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Jomonさんがやってきた!〜子供たちに伝えたい「命」のものづくり

2022/1/2 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、縄文大工の「雨宮国広(あめみや・くにひろ)」さんです。

 雨宮さんは1969年生まれ、山梨県出身。丸太の皮むきをするアルバイトをきっかけに大工の道へ。古民家や文化財の修復に関わり、先人の手仕事に感動し、伝統的な手法を研究。そして石の斧に出会い、能登半島にある真脇遺跡の縄文小屋の復元を手掛けました。

 この番組では、石の斧で作業をする大工、雨宮さんの存在を知り、2014年6月に山梨県甲州市にあるご自宅兼作業場を訪ね、お話をうかがい、その模様を放送したことがあります。その後、雨宮さんは国立科学博物館の人類進化学者、海部陽介さんが進める「3万年前の航海〜徹底再現プロジェクト」で、石の斧を使いこなす縄文大工として、丸木舟を造る重要な役割を担い、一躍注目を集める存在になりました。

 今回はそんな雨宮さんが、現在進めているプロジェクト「Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり」をクローズアップ!  いったいどんなプロジェクトなのか、その全貌に迫ります。

☆写真協力:Jomonさんがやってきた!  三万年前のものづくり

2021 @kurokawa hiromi
2021 @kurokawa hiromi

求めていたものづくり

※改めて縄文大工を名乗るようになった理由や、石の斧との出会いについてお話しいただきました。

「縄文大工って、なんだそりゃ!? と思われるんだと思うんですけども、地球のためになる仕事をする人っていうことなんですね。そして今の仕事というのはほとんど人のためになる、もしくはお金を稼ぎやすい仕事が一般的なんですよね。これからの持続可能な暮らしを切り開いていく中で、やはり地球のためになる仕事を作り上げていきたい、そういう思いで縄文大工という名乗りかたをさせていただいています」

●石の斧との出会いというのは、どういった感じだったんですか? 

「私も、そもそも石斧っていうのは木工道具とは思わなくて、マンモスを狩るような狩猟の道具かなという程度だったんですね。もしくはただの石ころみたいな、そんなものは何の役にも立たない石ころだ、みたいな思いを抱いていたんですけども、2008年にその石斧と初めて出会う場面がありました。

 それから自分で石斧を作って、栗の木にひと振り石斧をコンと打ち付けた瞬間に、自分が求めていたものづくりはそこに全てあったみたいな、そこにもう引き込まれまして、以来研究を続けながら縄文大工としてやってきています」

●鉄の斧と比べて石の斧っていうのは、木を伐るにしても時間も手間もかかりますよね? 

「そうですね」

写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり

●でもそこが、あえて石を使いたいというか、石の斧がいいというか、そこが大事っていうことですよね。

「私も最初から石を使っていたわけじゃなくて、当然機械の道具、そして鉄の道具を使って効率よくものを作るっていう仕事をずっとしてきました。木という命あるものと向き合っているんですけども、それはただの木、命がないものとして、ものとして見ていたなっていうのがあったんですね。

 それはやっぱりその命と向き合う時間、ものと向き合う時間があまりにも目の前を一瞬で通り過ぎるというところで、感じることができなかったんだなと思うんですよね。石の斧を初めて手にして木と向き合った時に、その命を伐る時にもすごく時間を要するわけで、そしてその木を使って、家なり舟なり作るにしてもすごく時間がかかる。そういう中で、そのものが持っている本当の、脈打つ鼓動というか、そういうものを感じてくるんですよね。そういうところに惹かれましたね」

(編集部注:雨宮さんが使っている石の斧は全部自分で作っていて、用途によって使い分けるため、大きい斧から小さい斧まで、全部で100本くらいはあるそうですよ)

子供たちと丸木舟を作るプロジェクト

※雨宮さんは去年の夏に「Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり」プロジェクトをスタートさせました。来年の10月まで続くということなんですが、どんなプロジェクトなのか、まずは概要を教えていただけますか。

「ひとことで言いますと、全国の子供たちと石斧を使って、ひとつの丸木舟を作り上げるというプロジェクトなんですね。そして昨年の夏に丸木舟になる材料となる杉の木の命を子供たちと一緒にいただいて、今は富士五湖のひとつ、西湖という湖のほとりで、全国ツアーを前にして削り込みの作業を今、しているところです。

写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり

 これから今年5月に北海道に向けてスタートして、北海道から47都道府県を順番にツアーをしながら、子供たちが少しずつ丸太を削りながら、沖縄で最終的に完成させてその舟に乗るという、そういうプロジェクトですね」

●参加者はみんな、お子さんたちなんですか? 

「はい、地元の子供が主体に参加する形ですね」

●子供たちと一緒に進めていくということに意味があるということなんですか? 

「そうですね。これからの未来を担っていく、作っていくっていう子供たちと進めます。この地球上にたくさん生き物がいる中で、道具を手にして、ものを作る生き物は人間だけなんですね。その人間として、どういうものづくりをしていかなきゃいけないかっていうことを、子供たちと一緒に丸木舟を作りながら向き合って考えていきたいなと思うんですね」

●まずは石の斧を作ることから始めたそうですね?

「子供が好きなものっていうと大体、棒とか石なんです。それを合わせたものが石斧になるわけですけども、本当に無我夢中になって楽しく石斧を作って、丸太をコンコン削る作業を、子供たちってがむしゃらに楽しくやるんですよね」

●そもそもこのプロジェクトを始めようと思ったきっかけっていうのは、何なんですか? 

