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生き方、考え方のヒントにもなる「発酵」〜「麹」に生かされている日本人

2026/7/26 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは麹の専門家、麹文化研究家の「なかじ」さんです。

 「なかじ」さんは千葉県香取郡にある、350年以上の歴史を誇る酒蔵「寺田本家」で、「蔵人」として日本酒づくりに携わり、醸造の技術や麹づくりを習得。

 2018年からは、家庭の麹づくりを広める「麹の学校」を運営するなど、麹のスペシャリストとして活躍されています。そして先頃、『発酵を考えるヒント』という本を出されました。

 そんな「なかじ」さんに日本人の食生活や健康には欠かせないと言ってもいい「発酵」と「麹」について、いろいろお話をうかがいます。

☆写真協力:なかじ

「なかじ」さん

お米に白い毛がふわふわふわ

※「なかじ」さんは1979年、大分県生まれ。学生の頃にバックパッカーとして海外へ。旅に出たのは、地平線が見えない地域で育ったので、地平線とそこに沈む夕陽を見たいという理由で、まずはモンゴルを目指し、その後、中国、東南アジア、ヨーロッパなどを、あしかけ2年かけて巡ったそうです。

 そんな「なかじ」さんが、どうして千葉県の酒蔵「寺田本家」で酒づくりに従事することになったのか。そこには不思議な巡り合わせがあったんです。

 旅に出る前から民謡や民俗芸能に関心があった「なかじ」さんは、特に日本の各地に残る伝統的な「仕事歌」が好きで、覚えては歌っていたりしたそうです。海外の旅から帰国後、知り合いに連れて行かれたのが、なぜか、寺田本家。

 日本酒を造る時の仕事歌を知っていた「なかじ」さんは寺田本家の先代の前で、その歌を披露したところ、先代がいたく気に入り、その冬に始まる酒づくりに誘われ、アルバイト感覚で参加したら、それが仕事になったということなんですね。

 当時「なかじ」さんを含めて、日本酒づくりに参加した5人は、なんと、みんな素人。そこでお酒づくりの責任者「杜氏(とうじ)」が作業の合間の休憩時間に日本酒づくりのイロハを、まるで大学の講義のように黒板に書いて教えてくれたそうですよ。

●まずは「なかじ」さんに日本酒づくりの工程を教えていただきました。

「まず、お米を洗って浸漬(しんせき)して、水を吸わせて、そして翌日蒸して、蒸し米ができたら、それを麹にする。3日間、麹にして、そこから酒房(しゅぼう)に発酵する素であったりとか仕込みだったり、大きなタンクに仕込んだりとかっていうふうに割り振っていくって感じですね」

●麹と向き合う日々で、どんな思いが芽生えましたか?

「最初は蒸し米に対して、麹のタネである種麹(たねこうじ)っていう、ふわふわっと目に見えない小さな胞子なんですけども、それを振りかけて3日間、温かい所に置いとくと、蒸し米の表面に白い毛がふわふわふわ~っと付くんですよね。

 それを夜、麹室の蓋を開けて覗いてみると、お米の全面に白い毛のような感じがふわふわ~っと生えていて、それを見た瞬間、やっぱり感動しましたね。これが麹なのか! って・・・」

●そうなんですね。で、麹にどんどん魅了されていったという感じなんですか?

「そうですね。もちろん麹だけではなくて、お酒づくりの現場なので、お酒のもろみであったりとか、酵母菌や乳酸菌の活動とか、いろんな菌が働くんですね。今まで菌が働くとか発酵とか、その歳までは人生で意識したことなかったんです。

 発酵の現場に入って、目の前で目に見えない菌が動いているのを直に見せられて、お米に白い毛が生えることであったりとか、お酒のもろみ発酵、タンクであれば、お米と水を入れていたものがポコポコって泡が立ってくるとか・・・。

 泡が立ってくる現象と同時に良い香りがしたり、フルーツのような香りがしたりとか、舐めてみたら甘くなっていたりとか、五感に入ってくる微生物の命の活動がダイレクトに堪能できるっていうか・・・。

 微生物って本当に目の前にいて、こうやって人間に影響を与えるほど生きているんだっていうのをそこで改めて見て、麹やお酒の微生物の活動に感動したっていうのがきっかけですね」

●普段は、なかなか目の当たりにできないですよね?

「そうですね」

●結局、何年ぐらい寺田本家にいらしたんですか?

