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シリーズ「SDGs〜私たちの未来」第17弾!〜食品廃棄物から作る新素材の可能性〜

2023/12/10 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第17弾!今回は「SDGs=持続可能な開発目標」の中から、おもに「つくる責任 つかう責任」そして「産業と技術革新の基盤をつくろう」について考える事案をご紹介します。

 お話をうかがうのは、100%食品廃棄物から作る新素材を開発し、注目を集めているベンチャー企業「fabula(ファーブラ)」株式会社の代表取締役CEO「町田紘太(まちだ・こうた)」さんです。

 町田さんは、お父さんの仕事の関係で小学生の3年間をオランダで過ごし、学校の授業で地球温暖化を研究・発表することがあって、それがきっかけで、環境問題に興味を持つようになったそうです。趣味は海外旅行で、これまでに60カ国以上を訪れているほどの旅好き。

 そして東京大学に進学し、卒業研究で食品廃棄物から新素材を作る技術を開発。2021年に幼馴染みの3人で「あらゆるゴミの価値化」を目指し、「fabula」株式会社を設立されています。

 町田さんが開発した技術を使えば、捨てられてしまう食材がお皿などの小物から建築用の資材などに生まれ変わるんです。今回は、東京大学生産技術研究所・駒場リサーチキャンパスに町田さんを訪ね、お話をうかがってきました。今回は、食品廃棄物を原料に作る新素材の可能性に迫ります。

☆写真協力:fabula Inc.

写真協力:fabula Inc.

fabulaはラテン語で「物語」

※「fabula」のオフィシャルサイトのトップに「ゴミから感動をつくる」というフレーズが載っています。改めて「fabula」ではどんな事業を行なっているのか、ご説明いただきました。

「ひとことでいうと、食品廃棄物から新しい素材だったり、製品を作っているような会社です。もともとは東大の研究室から生まれたというか、私が研究室にいた時に開発したその素材を、実装化するために作った会社で、技術のおおもとは大学で作られています」

●創業は2021年ということですけれども、社名になっている「fabula」には、どんな思いが込められているんですか?

「この言葉自体はラテン語なんですけど、日本語に訳すと、物語とかそんな感じの意味があります。食品廃棄物から、ゴミから、新しい製品とかプロダクトに変えるにあたって、普通の産業で行なわれているようなストーリー性があったりとか、背景に思いのある物作りをしたいなと思って、こういう社名にしています」

●改めて、この会社を起業されたのは、どうしてなんですか?

「シンプルにいうと、面白そうだったからというのがありますけど(笑)」

●面白そうだという理由で起業するって、すごいことですね。

「そうですね。普通にやってみようと思ったのと、ある意味、失敗してもいいんじゃないかなっていうような、わりかし楽観的な気持ちもあった気がしますね」

●そもそもすごくさかのぼって、この分野を研究しようと思ったきっかけは、何だったんですか?

「もともと(私が)いた研究室自体がコンクリートに関する研究室で、コンクリートってものすごく環境負荷が高い素材なんですけど、環境負荷の高いコンクリートをリサイクルしたりとか、コンクリートに代わる素材を作る、そういう研究室にいたんです。

 で、そこに入った時に私の指導教官の酒井先生が、それにまつわる研究をずっとやっていて、その中で先生としては、食べられるコンクリートがあったら面白いんじゃないかって、ちょっとファンシーな思いがあったりとか・・・。
 僕自身もともと環境問題を含め、社会課題に対してすぐ取り組める研究があったほうがいいなって思っていたのもあって、その辺が合わさって、食品から何か作ろうかなみたいな話になっています」

写真協力:fabula Inc.

●この「fabula」は幼馴染みの3人で作られた会社ということですけれども、ほかのメンバーおふたりも同じ思いでいらっしゃるということですよね。

「だと信じていますけど(笑)」

●お誘いしたのは、やはり町田さんですか?

「そうですね、2年くらい前に・・・」

●おふたりも、やろうやろうっていう感じでしたか?

「そうですね。やっぱり素材自体に魅力を感じてくれて、ふたりが働いていたバックグラウンドだったりとか、興味があることとか、そういう中でもともと持っていた思いとかも合わさって、今一緒にやっているようなところです」

●町田さんが声をかけて、おふたりの思いはどんな感じだったんですか?

「松田と大石というふたりなんですけど、松田はもともとコーヒーを輸入する商社に勤めていたんですね。そういう中で、コーヒーってまさしく抽出かすだったりとか、いろんな廃棄物が出て、それは消費する日本でもそうですし、生産するブラジルとか中南米とか、そういうところでも実際にいろんな廃棄物が出ています。

 そういうものに対しての課題感をずっと持っていて、そういう課題の解決にもつながるし、この素材の特徴も見て、これは何でもできるって、彼は言っていて、そこがたぶん思いとしてあったのかなと思うのと・・・。

 大石はもともと感性工学と言って、音とか光とか、感性的な情報が人の行動にどういう影響を与えるかっていうような研究をしていました。そういう中でこういうちょっと香りがする素材で、人々の行動がどう変わるのかなとか、お皿に見えるけど、香りがしたりとかすることで違う影響とか、カレーの匂いを嗅いだらカレーを食べちゃう、みたいなことに近いかもしれないですけど、そういうようなことを素材を通じてやりたいというふうに言っています」

町田紘太さん

技術はシンプル、「たこ煎餅」と同じ!?

※ここからは「fabula」が作っている新素材について、具体的にお話をうかがっていきます。まずは、食品廃棄物を新素材にする技術について、なんですが、明かせる範囲内で構わないので、どんな技術なのか教えてください。

「技術自体はとってもシンプルです。例えば、白菜とか野菜のクズみたいなやつを乾燥させて粉末にして、それを熱圧縮成型というような方法で素材化します。乾燥と粉砕までは本当に野菜の粉を作るみたいな感覚に近いので、そこから熱圧縮成型っていう・・・漢字5文字が並ぶと怖いですけど(笑)、簡単にいうと熱と圧力でギュッと潰しているような技術ですね。江ノ島のたこ煎餅とか、ああいうものを工業的にやっているような感覚です」

●その技術ってどうやって開発されたんですか?

「熱圧縮成型っていう技術自体は、かなりトラディショナルなというか古典的な技術です。プラスチックでもずっと使われてきていたりとか、身近なものだとベニヤ板みたいな、ああいう木材の合板でも使われてきた技術で、それを食品のくずというか、こういうものに転用してみたっていうところが新しいポイントなのかなと思います」

●開発までの道のりって、どんな感じだったんですか? 

「基本的には一個一個条件を潰していくというか、温度とか時間とか圧力とか、粉の状態とか、綺麗に作るための条件なんですけど、それをいろいろ、何度だったらいいかなとか、これぐらい圧力をかけたらいいかなっていうのを、トライ&エラーで繰り返していった感じです」

●新素材になるまで、どれぐらいの日数がかかるんですか?

「基本的にプレスをする時間は、数分とかそのレベルです。あとは乾燥で結構時間がかかるものなので、 1日かかるのか、機械によっても違いますけど、本当に早ければ、すぐできるくらいです」

脱脂粉乳!? コーヒーかす!?

※開発した技術で作った新素材をもとに、これまでにどんな製品を作ったんですか?

「当初はコースターとか、ちょっとした小物入れとか、雑貨類を作っていたりとか・・・。最近だとお香立てとかも、アーティストさんとコラボして作ったりとかしているんですけど、もともとコンクリートから出発しているのもあって、建材もちょこちょこやっています。

 例えば、建築の展示会用に茶室を作る機会があったんですけど、その設計会社さんに、茶室なので、お茶でできた建材みたいなものを少し提供したりとか、今度の(大阪)万博でも使用していただく予定があったりとか、そういうような感じですね」

茶室
茶室

●今回、コースターと小皿、あと小物入れ、深いお皿も用意していただきました。これが本当に食品廃棄物だったんですね。

「そうですね、もともとは」

●ちょっと触ってみてもいいですか。ツルツルで、見た目もおしゃれですし、これが廃棄物だったとは全く思えないんですけど、え〜〜すごいですね! これはもともとなんだったんですか?

「このちょっと深いお皿は、脱脂粉乳ですね」

●それがこんな立派な小物入れ、深いお皿になるんですね。この緑色のようなカーキのようなコースターは?

「緑茶です」

●緑茶なんですね! 香りとかはしないですよね?

「そうですね。コーティングがしてあるので、たぶん香りが抑えられていると思います」

●なるほど、なるほど・・・。

「もう一個のほうは、香りで判断できる気がしますけど・・・」

●これは、茶色の・・・なんでしょう?

「それはコーヒーですね」

●あっ、コーヒー、確かに! コーヒーがこの平皿になるんですね〜、コーヒーのかすで・・・。

「コーヒーの抽出かすですね」

●確かに濃い茶色と黒色でシックなお皿になっていますけれども、コーヒーのかすからできているんですね〜。この新素材を作るにあたって、いちばん苦心されたのってどんなことですか?

「本当にいろんな条件をいじっていくっていう、数打っていくっていうところですかね、やっぱり」

写真協力:fabula Inc.

コンクリートより優れた強度

※「fabula」で開発した新素材の主な特徴を改めてご説明いただけますか。

「今まさしく嗅いでいただいたように香りがあったりとか、色味とかもともとの原料のイメージが残っていたりとか・・・。いわゆる廃棄物から作ったっていうと、イメージだとちょっとグレーで茶色くてとか、もしかしたらそういう感覚で、ちょっと臭い匂いがするかもしれないとか、そういうイメージとは結構逆側の、原料の特徴を活かしながら物作りをしているのがひとつと・・・。

 あとは強度がそこそこあるよっていうのがあります。コンクリートと比べても強いものだと4倍ぐらいの、“曲げ強度”って言って曲げる力に対する強度があったりします」

●かなり強いですね!

「そうですね。プラスチックほどではないですけど、まあまあ強いかもしれないです」

●一度作った新素材をまた作り直すっていうこともできるんですか?

「はい、それは可能です。こういうお皿とかを回収して、もう一回、粉々にして作り直すことはできます 」

●先ほどご紹介いただいたコースターやお皿は、原材料が緑茶とかコーヒーとかですけれども、食品廃棄物がなんでも原材料になるわけではないですよね?

「基本的になんでも使えます」

●なんでも大丈夫なんですか?

「例えば、コンビニの廃棄物、いわゆる生ゴミみたいな、ああいうものでも大丈夫です」

● これまでどんなものを原材料にされてきたんですか?

「だいたい80種類か90種類ぐらいやってきていて、食品なので無限にありますけど、カニの殻とかそういうのもやったりとか・・・。脱脂粉乳みたいなちょっと動物性のものとかもやっていますし、なんかいろいろ(使っています)」

●いくつか組み合わせても大丈夫なんですか?

「合わせても大丈夫です。バジルとトマトとパスタを混ぜて、ジェノベーゼとか言ってふざけて作っていたりしました(笑)」

●すごいですね~。そういった食品廃棄物はどこから手に入れているんですか?

「食品加工の工場だったりとか、あとは飲食店、例えばコーヒーチェーンみたいなそういうところだったりとかから買い取っていますね」

写真協力:fabula Inc.

価値あるものへ変えていく文化

※「fabula」で開発した新素材は、将来的には食べることも考えているそうですね。どういうことなのか、教えてください。

「食べられなくはないよっていうのが、僕らの伝えていることというか・・・。思い返すと食品だけで、もともとは食べられるものだけで作っているので、食べてもいいかもしれないっていうところはあるんです。
 例えば、規格外野菜みたいな、形が悪いだけで美味しいですよっていう、そういうものから作ると、本当に食品から作っていることに近いので、食べたりもできるだろうし・・・。

 もっとリアルなところで言うと、本当に最悪の場合、交通が分断して物が届かなくなったりとか、もしくは離島とか砂漠の真ん中なのか宇宙空間なのか、なかなか物流が難しいようなところとかで、最後に生きるために食べても悪くはないかなっていうところですね」

●今後、建築用の資材を作る予定はあるんですか?

「そうですね。基本的に将来的には建材を目指しているので、万博での使用だったり、そういうのを通じて、性能とか強度もそうですし、実際に使っていく事例を増やしていくのが今後かなと思います」

●町田さんが開発した技術を、今後世界でどんどん展開していく予定もあるんですか?

「海外に出ていくってことも考えてはいますね」

●具体的にどこにとか、技術の公開も考えていらっしゃいますか?

「そうですね。まだまだ海外での事例自体はないんですけど、問い合わせベースだと、非常に多いのはヨーロッパからの問い合わせと、また東南アジアからも結構問い合わせが来るので、きっとここら辺の感度が高いだろうというところに対して、アプローチしていこうかなと思います。

 例えばですけど、特許の出願をしているので、特許出願をすると必然的に(技術は)公開されるものになるんですね。そういうものはもちろんありますし、技術自体を自分だけのものにするっていうよりは文化として、食品に限らずゴミって呼ばれているものを、新しい価値あるものに変えていく文化を作っていくことが、とても大事かなとは思っています。そういう意味ではいろんな人と協業していくことはとっても大事かなと思います」


INFORMATION

写真協力:fabula Inc.

 「fabula」で制作している小皿やコースター、タイルなどの商品は、受注生産になりますが、ECサイトから購入できます。100%天然素材なので、風合いが微妙に違う、どれも一点ものです。どんな商品なのか、価格はいくらなのか、ぜひ「fabula」のECサイトをチェックしてください。

◎「fabula」ECサイト:https://store.fabulajp.shop

◎「fabula」:https://fabulajp.com

 ちなみに、現在、国立科学博物館で開催されている特別展「和食〜日本の自然、人々の知恵」のショップでも販売しているそうです。

シリーズ「SDGs〜私たちの未来」第16弾!〜ケニアのために、ビーチサンダルをアップサイクル 〜

2023/12/3 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第16弾! 今回は「SDGs=持続可能な開発目標」の中から「貧困をなくそう」「質の高い教育をみんなに」「働きがいも経済成長も」、そして「つくる責任 つかう責任」に関係する事案をご紹介します。

 お話をうかがうのは、慶應大学 環境情報学部の3年生で、合同会社「Uzuri(ウズリ)」を立ち上げた「山岸 成(やまぎし・なる)さんです。

 山岸さんはお父さんの仕事の関係で、小学生の3年間をケニアの首都ナイロビで過ごしています。実はこの経験が山岸さんのその後を大きく左右するんです。

 ナイロビは、山岸さんいわく、ビルが立ち並ぶ都会ではあるものの、一歩踏み出すと、すぐ隣りに国立公園やサバンナが広がっていて、先日訪れた時も改めて、とてもいい国だと感じたそうです。

 そして現在は大学でビジネスに関することを学びながら、会社経営にチャレンジ、さらに陸上競技の選手としても活躍されています。

 きょうは、子供の頃に暮らしていたケニアのために、アフリカの海岸や路上に捨てられたビーチサンダルを、スマートフォンケースにアップサイクルするプロジェクトを進めている山岸さんに、起業した思いや、「Uzuri」という会社で進めている事業についてお話をうかがいます。

☆写真協力:Uzuri

写真協力:Uzuri

スワヒリ語で「Uzuri」とは・・・

※まずは、山岸さんが立ち上げた「Uzuri」という会社では、どんな事業を行なっているのか、教えてください。

「私たちは、途上国のブランドや企業さん、その中でも特に社会貢献性の強い事業を行なっているところと、パートナーシップを締結させていただいて、そのパートナーと共同で日本市場に適用した商品を開発して、それを日本で売ります。

 その時にそのブランドとか企業の既存の商品も一緒に販売して、我々が作ったコラボ商品を主軸にしながら、いろんな商品を販売し、彼らが掲げているミッションであったりとか、ブランドストーリーを一緒に広げていくような形の事業です。彼らの雇用状況の改善だったりとか、雇用機会の拡大にもつなげていけたらなという事業内容になっております」

山岸 成さん

●「Uzuri」を立ち上げたのは、いつ頃なんですか?

「立ち上げたのは本当に最近ですね、8月末とかに・・・」

●今年の、ですか?

「今年の8月です」

●そうなんですね~。おひとりで立ち上げたんですか?

「大学の友人と一緒に立ち上げました」

●じゃあ、今おふたりで「Uzuri」をやっていらっしゃるんですね?

「そうです」

●「Uzuri」という社名ですけど、独特の響きがありますよね? これはどんな意味があるんです?

「これはスワヒリ語です。ケニアの公用語は英語なんですけれど、スワヒリ語も広く使われていて、 “ビューティー”っていう意味です。日本語訳すると“美しい”であったりとか、“華やか”とか“いいこと“みたいな意味合いを持つんです。

 先ほど説明した事業内容のところで、パートナーの掲げている“いいこと”、もちろん美しい商品もそうですし、彼らの行なっている活動も美しい、そんなものを広げる会社でありたいなっていうところで、この『Uzuri』っていう名前にしました」

●素敵な名前ですね! 起業されようと思ったのは、何かきっかけがあったんですか?

「きっかけは、大学で経営とかビジネスに関することをたくさん学んでいく中で、なんか自分ができること、ビジネスの視点で何かできることがあるんじゃないかなって思った時に、やっぱりアフリカで、僕が何かする形で、彼らに貢献できるのであればいいなという思いから始まりました。

 あと最近の社会貢献性みたいなことの強まりで・・・でも、ただいいことだけしていてもいけないよなっていうところで、社会貢献性と利益の追求の両立みたいなことにチャレンジしてみたいなっていう思いが、大学で学んでいく中で出てきて、やってみよう!と思って立ち上げました」

スマホケースにアップサイクル!

※山岸さんが、現在タッグを組んでいるのは、ケニアで海岸をきれいにする活動を行なっているNPO「Ocean Sole(オーシャン・ソール)」。廃棄されたビーチサンダルをアップサイクルして、ゾウやシマウマなどの動物のオブジェを作っている団体です。

 山岸さんはこの団体を、ナイロビで暮らしていた頃から知っていたので、最初に手掛ける事業は「Ocean Sole」と一緒にやっていきたいという強い思いがあったそうです。そして、パートナーシップを結んで開発したのがスマートフォンのケースです。

山岸 成さん

●きょうはそのサンプルをスタジオにお持ちいただきました! とってもカラフルですね~。

「そうなんですよ(笑)。これ、染色とかも一切していなくて、サンダルそのものの色でできています」

●なんかケニアっぽいって言ったら、あれですけど、ほんとにカラフルで・・・蛍光ピンクとかオレンジとかイエローグリーンも・・・様々な色が溢れていて、いいですね~!

「今ケニアっぽいっておっしゃったかと思うんですけど、アフリカっぽさもありつつ・・・ただなんだろう・・・手に取りづらさみたいなのは、ないデザインかなと思っていて・・・」

●ないです! 可愛い~、老若男女みんなが持てるような感覚ですよね!

「現地のアーティストが全部デザインして制作しているので、そこでもきちんと雇用機会になっています」

●なるほど! これ、しかも裏はコルクになっているんですね!

「はい、裏はコルクで、Ocean Soleのミッション自体が海洋汚染の解決を掲げていますので、プラスチックを使わずに制作したいなという思いで、100%リサイクルのコルクを使用して作っております」

●へえ~、このスマホケースはオリジナル商品っていうことですよね?

「オリジナル商品というよりかは、UzuriとOcean Soleのコラボ商品で、これからはいろんなところとコラボする形でやっていけたらなと思って、その1個目の商品がこのスマホケースになります」

写真協力:Uzuri

●ボーダーだったり、ドットだったり、四角だったりって、いろんな柄がありますけど、これって唯一無二っていうことなんですか?