「やっぱり命をいただくっていう行為をしっかりと受け止めて、その命を活かしたものづくりをしたいっていうことを思ったんですね。どうしても今、私たちのものづくりって本当にただのものとして見ていて、木にしても道具にしても、その命をいただくっていう行為になっていないと思うんですね。

 何故かっていうと、そのいただくって行為は相手に対して、あなたの命をいただいてもいいですかっていう対話をしなければいけないんですけども、その対話がなく一方通行で、力づくで、ある意味その命を奪い取ってしまっているというか、そういう形になっているんですよね」

巨木との対話

※雨宮さんが進めているプロジェクト「Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり」はパート1が、去年の夏に愛知県北設楽郡東栄町の森の中で実施されました。

 丸木舟にするための大きな杉を、石の斧で伐り倒す作業を子供たちと一緒に、18日間かけて行なったということなんですが、その杉の巨木はなんと樹齢が約250年、高さは50メートル、いちばん太い部分の幹周りが1メートル40センチ。雨宮さんいわく「おそれ多い、神の宿る木」という印象だったそうですよ。

 雨宮さんはその木に常に話しかけ、こういう理由であなたの命をいただきたい、と語り、対話を続けていたといいます。その巨木にご自身の思いは伝わったと思いますか?

「おそらく、その思いが伝わらなければ、私の言っていることに、もし偽りがあれば、それは間違いなく命を差し出してくれることはしてくれないなと思ったんですね。本当に嘘ごまかしなく、本心をとにかく伝えました。 そして杉の木の根元に寝たというのは、何故そこに寝たかというと、私の命を向こうも奪うことが出来るんですよ。それは250年生きた木で、50メートルという高さになって、太い枝がいっぱい付いているんですけども、枯れたような枝もいっぱい付いているんですね。

写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり
写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり

 木はそういう枝は自然に落とすんですよね。神社なんかでも枯れた枝が落ちているのをよく目にすることがあると思いますけども、そういう風に、私がそこの根元に寝て、もしお前なんかに命を渡さない! そんな汚い心だったら渡さない! っていうことを杉の木が決めれば、寝ている間に私の上にその太い枝を落とすことが出来るんですよね。そういうことを私も分かっていてそこに寝るわけですよ、びくびくしながらね。

 だけども、本心を伝えているから、これでもし命がなくなったら、それはそれで伝わらなかったんだろうという覚悟のもとに寝たんですね。そういう中で、杉の女神が枕元に立ってくれればいいなと思ったんですけども、なかなか女神様は訪れませんでした。

 そうこうしている間に実際、石斧を入れて、斧入れ式をして、斧を入れ始めたんですけれども、実は斧を入れる前日の夜に私がそこにまた寝ようと思って、夜中に杉の根元に行って、木として最後の晩を共に過ごしたいなと思って行ったんですよ。
 そうしてその杉の木の前に行ったら、光る点滅するものが現れたんですよね、杉の木の根元に。何だろうって思って、一瞬その光るものが杉の心臓の鼓動みたいな感じに見えたんですけども、近づいたらみたら実は、それは“ホタル”だったんです」

●え〜〜〜っ! 

「でも、8月の中くらいですから、もうホタルなんていないんですよ、本来なら。大体(ホタルが飛ぶのは)6月頃ですからね。しかも広大な山の中に、たまたまその木の根元の所にいるわけですよ。その時私は本当に、あ! 杉の木が今まで私がそういう心を伝えたことによって、“明日、僕に斧を入れてもいいよ!”っていうことを言ってくれているのかなと、そういう風に思ったんですよね」

●すごい! 対話が出来ていますね! 

「そうですね。木は言葉が喋れないから、そんなことしたって無理だよとか、意味がないよとか、そういう風に言ったら、命をいただくってことが成り立たないですよね。たまたま人間の言葉が喋れないだけで、やっぱり全てのものは意思疎通が出来る、そういうもので繫がっていると思うんですよ。それが、生きること、他のものの命をいただくことだと思うんですね。そういうことをやっぱり子供たちに伝えたい」

(編集部注:去年の夏に丸木舟を作るために伐り倒した杉の巨木は、現在、富士五湖のひとつ、西湖のほとりのキャンプ場に保管。長さ11メートル 50センチで10トンの重さがあるそうですが、丸木舟作りを体験してもらう全国ツアーに出るために石の斧でくり抜く作業を続け、4トンくらいの重さにするとのこと。

写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり

 予定では今年5月に北海道を皮切りに南下し、1年かけて沖縄まで。その沖縄で、子供たちに丸木舟に乗る体験をしてもらったあとに「みんなの舟」ということで、瀬戸内の海や浜名湖、そして西湖でやはり体験をしてもらう予定だそうです。

 雨宮さんの夢はもっと膨らんでいて、丸木舟で与那国島から沖縄本島、そして九州から北海道まで日本一周、さらに太平洋を渡りサンフランシスコまで行きたいとおっしゃっていました)

木の命をいただく

※プロジェクトのイベントに参加した子供たちに接する時、どんなことを心がけていますか?

