2022/7/17 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、自然と旅を愛するシンガー・ソングライター「Miyuu(みゆう)」さんです。
Miyuuさんは、VAN LIFE、いわゆる、車を中心にしたライフスタイルに憧れ、高校生の時に体験した家族とのキャンピングカーの旅の思い出も手伝って、日本全国を車でめぐる旅を計画。そして去年、運転免許を取得し、キャンピングカーを借りて、念願の旅に出たんです。
その旅の記録は先頃『30 DAYS VAN LIFE〜Trip on Music』という楽曲付きフォトエッセイとして出版されました。
そんなMiyuuさんに、走行距離6000キロのキャンピングカーの旅や、旅先で行なったフィールドレコーディング、そして自然や環境への思いなどうかがいます。

30日の旅、1日1日を噛み締めて
●今週のゲストはシンガーソングライターのMiyuuさんです。初めまして。よろしくお願いいたします。
「初めまして。よろしくお願いします」
●今年の5月に『30 DAYS VAN LIFE〜Trip on Music~』というタイトルの本を出されました。この本は、VANいわゆるキャンピングカーで、30日間かけて旅された時の体験が記されていますよね。私も読ませていただきました。写真も豊富に載っていて、日本をまわられている様子がすごく素敵で、一緒に旅をしているようなワクワク感を味わうことができました。
「めっちゃ嬉しいですね。まさに一緒に旅しているっていうイメージで作ったので・・・ありがとうございます」

●いつ頃、旅に出たんですか?
「旅自体は去年の10月1日から30日間ですね」
●30日間の旅は、埼玉県の秩父を出発して、群馬県の水上町と尾瀬を経由して、その後は南へ下って、主に西日本・四国・九州を経て、今度は一気に北上して横浜で旅を終えるというルートで、走行距離は6000キロでした。このルートにしたのは、どうしてなんですか?
「もともとは全部の都道府県をまわろうぜ! っていう意気込みだったんですけど、やっぱり各地の、人の生活だったり営みだったりとか、いろんなことをされているかたの思いというのを、もっとより深く知りたいなと思って、旅に出る前にある程度、お話しをうかがいたい人へ連絡をとっていたりしていたんですね。
例えば、もともと関わりがあった日本自然保護協会のかただったりとか、あと広島でビールを作っている若者たちがいて、そのかたには直接お話しをうかがいたいなと思って、旅前に連絡していたんです。
一カ所に2〜3日くらい留まって、そのかたたちといっぱいコミュニケーションをとって、思いだったりっていうのを深く知りたいって思ったら、全国はさすがに行けないな〜って・・・なのでピンポイントで、じゃあここ! って目的地を決めて、その間に出会いがあったらいいな〜みたいな感じで動いていました」
●ひとりで旅に出られたわけではないですよね?
「そうですね。幼馴染みのふたりと行きました。コロナ禍でけっこうみんな生活が変わっちゃって、私自身もぜんぜんライヴができなくなって、なんかちょっと悶々とした気持ちというか、なんかしないといけないなという気持ちがありました。
で、大阪に帰った時に、その幼馴染みたちと喋っていて、“旅出えへん? もうなにかしないとあかん!”みたいになって、最初そんな感じでスタートしたんです。でも3人でキャンピングカーに乗り込むのはいいねんけど、運転できるのはよく考えたら私だけやなって思って(笑)」
●えーっ! じゃあ交代で運転していたわけではなく・・・?
「そうなんです。まだみんな免許を持っていなくて・・・」
●ということは、ずっとMiyuuさんが運転していたんですか?
「そうなんです。私自身も去年の6月に免許を取ったので、免許ほぼ取りたてみたいな感じで、(車の)前後に初心者マークを貼って運転していました(笑)」
●実際にキャンピングカーで旅に出られて、いかがでしたか?
「もう本当にめちゃめちゃ楽しくて・・・3人の中でもいろいろ話し合いがあったりとか、撮影で同行して、また別の車でついてきてくださったスタッフのかたたちとも、30日間の間にすごく話し合いをしました。
(このキャンピングカーの旅は)すぐ終わるんだろうなっていうのは、最初からわかっていたんですけど、本当に一瞬で・・・でも30日っていう制約があったからこそ、1日1日を絶対ムダにしないでおこうって思って、毎日、1日1日を噛み締めて旅ができたかなって思っています」

(編集部注:Miyuuさんは、キャンピングカーのレンタル会社に、こんな旅がしたいんですとご自身で働きかけ、借りることが決まったそうです。そして30日間の旅用に、車の内装を少しカスタマイズすることになり、お料理用にスパイスボックスの棚をつけたり、ウクレレのスタンドを取り付けたり・・・さらに、ベッドを寝心地の良いものに交換してもらい、旅に出たそうですよ。準備段階から自分で動くなんて、行動力がありますよね)
自然にお返し、ビーチクリーン
※キャンピングカーの旅は、どんなところが魅力的ですか?
「私、旅行がもともと好きで、ホテルとか旅館とかに泊まることもあるんですけど、やっぱり時間に縛られないっていうのがいちばん大きいかなって思っています。
例えば、目的地に向かおうって思うけど、きょうはちょっとしんどいなと思ったら、途中で停まって・・・で、行き先も、こっちのほうに行こうと思っていたけれども、きょうはこっちにしようかなってことも、その場で決められるじゃないですか。なので、なんか今を生きているなっていう感じがすごくしましたね」
●車の中で寝泊まりをしていて、幸せを感じる瞬間っていうのはありました?
「毎日幸せでしたね(笑)。車にもよると思うんですけど、雨が降った時にすごく雨音が聴こえたりするんですね。それがたまにうるさいなと思うこともあるかもしれないけど、家では絶対感じられないので、雨を感じられるのは、キャンピングカーの良さかなとも思いますね。あとカーテンを開けた時に毎回違う景色が見られるのも(幸せでしたね)」
●いいですね〜!
※旅の途中、広島県江田島で「日本自然保護協会 (NACS-J)」のビーチクリーン・イベントに参加されていました。これはどんな経緯で参加することになったんですか?

「まず、日本自然保護協会さんとは以前お仕事をご一緒させていただいたことがありました。私自身もやっぱり自然からすごくパワーをもらっていたり、そのパワーを得て音楽を創っていたりするので、今回の旅のテーマとして、自然から(パワーを)もらった分、なにか還元したいなとふわっと思っていたんです。
具体的に何をやればいいのだろうと思った時に、日本自然保護協会さんに、何か一緒に旅中にできるってことってあったりしますか、っていうお話しをさせていただいていました。
そうしたら日本自然保護協会さんが全国でビーチクリーンをするような『全国砂浜ムーブメント』というのを毎年やっていて、その時期にちょうど旅も被っていたので、みんなでどこかで落ち合って、一緒にビーチクリーンしませんか、っていう話から、広島の江田島で牡蠣の養殖のパイプゴミが問題になっているから、そこに行って一緒にビーチクリーンしましょうっていうお話になって実現しました」
●実際に参加されていかがでした?
「そうですね。私、神奈川に住んでいることもあって、湘南とか千葉の海にもよく行くんですけど、場所によって落ちているものが全然違うなって感じて、特に江田島はやっぱり牡蠣の養殖が盛んなので、私が想像していたより(パイプのゴミが)たくさんありましたね。
パイプの形として残っているものもあれば、粉々になって、ほぼ砂のような大きさになっているものとかもあって・・・地元のかたたちともお話しさせていただいて、“やっぱり拾うのが大変なんだよね。だから外から来てくれる人がいて、すごく嬉しい”っていうお声はいただきました」
自然と一体化、フィールドレコーディング
※旅の途中に、自然の中で弾き語りを録音するフィールドレコーディングをされていました。これは旅に出る前からやってみようと思っていたんですか?
「そうですね。フィールドレコーディングは絶対やりたいと思っていて、真っ先にこの旅でやろうって決めていたことなんです。
すごく大好きな映画で『はじまりのうた』っていう、分かりますか。その映画が大好き過ぎて、完全にそれにインスピレーションを得た感じですね(笑)。あの映画は街中でレコーディングしているけど、私は自然の中で・・・森の中のスタジオじゃないですけど、ブースも自分で作ってレコーディングしてみたいって思ってました」
●何ヵ所で録ったんですか?
「(楽曲付きフォトエッセイに)3曲入っているので、3ヵ所で録りましたね」
●それぞれどこで?
「1曲目は旅の前半に行った尾瀬、群馬県の森で録って・・・2曲目は愛媛の、海にいちばん近い駅、梅津寺(ばいしんじ)っていう駅があるんですけど、本当に目の前が砂浜なんです。その砂浜に機材を広げて、電車の音が後ろから聴こえて、船の音だったり、波の音だったりが結構入るところで録音しました。
最後は、最終日に長野県の駒ヶ根高原教会の中で歌わせていただきました。それに関しては、教会で歌うって決めていなかったんですけど、旅中にたまたま出会ったかたが、教会で歌ったら、みたいな感じで言ってくださって、最後はそこでフィールドレコーディングっていう形になりましたね」
●実際にフィールドレコーディングされて、いかがでした?
「なんだろう・・・すっごく自然と一体化している感じを、自分の中で感じながら気持ちよく歌えたなっていうのと、あとやっぱりスタジオの中で歌うと、防音室だとか無音のところで、本当に声を綺麗に録れるっていうのがあるんですけど、フィールドレコーディングは常に何かの音が鳴っている状態なので、自然の音をより自然に聴いてもらいたいなと思えば思うほど、マイクを置く位置がすごく難しくて・・・」

●確かにスタジオで録るのとは、全然違いますよね。
「ですね〜。しかもほぼ一発録りだったので、録っている時間よりもマイクを
セッティングする時間がすごく長かったです」
●スタジオでいざ録るぞ! っていう時よりも開放的になれるというか、気持ちよさそうだなっていうのを感じたんですけど、いかがでした?
「めちゃめちゃ気持ちよかったです!」
自分なりにできることを発信
※先ほどもお話がありましたが、Miyuuさんは「日本自然保護協会(NACS-J)」が行なっている『全国砂浜ムーブメント』というキャンペーンに協力されていて、オンラインのイベントにもMCとして参加されていました。なにか協力するようになったきっかけとか、あるんですか?
「きっかけっていうのは、もともと旅にもご一緒に協力させていただいたりとか、それ以外にもお話をさせていただいたりして、日本自然保護協会さんのテーマである多様性ということについても、自分自身もっと学びたいなって思っていました。
海も山も川もすべてが繋がっていて、切り離せないっていうことをいつも教わっていて、本当にそうだなと思っています。
それって人間関係にも通じることってすごくあるなと思って、今の私がいるのは両親がいて兄弟がいて、仕事仲間がいて友達がいてっていうことで、すべての出来事だったりとか、出会った人が今の自分を作っているんだなって、環境問題から教わったというか、日本自然保護協会さんからいろいろ教えていただきましたね。
自然環境についてより深く掘り下げることで、今後私たちの子供だったりとか次の世代に美しい世界を残していけたりとか、より豊かな自然を残していけるっていうことプラス、自分自身の人生ももっと環境問題を学ぶことで豊かになっていくんじゃないかなって思っています。
なので、協力させてくださいと、むしろ私から学ばせてくださいという感じで、イベントのMCとかもさせていただいたりしています」
●以前から自然や環境を保全するような活動に興味があったんですか?
「そうですね。興味はあったんですけど、どういうふうに自分が踏み出せばいいかっていうのが分からなくて、心の中ではずっとなんかしたいな〜みたいな気持ちがあったんですね。
その気持ちが芽生えたきっかけっていうのが、おばあちゃんが愛媛県に住んでいて、私は大阪で育ったので、いつも瀬戸大橋を渡って愛媛のほうに行くんですけど、その瀬戸大橋から見える工場地帯からすごく煙が上がっていて、子供ながらに空気が汚くなるよみたいな、すごくもやもやした気持ちになったんです。
やっぱり大人になるにつれて、小学校高学年くらいから、ああいう工場があるから自分は今、車に乗れているし、豊かな生活が送れているんだなと思ったら、なんかそれを否定するのも違うな・・・でもやっぱり環境は汚れているし、矛盾だらけで、どうしたらいいんだろうみたいな感じで・・・気づけば、それもまた年が経っていくごとにその感情すらもちょっと薄れていく自分がいて・・・。
でも、そうしているうちに一方で、それに対して声を上げている人たちがいるっていうことを知って、シンプルにそうやって声を上げている人はかっこいいなーって思って・・・自分ができていなかったから、その人たちからいっぱい学べることってあるんじゃないかって思って・・・日本自然保護協会のかたたちもそうなんですけど、一緒に私もそういう人たちから学んで、自分なりにできることを発信したいなって思いました」
知ることの大事さ
※環境問題で今、いちばん気になっていることはありますか?
「ふたつあるんですけど、まずは海ごみの問題、マイクロプラスチックだったりとか・・・。それはシンプルに、私は夏になるとサーフィンをしたりとか、海に行く機会がすごく増えるんですけど、やっぱり汚い海より綺麗な海のほうが自分の心も気持ちよくいられるしって思ったのが、海ごみに関心を持ったきっかけなんですね。
海にはすごくいろんな生物がいて、プラスチック自体がその生物たちの邪魔になっているということも、(以前は)想像力が乏しかったので考えていなかったんですけど、日本自然保護協会のかたから教わったりすることで、人間もそうだし、生き物たちもやっぱり海は綺麗なほうがいいよなって思って・・・。
私がオフィシャルグッズ、自分のグッズを作る時に、できるだけ海を汚さないような工夫をしている企業さんとのコラボ商品を作ったりもしていたり・・・ステンレスストローだったりとか、少しでも長く着られるような素材を使ったTシャツだったりとか、自分ができることをちょっとずつしています。
もうひとつは、洋服の廃棄だったりっていうことなんですけど、このふたつに関心があるのは多分、自分にいちばん身近な問題だったからだと思っています。
大手の企業さんだったりとかファッションブランドさんが、最近着なくなった服を回収してくれるサービスとかあったりするじゃないですか。すごくいろんな取り組みをされているんだなと思って・・・私もやっぱり安い服を買えると嬉しくなるし・・・でもそういうものって生地がちょっと薄かったりとかして、2回着たらもうダメになるとかあるじゃないですか。そういう服をリサイクルできるからと思って、(回収ボックスに)入れていて、それでなんか気持ちよくはなっていたんですね。
ある日、YouTubeで回収された服たちが、どこに行っているのかっていう動画をパッとたまたま見てしまって・・・そうしたら、循環していると思っていた洋服たちが、アフリカのある国に送られているだけで、その人たちもその服を着れないし、必要としていないから、どんどんそこにゴミが溜まっていく、悪循環になっているんだっていう問題提起の動画を見つけたんです。
やっぱり知ることって大事だなと思ったし、その問題を根本から解決するためには、自分が少しでもひとつのアイテムを長く着続けることだなと思って、そういう問題に関心があるというか、まず自分ができることにトライしようかなっていうふうに思いました」
●私たちはどんなことを心がけたらいいんでしょうか?
「私自身も今すごく勉強している段階で、大きいことは言えないんですけど、本当にひとりの小っちゃい力が集まれば、どんなことでも、大きいムーブメントを起こせるんだろうなと思っています。
例えば、さっき言った少しでも自分の持っている服を長く着るとかもそうだし、ステンレスストローにしてみようかなとか、本当に小っちゃいことでもいいと思うんですけど、それをみんなひとりひとりがやったら、気づけば大きいことになっていくので・・・私自身もたまに、タンブラー忘れた! みたいな時もあるけど(笑)、徐々に自分ができることをやっていくのが、いずれは大きなムーヴメントになると信じています」
※では最後に、シンガー・ソングライターとして、今後歌っていきたいことはなんでしょう?
「知ることの大事さをさっきお話ししたんですけど、私はそれを自然環境から学んだんですね。なんか人間関係も同じだと思っていて、大嫌いな人が例えばいるとして、人の悪口をいつも言っていたり、嫌だ、聞きたくないと思う人もいると思うんです。でも私たちってその人の多面的な部分の、ひと部分しか多分見えていないと思うんですね。
イマジネーションというか、その多面的だということを想像することがすごく大事だと思うし、知ることだと思うんです。そういうことの大事さをメッセージとして、音楽で届けていけたらいいなと思って、曲作りもそういうメッセージを込めて作りたいなって思っています」
●Miyuuさんの音楽にやっぱり自然の体験は必要なことですか?
「そうですね。旅だったりとか、自然との関わりから、なにか音楽をやろうって思ったので、すごいきっかけを与えてもらったという意味では、自然と音楽は私自身、切り離せないなってすごく思います」
(編集部注:Miyuuさんは、30日間のキャンピングカーの旅を通して、人はひとりでは生きられないことを再確認したそうです。そして、夢はVAN LIFE! そんなライフスタイルも発信していきたいとのこと)
INFORMATION
『30 DAYS VAN LIFE〜Trip on Music』
Miyuuさんの楽曲付きフォトエッセイをぜひ読んでください。主に西日本から九州を巡る30日のキャンピングカーの旅の記録。旅先で出会った人のインタビューや体験、フィールドレコーディングの裏側なども掲載。1日1日を大切にしながら、ありままを楽しんでいる姿が写真からもよくわかりますよ。ナチュラルなMiyuuさんの音楽、そして生き方に今後も注目です。
このフォトエッセイはMiyuuさんのオフィシャルサイトからお買い求めいただけます。また、お話にも出てきたオリジナルのステンレス・ストローのほか、可愛いトートバックなども販売。ぜひチェックしてください。
◎MiyuuさんHP:https://avex.jp/miyuu/
2022/7/10 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、ガラパゴスバットフィッシュ愛好家で、NPO法人「日本ガラパゴスの会」のスタッフ「バットフィッシャーアキコ」さんです。
アキコさんは1991年、東京都生まれ。上智大学外国語学部卒業。在学中にガラパゴス諸島を訪れ、卒業後には、現地のチャールズ・ダーウィン研究所のボランティア・スタッフとして活動。現在は、日本人でもっとも多くのガラパゴスバットフィッシュを観察してきたスペシャリストとして、講演や執筆、メディアへの出演など、幅広い活動をされています。そして先頃、『バットフィッシュ 世界一のなぞカワくん〜ガラパゴスの秘魚』という本を出されました。
アキコさんのインタビューをお届けする前に、きょうのお話の主人公ガラパゴスバットフィッシュについて説明しておきましょう。ガラパゴス諸島の海に生息するへんてこりんな魚で、英語名が「バットフィッシュ」。「バット」はコウモリのことなので、直訳すると「コウモリのような魚」となりますが、写真を見ると、コウモリには見えません。
見た目の最大の特徴は、真っ赤な口紅を塗ったような唇! 体の大きさは15〜20センチほど、正面から見ると甘食パンのようで、上から見ると矢印のような形、胸びれや腹びれが足のようになっていて、海底の砂地を歩き、魚なのに泳ぎが苦手など、およそ魚らしくない特徴を持っています。
そんなバットフィッシュの存在を知り、一瞬にして虜になったアキコさんは、敬愛の意味と、あまりにも知られていない魚だったので、少しでも知名度を上げたいという強い思いで「バットフィッシャーアキコ」と名乗るようにしたそうです。
きょうは、謎だらけのガラパゴスバットフィッシュについてお話いただくほか、どうしても会いたくてとった、信じられない行動に迫ります。
☆写真協力:バットフィッシャーアキコ