「8年ぐらいいました」

●麹専門家の原点ですね。

「なかじ」さん

ありがたい「ニホンコウジカビ」

※初歩的なことになりますが「発酵」とはなにか、教えてください。

「発酵って実はその定義は非常に曖昧だったりして、一義的には微生物が有機質を分解代謝して、それが人間にとって有効的であれば発酵、それが人間にとって害があれば、腐敗っていうふうな分け方がありますね」

●確かに発酵と腐敗の違いって曖昧な気もしますけど、有益かどうかっていう違いなんですか?

「いちばん大きな視点としては、まずそこがありますね。でもひとことに発酵と言っても、例えば日本人にとって豆が腐る納豆は発酵と見ていて、日本人が納豆を美味しく食べたり、納豆の香りも日本人は“いい香りだな~”って嗅ぐことができますけども、それが欧米系の人にとっては、大豆が腐るのは腐敗なわけであって、かつ納豆の匂いというものも、なんか嫌な匂いだったりとかするわけですね。
 このように文化的な背景とか、あとは知識とか、その人の胃腸の強さとか、許容範囲とかでも違ったりします」

●なるほど。発酵する微生物で、人間に有益なものの代表が麹菌っていうことなんですか?

「そうです。麹もカビなんですよ。麹の和名としての正式名称が『ニホンコウジカビ』っていうんですね。なので、コウジカビであってカビの仲間ですね。カビの仲間なんですけども、日本人とは非常に歴史が長くて、人間にとって有益ないろいろな代謝物を作ってくれるカビです」

●麹菌は何種類ぐらいあるんですか?

「現場でよく使われるのは大きくは3種類ですね。お米を分解するのは『アスペルギルス・オリゼー』、お醤油を造る『アスペルギルス・ソーヤ』、あとは沖縄とか九州で焼酎を造る麹菌があって『アスペルギルス・リューチューエンシス』っていう、この3種類がよく使われていると思います」

●確かにお酒や醤油、味噌を造るのに欠かせないものですよね。用途によって使う麹菌が異なるっていうことなんですね?

「そうですね。麹によって、お米を食べたり大豆を食べたりするときに、まずはお米が好きな麹菌とか、大豆が好きな麹菌とか、その麹菌によって繁殖しやすい環境があったり・・・。繁殖しやすい環境プラス、麹菌のいちばんの特徴としては酵素っていうのを出すんですよ。

 酵素は、人間で言うところの唾液とか腸液とか・・・人間もご飯を食べて唾液で溶かして飲み込んで、腸液でご飯のでんぷん質を溶かして、ブドウ糖にして細かい単位にして、腸の壁から吸収することで栄養にすることができるんですね。

 いろんな食べ物、ご飯だったりお肉だったりを分解して細かくしてくれるものが、酵素っていうものなんですね。生物はみんな持っているんですよ、この代謝する酵素っていうのを・・・。人間の体外で微生物が分解してくれる時に使うのが菌の出す酵素。

 やっぱり麹菌はこの酵素をたくさん持っていて、人間の生活圏で必要な酵素を、だいたいほぼすべて麹菌は持っているって言われています。なので、麹菌はこの酵素が非常に豊富で、量の多い菌のひとつなんですよね」

「なかじ」さん

「麹」から作られたものが和食

※「麹」は、日本の国の菌「国菌」に認定されているそうですね。それほど、日本人には重要な菌なんですね?

「そうですね。日本の和食、日本人たるアイデンティティとして、まず和食があると思うんですけれども、この和食の基本調味料があるんですね。

 食文化は、日本だったり中国だったり、イタリア、フランスとか、いろんな民族のいろんな地域にその民族特有の食文化があって、その食をずっと小さい頃から食べていて、それで自分たちはこういう国の人間なんだなって認識していくと思うんです。

 和食の場合はその基本調味料に味噌、醤油、お酢、お酒、みりんがあると思います。この基本調味料が全部、麹から作られているんですよ」

●確かに、そうですね。

「ということは、和食は麹から作られているんですね。麹から作られた基本調味料、それを海の魚とか山のものとか野菜に使って調理したものが、“和食”って定義できるわけですよね。
それを食べているのが“日本人”なので、日本人は和食の基本調味料、味噌、醤油を通して、ずっと麹を摂取し続けてきた民族と言えるんですね」

●なるほど。海外はどうなんですか? 麴菌は?

