2022/11/11 UP!
今週のテーマはミュージアムです。
今回は、千葉市緑区にあります、ホキ美術館をご紹介します。こちらは日本初の写実絵画専門の美術館。最寄りの駅はJR外房線の土気駅。「あすみが丘東」という住宅街の一角にあります。緑豊かな公園「昭和の森」の近くにある、ユニークな外観で人目をひく美術館です。

写実絵画とは、油絵、アクリル、テンペラなどの技法を駆使して、見たままをそのまま忠実に描くことを基本にした絵画です。まるで写真と見紛うほどのリアルさですが、写真とは違う表現であり、ありのままを描くことを基本に、それ以上の存在を描きます。画家が描く対象と深く向き合い、長い時間をかけて、コツコツと描いたからこそ、対象の本質や思いまでも感じ取ることができるといいます。

ホキ美術館には、その写実絵画がずらりと並んでいます。まずは館長の保木博子さんに、この美術館ができたいきさつを伺いました。

保木館長:ホキ美術館の館長をやらさせていただいております保木博子と言います。父(故保木将夫氏)が写実絵画のコレクションをずっとしておりまして、だんだんだんだん家の壁が足りなくなってきて、じゃあ隣におうちをひとつ買って、そっちをコレクションハウスにしようということで、コレクションハウスを作ったんですけれども、そうするとだんだんほかのお客様にも見せたくなってきて、それで「じゃあいっそのことオープンハウスしてみる」みたいな感じからオープンハウスを年に一度することになりました。最初は20~30人だったお客様が、ある時、はっ!て気がついたら1000人を越えていたので、これはもし何かあったら大変なことになるから、これはちょっとお休みしましょうっていうことで。そうですね、3年ぐらいやった時ですかね、休みました。もうオープンハウスがなくなるんだと私は思っていたのですが、父がやはりどうも美術館構想を頭の中にその頃から思い描きはじめまして、美術館を作るっていうことにだんだん方向性が向いてたっていうことですかね。

館長のお父様である保木将夫さんは、医療機器メーカー・ホギメディカルの創業者。ホキ美術館の初代館長でもいらっしゃいます。個人のコレクションが1000人もの人を集めるほど魅力的なのもすごいですけれど、美術館を作るときにも保木さんのさまざまなアイディアが生かされたそうです。細長い箱に四角い大きさの違う箱が組み合わさっていてその一部は宙に浮いているように見える斬新な外観の美術館はこんな風にできていったそうです。
保木館長:観光地にあるような美術館を作るんだろうっていうふうに思ってたんですね。そうしましたところ、父が自宅の近くで作ればいいんじゃないかっていうことを言いだしまして。じゃあ自宅の近くで土地を探そうって言った時に「あすみが丘東」が造成するちょい前ぐらいだったので、そこならまだ土地があるんじゃないかっていうことで、ここらへんで土地を探し始めました。そうすると、昭和の森の中を駐車場に向かう道があるんですけれども、そこを車で通った時に「この建物絶対入ろう」と思う建物を建ててくださいっていうのだけが、コンセプトとしてあって。依頼事項はそれだけで、ほかのことは何も依頼しなかったんですね。それで半年ぐらい経ったら、なんかちょっと変な格好してるものができそうだぞっていうのがわかり始めて、その後「えっ?」て思うような建物ができてました。まさかこんな格好してると思わなかったです。やっぱり四角いものだとは思いませんでしたけど、若干なんか凹凸があるんだろうと思ってましたけど、こういう回廊型の建物になるとは思ってなかったです。

基本の設計が終わって、まず、出来上がってきた模型を見たときも、博子さんは「随分と変な形」と思ったそうですが、お隣にある「昭和の森」との調和や、住宅街であるための高さの制限なども考えられています。

この設計・建築に携わる全員が「写実絵画を快適にみられる環境」にこだわり、「人生の中で1度あるか、ないかくらいの貴重な美術館を建てるチャンス」に向けて、アイディアを練りに練ったそうです。