なぜ、真っ赤な唇!?
●番組の冒頭で、ガラパゴスバットフィッシュの特徴についてご説明しましたが、写真を見て、特に目を引くのが真っ赤な口紅を塗ったような唇です。なぜバットフィッシュの唇が赤いのか、わかってるんですか?
「これは本当に不思議で、おっしゃる通り、口紅を塗ったかのような真っ赤なリップなんですけど、どうしてこんなに真っ赤なのかは、実は全く解明がされていません。そしてもっと不思議なのは、この真っ赤な唇が海の中で見ると全然目立たないんですよ」
●すごく目立ちそうですけどね。
「そうなんです。海の中は陸上と違って、赤色が吸収されてしまう性質があるので、大体水深3メートルくらいから赤色はだんだん色味が暗くなってきて、10メートルを過ぎたあたりから輪郭もぼやけて黒い感じに見えてしまいます。
ガラパゴスバットフィッシュが生息している水深20メートルあたりですと、その真っ赤な唇はなんとなく黒いぼやけた物体のようで、そもそもちょうど顔面の中央に黒っぽい模様がある魚なんですけども、その模様の中に隠れてしまって、どこに口があるか分からないですね。
これは私の個人的な推測なんですけども、唇が赤い理由はもしかしたら、赤いことによって唇を見えなくさせて、例えば獲物となる魚に、ここに自分の口があるよっていうことを悟らせない戦略なのかなと勝手に推測しています」

●そうなんですね〜。その口の上の部分、割と大きな目の先にある出っ張りのようなものは? 尖った鼻のようにも見えるんですけれど・・・。
「すごく不思議ですよね。横から見るとピノキオの鼻のような物体なんですけれども、これは一応、吻(ふん)と呼ばれる名称が付いています。バットフィッシュの仲間全般そうなんですけれども、釣りでいうルアーのような、擬似餌というのをピロピロと出し入れして、獲物をおびき寄せるんです。
この吻の先から出すのかと思いきや、そうではなく、吻の下からその擬似餌をピロピロと出し入れするので、実質その吻は本当に何のためにあるのかが分からないんですね」
●面白いですね〜! 飾りみたいになっちゃってるんですね。
「本当に飾りなのかな〜みたいな感じですね(笑)」
●魚の分類でいうと、どんな魚の仲間なんですか?
「アンコウの仲間ですね。皆さんもご存知のチョウチンアンコウですとか、そういった類の仲間になります。チョウチンアンコウもそうですけれども、擬似餌のようなものをピロピロと出し入れして、獲物となるものをおびき寄せて、パクッと食らいついて生計を立てていると言いますか・・・」
●生息しているのはガラパゴス諸島の海だけなんですか?
「そうですね。ガラパゴスバットフィッシュに関しては、発見された当初はガラパゴス諸島の固有種だとされていたんです。のちに実はペルー沖でも発見しましたという論文が出たんですけれど、その後、現在に至るまで、ほかにペルー沖で発見されたという例ですとか、論文がひとつもないので、実のところ、私個人としてはガラパゴス諸島の固有種と言ってもいいのではないだろうかと考えていますね」
(編集部注:ガラパゴスバットフィッシュが属するアンコウ目アカグツ科ニシフウリュウウオ属の魚は、世界に13種類いるとされ、そのすべてが南北アメリカ大陸の近海に分布しているそうです)

運命の出会い、そしてスペイン語!?
※アキコさんがバットフィッシュの存在を、いつどんなきっかけで知ったのか、気になりますよね。お話によると、高校3年生の夏、「海の日」に下北沢の本屋さんでたまたま手に取った生き物フォトブック、そこに載っていたガラパゴスバットフィッシュの写真に衝撃を受け、一瞬にして虜に!
そしてレジに走り、即お買い上げ! 家に帰る時間ももどかしく、近くのファーストフード店に駆け込み、バットフィッシュの写真を夢中で見続け、気がついたら、2時間、経っていたそうです。
アキコさん、バットフィッシュのどんなところがそんなに魅力的だったんですか?
「なんでしょう・・・フォルムですか・・・甘食パンのようなボディに前足後ろ足が生えてるようなルックスもそうですし、口紅を塗ったかのような真っ赤な唇もそうですし、何か言いたげな目と言いますか、すべてが自分の中で、こんな生き物が地球上に存在したのかという喜びと興奮で一気に惹きつけられて、魅せられてしまいました」

●確かにインパクトのある魚ですけれども、ただただ面白いなと思うだけじゃなくて、アキコさんは行動に移したわけですよね? バットフィッシュに会うためにまず始めたことはどんなことなんですか?
「まず最初に、きっかけとなったバットフィッシュの載っている本を読んでいた時にすぐに思ったのは、この魚に会いたい、どうしたら会えるんだろう、(本を)見たところ、ガラパゴス諸島というところに生息している、ガラパゴス諸島はどうもエクアドル領らしい、エクアドルという国はスペイン語圏・・・ということはスペイン語を勉強すれば、話せるようになれば、会えるじゃん! っていう安直な考えで、当時高校3年生だったこともあり、大学の希望の進路をスペイン語の学科に設定しました(笑)」
●もともと語学は得意だったんですか?
「それが全くだめでございまして、もう本当にガラパゴスバットフィッシュに夢中になってしまったため、自分が語学が嫌いで苦手だということをすっかり忘れていたので、大学に合格してからやっと思い出しましたね」
●すごいですね! 研究者になろうとは特に考えなかったんですか?
「そうなんですよ。本当に会いたい! スペイン語を喋れれば会えるじゃん! っていうことしか思いつかなかった安直な頭だったので、よし、研究者に! っていう考えが全く浮かばなかったんですよね」
●スペイン語を勉強して、初めてガラパゴス諸島に行ったのはいつ頃なんですか?
「初めて行ったのが大学3年生の夏休みですね。語学がすごく苦手だったので、入学してから大変苦労したんですけれども、3年生になると少しばかりは会話もできるようになってきまして、ダイビングのライセンスも取得できたタイミングだったので・・・」
●もともとダイビングとかもされていたんですね。
「実を申しますと、泳ぎが全くダメなんですね(笑)。ただ唯一、会える方法というのがガラパゴス諸島の海でダイビングするという手段しかなかったので、水がそもそも苦手だしカナヅチなんですけれども、決死の思いでダイビングの講習に申し込みまして、すごく苦労しながら、自分で独自の特訓を重ねながら、なんとかダイバーになったという次第です」
報われた瞬間!
※アキコさんが大学3年生の夏休みに、初めて訪れたガラパゴス諸島は南米エクアドルから西へおよそ1,000キロの、太平洋に浮かぶ火山群島。ほかに類を見ない動植物の宝庫で、あのチャールズ・ダーウィンが「進化論」を書くきっかけにもなった島々としても有名。1978年に世界自然遺産の第1号のひとつとして登録された、世界中の研究者たちが注目している生き物たちの楽園です。
アキコさんによれば、日本からガラパゴス諸島に行くまで、トランジットの時間も入れると30時間ほどかかり、動植物の保護のため、検疫など含め、かなり厳しい規則と検査があり、それをパスしてやっと島に入ることができたそうです。
また、島に上陸してからも、野生生物とは2メートルの距離を取るなど、厳しいルールが課せられ、ダイビングできるのは許可されたエリアだけ。船の数や参加人数も制限されていて、ダイビングするためには必ず事前にツアーに申し込まなければいけないそうです。

ツアーに参加して、ダイビングエリアに潜って、すぐにバットフィッシュに会うことはできたんですか?
「私、すごく幸運なことに、初めてガラパゴス諸島に行った年の、本当に初めての1本目のダイビングでお会いすることが叶いました!」
●どうでした? 初めてお会いして。
「何人かのお客さんのグループと一緒に潜ったんですけれども、先頭を泳いでいるガイドが見つけてくださって、いるよって指をさした先に、うわー! いた! って感じだったんです。
でも、元気に泳いでるねっていうのでは全くなくて、砂地の上に静かに佇んでいる、どちらかというと、例えば落し物が落とされたままになっているみたいな空気のほうが近いんです。
すごく静かにひとりで砂地に佇んでいて、しかしその様子を見て、こちらとしてはもう本当に大興奮で、すべての血管という血管がフルで、血潮が駆け巡るような興奮を覚えました」
●苦手な言語も泳ぎも頑張ってよかったですね!
「報われた瞬間でした!」

※初めての出会いから現在に至るまで、何匹くらいのガラパゴスバットフィッシュに出会っているんですか?
「現在、累計55バットに会っておりまして、これをお話すると、意外と少ないじゃん! って、おっしゃるかたもいらっしゃるんですけれども、ガラパゴスバットフィッシュは、ガラパゴス諸島でダイビングすれば、必ずしも会えるという魚ではないんですね。
時期と場所を選んで潜って、そこまでしてでもやっと一回のダイビングにつき、1バット会えるか会えないかぐらいのレア度なので、私にとってはこの55っていうのはとっても大きいですね!」
●これまで出会った55バット、それぞれ個体差とかっていうのはあるんですか?
「例えば見た目、体の模様のつき方ですとか、ピノキオの鼻のような吻の長さが違うといった身体的な特徴はもちろんなんですけれども、何よりも性格に違いがあるなということは実感しています。
例えばバットフィッシュがいた! と言って、私たちダイバーが駆け寄ってカメラを向けた時に、ずーっとぼーっとしている個体もいれば、どうしようって困って後退りをした末に泳いで逃げていく個体もいれば、後退りをした後に諦めてフリーズしてしまう個体もいます(笑)。
あとはもう見るからに怒った顔で、こちらに向けて口をパクパクして何かを訴えてくるような個体もいたり、もう本当に人と同じですよね。反応の違い、性格、本当に一匹一匹違うなということは、すごく実感しました」
チャールズ・ダーウィン研究所で熱く語る!?

※アキコさんは、ガラパゴス諸島のサンタ・クルス島にあるチャールズ・ダーウィン研究所のボランティア・スタッフとして活動していたそうですが、世界中の研究者たちが憧れる研究所に、いったいどんな経緯でスタッフとして入ることができたんですか?
「これがもとを正せば2度目の渡航の時ですね。大学4年生の夏に再びガラパゴス諸島を訪れたんですけれども、その際にチャールズ・ダーウィン研究所にちょっとお邪魔できる機会を頂戴いたしました。
その時に海洋生物部門のオフィスにご案内いただいて、そこで、”ガラパゴスバットフィッシュって研究されていますか?”ってワクワクしながら尋ねたところ、”ん? バットフィッシュ、やっていないよ”っていうふうに返されてしまって・・・。
もう私は大ショックだったんですね。あなたたちのお住まいのこの海に、こんなにも珍しい魚がいるのに、全く研究の対象にしないなんて、もったいないですよ! みたいなことを、ど素人の私がプロの研究者たちに向かって、思わず熱く語ってしまったところ、”そんなに好きなら、うちに来ればいいじゃん!”と声をかけていただけまして・・・。
その時が大学4年生の夏で、あと半年学校が残っていたので、では卒業したら、こちらに来ます! っていう約束をして、無事に卒業をし、来ました〜という勢いで研究所に戻ってきたところ、”ごめん! 実は今、席が空いていないんだ”と言われてしまったんです。
でももう来ちゃったし、どうしようと思っていたら、”それなら私が引き取ります!”と申し出てくださったかたが現れて、そのかたが長をしている、同じダーウィン研究所の植物部門のプロジェクト『ガラパゴス・ベルデ2050』というチームに所属する運びになりました」
●研究者にとってはすごく憧れの研究所ですよね!
「そうですね。私が在籍していた時にも、世界から毎日(研究所に)所属したいという希望が100通以上メールで届いていましたね」
●すごいですね! そういう研究所に所属できるというのは!
「そうですね。すごく幸運なことでございました。平日は自分が所属していた植物部門のチームで、ガラパゴスの在来植物の保全の研究や調査などを行ないながら、休日は個人的に海に行ってダイビングをして、ガラパゴスバットフィッシュの観察を続けて、自分なりにノートに気付いた点とか疑問に思った点を毎回つけていました。
あとは現地の海洋生物学者の皆さまであったり、ダイビング・ガイドの皆さまに聞き込み調査などを行なったりしていましたね」
ガラパゴスで感じた人間のおごり
※ガラパゴスで暮らした経験のある日本人は、ほとんどいないと思うんですけど、実際に暮らしてみて、ガラパゴスの自然や生き物から、どんなことを感じましたか?
「ガラパゴス諸島の生き物は、基本的に人間をあまり恐れないんですね。野生生物に2メートルを越えて近づいてはいけないよっていうルールがあるんですけど、実際にその2メートル・ルールを破ってくるのは、生き物側が多くて、ズカズカズカってこっちに近寄って来ちゃったりするんですね。島に住んだ当初はベンチに座っていると、アシカにベンチを奪われることもあったりしました。

最初の頃はそれにすごく驚いてしまったんですけれども、住んでいるうちにだんだん、これって、なんというか自分が人間であるおごりだったなというか、人間が座っているのになんで来るんだよっていう思いが、多分どこかにあったのかなって思い始めました。やはりガラパゴスに住んでいると、生き物たちは同じ環境に棲んでいる対等な生物、対等な存在なんだなと思うようになりましたね」
●なるほど〜。今後明らかにしたいバットフィッシュの生態はありますか?
「もうたくさんあるんですけれども(笑)、そのうちのひとつが、私がダーウィン研究所にいた時に海洋生物部門の人に声を掛けていただいたことがあって、その時に”アキコ、この間、自分は海底探査をするために潜水艦に乗ったんだけれど、その時に水深200メートル・エリアにすっごい数のガラパゴスバットフィッシュがいたよ!”って教えていただいて、もうそれを聞いて大興奮ですよね!
普段はダイビングの時だと会えて1バット、基本的に単体でいることがほとんどの存在が、水深200メートル域にすごい数がいたっていうのが、どうしてなんだろうっていうのもありますし、果たしてそこがメインの生息地なのか、もしそこがメインの生息地だとしたら、逆になぜダイビングで見られるような水深20メートル・エリアにも出てくるのか・・・いろいろ謎があるので、とにかくその水深200メートル・エリアのすごい数のバットフィッシュを、自分の目でも是非見てみたいですし、その理由を解明したいです」
●楽しみですね! なんかワクワクしますね!
「ワクワクします!(笑)」
●では、最後にアキコさんにとってバットフィッシュとはどんな存在ですか?
「私にとって最愛の存在であり、人生の起爆剤でもあるかなと思っています。もともと語学も苦手だし嫌いだしっていう人間がスペイン語を勉強して、現地に住むようになったりですとか、泳ぎもダメ、水に触るのも怖かったような人間がダイバーになって、現地の海で潜るようになったりですとか・・・。
ガラパゴスバットフィッシュに出会わなければ、絶対に着手しなかった領域に、私の見識を広めてくれたというか、私の世界を広げてくれた存在なので、本当に人生におけるターニング・ポイントとなってくれたので、本当に感謝していますね」
(編集部注:ガラパゴスバットフィッシュの生態は謎だらけで、何を食べているのかも分かっていません。アキコさんによれば、カニやエビなどの甲殻類や軟体動物ではないか、ということですが、実はだれも捕食シーンを見たことがないそうです。
ガラパゴス諸島の生き物は一切、島外には持ち出せないため、ガラパゴスバットフィッシュは、世界のどこの水族館でも飼育されていないということですが、近縁種のニシフウリュウウオ属の仲間は、国内の水族館で見られるところがあるそうです)
INFORMATION
『バットフィッシュ 世界一のなぞカワくん〜ガラパゴスの秘魚』
ガラパゴスバットフィッシュへの畏敬の念と愛にあふれた本です。ぜひ読んでください。専門の研究者がいない中、地道な観察や、数少ない論文などを参考に書きあげた、世界に誇るバットフィッシュの専門書と言っていいかもしれません。といっても、難しい本ではなく、ガラパゴスでの生活やチャールズ・ダーウィン研究所での体験など含め、楽しく読めます。巻末には、これまで出会った55バットの観察記録が写真入りで掲載されていますよ。
さくら舎から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎さくら舎HP:http://sakurasha.com/2022/04/バットフィッシュ-世界一のなぞカワくん/
バットフィッシャーアキコさんのオフィシャルサイト、そしてアキコさんがスタッフとして活動されている「日本ガラパゴスの会」のサイトもぜひご覧くださいね。
◎バットフィッシャーアキコHP:https://www.batfisherakiko.com
◎「日本ガラパゴスの会」HP:https://j-galapagos.org/
2022/7/3 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、埼玉県ときがわ町で「キャンプ民泊NONIWA」を運営する「青木江梨子(あおき・えりこ)」さんです。
青木さんはご主人の達也さんと一緒に「野あそび夫婦」というユニット名で活動。2019年6月に日本初とされるキャンプと民泊を組み合わせた「キャンプ民泊NONIWA」をオープン、おふたりともキャンプインストラクターの資格を持ち、キャンプの講習会ほか、アウトドア雑誌の企画監修なども行なっていらっしゃいます。そして先頃、『ソロキャンプ大事典』という本を出されました。
きょうはそんな青木さんに、キャンプ民泊NONIWAの特徴やビギナー向け「ソロキャンプのノウハウ」などうかがいます。
☆写真協力:キャンプ民泊NONIWA

