2022/10/2 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、イラストエッセイストの「松鳥むう」さんです。
漫画風なイラストと親しみやすいエッセイで人気の松鳥さんは、離島とゲストハウス、そして地元滋賀県内の民俗行事をめぐる旅をライフワークとされています。
20歳のときの卒業旅行で、屋久島に行ったことをきっかけに島旅にハマってしまった松鳥さんは、これまでに118の有人島を訪れていて、泊まったゲストハウスは100軒以上。その土地の日常の暮らしに、ちょっとだけお邪魔させてもらう旅が好きで、地元の民俗行事や郷土料理との出会いも大事にされています。
きょうは主に、あまり知られていない珍しい郷土料理のお話などうかがいます。
☆写真&イラストレーション:松鳥むう
元気の素、鹿児島の茶節
※松鳥さんは先頃『むう風土記(ふどき)〜ごはんで紐解く日本の民俗・ならわし 再発見録』という本を出されました。この本の狙いは、どんなところにありますか?
「幅広い年齢のかたに読んでもらいたいのと、自分の地域を改めて見る、みたいなことをしてもらいたいなと思ってるんですね。イラストをいっぱい入れたのは、文字が読めない小っちゃい子でも、イラストを見て面白いなと思ってくれたらいいなと思って・・・。
あと、私がボキャブラリーが少ないっていうのもあるんですけど、わかりやすい言葉で書いているので難しくないです。私が民俗行事にハマった時に、いろいろ面白いなと思って、本をあさったんですけど、先生がたが書いていらっしゃるのが多くて、興味はあるけど難しくて、読んでいる途中からカァーって寝てしまって(笑)・・・もうちょっととっつきやすいのがあったらいいなと思って、そんな感じで書いています」
●とっても読みやすかったです〜。この本に載っている記事の中からいくつかお聞きしたいと思うんですけれども、いろんなご飯が載っていましたね。興味深い食がたくさんあったんですけれども、まずは鹿児島県の”茶節(ちゃぶし)”。これはどんなものなんでしょうか?
「味噌汁を飲むような汁物の茶碗にお味噌を大さじ一杯、鹿児島なんで麦味噌なんですけど、そこに鰹節をひと握り入れて、そこにお茶をかけて飲むんです。簡単に言えば、グツグツしない超簡単な味噌汁ですね」
●本には「元気の素(もと)」、そして「のんべえの安らぎ」とも書かれていましたね。
「後半のは私の感想なんですよ、のんべえなんで(笑)。元気の素は鹿児島の郷土料理で、茶節はそうだって言われているんですけど、おばあちゃん世代でも、今はあまり飲む人がおられないらしくって、だいぶ上のおばあちゃん世代の人たちが毎朝飲んだりとか・・・。
あと、風邪をひいた時に親が作ってくれたという人がいたりしますけど、私はこれ(お酒を)飲んだあとの一杯に絶対いいと思っていて、全国の居酒屋の締めのメニューに入れるべきだと私は思っているんですよ(笑)」
●私ものんべえなので、すごく興味深いです!
「ちょっと飲んだあと、茶節を飲んだら二日酔いないですから、ぜひ飲んでください、簡単なんで」
●味はお味噌汁みたいな感じってことですよね?
「そうですね。お味噌の味と鰹節の出汁が勝っちゃうので、そんなにお茶の味はしないです。自分で作るときは、地元の人がお茶でもお湯でもいいって言ってたんで、自分の家でやるときはお湯をかけてやります」
(編集部注:沖縄にも「カチューユー」という、同じような汁物のお料理があるそうです。茶碗などに味噌と鰹節を入れてお湯を注ぐだけ。食欲がないときや風邪をひいた時などにおすすめだそうです)
記憶を失う!? 白川村の「どぶろく祭り」
※新しい本『むう風土記』で、岐阜県・白川村で開催される「どぶろく祭り」が紹介されていました。これはどんなお祭りなんですか?
