんですね。低体温症っていうのは低い体温の症状と書くんですけれども、体温がどんどん下がっていく、そういう怖い症状で、熱中症の逆みたいな感じですよね。

 この症状は特に、雨風が強いところを長く歩いたり、雪と風が強いところを長く歩いたりする時に、体温ってどんどん奪われていきます。で、先ほども言いましたように平地ではそれほど天気予報は悪くなかったりしても、山の上で風雨が強かったり吹雪になったり、まだゴールデンウィークだと高い山は吹雪になることがあります。

 こういった時に遭難事故が多発していますので、特に低気圧が日本列島を通過していって抜けたあとに。天気図には等圧線っていう線が必ず引かれているんですね。その線が混み合っている時は日本海側の山で猛吹雪になります。そういった時に事故が多発しています。 関東地方とか平野部では晴れていても、山の上では吹雪いていることがありますので、低気圧が抜けたあとも、1日くらいは日本海側の山では吹雪になることが多くなりますから、もう1日待っていただくのがいいと思います」

山の人たちに恩返し

※本格的に登山を始めたのはいつ頃なんですか?

「私は小さい頃から田舎育ちだったんですけれども、本格的に始めたのは大学の山岳部に入部してからですね」

●どんな山を登っていたんですか? 

「最初はもう訳も分からず、やはり雪山が目標ですから、雪の上を1年を通じて、春のうちから歩いていく、そういう訓練を積んでいくんですよね。ですから、いきなり谷川岳とかの雪のあるところに連れて行かれて、もう傾斜もすごくあって、怖くて降りられないんですよね。その時期の雪ってすごく固くて滑るんで、それでもう本当に怖かったのを覚えています(笑)」

●そうだったんですね! 海外にも行ってたんですか? 

「そうですね。卒業してからは海外の山に興味を持ちまして、ヒマラヤですとか、アメリカのヨセミテ国立公園っていうところがありまして、そこに大きな岩壁があるんですけれども、そこに登りに行ったりとか、そういったことをやっていましたね」

●へ〜! そんな中、山岳気象予報士になろうと思ったのは何かきっかけがあったんですか? 

「そうやってずっと山を登っていたんですけれども、大学時代に1回すごく大怪我をしたことがあって、その怪我がもとで慢性骨髄炎っていって完治が非常に難しい病気になって、日常生活もままならなくなったんですね。入退院をずっと繰り返して、闘病生活が5〜6年続いたんですけども、その時に、一生この病気と付き合っていかなきゃいけないので、それまでは山中心の生活を送って、登山専門の旅行会社で働いていたんですが、そういった仕事をするのはもう難しくなりましたので、こういった病気と付き合いながらやれる仕事、それまでは身体を使った仕事がメインだったんですけれど、今度は頭を使った仕事をしていかないと生きていけないっていうことになりましたので。

 それで小さい頃から天気が大好きだったんですよね。私にとって他の人よりも少しでも興味があって、勝てる可能性があるものは天気かなと思って、気象予報士の勉強をして、たまたま受かってしまったので、それだったら今まで散々お世話になってきた山の人たちへの恩返しをしたいということで、山の天気予報を始めようと、そういう風に思いました」

●山岳気象予報士っていう資格があるわけではないですよね? 

「これは私が最初にヒマラヤの登山隊に予報を出して、当時はですね、日本の気象予報士が出すことはなかったんで、欧米の、アメリカとかヨーロッパの気象会社がヒマラヤの登山隊に出していたんですよ。当時はまだ精度が低くて、その時にヨーロッパとかアメリカの登山隊がみんな大雪になるって(予測していた)日に、私が、“7500メートルから上は晴れます。風も弱いです。絶好の登山日和になります”って言ったのが本当に当たってしまって。

 今、エベレストの登山ってすごく混んでいるんですよ。渋滞して酸素がもたなくて亡くなってしまう方もいるくらいなんですね。そんな中、本当に貸し切り状態で山頂を独り占めにできたっていうことで、それを新聞社に取り上げていただいたんですよね。記者の方が命名してくださったのが山岳気象予報士で、それで私も気に入って使わせてもらっています」

山のプロが信頼する「ヤマテン」の天気予報

『山の観天望気〜雲が教えてくれる山の天気』

※猪熊さんが設立した山専門の気象予報会社「ヤマテン」では、どんな気象予報サービスを行なっているんですか?

「いろいろやっているんですけども、メインのサービスとしては、登山者向けに日本の国内の、主要な山の山頂の天気予報を配信したりとか、そういうページを作っていまして、それを皆さんにご利用いただいて、登山のリスクを事前に察知して、安全登山に繋げていただくっていうことをやったりとか。

 あるいは三浦雄一郎さんとか、竹内洋岳さんとか、野口健さんとか、そういった登山家の方に登山をする際に予報を利用していただいて、安全登山に繋げていただいたり。“世界の果てまでイッテQ!”のイモトさんにも毎回、海外の登山の時、あるいは国内の登山でも情報を利用していただいて、この日がいちばん登るのに安全だよとか、この日はちょっと大雪の可能性があるから、高所順応とか、そういったのに行かない方がいいですよとか、そういったアドバイスをさせていただいたりしていますね」

●今はなかなか山にも行けない状況ですけれども、登山の準備期間として安全に繋がる装備の見直しとかあってもいいかもしれませんね。

「昨年から山に行けない期間だからこそ、山に対しての知識を深めていったり、安全登山に対して勉強していく、いい機会なのかなと思いまして、うちの方でもですね、ヤマテンチャンネルをユーチューブで作りまして、誰でも天気について勉強できるような、そういった仕組みを作ったりしました」

●具体的にそのユーチューブではどんなことを教えてくださるんですか? 

「やはりですね、天気予報だけだと登山のリスクっていうのは減らせないので、天気図を、特にヤマテンでは、先ほど申し上げた“山の天気予報”って有料サイトがあるんですけれども、そこでいろんな天気図を見ることができるんですね。その天気図をどういう風に使っていったらいいのかっていうのを詳しく解説したり、そういった動画を公開しています」

●改めて、猪熊さんが思う山のいちばんの魅力とは何でしょうか? 

「難しいですね。若い頃はやはり自分の限界に挑戦できる場、自分が成長していくことが、やればやった分だけ成長していくことが分かるっていうことがありました。自分の限界への挑戦とか、危険な場所とかを登ると、アドレナリンがすごく出てきて、そういったものに対する面白さっていうのもあったんですけど(笑)、今は純粋に楽しい! っていうことと、やっぱり色んな楽しみ方ができるっていうことですね。

 老若男女それぞれ、あるいは森に興味があったり、花に興味があったり、川に興味があったり、なんでもいいんですよね。どういった形でも自分が興味のあるものを深められる、そしてやっぱりその場にいると、すごく幸福感を感じるってこともありますし、山から降りてくると、すごく日常生活がハッピーに感じられるんですよ。

 あと山って食べる料理とか、山で飲むお酒とかコーヒーは、本当に下界で飲んだり食べたりするものよりも遥かに美味しいんです! 極端にいうと本当にレトルト食品でもすごく美味しいって感じられるぐらいなんで、そういった何か日常にないものを感じられるっていう、そういう楽しさとか、幸福感っていうのがやっぱりあると思いますね」


INFORMATION


山の観天望気〜雲が教えてくれる山の天気』


『山の観天望気〜雲が教えてくれる山の天気』

 雲のイラストや写真も豊富に掲載されていて、とてもわかりやすく、登山が趣味のかたはもちろんですが、雲や気象に関する知識は日常生活でも役立ちます。また、落雷や強風のリスクから身を守ることにもつながるかと思います。ぜひ読んでください。ヤマケイ新書シリーズの一冊として絶賛発売中です。詳しくは山と渓谷社のサイトをご覧ください。

◎『山の観天望気〜雲が教えてくれる山の天気』HP:
https://www.yamakei.co.jp/products/2820510720.html

◎ヤマテンチャンネルHP:
https://www.youtube.com/channel/UCdl4pfoWmvUCUc3K8CwqNLA/featured

<プレゼントの応募方法>

『山の観天望気〜雲が教えてくれる山の天気』を、この番組のリスナーのかたに、抽選で3名さまにプレゼントいたします。

応募はメールでお願いします。件名に「本のプレゼント希望」と書いて、番組までお送りください。メールアドレスは flint@bayfm.co.jp です。

あなたの住所、氏名、職業、電話番号を忘れずに。番組を聴いての感想なども書いてくださると嬉しいです。応募の締め切りは3月26日(金)。当選発表は発送をもって代えさせていただきます。たくさんのご応募、お待ちしています。

応募は締め切られました。たくさんのご応募、誠にありがとうございました。

路上園芸〜暮らしを彩り、街を彩る

2021/3/14 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、路上園芸鑑賞家の「村田あやこ」さんです。

 村田さんは福岡県生まれ。大学では地理学を学び、上京してからは街角の園芸や植物に惹かれ、ひとり「路上園芸学会」として、撮影や記録を行ない、SNSやウエブのコラムなどでその魅力を発信。そして『たのしい路上園芸観察』という本も出されています。

 路上園芸とは、民家や商店の軒先で、植木鉢やプランターなどに植えられ、育てられている植物たちのこと。路地裏に入ると、意外なところに植物が生い茂っていたりしますよね。

 きょうは、そんな路上園芸に魅了されてしまった村田さんに、代表的な植物や、観察を始めるコツ、そして路上園芸から見えてくる人と街についてうかがいます。

☆写真協力:村田あやこ

写真協力:村田あやこ

肩の力が抜けた緑の光景

※村田さんが路上園芸に目を向けるようになったのは、いつ頃、どんなきっかけがあったんですか?

「最初に気になって、写真に収めたりするようになったのが10年ほど前ですね。きっかけを今考えると、何か色んなことが組み合わさって、興味に至ったのかなと思うんです。

 まず、大学時代までずっと地方で過ごしていて、実家の裏もすぐ山があって、小っちゃい頃は山で遊ぶような子どもでした。大学もキャンパスの中がすごく緑豊かで、割と自然に囲まれた環境でずっと育ってきて、それだからか、植物は、さほど積極的に意識しなくても周りにある環境だったんですね。

 ただ上京して何年か経ったタイミングで、多分自然回帰みたいなところがあるかもしれないんですけれど、急に植物に興味が湧き始めて、最初、植物を使って空間をデザインしてみたい、そういう仕事に就きたいなと思って、商業空間とかオフィスの中を鉢植えで装飾したり、植栽を管理するアルバイトをする傍ら、1年間、専門学校にも通って、園芸装飾技能士っていう資格も取得したりしたんですね。

 実はそのぐらいの時期に、路上園芸にも興味が湧くようになりまして、その時に志していたのは、計画して緑を配置していくことだったんですけれど、その街の園芸、本当に家の近所にふと放置されていた鉢植えに目がいくようになって、一回気になり始めると、他の町でも、ここにもある! ここにもある! みたいな感じで、本当に身の回りに溢れているものだなと思って見始めたんです。

 そういったものはそこに暮らす方が、自分の暮らしを彩りたいなと思って、思い思いに私的に置いてある鉢植えだと思っていて、ある意味、デザインとかは考えずに、少しずつを育てていって、愛でていって、時に放置されていたりとか、あと植物が思いもよらないぐらいのサイズに大きくなったりとか。

 あまり計画通りには進まないみたいなところもあって、何かそういう、植木鉢に入っている状態で、多分森や自然の中とは違う環境だと思うんですけど、デザインとは無縁な、暮らしを彩るための、肩の力が抜けた緑の光景ってなんだかいいなぁと思って、写真を撮り始めたっていう感じです」

村田あやこさん

●路上園芸の魅力や特徴ってどんなところにありますか? 

「本当にたくさんの魅力があるんですけれど、まず私がやっぱり惹かれるのは、人と植物それぞれ別の生き物が、街中の空間を使って、そこを舞台に作り上げている光景っていうところにいちばん惹かれます。

 最初は人の都合というか、そこに住む方が自分の暮らしを彩るために置かれるんですけれど、植物は植物で、そんなこと知ったこっちゃないみたいな感じで、たまに鉢から逃げ出して、その辺の隙間に逃げて行ったりとか(笑)。

 あと本当に根っこが鉢を食い破って、地面に根ざしてしまったりとか。そういう植物は植物で、その街の中で必死になんとか生きて、命を繋いでいこうとしているので、そういった動きを丸ごと観察するとすごく楽しいですね」

路上が育む園芸

※路上園芸は「路上で営まれる園芸」と「路上が育む園芸」のふたつに分けられるそうですね。その違いを教えていただけますか。

「まず、“路上で営まれる園芸”っていうことで定義しているのは、路上の空間、軒先とか路肩とか室外機の上とか、街中のちょっとしたスペースを使って営まれる園芸のことを、路上園芸のひとつの定義として、路上で営まれる園芸と呼んでいます。

 もうひとつは“路上が育む園芸”、最初は人目線で路上園芸を見ていたんですけれど、段々さっきお話ししたように植物は植物で生命力を発揮して、どんどんと隙間に生えていったりとか、たくましいなって思って、植物自体にも興味が湧くようになって。

 路上が育む園芸っていうのは、最初は人の都合で植えられていても、環境が合っていたりとか、丈夫だったりすると、最初決められた枠みたいなものをはみ出して成長することがあるので、そういう路上で自然に任せて育まれて、たくましく、したたかに生きる植物そのものも路上園芸という風にしています」

●路上園芸の代表的な植物というと、どんなものがあるんですか? 

「本当によく見かけるものだとアロエとか、ご実家にそれがあったなっていう方も多いと思うんですけど、あとカネノナルキっていう、ちょっと小判みたいな形をした多肉植物とか、ナンテンとか、多肉植物のオボロヅキとか。
 丈夫で、多少水がなくても大丈夫なものだったり、あとは挿し木とかで簡単に増やせるものとか。あとは縁起物の植物が結構多いのかなと思いますね」

『たのしい路上園芸観察』

観察するなら下町がおすすめ!

※路上園芸をよく見に行くエリアは、どの辺なんですか?

「よし、見るぞ! って思って行く時は、割と昔ながらの商店街とか、長く住んでいる住人の多そうな街とか、あとはいい飲み屋街がありそうな街、例えば赤羽とか、そういったところは路上園芸自体もすごく楽しいんです。
 打ち上げとセットで楽しめるっていう感じとか、何かそういういい感じで、人の生活感覚が長く育まれていそうな場所によく行きますね。

 東京でいうと墨田区とか、押上周辺、向島や曳舟、浅草とか、その辺のちょっと人も賑やかで生活感もあって、いい感じの商店街や飲み屋街がありそうな街っていうのが結構好きで、よく出没しています」

●飲み屋街では、ビールケースが再利用されているのがすごく面白かったです! ビールケースの中に植木鉢があるというような感じですよね? 