「はい! そうなんです。その時にあったサンダルの形とか、削れ具合とかを考慮して、最適なデザインを現地のデザイナーさんがチョイスして制作しているので、同じものは一生作れない、あなただけの1点ものってことになります」

●すごい! そうなんですね~、世界でひとつだけの!

「そう、そうなんです」

●お洒落です! そもそもなぜスマホケースにしようと思われたんですか?

「それがですね・・・いろいろ僕も考えた結果、このスマホケースになっていまして、普段(Ocean Soleは)動物のオブジェを作っているところなんですけど・・・」

●動物のオブジェも持ってきていただきました。可愛いですね! こちらもカラフルです!

「可愛い動物たちなんですけど、これを日本に広めようと思った時に、なかなか難しいハードルもあるんじゃないかなと思っています。まずは、輸送でかさばってしまうものなんですね。
 今回は手のひらぐらいのサイズのオブジェをお持ちしたんですけど、ほかにも(人の)身長ぐらいのサイズのもあったりとかします。そういった商品は持ってくるとやっぱり大変ですし、環境負荷もかかってしまうっていうところで、もっとコンパクトで、みんなに使ってもらえるようなものがないかなってすごく考えていました。

写真協力:Uzuri

 その時に思いついたのがiPhone用ケースです。日本はiPhoneのシェア率がめちゃめちゃ高いっていうのもあって、iPhoneなら、いろんな人が手に取ってくれて、いろんな人が手に取ってくれれば、日常生活でいろんな人がこのカラフルなのを見て、“それ、綺麗だね”とか言ってくれるんじゃないかなと思って・・・そんな形で広がってくれればいいなという思いを込めてiPhoneケースにしました」

●これは絶対、友達が使っていたら「何それ、可愛い!」って言うと思いますよ!

「僕も今サンプルを使っているんですけど、本当に知らない人から、“そのスマホケース、可愛いね”ってカフェで言われたりとかもあって、そんな形で広がってくれたら嬉しいなって思っています」

山岸 成さん

(編集部注:iPhone用のケース、カラフルでとっても可愛いんです。裏の素材はコルクなので軽いし、衝撃吸収性に優れているのも特徴です。また、職人さんがひとつひとつ手作りしているので同じものがほかにない、つまり一点ものなのも魅力ですね。
 販売に関しては、年内から始まる予定。またイベントなどでの販売も検討しているそうです。販売価格も含め、詳しくは以下のサイトを見てください)

◎Uzuri 公式オンラインショップ: https://uzuri-japan.square.site

子供たちを学校に行かせたい

※今年、ケニアに行ってきたそうですね。どんなことをされてきたんですか?

「9月に行ったのはOcean Soleと、これからどういう形で進めていくかっていうのを詳細に話すのと、今回お持ちしたサンプルを作成するために行ってきました。

 工場とオフィスのあとは、サンダルの回収現場にも行って参加してきて、働く人々とコミュニケーションをしっかりとるところまでやってきました」

写真協力:Uzuri

●具体的にどんな話し合いが行なわれたんですか?

「オフィスのほうでは“こんなデザインがいいよ!”とか、“もうちょっとこうしたほうがいいんじゃない!?“みたいなディスカッションをさせていただきましたね。

 工場ではどんな感じで作っているのかを、細かくヒアリングさせていただいたんです。いちばん印象的だったのが・・・(サンダルの)回収現場にも行って、ちょっと都心部から離れて、海岸沿いに行ってきたんです。

 いわゆるサプライチェーンの上流、いちばん上で働く人たちともコミュニケーションをとりたいっていう思いと、その現状も見たいっていう思いもあって、行ってきたんですけど、 そこでの出来事がすごく僕の中で印象的でしたね。

 働く人たちがすごく幸せそうに働くんですよ。ゴミを拾う作業なんですけど、すごく幸せそうに、みんな楽しそうに拾うんです。

写真協力:Uzuri

 その人たちが最後に僕たちにメッセージをくれて、『私たちの子供は学校に行けていない。だから私たちのこの活動を、君たちが日本にぜひ広げてください。そして私たちの現状を一緒に伝えてほしい。それが世界に広がって、私たちの子供たちが学校に行けるようになる。子供たちには未来があるから、私たちは(子供たちを)学校に行かせてあげたいから、ぜひ伝えてほしい』というメッセージをいただいたんです。

 それが僕の中ですごく印象的でした。それこそUzuriが大切にしている、パートナーのミッションとか背景をきちんと、多くの人に伝えることが必要なんだなっていうのをすごく実感した場面でした。

 最初(作業現場に)行った時は幸せそうに、すごく楽しそうにやっていたんで、意外と経済的なところもあまり彼らの中では、ネックになってないのかなとも一瞬思っちゃったんですけど、やっぱりそんなことはないんだなということで、我々のできることをやっていきたいなって強く思いました」

●「Ocean Sole」は現地生産ということで、雇用にもつながっていますよね?

「はい、ケニアは雇用機会が少ないのが結構深刻な問題になっていて、職業訓練校もいろんなNPOや NGOがやっているんですけど、そこを卒業しても雇用機会がなくて、職に就けない現状があるので、雇用機会を作るのは非常に重要なことなのかなと思っています」

(編集部注:ケニアで、捨てられたビーチサンダルが目立つは、まだまだ経済的には豊かではないので、価格的に安いサンダルの需要が高く、また壊れやすいこともあるそうです。山岸さんが今年9月に「Ocean Sole」の活動を視察したときも、回収したサンダルが山積みになっていて、その量に驚いたそうですよ)

写真協力:Uzuri

次の一手! 新しいパートナー!?

※会社として「Uzuri」が大切にしていることはなんですか?

「まずは、社会貢献性っていうバックグラウンドに頼りすぎないっていうのを大切にしたいなと思っています。もちろん近年、社会貢献性が顧客にも浸透してきているのは感じてはいるんですけど、社会貢献性のデメリットとして価格が高くなってしまったりとか、あとは品質の部分がちょっと劣ってしまうみたいなことがあると思うんです。
 そこを克服することが大事だなと思っていて、きちんと機能性であったりとか、このスマホケースに関してはデザイン性に注力していて、バックグラウンドを知らずとも手に取ってもらえるみたいなところは、大事にしていきたいなって思っています。

 あともうふたつあるんですけど・・・ひとつが、しっかりパートナーのヒアリング・・・パートナーシップを結んだ企業とかブランドの現状とか、掲げているミッションや思いはきっちりヒアリングして、可能であれば現地に足を運んで、直接コミュニケーションをとったりとか、実際に現状を自分の目で見る、それを僕たちが伝えるっていうことは大切にしていきたいなと思っています。

 最後は、公正公平な取引、いわゆるフェアトレードなんですけど、きちんとした価格で取引をして、現地にもきちんとお金を落として、働く人たちが満足できる、生活水準を上げていけるような形になればいいなと思っています」

●素晴らしいですね~。今後「Ocean sole」以外に提携していきたい団体はありますか?

「はい、今ちょうどふたつ目の企業さんとお話させていただいていて、まだ具体的なことは言えないんですけど・・・。
 9月に(ナイロビに)行ってきた時に、たまたま街中を歩いていて、いいな! って思って、その店員さんに“これはどんな商品なの?”っていろいろ聞いて・・・今回詳しくはご説明できないんですけど、似た感じのアップサイクルの素材で素敵な商品を作っていたので、すぐ“社長の電話番号を教えて”って聞いて、次の日に工場まで行ってきました。
 話を聞いて感銘を受けて、日本に帰ってきた時にあっちのかたも“これからコラボしていこう!”って毎日のように連絡くれて、もう嬉しい限りですね。ぜひ一緒にやりたいなと!」

写真協力:Uzuri

「Uzuri」の未来予想図

●では最後に、未来予想図として、現在、山岸さんは21歳でいらっしゃいますから、29年後、たとえば山岸さんが50歳になった時に「Uzuri」はどんな会社になっていますか?

「そうですね・・・それこそ発展途上国のいろんなブランド、本当にたくさんのブランドとコラボレーションをして、我々とのコラボ商品をたくさん作って、Uzuriとコラボしているから、Uzuriとのコラボ商品がきっかけで、そのブランドを知って好きになりましたとか、Uzuriとコラボしているから、このブランドは信頼できるブランドだ!みたいになっていれば、嬉しいなと思っています。

 やっぱり今どうしてもアフリカの商品って、若干の手を出しづらさみたいなところはあると思うんですけど、僕たちが今、最初に目指しているのは、手に取った商品が実はあとから知ったらアフリカ産だった!みたいなのができれば、嬉しいなと思っているんです。
 本当に先の未来には、アフリカ産だから買いました!みたいな、日本製だから信頼ができて買いました!みたいなのと同じ感覚で、アフリカ産だから買いました! みたいな形ができれば、すごく嬉しいなと思っています」


INFORMATION

写真協力:Uzuri

 気になるiPhone用のケース、カラフルで本当に素敵です。職人さんがひとつひとつ手作りしたものなので一点ものです。販売に関しては、年内からオンラインサイトで始まる予定。またイベントなどでの販売も検討しているそうです。販売価格を含め、詳しくは以下のサイトをご覧ください。

◎Uzuri 公式オンラインショップ: https://uzuri-japan.square.site

 「Ocean Sole」が制作している動物のオブジェはすでに販売されています。ゾウやキリン、シマウマ、ペンギンなどなど、カラフルでほんと可愛いんです。ぜひチェックしてください。

◎インスタグラム @uzuri_japan
https://instagram.com/uzuri_japan?igshid=NGVhN2U2NjQ0Yg%3D%3D&utm_source=qr

子供と一緒にアウトドア料理にチャレンジ!〜焚き火料理は冒険だ〜

2023/11/26 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、秩父在住の写真家「阪口克(さかぐち・かつみ)」さんです。

 阪口さんは1972年、奈良県生まれ。写真スタジオ勤務を経て、オーストラリアに渡り、自転車による 大陸一周1万2千キロの旅を達成。これまでに訪れた国は40カ国以上。現在はフリーカメラマンとして、旅やアウトドア雑誌の撮影を担当。ほかにも海外の辺境に暮らす人々の一般家庭に居候する取材も続行中。また、暮らしの中の焚き火を数多く経験し、それをもとに焚き火の本も出されています。

 阪口さんの活動テーマは「旅と自然の中の暮らし」ということで、現在は埼玉県秩父の山里に、ご自分で建てた家に、ご家族と一緒に暮らしていらっしゃいます。

 セルフ・ビルドした家の顛末も、実は本になっています。奥さまを説得し、貯金をはたいて、秩父に280坪ほどの土地を購入。経験ゼロなのに国産材による伝統工法にこだわり、悪戦苦闘しながら、木造の平家をなんと6年かけて建築。総工費はおよそ560万円だったそうです。

 きょうはそんな阪口さんに、ご自分で建てたマイホームのことや、世界辺境の旅、そして先頃出された、子供向けアウトドア料理レシピ集『冒険食堂』から、おすすめ焚き火料理のお話などうかがいます。

☆写真:阪口 克

『冒険食堂〜子どもの好奇心を刺激するアウトドア料理レシピ』

6年間の家づくり

※そもそも、なんですが、なぜ自分で家を建てようと思ったんですか?

「雑誌の取材を僕は多数やっていまして、田舎へ移住されたかたへの取材を一時期よくしていたんですね。自分で古民家を改造したり、あるいは自分で一から家を建てたりする人に取材する機会が非常に多かったんですよ。それで自分でもそういうことをやってみたいなというのが、始まりですね」

●家は自分で建てられるんですね!

「家は(自分で)建てられますね(笑)」

●ひとりで建てたわけじゃないですよね?

「そうですね。加工とかはひとりでもできるんですけども、大きな構造材を組み立てるとなると人手が必要なんで、もちろん家族であるとか友人にその時は助っ人を頼んで(家を)作っていきました」

●家作りのアドバイザーのようなかたはいらっしゃったんですか?

「いや、それはいなかったです。本で調べたりインターネットで調べたりしながら、やっていました」

写真:阪口 克

●その6年間という年数ですけど、具体的にどういう流れで6年間になったわけですか?

「まずは、土地を探して購入して、次に近所の材木屋さんに行きまして、正直に自分で家を建てるんだ!って言って、構造材に使う材料を売ってもらうっていう感じですね。
 並行して、建築確認申請っていうのはどうしても必要なので、その確認申請は建築士さんの資格を持っていないとできないんですよね。なので、自分で書いた設計図を建築士さんにお願いして清書してもらって、法律上問題ない手続きをしてもらって建築をスタートしたという形ですね」

●どんなことがいちばん大変でした?

「そうですね・・・いちばん体力的に大変なのは、大きな材木を持ち上げるとか屋根の上で炎天下、延々屋根の板を張るとかが大変だったんですけども、どちらかというと最初の2年ぐらいは、始めてみたけど、本当に(家が)できるんだろうかという心配ですよね。メンタルのほうがだんだん、こんなこと始めちゃって大丈夫かなってなってきましたね。家族も巻き込んでいますし、そこはやっぱりちょっと辛かったですね。で、2年過ぎてある程度、形になってきてからは気分が楽になって楽しくなってきたっていう感じでしょうかね」

●6年経って、実際できあがった家をご覧になっていかがでしたか?

「まあ、ずーっと毎日6年間見ているんで(笑)、意外と感動とかもないですよね。住み始めた日はもちろんあるんですけども、ずっとそこにいましたからね。家族で引っ越して、最初の晩御飯を食べたとか最初にお風呂に入ったっていうのは、もちろん嬉しかったですけども、まあやっと終わったかっていう感じですかね」

写真:阪口 克

辺境の一般家庭に居候!?

※阪口さんは、これまでに世界40か国以上を旅されているそうですが、どちらかというと「辺境好き」・・・なんですよね?

「そうですね、わりかし・・・。いわゆる辺境というか、そういうところへ行くのは好きですね」

●どんな旅のスタイルなんですか?

「もちろんカメラマンですので、お客様の雑誌から依頼を受けて、取材に行くっていうのがメインなんですけども、そういう時はたいてい大きなホテルだったり、観光地だったりの取材になるんですね。
 それとは別に、相棒の旅行作家がいるんですけども、彼とふたりでいろんな国に行って、1週間一般家庭に居候をするっていうのをやっています。それがたまるとと週刊誌でその国の暮らしを紹介するというような形でずっとやっていました」

●印象に残っている旅先ってどこかありますか?

「もちろんどこも思い出深いんですけども、カメラマンとしてやっぱり視覚的な刺激が強かったのは、サハラ砂漠の遊牧民のお宅に居候した時はすごかったですよね」

●どうすごかったんですか?

「あたり一面、絵に描いたような砂漠ですよね。寝る時もずっと砂まみれですし、カメラのダイヤルもジャリジャリになるしね(笑)。すごいところに暮らしていらっしゃるなっていうのは正直なところでしたね」

●見たことのない景色に出会えるのも旅の醍醐味だと思うんですけど、人との出会も魅力がありますよね?

「もちろんそうですね。まあ居候なんで、それもお金持ちの邸宅じゃなくて一般家庭にお願いしているので、毎度そこのお父さん、お母さん、子供たち、おじいちゃん、おばあちゃんとも一週間寝食を共にする形になるので、なかなか深い付き合いができますね」

写真:阪口 克

●すぐにパッと思い出される人たちっていますか?

「もちろんそれは顔もすぐ浮かびますね。例えば、いちばん最初にこの居候の企画をやった時に、モンゴルで泊めてもらったベギさん一家はやっぱり思い出深いですね」

●どんなご一家だったんですか?

「それ以上にまず僕たちは、そういう居候取材まだ手探り状態だったんで、どうしていいかわかんなくて、思っていた以上に、まず英語が通じないっていうのがカルチャーショックでしたね。僕もそれほど英語が得意ではないんですけども、ワン、ツー、スリー、イエス、ノーも通じないんですよね。

 そうすると身振り手振りと、簡単なモンゴル語の単語帳みたいなのを手がかりに会話をするしかなくて、お願いしたドライバーさんはもう帰っちゃって大草原の中で逃げ場もないわけですよ。そこで一週間後発つまで、誰も迎えに来てくれないという状況だったんです。
 最初は僕も戸惑いましたけど、受け入れた先のベギさんも当然動揺していたようで、ここまでモンゴル語ができないやつが来たのか! っていう感じで、“こんにちは”の言い方すら簡単にしか知らなかったですからね」

●そんな中で共に生活をするっていうのはすごい経験ですよね?

「いや〜面白かったですね。今思い返せば面白かったですね(笑)」

写真:阪口 克

自分でやってみる「冒険食堂」

※阪口さんの新しい本が、子供向けアウトドア料理のレシピ集『冒険食堂』。この本は、毎日小学生新聞に連載した記事をまとめたものです。
 本には、阪口さんのお嬢さん「春音(はるね)」さんがモデルとして登場しているだけでなく、大人の味付けになりがちだったレシピを、春音さんの意見を取り入れ、より子供向けにするなど、参考にしながら作ったそうですよ。

写真:阪口 克

 『冒険食堂』の基本として「焚き火・炭火料理を楽しむための4つの約束」が書かれています。この4つの約束をご紹介いただけますか。

「焚き火料理を楽しんでもらうためには、まずいちばんに、どんなことも自分の力で挑戦しよう、としました。2番目が安全のための決まりを守る。3番目においしい料理はしっかりした準備で決まる。あと4番目は楽しんだあとは、来た時よりも美しく片付ける。この4つになります」

●やっぱり失敗してもいいから、自分でやることが大事なんですね?

「そうですね。この企画が始まった時にいちばんに浮かんだのは、この『冒険食堂』っていうタイトルだったんですね。単にアウトドア料理だと、美味しい料理っていうだけになると思うんですけども、そこに冒険っていうか、今まで自分がやったことがないもの、ちょっと怖いなと感じるものに対して、チャレンジするというのをテーマに掲げているので、ちょっと心配だから、お父さんやお母さんに頼んでみようとかなるところを、自分でやってほしいっていうのがやっぱりいちばんですね」

●まさに冒険ですね!

「そうですね」

●料理をするための熱源として、焚火と炭火を勧めてらっしゃいます。そこには子供たちに自分で火を起こせるようになってほしいっていう、そういう思いがあるからなんですか?

「そうですね。やっぱりキャンプと言えば、いちばんの楽しみで浮かぶのは、焚き火なんじゃないかと思うんですよ。さっきも言ったように冒険のひとつのきっかけとして、焚き火をいちばんに持ってきているんですよね。
 焚き火じゃなくて、例えば、魚を釣ったら自分でさばくとか、お肉をナイフで切ってみるとか、そういうことでも、もちろんいいんですけども、まずはキャンプ場に着いたら、自分の力で一回火をつけてみようっていうのは、僕は提案したいですね」

●阪口さんは焚火の本も出されていますけれども、やっぱり焚き火の技術とか作法を身につけるっていうのは、現代でも大事なことなんでしょうか?

「そうですね。焚き火の本を作った時に調べてみたら、人類と焚き火の付き合いってのは、何十万年にも及ぶんですよね。日本でも数万年前の焚き火の跡が残っていたりするので、そういう長い付き合いの中で、ほんのここ50年ぐらいで自分の周りから“直の火”っていうのが、ちょっと見えなくなっていると思うんですよ。

 我々は今、電気を使っていますけども、この電気も例えば、火力発電だったり原子力発電の火で発電されているわけじゃないですか。なので、火っていうのは人間の今の文化とか暮らしの、いちばんベースになっているエネルギーのひとつだと思うんで、それを一度自分の手元に戻してみるってのは、いいことなんじゃないかなと僕は思っているんですよね」

写真:阪口 克

(編集部注:『冒険食堂』には焚き火のベテラン、阪口さんが考案した「焚き火で守る9か条」も掲載されています。風の強い日には絶対にやらないなど、基本的なことはもちろんなんですが、もし、ウエアに火が燃え移るようなことがあったら行なう緊急時の対策法「ストップ!」「ドロップ!」「ロール!」がイラストとともに解説されています。
 これはアメリカの消防士さんが考えた対策法だそうで、「ストップ」止まって、「ドロップ」倒れて、「ロール」転がって、火を消す方法なんです。ぜひ阪口さんの本で、ご確認ください)

おすすめ焚き火料理!

