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お気に入りの車と、可愛い道具があれば、幸せ!〜手軽に身軽にひとり旅

2025/6/22 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、ガールズバンド「はぐち」のベース担当で、動画クリエイターの「野外のもりこ」さんです。

 もりこさんはYouTubeチャンネル「野外のもりこ」で、旅やキャンプの動画を公開、チャンネル登録者数がおよそ26万人と、とても人気があるんです。

 その動画を見た当番組のスタッフがその完成度に感心し、また本屋さんで、もりこさんの本『小さな車で、ゆるり豊かなひとり旅』を見つけ、すぐに出演交渉。そして今回出演がかない、海浜幕張にあるスタジオまで、愛車のエヌバンで駆けつけてくださいました。

 きょうは、そんなもりこさんに、軽自動車の旅や、ソロキャンプに欠かせないお気に入りの道具のほか、もりこさん流のひとり旅の極意などうかがいます。

☆写真協力:野外のもりこ

写真協力:野外のもりこ

静岡、大好き!

※どうしても気になるので、最初にお聞きします。お名前の「野外のもりこ」、これは自分でつけたんですか?

「はい、一応そうですね。自分で考えた名前になります。“もりこ”は高校の時に友人がつけてくれたあだ名なんです。
 その“もりこ”っていう名前が自分の中で結構しっくりきていて、気に入っていたので、バンド活動する時にも“もりこ”っていう名前を使って活動していたんですけど、動画を配信するにあたって、別の名前をつけて活動しようかなって思って、“もりこ”だけだと、ちょっと柔らかいイメージがありすぎてしまうなって思って、ちょっとワイルドに漢字で“野外の”っていうのをくっつけて、『野外のもりこ』でバランスを取ったっていう感じですね」

●なるほど。もりこさんは静岡出身ですよね? 実は私も静岡出身なんですよ! 静岡のどのあたりですか?

「私の出身は清水っていう・・・今は静岡市なんですけど、清水市に生まれました」

●生まれてから、ずっと静岡にいらっしゃいますか?

「そうですね。生まれてから今までずっと静岡県に住んでいます」

●ということは、静岡が大好きということですよね?

「はい! おっしゃる通り静岡が大好きです!」

●静岡の良さって・・・私も色んなところが大好きなんですけれども、もりこさんはどこが好きですか?

「いちばんここが好きだなって思うのは環境なんです。海があって山があって街もあって、バランスがいいと言いますか・・・私は今、山暮らしをしていて、結構田舎のほうに住んでいるんですけど、海に行きたいな! って思えば、ちょっと車で走れば、海が見える場所まで行けるし、街のほうにもたくさんの文化が詰まっていて、静岡ならではの“おでん横町”とか(笑)、映画館がたくさんあったり、いつでも行きたい場所に行けるっていう、私の希望をすぐに叶えられるものが詰まっているのが静岡なんですよね」

●本当に共感します! 何でもありますよね、静岡って。

「はい! あると思うんです。ほかにも素敵な県はたくさんあると思うんですけど、千葉も!」

●そうですね!

「千葉は海もあって、素敵な場所だと思います!」

●そうですよね。バランスがいいですよね! 世間的に静岡のイメージはやっぱり富士山、静岡茶、浜名湖、あと熱海などがあるみたいなんですけど、これって静岡人としてはどうですか?

「あ、でも大体、私もそういうイメージがあるんですけど(笑)、個人的には清水、港町出身なので、海が好きで、マグロとか美味しい海鮮の食べ物がたくさんあるし、あと富士山も、海越しに見える富士山が多分、静岡ならではだと、私は思っているんですね」

●そうですよね~。

「海越しに見える富士山がすごく雄大で、富士山が海を見下ろしているっていう、そういう雄大な雰囲気、景色がとっても好きなので、そういうところも好きですね、静岡」

エヌバンとコーヒー豆の木箱

写真協力:野外のもりこ

※もりこさんの愛車はホンダのエヌバンですよね。どこが魅力的だったんですか?

「はい!  もうエヌバンが発表された瞬間に、これは私のために造ってくれた車だって思ってしまいました(笑)」

●ドドンと心に来るものがあったんですね。

「そうですね。ぶっ刺さりました!(笑)」

●そのエヌバンを車中泊だったり、キャンプができるようにご自身でカスタマイズしていますよね?

「はい!」

●何かこだわりとかってありますか?

「私、エヌバンのフォルムと色、私が使っているエヌバンは“ガーデン・グリーン”という緑色なんですけど、その色味がすごく気に入ってます。あと内装もそうなんですけど(笑)、そのエヌバンの良さをちゃんと活かしたような内装っていうか、エヌバンの無骨な雰囲気を崩さないように心掛けながら、それでもちょっと自然とも馴染む雰囲気、木製の物をたくさん置いたり・・・。

 コーヒー豆の木箱を今テーブルとして使っているのですが、あれも見た瞬間に“わっ! この箱、可愛い!”と思って、ぜひ車に取り入れたいって思って使い始めたので、その木箱をベースに(笑)、その木箱とエヌバンに合う内装になるように心掛けながら作っていきました」

(編集部注:エヌバン愛に溢れるもりこさん、車のカスタマイズはYouTubeの、DIY系の動画を参考に自分の好みに合わせて、手を入れていったそうです。

 もりこさんのYouTubeチャンネルを見ると、しょっちゅう旅をしているように感じたんですが、もりこさんはバンド活動や動画制作のほかに、仕事もされているので、旅に行けるのは1ヶ月一回程度だそうですよ。

 もりこさんが動画作りを始めたのはコロナ禍でバンド活動ができなくなってしまい、ソロキャンプの回数が増えたことがきっかけで、旅先の美しい景色などを共有したくてYouTubeで公開するようになったそうです。

 キャンプ自体はキャンプ好きなお父さんに連れられて、子供の頃からやっていたそうですが、初めてのソロキャンプは2018年、きっかけはアニメの「ゆるキャン」だったそうですよ)

好きなものが詰め込まれているキャンプ場

※キャンプの計画は事前に立てるんですか?

「私の場合、予定を立てるのが苦手で、事前に予定を組んじゃうと、実際に休みになった時に別の所に行きたくなっていることがあったので(笑)、休みの日になったら今、行きたい場所でその時に行けるキャンプ場を探して行くっていう感じ・・・。だから本当に予定無計画で行くことのほうが多いですね。その場その場で考えて行動しています」

●心のおもむくままに・・・。

「そうですね。行きたくなかったら行かないし・・・」

●これまで様々なところに行ってきた中で、お気に入りのキャンプ場ってありますか?

「いくつかあるんですけど、私、静岡県の川根っていう場所が本当に大好きで、川根に行くことが本当に私にとって心の癒しなんですね。
 川根にある『アプトいちしろキャンプ場』は、キャンプ・サイトから鉄道が見えたり、あとダムも見えるんですよ。私、鉄道もダムも大好きで、ダム湖も見える。で、川根にあるっていう、私にとって好きなものが全て詰め込まれている場所なので、結構大好きでよく行っていますね」

●そのキャンプ場には年中行っているんですか?

「私が行く季節は結構、秋が多いですね」

●それはなぜでしょうか?

「やっぱり秋は紅葉が綺麗になり始めていて、アプトいちしろキャンプ場から見えるダム湖って、独特の色をしていて、くすみがかかった青みたいな色をしている湖なんです。
 そこに紅葉のオレンジとか赤とかが加わると、急に異世界空間になるっていうか、色鮮やかに青と赤とオレンジと黄色みたいな、あまり見ない組み合わせなんですけど、そのアプトいちしろキャンプ場の景色が、より鮮やかになって綺麗になる季節なので、私は秋をめがけてよく行くようにしていますね」

(編集部注:静岡県川根の「アプトいちしろキャンプ場」のオフィシャル・サイト:
https://abt-camp.shizu.website

ラジオとコーヒー、幸せな時間

※もりこさんは先頃、初めての本『小さな車で、ゆるり豊かなひとり旅』を出されました。この本を出すにあたって、何かテーマのようなものはあったんですか?

『小さな車で、ゆるり豊かなひとり旅』

「私、普段あまり読書というか本は読まないんですよね。キャンプしている時は何かに没頭する時間を作りたいな〜と思うので、本を読んだりするんですけど、普段から読むかって言ったらそうではなくて・・・。

 私が好きな本は読むだけで情景が浮かびやすいっていうか、すぐに映像化できるような文章の本が好きなので、私も自分の映像がすぐに頭に浮かぶような文章を心掛けながら、読んでいる人が私と一緒にキャンプしている気分になってもらえるような内容を書けたらいいなって思って書かせていただきました」

※本を読んでいて、何度も出てくるワードが「ラジオ」や「コーヒー」だったりします。ラジオは、車での移動中に聴いていることが多いんですか?

「そうですね。車の移動中も聴くし、本当に家の中でもずっと流しているので、テレビよりもずっと生活の中の一部っていう感じですね、ラジオは」

●ラジオの魅力ってどんなところでしょうか?

「ラジオの魅力は・・・私の結構好きなものが、すごくジャンルが片寄っているんですけど、パーソナリティさんの趣味だったり、リスナーさんの趣味だったり、いろんな人の好きなものを知ることができるっていうか、きっとこの人はこういういろんな思いがあって、アーティストさんとか、そういう趣味とかに没頭するようになったんだなっていう経緯をラジオを通して知ることができるし、実際に曲もかけてもらえるので・・・。

 そこまでちゃんと一貫しているんですよね。好きになって、こういうものが好きですって、音楽はこういう音楽です! っていうのを全部(ラジオを)聴くだけで、全て知ることができたり、自分で何もしなくても情報がたくさん私の頭の中にインプットされるので、こんなに素敵なものは、ほかにはないんじゃないかなって思っています」

写真協力:野外のもりこ

●嬉しい限りですね~。そして続いてコーヒー。キャンプの朝とかにコーヒーはやっぱり欠かせませんよね。美しい景色を見ながら飲むコーヒーってやっぱり贅沢な時間なんですかね?

「そうですね~。自然の中でわざわざ時間を掛けて豆を挽いて淹れるっていう、そのコーヒーだけに集中している時間が、私にとってはすごく贅沢な時間を過ごしているって気持ちにいちばんなれるのが、コーヒーを淹れている、そして飲んでいる時間なんですよね。だから必ず毎回コーヒーを淹れるようにしています」

●コーヒーの淹れ方にもかなりこだわっているんですね。道具とかも結構揃えているんですか?

「そうですね。私、道具っていうものが好きなんですよね。見た目とかが可愛らしいと、ついつい・・・持っているから要らないはずなのに“この道具、可愛い! 使いたい!”って思うと買ってしまって・・・。それを大好きなエヌバンとキャンプ場で、全部セットで眺めるだけでも、私は本当に幸せな気持ちに・・・。可愛いものを、私の好きって思ったものを全て並べられるっていうだけで、私は幸せになれるので揃えたりしちゃいます」

動画の「音」は映画館!?

※YouTubeチャンネルで公開している動画の撮影や編集は、全部ひとりでやっているんですよね。映像制作の基本は、どこかで学んだんですか?

「私はもともと本当に中学生ぐらいの頃から映像を作ることが大好きで、無理やりパソコンを使って自分で撮った映像を編集していました。特にどこか公開するとかではなかったんですけど、授業の一環で作ったりすることもあったし、大学でそういう映像を学ぶ学科にもいたので・・・。大学で学んだことを活かせているような気はあまりしないんですけど(笑)、大学でも学んだことがあります」

●そうだったんですね~。本当に動画のどこを切り取っても素敵だと思ったんですけど、この番組のスタッフが特に惹かれたのが 「音」だと言っていました。もりこさんはラジオも好きでいらっしゃるので、この動画の中の音にもこだわりはありますか?

「はい! 音は結構こだわっているつもりですね。気づいていただけるとありがたいんですけど、私自身、映画館がすごく好きなんですね。何で好きかっていうと紙をめくる音とか足音とか、映画館ってささやかな音がちゃんと耳まで届くんですよね。
 だから私の動画でもちょっとわざとらしく、ちゃんと紙の音とか入るようにしたり(笑)、服のこすれる音とか、ちょっとささやかな音、やっぱり音がたくさん届いたほうが没入感っていうのか、みなさんが一緒にキャンプしている感覚にもなりやすいのかなって思うので、大切に届けるようにしています」

●キャンプ場などで聴く自然の音にも敏感なほうですか?

「そうですね。自然の音はかなりよく聴いていますね」

●どんな音に癒されますか?

「私が好きなのは、そうですね・・・川のせせらぎとか、風が吹くと木々が揺れて、“カサカサカサ~”っていったり、笹の葉が“シャ~”って音がするんですけど、水と葉っぱ、この辺がいちばん風を感じたり・・・」

●心地よいですよね~。

「心地よいです! 癒されますね」

写真協力:野外のもりこ

(編集部注:本の巻末に、もりこさんが愛用している旅の道具が載っていますが、これがあると特に便利なものとして「てぬぐい」をあげてくださいました。

 「てぬぐい」は普段から持ち歩いていて、手を拭くのはもちろん、日差しが強いときには帽子代わりになるし、首に巻いて、日除けになったり、温泉に入る時はタオルの代わりになるし、すぐ乾く。そこもお気に入りだそうです。とにかく、なんにでも使えるアイテムなので、「てぬぐい」を忘れると不安になるくらい愛用しているとのことでした)

主人公になって撮影する旅!?

※ひとり旅をするようになって、自分の中でここが変わったな〜、というのはありますか?

「キャンプするようになって積極的に動くようになりましたね。キャンプを始める前までは、外に出ることを諦めることが多かったんですよね。準備するのも面倒くさいし、今から行く場所を考えるのも面倒くさいな~って思って、ずっと適当に近くのショッピングモールに遊びに行ったりしていたんですね。

 キャンプを始めてからは、車一台で行ける手軽さが多分いいんですけど、そんなに準備を頑張んなくても、とりあえず水筒とコーヒーセットだけ持って、車に乗って、海の見える場所まで行くだけでも、すっごくリフレッシュできるっていうことがわかって・・・。
 テントを張らなくていいんで、すごく身軽で行けるし、できることが増えるっていうか、私は(それまで)いろんなことにぜんぜん自信がなかったけど、ひとりでここまでできるっていう自信がついたかなって思いますね」

●もりこさんの旅の極意を教えていただけますか?

「私自身映画が本当に大好きでよく見ているんですね。映画もそうだけど、好きなバンドのミュージック・ビデオとか、好きなものを私が吸収して、私からまた違う形で届けたいな~って・・・。

 私の動画をもともと見ているかたも、私がこの映画のこのシーンが好きだから、みなさんにも届けたいなっていう思いで、私が撮れる範囲での映像を撮ってお届けしたいなって思っているので、本当に私が好きな映画の主人公、私が好きな音楽のミュージック・ビデオの出演している女優さんになっている気持ちで楽しく撮影することですかね」

●素敵です! 現実がすごくドラマチックになっていきますよね~。

「そうですね~」

●最後にYouTubeチャンネル「野外のもりこ」のフォロワーさんたちに伝えたいことがあれば、お願いします。

「いつも私の作っている(動画)、結構キャンプ場とか一緒のところとか出てきたりするんですけど、いつも見てくださってありがとうございます。これから私のペースで本当にゆっくりではあるんですけど、動画を作りたいなって思った時にゆっくり好きなように作っていきたいなって思っているので、また作った時は見ていただけると嬉しいです。本当にありがとうございます」


INFORMATION

『小さな車で、ゆるり豊かなひとり旅』

『小さな車で、ゆるり豊かなひとり旅』

 もりこさんの初めての本をぜひ読んでください。春・夏・秋・冬、それぞれの季節に分けて、もりこさんの旅やキャンプの体験談が載っています。その場の情景が浮かぶような、親しみやすいエッセイ集です。文章だけでなく、写真やイラストも全部もりこさんが手がけています。巻末の「私の大切な旅道具」も必見です。KADOKAWAから絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトを見てくださいね。

◎KADOKAWA:https://www.kadokawa.co.jp/product/322408001722/

 YouTubeチャンネル「野外のもりこ」もぜひ見てください。動画の完成度はもちろん、当番組のスタッフが絶賛している「音」にもご注目くださいね。

◎野外のもりこ:https://www.youtube.com/@yagai_no_moriko

虫たちの摩訶不思議な世界〜昆虫の繁栄は「変態」にあり!?

2025/6/15 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、動物作家で昆虫研究家の「篠原かをり」さんです。

 篠原さんは子供の頃から生き物が大好きで、図鑑を何度も見返すようなお子さんだったそうです。そして、いろんな生き物の飼育経験や知識を活かし、2015年に昆虫に関する本で作家デビュー。これまでに生き物に関する本を数冊出版。

 また、テレビのクイズ番組などにも出演。現在は慶應義塾大学SFC研究所の上席所員、また日本大学大学院の博士課程に在籍するなど、幅広く活躍されています。

 そんな篠原さんの新しい本が『歩くサナギ、うんちの繭 〜昆虫たちのフシギすぎる「変態」の世界』なんです。

 きょうはその本をもとに、昆虫の摩訶不思議な「変態」について、いろいろお話をうかがいます。

☆写真協力:篠原かをり

篠原かをりさん

「変態」が創った「昆虫の惑星」

※新しい本は昆虫の変態について書いた本なんですよね。改めて「変態」とは何か、教えてください。

「昆虫が子供から大人になる過程において、幼虫から成虫になる過程において、大きく体の機能を変えるための脱皮のひとつですね」

●体の機能を変えていくんですね! 変態にはいろんな種類がありますよね。代表的な変態はどういったものがありますか?

「いちばん割合として多いのは『完全変態』と言われる、イモムシが蛹(さなぎ)になって蝶になるような、一般的な変態がいちばん数としては多いんです。イモムシと蝶のように大きな変化を伴わずに、見た目は似ている感じだけど、ちょっとずつ機能が変わっていく、蛹(さなぎ)にならないで、比較的シームレスに成虫になっていく『不完全変態』と、大きくふたつあります。

 珍しい変態として『無変態』というほとんど変態をしないものと、あとは反対に『過変態』、たくさん変態をしているように見えるものがあります」

●先ほど脱皮という言葉も出てきましたけれども、「変態」と「脱皮」は違うんでしょうか?

「脱皮の種類の中に変態があるという感じです。昆虫って私たち人間のようにちょっとずつ、体の内部で骨が伸びて、筋肉が増えてっていうふうに大きくなるわけではないんです。箱に入った風船のような感じで、中がどんどん膨らんできて、もうこれ以上、大きくなれないよってなったら脱皮をして、さらに大きくなっていくっていう成長の仕方をするんですね。

 その脱皮の中でも幼虫と成虫って何が違うかっていうと、(成虫は)卵を産んだりすることができる状態で、あとは多くの昆虫は羽が変態の時に同時に生えるんです。移動能力を今まで以上に手に入れて、卵を産めるようになった状態になるための脱皮が変態と言えます」

写真協力:篠原かをり<

●なるほど~、そういうことなんですね。そもそも篠原さんが昆虫の変態に興味を持つようになったきっかけって何かあったんですか?

「変態という現象そのものが昆虫・・・例えば宇宙人が地球を見た時に多分、人間の惑星だとは思わないんですよ。圧倒的に種類が多くて数も多いのが昆虫なので、『昆虫の惑星』と断定するだろうなと思う中で、それほどまでの多種多様な昆虫っていうものを作り上げた現象がこの変態というもので、変態が出現してから昆虫の歴史の中に、特に完全変態が出現してから、数が爆発的に増えたんですよね。

 なので昆虫という、私がもともと大好きな生き物の基本となるような、不思議な現象が変態だなと思ったので、その昆虫を好きになって、なんでこんなに多様な魅力に溢れているんだろうと考えた時に、目の前にあったのが変態だったって感じです」

(編集部注:「変態」には蝶のように、幼虫からさなぎになって成虫になる「完全変態」、蛹にはならなくて、ちょっとずつ変わっていくバッタ、そしてセミやトンボのように幼虫からそのまま成虫になる「不完全変態」、このふたつのほかに何度も変態しているように見える「過変態」と、ほとんど形が変わらない「無変態」があるんですね。

 篠原さんによると「過変態」の代表が「マメハンミョウ」という、ハチの巣などに寄生する昆虫、そして「無変態」の代表が「シミ」、このシミは紙を食べる小さな昆虫で、古い本などを好むそうです。シミは漢字で「紙」の「魚」と書き、英語名は「シルヴァーフィッシュ」というそうですよ)

幼虫も蛹も光るホタル

※「変態」は昆虫の生存戦略と言っていいのでしょうか?

「そうですね。特に『完全変態』の場合に顕著なんですけど、例えばモンシロチョウの幼虫、アオムシはキャベツを食べるんですけど、モンシロチョウって成虫になると花の蜜を飲むじゃないですか。

 親と子供で同じものを食べているとその分、食料が十分にいき渡りにくい、親と子供で競合してしまう可能性があるっていうのと、あとは同じものを食べないことでリスクヘッジにもなっているのがあって、『完全変態』をすることによって、昆虫はより生き残りやすくなったと言えると思います」

『歩くサナギ、うんちの繭〜昆虫たちのフシギすぎる「変態」の世界』

●なるほど~。本の第二章に「昆虫の不思議すぎる変態」として20個の例が載っています。その中から私が特に気になった変態についてお聞ききします。

 「サナギも光るホタル」。ホタルの光ってすごく美しいな〜と毎年感じるんですけど、このホタルの変態について教えていただけますか?