「カビ食文化はあるんですけども、麹菌はいわゆる単菌で、一種類の菌アスペルギウス・オリゼーだけを使うことはあまりなくて・・・。

 もちろんアジアにもカビ食文化っていうんがあるんです。それが朝鮮半島だったり中国だったり、あと東南アジアにも多様なカビを培養して、それで味噌のようなものとか、お醤油やお酒を造るっていうカビの文化圏はあります。もっといろんな違うカビだったり、雑多なカビを使ったりするんですね。

 ヨーロッパに行くとそれが酢酸菌だったり、ピクルスとかザワークラウトの酢酸菌だったり、ヨーグルトを作る乳酸菌だったり、あとはエジプトにもあるようなビールの酵母菌だったり・・・。

 その民族の収穫した穀物の種類とか、あとはそこに住んでいる地域の環境温度や湿度によって、どういう微生物が優位に繁殖しやすいのかが変わってきて、それで民族ごとに使っている穀物と微生物がだんだん決まってきます」

●麹の発酵は、日本人の知恵と言っていうことですよね?

「そうですね」

●すごいことですよね。日本人が麹菌の存在に気が付いて、それを発酵させて食べるものに生かすようになったのは、いつ頃だったんですか?

「史実で残っている範囲で奈良時代700年代ですね。600年後半から700年代って言われていて、奈良の平城京の周りの木簡からお酒を造っていた記述が出てきたりとか・・・。

 あとは、いろんな地方の風土記、その国の風土を書き残した文献があるんですけれども、『播磨の国』風土記にもお米を蒸して潰して、お餅にしたものを神様にお供えして、そのお供えしたものに自然に生えてきたカビ、そのカビを壺に投げ入れて発酵させてお酒を造って、それをみんなで呑んで楽しく酔っぱらって騒いだっていう記述があるくらいなので、700年代頃にはすでに記述としてカビを使っていたっていうのが残っています」

日本の発酵文化、膨大な情報量

「なかじ」さん

※ここからは「なかじ」さんの新しい本『発酵を考えるヒント』について、お話をうかがっていきます。まずは、どんなコンセプトで書かれた本なのか、教えてください。

「僕は麹がすごく好きで、麴のことをいろいろ勉強してきたんですけれども、麹のことを知りたいなって思って、日本のいろんな麹、味噌屋さんとか酒屋さんとかいろんなところを訪ねていくと、実は麹であったとしても、日本酒の酒屋さんが作るる麹と、味噌屋さんが作る味噌の麹、醤油屋さんが作る醤油麹、焼酎屋さんの焼酎麹とか、麹でもたくさんあるんですよね。

 なので、麹の世界もすごく膨大で、僕は酒屋から入ったので米麹を作るんですけども、別の専門家では麦を作る麦麹の職人さんがいたりとか、大豆で作る豆麹の専門家がいたりとか、それぞれの職人さんがいます。

 その職人さんは一生かけて、その技術を磨いているわけですよね。またそれを研究している研究者のかたもいます。
 麹菌の研究をする研究者とか、醤油の研究者とか味噌の研究者のかたがいて、それぞれがずっとそのことを研究していて、新しい技術や発見を発信し続けているんですよ。

 すると、麹のことに限っても僕ひとりですべての、日本の麹文化を把握することが無理な情報量が毎年のように発信されているんですね。なので、自分だけで勉強したいとか、自分だけで勉強したりとか、自分の経験だけで知ろうと思っても無理だなって思っています。

 最近、発酵がメディアとかSNSとかで注目されてきて、日本の発酵文化も世界的に注目されているんですね。これを発酵っていうふうに広げてみても、日本の中にはいろんな発酵文化があって、いろんな発酵の分野、それこそさっき言ったように職人さんもいるし、専門家もいるし、研究者もいるし、その周りの発酵系のメディアのかたとか情報発信されているかたもいて、膨大な情報量が日本の発酵文化の中にはあると・・・。

 日本の発酵文化って何だろう? って思った時に、その全体像に触れられる人がいない、それぞれがその分野の専門家ではあるんですけれども、全体像を把握出来ている人は誰もいないんですよ」

●なるほど。

「なので、この本を通して、まずそれぞれの専門家にその専門の道の発酵を聞いていきたいと・・・ひとりではわからなかった知見や情報を長年研究されてきたとか、長年携わってきた職人さんに、その視点でその人の分野の発酵を教えてもらおうと・・・。
 その情報を一冊に集めることによって、日本の発酵文化の輪郭をまず知りたいっていうのが、この本のきっかけです」

(編集部注:「なかじ」さんの本に登場する専門家9名のかたの中には、以前この番組にご出演いただいた発酵デザイナーの「小倉ヒラク」さんや土の研究者として知られる「藤井一至」さんのほか、600年続く種麹メーカーの29代目当主「村井三左衛門」さん、腸内細菌研究の第一人者「内藤裕二」先生も登場。

 各分野の専門家との対話に、日本人の知恵や食文化、そして発酵や微生物の奥深い世界を感じ取ることができますよ)

麹をポケットで作る!?