ふたりで誰かを喜ばせる
※埼玉県ときがわ町で運営している「キャンプ民泊NONIWA」は具体的には、どんな施設なんでしょうか。
「基本的には、民家の横にあるちょっと広めのお庭みたいなスペースを、キャンプ場としてお客様にテントを張ってもらって、トイレとお風呂とキッチンは自宅のものを使ってもらうというスタイルです。キャンプのハードルを下げるために作った、これからキャンプを始めたいかたに向けた施設になります」
●一般の方にキャンプ場として利用してもらうためには、ある程度広い敷地が必要だと思います。「キャンプ民泊NONIWA」がある埼玉県ときがわ町というのは、どういった場所なんですか?
「そうですね。東京からも大体1時間とか1時間半くらいで来られるような場所にはなるんですが、埼玉でいうと秩父のちょっと手前あたりに位置しています。こんもりした山とか小さな川が流れている里山というような雰囲気の場所になります。なので、長野とか山梨みたいな、広大な敷地のキャンプ場のイメージとはちょっと違う感じなんですけど・・・ちょうどいい町です」

●改めて、このキャンプ民泊を始めるに至った経緯を教えてください。
「私たちはもともと、夫婦で結婚してからキャンプを始めようという形で始めたんですね。その時に周りにキャンプをやっている友達もいなくて、自分たちでインターネットで、どんな道具がいいのか、ルールとかあるのかな、みたいな感じで、いろいろ調べて(キャンプを)始めたんですけど、結構苦労したので、気軽に相談できる人が身近にいたらいいなぁって思っていたことがひとつです。
あと、キャンプをまだやったことがない友達に、キャンプに連れて行ってよ〜! っていう感じで、一緒にキャンプすることがありました。その時にも自分たちにとっては当たり前になっていた、テントに建て方とか、薪の割り方みたいなものが新鮮みたいで友達も喜んでくれたんですね。
今まで私と夫は同じ趣味もなかったので、自分たちがふたりで誰かを喜ばせることができるんだな、キャンプって! っていうことに、そこで気づいたっていうことから、キャンプ民泊をやってみようかなってことにつながりました」
(編集部注:「キャンプ民泊NONIWA」をなぜ埼玉県ときがわ町で開業したのか、実は、青木さんご夫妻はもともと練馬区にお住まいでしたが、ご主人が埼玉県川越でお仕事をされていたので、通える範囲で自然豊かな場所を探していたら、たまたま「ときがわ町」と出会ったそうです)
インストラクター付きキャンプ
※一般のキャンプ場との大きな違いは、どんなところでしょうか。
「まずその規模が、一般のキャンプ場だったら、30張りとか、30組40組とか、もっと多いところもたくさんあると思うんですけど、うちの庭のスペース的にマックスで3〜4組っていう、すごく小規模なところがひとつです。

あとは、これからキャンプを始めたいかた向けのキャンプ場ということでやっているので、最初は手ぶらで来ていただいて、キャンプ道具も全部レンタルして、そして私達がキャンプのインストラクターとして、テントの建て方とか全部お伝えする感じでやっているところが(ほかのキャンプ場との)違いかなと思います」
●初心者としては、どんなテントがいいんだろうとか、そういったことがまだわからない状態なんですけど、心配いらないっていうことなんですね!
「そうですね。テントの大きさとか収納のときのサイズはどれくらいがいいですか? とか、車の大きさとか、家族の人数とかで、あなたにはこういうテントがいいんじゃないんですか、みたいなご提案をしたりしています」
●初歩的なことは、すべて教えていただけるってことなんですね?
「そうですね!」

※NONIWAでは、キャンプの講習会も実施されているそうですね。どんな講習会があるんですか?
「ステップ1、2みたいな感じで進んでいただくんですけど、まずステップ1は日帰り講習という形で、泊まらずにNONIWAに来ていただきます。
キャンプ道具は一般的にどういう物が必要なのか、ずらっと並んだ道具をいろいろ見ていただいて、ご説明をして、キャンプの全体のイメージをつかんでいただいたうえで、テントの建て方とか、タープの建て方とか一緒にやってみます。
最後は焚き火をして、マシュマロを炙って食べて、ちょっとキャンプのイメージをつかんで帰っていただくみたいな感じです。
そしてまた別日にステップ2として、次は宿泊体験! 実際に泊まってみましょうという形で、自分たちでテントとタープを建てて、一晩を過ごしていただくっていうようなキャンプ講習をほぼ毎週やっています」
●やっぱり一歩踏み出す勇気ってなかなか出ないというかたも多いと思うんですけれども、ここまでバックアップしていただけるといいですね! やってみようかなっていう気持ちになりますよね。
「そうですね。多分ここまで、ほぼマンツーマンという形で、キャンプを体験していただく施設はほかにはないかなと思っています」
●NONIWAは誰でも利用できるんですか?
「そうですね。キャンプ講習自体は、ほんとにキャンプをまだやったことがないかたも、どなたでもお申し込みいただけるようになっています。ただ、そのキャンプ講習以外に通常のキャンプ場のような形でも泊まっていただけるんですけれども、それはまずキャンプ講習に来ていただいたかた、もしくは私たち野遊び夫婦と面識があるかたとか、そのご紹介みたいな形で小規模でやっています。
あとは、月に1回くらいオープンイベントというのを開催していて、日帰りで来てくださったかたは、いろいろお話しした上で、今後NONIWAをキャンプ場として使っていただけるようなシステムになっています」
キャンプは、絆が深まる

※ところで、青木さんご夫妻がキャンプをやるようになったのは、どうしてなんですか?
「始めたきっかけが・・・もともと私が小さい時に、家族にキャンプに連れていってもらって、その時の経験がすごくよくって、自分も家族ができたらキャンプを始めたいなって思っていました。
中学生くらいになると、やっぱり部活とかでなかなか家族でキャンプに行けなくなって、疎遠になっていたんですけど、大人になって結婚したらキャンプしたいなってなんとなく思っていたんです。それで夫と結婚したタイミングで、キャンプやってみない? っていうふうに誘った感じなんですけど、夫はキャンプをしたことがなくって、全然アウトドアとは無縁の人だったんですね。でも、意外とハマってくれました」
●ご夫婦でのキャンプの醍醐味ってどんなところですか?
「そうですね。一緒にキャンプをするっていう面でいうと、家族でキャンプをするとチームみたいな感じで、力を合わせないとできないみたいなところがありますね。私はテントのこっち側を持つから、お父さんはそっちを持ってみたいな感じとか、一緒にご飯を作らないと食べられないし、テントを建てないと寝ることができないみたいな感じで、家族がチームになる感じがすごく個人的にはいいなって思っています。
それは夫婦でやった時も一緒で、普通におうちでただテレビを見ながら、ご飯を食べている時とはまた違う経験ができますよね。焚き火を囲んでふたりで話すと、いつもはしないすごく深い話ができて、将来どういうふうにしていく? みたいな話もできて、キャンプ民泊っていうのをやってみようか、仕事を辞めてこっちにシフトしようか、みたいな話もできたので、そういう時間が持てるのがキャンプのいいところかと思います」
●ご夫婦やご家族の絆が深まりそうですよね! アウトドアやキャンプの趣味が仕事になったわけですけれども、好きが仕事になって、ましてやNONIWAを利用されるユーザーさんが自宅にいらっしゃるということもありますよね? オンとオフの切り替えって難しくないですか?
「結構私たちの性格なのか、ぬるっと始まって(笑)、少しずつ来てくれる人が増えていって・・・みなさん本当にいいかたばかりで・・・家族が増えていくようなイメージで、あまりオンとオフみたいに切り離さなくても楽しいかなっていう感じです」
超初心者向け『ソロキャンプ大事典』

※青木さんご夫妻は先頃、『ソロキャンプ大事典』という本を出されました。この本のセールスポイントを教えてください。
「はい、基本的にはNONIWAのキャンプ講習でお伝えしている、基本的な道具の選び方から、テントとかタープの建て方をわかりやすく載せていただいている本なんですね。
大辞典というだけあって、こういう時にどうしたらいいのだろうみたいなこととか、女性のソロキャンパーさんってすごく不安が多いと思うんですけど、こういう時に、たとえば盗難だったりとか、夜怖い思いをしないかみたいな、そういう不安なところまで、こと細かく載せてもらっている本になります。
あとは私たちが体験したことのあるソロキャンプ以外の、いろんなスタイルがあるんですけど、例えば自転車キャンプとか、徒歩で飛行機とかで行くようなキャンプとか、バイクを使ったソロキャンプをやっているかたがたにも協力していただいて、それぞれのキャンプ・スタイルの魅力を対談形式で載せてもらっているのがすごくおすすめです」
●ソロキャンプ、今ブームですよね?
「そうですね。かなり増えてきていて、最初NONIWAでもファミリーキャンプ講習をやっていたんですけど、(お客さんから)ソロでもやりたいです! っていうかたがすごく増えてきて、ソロキャンプ講習も始めていったという形です」
●青木さんご自身もソロキャンプってされたことはあるんですか?
「そうですね。最初から、キャンプを始めたいって時から、やっぱりソロキャンプに憧れがありました。でもやっぱり最初からひとりでやるには、なかなかハードルが高いというか不安だったので、NONIWAで自宅の庭になるんですけど(笑)、”女子ソロキャンプの会”みたいな感じで、同じ境遇の人たちとソロキャンプの練習をするってところから始めました」
●なるほど〜。私のような初心者がソロキャンプに挑戦するとしたら、まず何から始めたらいいんでしょう?
「そうですね〜。小尾さんの周りには、キャンプをしているお友達っていますか?」
●います!
「そしたら、やっぱり一緒に、キャンプに連れて行ってもらうっていうところから始めたらいいかなって思いますね。もし周りにいなかったら、まずは必要最低限の物を持って、日帰りのキャンプから始めるっていうのがいいかなって思っています」
●泊まらないとなると、確かにハードルが下がるかもしれませんね。
「そうですね。テントとか寝袋とか大物はまだ買わなくて、椅子とかお料理が
できるような、おうちにあるものでもぜんぜんいいと思うんですけど、そういうのを持って日帰りでキャンプ場に行ってみるのがいいと思います。
そこでどんな泊まりのキャンプがしたいか、みたいな(周りに)いろんな(スタイルで)キャンプをしている人がいるので、その様子を見て、私はあれよりも小さいテントでいいかなとか、そういう感じで、実際経験してみてから、自分のイメージにあった道具を揃えていくのがいいかなと思っています」
(編集部注:ソロキャンプの初心者が友達のキャンプにお邪魔する時は、防災用にもなるヘッドライトもあったほうがいいでしょう、とのことでした)
ときがわ町をアウトドアタウンに

※NONIWAは、常連さんが増えてきたそうですが、5年後、10年後のNONIWAがどうなっているか、何かイメージのようなものはありますか?
「NONIWAを始めてまだ3年くらいですけど、その中でもやっぱりキャンプの流れというか世の中の流れとかで、私たちがおすすめする(キャンプ)スタイルもどんどん変わっているので、講習の中身も日に日に変わっているイメージなんですね。
今まで来てくれたお客さんの反応とかで、いろいろ変えているので、5年後、10年後はどんなキャンプ講習になっているのかは、まだわからないんですけど、キャンプをやりたいって人はきっといると思うので、5年後、10年後も!(笑)コツコツやっていきたいなと思っています」
●ちなみにこの3年間で、どういった変化があったんですか?
「私たちがそう感じているだけかもしれないんですけど、今までは快適なキャンプをするために、結構道具をたくさん持って行って、グランピングみたいな感じで快適にキャンプをするのがいいよね! っていう時期もあったんですね。
今は逆にどれだけ物を減らして、身軽に苦がなくキャンプに行くっていうような、日常と非日常の垣根があまりないような形のキャンプも見直されています。実際、お客さんが泊まりに来てくれた時に、あまりにも大きなテントを建てていると、結構それだけで消耗しちゃっていたりする人もいるので、なるべくコンパクトで疲れないキャンプをご提案するように変わってきました」
●ユニット「野遊び夫婦」としては、なにか新しい活動とか、夢や目標というのはありますか?
「そうですね。私たちご縁があって、この埼玉県ときがわ町という所で活動させていただいているんですけど、本当にこの町がすごく大好きで移住して来たので、この町の魅力を私たち目線でどう伝えていけるかなっていうのが、日々の課題でもあるんです。
将来的にときがわ町をアウトドアタウンにできたらいいな〜っていう目標があるので、ちょっとずつNONIWAだけじゃなくて、近隣のキャンプ場さんと提携したりとか・・・。
あとは今、新しく夫がやっている、レンタルとかアウトドアのショップみたいなのを、10月くらいにオープンできたらっていう形で活動を始めているところなので、ちょっとずつ町を巻きこんで、面白いことができたらいいなって思っています」
INFORMATION
「キャンプ民泊NONIWA」はキャンプ未経験者に向けた、至れり尽くせりの施設。超初心者の小尾さんもぜひNONIWAでキャンプ体験をしたいということです。番組の取材でお邪魔して実現できればとスタッフは思っています。
ちなみに青木さんご自身が、キャンプの時のいちばん好きな時間は焚き火をしながら、周りの風景と大好きなお酒を楽しんでいる時だそうです。キャンプに焚き火とお酒は欠かせませんね(苦笑)
キャンプ民泊NONIWAについて、以下のオフィシャルサイトをご覧ください。
「野あそび夫婦」の活動については、以下のオフィシャルサイトをご覧ください。
ソロキャンプをやりたいかた、または初心者のかたは、ぜひ「野あそび夫婦」監修のこの本を参考になさってください。ソロ用の道具選び、サイトでの設営・撤収、ソロキャンプのご飯ほか、徒歩、自転車、そしてバイクのソロキャンプスタイルなどを掲載。安全にそして快適に過ごすためのノウハウが満載です。
成美堂出版から絶賛発売中です。詳しくは以下のサイトをご覧ください。
2022/6/26 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、科学ジャーナリストの「柴田佳秀(しばた・よしひで)」さんです。
柴田さんは1965年、東京生まれ。東京農業大学卒業後、テレビ・ディレクターとして、「生きもの地球紀行」や「地球!ふしぎ大自然」などの自然番組を数多く制作。2005年からフリーランスになり、本の執筆、監修、そして講演など、幅広く活動されています。
都市に棲む鳥の観察や研究もされている柴田さんには、3年前にもこの番組に来ていただいて、ベイエフエムのすぐ近くにある公園でバードウォッチングの手ほどきを受けました。

そんな柴田さんの新しい本が『となりのハト〜身近な生きものの知られざる世界』。ハトに関するびっくりするような豆知識がたくさんつまっていて、話題になっています。
きょうはハトの未知の世界にご案内します。
☆写真協力:柴田佳秀

ドバトというハトはいない!?
※ハトは街中や公園など、どこにでもいるように思うんですけど、それだけよく見かけるというのは、たくさんいるということですか?
「そうですね。街の中に、人のそばにいる鳥なので・・・人が活動するところにいるので、よく出会うという感じですかね」
●街中でよく見かけるのは、いわゆるドバトですよね?
「そうです。ドバトと言われているハトですね」
●ドバトという種類ではないんですよね?
「そうですね。よくドバト、ドバトというんですけど、ドバトという名前の鳥はいないんです。正しくは、カワラバトという名前で、それを昔人間が利用するのに家禽化(かきんか)したんですね。それをドバトというんです。だからニワトリやアヒルとかと同じです。
ニワトリという鳥はいないんですね。あれは野生のセキショクヤケイという名前の鳥を、人間が利用するために改良したのがニワトリ、アヒルはマガモというカモを、人間が利用するのに品種改良したのがアヒル、それと同じようにカワラバトを家禽化したのが、ドバトと呼ばれています」
●人が改良したハトっていうことになるわけですね。
「そうですね。人が利用するのに改良したハトです」
●日本には何種類ぐらいのハトが生息しているんですか?
「身近にいるのはドバトなんですけど、日本には12種類、ハトの記録があります。身近にいるのはドバトと、キジバトいわゆるヤマバトとか言われているやつですね。その2種類が身近に、街の中にいます。
そのほかの10種はそう簡単に出会えないものがほとんどです。実はドバトと言われるカワラバトは、日本の鳥ではないです。外来種です。
もともとカワラバトはどこに棲んでいたかというと、エジプトとか中近東、あとは中国の西部やインドの乾燥地帯にいる鳥なので、それを昔連れてきて、逃げたり放したりしたのが野生化して、今街の中にいるのがドバトなんですね」
●世界にはもっと多くのハトがいるってことですか?
「はい、世界には今351種のハトがいます。ただこれは研究者によって分類の仕方が違うので、数の正確さは前後しますけど、大体350種くらいいると考えてもらっても問題ないと思います」
(編集部注:先ほど「家禽(かきん)」というお話がありましたが、「家禽」とは人間が繁殖させ、飼育している鳥のこと。動物だと「家畜」となります。
通称ドバトが、人が近づいても逃げないのは、もともと人が飼っていたから。人に慣れるように改良された遺伝子のハトだけが残り、それが野生化しただけなので、逃げないということだそうです)

もともとハトは神社の鳥!?
※ドバトは公園や神社、お寺などにたくさんいて、群れているイメージがありますよね。それはハトの習性なんですか?
「そうですね。ドバトの、カワラバトのもともと持っていた習性です。カワラバトというのは、集団で群れで暮らしている鳥なんですね。一方、ヤマバトと言われているキジバトはほとんど群れないです」
●日本にはどちらもいるんですよね。
「どちらもいて、両方とも今、都会では普通にいるんですけど、キジバトのほうはひとりが好きみたいです。あとはペアですね。たまに食べ物がいっぱいあったりすると、ペア同士で集まって来て、群れみたいになるんですけど、それはただ集まっているだけなので、群れとは呼べないですね」

●ハトはハトでもぜんぜん違うんですね。
「神社や公園にいて、よく歩いている奴はドバトですね。それは群れています。なぜ神社にいるかといったら、もともとハトは神社の鳥だったんです」
●えっ!? 神社の鳥というと・・・?
「例えば、もともと八幡様、あの八幡宮のシンボルがハトなんですよ。鶴岡八幡宮に行くとわかるんですけど、鶴岡八幡宮と書いてある看板がありますよね。あれの「八」はハトです。ハトの絵になっていますよね。そして、鶴岡八幡宮ではハトサブレを売っていますよね」
●おおお〜。
「あれは八幡様の鳥がハトだから、そのシンボルとして、ハトサブレを売っているるんです。今(大河ドラマで)やっている鎌倉時代の、源頼朝のあの時代に遡るんですけど、昔はハトが来ると戦いに勝つ! みたいな瑞鳥(ずいちょう)として、八幡宮ではシンボルとされている鳥なので、それでずーっと八幡宮とか、そういうところで可愛がられていたんですね。日本ではそういった神社がいっぱいできて、そこでハトが可愛がられて、神社やお寺中心にハトがいるようになったんです」
●そういう歴史があったんですね!
「そうですね。その辺は話すとすごく長くなるので、一冊本が書けちゃうくらいなんですけど(苦笑)」
●いや〜、奥深いですね、ハトって!