「ホタルは、一般的にホタル鑑賞というと成虫の光っている様子を、特にゲンジボタル、ヘイケボタルの光っている様子を見ることが、日本ではほとんどかなと思うんですけど、生涯を通して光り続けるという特徴があって、幼虫も光りますし、蛹(さなぎ)も薄ぼんやりとした感じで光ります。

 ホタルは幼虫も蛹も成虫も光るということは、今までホタルの光ってなんのためにあるかっていうと、オスとメスが巡り合うためにあると考えられていたんですけど、幼虫とか蛹の時ってオスとメスが巡り合う必要ってないじゃないですか、まだ産卵しないので・・・。

 そうするとホタルの光には、ほかにも役割があるに違いないという考え方につながるので、“毒があるよ”って威嚇のためだったりとか・・・。

 (ホタルは)幼虫の時は浅い水の中で生活して、蛹は川岸の土手の中とか土の中にいるので、私たちの目にその光をとらえることはなかなかないんですけど、実はホタルはずっと、私たちが見えないだけで、私たちに向けていない光をほかの虫たちに向けて光を放っているんだなと思うと、人間が見る虫だけじゃなくて、虫の世界の中の虫っていうのも面白いなと思います」

50年幼虫だったタマムシ

※続いて、本に不思議すぎる変態の例として「50年幼虫で過ごす、アメリカアカヘリタマムシ」というのが載っていました。これはどういうことなんですか?

「これは変態の強みが出ている部分かなと思うんですね。なんで50年も成虫にならなかったかっていうと・・・普段はもっと短いスパンで成虫になっていく昆虫なんです。

 木の中に卵を産みつけられて、その木を食べながら、中で蛹になって成虫になっていくんですけど、多分そのタマムシが蛹になった時点で、幼虫だったかもしれないですけど、棲んでいた木が伐採されて、家の材料になったんですね。

 建築資材になって・・・そうすると、なかなか栄養とかも少なくて、成長するのに適した環境ではなくなってくるので、ゆっくりゆっくり成長して50年間かけて家の柱から出てきたっていう話なんですね。

 この蛹っていうのは非常に安定した状態・・・繊細でもあるんですけど、安定した状態なので、結構長い時間を過ごすことができて、例えば日本でも冬を越す間、蛹の姿で冬を越すような生き物もたくさんいるんです。

 変態を経ない『不完全変態』の生き物であった場合に、柱の中で成虫になるまで50年生き続けるのは、なかなか難しいことですけど、蛹は新しく何か食べなくてもいいし、じっとタイミングを待てるという、その特殊な時期があったからこそ、50年の時を経て、無事成虫になることができたんだと思います」

●なるほど! でも50年間(柱の)中に入っていて出た時って、どんな気持ちだったんですかね?(笑)

「そうですよね~。結構、昆虫の時間の感じ方って気になるなと思っていて、昆虫より本来はるかに寿命の長い人間からしても、50年ってとんでもない長さじゃないですか」

●そうですよね~。

「本当に浦島太郎状態で(笑)、誰も知り合いとかもいないし、その地域にまだアカヘリタマムシがいるかもわからないぐらいの期間で、全く景色とかも様変わりしているでしょうね。

 でも、そのタマムシたちの生涯は1回きりだから、私がもし(アカヘリタマムシになって)出てきたとしても変態ってすごいなって思って、私が同じ立場だったら蛹になって出てきたら、こんなに世界って変わっちゃうんだ、すごいなって思って終わっちゃう気がしますね」

(編集部注:蝶にしても蛹になると、動かなくなるイメージがありますよね。でも篠原さんによると、蛹になっても意外と動くんだそうです。生糸が採れる「蚕(かいこ)」の白い繭(まゆ)は蛹の状態なんですが、繭も動くんだそうですよ)

幼虫が美しい!? ジュエルキャタピラー

※今まで出会った昆虫で、いちばん印象に残っている「変態」する昆虫はなんでしょう?

「『パプアキンイロクワガタ』という親指の先ぐらいの、すごく小さなクワガタがいて、結構メタリックなグリーンとかイエローとか、赤とか青とか様々な色になっていくというか、いろんな色がいるクワガタなんですね。

写真協力:篠原かをり

 最初、蛹だと乳白色のクリーム色っぽい色からどんどん色付いてきて、こういう感じの色の成虫が出てくるのかな? って羽化する数日前になると、ちょっと予想できるような、色が透けてくる感じになるんですけど、実際出てきて見るまでわからないというか、出てきてからもどんどん色が落ち着いてきたり、変わってきたりして・・・。

 幼虫の時って全くどれも見分けがつかない、同じようなクリーム色のイモムシ状の幼虫だったものが、同じものを食べて成長して、親も同じ親から生まれていて、いざ成虫になる段階になると、様々な自分だけの色合いをなっていくのが、私は最初見分けがつかなかったけれど、もとからこの人(クワガタ)たちは全部違う見た目になるクワガタになるものとして生まれ育ったんだなと思うと、すごく面白みを感じて・・・なので、私はずっとパプアキンイロクワガタを育てるのが好きでよく育てています」

●成虫よりも幼虫のほうが美しい昆虫っていたりするんですか?

「そうですね。美しさでいうとかなり好みになってしまうんですけど、派手というか、特徴でいうと『ジュエルキャタピラー』と呼ばれる幼虫が、透き通ったグミとかゼリーのような見た目の幼虫から、オレンジとか黄色のひよこみたいなフサフサした成虫になっていくような蛾がいるんです。

 蛾も含めてジュエルキャタピラーと呼ばれていることが多くて、幼虫のほうが注目されているのは、非常に珍しいなと思っているんですけど、それもまた不思議な変態です。

 最初は本当に寒天というか、向こう側が透けて見えるようなぐらいの透明感を持った幼虫なんです。それが段々色濃くなってきて、最終的に似ても似つかない、本当にひよこのような蛾になっていくので、ひよことグミどっちが美しいかというと難しいんですけど・・・。でも幼虫のほうがより人目を引いて注目されているという点では、ジュエルキャタピラーは珍しい蛾かなと思います」

夏休み、「変態観察」のすすめ!

※夏休みも近いことですし、子供たちに「変態」を観察してほしいですよね?

「そうですね。すごく面白いのは、やっぱり虫のライフサイクルの中でも、飼っていてもサビの部分なんですよ。ずっと同じ虫を飼い続けるのも楽しいですけど、普段から虫を飼い慣れていない子供たちに、最初の一歩として飼ってみるのであれば、まず変態を観察してもらうのが、いちばん昆虫を楽しめるんじゃないかなと思っています。

 これからの季節ですと、おすすめとしては蚕って飼いやすくて、昔は桑の葉っぱで育てていたんですけど、今は人工飼料っていう抹茶ようかんのような専用の餌があったりするので、2週間ぐらい観察して、さらに生糸を採ることもできるので、思い出も残すことができるっていうので、蚕飼育はおすすめです。普通にネットで購入もできるので・・・。

写真協力:篠原かをり

 あと、身近な美しい昆虫でいうと、ミカンの木とかでアゲハチョウ(の幼虫や蛹)を探すのがいちばん飼いやすく、結構アゲハチョウは外で採ってくると、蛹の中からハチが出てきたりもして、それも面白いと飲み込めるお子様にはかなりおすすめですね」

●え~~、アゲハチョウの蛹の中から出てくるんですか、ハチが・・・?

「そうなんです。かなり寄生されやすい昆虫なので・・・。あとは完全変態以外でも不完全変態っていうのもかなり面白くて、特に大きく変わるものとしてはセミとトンボですね。ヤゴはわかりやすく、かなり飛ぶ力、強い大きな羽を手に入れるので、これから先、6月7月ぐらいになった時には池を探してみたりとか。

 あとは、夕方付近に木の根元に小さな穴ぼこが空いていたりすると、大体セミが出てきた穴です。夏場は同じ木の根元から何匹も出てくるので、昼間にセミが出てきた穴を探しておいて、夕方から夜にかけて公園で観察すると、家に昆虫を持ち込まないで欲しいご家族がいらっしゃっても変態を観察できて楽しいと思います」

※もし篠原さんが昆虫になれるとしたら、どの昆虫になって「変態」を経験してみたいですか?

「そうですね~。せっかくなるのであれば、完全変態みたいな生活がガラッと変わって、きょうから大人です! って気持ちになれるほうが楽しいだろうなとは思うんですけど、実際に今の自分が昆虫になったら、多分『シミ』のような無変態の昆虫になるだろうなと思っていますね。

 私は本当に物心ついた小学生とか幼稚園の時から今まで、ほとんど生活が変わっていないんですよ。毎日、朝起きて何をしようかなって考えて、虫とかと遊んでっていう生活をしているので・・・家に赤ちゃんとかもいますし、確実に大人になっているんですけど、働いてもいますし・・・どこから大人だったのかって振り返るとわからないんですよ。

 なので・・・なってみたいのは、蝶とか蛾とか“鱗翅目(りんしもく)”の完全変態になったら、すごく気分が切り替わって楽しそうだなと思うんですけど、実際には、シミのようにいつ大人になったんだっけな~ってなってしまうような昆虫になると思います」

☆この他の篠原かをりさんのトークもご覧下さい


INFORMATION

『歩くサナギ、うんちの繭〜昆虫たちのフシギすぎる「変態」の世界』

『歩くサナギ、うんちの繭〜昆虫たちのフシギすぎる「変態」の世界』

 篠原さんの新しい本をぜひ読んでください。きょう番組内でご紹介できたのは、ほんの一部です。とにかく不思議で面白すぎる変態のお話が満載ですよ。

 特別編として巻末に、アゲハチョウやクワガタ、そしてセミの変態を観察する方法が載っています。この夏、お子さんと一緒に「変態」を観察してみませんか。大和書房から絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトを見てくださいね。

◎大和書房:https://www.daiwashobo.co.jp/book/b10107902.html

 篠原さんのオフィシャルサイトもぜひご覧ください。

◎篠原かをり:https://shinoharakawori.com/

雲を見てときめくのは、その一瞬が美しいから

2025/6/8 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは気象予報士、そして空の写真家の「菊池真以(きくち・まい)」さんです。

 菊池さんは茨城県出身。慶應大学在学中に気象予報士の資格を取得し、気象予報士として活動。その後、NHKの気象キャスターとして活躍。現在は、お天気関連の記事の執筆や講演活動のほか、いつも持ち歩いているミラーレスの一眼レフ・カメラで撮った、大好きな空や雲の写真を本などで発表、また写真展も開催するなど、幅広く活躍されています。

 そんな菊池さんの新しい本が、文庫サイズとなって発売された『ときめく図鑑Pokke! ときめく雲図鑑』。この本には菊池さんが撮影された雲や空の素敵な写真が満載なんです。

 きょうはそんな菊池さんに、好きな雲の風景や珍しい雲のほか、雲や空を上手に撮影するコツ、そして気になるこの夏の気温と傾向などうかがいます。

☆写真:菊池真以『ときめく図鑑Pokke! ときめく雲図鑑』(山と溪谷社)

菊池真以さん

「わた雲」から「入道雲」、天気急変!?

※雲の色は「白」、そう思っているんですが、それは正しいですか?

「そうですね。太陽の光が散乱して雲が白っぽく見えているんです。例えば雨雲は雨を降らせるくらいですから厚みがあるんです。分厚いんです。積乱雲ですと地上から13キロとか15キロぐらいとか、飛行機が飛ぶ高度よりも高いので厚みがあるんですよ。なので、太陽の光が底のほうまで届かないので、底のほうは黒っぽく見えるんですよね」

●そういうことなんですね〜。

「はい。なので、黒い雲を見かけたら天気急変に注意なんていうふうに言いますよね」

●確かに聞いたことあります。

「そうなんです」

●菊池さんはこの本で、雲の観察の基本となる10種類の雲をあげて説明されていますよね。今お話にあった雨雲だったり、うす雲、うね雲など、あまり聞いたことがない雲もありました。

 その中で最低限この雲のことを知っていると、私たちも天気の変化を予測できたり、日常生活でも役立つよっていう雲があれば、教えてください。

写真:菊池真以『ときめく図鑑Pokke! ときめく雲図鑑』(山と溪谷社)

「やはりこれからの季節は、わた雲かなって思います。わた雲がどんどん大きくなっていきますと最終的に入道雲になるんですね。その入道雲が激しい雷雨をもたらす雲になります。夕立を降らせるような雲ですね。

 そのわた雲から入道雲に成長していくので、わた雲が朝からたくさん並んでいるような日は、ちょっときょうは天気急変に注意が必要かなというふうに思ったりできます」

入道雲のてっぺん「かなとこ雲」

※季節によって、雲はいろんな表情を見せてくれます。また、時間帯によって朝日だったり夕陽だったり、雲と空と太陽が作り出す風景も素敵ですよね。菊池さんが好きな雲の風景は、どんな風景ですか?

「例えば春ですと、わた雲が気温によって大きくなったり、背が高くなったり平べったいままだったりするんですね。気温が低いと、平べったいフランスパンのような形って言ったりもするんですけども、扁平雲(へんぺいうん)と呼ばれる細長い形になります。

 それが気温が上がってくると、ちょっともくもくっとしてくるので(背が)高くなる。なので、ちょっとマニアックなんですけども、雲の高さを見て暖かくなってきたな〜なんていうふうに私は見ています」

●すごいです! 雲の高さでそれを思うんですね!

「はい。で、夏ですと入道雲。入道雲はどんどん高くなっていくんですけども、雲ができる限界の高さっていうのがあります。これ以上、高くなれないよっていう高さがあるんですね。入道雲って大きくなっていくと、その高さに達すると、どうなると思いますか? 

●どうなる・・・!? 雨が降る?

「雨が降りやすくなるんですけれども、もうそれ以上、上に行けないので横に広がるんですよ」

写真:菊池真以『ときめく図鑑Pokke! ときめく雲図鑑』(山と溪谷社)

●そういうことなんですね!

「なので、上が平べったくなっている雲が見えたら、入道雲のいちばんてっぺんの部分が平たくなっているのを、かなとこ雲って呼んだりするんですけれども、かなとこ雲のその平べったいところを見て、私はあそこが雲ができる限界の高さだなっていうふうに思って見ています。ちょっとマニアック過ぎますか(笑)」

●考えたこともなかったです。面白いです!

「で、秋はすじ雲、うろこ雲、ひつじ雲ですかね。上空の風が強まってきて、空高い雲がたくさんできるようになります。その繊細な感じも好きですね。

 北風が強まってきますので、太平洋側の地域は晴れる日が多くなるんですが、その北風に飛ばされて雲が小っちゃくなるんですよ。飛ばされて小っちゃくなると、それは断片雲(だんぺんうん)って呼んだり、呼び方によっては、ちょうちょ雲、ちょっと風流じゃないですか。なんかちょっとひらひらっと舞っているような感じが好きですね」

珍しい「穴あき雲」、印象的な「ゆきあいの空」

※滅多に見られない雲の風景はありますか?

「穴あき雲ですかね」

●穴あき雲?

「雲が空一面に広がっている時に、ちょうどそこだけ穴が開いたように見える雲があるんですね。そのことを穴あき雲と言います。で、その穴あき雲なんですけれども、この本に載せているんですよ。いるんですけども、これ多分ね、5年以上かかったと思います、撮るのに」

写真:菊池真以『ときめく図鑑Pokke! ときめく雲図鑑』(山と溪谷社)

●え、撮影するのに? すごく珍しいんですね! 

「はい、時間がかかりました! でも一回見つけると、ちょっとコツをつかむんですよ。なので、これを撮ってからは比較的、毎年見ていますし、1年に何回か見ていますね」

●季節は問わないんですか?

「そうですね。天気でいうと天気がよくなったり悪くなったり、変化する時に多いですかね。うろこ雲が空一面に広がっている時になんらかの衝撃を受けて、雲の一部がなくなっているような状態、穴あき曇って言います」

●見つけた時はラッキーなことが起こりそうですよね(笑)

「はい(笑)、もう慌ててカメラを取りに行きます」

●そうですよね〜。今までに見た雲の風景で、最も印象的だったなっていう風景ってありますか?

「あ、それはこの本の終わりに載せた写真なんです。私がカメラで写真を録り続けたいなと思った最初の瞬間かもしれない、この雲の風景なんですね。

 当時コンパクト・デジタルカメラ、比較的小っちゃいカメラを持って、ここに行ったんです。この空が本当に綺麗で、場所は富士山の5合目になります。中腹ですね。

写真:菊池真以『ときめく図鑑Pokke! ときめく雲図鑑』(山と溪谷社)

 そこまで車で登ることができるので、みなさんにも行っていただきたいんですけども、ちょうど夏から秋へと季節が変わっていく頃でした。まだ下のほうには夏のもくもくとした雲が見えて、上空の高いところには秋の雲が見え始めていて、秋と夏の雲が同じ空に見られたんですね。

 で、私はこの写真を撮った時は知らなかったんですけども、こういった夏と秋がゆきあう季節に見られる空のことを、ゆきあいの空って言うんですって。その言葉を聞いて、益々この空、綺麗だったなと思いまして、すごく記憶に残っております」

(編集部注:お話に出てきた「ゆきあいの空」。菊池さんによると、珍しい現象ではなく、夏から秋へ変わる頃、お盆過ぎあたりに、開けた場所で見られるそうですよ)

この夏は暑くなる!?

※多くのかたが気になっているのが、今年の夏の気温と傾向だと思います。この時点での予測は難しいと思いますが、今年の夏も暑くなりそうですか?

「はい、暑くなりそうなんですよね~。ベースとして地球の気温が上がってきています。それに加えて、海の温度で長期的な予報を予想するんですけども、普段の天気予報、あすあさっての天気は地上の空気の温度から計算して出していきます。長期的な予報は海の温度を見て、そこから予想を立てていきます。

 というのは、水は温まりにくく冷めにくいですよね。なので、影響を受けにくいので、長期的な予報をする時に役立つんですね。
 その海の温度が太平洋の西側、つまり日本の南の海域に近いところで、今年は高めになりそうなんです。そうなりますと、日本の南にある太平洋高気圧の勢力が強まりやすい。なので暑くなる。その傾向がちょっと強いかなと思います」

●なるほど~。あと、気象衛星やハイテク機器の発達で、天気予報の精度が上がった一方で、私たちはゲリラ豪雨だったり局地的な大雨だったり、急激な変化に見舞われることが多くなったように思います。やはりこれは地球温暖化の影響と言っていいんですか?

写真:菊池真以『ときめく図鑑Pokke! ときめく雲図鑑』(山と溪谷社)

「これは(地球温暖化の影響と)言っていいと思います。激しい雨の数というのも実際に増えていますし、私が気象予報士(の資格)を取ったのは、もう19年前(笑)、それくらい前だったんですけど、その頃と比べて極端な現象が増えたと感じております」

●そうなると短時間の予報、例えば1時間後、2時間後の予報も難しくなっていて、これって気象予報士泣かせですよね?

「そうですね(笑)。ただ、昔と比べてコンピューターの精度がものすごく上がってきているんですよね。今は数日前、3日4日、5日ぐらい前に、例えば関東地方の北部で、この日は急な雷雨がありそうだ、といったことは、なんとなく予想がつくんですよ。結構コンピューターの精度はいいです。

 ただ、このスタジオ近くの海浜幕張駅でとか、ピンポイントの場所や、例えば午後2時など、ピンポイントの時間になると、なかなか難しいわけなんですね」

線状降水帯、要注意!

※天気予報で使われる気象用語で、これには注目しておいたほうがいいという用語はありますか?

「やはり雨の季節になってきますので、線状降水帯は本当に大事なキーワードだと思います。これは何かというと活発な雨雲、大雨を降らせる雨雲が線状に列を連なるように並んでいるような状態です。

 何が危険かというと、活発な雨雲が線状に並んでしまうと、大雨が同じところでずーっと長く降り続いてしまうんですね。積乱雲ひとつの寿命っていうのは1時間ぐらいなんですけれども、それがいくつも並ぶことで、同じところにかかってしまうことで、長い時間大雨が続いてしまう。結果として災害をもたらすような雨になってしまうわけなんです」

写真:菊池真以『ときめく図鑑Pokke! ときめく雲図鑑』(山と溪谷社)

●「線状降水帯」と聞いた時には、しっかりと対策を打っていく必要がありそうですよね。

「はい、お願いします」

●それから、やっぱり毎年台風も気になるところですよね? ここ数年台風の進路も大きく変化しているように思うんですが、この点はどうでしょうか?

「そうですね。日本のすぐ南の海域がやはり以前より暖かかったりするんですよね。なので、よくあるパターンとしましては、日本のはるか南の海上で台風が発生して、どんどん北上して日本に近づくまでに時間があった。

 その時間をかけている間に暖かい海から、台風はエネルギーをもらってどんどん強くなっていくような形、沖縄の近くを通って本州にやってくるようなパターンが多かったんですけれども、日本のすぐ南の海域が暖かいということで、以前よりも日本のすぐ南で台風が発生してしまったり、発生したと思ったら猶予なく急に勢力を増したりすることが多い気がします」

●スーパー台風と呼ばれる、とても勢力の強い台風も発生するようになっていますね。これも地球温暖化の影響なんですか?