「この本の表紙でも、まさに黄色いビールケースを鉢カバーにして、その上に鉢を置いているお宅の写真を載せているんですけれども」

●何気ない風景でも、やっぱりこうやって見ているとすごく面白いですよね。

「そうですね。何かそういう色んな身近なもの、身の回りで使っていたものを、鉢や園芸のために転用しているのもいいなと思いますね」

●今まで色々観察された中で、特に印象に残っている路上園芸ってありますか? 

「どれもそれぞれのストーリーや魅力があるので、本当に選び難いんですけれど、いちばん印象的だったなと思うのが、とある東京の下町エリアで、ものすごく見事な路上園芸をなさっていたおうちがあって、すぐその裏に大きなソメイヨシノが立派に育っていて、本当に大木になっていたんです。

 偶然、家主の方がいらっしゃったのでお話をうかがったところ、実はその大きなソメイヨシノは、その方が結婚される時に結婚祝いとして、40年ぐらい前に鉢植えで育て始めたものが大木になって、今その地区の保護樹木に指定され、プレートも掲げられていて、それがすごく印象に残っていますね。

 ちょっと行くと大きいビルがあったり、周りもアスファルトに囲まれていて、けっして広い公園とかそういう場所ではなくても、何かそうやって人の育てた緑が街の緑の景観になって、周りの人たちを楽しませるシンボルになることもあるっていうのがすごく印象に残りました」

写真協力:村田あやこ

見上げて楽しむ、台湾の路上園芸

※村田さん、台湾も路上園芸が盛んだそうですね?

「本当に台湾すごかったですね(笑)」

●どんな感じなんですか? 台湾の路上園芸って。

「台湾はやっぱり暖かくて湿気も多いからか、植物がとにかく色んなところから育っているのがすごく印象的で、例えば店の屋根、軒先、雨どいとか、お店のひさしの上とか、そういった場所でもちょっとした隙間から、日本では見られないぐらいの勢いで、元気よく生い茂っているのも印象的でした。

 あとは日本では、集合住宅のベランダって覆われていて、そんなに中は見えないデザインが多いと思うんですけれど、台湾の集合住宅ってベランダが格子になっていて、外からもベランダの様子が見えるようなデザインのところが結構あります。

 そのベランダの格子の中いっぱいに鉢植えを置いて育てているお宅がすごく多くて。なので路上ももちろんなんですけど、台湾は上を見上げても楽しい、上の方まで緑が生い茂っていて楽しかったですね」

●日本の路上園芸とはまた違った風景なんですね。

「そうですね。共通するところもあるし、やっぱり植生とかも違うので、またちょっと一味違って楽しめましたね」

おうちの周りをキョロキョロ!?

写真協力:村田あやこ

※では最後に、路上園芸を観察するとしたら、どこかおすすめのコースなどあったりしますか?

「色んな楽しみ方があるので、まずはおうちから一歩外に出て、おうちの周りの半径10メートルでもいいので、周りをキョロキョロしてみるだけでも楽しめます。

 私は路上園芸を、人が育てている緑も、路上の隙間から勝手に生えているような植物も、広く路上園芸鑑賞という風に捉えているんです。おうちを一歩出た外でも、道の端や隙間、マンホールの穴とか、ちょっとしたスペースに目を向けてみると、隙間で生きる、はみ出す緑っていうのを楽しめますよ。

 まずは一歩外に出て、視線を普段見ないようなところにも向けて、キョロキョロしてみましょうっていうのはまず是非おすすめしたいですね。あとは人が育てた緑だと、ほどよく生活感のある商店街とか住宅街が特に楽しいですよ」

●すぐ明日からでもできることですね! 

「そうですね。すぐに実践できる楽しみだと思います」

●うろうろしていて、怪しまれたりしたことはないですか?(笑)

「きっとはたから見ると怪しいのかなと思うんですけれど(笑)、はたから見ると怪しい趣味だっていうのは痛感しているので、住人の方が表に出て手入れなさっていると、できるだけご挨拶してお話しするようにはしていますね。

 不思議なことに植物の話をきっかけにすると、本当に表情がほぐれて色々とお話ししてくださることが多くて、たまに“この鉢、よかったら持っていって”って言われて、植物をいただくこともありますね」

●へ〜! そういう繋がりもあるんですね! 

「そうですね、そういう繋がりもありますね。ただ観察される時は是非プライバシーには配慮していただいて、私有地とか敷地には絶対立ち入らないっていうのは、ちょっと(路上園芸観察を)やってみたいっていう方はお気をつけいただければとは思います」

●マナーは大事ですよね。改めて路上園芸観賞家としての夢や目標があれば教えてください! 

「今、なかなか心置きなく旅行するのは難しい状況で、そんな中でも路上園芸は本当に身近な場所でも楽しめる趣味ではあるんです。心置きなく旅行できるような状況になったら、是非今住んでいる場所じゃない色んな場所とか、国内だけでなく海外にも旅して、色んな町の路上園芸を観察したいなって思っています。

 あとは植物の名前や生態についてもまだまだ勉強中なので、もうちょっと知見を深めたいなっていうのもありますね。
 SNSを通じて、海外の色んな国の方でも、私と同じような視点で、街の園芸や隙間から生える緑を愛でる仲間たちと出会ったので、いつか将来そういう人たちで何か一緒に本を作るのか、展示をするのか、何か一緒にできたらいいなっていうのが夢です」


INFORMATION


たのしい路上園芸観察


『たのしい路上園芸観察』

 村田さんの初めての本、おすすめですよ。本のタイトル通り、路上園芸の楽しさが伝わってきます。写真もたくさん。植物に覆われてしまった家、植木鉢から根を出し、たくましく育っている植物、隙間からちゃっかり芽を出して成長した植物の写真など、写真を見ているだけでも楽しいです。日本人と園芸の歴史や台湾の路上園芸のコラムなども掲載。グラフィック社から絶賛発売中です。詳しくは以下のサイトをご覧ください。

◎『たのしい路上園芸観察』HP:
http://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=42898

SABOTENS(サボテンズ)


 村田さんはお散歩ユニット「SABOTENS」としても活動中。散歩を楽しみつつ、路上で見つけたアイテムをハンコなどのグッズにして販売。路地裏で見つけた植物や置物などなど、意外なものがハンコになっていて、とても面白いです。以下のオフィシャルサイトからでも購入できます。

◎「SABOTENS」HP:https://www.sabotens.com

写真協力:村田あやこ
写真協力:村田あやこ

◎路上園芸学会:
https://botaworks.net/?fbclid=IwAR1RNNveWo_gWCPh52y4STuVkSuAFY8CylTqB_mMQNZ1I3ykIDedzjxbAHk

https://www.facebook.com/rojoengei/

https://www.instagram.com/botaworks/?hl=ja

https://twitter.com/botaworks?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor

防災に役立つ登山のスキル 

2021/3/7 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、山好きイラストレーター「鈴木みき」さんです。

 東京生まれの「鈴木」さんは、カナディアン・ロッキーの旅をきっかけに山の魅力にハマり、山雑誌の読者モデルや、山小屋などのアルバイトを経て、イラストレーターに。そして登山初心者に向けた本を多数出版。また登山ツアーを企画したりと多忙な日々を送ります。その後、山梨県北杜市に移り、8年間ほど暮らしたあと、3年ほど前に札幌に移住。

 登山歴20数年の鈴木さんは、登山の道具や技が災害時に役立つことを、ご自分の経験から知っていて、そのスキルをまとめた本『もしも・・・に慌てない 登山式DE防災習慣 お役立ちコミックエッセイ』を出されています。

 きょうはそんな「鈴木」さんに、防災に通じる登山のスキルや、特に女性は用意しておきたいお役立ちグッズ、そしておうちで出来る「防災訓練」のお話などうかがいます。

☆写真&イラスト提供:鈴木みき

写真:矢島慎一
写真:矢島慎一

棚ぼた防災!?

※鈴木さん、どうして防災に関する本を出そうと思ったんですか?

「私は山登りに関する漫画をずっと書いているんですけど、山登りのやり方であったり、山登り指南のコミックエッセイを出しています。それで10年前、東日本大震災の時にたまたま東京にいたんです。私は帰宅困難者になったりとか、その時山梨県に住んでいたんですけど、計画停電に会ったりとか、そういう経験は一応していて、その時も登山の道具で乗り切れたというか、あまり困ることがなかったんですね。

 何か役に立ちたいなというか、被災地のためにできることないかなと思って、ブログで登山のライフハック的な、例えば水がない時にどういう風にご飯を炊いているとか、少ない水でこういう風にするとか、登山の道具はこういう時に役に立つよとか、そういうのも発信したら、役に立ったっていうコメントが残ったりとかしたので、その時に一冊にまとめて見られるものを作りたいなっていう風に思ったのが、一番最初のきっかけですね」

●具体的に登山のスキルが防災に通ずるというのは、どういうことなんでしょうか? 

「例えば重い荷物を背負って、衣食住を背負って登るということが皆さんのイメージにあると思うんですけれども、歩くとか体力的なものっていうよりかは、水や電気やガス、時にはトイレがない環境をイメージできるというか、山にはそういうものがないので、そういうところに身を置く経験っていうのが役に立つのかなっていう風に考えます」

●山登りとかアウトドアのスキルを身につけておくと、災害が起こった時に役に立つということなんですよね? 

「知らず知らずに役に立つっていうのが私の実感ですかね。防災を意識せずにやっていたことが、結果、防災に繋がっていたっていう感じです。本にも書いているんですけど、棚からぼたもちみたいな“棚ぼた防災”って言ってるんです。知らないうちにそうなっていたっていう感じが大きいですかね」

盲点だった携帯トイレ

※登山やアウトドアのスキルが防災に役立つということですが、どんなことが役立つのか、具体的に教えていただけますか。

「水でいうと例えば、想像して欲しいんですけど、山登りに行きます、どういう水が必要でしょうってなるとしますよね。そうするとまず行動中に飲む水、飲料水ですね。あとは泊まるってなると、お料理に必要な水をすべて担いで登っていくわけなんですけど、それはどのぐらい必要なのかを知っておく必要がありますよね。
 たくさん背負えば心配はないですけど、重いですから持って運べないので、自分が必要な水の量が分かるっていうことは大きいですよね。

 あとは電気ですよね。電気がないと何が困るかっていうと、いちばんは明かりだと思うんですよね。夜は本当に真っ暗になっちゃうので、(山は)街の真っ暗とは全然違うんですよ、本当に真っ暗で。
 停電の時は、周りの電気も街の電気も消えてしまうので、本当に暗いんですね。そういう時に必要なのはやっぱり明かりなので、登山ではヘッドライトといって頭に付けるライトがあるんですけど、それだと両手が空くので作業がしやすい。あとは歩けるんですね、行動ができる。それは災害時にも、避難する時に両手が空くのは安心ですよね。

 あとは充電式のランタンのようなものであったり、ソーラーパネルが付いていて蓄電できる明かりであったりとか、そういう装備も登山の人は持っているので、停電になっても、リュックサックの中にはそれがあるんです」

●なるほど〜! 

※ほかにはどんなものが必要ですか?

「あとはガスですね。燃料があればいいんですけれども、山の中ではあまり焚き火とか火を起こすってことができないので、イメージとしてはカセットコンロの小さいものっていう感じですかね。ご家庭にもカセットコンロありますよね、あれの登山版!?
 もっと小ちゃくって、折りたためるものがあるんですけれども、それを使ってお料理をしてご飯を食べるんですね。そのガスの量も限りがありますので、節約しながらどうやって作るかとか、そういったアイデアも役に立つと思います」

●あとは携帯トイレですか? 

「トイレは結構盲点というか、私が盲点だったんですけど、(北海道)胆振東部(いぶりとうぶ)地震の時に停電になったことで、断水になるって思ってなかったんですね。集合住宅には多いんですけど、電気でポンプみたいなもので、上の階に上げているってことが多いそうなんです。

 1階の平屋では断水しなくても、集合住宅ではするっていうことがとても多くて、それを私知らなかったので、これは断水だ!と思って、どこか水道管が壊れたんだって思ったんですよね。情報も取れないわけですから、分からないまま水がない生活をしていた時に、またまた盲点だったのが、そうだ!トイレ使えないと思って。

 でもその時にもまだ甘く見ていて、山に持っていく携帯トイレっていうものがあるんですけど、数が少なかったので、もったいなくて使わなかったんですね(笑)。すぐによくなるだろうみたいな甘い考えがあったので。それから携帯トイレの数を増やしまして備えるようになりました。

 私はひとり暮らしだからいいんですけど、例えば家族と同居されているとか、家族とはいえ何日も在宅避難をしている場合、衛生的にもですけど、別々にした方がいいかなと思うので、在宅避難される場合は携帯トイレは、ちょっと多めに揃えておかれるといいのかなっていう風に思います」

女性のためのお役立ちグッズ

鈴木みきさん(写真:岡野朋之)
写真:岡野朋之

※アウトドアの道具は持っておいたほうがいいのでしょうか。

「例えば何か防災の道具を揃えるために、アウトドアの道具とか、登山の道具を買う必要は私はないと思うんですね。行かないのであれば、防災の道具や家にあるものでいいと思うんです。
 私が伝えたかったのは、登山やアウトドアをやりたいっていう人がそういうものを揃えて、お出かけになって、使っているうちに防災力が上がるっていうことなので、これから始めたいなっていう方はそういうものを揃えられたらいいのかなっていう風に思いますけどね」

●特に女性向けのおすすめの道具とかはあります? これは準備しておいた方がいいよっていうようなものがあれば是非教えてください! 

「もし防災のことでいうと、在宅避難をする場合には、女性だからっていう特別なものは特にないと思うんですね、お家にあるのでね。ただ避難所に行く場合は断水していると、洗面や入浴っていうのができなくなりますよね。

 山では山小屋に泊まるんですけど、山小屋には水も電気もなかったりするんですね。洗面所がないっていう山小屋もあったりするので、そういう時に私たちがどうしているかっていうと、デオドラントシートであるとか、メイク落としシートであるとか、何かそういうものをお風呂代わりに、拭いて終わりっていうことが多いんですね。

 それだけでも本当に全然違うので、そういうのは是非(防災リュックの中に)忍ばせていただきたいのと、あと長期にわたることがあると思うので、手袋型のシャンプーできるウェットシートっていうのかな、そういうものも防災グッズのコーナーで見たことがあるので、ああいうのはすごく便利だなっていう風に思いました」

●清潔感や快適感っていうのが、そういうものがあるとすごく変わってきますよね。

「精神的なものですね、女性は特にあると思うんですよね。普段綺麗にしていらっしゃる方とかは特に。なので、それが衛生的にっていうよりかは、精神的になるべくストレスを減らせられればという風に思います」

結局、スマホがいちばん大事!?

