2022/7/15 UP!
今回は、マニアックな研究員さんが 企画・監修した、千葉県立中央博物館で 開催される特別展をピックアップします。千葉県立中央博物館は、千葉県の自然と歴史に関する県立の総合博物館。青葉の森公園の中にありますよね。そして平成元年の開園当時、身近な動植物の生態を観察できる生態園が日本で初めて併設されたということでも知られています。
その中央博物館で明日から開催される特別展、タイトルがシンプルです、ズバリ『鯨』です。かなり貴重な展示内容ということで、興味深いお話を、 いろいろ聞いてきました。
この特別展の監修をされている研究員の宮川尚子さんにお話を伺ってきました。 鯨の研究、というと珍しいかも?と思いますが、ご自身が鯨のどこに興味があるのかをまずは伺いました。ちょっと変わっていらっしゃいます、、、
宮川さん:
哺乳類の中でも鯨を専門にしています。私は鯨の進化に非常に興味がありまして、哺乳類で陸地にいた動物が海に帰っていった動物なので、海に帰っていく過程で退化して無くなっていった後ろ脚の骨に非常に興味を持って、後ろ脚がどうやって退化していったのかなっていうのを調べています。ほとんどわからないんですけれど、体の中を探っていくと、お腹のあたりに宙に浮いた棒のような骨があって、それが後ろ足を支えてた骨盤の名残と言われている骨がわずかなサイズで残っているので、それの骨の形を調べたりしています。非常にマニアックですね(笑)、一般的には頭の骨の形を調べている人とかが多い中で、あんな小さな骨盤 の骨を喜んで集めているのはあんまりないので、ちょっと変態的なところはあります。
ここに、博物館にあるスナメリという小型の鯨の骨格標本の写真がありますが、確かに後ろの方に、ちょこっとほかのところとつながってない骨がありますね。宙に浮いたような不思議な骨があって、これが後ろ脚というか骨盤の痕跡?なんですね。そこを研究の一番のポイントにされている宮川さんに、鯨と千葉県との関わりを伺いました。

宮川さん
鯨とは、海に戻っていった哺乳類の仲間なんですけれど、実はカバが一番近い仲間だと言われていて、ああいう蹄が偶数ある動物の仲間から出てきた生き物で、一般的にはちょっと鯨のイメージがないイルカとか鯱(シャチ)とか、イッカクみたいなのも全部鯨の仲間に含まれます。世界で今、鯨の種類は約90種というふうに言われているんですけれども、そのうち日本に来た記録があるのが43種です。で、そのうちさらに千葉まで絞っていくと、千葉県は1935年以降の記録で調べると今35種が記録されていて、この数が実は日本で一番多いです。種数としては日本で一番多く確認がされています。千葉県は三方が海に囲まれていて、本当にいろんな海洋環境があるので、暖流と寒流がぶつかるって言うのもあれば、東京海底谷みたいな深海の要素もあるので、本当にいろんな海洋環境が揃っているので鯨に限らず、海洋生物は本当にユニークな生物層が形成されてます。

世界で確認されている鯨がおよそ90種類。そのうち3分の1以上35種類の鯨が千葉県の海で目撃されている、すごいですね。以前、銚子のイルカウォッチングの時は何千頭ものイルカに囲まれることがあるという話をご紹介しましたが、 改めて、千葉県は豊かな海に囲まれているんだなと思いました。
今回の特別展示の見どころを伺いました。
宮川さん
非常に珍しい標本も出てきます。「イッカク」という、千葉には生息してない鯨ではあるんですけれど、すごい長いツノを持つっていうイメージがあるような鯨の仲間がオスとメスのペアで出るっていうのが、たぶん非常に珍しいです。メスは実はその牙が生えていなくて、メスの標本っていうのが地味なんですけど、すごい珍しいものが今回は出ます。もう一つは、今回鴨川シーワールドさんの方から「シャチ」の・・5.3mのシャチの複製をお借りしてきて展示します。過去に鴨川シーワールドさんで飼育されていた個体の型を取って標本を作られたみたいなんですけれど、非常に大きな「シャチ」が。もう一つは「ツノシマクジラ」というクジラの全身の骨の展示をする予定です。これは2017年に千葉県の勝浦市で打ち上がったのを千葉県立中央博物館が回収したものなんですけれども、実はこの「ツノシマクジラ」というのが、2003年に新種になってあまり標本がまだないので、日本でも本当に数体しか骨格っていうのがないので、本当に非常に珍しいもの種類の標本を出します。で、その三つが一押しです。