「本来であれば、昨年の夏に行なわれた(パート1の)“杉の木の命をいただく”イベントに、みんな参加していただきたかったですね。そこが本当にこのプロジェクトの肝なんですけども、残念ながら参加出来ていない人たちに、いかに私が木の命をいただくことを伝えられるか、どんな気持ちでその命をいただくのか、そしてそのいただいた命をどういう風に活かしていくのか、そのところをしっかりと伝えていきたいと思ってですね。

 私が今まで感じたことは、木をただのものと思っている、あと道具をただのものと思っている、だからどうしても扱い方が非常に乱暴になる傾向があるんです。それをなくしたい。

 自分の命を守ってくれる舟、これは当たり前ですね。海というある意味、宇宙的な空間に出れば、その舟が沈没すれば、自分も生きられないわけで、壊れれば生きられない。自分の命を守ってくれる舟、それと心を通わす、思いを込める。

 そして、その舟を造るには、自分の手とか歯とか、体では造れない。道具を通して初めて造れる。で、その道具に感謝して、道具を通して木と一体となり、全てのものと仲よく、舟を造る心を通わせる、そういうものづくりを目指したいと思っています」

●木があることが当たり前ではないんだよっていうことは、日々生活している上でなかなか感じないですよね。

「そうですね。なかなか命をいただくって行為が、しっかりと出来ていない現代社会なので・・・奪い取るんではなくて、やはり対話をしていただくことで、そのいただいた命をしっかりと次の未来のために活かすことが、生きる、食べる、いただくってことなんですね」

写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり

丸木舟は地球船

※子供たちは純粋ですから、伝えたいことをすべて吸収してくれそうですね。

「そうですね。子供は本当に素直に聞き入れて、理解力抜群ですね。大人はどうしても、しがらみとか、この矛盾しきったものが分かっているんだけれども、今を成り立たせなければ、生きられないことを、どうしても優先して考えちゃうので、思考がちょっと止まっちゃうところがあるんです。でも子供は本当に普遍的なものをしっかりと理解するんですね。

 どんな時代になろうと、生きる! 人間らしく生きる! っていうことをちゃんと受け入れられる、それを目指そうとする。それを子供が、例えば大人になった時に、”縄文大工に僕はなりたい!”と言った時に、親が“いや、お前そんなものは金にならんからダメだ”と、”もっとお金になる仕事を探せ! やれ!”と言うんではなくて、やっぱり社会全体で地球のためになる仕事を応援してあげる。で、その子の夢が実現するように支えてあげる。そういう世界に変えていきたいなと思いますね、このプロジェクトを通してね」

●雨宮さんのプロジェクトに参加した子供たちの中には、将来“縄文大工さんになりたい”っていう子供もいたんじゃないですかね?

「そうですね。今の世界の目標が持続可能な暮らしですからね。やっぱり人間だけが幸せになる仕事ではなくて・・・地球の、いわゆる丸木舟って地球船そのものなんですよね! 実は」

●地球船!?

「丸木舟の中の全ての生きものが、楽しく仲良く面白く暮らせるものづくりって何かな? って考えたり、そういう風に出来るようにするにはどんな仕事があるのかなということを考えて、想像してもらいたいですね、これからの子供たちに」

●最後に改めて、このプロジェクトを通してどんなことを伝えたいですか?

「そうですね。やっぱりこの地球上に敵はいないってことなんですね。無敵っていうのは、敵を作らない、当然そもそも敵がいない、みんな仲間だっていうことですね。そういう意識を常に持つ。そうすると小さな丸木舟の中でもみんなで楽しく仲良く暮らせるんですね。みんな仲間ですから。同じ命です」

☆この他の雨宮国広さんのトークもご覧下さい


INFORMATION

写真協力:Jomonさんがやってきた! 三万年前のものづくり

 雨宮さんが進めているプロジェクト「Jomonさんがやってきた!  3万年前のものづくり」にぜひご注目ください。今年5月から1年かけて行なうパート2の「丸木舟作り全国ツアー」のあと、来年8月に沖縄で行なうパート3の「航海体験」まで続きます。

 現在、活動のための資金をクラウドファンディングで募っています。ぜひご支援いただければと思います。詳しくはクラウドファンディングのサイトを見てくださいね。

https://readyfor.jp/projects/Jomonsan

 プロジェクトの詳細と雨宮さんの活動についてはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎雨宮国広さん HP:https://jomonsan.com/

捨てられる獣たちの命〜有害駆除の現状と、ある猟師の挑戦〜

2021/12/26 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、プロの猟師「原田祐介(はらだ・ゆうすけ)」さんです。

 原田さんは1972年、埼玉県生まれ。20年ほど外資系のアパレルメーカーに勤めたあと、唯一の趣味だった狩猟を職業にする、つまりプロの猟師として生きていくことを決意。まず、山を知るために林業の会社で働き、2015年に「猟師工房」を設立。2019年には君津市に「猟師工房ランド」をオープン! 駆除されるイノシシやシカなどの有効活用、そして、年々高齢化している猟師さんの後継者問題などを発信されています。

 きょうはそんな原田さんに、有害駆除の現状などをうかがいながら、命の尊さについて考えたいと思います。

☆写真:原田祐介さんの著書「週末猟師」(徳間書店)より

人間の身勝手

原田祐介さん

●先頃出された本『週末猟師』には、猟をするというのは究極のアウトドアのひとつという文章もありましたけれども、山の中でソロキャンプをして火を起こして、そうやって夢中になってたどり着いた先に、週末猟師という選択肢があるという風に載っていましたよね。猟師の生活ってこういう感じなんだなって、未知の世界を覗いている気分ですごく興味深かったです!