『もしも・・・に慌てない 登山式DE防災習慣 お役立ちコミックエッセイ』

※この本には、おうちで出来る防災訓練の提案も掲載されています。どんな訓練があるのか教えてください。

「本に紹介したのは、例えば“避難経路ウォーキング”であるとか、日が暮れてから寝るまで電気使わないで過ごしてみようよっていう“停電ナイト”であるとか。あとはあらかじめ汲んでおいた水だけでお料理をしてみるとか。

 水道の蛇口をひねらずに、水筒とかバケツとか、何でもいいんですけど、そういうものに汲み置きしていた水だけでお料理を作ってみると、お水はいつもどのぐらい使うんだなっていうこととかが分かったりとか。そういったものを載せているんですけれども、避難経路ウォーキング以外っていうのは、山で実際にやっていることなんですね。

 例えば今年の夏にアウトドアを始めようとか、登山を始めようって言っていても、災害って本当にいつ起こるか分からないので。きょうかもしれないし、明日かもしれないので、一日も早くこういう経験をしてもらいたいなと思って、このコラムを書いたという感じなんですけど、お家でも類似体験できるよという意味ですね」

●いちばん持っておいた方がいいよって感じた防災グッズって何かありますか? 

「私は2017年に胆振東部地震を札幌で経験しているんですけど、その時、全道ブラックアウトっていって、大規模な停電になってしまって。実際にやっぱり今までと違って本物の停電というか、計画停電ではなく本物の、復旧の目処も立っていないっていうような停電を経験した時に、本当に結局スマホが大事って思いました」

●スマホですか? 

「そうですね。情報を取るであるとか、家族や友人と連絡を取るであるとか、そういったことももちろん重要だったんですけれども、例えば撮ってある写真を見るとか、音楽を聴くとか、そういう付加要素みたいなものが意外と支えになってくれたっていうのがあったんですね。

 でも充電できないので、例えばそのスマホと付随する重要なアイテムとしては大容量のバッテリーであったりとか、私はソーラーパネル、携帯用の小さいものですけど、ソーラーパネルを併用して準備しておくと、便利かなっていう風には思いました。充電できないっていうのは意外と(停電に)なってみないと、頭では分かっていてもスマホの充電ができないって、結構大きなことっていうのが想像してみると分かると思うんですけど」

登山者=防災力のある人を育てる

鈴木みきさん

※鈴木さんは最近、防災士の資格を取得されたそうです。資格マニアの私としてはとても気になるんですけど、どんな方たちが受けに来ていたんですか?

「受験される方は、例えば自治体の方であるとか、ビルとか施設の管理者であるとか、そういった方が多いみたいなんですけど、勉強としては防災のスキルというよりかは、自然災害の仕組みから、運営の仕方であるとか、あとは保護制度ですね。
そういったことを体系的にくまなくお勉強するという資格になります。

 あとは救命救急講習を受ける必要もあるので、何か地域で災害があった時に役に立つ人材を育てるとか、そういった(防災士の)資格が役に立つってことはあるのかなという風に思います」

●今後、防災士として伝えていきたいことって何ですか? 

「そうですね。せっかくお勉強したので、その知識はもったいぶらずに、皆さんにお裾分けしていきたいなっていうのがあります。
 あとは私の主軸というのは山にあるので、山の魅力を伝えたり、登山の楽しさを伝えたりして、登山者を増やしてですね。それがつまり防災力が身に付いた人を育てるっていうことに繋がっていると思うので、これからも山のことをやっていきたいという風に思っています」

●リスナーさんにいちばん伝えたいことは、改めて何でしょうか?

「防災っていうと面倒くさかったりとか、後回しにしがちなんですけれど、登山とかアウトドア・アクティビティっていうのは生きる術が詰まっているんですね。なので趣味をしながら、その延長線上に防災力が上がるっていうのは一石二鳥のような気がしているので、防災って考えるのではなくて、何か楽しみながらやっていただけたらいいなっていう風に思います」


INFORMATION


もしも・・・に慌てない 登山式DE防災習慣 お役立ちコミックエッセイ


『もしも・・・に慌てない 登山式DE防災習慣 お役立ちコミックエッセイ』

 きょうお話していただいたこと以外にも、防災に役立つヒントが満載です。可愛くてほのぼのとしたイラストでわかりやすく解説。自分の防災力を知る鈴木さんオリジナルのチャートなども掲載。ぜひ読んでください。講談社エディトリアルから絶賛発売中です。

◎講談社BOOK倶楽部
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000345747

 鈴木さんの近況についてはオフィシャルブログ「鈴木みきの とりあえず裏日記」を見てください。

◎「鈴木みきの とりあえず裏日記」:https://ameblo.jp/suzukimiki/

種を介して繋がる〜在来作物を守る「種継人の会」 

2021/2/28 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、茨城県常陸太田市の在来作物を守る「種継人(たねつぎびと)の会」の代表「布施大樹(ふせ・たいき)」さんです。

 布施さんは東京都出身。東京農工大学卒業後、栃木の帰農志塾で農業を学び、その後、常陸太田市に移住。家族で有機農業を営む「木の里(このさと)農園」の代表でもいらっしゃいます。

 「種継人の会」は、2013年頃に地元の仲間と一緒に行なった、山形の在来作物の種を守り継ぐ人々を撮ったドキュメンタリー映画『よみがえりのレシピ』の自主上映会をきっかけに発足。そして、仲間たちと一緒に、常陸太田市にどれくらいの在来作物があるのかを調べたところ、30種ほどあることがわかったそうです。

 きょうは布施さんに、「種継人の会」の活動や、暮らしの根っこにある在来作物への思いなどうかがいます。

☆写真協力:布施大樹

写真協力:布施大樹

可愛い、美味しい、在来作物

※常陸太田市の在来作物は約30種ということですが、具体的にはどんな作物があったんですか?

「常陸太田市は茨城県の北部になるんですけども、標高が数メートルから800メートルぐらいの、結構多様な地形になっていまして、元々いろんな作物が栽培できる場所なんですね。
 例えば、お米ですとか、あとはこの辺はあまり知られてはいないんですけれども、日本一って言われている“常陸秋そば”の産地で、そのそばの在来種があったりですとか。
 あとは小豆ですね。“娘来た”って言われている斑の模様の小豆。他にもたくさんのインゲンや大豆、芋類、菜の花のようなものですとか、あとは胡麻や、こんにゃくとか、本当にいろんなものが見つかりました」

写真協力:布施大樹

●いろんな在来作物があるんですね! 「種継人の会」はどんな活動をされているんですか? 

「種継人の会という名前の通り、地元にある在来作物の種子を受け継いでいくということが大きな目標ではあるんですけれども、最初は地元のいろんなイベントに誘われて、こんな作物があるよって提案したりですとか、そういうことをしていたんです。

 在来作物を守ってきた人たちがいるんですよね。もう80代ですとか年配の方なんですけれども、そういう人たちと話しているうちに、やっぱりその人たちが守ってきたものを、もう少しこの地域の外に出していきたいなと思うようになりまして、ワークショップをやったりですとか、試食会をやったりですとか、そういった活動を少しずつするようになりました」

 ●在来作物の魅力って何ですか?

「多分、小尾さんも聞いたことがあると思うんですけれども、(在来作物は)栽培が難しかったりとか、あとは収穫の量が少なかったりとか、そういったことが理由で、もっと生産性の高い新しい品種に切り替わってきたという歴史が在来作物にあるんですよね。

 ただ、僕自身は物事はやっぱり良い面と悪い面が両方あると常々思っています。採れる量が少なかったりする反面、見た目が可愛かったりとか、味がとても美味しかったりですとか。あとは地元の伝統的な仕事と紐づいて残ってきた作物だったりとか、そういった他にはない魅力があるのが在来作物の特徴だと思います」

種を残し、仕事を残す

※「ホウキモロコシ」という作物を「種継人の会」のサイトで見つけたんですが、これも常陸太田市の在来作物なんでしょうか?

写真協力:布施大樹

「座敷ほうきって使われますか? 」

●祖父母の家で、っていう感じですかね(笑)。そのほうきを作るためのトウモロコシっていうことですか?

「そうなんです。厳密にはトウモロコシではないんですけれども、トウモロコシですとか、きびだんごの“高きび”ですとか、大きく分けると、もろこしっていう雑穀の仲間があります。その中のトウモロコシだったり、あと餌になる他のもろこしだったり、いろんな種類があるんですけども、その中のひとつで工芸用に作られている、ホウキモロコシっていうイネ科の牧草の一種です。

 高さが3メートルぐらいになりまして、それを真夏に穂先だけを1本ずつ折り採って収穫をして、茹でて天日で乾燥させて、冬場に、農閑期にほうきを作って販売するっていう仕事が江戸の後期の頃から常陸太田市で行なわれてきました」

●布施さんはホウキモロコシの栽培方法だけじゃなくて、ほうきそのものの作り方も学ばれたっていうことですか? 

「そうですね。僕たちが在来作物の調査をしていて、そのメンバーの方がこういった仕事をしてきた人もいるはずだよということで教えていただきました。その職人さんをお宅に尋ねたところ、仕事を今年で辞めようっていうことをおっしゃっていまして、その方がその当時は最後の一軒だと僕らも聞いていました。

 ホウキモロコシの材料っていうのは買えるものではないんですよ。材料を購入して作ったりすることができないもので、種から育てないといけないものなんですね。
 多くの工芸品っていうのは、例えば木の道具だったら木を仕入れて作ったりとか、鉄を仕入れて作ったりとかするものなんですけれども、座敷ほうきっていうのは、種を畑に6月の末ぐらいに撒いて、間引きをして土寄せをして草を取って育てて、8月の末ぐらいに収穫します。
 畑で種から育てて初めて材料が作れるものなので、その種がなくなってしまうと、ほうき作りが地域から消えてしまうんですよね。

 日本に何箇所も座敷ほうきの産地は今でも残っているんですけれども、各地に特徴のあるホウキモロコシの種が継承されてるんです。常陸太田には常陸太田の種子がずっと残されてきたということで、種をただ残すということではなくて、仕事を残していくことが初めてその種子の継承に繋がっていくということに気がつきました」

地域の人と一緒に

※布施さんは「木の里農園」を運営する農家さんでもいらっしゃいますが、東京のご出身です。どういう経緯で農業に従事するようになったんですか?

「元々は大学の農学部で林業の勉強をしていたんですけれども、その当時から第一次産業の現場で働きたいという希望は持っていました。大学2年の春休みに、沖縄の波照間島っていう、人が住んでいるいちばん南の島で、西表島の南に浮かんでいる島なんですけど、そこで1ヶ月ほどサトウキビ狩りのアルバイトをしました。

 そこで何というか、皆さん、すごく仕事もハードですし、生活も大変な中でも地元の海と島と畑の中で、この人たちは非常に輝いて生きてるなという風に、都会人の僕は感じてしまいまして、それからやっぱり自分も一度きりの人生なので、農業を目指して生きていきたいという風に思いました」

●そうなんですね。でも農業をする場所って日本全国いろんな場所があると思うんですけど、どうしてこの常陸太田市で農業を始めようと思われたんですか? 

「私自身が都会人で、農業の現実をあまりよく分かってなかったということもあるんです。
 大学では林業のことですとか、環境のことを勉強していたので、その当時ですと過疎の問題ですとか、今でもありますけれども、リゾート開発の問題ですとか、そういった問題があった中で、自分は農家にはなりたいんだけれども、なるべく山の中の厳しい環境に身を置いて、そこで地域の人と一緒に自分は農業をやって生きていきたいという無謀な夢を持ちまして、現在地に就農しました」

写真協力:布施大樹

●実際いかがでしたか? 

「最初の5〜10年ぐらいは毎日が必死だったので、この土地の厳しさとか、あまり考えることもなくて、もうひたすら毎日一生懸命働いていたんですけれども・・・ふと立ち止まった時に、やっぱり山間部ですので日照時間が短かったりとか、野生動物の被害が多かったりとか、土が痩せているですとか、いろいろなデメリットがあるなっていうことにようやく気がつきました。

 その反面、やっぱり自然が豊かで、水が綺麗で、空気も澄んでいて、空が高くて、もうこれ以上ないという環境で作物を育てることができるという、良い面もすごくあるなという風に今は感じています」

大切にしている3つこと

※布施さんの「木の里農園」では1年を通して、どんな作物を育てているんですか?

「うちは消費者に直接野菜をお届けするというスタイルで農業をやってますので、年間ですと、品目でいうと70品目ぐらいの野菜を育てて、その中でもいろんな品種を作るので、全部合わせると250品種ぐらいの野菜、米、麦、大豆、蕎麦、とにかくありとあらゆる作物を、私と妻と、あとは一緒に働くメンバーが3人ほどいるんですけれども、力を合わせて栽培しています」

●在来作物が多いんですか? 

「地元の在来作物も作っていますけれども、私自身は、農業者としてはそれにすごくこだわっているということはないです。在来作物の重要性っていうのは先ほどお話しした通りですけれども、一方で、やっぱり現代の新しい野菜ですとか、品種改良された品種の良さっていうのも、農業者としては非常に分かっているので、そういったものも積極的に取り入れたり、外国の品種とかも作ってはいます。

 ただ、やっぱりその中で、現在の優れた品種と比較しても、やっぱり輝きを失わない在来作物っていうのもあるので、うちでも積極的に栽培して、自分で毎年種を採って品種改良を試みたりとかしています。

 それで消費者の野菜ボックスに入れたり、お付き合いのあるレストランのシェフに提案したりとか、この土地ではこういったものがありますよっていう、こちらからどんどんそういったものを発掘して、提案していくっていうようなこともやっております」

写真協力:布施大樹

●消費者に直接届ける野菜ボックスには、何かコンセプトとかあるんですか? 

「日々の食卓、本当に毎日の朝昼晩の食卓に普通に食べていただきたいと思っていまして、そこをすごく大事にしています。
 大きく申し上げると3つ大切にしていることがあって、1つ目は“食卓の変革”って僕ら勝手に呼んでいるんですけれども、地元の田畑と繋がった食卓が増えていったらいいなっていうことを大事にして考えています。

 もう1つが“持続性”ですね。サスティナビリティというのをすごく大切に考えていまして、栽培方法ですとか。農薬とか化学肥料は一切使わずに、地域の資源、例えば常陸太田市でしたら山林がたくさんあるので、そういったところの落ち葉を、本当に無尽蔵に手に入るので、大量に集めて発酵させて土作りに使ったりですとか、地域にあるものを大切に利用するということを考えています。

 最後の1つが“信頼関係”ですね。消費者との信頼関係はもちろんあるんですけれども、例えば地元の自然環境との信頼関係とか、あとは、いろんなものが信頼関係で結ばれるような農園でありたいし、そういった地域を作っていきたいし、そういった繋がりが増えていくこと。僕たちはそういう世界で生きていきたいと思っているので、そういった未来を目指して農業をやっています」

繋がりを大切にしていく

※今後、農家として、また「種継人の会」として、どんなことに取り組みたいと思っていますか?