※本に掲載されているアウトドア料理のレシピから、誰でも簡単に作れるおすすめ料理をご紹介いただけますか。

写真:阪口 克

「まず僕が基本にあげたのは、『野菜ごろごろポトフ』という1番目に出てくるメニューなんですけれども、特にこれからの季節、あったかいスープは非常に美味しいと思うので、ぜひ作ってほしいですね。今の時期ですと冬のキャベツが美味しいですから、キャベツをいっぱい入れて、ソーセージとかニンジンとか入れて、あったかいスープにすると、寒いキャンプ場で美味しいと思います」

●いいですね〜。この本を拝見していて思ったんですけど、ダッチオーブンがひとつあると、ぐぐっと焚き火料理の幅が広がるな~っていうふうに感じました。ダッチオーブン料理でおすすめってありますか?

「ダッチオーブンはいろんな料理を作れるんですけども、やっぱりダッチオーブンとキャンプ好きな人が聞いて、いちばんに思い浮かべるのは『チキンの丸焼き』だと思うんですよね。これはぜひ作ってほしいですね! すごく美味しいですから」

●具体的にどんなふうに作るんですか? 初心者でも作れますか?

「はい、比較的簡単だと思いますよ。スパイスと塩を揉み込んだ丸鶏を、ダッチオーブンに突っ込んで炭火にかけるだけなんです。コツとしては、ダッチオーブンの底に玉ねぎとかセロリなどの香味野菜を敷くのと、あとは、鉄の鍋のダッチオーブンは、上に炭火を乗せられる構造になっているんですね。なので、下の火は弱めにして蓋の上の火を強くすると、焦げないでジューシーな丸鶏が作れますね」

●すごいですね。見た目も豪華でいいですよね!

「これは間違いないですよ! 蓋を開けた時にみんなだいたい、わ~って言いますよね」

写真:阪口 克

●本を拝見して驚いたのが、牛乳パックでホットドッグを焼くというレシピもありました。どんなレシピなのか教えていただけますか?

「『カートンドッグ』って言いまして、アメリカでは比較的よくバーベキューで作っているみたいなんです。ホットドッグのパンにソーセージ、あるいは好きな具材、僕だとポテトサラダなんかを挟んで、それをアルミホイルで巻くんですね。

 で、牛乳パックに突っ込む、その牛乳パックに火をつけると、牛乳パックが燃えていく過程で、ホットドッグが過熱されるという形ですね。これは子供でも失敗せずに上手に焼けるので、ぜひチャレンジしてほしいですね」

写真:阪口 克

●ダンボール箱でオーブンを作って、お料理を作るというアイデアにもびっくりしたんですが、ローストビーフとか作れちゃうんですね?

「作れますね! ピザも焼けますし、ケーキを焼いたこともありますね。ダンボールオープンで・・・」

●なんかすぐに燃えちゃいそうだなと思ったんですけど・・・。

「いや、意外と紙って燃えないんですよ。紙の種類にもよるんですけども、だいたい紙の発火温度っていうのが250度から450度ぐらいなんですね。逆に言うと200度を超えなければ、紙は燃えないんで、ダンボールオーブン、もちろん直火にかけたら燃えちゃうんですけども、まずはダンボールの中に全面アルミホイルを貼ります。

 その中に熱した炭を入れたお皿を入れて、加熱するんですけども、この時に段ボールの中が大体180度ぐらいの、電気オーブンぐらいの温度になるんで、そこで調理する分には何の心配もないですね」

●へ~〜、じゃあ簡単にできちゃうんですね!

「そうですね。比較的簡単にできますね」

冬こそ、焚き火のキャンプ

※焚き火は、お料理を作ったり、暖を取ったりと、キャンプには欠かせないものだと思うんですけど、焚き火を楽しんだあとの、後始末が大事ですよね。どんなことに注意すればいいですか?

「まずは絶対、消火ですね。必ずつけた火は自分で消すってことですよね。よくある間違いが(地面に)埋めちゃえばいいっていう人がいるんですね。もちろん埋めることで酸素が遮断されて消えるっていうか火勢は弱まるんですけども、そんなに簡単には消えないんですね。
 もしなんかの拍子に次に来た人が掘り出したりとか動物が掘ったりしたら、そこで酸素が供給されて、ほんの少しでも火が残っていたら、そこからまたわっと火が燃え広がることがあるんですよ。

 なので、埋めて消火とかはなし! ましてや、地面の上で燃えているまま、帰ってしまうってのは絶対あり得ないことですから、必ず火消壺であるとかバケツの水に燃えてる火を沈めて、酸素を断って消すっていうのを習慣づけてほしいですね」

●改めて阪口さんは、焚き火にどんな思いがありますか?

「僕も昔、都市部に住んでいて、キャンプばっかり行っていた頃は、焚き火が大好きで、ずっと焚き火をしていたんですけど、今秩父の山里に暮らしていますと、日常で焚き火がいっぱい出てくるんですよ。なので、最近はちょっと暮らしの一部分になっているって感じでしょうかね」

●キャンプはオールシーズン楽しめるアクティビティだと思いますけれども、ウィンターシーズンの注意点ですとか、こんな楽しみ方があるよなど、何かアドバイスがあればぜひ教えてください。

「どっちかというと、焚火とかバーベキューは、秋冬のほうが向いているんですよ。夏は暑いじゃないですか、焚き火・・・そうすると冬場のほうが焚き火はより楽しめますよね。焚き火の火がつくまでは寒いんですけども、冬のキャンプはぜひ楽しんでほしいなと思います。虫も少ないですし、雪景色の山が遠くに見えたりして、すごく気分がいいと思うんで、みんなで焚火を囲みながら焚火料理を楽しんでもらえたら、すごくいいんじゃないかなと思うんですね」

●ぜひこの『冒険食堂』のレシピを見ながら・・・

「ぜひ楽しんでほしいですね!」

写真:阪口 克

INFORMATION

『冒険食堂~子どもの好奇心を刺激するアウトドア料理レシピ』

『冒険食堂〜子どもの好奇心を刺激するアウトドア料理レシピ』

 阪口さんがお嬢さんの春音さんの意見も取り入れながら作った本、お勧めです。子ども向けではありますが、大人でもとても役立ちますよ。火の起こし方から食材や調味料、作り方まで、写真をもとに解説してあるので、その手順に従ってやれば、初心者でも美味しくできると思います。どこにでも持ち歩ける便利なハンドブック・タイプ。ヤマケイ新書シリーズの一冊として絶賛発売中です。

◎山と渓谷社 :https://www.yamakei.co.jp/products/2823510830.html

『家をセルフでビルドしたい』

『家をセルフでビルドしたい』

 家をご自分で建てた顛末も本になっていますよ。先月、草思社から文庫で発売されました。

◎草思社 :https://www.soshisha.com/book_search/detail/1_2686.html

 阪口さんのオフィシャルサイトもぜひ見てください。

https://sakaguti.org

シリーズ「SDGs〜私たちの未来」特別編!〜高校生のアイデアコンテスト「SDGs QUEST みらい甲子園」

2023/11/19 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、「SDGs QUEST みらい甲子園」の総合プロデューサー「水野雅弘(みずの・まさひろ)」さんです。
です。

 水野さんは、持続可能な環境社会を実現するための事業などを行なう株式会社TREEの代表取締役、そしてSDGs.TVのプロデューサーでもいらっしゃいます。

 SDGsはご存知の通り「SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS」の頭文字を並べたもので、日本語にすると「持続可能な開発目標」。

 これからも地球で暮らしていくために、世界共通の目標を作って資源を大切にしながら経済活動をしていく、そのための約束がSDGs。2015年の国連サミットで採択され、全部で17の目標=ゴールが設定されています。

 当番組では17のゴールの中から、おもに自然や環境に関連するゴールを掲げ、定期的にシリーズ企画「SDGs〜私たちの未来」をお送りしていますが、今回は特別編! 高校生が考える社会課題解決のためのSDGsアクション・アイデアコンテスト
「SDGs QUESTみらい甲子園」をクローズアップします。

☆写真協力:みらい甲子園事務局

「SDGs QUESTみらい甲子園」

今回から千葉県大会を開催!

※まずは「SDGs QUESTみらい甲子園」の開催趣旨について教えていただけますか。

「本当に今、時代が大変革の時を迎えています。未来が予測困難な時代なんですけれども、そうした中においても、高校生が自ら未来をちゃんと考え向き合って、特に社会課題をどう解決していくかを起点にしながら探究し、そして、できれば主体的に行動力を高めるような、そんな機会を作ろうと思って始めたのが『SDGs QUESTみらい甲子園』です」

●今年で5回目の開催ということですけれども、開催エリアが年々増えているんですよね?

「そうですね。初年度は北海道と関西から始めまして、今年は19エリア32の都道府県で開催します」

●これまでどれぐらいの高校生たちが参加しているんですか?

「延べでいくと1万人を超えています。年々増えてきまして、昨年は5000人以上、チームでいうと1228チームがエントリーしてくれました」

写真協力:みらい甲子園事務局

●今年からは千葉県大会もあるんですよね。

「そうですね。去年までは首都圏大会という形で、千葉県も対象にしていたんですけれども、やはり千葉もたくさんの学校がありますので、千葉県大会をbayfmさんと一緒にやらせていただきます」

●千葉エリアならではのアイデアがどんどん出てくるといいですよね。

「そうですね。千葉は都会でありながらも、房総半島を考えますと本当に多様な社会課題に向き合っていますから、SDGsを起点にした素晴らしいアイデアを期待しています」

●この「SDGs QUESTみらい甲子園」の参加条件を教えてください。

「参加条件は、まずはチーム制です。高校1〜2年生を中心に、今年からリーダーでなければ、3年生も参加可能です。中高一貫校であれば、チームの中に中学生が入っても大丈夫です。2名〜6名で、部活で参加する場合は最大10名までは可能としています」

(編集部注:このコンテストは、競い合うというよりも、ほかの高校の生徒たちと交流してもらうことも目的としていて、応募する生徒たちも、それを楽しみにしているそうですよ。
 今回は、各エリアから選ばれた最優秀賞の19チームが全国交流会に進み、最終的にグランプリチームが選ばれることになっています。グランプリチームは、北海道美幌町にある「ユース未来の森」に招待されるそうです)

写真協力:みらい甲子園事務局<

高校生の柔軟な発想を期待!

※過去の応募作から、特に印象に残っているアイデアを教えてください。

「この番組に若干合わせて、環境的な視点から申し上げると、例えば静岡は卓球、静岡だけでピンポン玉を年間2.5トン廃棄するそうなんですね。それをリサイクルしてスマホケースを作るアイデアを考案した高校生がいたりとか・・・。

 あとは滋賀県から琵琶湖、やっぱり琵琶湖を綺麗な淡水にしていきたいっていうことがあって、自分たちで天ぷら油を集めて、粉せっけんにして、そこに”草津あおばな”という地元で採れる植物を入れて液体化すると、すごく綺麗な色になるんですね。それを彼らは“琵琶湖ブルー”と言っています。天然の液体洗剤を通して琵琶湖を守っていく、普及啓発にしていく、そんなチームもありました。

 あともうひとつお伝えすると、たぶん千葉でもたくさんの放置林があるんですね。竹です。日本は里山が竹によって、荒廃していく世界が多いんですけれど、その竹を使ったバイオ竹炭であるとか・・・竹問題っていうのは九州のほうが多かったです」

●大人では発想できない、高校生ならではの柔軟な発想だなという感じがありますよね。

「そうですね。高校生はある意味、グローバル意識はすごく高いんですけれども、社会課題となると、行動範囲が数十キロ圏内なので、地域に対する思いがありますね。地域の課題を環境だけではなくて、差別や相対的貧困やジェンダーの問題、様々なところから高校生らしい発想とアイデアが生まれてきています」

水野雅弘さん

※「SDGs QUESTみらい甲子園」の発案は水野さんなんですよね?

「そうですね。ネーミングも含めて考えました」

●どうして始めようと思われたんですか? その辺りの思いをぜひ聞かせてください。

「僕は2007年から『GREEN TV』というイギリス・メディアの日本代表になって、環境に関わる様々な発信をしてきたんですね。2015年にSDGsが国連で採択された時に、これは共通言語になっていくし、それを起点に普及させることで、無関心のかたたちと語り合える、もう行動しなくちゃいけないなと思い立ち、翌年の2016年に『SDGs.TV』という映像メディアを立ち上げたんですね。その映像メディアを視聴しているのが学校の先生が多かったんです。

 その学校の先生から、高校生たちが行動できるような発表の場をぜひ作ってくれないかっていう話をいただいて、大会というか野球の・・・全国それぞれの地域の課題や、世界の課題に向き合っていこうと思って組み立てたのが『SDGs QUESTみらい甲子園』です」

●中学生でもなく大学生でもなく、高校生を対象にしたのはどうしてなんですか?

「高校生になりますと、自分の進路をとても真剣に考え始めます。そういった意味では、キャリアとは言いませんけれども、進学や就職ということを考えた時に、社会課題に向き合っていく、いわゆる最初の芽が出る・・・。

 小学生中学生ですと知識的なものが多いですね。高校生になると、もうひとつは経済的な視点も入ってくる。だから大人と子供のちょうど中間になった時に、自分の進路がまだ不透明な大学生も多いんですけれど、やはり高校生の時になるべく早く自分のヒントというか、自分のやりたいことのためには、やっぱり未来を見つめることが比較的重要だと思いまして、高校生に絞りました」

(編集部注:「SDGs QUESTみらい甲子園」は、コンテストではあるんですが、実は、応募してくれた高校生には、大学入試などのポートフォリオとして活用できる参加証明書を発行。また、先生にとっては、学習プログラムとして活用できる、そんな側面もあるんです)

写真協力:みらい甲子園事務局

自分の心と大地にタネを植える

※「SDGs QUESTみらい甲子園」のオフィシャルサイトに、グランプリチームが北海道の「ユース未来の森」で木を植えている動画がありました。この「ユース未来の森」について教えていただけますか。

「これは実は今、気候危機と呼ばれている中で、気候変動に対して高校生たちが、何か未来に向けて、活動のひとつとして、森を作っていこうっていうことを昨年度から始めました。全国の高校生がなかなか全員は来られないので、地元の高校生たちと一緒に木を植えていくという形で、気候変動行動のひとつとして、みんなで森作りを始めた次第です」

●水野さんも行かれたことはありますか?

「この10月に僕も参加しまして、汗だくになって植えてきました」

●あの動画を見ていて、生徒さんたちもそうなんですけど、参加されている先生たちが、すごく生き生きとされているなっていう印象があったんですけど・・・。

「そうですよね。道内だけではなくて、今回グランプリをとった鹿児島の種子島から来た先生も、本当に汗をいっぱいかいて、楽しそうに活動していましたね。あの映像も僕が植樹しながらiPhoneで撮影した映像です」

●そうだったんですね~。みなさん、本当に楽しそうなのが印象的でした! やはり植樹体験で気づくこともいろいろあるんでしょうね

「そうですね。彼らにインタビューをすると、やっぱり木を植えることは当然初めてなんですね。林業のかたたちがこうして木を育てていく・・・植えることも大変だし、1年2年ではなくて、20年50年100年と、すごく大変な仕事なんだってことがよくわかったと、生徒たちのコメントからは聞けました」

●やっぱり人ごとではなく、自分ごとになることが大事になってきますよね。

「そうですね。植林が大切とか、間伐が大切とか、いろいろ頭で学んでも、やっぱり自ら大地に立って苗を植えるっていうのは、すごく貴重な体験ではないかなと思います。 ほとんどの生徒が、自分が大人になったら20年後30年後には、ぜひ自分が植えた木を見に行きたい!と・・・ある意味、ちょっと大袈裟かもしれないんですけど、環境を含めた地球への何か・・・自分の心と大地にタネを植えるって感じなんでしょうね」

写真協力:みらい甲子園事務局

SDGs.TVの多様なコンテンツ

※水野さんの会社TREEのオフィシャルサイトを拝見すると、当初はマーケティングの事業を展開され、現在は持続可能な環境社会を実現するための事業を柱に据えて活動されています。事業内容を変革する、なにかきっかけがあったのでしょうか?

「大企業のマーケティング・アドバイザーのような形で、いろんなマーケティングに関わってきたんですけれど、今から20年ほど前に、やはり株主中心で、ある意味、行き過ぎた利益追求ということが多くなったことによって、ヒューマンエラーだとか、いろんな法的な事件、事故につながることが多かったんですね。

 そうした点において、ガバナンスをしっかりするためには、やはり自分自身ももう少し環境や社会、いわゆる企業活動が与えていることを、しっかりとその企業にも提供すべきでしょうし、社会もそれに向かわなくちゃいけない、そういうことが舵を切ったきっかけですかね。

 もうひとつきっかけとして、ちょっと長くなってしまうんですけど、2010年に『生物多様性条約会議COP10』っていうのが名古屋でありまして、それの開会式のプロデュースをしたんです。 その時に全世界で生物多様性の危機的な状況がありました。
 これは生物多様性の危機的状況は気候変動もあるんですけど、私たちの消費生活、生産と消費にものすごく影響をもたらしているので、ここはやっぱり企業活動自身を、地球や社会のサステナブルのためにも取り組むべきだと考えました」

●今の主な事業としては「SDGsQUESTみらい甲子園」の学習プログラムにもなっているSDGs.TVというメディアになるんでしょうか?

「そうですね。メディア事業というよりも、これはひとつのプラットホームとしての教育ですね。これは小中高だけではなくて、企業の人材育成研修にも軸足を置いて、多くのかたたちがサステナブルな意識啓発になるようにと、研修事業を中心にしています」

●コンテンツはどんなものがあるんですか?

「SDGs.TVは本当に多様ですね。NGOのアクションから各国の政府の活動ですとか、もちろん国連や気象協会、様々な気候から生物多様性からLGBTQ、フェアトレードから途上国の話もあれば、日本国内のローカルな取り組みのものもあれば、課題から取り組みまで、様々なコンテンツを発信しています。

 テキストで学ぶよりは、やっぱりエモーショナルですし、映像にはストーリーがありますよね。そういった意味では全く無関心だった子供たちを見ていると、先生から一方的に教えられるものだと下向いているんですけど、映像を見て心が動いて、これは大人もそうです。映像を見た時にやっぱり腹落ちするというか腑に落ちるというか・・・ですから、映像の力は人々の行動を促すには、とても大切かなと思います」

(編集部注:ちなみにSDGs.TVには500タイトル以上の映像があるそうです。どんな作品があるのか、ぜひオフィシャルサイトをご覧ください)

「気候行動探究ブック」を無料配布!

気候ブック

※学校の授業で地球温暖化や環境問題を学んでいる10代のみなさんは、私たち大人以上に危機意識を持っているように思います。その辺りは、いかがですか?