「 毎年9月から10月に行なわれるんですけど、私が書いたのはその白川村の中でも平瀬温泉っていう、みなさんが知っているあの観光地の白川郷からちょっと離れているところなんですよ。10数キロ離れているところで、同じ村なんですけど、そこの集落の『どぶろく祭り』にお邪魔したんです。
どぶろくは、みなさんご存知の通り、あの白いどろっとしたやつなんですけど、それを神社で作っていらっしゃいます。全国各地にどぶろく祭りはあって、そういうところはたいがい地元の神社にどぶろくを作る場所があって、地元の人が作らはるんですけど、特別な許可をもらって作っていらっしゃって・・・。
この祭りがすごいのが、コロナ禍ではほかの場所の人とか入れなくてダメなんですけど、コロナ前の時はお客さんとか観光の人も来てよかったんです。観光地の白川郷のほうでも、別の神社でどぶろく祭りがあるんですけど、そっちだと観光客が多いから、どぶろくをひとり一杯ぐらいしかもらえないらしいんです。平瀬温泉のほうはそこまで観光客が来ないらしくて、何杯も飲めるって言われたんで喜んで行ったんですよ。
最初からどぶろくを飲むだけの祭りじゃなくって、ちゃんと獅子舞とかまわったりするんですよ。それで最後、神社でみんなござを敷いて、そこにみんな座って、どぶろくを注いでくれるお姉さまがたが、席をまわってくれはるんです。
まぁ“わんこそば”のように、なくなったと思ったら、いきなり現れてまた注いでいって(笑)、最初は観光客やからあんまり飲んだら申し訳ないと思って、遠慮していたんですけど、あまりにも来てくれるんで、喜んで飲んでいたら、記憶が一瞬のうちに消えて! すごいです、どぶろく。
でも地元の人たちはみんなそれを飲んで、さらにそのどぶろくを飲んだあとに、集落の別のスペースにステージを組んでいて、その平瀬温泉地区に住んでいる人たちはみんな芸達者で、みんなそこのステージで(芸を)発表されるんですよ、どぶろくをたんまり飲んだあとに!
私は記憶がなくなっているから、それを見てないんですけど、見た友達はめっちゃ素晴らしくレベルが高いって言ってはりました。しかもその平瀬温泉集落の人は芸達者の人が多くて、芸能プロダクションみたいなものを自分らで作っていて、若い人からおじいちゃんおばあちゃんまで入ってらっしゃるそうです」
●活気がありますね!
「ありすぎて、普段すごく小っちゃい集落なんで、そんな人がたくさんいるように見えないんですけど、すごいんです」
地元の人でも知らない納豆餅
※松鳥さんの地元滋賀に「納豆餅」という食べ物があるんですね?
「そうなんですよ。滋賀でも、私もその地域の人ではないので、全然知らなかったんですよ。滋賀県の大津市の山のほうに仰木(おうぎ)っていう地区があるんですけど、そこだけで食べられていて、ほかの人は多分、滋賀県の人も全然知らないんですよ」
●どんな食べ物なんですか?
「たぶん関東の人は納豆餅っていうと、東北の丸めたお餅に納豆をまぶして食べるっていうのを知っている人が結構多いと思うんですけど、滋賀県のほうのは丸めたお餅を一回開いて、丸い平らな形にして、そこに納豆を置いて、納豆を餅で包んで食べるんですよ。三角チックな形で手も汚れず食べやすいという・・・。
しかもその餅のまわりにきなこをまぶすんですけど、きなこは砂糖じゃなくて塩味にしてまぶすんです。納豆と塩は合うじゃないですか。めっちゃいいですよね。
東北の納豆餅をお箸で食べると、納豆と餅がいつもバラバラになってうまく食べられないんですよね。餅を食べたあとに納豆を食べるみたいになってたから、包んでしまうとめっちゃ食べやすいみたいな・・・」
●なるほど〜。
「その滋賀県の納豆餅が、山を越えた隣の京都の山側にも、同じような納豆餅があって、そちらはバリエーションがもっと豊かなんですよ。
滋賀県と同じ包むバーションもあったり、ロールケーキみたいにして、ロールケーキのスポンジが餅で、中のクリームの部分が納豆みたいなロール状のとか、あと普通に切り餅、餅に埋め込んで四角い、よく売っている形にしたバーションとがあるんですよ」
●へぇ〜すごい。納豆文化があるっていうことなんですかね?
「そうです、そうです。昔から、平安時代の貴族の人は食べていたっていう文献があるらしいので(納豆文化は)あるんですね。その納豆餅のエリアは、田んぼのまわりに昔は大豆を植えていたので、どこの地域でも植えていると思うんですけど、大豆の栄養が稲にいくからいいっていうので、それで大豆があるから納豆を作っていたっていう感じらしいです」
(編集部注:ほかにも松鳥さんの地元滋賀には、ドジョウとナマズとご飯を漬け込み、発酵させた「ドショウとナマズのなれずし」という珍味があるそうです。松鳥さんがおっしゃるには、ブルーチーズの味にやや近い感じだそうですよ)
千葉の郷土料理「しもつかれ」
※千葉県のおすすめの伝統料理はありますか?