写真協力:布施大樹

「種継人の会としましては、さっきちょっとお話が漏れてしまったんですけれども、“娘来た”っていう可愛い小豆があります。その小豆の栽培会を作って、地元の丁寧なお仕事をされている小さなケーキ屋さんですとか、レストランとか、旅館とか、パン屋さんとかいろんなところと繋がって、契約栽培をもう3年ほどやっています。

 ただ種を残すということではなくて、ほうきもそうなんですけれども、ものづくりのいろんな営みと種子を介して繋がっていく、生産者と作り手が繋がっていく、そのお店に来た人がまた地元で小豆を使って、いろんな料理にチャレンジしていったりとか、そういった繋がりを増やす活動をしていきたいなと思っています」

●繋がり、大事ですね! 消費者として農家さんに出来ることはどんなことなんでしょうか? 

「今の時代って農業者っていう、ものがすごくプロフェッショナルの世界になってきてると思うんですね。会社組織も増えたりですとか、それはすごく僕はいいことだと思うんですけれども、反面やっぱり食卓と農業の距離がすごく離れてしまっているのかなと思っています。

 なので、例えば安全安心ですとか、農法にこだわって農産物を選ぶ方もいらっしゃいますけれども、その前に、僕が大事だと思うのは、誰がどんな思いで作ったのかっていうことを、僕らも伝えなきゃいけないし、皆さんもそういうことを知って、作物を選んでいただけたら嬉しいなと思いますね。

 で、私たちも同時にどんな消費者に届けたいのか、どんな思いを伝えたいのか、作る側も意識して、お互いが繋がる努力をしていく。努力っていうんですかね・・・そういうことが楽しめるような関係性を作っていけたらいいんじゃないかなと思います」

●この番組を聞いてくださっているリスナーの方にいちばん伝えたいことは、改めてどんなことですか? 

「種継人の会の活動にも関連してくるんですけれども、今すごく国際化が進んできて、労働者も外国から入ってくるし、会社の仕事も国境とかどんどん関係なくなっていく中で、やっぱり地元にある小さな仕事だったり営みだったり、そういったものの価値は、これから逆にすごく輝きが増してくるんじゃないかなと思っています。それが地域のアイデンティティだったり、日本の特徴だったり、伝統的な仕事もそうですけれども、繋がっていくと僕は思っています。

 ですので、そういったものにちょっと意識を向けていただいて、少し興味を持って関わってみたり、その人たちがどんな人たちなのか会いに行ってみたりとか、そういったことをすることが、これからの時代を生きていくヒントになるのではないかなと私は考えています」


INFORMATION

「種継人の会」


 布施さんたちの活動や常陸太田市の在来作物については「種継人の会」のサイトをご覧ください。

◎種継人の会のHP:https://tanetsugibito.com

「木の里農園」


 「木の里農園」の人気アイテム、消費者に直接野菜などの作物を届ける「野菜ボックス」(大変人気があって、いま新規の受付はしていないそうです)ほか、布施さんが育てた野菜を扱っている小売店や食材に使っているレストランについては「木の里農園」のサイトを見てください。

◎木の里農園のHP:https://konosato.com

「ワンヘルス」〜新興感染症の発生とパンデミックを防ぐために〜

2021/2/21 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、世界自然保護基金「WWFジャパン」野生生物グループの「浅川陽子(あさかわ・ようこ)」さんです。

 私たちはいま、新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行パンデミックによって、大きな危機に直面しています。そんな中、先月、世界自然保護基金「WWFジャパン」が新たな感染症の発生とパンデミックを防止するために「ワンヘルス共同宣言」を発表しました。この「ワンヘルス」という言葉には、私たちの未来を左右する、といっても過言ではない、とても重要な意味が込められています。

 そこで今週は、「WWFジャパン」の浅川陽子さんをお迎えし、「ワンヘルス」=健康はひとつ、という考え方、そして感染症発生の原因と予防策についてうかがっていきます。

☆写真協力:WWFジャパン

浅川陽子さん

「ワンヘルス」の理念

※先月、WWFジャパンが発表した「ワンヘルス共同宣言」、その宣言の内容については、のちほどうかがいますが、まずは「ワンヘルス」の解説をお願いします。

「ワンヘルスは、ひとつの健康という意味なんですけれども、まさに人と動物、あと生態系の健康をひとつと考える概念になっています。これは人が健康であるためには、その感染症の発生原因となる自然破壊を止めて、生態系を健全に保って、動物の健康も一緒に守っていきましょうという考え方になっています」

●感染症の発生原因は自然破壊ということですが、自然が壊されると、どうして新しい感染症が発生してしまうんですか? 

「新型コロナウイルスのように新しく発見される感染症の多くが、野生動物から由来したものだと言われています。これは人と動物の距離が近づくことによってウイルスが動物から人にうつるんですけれども、この人と動物の距離が近づく要因に、森林伐採とか生物多様性の損失ということが関係していると考えられているんですね。 実際ウイルスの増加と反比例するような形で、世界の森林面積というのは減少していることが分かっていて、感染症のリスクというのは熱帯雨林地域で高いということも明らかになっています」

(c)Chris J Ratcliffe / WWF-UK
© Chris J Ratcliffe / WWF-UK

●野生動物と人が接触してしまうと、未知のウイルスに感染してしまうということなんですか? 

「はい、やはり森林破壊のために、人が森に立ち入ったり、生息地を奪われた野生動物が都市部に移動したりするということもありますし、森にアクセスしやすくなって、人が森に入って行って動物を獲って、都市部で販売するという行為の過程で、やはり動物から人にウイルスがうつってしまうという可能性があるんですね」

●森林破壊以外にも何か原因はあるんですか? 

「他にも地球温暖化とか、あとは野生生物取引というのも新興感染症を発生させる原因と言われています。いま特にWWFジャパンが問題にしているものに、違法、あるいは不適切な野生生物取引というのがあります。

 中国とか東南アジアにはやはり様々な野生動物が狭い檻に閉じ込められて、不衛生な状態で保管、販売されるような市場が確認されているんですね。こうした状況は、ウイルスが動物から人にうつる状況を生んで、新興感染症が発生しやすい要因のひとつとなっています」

(c) Rob Webster / WWF
© Rob Webster / WWF

毎年発生する新しい感染症

※新興感染症は、新型コロナウイルス感染症のほかに、過去にも同じようなことは起こっていたのでしょうか。

「みなさん、記憶に新しいと思うんですけれども、SARSとかMARS、あとはエボラ出血熱といった病気も新興感染症のひとつだと言われています」

●毎年のように新しい感染症が発見されているような気もするんですけれど、これって本当なんですか? どういう状況なんですか? 

「毎年3〜4つの新しい感染症が確認されているような状況で、大体それらの70%が動物から由来していると言われています」

●毎年3〜4つは結構な頻度ですよね? やはり動物がウイルスを媒介しているんですね。 

「はい、動物から動物、そして感染した動物から人へウイルスが伝播した事例っていうのも確認されています。実際に先ほどお伝えしたエボラ出血熱はコウモリからゴリラ、ゴリラから人間へ感染したと言われていますし、SARSもコウモリからハクビシンという動物にうつって、人間に感染したんじゃないかと考えられています」

●ウイルスによっては、人に感染するウイルスと感染しないウイルスがあると思うんですけれども、こうやって人にも動物にも感染してしまうウイルスっていうのはどれくらいあるんですか? 

「世界保健機関WHOによると現在、人に感染が確認されたウイルスは200種以上あると言われています。さらに野生動物は、まだ確認されていないウイルスを持っていると言われているんですけれども、そのうち人間に感染する可能性があるよ、と言われているウイルスは80万種を超えるとも言われていて、まだまだ新しい感染症が出てくる可能性は十分にあるなと心配しているところです」

●その数を聞いてしまうとちょっと恐ろしいですね。でもすべてのウイルスが悪ものではないんですよね?

「そうですね。実際に、ある動物には無害であっても、他の動物に有害なウイルスというのもあります。やっぱり様々な生き物がバランスよく関わって生息している、いわゆる健康な生態系っていうのは、ウイルスが特定の動物の中だけに留まって大人しくしているので、私たちにそんなに被害が及ぶことはないと考えられています」

海外青年協力隊でインドネシアへ

※浅川さんは2018年にWWFジャパンに入ったそうですが、何か入るきっかけがあったのでしょうか。

「実はですね、その前にもうWWFジャパンでアシスタントとして働いていたことがあって、その後、運よくインドネシアにJICAの青年海外協力隊で派遣していただき、2年間インドネシアの国立公園で働かせてもらいました。

 そこで結構、緑に毎日触れる機会がありましたし、自然が本当に豊かな国なので、いろんな生き物を見ることもできて、改めて環境の大切さ、あとは美しい地球の素晴らしさっていうのも感じて、もう一度自然環境に携わる仕事がしたいなと思いまして戻ってまいりました」

●2年間は具体的にどんなことをされていたんですか?

「私は国立公園で主にコミュニティ開発と環境教育という2つの仕事をしていたんですね。
 実際に国立公園の問題として、現地の方々が農業とか、あとは採取のために森に入ってしまうという問題があって、どうしたらその人たちが森に目を向けずに、むしろ森を守るような取り組みをしてくれるかなっていうところを、現地のスタッフと一緒に考えながら、代替産業を作るような取り組みをしていました。
 環境教育は現地の小学校、中学校に行って、環境の大切さを授業するというような活動をしていました」

ワンヘルス共同宣言

※ここまでのお話で、感染症の発生原因が森林破壊や野生動物の取引などにあるということを、みなさんと共有できたと思いますが、それでは、どうすればいいのか・・・。
 先月、WWFジャパンが発表した「人と動物、生態系の健康はひとつ〜ワンヘルス共同宣言」の中にそれは示されています。ここで「ワンヘルス共同宣言」について詳しく教えてください。

「ワンヘルスは人と動物と生態系の健康をひとつと考えますよ、というお話をしました。実際に人の健康を守るのはお医者さん、動物の健康を守るのは獣医師さんだったりするわけですけれども、そういう人たちと、生態系を守るような環境保全団体が一緒にこのワンヘルスに取り組んでいこうという思いで、このワンヘルス共同宣言というのを作らせていただきました。

 その宣言の中では、ワンヘルスの3つの要素をそれぞれ専門分野の問題だけに取り組むんじゃなくて、他の分野との重なりとか、課題といったものを一緒に、視野を広げて考えていきましょうというものになっています」

●具体的にはどんなことに取り組んでいくんですか? 

「これからどういうところに課題があって、どういう連携が必要なのかということを、みんなで話していこうというところなんです。
 例を挙げると、WWFジャパンはいま、野生動物を捕獲してきて販売するようなことが、実は新興感染症の発生に影響しているということで、心配しているわけなんですけれども、日本には海外の生きた動物を輸入して販売するような、エキゾチックペット市場というのが存在しているんですね。

 例えばカワウソとか、フクロウとか、トカゲとか、そういったものがエキゾチックペットと言われているんですけれども、こういったペットは、やっぱりブームによって、輸入される動物の種類とか取引は日々変わっていきます。

 もちろん輸入する上で、本当にその動物が安全なものなのか、公衆衛生上問題ないのかということを法律で厳しく定めているわけですけれども、この輸入規制については、長年見直しがされていないような感じです。

 なのでこういった規制についても、私たち環境団体はペットブームや取引状況に関する、持っている知見を情報提供する。で、感染症の専門家とか、獣医の方々には逆に感染症のリスクの点から情報をいただいて、それぞれが取るべき対策とか、課題を共有すれば、適切な規制とか施策が作れるんじゃないかなと思っています」

●いま、新型コロナウイルスに効果のあるワクチンや薬の開発も急務とされていますけれども、開発とか製造には莫大な費用がかかりますよね。一方で新興感染症の予防には、それほど費用はかからないということなんですけど、それは本当なんでしょうか?

「昨年秋に発表された科学レポートによると、パンデミックによって被る被害額の100分の1で予防できると推計されています。生態系の健康が新しい感染症の発生にものすごく関係しているので、やはり私たちは予防のところ、生態系保全っていうものに力を入れていく。で、そのコストは実はワクチンよりも削減可能じゃないかと考えられています」

修復できるのは人間しかいない

Shutterstock / Rich Carey / WWF-Sweden
© Shutterstock / Rich Carey / WWF-Sweden

※新型コロナウイルスの猛威によって、いま世界は大変な状況になっていますが、その原因は私たちにあるんですね。

「そうですね。新興感染症、新しい感染症の発生っていうのは過去50年ですごく急増しています。残念ながら私たちの、人間の活動の影響を受けて、生態系の損失も同時に進んでいる。つまり私たちの環境への負荷が、地球にものすごく大きな影響を与えていると考えられます」

●人間の活動がそんなに大きく関係しているんですね。壊してしまった自然とか環境を修復できるのは、また人間しかいないですよね? 