ハトの特殊な能力
※ハト胸という言葉がありますが、胸の部分が盛り上がって見えるのは、どうしてなんですか?
「あれは、実は筋肉がついているんです」
●あれは筋肉なんですね。
「そうです。いわゆる胸肉と言っている、あの筋肉は何をする筋肉かというと、翼を動かすための筋肉なんです。あれだけ大きな筋肉がついているってどういうことかといったら、力強く羽ばたくことができるので、ハトはすごいスピードで飛ぶことができます」
●確かにそうですね。
「スピードも出せるし、さらに距離も長く飛ぶことができます。もともとハトの習性として、お家みたいな、寝るための巣を作ったりする場所があるんですね。
ハトの食べ物って、大体みなさん豆だと思いますよね。確かに豆なんです。豆というか草のタネなんですね。草のタネがなっているところは、結構遠くに行かないとなかったりしますよね。
広い範囲を飛び回って、わーっと群れで行って(タネが)あると、そこにばーっと降りて、食べてまた戻るという、お家に帰るという暮らしをしていたんです。すごく広範囲を飛び回らないと食べ物がないですよね。だから胸の筋肉が発達していて、別に渡り鳥ではないんですけど、ドバトは1日30キロほどの距離を飛びます。
あと水もよく飲みます。食べ物がタネで乾き物なので、水を飲まないとうまく消化できないんですね。だから鳥の中では水もすごくよく飲むんですけど、水を飲みに行くのも遠くまで、砂漠に棲んでいる鳥だったので、胸(の筋肉)が非常に発達していたりします。
森の中に棲んでいるハトも木の実を食べるので、どこか遠くへ木の実を取りに行かないと、いつも同じところにはないですよね。それで遠くまで飛んで行くので、筋肉が発達していて、ハト胸みたいに膨らんでいます」
●そうなんですね〜。
「もうひとつハト胸になる理由があって、それはよくタカに襲われるんです。タカ派とハト派ってあるじゃないですか。ハトってタカに食べられちゃうんですけど、食べられてばっかりだと絶滅しちゃうので、強力な筋肉で早く飛んで逃げ切るんです」
●先ほど水をよく飲むって話もありましたけど、水の飲み方もほかの野鳥とは違うんですよね?
「そうですね。普通、鳥は水を飲む時に、水にクチバシを浸けてから、そのままストローみたいにゴクゴク飲まないで、ちょっと(水を)ふくんでは、上を向いて流し込むような感じ・・・ニワトリはそうしていますよね。
ハトはクチバシを水に浸けて、そのままゴクゴク飲むことができるんです」
●下を向いたまま飲めるってことですよね!
「そうですね。それができるのはハトの仲間とサケイっていう仲間と、一部砂漠にいるキンカチョウっていう小鳥、それぐらいだけで、ほぼハトの専売特許というくらい特殊な飲み方です」
●へぇ〜〜、凄い能力ですね。
「なぜハトにだけそんな能力があるのかっていうのは、実はよくわかっていないんです」
●そうなんですか?
「一説によると、少ない水でも・・・森の中の浅い(水たまりの)ちょっとしかない水でも飲めるようにっていう説があります。とにかくハトは水を飲みたがるので、ちょっとの水でも飲めるように、そういった飲み方をするようになったんじゃないかなっていう説があるんですけど、まだはっきりしたことはわかっていないです」

ハトはミルクで子育てをする!?
※野鳥の場合は、おもに春から夏にかけて、繁殖をすると思うんですけど、ハトも同じような感じなんでしょうか?
「ハトの繁殖シーズンは一年中なんです」
●えっ! 一年中!?
「一年中ですね。春から夏前は多いんですけど、一年中ハトは繁殖します。それはなぜかというと、ハトは結局、タネばかり食べているので、タンパク質がないですよね。そのタンパク質を補うのに普通、タネばっかり食べている鳥でも、繁殖期の時だけは、虫を取って来て(雛に)あげるんですね、スズメとか。
だけど、ハトはずーっとタネを食べているので、ピジョンミルクという特殊な餌を雛に与えて育てるので、季節を問わないんです」
●ミルクで子育てをするってことですか?
「そうなんです。ミルクで子育てをするんです」
●えっ! どうやってミルクを出すんですか?
「鳥なので、おっぱいがあるわけじゃないので、ミルクといっても、まあミルクのようなものが・・・実は口の食道の一部に素嚢(そのう)という袋みたいなのが鳥ってあるんですけど、そこの一部が(ハトに)子供ができると、壁が厚くなるんですね。そこの部分が剥がれて溜まるとチーズみたいな感じになるんです。
すごくタンパク質に富んでいて、それを吐き戻して雛に与えるってことをやっています。ハトの特殊な生態なんですけど、あたかもミルクみたいな感じなので、ピジョンミルクという名前をつけています」
●そのミルクを出せるのはメスだけですよね?
「いや、実はオスも出せるんです」
●え〜〜! じゃあオスのミルクで育っているっていうこともあるんですね?
「そうなんです。オスもメスも両方(雛にミルクを)与えないと、多分足らないんでしょうね。我が身を削って与えるし、そう簡単に食道の素嚢の壁が厚くならないので、だから代わりばんこに与えるんでしょうね。
その代わり、ハトは雛の数が少ないんですよ。一羽か二羽なんですね、一回で育てられるのは。それはおそらく餌の量がそれほど用意できない、だから(オスとメスの)両方で育てないといけない、その代わり一年中、繁殖可能なので、ハトは数を期間で補うという戦略をとっているんだと思います」
(編集部注:ハトの繁殖シーズンは1年中ということで、求愛行動を観察するチャンスも多くあると思います。オスがノドを膨らませて、メスを追いかけ回すそうですが、主導権はメスが持っているとのことですよ。
ちなみにドバトはオスとメスの、見た目の違いはほとんどないので繁殖行動のときに、ノドを膨らませているのがオスだとはっきりわかるそうです。ノドまわりの虹色にも注目してみてください。
ハトはその昔、通信の手段、いわゆる伝書バトとして利用されていました。その起源は一説によれば、紀元前3千年前のエジプト、漁師さんが海に出るとき、ハトを連れて行き、どれくらいの量の魚が獲れたのかをいち早く知らせるために、ハトを使っていたそうです)
※これは、ハトが巣に戻る「帰巣本能」があるからだと思いますが、ハトはどうやって戻る方向を見極めているんですか?
「基本的には近い距離だと景色を憶えているみたいです。伝書バトクラスだと近い距離は憶えていているみたいですね。もうちょっと遠くなってくると、あらゆるセンサーを使って自分の位置がわかるみたいです。ひとつに、地磁気ってありますよね。地球の北とか南とか・・・それが正確にわかるらしいです」
●そういう能力があるんですね!
「そういう能力に長けていて、特にドバト、カワラバトというのはお家みたいなところがあって、どこかに行って帰って来るという、もともとの習性があったので、それをうまく利用したのが伝書バトなんです。だから本来の習性をうまく利用しているんです。
キジバトとかアオバトとか、そういうハトに、それをやらせられるかっていうと、全然そういう習性がないので、やらせるのは無理ですし、賢いと言われているカラスもお家からどこかへ行って、また戻って来る暮らしをしていないので、いくらカラスに教えてもできないです」
(編集部注:ハトは時速60キロくらいで飛ぶことができ、ハトのレースに出場する訓練されたハトは、なんと1000キロほどの距離を休まず、15時間くらいかけて飛ぶことができるそうです。まさにアスリートですね。
ちなみに昭和30年代くらいまで、新聞社は写真を送るために、ハトを使っていたそうですよ)

人間の生活が見えてくる!?
※きょうはハトの驚きの能力など、いろいろお話をうかがってきましたが、ハトのような身近な生きものに目を向けてみるのは、大事なことかも知れませんね。
「そうですね。色んな身近な生き物に目を向けてみると思わぬことがあって・・・
実は僕はそれほどハトが好きではなかったんです。今告白しちゃいますけど(笑)」
●そうなんですか〜。
「実はそうなんですね。鳥を好きな人って、ハト好きはそういないかもしれない」
●ちょっと地味なイメージがありますよね。
「地味ですし、わりと形にバリエーションがないので、まあアオバトとか綺麗なので、それは人気があるんですけど、身近にいるやつは、なんだハトか、なんだキジバトかという感じで、見ない人が多いんですね。
僕もこの本を書くお仕事がきっかけで、ハトを見直してみたんですけど、いや面白いです、非常に! ハトから見えてくることがいっぱいあって、都市の鳥を僕は主に研究しているんですけど、都市の鳥を研究すると、人間の生活が合わせ鏡のように見えてくるので、鳥を見ているんだけど、人を見ているみたいな感じになります」
●例えば、どんなことがわかるんですか?
「ここ毎日ハトがいるな、絶対ここで人が餌をあげているなと・・・ちょっと時間帯を変えてみると、やっぱり餌をあげる人がいて、話をしてみると・・・なんで餌をあげているんですか? って聞いたら、ここでハトに餌をあげられるのは、私くらいしかいなくてっていう人が何人もいたりするんですね(笑)。
あと、街のビルの構造なんかも、あ〜、ハトが巣を作っているなって見えるんだけど、もうちょっと鳥のことを知っていたら、こんなところに巣を作られないように、隙間を作らないようにするんだろうなって思いながら、僕は見ているんです」
●もうちょっと気にしてみるっていうのがいいかもしれませんね。
「そうですね。気にして見ていると世界が変わります。普段の生活がかなり変わりますね」
INFORMATION
柴田さんの新しい本をぜひ読んでください。国内外のハト全般に関する豆知識がたくさん掲載されています。一般的にはフンの被害があったり、時には害鳥として駆除されたりと、マイナスのイメージもあるかと思いますが、この本を読むと、ハトの能力や人とのつながりを知ることができて、見方が変わると思います。ぜひ身近なハトの世界を覗いてみてください。山と渓谷社から絶賛発売中です。
詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎山と渓谷社HP:https://www.yamakei.co.jp/products/2821063100.html
柴田さんの活動についてはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎柴田さんHP:http://shibalabo.eco.coocan.jp/
2022/6/19 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、地球を一周する外洋ヨットレース「GLOBE 40(グローブ・フォーティ)」に挑むセーリング・チーム「MILAI」のスキッパー「鈴木晶友(すずき・まさとも)」さんです。
6月26日にスタートする「GLOBE 40」は、約5万5千キロを9ヶ月かけて走破するまさに地球規模の壮大なレースです。
鈴木さんは1985年生まれ、千葉県出身。小学2年生の時に、稲毛ヨットハーバーのジュニアヨット教室に参加し、ヨットの楽しさに目覚めます。その後もヨットを続け、高校入学後に本格的に競技ヨットを始め、大学生の頃には、大会で優勝するなどの成績をおさめます。社会人になってもヨットへの情熱は燃え続け、ついには会社を辞め、2019年に大西洋横断レース「ミニトランザット」に挑戦し、完走を果たします。
きょうはそんな鈴木さんに「GLOBE 40」にかける思いなどうかがいます。
☆写真協力:MILAI AROUND THE WORLD

チーム名「MILAI」に込めた思い
※鈴木さんが挑む外洋ヨットレース「GLOBE 40」のお話の前に、「MILAI」というセーリング・チームについてうかがいましょう。このチームはいつ頃発足し、メンバーは何人いるんですか?
「私たちは2020年から、今年スタートする『GLOBE 40』を目指して活動を始めました。2020年にMILAIを発足して、最初は私と日本人のスキッパー中川紘司とふたりだったんですけれども、今はチームにセーラーが5人いて、その5人で世界一周をやろうということで活動しています」
●壮大なプロジェクトだと思うんですけれども、メンバーを集めたのは鈴木さんなんですか?
「はい、そうですね。今回の世界一周ヨットレースの前に、2019年に大西洋横断ヨットレース『ミニトランザット』というヨットレースに出場したんですね。その後に世界一周をやろうということで、2020年から活動をすることになったんですが、当時、ミニトランザットで知り合ったセーラーに声をかけて、一緒に世界一周をやらないかということで、みんなに声かけあって、今5人のセーラーで活動しています」
●実際にヨットに乗るメンバー以外に、船の整備をするメカニックですとか、レースを支えるサポート・メンバーもいらっしゃるんですよね?
「そうです。セーリングをする前に船の準備、あとは陸上でのいろんなサポートが必要になるんですけれども、多くのフランス人、あと日本人のスタッフに支えられながら、今全部で総勢5名ぐらいの陸上スタッフがいます。なので、約10名ぐらいのチームとして活動しています」
●チーム名のMILAIには、どんな思いが込められてるんですか?
「MILAIの意味は日本語の、過去未来の未来で、というのも私たち外洋セーリング(のチーム)は今、フランスで活動しているんですけれど、なかなか日本人のセーラー、そもそも日本ってあまりヨットが盛んじゃないんですね。
しかも、セーリングという競技の中で外洋に行くかたって少なくて、若手がなかなか育たないというような状況なんです。なので、私たちのチームMILAIの活動が次の若手のセーラーに、同じようなことやりたいと思ってもらえるようなきっかけになればと思って、MILAIという名前をつけて活動しています」
(編集部注: チーム「MILAI」に所属するセーラーは鈴木さんと中川さんのほかに、フランス人のアンさんと、エステルさんの女性ふたり、そしてイタリア人のアンドレアさんという 国際的なチームなんです)
風の力だけで世界一周!
※今回、鈴木さんたちが挑む外洋ヨットレース「GLOBE 40」、この「GLOBE」とは「地球」、「40」とはヨットの大きさを表わすそうですが、いったい、どんなレースなのか、教えていただけますか。

「GLOBE 40は全長40フィート、メートルにすると12メートルのヨットで、ふたり乗りで世界一周するヨットレースです。モロッコのタンジェというところをスタートして、世界8カ所に寄港しながら来年3月、9ヶ月間かけて世界を一周するヨットレースです」
●今回のGLOBE 40は何カ国から何艇のヨットが出場するんですか?
「国数でいうと、8カ国のセーラーが集まっています。出場数が実は8艇程度と少ないんですけれども、これはコロナウィルスの影響で、大会が1年間延期されたことがひとつ大きな原因としてあるんですね。
それとGLOBE 40は今回が初回の大会となります。これから4年に1回ずつこのGLOBE 40は開催されていくので、いつかは大きなヨットレースになって、1回目に日本人が出たんだねっていうような、ヨットレースになるんじゃないのかなと思っています」
●どんなコースで地球を一周するんですか?
「長いですよ(笑)。スタート地がモロッコのタンジェで、最初にカーボベルデ(共和国)に寄港します。その後、南アフリカのケープタウン沖を通った後に、モーリシャスを経由し、モーリシャスから次がニュージーランド、ニュージーランドからタヒチに一度北上します。
その後、南米(アルゼンチン)のウシュアイア、その後、北上を始めて、ブラジルのレシフェを経由し、カリブ海のグレナダ、そして来年の3月にフランスのロリアンに戻ってくる、全部で3万マイル、約5万5千キロのセーリング・ヨットレースなりますね」

●すごいですね。ヨットで世界の海をセーリングするんですよね。
「風の力だけですよ」
●ということは、風がないと進まないっていうことですよね?
「そうです。本当に風の力だけで走るのがヨットです。これはヨットレースなので、エンジンがついているんですけれども、レース中はスクリューを回して動力として使っちゃいけないんですね。
風がない時は船は止まりますし、逆に嵐の時はもうそんな速く走らなくていいよっていうくらいに速く走るので、本当に自然の力を十分に受けるダイナミックなスポーツになります」
●風が吹かない海域っていうのはあるんですか?
「いちばん風が吹かない海域で有名なのは、赤道無風地帯というところで、その無風地帯にハマってしまうと、3日間から4日間、そこからまったく動けないということもありえるみたいですね」
●鈴木さん的にはどのあたりが、今回のレースを左右する地点だとお考えですか?
「ケープタウンを越すところと、あとは南米のケープホーン、この2カ所がいちばん難しいと言われているんですね。低気圧がどんどん来るところで、風速が40メートルにもなるような海域なので、そこを無事に突破できるかが勝負の分かれ目になるじゃないのかなと思っています」
奥さんにありがとう!
※ヨットで世界を一周してみたいという思いはいつ頃、芽生えたんですか?
「もともと世界一周をしてみたいなっていうのは、小学生の頃からうっすら描いていたものはあったんです。ただ、2019年に初めて大西洋横断ヨットレースに出場した後に、急に世界の海はどんな海なんだろうなっていうのを、より強く感じるようになったんですね。なので、大西洋を横断した後から、次は世界一周だっていうのを目指して、この2〜3年、世界に向けて頑張ってきました」
●地球一周のヨットレースに参戦している日本人と言えば、この番組にも何度もご出演いただいている海洋冒険家の白石康次郎さんがいらっしゃいますけれども、やはり白石さんの影響というのは大きかったですか?
「大きいですね。白石さんには大変お世話になっています。というのも、私が今フランスのロリアンっていうところで活動しているんですけど、このロリアンは外洋セーリングの中心地と言われていて、多くの大西洋横断ヨットレースだったり、世界一周ヨットレースだったり、そういう(レースに出場する)ヨットがみんな集まっているような基地になるんです。
そのロリアンに白石康次郎さんもベースを置いているので、ヨットのことだったり、フランスの生活のことであったり・・・例えば、困った時に誰を頼ったらいいのかなど、たくさんのサポートを白石康次郎さんからいただいて、今こうやって活動を続けられています。本当に感謝しています」