「はい、これも地球温暖化の影響と言われています。スーパー台風と呼ぶ基準は、基本的に定められてはいないんですけれども、中心付近のヘクトパスカルが低ければ低いほど、勢力の強い台風になっていくわけなんですね。その勢力の強い台風が増えてきている・・・この先も増えるのではないかというふうに言われています」

スマホで雲を上手に撮るコツ

※本の最終章に「雲を楽しむ」というのがありました。菊池さんがお勧めする「雲の楽しみ方」をぜひ教えてください。

「いろいろあるんですけども、定点観測が結構お勧めですよ! 毎日同じ場所から同じ時間に空を眺めてみる。そうしますと季節によったり時間によったりして、出る雲が変わっていくのをすごく感じられます。毎日見ていると、天気予報ができるようになってきます(笑)」

●え~~本当ですか?

「はい!」

●私もできますかね?

「全然できると思いますよ! 天気が下り坂の時は、上空の薄い雲から厚みのある雲に変わっていきます。なので、もしかしたら“あれ? お昼頃から曇ってくるよって言っていたけれど、ちょっと早いな”とか、“ちょっと低気圧(の移動が)早くなっているのかな? じゃあ雨も早いのかな?”など、自分で予想することができるようになります」

菊池真以さん

●菊池さんは空の写真家でもありますので、写真を撮るのもいいですよね?

「はい、その瞬間瞬間を誰かと共有することができるのでいいかと思います」

●スマホだったら、こういう撮り方がお勧めとかあったら教えてください。

「まずは何よりもピントですね。ピントを合わせるのが、雲は少し難しかったりす
るものもあります。もし雲でピントがなかなか合わない時は、なるべく遠くの建物とか、山の稜線とかでピントを合わせて撮影すると、雲も遠いところにあるのでピントが合いやすいです。

 水平に撮ることもお勧めします。もちろんちょっと気持ち的に右斜め上にしたいとか、そういったこともあると思うんですけども、記録していく時には水平がなるべくお勧めです。あと周りの景色も一緒に入れるといいですよ。“あ、この時にこの雲を撮ったな~”とか、周りの様子もよくわかるので景色も入れるといいです。

 あと2点あるんですけれども、スマートフォンは色がちょっと難しかったりもします。空の色が青く出ないことがあります。携帯の種類にもよるんですけれども、ホワイトバランスってありますか?」

●あ~、あります、あります!

「ホワイトバランスが変えられるものは、太陽光だったり太陽マークだったり、機種によってちょっと違うんですけれども、できれば、太陽マークに合わせて撮ってみてください。あと、太陽の光と雲を一緒に撮るのは結構難しいです」

●そうなんですね。

「太陽の光が入ってしまうと、カメラがどっちの光の明るさに合わせようかな~って迷ってしまうんですよ。なので、太陽の光がもし入らなければ、入らない環境で撮るのがお勧めです。太陽と反対の空とかは、比較的青くちゃんと写ります」

●はい。

「でもきっと、太陽の近くに撮りたい雲ってあるじゃないですか?」

●そうですね~。

「その時どうするかというと、なるべく太陽の光を写さないようにアップにしてみたりとか、建物でそこだけ切ってみたり、太陽の光を隠してみたりして撮ると、結構上手くいくことが多いです」

●なるほど~。最後に改めてなんですが、菊池さんが雲を見てときめくのはどうしてなんですか?

「これはもう、雲って毎回違うんですよね。毎回見て違いますし、ちょっと前に見た雲と今見ている雲は全然違いますし、美しさも違ってきます。楽しみ方も違います。だからその一瞬を、一瞬一瞬を見ていくのがとても楽しいです」

●変化するからこそ楽しい!

「そうなんですよね~。その一瞬を収めたくて多分私は、空を撮っているんだな〜と思っています」

写真:菊池真以『ときめく図鑑Pokke! ときめく雲図鑑』(山と溪谷社)

☆この他の菊池真以さんのトークもご覧下さい


INFORMATION

『ときめく図鑑Pokke! ときめく雲図鑑』

『ときめく図鑑Pokke! ときめく雲図鑑』

 文庫サイズとなって発売された菊池さんの本をぜひチェックしてください。基本の雲10種のほか、身近な雲や珍しい雲など、全部で59種の雲を解説。また、観察のポイントや撮影のコツなども載っていますよ。何より菊池さんが撮った雲の写真が素敵なんです。ぜひご覧ください。山と渓谷社から絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトを見てくださいね。

◎山と渓谷社:https://www.yamakei.co.jp/products/2824050110.html

◎菊池真以オフィシャルサイト:https://www.maisorairo.com/

インド北部の山岳地帯に、幻のユキヒョウを追う

2025/6/1 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、フリーライターで写真家の「山本高樹(やまもと・たかき)」さんです。

 山本さんは1969年、岡山県生まれ。いくつかの出版社勤務と海外放浪を繰り返したあと、2001年からフリーランスとして活動。2007年からはインド北部の山岳地帯「ラダック」地方の取材をライフワークに、現地の気候風土や人々の暮らしぶりを、写真や紀行文で伝えていらっしゃいます。

 そして、2020年に出版した『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』で、第6回「斎藤茂太賞」を受賞されています。そんな山本さんの新しい本が『雪豹の大地 スピティ、冬に生きる』なんです。

山本高樹さん

 きょうは、山岳地帯スピティに生息する幻の野生動物「ユキヒョウ」の撮影エピソードのほか、彼らを取り巻く環境や、人間との関係などうかがいます。

☆写真協力:山本高樹

スピティの仏教僧院、キー・ゴンパ
スピティの仏教僧院、キー・ゴンパ

「冬に来い! ユキヒョウを撮りたくないのか?」

※この本の舞台になっているスピティはインドの北部にある、ということなんですが、改めてどんな場所なのか教えてください。

「インドという国を地図で見ると、ちょっと右側のほうが出っ張っていて、ひし形みたいな形をしていると思うんですけれども、その頂点のところがいちばん北にあるんです。その北に僕がずっと前から ライフワークとして取材しているラダックという連邦直轄領があって、そのラダックのすぐ下にある州、ヒマーチャル・プラデーシュ州の北東の端にスピティという地方があります。

 そこはヒマラヤの西外れに当たる地域で、標高が3500メートルから4200メートルぐらいあるところで、1年を通じて雨があまり降らないんですね。冬の雪解け水を頼りに人々が暮らしていて、主にチベット仏教を信仰しているスピティ人と言われている人たちが暮らしています。いちばん大きな街でも2000〜3000人しかいないような小さな地域ですね」

●スピティにユキヒョウがいることは、いつ頃知ったんですか?

「ヒマラヤを中心とした山岳地帯にユキヒョウが生息しているということは、知識として知っていて、20年近く前から僕はラダックという地域を取材し続けているんですけれども、そのラダックでもほうぼうでユキヒョウの噂というのは、ちょこちょこ聞いていたんですよ。

 僕自身も雪の上で獣が格闘したような、血しぶきが飛んでいる跡とかを見て、これは何だ? って聞いたら、僕の友達のガイドが、これはユキヒョウが獲物を捕まえた跡だって言っていて・・・。

雪原で獲物の気配を探るユキヒョウの双子
雪原で獲物の気配を探るユキヒョウの双子

 で、雪の上にちょっと丸く、ぽってりした足跡が点々と残っていて、その上にちょっと筋のような太い跡がついていると、これはユキヒョウの足跡だと・・・。足跡のあとに尻尾をちょっと引きずった跡がつくと、これはユキヒョウの足跡だってすぐにわかると教えてもらったりとか・・・。

 そのほかにも別のラダックの村で、家畜として飼っているロバのお尻がちょっとユキヒョウに噛まれちゃったって跡を見せてもらったりとか、ほうぼうでそういう噂を聞いていて、存在自体は感じてはいたんですけど、ただ本当に目撃するのが難しい動物なので、肉眼で見たことはそれまでなかったですね」

●目撃するのが難しい動物であるのに、ユキヒョウを撮影しようと思ったのは、どうしてなんですか?

「そういう細かい情報をずっと前から聞き続けていて、ある時、別の目的の取材でスピティに滞在していた時に、夏だったんですけれども、僕の昔からの友達が『お前、何で冬のスピティに来ないんだ』と、『お前、冬に来い』って言って、『来るだけでも大変なのに、なんで俺が来なきゃいけないんだ』って聞いたら、『ユキヒョウだよ! ユキヒョウの写真を撮りたくないのか? 写真家だろ?』って言われて、『いや、そんな絶滅危惧種なんて、簡単に撮れるわけないじゃん!』って言ったら、『いや、撮れる。スピティなら100%撮れる』って言われて・・・。

 『どういうことなんだ?』って聞いたら、スピティにはユキヒョウが比較的出没しやすいスポットがあって、地元の人たちがネイチャーガイドというか、現地ではスキャナーとかスポッターとか言われているんですけれども、それを専門にしている人たちが、冬の間、ユキヒョウを撮影に来た人、カメラマンとかを案内するツアーがあるって聞いて・・・。

 『そんなのあるとしても、どのぐらいいて、どのくらい頑張ったらユキヒョウを撮れるのか』って聞いたら、『1日6〜7時間ぐらい外に居続けて、それを3〜4週間ぐらい続けたらいけるんじゃないか』と言われて・・・(苦笑)。それだったら1日1回目撃できるかもしれないけれども、そんなので行く甲斐があるのかちょっとわかんなかったんですね。

 ただ、そういうのはなんとなく思い続けていて、じゃあ試しに行ってみるかみたいな気持ちで、ちょっと半信半疑なところはあったんですけれども、スピティで取材をしてみようと思いたったのが、今回の取材のきっかけだったんです」

(編集部注:山本さんによると、日本からスピティに行くには旅の途中で許可証の申請などがあったりするので、到着するまでになんと、6日もかかるそうですよ。まさに秘境!)

太い尻尾、体毛もふさふさ

※改めてユキヒョウはどんな動物なのか、教えてください。

「個体差はあると思うんですけれども、頭の先からお尻のあたりまで、だいたい1メートル前後ぐらいで、体長と同じぐらいの長さの太い尻尾があります。

 手足は割と短めでがっしりしていて、険しい岩場とか雪が積もっているところでも、尻尾とかでバランスを取って、機敏に動くことができる体型になっていますね。体毛も結構ふさふさと生えて暖かくなっていて、足の裏にまで毛が生えているんだそうですね」

●繁殖期はいつ頃なんでしょうか?

「冬から春にかけてというふうに聞いています。だいたい1〜2頭の子供を産んで、お母さんが2年ぐらいかけて育てることが多いみたいですね」

●やっぱりユキヒョウなので、寒いところが好きなんですかね? 

「寒いところが好きなんですよ。逆に暑いところが苦手なので、夏の間は人間が住んでいる村のあたりまで降りてこないそうで、山の高いところにいることが多いそうですね。
 冬になるとユキヒョウが獲物にしている、アイベックスっていう草食動物とかが、山の上のほうだと雪に草が埋もれて食べられなくなっちゃうので、下に降りてくると、ユキヒョウもアイベックスを追って、下のほうに降りてくる。なので、ユキヒョウを観察するのは、主に冬に限定されるっていう感じになりますね」

巨大な角を持つ雄のアイベックス
巨大な角を持つ雄のアイベックス

●絶滅危惧種ということですけれども、だいたい世界にどのくらいいるんですか?

「最新の調査だと8000頭ぐらいじゃないかと言われていますね」

●結構少ないんですね〜。

「はい、しかも山岳地帯に棲んでいるので、どこにどのぐらいいるのかの調査が難しくて、生態についてもわかってないことはかなり多いんだそうです」

(編集部注:山本さんの現地の滞在先は、いわゆる民家にホームステイ。旅行者に一部屋を貸してくれて、朝・昼・晩の食事を用意してくれるそうです。

 そして、知り合いからネイチャーガイドを紹介され、1ヶ月ほど行動を共にしていたそうですが、目がすごくいいので、とても助かったとのこと。ユキヒョウの撮影には、視力は大事な能力だと、山本さんはおしゃっていました)

標高4200メートル、過酷な撮影

※初めてユキヒョウを撮影できたのは、どんなシチュエーションだったんですか?

「スピティに到着してすぐ、デムルという別の村の村外れで、放牧していた羊をユキヒョウが殺したっていう情報が手に入って・・・。で、翌日知り合いの車に乗せてもらって現地に向かったんですね。その時は400〜500メートルぐらい離れたすごく遠い場所で、ユキヒョウの母親と、まだ1歳にならないぐらいの子供のユキヒョウを目撃することができました。

デムルに出没するユキヒョウの母子
デムルに出没するユキヒョウの母子

 僕が持って行ったのは600ミリという焦点距離のレンズだったんですけれども、それでもまだ遠い、800ミリでもまだ遠い(苦笑)。
 ロケーションとかその時の条件にもよるんですけれども、近づいて撮れる環境もあるにはあったので、そういうところでは、そのレンズでもなんとかいけるっていう感じだったんですが、基本的に本当に豆粒のようにしか見えない場所のほうが多かったですね」

●こういった過酷な環境での撮影で、いちばん大変だったことって何ですか?

「どうですかね〜、スピティだと標高が・・・僕が主に滞在していたキッパルという村が標高4200メートルぐらいのところで、撮影は高低差が150メートルから200メートルぐらいある断崖の崖っぷちで、雪が積もっていて、ユキヒョウとか目的物が動くと、それに合わせて、こっちも三脚についているカメラとかを担いで動かなければいけない。

 で、膝ぐらいまで埋もれる雪の中を走って、こけないようにしながら動く。当然、標高が高いから息はものすごく切れる。やっと動き終わって三脚を据えたと思ったら、また動き始めるみたいな感じで・・・それを朝の8時、9時から夕方の5時ぐらいまでやっている状態なので、体力的にかなり消耗しますね。

 あと単純に寒い。マイナス20度ぐらいまで下がるので、日が差して風がなければ、まだいいんですけれども、日がかけていて風がブンブン吹くようだと、ものすごく体感温度が下がるので、それもやっぱり辛かったですね」

食事はチベット系とインド系!?

※ユキヒョウの話ではないんですが、スピティ滞在中の食事は、どんなものを食べていたのか、教えていただけますか。

「本当に現地の人が食べているものと同じものを食べていて、スピティ人はチベット系の民族なので、チベットに由来のある料理とかもよく出てきます。インドでもあるので、インド人が食べるような料理もあります。

 具体的にいうと、チベット系の料理だと“モモ”という蒸し餃子、ちょっとぶ厚い皮で包んだ蒸し餃子で、中にはすりつぶした野菜だったり、贅沢な時にはちょっとお肉が入ったりするものを蒸して、薬味をつけて食べたりとか・・・。あとは“トゥクパ”というのが、煮込み料理の総称なんですけど、小麦粉を練ってちぎり麺みたいにして、それを野菜とかと一緒に煮たものだったりとか・・・。

 インド風の料理だと、ダールという豆のカレーを、白いご飯を圧力鍋で炊いて、それにかけて食べたりとか、野菜をスパイスで炒め煮にしたりとか、たまに何日かに1回、運が良ければ、お肉が出てくるみたいな感じで、そんな感じでしたね」

●なるほど~。食事は日本人の口にも合うんですか?

「そうですね・・・僕が言っていいのか(笑)、僕が合う! って言っても合わないよ! っていう人もいるかもしれない(笑)。まあ基本的に合うと思います。そんなにスパイシーでもないし、穏やかな味で食べられると思います。

 ただいかんせん冬なので新鮮な野菜を持ってきても、すぐに凍ってダメになっちゃうんですね。なので、陸路ではるばる運ばれてきたわずかな野菜をちょっとずつ食べたりとか、夏の間に収穫して土に埋めて保存しておいた野菜を大事に食べたりとか。あとお肉にしても精をつけるためのものなんですけど、そんなに無尽蔵にあるわけじゃないので、大事に食べたりとかっていうのはあります」

●保存の仕方なども日本とやっぱり違うんですね~。

「そうですね。肉とかは適当にビニールに包んで納屋に置いておけば、寒いので普通に凍っちゃうんですよ」

●冷凍庫とあまり変わらない状態・・・(笑)

「自然の冷凍庫になっちゃうんですね(笑)」

●なるほど。現地のかたたちとの会話は何語なんでしょうか?

「スピティ人はスピティ語というのを話します。僕はスピティ語はほとんどわからなくて、ラダック語っていうラダック人が話している言葉に関しては、片言レベルなんですけれども、話せるんですね。ラダック人のネイティヴとスピティ人のネイティヴが話すと、お互いが言っていることは3割ぐらいわかるそうです。

 僕は1~2割ぐらいしかわからないっていう感じで(苦笑)、わからないところは英語で補ったりしているんですけれども、英語を話せないスピティ人も多いので、そういう時には身振り手振りを交えて、ラダック語とスピティ語と身振り手振りが混じってすごくカオスな感じですね。

 でも意外と話は通じるので、ホームステイ先のお父さんとお母さんともそんな感じでやって、“おまえ、ちょっと酒飲むか?”とか言われたら、“飲む飲む!“みたいな感じで、これはほぼ言葉は通じなくても通じ合う感じなので、そんなに苦労はしなかったですね」

●現地のかたがたの温かみがいいですよね~。

「そうですね~」

●ちなみにユキヒョウは、現地の言葉で何と言うんですか?

「スピティ語では『シェン』と言います。」

●シェン!?

「村によっては『ジャパ』って言うらしいんですけど」

●場所によって違うんですね~。

「そうですね。ラダック語だと『チャン』とか『シャン』という言い方をします。少し発音の仕方が違うみたいですね」

キッバルの冬の祭り、ダチャン
キッバルの冬の祭り、ダチャン

ユキヒョウが冬の臨時収入!?

※ユキヒョウが生息するスピティや、その周辺はやはり温暖化の影響があったりするんでしょうか?

「かなりあると思いますね。僕が行った2024年の1月くらい3月にかけては、特に1月に雪が全然降らなくて、標高が3500メートルもあるのにバスで移動していても、雪のかけらが全然見えなかったんです。僕も驚いて、現地の人たちも困って雪乞いの儀式をあちこちのお寺でしていたんですよね。

 というのは、農業用水や生活用水は雪解け水に頼っているので、雪が降らないのは死活問題なんですね。かといって人間の力ではどうしようもないので、仏様にお祈りしてって感じなんですけど、そうすると2月3月にドンドンと雪が降ったんですね。でも全体的にやっぱり積雪量が減っている傾向があるそうなので、今後どうなっていくのかっていうのは心配しているところだと思います」

●これってユキヒョウにも影響があるんですか?

「やっぱり雨が少なくなると草の量が減る。草の量が減ると草食動物が減る。草食動物が減るとユキヒョウなどの肉食動物も減るのは、連鎖として当然影響が出てくると思いますね。もちろん人間自体も生活が成り立たなくなると思うので、人間を含めて、すべての生きとし生けるものに関わってくる問題だと思います」

●そういった状況もありつつも、スピティにはユキヒョウを撮影するために世界中から多くの人たちが訪れていますよね? 現地の人たちにとってユキヒョウがひとつの収入源になっているんですか?

「そうですね。キッパルという僕が滞在した村では、ユキヒョウを撮影しに滞在している人たちへ宿泊場所を提供し、食事を提供し、ネイチャーガイドがユキヒョウの居場所を案内し、カメラなどの機材をポーターと呼ばれている荷物運びの人が運び、ドライバーさんたちが長距離の場所へ車で運んでっていう形で、冬の臨時収入みたいなものができているのは事実だと思います。

 そういうユキヒョウ撮影ツアーが始まる前は、どっちかって言うと、昔からユキヒョウは地元の人たちには厄介者だったそうです。家畜を襲って食べちゃうので、やっぱり現地の人たちにとって、家畜はとても大切な存在なんですね。収入源でもあるし、それを急にぱくぱくっと冬に何頭もやられてしまうと、やっぱり頭に来るんですね。(ユキヒョウが)村に近づいてきて姿を見かけたりすると、石を投げて追い払っていたそうなんですよ。

 なので、今ユキヒョウ撮影ツアーが入ってきたことによって、現地の人たちの意識も少し変わっているところがあって、ちょっと誇りに思うなところもあるみたいなんですね。

 そういうふうに冬の臨時収入みたいなったりとか、野生動物保護区を指定することによって、全体的な野生動物の保護に努力していきたいという動きが出てきているので、スピティでは少なくとも意識が変わってきています。ユキヒョウが人々にとって、もっといい存在になっているって実際に見て感じたところです」

自分事としてのスピティ、そしてユキヒョウ

※今回の取材中に5頭のユキヒョウと出会うことができたそうですが、その中で、特に印象に残っているユキヒョウはいますか?

「そうですね・・・ずっとキッパルという村の周辺で出没していた、メスとオスの双子の兄弟のユキヒョウがいたんですね。彼らは僕が撮影した時は2歳になるかならないかくらいの歳で、本来ならお母さんがまだ一緒の時期なんですけど、お母さんが前の年の夏に病気か何かで死んでしまったそうです。まだそんなに年端もいかない、狩りの経験もあまりないみたいな双子たちが、わりと健気に仲よく、すごく仲がいいんですよ(笑)」

キッバルに出没するユキヒョウの双子
キッバルに出没するユキヒョウの双子

●へぇ~仲がいい!?