「この5〜6年、中学生高校生と出会っていると驚くのは、やっぱりエシカル意識がすごく高いです。 少し感度の高い子供たちはフェアトレードとかにも関心がありますね。
 最近は本当に美容院を選ぶにしても、物を買うにしても、店を選ぶ中において・・・究極は就職、大学生も就職をしていく中において、SDGsにちゃんと取り組んでいるかとか、そういうことに目線がいく若い10代は、私たちの時代とは違って多いなと思います。
 ただ気候変動で考えると、欧米と比べると日本人の10代は、まだそれだけの危機意識はちょっと弱いかなとは思います」

●「気候行動探究ブック」というものを全国の高校生に無料で配られたんですよね?

「そうですね。みらい甲子園はSDGsで申し上げると1番〜17番、それは社会課題は多様なもので構わないんですけど、やはり世界の気候変動教育ってすごく重要なんですね。イタリアやイギリスではもう国をあげて行なっているんですが、日本はまだまだ気候変動教育は進んでいませんので、行動を促すような教材を作りまして、全国およそ4300校に進呈しました」

●これはどんなブックになっているんですか?

「世界中の同じ世代の高校生たちの気候行動の情報ですとか、温暖化が与える影響、そして私たちがどういうことに取り組むべきかということをわかりやすく解説しています。
 国立環境研究所のかたや国連のかた、スウェーデン・ストックホルムのレジリエンス・センターのかた、そんな専門家からの映像メッセージも入れて、多様な行動をみんなで考えるような探究ブックにしています」

●「SDGs QUESTみらい甲子園」 に応募してくる高校生たちには、どんなことを期待していらっしゃいますか?

「アンケートをとったんですけれど、みらい甲子園に参加してSDGsの意識が高まったっていうかたは大半ですし、行動意識が変わったっていう結果が最も多いんですね。 ですから、エントリーした高校生には未来を切り開く力、そして自分たちが変えるんだと主体的な考え方、そんなことを持っている、ひとりでも多くの次世代が育っていくことを期待しています」

●一方で番組を聴いてくださっている大人のみなさんに、何か伝えたいことがありましたら、ぜひお願いいたします。

「これは高校生から聞いたことなんですけど、自分たちのアイデアを自治体に持っていったら、”こんなこと、できないよ”とか、結構否定されることが多かったらしいんです。 そうではなくて、やっぱり常識が通用しない未来を考えますと、これだけ生成AIも出てきて、本当に新しい社会が今始まろうとしている。そんな時には大人も、高校生や中学生から学ぶことがたくさんありますし、一緒に共創していく思い、それを持って応援していただきたいなと思います」


INFORMATION

「SDGs QUESTみらい甲子園」

 現在「SDGs QUESTみらい甲子園」千葉県大会では、高校生のみなさんのアイデアを募集しています。持続可能な社会を実現するために解決したい、あるいは、変えたいと考える「探究テーマ(課題)」をひとつ選び、その解決策となる具体的な「SDGsアクション」のアイデアをお送りください。

 参加条件は、千葉県の高校に通う1年生・2年生、ふたりから6人で構成するチーム。高校3年生だけのエントリーはできませんが、チームに入ることはできます。

 千葉県大会の応募の締め切りは、12月20日(水)午後1時。エントリー方法など、詳しくは「SDGs QUESTみらい甲子園」のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎SDGs QUESTみらい甲子園 :https://sdgs.ac

 水野さんが代表を務める株式会社TREEのサイトもぜひ見てください。

◎株式会社TREE :https://tree.vc

平日はサラリーマン、週末は縄文人!?〜ゼロから文明を築く

2023/11/12 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、YouTubeの動画配信で話題! 週末縄文人の「縄(じょう)」さんと、「文(もん)」さんです。

 「縄」さんは1991年、秋田生まれ。大学時代はワンダーフォーゲル部で活動、多くの時間を山で過ごし、趣味は釣りと料理。

 「文」さんは1992年、東京生まれ。幼少期は、アメリカのニュージャージー州やアラスカ州で暮らしていたそうです。

 そんなおふたりは3年ほど前から、平日はサラリーマンとしてお仕事をされ、週末だけに縄文活動を開始。自然の中にあるものだけ、つまり現代の道具を一切使わずに縄文生活にチャレンジされています。

 当初は山梨県の森で始めたそうですが、現在は長野県の敷地面積およそ2000坪、標高1000メートルにある山あいの森を借りて、活動されています。サラリーマンですから、活動着はワイシャツとスーツなんですよ。

 ちなみに、週末縄文活動のことは、会社や仕事関係には基本内緒。YouTubeの動画にも顔出しはしていないんです。

 そんなおふたりが出された本が『週末の縄文人』、これも話題になっています。

 きょうは週末縄文人のおふたりに、本気で取り組んでいる活動の中から試行錯誤の末、気力体力を振り絞り、ついにやり遂げた火起こしと、竪穴住居づくり、そして縄文活動から見えてきた先人たちの知恵や暮らしに思いを馳せます。

☆写真提供:横井明彦、協力:(株)産業編集センター 出版部

写真提供:横井明彦、協力:(株)産業編集センター 出版部

週末は縄文人!

●まずは、そもそもどうして週末に縄文人としての活動を始めたのか、それをお聞きしたいんですけれども、縄さん、教えていただけますか?

縄さん「もともとは僕が、文明が崩壊したあとに生活に必要なものを、自分たちで自然から生み出すことができるのか、みたいなことをやりたくて・・・変な話なんですけど、鉄を自分たちで作るとか、石鹸を作るとか、生活に必要なものを自然から作りたいっていう、活動と動画を撮りたいなと思っていたんですね。

 でも、それをやる場所がなくて、相方に相談したところ、相方のお父様の土地が山にあるって言ってくれて、それで相方から一緒にやろうと言ってくれました。

 僕は現代にも通じているテクノロジー、鉄とか薬とか石鹸とか、そういう今のインフラというか生活を支えるテクノロジーに興味があったんですけど、相方はどっちかっていうと、もっとプリミティヴなというか、原始人とか縄文人とかのテクノロジーに興味があって、どうせやるんだったら原始時代から始めたいって言っていたんですね。

 それでゼロから文明を始めて、ステップアップしていく活動にしようっていうので、自然にあるものだけを使って、ゼロから文明を築くっていう取り組みで、今は技術的には縄文時代にいる、そんな活動をやっています」

●なるほど〜。文さんは縄さんから、こういうことやってみたいんだって言われた時は、どんなふうに思われました?

文さん「また何か面白いことを言ってるな〜と(笑)、もともと仲のいい会社の同期だったので・・・。僕はそういうことは全然思いつかなかったんですね。

 でも、今ちょっと縄が話してくれたみたいに、僕はもともと、もっとプリミティヴな、プリミティヴだけじゃないんですけど、自分と全然違う暮らしをしている文明の人とか文化の人にすごく関心があったんですね。

 彼らがどういうふうに世界を見ているかとか、そういうことに関心があったので、やるんだったら自分のルーツでもあるし、全然自分とは違う世界をきっと見ていたであろう、縄文とか石器時代の人から始める、かつ道具そのものを使わずに進めたいっていうのは、僕はすごく思っていたことだったんですね。

 ナイフとかそういう道具を使うというのは、たぶん縄のほうの最初のプランにはあったと思うんですけど、そこは道具はなしでやりたいなっていうのは、僕のどっちかというと強い思いでした。そこから見えてくるものがあるんじゃないかなっていう感じですかね」

(編集部注:おふたりは縄文時代にだけ、こだわっているのではなく、ゼロから文明を築き、ゆくゆくは江戸時代、できれば、現代にまで文明を進めたいという夢を持っていらっしゃいます)

写真提供:横井明彦、協力:(株)産業編集センター 出版部

火起こし~神々しい美しさ

●週末縄文人がまず取り組んだのが、「火起こし」ということですけれども、現代の道具を使わずに火起こしするのは、縄さん、大変だったんじゃないですか?

縄さん「そうですね。本当に一回の週末で、3日間ぐらいで火をつけられるだろうとか思っていたんですけど、最初は煙すら出なくて、めちゃくちゃ大変でした。

 手をこすり合わせる『キリモミ式』っていう火起こしがいちばんオーソドックスだったので、それをやってみたんですけど、(棒が)まっすぐじゃなくて、どんどん回していると、穴から飛んでいくんですよね。まずはまっすぐな棒がないみたいなところからわからなくて、毎週毎週通って一個ずつできないことを潰していって、全然できないまま続いて、3ヶ月後ぐらいにようやく(火が)ついたっていう・・・」

●それはキリモミ式で、最終的に火がついたんですね。

縄さん「そうですね、つけられましたね。でも最初はふたりがかりですね。今はひとりでもできるようになりましたけど、ふたりで疲れたら交代して、みたいなやり方で、できるようになりましたね」

●おふたりでの共同作業ということで、YouTubeの動画でも「いける、いける〜!」って励ましあっていましたよね。

縄さん「あれ、マジで大事なんですよね。たまに人前でやるとすごく笑われるんですけど、本当に違うよね! あれ、やるとやらないでは・・・」

文さん「全然違う、全然違う」

縄さん「マジで最後のひと踏ん張りで、本当に(火が)つくかつかないか決まるので、もうこれで決めるぞ! もうないぞ! いけー!みたいにいうと、本当につくんですよ」

文さん「筋トレのたぶん、限界までいった時に、もうひと踏ん張り、最後いけー! みたいな感じだと思う・・・限界を超えるのには必要なんですよね」

●やっぱりひとりじゃなくて、ふたりでやるっていうのに意味があるんですね。

文さん「そう思います。意味があるし、ひとりだと文明は作っていけないと思います」

写真提供:横井明彦、協力:(株)産業編集センター 出版部

※手にマメをつくり、痛い思いをしながらも、ついに火が起きたときはどんなお気持ちでしたか? 文さん、いかがですか?

文さん「最初にたぶん動画でもそういうふうに言っているんですけど、『美しい』という、それがまず来ました。今まで当然、火というものは見たことはあったんですけど、今まで見てきた火とは全然違って、本当に・・・何だろう・・・マッチとかライターとかそういうのがあれば、火がつくって当たり前にわかると思うんですけど・・・。

 でも、自然の中で火の気が何もない森の中で、何もないところから、ブワッてあの明るくて熱いエネルギーの塊みたいなのが生まれた時はもうびっくりして、神々しいと言いますか、そういうものも、はらんだ美しさみたいなものを感じました」

●それこそ途中でマッチを使っちゃえとか、ライターを使っちゃえとかは思わなかったですか?

文さん「それをやっちゃうと、僕たちのやりたかったことには近づけないというか、ただ火起こし風動画を作るだけだったら、別にズルしてマッチでやっちゃってとかってできると思うんですけど、僕らの目的はそこにあるんじゃなくて、本当にそれができるようになるとか、本当に自然のものだけで、何かをやるプロセスで見えることとか、感じることを体験したいっていうことにあるので、それは全然一度も考えてないです」

笹地獄!? 竪穴住居づくり

※おふたりは火起こしのほかにも、石斧づくりや、紐(ひも)をよったり、土器を作ったりと、これも試行錯誤しながら挑戦。そして、ついに取り組んだのが「竪穴住居」づくり。

 どんな竪穴住居を作ったのかというと・・・穴の直径がおよそ2メートル、深さが40〜50センチ、床面積は、3〜4人がぎりぎり寝られるテントほどの広さ。本物に比べると小ぶりな作りになっているそうです。構造は、石斧で切った木の枝を、柱や梁などにして、およそ30本の木を組み、その上に屋根材として大量のクマザサをふいた住居なんです。

写真提供:横井明彦、協力:(株)産業編集センター 出版部

 竪穴住居づくりで、いちばん大変だった作業はなんでしょうか? 文さん、お願いします。

文さん「これはたぶんふたりとも同じなんですけど、笹で屋根をふく作業です」

●どう大変だったんですか?

文さん「まずその全工程にかかったのが30日、そのうちの半分がこの屋根作りだったんですよ。骨格作りは本当に2週間くらいでできちゃって、骨格ができるともうなんかできた気持ちになるので・・・」

縄さん「できた気持ちで半分打ち上げしていましたね。もう終わりだみたいな、あと4日で終わりだとか言って・・・」

文さん「骨組みの前でふたりで肩を組んで写真を撮って、終わった感が出ていたよね(笑)。なんだけど、地獄はそこからだったみたいな・・・。

 結局そこから、笹の束を15本から20本ぐらいをひとつにまとめて、屋根に下から順番に結びつけていって、それでどんどん上に向かって屋根をふいていくんですけど、その作業がさらに今までかかってきた作業と同じぐらいかかりましたね。本当は3〜4日とかで、もしかしたら終わるかなとか、僕はうっすら思っていたんですけど、全然進まないんですよ」

写真提供:横井明彦、協力:(株)産業編集センター 出版部

縄さん「だいたい1日のスケジュールを言うと、朝7時ぐらいから昼過ぎまで5時間から6時間ひたすら中腰でクマザサ、クマザサは背が低いんで、ひたすら中腰で笹を折り続けるっていう作業、それをご飯を食ってから日が暮れるまで。

 それを結ぶツルも、地味にそのツルもあるんですけど、笹を結ぶツルを集める作業もそのあとに数時間やって、日が暮れるまでひたすら結ぶ作業。結ぶのもすぐできるかと思いきや、その束を1回束ねて結んで、3本に1本ぐらい(切れて)。

 とにかくめっちゃ丈夫な屋根を作るってなったんで、めちゃくちゃ締めていたんですけど、ツルって意外に切れるんですよ。プツって切れて、ああ!ってなって、また別のツルを探してみたいな、そういうのをうだうだやっているっていうのが朝から晩まで、それが15日間っていう感じですね」

文さん「笹を折る作業、笹を収穫する時に手でパキパキ折っていくんですけど、笹って節みたいなのがあるから、そこをパキって折るとまあ簡単に取れるんですよ。でも簡単に取れるとはいえ、それを2万本分やっていると、手がどんどんひび割れて、血が出てきてマメになってカチカチになって・・・。

 本当に最後、指先とかもありえないぐらい硬くなって、スマホに反応しなくなったんですよ。スマホをタップしてもカンカンカンってなって、現代生活にだいぶ支障も出ていました」

竪穴住居に、神々しい一筋の光

※苦労の末についに完成した竪穴住居を見て、どんな思いがこみ上げてきましたか。縄さん、どうですか?

縄さん「僕はあんなに綺麗なものを自分の人生で作ったことがなかったんで、子供の頃、図工は3とかだったし、あんなに手間をかけて、あんなに美しいものを自分たちだけで、しかも道具を使わないで自然のものだけで作った、みたいな達成感があって、すごく嬉しかったですね。あとやっぱり昔の人もこんな家を建てていたんだみたいな・・・。

写真提供:横井明彦、協力:(株)産業編集センター 出版部

 僕は縦穴住居の中から見える外の景色がすごく好きなんですね。笹をふいた四角い入り口から外の原っぱが見えるんですけど、ちょっと角度を変えると僕らが普段焚き火をしている焚き火台が見えて・・・ここから(見える)景色って全部100%自然にあるものだけで作っていて、縦穴住居で、あ〜これ!って、縄文時代の人も見ていた景色だな、これっ! 誰がなんと言おうと、そうだ! みたいな・・・なんかそういう気分になれたんですよね。

 また、竪穴住居の中ってめっちゃ暗くて、そこにマジで一筋の光みたいな感じで、入り口から光が差してくるんですよ。それもちょっと言葉にしづらいんですけど、めちゃめちゃ神々しくて、ずっと見続けていて・・・本当にあんなに豊かな感動は人生で今まで味わったことないなっていう経験でしたね」

写真提供:横井明彦、協力:(株)産業編集センター 出版部

●文さんはいかがですか?

文さん「僕も衣食住の『住』を自分で作れたっていうのは、すごくありえないこと。普段暮らしていて、衣と食はなんとか作れたとしても、家を自分たちだけで建てたっていうことの感動と、やっぱり僕もその中の雰囲気、半地下にあってすごく暗くて、入り口の部分からわずかな光が入ってきて、最初(中に)入ると真っ暗で何も見えないんですけど、徐々に徐々に目が慣れて中が見えてきて、目の前に座っている相方の顔がぼんやりと見えてくるんですよ。

 なんだろう・・・中に入ると、遊びに来た人みんなが言うんですけど、なんか話しちゃうねみたいな、初めて会った人とかでも、なんか深い話ができちゃうねとか、安心感があるよね、みたいなこと言うんですよ。

 それってあの家の持つ、ほの明るい暗さとか、みんなで結局、円になって真ん中にある火を見ながら語るあの感じとか、あの家の機能、人を近づけるあの家の機能っていうのも、今の家にはない凄さだなっていうふうに、作って住んでみて初めて思いました」

自然の見方、文明のありがたみ

※週末縄文人の活動を始めてから、それぞれにどんな変化がありましたか? 縄さん、お願いします。

縄さん「僕はもともと自然がすごく好きで、大学時代も山登りや渓流釣りが好きだったんですね。でも僕は町育ちだったので、自然って休みにレジャーで行くもので、レジャーで行く自然ってちょっと物寂しい気もしていて、自然を味わい尽くしてない気がしていたんです。そうすると、田舎で森に住んでいる人とかそういう人にすごく憧れがあって、それで自然のこういう取り組みをしたいなっていうのがあったんですね。

 この活動をしていると、昔は自然の、ただの雑木林みたいに思っていたものが全部宝物に見えると言いますか、石ひとつとってみても、これは『打製石斧(だせいせきふ)』に使えるとか、『磨性石斧(ませいせきふ)』に使えるとか、鋭いから火起こしの穴あけに使えるとか・・・。

 粘土を見ても、あっ!これは土器に使えるなとか、木を見ているとこれは樹皮が編み物に使えるかもとか、この植物は繊維になるから紐になるかもとか、なんか自然の見方が本当に豊かになったっていう・・・自分の変化がすごく憧れていた自然の見方に近づいている気がして、本当にこういう人間になりたかったなっていうものになれている気がして、すごくこの活動をやっていて良かったなと思っていますね」

●文さんはこの週末縄文人の活動から、平日現代人の生活ってどう見えていますか?

文さん「今まで僕はどっちかというと、文明に対して批判的というか、社会人になるまでスマホも持っていなかったりとか、文明に対して反発していたんですよ。環境にも悪いしみたいな、そんなの使っていたら人間の能力が落ちるとか、そういう感じがあったんですけど、この活動を始めて文明ってすごいな!って、本当に逆に思うようになりました。

 文明ってたぶん人がよりよく安心して安全に、より便利に楽しく幸せに暮らせるようにもともとあるものなんですよね。
 それは僕らが実際、石斧を使って、それまで石を手に持ってガンガン切んなきゃいけなかったのが、それだと肘とか手がものすごく痛くなるし、あの太い木は切れないし、そこで石斧っていうものが発明されて、自分たちの体も痛めつけることなく、太い木もより早く切れるようになって、そこでもっとがっちりした広い家に住めるようになるとか・・・。

 そういう文明がひとつひとつ進んでいくことで、自分たちの暮らしがよくなっていって、そこには少しでも自分たちの暮らしをよくしたいっていう思いがあるからこそ、文明は進んできたんですよね。

 今は自分たちはその延長線にいるわけで、ここまで文明が進んできたってことは、それだけそこに、よりよく生きたいっていう人の思いがあったんだなっていうことに気づけたというか・・・。
 目の前にあるマグカップひとつとっても、水がこれだけ溜められるってすごいなとか、当たり前すぎて気づけない部分にちょっと気づけるようになったっていうのはあります」

写真提供:横井明彦、協力:(株)産業編集センター 出版部

縄文人に聞きたい!?

※最後に、突拍子もない質問なんですけど・・・もし、縄文時代の人たちに会えるとしたら、どんなことを聞いてみたいですか?