「そうですね。感染症のパンデミックは、自然破壊とか、あとは(野生生物の)取引とか、人の手で行なわれた行為によって引き起こされているのであれば、やっぱりその危機も必ず人の手で防ぐことができると私は考えています。
 ですから人と動物の健康に配慮して、持続可能な共生社会っていうんですかね、そういうものの実現に向けて、いま一度、自然とか野生動物との付き合い方を見直していくことが重要じゃないかなっていう風に考えています」

●本当にそういう意味ではワンヘルスっていう考え方をみんなで共有して、その理念のもとに行動していくっていうのが大切になってくるんですね。

「はい、新型コロナウイルスも発生源が海外であったことから、ウイルスの発生がその国の問題であると、そういう風に感じている人もいるかもしれません。

 でも私たち日本人が森林破壊によって得られた木材製品を使っていたり、アジアの不適切な市場で販売されている動物が、ペットとして日本に輸入されている可能性というのは十分にあります。自分たちの消費、生活というものが、野生生物の生息地の感染症リスクを高めているかもしれないんですね。

 環境に配慮した製品を選んだり、むやみに野生生物を欲しがらないといったライフスタイルの見直しは海外の生き物を守る、そして自分たちの健康を守ることに繋がっているということを認識していただきたいと思っています」


INFORMATION

人と動物、生態系の健康はひとつ〜ワンヘルス

「人と動物、生態系の健康はひとつ〜ワンヘルス」


 新興感染症の発生とパンデミックを防ぐために、まずは「ワンヘルス」という考え方を共有しましょう。そして次のステップはライフスタイルを見直すこと。買い物をする時、環境に配慮した製品を選ぶだけでも人や動物、そして生態系の健康につながるということを意識しておきたいと思います。

 「ワンヘルス」について、詳しくはぜひWWFジャパンのオフィシャルサイトをご覧ください。この番組のホームページにリンクをはっておきます。

◎WWFジャパンのHP:https://www.wwf.or.jp/tags_k_829/

情熱と行動力があれば、世界は変えられる〜20歳の環境活動家「露木志奈」〜

2021/2/14 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、環境活動家の「露木志奈(つゆき・しいな)」さんです。

 露木さんは2001年生まれ、横浜市出身。通っていた幼稚園の影響もあって、幼い頃から自然が大好き。中学生の頃は英語が苦手だったそうですが、英語を話せるようになりたいという本人の希望から、インドネシアのバリ島にあるインターナショナル・スクール「グリーンスクール」に単身留学。

 2018年にはポーランドで開催された気候変動に関する国際会議COP(コップ)に「グリーンスクール」の仲間たちと参加。帰国後は慶應大学・環境情報部に進学。現在は休学し、環境活動家として活躍されています。

 きょうはそんな露木さんに活動への熱い想いや、彼女が通っていた世界最先端のエコスクールといわれているバリ島の「グリーンスクール」のお話などうかがいます。

☆写真提供:露木志奈

露木志奈さん

大事なのは、ひとりでも行動すること

※去年の11月から始めた講演活動は、全国の小中高、時には大学に招かれて、主に気候変動について講演しているそうですが・・・ほかにはどんなお話をするんですか?

「もちろんマイクロプラスチックって言われる、海に流れてしまっているプラスチックが波とか、太陽の熱とかによって分解されて、目に見えないくらいまでの小さなプラスチックになっているってお話も、もちろんさせてもらっているんです。

 あとは自分がインドネシアのボルネオ島にある熱帯雨林に行ったことがあって、そこって(アブラヤシから採れる)パームオイルって言われる、世の中で結構何にでも使われているような植物油があるんですけど、(そのアブラヤシを植えるために)伐採されている森を実際に見て、自分で植林をしに行ったりとかっていうのがあったので、自分にしか話せない内容っていうのを届けています」

●熱帯雨林などのそういった現場をご覧になって、具体的にどんなことを学生さんたちに伝えていらっしゃるんですか? 

「熱帯雨林については、自分が直接行ったことがあるので、まず普通の植物と熱帯雨林の違いについてお話しさせてもらっています。
 その上で日々、自分たちが消費しているものの中に、その原材料に(パームオイルが)使われているっていうこと、どういうものに使われているのかっていう説明をします。で、買う時に後ろの(ラベルに書かれている)材料を見て、無意識な選択じゃなくて、意識した選択っていうのがとても重要になっていくっていうことを、具体的にお話しさせてもらっています」

●気候変動については、どこにいちばんポイント置いてお話しされているんですか? 

「いちばんポイント置いているのは、自分たちが行動するっていうことがすごく大事っていうこと、最も重要なこと、ってお話ししています。
 ひとりが行動するって、意味がないって思っちゃうことがすごくあるし、私も実際にそういう風に思っていた時もあるんですけど。でも、みんながそう思っているからこういう問題が解決していかない。誰かが解決してくれるってみんなが思っているから解決していかないなって思うので、ひとりひとりの日々のアクションがすごく大事っていうことを、最終的なメッセージとして伝えさせてもらっています」

写真提供:露木志奈
写真提供:露木志奈

同世代にメッセージを届けたい!

※講演を聴いた生徒さんや学生さんたちの反応はどんな感じですか?

「学校にもよるし、学年にもよるし、本当に人それぞれなんですけど。もちろん本当に人生が変わりましたっていう風に言ってくれる人もいるし、自分の将来と環境っていうのは同じこと、考えるっていうのは全く同じことだから。
 今までは環境は環境、自分は自分っていう風に捉えていたけれども、そのふたつっていうのは全く同じことなんだって思ってくれる生徒さんもいらっしゃったりとか。

 あと先生は、毎日その生徒さんと関わっている中で、私が講演させてもらったあとに、反応をやっぱり見てくださっているんですけれども、この前、静岡の方で講演させてもらった学校で、校長先生が“僕はこの学校で2年ぐらい勤務させてもらっているんですけど、あんなに生徒の目が輝いているのは初めて見ました!”って言ってくれて。
 確かにその学校、講演が終わったあとに私の周りに(生徒さんが)30人ぐらい集まってきてくれて、ずっと質問してくれて、そのあともお母さんのアカウントを使ってインスタグラムから質問をさらにくれたりとか」

●へ〜! SNSなども活用しながらいろいろされているわけですね! 

「そうですね。私は基本的にいちばん多いのはインスタグラムを通して発信はさせてもらっているんですけど、でもこっそりYouTubeとかもやっています」

●やはり学生さんたちにとっても、歳の近い方が話してくださるっていうのも大きいのでしょうね。

「そうですね。私と同世代の子たちにお話を届けたいって思ったのも、やっぱり同世代である自分が話すことによって、メッセージがより深く、強く伝わるかなって期待しているのが、いちばんの理由で、学生の方にお話をさせてもらっています」

グリーンスクールよりサバイバルだった幼稚園!?

※露木さんが環境活動家として活動するようになったのは、世界でいちばんエコなスクールといわれているインドネシア・バリ島にある「グリーンスクール」で学んだことがきっかけ。その学校では、環境のことなどを学べる授業がたくさんあったそうです。具体的に、どんなことを学んだんですか?

写真提供:露木志奈
写真提供:露木志奈

「授業は結構様々で、数学とか理科とか社会とかっていう、日本にもあるような教科も、もちろんあるんですけど、それとは別に面白い授業もたくさんあって。
 例えば音楽を作るっていうDJのクラスがあったりとか、あとはチョコレート・メイキングっていって、毎日チョコレートを自分たちで作って、ただ作って食べるっていうだけだったら授業にならないので、どういう風にビジネスをするかを学ぶっていうことをやっていました。

 あともうひとつ。グリーンスクールは幼稚園から高校まであるので、高校生の場合だと全部選択授業なんですね。大学みたいな感じで好きな授業を選べるんですけど、その中でもし好きじゃない授業があったりとかしたら、自分で授業を作ることもできるんです。
 私の場合は高校1年生の時から自分で化粧品作りをやっていましたね。インデペンデント・スタディっていうんですけど、独立的に勉強するっていう授業を作る枠があって、そこで化粧品をずっと作っていました」

●本当にグリーンスクールって英語だけじゃなくていろんなこと学べるんですね。

「そうなんですよ」

●もともと子どもの頃から自然っていうものは近くにあったとか、お好きだったんですか? 

「そうですね。今まで自然に触れることがなかった人がグリーンスクールに行って、急に環境に関心を持つってなかなかないと思うんですけど、私の場合は小さい時から、幼稚園の時もトトロ幼稚舎っていう磯子区杉田にある幼稚園に通っていました。その幼稚園もなかなかユニークで、お昼ご飯って普通、幼稚園って出してくれるじゃないですか。トトロ幼稚舎は飯盒でご飯を焚くんですよね、木を燃やして」

●えぇ!?  

「それを幼稚園生がやって、あとは普通に包丁を持って料理とかしていました」

●そうなんですね〜。もうその頃からいろいろなものが芽生えていたわけですね。 

「そうですね。卒業遠足とかも、箱根八里、30キロ歩くような幼稚園なんですよ」

●へぇ〜! そうだったんですね! じゃあグリーンスクールに特に抵抗というか、そういったものはなかったわけですね。

「そうですね。幼稚園の方がサバイバルだったなと思っています(笑)」

グリーンスクールで学んだ3つのこと

写真提供:露木志奈

※世界最先端といわれているエコスクール「グリーンスクール」に通って、ご自身の中でいちばん変化したことってなんですか?

「これは結構よく聞かれることだったので、どういうこと学んだのかなって、やっぱり振り返らないと具体的に言語化って上手くできないじゃないですか。だからまとめたことがあって。
 3つあるんですけど、ひとつ目が、まずは“人数分の答えがある”っていうこと。数学みたいに1+1=2みたいな、みんなが共通で同じ答えを持つっていうことは、世の中に出た時になかなかなくて、みんな人それぞれ意見とかも違うし。

 それって育った環境だったりとか、話している言語とかによって、全く同じものを見ていても見方とかがそれぞれ違う。だから人数分の答えがあって、みんなそれぞれで合っているんだよっていうことを、グリーンスクールに行って学んだっていうのがひとつ。

 ふたつ目が“ないものは自分で作る”っていうこと。私の妹が、2歳下の妹なんですけど、私が高校1年生で、妹が中学2年生の時に、お年頃だったっていうのもあって、市販の化粧品を買いに行ったんです。そこでナチュラルって書いてあるものを買ったんですね。

 で、すごくワクワクしてお家に帰ってきて、その化粧品を試した時に、私の肌は何ともならなかったんですけど、妹の肌がものすごく荒れちゃって。その時に私は、あれ? でも化粧品にナチュラルって書いてあるじゃんって。商品の裏って原材料が書いてあるじゃないですか。その時にできることって原材料を見て、何が入っているのかって調べるぐらいだったので、最初はそれをやっていたんですけど。

 でも調べていった時に、日本っていう国にナチュラルとかオーガニックとか、無添加って言われる言葉の定義がしっかりと定められてないから、マーケティング・ワードとして使われちゃう場合もあるんだなって。だからそういう言葉=100%安全じゃないんだなって思ったんですよ。
 あとは動物実験のことだったり、日本のプラスチックのリサイクル率の話だったりを知っていく中で、妹のために信用して使える化粧品がないなと思って、そこから自分で作りました。だからないものは自分で作るっていうのはそこで学んだことです。

 3つ目が“大人になるまで待たなくていい”ってこと。これは学校から学んだとか、先生から学んだっていうわけじゃなくて。
 同い年の女の子でマラティっていう子がいるんですけど、そのマラティっていう女の子は今“バイバイ・プラスチックバッグ”っていう NPOを運営している子です。その子は普通にバリで育った女の子で、妹にイザベルっていう女の子がいる姉妹なんですね。

 そのふたりは自分たちが育ったバリ島にゴミが溜まっていくのがすごく嫌だったから、最初はふたりでゴミ拾いをしていたみたいで。でもゴミ拾いってずっとやっていてもゴミはなくならないじゃないですか。ゴミが出る量を減らしていかないとゴミってやっぱりなくならないから、それに気づいたふたりは、とにかくゴミの中でもプラスチックバッグを減らしていきたくて。
 結局署名を集めて、国の法律を変えていかなきゃこの問題は根本的に解決しないと思ったみたいで、最終的にそのふたりが法律を変えたんですね。

 そのふたりが直接(“大人になるまで待たなくていい”と)言っていたっていうことではないけれども、行動で示してくれているっていうか。法律を変えるってすごく大きなことにも聞こえるし、普通だったら政治家がやるとか、大人になってからそういう関連の仕事をして、みたいなイメージあると思うんですけど、そんなの関係なくて、もし目の前に変えたいものあるんだったら、別にいつでもやっていいんだよっていうことを、それが可能なんだよっていうことを、行動で示してくれていて、私は“そういうことか!”って思いました」

人の心を動かすのは情熱!

※露木さんは2018年に「グリーンスクール」の仲間たちと気候変動に関する国際会議COPに参加した時に、スウェーデンの環境活動家「グレタ・トゥンベリ」さんの講演を聴いたそうです。彼女の存在にインスパイアされるし、刺激を受けるともおっしゃっていました

写真提供:露木志奈

 今後も環境活動家としての活動を続けていくと思うんですけど、学校で行なう講演で心掛けていることはありますか?

「情熱を伝える、情熱を持って話をするっていうことですかね。
 やっぱりデータとか数字とかを伝えても、もちろんそれで危機感を持ってくれる人もいるけれども、話している人がどれぐらい本気でこの話をしていて、どれぐらい危機感を持っているのかって、やっぱり話し方だったりとか、情熱がどれぐらいその言葉に含まれているのかっていうことなんじゃないかなっていう風に思っていて。どの歳の人でもいちばん最後にやっぱり人の心を動かすのって、情熱なんじゃないかなって思っています」

●この番組を聴いてくださっている、特に10代から20代のリスナーさんにいちばん伝えたいことってどんなことですか? 

「私は今まで、いろんな挑戦とか体験をさせてもらえるような環境にいたんですけど。でも、やっぱり学んだことって、今やりたいことを今その時にやるのがいいなってすごく思っています。

 大学も普通だったら高校を卒業して行くっていうのがパターンで、みんなそのまま大学を卒業するっていうのが当たり前で、普通で、って思っているとは思うんですけど、私は大学よりも優先したいものがあったから、今は休学をして講演活動をしています。
 必ずしもみんなと同じように行動とか考えとかを持たなくてもいいし、自分の考えとか何か今やりたいこととかがあるんだったら、それを大切にしていってほしいなって。必ず出来るので !」


INFORMATION

 露木さんはインスタグラムやYouTubeでも定期的に発信しています。YouTubeではエシカル商品やハチドリ電力、あとビーガン料理なども紹介。ぜひチェックしてください。

◎露木志奈さんYouTube:https://www.youtube.com/channel/UCnpCdNkwmJSdFpxMkQWReqw

◎露木志奈さんインスタグラム:https://www.instagram.com/shiina.co/

 露木さんにうちの学校にも来て欲しい、講演をやってほしいと思ったかたは、露木さんのオフィシャルサイトにアクセスして、「コンタクト」からお問い合わせください。

◎露木志奈さんHP:https://www.shiina.co/

地球を走るアドベンチャー・ランナー〜挑戦すること自体が面白い!〜

2021/2/7 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、アドベンチャー・ランナーの「北田雄夫(きただ・たかお)」さんです。

 北田さんは1984年生まれ、大阪府堺市出身。幼少期から貧血持ちだったそうですが、中学から陸上部に入り、高校・大学と短距離で活躍。その後、就職し、一時は競技から離れますが、自分の可能性に挑戦したいという思いから、2014年、30歳のときにアドベンチャー・マラソンに参戦。会社をやめて競技に専念し、2017年に日本人として初めて、世界7大陸のアドベンチャー・マラソンを走破!

 そして先頃、これまでの挑戦の記録を綴った本『地球のはしからはしまで走って考えたこと』を出されました。

 きょうはそんな北田さんにどうしてそんなに厳しいマラソンに挑戦するのか、過酷なトレーニング、そして現在チャレンジ中の世界4大極地レースのお話などうかがいます。

☆写真提供:北田雄夫

北田雄夫さん

ビビッとゾクゾク!?