●ロリアンという街には、あまり知り合いもいらっしゃらなかったっていうことですか?
「2018年に初めて行った時は、知り合いがまったくいませんでした。フランスのかたは、英語を話さないかたが多いですね。私はフランス語をまったく、今でも話せないんですけど、まずはフランス語ではなくて、英語が話せる人を探すところから始めたのがもう4年前ですね。本当にいい思い出です。
今となってはたくさん仲間ができて、多くの友達もいるので、すごく心地がいいんですけれど、初めてロリアンに行った時は、なんでこんなところ来ちゃったんだろうぐらいの(笑)、完全に地の果てに来てしまったなというような感じでした」
●どうやって地元で人脈を作っていったんですか?
「最初は本当に知り合いもいなくて、ヨット(レースの活動)を2018年に始めた時はお金もなかったので、まず自転車を買おうと思って自転車を買って、いろんなお店に行きました。そこでまず、あなたは英語を話せますか? こんなことで困っているんだけど、助けてください、っていうところから少しずつ始めたんですね。
そうしたら、変わった日本人がいるぞって、ちょこちょこ噂が広まっていくんですよね(笑)。ある日突然、逆になんか困ったことがあったら言ってくれよっていうのを、フランスの現地のかたから声をかけてもらえるようになりました。そういう流れで、今となっては本当にたくさんの仲間たちに囲まれながらフランスで生活しています」

●もともと鈴木さんは会社員だったんですよね?
「そうです」
●会社を辞めて3年ほど前、単身フランスに渡られたというということですけれども、奥様のご理解あってこそですよね?
「ええ、ありがたい、ほんとうにこの場を借りて、奥さんにありがとう! って叫びたいぐらいなんですけど(笑)」
●普通はなかなか理解できないと思いますよ!
「もともと社会人、それからサラリーマンをしていた時も、ヨットは競技としてやっていたので、ヨットをやる旦那だっていうことを理解はしてもらっていたんですけど、まさか旦那が大西洋を渡ったり、世界一周に挑戦するなんて思ってもいなかった! とは今でもよく言われるんですね。ただこのヨットレースに参加するっていうのはある意味、ひとつの安全を確保するということでもあるんですね。
ヨットレースに出場するには、数々の資格が必要だったり、予選レースがあったりとか、ある程度ボーダーを越えないとヨットレースに出られないというラインがあるので、僕はこのヨットレースで横断するんだよ、このヨットレースで世界一周するんだよ、だから僕は大丈夫だよっていうことで、ある意味、妻は納得してくれたというような感じです(笑)」
●そうなんですね〜(笑)
「ただ、妻は日本で生活をしていて、私は日本に帰るのが、半年に一回くらいなので、毎回日本に帰るたびに、玄関のカギ、変わっていないでくれよ! って思いながら帰っています。今のところは家のカギは変わらずに生活しています(笑)」
●素晴らしい奥様ですね!
「ありがたいですね」
イルカの声、満天の星空
※6月26日に始まる本番のレースに向けて、大西洋横断レース「ミニトランザット」にも出場されました。レースとはいえ、ヨットの上で生活もしなくちゃいけませんよね。食事とかはどうされるんですか?

「何を食べているの!? って思いますよね。僕らの船ってヨットレース用なので、海の上でお湯しか沸かせないんですよ。日本人なので私はお米が食べたくなるので、アルファ米といわれる乾燥したお米をお湯で戻して食べたり、あとは日本のレトルト食品を持っていったりとか・・・。基本的には日本だと防災用に使われているような食料を海の上で食べることが多いですね。
あとは、トイレがないんですよ。なので、船のデッキの上にバケツを置いて、そこで用を足して、という形です。用を足している時にイルカたちが来ると、今は来ないでくれ〜って(笑)思うような・・・イルカと会話をしながらの青空トイレです!」
●そうか! イルカやクジラにも遭遇する可能性もあるっていうことですよね。
「ほんとにこんなにもイルカやクジラって海にいるんだなって思うくらい、毎日のように遭遇します」

●すごいですね〜。
「船の中で寝ていると、イルカの声が聴こえるんですよ。”キュルルルル”っていう音が、水中から伝わってくるので、自分が船に乗って大海原を走っているんだなぁっていうのをすごく感じますね」
●すごいことをされているんですね、鈴木さん! 壮大だな〜。
「自分の力で太平洋を横断したい! 世界一周したい! っていうのを叶えられるのは、ヨットしかないので、ヨットで自分の力で走っているという感じですね」
●ふたりで乗っているっていうことですけれども、ということは、睡眠は交代交代で取るっていうことになるんですか?
「そうですね! 基本的にはひとりがオンで、ひとりがオフになるので、僕らは2時間交代制でヨットを走らせているんですね。基本的には2時間、実際は(ネットで)天気を見たりとか、例えばレポートを書いたりしないといけないので、1時間半くらいは1回の睡眠で取ることができます」

●1時間半ごとっていうと、ずっと仮眠状態という感じですね。
「そうですね。小刻み小刻みに1時間半ごとに、24時間ずーっと交代交代に回ってくるんですけれど、3週間とか4週間、海の上にいると、ヨットレースが終わった後に、家に帰っても2時間で起きちゃうんですよ。もうそういう体になっているんですよね」
●そうなんですね〜。鈴木さんは外洋に出られて、これまでにいちばん印象に残っている景色ってありますか?
「海の上は周りにまったく光がないので、月がない夜に空を見上げると、ほんと満天の星空が広がっているんですよ。陸の上で星空を見た時に、オリオン座があそこにあるなぁ〜とか思うんですけど、海の上で満天の星空を見ると、オリオン座がどこにあるか分からないくらい星が綺麗なんですね。
その星空の下でセイリングをしていると、本当に自分が今、地球の上を走っているんだなっていうのを感じますね」
(編集部注:先ほど、ヨットの中で寝ていると、イルカの声が聴こえるというお話がありましたが、イルカやクジラ、そして海鳥など、生き物たちと出会えるのも楽しみのひとつだそうです。海鳥は羽を休めるために一晩中、ヨットにいたこともあるそうですよ)

30年間、抱いてきた夢
※いよいよ6月26日から地球一周の外洋ヨットレース「GLOBE 40」が始まります。ずばり、目標は?
「まずは無事に、船を壊さずに世界一周を遂げることが、私たちの目標です。船を壊さずにしっかり世界一周を遂げれば、それなりの成績がついてくるので、(何位になるかは)私も分かりませんけれども、なるべく上位を目指して、無事にフランスに帰ってきたいなと思っています」
●改めてこのレースを通じて、どんなことを伝えたいですか?
「私はずーっと子供の頃からヨットを続けていて、今回初めて世界一周に挑戦できるんですけども、この夢はずっと30年間、抱いてきた夢なんですね。ずっと抱いてきた夢を諦めずにいたからこそ、今回挑戦できているので、ぜひ次の世代の子たちには夢を諦めずに、何かしらの挑戦を続けてもらいたいなというのを、私の活動を通してお伝えできたらいいなと感じています」

●レース中にネットで、リアルにつながることはできるんでしょうか?
「はい、できます! 実は、今はインターネットが海の上でもつながる時代なので、テレビ電話がなんとできちゃうんですね! 海の上からまたお電話できたら嬉しいです」
●レースに参加している気持ちで応援できるっていうことですね!
「そうです! リアルタイムでつながります。海の上で私たちは24時間、2時間交代で寝起きしているので、いつでもご連絡いただければ、お話できるかなと思います」
●鈴木さん、頑張ってください! 番組でも応援しています!
「ありがとうございます! ぜひよろしくお願いいたします」
●ぜひまたお話し聞かせてくださいね!
「ありがとうございました!」
INFORMATION
今年初開催の「GLOBE 40」は6月26日に、ジブラルタル海峡に面したモロッコのタンジェという港町からスタート、その後、8カ所の港に寄り、およそ9ヶ月かけて、2023年3月にフランスのロリアンに戻る予定です。総距離はおよそ5万5千キロ! 9つの区間(レグ)を鈴木さんは全部乗り、レグごとに相棒を代えて臨むことになっています。
そんなチーム「MILAI」は、活動資金をクラウドファンディングで募っています。世界を巡るヨットレースは、船のメンテナンスやレースの継続などに費用がかかります。ぜひ鈴木さんたちの「夢」と共にご支援していただければと思います。
チームやレースの詳細、そしてクラウドファンディングについては「MILAI」のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎「MILAI」オフィシャルサイト:https://milai-sailing.com
◎「MILAI 」クラウドファンディング:https://milai-sailing.com/crowdfunding.html
2022/6/12 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、秘湯探検家の「渡辺裕美(わたなべ・ゆみ)」さんです。
渡辺さんは奈良県出身。会社勤めをしていた15年ほど前、仕事のストレスで心身のバランスを崩したときに、バックパックを背負い、東北の温泉を巡り、自然と触れ合ったことで、とても癒されたそうです。そしてすっかり秘湯にハマり、これまでに国内外を含め、およそ2500カ所以上の温泉を制覇。温泉ソムリエの資格も取得し、現在は秘湯の旅番組などで活躍されています。
そして先頃、アウトドア雑誌のネット版に連載していた温泉レポをまとめた本『絶景温泉ひとり旅〜そろそろソロ秘湯』を出されました。
きょうはそんな渡辺さんをお迎えし、標高1400メートルの絶景温泉や、山に分け入り、やっとたどりつく、神々しい滝の温泉など、秘湯の話題満載でお届けします。
☆写真協力:渡辺裕美

サバイバル感も楽しめる「野湯」
※「秘湯探検家」という肩書は探検するかのように秘湯を追い求める渡辺さんの活動にぴったりだと思ったんですが、ひとりで行くのは何か理由があるんでしょうか。
「そうですね。やっぱりあんまり大勢で行くと、結局普通のお風呂と同じになっちゃうじゃないですか。やっぱりひとりで行く醍醐味は、自然をまさに独り占めできること。鳥の声、川のせせらぎ、あと自然に湧き出ている温泉そのものだったり・・・それを自分ひとりで満喫できるのは、多分ソロで行く以外できないですよね。
そういう独り占め感と、あと道中なんですね。割と地図がない秘湯に行くことが多いので、何人かで行くとどうしても、おおよその場所が分かっていたり、ヒントを与えられてしまうんだけど、ひとりで行くとサバイバル感っていうか自分でその場所を探し当てるみたいな、そこがすごく楽しいところです」
●この本には、バックパックを背負って秘湯まで山の中を歩いたりっていう写真も載っていましたけど、怖くないですか?
「めっちゃ怖いですね。怖がりなので、人一倍、クマ除けスプレーだったり鈴だったり、例えば川が出てきたら、こう渡ろうとか、川の渡渉のスパッツを一応持って行ったりとかします。自然って何が起こるか分からないので、やりすぎるぐらいの準備をして挑むというのはあると思います。
正直、いちばん怖いのは人間なんですよ。クマさんよりも動物よりもやっぱり人間がいちばん怖いですね。でも自然の中に入ってしまうと、それほど(自然が)怖いっていう感じはあんまりないですね」
●日本には秘湯と言われる場所は、どれぐらいあるんですか?
「秘湯と言うと、割と宿も含んじゃうんで多くなるんですけど、野湯(のゆ)っていう山の中にポツンと湧いている、海岸にポツンと湧いている、そういう自然の温泉は300箇所以上あると思います」
●その中で何箇所ぐらいの秘湯を制覇されたんですか?
「200箇所は超えていると思いますね」
●すごいですね〜! 先ほども野湯のお話がありましたけど、秘湯と一口に言ってもいろいろあると思うんですが、いくつかタイプに分かれているっていうことなんですか?
「そうですね。秘湯って言っちゃうと割と広義な意味になって、秘湯の宿とか、宿も含んじゃうんですけど、野湯はその秘湯ジャンルの中でも、もっとニッチなところにあって、いわゆる未管理の、人間の手が加えられていない温泉です。
山の中とか川にポツンと湧いているような、営業とかもしてないし、ただ湧き出ている、そういう温泉を野湯って言うんです」
湯船の中でご来光!

※新刊『絶景温泉ひとり旅〜そろそろソロ秘湯』には66カ所の秘湯が掲載されています。その中から気になった温泉をうかがっていきます。まずは、表紙になっている、この写真の温泉はどこなんですか?
「これは岩手県の八幡平市にある、本当に八幡平の山頂付近にあるポツンと一軒宿なんですけど、”藤七温泉(とうしちおんせん) 彩雲荘(さいうんそう)”さんって言います。
なんで表紙になったかというと、綺麗なのもあるんですけど、私がすごく感動した、秘湯巡りを始めた初期に、初めて東北の温泉を周った時、この藤七温泉 彩雲荘さんに泊まって、あまりにも素晴らしい温泉でびっくりしたので、そういう印象的な思い出の温泉です」

●どう素晴らしいんですか?
「ほかの温泉と何が違うかっていうと、国立公園の中にいくつもの露天風呂がぽこぽこっていっぱいあるんですよ。それはもう本当に自然の中にただただ湧き出ている、まあ人工的に作ってはあるんですけど、でも本当に見た目は自然の中に湧き出ている、さっき言った野湯に近い形で、温泉も底からプクプクと気泡となって湧き出てくるんですね。
まさに自然のジャグジーみたいな感じで、気泡が背中にポロロンって湧き出た時に付くんですけど、あ、今湧き出た! みたいなのがすごく分かるし、音もぽこぽこっと鳴るんですよ。
これってもう究極の幸せで、温泉って本当に生まれたて、湧きたてがいちばん鮮度抜群なんで、その鮮度と自然の神秘を体感できるのが彩雲荘さんのすごいところです。
あと泥パックとかもできるんですよ。下に泥が溜まっているので、女性のかたはすごく必見というか、顔に塗りたくっているかたもいらっしゃいますね」

●写真を見ると、お湯が確かに白っぽいですけれども、これは泥なんですね。
「そうですね。ちょっとだけ茶色いっていうか薄いミルキーグレーみたいな色で、これがまさに泥と温泉が混ざった状態なんですよ」
●標高もかなり高い場所にあるっていうことですよね?
「標高は1400メートルぐらいですね」
●自然のジャグジー、いいですね!
「そうなんですよ。一回、小尾さんも泊まっていただきたいですけど、この温泉、すごいのが次の日、朝5時ぐらいに岩手山の方向を見るとご来光が出るんですよ。周りがオレンジ色に包まれて、そこにちょこんと露天風呂があるんですけど、その湯船の中でご来光を浴びる、これ最高です。
とにかく朝昼晩、自然の神秘に触れられるっていうのが彩雲荘さんのすごいところかなと思いました」
(編集部注:渡辺さんが野湯に出会ったのも、温泉巡りを始めた15年ほど前、東北の温泉を巡っていた時だったそうです)
神々しい滝の秘湯
※本に載っている秘湯のお話を続けましょう。栃木県の那須方面にある幻といわれる滝の秘湯、これにも驚きました。これはどんな場所にあるんですか?

「栃木県の那須郡にある「両部(りょうぶ)の滝」ですね。那須の茶臼岳の八合目付近に潜んでいる温泉の滝なんですよ。実はこれ全然知らなくて、情報を誰かから聞いたんです。こういうのがあるよ、みたいなのを・・・。
ただ地元の人も誰も知らないし、ガイドブックでも一切紹介されていなくて、地元の観光協会や山岳クラブみたいなところに電話したんですけど、いや知らない!の一辺倒。知っていたとしても、そこはもう言えません! みたいな感じで、すごく隠している、じゃないですけど、ほとんど知られていないのが8割で、一部は知っているけど、知らんふりみたいな感じでした。
いろんな情報を一生懸命探して、行ってみたんですよ。温泉の滝なんですけど、すごいのが温泉の滝にもうひとつ向かい合うように普通の沢水の滝があって、ふたつの滝が向かい合って落ちているんです。本当に神々しい、絶景を超えて神々しい雰囲気が漂っている場所なんですね。
温泉は100メートルくらい上流の岩場から湧き出ているんですけれども、滝に行き着くまでに、(温度が)40度くらいから30度弱くらいになるんですね。それでも外気温が結構冷たい時は、あたりに湯気がふわぁ〜っと舞って、本当に神々しいの一言ですね」

●ネットとか雑誌にも載っていないような場所なんですね。すごい! まさにパワースポットですね!
「そうなんですよ。本当にパワースポットでした!」
●知る人ぞ知るというか・・・。
「そうなんですよ。いろいろ歴史を調べていくと、もともと100メートル上流の源泉湧出地が、江戸時代からずっと山岳信仰の御神体みたいになっていたところで、結構、信仰者たちがそこをお参りするのがひとつの流れだったようです。それぐらい温泉と信仰が結びついていることにも、神秘的というかストーリーを感じました」
●そうですね〜。
「これはすごい滝でした。この滝は正直(温度が)30度もないので、温かいっていうわけではないんですけど、見るだけでも、さっきおっしゃったパワーをもらえるような、そういう場所ですね」
※続いて、私が特に気になった温泉が岩手県にある「国見(くにみ)温泉」、お湯がグリーンなんですよね?
「そうなんですよ。あそこは私も藤七温泉の次の日に行ったんですけど、本当に入浴剤みたいな色でびっくりしました!
面白いのが、すごくきつい炭みたいな、墨汁みたいな、よくアブラ臭とかって表現されるんですけど、独特な匂いもするんですよ。すごく成分が濃い温泉で、不思議な墨汁みたいな匂いがして、入ったら、服を着替えてもTシャツにずっと匂いが付いて、帰る新幹線まで匂っているみたいな感じです。
色も強烈、匂いも強烈な国見温泉はぜひ温泉、秘湯巡りを始めたいっていう人にまず足を運んでいただきたい場所です。岩手県の雫石っていうところにあります。一軒宿です」