そんなホキ美術館、2010年に開館して順調に営業を続けましたが、令和元年、最大のピンチが美術館を襲います。突然の災害が美術館を襲い、その影響は今も続いているといいます。
保木館長:(令和元年)前の二回の台風の時も大雨がずっと続いてたんですけど、三回目の時に線状降水帯というあれがちょうどここの緑区の上をずっと停滞していたものですから、うちが水害にあいまして。地上一階地下二階なんですけれども、地下二階部分が1mほど水没してしまいました。地下二階のすぐ下あたりに収蔵庫がありまして、収蔵庫の中はもう5日間ほどそのドアが開けられない状態になるほど、水がなかなか引かなくて、絵が百枚ほど水没してしまいました。どうしようって思いました。水が引ければ元に戻るような気がしてたんですけど、修復士の先生に「何をすればよろしいんですか?」ってお尋ねしたところ、「水で洗ってください」とかいろいろなことを教えていただいたんですけれども「そんな甘くありませんから」って言われて。その倉庫のドアを開けた時に目の当たりにしたっていうことですかね。
土地の傾斜の関係で地下に水が流れ込み、5日後にやっと倉庫のドアを開けたとき100枚の絵は泥まみれになったり、沈んでいたり、浮いていたり、全てが散らかって惨憺たる状況だったそうなんです。絵の修復士の方からのアドバイスで、まずは水洗い。ついたゴミや泥を流し、乾かして、燻蒸(薬剤を気体の状態にして浸透)して消毒していったそうです。

保木館長:燻蒸まではして、そのあと修復したりとか、額を作ったりとかっていうのを、まだ額に入ってない絵っていうのが半分ぐらいありますので、これからもまだ作家さんと相談したり修復士の先生と相談しながら絵を直し、額を作りっていうことをしていかなきゃいけないっていうのが現実です。駄目になっちゃった絵っていうのもあるので、作家さんたちともそういうことを色々話し合って、作家さんも、うちを盛り上げてくれようとしていらっしゃる方たちもたくさんいらっしゃるので、そういう方たちは対策とか「自分がこういうを絵を描きたかったから描いてもいいか」とたくさん作品をあげてくださいますし。あと、水害にあった絵を修復するとこうなるんだよとか、修復途中で、こういう状態からこうなってこうなって修復していくんだっていうことも、何かの機会でお見せできればいいなあというのはございます。
11月18日以降、新しい展示も始まりますので、その時にまた来ていただけるとありがたいですよろしくお願いいたします。

ホキ美術館は、この水害で9ヶ月間、休館を余儀なくされました。建物の復旧、そして今も続いている作品の修復作業。作品に新たに筆をいれるということはオリジナルとは変わってしまうことになりますから、「手直ししたい」「そのままで」など、作家の皆さん全員に連絡をとって確認をしながらその想いを最優先に作品の修復作業は現在も続いています。

「写実絵画」は特別な知識がなくても入っていける絵画作品ともいわれます。まずはぜひ美術館で、その魅力を確かめてみてください。館内にあるイタリアンレストランの窓から望む豊かな森の景色と絵画鑑賞をセットで楽しむのもおすすめです。
11月13日までは色をテーマにした「いろいろ色の魔法・・・色から見える写実展覧会」を開催していましたが、11月18日からは「レッツトラベル」と題し、旅をテーマにした企画展が開催されています。

また、ホキ美術館では写実絵画作家の発掘と写実絵画の発展を目的として3年に1度「ホキ美術館大賞」を開催していますが、次回の受付は来年の7月からスタート。現在は41歳以上の作家の方を対象とした「ホキ美術館プラチナ大賞」の応募作品を募集しています。こちらの応募期間は2024年7月まで。入選作品はホキ美術館で展示されるそうですよ。
◆ホキ美術館 ベースデータ ※変更になる場合があります。ホームページでご確認ください。
所在地: 〒267-0067 千葉県千葉市緑区あすみが丘東3-15/電 話:043-205-1500
営業時間:午前10時~午後5時30分(最終入館 午後5時)※要事前予約/休館日:火曜日