2026/5/24 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、文筆家そしてエッセイストの「木谷美咲(きや・みさき)」さんです。
木谷さんは2005年に、立ち寄った園芸店で「ハエトリソウ」という食虫植物に出会い、一目惚れ! 棘のついた二枚貝のような独特なフォルムに魅了され、それ以来、どっぷりと食虫植物にハマっていらっしゃいます。

そして「ウツボカズラ」を使った料理があることを知り、食虫植物をめぐる食文化にも興味が拡大! しまいには『ウツボカズラ飯紀行〜食虫植物と食文化をめぐる冒険』という本を自費出版するほど、虜になっています。
そんな木谷さんに、ボルネオ島のジャングルに自生するウツボカズラの特徴や、先住民の伝統食「ウツボカズラ飯」についてうかがいます。いったいウツボカズラ飯とはどんな食べ物なのか、その実態に迫ります。
☆写真:木谷美咲

ウツボカズラ、素敵な「ヴィーチ」!?
※もともと植物には関心はなかったという木谷さんは、先ほども触れたように、園芸店でハエトリソウに出会って以来、すっかり植物好きに。野山に自生している植物の写真を撮りに行くほど、のめり込んでいらっしゃいます。
木谷さんが自宅で育てているウツボカズラ、その野生種はおもに東南アジアのタイ、マレーシア、インドネシアのほかに、マダガスカル、セイシェル、オーストラリア、そしてインド、ニューカレドニア、スリランカなどの高温多湿のジャングルに自生。その特徴は、葉の先端が袋状になっていて、そこに消化液を溜め、おびき寄せた虫を落として、消化・吸収しているところにあります。

●ウツボカズラは虫をおびき寄せるために、なにか臭いを出しているんでしょうか?
「ウツボカズラの袋状になったものを『捕虫袋』と呼ぶんですが、その袋全体から蜜を分泌させて、その蜜であったりフェロモンで虫をおびき寄せて捕まえています」
●そもそもどうして植物なのに虫を食べるようになったんでしょうね?
「不思議ですよね。植物であるにも関わらず、虫を捕まえてしまうっていうのは、とても面白い生態だと思うんです。
食虫植物が生える場所が貧しい栄養の土壌で厳しい環境なんですね。その厳しい環境で育つために虫を捕まえて、有機物を補助的に栄養にして育っています」
●世界では何種類ほどのウツボカズラが見つかっているんですか?
「原種でおよそ170種確認されています」
●170種! その中でも木谷さんがお好きなウツボカズラは、何というウツボカズラで、どんな特徴があるんですか?
「ウツボカズラはとても魅力的な植物なので、どの種類っていうのが選びきれないっていう感じなんですけど、特に思い入れの深い種類もあります。
特に好きなのが、自生している場所に見に行った『ヴィーチ』っていう種類で、捕虫袋が顔ぐらい大きいんです。で、入り口の部分をえりって呼ぶんですけど、そのえりの部分がとても広くて、造形がとてもユニークで素敵なヴィーチっていう種類が好きです」

●顔ぐらいの大きさって、実際に見ると迫力ありそうですね!
「はい、非常にありました!」
●それは、どのあたりに自生しているんですか?
「私が行ったところはボルネオ島の“マリアウベイスン”・・・ボルネオ島のマレーシア領はサバ州とサラワク州に分かれているんですけど、その北部のサバ州にマリアンベイスンっていう、すり鉢状になった地域がありまして、その場所に自生していました」
●ウツボカズラが自生しているその場所について、もう少し詳しく教えていただけますか?
「ほかの植物がなかなか育つことができない環境の土壌に育っています。で、ほかの植物が栄養が足りなくて、細いペンシル状になっている木とかが見られるようなところであったり、光も放射状に差し込むようなところであったり・・・で、湿度が高いですね」

●ジメジメしているんですね。
「はい、根元がコケむしているようなところなんですけど、土壌が豊かではなく、酸性土壌の貧しい栄養の場所です」
●よくそういった場所で生き延びられますよね。
「そういうところだからこそ食虫植物は育って、ほかの植物との競合を避けて、ニッチな場所に適用して育っているんですね」
●そういった場所で、どういうふうに育っていくんですか?
「ウツボカズラはツル性の植物ですので、ほかの植物に巻きつくようにして、上に伸びています」
●結構高さがあるっていうことですか?
「そうですね。観察したものでも2メートルぐらい、ほかの木にぐるっと螺旋状に巻きついて、鈴のように袋をぶら下げて育っていましたね」
●へ〜! どんな花が咲くんですか?
「非常にユニークな形の花なんですけど、『集合花』っていう細かい花が軸にいっぱいつく形で咲いています」
(編集部注:ウツボカズラの花は、赤みを帯びた褐色や茶色など地味な色合いで、その香りは・・・生臭いというか、かなり独特な臭いを発するそうです)
衝撃のウツボカズラ飯!
※木谷さんの本『ウツボカズラ飯紀行〜食虫植物と食文化をめぐる冒険』の表紙写真に、袋状のウツボカズラにお米を詰めたようなものがたくさん並んでいます。これが「ウツボカズラ飯」なんですか?