「ちょっと歩いただけで見つめ合っているんですね(笑)」

●え〜〜可愛い~!

「本当に仲がいいよね! っていうぐらいの子たちがいたので・・・ただユキヒョウは大きくなると基本的に単独で暮らすようになるそうなんです。なので、僕がその双子の兄弟を見続けることができたのは、やっぱり幸運だったなと思っていまして、それがやっぱり印象に残っていますね」

●レンズを通して見るユキヒョウには、どんなことを感じますか?

「そうですね・・・何と言いますか・・・何かいろんなものを与えてくれているような気がしますね。言葉にしきれないような部分なんですけれども・・・。

 今回、ユキヒョウの撮影を目的のひとつとして、スピティに長期滞在はしたんですけれども、その一方でユキヒョウの写真を撮れれば、それでいいのか? っていう思いもありましたね。

 ただ写真をとって満足しているだけじゃ、コレクションを作っているだけじゃ、ダメなんじゃないかっていうのがあって、もっとユキヒョウを含めたスピティや、冬の過酷な環境で暮らしている人々、人間も含めて、生きとし生けるものがどういうふうに暮らしているのかっていうのを、知識だけじゃなくて経験とか感覚とか、そういったものでちゃんと理解することが必要だなというふうに感じていました。

 レンズを通して見たユキヒョウはその中のひとつですし、人々との会話であったりとか、あとは本当に肌で感じる寒さであったりとか、いろんなものがひとつひとつ、それらは他人事ではなくて結局、自分事でもあるんだなと。

 僕たちは遠く離れた日本に暮らしていますけれども、同じ地球の上でそういった世界で暮らしている動物や人間がいることを感覚として受け止めておくのは、すごく大事なんじゃないかなって、今思っています」

山本高樹さん

●今後もユキヒョウの撮影は続けていきますか?

「どうでしょう・・・分からないですね・・・。今回はものすごくやりきったので、また行きたくなったら行くかもしれないですね。ただもう20年近くに渡ってインド北部のチベット文化圏をライフワークのように取材を続けていて、それこそユキヒョウのような動物に限らず、人間であったりとか、あるいは全体を俯瞰してみる形で、定点観測し続けているみたいなところがあるんですね。

 なので、今後もそういったことを続けていって、何か日本の読者のかたに伝えられることがあれば、本のような形にして、残していきたいと思っていますし、その中で、もしユキヒョウが登場するんであったら、それはもちろん取り組んでみたいなっていうふうに思っています

☆この他の山本高樹さんのトークもご覧下さい


INFORMATION

『雪豹の大地 スピティ、冬に生きる』

『雪豹の大地 スピティ、冬に生きる』

 山本さんの新刊は、書き下ろしの長編紀行です。なかなか出会うことのできないユキヒョウの撮影エピソードのほか、お祭りや人々の暮らしぶりなど、興味深い内容にあふれています。貴重な写真も掲載。ぜひ見てください。雷鳥社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎雷鳥社:https://www.raichosha.co.jp/book/1513

 山本さんのオフィシャルサイト「ラダック滞在記」そして個人サイトもぜひ見てくださいね。

◎ラダック滞在記:https://ymtk.jp/ladakh/

◎山本高樹:https://ymtk.jp/wind/ 

 ここでスペシャルな情報です。

 なんと山本さんと一緒に行くインド北部の秘境を旅するツアーがあるんです。題して「ラダック&ザンスカール・ツアー」。8月6日から10日までと、8月12日から15日までのふたつのコースがあります。個人ではなかなかたどり着けない秘境を体感できるツアーですよ。詳しくは「アショカツアーズ」のサイトをご覧ください。

◎アショカツアーズ:https://ashokatours.com/5720/

「SDGs〜私たちの未来」特別編〜高校生が社会課題にチャレンジ! 「SDGs QUESTみらい甲子園」〜

2025/5/25 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、「SDGs QUESTみらい甲子園」総合プロデューサーの「水野雅弘(みずの・まさひろ)」さんと、千葉県大会の最優秀賞チーム「WAKE2(以下、ウェイク)」の「草場美海(くさば・みう)」さん、「古澤梨子(ふるさわ・りこ)」さんです。

 以前この番組でもご紹介したことがある「SDGs QUESTみらい甲子園」。これは、高校生が考える社会課題解決のためのSDGsアクション・アイデアコンテストで2024年度は全国23のエリアで開催!

 千葉県大会は去年9月のエントリー開始から、12月の締め切りまでに140を超える応募があったそうです。そして一次審査を経て、ファイナリスト12チームが決まり、プレゼンテーション動画による最終審査で、最優秀賞を含め、6チームの受賞が決定。今年3月20日にそごう千葉店でファイナルセレモニーが開催されました。

 今週は、この番組のシリーズ企画「SDGs〜私たちの未来」の特別編として、「SDGs QUESTみらい甲子園」をクローズアップ!

千葉県だけで144チームがエントリー!

●今週はゲストを3人お迎えしてお送りします。
まずは「未来教育株式会社」代表取締役 、水野雅弘さんです。水野さんは「SDGs QUESTみらい甲子園」総合プロデューサーでもいらっしゃいます。きょうは札幌からリモートでご出演いただきます。水野さん、よろしくお願いします。

水野さん「よろしくお願いいたします」

「SDGs QUESTみらい甲子園」総合プロデューサーの「水野雅弘」さん

●そしてスタジオには2024年度千葉県大会の最優秀賞チーム「ウェイク」のおふたり、草場美海さんと古澤梨子さんに来ていただきました。おふたりは「渋谷教育学園 幕張高等学校」と「昭和学院 秀英高等学校」の合同チームでエントリーし、見事、最優秀賞チームに選ばれています。おめでとうございます。おふたり、よろしくお願いします。

草場さん、古澤さん「よろしくお願いいたします!」

千葉県大会の最優秀賞チーム「WAKE2」の「草場美海」さん、「古澤梨子」さん

●まずは、水野さんにおうかがいします。2019年から始まった「SDGs QUESTみらい甲子園」、改めてその開催趣旨について教えていただけますか?

水野さん「はい、ラジオを聴いているみなさんもご存じの通り、今世界は気候変動や様々な格差、いろんな問題を抱えています。そうした社会課題に向けて、持続可能な社会へ向かうために、高校生たちが未来を切り開く力、これを育んでいこうということで、2019年からSDGsを起点とした社会課題解決策を発表するコンテストとしてスタートしております」

●今年で6回目の開催ということですが、開催エリアは全国で何か所くらいになったんですか?

水野さん「はい、2019年の時は2か所だったんですけど、今は40の都道府県、23のエリアで開催いたしました」

●すごいですね~。こんなに広がるんですね。

水野さん「そうですね。当初は2か所での開催、関西と北海道だったんですけれど、(今は)1万人以上の生徒にチャレンジしていただけるようになりました」

●とんでもない規模ですよね。そして今年3月20日に千葉県大会のファイナルセレモニーが開催されました。千葉県大会へのエントリーの総数は、どれくらいだったんですか?

水野さん「はい、千葉県だけで144チーム676名と、本当に多くの生徒さんに挑戦していただきまして感謝しています」

●今年の応募テーマの中で、今年はこういう傾向があったなというのを感じたりされましたか?

水野さん「これは千葉に限りませんけど、地域の課題で持続可能な、住み続けられる街といったゴール11だったりとか、高校生はエシカルに関心が高いので、エシカル商品に関わるようなゴール12が多かったんですけれど、今年は特に平和であるとか、また千葉県でいうと持続可能な農業を少し高度にレベルアップしたようなアクションアイデアがたくさん見つかりました」

●そして1次審査を経てファイナリストの12チームが選ばれ、それぞれのチームでプレゼンテーション動画を作り、最終的にはチーム「ウェイク」が最優秀賞に選ばれたということですよね。まず12チームに絞るというのも大変だったんじゃないですか?

「SDGs QUESTみらい甲子園」

水野さん「先ほど申し上げた、これだけ多くの生徒さんがチャレンジした中で、いろんな切り口、高校生らしい着眼点、発想力もありますけれども、しっかりと調べて、そしてアクションアイデアコンテストなので、アイデアだけでもいいんですが、実践につなげている。そうした解決策を統合的に見ていくって感じで、審査員は本当に僅差で(評価が)分かれています。『ウェイク』が最優秀賞チームに選ばれましたけれども、そういう意味ではみなさん、どこがいいとか悪いではありません」

「トビタテ! 留学JAPAN」で意気投合!?

●ここから千葉県大会の最優秀賞に選ばれたチーム「ウェイク」のおふたり、草場美海さんと古澤梨子さんにお話をうかがっていきます。

古澤さん、まずおふたりは通っている高校が違うと思うんですけれども、もともと友達だったんですか?

古澤さん「私たちは今高校3年生なんですが、1年前までは知り合いですら、ありませんでした。初めて出会ったのは、文部科学省が主催する留学支援制度の『トビタテ! 留学JAPAN』の事前研修の場で出会いました。全くの他人から、学校が本当にたまたま隣だったことなどをきっかけに意気投合して、後日会うほど仲良くなりました」

●え〜すごい〜! 本当に運命の出会いみたいな感じなんですね。

水野さん、こういう形の混合チームでの応募って結構あるんですか?

水野さん「そうですね・・・それほどたくさんはないんですが、だいたい各地域、ファイナリスト12チーム選ばれる中の1チーム程度が混合チームですね。
 去年も神奈川ですと、中学の時に“高校に入ったら(みらい甲子園に)ぜひ出そうよね!”と言ったチームは、4つの学校が一緒になって、高校1年生で、“デニムのアップサイクルをしよう”といったアイデアを出していただいた、とても印象的なチームがありましたけれども、全国でもファイナリストに1チームぐらいは混合型です」

●学生の時にこんなことをしたら、一生の仲になりそうですよね?

水野さん「本当ですね~。思い出というよりも、そこに持続可能なタネがまかれることで、一緒に未来を作っていく喜びって、きっと(「ウェイク」の)おふたりもそうだと思うんですけれど、一生忘れないんじゃないかなと思います」

●そうですよね~。草場さんにお聞きしたいんですけど、「ウェイク」の場合、チームを組んで「SDGs QUESTみらい甲子園」へ応募しようと誘ったのは、どっちだったんですか?

草場さん「私です! 私たち『ウェイク』はあと3人のメンバーがいて、5人でNGO団体として活動していて、フィリピンの貧困問題に取り組んでいるんです。その中で千葉県大会は、千葉の高校に通っている高校生でチームを組むことだったので、私と梨子のふたりでチームを組みました。

 もともと生理の貧困の活動は、私がひとりでやっていたことだったんですけど、ふたりでチームを組んで応募しようって誘って協力してもらいました。留学先でも一緒に生理の貧困の活動をやったりとか、帰国してからもプレゼンテーションとかを用意して、一緒にコンテストに応募したっていう感じです」

「SDGs QUESTみらい甲子園」

きっかけは、映画『パッドマン』!?

※古澤さん、改めてチーム「ウェイク」の探求テーマについて、説明していただけますか。

古澤さん「プラン名は“生理の1週間を笑顔で! Smile Period Project生理の貧困をなくすには? 発展途上国における布ナプキンの可能性を探る!!“というもので、生理の貧困について取り組みました」

●先ほど草場さんからもテーマが生理の貧困っていうのがありましたが、そもそもこの探求テーマにしたのはどうしてなんですか?

草場さん「私のきっかけは、インド映画の『パッドマン』(*)という映画があるんですけど、それを観た時に世界で多くの女性が生理の貧困で苦しんでいることを知ったんです。

 さらに詳しく調べていったら、生理の貧困が貧困だけでなくて、女性の健康であったり、生理中、学校に通えないといった教育問題、さらにジェンダー平等といった様々な問題に関わっていることを知りました。

 それでたまたま、私がもともと布ナプキンを使っていたので、これを活かしたら生理の貧困を解決できるんじゃないかと思って、「トビタテ! 留学JAPAN」に応募して、実際フィリピンでこの布ナプキンの効果を試してみたいっていうふうに思って、探求テーマを設定しました」

(*『パッドマン 5億人の女性を救った男』
 https://www.sonypictures.jp/he/2352201

フィリピンで普及活動

※チーム「ウェイク」のおふたりは、実際にフィリピンに短期留学して、現地でいろんな活動をしてきたということですが・・・

 古澤さん、どんなことに取り組んだのか、教えてください。

古澤さん「私たち、去年の夏にフィリピンに3週間、留学に行ったんですけど、主に現地では3つの活動をしてきました。ひとつめは“布ナプキンを知ってもらおう!”という活動を行なっていて、その良さや使い方を書いたチラシと共に学校などにお邪魔をして、現地の女の子に(布ナプキンを)紹介しました。

 ふたつめに行なったのは“布ナプキンをプレゼントする!”ということです。紹介をしてからの一歩が難しいんじゃないかな? って、ふたりで話していて、布ナプキンをプレゼントして実際に使ってもらうことで、魅力を知ってもらおうと考えて行ないました。

 そして、3つめは“可愛いを追求した布ナプキンを届けること”です。可愛い布を使った布ナプキンを作り、気に入ってもらえるようにしました。というのも気持ちが沈みがちな生理中でも笑顔で過ごせるようにしたいというのが、私たちが大事にしたいことのひとつだからです。私たちは以上のような取り組みをフィリピンで行なってきました」

●実際に同じくらいの年齢の女の子たちにお話を聞いたということですよね? どういった反応がありましたか?

草場さん「そうですね。生理中にどういうふうに過ごしているかを聞いたところ、1日にナプキンを交換する頻度が2回か3回って言ってました。それは全然足りていないと感じて、布ナプキンを紹介したら、これがあれば洗って繰り返し使えるので、生理のたびにナプキンを買う必要がなくて、すごく金銭的に助かるというコメントがたくさんもらえました。

 実際使った感想とかも聞いたりしたんですけど、“漏れちゃうかなって思ったけど、思ったより漏れなかった”とか、あとは“すごく肌触りが良くて、快適でよく眠れた”という感想をたくさんもらえて嬉しかったです。

 あと、私が思っていなかった予想外の反応だったのが、“環境にすごくいいね”というコメントをたくさんもらって、調べたらフィリピンってプラスチックゴミの流出量が世界で2位とか3位なんですね。結構、今問題になっているみたいで、ナプキンも実際、プラスチックゴミの(順位としては)ペットボトルとか、いろいろあるんですけど、5位がナプキンって言われていて、ゴミ問題にもなっているので、布ナプキンは、そういう点でもメリットがあるんだなと感じています」

布ナプキン

●すごくいろんないいことがあるんですね。きょうは実際に布ナプキンを持ってきてくれているんですよね。本当に可愛いですよね! やっぱりこの可愛さやデザインにも思いを込めたんですか?

草場さん「はい、生理中は精神的に不安定になってしまったりとかすると思うので、できるだけ明るく生理の期間を過ごせるようにということを考えて、可愛い布を選んで、特に和風の柄を選んで持って行ったのですが、その和風柄で作ったナプキンがすごく人気で、たくさん手に取ってくれました」

●水野さん、こういった形で過去に実際に海外に行って調べてきて、発表するというケースはあったんでしょうか?

水野さん「そうですね。おふたりと同じように、例えばカンボジアに高校生ボランティアとして行ったりとか、タイではいろんな貧困を見てきた中で、それを応援していこうとした高校生がいました。
 数は多くないんですけれど、行かなくて海外のことを考えるチームと、行ってそこからヒントを得て、日本でそこを支援していこうというチームは、ほかにもたくさんあります。

 同じように生理の貧困に関しても、ちょうど今年、青森の大会でもインドの女性たちの貧困(問題を解決)にしようということで、自分たちが作って、現場には行ってないですけど、それを支援しているオーストラリアのNGOに寄付しようということで、学校で寄付を集めたりとか、そういうことありました。
 また、東海地区だったかな? そこも高校生たちが地元の繊維会社から布を集めて、それで布ナプキンを作って送ったというそんな事例があったんですね」

●すごい! 高校生でも世界にしっかりと目が向けられているって、本当にかっこいいですよね。水野さん、このチーム「ウェイク」が千葉県大会の最優秀賞に選ばれたのは(理由が)いっぱいあると思うんですけれども、どの点が高く評価されたんでしょうか?

「SDGs QUESTみらい甲子園」

水野さん「先ほどのように、ほかのエリアでも同じようなテーマを扱っているのはあるんですけど、このおふたりが素晴らしいのは、統合的解決ですね。生理の貧困だけではなくて、しっかりと調べてアンケートまで取って、フィリピンで実践しながら自分の学びにしていく。

 それは生理の貧困を解決することのみではなくて、健康、そして海洋プラの問題、さらに教育と多面的に・・・ご存じの通りSDGsは環境、経済、社会の調和を持って解決する、というところを高校生がしっかりと捉えていて、それがおそらく実行委員のかたがたにも、いちばん評価が高かったところではないかなと思います」

●実際に行動するのは、なかなか簡単にできることじゃないですよね。

水野さん「そうですよね」

●チーム「ウェイク」のおふたりは、今後もフィリピンの女の子たちの支援をするような活動を行なっていく予定なんですか?

草場さん「はい! 私たちは先ほどもお伝えした通り、5人でNGO団体『ウェイク』の活動を行なっていて、生理の貧困に限らず、貧困問題であったり、教育格差といった問題に対して、例えば、学校で文房具の寄付を集めてフィリピンに送ったり、SNSで貧困問題についての発信を行なったりというような活動をしています。

 これからもそういう活動を続けていく予定ですし、生理の貧困に関しても、大学生になったら、国内外問わず何か活動していきたいな。特にフィリピンにいつかもう1回行って、去年は(布ナプキンを)配るだけだったんですけど、次は作り方を教えて一緒に作れたらいいなと思っていて、いつかそういうことも実現できたらいいなと思っています」

全国イベント、関西万博で開催!

※水野さん、「SDGs QUESTみらい甲子園」の今後の展開なんですが、各エリアの最優秀賞チームが集う全国イベントは、いつどこで開催されますか?

水野さん「はい、まず6月14日にオンラインで全国交流会、全23チームのメンバーに入っていただきます。そこで交流ワークショップを行なったのち、10月8日、今まさに開催されている大阪関西万博にサステナドームというCO2を吸収するコンクリートでできたドームがあるんですね。そこに各チームのリーダーに集まっていただいて『BEYOND 2030 』、2030年以降の未来に向けて、お互いが発表していくということで、交流の時間を設けようと計画しております」

●この全国イベントでは、それぞれのチームがプレゼンテーションを行なう形なんですよね?

水野さん「そうですね。自分たちがきょうも『ウェイク』のおふたりがこの生理の貧困解決をしよう! ということが、2030年以降もPeople, Planet, Prosperityといったアジェンダ2030の5つのPから3つのテーマ、Pに別れて発表していただく形で、『ウェイク』はおそらくPeopleの世界、もちろんPlanetにも関係しますけれど、一応チームに別れてプレゼンテーションを行なっていただきます」

●その後、最終的には全国の最優秀賞チームの中からグランプリが選ばれるのですか?

水野さん「いや、実はグランプリは賛否両論いろいろありまして、どこが1位だというのはオリンピックのように、なかなか数字で、スポーツのように決められないんですね。ですから先ほど申し上げた、Planetというテーマでセッションするチームから1チーム、そしてProsperity、未来への繁栄というアイディア、特に日本の場合は地域の課題を解決してくれるチームからひとつ。

 そしてPeople、いわゆる格差だとか平等だとか貧困だとか、そうしたところのアイディアの中から1チーム、だから3つのPからの賞と、そして企業賞、応援していただいている企業を合わせて、5つの賞を決める予定です。まだ委員のかたを含めて検討していますけど、5つ(の賞を)ご用意しようかなという感じで計画しております」

●そういう形式になるかもしれないということなんですね~。

水野さん「はい、だから楽しみにしてください!」

●そうですね。本当に楽しみです。チーム「ウェイク」のおふたり、全国イベントに参加することになりますが、意気込みや楽しみにしていることってありますか?

千葉県大会の最優秀賞チーム「WAKE2」の「草場美海」さん、「古澤梨子」さん

草場さん「はい、まずは全国の最優秀賞チームということで、様々な素晴らしいアイデアが集まってくると思うので、そういうアイデアについて知って、あとはほかの高校の生徒の人ともたくさん交流ができたらいいなと思っています。
 あとは個人的にはフィリピンのパビリオンがあるって聞いているので、そこも見に行けたらいいなと思っています」

●水野さんからチーム「ウェイク」のおふたりにエールをお願いします。

水野さん「フィリピンの経験がおそらく、すごく未来へのタネがおふたりの中で育まれていて、大学で何しようか、大人になったら何しようかって・・・。ここで探求を通じた経験が、きっと自分たちの素晴らしい未来を切り開く。そして生きていくことに対しての喜びや学びを感じていると思うんですね。

 さらにNGOを作っているわけですので、世界に貢献していってほしいなと思います。万博という機会の中で世界のみなさんに見ていただけるし、全国の学校ともつながりますから、それを機会に自分たちの糧にしてリーダーシップを取っていってください」

●どうですか、おふたり?