縄さん「今は、縄文時代レベルの土器を作ろうとしているので、粘土をどこで寝かしていましたかとか、あとはあの『火焔型土器(かえんがたどき)』っていうめちゃくちゃ意匠を凝らした、うにゃうにゃしている土器があるんですけど、まずあれをどうやって作っているんですか? あれ、上が重すぎて、作っているうちに潰れてきちゃうんです。普通に僕らがやっているやり方でやると・・・。これ、どうやって乾かしてんだろうなっていうのが、近々の悩みでまず聞きたい。そうですね・・・土器を作っているところを見たいっすね」

●文さん、いかがでしょう?

文さん「ちょうど今やっているのが粘土なんで、さっき縄が言っていた、そもそも粘土をどう寝かせていたかっていう・・・今の人はビニールにくるんで寝かせられるんですけど、昔の人はそんなものはないので、どういうふうに寝かせていたのかは、めちゃくちゃ知りたいのと、あと最近挑戦しているけど、失敗続きなのが釣りなんですよ。

 縄文時代に鹿角の針って実際使っていて、それが出土していて博物館に行くと見られるんですけど、いわゆるJの形をした針だったり、両端が尖ったまっすぐの棒の形をした釣り針だったり、いろんな釣り針の種類があるんですね。僕らもいろんな種類を作って、実際試しているんですけど、まったく! 釣れなくて、縄文人の釣りに同行したいです。どうやって、あれで釣っているの!? めちゃくちゃ見たい」

縄さん「確かに釣り、見てみたいな〜、めちゃくちゃ見たいわ〜。化け物みたいにデカくて、アホみたいに簡単に釣れるんじゃないかっていう・・・言い訳みたいな話はするんですけど、魚が違うんじゃないかと・・・」

文さん「そもそも魚が違ったんだろう、みたいな負け惜しみはあるんだけどね(笑)」

縄さん「いっつも負け惜しみ、かれこれ4か月釣れないから・・・」

文さん「それ、めちゃくちゃ気になってます!」

縄さん「気になるな〜」

写真提供:横井明彦、協力:(株)産業編集センター 出版部

INFORMATION

『週末の縄文人』

『週末の縄文人』

 縄文活動をまとめた本をぜひ読んでください。おふたりの本気度がよくわかります。火起こしに始まり、石斧、紐、土器、そして竪穴住居づくりまで、試行錯誤の末に成し遂げたサバイバル・エッセイ! 面白いです。火の起こし方や石斧の作り方なども掲載。スーツ姿で活動する様子もカラー写真とともに紹介されています。縄文人の活動をやってみたいかたは、相談にのってくれるそうです。連絡先は本に掲載されていますよ。
 産業編集センターから絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎産業編集センター:https://www.shc.co.jp/book/19045

 週末縄文人のオフィシャルサイトでは動画も見ることができます。

◎週末縄文人:https://wkend-jomonjin.com

シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第15弾! 〜持続可能な漁業のための認証制度とMSC「海のエコラベル」

2023/11/5 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第15弾! お話をうかがうのは、水産資源を守り、環境に配慮した持続可能な漁業の普及活動を行なう、一般社団法人「MSCジャパン」の広報担当シニア・マネージャー「鈴木夕子(すずき・ゆうこ)」さんです。

 今回は「SDGs=持続可能な開発目標」の中から「海の豊かさを守ろう」ということでサステナブル ・シーフードにフォーカス! 「MSCジャパン」が取り組んでいる持続可能な漁業のための認証制度やMSC「海のエコラベル」についてうかがいます。

☆写真協力:MSCジャパン

一般社団法人「MSCジャパン」の広報担当シニア・マネージャー「鈴木夕子」さん

魚の獲りすぎで35,000人もの人たちが失業!?

※まずは「MSC」について教えてください。いつ、どんな目的で設立された団体なんですか?

「MSCは持続可能な漁業を普及する活動を行なっている国際的な非営利団体です。本部はロンドンにあって、1997年に設立されました。MSCが出来たきっかけは、1990年代初頭にカナダのグランドバンクというところで、マダラの漁業が崩壊してしまったということがあるんですね。

 どういうことかと言いますと、それまで獲れるだけ獲っていったマダラ漁業なんですけれども、獲りすぎてしまって、全く獲れなくなってしまったということが起きたんですね。それでマダラの漁業が崩壊したことによって、漁業者さんもそうですし、そのマダラを加工して缶詰にしたりとか、そういった加工業者も潰れてしまって、35,000人の漁業者や工場で働く人たちが失業したということが起きました。

 そこで魚の獲りすぎが環境や生態系だけではなくて、人の生活にもすごく影響を与えるということが浮き彫りになって、このままではいけないということで、持続可能な漁業に関する認証制度が必要だということになり、MSCの構想が練られ、1997年に設立したということです」

●鈴木さんが所属されている「MSCジャパン」はいつ開設されたんですか?

「それから10年たって2007年に設立されました。当初はまだ持続可能な漁業とかサステナブルといった言葉は、ほとんど聞かれていない時でしたので、日本事務所が設立されて、漁業者さんや企業さんに説明に行ったりしても、なかなか理解していただくことが難しくて、うちは必要ないですっていうような感じだったっていうのは、設立当初からいたメンバーに聞いております。

 ただ、最近は魚が獲れなくなったとか、そういった水産資源の危機感が広がっていることですとか、あとは2015年に国連でSDGsが採択されたことですとか、リオデジャネイロ・オリンピックなどで認証の水産物が調達されて、それが東京オリンピックにも続いたりとか、そういったことがあって、設立から10年ぐらい経ってから急速に理解や認証水産物の商品が広がってきたということがあります」

(編集部注:「MSC」は現在、ヨーロッパや南北アメリカ、アジアを含め、世界20カ国に支部があるそうです。毎週のようにオンライン・ミーティングを行ない、世界の水産資源の状況や、漁業に関する最新情報を共有しているそうですよ)

海のエコラベル

3つの原則と、25の業績評価指標

※ここからは「MSC漁業認証」について、詳しくうかがっていきたいのですが、どんな認証制度なのか、具体的に教えていただけますか。

「MSC漁業認証というのは、持続可能な漁業に与えられる認証なんですね。審査は3つの原則に基づきます。それを漁業者さんが満たす必要があります。
 
 原則のひとつ目が、自然の持続可能性に関するもの。例えば、その漁業者さんが漁獲の対象とする魚種の資源が十分な量があるのかどうか、持続可能なレベルにあるのかどうかというところがチェックされます。その資源が持続可能なレベルにないとなると、もうそこでダメということですね。

 ふたつ目が、漁業が生態系に与える影響について。その漁業が対象としている魚以外の魚介類ですとか、あとはウミガメやウミドリとか、ほかの生き物、絶滅危惧種などが間違って網にかかるということがあるんですね。それを最小限に抑えているか。例えば、その網にかかるほかの生き物が多ければ多いほど、生態系に影響があるので、そういった影響を最小限に抑えられているかというところの確認が行なわれます。

 3つ目が、漁業の管理システム。ここでチェックされるのが生産資源が豊富にあるか、原則1の生態系への影響ですね。そういった原則を満たすことができるように、きちんと国際ルールや国内法が整備されていて、それが守られているかどうか、この3つの原則のもとで審査されます。

 この3つの原則の下に25の業績評価指標というのがあって、その項目に照らし合わせて審査されます。各項目で60点を下回るのがひとつでもあると認証されないということです。
 また60点から80点未満の指標についてはOKではあるんですけれども、期限を定めて80点以上になるまで改善するといった条件がついての認証ということになります。なので、かなり厳しい審査が行なわれるということですね」

●たくさんの審査がありますけれども、その審査はどなたがされるんですか?

「審査はMSCがするのではなくて、独立した第三者の審査機関が行ないます。私たちの仕事というのは、その認証制度の規格を設定するんですね。その規格を作った団体が審査まですると、透明性とか公平性が保てないので、第三者がその規格に基づいて、その漁業がきちんと(基準を)満たしているかを審査するということになります」

MSC漁業認証を取得した「近海かつお一本釣り漁業国際認証取得準備協議会」
MSC漁業認証を取得した
「近海かつお一本釣り漁業国際認証取得準備協議会」

MSC漁業認証のメリット

※漁業者は、その認証を取得することによって、どんなメリットがありますか?

「まず、サステナブルであるという付加価値をつけることで、ほかの水産物と差別化することもできますし、イメージを向上することができるということですね。あとは新しい市場とか販路の拡大ということもあります。特にMSC認証というのは海外で広がっているので、輸出を考えている漁業者さんにとってはすごく大きいですね。

 特に欧米の消費者は、サステナブルな魚でないと買いたくないというかたも多くいらっしゃるので、そういう意味で既存の市場プラス新たな市場を開拓できるということ。
 あとは持続可能な漁業を行なうことによって、長期的には漁獲量が増加するということで、自分たちの漁業も持続可能になるというところですね。次世代にも漁業を受け継いでもらえるような、そういったメリットがあります」

●認定されると、認証マークをつけることができるんですよね?

「そうですね。その(認証を受けた)漁業で獲られた水産物がサステナブル(シーフード)として消費者に届くまでに、ラベルを貼るので、消費者が認証を受けた漁業で獲られた水産物ということが分かるようになっています」

●海のエコラベル、ですね。

「はい、MSC『海のエコラベル』という名前です」

●このMSC漁業認証という制度を漁業関係者に広めて理解してもらうためには、大変なパワーがいると思うんですけれども、いかがですか?

「MSC漁業認証の取得は、漁業者さんの自発的な意思によるものなんですね。自分たちがちょっと挑戦してみようかなというふうに興味を持った漁業者さんから問い合わせをいただいて、そこでいろいろ説明をすることになります。

 MSC漁業認証の審査がすごく厳しくて、審査項目も多岐に渡るということを、まず知っていただきます。その中でも例えば、漁業者さんが漁獲している以外の生き物とか、その周りの環境までが審査項目に入ったりするので、初めのうちは、なぜそこまで審査の対象になるのかという疑問を持たれることがよくあるんですね。そういった漁業者さんの通常の漁業の中では、あまり馴染みのない部分は丁寧に話すようにしています。

 ただ、漁業認証を取得しようと考えている漁業者さんは魚がなくなってしまう、減ってしまうと、漁業そのものが成り立たなくなるという危機感をすでにお持ちです。次世代に水産資源を残したいという使命感も持っていらっしゃるので、こういった話をするとご納得いただいています」

(編集部注:MSC漁業認証を取得した漁業は現在、日本では18件、世界では539件あるそうです。最近では、SDGsの気運の高まりや、水産資源の減少傾向などもあり、MSC漁業認証の取得を目指す漁業関係者からの問い合わせが増えているとのこと。

 この認証は、取得すれば、それで終わりではなく、5年ごとに更新の審査が行なわれ、改善の条件が付けられるので、認証を維持すればするほど、持続可能な漁業の質が高まっていく、そんな制度になっているそうです)

写真協力:MSCジャパン

MSC漁業認証の質を守る、もうひとつの認証制度

※ここまでお話をうかがってきて、MSC漁業認証については、ある程度、理解できたんですが・・・ふと、素朴な疑問が浮かんできました。認証を取得した漁業の水産物と、そうじゃない水産物が混ざったりすることはないんですか? 

「それはないですね。というのは、MSC認証にはふたつの認証があって、そのふたつの認証からなっているんですね。先ほどお話ししたMSC漁業認証と、あとMSC CoC(シー・オー・シー)認証というふたつがあります。この『CoC』っていうのは、英語ですと“Chain of Custody(チェイン・オブ・カストディー)”と言いまして、日本語にすると管理の連鎖、鎖という意味があります。

 せっかく漁業者さんが漁業認証を取得しても、その魚が消費者の手元に届くまでに認証ではない水産物が混じってしまったら、全く意味がなくなってしまうので、漁業者さんが水揚げしたあとに卸売業者さんから水産物のパッケージを行なう最終の包装業者までの、サプライチェーン全体に対する認証がCoC認証というものになっています。
 そのふたつがセットになって初めてラベルが付けられるということは、その漁業者さんが獲った、認証を取得した水産物が確実に自分たちのところに届いているんだなということの証明になります」

●なるほど。認証水産物が仲介業者とか加工業者にいっても、そこでも認証水産物ではないものと混ざるっていうことはないわけですね?

「そうですね。混ざるということはないです。入荷して加工・保管などすべての段階において認証の商品であるということが、識別できるような管理が求められたりとか、あとは製造ラインを分けるなどしても確実に分別することが求められています」

●漁業者から小売店までの流通ルートの中で、この認証に対する理解と認識がすごく大事になってくると思うんですけれども、その辺りはどうやって広めているんですか?

「MSCとしても、MSC認証制度の重要性を業界のかたがたに発信しているんですけれども、最近では魚が減ってきていることの危機意識ですとか、持続可能な水産資源を管理するという重要性がすごく高まってきているので、水産業界ではこうした取り組みを行なうということが、当たり前という風潮にはなってきているというのを感じています」

写真協力:MSCジャパン

MSC「海のエコラベル」、500品目以上!

※私たちが、持続可能な漁業を応援するためにはMSC「海のエコラベル」がついた水産物を積極的に買うことだと思うんですけど、どこで販売していますか?

「よく聞かれる質問で、なかなか見たことがないと言われることがあるんですけれども、実は結構身近なところで手に入ります。

 イオングループですとか、生協/コープ、セブン&アイグループ、ライフ、あとはマクドナルドとか、私たちにとって身近なスーパーとかレストランに置いてあったりします。あとはスーパーの店頭だけではなくて、航空会社の機内食とかホテルのレストラン、大学の学食などでもMSC『海のエコラベル』を表示したメニューが提供されています。

 どういったものにMSCラベルが貼られているかと言いますと、魚の切り身とかそういった鮮魚だけではなくて、水産加工品、ちくわやカニカマ、からし明太子とか。あとは白身魚のフライなどの冷凍食品ですとか、缶詰めなどもあります。最近新しいところでは猫の餌、猫缶にもMSCラベルが付くようになりました」

イトーヨーカドーの水産コーナー(価格は撮影当時の価格)
イトーヨーカドーの水産コーナー(価格は撮影当時の価格)

●かなり身近にあるわけですね!

「そうなんです。ただ見たことがないという声も大きいのは、やはり日本ですとスーパーの種類がすごくいっぱいあるので、近所のスーパーでは扱ってなかったということもあるかと思います」

●意識してちゃんと見てみます!

「はい、ありがとうございます。意識しないと全然目に入ってこないんですけど、一度意識すると実は結構あるなっていうことに気付くかと思います 」

●では改めて、リスナーのみなさんに伝えたいことを教えてください。

「実はMSC『海のエコラベル』が付いている商品というのは、日本で500品目以上あって、たくさんの種類がいろいろなところで売られています。サステナブルな商品っていうと、ちょっと値段も高いんじゃないの? と思われるかもしれないんですけれども、実はそんなことはなくて、通常の商品とほとんど(値段は)変わらないですね。

 なので、商品を選ぶ時にラベルが付いたものを選ぶようにすると、持続可能な漁業を目指す漁業者さんが増えていって、海の環境を守ることにもつながりますので、ぜひ見かけたら選ぶようにしてください。
 また、近所のスーパーでもし売ってない場合は(お店のかたに)扱ったりしていますか? というふうに聞いていただくことも、スーパーのかたたちはお客様の声を聞くようにしていますので、それもすごく大きな力になると思いますので、ぜひよろしくお願いします」

コープの水産コーナー(価格は撮影当時の価格)
コープの水産コーナー(価格は撮影当時の価格)

INFORMATION

MSC海のエコラベル

 「MSCジャパン」では消費者に、MSC認証制度とMSC「海のエコラベル」をもっと広く知ってもらうために、年3回キャンペーンを行なっているそうです。先月は、この番組のホームページでもご紹介しましたが、「サステナブルシーフード・ウィーク」というキャンペーンが展開されていました。来年1月には「サステナブルなお魚レシピ」を公開するそうです。

 ちなみにMSCアンバサダーは、海洋生物好きで知られているココリコの田中直樹さんですよ。MSC認証とMSC「海のエコラベル」、そして活動について詳しくはMSCジャパンのサイトをご覧ください。

◎MSCジャパン:https://www.msc.org/jp

「枯木こそ山のにぎわい」〜枯木が育む生き物と森林生態系

2023/10/29 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、東北大学大学院の准教授「深澤 遊(ふかさわ・ゆう)」さんです。

 深澤さんは1979年、山梨県生まれ。信州大学 農学部卒業、京都大学大学院 農学研究科修了。そして、研究職から、森林組合やトトロのふるさと財団の職員を経て、現在は東北大学大学院の準教授として活躍されています。

 子供の頃の深澤さんはコケが大好きな少年で、小学校3年生の夏休みの自由研究が「リアルコケ図鑑」。その後、やはり小学生の頃に、国立科学博物館の子供向け講座でアメーバの仲間「変形菌」に出会い、その時もらった飼育セットで変形菌を育てたり、自分で見つけた変形菌をスケッチしたりと、夢中になっていたそうです。

 現在、深澤さんは、森林の生態に関する研究をされていて、特に枯木が生き物や環境に対してどんな役割を果たしているのかを調査・研究されています。そして先頃『枯木ワンダーランド』という本を出されました。

 きょうはそんな深澤さんに枯木を舞台に繰り広げられる、生き物たちの驚くべき営みや、枯木が人間にもたらす恩恵のお話などうかがいます。

☆写真協力:深澤 遊

深澤 遊さん

枯木のスペシャリスト

※まずは、深澤さんのご専門を教えてください。

「森林の生態学を研究しています。生態学っていうのは生物がどのように暮らしているかとか、環境やほかの生物と、どのような関係性を持って暮らしているのかを調べる学問分野です。
 その中で森林生態学は森にどのような生物がいて、それらによって森がどのように成り立っているのかを調べています。僕はその中でも特に木が枯れたあとの枯木ですとか、そこに棲んでいる菌類など、微生物の生態に注目して研究しています」

●具体的には、どんな研究をされているんですか?

「具体的には、森の枯木の中にどんな種類の菌類がいて、それによって枯木がどのように分解されていくかを調べています。最初は同じ枯木でも分解に関わる菌類の種類によって、全く違うように腐朽していくんですよ。それが森林の炭素貯留量に影響する可能性ですとか、森林の生物多様性に影響する可能性のようなものを探っています」

●どんな菌類なんですか?

「枯木に生えているシイタケとか、そういったキノコを想像していただければいいと思うんです。キノコは、要は花みたいなもので、枯木の表面に菌が花を咲かせたような状態なんですよね。
 その菌の本体は枯木の中の菌糸。カビと同じような形で枯木の中にいて、それが本体なわけですね。その本体の菌糸が、枯木を分解して栄養にして生活しているんですけども、枯木の中でどういう菌がいて、どういうふうに菌が枯木を分解しているのかっていうようなことを研究しています。

 枯木の中を削ってみると、枯木の断面に黒い線が見えるんですよね。その黒い線は枯木の中にいる菌類のコロニーの境界線なんです。それを見ると本当にモザイク模様みたいになっていて、枯木の中でいろんな菌類のコロニーがあって、それが空間の獲得競争をして、陣地争いみたいな状態になっているんですね。そういうのを見ると面白いですね」

変形菌
変形菌

(編集部注:深澤さんは大学の2年生まで山岳部で活動、大学院生の時にはアメリカのカリフォルニア州にあるヨセミテ国立公園に行き、クライミングを楽しんだこともあるとか。研究者になって調査のためにひとりで山に出かけることもあるので、やはり、安全を確保する山の経験は活きているそうです)

生き物で賑わう枯木!?