「ありがとうございます」

●副題にある「ジビエ・地域貢献・起業」、そして「充実のハンターライフの始め方」という言葉が、この本の内容を表していると思ったんですけれども、中でも原田さんがいちばん重点を置いているのはどの項目なんですか? 

「そうですね〜。一生懸命、趣味で始まって、極まってくると地域貢献のための有害駆除なんていう、増えすぎた獣を獲って農業被害を減らしたりするような取り組みも行なっているんですが、いずれ獣を捕獲するかたが減ってくる中で、これから獣が増えすぎて、自然に非常に負荷がかかるような状況が出てくるんですね。そこをなんとかプロとして携わって、未来の日本のためになるような取り組みに、最後はつながっていく、そこがいちばん申し上げたいことだったんです」

●ジビエは専門のレストランがあったりというイメージはありますけれども、国内で獲れたジビエのお肉はどの程度、流通しているんですか? 

「これが非常に衝撃的な数字なんですけど、今国内で獲られる獣の数、有害獣として駆除される数が、年間120万頭だそうです。最近ジビエがブームになって、おっしゃった通り専門のレストランができたり、テレビ番組なんかで取り上げられたりする機会があるので、ブームにはなっているんですが、120万頭のうち、ジビエとかジビエのペットフードとかで、利活用されている数値が9%なんです」

●一桁? 

「残りの100万頭以上はどうなっているか・・・どうなっていると思います?」

●捨てられてしまっているということですか? 

「そう、人間の身勝手で農業被害を減らすと称して駆除されて、100万頭以上が今ゴミとして残念ながら捨てられている現状があります」

●千葉はどういう状況なんですか? 

「千葉は令和元年度の数字、これが最新の数値なんですが、年間5万頭の獣が獲られています」

●そのうち、ちゃんとお肉として活用されているのはどのくらいなんですか? 

「1500頭」

●え!? そうなんですね。それ以外は?

「残念ながら今のところ、猟師さんが自分たちで食べる以外はゴミとして処分されます。生きものを殺めた以上、日本人の道徳観からしたら、やっぱりきっちり最後まで、いただきますの精神で、きちっと食べて供養するっていう方向に持っていかなければいけないんですけど、そんな状況になっていないのが実情です」

千葉は埼玉の10倍!?

原田祐介さんの著書「週末猟師」(徳間書店)より

※君津市で運営されている「猟師工房ランド」は、どんな施設なんですか?

「これは昭和63年に廃校になって30年間放置されていた、旧鍵原小学校っていう山の中にある小さい山学校があるんですよ。そこを君津市さんから借り受けて、リノベーションを行なって、ジビエとか狩猟のテーマパークのようなものを作ったんですね」

●そもそもどうしてそういう施設を作ろうと思われたんですか? 

「やっぱりこの現状を広く都会のかたなんかに知っていただきたいと。たまたま、房総スカイラインっていう観光道路沿いにある学校だったんで、割と外房へ遊びに行くかたなんかが観光で必ず通る道なんですよ。

 山のほうの人は獣の実情をよく見たりするので、そういうのを知っているんですけど、千葉も北部の人とか、あとはアクアラインを使って(千葉に)来る東京のかた、神奈川のかたは、なかなかそういうことを知らないんで、是非そういうのを見て感じて味わっていただいて、この問題に一石を投じられたらいいなと思って作った施設です」

●オープンした時は、君津の山はどんな状況だったんですか? 

「私、埼玉から移住してきたんですけど、数値で言えば埼玉の10倍、獣が駆除されています。埼玉も素晴らしい自然があって、山もたくさんあるんですけど、全然比べものにならないほど、千葉は獣が多くて、獣という視点から見て、いろんな被害がすごいっていう感じだったんです」

●千葉はどんな生きものが多いんですか? 

「いちばん多いのはイノシシ。ほかにシカ、アライグマ、キョンなどが今たくさん駆除されていますね」

●千葉の特徴としてはどんな感じですか? 

「特徴としては温暖な地域で、海沿いにはドングリがたくさん成ったりする木がいっぱい生えているので、大きいイノシシが増えやすい状況にありますね。やっぱりイノシシがいちばん多い」 

原田祐介さんの著書「週末猟師」(徳間書店)より

(編集部注:「猟師工房ランド」ではイノシシやシカなど、有害駆除された野生動物をきちんと処理して、食品衛生法に従って、いわゆるジビエのお肉として販売しています。

 美味しい食べ方として原田さんのおすすめは、その肉の風味を感じて欲しいということで、塩・コショウで味わっていただきたいとのことでした。また、シカのお肉はしゃぶしゃぶも、おすすめだそうですよ。

 「猟師工房ランド」ではお肉のほかに、毛皮やツノ、骨などを素材にしたキーホルダーやアクセサリーなどを元小学校の体育館を改装した、広々とした店内で展示・販売しているそうです)

原田祐介さんの著書「週末猟師」(徳間書店)より

土砂崩れは獣の仕業!?

※地元の君津で野生動物の被害が増えていることと、猟師さんの後継者問題は、関連があるんですよね?

「そこなんですよ。そこがあったんで、この本がその入り口になってくれればって思いもすごく強くて、(本に)書いているんですよね」

●どんどん(猟師さんが)高齢化してきちゃって、山に人が入らなくなってしまったら、どうなってしまうんですか? 