※北田さん、この世界7大陸のアドベンチャー・マラソンとはどんなマラソンなんですか?

「地球の大自然の中を、食料や寝袋やサバイバル道具を背負って、1人で何百キロも走ると、そういうスポーツが世の中にあります。そういうマラソン競技になりますね」

●大自然の、どんな場所を走るんですか?

「暑い砂漠だったり、寒い南極だったり、衛生環境の悪いジャングルだったり、本当に厳しい自然環境が舞台になっています。そんな中で、コースにやっぱり道がないので、砂漠とか。大会によっては、目印を付けている大会もあれば、はたまた全く目印がない中で、自分のGPSだけを頼りに行くとか、そういったコースになっています」

写真提供:北田雄夫

●睡眠とか食事はどうされるんですか? 

「レースによってなんですけど、ノンストップでずっと走り続けるレースであれば、睡眠時間も競争となるので、ほぼ寝ずに進むことになります。食事も基本的には自分で背負っていくんですけど、あまりにも距離が長いレースだと、途中にあらかじめ荷物をおけるポイントがルール上、設定されています。そこに置いていた食料を途中で補給しながら走り進んでいくという感じですね」

●へ〜! どんな方が参加されるんですか? 

「なかなかの強者ばかりなんですけど(笑)、まぁ普通じゃない人は多いかもしれないですね」

●世界からだいたい何人ぐらいの方が参加されるんですか? 

「それも大会によってなんですけど、多いと1000人、少ないと10人とか、本当に規模が様々ですね」

●参加条件みたいなものっていうのは何かあるんですか? 

「これも大会によってなんですけど、次に挑戦を考えているヒマラヤの850キロっていうレースでは、 標高が高いところを走りますので、これまで4800メートル以上の標高の活動経験が必要とか、超長距離レースの実績があるとかですね。レースによって決められていたり決められてなかったりということになります」

●日本人は大体いつも北田さんだけですか? 

「いや、(日本人も)参加されていることも多いんですけども、僕がいつも参加、挑戦したりしているのが、日本人がまだ挑戦すらできていない大会が多いので、そういう時は僕ひとりってことが多いです」

●そもそもどうしてこんな過酷なアドベンチャー・マラソンに挑戦しようって思ったんですか? 

「誰もやっていないことをやりたかったっていうのがいちばんですね」

●でも、いろんな選択肢がある中で、どうしてこのアドベンチャー・マラソンを選んだんですか?(笑)

「もうビビっとゾクゾクきてしまいまして。この厳しさも、ちょっと理解できないところも含めてなんですけど、自分の体力と心と知識と人生と、全てを捧げてチャレンジできるんじゃないか、というところに興味を抱きましたね」

地球のはしからはしまで走って考えたこと

これが自分の人生だ!

※とても厳しい自然環境に身を置くことで、何か見えてくるものがあるんでしょうか?

「やっぱりありますね。毎回日本にはないような、想像を超えた大自然で、限界までチャレンジしますので、自分の可能性に出会うこともありますし、やっぱりゴールしたあとの達成感とか喜びっていうのは、味わったことがない、言葉にできないほどの大きいものもありますね。すごく自分にとって、やりがいであったり、喜びは大きいですね」

●走っている時はどんなことを考えているんですか? 

「いろいろ考えるんですけど、今どう乗り越えるかって考えていることは多いですね。例えば、暑い砂漠を走ると熱中症気味になって、脱水症状になって、でもチェックポイントまであと20キロあると。じゃあ持っている水はどんだけあるから、これをどういう風に使ったらいいんだろうとか。

 足の疲労は痛みとか出てきて、このペースでいけるのか、この先を越えるにはどう越えようかとかですね。いろいろ自分の体とメンタルとレース条件と、いろいろ踏まえた上で、今何を考えてどうすべきかって、常々考えていることは多いですね」

●もうやめたいって思ったことはないですか? 

「止まりたいとかはめちゃくちゃありますね。もう止まりたい休みたいとか、何でやっているんだろうとか思うことは多いんですけど、やめようと思ったことはないですね」

●何でですか? 毎回きついなって思って、でもまたやりたいって思うのって。そのモチベーションというか、それはどういった気持ちから出てくるものなんですか? 

「終わったあと、もっとできるなっていうのがいつもあるんですね。もう1回やったらもっと上手くできるなとか、速く走れるなっていうのが本当毎回あってですね。まだ先に行けるんじゃないか、もっとできるんじゃないかっていうのは常にあるので、それを目指していきたいなっていう思いはありますね」

●忘れられない光景とかってありますか? 

「大体レースってひとりで孤独で走っているので、夜が長かったりするんですね、12時間とかあったりして。
 アラスカを走っていた時に、孤独で寒くて辛くて、でもそれから一晩越えて、朝日が登った時に、その朝日が本当に眩しくて、輝いていて、生きる力が湧いてきてですね。夜、孤独で寂しかったところから生き延びたっていうのと、何かいろんな感情が合わさって、その光景っていうのはすごく忘れられないものになっていますね」

●過酷なレースをこなしていく中で、ご自身の中で変化っていうのはありますか? 

「そうですね、たくさんありますね。いちばんはこれが自分の人生なんだ、っていうことが思えるようにはなりましたね。
 30歳までの会社員の頃は、まぁ充実した日々だったんですけれども、これが自分の生き方だ! 人生だ! っていうことを言えなくてですね。今はそれだけの想いだったり、時間だったりを注いでいて、挑戦もしているので、何か自身の中で、自分の道を歩んでいる、生きているって思えることは大きいですね」

写真提供:北田雄夫

砂漠の次は極寒のアラスカ!?

※北田さんは2018年から「世界4大極地の最高峰レース」に挑戦されていますが、これはどんなレースなんですか?

「自分なりに決めたものなんですけれども、地球上で人間が走れる4つの極地があると。それが暑い砂漠、 寒冷地、衛生環境の悪いジャングル、そして標高の高い山と。その4つの環境で、いちばん難易度が高いであろうレースに全部行くというのが、僕の掲げている4大極地の最高峰レースになります」

写真提供:北田雄夫

●最近でいうと、どんなレースに出場したんですか? 

「2019年の秋に行ったモーリタニアのサハラ砂漠で1000キロ走るというレースでした」

●砂漠を1000キロ!!!

「はい(笑)」

●どんな世界なんですか(笑)

「走っても走っても、もう地平線で砂漠が終わらないんですよ。地球は広かったです」

●でもこれも無事に走破されたんですよね? 

「そうですね。幸い無事完走、6位でゴールとなりました」

●次回がアラスカ? ですか? 

「そうですね。2月末からスタートとなって、10日間で560キロ、完走を目指す、ノンストップで進むというレースになります」

●これはどんなレースになるんですか? 

「冬の寒いレースでして、冷えるとマイナス30〜40度まで落ちると。なのでかなり厳しくて、汗をかくと全部凍ってしまって、凍ると全て解凍ができないので、難易度がすごく高くてですね。

 装備が本当にエベレストを登るような防寒具を全て持っていかないといけないので、ソリを引きながらになりますね。とてもリュックじゃ背負えないので。そこに食料とかお湯も入れて、万が一の時には雪をお湯に溶かすようなバーナーとか、いろんなサバイバル道具を積んだ、おそらく15キロとか20キロの(重さの)ソリを引きながら、毎日雪の上を進み続けると」

●へ〜!  頑張ってください! 

「はい!」

写真提供:北田雄夫

55時間、眠らずに!? マイナス20度の冷凍庫!?

※2月末から開催される予定の、アラスカのレースに向けて、トレーニングの最中だと聞いたんですけど、どんなトレーニングをしているんですか?

「例えばアラスカに向けてで言いますと、ノンストップで10日間進むっていうことで、睡眠時間がいちばんもったいないなと。なので、睡眠ゼロでいけばいいんじゃないかと思ってネットを叩くんですけど、出てこないんですよね〜。これだけ情報が溢れているのに、人間どれまで寝ずにいけるかっていうのが。じゃあ自分でやるしかないと思って、この前55時間寝ずに山を走っていましたね」

●えっ? それはどんな山を? 

「兵庫県に六甲山脈っていうのがあるんですけど、そこをずっと55時間、往復しましたね」

●55時間!? 全く寝ずにですか? 

「そうです」

●できるものなんですか? そういうのって。

「結構、幻覚もそこまで見えず、できました。なので、とりあえず55時間は動けるなっていうのがそのチャレンジで分かりましたね。あとやっぱりやる中で、どこまでいったら自分の意識が飛んで、手足の感覚を失うのかっていう限界値が分かっていないと、本番ではそれ以上の条件になるので、それを試すためにっていうので、それをやりました。

 寒さでいうと、本番がマイナス30〜40度になるっていうことで、前回同じアラスカに行った時に、マイナス30度だったんですけど、凍っていない川があったんですよ。そこにちょっと足をはめてみたら、瞬く間に足が凍っちゃって、危うく凍傷になりかけたんですけど。

 次回もあるだろうっていうことで、もし自分が下半身ずぶ濡れになったら、どうやったら復活、回復できるのか、体温を取り戻せるのか、その時に考えるべき、注意することをいろいろ見つけようと思って、それでマイナス20度の冷凍庫に入って下半身ずぶ濡れにして、そこから10分後に着替えを、っていうのをやってみてですね。やっぱりむちゃくちゃ寒かったんですけど、10分間はとりあえずマイナス20度に耐えられてですね。着替える順番がすごく重要だなとか、手間取ったら凍傷の確率が高くなるなとかですね。

 なのでソリの、何センチ単位で自分がどこの荷物に何を入れているかっていうのを明確に把握しておいて、着替える順番もどんだけ疲労していても、どんだけ意識がなくても、無意識ぐらいに順序よくいけるように認識、把握しておくとか、そういうことが大事だなっていうのが改めて分かりました」

●北田さんのアドベンチャー・ランナーとしての挑戦は今後も続いていくんですね。

「そうですね。今、僕の中では第2章です。第1章の、7大陸の走破が2017年に終わりまして、今第2章の、4大極地を行くということでやっています。2022年ぐらいまでに達成できたらなと。それが終われば第3章、第4章と挑戦したいなと思っています」

●このような過酷なレースに出場して得るもの、そして出場することで伝えたいことを、改めて教えてください。

「チャレンジするのは面白いっていうのが、世の中に広まればいいなとは思いますね。挑戦って、いろいろ考えることもあったり、難しいんですけど、成功とか失敗ではなくて、チャレンジすること自体が面白いんだ! っていう風に、まぁ僕自身が経験させてもらってですね。

 やっぱり失敗したら辛かったり人の目も気になったり、落ち込むこともあるんですけど、でもそこには絶対成長があってですね、新しく出会える人もいたり。なので、本当に挑戦することで僕の喜びは膨れていたので、そういう何か、面白いなっていうのは伝えられたらなと思います 」


INFORMATION


地球のはしからはしまで走って考えたこと


地球のはしからはしまで走って考えたこと

 アドベンチャー・マラソンに挑戦するようになったいきさつから、日本人として初めて走破した世界7大陸アドベンチャー・マラソンのエピソードなど、挑戦と挫折と成長の日々が綴られています。胸が熱くなる冒険物語。チャレンジする姿勢に勇気をもらえる一冊です。ぜひ読んでください。集英社から絶賛発売中です。

◎集英社HP:
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-788046-5

「旅ラン」「アドベンチャー・クラブ」情報


 北田さんは国内を旅するように走る「旅ラン」シリーズをYouTubeで公開。奥様とのハネムーンも400キロの「旅ラン」だったそうですよ。

写真提供:北田雄夫

 また、「アドベンチャー・クラブ」というコミュニティを運営。このクラブでは北田さんのレースを、より身近に楽しみ、そして一緒に挑戦してくださる会員を募集中です。詳しくは北田さんのオフィシャルサイトをご覧ください。

◎北田雄夫さんHP:https://takaokitada.net/

健気な虫の生き様を通して何を伝えられるのか〜絵本『がろあむし』の世界観〜

2021/1/31 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、絵本作家、そして生物画家の「舘野鴻(たての・ひろし)」さんです。

 舘野さんは1968年、横浜市生まれ。子供の頃、近くに住んでいた、のちに国際的に有名になる絵本画家「熊田千佳慕(くまだ・ちかぼ)」さんに絵を習うようになったそうです。そして大学進学後、演劇や現代美術、音楽活動を経て、生物調査の仕事から生物画を描くようになり、2009年に『しでむし』で絵本作家としてデビュー。2013年に『ぎふちょう』、2016年に『つちはんみょう』を発表。特に『つちはんみょう』は、ヒメツチハンミョウの観察を通して、明らかになっていなかった生態を解明するなど、高く評価されました。同作は2017年に小学館児童出版文化賞を受賞しています。

 そんな舘野さんが新しい絵本『がろあむし』を出されたということで、番組にお迎えしました。きょうは、長い時間をかけて観察する虫たち、そして緻密に描きあげる絵に込められた想いなどうかがいます。

☆写真&イラスト提供:舘野鴻

写真&イラスト提供:舘野鴻

ガロアムシは特徴がないのが特徴!?

※まずは舘野さんの新しい絵本『がろあむし』について。

●読ませていただきました。街の様子がガラッと変わっている間に、昆虫たちはたくましく生きているんだなという風に感じました。そもそもガロアムシっていう虫を、私は初めてこの絵本で知ったんですけれども、改めてどんな虫なのか教えていただけますか? 

「コオロギとか、ゴキブリとか、そういうのに近い仲間ですよね。絵本に描いてあるガロアムシは、アメ色と言いますかね、ちょっと茶色っぽくて、成虫になるとそういう色になるんですが、幼虫の時は真っ白けでシロアリみたいな感じですよね。だから何の特徴もない。

 昆虫と言いますと頭部と胸部と腹部があって、足が6本あって、そういう定義があるでしょ? 小学校の時に習う、まさに(ガロアムシは)あの図以外何物でもないっていう、何かツノが付いているわけでもないし、羽根もないんですよ。成虫になっても、普通は空を飛んだり移動するために羽根が出てきたりしますけども、この虫の場合は最初からないですね。

 ところがそのガロアムシ、どこに棲んでいるかというと、この絵本では地下間隙と言いまして、ガレ場がありますよね、山の中の沢の源頭部であるとか、そうすると岩盤が出ているところが風化して崩れていきます。何万年とかけて積み重なっていくと、その下はどうなるかっていうと、暗黒多湿の小さい隙間ができてくるんですね。それがどういう環境かというと、洞窟とほぼ同じ環境なんですね。

写真&イラスト提供:舘野鴻

 洞窟にしか棲めないような生き物の世界でもあったり、また、幼虫時代だけその土の中というか、暗いところで過ごすとか、昆虫、動物に関してはそういうのがいたりします。そういう風に適応していったガロアムシなんですけれども、1億5000万年前ぐらいの中生代のジュラ紀あたりにもいて、実は化石があるんですね。

 今はガロアムシ、日本で数種類ぐらいしかいないというか、研究者が分類している最中なんですけども、当時は80種類ぐらいガロアムシの仲間がいたのかな。なぜそんなに多かったかっていうと、繁栄していた時があって、昔は羽根があったんです。その羽根のあるガロアムシの化石がたくさん残っていて、おそらく羽根の形で分類して80種類ぐらいになっていたと思うんです。

 地下のことを考えると、菌類と植物の根っこ以外はほとんど動物質と言いますか、そういったものなので、目に見える範囲では肉食系の世界になっていくので、ガロアムシ自体も肉食なんですね」

●どうして舘野さんはそんなガロアムシを絵本にしようと思われたんですか? 

