2025/3/21 UP!
今日は、君津市にゆかりのある、国産のピアノ製造の先駆者のお話です。
今では学校や文化会館などで当たり前に見ることができるピアノですが、西洋文化とともに日本に入り、盛んに使われるようになったのは明治維新以降で国産のピアノが作られ始めたのは1900年頃と言われています。その時代に、ピアノメーカー「松本ピアノ」を創業した人物が、君津市出身の松本新吉です。今日はその音色を守る活動をされている方々の声とともに、「松本ピアノ」についてご紹介していきたいと思います。

「松本ピアノ」は、戦前の日本ピアノ製造の黎明期、「山葉」「西川」とともに「日本3大ピアノメーカー」として名を馳せ、手作業によるピアノづくりに拘ってきました。まずは、1865年(慶応元年)、現在の君津市常代で生まれた松本新吉がどんな人物だったのか。彼のひ孫で、現在、調律師としてピアノに関わりながら、地元で熱心に行われている保存活動にもあたっている松本花子さんにききました。
松本花子さん:松本新吉のひ孫となります。新しいものがまず好きだったんじゃないかとは思います。それで耳もすごくいい方だったって聞いているので、ピアノの音を聞いたときに衝撃が走ったと思うんですね。自分もこのピアノっていうものを作ってみたい。作るならば、音にこだわって、みんなが弾けるようなピアノを作ってみたいっていうふうには思っていたと思います。とにかくパワーはすごくあったと思いますね。私の父は3代目新一です。父が直したピアノを君津市で演奏会に使っていただいていたりしますけどもやはりあのピアノは弾いてこそピアノということでこれからもどんどん活用していただきたいと父が申しておりました。

松本新吉は左官業をしたのち、横浜のオルガン製作所でピアノ製作に出会います。1893年に独立して、ピアノづくりも始めますが、もっといいピアノを作りたいとアメリカに自費留学。日本人では初めて本場のピアノづくりの技術を学ばせてもらったそうです。その後、数々の部品を日本に持ち帰ろうとした船が嵐にあって遭難。全てを失ってしまいますが、木材を探すところから始めてようやく完成したピアノを、第5回内勧業博覧会に出品し、国内最高位を受賞します。銀座に楽器店を開き、工場も拡大、販売は好調で明治40年代には原敬首相など多くの著名人も顧客となったそうです。
度重なる災害などをうけ、新吉は東京の工場を息子に譲り、故郷の君津に戻り6番目の子供の新治とともに「松本ピアノ八重原工場」を設立、手作業によるピアノ作りを続けます。1940年代、新吉、新治が相次いで亡くなった後も、全国各地にピアノを送り出してきましたが、機械による大量生産という時代の流れには勝てず、2007年、ついにその歴史に幕を下ろします。工場内にあったピアノは君津市に寄贈され、その後設立された「松本ピアノ・オルガン保存会」のメンバーによって守られています。保存会の会長、篠宮則子さんにお話を伺いました。
篠宮さん:君津市出身の松本新吉が創業したピアノメーカーである松本ピアノの八重原工場の閉鎖に伴って君津中央公民館の市民サークルを母体として発足いたしました。八重原工場のところに行ったときに、手作りでこんな立派なピアノが数十台そのままになっている。これはもう何とかしたいと、自分たちももう一度このピアノの音色を聞いてみたいというような情熱を持って、3代目の松本新一さんに相談をかけて、新一さんを中心に、一緒に修復したりして演奏ができるようにまでしました。少しずつ市民の皆様に君津で生まれ育った松本ピアノってこんなのがあるんですよっていうことを年に3回君津文化ホールで松本ピアノコンサートというのを企画しまして、松本ピアノ実際に音色を聞いていただこうという演奏会を続けております。
元々は、君津をもっと知ろうという市民サークルで、市内を訪ねている中、八重原工場や松本ピアノのことを知り、「これは君津の大事な財産だ!」ということで、活動が始まりました。メンバーはピアノが弾けない人もいたそうですが、ピアノを直したり、会場を押さえたりして定期的にコンサートが開催できるところまで漕ぎ着けたそうです。年3回のコンサートや一般の方にも弾いていただけるイベントも実施しています。ちなみに松本ピアノの音色は「スウィート・トーン」と呼ばれ、その柔らかく優しい響きを決める部品には国産のエゾマツを使うなど、こだわって作られていることでも知られているんですよ。

今回、君津市役所の市長応接室にある松本ピアノのアップライトピアノを特別にお借りして、弾いていただきました。佐藤さんに、この松本ピアノを弾いた感想もうかがっています。
佐藤さん:松本ピアノオルガン保存会会員です。修復された松本ピアノはそれぞれ個性があります。新吉がいい音を出したいという音色に対しての共通した思いは出てると思います。響きが豊かな楽器だと思います。優しい音だなってまず思いました。そして弾いていくうちに、やっぱり重み深さが感じられるようになって、面白いなと思いました。弾き手にとっては、タッチとか思いがそのまま出てしまう、とても難しい点でもあると思いますけれども優しい音が弾きたいなって思って、そのタッチでいくと、それが出てきます。特に私が気に入っているのは、ピアノの真ん中から下、低音部分ですね、とても厚みがあって、上手に弾くと、オーケストラのような音もします。低音が素敵だと思ってます。

ピアノの音色から弾き手の想いを感じられるんですね。
音色にこだわった松本新吉の情熱とその信念が、製品の品質と企業文化に色濃く反映された松本ピアノは、君津の歴史の中でとても重要な文化資産だということで保存活動、周知活動に君津市も力を入れています。修復された松本ピアノは、君津市民文化ホールに保管され、演奏会やイベントで使用されています。君津市役所制作推進課の倉本さんに、君津市の取り組みをききました。
君津市役所政策推進課の倉本さん:この松本ピアノ、君津にしかない魅力の一つというところで、君津市民はもちろんですし、市外県外の人にも多くの人にも知っていただいて、松本ピアノの入口として、君津に足を運んでいただいてですね、またこの君津を知らなかった人も、松本ピアノという名前を通して君津を知っていただいたりですとか、また実際に君津に来ていただいた後も、松本ピアノ以外のこの魅力についても一緒にたくさん触れていただいてですね、君津を好きになっていただけたらと思っております。皆さんのご家庭での松本ピアノにまつわるエピソードですとか、思い出ですとか、そういったものがございましたらぜひ気軽に君津市役所までご連絡いただければと思います。ぜひお話をお伺いさせてください。君津市としても大事な文化資産としっかり捉えているようですね
松本ピアノの演奏体験は君津市のふるさと納税返礼品にもなっています。その他定期演奏会や詳しい情報は松本ピアノ・オルガン保存会の公式HPをご覧ください。
https://www.city.kimitsu.lg.jp/site/matsumotopiano-seisaku