「そうなんです。食虫植物のウツボカズラの捕虫袋を使った料理があるってことで、それがウツボカズラ飯なんです」
●これは東南アジアのローカルフードっていうことですか?
「はい、そうなんです」
●おもにどのあたりの料理なんでしょう?
「ウツボカズラが自生している地域のマレーシア、タイ、フィリピンを中心に作られている、先住民族の伝統料理です」
●木谷さんはこのウツボカズラ飯の存在を知ったあとに、ご自身でも作られたんですよね?
「はい、作りました」
●そもそもどうして作ってみようと思われたんですか?
「まず、このウツボカズラの捕虫袋にご飯を入れるっていうのに、すごく衝撃を受けました。ウツボカズラ飯を知る前に食虫植物を愛好していましたので、ウツボカズラっていうと、どうしても観葉植物のイメージのほうが強かったんです。
鑑賞して楽しむものっていう固定概念が自分の中にあって、それを食材って言いますか、料理の素材として使うっていうのが本当に・・・なんでしょう・・・自分の価値観がガラガラって崩れていくような衝撃を受けて、その次に思ったのが、どんな料理なのか自分で作って味を確かめてみたいって思うようになったんです」
●どうやって作り方を調べたんですか?
「作り方をネットで検索したり、いろんなかたに聞いたりしてみたんですけど、まったくわからなくて・・・それで、わずかな断片のような情報が、例えば英文であったり、現地を取材した記事の断片であったりみたいなものを見つけて、つなぎ合わせて作ってみました」
●味付けとかって、どういう感じなんですか?
「最初は味付けもまったくわからなかったんです。材料だけ書かれていて・・・ウツボカズラの捕虫袋の中にもち米を入れて、ココナッツミルクで味付けしてあるっていうような記事がありました。
で、ココナッツミルクっていうと、お菓子みたいな感じかなって、私は思ったので・・・砂糖やもち米を使ってバナナの葉で蒸す、似たような料理が東南アジアにありますので、それを参考にしてバナナを具にして入れてみたりとか、いろいろ試行錯誤して作ってみました」
●最終的にたどり着いたっていうことなんですね!
「はい! ただいくら作ってもそれが本当に正しいのかっていうのが、まったく確信が持てなかったです」

自作のウツボカズラ飯に罪悪感!?
※ウツボカズラ飯の調理方法は「蒸す」んですか? それとも「茹でる」んですか?
「蒸す方法と茹でる方法が断片的な情報で得られまして・・・でもどっちが正解かわからないので両方やっています」
●ウツボカズラの袋は食べないっていうことですよね? 容器のようにして使うっていうことですよね。
「それも最初わからなかったので、袋を食べてみたりとか、いろいろしてみたんですが、現地の情報がわかるにつれて、捕虫袋は完全に器としてしか使っていないっていうのがわかりました」
●ウツボカズラの袋は、どうやって手に入れたんですか?
「(自分で)栽培しているものです」
●ウツボカズラを調理する時は、どんなお気持ちになりました?
「それがなんかあれなんですよね・・・罪悪感が最初ありました」
●罪悪感ですか? どうしてでしょう?
「なんでしょうね(苦笑)・・・うまく表現しにくい部分なんですけど・・・ウツボカズラは希少な植物ですし、捕虫袋を立派に育てるのもなかなか難しいので、立派な袋がついた時は観賞して、すごく嬉しい気持ちになるんですね。
それをわざわざ、いい状態の時に切ってしまうっていうのが、つらい気持ちになりますし、植物を育てている上で感情移入をしているので、切ってしまってかわいそう・・・みたいな気持ちが芽生えてしまうんですね」
●愛情込めて育ててっていうことですよね。
「ただ不思議ですよね・・・例えば、野菜を育ててうまく育った時に、収穫する時は罪悪感は感じないと思うんですよ」
●確かにそうですね。
「なんですけど、観葉植物ってイメージが自分の中にやっぱり根深いところに根をおろしているみたいで、どうしてもその抵抗がありましたね。これを料理してしまうのかっていう・・・」
●実際ご自身で作られたウツボカズラ飯のお味はいかがでしたか?
「まあ、こういう味なんだ! って思いつつも、本当にこれでいいのかなって、これが正しいレシピなのかなっていう疑いが常にありました」
●もち米ってことは、食感はもちもちしているっていうことですか?
「そう! もちもちしています。ココナッツミルクの風味も効いていて、食べやすく癖もなく自然な味わいですね。特にウツボカズラに特有の癖がある香りとか味はありませんので、本当に器として機能しているというか・・・」
(編集部注:食虫植物の普及活動を行なっている木谷さんは、虫つながりということで、昆虫食の愛好家のかたたちと仲良くなって興味の範囲が広がり、イナゴや蜂の子を具にしたウツボカズラ飯を作ったこともあるそうです。もち米とよく合って美味しかったそうですよ)
本場のウツボカズラ飯、そのお味は?
※実際にウツボカズラ飯の調査に行く機会があったんですよね?
「そうなんです。食虫植物の取材にボルネオ島を訪れまして、可能であれば、ウツボカズラ飯もその現物を見てみたいと思っていたんです」
●実際いかがでしたか? 実物に出会えましたか?
「それが最初に行った時が2010年なんですけど、その時はウツボカズラ飯を見つけることができなかったんです。ただ現地のかたに“あるよ!”っていう話をお聞きすることができて、それはすごく嬉しかったですね。
断片的な情報でしか知り得なかったウツボカズラ飯が、本当にあったんだっていうのがわかりましたので・・・」
●本場のウツボカズラ飯に出会えたのはいつ頃になるんですか?
「それが3年前の2023年になります」