『枯木ワンダーランド~枯死木がつなぐ虫・菌・動物と森林生態系』

※ここからは深澤さんが先頃出された本『枯木ワンダーランド』から、番組で気になったワードや項目についてお話をうかがっていきます。
 前書きに「枯木も山のにぎわい」ではなくて「枯木こそ山のにぎわい」と表現されています。枯れてしまった木が「にぎわう」とは、どういうことなのか、教えてください。

「これは枯木に棲んでいる生き物が、非常に多様だっていうことですね。森に虫を探しに行って何も見つけられなかったら、多分枯木をひっくり返せば、大抵何かいますし、例えば、クワガタが好きな人だったら、枯木の中にクワガタの幼虫が棲んでいることをよく知っていると思います。
 それだけではなくて、腐った倒木の上にはよく苔や木の芽生えも生えていますし、目を近づけてみるといろいろなキノコが生えていたり、小さい虫が歩き回っていたり、何かを食べていたりします。

写真協力:深澤 遊

 さらに、先ほど言いましたようにノコギリで切って中を覗いてみると、菌類のコロニーの境界線が見えたりしますので、それらを見ているだけでも面白いんですよ。さらに培地の上に培養してどんな菌類なのか調べたりですとか、枯木の成分の分析をして、どんな物質が残っているかを調べると、枯木の中の生き物の営みがわかってきて、さらに面白いです。
 そういうことが見えてくると、枯木は多種多様な生き物の営みでにぎわっているということがよくわかると思います」

●枯木ってものすごく情報量があるんですね?

「そうですね」

●2015年からは森の中にあるご自宅の庭で、枯れたコナラをそのままにしておいたり、伐採した同じくコナラなどの丸太を庭に放置してあるということですけれども、お庭が研究のためのフィールドになっているっていうことですか?

「はい、そうです。庭はやっぱりいちばん近いフィールドなので、大事にしています。生態学で新しい発見をするのに、やっぱりどれだけ生き物を観察できるかっていうのが肝になることが多いんですね。遠くのフィールドと違って、庭はいつでも観察できるので、誰も知らない発見ができるかもしれません」

写真協力:深澤 遊

●今、特に注目していることはあります?

「実際、本にも書いたんですけれども、ある冬の朝、リスが庭にやってきて枯木の樹皮を剥いて、その下の菌を食べることを初めて発見したんですよ。さらにその樹皮の下に菌が生えていて、その菌に独特な昆虫がやってくることも庭の調査からわかりました」

●ものすごく近いフィールドでいいですね、研究しがいがあって!

「そうです。自分の(部屋の)椅子の上から全部見えるので・・・」

お菓子の家に棲む!?

※枯木は、分解するまでには長い時間がかかると思いますが、年ごとに、季節ごとに、枯木を利用する生き物も変化していくってことですか?

「そうですね。やっぱり分解していくので時間に伴って、分解していく時の成分だとか、いろいろなものが変化していくので、そこに棲んでいる生き物もだんだん移り変わっていきます」

●どういう生き物が、どうやって変化していくのかを教えていただけますか?

「はい、いちばん重要になるのはやっぱり水分で、木が生きている時は、ある程度水分を含んでいて、これによって菌類の侵入を防いでいるっていう側面があるんですけれども、木が枯れると一旦乾燥していきます。この乾燥によって菌類が成長して、木を分解できるようになるんですね。

 最初は、木が生きていた時から内部に潜んでいた菌類がいて、”内生菌”っていうんですけれども、これが成長を開始します。 ただこの菌はあまり木材の分解力はなくて、糖分なんかを食べて生きているんですよ。この糖分がなくなるとすぐにいなくなっちゃうんです。
 そのあとに木材を分解できるような種類の菌類が胞子とかで定着してきて、枯木を分解していくと、だんだん木材がボロボロになっていきますよね。そうすると水が染み込みやすくなって、含水率がだんだん上がってきます。

  そうなると表面にだんだん苔が生えてきたりだとか、乾燥した木材が好きなカミキリムシやゾウムシの幼虫から、湿った材木が好きなクワガタムシの幼虫に、内部の昆虫種も移り変わってきたりします。この頃になると、倒木の表面に木の芽生えが生えてきたりして、次の世代の森が倒木の上で育っていくわけです」

写真協力:深澤 遊

●生き物たちは枯木から、どんな恩恵を受けているんですか?

「枯木に棲んでいる生き物にとって多くの場合、枯木は住処であると同時に食べ物でもあります。イメージとしてはお菓子の家に棲んでいるようなものなのかもしれません」

●枯木って本当にただの燃料みたいなイメージもありましたけれども、そうではないわけですね。枯木には、いろんな生き物に必要な養分があるっていうことですか? 

「そうですね。枯木は重さの半分程度が炭素でできています。炭素はすべての生き物が体を作る上でいちばん重要な物質で、あらゆる生き物はどこかから炭素をもらってくる必要があるわけですね。
 植物は光合成によって空気中の二酸化炭素から炭素をもらってきていて、ほかの生き物は植物を食べることで、あるいはほかの動物を食べることで炭素を得ています。枯木を食べる生き物は、枯木から炭素を得ているっていうわけです」

枯木は燃料!? バイオマス発電の是非

※本の第2部に「枯木が世界を救う」という見出しがついていて、その中に「枯木が消える」というチャプターがあります。これは森から、枯木が消えてしまうってことですか?

「はい、そういうことです」

●これは日本の話ですか?

「日本では現在まだ、それほど消えていないと思います。ただ心配なのは、枯木などのバイオマスを燃やして発電するバイオマス発電が、とても推奨され始めていることです。
 木材は確かに木が成長すれば(発電は)できるので、再生可能エネルギーなんですけれども、燃焼で失われるスピードに対して、木が成長するスピードはあまりにも遅いので、とてもではないですが、現在の人口が必要としているエネルギー量をバイオマス発電で賄って回していくことができるとは思えません。
 なので、バイオマス発電が広く行なわれるようになったら、山から枯木はあっという間になくなってしまうんじゃないかと思います」

●あっという間になくなってしまったら、生物多様性がそれこそ損なわれてしまうと思うんですけれども、ほかにはどんな影響が考えられますか?

「やっぱり枯木が燃料として使われると、枯木の中に保存されていた炭素が二酸化炭素として大気中に放出されますので、温暖化が進行するんじゃないかと思います。バイオマスを発電に使うと、化石燃料を使った場合の2〜3倍の炭素を放出する可能性もあるそうです」

写真協力:深澤 遊

●改めてなんですけど、木は光合成を行なう過程で、地球温暖化の主な原因になっている二酸化炭素を吸収してくれているんですよね。で、木はその二酸化炭素を自分の中に溜めているということですよね?

「はい、そうですね。それで体を作っているので」

●その木が枯れてしまったら、その二酸化炭素は・・・?

「分解されたり燃やされたりすると、二酸化炭素として放出されるってことになります」

(編集部注:枯木をバイオマス発電などに広く利用するようになると、森から枯木がなくなってしまうというお話がありましたが、深澤さんは森の中にある枯木を、単なる燃料として見ることに警鐘を鳴らしています。詳しくはぜひ、深澤さんの本『枯木ワンダーランド』をチェックしてください)

枯木の下もワンダーランド

※枯木を観察していて、どんなときにいちばんワクワクしますか?

「やっぱりまだ見たことのない生き物を見つけた時ですかね。初めて見る変形菌とか、キノコ、苔、虫、ナメクジ、カタツムリ、ヘビ、サンショウウオとか、いろいろな生き物を枯木で観察できますので・・・。あとは、ものすごい巨木の枯木を見た時とかは、目の前に保存されている時間の長さにくらくらしたりします」

●都市公園には枯木がそのままにしてあったりとか、丸太が放置されているっていうことはなかなかないと思うんですけれど、もし見かける機会があったら、どんなところを見ると面白いですか?

「もし許されるのであれば、樹皮を少し剥がしてみたりですとか、樹皮の裏側にいろいろな生き物が隠れていたりしますし・・・・。あと丸太、枯木を転がして、その下に隠れている生き物を探してみると面白いと思います。

 実際、僕も枯木を調査しながら、いろいろな国で枯木の下を見てみるってことをやっているんですけれども、国とか場所によって、本当に枯木の下に潜んでいる生き物が全然違っていて面白いですよね。
 日本だとミミズがいたり、シロアリとかアリがいたり、時々ヘビがいたりとかすることが多いです。アメリカの東海岸では、枯木の下にサンショウウオがいっぱいいたりだとか、ヨーロッパではナメクジが大量にいたりしましたね」

●国によって全然違うんですね! では最後に、今後の研究で明らかにしたいことを教えてください。

「研究テーマは、マクロなものからミクロなものまで、いろいろあるんですけれども、マクロなテーマとしては、枯木を分解する菌類や、その分解機能が世界的に見て、どのような分布をしているのかを明らかにしたいと考えています。これは地球の環境が変わると、菌類の種や枯木の分解がどのように変わるかといった予測にもつながると思います。

 ミクロなテーマとしては、個々の菌類が環境に応答しているとしたら、その生理的なメカニズムですとか、これはちょっと違う話になってしまうんですけれども、菌類の菌糸が持つ機能と知能とか、そういったものについて明らかにしていきたいと思っています」

写真協力:深澤 遊

INFORMATION

『枯木ワンダーランド~枯死木がつなぐ虫・菌・動物と森林生態系』

『枯木ワンダーランド~枯死木がつなぐ虫・菌・動物と森林生態系』

 深澤さんの本をぜひ読んでください。枯木が分解の過程で、いかに生物多様性に貢献しているのか、まさに「枯木こそ、山の賑わい」というのがよくわかりますよ。そして、森から枯木をなくすことで、どんな影響が出てくるのか、さらに枯木が地球環境の保全に役立っている仕組みなど、興味深い内容になっています。深澤さんが描いた精密なスケッチも必見!  築地書館から絶賛発売中です。
 詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎築地書館:http://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN978-4-8067-1653-2.html

 深澤さんのサイトもぜひ見てください。

https://www.agri.tohoku.ac.jp/jp/researcher/fukasawa-yu/

あなたのお悩みに「動物」を処方!?心がちょっと軽くなる“動物行動学的”読むお薬

2023/10/22 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、動物行動学者の「新宅広二(しんたく・こうじ)」さんです。

 新宅さんは1968年生まれ。上智大学大学院、京都大学霊長類研究所を経て、上野動物園、多摩動物公園に勤務。その後、国内外のフィールドワークを含め、400種以上の野生動物の生態や飼育方法を修得。専門は動物行動学と教育工学。

 そんなキャリアを活かし、国内外のネイチャー・ドキュメンタリーや科学番組、そしてきょう解説していただく動物フィギュア「アニア」などの監修も担当。さらに国内外の動物園や水族館、博物館のプロデュース、また、大学や専門学校で教鞭をとるほか、これまでに『しくじり動物大集合』や『危険生物最恐図鑑』など、生き物に関するユニークな本を数多く出されています。

 そんな新宅さんの新しい本が『あなたにゴリラを処方します。悩みがちょっと軽くなる動物の読み薬』。

 この本は、私たち人間が抱えているお悩みに対して、「ところで、動物たちはどうしているんだろう」という観点から、読者から寄せられたお悩みに、動物を処方するという設定で動物の生態や行動を紹介。くすっと笑えて、少し心が軽くなる、読むお薬になっているんです。

 そこできょうは、私たち人間が抱えているお悩みを、動物行動学の視点で分析していただくほか、新宅さんが監修されている動物フィギュア「アニア」についても解説していただきます。

そして今回は、新宅さんの本と「アニア」をセットで、3名のかたにプレゼントいたします。「アニア」はライオン、アフリカゾウ、マサイキリンなど、サバンナの人気動物セットです。
 応募方法はこちら

新宅広二さん

寝相のお悩みにパンダ!?

●この本は7つのチャプターに分かれています。まずは、チャプター1「小さな悩み」から「寝相が悪いんですけど・・・」という33歳の女性のお悩みに、ジャイアントパンダが処方されています。 これはどういうことなんでしょうか?

「私の中でいちばん寝相の悪い動物は何かなって考えた時に、ジャイアントパンダだったんですね。 私は上野動物園にもいましたので、やっぱりあの寝相や寝姿がヴァリエーションが多くて、非常に面白いんですよね」

●どんな寝方をするんですか?

「普通の動物にとっては、お腹は骨がない部分で、いちばん急所なんですよね。寝るっていうことは、いちばん無用心になっちゃうので、お腹をさらすっていうことはないんですよね。いちばん大事な部分を下にして、丸くなって寝るのが大体の動物ですけど、パンダは文字通り、大の字になってグーグー寝ますから」

●お腹、全開!

「もうお腹を全開にしちゃって寝ますからね~。寝姿の悩みはパンダに聞いてもらったほうが・・・(笑)、パンダがなんと言っても、寝姿の最高の進化を遂げた動物なんですよね」

●すごいですね! 安全性は大丈夫なんですか?

「これは、実は生態とも関係しているんですね。パンダは(標高)4000メートル以上に棲む、すごく高山の動物なんですよね。だから天敵がいないので、用心する気持ちが、長い進化の過程でなくなっちゃったんです。なので、動物園で飼うようになっても不用心な姿で寝るようになっているんですよ。野生の緊張感の高い生態で暮らしているような動物たちは、なかなかお腹丸出しで寝るってことはないです」

●続きまして、チャプター2「容姿性格の悩み」から「ダイエットに失敗しました」という24歳の女性からのお悩みにクマが処方されていますけれども・・・。

「ダイエットとリバウンドの最強の動物と言えば、クマですね」

●痩せたり太ったりっていうことですか。

「動物の中でいちばんその差が大きいですよね。よくご存じかと思います。例年秋口に、冬眠に入る前なんかにクマのトラブルの問題が報じられますよね。あれは食い貯めをしとかなきゃいけないので、どんぐりとかいろんなものを食べ漁って、1日5000キロカロリーっていうとんでもないカロリーモンスターですから、それを取っていくんです。
 一方、半年間1日5000キロカロリーも食べるような食生活をしたかと思うと、それ以降、半年間の冬眠では1滴も飲まず食わずの減量期間で、冬眠明けの春には激痩せして出てくるんですよね」

●え~〜、なんだか人間としては体に悪そうって思っちゃいますけど・・・。

「もうすごいですよね〜。ですから、その生理のメカニズムがまだ完全に解明しきれていなくて、医学的にも非常に注目されているんですよね。冬眠がどういうメカニズムになっているのかっていうのは、まだまだ謎が多くて面白いんですよね」

●そんなに体重が変化していても、健康状態は別に悪化したりっていうのはないんですよね?

「そうですね。飲まず食わずというだけじゃなくて、おしっこ、うんちもしないっていうところが面白いとこなんですよね。毒で体に貯めておくといけないものをエネルギーに変える能力が、実はクマにはあるんですよね」

●え~! すごいですね~!

新宅広二さん

仕事のお悩みにミツバチ!?

●では、チャプター3「仕事の悩み」から25歳の女性、「仕事が楽しくなくて」というお悩みに処方箋がミツバチ。で、次のページに37歳の男性からの「働かないとダメですか?」という悩みに対して、ミツバチのオスを処方されています。これはどうしてミツバチなんですか?

「ミツバチは面白いんですよね。無脊椎動物、どういう点を見るかにもよるんですけど、脊椎動物でかなり社会性が複雑になって頂点を極めているのは、ひとつは人間もあるかと思うんですけれども、その対極って言うんでしょうかね。無脊椎動物で非常に複雑な社会に進化させているものがミツバチなんですよね」

●ミツバチ!?

「特に分業で、仕事が割り当てられていて、それがいろいろ選べるって言いますかね」

●例えば、どんな分業がありますか?

「例えばですけど、ミツバチの働きバチ、“ワーカー”って言われているのは、みんな実はメスなんです。まだ羽化したばっかりの時は、いろんな経験を積んでいないので下手くそなんですよね。だからまず、お掃除係から訓練して・・・」

●へ~〜! 下積みみたいですね。

「下積み期間があって、そこでいろいろ学んでいくと、今度は育児、卵とか幼虫の世話をする仕事に昇格して、経験を積んでいくと、門番と言って、巣のところで見張りをしたりするんです。例えば、クマとかいろんな天敵が蜜を盗みに来たりして、そういうのから守るガードマン役をやったりするんですね。

 だんだん配属を変えていきながら出勤して、OJT(*)みたいにやってですね。いちばん究極に難しいのは、餌を採ってくること。それまでは内勤の仕事なんですよね。これが外勤バチって言われるんですけど、外に出て花の蜜を探して採ってくる作業は、かなりの経験が必要で、仲間にそれを伝えなきゃいけないんですよね。

 何キロも先の餌源(えさげん)がどっちにあって、それがどんな食べ物なのかっていうのを伝えて、みんなで採りに行くんですけど、いちばんベテランになると、そういうのができるようになってくるので、きっとそういう仕事の中で楽しみを選べるかもしれないですね(笑)」
(*On the Job Trainingの略 )

●なるほど! 確かにそうですね。ところでミツバチのオスっていうのは?

「一方で、面白いんですけど、オスがほとんどいないんです。ちょこっとはいるんですね。何千匹、何万匹いる中で、数匹いたりするんですけど、それの役割がよくわかっていないんですね。もちろん卵を産ませるっていう仕事はあるんですけど、それ以外は巣の中でうろちょろしているんです。別に餌を採りに行くわけでもなく、お掃除するわけでもなく、育児を助けるわけでもなく・・・」

●メスがこんなに忙しく働いているのに!

「(メスが)命がけでやっていても、(オスは)何にもしてなくて、ぼーっとしていて、うろうろしているだけで、時々蜜なんかをちょっとつまみ食いなんかしてっていうように、働かないバチなんですよね、オスっていうのはね。

 だからすごく両極端で、でもそれが進化的に淘汰されてもいい、そういうものができるだけ存在しないような形にも進化的にできたでしょうが、なんとなくそういうものも生きていける余裕を残してくれている面白さっていうのが(ミツバチの)進化の中にありますよね」

●では、働かないとダメですか? っていうこの37歳男性のお悩みには・・・。

「まあ、ミツバチをお手本にしたらいいかもよ! っていうところですね(笑)」

ビーバーはマイホームパパ!?

●続いてチャプター4「家庭の悩み」から「マイホームを持つのが夢」という38歳男性からの悩みですね。悩みというか願望なんですけれども、処方箋がビーバーとなっています。これはどういうことでしょう?

「このマイホームパパを代表したような動物がビーバーなんですね。ビーバーはネズミの仲間で水辺、水性に適応して進化した動物なんです。木を切って川をせき止めてダムのようなものを作るのは、割とみなさんイメージとしてあるかと思うんですけど、(川の)真ん中のところに木を集めて巣を作るんですよね。

 天敵の泳げない猫科の動物なんかは水を嫌ったりするので、水の中に行けないんです。生き残るために機能的な巣を作っているんですけども、実はそれだけじゃなくて、このビーバーのお父さんはメンテナンスもすごくこまめにやるんですね。自分で作ったお家が大好きで、枝の角度とかそういうのを、ちょっと気にいらないと直したりとか・・・」

●DIYみたい!