「もう無尽蔵に獣が増えます。獣が増えると・・・山の上のほうに獣が棲んでいるとしますよね。人間と一緒で歩きやすい道をずっと毎日歩くんですよ。で、歩いて、川に水を飲みに行ったりご飯を食べに行ったりすると、”けもの道”って言われる道ができます。

 今から20〜30年前は千葉の山もここまで獣が多くなかったはずなんです。でも今や、ひとつの山に例えば、昔は2頭しか獣がいなかったけど、今はひとつの山に20頭いる、10倍いるんですよ。毎日20頭が同じ道を行ったり来たりするのと、1頭や2頭が行ったり来たりする場合と、けもの道のほじくれ具合が違いますよね。数が多いほうがたくさんほじくれちゃいますよね。

 気候変動の影響で、ここ最近の、昔はなかったゲリラ豪雨みたいなのが、集中的にばーって雨が降るとします。掘り下がった、けもの道に雨水が流れちゃうわけですよ。昔より掘れているから、そこを川みたいに(雨水が)流れちゃう・・・。

 そうすると何が起こるかっていうと、表面の泥を洗い流す”洗掘”っていう現象が起きる。そうすると地下に雨水が染み込んで、たふたふのスポンジみたいになって、表層崩壊っていう土砂崩れが起きたりする原因にもなっているそうです」

●ただただ作物を荒らすとか、そういった獣の被害だけではなくて、土砂災害にまでつながってくるんですね。

「最近各地で起こっている土砂災害も複合要因なんだけど、獣もその原因のひとつにはなっているはずです」

●そもそもなんでそんなに獣が増えちゃったんですか?

「これはやっぱり捕獲する人が急激に減ってしまったんですね。昔はたくさん獲る人がいた。それこそ明治の頃まではニホンオオカミがいたんで、捕食するオオカミがいることによって、獣たちが神経を尖らせ、そこまで爆発的に繁殖できなかったりする現状があったんですけど、今オオカミも絶滅してしまって、捕獲従事者、趣味でやるかたも有害駆除で捕獲するかたも高齢化で減っちゃっていると。それがゆえに増えてしまったという現状もあります」

爆発的に増えている「キョン」!

※「猟師工房ランド」には、どんな方が来ますか?

「割と都会のニューファミリーとか、家族連れのかたが寄ってくれて,お子さんが毛皮とか角とか、色んなものを見て触って・・・ニューファミリーの方が多いかな」

●確かにお子さんは、ちょっと興味深いかも知れませんね。

「僕の取り組みの中で、やっぱり全くこのことに触れないで一生を終えるようなかたたちに、ちょっとでも日本の自然のことを垣間みていただけるような施設にしたいなっていう、そんな思いもあって、あの施設を作ったんだけどね」

●きょうも色々スタジオに(販売している商品を)持ってきていただきましたけれども、この毛皮は何ですか?

「これは、キョンなんですよ。聞いたことあります?」

キョンの毛皮

●あります! あります!

「最近また報道番組とかで、(キョンが)増えて東京に進出するんじゃないかなということで、うちにもすごく取材が来たりするんですけど、これ今、千葉で爆発的に増えてしまっているんですね」

●キョンは改めてどんな生き物なんでしょう?

「日本でいうと特定外来生物で、よくご存知なところではブラックバスと同じような、日本にいちゃいけない生き物です。これは勝浦にある、とあるレジャー施設から逃げ出したもので、昭和50年にそのレジャー施設が潰れたんだそうです。そこで放し飼いになっていた個体が、餌をもらえなくなったので、外にどんどん広がっていったっていうのが経緯らしいんです。今、千葉県内で4万4千頭、生息しているって言われています」

●大きさはどれくらいなんですか?

「大きさは柴犬くらい。これは中国南東部とか台湾の生き物なんですね。中国や台湾では超高級食材として、非常に高い評価を受けて流通しているようなものです」

●毛皮はすごく滑らかな美しい毛並みですね。

「シカはたくさんの種類がいるんですけど、キョンはシカの中でも毛皮が最高峰って言われています」

●艶やかですね!

「そう、キューティクルがね・・・」

●それから他の商品・・・こちらは? 

「捕獲個体をゴミとして捨てないで、ちゃんと利活用していくっていうのも、うちの社の理念の根幹となっているんですね。捕獲個体そのものも、極力余すところなく使っていきましょうっていう取り組みの中で、人間が食べられないというか、例えばイノシシも、小っちゃい、うりぼうちゃんから、100キロも150キロもある、おばけみたいな、ドラム缶みたいな個体もいるんですよ。

 大きい個体は、割と人間にはちょっと硬くて不向きだったり、あとは、可哀想なんですけど、美味しく食べるためには、血抜きっていう作業が必要で、毛細血管の隅々までの血を排出するような、特殊な絞めかたがあって、それをちょっと失敗してしまったものは、人間には血生臭くて不向きなんですね。

 硬かったり血生臭かったりするものは、逆にワンちゃんには栄養価の高いとても喜ぶご飯になるので、そういう意味で人間が食べられない、でもワンちゃんにはとてもプラスになるものを、ワンちゃんたちに手伝ってもらっているということで、ペットフードもたくさん作っているんですよね」

●なるほど〜! 