一押しを伺ったのに三つもお答えいただきました。熱の入り様がすごいです。骨格標本などは、極力、宙づりにしないで床置きに近い形で展示をされるそうです。そして、5年前に勝浦に打ち上げられた新種のツノシマクジラ。こちらも貴重な展示です。海岸に打ち上げられた鯨を標本にする場合、まず穴を掘って砂浜の中に埋めます。しばらくすると、肉などの部分は、バクテリアなどによって分解されて、骨だけが残るので、それを掘り起こして 骨格標本とするんだそうです。
もし打ち上げられた鯨を発見したら、市町村など自治体や、博物館などに 連絡してほしいと、宮川さんはおっしゃってました。
今回はそんな鯨と人とのかかわりについての展示もあるようです。
宮川さん
千葉県は本当に鯨との関わりを探っていくと、歴史が古くて縄文時代まで遡ることができます。縄文時代
の遺物でイルカとか鯨の骨が出土していて、ちょっと一部加工して腰飾りにしてたりとか、おっきい鯨の骨
とかだと、なんかお皿にして使ってたんじゃないか?みたいな痕跡が残っているものとかがあったりする
ので、江戸時代になると組織だった捕鯨が南房総の方で始まるので、で現在まで続いている捕鯨の歴史
もあるので、道具とかの展示をしようと思っています。もちろん、水族館でイルカとか、鯱とかは見たこと
あると思うんですけれども、実際に海に行ってもう10m、何メートルもあるような鯨を見たことあるかというと、たぶんなかなかやっぱり接する機会が少ないと思うんですけれども、是非、海にはこんな変な生き物 がいるんだっていうのを知ってほしくて、特に大きさが圧巻なので、動かないものではあるんですけれどもその大きさっていうのをすごい体験して欲しいと思ってます。
今も南房総市和田町には捕鯨基地がありますし、縄文時代の昔から現在まで、いろんな漁法が開発されてきた歴史なんかも確認できます。そして、十何メートルもある鯨、中央博物館みたいに大きなスペースがないとなかなか展示できませんから、この機会にぜひ目の当たりにしてもらいたいです。
一方で宮川さんから聞いたお話では、江戸時代、貴重なたんぱく源だった鯨が打ち上げられると「誰のものなのか」でもめることが結構あって、ちょうど村と村の境目だと、頭がこっちの村をむいているからこっちのものだとか言い合いになったり、最初に打ちあがった場所から嵐で流されて移動してしまって、所有権はどっちにあるのか喧嘩になった、なんていう記録もあるそうです。結局どうなったのか、気になりますね。世界最大の動物とも言われるクジラの進化の歴史や多様性から鯨の体・骨を使った道具の展示、人の生活とクジラの関わりについても幅広く紹介する、かつてない規模の展示会です。宮川さんの想いも詰まった千葉県立中央博物館の特別展、「鯨」は明日7月16日土曜日から9月25日日曜日までの開催。月曜日がお休みで、開館時間は朝9時から入場は16時までです。鯨のひげでストラップを作るワークショップや講演会など関連イベントも多数あります。子供たちの夏休みの自由研究にもいいかもしれませんね。詳しくは千葉県立中央博物館のホームページをご覧ください。
http://www2.chiba-muse.or.jp/NATURAL/