「DIY! ひとりでね! 子供とか呆れているかのように、またやっているよ! っていう感じで、お父さんがすごく一生懸命、家のメンテナンスを欠かせないんですよね。
 私は動物園にいた時にビーバーに実験したことあるんですね。ダムが決壊したりした時に補修をするのもビーバーのお父さんの仕事なんです。すっ飛んで行って泳いで、枝とかをあてがって補修をするんですね。

 水の流れる音を、おトイレのジャ〜って流す音を録音して、飼育しているビーバーに聴かせたら、ビーバーがものすごいダッシュで飛んできて、“どこですか? 壊れてるの! どこ?”って感じで、直す気満々で。それぐらい、なんて言うんでしょう、子供を守る以前に、マイホームのメンテナンスに命をかけているぐらいの面白い動物ですよね」

動く動物フィギュア「アニア」

※新宅さんは、タカラトミーの動物フィギュア「アニア」の監修もされています。この「アニア」、陸や海の動物をはじめ、鳥、昆虫、恐竜など、幅広いジャンルの生き物、およそ100種類ほどが販売されていて、子供はもちろん、大人にも大人気なんです。

タカラトミーの動物フィギュア「アニア」

●きょうはスタジオにたくさん持ってきていただきました。ありがとうございます。ゴリラとかキリンとか、サイとかパンダとか、いろいろな動物がいますけれども、よくできていますね~!

「このアニアは、動物フィギュアとしてもちょうど10周年になって、だいぶラインナップも揃ってきたんです」

●すごい! 質感もしっかりしているというか、合皮のような感じで・・・。

「そうですね。普通の動物フィギュア、いま世界中で割と大ブームになっているので、いろんな精工なものがありますけど、その多くが飾って楽しむようなものがほとんどなんですね。アニア はやっぱり玩具メーカーのものなので、遊んでもらうためのものっていうことで、いろいろ動く部分があります」

●首とか足が動いたり・・・これはハヤブサですね。羽も動くんですね!

「ぜひハヤブサを作って欲しいなと思って、開発チームの人にお願いして、特に400キロ出せる、飛ぶ時の姿を再現したくて・・・ハヤブサは最高速が出る時は、身体を畳んで弾丸のような形になって、“ストゥープ”っていう飛び方になるんですけど、それで400キロ出すんですよね」

●かっこいいですねー!

「かっこいいですよね!」

●リビングにオブジェとして飾っておきたくなるぐらい大人も楽しめますね!

「そうですね!(アニア)は子供向けとして作っているんですけど、割とそういうちょっと映える感じで遊びでやっているかた、多いみたいです」

●かっこいいです! ゴリラの親子も凛々しくて、かっこいい~。

「そうなんですよね。ゴリラは猿の中では(子育てに)唯一お父さんがいるんですよね。ハーレム型の社会構造なので、そういうメッセージを遊びながら(学べるように)・・・ほかの動物はお父さんがあまり存在しないんですよね。だからこのゴリラに関してはお父さんがけっこう赤ちゃんや子供を、ちょっとあやしたりなんかすることもあるので、そういうので遊んだらいいんじゃないかなと思って選んでいますね」

●特に人気のあるフィギュアって、どれになるんですか?

「そうですね・・・いろんなギミックが盛り込まれて、最近出ているのだと、カメレオンで舌が伸びるような・・・」

●ビヨ〜ンって伸びるんですね~、すごーい! 面白い!

「あと、アルマジロが丸くなるとかね」

●まん丸に! コロンコロンになるんですね!

「ただそれで遊ぶだけじゃなくて、ごっこ遊びみたいに、いろんな物語を作ったりとかしてやると、すごく楽しいものになるので、そういう遊びかたをしてくれたらいいなっていうのを想定して、動く部分だとか動物の種類を選んだりとか、そういうのを考えていますね」

●制作する時に心がけていることってありますか?

「私の専門が動物行動学なので、(アニアは)飾り用のフィギュアではなくて、ここの部分を使って遊んでほしいな! っていうのを盛り込みたいので、その動物の特徴的なところに稼働部分をつけたりとかしていますね」

●やはりリアリティーは大事にされているってことですね?

「そうですね。それで遊んでもらうっていうかな、動かしてみて、いろんな気付きとか発見とかもありますので・・・」

(編集部注:「アニア」の監修を担当されている新宅さんによれば、ひとつの動物の制作期間はだいたい1年ほど。中には構想から完成まで2〜3年かかるものもあるそうです。また、古生物に関しては、研究資料などで調べても、体の色まではわからないので、こんな色にしてみませんかという大胆な提案もされるとか。

 ちなみにカバは、お風呂でも遊べるように浮くようになっているそうですよ。動物の生態をもとに、子供たちが遊べるように工夫されているんですね)

新宅広二さん

人間だけの特性「笑い」

※新宅さんは、これまで数多くの動物を調査・研究されてきました。そんななか、今回の新しい本もそうだと思うんですが、「人間」という動物を探究しているようにも感じます。そのあたりは、いかがですか?

「なんて言うんでしょう・・・一瞬忘れがちですけれども、ついつい自分とか、人間っていうものが動物であることをうっかり忘れちゃうというか・・・我々は違うって考えがちなんですけど、共通点とか違いっていうのを、動物を調べることで、見えてくるものもたくさんあるので、そういうところはいちばん興味ある部分ですね」

●先日、人類学者のかたに「人類学とは人間とは何かを問う学問だ」っていうふうに教えていただいたんですけれども、動物行動学的に見て人間っていうのはどういうものなんでしょうか?

「難しい質問ですけれども、どこが逆に人間が動物っぽい部分なのか、そして動物っぽくない部分ってなんなのかっていうのは、すごく整理していきたいなと思っています。そんな中で例えば、突出して面白いのは、いくつかあるんですけど、ひとつは、“笑い”・・・動物って笑えないんですよね。

 笑うっていう表現はやっぱり人間の、動物の行動としてはかなり特殊なもので、面白いユニークなものですよね。笑いっていうのは面白いから笑うっていうだけではないですよね。
 その場を取り繕ったりだとか、相手をリラックスさせるとか、一緒に笑うとか、敵意がないこと示すとか、いろんな要素をそこに組み込んで、言葉を使わずに、つまり人間の中でも言語を使わないで、敵意がないことを伝えたりとか、そういうことができるユニークなツールになっていますよね」

●確かにそうですね~。ということは、まさに人が人にしてあげられる処方箋といえば、笑いになるんですかね。

「そうですね。やっぱりそこも面白いんですけれども、人は、赤ちゃんで生まれてまだ歩けない、寝返りも打てないようなレベルで、最初に笑うんですよね」

●笑っていますね、確かに!

「“新生児微笑”って言って笑うんですよね。あれは別に赤ちゃん、おかしくて笑っているわけじゃないんですね。 おそらくそういうものが人間にとっていかに大事か、順番としても最初にそれをやらなきゃいけない、練習しなきゃいけないっていう順番が、歩くよりも先にそれをやる、何かそこに鍵があるような気がしているんですよね」

●ほかの動物にはない、人間ならではの特性ですね。面白い!

「いろんなこじれたこととか、ストレスとかそういうのも、笑いっていうのは自分に対しても向けられるので、悩みを笑い飛ばすとかね。そういうふうにできると少し(気持ちが)軽くなったりすることもありますよね」

●そうですね!

「笑いを上手に使いこなせるようになると、悩みとか、あと人との関係、ギクシャクしたり喧嘩してしまったものも、笑いとか冗談で、一転して仲良くなったりってことはありますからね。すごく大事にしたい行動ですよね」

☆この他の新宅広二さんのトークもご覧下さい


INFORMATION

『あなたにゴリラを処方します。悩みがちょっと軽くなる動物の読み薬』

『あなたにゴリラを処方します。悩みがちょっと軽くなる動物の読み薬』

 新宅さんの新しい本、おすすめですよ! 人間のお悩みに対して、動物を処方する形式をとりながら、生き物の生態や行動をわかりやすく解説しています。ひとつの項目が見開き2ページで完結しているので、とても読みやすいです。イラストは以前番組に出てくださった「きのしたちひろ」さんです。ぜひイラストもチェックしてください。

 エムディエヌコーポレーションから絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎エムディエヌコーポレーションHP:https://books.mdn.co.jp/books/3222103055/

 新宅さんの近況についてはぜひfacebookを見てください。

◎新宅広二さんfacebook:https://www.facebook.com/koji.shintaku.7/

<プレゼントの応募方法>

新宅さんの本『あなたにゴリラを処方します。悩みがちょっと軽くなる動物の読み薬』と、タカラトミーの動物フィギュア「アニア」の「サバンナの人気動物セット」を合わせて、3名のかたにプレゼントいたします。
タカラトミーの動物フィギュア「アニア」の「サバンナの人気動物セット」
応募はメールでお願いします。
件名に「プレゼント希望」と書いて、番組までお送りください。
   メールアドレスはflint@bayfm.co.jp
flintのスペルは「エフ・エル・アイ・エヌ・ティー」
   flint@bayfm.co.jp です。

あなたの住所、氏名、職業、電話番号を忘れずに。番組を聴いての感想なども書いてくださると嬉しいです。

応募の締め切りは10月27日(金)
当選発表は発送をもって代えさせていただきます。たくさんのご応募、お待ちしています。
応募は締め切られました。たくさんのご応募、誠にありがとうございました。

この秋、可愛くてワイルドな「カワセミ」を観察しよう 〜水辺のある公園や小さな河川にきっといる!?

2023/10/15 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、信州大学の助教「笠原里恵(かさはら・さとえ)」さんです。

 笠原さんは1976年、長野県生まれ。子供の頃は、里で当たり前に見られる鳥よりもリスやネズミなどの小動物が好きだったそうです。

 そして、大学進学後に、自然を観察するサークルに入部、1年生の時に、先輩から鳥を見に行かないかと誘われたことが転機となり、野鳥研究の道に進むことになったそうです。

 現在は、信州大学理学部附属・湖沼高地(こしょうこうち)教育研究センター・諏訪臨湖(すわりんこ)実験所の助教。専門は鳥類生態学や保全生態学など。

 具体的には、水辺の自然環境が多様性に富んでいる千曲川の中流域をメイン・フィールドに、野鳥たちが川のどんな場所に暮らし、どこに巣を作り、何を食べて生活しているのかなどを研究されています。

『知って楽しい カワセミの暮らし』

 そんな笠原さんが先頃『知って楽しい カワセミの暮らし』という本を出されました。きょうは野鳥好きの心を捉えて離さないカワセミの、意外に知られていない生態や、変化する河川環境を利用する鳥のお話などうかがいます。

☆写真協力:笠原里恵

カワセミの色は構造色!?

※カワセミは、特にバードウォッチャーにはとても人気がありますよね。カワセミの特徴といったら、まずは、コバルトブルーに見える羽の色だと思うんですが、どうしてあんなに綺麗に見えるんでしょうか?

「日本で見られる鳥は600種と少しって言われているんですけれども、みなさんが身近な鳥を思い浮かべると、やっぱりカラスの仲間だったり・・・。もちろんスズメもよく見ると複雑な色をして綺麗なんですが、全体としては茶色であったり、派手な色をした鳥って少ないと思うんですよね。そういう中にあって確かにカワセミは非常に目立つ色、綺麗な翡翠色をしていると思いますよね」

●光の加減によって、また色の見え方が違いますよね。

「どうして見る角度によって変わるのかは、色の見え方、私たちの色の認識の仕方に関係しているんですけれども、私たちは通常、色素で色を見ています。

 光の三原色が赤・青・緑だっていう話は聞いたことがあると思うんですけども、その光の波長が太陽とか室内光の明かりに含まれていて、それらの波長が何かに当たるとします・・・リンゴに当たる、葉っぱに当たる、そうするとリンゴとか葉っぱとかが持つ色素がその波長の一部を吸収して、吸収されなかった波長の光が我々の目に届いて、色として認識されることになります。

 けれども、実はカワセミの羽の色は、そういういわゆる色素とは違っていて、その光の構造を説明する上でよく挙げられるのがシャボン玉になります。石鹸水で作ったシャボン玉って、透明なのに光に輝いてキラキラ虹色に光りますよね。
 それは実は色素によるものではなくて、シャボン玉の薄い膜内の、光の屈折によって生じた光の波長同士の干渉なんですね。それによって特定の光成分が強まって発色しています。

 こういうのを『構造色』って言うんですけれども、カワセミの羽の色も構造色の一種です。カワセミの場合は、シャボン玉のように薄い膜というわけではなくて、その羽毛の内部に、網目状のスポンジのような微細な構造があって、その並び方から青色の光が強められるようになっているんだそうです」

写真協力:笠原里恵

●カワセミの色以外の、ほかの特徴も教えていただけますか?

「色もとても美しいんですが、やはりその形ですよね、全身の形・・・。頭がちょっと大きくて、くちばしが非常に長い。くちばしの長さがだいたい3.6センチあって、頭よりもくちばしのほうが長いんですね。それに対してずんぐりした体と非常に短い足をしています。

 足の形も、ほかの鳥と違っていて、足の指・・・みなさん、なかなか鳥の指先って見る機会がないと思うんですけれども、普通の鳥と少し違っています。これは彼らが巣を作る場所に関係しているんですけれども、指の一部がちょっとくっついて、シャベルのような形になっているのも大きな特徴だと思います」

(編集部注:カワセミの羽の色や形については、笠原さんの本に、山科鳥類研究所の研究員、森本 元(もりもと・げん)さんの解説が「豆知識」として載っていますよ。
 ちなみにオスとメスの見分け方で、いちばん分かりやすいのが「くちばし」。オスが上も下も黒なのに対し、メスは下のくちばしがオレンジ色になっています」

写真:内田 博

水辺に特化した能力

※カワセミが水辺を好んで暮らしているのは、どうしてなんですか?

「現状、彼らが水辺で暮らしているのは、やっぱり魚を獲って・・・彼らの主食は魚なんですけれども、魚を獲りやすく、また彼らは子育ての時に土の崖に巣穴を掘って、中に卵を産むんですね。そういった食べ物についてもそうだし、巣を作って子育てをする場所についても、やっぱり水辺に特化している種類と言えますね」

●魚を獲るとおっしゃっていましたけれども、水中にダイブして獲物をゲットして、水面に戻って羽ばたくんですよね。それってすごい能力ですよね。

「そうですね。特にカワセミは、水辺に張り出した枝先から水の中の魚を狙って一瞬で飛び込みます。で、飛び込んで水の中に入っている時は、目が『瞬膜』っていう膜で覆われていて、目を保護しているんですね。

 彼らは水の中で泳ぐとかではなくて、水の中に飛び込んだ勢いで魚のところまで到達して、あっという間に咥えて、すぐに戻ります。水面に上がった時にはもう羽ばたいていて、枝に戻って獲った魚を食べるわけですけれども、そういうことができる種類は、やはりあまり多くないと思いますね」

(編集部注:カワセミの求愛行動はよく知られていますが、そこに至るまで、オスとメスはどう過ごしているか・・・笠原さんによると、冬の間はそれぞれのなわばりで過ごし、春先になるとオスがメスのなわばりに進入、当然メスはオスを追い出しにかかり、追いかけ合うそうです。

 そんなことを繰り返していくうちに、オスがメスに小魚をプレゼントし、メスが受け取って飲み込んでくれたらカップル成立! オスはメスが飲み込みやすいように、小魚の頭を向けて渡すそうですよ)

写真協力:笠原里恵

※カップルになったら、次は巣作りだと思うんですけど、カワセミはどんな巣を作るんですか?

「彼らは露出した崖、川の近くのあまり草木が生えていない、ちょっとだけオーバーハングって言って、下よりも上の方が水面に向かってせり出すような、そういったオーバーハングした崖を好みます。

 その崖に・・・彼らの足はちょっと特殊で、短い足ですけれども、その足とくちばしで横穴を掘って、おおよそ50センチから80センチと言われていますけれども、彼らの体がだいたい17センチですから、自分の体の3倍とか4倍とか、そういった長さの穴を掘って、いちばん最後に『産座』と呼ばれる場所、卵を産んで温める場所ですけれども、少し大きめの空間を作ってそこに卵を産みます」

●その穴を掘る作業って大変な作業ですよね。オスとメス、共同で作業するんですか?

「こちらについても、つがいによってけっこう違うと言われていますが、やっぱり基本的にはオスが巣を作る場所をメスに示して、メスが気に入ったらオスが掘り始めます。オスが掘っていって、その間 手伝うメスもいれば、オスが掘っているのをただ見ているだけのメスもいます。オスはなかなか偉くて、巣穴を掘っている間にもたびたび魚を持ってきて、ちゃんとメスにプレゼントするんですね。

 確実なのは、ある程度巣穴ができて、最後に卵を産む産室(産座)ができますが、その産室ができる頃になると、メスも積極的に参加して・・・卵を産んで温める作業はオスもメスもするんですけれども、メスにとっては特別なことだと思いますので、やっぱりとっておきというか、お気に入りの産室にするように、自分で掘って整えているんじゃないかなと思います」

●1回にどれぐらいの卵を産むんですか?

「これは私の調査をしている千曲川の例ですけれども、おおよそ7つくらい卵を産みます。多ければ8つっていうこともあるし、少なければ5つっていうこともあります」

●育つまでどれぐらいの日数がかかるんですか?

「だいたい卵を産み始めて、産んでから雛(ひな)が孵化するまでがおおよそ20日間前後と言われています。カワセミの雛は孵った時に全然羽毛が生えていません。もちろんくちばしも非常に短いんですけれども、翼がある程度生えて、外の世界に飛び出して飛べるようになるまでが、だいたい24日間というふうに言われています。ですので、卵を産んでから育つまでを考えると1ヶ月以上、ずっと巣穴の中にいることになりますね」

カワセミの仲間、ヤマセミとアカショウビン

※日本で見られるカワセミの仲間には、おもにどんな種がいますか?

「私たちがよく見かける、日本で子育てをしているカワセミの仲間は『ヤマセミ』っていう非常に体が大きい、みなさんが公園で見かけるドバトくらいの大きさのカワセミの仲間がいるのと、それからその姿から火の鳥なんていうふうに呼ばれる『アカショウビン』という、くちばしから姿が全体的に真っ赤なものがいます。その3種がメインだと思います。日本でこれまで確認されているカワセミの仲間は8種ですね」

写真:内田 博
ヤマセミ

●カワセミとヤマセミは、暮らしているエリアは違うんですよね?

「そうですね。みなさん、カワセミっていう鳥は名前を聞くと、あの青いちっちゃいやつだなっていうふうに思い浮かぶと思うんですけど、ヤマセミと聞いて思い浮かぶかたって少ないと思うんです。
 ヤマセミは鹿の模様、鹿の子で“かのこ”っていうふうに呼ばれたりもするんですけれども、全体的に体が白いんですね。そこに黒が鹿の子模様のように入った美しい姿をしています。

 そんなヤマセミをどうして見る機会が少ないのかと言いますと、ヤマセミのほうが一般的に上流域に、カワセミのほうが下流域に棲むというふうに言われています。上流域でも、けっこうヤマセミは渓流なんかが好きですので、あまりみなさんが普段生活しているような範囲では(ヤマセミの)姿を見ることはないからですかね」

●日本には8種類とおっしゃっていましたけれども、海外には何種類いるんですか?

「これがまた海外はけっこうたくさんいます。国際鳥類学会が出している『世界の鳥のリスト』っていうのがあるんですね。そこから(引用)すると、2022年の時点ですけれども、世界のカワセミの仲間は116種記載されています」

●そんなにいるんですね!