ルールとマナーを守って楽しむ
※秘湯に行くときに心がけていることはありますか?
「野湯は調べていくと、結局あんまり責任者がいないんですよ。個人の敷地にあったら、その人のものだったりするんですけど、例えば国有林の中にあるような野湯は、森林管理者さんが森林を保全するために管理しているだけで、野湯は特に管理もされていないし、入浴を認めてくれているかっていうと、そうでもなかったりします。
その中でマナーが悪かったり、ちょっとした事故が起こったりすると閉鎖されたりとか、いろいろそういう事象があって・・・私たち野湯愛好家は、その土地にある自然公園法だとか、そういうルールを守って、環境保全に配慮しながら温泉を楽しまないと、いつかなくなっちゃうかもしれないような温泉なんですよ。
街のスーパー銭湯とかだったら、廃業しないかぎりは絶対に維持されていくじゃないですか。そこがすごく違うところですね。
結構、幻の野湯ってあるんですよ。あの時、何十年前はあったよね! みたいな。だから本当に個人のマナーとルールに任されているっていうか・・・なので、できるだけ温泉に着いたら、温泉そのものを楽しむけど、余計な手は加えない。人工物を置いたり、形を大きく変えたりとかしないで、そのままありがたく自然の恵みを楽しむ、みたいなことを私は結構心がけています」
ワクワク探検! サバイバル感!
※ネットで検索しても出てこないような秘湯の情報は、どうやって調べているんですか?
「結構難しいですね。例えばですけど、国土地理院の地図、温泉マークってあるんですよ。全然知らなかった温泉が湧出してたりとか。ぼこぼこって出てるんですけど、噴気のマークとかってあるんですよ。そういうところをたどったら、実は新しい野湯が出てましたとか。あと地元の林業関係者のおじさんにめっちゃ聞いたりします。
山を知っている人って、意外にそういう温泉も知っていたりするので、この辺にこういうのありますか? とか聞いたり、聞き込み調査! あとGoogleの航空写真! 上から見て、山肌に白いのが付着しているのが見えたりするんですよ。そういうところは、ピンを付けておいて、どういうふうにアプローチしたらいいのかを見て行ったりします」
●まさに探検ですね! ワクワクしますね〜。
「そう、むちゃくちゃワクワクしますね!(笑)。温泉にたどり着くよりもそこがメインになってきていて、去年も北海道なんですけど、往復11時間かけて、温泉は20分もなかったかな。 浸かったといっても本当に寝転がっただけで、冷たい20度の温泉が岩盤を這うように流れているだけのところなんですけど、そのためだけに往復11時間歩いて(笑)、それぐらい自然と一体化できる道中に、また最高のものがありますね! 癒されるというか」
●改めて、ソロで行く秘湯の魅力とはなんでしょうか?
「そうですね。やっぱりふたつ! 自然との一体化、サバイバル感、道中ですよね! あと温泉の独り占め感! このふたつに尽きると思います。
日本にはいろんな素晴らしい秘湯があって、実はガイドブックにも出ていない、実は地元の人も知らない、みたいなところが結構あるんですよ、探していくと。そういう自然の素晴らしさがやっぱり野湯にはあると思うので、これからも行きたいなと思っています」

INFORMATION
渡辺さんの新しい本をぜひお買い求めください。これまでに訪れた温泉の中から厳選した66ヶ所の秘湯を掲載。中にはここが温泉!?と、目を疑うような写真に驚きますよ。写真がたくさん載っているので、見ているだけでも楽しい! そしてお話の中にもありましたが、野湯を楽しむときのルールやマナー、注意事項についてもしっかり掲載されています。小学館から絶賛発売中です。
◎小学館HP:https://www.shogakukan.co.jp/books/09311507
◎渡辺裕美さんのブログ:http://shifukuonsen.blog94.fc2.com/
2022/6/5 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、ドキュメンタリー映画
『杜人〜環境再生医 矢野智徳の挑戦』の監督「前田せつ子」さんです。
前田さんは1984年に現在のソニー・ミュージックエンタテインメントに入社、音楽雑誌などの編集者から、フリーランスとなり、雑誌「Lingkaran(リンカラン)」ほかの編集や執筆に携わります。
映画『杜人(もりびと)』は、孤高の造園家、矢野智徳(やの・とものり)さんに3年間密着したドキュメンタリーで、前田さんにとっては初の長編作品なんです。主人公の矢野さんは植物や自然の再生を、経験に裏打ちされた矢野理論ともいえる手法で取り組み、全国各地の庭園やお寺の植栽などを見事に蘇らせています。
この4月に公開された同作品は、公開直後から評判を呼び、続々と上映する映画館が決まり、全国でいま静かなブームとなっています。きょうはそんな『杜人』、そして矢野さんについて、監督の前田さんにじっくりお話をうかがっていきます。
☆写真協力:Lingkaran Films

「杜人」に込めた思い
※まずは映画のタイトル「杜人」、これは木編に土と書く、杜の人です。このタイトルした理由はなんでしょうか?
「木編に土と書く”杜”っていう字は、この場所を傷めず、けがさず、大事に使わせてくださいと、人が森の神に誓って紐を張った場、という古語だそうです。昔の民が使っていた言葉で、今、辞書を引いても出てこないんですね。
主人公の矢野智徳さんはこの言葉の意味を3日かけて、国会図書館に行って必死で探して、この言葉にたどり着いたそうなんです。
で、やっぱりそういう自然と人との関係が蘇りますようにという願いを込めて、木と土と人と書いて”杜人”というタイトルをつけました」
(編集部注:造園家の矢野智徳さんは1956年、北九州市生まれ。父親が私財を投じて造った花木植物園「四季の丘」で、子供の頃から植物の世話をしながら育ちます。そして、東京都立大学在学中に1年間、休学し、日本全国の自然環境を見て回ったあと、1984年、28歳のときに「矢野園芸」をスタートさせています。
前田さんと矢野さんとの出会いは2014年、前田さんが暮らす東京都国立市で街路樹の桜を一斉に伐採する計画が持ち上がったときだったそうです。住民から、本当に伐る必要があるのかを矢野さんにも見てもらいたいという要望を受け、桜を1本1本診断してもらった結果、ちゃんと手当てすれば、まだ大丈夫という矢野さんのアドバイスもあり、一斉伐採は見送られたそうです)

虫、草の視点
※矢野さんの活動を撮影し、映画にしようと思ったのは、どうしてなんですか?
「初めて矢野さんの言葉を聞いた時に衝撃を受けたんですね。衝撃っていうよりは、なんか救われるような気がしたんです。2014年の、桜を全部伐採するっていう計画は、矢野さんを始め、全国の心ある造園家のかたが駆けつけてくださって、市民と共に動いたことで、痛んだ桜だけを植え替えるっていうふうに、市は方針を変えてくれました。
その翌年、運動というか動いていたことがきっかけで、矢野さんの講座が国立市内で開かれて、私はその時は市議会議員ではなかったので、2日間その講座に参加しました。それで改めて矢野さんの自然を見る目に触れて、すごく驚いたんです。
例えば、植物に虫がつくと、ついつい人は殺虫剤を撒いたりしがちなんですけど、矢野さん曰く”葉が混み合っていて、風通しが悪いから虫がつく。虫たちは葉っぱを食べて、空気の通りをよくしてくれているんです”っていうことをおっしゃったんですね。
それは、世界が180度クルッと違って見えてくる気がして・・・あー虫たちって、ただ単に葉っぱが食べたくて食べているんじゃなくて、そうやって風通しをよくしてくれている、そんなふうに世界を見られたら、この世界はまた違って見えてくるし、人間はもっと豊かに生きられるなっていう感じがしたんです。
草も、生えてくるのがよくて、根こそぎ抜いたり、地ぎわから刈ったりするから反発して暴れる。でも風が揺らすところで刈ってやると、途端に大人しくなるっておっしゃるのを聞いて、なんか子育てと繋がっているような気もして、とっても肩の力が抜けるというか自分が楽になってくる気がしました。
大地が人間と同じように呼吸しているっていう言葉を聞いた時に、水のことは考えていても、空気のことは全然考えていなかったなって思って・・・。
そんな視点というか、自然と人との関係がとても新鮮だし、すごく嬉しかったんですね。講座が終わったあと、すぐに矢野さんのところへ行って、“本とかDVDとかなんかないですか?”って聞いたら、忙しくて何もないんですって言われて・・・あ〜なんてもったいないんだろうって思ったのと、もっと知りたいって思ったことが、最初の動機です」

風の草刈り
※映画には矢野さんの自然や植物、そして造園に対する考え方が随所に出てきます。その中から印象に残った言葉をいくつかお聞きしたいと思います。まずは結ぶと書く結(ゆい)、これはどんな意味なんですか?
「映画の中では矢野さんは、ほかの動物たちには動物たちなりの結(ゆい)があって、人社会には人が群れをなす時の大事な連携機能として、結のコミュニケーションがあるっておっしゃっています。
もともと結作業ってどんな集落にもあったもので、人間がまだ重機とかそういう動力を持たなかった時代には、人ひとりひとりがやるんじゃなくて、みんなが群れをなして、自然と向き合うことが必要とされていました。
その中で、大人も子供も歳を取ったかたも女性も男性も、みんなが群れをなしてひとつの目的に向かって、その集落が無事であるようにという祈りを込めて、結作業をやって、そこに教育もあれば、コミュニケーションがあって、自分の居場所があったっていうことなんです。
かつての結作業を、大地の再生講座をやる中で復活させたっていうのか、やっていたら、いやおうなくその結作業になっちゃったって、矢野さんはおっしゃっていました。
その結って、人と人との関係もそうですけど、人と自然もやっぱりその結のコミュニケーションがあって、言ってみれば、同じ目的に向かって同じ祈りを込めて共同作業をするっていうことなんですね。
それが今現代社会の中ではとっても失われているので、作業をされたかたの表情とかを見ていると、とても大変だけど、とっても清々しい楽しそうな顔をして作業されているのが、ずっと印象に残っています」
●そうなんですね。続いて「風の草刈り」と表現されて、草を刈っていらっしゃいましたけれども、この言葉の裏にはどんな意味があるんでしょうか?
「風の草刈りって、すごく詩的な表現だと思うんですね。まさに風がやるように草を刈る。文字通り、風に揺らしてみると、草がある一定の点で揺れる。そこを鋸鎌(のこがま)って言われる小さな手鎌で、ちょんちょんとはねてやると、草は風がやったと思い込んで、これ以上伸びてもまた風が吹いてきたら、ここを折られるからと思って、構造を変える。そこから枝分かれして、それと同時に地下の根っこを細根にして細い根をいっぱい生やして安定しようとする。
そうなると、細い根ができると地下に空気がたくさん通るようになるので、雨が降っても、ちゃんと雨も浸透するし、空気と水の循環がよくなって、すごく合理的で持続可能なやり方が、風の草刈りです」
●風で揺らぐ部分を切るってことですね。
「自分が風になったつもりっていうか、自分の鋸鎌が風になっているのを感じるくらいに一体となって、自然と一体、自分が風なんだっていう感じでやると、みんなが帯のようになって、風の草刈りをやっていたところに、本当に風がすーっと通るんですよね。その時、みんなが同じ感覚を味わって、“今(風が)通ったね〜”って、すごく嬉しそうな顔されるんです。
風の草刈りは、本当に根こそぎ刈っていくよりずっと楽しいし、見た目も綺麗だし、綺麗っていうよりは、遠くの山々と一体化した一枚の風景になって、草はとっても大事な風景の一部だなって思います」

水脈と点穴
※続いては、矢野さんの自然再生手法のポイントともいえる「水脈と点穴(てんあな)」について。どういうことのなのか、教えていただけますか。
「大地は人間と同じように呼吸しているって、矢野さんはおっしゃっています。水脈は人間の身体でいうと血管のようなもので、大地の中にも動脈から毛細血管まで様々な脈が流れて、空気や水を循環させているというのが、矢野さんのひとつの理論というか、植物の命と長く向き合ってきて、見えない空気が大切であることを発見されたんですね。
自然はもともと、ちゃんと脈が地面の下に、人間に脈があるのと同じように大地にも脈があって、それを塞いできてしまって、今の大地は息苦しくなっているから、そこに溝を掘ったり、その溝は流線型で掘っていくんですけど、その所々に点穴と呼ばれる穴を掘って、より一層脈が渦を巻くように作っていくのが水脈と点穴なんですね。
東洋医学でいうと、筋に当たるのが水脈で、ツボに当たるのが点穴みたいな感じです。そこを押してあげると、人間もちょっと体調がよくなったりするように、ペたーんとまっ平らにしてしまった地面に溝を掘って穴を開けてあげると、本当に地面が柔らかくなるし、立った時に空気が変わるんです。
(大地の)脈をすごく大事にされているので、地上と地下の脈を循環させる。そのいちばんの立役者が植物だってよく言われています」
大地の深呼吸
※映画の中では、ここ数年の自然災害で大変ご苦労をされたかたたちとの出会いや支援活動のシーンもありました。その中で矢野さんの「土砂崩れは大地の深呼吸」という表現も強く印象に残りました。このあたりのご説明もお願いできますか。

「2018年の5月から(矢野さんを)追いかけ始めたんですけど、その2ヶ月後に、矢野さんに初めてお会いした時からずっと警告されていた、そのうちひどい土砂災害が起きますよっておっしゃっていたことが現実になりました。西日本豪雨で広島や岡山、愛媛のほうも土砂災害が起きて、亡くなられたかたには本当に胸が詰まる思いです。
なぜ土砂崩れが起きるのか、ただ単に雨がたくさん降って大雨のせいで土砂崩れが起きるわけじゃなくて、やっぱりどこかしら人間が止めているから、その脈を取り戻そうとして、自然は土砂崩れを起こしているっていう見方を(矢野さんは)されていました。
私は正直、その土砂災害の現場に矢野さんが行くからついていくってことは、戸惑いもあったんです。被災地でみなさん本当に困ったり、またボランティアのかたが一生懸命、復旧作業をされている中にカメラを持っていくってことは、とても申し訳ないし、不躾な行為だと思ったんですね。でもやっぱり矢野さんが行くって言うんだったら、私も行こうと思って一緒に行きました。
崩れた現場にはU字溝っていう小さなU字型のコンクリートブロックが必ずあって、それがバンッて崩れていて、ちょっと山のほうを見ると砂防ダムって言われるコンクリートの塊がありました。
で、その先のほうに崩れている、岩がむき出しになった爪で引っ掻いたような跡があって、本当にコンクリートがせき止めていることで、この土砂崩れが起きて、土砂崩れは呼吸を取り戻すための最後の自然の抵抗なんだなっていうのを目の当たりにしたんですね。
そこには自然界が一晩で作ったS字のカーブの水脈ができていて、自然が作った点穴がありました。で、必ず痛んだ木が、その大地が詰まっていたんだってことを証明するかのように、葉が茶色くなった松がいて、幹がボロボロになった梅の木があって、植物が警告を発していたんだなっていうのが分かる光景がそこにありました」
同じ生き物同士と思える感覚
※最後に改めて、この映画でいちばん伝えたいことを教えてください。
「撮っている時に思ったのは、映画を見る前と後とで木の見え方が違ってくるっていうか、植物や自然の見え方がちょっと違って見えるような映画になるといいなっていうのをずっと思っていましたね。
今、街路樹が鳥の糞が落ちるからだとか、落ち葉が汚いからだとか、むげに伐られることも多いし、いろんなところで木が伐採されているんですけど、木がどれほどのことをやってくれているかっていうことを、もっと私たち人間が分かれば、そんなに簡単に伐れなくなると思っています。

植物のことを語る時の矢野さんって、すごく愛おしそうに語られるんですよね。
本当に植物みたいな人にはなれませんと・・・こんなに苦しめられても、何かちょっと手をかけてやると、すごい勢いで復活してくる健気な存在とおっしゃっている、そんな感じを映画をご覧になったかたが植物に対して、この自然界のあらゆる生き物に対して、持ってもらえるといいなって思っています。
今回映画を公開した時に、矢野さんに植物の声って聞こえているんですか? って、あえて舞台挨拶の時に質問したら、聞こえませんよって。聞こえる人もたまにいらっしゃるみたいだけど、僕には聞こえません。でも感じはするっておっしゃっていました。
ひとりで深夜までずっと作業していると、何かが背中を触って、あれ何かな? と思って振り返ると、それは動物じゃなくて、しだれ桜の枝が自分の背中をふっとさすった・・・それを見た時に、同じ生き物同士分かり合えるのかなって、感じたんですとおっしゃっていました。
同じ生き物同士っていうふうに、植物にも小さなアリやチョウやトンボにも、その同じ生き物同士って思える感覚が、人間にはまだまだ動物だった頃の記憶がちゃんとあると思うので、そういう気風が生まれてくるといいなって思っています」
INFORMATION
前田さんの初めての長編ドキュメンタリー作品をぜひご覧ください。
映像はもちろんなんですが、ぜひ音楽にもご注目を。
優れた音楽家のかたによるサウンドトラックに前田さんのこだわりを感じますよ。
今後、英語の字幕を入れたインターナショナル版と、
子供向けのチャイルド版を作ることにしているそうです。こちらも楽しみですね。
*上映情報
首都圏で現在上映されているのは千葉県柏の「キネマ旬報シアター」で6月10日まで、逗子の「シネマアミーゴ」で6月18日まで、
「あつぎのえいがかんkiki」で6月17日までとなっています。
ほかにも東京や栃木、埼玉や群馬など、続々と上映が決まっています。
詳しくは「杜人」のオフィシャルサイトでご確認ください。
◎「杜人」HP:https://lingkaranfilms.com/
2022/5/22 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、芸能界きってのアウトドアズマン、清水国明さんです。
清水さんは1950年、福井県生まれ。73年に原田伸郎(はらだ・のぶろう)さんとのユニット「あのねのね」でデビューし、「赤とんぼの唄」が大ヒット!90年代からは、アウトドア活動に夢中になり、2005年に河口湖に自然体験施設「森と湖の楽園」、その後、瀬戸内海の無人島に「ありが島」という名前をつけて、同じく自然体験施設を開設するなど、いろいろなプロジェクトを手がける実業家でもいらっしゃいます。
清水さんには、毎年この時期にご出演いただいて、そのとき、どんなことに夢中になっているのかをお聞きする定点観測をやらせていただいています。きょうはどんなお話が飛び出すのでしょうか。
☆写真協力:LIVER HOUSE