「まず、今言いましたように、何の特徴もないというのが最大の特徴じゃないですか(笑)。それが面白いというのと、あとやっぱり飛べないということを選んでいったということですね。
 飛べない虫ってたくさんいるんですけど、元々は羽根があった、それがどんどんなくなっていくという、その過程にある虫が、見ていると結構いるんですよ。そういうものを、例えば1億年前はこうだったのに、こういう風になってきたという、そこを想像することがすごく面白いですね」

舘野鴻さん

観察が導いてくれたストーリー

※絵本『がろあむし』を出版するまでに10年かかったということですが、どんな方法でガロアムシを観察していたんですか?

「ガロアムシはガレ場の中に棲んでいます。これは黙って待っていても絶対出てきませんので、常に掘るわけですね。常にガレ場に行って、鍬でガーって掘っているわけです。
 時によっては1メートルくらい掘って、そこをずーっと崩しながら沢の上の方まで行ってということですから。空間的に全体を見て、それの関係性だとか、生物と生物の環境とか、だって見えないでしょ? いつも見えているのは断片しか見えていないので、その断片を繋ぎ合わせる。

 例えば、食物網とかあるじゃないですか。何が何を食ってとか、そういうことは非常に分かりにくいので、一個一個、肉眼で見えるやつだと生きたまま獲ってきて、シャーレの中に入れます。ガレ場の中って温度が安定しているんですね。低い状態で15度から20度ぐらいで安定していたりするんで、外気のところに持ってくると、暖かくて死んじゃう。だからずっと冷蔵庫で飼うんですね。

 それでどうなっているか。なにしろ部屋を寒くして、寒い状態のまま、顕微鏡でずっと動きを見ていたりとか。例えば、きのう入れたシャーレのこれとこれで、これが食われていたとかっていうことを結びつけていくんですね。

 僕は研究者じゃないから、僕がやっているのはただの検証なので、これで合っている? って詳しい人に聞くわけですね。そうすると、意外とそういうことまでは追いついてないのが現状なんですよ。
 土壌動物に関しては分類をしないと。その分類のあとに、こういう種はどういう暮らしているんだっていうことで、その環境との関係を探していって。しかも、この虫がいるってことは、この環境はこうなんだねって評価に繋がるわけでしょ? それのいちばん大事なところが分類なんですね。

 それがまだ追いついていないところで、僕はそのちょっと先の、これとこれの関係がどうなっているんですかね? って。それが分からないと絵にドラマがなくなっちゃうんですよ。ここにこういうのがいたっていう情報はあるんだけど、ここで何かをしていてくれないと、どうにもならないところがあって。そういう難しいところは、今回のガロアムシはありましたよね。

 虫の科学絵本というか、説明をしたいわけじゃないんですよ。その生き様を通して何を伝えられるのかっていうことがいちばん僕の中で大事なことなので。
 (事前に考えた)ストーリーは、現場に行くと、自分の思った通りになんかなっていないですから、絶対そうですね。人間が想像したようになんかできていません。いくら研究成果があって、その通り検証しようと思っても、見る人によって、見る季節によって違う振る舞いをするんですよ。そうなると想定外ってなっちゃうでしょ? だけど自然のことに関してはいつも想定外があるわけですね。

 こういう可能性だってある(って思わないと)、誰かが見て観察したっていうのは全体の中の一点に過ぎないと僕は思うんですよ。そういう姿勢を持っていないと、俺こう見たんだから、こうに違いないみたいな。そんな本が出ていたら僕自身が嫌だからね。自然って分かんないからさ(笑)。 観察していくと逆にストーリーを教えてくれるところがあるんですよ。それを組み込んでいって。ガロアムシも最初は全然違う話でしたけど、ああいう形になったっていうのは、観察が導いてくれたようなところがありますね。だから僕が何か描いたとか、やったとかっていう実感がどの絵本もないですね」

<春の女神「ギフチョウ」>

 今週のゲスト、絵本作家の舘野鴻さんは以前『ぎふちょう』という絵本を発表されていますが、この「ギフチョウ」はアゲハチョウの仲間で“春の女神”と呼ばれ、その羽化は桜前線の移動とともに日本列島を北上、ギフチョウ生息の北限とされている秋田県・鳥海山で終わりを告げるそうです。
 写真愛好家のかたにとっては、春の妖精「カタクリ」の花に留まるギフチョウが絶好の被写体となっています。春の女神と妖精の共演ですね。

 そんなギフチョウは原始的な特徴を備え、氷河時代から生き残っている“生きた化石”とも呼ばれています。さなぎで10ヶ月は寝て過ごすそうで、舘野さん曰く、その生態が絵本を作るきっかけにもなったそうです。ちなみに成虫の寿命はおよそ10日から2週間なんです。

 里山の代表的な蝶々のひとつとされているギフチョウですが、雑木林などが手入れされなくなったことなどからギフチョウが好む生息環境が減ってしまい、環境省のレッドデータブックで絶命危惧種II種に位置付けられています。

純粋で健気な魂

※舘野さんは子供の頃から絵本画家「熊田千佳慕(くまだ・ちかぼ)」さんに絵を習っていたということなんですが、熊田さんからいただいた言葉で特に印象に残っている言葉はありますか?

「そうですね、一期一会でしょうね。みんなよく知っている言葉ですけれど。絵描きですから、最後の“会”は絵描きの“絵”なんですよね。

 何を言っているかというと、いつも言うんですけど、虫を見ていると、やっぱりいつ死ぬか分からないっていう中で生きていますよね。僕らだってそうですから。明日何が起こるか、君は明日死ぬんだったら、どういう絵を描きますかっていうつもりで毎日描きなさいと。この絵を描くっていうのは、一生に一度だったらどうしますか。それとか、最低の道具で最高のものを描けっていうこととかね。

 愛するから美しい、とかって言うんだけど、その愛するって言葉って臭くて嫌じゃないですか。でもね、だんだん分かってくるんですよね。僕もだいぶおっさんになってきたんで。そうすると、美しいと思わなければ、美しい絵は描けないわけですね。

 例えば、ツチハンミョウの話をさっきしましたけれども、見苦しいとかね。シデムシだったら死体を食っていて、汚い臭いってなるじゃないですか。ただそれをじっくりもう執拗に追い続けますよね。ずーっと追い続けていくと別のものに見えてきますね。

 それまで見ていた汚いってものじゃなくて、触るの気持ち悪い、臭いとかっていうことじゃなくて、だんだんそういうものが落ちていくんです。そうすると、最後に残るのは、単純に純粋で健気な魂しか残らないですね。

 なんて健気でね。僕は虫を見ていて思うのは、無垢で勇敢で潔いっていう、天真爛漫でね。僕らみたいな、打算とかね、ずるいこととかね、どうやって楽しようとかって考えてないですよ。一瞬一瞬をなにしろ懸命に生きているでしょ? 何考えているか分からない、何もしないでぼーっとしているとかってこともあるけど、そうやって死んでいくんですよ。

 その死体を見た時に、やっぱり生き様っていうのがそこにあるわけでしょ? 生きてきたから死んでいるっていうことですから、そういうことですかね。その美しさって、一言でいうと何になるのかって言ったら、やっぱり接しているうちに愛情を持っちゃうんでしょうね」

絵の中に込められた想い

がろあむし

※最後に、絵本『がろあむし』を通して、伝えたいことを教えてください。

「これクチで言っちゃったりするとすごく鬱陶しいし、でも言いたいことは山ほどあるんだけど、まずは先入観とか、何もなしに読んでいただいてですね。何回読んでも、絵はものすごく情報がいっぱい入ってるんですよね。例えば地質の情報だとか、地域、人文的な歴史のことであるとかね。

 絵を描くってことは全部意図で描くでしょ? 意図しないと描けないわけですよね。意識していることは、かなり僕も細かくやってるつもりなんですよ。実はこんなところにこんなものが描かれていて、それにはこういう意味があるっていう仕掛けが、どの本にもたくさん入っていてですね。

 さっきも言いましたけれど、今僕たちが生きているってこととか。あと、僕は人間ですからね。人間が虫のことを描いて、人に見てもらおうと思って描いているんだから、虫にガロアムシを描いたからガロアムシを見てよって喜ぶわけないでしょ? 結局は人に向けて描いているということですからね。

 人ってどこから来て、どういう風に暮らして、今これでいいのかなって。いろいろ問題があるって世間で言いますよね。資源の問題であるとか、ゴミの問題であるとか、色々ありますけれども。
 虫は僕らみたいにいろんなことで、命をそんなに怖がってない。死ぬということを怖がってない。怖がる機能を持ってないっていうかね。人間は死ぬということが怖い。そこがこういう風な世の中になってきた大きな理由のひとつ。だけど未来を想像することができるでしょ? 人間って。こんなにでかい脳味噌があるんだから。

 だったら未来をどうすればいいのかということを、今僕らは世界を作っているわけですから、子供たちに何を伝えればいいのか。一応これね、こんな絵本だけど、児童書なんですよ。子供たちがこれを読んでどう感じるのかと。親御さんが買うものですから、親御さんはこの絵本の内容をどう子供に説明しますかっていうことですかね」

写真&イラスト提供:舘野鴻

●まずは想像してもらうっていうことですね。

「そうですね。自分の捉え方で、自分の立場で、こういうことがあるけどって。僕は事実をある程度描いたつもりなんですね。ちょっと誇張はしているとは思うんですけど。でもこういう世界があるよっていうことを伝えたい。
 で“あ、あるんだな!”って分かったら、もう知らんぷりはできないですよね。あるって分かったらどう振る舞いますか? っていうところだと思うんですね。でも、自由です」


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がろあむし


がろあむし

 緻密で繊細! 丁寧に描きあげた「がろあむし」の世界に引き込まれます。出版までに約10年かけた力作をぜひご覧ください。どんなストーリーなのかは絵本を読んでのお楽しみです。お子さんと一緒に絵に描き込まれた情報を読み解くのもいいかもしれません。おうち時間にいかがでしょうか。偕成社から絶賛発売中です。 詳しくは偕成社のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎偕成社HP:https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784034370803

日本の木は今が伐りどき〜世代を超えて培う林業〜

2021/1/24 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、樹木や生き物、そして山仕事を絵や漫画に描く、林野庁の絵師「平田美紗子(ひらた・みさこ)」さんです。

 札幌生まれの平田さんは、子供の頃から昆虫や森が大好きで、北海道大学・農学部に進学、大学院までキノコなどの菌類を研究しつつ、好きな絵も描き続けていたそうです。そして2004年に林野庁に入り、国有林で働く森林官として群馬ほかの森林事務所に勤務。2019年にふるさと札幌の管理局に移動されています。絵や漫画を描くこともお仕事の一環で、森や林業のことを、ひとりでも多くのかたに伝えたいという思いで日々、絵筆をとっていらっしゃいます。

 「平田」さんがお仕事として絵を描くようになったきっかけは、森林官として初めて赴任した群馬で、イヌワシの保護で有名な「赤谷(あかや)の森」を守るプロジェクトに関わったこと。新人の「平田」さんが自分に出来ることはないかと考え、レポートに、得意のイラストを描いて配ったら、好評を得たそうです。

 そんな平田さんに、北海道の森の特徴や林業の現状についてうかがいます。

☆写真&イラスト 協力:林野庁 北海道森林管理局、平田美紗子

平田美紗子さん

絶対外してはいけないポイント!?

※それでは早速、林野庁公認の「絵師」といってもいい平田さんにお話をうかがいましょう。まずは北海道森林管理局から出した『北の森漫画』について。

●去年出されました『北の森漫画』を拝見させていただいたんですが、すごく淡いタッチで、とっても親しみやすく、それでいて林業のことや樹木のこと、そして北海道の森のことがよく分かりました! そうだったんだ! って思うところもたくさんあって、勉強になりました! 

「嬉しいです。淡いタッチって言っていただけて、全部水彩画で描いているので。色合いを、より自然に近いものを出すのに、水彩画で描くのがすごく好きなので、そう言っていただけてすごく嬉しいです」

●かなり時間もかかったんじゃないですか? 

「見開きを描くのにやっぱり30時間とか、取材とかも含めるともっとかかったりもします」

●植物や生き物を描くときに心がけていることって何かありますか? 

「やっぱりですね、林野庁の職員ですし、嘘を描くわけにはいかないという風にいつも思っています。ただイラストなので、全部完全に描き写すのではないんですけれども、専門家の人が見ても、この人はちゃんと見て描いているなとか、分かって描いているなって思ってもらえて、かつ一般の人が見た時に、可愛いな面白そうだなって思ってもらえる、その落としどころをいつも気を遣って描いています」

●そのバランスってちょっと難しそうですね。

「やっぱり慣れるまでは。大学では私、植物と菌類の研究はやっていたので、樹木と菌類はどこにポイントを置いて描けばいいかっていうのは、なんとなく分かるんですけれども、生き物の、動物だったり鳥だったり、あと林業の実際の作業だったりっていうのは、それをやっている人たち、それを研究している人たちが絶対外しちゃいけないってポイントが何箇所かあるんですね(笑)。そういうところを外さないようにしながら、いつも描くときに気をつけています」

●絵を描くときって、例えば写真をもとにしながらとか、そういうこともされるんですか? 

「もちろんしています。いちばん使うのはやっぱり図鑑関係ですね。図鑑はそういうポイントを外さないように作ってあるので。あと専門書だったり、自分が実際現場に行った時に撮ってきた写真だったり。今はインターネットでいろんな人たちが情報をあげているので、それを見比べながら描くようにしています」

●どんな思いを込めて絵を描いているんですか? 

「いちばんの思いは、山のこと森林のことを、一般の方たちに、たくさんの人たちに知ってもらいたい。面白いな、ちょっと興味を持ってもらいたいな、ということを思いながら描いています」

『北の森漫画』

スパイク付き地下足袋!?