「はい。最も多いのがアカショウビンの仲間で、72種記載されていて、カワセミの仲間はおよそ35種、先ほどお話したカワセミと似ているけど、棲んでいる場所が違うヤマセミについてはけっこう少なくて、9種が記載されているような状況です」

写真:内田 博
アカショウビン

川は人間だけのものではない

※笠原さんはカワセミを含めた、水辺の鳥たちや河川の環境を長年、調査・研究されてきて、こんなことを感じているそうです。

「川と鳥の関係ですごいなと思ったのは、これまでは多くの増水は8月とか9月の台風で起きているものが多かったんですね。8月9月っていうと、多くの鳥は繁殖を終えています。子供も育って、ある程度飛べるようになっていてという時期ですので、そういう時期に増水が起きても、そんなに次世代に命をつなぐという点では影響が小さいですね。
 その一方で、そういう水の流れで木や草が流されて、できあがる環境に生息しているような種類にとっては、台風による増水が翌年の生息地の維持につながるわけですね。

 なんですけれども、近年、今年もそうでしたけど、6月とか、明らかに鳥の繁殖の真っ只中に豪雨が降って、水が溢れたり、家が流されてしまうような大きなことがありました。そういった気候の変化がこれまでは、鳥たちの繁殖の間には増水がなく(繁殖が)終わってから増水があって、翌年の生息地が作られるみたいに、うまく回っていたメカニズムが壊れてきているというように非常に危惧しています。

 もうひとつは、やっぱり最近は人の生活に影響を与える水害が毎年のように起こって、胸が痛いんですけれども、そういったことが頻繁に起こることによって、川、もしくは川の管理、そういったものがより治水に、自然との調和っていうよりは、人の命を守りましょうっていうほうに急速に傾いていると思います。

 それは当然、当たり前のことだと思います。やっぱり人の命を第一に治水は行なわれるものですので、それはそれでいいんですけれども、その一方で鳥だけではなくて、川で生活しているいろんな生き物への配慮が、やっぱり置いてきぼりになってしまう・・・ここは非常に難しいです。

 人の命より鳥の命のが大切ですか? って言われると、やっぱり答えにくいところは非常にあるんですけれども、やはり自然ですね・・・我々が生きていく中で、川からいろんな、水をもらって水田を作ったりとかして、我々は生活しています。川はもちろん人間のものだけではなくて、そこで生きている生き物がいるわけですから、治水がどんどん進められていく一方で、それでもやっぱり、川がもともと持っている変動性に依存した生き物がいるんだよっていう部分は、忘れてはいけないのではないかなと思っています」

写真協力:笠原里恵

(編集部注:笠原さんの調査・研究のメインフィールド千曲川は、笠原さんいわく、生き物にも人々の生活にも配慮した治水の方法がとられているそうです。上流に大きなダムがほとんどないこともあって、自然の力に任せた河川環境の維持につながっているとのこと。詳しくは、笠原さんの本の第7章「生き物に配慮した川づくり」をご参照いただければと思います)

可愛らしい、ワイルド、したたか

※この時期でも、カワセミを見ることはできますか?

「はい、今も見ることはできますね。多分これから冬に向かっていきますと、今まで子育てをするために川の近くだったりとか、巣がある場所の周辺にいたカワセミも、子育てがだんだん終わってきます。
 それから今年生まれた若いカワセミが、親元にいつまでもいられるわけではありませんから、独り立ちをした子供が別の住処を探して移動したりとかしていて、みなさんの近くの公園とか、それから小さな河川でも見られる時期になっていると思います」

笠原里恵さん

●笠原さんが思うカワセミのいちばんの魅力はなんでしょうか?

「私自身がカワセミに感じているところとしては、カワセミのその愛らしい姿がけっこう人気はあると思うんですけども、その愛らしい姿に対して、割とワイルドな採食方法、飛び込んで魚を捕えて、その魚を捕らえたあと、枝に戻って叩きつけるんですね。叩きつけて食べるという、そういった野性味溢れる部分もあって、そういう可愛らしい姿と、行動のギャップみたいなところですね。

 それからもうひとつ、これは2005年に起きた増水のあとなんですけれども、水が引いたあとに、私が調査していて、カワセミが通らないような河畔林を歩いていたんです。河畔林って言ったら木が茂っているわけですね。そこに増水のあとの大きな水たまりができていて、そこでカワセミを見る機会があったんですね。

 なんでこんな森の中にカワセミがいるんだろうと思ったら、増水のあとでしたので、その河畔林の中の水たまりに取り残された魚がいっぱいいました。カワセミはそれを目ざとく見つけて、普段は使わないような場所だと思うんですけれども、そこに素早く現れて魚を獲っているっていう姿だったんですね。環境の変動が激しい中で、増水のあとですら、その増水で残った魚を捕るというしたたかな部分、そういったところに非常に魅力を感じています」


INFORMATION

『知って楽しい カワセミの暮らし』

『知って楽しい カワセミの暮らし』

 国内外のカワセミを中心に、ヤマセミやアカショウビンなどの基礎知識ほか、調査・研究から分かってきた意外な生態、そして水辺に暮らす鳥たちと川との関係や、これからの川づくりなど、興味深い解説が満載です。カワセミの生態をとらえたカラー写真は必見ですよ。
 緑書房から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎緑書房:https://www.midorishobo.co.jp/SHOP/1620.html

 笠原里恵さんのオフィシャルサイトもぜひ見てください。

https://soar-rd.shinshu-u.ac.jp/profile/ja.WVLNOakh.html

「人類学」入門〜ボルネオ島の狩猟民プナンから「人間」が見えてくる!?

2023/10/8 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、立教大学・異文化コミュニケーション学部の教授で、人類学者の「奥野克巳(おくの・かつみ)」さんです。

 奥野さんは1962年生まれ。高校生の頃の、将来の夢は日本脱出、ということで大学に進学後、メキシコ、インド、東南アジアなど、自由な旅に没頭。卒業後、商社に就職するも、20代後半で退職し、今度はインドネシアを放浪。その後、大学院で文化人類学を専攻、博士号を取得されています。

 現在は人類学者として多方面で活躍、数多くの本も出版。そんな奥野さんの新しい本が『はじめての人類学』です。

 入門書的な本を出された奥野さんに、人類学とはどんな学問なのか、初歩的なことをお聞きしつつ、奥野さんが研究のために長期間滞在し、寝食を共にしたボルネオ島の森に暮らす狩猟民の興味深いお話をうかがいます。

☆写真:奥野克巳

奥野克巳さん

人類学の礎を築いたマリノフスキ

※この本は、人類学のおよそ100年を、4人の最重要な人類学者を紹介しつつ、振り返り、今後の人類学を示唆するような内容になっています。まずは、人類学とはどんな学問なのか、教えてください。

「人間探究ですね。ティム・インゴルドっていう人が『Anthropology is philosophy with the people in.』っていうふうに言っているんですね。つまり人類学とは哲学だと。で、哲学って何かっていうと、人々と共にする哲学。その人々というのが、最後にinがついていて、人々がいるところに行って、人々と共にする哲学だというふうに言っているんです。

 まさに人類学というのは現地のフィールドワークを通じて、人々と共に行なう哲学ということになっています」

●フィールドワークに基づいた新しい人類学を切り開いたのが、重要人物のひとり、ポーランド出身のイギリス人、マリノフスキというふうに本に書かれていましたけれども、このマリノフスキというかたはどんなかたで、どこに行って、何をされたのか、かいつまんで教えていただけますでしょうか?

「出身はポーランドなんですけれども、イギリスで勉強していて、オーストラリアのトーテミズムの研究をしていたんですね。そのトーテミズムを文献の中で研究していたんですけれども、わからないので行ってみて、実際のところを知りたいと思ったんですね。

 最終的にオーストラリアの隣のニューギニアの島、トロブリアンド諸島というところに行って、それまでは現地語をマスターするということはなかったんですけれども、彼は現地語をマスターして、そこに長期滞在してフィールドワークを行なったんです。その成果を、エスノグラフィーって呼んでいるんですけれども、ある民族、文化が体系的にまとめて、それを出版したと、そういったことをした人です」

●当時ニューギニアってまだまだ未開の地と言ってもいいですよね。そんなニューギニアで長期滞在するって相当大変だったんじゃないですか。

「そうだと思いますね。それまでは椅子に座って本を読んで、文化の姿を空想していただけだったんですね。実際にマリノフスキが現地のフィールドワークを始めて、様々な困難もあったんですけれども、それ以降の現代の人類学の礎を築いたんです。
 現地に行ってフィールドワークを行なって、そこで見えてきた人々の生き方、こういったものを記述、それから分析することを始めたのが、マリノフスキということです」

(編集部注:奥野さんによると、人類学という学問は15世紀の大航海時代まで遡るそうです。当時ヨーロッパの人たちが異文化に出会い、興味関心を高めていくなか、キリスト教の宣教師が持ち帰った記録や旅行記、船乗りの航海日誌などが情報のリソースとなり、知見を広めていったということですが・・・

 ということは、大航海時代は文献だけで「人間」を探究していたわけですから、
フィールドワークという手法を取り入れ、礎を築いたマリノフスキの功績は大きいと言えますね)

『はじめての人類学』

人類の原初のあり方を探る

※奥野さんの調査・研究のメイン・フィールドはどこになるんですか?

「インドネシアを1年間放浪していました。その中でカリマンタン島、これはボルネオ島なんですけれども、そこの放浪を終えて、大学院に入ったんですね。フィールドワーク中はボルネオ島ですね。そこで最初、90年代の半ばに焼畑農耕民の『カリス』という民族の調査を行なって、そこから今度はマレーシア側のボルネオ島にシフトして、そこで狩猟民の研究を行なってきています。2006年からその狩猟民の研究をしています」

●その狩猟民が「プナン」ということですよね。ボルネオ島の狩猟民プナンを研究対象として選ばれたのは、どうしてなんですか?

「人類学ですから、その大きなテーマというのが人間とは何かなんですね。かつて私は農耕民の研究を2年間やっていたんですが、そこではシャーマニズムとか呪術というものをテーマにしていたんです。
どちらかというと農耕民ですから、我々日本人の古い姿というか、懐かしいあり方というのが見えてくるんですけれども、もうちょっと遡って、人類の原初のあり方、人間とは元々はどういう存在であったのかを探るために狩猟民の研究を始めたんですね。
 で、狩猟民がボルネオ島には、プナンという非常に魅惑的なというか魅力的なグループがいたんですね。そこに入って行って、調査研究を始めたという、そういった経緯です」

●どう魅力的なんですか?

「魅力的っていうのは、あまり狩猟民が残っていないんですね。地球上に残っていなくて、農耕が行なわれ始めたのが、今から1万年とか8000年ぐらい前のことなんです。それまでの人類は約25万年ぐらい前からずっと、1万年とか8000年くらい前までは、すべての人類が狩猟採集を行なっていたんです。

 そのあと農耕、牧畜に移行してきたわけですけれども、古い人間のあり方が残っていると言いますか、そこから想像することができるという意味で、人類の古い姿、もともとこういったことを考えていたんじゃないか、あるいはこういったことをやっていたんじゃないか、ということを探る手がかりとして、非常に魅力的だということですね」

(編集部注:奥野さんは、狩猟民プナンの人たちと、当初は、マレーシア語を介してコミュニケーションをとり、徐々にプナン語をマスターしていったそうです。プナン語はマレーシア語とよく似ているそうですよ)

狩猟民プナンの暮らし

※プナンの人たちは、どんな暮らしぶりなんですか?

「1980年代までは、だいたい森の中で流動生活をしていたんです。流動っていうのはノマディックな生活ですね。獲物、食べ物があるところに住んで、それがなくなると、別のところに移動するというライフスタイルだったんですね。

 政府が定住地を見つけて、そこに住みなさいということで、80年代以降は(定住地に)住むようになったんですが、でも狩猟という生業そのものをやめてしまうのではなくて、定住地から森の中に入って行って、狩猟キャンプを建てて生活するということ、これは半定住って言っていますけれども、半定住の暮らしが今日に至るまでの主流です。だから森の中に狩猟キャンプを作って、そこでいろんな動物を獲って食べて生きていく、そういった人たちですね」

写真:奥野克巳

●どんな動物たちを食べているんですか?

「森の中にいる動物たちです、すべて。例えば・・・いちばんの好物がヒゲイノシシなんですね。シカ、ホエジカ、あるいはサルをいっぱい食べるんです。リーフモンキーであるとか、カニクイザル、ブタオザル、テナガザルとかですね。あとはオオトカゲであるとか、あと魚も食べますので、森の中にいるもの、川の中にいるもの、こういったものをすべて食べます」

(編集部注:プナンの人たちの家族グループには、母親や父親が違う子供たちがたくさんいるそうですが、分け隔てなく、みんなで育てる、そんな文化があるそうですよ)

※奥野さん自身は、どんな暮らしをしていたのでしょうか?

「基本的には人類学者は誰でもそうですけれども、彼らと同じキャンプの中に住んで、一緒に労働もしながら、労働っていうのはこの場合狩猟ですね。狩猟をしながら一緒に食べ物を獲りに行って、彼らと同じような暮らしをすると、そういったことを原則として彼らと一緒に暮らしていました」

●今でこそアウトドアブームですけれども、奥野さんご自身はそういう経験はあったんですか?

「そうですね。(キャンプは)子供の頃からとても好きでしたし、ある時は中学校に1回キャンプから通ったこともありました」

●そうだったんですね〜。では現地での暮らしには最初から馴染めましたか?

「これはですね、なかなか馴染めない面があるんですよ。というのは、私が自分のために持ち込んだ食料を、例えば、米であるとかラーメンであるとかそういったものを、彼らが何も食べ物がない時に料理して食べるわけですね。段ボール箱で持っていったんですけれども、私がいない時に段ボール箱がなくなっていた、そういうことがちょくちょくあるんです。
 彼らは別に悪いというふうに思っていないんです。それはあとからわかったんですけども・・・。馴染めたかっていうことで言うならば、とんでもないところに来たなって思っていたというのがありますね。

 それは彼らの贈与交換の仕組みと言いますか、シェアリングなんですね。あるものをみんなで分けると。つまり個人所有がないんです。そういうことがあとからわかってきて、その生活に溶け込んでいくことができたわけですけれども、最初からは馴染めなかったですね」

写真:奥野克巳

寝転がって調査!?

※プナンの人たちの調査も17年ほどが過ぎ、最近は、人々が暮らしているど真ん中に、寝っ転がって調査していると、本のあとがきに書いてありました。これはどういうことなんでしょう?

「寝っ転がって調査を最近はしていると・・・つまり文化人類学者って基本的にはアンケート調査なんか行なわないんですよね。参与観察、言葉ができるようになってインタビューをしたりはしますけれども、その場で参与観察という、参加しながら観察をするというような調査をしているんです。

 最近、私はインタビューもせずに、狩猟キャンプで寝っ転がって調査をするというか、そこにいるということでわかってくることが、けっこうあるなって思っています。

 言葉もできるようになると、神話であるとか民話であるとか人々の話、これがなかなか面白いんですね。これ、寝転がって聞いていると非常によくわかるんです。言語以前に理解できると言いますか、これをノートにつけようとしたりすると、何を言っていたのかが、なかなか整理できないことに気付くんですね。

 なんて言うのかな〜、彼らが言っていることは、人々が言っていることは、ロジカルにまとめて理解しようとすると、なかなか理解できない、その部分が彼らの日常生活における、実際の生活の数値化できない部分なんですよね。データになかなかできない部分なんですけども、それが寝っ転がっていると、つかむことができると最近わかってきたということです」

●そういうプナンでの生活があって、日本に帰られた時に、逆に日本の生活にすんなり戻れなかったこともあったりしますか?

「1年間プナン(のキャンプ)に滞在していた時に、先ほど言ったように最初はなかなか馴染めなかったんです。これは例えばトイレがないとか、そういうことも含めて馴染めなかったんですが、帰る近くになると、もう彼らの暮らしが非常に心地よくて、逆に日本に帰ったら、またあの地獄が待っているのか! そういうふうに思うようになりました。逆転したっていうことですね、反転してしまったっていうことです」

●そうなんですね〜。

三者の視点で森を見る!?

※今はそうでもないかも知れませんが、欧米人のかたにとって「自然」は征服するもの。一方、日本人は自分も自然の一部、そんな考えかたがあるように思います。「先住民」のかたたちと、似たような価値観があるのではないかと思ったんですが・・・そのあたり、どうでしょう?

「日本もかつてはそうだったんでしょうけれども、たぶん日本は、”脱亜入欧(だつあにゅうおう)”という明治の時代、そのあとに自然と人間と言いますか、自然と文化というものを大きく分断させたっていう、けっこう複雑な歴史があるんだと思うんですね。

 人間も自然の一部だというのが、具体的にどういうことなのかを探るのが、実は私の調査と言いますか、フィールドワークの大きな目的なんですね。

 先ほどプナンの話をしましたけれども、ここでのその経験を少しお話したいと思います。それは何かと言いますと、彼らは狩猟ために森の中に入っていくんです。様々な動物がいるんですけれども、先ほど言ったようにサル、リーフモンキーっていうサルがいるんですね。これは葉っぱばっかりを食べているサルです。

 リーフモンキーとそれから鳥に、リーフモンキーの名前が付いている鳥がいるんです。リーフモンキー鳥っていうふうに一応言っておきます。リーフモンキー鳥と、ちょっとややこしいんですけど、リーフモンキーってサルがいるんですね。

 狩猟に行くと、リーフモンキー鳥が木の上で鳴いているんです。すると、そこにリーフモンキーがいると彼らは察知するんですね。そのリーフモンキーを獲りにプナンは行くわけですけれども、リーフモンキー鳥が鳴いて、リーフモンキーを獲りに駆けつけると、もうすでにリーフモンキーはそこから逃げていると、そういうふうに彼らはよく言っています。

 これはどういうことかというと、リーフモンキー鳥は木の上から見ていて、リーフモンキーに、つまりサルに人が近づいて来ているということを警告するんだって言うんですよ、プナンの人たちは・・・。

 つまりプナンは、その三者の視点から森を想像しているんです。つまりリーフモンキーというサルがいて、狩猟で(森に)入っていく人間がいて、そしてリーフモンキー鳥がその二者を、上から鳥瞰図的に見ている、これを想像しているんですね。

 何が言えるのかというと、リーフモンキー鳥に見られる人間を組み入れているわけですよ。これは何を示しているのか・・・必ずしも人間は自然に向かう主体ではない、場合によっては自然から見られる客体になる、こういうことをよく知った上で狩猟をしている、リーフモンキー鳥という名前が付けられているっていうふうに見ることができる。

 つまり、自然は征服するものではなくて、人間が主体的に征服するものではなくて、自然の側が人間を客体視しているということでもあるんだ、ということを分かった上で狩猟をしている、ということが言えるんじゃないかということです」

(編集部注:昨今では、未開の地に暮らす人たちもスマホを持つ時代ということで、プナンの人たちもスマホを持っているそうです。奥野さんは、スマホを介して連絡を取り合っているそうですが、彼らは文字が読めないので、おもにボイスメッセージでやりとりしているとおっしゃっていましたよ。人類学に新しい手法が加わるかも知れません)

※奥野さんのお話を聞いて、人類学に興味を持ったかたたちにひとことお願いします。

「人類学は、これはマリノフスキがそうだったんですけれども、いくら文献や本を読んでもわからないので、実際に現地や現場に行って、そこで本当のことを探ろうとする学問です。
 人間が生きるとはどういうことか、ということを知るために、この本ではこの学問が発展してきた歴史を、4人の人類学者を通じて明らかにしていますので、人類学に興味を持ったかたはこの本を読んでいただきたいと思います」


INFORMATION

『はじめての人類学』

『はじめての人類学』

 奥野さんの新しい本をぜひ読んでください。きょうご紹介したマリノフスキはじめ、人類学を学ぶうえでは欠かせない、最重要な4人の人類学者を中心に構成されています。個性的な4人の足跡や功績がとても興味深く、一気に読み進めてしまうと思いますよ。人類学の入門書の決定版、おすすめです。
講談社現代新書シリーズの一冊として絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎講談社HP:https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000380075

 奥野さんのオフィシャルサイトもぜひ見てください。

◎奥野克巳さんHP:https://www2.rikkyo.ac.jp/web/katsumiokuno/

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