草場さん、古澤さん「ありがとうございます! 嬉しいです! 頑張ります!」

自分の未来を切り拓け

※水野さん、次の2025年度の「SDGs QUESTみらい甲子園」はいつ頃、エントリーが始まりますか?

「毎年と同じように9月の募集開始を予定しています。千葉県大会も9月から始まって、たぶん12月に締め切るということで進めていく計画です」

●この番組を聴いてくださっている高校生、高校の先生、そして高校生のお子さんがいらっしゃる親御さんに向けて、総合プロデューサーからひと言いただけますか。

「僕たちの時代と違って、今の高校生が社会課題に向き合っていくというこの機会は、多くのアンケートの中から明確なのは、自分の進路が明確になった、ある意味でキャリアにつながるということなんですね。

 きっと『ウェイク』のおふたりも大学生になったら、フィリピンのために将来、これをやっていこうっていう(目標がある)。これはものすごく素晴らしいことなので、そういった機会に自分の発見、自分の未来を切り拓くこと。

 そして今、世界は分断したり様々な課題に直面しているけど、みなさんが未来を作るチャンスなので、ぜひ学習を超えて自分の未来を作り、世界を変えていく力になっていただけるよい機会だと思うので、ぜひ挑戦してもらえたらなと思います。よろしくお願いします!」


INFORMATION

 2024年度の集大成、各エリアの最優秀賞チームが集う全国イベントは、10月8日に大阪・関西万博の会場内にある「サステナドーム」で開催されます。千葉県大会の最優秀賞チーム「ウェイク」が新たな賞に輝くのか、ぜひご注目ください。

 そして2025年度のコンテストは、例年と同じく9月からエントリーが始まるとのことですので、高校生のみなさんにぜひチャレンジして欲しいなと思います。応募方法など、詳しくは「SDGs QUESTみらい甲子園」のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎SDGs QUESTみらい甲子園:https://sdgs.ac

 草場さんと古澤さんのほか、全部で5人の高校生によるNGO団体「WAKE2(ウェイク)」もぜひ応援してくださいね。「WAKE2」ではフィリピンの子供たちの現状を知って欲しいということで、特にインスタグラムでの情報発信に力を入れているとのこと。

◎Instagram:@wake2_gram

「僕は本当にシジュウカラになりたい!」〜世界で初めて鳥の言葉を解き明かした研究者、ついに出演!

2025/5/18 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、動物言語学者、東京大学・准教授の「鈴木俊貴(すずき・としたか)」さんです。

 鈴木さんは1983年、東京都生まれ。立教大学大学院の博士課程修了後、東京大学大学院や京都大学の助教を経て、現職の東京大学・先端科学技術研究センターの准教授として活躍。世界で初めて、鳥の言葉を解明した研究者として、国内外で大変注目されています。そして今年出した初めての本『僕には鳥の言葉がわかる』が10万部を超えるベストセラーとなっています。

 この番組も、以前から大注目している研究者のおひとりで、念願かなって番組にお迎えすることができました。

 もともと動物学者になりたかった鈴木さんが、なぜ鳥の言葉を研究するに至ったのか・・・それは、卒業研究のテーマを探していた大学3年生の時に、シジュウカラがほかの鳥と比べて、いろんな鳴き方をすることに気づいたそうです。

 そしてシジュウカラをじっくり細かく観察し、状況によって鳴き声を使い分けていることに気づき、これはそれぞれの鳴き声にきっと意味がある。もしかしたら、言葉になっているのかも知れないと、ひらめいたそうです。

 今回は鈴木さんが発見したシジュウカラの言葉と、それを理解するほかの鳥たちとの関係のほか、これも大発見! シジュウカラのジェスチャーについてもうかがいます。

☆写真提供:鈴木俊貴

鈴木俊貴さん

シジュウカラ語「ジャージャージャー」の意味は?

※研究のメイン・フィールド、軽井沢の森にシジュウカラ用の巣箱を40個ほど設置して、繁殖と子育てを時間をかけて観察されたそうですが、そこで大発見につながる事件があったんですよね?

「そうですね。ありました! 覚えているんですけども、2008年の6月10日の午後1時24分、その時はマイクを持って、レコーダーを持って、鳥の声を録音していたんです。
 ある巣箱の前に行った時、聴いたことのない声が聴こえてきたんですね。それが“ジャージャージャー”という声で、今でも鮮明に覚えています。これは何が起きているんだろうと思って・・・でも鳥の声だなと近づいて行ったら、やっぱりシジュウカラが鳴いていた」

写真提供:鈴木俊貴

(*放送では、ここでシジュウカラの鳴き声「ジャージャージャー」を聴いていただきました)

「でも、こんな声を聴いたことなかったんですね。よくよく観察すると巣箱の下に、アオダイショウっていうヘビが迫っていることにも気づいたんです。あっ! これ、ヘビが来ているから、”ジャージャー“って鳴いているんだって思ったんですね。それまで朝から夕方まで毎日、シジュウカラの声を録音していたのに、そんな声を聴いたことなかったから、これはひょっとしたら、ヘビっていう意味になっているんじゃないかなって思ったんです。

 そこから、ひょっとして、これ、ヘビと、もし言っているんだったら、めちゃくちゃ実は大発見じゃないの? ってことにも気づいて、それを証明するに至ったんですよね。

 というのも、動物の鳴き声って、これまでに学者はどう考えていたかというと、単なる感情の表れだって考えていたんですね。例えば、怒っているとか怖いとか嬉しいとか、そういった感情が表れているだけ。確かにそういう動物たくさんいるかもしれませんが、なんかシジュウカラの場合は違うように見えたんですね。

 要するにヘビを見つけて怖くて、“ジャージャー”って鳴いているんじゃなさそうだと・・・。ヘビの時は“ジャージャー”だし、タカの時は“ヒヒヒ”だし、ネコやカラスの時は“ピーツピ”って警戒する。あっ!これ、ただ単に怖いとか、そういった気持ちが表れているんじゃないんじゃないのって思ったんですね。

 それで、録音した声を聴かせてみるという実験をすると、どうなったかっていうと、あたかもヘビを探すかのように、“ジャージャージャー”って聴いたシジュウカラはまず地面を見たんです。でも地面にヘビなんて這ってない。僕がスピーカーから聴かせているだけだから。そうすると今度は、ヘビがいそうな藪の中を見に行ったりとか、もしくは巣箱の中にもう(ヘビが)入っちゃったんじゃないだろうかって、ビクビクしながら中を覗いたりする。

 これは絶対ヘビと言っていて、“ジャージャー”って声を聴いたシジュウカラからは、おそらく頭にヘビを思い描いて探しているはずだって思った。もしそうだったとしたら・・・すごいですよね。

 だって言葉って言えるじゃないですか。ただ感情が伝わるだけだったら、怖いって恐怖心が伝わるだけだったら、頭にヘビなんてイメージできないはずですよね。だけど、ちゃんとイメージしているようなふるまいをした。それをちゃんと確認するためにもうひとつ実験をしました。

 どうするかというと、“ジャージャージャー”って声を聴かせた状態で、聴かせるとシジュウカラはヘビを探すような仕草をするんですけども、その仕草をしている時に落ちている20cmほどの木の枝に紐をつけて、ちょっと引っ張ってみた。そんな木の枝を普段は気にしないんですけれども、“ジャージャージャー”って聴かせた状態で、その枝を動かすと(シジュウカラが)確認しに近づくことがわかったんです」

●なるほど! ヘビかもしれないって思ったということですね?

「そうです! 人間の場合も言葉って意味を伝えるだけじゃなくて、見間違いを引き起こすような作用があって、例えば普通の写真でも、ここに顔があるよって言われると心霊写真に見えたりする。それは顔っていうのがちゃんと、目と鼻と口のある顔だっていうふうな視覚的なイメージを頭に思い描いて、それを当てはめて見間違えてしまう。

 同じようなことがシジュウカラにもあることがわかって、ってことは、やっぱり“ジャージャージャー”って聴こえる声は、ヘビを示す単語だってことがようやくわかった。実はそれが人間以外の動物で初めて、概念につながった言葉があることを証明した研究になったんですね」

シジュウカラ
シジュウカラ

(編集部注:ここでシジュウカラがどんな野鳥なのか、ご説明しておくと・・・体の大きさは14.5センチほど、体重は15グラム前後の、いわゆる小鳥。見た目の特徴は、白いほっぺたに、胸もとに黒いネクタイのような模様。日本全国に分布していて、市街地や公園などでもよく見られます。

 春先に「ツツピー・ツツピー」と、よく通る声で鳴くので、きっと耳にしたことがあると思います。食べるものは、草木のタネや昆虫などで雑食性。春からちょうどこの時期が繁殖のシーズンで、木の穴などに巣を作り、オスとメスが共同で8羽前後のヒナを育てるそうですよ)

シジュウカラ語には文法がある!?

※先ほどのお話でシジュウカラには言葉があることはわかりましたが、鈴木さんは、シジュウカラは鳴き声を組み合わせて文を作ることができると本に書いています。これはどういうことなんですか?

『僕には鳥の言葉がわかる』

「これは実は観察を始めて2〜3年で、すぐ気づいたことなんですよね。当たり前のように彼らはやっているなと・・・。具体的には、例えば“ピーツピ・ヂヂヂ”って声があるんですけども、“ピーツピ”って単独でも使うことがあって、それはカラスとかネコとか何らかの危険な動物が近くにいた時とかに、“警戒しろ! 注意しろ!”みたいな意味で“ピーツピ”って鳴くんですよね。

 “ヂヂヂ”って声は、餌を見つけた時に仲間を呼んだりするための“集まれ”という意味で、それを組み合わせることがあって“ピーツピ・ヂヂヂ”っていう決まった順番に組み合わせるんですね。

 それをよくよく観察してみて、どういう時やるかというと、天敵を群れを成して追い払いにいくことがあるんですよ。よくやるのがモズっていう肉食性の鳥で、20cmぐらいの鳥なんですけれども、スズメとかシジュウカラとかを襲って食べちゃうんですよね。

 でもシジュウカラって結構勇敢なので、モズを見つけると“ピーツピ・ヂヂヂ、警戒して集まれ!“って言って、仲間を呼び集めて、みんなで羽をパチパチしながらモズに襲いかかる。そうやって自分たちの棲んでいる森からモズを追い払おうとするんですよね。その時の号令が“ピーツピ・ヂヂヂ、警戒して集まれ!”っていう二語文だって気づいたんです」

(*放送ではここでシジュウカラの鳴き声「ピーツビ・ヂヂヂ」を聴いていただきました)

●例えば、“ヂヂヂ・ピ-ツピ”ってみたいに語順をひっくり返すと、どうなるんですか?

「そうなんですよ! それも実験してみたんです。語順をひっくり返してスピーカーから聴かせてみると、実はシジュウカラは意味がわからなくなっちゃうんです。

 要するに“ピーツピ・ヂヂヂ”って正しい語順で聴こえると、シジュウカラは警戒して近づいて集まってきて、モズがいたら追い払うんだけれども、“ヂヂヂ・ピ-ツピ”って語順をひっくり返して聴かせてしまうと意味が伝わらないらしくって、追い払う行動にいかないんですよ、ってことは、彼らには文法があるんじゃないかってこともわかってきた」

●そういうことなんですね~。ちなみにシジュウカラは、ほかにもこういった文、ふたつの鳴き声を組み合わせることってあるんですか?

「はい、実はたくさんあります。たとえば“チッチ、ヂヂヂ”とか“ヒッヒッヒ、ヂヂ”とかいろんな組み合わせがあって、これまでに録音できている組み合わせの文章のパターンは200パターン以上あるんですよね」

●そんなにあるんですね~。

「そんなにあるんです。おそらく人間以外で、最もちゃんと組み合わせて文章を作っている動物が、今知られている中だとシジュウカラなんじゃないかなと思います」

お互いの言葉を理解する鳥たちの世界!

コガラ
コガラ

※シジュウカラやコガラ、ヒガラなどの野鳥が群れを作るというのを聞いたことがあります。それはどうしてなんですか?

「これはおもにふたつ理由があります。ひとつは、一緒に餌を探して見つけたら、みんなで共有するということをします。例えば、シジュウカラがいい餌を見つけると“ヂヂヂ”って鳴く。そうするとヤマガラ、コガラ、ヒガラなどが集まってきて、みんな近くで食べるんですよね。
 ヒガラが気づかなかったような餌にも、シジュウカラが気づくかもしれないしっていうふうに、お互いちょっと目の付け所が違うから、餌を見つける効率がひとつ上がります。

 それだけじゃなくて、最も大きな要因は、実は天敵に対する対策なんです。鳥たちは群れをなして生活するんですけれども、特に秋から冬にかけては、いろんな種類の鳥が集まって『混群』、混ざる群れと書いて、混群(こんぐん)と読むんですけれども、ひとつの群れを作って過ごす。それは何故かと言うと、シジュウカラもコガラもヤマガラも混群のメンバーみんなが、ハイタカやオオタカっていう猛禽類に食べられてしまうんです。

 誰かがそれに気づけば、例えば、タカが来たという、シジュウカラだったら“ヒヒヒ”という警報を鳴らして、みんな一斉に藪に逃げて行ったりすることができる。つまり、群れで過ごしていたほうが誰かが天敵に気づきやすくなるし、誰も気づかなかったとしても、自分が襲われるリスクが確率的に減ります。だから鳥たちは一緒に過ごしているのです。

 その中でいちばん大事なのは鳴き声の理解なんです。一緒に過ごしていてもお互いの言葉の意味が分からなければ、群れなすことってあんまり意味がないんですよね。効果が大きくなくて・・・。誰かが餌を見つけて鳴いたら、そこに集まろう。誰かがタカを見つけて鳴いたら、この声はタカだっていう意味だ! みんなで逃げなきゃいけないんですよね。

 そのためには、ほかの種類の鳥の鳴き声の意味とかまでお互いにわからなきゃいけない。そういった世界もあることがわかってきて、実は鳥たちは種の壁を越えて、お互い会話ができるってこともわかってきたんです」

●へぇ~! つまりシジュウカラの“ヂヂヂ”というのが、“集まれ!”という意味であることがわかっているということですか? ほかの種の鳥も?

「そうです! だからシジュウカラが“ヂヂヂ”って鳴くと、シジュウカラが集まれって言っている。餌かなんかを見つけたのかな? って、ヤマガラやコガラとかほかの鳥も集まる。

 コガラも集まれという声があって、それは“ディディディ”という声なんですよね。全然響きが違うんだけれども、シジュウカラもわかっていて、お互いに理解して、餌をみんなで見つけて、みんなで敵から身を守って暮らしている。それが本当に、ある意味、鳥たちの言葉の世界だったのですね」

ヤマガラ
ヤマガラ

羽をパタパタ、お先にどうぞ!?

※もうひとつ、本を読んで驚いたのが、シジュウカラのジェスチャーなんですが、これはどういうことなんでしょう?

「これまでは言葉を持つのは、人間だけだって考えられてきていて、実はジェスチャーも人間とか類人猿にしかないんじゃないの? っていうふうに研究者は考えていました。
 というのも、赤ちゃんの発達を見てみると、小さい時にまずジェスチャー、指差しのジェスチャーとかが発達してきて、そこに言葉がくっついてくるという、そういった言葉の発達の仕方があるんですね。ジェスチャーっていうのは言葉の起源であって、チンパンジーとかボノボぐらいにまでにしかないんじゃないのってみんな考えていた。

 それはなぜかと言うと、人間やチンパンジー、ボノボって二足で立つことができる動物ですよね。二足で立っている間、両手両腕が自由になる。その腕の動きを使って、手を振って“バイバイ”とか親指上げて“いいね!”とか、ジェスチャーするわけですね。

 でも、鳥も枝に留まっている時、地面にいる時って、二足で立っていて翼が自由ですよね。私はシジュウカラの翼の動きに興味がいって、観察していて気づいたんです! 翼をパタパタって小刻みに震わせると、“お先にどうぞ!”という意味になっていると・・・」

●お先にどうぞ!? へぇ~、それっていつ(シジュウカラは)使うんですか?

「例えば、ちょうど今の時期、5月くらいはシジュウカラは子育てシーズンなんですね。シジュウカラがどういうところに巣を作るかというと、木の穴とか巣箱の中とか、ちょっとした空洞なんです。入り口が狭いんですよね。

 オスとメス二羽でヒナに青虫を運んで子育てをするので、一緒に巣の前に来ちゃうと、どっちが先に入ろう!? っていう状況になるんですね。その時に片方がパタパタっとやると、もう片方が先に(巣に)入る。

 人間の場合も“お先にどうぞ!”ってドアの前でやりますよね。手のひらを見せて“どうぞ!”って。そうしたら、どうぞ!ってやられたほうが先に入るんですけども、それと同じようなことをシジュウカラもやっていることがわかったんです。ジェスチャーの発見も実は世界で初めてです」

●そうだったんですね!

「そうなんです! 鳥類学者も翼は飛ぶためのものだよねって思い込んでいたので、まさか翼の動きでメッセージを伝えて、ジェスチャーになっている。そんなこと誰も考えていなかったんですよね。だからよくよく観察してみると、本当にいろいろな発見が次々にあって、まだそれが毎年毎年、新しい発見があるっていうのが、僕はずっと続いているんですけども・・・」

新しい学問「動物言語学」

※人間だけが言葉を持つ特別な存在というのは、間違いだったと言っていいんですよね?

「そうですね。人間だけが言葉を持っていて、動物の鳴き声は感情だというふたつの切り分け方は、僕は間違っていると思います。一方で、人間みたいに動物も喋っているんだっていう解釈も間違っていると思います。要するに童話とかにあるように、人間みたいに喋っているんだって擬人化して捉えてしまう。それも実は間違いです」

●それも間違いなんですね?

「はい、人間には人間の言葉があるように、シジュウカラにはシジュウカラの言葉があって、共通点もあれば、相違点違いもあるんですよね。そうやって、ひとつひとつ何が似ていて、何が違うのかっていうことをクリアにしていくことが、言葉ってどうやって生まれたんだろう。人間の言葉ってなんなんだろう。そういうことを考える上でも、とても大切なことだと思います。

 でも実は研究者はずーっとそれやってこなかった。だから僕はそれを『動物言語学』という新しい学問として世界に広めていこうと頑張っているんです」

●動物言語学を牽引する立場として、今後どういった研究に力を入れていきたいですか?

「今やっていることは、研究室の学生と一緒にシジュウカラ以外の動物に対しての動物の言葉の研究をしています。例えば、モモンガとかネズミとか、あとツバメとかスズメとか、そういった哺乳類とか鳥類の言葉の研究を進めています。

 自分としてはやっぱりシジュウカラとかその仲間、コガラやヤマガラの研究を続けているんですね。最近興味を持っているのは、海外にも実はシジュウカラの仲間がいて、外国のシジュウカラはどういう会話をしているんだろう・・・そういうことも実は、スウェーデンとかスペインの森の中に巣箱をたくさんかけて、それで向こうの研究者と一緒に彼らの言葉を調べて、国によってどう違うのかとかを解き明かしているところです」

●なるほど・・・。最後にもし鈴木さんがシジュウカラになれたら、何をしてみたいですか?

「シジュウカラにまず、なりたいんですけど、僕は本当に・・・!(笑) やっぱり研究していると、シジュウカラはこういう時にこう考えているなとか、わかってくる気がする。だけど、それってシジュウカラにならないと、わからないところとかあるんですよね。

 人間もそうじゃないですか。あの人は僕のことをこう思っているに違いないと思っても、本当にそうなのかはわからない、その人にならないと・・・。まず、シジュウカラになりたい!