●本場のウツボカズラ飯のお味はいかがでした?
「それが(味付けが)まったく違ったので、自分が今まで作っていたのが違ったんだ! っていうのがわかって、それもまた衝撃でした」
●どんな味だったんですか?
「それが、塩味だったんですね!」
●ええ~〜っ、甘くないってことですか?
「甘くない、かなり・・・しかも塩分が強い味で・・・」
●しょっぱい感じ?
「そうです! ココナッツミルクに塩と、あと現地の醤油に似たソースがあるんですけど、それが使われているような味で・・・おやつの甘いお菓子みたいなのをイメージしていたのが、しっかりとした、なんでしょう・・・主食になるようなご飯でした」
●ええ~っ! 地元のかたがたは召し上がっているものなんですよね?
「そうですね」

●郷土料理というか伝統料理というか・・・。
「はい、そうですね。ビダユ族っていう先住民族のかたがたの間で作られている料理でした」
●地元のかたがたにとっては、自然な発想でっていう感じなんですか?
「郷土料理だと思います」
●袋状のものを器にっていう、その発想が面白いですよね。
「面白いですね。その捕虫袋は普段、消化液を溜めているような袋ですので、水を漏らさないですし、耐久性もバナナの葉みたいにしっかりあるんですね。なので、植物を器に使う文化の中でも、ウツボカズラの捕虫袋は非常に優秀な素材だと思います」
●もち米を入れるってことは、破れたりしないのかなって思っちゃいますけ
ど・・・。
「結構丈夫なんです、繊維質で・・・」
●かなり強度があるんですね?
「そうですね。熱を加えても大丈夫っていうのが本当に素晴らしいですね」

謎だらけ、だからロマン!
※ウツボカズラ飯の調査は、これからも続けるんでしょうか?
「ぜひ続けていきたいですね」
●やはり(調査に行くのは)ボルネオ島になるんですか?
「はい、ボルネオ島です。ただ、タイやフィリピンでもウツボカズラ飯自体は作られているっていう情報を得ていますので、そこの調査もしてみたいです。あとビダユの人たちがウツボカズラ飯を作っているので、ビダユの人たちと一緒に作ってみたいです。もし叶うなら!」
●改めてになりますけれども、ウツボカズラを含めて食虫植物のどんなところに魅力を感じていらっしゃいますか?
「そうですね・・・食虫植物やウツボカズラ飯の魅力は、謎に満ちているから・・・ウツボカズラ飯もどういう料理なのかまったくわからないところから始めて、徐々に全容が明らかになっていき、ただそれでもわかりきれないところがあります。
食虫植物にしてもそうで、なんでこういう生き方をしているのか、どうしてこういう形なのか、非常に謎に満ちた魅力的な植物だと思います。なので、これらのものの魅力はロマンですね」
INFORMATION

木谷さん初の自費出版本をぜひ読んでください。謎だらけだったウツボカズラ飯を追いかけて17年! わずかな情報をもとに作ったウツボカズラ飯の試行錯誤ぶりや、オリジナル料理のレシピのほか、本場のボルネオ島でついに出会ったウツボカズラ飯の実態など、興味深く面白いエッセイです。口絵のカラー写真も必見です。
お買い求めは木谷さんのオフィシャルサイトから、どうぞ。
https://kiyamisaki.com/