(編集部注:原田さんは君津市から委託を受け、狩猟をする後継者を育てるために「君津市狩猟ビジネス学校」を開催したり、小学生から高校・大学生に向けて、有害駆除の現状や命の尊さを伝える教室「命の授業」を行なったりされています。

 高校生向けの「命の授業」ではイノシシを解体し、お肉になる過程をあえて見てもらい、時にはまだ温かいお肉をビニールの手袋をして触ってもらうこともあるそうです。そこには原田さんの、命の尊さを伝えたい、そしてともに、日本の自然を未来に引き継いでいこうという、そんな熱い思いが込められています)

命の授業

※「命の授業」に参加された生徒さんの反応は、どんな感じなんですか?

「初めは、やっぱりちょっとギョッとした感じです。なかなか今を生きるかたたちって、それこそ、スーパーに並んでいるお肉が、どういう行程を経てお肉になるのかっていうのを知らないので・・・。

 私は49歳で、小っちゃい頃、田んぼの真ん中に住んでいたので、近所のお爺ちゃんが、ニワトリを絞めてお鍋にするのを近くで見ていたりとか、猟師さんがハトを獲ってきて捌いているのを見ていたりしてましたね。何となく生きものの生き死にとか、命のいただきかたをぎりぎり見られた世代なのかなと思うんだけど、今の小学生の親御さんなんかは、お若いからそんなことは知らないんですよ。

 だから、僕らがやっている家業がそういうことなんで、子どもとかに伝えられるじゃないですか。どうやってお肉って出来上がっていくんだろう、どうやって生きものを殺めると美味しいお肉になるんだろう、生きているものが亡くなっていくって、こういうことなんだなっていうのを、子どもたちが見てくれることによって、これはいずれ、フードロスの問題とか、食べものへの感謝とか、そういったものに・・・SDGsですよね。そういうものにつながってくると思うので、そんな感じの取り組みをしていますね」

(編集部注:「命の授業」については原田さんの本『週末猟師』にも掲載されています。ぜひご覧ください)

未来の日本のために

●改めて、この本を通していちばん伝えたいこと、最後に聞かせてください。

「はい。今、猟師も減っています。未来に向けて獣と人間がうまく共存出来るような仕組みを作るには、やはりきちっとした知識を持った猟師が、未来の日本のためには必要なので、興味があるかたがいたら、この本を読んでいただいて、本気でやるつもりがあるんだったら、猟師工房ランドに来てくれて、僕と話をしましょう」


INFORMATION

週末猟師〜ジビエ・地域貢献・起業、充実のハンターライフの始め方

『週末猟師〜ジビエ・地域貢献・起業、充実のハンターライフの始め方』

 週末にハンターとなって過ごすための基礎知識から、有害駆除の取り組み、週末猟師を体現している人たちのインタビューなども掲載。知られざる猟師の生活やリアルな現状を理解できる一冊です。徳間書店から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎徳間書店 HP:https://www.tokuma.jp/book/b592900.html

 君津市にある「猟師工房ランド」ではジビエなどの販売ほか、元小学校の広い校庭を利用して、ソロキャンパー専用のキャンプサイトも運営しています。詳しくはオフィシャルサイトを見てくださいね。

猟師工房ランド

◎猟師工房ランド HP:https://www.facebook.com/Hunter.workshop/

あなたの暮らしにキャンピングカーを〜人生を豊かにしてくれる魔法の車!?

2021/12/19 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、日本のヒップホップ界のリヴィング・レジェンド、ラッパーの「GAKU-MC」さんです。

 GAKUさんは東京都出身。1994年に「EASTEND × YURI」として「DA.YO.NE」でヒップホップ初のミリオンセラーを記録、紅白歌合戦の出場を果たします。99年にソロ活動をスタート。その後、音楽を通しての復興支援のイベントほか、ミスター・チルドレンの桜井和寿さんとのユニット「ウカスカジー」など幅広い活動をされています。

 また、キャンピングカーで、全国をまわるライヴ・ツアーに出たり、家族と国内だけでなく、海外を旅したり、すっかりキャンピングカーにハマっていらっしゃいます。そして先頃『人生にキャンピングカーを』という本を出されました。

 きょうはそんなGAKUさんに、人生を豊かにしてくれるキャンピングカー・ライフについてお話いただきます。

そして今回は特別に3名のかたにGAKUさんの本を直筆サイン入りでプレゼントいたします。応募方法は こちらから!
『人生にキャンピングカーを』

GAKU-MCさん

めちゃくちゃ面白くて

※GAKUさんは以前、日本全国をキャンピングカーでまわるライヴ・ツアーを行なっていました。キャンピングカーを移動手段にしたのは、どうしてなんですか?

「長いこと音楽生活をしていまして、北海道から九州まで行ったことない都道府県はすでになくて、ただ、じゃあどこに行って、いつ(ライヴを)やったのか聞かれると、ちょっとあやふやな感じになっていると。

 で、僕らミュージシャンだと公共交通機関で、飛行機で、新幹線で現場まで行って、駅から空港からライヴ会場に入って、ライヴ会場のステージと、打ち上げ会場とホテルっていう、その3点トライアングルしか知らないと。すげえもったいないなっていうのをある時思いまして、ちょっとキツくてもなるべく車で行こうっていう風に思った年がありました。

 これは今から10年くらい前なんですけど、ハイエースに機材を全部詰め込んで、九州だろうが東北だろうが行ったろ! みたいな感じでやっていたんですけど、すごくよかったんですよ! それがまず、そもそもこれいいね! やっぱり日本って点と点でつながっているよね! みたいな。

