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千葉で受け継がれる伝統 人間国宝の技「長板中形」

2023/12/1 UP!

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“千葉で受け継がれる伝統”ということで、先日、千葉県内では20年ぶりとなる重要無形文化財の保持者、いわゆる「人間国宝」に認定された、染色作家の方をご紹介します。

まず重要無形文化財保持者というのは、「演劇,音楽,工芸技術,その他の無形の文化的所産で我が国にとって歴史上または芸術上価値の高い「重要無形文化財」の技能を持っているとして文化庁が認定します。今回は『長板(ながいた)中形(ちゅうがた)』という染色技法を受け継がれている、君津市在住の松原(まつばら)伸生(のぶお)さんをご紹介します。

「長板中形」という型紙を使った伝統的な染色技法を受継ぎ、重要無形文化財保持者、いわゆる人間国宝に認定された松原(まつばら)伸生(のぶお)さん。松原さんは君津市で活動されていて、伝統を守りつつ現代にも光る作品を制作。数々の伝統工芸展で受賞を重ね、2021年には紫綬褒章を受章。現在は公益社団法人日本工芸会の理事も務め、多方面で活躍されています。まずは、長板中形という技法についてご説明いただきました。

松原さん:長板中形は、まさに読んで字の如く「長い板を使って中ぐらいの紋様の型紙」を使った染め、昔、江戸の頃に発達した浴衣の呼称なんですよね。で、技法の名前でもありますし、作品にも長板中形何何紋様というふうにつけたりしますが、本来は分業の技法でした。のりを置いて形をつける仕事と、それを藍で染める、そういう風な染めてもらうところっていうふうに分かれてました。それが一つにまとまった呼び方として長板中形という言い方になってます。型紙に関しては、主に三重県の鈴鹿市白子伊勢形紙と呼ばれているものですけど、日本中の染め型紙のルーツみたいな場所があります。そこで彫られているものを主にしてます。ただ、ちょっと大きいものですとか、簡単なものは自分でも紋様を考えたり、彫ったりということはしたりします。

その染め方ですが、まずはおよそ6メートル40センチの長さのもみの木できた「長板」に生地を貼ってそこに型紙をつけて糊を置いていきます。しっかりと布の両面に糊を置いて乾かしてから、藍の染め液に浸すと、模様が真っ白に染め抜かれて、この技法ならではの紺と白の対比が美しい紋様が出来上がるんですね。糊はお米などを原料にするんですが、その配合を気温や湿度・季節によって微妙に変えているそうです。松原さんはこうした制作の工程をすべて手作業でしています。

実は、松原さん、東京から移住されてきた方なんです。その理由を教えていただきました。

松原さん:もともと生まれは東京都江戸川区。今は千葉県君津市の亀山という山の中におります。生まれ育った場所の仕事場がちょっと手狭になったということもありますが、やっぱり空気が良くて、場所が広くて風と水と、そういったものに恵まれているということが決め手になってます。今から約40年、39年かな。 それぐらいですね。長板中形というその染め技法にとって、天日、あるいは風ですとか、水っていうのが、もうとても重要なもので、どうしてもお日様の下でやらなければならない工程っていうのがあるのですね。そういった意味でもこの場所が一番適しているなというふうに感じました。

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松原さんは都立工芸高等学校デザイン科を卒業後、お父様と一緒に君津市に移り、2005年からお父様に師事されたそうなんですが、静かな環境、いい水、そして日照時間が長く、風も適度に吹くこの土地、大正解だったそうです。松原さんのおじいさまである松原(まつばら)定吉(さだきち)さんが、もともと分業制だった「長板中形」の工程を一貫制作にした技法で、昭和30年に重要無形文化財保持者に認定されたんですが、この1人で制作を担うスタイルが、今の場所での創作活動を可能にしたともいえるそうです。松原定吉さんともうひと方、人間国宝の認定を受けられた方が亡くなったことで解除になっていた「重要無形文化財保持者」、伸生さんの認定で復活したということです。

松原さん:今回、その認定を受けることになりました長板中形という技法自体にとってみれば、日本が世界に誇るというと口幅ったい言い方ですけど、そういった技術があったということ自体が、僕は非常に価値のあるものなのではないかというふうに自負しているところもあって。やっぱり日本ならではの仕事、これお米を食べている民族の独特なその「糊」の文化なんですけど。そういったことって、逆に海外の人にとっても非常に興味深く受け取られているフシがあって、実際にいくつか海外の美術館とのやり取りもありましたけど。興味を持たれていることっていうのを、僕らもうちょっときちんと自覚しなければいけないなと。そして広く知ってもらう必要もあるなというふうに感じています。

松原さんは、今回の認定は、今まで受けてきた数々の賞とは意味合いが違って、今までは「作品の出来栄え」や「これまでの活動」に関してのもの。でも重要無形文化財は「日本の大事な文化をしっかり護って、さらに受け継いでいってくださいね」と国にしっかりと念押しされた感じがして、ものすごく責任を感じているそうです。

現在松原さんは58歳。受け継いでいくための時間もたっぷりあるのでしっかりとやっていきたいということでした。こうして伝統文化や技法が注目を集めている反面、生活スタイルの西洋化からの着物離れなど、心配なこともあります。

松原さん:やっぱり着物離れっていうのは非常に大きいです。ここ数年になって、特に。だけどなくならないなと思っているのは、やっぱり本物が着たいとか、人間の物欲の中に人とは違うものが欲しいとか、あの本当に自分が良いと思ったものを手に取りたいとか、まといたいっていう欲求って消えないんですよね。人と違う、しかもその人の手で作られているというものに対する憧れだったりとかっていうものが、最終目標になっているような人にとっては、すごく興味を持ってみてもらえてるのかなって思うんですけど。そういう意味ではなんか僕らはそういう人たちに支えられているということも言えたりするので、非常にありがたいんですけどね。

松原さんは、多くの人に触れてもらう機会をということで、浴衣だけでなく着物に仕立てられるようにと、例えば絹や麻などの布も染めていらっしゃいます。丁寧な作業を積み重ねることによって木綿や麻だけでなく、絹などにも染められる長板中形。ぜひ本物を見ていただきたいと思います。

現在、久留里にある久留里城址資料館で、12月17日まで 「長板中形  松原伸生の伝統と展開」と題した展示会が行われています。型紙を使った染色技法「長板中形」の繊細な技術と、松原さんの洗練された作品をぜひご覧になってみてください。 

企画展のチラシはこちらから

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