 そして、シジュウカラになってやりたいことっていうのは、普通にシジュウカラの世界で暮らしてみたいっていうのもあるし、あとは誰かに実験されたいですね(笑)。僕がやっていた実験を、僕がシジュウカラになった状態で経験した時、例えば、本当に枝を見間違えてしまうとかね。“ジャージャー”って聴いたら、枝とヘビを見間違えて近づいちゃうみたいな! 語順をひっくり返した時にやっぱ変だな? と思うのかどうかとかね。

 そういったところは、シジュウカラになんなきゃわからないところが実はあるんで、なってぜひ実験されたいです。いろいろ語順をひっくり返した声とかを聴いてみたいなと思います」

●鈴木さんが実験された鳥たちは多分幸せだったでしょうね。

「まあ幸せかわかんないんだけど(笑)、僕はできるだけそういった鳥たちに感謝したいなと思っていて、例えば、学会発表の謝辞とかに必ず“何羽の鳥に感謝します”っていうことを入れたりします」


INFORMATION

『僕には鳥の言葉がわかる』

『僕には鳥の言葉がわかる』

 初めての著書は、鈴木さんが多くのかたと、シジュウカラの世界を共有したくて書いた本だそうです。シジュウカラの言葉などをどうやって調査・研究し、立証したのか、とても興味深い内容に溢れています。また、鈴木さんの人となりがわかるエピソードも満載です。

 本の巻末には特別付録としてQRコードが載っていて、シジュウカラの鳴き声を聴けるようになっています。緑地や公園、街中で、賢くたくましく生きているシジュウカラに気づくと人生の楽しみになると、鈴木さんはおっしゃっていましたよ。

 小学館から絶賛発売中! 詳しくは、出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎小学館:https://www.shogakukan.co.jp/books/09389184

◎小学館 特設サイト:https://www.shogakukan.co.jp/pr/bokutori/

 鈴木さんが国際的な学会でも提案され、作った新しい学問「動物言語学」、2年前に、東京大学・先端科学技術研究センター内に「動物言語学分野・鈴木研究室」が開設されています。研究内容などはぜひオフィシャルサイトを見てください。

◎動物言語学分野・鈴木研究室:
https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/research/suzuki_lab.html

街の木を木材として活用する〜「都市林業」の可能性

2025/5/11 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、「都市森林株式会社」の代表取締役、そして一般社団法人「街の木ものづくりネットワーク」の代表理事「湧口善之(ゆぐち・よしゆき)」さんです。

 東京生まれの湧口さんは、大学で西洋美術史を専攻。卒業後は建築設計事務所に勤務する傍ら、世界各地を訪れ、建築や都市を研究。その後、木造建築に取り組み、岐阜県高山に移住し、木工や林業を学び、東京に戻ってからは街の木に着目、都市林業に取り組んでいらっしゃいます。

 そして先頃『都市林業で街づくり〜公園・街路樹・学校林を活かす、循環させる』という本を出されています。

 きょうはそんな湧口さんに、都市林業の課題や可能性のほか、「街の木ものづくりネットワーク」の活動などうかがいます。

☆写真協力:都市森林株式会社

「湧口善之」さん
写真協力:都市森林株式会社

街の木を木材に

※まずは、本のタイトルにもなっている「都市林業」、初めて聞く言葉なんですが、これはどういうことなのか、教えてください。

「都市林業っていうのは、都市で林業をしようっていうことだと捉えられがちなんですけれども、山の林業とは全く違うというか・・・。
 これまで街の木は、街路樹だったり庭木だったり、育てているんですけれども、伐ったら、ほとんどごみ同然というか、伐った瞬間、目の前からパッとなくなってくれたらいいのになっていうような感じだったんですよね。

 植木屋さんや伐採屋さんとかも伐ると、それをお金を払って捨てに行くのが普通のことだったんですけれども、そういうものを木材として、あるいは他の資源としてでも、もっと活用することができないかなっていうのが、都市林業の簡単な説明になります」

●なるほど。湧口さんがこの都市林業に目を向けるようになったのは、何かきっかけがあったんでしょうか。

「もともと僕は建築をやっていて、そこで木造建築とかやっていたんです。そういう中で建築に関わっている人って、みんなそうだと思いますけど、ずっと壊されないで長く残って、ゆくゆくは文化財とか世界遺産とかになるようなものを作りたいなって、みんな思っていると思うんですね。それを言うか言わないかはちょっと別としても・・・だけど、なかなかそういうことが、今できていないなっていうのがあって・・・。

 で、なんでだろうって、ずっと考えていた時に昔は、今ここにあるもので作るのが当たり前だったから、そこに木があったら木で作るし、石があったら石で作るし、草があれば草で作りますよね。もし水と氷しかなかったら、水と氷を工夫して、イグルーみたいなものを作ってみたりとか・・・。

 ああいうのってその土地ならではの個性とか、そういうものが自ずと備わっていて、そしてそこの人たちにとっても、すごく大事なものだっていうか、アイデンティティの一部みたいになっていっていると思うんですけど、今の時代って素材生産の仕組みとか物流も変わっているし、そういうことがもうなくなっちゃっているんですよね。

 だから、もしお庭に大きな木があっても、これを使ってテーブルを作ろうとか、お家を建て替えた時に柱にしようとか、そういうことをするのはすごく不合理なことになっちゃっているっていうか、めちゃくちゃお金がかかる話になっていたりとか・・・。で、そうやってできたものに、なかなか愛着も抱けなかったり・・・。

 なので、かっこいい建築はいつも作られているんだけど、数十年経ったら壊されちゃうみたいなことが続いていて、そこをなんとかできないかなっていうところから素材への探究というか、そういうのが始まっています。

 で、街の木は現状、木材にすることはやっぱり合理的ではなかったから、みんな使っていなかったんだけど、それを上手くいろんな工夫をして合理的にできたならば、面白いことになるんじゃないかなっていうのが、その発想のきっかけなんです」

(編集部注:湧口さんによると、家庭から出る、樹木を剪定した枝などは燃えるゴミとして処理されますが、業者が伐った公園の樹木や街路樹は、リサイクルすることになっていて、堆肥や製紙用のチップ、バイオマス用の燃料として活用されているそうです)

都市森林は多種多様!?

写真協力:都市森林株式会社

※これまで街路樹や公園の樹木が「木材」として活用されなかったのは、どうしてなんですか?

「それは木材用の原木として、良くないからなんですよね。この話をする時、いつもこの話をするんですけれども、山の木でもヒノキとかスギとか、あれは人工林で畑みたいなものだから、ちょっと違うんですけれども、広葉樹の場合はだいたい山で100本、木を伐ったら5本くらいしか木材にならないんですよ。そのくらいしか木材用の原木としていいものって山でもないと・・・。

 街の木はどうかっていうと、山の木よりもっと悪いんですよね。やっぱり剪定をすごくしちゃっていたりするし、そうすると樹形も歪んでいるし、あとは木が弱っているから腐っていたりとか、いろいろと良くないことがあって・・・。

 そういうものを木材にすること自体は、お金さえかければできるんだけど、そうやってお金をかけて材料を得ても、それで例えば木工とか大工さんとか工務店とか、そういう木を扱うところが仕事になるかっていうと、まあ普通はならないから・・・。
 なので、特別に思い入れがある木です、思い出の木なんですとか、記念の木なんですとかっていうと、それにすごくお金をかけて、何かするっていうことはあったと思うんですけれども、なかなか普通には活用できないっていうのがあったわけです」

●山の林業はスギやヒノキ、カラマツなどの針葉樹で木の種類が少ないイメージがあります。一方で、都市の樹木は街路樹にしても公園の木にしてもたくさんの種類があるように思えるんですけれども、そのあたり種類についてはどうなんでしょうか?

「ここがすごく都市の森、私はそれを『都市森林』なんて呼んでいるんですけれども、都市のいろんな木々の面白いところで、ありとあらゆる樹種がありますね。

 で、自然の、在来の木もありますし、その在来の木も例えば、東京なんかでも、本来はもっと南のほうに生えていた木をこっちに持ってきたものがあったりとか、園芸的に改良というか、桜もいろんな種類がありますけど、そういうものもあったり・・・。あるいは海外の木もすごくたくさん植えられているし、本当にいろんなものがあるなっていうのは、面白いところでもあります」

●そうすると都市林業では、そういった多種多様な樹木も活用していこうということなんですか?

「それはもうなんでも活用しますね。大きな木だけじゃなくて小っちゃな木とか、こんなものを木材にするって、そもそも思わないようなものまで、なんでもやってみます」

東本願寺、みんなの物語

写真協力:都市森林株式会社

※湧口さんは、研究のために国内外の建築を見てまわったそうですね。これまで見た中で、特に感銘を受けた建築物はありますか?

「印象に残った建物はいろいろあるんですけれども、ひとつ紹介すると、京都の東本願寺がとても印象に残っているというか感銘を受けたというか・・・。
 どこがっていうのは、何もそういう話がなくても、とにかくすごい建物ではあるんですね。みなさん行かれるところだと思うんですけれども、ものすごく大きなケヤキの木を無数に使って作られています。

 東本願寺は明治時代に再建しているんですけれども、再建した時に日本中から、それこそ東北からも四国からも、みんな村中総出とか町中総出で、ケヤキを伐り出して運び出して・・・。

 運び出す時に使ったロープ、それも女性の長い髪の毛と麻の繊維を編み込んで、直径が30センチもある、ものすごいロープが展示されているのを見たことがあるんですけど、そういうものを作って、そしてみんなでその木を集めて、そして東本願寺に(日本中から木が)集まってきて作られたっていう、そこにはやっぱりみんなの物語が、ものすごく乗っかっているだろうなと思います。

 都市林業でやりたいのは、そういうことなんだよねっていうのがありますね。みんなで木を育てて、それを活用することにも、みんなで関わって、そしてひとつの大事な建物ができあがったら、それはみんなにとって大事なものになるし、200年経っても絶対壊したくないよねってなるんじゃないかなっていう、そういうことなんですけど・・・」

街の木ものづくりネットワーク

※「都市森林株式会社」とは別に、一般社団法人「街の木ものづくりネットワーク」を設立したのは、どうしてなんですか?

「やっぱり街の木と言った時に、それに携わるのは仕事の文脈で携わる人ばっかりじゃないと思ったんですよね。やっぱり一般の人たちが・・・仕事でやっている人であっても、仕事の文脈ではお金がいただけないからできないこともあると思うんですよ。

 だけど、これをやったらみんなすごく喜ぶんだけどな〜とか、そういうなかなかプロの仕事としては成立しづらいことを、非営利であればできることもあると思うし・・・。林業ができるとか木工ができるとか、そういうことじゃない普通の人たちは、それこそ小さな子供たちでも街の木に携わって何かできることがあるんじゃないの? って思って(一般社団法人を)作ってみました」

●具体的にはどういった活動をされているんですか?

「よくやっていたのは、なんでもいいんですけれども、収穫祭なんてことを毎年やっていましたね。街の木の食の恵みを活かそう! ということで、お庭の木でもいろいろ実がなったりとか、あるいはハーブとして使える木があったりとか、いろいろとあると思うんですけど、そういうものをみんなで持ち寄って、そして一緒に料理してパーティーしよう! みたいな、そういうイベントをよくやっていました」

●そのほかには、どういった活動がありますか?

「よくやったのは苗木を作るっていうことですね。それもタネを買って来たりして、苗木を作るんじゃなくて、工事現場、工事でこれから伐られちゃう木の子供を探して、それを救出するというか、そしてそれを鉢植えにしておいて、お家で育ててもらうとか、そういう活動もしていますね。それを工事が終わったら、そこに植えに行こうね! という形です」

●苗木を自分たちで育てて植樹をするということですけれども、一体どんな種類の木を植えているんですか?

「本当にいろんな種類があるんです。例えば、最近やっているのだと、団地から大きなマンションに建て替えるプロジェクトの現場では、その団地の樹木の子供たちを苗木にしています。
 例えば、樹種で言うと、トウカエデとかケヤキ、アキニレ、ユズリハ、シラカシ、カツラ、ゲッケイジュ、ムクゲなど、まだまだあるんですけれども、その団地で目立っていた樹種のタネを取ったり、足元に生えている小さな苗木を救出して、そして新しいマンションになった時に植えようねっていうようなことで育てていたりします」

写真協力:都市森林株式会社

●苗木を育てて植樹をすると、自分が植えた木に愛着が湧いてきますよね?

「そうですね。実際に植えた木が成長していくのを見ていけますし、きっとそこを通りかかるのがいつも楽しみになると思います」

●そうですよね。実際に参加されたかたの反応はどうでしたか?

「これはもう本当に間違いないっていう手応えがあるというか、本当に子供たちも生き生きしています」

写真協力:都市森林株式会社

(編集部注:「街の木ものづくりネットワーク」の活動の、ひとつ事例として南町田グランベリーパークのリニューアルの際に、参加者のみなさんに工事中の公園に入ってもらい、苗木を救い、その苗木を各自自宅で育ててもらったあと、リニューアル後の公園に植樹することができたそうです)

みんなが喜ぶ都市林業に

※湧口さんによると、都市林業に取り組み始めた頃は、街の木を木材として活用する事例がなかったため、丸太を集めるために工事現場に足を運び、頼み込んでもらい受けていたそうです。その後、いろいろ事例を作って、ようやく自治体からも仕事として発注が来るようになったということです。

●伐採したあと、木材はどこで保管するんですか?

「倉庫をいくつか持っていて、そこで積み上げて保管するんですけど、そこがやっぱりいちばん大変なところではあります」

写真協力:都市森林株式会社

●大変なポイントというのはどこでしょうか?

「やっぱり土地のコストが高いっていうことだったり・・・うちも製材所っていうわけではないので・・・。製材所ではそれに特化した仕事をしているから、だから製材所に預かってもらうっていう手もひとつはあるんですけれども、都市林業の難しいところって特化していたらできないっていうところなんですよね。

 なので、ありとあらゆる仕事があるので、伐採に先立っては木の診断をしなきゃいけないし、どの木が使えるのかなっていうところを診断できなきゃいけないし、設計もしなきゃいけないし、実際の物作りもしなきゃいけないし・・・。

 作るものは小物雑貨から家具、建築まであるわけで本当に幅が広くて、街づくり的なお仕事もすごく大事になってくるし・・・。木材を製材して保管するっていう、そこに特化した仕事であれば、そこでコストダウンとか効率化もしやすいんでしょうけれども、なかなか難しい、そこは大変だなというところです」

●湧口さんが思う都市林業のいちばんの課題ってなんだと思いますか?

「これまでに木材にされてこなかった木々を木材にするっていうことは、お金さえかければできるんですよね。それはどんなごみからでも家具でも何でも作れるわけですよ、お金さえかければ・・・。

 だけど、そこを真正面から本当にこれはお金がかかっても、活用してよかったなっていうのを作ろうとしているんですね。
 そうじゃなくても、例えば何か環境にいいことをしているというような、プレゼンテーションがしやすい分野でもあるんです。今まで捨てられていた街の木を木材にしました! みたいなことで評価されてしまうこともあり得る界隈ではあるので、それでOKってなっちゃう事例はいっぱいあるんですよね。

 そういうことだと、本当に誰が喜んでくれているの? って、何かいいことやってます感っていうのはあるんですけれども、本当は誰も喜んでないっていうようなこともすごくあると思うんです。そうじゃなくて、どうしたら本当にみんなが喜んでくれることをできるかっていうことに、ずっと食い下がって工夫をしていくっていうのが、都市林業の本来やるべきことだと思っているんです。

 自然な形で街の木を木材にすることが成立しないといけないと思うんですよ。でもこれまでにされてこなかったということは、それだけ難しいということであって、とにかく僕のほうでは、これは本当に嘘がないことをやっているなっていう事例を、とにかく頑張って作るというのが大事だなと思っているんです」

本当のことをする

※湧口さんは、新しい本の中で都市林業をもっと進めるために、3つの提案をされています。そのうちのふたつ、「都市林業を街路樹で」と「都市緑地を小中学校の演習林に」について説明していただきました。

「まず『都市林業を街路樹でやりましょう』っていう、これがもともと都市林業のいちばんコアな部分です。今、街路樹は無数に木が植えられているわけですけれども、それらは大きくなるだけ大きくしちゃって、それから太い枝を切ったりして、木を痛めて樹形もゆがんで、そしていよいよダメとなってから伐採されて、そうなった時は中が腐っていたり虫が食っていたりで、樹形も悪いから木材にするのもすごく効率が悪いんですよね。

 そういう木々で僕はこれまで物を作ってきたけれども、この状況が変われば劇的に状況はよくなると思うんですよ。
 なので、街路樹の剪定をしたり、手入れをするコンセプトを変えましょうって、林業的に最初から木材として活用する、そういう手入れをしていけば、いい樹形にして健康な木を育てる、太い枝をいっぱい伐らなきゃいけないような段階まで育ったら、その時点で伐採して新しい木に更新する。

 そういう山の林業で当たり前にやっていることを街でもやったほうがいいんじゃないですかって、そうするとすごく効率的になるんじゃないかっていう、そういう提案ですね。

 『都市緑地を小中学校の演習林に』っていうのは、僕も今、中学校でそれに近いことを小さい規模ですけれども、やり始めているんです。学校の木々ももちろんそうなんですけど、そのへんの近くの公園もそうですし、せっかく木があるんだから、そこを学びの場にしましょうっていうそういう提案です。

 そこの木を剪定したり伐採したり活用したりっていうことを、学校のプログラムとして少し取り入れてやっていけば、体験の機会が無限に生まれていくよと、そのことは学習と、ものすごく結びついていくよっていうところで、とてもこれは可能性があるんじゃないかと、すごく手応えを感じているところです」

(編集部注:もうひとつの提案「清掃工場をハブにしよう」についてはぜひ本を読んでいただければと思います)

『都市林業で街づくり』

※では最後に新しい本『都市林業で街づくり』に込めた思いをお聞かせいただけますか?

「とにかく本当のことをしようっていうことです。

 木を活用するとかっていうことだと、とにかくそれだけで何かいいことをしている感が出ちゃうと思うんですけど、そういうことで満足せずに本当に誰かが喜んでくれることをずっと考えて、いろんなことを工夫して、逆に言うと、そうしないと今まで木材にされてこなかった木を木材にするっていう無理なことを、無理じゃなくするっていうことはできないし・・・。

 そうやって本当のことをやっていれば、私たちの街でもずっとこれから残っていくような街の空間とか建物とか、そういうものも作っていけるんじゃないかなって、そういう思いを込めて書かせていただきました」


INFORMATION

『都市林業で街づくり〜公園・街路樹・学校林を活かす、循環させる』

『都市林業で街づくり〜公園・街路樹・学校林を活かす、循環させる』

 湧口さんの新しい本には、前例がなかった都市林業を成立させるための取り組みや街の木を木材として活用するためのノウハウ、そして住民を巻き込んだプロジェクトなど、興味深い内容にあふれています。なにより、湧口さんの都市林業にかける熱い思いを感じる一冊、ぜひ読んでください。

 築地書館から絶賛発売中! 詳しくは、出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎築地書館:https://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN978-4-8067-1679-2.html

 「都市森林株式会社」と「街の木ものづくりネットワーク」の活動については、それぞれのサイトをぜひ見てください。

◎「都市森林株式会社」:https://www.toshiringyou.com

◎「街の木ものづくりネットワーク」:https://machimono.amebaownd.com

景色の中に溶け込んでいる「地形」を知ろう!

2025/5/4 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、東北学院大学の准教授「目代邦康(もくだい・くにやす)」さんです。

 目代さんは1971年、神奈川県生まれ。東京学芸大学・教育学部・在学中に、中学や高校の社会科の先生になろうと、科目として「自然地理」を選んだところ、その先生がとても面白い方だったということで、自然地理や地形学の道に進むことになったそうです。

 そして、京都大学大学院・理学研究科の博士課程修了後、筑波大学の研究センターなどを経て、現職の東北学院大学・地域総合学部の准教授としてご活躍されています。ご専門は「地形学」や「自然地理学」で、その学問を一般の方向けにわかりやすく解説した本『地形のきほん』を先頃出されています。

 きょうは目代さんに、地形が私たち人間や生き物に与える影響のほか、九十九里浜が出現した地形的な要因、そして、住んでいる地域の地形を知る必要性などうかがいます。

☆写真協力: 目代邦康

目代邦康さん

液状化は「砂粒」の性質が原因!?

※目代さんのご専門は、地形学や自然地理学ということですが、どんな学問なのか教えていただけますか?

「地理は小学校とか中学校で習うかと思いますけれども、その中で特に自然、地球の表面で起こっている、いろいろな自然現象について調べるというのが自然地理学です。

 特にその中でも私、地形についていろいろ調べております。地球の表面がデコボコしていますけれども、そういった山とか海岸とか、そういう場所がどうやってできたのか、どういうような地層からできているのかとか、今後どうなるかとか、そういうようなことを考える研究分野です」

●研究のためには、実際にフィールドに行って調査するんですよね?

「実際に現場に行って、土地がどんな形をしているのかを計ったり、穴を掘って、そこにある土とかを持って帰ってきたり、あと石を叩いて、どんな地層があるか調べたりですね。それだけで終わらなくて、持って帰ってきたら、今度はそれを分析したりします。

 最近は飛行機から撮った写真とか衛星から撮った写真とか、あるいは自分でドローンを飛ばして撮るとか、そういうのも含めて、分析するというようなことをやっています」

●いろんな方法があるんですね。メインのフィールドはどこになるんですか?

「いろいろなところをやっています。ここ1年間は、能登半島地震がありまして、そのあと被害を受けた場所の地形を調べているので、ここ1年間は金沢のほうに何回か行っていました」

目代邦康さん

●具体的には、どういった方法で何を調べるんでしょうか?

「今調べている、能登半島地震のあとの現象ですと、”液状化”です。地震の揺れで(地面が)液体のように変わってしまう、それで建物が曲がってしまうとか、そういう現象なんですね。

 そこの形を調べていくのと同時に、何でそういった変化が起こるのかを、地層を掘って、砂からできているんですけども、砂粒の大きさとかを測るんですね。で、どういうような砂の性質なのかが、地面の形が変わってしまう原因になったりしますので、そういうのを分析したりしていますね」

日本列島の地形が多様な理由とは?

『地形のきほん』

※ここからは目代さんが先頃出された本『地形のきほん』をもとにお話をうかがっていきます。本を読んでいて、改めて、地形は私たち人間の暮らしにいろんな影響を与えているんだな〜と思いました。地形の多様性が、自然や生き物の多様性を生み出していたんですね。

「いろいろな場所に地面があって、生き物は、鳥はちょっと飛んでいますけど・・・とはいえ、地面の上で生活するので、生き物の生活は切っても切り離せないですね。

 切っても切り離せないんですけれども、いろいろな生き物がいる今の状況を考えると、場所がそれぞれ違うので、そこに合わせて生き物がそれぞれ進化してきています。やはり、地球の環境の基盤というか、ベースになるのが地形の違いというところになるんだと思います」

●日本列島の地図を思い浮かべると、山脈が連なっていて、川もたくさんあって、海岸線もすごく複雑で、ところどころに平野があってっていう感じで、地形的にかなり多様で複雑なイメージがあるんですけれども、その多様さを生んだ要因は何なんですか?