 これ、もしかして車に泊まっちゃったほうが経費的にも軽くなるんじゃないかなみたいなところから、キャンピングカーを借りてみた年があったんですよ、めちゃくちゃ面白くてそれが。全部機材を入れて、寝るのもそこ、着替えもそこ、料理もそこでやったらもう本当に楽しくて、これでしょ! みたいなことで始めたのがきっかけだと思います」

●でも飛行機とか新幹線に比べると、だいぶ時間はかかりますよね。

「まあそうなんですよね、時間は当然(かかります)。例えば福岡だったら、羽田空港からだったら1時間半くらいで行くので、大冒険しているって感じではないですけど、陸路で行くと、途中色んな街に寄ってライヴをしながら行くので、まあ1週間とか10日かけて行くことになるんですね。そうすると、やっぱり関門海峡を越えたぐらいで、うぉ〜九州入った〜! みたいな感じになるんですね。

 そうすると、ステージ中のMCとかも、やっと着いたんだよ! みたいな感じになって、僕らも感動しながら音楽ができるっていう副産物もありました。当然、足だ腰だ首だは痛くなるんですけど、でもね、それも含めての旅なんで、今のところそれが楽しくてやっていますね」

GAKU-MCさん

●どんなことが特に楽しいんですか?

「ある程度大人になって、好きな音楽とはいえ、ある種、仕事じゃないですか。なので、その仕事が終わったらさっと帰って、各自の生活になるっていうスパンで僕ら生活していますけど、やっぱりその時だけは、なんかね、修学旅行みたいな気持ちになって、バンド・メンバーと和気あいあいとした旅になるんですね。バンド・メンバーも家族を持っているやつが多いですから、そのときはなんか突然、独身みたいな感じになって、みんなで旅を作り出していくっていうのがすごく心が踊りますかね」

(編集部注:メンバー4人によるキャンピングカーのライヴ・ツアーでは4人がそれぞれ、運転手やナビゲーターの役割ほか、料理を作ったり、グッズを売ったりと、ミュージシャン以外の仕事を分担していたそうです。そういうこともあって、メンバー同士の絆が深まったそうですよ。
 また、キャンピングカーのツアーは、ファンのかたからの差し入れが、地元の食材や地酒などで基本的に食事は自炊だったので助かったということでした)

GAKU号はヒノキの香り!?

※ライヴ・ツアーで使ったキャンピングカーはどんなタイプだったんですか?

「5年前はレンタカーでやっておりました。その時はいわゆる、ザ・キャンピングカーみたいな、それも毎年変えているんですけど、メルセデスベンツがベースになった大きいものだったりする年もありましたし、普通にバンクベッドと言われていて、運転席の上にベッドが飛び出していたものもありますね。色々ある中で直近のツアーはGAKU号というのを、オリジナル・キャンピングカーを作っていただいて、それでやっていました」

●GAKU号!?

「それは、僕が5年間くらいキャンピングカー最高! って言っていたら、協会のかたに表彰していただきまして、その副賞として、オリジナル・キャンピングカーを製作、1年間使ってどうぞ! みたいなものがありました。それはトヨタのコースターという、幼稚園バスとかロケバスが普段使っているようなやつの中身を、キャンピングカーに改造したものでした」

GAKU-MCさん

●特別仕様ってことですよね?

「そうですね。仕様はどんなのがいいですか?って聞かれて、一から説明して作っていただいたので、それはもう本当に最高でしたね!」

●具体的にGAKU号のこだわりは、どんなところなんですか?

「こだわりは3点ありまして・・・まず就寝スペースを、シングルベッドを4つにしてくださいとお伝えしました。これはキャンピングカーって大体ベーシックとして、ダブルベッドが2つみたいなものが多いんですね。やっぱり家族向けに作っているものが多いので。 ダブルベッド2つでも当然、男4人が寝られるんですけど、同じベッドにバンド・メンバーと寝るのもですね、なんか朝起きた時にひげ面を見るのもなぁ〜みたいな感じになるじゃないですか(笑)。僕もそうだし、相手もね、きっとそうなんで、そこはちょっとすみませんけど、シングルベッド4つだと最高です〜っていう風に伝えました」

GAKU-MCさん

●あははは〜(笑)

「2点目は、楽器がとにかく、運搬物としていちばん大事であり、かつ大きかったりするので、ドラムセットが入るようなサイズのスペースを後ろに作ってくださいと。鍵盤も運ぶんで、ベッドの下に入れるようにとか・・・」

●ベッドの下に鍵盤!?

「そういうスペースを作っていただいたことで、非常にストレスなく移動が出来るってことになりました。あと、最後の1つは、自宅もそうなんですけど、ウッディな感じ、木の感じが好きなので、出来たら、移動中長いこと旅をするので、心地よい車内の空間だと嬉しいです! と伝えたところ、飛騨のヒノキの間伐材で内装を作っていただきました。だからいつも車の中がヒノキの香りで、すごくよかったです」

(編集部注:GAKUさんは2018年に「ジャパンキャンピングカー普及貢献賞」を受賞。また、2019年のカートラベル・イベント「カートラジャパン」でアンバサダーに選ばれ、その副賞としてGAKUさんのリクエストを受けて改造したGAKU号を活用することになったそうですよ)

GAKU-MCさん

キャンピングカー沼にハマった人たち

※先頃出版された本『人生にキャンピングカーを』には、GAKUさんのご自身の体験談も書かれていますが、キャンピングカーにハマってしまった方たちが21人、登場しています。改めて、どんな方たちなのか、教えていただけますか。