「千葉の人には多分メジャーではないと思うんですけど、今回の本にもちょっと書いている”しもつかれ”っていう料理があって、主には栃木県あたりがメインの郷土料理として取り上げられることが多いんですね。
このしもつかれっていうのが千葉と茨城と栃木と埼玉・・・きゅっと集まった県境があるじゃないですか。あの辺の郷土料理で、毎年初午(はつうま)の日に食べられる郷土料理なんです。だいたい2月の節分のあとぐらいなんですけど、その時に農家さんが地元の稲荷神社に、赤飯としもつかれを供えるっていうことなんです。
なぜ名前が“しもつかれか”っていうのは、話が長くなるので、それは本を読んでいただきたいなって思うんですけどね(笑)。
(具材として)入れるのは、大根と人参と油揚げ、あと酒粕と鮭の頭を入れて煮て、大根と人参は“鬼おろし”っていう台所用具でガリガリガリガリ擦って、鮭の頭も細かくなるまで煮る料理なんですね。
昔は年末に“年取り魚”っていって、塩鮭か塩鰤(しおぶり)を食べる文化が昔は各地域にあったんですけど、塩鮭が1月になってもちょこちょこ食べて、最後に余った頭まで残さず全部食べてしまおう、みたいのも合わさってできた郷土料理ですね。酒粕も入れるんで、蔵で酒粕が余っているのを入れるみたいな、農家さんだから大根いっぱい余っているから入れるみたいになったらしいんです。
そこに節分の時に出る大豆も入れちゃう、みたいな・・・それでグツグツ煮るんですね。好き嫌いがぱーんと分かれる郷土料理で、酒粕と鮭の匂いが相まって、嫌いな人は嫌いらしいなんですけど、私は好きなんですけどね。酒粕は好きなんで・・・」
●私、千葉出身ですけど、ぜんぜん知らなかったですね〜。
「千葉も上から下まで広いですもんね! そりゃ知らんですよ」
●興味深いですね〜。
「しもつかれ、ぜひ食べてみてください」
地元のスーパーのお惣菜コーナー!?
●伝統的なお祭りとか行事って、意外と近くにあるのかもっていうのをこの本を読んで思ったんですけど。
「あります、あります! 私もきっかけは、実家の隣の町にたまたま行った日に、神社でお祭りをやっていて、そこで行事食を出されて分けてもらったのがきっかけだったんですよ。
郷土食とか民族行事に興味を持ったのは、30後半か40歳の時なんです。その民族行事に出会ったのが・・・ぜんぜん知らなかったので、探したら多分めっちゃいろいろ出てくると思います。ただ、その料理を作れる人は年配のかたがたが圧倒的に多いので、今のうちに巡っておかないとなくなるなっていうのはありますね」
●旅先で美味しい郷土料理とか、代々伝わる家庭の味に出会うための、なにかコツのようなものってありますか?
「地元の図書館で調べるのと、もうひとつは地元のスーパーのお惣菜コーナーに行くと、知らん食べ物がちょろっと現れるんですよ。だいたいどこに行ってもメジャーなお惣菜は一緒なんですけど、あれ? これなんやろ? みたいなのがあるので、その時はそれを買って食べてみて、みたいな・・・」
●旅先で出会う食から、松鳥さんはどんなことを感じますか?
「材料が当時は豊富にあったであろうから、その郷土料理ができあがったけれど、環境や物流の変化でどんどん変わっていって、逆に揃えるのが大変になって、それでどんどん食べる人がいなくなって、現代の環境と合わないから、廃れていくんだろうなと思いつつ・・・。
でも、その料理がこの食材で作られたのはどうしてかって調べていくと、昔の人の生活とか物とか、人がどういうふうに動いていたのか・・・今とは違うルートで動いているんですよね。離れた地域に同じ食があったりしていて、その辺を巡っていくのも楽しいなって思います」
☆この他の松鳥むうさんのトークもご覧下さい。
INFORMATION
『むう風土記〜ごはんで紐解く日本の民俗・ならわし 再発見録』
松鳥さんの新しい本をぜひ読んでください。松鳥さんが旅で出会った食文化や伝統行事などがイラストともに紹介されています。こんな郷土料理があったのか、と驚きの連続で、楽しく読めますよ。おすすめです。
「A&F」から絶賛発売中です。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎「A&F」HP:https://aandf.co.jp/books/detail/mufudoki
本の発売を記念して、松鳥さんのトークイベントが10月22日(土)の午後2時から、東京駅前の新丸ビル7階の「MUSMUS」で開催されることになっています。山形県酒田市の郷土ごはんと飲み物がついて、入場料は2,000円。
詳しくは松鳥さんのオフィシャルサイトを見てくださいね。
◎松鳥むうさんのサイト http://muu-m.com