「いちばん大きいのは、地球の表面に10数枚のプレートというものが覆っているんですけども、それがお互いに動いておりまして、(日本列島があるのは)あまり動かないプレートと、よく動くプレートのちょうどそのぶつかり合うところなんですね。
 あまり動かない大陸のプレートと、よく動く海のプレートがぶつかり合うことで、ギュッと押されて山はできますし、海のプレートが日本列島の下に沈み込むことで火山ができます。

 で、さらに気候の条件として雨がよく降るので、削られた土砂が運ばれて、平らな土地が作られてと・・・条件からするとふたつですね。地球の上でよく動いている場所だということと、雨がたくさん降る場所だということかと思います」

●そういった要因があったんですね〜。日本列島の地形を大きく分けると、山と平野になるんですか?

「日本列島に限らず、高くて尖っているところが山で、低くて平らなところが平野で、地球上、分けると基本そのふたつなんですね。で、日本の場合だとその中間もあって、丘陵地って呼ばれる場所がその中間になるんですけども、基本的には高さと、丘か丘でないかというところで分ける、そういった分け方になります」

●この山と平野、だいたいどれくらいの割合になるんですか?

「だいたい日本列島は、ほぼほぼ山でして、7割以上が山地です。で、3分の1から4分の1ぐらいの狭いところが平野です。その平野に多くの人が住んでいるというのが日本の特徴です」

●日本で考えてみると、人口が集中しているのは首都圏だったり、関西圏だと大阪や名古屋あたりですけれども、平野ができるのはやっぱり川が影響しているんでしょうか?

「そうですね。平らな土地は何で平らかっていうと、川が運んできた土砂が、川が氾濫して土砂を溜めて、あるいは海からも土砂が入ってくることがあるんですが、そういう水の働きがあるから平らな土地ができるんですね。そういう意味では川の働きというのは重要です」

(編集部注:ちなみに「山脈」と「山地」の違いなんですが、その定義は、目代さんの本によると、日本列島の場合、規模がより大きなものが「山脈」、山脈より規模が小さいものが「山地」、山地よりもさらに規模が小さいものが「高地」になるとのこと。これはあくまで日本列島の区分だということです)

九十九里浜が長いのは、硬い岩盤があるから!?

※ベイエフエムがある千葉県には、九十九里浜という日本で2番目に長い砂浜があります。その長さはおよそ66キロもありますが、どうしてこんなに長い砂浜ができたのでしょうか?

「なかなか難しい質問ですね(苦笑)。砂浜のいちばん端っこに何があるかなんですね。ずーっと砂浜なんですけれども、いちばん端っこは硬い岩盤が出ているんですね。どこもそうなんですけれども、削られにくい硬い岩盤があるところがふたつあると、その間が砂浜になるんです。

 で、九十九里浜ですと、北の銚子のところに少し古い硬い岩盤が出ていますね。一方で南のほう、房総半島の南のほうもちょっと山がちですけども、そこもまた岩盤が出ています。そのふたつの岩盤が離れているので、その間が砂で埋められて、非常に広い砂浜になっているということです」

●そうやってできるんですね〜。今、この日本で砂浜がどんどん減っているっていう話を聞いたことがあるんですけれども、原因は何なんでしょうか。

「根本的には、先ほど平野は川が運んできた土砂でできるということを言いましたけれども、川が土砂を運んでこなくなったんですね。
 運んでこなくなった理由は何かというと、ひとつには山から崩れた土砂が川を経由して海まで来るんですけれども、その途中でダムがあったり、いろいろな人工構造物があって、せき止められて流れてこないというのがあります。

 もうひとつの理由は、今はあまり掘ってないんですけども、昔はコンクリートに入れる砂を川から取っていたんですね。川底をどんどん掘って・・・。
 やがて砂が流れてくるだろうと思っていたんですけど、全然流れてこなくて・・・で、川でたくさん取っちゃったので、最終的に海の近くの平野まで流れていかないので、砂浜の砂が供給されるほうが少なくなってしまったので、波でどんどん侵食されて減っている、そういうことになります」

●観光地としても知られる鳥取砂丘に、植物が生えて草原化しているっていうニュースが以前ありましたけれども、これはどうしてなんでしょうか?

「砂丘に限らずなんですけれども、日本の地形はどこもちょっとずつ動いているんですね。で、砂浜も山のほうから砂が運ばれて、海からちょっと削られて、そのバランスが取れているとあまり形が変わらず、山のほうから(砂が)運ばれてこないと、どんどん削られて減ってしまう・・・。

 で、砂丘は砂浜にあるんですけれども、そこの砂丘にやはり同じように山のほうから土砂があまり流れてこなくて、海のほうから削られるのもあり・・・。さらに砂が減ると風が吹いた時に、動く砂の量が減っちゃうんですね。砂がたくさんあると動ける砂がたくさんあるんですけど、あまり動ける砂もなくなって・・・そうすると雨は降りますから、どんどん草が育って雑草が増えてしまうと、そういうような状況です」

地形が地名の由来に!?

※地形はお天気にも影響を与えていますよね。やはりその要因になっているのは山ですか?

「そうですね。冬の間、例えば関東地方ですと、乾燥して乾いた風が吹いてきますけど、同じタイミングで日本海側はたくさん雪が降っています。

 大陸のほうから風が吹いて日本海側で湿った空気があって、その湿った空気を含んだ風が日本海側で雪をどんどん降らせちゃうんですけど、風はずっと吹いてくるので、その風が山に雪を降らせたあとに吹き上がって、山を越えてきた時にはもう乾燥しているので、湿った空気が乾いた風に変わるというのは、山を越えるということが大きいですね。冬場の関東地方の乾燥なんかは、基本的には日本列島の大きな山が影響しています」

●そういう関係性なんですね~。あと違った側面だと、地形は観光資源とも言われたりしますよね。景勝地には人が集まってきますが、そんな観光資源を守るための制度と言えば、日本ではどういった制度があげられますか?

「そうですね。観光地ですと美しい景色があるので、多くの人が訪れますけども、人がたくさん来るからいろいろな開発をしてしまおう、お金儲けに使おうっていう人もだんだん出てくるので、そういった利用を制限するような仕組みがいくつかあります。

 いちばん大きいのが国立公園と呼ばれるものでして、レクリエーションなどで私たちが自然に親しむということと同時に、そこの場所を保護しましょうというようなことが、国立公園の中で法律として定められていて、適切な管理というのが行なわれています。

 あとは、最近ですとジオパークですとか、湖ですとラムサール条約の登録湿地とか、そういう国際的な取り組みなんかも含めて、いろいろな場所で適正な管理、使い過ぎ、“オーバーユース”って言うんですけれども、そういったことはなるべくやめるようにして、そこの場所の自然環境が維持されるような取り組みが各地でされています」

●そうなんですね。話は変わりますが、地形の特徴がその場所の地名になっていたりもするんですか?

「そうですね、非常に多いですね。先ほど(話に)出た九十九里浜も、長いって話になりましたけれども、九十九里もないんですけれども、長いのが象徴で九十九里ですし、いろいろな場所の形の特徴で(地名を)付けていたりします。

 ちょっと変わったものですと、岩場は山ですと“ゴーロ地形”、岩がゴロゴロしているから、“ゴーロ地形”と言うんですけれども、その“ゴーロ地形”がなまって、“ゴロウ”になりまして、北アルプスにある“野口五郎岳”や“黒部五郎岳”なんかは、その“ゴロウ”から来ています。岩がゴロゴロしているという地名です」

地形を知ると防災につながる!?

※改めてなんですが、地形を理解すると、どんなことが分かってきますか?

「自然の中で生きているということを、私たちはなかなか普段は、便利な生活、都会で暮らしていますので、認識することがないんですけれども、考えてみると住む場所に平らな場所があるとか、土地がちゃんとあるというのは、それも地形ですし、山のほうから水が流れてきて、その水を使って私たちは生活するための水を得ています。そういった自然がある、地形がちゃんとあることによって、生活基盤が支えられているんですね。

 そういった自然がどういうふうにして、そこに存在しているのかが分かると、自分たちがどんな場所にそもそも暮らしているのかが分かります。さらにその自然、時々地形は変化するんです。

 その変化した時に何が起こるのかというのは、どんな地形だったら、どんなことが起こるのかは大体予想がついているので、そこの場所が今後どんな自然災害が起こるのかというのが、おおよそ予想をつけることができます。それが分かるとそれに対して準備することができるんですね。

 川の近くだったら、どういうふうに逃げなきゃいけないかをあらかじめ考えておくとか、地震の揺れがどうも強そうな場所だったら、家を建てる時に丈夫に作っておくとかですね。
 そうすると私たちの生命や財産を守ることもできますので、自分たちがどんな場所に住んでいるのかを知ることは、よりよく快適に、さらに自分たちの生活や命を守る、そういったことにつながると言えます」

●地形を知ることは、防災にもつながるということですね!

「はい! そうですね」

●どうやって調べればいいんですか?

「(私の)本を読んでいただくのがいいんですが(苦笑)、自然現象なので地形に限らず、ほかのものもそうですけど、よく観察してもらうというのがいいかと思います。
 同じように見えても実は小さい坂があったり、ちょっとした崖があったり、土地の高さが違ったり・・・あと川のところでは砂があったり石があったり、形の違いがあったり・・・そこにある物、土とか石とかそういったものに違いがありますので、その違いに気づいて、なんでそれが違うんだろうかって考えていくと、だんだんと地形が見えてくるかと思います」

●最後にこの本『地形のきほん』を読むかたが、どんなことを感じ取ってくれたら、目代さんとしてはうれしいですか?

「地形を自分が認識するようになって、考えていたこと、気になっていたことをなるべく盛り込むようにしました。
 周りの景色の中に地形は溶け込んでいますので、意識しないとなかなか気づかないところがあるんですね。なので、そういった “あっ、周りに実は坂があるじゃん!”とか、“こんなふうにここの場所、土地の利用の仕方が違うけど、出来方が違うのかな?“とか、そういういろいろな、気づくきっかけになってくれると嬉しいですね。

 景色は一様ではなくて多様性に富む自然の中に自分が住んでいるんだっていうのを、今回の本を読んで景色を見て、旅行をした時に周りを見ていただいて、いろいろ気づいてもらえると嬉しいと思います」


INFORMATION

『地形のきほん』

『地形のきほん』

 目代さんの新しい本をぜひ読んでください! 地形を作り出す働きから、代表的な地形や暮らしとの関わり、さらには災害や歴史など、地形の基礎知識を豊富なイラストと共にわかりやすく紹介。ひとつの項目が見開き2ページで完結しているので、関心のあるところから読めますよ。地形を知るための入門書的な一冊、おすすめです! 
 誠文堂新光社から絶賛発売中! 詳しくは、出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎誠文堂新光社:https://www.seibundo-shinkosha.net/book/science/91487/

水と命がキラキラ、黒部源流に魅せられて

2025/4/27 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、山と旅のイラストレーター「やまとけいこ」さんです。

 やまとさんは愛知県生まれ。高校1年生の時に学校登山で、北アルプスの蝶ヶ岳(ちょうがたけ)に登り、頂上から見る穂高(ほたか)の山々、そして満天の星空に魅了され、山の虜に。武蔵野美術大学在学中はワンダーフォーゲル部に所属。

 卒業後はイラストレーターや美術関連の仕事をしながら、2003年から黒部源流の薬師沢小屋などの山小屋で働き始め、シーズンオフは絵を描きながらの海外ひとり旅をスタート。

 2020年には、通い慣れた富山県に移住。2021年からは、夏山シーズン中は薬師沢小屋の支配人、オフは街で絵を描くなどの仕事をされています。

 そして先頃、その小屋の料理人時代のエピソードをまとめた本『黒部源流 山小屋料理人』を出されました。この本は、山岳雑誌「山と渓谷」に連載していた、薬師沢小屋の厨房での出来事を書いた人気エッセイを書籍化したものです。

 きょうはそんな やまとさんに、山小屋ならではの料理人の仕事や、人気のメニューのほか、水と命にあふれる黒部源流の魅力などうかがいます。

☆写真&イラストレーション:やまとけいこ

写真&イラストレーション:やまとけいこ
やまとけいこ さん

薬師沢と黒部川の出合いに建つ

※まずは、この本の舞台になっている薬師沢小屋(やくしざわごや)はどのあたりにあるのか、教えてください。

「富山県を流れる黒部川という川があるんですけれども、その川のもっともっと上流のほうに、遡ったところにある山奥の小屋です」

●首都圏から行こうと思ったら、どういうルートで、どれくらい時間がかかりますか?

「今は新幹線が通じていますので、東京から富山まで行って、夏の間は折立(おりたて)登山口というところまでバスが通じています。その登山口までバスに乗って、そこから登山が始まります。
 標高1350mの折立という登山口から約1000m登ると、太郎兵衛平という山小屋があるんですけども、そこまで登って、そこから少し下って谷底の1920mに薬師沢小屋があります。6時間から8時間ぐらい歩くと到着します」

●かなり歩くんですね! ちなみに薬師沢小屋は例年、いつ頃からいつまで営業しているんですか?

「例年、7月1日から10月1日頃までの営業になっています」

●最大で何人くらい宿泊できるんですか?

「現在は、ひとり一畳のスペースということで50人程度ですね。コロナ以前はほんとに人数制限がなくて、120〜130人くらいで、ひとつの布団をふたりで使うような状態でした(苦笑)」

●そんなに宿泊できるんですね! スタッフの数はどれくらいなんですか?

「シーズン通してだいたい3人で、お客さんが増えてくると4人、5人と増やして対応しています」

●薬師沢小屋は、どういったロケーションにある山小屋なんでしょうか?

「名前の通り、薬師沢という川とそれから黒部川の本流、その川と川がぶつかったところを“出合い”と言うんですけれども、薬師沢と黒部川の出合い、その三角形になったところに建っている山小屋です。川から大体5〜6mぐらいの高台に小屋は建っています」

写真&イラストレーション:やまとけいこ

山小屋料理人の仕事は「食料の管理」!?

『黒部源流 山小屋料理人』

※新しい本『黒部源流 山小屋料理人』には、登山客のために食事を作る料理人としての奮闘ぶりが載っています。本を読んでびっくりしたのが、食材の運搬はヘリコプターで行なうんですね?

「はい、ヘリコプターで食材だけでなく、燃料やみなさんが飲む飲み物とか、その他すべての物資をヘリコプターによって輸送しています」

●すごいですね~。ワンシーズンに何回ほど運んでもらうんですか?

「薬師沢小屋ではヘリコプターでワンシーズンに3回、だいたい月に1回の割合で物資を送っていただいています」

●1回で運ぶ量というのはどれくらいですか?

「ワンシーズン3回なんですけれども、やはり小屋を開けた1回目の物量が多くて、だいたい1回に2〜3トンぐらいが4〜5便来ます。2回目、3回目は1便とか2便とかで、主に食材や足りない飲み物とかそういったものになりますね」

●天候次第ではヘリコプターが飛ばないこともありますよね?

「もちろん自然の中のことなので、天気が悪い時が続いて、特に1回目のヘリなどは梅雨の期間になりますので、なかなかヘリが飛べない飛ばないというようなことは多々あります」

写真&イラストレーション:やまとけいこ

●そうすると、残りの食材が減っていったらハラハラしませんか?

「はい、まぁ〜ヘリが1週間ぐらい飛ばなくても大丈夫なぐらいの物を(小屋に)上げているんですけれども、それを過ぎて、いろんな都合で1週間飛ばない、2週間飛べない、そうなるとじゃんじゃん物が減っていって、最終的には下から背負って(食材などを)持って来てもらうこともあります」

●本を読んで感じたんですけど、山小屋料理人は食料の管理がとても大事な仕事なんですよね?

「月に1度のヘリコプターなので、とにかく生鮮食料品ですね。お野菜とかそういったものの管理などがとても大変です。
 冷凍庫はあるんですけれども、発電機が朝と夕方に回している関係で、日中電気が通っていないので冷凍庫がないんですよ。冷蔵庫で野菜を保管することができなくて、できるだけ涼しい所に並べたりとか・・・でも動物が来て食べてしまうかも知れないから、箱の中にいれて様子を見ながら大切に使っています」

写真&イラストレーション:やまとけいこ

●動物に食べられてしまうこともあるんですね?

「そうですね。毎年のようにちょっと油断をすると、ダンボールの小さな隙間からもぐり込んで、中の物をかじってみたりということはあります。かじられないように蓋をきちんとして、上に重しを乗せたりとか、そういったことはいろいろやっているんですけれども、なかなかお互い知恵比べのようなところはあります」

●一体どんな動物に食べられちゃうんですか?

「主に小動物と言われる、山にいる小さいネズミとか、あとはヤマネと言って、森の木の洞(ほら)とかに本来棲んでいる生き物なんですけれども、山小屋は雨もしのげるし、人が来れば食料もあるので、うちの薬師沢小屋にはヤマネがたくさん棲み着いています。夜になると食べ物のところに行って、何か食べる物はないかな~という感じで(食料を)食べられてしまうことがあります」

定番は「豚の角煮」!

※一日、多い時で何人分の食事を用意するんですか?

「今はコロナ以降、完全予約制になったので50食ぐらいなんですけれども、以前は本当に込み合う週末の頃とかは120〜130人分ぐらいは作っていました」

●人気の定番メニューだったり、代々受け継がれているメニューってあるんですか?

「薬師沢小屋では、メイン・メニューが豚の角煮になっています。だいたい4時間ぐらい、コトコト煮たものをメインにしているんですね。あとは、薬師沢小屋はほかの稜線にある山小屋と違って、とても冷たいお水が豊富なので、夕食に冷たいお蕎麦を付けています」

写真&イラストレーション:やまとけいこ

●あ~食べたいですね~。そういったご飯を作る山小屋料理人の1日のスケジュールは、どんな感じなんですか?

「山小屋は、みなさん朝、出発されるのがとても早いです。お客様の朝食が5時なので、従業員は4時に仕事を始めて、お客様に召し上がっていただいて、そのあと片付けをして、従業員は朝食を取ります。

 で、8時ぐらいにミーティングした後に掃除ですね。布団を畳んだり、ぞうきん掛けしたり、そういうようなことをして、9時半過ぎぐらいに終わって、少しお茶して、10時ぐらいになったら、今度は夕食の仕込みと昼食を食べたいというかたの対応をします。

 従業員は昼食を12時頃に食べて、1時ぐらいには全員仕事を一旦終わりにして、厨房の人たちは1時から3時ぐらいまでは休憩時間です。
 私は今支配人で、そのぐらいの時間から受付に座って、お客様の対応が始まります。3時ぐらいに厨房の子たちは夕食の準備を始めて、夕食が5時、バタバタと夕食が終わって片付けやなにやらをして、従業員ご飯が7時で、8時消灯です。健康的ですね(笑)」

(編集部注:山小屋のスタッフは、シーズン中は基本、お休みの日はないそうです。それでもお天気が悪くて、お客さんが少ない時は半日休みにするなど工夫して、休む時間を取ってもらっているとのこと。やまとさんは、今は支配人ですから、一緒に働くスタッフへの気配りも欠かせない立場なんですね)

黒部源流が世界でいちばん!

※山小屋の仕事があるとはいえ、黒部源流に毎年行きたくなるのは、どうしてなんですか?

「そうですね~、本当に、本当に! 素敵なところなんですよ! 私、世界のいろんな所に行ったけれど、やっぱりここがいちばん好きというぐらい・・・。

 好きな理由は、とにかく綺麗な水が常にザーザーと目の前を流れていて、高い山に登ると植物はほとんど生えていないんですけれども、標高1920mのこの谷の底は植物だったり、あとは生き物の匂いがたくさんしたり・・・。

 そして私はイワナ釣りが好きなんですけれども、大好きなイワナが川の中にたくさんたくさん泳いでいます。ここに来ると毎年、わぁ~嬉しい!って思います」

●素敵ですね~。人間は自然に育まれているな~と感じますか?

「山小屋で働いて、まあ忙しくはしていますが、外に出ると人工物がなくて、育まれているというか、自然の一部なんだな~という、そういった気持ちになります。私もこの中の断片のような、たくさんたくさんある命の中の一部だな〜と感じます」

写真&イラストレーション:やまとけいこ

アイスクリームとお寿司!?

※営業期間を終えて、山小屋を閉め下山し、街に戻るとどんな気持ちになるんですか?

「3か月ぐらいいると、そろそろ山を下りたいかな~というような気持ちになってきますね(笑)。寒くなってきて、雪もちらつき始めて、そろそろ小屋終いの頃だな~と思って、街に下りてくるというか下山すると、まず最初にアイスクリームを食べて、その日の夜は寿司屋さんに行ってお寿司を食べて(笑)、そうすると翌朝からはすっかり街の人間に戻っています。ちょうど旅をして帰ってきたような感じですね」

●(街には)また違った良さもあるんですかね?