LIVER HOUSE TV、ベトナム編!?
●今週のゲストは、芸能界きってのアウトドアズマン、清水国明さんです。清水さんにお話しをうかがうのは1年ぶりとなります。きょうはよろしくお願いいたします!
「はい。よろしくお願いいたします。27年目になりますか?」
●そうですね。清水さんの定点観測、今回で27回目! いや〜本当に長いお付き合いありがとうございます!
「いや〜本当にありがとうございます! これはいわゆる研究素材になるんじゃないかなと思いますね」
●本当ですね!
「つまり、人間ってやつは1年経つと、どれだけ言うことが変わっていくというかね(笑)。俺、自分で去年言ったこと覚えていないから、つき合わせて調べていくと、とんでもなくいい加減な奴になると思いますけど(笑)」
●この番組も30周年なんです。
「すごいですね」
●はい、この4月から31年目に入りました〜。
「うわ〜おめでとうございます」
●きょうもいろいろとお話しをうかがっていきたいと思っています。
「はい、お願いいたします」

●まずはこの話題からいきましょう。LIVER HOUSE TV! これはYouTuberでもある清水さんが配信されている動画コンテンツですよね?
「そうですね。今やYouTuberというよりもLIVERですよね。生配信しながら、しかもそれによって投げ銭っていうんですか、スーパーチャットっていうんですか、そういうのもあると同時に、自分がおすすめする商品をECサイトにあげて、販売もしていくという・・・。
これからの物が売れるというプロセスは、誰かそれに関してだったら一晩中しゃべっていられますわ〜っていうような奴がいて、その人の熱意でファンの人が増えるとする、リスナーとかフォロワーっていうのかな。そういう人に対して、俺はこれがいいと思うんです! って言った時に、それは買うじゃないですか。
商品力だけではなくて、それに惚れ込んだ人のメッセージで物が売れていく、動く時代だと思うんですね。確かに欲しい物とか、いい物はいっぱいあるけれども、それを誰がすすめるかによって物の流れが変わってくる。つまりその人の信用力で物が売れる、信用がお金になるという時代だと・・・受け売りでーす(笑)」
●あはははは〜(笑)
「そう思いませんか?」
●そうですよね。LIVER HOUSE TVのコンテンツはいろいろありますけれども、ベトナム編がありましたよね?
「そうなんです。これね、グローバルっていうのかな、世界にどんどん広がっていって、この間、ベトナムに行ってきたんですけど、“ベトナムLIVER HOUSE”というスタジオが開局してですね。ベトナムも世界どこでもそうですけど、スマホをみんな持ち歩いて、それでいろんな情報を得てますよね。そこからデビューする人たちもいるし・・・。
そういう意味では、ベトナムのLIVER HOUSEはエンターテイナーとか、商品を売るようなスペシャリストを育てて、そこからベトナムだけではなくて、日本にも発信する。で、逆に日本の商品を、日本のエンターテイナーをベトナムに紹介する。まずはこの2国間で、直にやりとりしようと、スタートしたわけですね」
●ベトナムに行ったのは初めてですか?
「そうですね。なにしろね、余談ですけどね。私自慢じゃないけど、パクチーを食えないんです(苦笑)。あれはカメムシですよ! いや本当に! 化学的に成分を分析した人がいて、カメムシとパクチーの臭いはおんなじ成分なんだってね。
俺、小さい頃、桑の実、口がむゎーっと紫になるやつを、駄菓子がないド田舎だから、つまんで食べていたら、ちっこいカメムシの子が桑の実にくっ付いていて、それを知らずにガシッと噛んで、ぐわーって、ぺっぺっぺって、カメムシを何回か噛んだことがあるのよ。だからそれがあってパクチーは全然(食えないんだよね)。
ただね〜パクチーの花は好きなのよ。パクチーの種をもらってきて、ベランダで育てたら、綺麗な真っ白い花が咲いて、綺麗やな〜と思って顔を近づけるとパクチーの臭いがするんだよ! なんじゃこりゃ〜刈り取ったろうかーと思うくらい・・・(笑)。
ところが今回ベトナムに行って、8日間行きましたけれども、もしパクチーが食えなかったら、ベトナムの食事って食べるものないんですよ。ほんで俺はやっぱりね〜苦手を克服する人生だから、1日でパクチーを食えるようになりましたね。
そしたら、びっくりしたんだけど、周りの今まで俺に気を遣っていた人たちが大喜びしたんですよ。こいつパクチー食えないって言ってるけど、これから8日間、なに食わそうかと思っていた人が、やったー! とか言って大変喜んでもらって、私のパクチー克服でね。まあそんなことがあって、楽しく8日間過ごさせていただきました」
ネコニャンキャップ復刻!?
※パクチーを克服した清水さん、ベトナムではこんなビジネスも進めてきたそうですよ。
「ベトナムは、こっちのLIVER HOUSEで販売する商品、自社製品やね、そういう物を開発しようと。人様の物をお預かりして売るというのがLIVER HOUSEなんですよ。人とか物とか事を応援する会社なんで、そういう風にやっているんです。でもマージンが少なくてなかなか儲けにならないから、自社開発した物を売りたいなぁと。
それで考えてみたら、私は一から十までアウトドアの人間だから、テント! それを自社ブランドで、LIVER HOUSEというマークの付いたテントをどこか作ってくれないかなと言ったら、いいのがあるんだ〜。向こうの人の紹介で飛び込んでいったんですけど。
行ってみたら、日本で言う最高ブランドが使っているのと同じ材質で同じ縫製で、ここに(日本のブランドが)頼んでいるんちゃうかなと思うような工場を見つけて、それで一目で惚れてですね。そこにとりあえず500個テントを頼んできて、それだけではなくて、その会社の工場の株を出資してきましたですね。約半分くらいうちのグループの出資になって、ということは、ベトナムに我が社のテント製造工場ができたということです」
●すごーい! ベトナムに!
「すごいでしょ! で、そのほかにぬいぐるみ工場みたいのがあって、そこへ行ってどうしても今回、発注してきたいものがあったんですよ! 何かというと、お若いかただからご存じかもしれませんが、今TikTokで『ネコ、ニャンニャンニャン』(*)がバズっているんですって! この間、聞いたら、一億回再生されたというぐらい!

その『ネコ、ニャンニャンニャン』がむちゃくちゃバズっているというのを聞いて、さらにその時にむちゃくちゃ売れたのが『ネコニャンキャップ』というやつなんです! これ、私が考案したんですけど、バズっている間にベトナムで作ってきちゃろ! と思ってですね。これも500個限定で・・・だからみなさん、『ネコニャンキャップ』を家宝にしていただこうと思いますけれど(笑)」
(*編集部注:『ネコ、ニャンニャンニャン』はあのねのねの79年の大ヒット曲)
●ベトナムでの収穫はすごくたくさんあったんですね!
「そうですね。ほかにもベトナムのブレーンに頼まれて・・・ニャチャンというところがあるんですよ。これからはハワイじゃなくてベトナムのニャチャンだと、新婚旅行もね。そのくらい良い観光地なんですが、その村に日本人村を作るプロジェクトがあって、そのプロデューサーということで・・・いわゆるアウトドア系のグランピングとかコテージとか、いろんなものを作る、湖もあって、そういうところの要請があって行ったというのもひとつですね」
「森と湖の楽園」をリニューアル!
※河口湖にある「森と湖の楽園」をリニューアルしているそうですが、どんなところを変えているんでしょうか。
「まず第一のリニューアルは、私がリニューアルされてしまいましたね(笑)」
●清水さん自身が!?
「そうそう、私の名前入り、顔入り写真の看板が外されてしまいました(苦笑)」
●あははは〜(笑)
「これは、ビジネスや事業にとって絶対乗り越えないといけないことで、いつまでも清水国明の名前で事業するわけにもいかないし、中西という私の懐刀というか右腕というか、そいつがずーっとやっていて・・・それから田中とかね。そういう人にどんどん任している、人的なリニューアルが行なわれています。
私があの頃、一生懸命頑張ったデッキ作り! 広いデッキを作っていて、この間行ったら壊されていました(苦笑)。薪だらけになっていましたけど、それでいいんですよ。木も腐っちゃうからね。そういうのに若い連中がどんどん取り組んでくれているから、それはそれで嬉しいなと。
だからと言って、俺は老兵は去るのみではなくて、新しく千葉県の鴨川に、LIVER HOUSEキャンプ場というのを作りました。今、手賀沼というところにも、今度ツリーハウスキャンプ場を森の木の上に、今はとりあえず10棟作るんですけど、木の上でテントを張ったり、小屋を作ったりする、そういうウッディなキャンプ場をふたつ作ってます。さっきのベトナムを入れると3つ、それから山口県の“ありが島”も入れると4つ作ってますかね」

●「森と湖の楽園」は研修施設としても利用されているということなんですよね?
「そうなんですよ。キャンプ場をやってすごく苦労したのが、シーズナリティって言うらしんだけども、季節変動があるじゃないですか。いい季節、春から夏にかけてとか、まあ秋もしばらくはいいんだけど、寒くなるとぴたーっと(お客さんが来ない)。ただ従業員を養っているだけになってしまう・・・。
それを平均的に収入を得るにはどうしたらいいかというと、繁忙期、混んでる時じゃない時にお客さんが来るようなシステムというかニーズを開発しなきゃいかんということで、企業研修、内定者研修、幹部研修の野外版を考案しました。
野外で焚き火を囲んで、自分の夢とかモチベーションとか、それからチームビルドっていうのをやったら、バカ受けでね。160社くらいが毎年リピートしていただき、これはほんとに背水の陣で、もういかんなという時に思いついた、ひとつのビジネスモデルなんですよ。
これ、いろんな自然体験施設にもおすすめしていて、講師も要請していますので、これから役立っていくんじゃないかと思いますね」
(編集部注:お話にあった千葉県・鴨川のキャンプ場、そして手賀沼に作っているツリーハウスのキャンプ場は、LIVER HOUSEに登録すると利用できるそうです)
念願の漁師さんに!?
※YouTubeの「くにあきの自然暮らしチャンネル」の動画で、瀬戸内の漁業協同組合の正組合員になったと喜んでいらっしゃいました。これはプロの漁師さんになったということですか?
「これね、準組合員っていうのは、どこの漁業組合も年会費さえ出せば、組合員になれるんですよ。もう4年から5年くらい経つから漁業組合員長に、ねぇそろそろ正組合員にしてよ〜って、魚釣りの腕は認めてもらったからね。そうしたら、住民票もない奴を正組合にできないとおっしゃったんですよ。はっは〜そうくるかということで、俺はそれまで富士河口湖町の特別町民で、住民票を移せなかったんですね。東京にも暮らしていたんだけど・・・。
で、去年の暮れに山口県大島郡周防大島町というところに住民票を移したんです。そうしたら、その組合長が、正組合員にせざるを得ないじゃない!? 男の約束ですから、いやおうなしに正組合員にして、私の船に正組合員の証っていうのがぼーんと(貼られたんですよ)!
この喜びはうまくは言い表せないんだけど、漁師群がガーッと釣りしている時に、プレジャーボートでは入っていけない漁場があるんですよ。もちろんそこには普通のボートは行けないんだけど、準組合員の時にもちょっと後ろめたいわけね。ところが正組合員だと、おらーどけどけ〜、おらおら〜とか言って、もう完全に漁師はちまきしながら、釣りができるっていうこの喜びはたまりませんね(笑)」
(編集部注:清水さんは山口県の周防大島の廃校を利活用してワーケションヴィレッジを作る事業も手掛けていらっしゃいます。5Gのサブシックスという通信方法が導入されれば、大容量のデータをあっという間に送信できるということで、地方創生にもつながる事業として注目されているそうです)
友だち再確認ライヴ
※清水さんは、自然を体験できる施設を、河口湖の林の中や、瀬戸内海の無人島、そして千葉県の鴨川や手賀沼にも作っていらっしゃいます。やはりそこには、自然体験が「生きる力」をつけるという思いがあるからなんですか?
「そうですね。これ人類のって(笑)また大きな話になるけども、我々の最終的な着地すべきゴールというのは、森から出てきて、やっぱり森に還る、海に還るというようなところなので、そのゴールを手放さずにっていうか、見失わずにずっとそっちへ漕ぎ続けて行かなければいけないんですよ。
自然を遠ざけたり自然から離れようとする動きは、不自然なんですね。あんまり心地よい未来に到達しないと俺は思っているので、やっぱりなるべくみなさんを自然にいざないたいということとか、そういうところでの活動というのに、私は重きを置いているということでしょうかね」
●清水さんはいつもパワフルで、いつも何かに夢中になっているイメージがあるんですけれども、その原動力ってどこからくるんですか?
「う〜ん・・・これは、マイクの前では言えないようなこともあるんですけど(笑)、あのね、俺71歳になったんですけど、若い奴が、いやすげ〜なって・・・俺の想像の中では、71の爺さんが女の子を追いかけるのは一切なかったんですけどもね。ところが71になっても可愛い子がいたらね、声かけるしね。そういうことかな・・・急になんていうか歯切れが悪くなりましたですね(苦笑)」
●あははは。今後ライヴをされるっていうお話をうかがったんですが・・・?
「そうです。歌を忘れたおっさんみたいになってますが(笑)、6月12日! はい、メモしてください! 6月の12日に曙橋にある”Back in Town”というアコースティック専門のライブハウスがあってですね。すごく著名ないろんなアーティストが海外からも来ているところで、(キャパは)80人くらいなんですけど、そこで”ライバーハウス祭りNFT ”、” Non-Fungible Tomodachi”っていう、かけがえのない友だちというタイトルです。NFTでチケット販売するんですけれども、そのライヴをやります。
”清水国明 友だち再確認ライヴ”っていうんですけども、一回、友だち確認ライヴっていうのを横浜のほうでやったんですよ。その時に、いろんな友達とかアキラとか、いっぱい来ていただいたんですが、なんと! 原田伸郎が来なかったんですよ(笑)。なんでなんや、お前友だちじゃないのか!? ってことになって、もう一回リベンジで、友だち再確認ライヴというのを6月12日にやります。それに原田が来るかが勝負!(笑)まあそんなのやりますんでぜひぜひ! ヒマなかたはお越しいただけたらなと思います」
☆この他の清水国明さんの定点観測シリーズもご覧下さい。
INFORMATION
『ライバーハウス祭りNFT- Non-Fungible Tomodachi -清水国明 友だち再確認ライヴ』
◎開催日時:6月12日(日)夕方6時から
◎会場:曙橋のバック・イン・タウン。チケット代は4,500円。
果たして、あのねのねの相棒「原田伸郎」さんは来るのか!? Tik Tokでバズっている「ネコ ニャンニャンニャン」は聴けるのか!? ぜひあなたの目と耳でお確かめください。復刻した「ネコニャンキャップ」の販売もあるそうですよ。
LIVER HOUSEオリジナルのテント、鴨川の専用キャップ場のことなど、いずれも詳しくは「LIVER HOUSE」のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎「LIVER HOUSE」HP:https://liverhouse-xwin.com/
清水さんプロデュースの、河口湖にある自然体験施設「森と湖の楽園」、瀬戸内海の無人島「ありが島」についてはそれぞれのオフィシャルサイトを見てください。
◎森と湖の楽園HP:http://www.workshopresort.com
◎ありが島HP:http://arigatou-island.jp
2022/5/15 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、山岳収集家の「鈴木優香(すずき・ゆか)」さんです。
山岳収集家とは鈴木さんオリジナルの肩書で山に登って、写真を撮って、景色を集め、それをもとに物づくりや、文章を書いたりする人のことだそうです。
鈴木さんは2011年に、東京藝術大学大学院を修了後、アウトドアメーカーに入社、商品企画やデザインを担当。その後、独立し「マウンテン・コレクター」プロジェクトをスタート。現在は山と旅をライフワークに、写真、デザイン、執筆などを通して表現活動を行なっていらっしゃいます。
きょうはそんな鈴木さんに山の風景をハンカチに仕立てる「マウンテン・コレクター」プロジェクトや山への思いをうかがいます。
☆写真協力:鈴木優香

ハンカチ、こだわりは透け感!?
※鈴木さんが進めている「マウンテン・コレクター」プロジェクト、改めて、どんなプロジェクトなのか、教えてください。
「これは2016年から私が始めたプロジェクトなんですけども、山で見た景色をハンカチに仕立てていくプロジェクトです。具体的には、山に登ってそこで撮影した写真を布に落とし込んで、日記を書いていくようなイメージで、山の景色を表現しています」
●どうして始めようと思ったんですか?
「このプロジェクトを始めたきっかけは、ずっと山で撮りためてきた写真を何か手に取れる、形のあるものにして残していきたいと思ったからです」

●どうしてハンカチだったんですか?
「ハンカチにしたのは、もともと私は大学が美大に通っていたんですけれども、そこでずっと布を扱う作品を作っていたことと、あとは大学卒業したあとにアウトドアメーカーに勤めていました。
そこでも登山用のウェアなどを作っていて、ずっと布を扱う仕事をしてきたので、私が写真を落とし込むのであれば、やはり紙にプリントするのではなくて、布に載せるのがいいのではないかなと思ってハンカチになりました」
● Tシャツとかではなくハンカチなんですね。
「そうですね 。Tシャツなどにしてしまうと、やはりそのものに意味が生まれてきてしまうので、やっぱり山の美しい景色を純粋に表現するのであれば、ただの四角い布のほうがよかったんですね」
●鈴木さんのサイトで商品を見させていただいたんですけれども、ハンカチが透ける素材なんですね。
「そうですね、とても透け感があって、光が当たるとその柄が見えなくなってしまうくらいの透け感のある生地を使っています」