※平田さんは、以前は「森林官」として国有林の管理に携わっていたということなんですが、改めて「森林官」とはどんなお仕事をされるのか、教えてください。

「森林官っていうのは、実は林野庁の職員の中で、いちばん現場に近いところにいる職員の役職名なんですね。実際に、腰に鉈(なた)と鋸(のこ)を下げて、足にはスパイク地下足袋(じかたび)だったり、スパイク付きの長靴だったり、安全靴だったりを履いて、現場に行きます。

 普通の人が山歩きするような場所じゃなくて、森全体を見なきゃいけないので、あちこちの森を歩いてパトロールして、それを記録にとるというのが森林官の、まずいちばん大きな仕事です。そういう仕事を5年間、群馬の森と静岡の森と、あと富士山の麓でやらせていただきました」

●女性としてはかなり体力的にきついんじゃないですか? 

「そうなんですけど、結構私の周り、その当時いた女性は元気な人が多くて(笑)、山を男の人たちと一緒に闊歩していた女性の森林官たちが当時は結構いました。私もやっぱり体力で負けたくないので、体力をつけるのに朝こっそり走ったりとかしていました」

写真&イラスト 協力:林野庁 北海道森林管理局、平田美紗子
写真&イラスト 協力:林野庁 北海道森林管理局、平田美紗子

●この『北の森漫画』に出てくる主人公の女性森林官「リン子」が、まさに平田さんという感じなんですか? 

「そうですね。最初はそういうイメージじゃなかったんですけど、描いていくと、どんどんなんとなく私に似てきてしまって、なんか雑な性格とかが似てきてしまって(笑)」

●でも、ナタとノコギリとかすごいですね。そして足元も大事ですよね?

「絶対、普通の人はスパイク付きの地下足袋なんて見たことないと思うんですけど、1回これで慣れちゃうと・・・。山歩きで、崖みたいなところを登ったりしなきゃいけないところもあって、そういう時に実は、スパイク地下足袋って足首が自由な方向に曲がるんです。
 ただちょっと衝撃とかには弱いので、最近は安全靴を履いている人も多くなっているんですけど、私が森林官をやっていた頃は、結構現場の人たちはみんな、そのスパイク地下足袋を履いて歩いていましたね」

●仕事とはいえ、森の中にいる時間にどんなことを感じていましたか? 

「四季折々の森の表情が見られるのって、とっても幸せだなと思いながら歩いていました。今こんなコロナのご時世なんですけれど、山に行くと、全然そういうことには関係なく、普通に春になったら木は芽吹くし、冬になったら葉は落ちて冬芽になるしっていうのを繰り返してくれていると思うと、なんかちょっと安心するというか、きっといつかこの生活も元通りになるんじゃないかなって元気も貰えるし、そんな感じですね」

森はひとつの生命体!?

写真&イラスト 協力:林野庁 北海道森林管理局、平田美紗子

※平田さんは北海道大学の大学院まで、キノコなどの「菌類」を研究されていたということですが、その「菌類」は、森ではどんな働きをしているんですか?

「森は成長したあと葉っぱを落としたり、枝を落としたり、古くなった木が倒れたりするんですけども、それを最終的に無機物、土にまで分解できるのは、実は自然界の中では菌類しかいないんです。動物とかが葉っぱを噛み砕いたりして細かくはするんですけども、最終的に有機物から無機物に戻せるのは菌類しかいないんですね。

 なので、菌類がもしいなかったら、森の中の葉っぱや枝は積もったまま、どんどん積もって土に戻らないということは、次の植物が成長するための栄養分が土に戻っていかないんです。だからその大きな循環の、ひとつのすごく大切なパーツを、菌類は担っているんですね。

 それ以外に、私が大学で研究していたのが菌根菌というタイプの菌類なんですけれども、聞いたことありますか? 

●きんこんきん!? 

「はい、菌の根っこの菌と書くんですけれども、実は陸上植物のほとんどが、この菌類と根っこの部分で共生しているって言われているんですね。
 昔、植物がまだ海にいた時代に、海から陸に上がった時に、乾燥とか、他の菌から身を守るために、菌と共生して、それで初めて陸上に上がれたんじゃないかって言われているぐらい、実は植物と菌はかなり昔から共生関係を結んでいるんです。

 具体的にその菌根菌がどういうことをやっているかっていうと、植物は光合成をして養分を作り出すんですけれども、それを根の部分にいる菌根菌にあげるんですね。その代わり、その根の部分にいる菌根菌は菌糸を出します。

 植物は根を地中に張って、そこから水分とか養分を吸収しているのは皆さんご存知ですよね。植物はすごく大きい根を張っていると思うんですけど、菌糸はもっと伸びるんですね。アメリカの研究だと、実は1キロ四方ずっと同じ菌が菌糸を出していたっていう研究もあるぐらい、広く菌糸を伸ばせるんです。

 その伸ばした菌糸で、実は植物のために水分だったり養分だったりを吸収して、光合成産物を植物からもらう代わりに、養分だったり水分だったりを、今度は植物にあげているんですね。その共生関係がなかったら、実は木は生きていけないと言われています。

 昔オーストラリアにヨーロッパの松を移植した時に、全部枯れてしまう。でも土ごと持ってくると枯れないで生きている。なんでだろうと思ったら、やっぱり根についている菌が一緒に入らないと、植物自体そこの土地で育てられなかったっていう話があるぐらいなんですね。

 しかも、もうひとつ菌根菌のすごいのは、今ひとつの木と菌が共生しているとお話ししたんですけれども、菌糸で別の木にも結びついて、例えば、右にある大きな木から左にある小さな木に、菌糸を通じてお互いの光合成産物をやり取りさせてあげたりしている。ということは、木が自分の次の世代に対して、養分をやり取りしているっていうこともあり得るんです。

 なので、森全体がひとつの生命体に、土の中の菌糸を通して、ひとつの生命体として成り立っているっていうこともお話できるんです。それがものすごく魅力的だと思って、しかも彼らは健気なんですね。

 日本人ってキノコとか菌っていうとすぐ食べられるの?とか、毒キノコなんでしょ?とか、いっちゃうんですけれど、そうじゃなくて、実はそのキノコは、菌にとっては花に当たる部分で、そこで胞子を作って飛ばしています。本体は土の中にいる菌糸で、菌類は目立たないけれど、それだけ重要なことをやってくれているんです。
 是非皆さんも森の中に行ったら、葉っぱの裏をぺろってめくってみると、結構菌糸が見えたりするので、ちょっと見てみてください!」

原生林は「もののけ姫」の世界!?

※平田さん、北海道は面積の3分の2が森林なんですね?

「そうなんです。日本はもともとすごく森林の多い森林大国って言われていて、国土の約7割は森林と言われているので、北海道も7割、71%ぐらいが森林です」

●北海道の森の特徴っていうと、どんなことが挙げられますか? 

「実はですね、日本は森林大国って言われてはいるんですけれど、原生林といって、誰も手を付けていない、誰の手も入っていない森は、実はほとんど残ってないんです、本州の方は特に。
 というのは、人間が生活していく上で・・・昔は木造建築だったりが主だったり、今でも木造建築はありますけれども、火事が起きたりして、都(みやこ)が焼ける度にどんどん木を伐って、その都を再構築していった。その過程で、西日本を中心に一度は人間の手が入った森がほとんどなんですね。

 北海道の森って実は人間がまだ一度も手を付けていない森が、大雪(たいせつ)だったり知床だったりに残っているんです。本州の方だとおそらく白神山地だったり、あと屋久島ぐらいにしかほとんど残ってないと思うんですけれども、北海道は結構大きい面積で大雪とかが残っているので、それが北海道の森林の大きな特徴なんですね。

写真&イラスト 協力:林野庁 北海道森林管理局、平田美紗子

 私も何度か大雪の森に学生時代、調査とかで入ったことがあるんですけれども、原生林に入ると、もののけ姫の世界みたいな形で、何か神様がいるんじゃないかなって。
 生き生きしているんじゃないんですよ。実は死屍累々していて、古い木がたくさん倒れていて、その上に新しく、倒木更新って言うんですけど、次の世代の木が育っていて、逆に上の木が倒れないと次の世代が育たないっていうような世界なんですね。そういう命がぐるぐる回っている様子を感じられるような原生林が、まだあるっていうのが北海道の森の特徴なんですね」

●そうなんですね〜。北海道を代表する樹木というと? 

「エゾマツ、アカエゾマツ、トドマツ。カラマツは人工林で結構あるんですけど、実はカラマツはあとから入ってきました。元々カラマツは北海道にはなかったんですよ。 昔、炭鉱が北海道にあった時に、炭鉱の坑道を作る枠にする木として、カラマツの成長がすごく早いというので導入されたのが、北海道にカラマツが入ってきた最初の理由なんですね。

写真&イラスト 協力:林野庁 北海道森林管理局、平田美紗子

 あと広葉樹だとやっぱりシラカバですね。シラカバ林は本州だとなかなか見に行けなくて、皆さん高原とかにわざわざ見に行くんだと知って、私、北海道を出るまでそんなにシラカバ林が本州の人に人気があるって知らなかったんです。
 あれはほんとすごくたくさん種を作って飛ばすんですね。パイオニア種って言われていて、開けた場所にどんどん新しく入っていく木で、一斉にばーっと成長して、木でいうと寿命が短くて、100年とか120年、下手すると60〜70年で次の別の木に取って代わられていくっていう種類の木なんです」

国産材を使ってほしい!

※森林大国・日本の林業が芳しくないのは、どうしてなんでしょうか?

「実はですね、戦後の復興の時に、戦後復興で木をたくさん使わなきゃいけないという風になった時に、その時にも日本の木をかなり伐って、復興のためにいろんなところで使われたんですね。やっぱり足りなくなってきてしまって、そこで外国産材も使おうという流れになりました。そうすると安い外材におされてしまって、その流れで最初は(国産材の)自給率が高かったのが、一時期18%近くまで落ち込んでしまったんです。

 最近はちょうどその戦後に1回伐ったあとに、みんなで頑張ってもう一度、はげ山になってしまった山を復活させようということで、全国各地で造林作業が行なわれまして、その木が今60年〜70年経って、今まさにちょうど成長して使いどきになってきています」

●農産物だと、1年に1回収穫できるという感じですけど、林業ってなると本当に息の長い仕事ですよね。

「そうなんです。やっぱり植えてから最終的に私たちの生活で使えるものになるには、伐採して収穫するまで、今言った通り60年とかかかるので、世代を超えて、3代ぐらい世代を超えて培っていかなきゃいけない産業なんですね。
 ただ、今結構長いって言いましたけど、実は地球の歴史から言えば、50年60年ってそんなに大した時間じゃないんですよ。私たちプラスチックとか鉄とか使っていますけれど、それをゼロから作り上げる時間に比べたら、木を育てる時間っていうのは、地球規模で見たらそんなに大した時間じゃないんです。

 それをやるためには、さっき言った通り、世代を超えてこの森をちゃんと受け継いできちんと使っていく。使ったら、また次の世代に向けて植えて育てていくっていうことをやっていかなければいけないので、その点が他の産業と違っているんです。きちんと林業のことをいろんな人に知ってもらう、もっと知ってもらわなきゃいけないっていう産業だと思っています」

●そういう意味でいうと、漫画だと入り込みやすいですよね〜。

「そう言っていただけるととっても嬉しいです。まさにそこを狙い目にしていて、やっぱり林業って、普段都会で生活をしていると、関係性がすごく少ない産業だと思うんですね。
 どんな風にやっているのか、例えば木を1本育てるのにどれだけの作業があって、どれだけ手がかかるのかとか、それが自分の生活にどういう経緯でやってくるのかって、なかなか分かってもらえないと思うんですよ。それを漫画だとやっぱりひとつの絵としてパッとイメージで捉えてもらえるので、それが漫画の強みだと思っています」

●日本の林業を活性化させるために、個人レベルで出来ることっていうのは何かありますか?

「是非ですね、国産材を使って欲しいなと思います。買う時に、この木がどこから来ているんだろうって、ちょっと興味を持ってくれるだけでもいいと思うんですね。外国産材が全部悪いとは絶対言わないんですけれども、やっぱり外国から来る木は海を渡って来ているので、それだけ移動のための燃料とかも使います。

 あとさっきも言った通り、今せっかく日本の木が、戦後、頑張ってみんなが植えて育てたものが、ちょうど収穫時期に来ているんです。その木を今使ってあげて、さらにその木が売れたお金で次の世代を育てていかなくてはいけない時代に来ているので、是非もし木を使って何かしたいなっていう時は、地元の材だったり、国産材だったりを使ってくれるようになると、私は嬉しいなと思います」

●今後も林野庁の絵師として活躍されていくと思うんですけれども、絵を見る方、漫画を見る方に、改めてどんなことを伝えていきたいですか?

「まず、絵を見て面白いなって思ってもらえるとすごく嬉しいです。面白いなと思ってもらえたら、次に森林とか林業に対して興味を持ってもらえると、とても嬉しいです。さらに次のステップで、じゃあ自分たちがこの森林、林業を応援するために出来ることなんだろうと思ってもらえるともっと嬉しいです!」


INFORMATION


『北の森漫画』


『北の森漫画』

 北海道の森や林業について興味を持ったかたは、平田さんが描いた『北の森漫画』をぜひご覧ください。平田さんが描いた淡いタッチの水彩画が素敵で、漫画とはいえ、樹木や生き物の特徴がしっかり描えがかれています。説明文も分かりやすくて面白く、森や林業のことを知るには打ってつけ。おうち時間に、お子さんと一緒に見るのもいいかもしれません。

 『北の森漫画』は林野庁・北海道森林管理局のオフィシャルサイトから全ページ、ダウンロードしてご覧いただけます。

◎『北の森漫画』HP: https://www.rinya.maff.go.jp/hokkaido/square/kinoehon/

シンタローのぼうけん

 また、平田さんが絵とナレーションを担当した『森の紙芝居〜シンタローのぼうけん』が現在、農林水産省のYouTubeで公開されています。こちらもぜひご覧ください。

◎『森の紙芝居〜シンタローのぼうけん』:
https://www.youtube.com/watch?v=HjdoEaKwBfs

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    9月22日 ゲスト:ドイツ在住のシンガー・ソングライター「NILO」さん  ミュンヘンにいるNILO(ニロ)さんにリモートでご出演いただき、環境先進国ドイツでの暮らしや、人気のアウトドア……

    2024/9/15
  • イベント&ゲスト最新情報

    <長沢 裕さん・日本シェアリングネイチャー協会情報> 2024年9月15日放送 <福島キッズネイチャー倶楽部>  長沢さんがプロジェクト・リーダーの、福島の未来を作るプロジェクト「……

    2024/9/15