「はい、そうですね。暮らすのは街が楽だと思います。蛇口からお湯が出てきたりとかウォッシュレットがあったりとか、わぁ~なんて快適なんだろうと思います」

●私たちの当たり前が素晴らしいことなんですね。

「本当に素晴らしいことです。ありがたいことです」

●やまとさんが今年、薬師沢小屋に入るのはいつ頃の予定なんですか?

「また6月の末に入って、7月1日の営業前に、小屋にお客様を泊められるように準備をします」

●やっぱり今は、早く行きたい! 待ち遠しいという気持ちですか?

「そうですね。意外と楽しみな反面(薬師沢小屋の)責任者なので、今年も上手くいくかな~とか、今年のスタッフはどんな人が来るかな~とか、ちょっと気の重い部分もありつつ、ただ小屋に実際入ってしまったら楽しい! というような感じです」

●楽しみですね~。そして今年も夏山シーズンがやってきますよね。薬師沢小屋の支配人として楽しみにしていること、伝えたいことがあればお願いします。

「山だけではなくて、自然の中に自分の身を置くと、先ほども言ったように自分も自然の一部なんだな~ということに気づくんですよ。
 自然の風景って美しくて、ほんとうに命がキラキラキラキラしていて、美しい自然の一部、自分も本当にそういった存在なんだなって、自分のことも大好きになれると思うんです。

写真&イラストレーション:やまとけいこ

 人間が本来持っている当たり前の活動をしたりとか、ご飯を食べたり寝たりとか、そういったことが本当に大切なんだなという、そんなことを持って街に帰って、仕事でストレスが溜まったり、いろいろ大変だけれども、そういった元気を、山とか自然の中に来て、持って帰って、また頑張ってもらえたらいいな~と思います。

 たくさんの人が黒部の源流を、この本を読んで想像していただいたり、実際に来られる人は来ていただいたりして、たくさんの人から、こんな場所があるんだ! 本当に嬉しい場所があるんだな~っていうことを思ってもらえるだけで、ずっと黒部の源流が大切にされるんじゃないかなと思っています」


INFORMATION

『黒部源流 山小屋料理人』

『黒部源流 山小屋料理人』

 やまとさんが先頃出された本をぜひ読んでください! 限られた食材をやりくりしながら、美味しい食事をお客さんに提供する山小屋料理人の奮闘ぶりが手に取るように分かります。ユーモアあふれるイラストがこれまた、いいです! 個性的なスタッフも登場しますよ。さらに食材に紐づくレシピも満載です。
 山と渓谷社から絶賛発売中! 詳しくは、出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎山と渓谷社 :https://www.yamakei.co.jp/products/2824330840.html

 本の発売を記念してイラストの原画展が開催されます。

 モンベル御徒町店で5月25日から30日まで。原宿のfinetrack TOKYO BASE(ファイントラック・トーキョー・ベース)で6月1日から8日まで。いずれも初日にトークイベントとサイン会が予定されています。参加は無料、事前の予約も必要ありません。ぜひご参加ください。
 詳しくは、山と渓谷オンラインのサイトを見てください。

◎山と渓谷オンライン :
https://www.yamakei-online.com/journal/detail.php?id=7930&pview=1

 薬師沢小屋のサイトは以下になります。

◎薬師沢小屋 :https://ltaro.com/lodge/yakushizawa-goya/

北極圏スバールバル諸島の観測拠点「ニーオルスン」〜小さなコミュニティに人類を救うヒントがある!?

2025/4/20 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、観測専門エンジニアの「松下隼士(まつした・じゅんじ)」さんです。

 北極圏ノルウェー領のスバールバル諸島、その島のひとつ、スピッツベルゲン島に
「ニーオルスン」という国際的な観測拠点があり、日本の国立極地研究所が1991年に開設した観測施設もあります。

 そんなニーオルスンに技術者として長く滞在していた数少ない日本人のひとり、松下さんは石川県金沢市生まれ。大学卒業後、海洋地球研究船の技術者として、世界各地の海を観測。その後、南極地域観測隊の夏隊と越冬隊に参加。そして国立極地研究所の技術者として、2019年からニーオルスンに滞在し、研究観測に従事。

 現在は富山を拠点に活動。そして先頃、ニーオルスンでの日々の出来事を綴ったエッセイ集『オーロラの下、北極で働く』という本を出されています。

 きょうは、松下さんに極地らしいカルチャーや、日本ではあり得ないローカルルールのお話などうかがいます。

☆撮影:松下隼士、提供:国立極地研究所

撮影:松下隼士、提供:国立極地研究所

ニーオルスンの基礎情報

※まずお聞きしたいのが、今回初めてニーオルスンという場所を知ったんですけど、日本からどうやって行くのか、そしてどんなところなのか教えてください。

「ニーオルスンは、やはり日本ではあまり知られていない場所で、どこにあるのか想像がつかないかたも多いと思います。
 行き方は、まず日本からは国際便でノルウェーの首都オスロへ行って、その後、北極圏のスバールバル諸島へ行く直行便か、トロムソン経由便があるんですけど、そういった飛行機で行くことができます。

 オスロからですと、だいたい3時間ほどでスバールバル諸島のロングイヤービン空港に着きます。そこからまた乗り継ぎをして、小さなプロペラ機でニーオルスンに向かいます。なので、ちょっと特殊なのは、全行程を飛行機で北極まで行ける珍しい場所かも知れませんね」

撮影:松下隼士、提供:国立極地研究所

●なるほど。ニーオルスンは町と言えるんでしょうか?

「そうですね・・・町とは言えないかも知れません。集落というのがおそらくベストな表現方法でして、人数の上限があるんですね。ただ、定住している集落としては世界最北の集落と言われています」

●人数の上限っていうのは、だいたい何人くらいなんですか?

「宿泊施設が結構あるんですけれども、100数十人ぐらいは宿泊できると思います」

●国際的な観測拠点なので、観光客は来ないですよね?

「実は、国際的な観測拠点として(ニーオルスンは)あるんですけれども、夏に限っては観光船がニーオルスンまで来まして、かなりの数のかたがいらっしゃいます。ただ、宿泊はできるわけではなくて、立ち寄ったあとに別の目的地に行くので、本当にただ立ち寄るだけっていうような形ですね」

●へぇ~じゃあ、一応私も行くことはできるんですか?

「そうですね。夏に限っては行くことができます」

●なるほど。世界何カ国ぐらいの観測施設があるんですか?

「施設は日本を含めて11カ国あります。スバールバル諸島がノルウェー領ということもありまして、やはりヨーロッパ圏が多いですね。アジア圏ですと日本、中国、韓国、インドもこちらに観測施設を持っています」

●様々な国から集まっているということですが、なぜニーオルスンに観測施設が集中しているのでしょうか?

「最初はノルウェーの極地研究所が、国際的に観測できる場所をニーオルスンに作ろうということを決めまして、それに日本を含め、様々な国がどんどん参入していったというのが観測拠点の始まりになるんですね。なおかつ、そういった研究施設があったりインフラが整っているので、やはり北極研究をしたい人たちがどんどん集まって来て、飛行機で簡単に行ける北極圏となると、やっぱりどんどん人が集まってきた経緯があると思います」

撮影:松下隼士、提供:国立極地研究所

(編集部注:北極というと極寒の地というイメージがありますよね。どれくらい寒いのかをお聞きしたら、松下さんが滞在していた時、3月でマイナス25度を記録したことがあったそうです。

 そんなニーオルスンでの松下さんの仕事は、大気のサンプリングとして、気体の中に浮遊する微粒子「エアロゾル」や 温室効果ガスの採取のほか、観測施設の補修作業や機器のメンテナンス、そして日本からやってくる研究者のサポートなども担っていたそうです)

計4回、トータル1年!?

※初めてニーオルスンに行ったのはいつ頃で、現地に降り立った時はどんな印象でしたか?

「初めて行った時には極夜の時期だったので、やはり行っても何も見えないという状態でして・・・寒さだけは北極の感じがしたんですけれども、それ以外は本当によくわからないっていう状態だった記憶がありますね」

●初めて行った時の滞在期間はどれくらいだったんですか?

「初めて行った時は1ヶ月でした」

●1ヶ月間・・・これはどうですか、今振り返ると短かったと思いますか? 長かったですか?

「そうですね~、短かったですね(笑)」

●その後、何回かニーオルスンに行くことになったんですよね?

「そうですね。その後は計4回行くことになりました。最初は1ヶ月で、徐々に長くなっていったような形ですね」

撮影:松下隼士、提供:国立極地研究所

●やっぱり慣れてくると、滞在期間も長くなってくるんですか?

「そうですね。現地の作業に慣れてきますと、さまざまな研究者からのオーダーとか仕事も増えてきますので、長く滞在すれば長く観測できるようなこともいろいろと増えてきます。最終的にいちばん最後の滞在では、約半年滞在することになりました」

●そうすると松下さんはこれまでの人生で、ニューオルスンで過ごしたトータルの期間ってどれくらいになるんですか?

「トータルですと、約1年になりますね」

●季節の移り変わりってあるんでしょうか?

「日本のような季節、四季のようなものはないんですが、敢えて言えば、極夜が4ヶ月ごとと、白夜が4ヶ月ごとにありますね」

●極夜、太陽が昇らないんですよね?

「そうですね」

●まったく太陽が見えない時期が4ヶ月も続くっていうことですか?

「そうです。ただもっと詳しくお話しますと、薄明と言いますか、要は太陽が出ていないけれども、ちょっとぼんやりと明るいような時間帯があります。そんな時間が完全な極夜の前後にもありますので、本当に真っ暗なのはもうちょっと短いのかも知れません」

撮影:松下隼士、提供:国立極地研究所

日本人はひとり!?

※ニーオルスンでの生活の拠点なんですけど、部屋を借りていたんですか?

「はい、一応、日本の観測所の中に個室がありまして、そこは普段寝る場所ですね。シャワーもありますので、そこで暮らすことができます。
 食事に関しては、日本の観測所のキッチンはあるんですけれども、普段は現地管理会社がご飯を用意してくれますので、食堂に行ってみんなで食べるというスタイルで生活していました」

●本を読んでいて非常に驚いたんですけれども、松下さんは日本人技術者として基本的にはひとりで、ニーオルスンでお仕事をされていたんですよね? おひとりで何から何までやって、さらに周りには外国人のかたがたがいらっしゃるっていうこの環境、相当大変だったんじゃないでしょうか?

「そうですね。最初の1ヶ月の滞在の時には大変だったんですけれども、現地のかたであったり、あとは日本人研究者であったり、国内からのバックアップがたくさんありましたので、何とか仕事を進めることができましたね」

●でもやっぱり最初、ひとりでいるとなると、ほかの国の研究者やスタッフとコミュニケーションをとるケースが増えていきましたよね?

「そうですね。仕事を進める上でほかの研究者のかたとも話をしなきゃいけないですから、コミュニケーションをとる機会は非常に多かったと思います」

●コミュニケーションをとっていった中で、海外とのギャップとか日本ならではと思った点はありましたか?

「日本ならでは、というところは特に感じなかったんですけれども、みなさん自分の国の研究者が来るとやっぱり自分の国同士でまとまってしまうんですね。まとまって食事を取ったりするんですけども、(自分の国の)研究者が帰ってしまって、ひとりになるとまた国際的なグループに戻ったりっていうのが、どこの国でも同じようなことがあるなっていうのをちょっと見ていて感じることがあります」

ホッキョクグマに遭遇

※ニーオルスンならではのローカル・ルールのようなものはあったんですか?

「国際観測拠点ならではのルールがあります。ニーオルスンならではと言いますと、無線機器の利用が禁止というルールがありましたね」

●無線機器がダメとなると、携帯電話とかもダメですか?

「そうですね。スマートフォンも使えないですし、Wi-FiやBluetoothも使えません」

●へえ~、それって生活するのに、最初は結構大変ですよね。

「そうですね。今、私たち生活している中で無線は一般的になっているので、それがない生活はひと昔前に戻ったような感じで、ちょっと不便に感じることもありました」

●なぜWi-Fiを使っちゃいけないんですか?

「実はニーオルスンには、星から来る電波を観測する施設があります。この観測にあたっては、無線が干渉してしまうということがありますので、その観測を成功させるために、基本的には私たちの生活に使うような無線は、全部オフにしましょうというルールがあるんです」

●そうすると、遠く離れた家族や友人とのやり取りはできないんでしょうか?

「実は無線が使えないといっても、有線は使っていいことになっているので、有線LANを引いてパソコンにつなげば、テレビ電話もできますし、通話もできるっていう状態ですね」

撮影:松下隼士、提供:国立極地研究所

●北極圏では動物に対する、何かローカル・ルールがあったりするんでしょうか?

「はい、みなさんたぶん、北極で動物というと、ホッキョクグマを想像されるかと思うんですけど・・・」

●そうですね。

「(ニーオルスンは)ホッキョクグマが生息する地域なので、やはり町にホッキョクグマが出た時、みなさん逃げ込まなきゃいけないんですね。どこに逃げ込むかというと建物に逃げ込まなければいけないので、そのためには鍵をしてはいけないというルールがあります」

●いつ出てもすぐに逃げ込めるようになっているということですね?

「そうです。これはちょっと特徴的なルールかも知れませんね」

●実際に松下さんは滞在中に、ホッキョクグマと遭遇したことはあったんですか?

「面と向かって遭遇とまではいかないんですが、近くまでホッキョクグマが接近したことはありました」

●ええっ! やっぱり怖かったですよね?

「そうですね。やはり恐怖感もありました。この辺は本にも書いてありますので、ぜひみなさん読んでいただきたいシーンですね。

 野外に出る時には必ず私たちはライフルを携行する義務があります。ただそれはホッキョクグマを撃つためというよりは、ホッキョクグマに襲われそうになった時に、自分たちの護身のためという理由でライフルを持っています」

●ライフルを使うための訓練だったり、免許ってあるんですか?

「ライフルを使うことがあれば、現地の管理会社が訓練をしていまして、そちらで訓練を受けて、その後はスバールバルの管理部署に申請して許可を得て、現地で初めて持つことができます」

撮影:松下隼士、提供:国立極地研究所

(編集部注:ニーオルスンの周辺では「ホッキョクグマ」のほかに、哺乳類では「スバールバル・トナカイ」や「ホッキョクギツネ」、鳥では「スバールバル・ライチョウ」や渡り鳥の「キョクアジサシ」も見られるとのこと。また、ハエや 蚊に似た昆虫もいるそうですよ。

 真っ白な世界というイメージがある北極圏ですが、苔などの植物も見られ、6月から7月にかけては花のシーズン。「ムラサキユキノシタ」という植物が赤紫色の花を一斉に咲かせ、荒野に花の帯ができるそうです)

極夜明けにサンパーティ!?

※松下さんがおっしゃるには、ニーオルスンの生活でいちばんの楽しみは、やはり食事。メニューは土曜日の夜は豪華で、トナカイのステーキや カモのローストなどが振る舞われたそうです。特に人気があったのは、実は野菜や果物。貨物船の補給が月一回程度なので新鮮な野菜が並ぶと、みんなのテンションがあがったそうですよ。
 またお酒も、制限はあるものの飲んでもいいとのことで、4ヶ月ぶりに極夜が明ける時には、こんなイベントを開催して、滞在員みんなでお祝いしたそうですよ。

「サンパーティーというものがあったんです。それは極夜が明けた週に太陽のお祝いするパーティーだったんですね。そういった時には日中にスキー大会をして、夜みんなでちょっと夏っぽい格好をして、お酒を飲みながら夏っぽい感じで、みんな飲んで楽しんで! っていうようなイベントもありました」

●私たちは普段、太陽が出てくるのが当たり前の生活なので、極夜が明けて太陽がパッと出てきた時、そんなに感動するものなんですか?

「そうですね。本当に極夜明けで、特に太陽光線が目に入った時っていうのは、目というよりも頭の中に光が注ぎ込まれるような、ちょっと強烈な感覚を覚えることがありますね。その日差しの温かさを肌で感じた時の感動があります」

●温かさ・・・普段は意識していない感覚なので、すごく興味深いですね。ちなみに「極夜」と「白夜」で生活スタイルにも違いがあったりするんでしょうか?

「そうですね。ニューオルスンでは特に生活スタイルは、変化したりしないんですけれども、個人的な体調の変化みたいなものがやっぱりあります。極夜の時はやっぱり太陽が出ないので、何となく起きている間、ず~っとちょっと眠いような感覚があります。逆に白夜の時にはいつになっても眠くならないような感覚がありますね」

極地らしいカルチャー

※松下さんは南極地域観測隊の隊員として2回、南極にも行っています。観測施設としては南極は日本人チーム、一方、北極は国際的でしたが、それぞれにいいところはありましたか?

「それぞれの良さがやっぱりありますね。例えば南極ですと、日本人チームは限られた人数なんですけれども、長い間、固定メンバーで生活しているので、団結力だったり結束力みたいなものがありますね。なにかちょっと大きな仕事があっても、みんなで協力して“えい、やぁ!”ってやってしまうような、勢いみたいなものを感じることもあります。

 一方の北極に関しては、人の入れ替えが割と激しいんですけれども、その分だけ入ってくる情報もたくさんありますし、各国の文化を知って面白いな~って感じる場面は結構ありましたよね」

●どちらにも良さがありますよね。やっぱり松下さんは、極地好きですよね?

「そうですね。好きだと思います。はい」

●そうですよね! 何が魅力だと感じていますか?

「やはり環境的に面白いところだと思います。何もないようで行く度に発見があるっていうのが、面白いところだなと感じますね。

 極地に住んでいる人であったり、極地ならではの文化みたいなものは、行く度にやっぱり面白いなと感じることはありますね。そういった意味で極寒マニアというよりは、極地マニアと言ってもいいかも知れないんですが、すごくそういった魅力に取り憑かれているようなところがあるかも知れませんね」

●極地の人や文化で、特にここが好き!っていうのはありますか?

「極地ならではなんですが、人間関係がすごく濃くなる場所ではあります。実は、本の中で私が泣いてしまったっていう表現が結構あるんですけども、それは極地ならではで起こる現象なのかなと思うんですね。

 人との出会いがあって別れがある中で、日常生活ではなかなか泣いたりする機会には恵まれないですけども、極地ではそういった機会が結構あります。それはなんでかっていうと、やはり凝縮された人間関係があって、それが影響してみなさん泣いたりするのかなと思うんですね。

 それは自分だけなのかなと思ったら、現地のノルウェーのかたが泣いていたり、イタリアのかたが泣いていたり、やっぱりみなさん同じような感情を持っているなっていうのが自分の中ではすごく印象深いし、極地ならではの僕が好きな極地カルチャーのひとつかなと思っています」

『オーロラの下、北極で働く』

ニーオルスンに戻りたい

※国際的な小さなコミュニティ、ニーオルスンの在り方は今、世界が直面している温暖化や戦争などの問題を解決するヒントがあるようにも思うんですが・・・どうでしょう?

「ニーオルスンでは北極を観測して、気候変動の研究を進めるというひとつの全体の目標があるんですね。世界全体とニーオルスンを比べると、ニーオルスンは圧倒的に規模は小さいコミュニティであるかも知れませんけども、やっぱり気候変動の研究を進めようとか、北極を観測しようという原則的な目標を見失うことはないんですね。

 ですから、もしこれを世界の問題に置き換えるのであれば、やはりなにか私たちが同じ目標をまずは持つことが、ひとつの問題解決につながっていくのかなと思うことがありますね」

●確かにみんな同じ方向を向く、そして手をとり合うのは大事ですよね。やっぱりお話をうかがっていると、ニーオルスンという場所が、松下さんの現在の活動のきっかけになっているのかなって、すごく感じたんですけど、またニーオルスンに戻りたいと思いますか?

「そうですね。また行ってみたい場所だなと思いますね」

●その理由は?

「これはですね~、当時一緒に仕事していた海外の滞在員たちが任期を終えたあと、また今ニーオルスンに戻ったという話を聞いたりして、“あっ、いいな~”と思うことがあるんですね。そうなると、もしかすると極地の景色をもう一度見たいというよりは、そこにいる人に会いたいとか、現地の人々の営みを直に感じたい気持ちのほうが強くなって、また行きたい気持ちが強くなってきたのかな~という感じはありますね」

●ニーオルスンでしか味わえない時間がありますよね。最後に、松下さんにとってニーオルスンとはどういった場所ですか?

「ニーオルスンとは、世界中の友人たちが集う、私にとってかけがえのない場所ですね」


INFORMATION

『オーロラの下、北極で働く』

『オーロラの下、北極で働く』

 松下さんが先頃出された本をぜひ読んでください。たったひとりの日本人として、長期にわたり滞在したニーオルスンでどんな体験をし、何を感じたのか、各国の滞在員と助け合ううちに生まれた絆、そして北極圏の厳しくも美しい自然の描写など、日々の出来事が綴られた読み応えのあるエッセイ集です。松下さんが撮った写真も素晴らしいですよ。
 雷鳥社から絶賛発売中です。詳しくは、出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎雷鳥社:https://www.raichosha.co.jp/book/1497

 松下さんは現在、富山で観測や研究の支援サービスを行なう「Canyou Flash(キャニオン・フラッシュ)」を運営。また、自然科学の魅力を発信するための「The Natureus Store(ザ・ネイチャーアス・ストア)」を主宰されています。詳しくは、SNSを見てくださいね。

◎「Canyou Flash」Instagram:https://www.instagram.com/canyonflash/

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