●透ける素材っていうのは、具体的にどういった素材なんでしょうか?
「このハンカチで使っている素材は綿の素材なんですけども、とっても軽やかで、私のイメージとしては山にいる時の澄んだ空気を思わせるような透き通った感じとか、あとは二度と出会うことはできない山の景色の、儚い感じを表したような薄い生地になっています」
●作品いろいろ見させていただきましたが、どの商品も本当に色も美しくて、その場の空気感が伝わってくるような、本当にもう何枚も集めたくなるような素敵なハンカチでした!
「ありがとうございます」
●最初は、ほかの素材とかでも試されていたんですか?
「もう最初からあの透ける素材のイメージが頭に浮かんでいて、もう絶対にこの生地がいいなということで、それで決めてしまいました」
(編集部注:鈴木さんが作るハンカチ、お話にあったように透け感のある生地が特徴なんですが、初めて試作品を見た時にご本人も感動し、そして自信も芽生えたそうです)
素敵!山の景色がポケットに
※鈴木さんは物づくりのポリシーとして、実体のあるものが重要だということで、デジタル・カメラではなくフィルム・カメラで撮影されています。フィルムは撮れる枚数が限られているので、1枚1枚を大切に撮っているそうです。
被写体は山の風景だけじゃないんですね?
「山全体が写っている写真ももちろん撮るんですけれども、もっと寄った被写体、例えば水面を撮ったものとか、あとは岩の色を撮ったものとか、そういうものも多いですね。あとは山小屋のご飯とか、ちょっと身近に感じられるようなものも撮っています」
●写真を撮りたくなる被写体は、どんなものなんですか?
「やっぱりその時々で自分の流行りがあって、最近は岩の色とか、あと木の幹の枝のラインとか、そういうものに注目して撮ることが多いですね」
●ハンカチにする写真は、どんな目安で選んでるんですか?
「やっぱりその山行の中で、いちばん印象に残った写真をハンカチにすることが多いですね。例えば、花がとっても美しい山だったら、花の写真になることもあるし、あとは眺めのいい山であれば、遠くの山を撮ったものとか、山によっていろいろな写真をハンカチにしています」
●鈴木さんの商品はすごく色合いも素敵だなって思ったんですけど、色に関してのこだわりはあるんですか?
「そうですね。色はほとんど加工などはしていなくて、撮ったものをそのまま使っている感じですね。やっぱり山の景色って本当に何もしなくても綺麗なので、撮ったそのままをなるべく活かしたいなと思って作っています」
●実際に購入されたかたがたの反応は、いかがでしたか?
「結構綺麗なのであんまり使いたくないというか(笑)、飾っておきたいというかたも多くて、お部屋に写真を飾るような感じで飾っていただいているかたも多いですね。
ただ私はやっぱりハンカチとして使っていただきたいなと思っていて、山の景色がポケットに入っているってすごく素敵だと思うので、そんな感じで山に出かける時とか、あとは旅行に行く時とか、日常でも使っていただけたらいいなと思っています」
(編集部注:鈴木さんは、ハンカチにする写真は、しばらく寝かせて・・・1ヶ月とか長い時には1〜2年おいて選ぶそうですよ。その理由として、山から戻ってすぐに選ぶと、どれもいい写真に見えて、たくさん選んでしまうからだそうです)
憧れのエベレスト街道
※鈴木さんが山登りを本格的に始めたのはアウトドアメーカーに入社した2011年から。コロナ禍になる前は月に2〜3回のペースで国内の山へ出かけていたそうです。
ところで鈴木さん、以前、ネパールに行ったそうですね?
「そうですね。2018年の秋に初めてネパールで山登りをしました」

●どうしてまたネパールを選ばれたんですか?
「やはり、世界最高峰のエベレストがあるということと、あとはエベレスト街道というエベレストに登る人たちが必ず通る登山道があるんですけど、そこに強い憧れがあったので、いつか行ってみたいなとずっと思っていたんですね。
で、ちょうどいいタイミングで友人に行ってみないかと誘ってもらったので、ちょっと勇気を出して行ってみました」
●実際に行かれていかがでした?
「山のスケールが日本と全然違うんですよね。標高が7000メートル、8000メートルを超えている山がほんとうにたくさんあって、見上げないと視界に入らないくらいの景色がずーっと続いているというような感じで、ほんとうに衝撃を受けるような、世界観が変わったと言ってもいいほどの景色でした」
●日本だと、どのあたりによく行かれるんですか?
「日本で好きな山は、立山ですね。富山県の立山です」

●どんなところが魅力なんですか?
「立山は、ロープウェイとかケーブルカーを乗り継いで、2400メートルくらいのところまで行けるんですけど、そこからわりと簡単に3000メートルの山頂に立てるというのもあって、よく足を運んでいます。
そこから見る景色が本当に、なんというか広大で壮大な素晴らしい景色なので、何度も足を運んでしまいます」
●鈴木さんが楽しみにしている、山での時間ってどんな時ですか?
「やはり稜線から見晴らしのいい景色を見ながら歩くことが、いちばんの楽しみですね」
1週間だけのオンライン販売
※「マウンテン・コレクター」プロジェクト、今後はどんな展開になりそうですか?
「マウンテン・コレクターのハンカチを、山に登ってハンカチを作るという活動はずーっと同じようにコンスタントに続けていって、私が山に登り続ける限り、続いていくというような感じですね。
あとはやっぱり今は行きにくくなってしまったんですけど、海外の山にまた登って、そこで写真を撮って作品にしていく活動もしたいなと思っています」
●ハンカチ以外での何か企画はあるんですか?
「以前、ハンカチ以外に、『トレッキングジャーナル』という冊子を作ったことがあって、山ごとに一冊ずつ作るような写真集と、それにエッセイを付け加えたものを作ったんですけども、そういうものもやっています」

●どんなことを伝えたいっていう思いがあるんですか?
「本当に私がやっている活動は、山を歩いた自分の記録としてやっているので、誰かに何かを伝えたいという気持ちが強くあるわけではないんですけど、やっぱり私の写真を見て、山ではこんな綺麗な景色が見られるんだなとか、あとは行ってみたいなという気持ちになってくれたら嬉しいなと思っています」
●鈴木さんの商品はどこで手に入るんでしょうか? リスナーさんが欲しいと思った場合はどうしたらいいのでしょうか?
「はい、通常はオンラインストアがメインで販売していて、ちょうどきょう5月15日から1週間、オンラインストアをオープンしているので、もしよろしければ、そこで見ていただけたらいいなと思います」
●販売期間が1週間ということですか?
「そうですね。基本的には月に1週間だけオープンして、それ以外はずーっと閉めています」
●どうして1週間だけの販売なんでしょうか?
「制作する時間をしっかり取りたいというのと、それと販売して発送するなどの時間と、あとは制作活動と・・・あとは山に行ってしまう時間が長くなったりとか、長期で遠方に取材に行ってしまったりすることもあるので、1週間と決めて、それ以外はほかのことをするというようにメリハリをつけています」
●そのメリハリがあるからこそ、あんな素敵な商品が生まれるんですね!
「はい、そうだといいですね」
●改めて、この「マウンテン・コレクター」を含め、活動を通してどんなことを伝えたいですか?
「先ほどお話ししたことと同じになってしまうのですが、私の作品を見て、山の綺麗な景色に少しでも興味を持っていただけたら嬉しいなと思います」
INFORMATION

ぜひ鈴木さんが作っているハンカチをオフィシャルサイトで見てください。山の風景が透け感のある生地で表現されていて、とても素敵なんです。ハンカチを広げた状態でも、もちろん綺麗なんですが、畳んでも、なんともいえない美しさがあるんです。
5月15日から1週間、オンラインストアで販売されます。プレゼントにもおすすめです。ぜひポケットに山の風景を!
詳しくは鈴木さんのオフィシャルサイトをご覧ください。
◎オフィシャルサイト:https://www.mountaincollector.com/
◎オンラインストア:https://mountaincollector.stores.jp/
2022/5/8 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、東京大学大学院の教授「廣瀬 敬(ひろせ・けい)」さんです。
廣瀬さんは、地球の中がどうなっているのか、地球はどのように生まれ、進化してきたのかを調べている世界的な研究者でいらっしゃいます。
1968年、福島県生まれ。東京大学・理学部から大学院に進み、理学博士に。その後、東京工業大学、アメリカ・カーネギー地球物理学研究所などを経て、2017年から現職。専門は高圧地球科学、地球内部物質学。
そして先頃『地球の中身〜何があるのか、何が起きているのか』という本を出されました。この本は地球の内部を徹底的に解剖した、読み応えのある一冊です。
きょうはそんな廣瀬さんに、地球内部の構造や、中心部にあるコアの重要性、そして実験の成果についてうかがいます。

地球の中はドロドロ!?
※私たちの足もとにある地面の下がどうなっているのか、考えたことはありますか。土と岩石!? ドロドロの溶岩!?・・・果たしてどうなんでしょうね。
地球の内部はどうなっているのか教えてください。
「地球は、その中心まで地表から6400キロの深さがあります。それだけ掘っていかないと、地球の真ん中にはたどり着かないっていうことですね」
●その6400キロが、いろんな層に分かれているんですよね?
「そうですね。基本的には、まず我々の足もとは地表から2900キロまでが、石の塊でできています。そこを”地核”と言ったり”マントル”と言ったりするんですね。その下に金属の塊があって、その金属の塊は、実は大部分が溶けているんですね。だからそこはドロドロの金属なんです。
ところが、我々は金属のことをマグマとは言わないんです。マグマっていうのは、あくまで冷え固まると溶岩っていう石になるもの、それをマグマと言っているんです。金属がドロドロに溶けているものは、マグマとは言わないですね」

●本に”コア”っていうのも載っていましたけれども、このコアっていうのは何でしょう?
「コアが今言っているドロドロの金属です」
●では、地核があって、マントルがあって、そしてコアがあるということですか?
「その通りです!」

●どうして、それぞれ形状が違うんですか?
「まず、石はなかなか溶けないですね。なので個体というか、溶けていないということです。一方で鉄の塊の金属は、難しい話をすると、いろんな不純物が入っているんですね。鉄はなかなか溶けないんですけれども、不純物を入れると簡単に溶けるようになるんです。それでコアと呼ばれる鉄の塊は液体だということです」
●えっ! 液体!?
「ドロドロって言っているのは、液体だっていうことですよね。マグマも、イメージできないかもしれないけど、液体ですよね」
●金属っていうのがちょっとピンとこなかったです。
「我々の足もとには、深さ2900キロメートルまでは、石が続いていて、その下、地球の真ん中、6400キロの深さまでは、今度はドロドロに溶けた金属の塊があるっていうことですね。ただし、地球の真ん中のまでいくと、その金属も固体になるんです。それは溶けていない、固まっている、我々が知っている金属です。硬い鉄のことです」
(編集部注:地球はおよそ46億年前に誕生したとされていて、その時の地球はドロドロのマグマの状態で、その後、徐々に冷えて固まり、大気と海、マントル、そしてコアと、現在の姿に近づいていったそうです)
地球の深部は高圧高温
※地球の内部を調べるためには、素人考えでは、深い穴を掘って研究するのかなと思ったりするんですが・・・どんな方法で調べているんですか?
「地球の中の深いところの研究はいくつか手法があるんですけれども、私たちがやっているのは高圧実験といって、実験室で地球の深い部分を再現して、例えば石がどういう状態になっているかを調べています」
●実験室で地球の深いところがわかるんですね?
「そうですね。地球の深いところは、上からぎゅーって押されているので、高い圧力と、高い温度の環境なんですね。高圧高温の環境ってことです。そういう環境を実験室の中で作ってあげる。そうすると、例えば地表にある石が、全然違った石に変わるんです」
●どうなっちゃんですか?
「例えば、鉱物の色がどんどん変わっていったりとか、あまり電気を流さない鉱物が、すごく電気を流すようになるとか・・・非常によく知られた例だと、地球の深いところでできるダイヤモンドを地球の浅いところに持ってくると、本来はグラファイトといって鉛筆の芯になってしまうんです」
●え〜〜〜っ、ダイヤモンドが!?
「そうですね。逆にいうと鉛筆の芯を深さ150キロよりもっと深いところに持っていくと、ダイヤモンドに変わってくれます」
●え〜〜っ、全然違ったふたつに見えますけど・・・深さによって変わるんですね!
「そうです。もとの材料は同じなんだけれども、深いところに持っていくと全然違う物質に変わります。だから地球の深いところは、今我々が目にしている岩石とは全く違う岩石からできているんです」
(編集部注:廣瀬さんの研究室ではダイヤモンドを使った特殊な実験装置で地球内部の環境を作り出しているそうです)

大発見! ペラペラ剥がれる岩石!?
※廣瀬さんの研究室で以前、大発見があったそうですね。どんな発見をされたんですか?
「地球はまず表層に地核があって、その下にマントルという部分があると、先ほど申し上げましたね。両方とも岩石でできています。そのマントルの部分も、実はよく見るといくつかに分かれているんです。何が違うかっていうと、いちばんたくさん入っている鉱物の種類がどんどん変わっていく、そういうことになっているんですね。
私どもの研究室で発見したのは、そのマントルのいちばんたくさん入っている鉱物が、何回か姿を変えていくんですけれども、その最終形です。マントルのいちばん深いところで、どういう姿形になっているかを、その研究で明らかにしたっていうことですね。
論文が出たのが2004年のことなので、今からもう18年も前ですね。昔の話ですけど、当時はマントルの新しい部分、”マントル最下部層”っていうのが発見されたということで、かなり興奮したものですね」
●どうしてわかったんですか?
「実験室で高圧高温を作っていって、ある深さ、もしくはある圧力を超えたところで、急にその鉱物の姿形がガラッと変わったということですね。それがちょうどマントルの底の付近に対応していたということです」
●大興奮だったんじゃないですか? 廣瀬さん自身も!
「それは、もちろんそうですね。マントルのいちばん深いところ、たかだか深さ数百キロくらいの領域なんですけれども、そこの部分は、それまで知られていなかった岩石からなるってことが分かりましたから。またその岩石、もしくは鉱物の性質が、その上のほうにあるマントルとは全然違うものだったので、非常に面白かったですね」
●どう違うんですか?
「みなさん”雲母(うんも)”って、分かりますか? ペラペラ剥がれていくような鉱物があるんですね。雲母がなぜペラペラ剥がれるかっていうと、結晶が層状になっているんです。原子が層状に積み重なっているんですね。なので、層と層の間がペラって剥がれるんです。そういう層状の鉱物なんですね、”雲母”っていうのは。
実はグラファイトも層状の鉱物で、だから鉛筆の芯として書けるんですね。簡単に剥がれてくれるので、鉛筆の芯になってくれるっていうことですね。マントルの底も、実はそういう層状の鉱物からなっていることが、その時初めて分かったっていうことですね」
地球は磁場に守られている
※2003年に『ザ・コア』というアメリカ映画が公開され、話題になりました。この映画は地球のコアの回転が止まり、地球の磁場が不安定になって地上が大混乱になるというSFパニック映画なんですが・・・コアは回転しているんですか?
「コアは地球の真ん中にあって、そんなの我々に関係ないじゃないかって、普通は思うんですけれど、全くそうではなくて、地球全体が磁石なんですね。
最近は使わないけれども、コンパスの針は北を向きますよね。それは地球が磁石であることの証拠なんです。それで今、(針は)北を向くんですけれども、実は少なくとも77万年よりももっと前、かなり前の時代はコンパスの針は逆を向いていたはずなんですね」
●えーっ!? どうしてなんですか?
「それは、地球は磁石なんですけれども、電磁石と言って電気が流れている磁石なんですね。電気の向きを、プラスとマイナスを替えると、磁石のN極とS極が入れ替わる、そういうことが起きるんですね。地球はそういうことを何万年、何十万年かに1回繰り返しやっているんです。
そのN極とS極が入れ替わる時に数千年ぐらい、結構長い間、地球の磁石が弱くなってしまう。そうなると地球は宇宙とか太陽から来る有害な光、放射線というかなり有害なものがあるんですけれども、それを地球はまともに浴びてしまうんですね」

●え〜〜〜大変じゃないですか!
「そうですね。それで人類が絶滅するとか、そういうことは多分ないんです。どうしてかっていうと、人類が生まれてから数百万年経っていて、その間、N極とS極の入れ替わりは、数万年から数十万年に1回・・・要するに人類が誕生してから10回以上は経験しているので、人類が滅びちゃうとか、そういうことはないんだけれども、おそらく現代文明には非常に大きな影響があるだろうと考えられています」
●具体的にどんな影響が出てきてしまうんですか?
「よく言われているのは電子回路ですね。電気を使ういろんな装置がありますよね。例えばパソコンとかもそうなんですけれども、そういった電子回路が宇宙線の影響を受けて、駄目になっちゃうってことがよく指摘されています」
●磁場ってすごく影響しているんですね、私たちの生活に。
「そうです。もし空気がなくなったら、みんな死んじゃうんだけど、空気があって当たり前だと思っているから、そんなにありがたがらないのと同じで、磁場があるのが当たり前なんで、みんな、ありがたくもなんとも思ってないんですけれども、実はなくなるととっても困ります」
●守ってもらっているんですね。
「そうですね。例えば、火星の研究は、最近すごく進んできているんですけれども、実は火星は約40億年前に磁石ではなくなった、そうしたらその2億年後くらいに今度は海が蒸発しちゃったんですね。だから地球も、もし磁石じゃなくなると数億年後くらいに、海がなくなっちゃうかもしれないんです。
だから本当に地球が磁石であること、別の言葉でいうと地球に磁場があることは、我々の生活もしくは環境にとって、ものすごく大事なことなんですけども、普段はもちろんそんなことは意識していないですね」
(編集部注:廣瀬さんから、約77万年前に地球のN極とS極が入れ替わったというお話がありましたが、その痕跡が確認できる場所が千葉県市原市の養老川沿いで見つかった世界的にも重要な地層。2年前に「チバニアン」として正式に地質年代の名前として採用されたことは記憶に新しいですね)
コアは不純物がたっぷり
※今後の研究でどんなことを解き明かしたいと思っていますか?
「まだまだ地球の中ってわからないことがいっぱいあって、不思議だって言われていることがたくさんあるんですね。中でも先ほどからたくさん話に出ているコア、金属の塊なんですけども、たくさんの不純物が入っていると言われています。
ところがどういう不純物なのか、例えば、水素だったり酸素だったり炭素だったり、どういう元素がどのぐらい不純物として入っているかは、実はよくわかっていないんですね。
地球のコアは地球全体の重さ、質量の三分の一を占めているので、その三分の一のところに不純物がたっぷり入っているんだけど、その不純物が分からないので、地球全体の化学組成は、実はまだわかっていないんですね。
逆に言うと、それさえわかれば、地球を作った物質は一体何だったのか、地球はどうやってできたのか、そういう地球の起源、誕生の謎を飛躍的に解明できると思っています。今コアの化学組成、不純物の正体を明らかにしようと頑張っているところです」
INFORMATION
地球内部のことをもっと知りたいというかた、ぜひこの本を読んでください。私たちが暮らす地球がどんな星なのか、興味深い話が満載です。地球科学の入門書的な一冊、おすすめです。講談社のブルーバックス・シリーズの一冊として絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎講談社HP:https://gendai.ismedia.jp/list/books/bluebacks/9784065266601
廣瀬さんの研究室のサイトもぜひ見てください。