※本に「ポケットで仕込む麹の作り方」が載っていました。そんなことができるんだ! とちょっと驚いたんですけど・・・どんな作り方なのか、かいつまんで解説していただけますか。

「これは蒸米に先ほどいった麹菌のタネをふりかけて、それを食品用のビニール袋で包んで封をして、自分のポケットに入れるんですよ。そして自分の太ももで温めて3日から4日で麹を育てるという方法ですね」

●すごいですね。人の体温は麹を作る上で、適温ってことなんですか?

「実は麹菌が成長する最も適温が約35度なんですよ。人間の体温は36度から37度なので、人間の体温で温めていくと、麹菌にとっていちばんの成長適温になるんですね」

●ポケットの中で育つって面白いですよね。

「結構よく育つんです」

●寝る時も寝床に持って行くって、本にも書かれていましたけれども(笑)

「そうですね。一緒に寝ます(笑)」

●夏休みの自由研究とかにもいいですよね。

「そうですね。ラジオを聴いているかたに補足をしておくと、ビニール袋に入れて温めるだけだと、酸欠になって(麹菌が)死んでしまうので、基本的には人間と同じような環境だと思っていただいて、たまに(ビニール袋の)口を開けて、新鮮な酸素を補給してあげるってことを3日間続ける必要がありますね」

●詳しい作り方は、本で確認していただきたいと思います。「なかじ」さんは普段の生活でも麹とか発酵に向き合っていらっしゃるんですよね。具体的には何か考え方とか生活の基準に発酵があったりするんですか?

「そうですね。寺田本家の先代に教わったことってすごく大きくて、いちばん衝撃だったのは、酒屋さんの技術的な発酵っていうよりも、先代の社長が会社経営に発酵的な視点とか、街づくりを発酵的な視点で考えていらして・・・。

 会社っていうと、いかにビジネスとして、うまくやっていくのかとか、成功するのかとか、お金儲けってことを考えがちってあると思うんですけど、寺戸本家はお金を儲けるとか、ビジネス的にうまくいくとかっていう視点じゃなくて、いかに発酵させるかみたいな価値観で運営されているんですね。

 その時に結構、衝撃を受けて、発酵は食品だけじゃなくて、人間が生きる方向性としてうまく活かせるとか、成功するとかじゃなくて、発酵するっていう言葉で考えて、どっちの方向に行ったら発酵するかなとか、どの選択が発酵するかなっていう言葉で考えるとうまくいくんだ! みたいなのを、まざまざと見せつけられて、それがすごく自分の中で価値観が変わりましたね」

●この本『発酵を考えるヒント』や今後の活動を通して、どんなことを伝えていきたいですか?

「まず生活の中に発酵を取り入れるっていうこと。それを通して見えない命が自分たちを活かしているんだってことを体感してほしいなって・・・そのきっかけに発酵がなれたらな嬉しいなって思いますね」

●では最後に「なかじ」さんにとって発酵とは?

「生きる指針、ですね」


INFORMATION

『発酵を考えるヒント』

『発酵を考えるヒント』

 「なかじ」さんの新しい本をぜひ読んでください。私たち日本人の食生活や暮らしに根付く「発酵」を、いろんな視点で見つめ、その歴史や不思議を紐解いた「発酵のエンサイクロペディア」とも言える本です。先ほどお話にあった「ポケットで仕込む麹の作り方」も載っていますよ。ご家庭に一冊、この『発酵を考えるヒント』はいかがでしょうか。

 エクスナレッジから絶賛発売中です。詳しくは出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎エクスナレッジ:https://www.xknowledge.co.jp/book/9784767835600

 「なかじ」さんが運営されている、ご家庭に麹を広める「麹の学校」についても詳しくは、オフィシャルサイトを見ていただければと思います。

◎麹の学校:https://www.kojiacademy.com

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