「自分の使いかたとしては音楽ツアーで移動手段、宿泊手段で、楽しむためにキャンピングカーを選んでいるんですけど、僕みたいな職業の人以外にももちろん楽しめる素晴らしいギアだと思っているので、色んな人が人生にキャンピングカーを取り入れてもらえるように、色んな職種の人、色んな立場の人、色んな考えを持った人に、どうしてキャンピングカーにハマったのかとか、キャンピングカーがあるとどういう生活になるのか、そういうのを聞きに行ったら面白いんじゃないかなということで、この本を書き始めました。

 当然、僕より長く使っている人たちばっかりですし、まだ若い女性のかたもいたりとか、大ベテランで何十台もキャンピングカーを乗り継いできたような人もいたりして、もう本当に色んなバリエーションの人にお話を聞きましたね。

 いいところばっかりではないじゃないですか。当然、大変なこともあったりするので、そういうところもざっくばらんに聞いてみたりして、なるべく魅力あるキャンピングカー沼を(笑)、皆さんに知っていただければなという思いで書きました」

●この番組に以前、SPiCYSOL(スパイシーソル)のKENNY(ケニー)さんが登場してくださったんですけれども。

「あ! KENNYね!」

●この本にも登場されていましたね!

「KENNYが、ふりきれたカッケー車に乗っていましてね〜、いいなぁと思いましたね」

●KENNYさんもバンドのツアーで使うということで、屋根にも登れるから、いつかこの上をステージにしてライヴをしたいということもおっしゃっていましたね。

「KENNY君はアメリカのスクールバス、いわゆる映画とかでよく見る、白とか黄色がベースになっているやつ、あれを日本で中古車で、名古屋のほうで見つけたって言っていたかな。見つけてから寝ても覚めても、そのことが頭から離れず、友達と一緒に車に乗って、買いに行ったみたいな話から、それを使って本当はフードトラックをやりたかった、みたいなことを言ってました。

 ただ、フードトラックって法律的にも色んな規制があって無理だから、キャンピングカーにしよう! みたいな感じで・・・でもそのお陰で色んな旅したり、サーフィンに行ったり、音楽ツアーが出来たり、すごくいいです〜、ガソリンはめちゃめちゃ食いますけど〜って言ってましたけど」

●本に登場されているかたのインタビューは全員GAKUさんがされたんですよね?

「はいそうです」

●実際にインタビューされて、どんなことを感じられました?

「インタビューして思ったのは、本当にキャンピングカーって、ひとことで言い切れない多種多様なモデルがあると。同じモデルは2つとないと思ってくださってもいいというか、やっぱり同じ住居があんまりない、色んな種類がある、人の家も同じものがないっていうのと一緒で、車も実は全然違うんですね。

 目的に合わせてサイズ、ベッドの数、キッチンの占める割合、トイレはあるのかないのかとか、色んな選択肢がある・・・もちろん僕も知っていましたけれども、やっぱりこういうところに行きたい、こういう使いかたをしたいから、こういうレイアウトなんだな、みたいなね、そういうのを改めて教えていただきましたね。

 キャンピングカーをなんとなくいいな〜って思っているかたって、きっと潜在的にも多いと思うんですけど、この本を通して、改めて考えることによって、自分はこういう使い方をしたいから、キャンピングカーがあったほうがいいなとか、仕事も忙しいから、週末だけ借りるレンタカーからまずやってみたらいいなとか、将来は家を売っぱらって、でかいキャンピングカーに住めばいいじゃん! みたいなのとか、そういう想像ができて面白かったです」

GAKU-MCさん

家族とキャンピングカー 海外ツアー

※GAKUさんはプライベートでもご家族とキャンピングカーで旅をされたんですよね?

「GAKU号を借りている時は、使っていない時に家族みんな乗って、旅行に行ったりもしましたし、ちょっと前は、自分のうちだけでキャンピングカー1台を、乗用車とは別に所有すると、割とコストがかかったりするじゃないですか。だから5家族で1台のキャンピングカーを、シェアで持つっていうのをやっていたこともあります」

●それはお友達の家族で?

「そうですね。だから、今週うちが使いますんでとか、来週はうちが使いますんで、みたいな、そういうのをちゃんと皆で割り振ってやると。ネットで空いているスケジュールも見られたりして、そういうのでやっていたこともありますね」

●それはいいですね!

「これはまず、グンとコストを抑えられるっていうのと、やっぱり自分のうちだけで使うんじゃないから、すごく奇麗にしようっていう気持ちになるんですね。荷物も置きっぱなしにしておかないで、一回(使い)終わったらちゃんと出すっていう、あんまり入れっぱなしにしておくのも忘れるし、良くないなっていう風に思うので」

●キャンピングカーの旅は、子供たちにとっては冒険っていう感じですよね。

「秘密基地がそのまま車になって移動するみたいなことなんでね、すごくいいと思いました」

GAKU-MCさん

●そうですよね〜。海外はやっぱりキャンピングカーは多いんですか?

「本場はアメリカとか、ヨーロッパだと思うんですけど、昔からアメリカをキャンピングカーで旅するっていうのをちょっと憧れていた部分もありまして、もう4年前か5年前くらいになるんですけど、実は家族で世界一周したことがありました。その時のアメリカ、メキシコの旅を現地でレンタルして、キャンピングカーで行ったことがあります」

●海外をキャンピングカーってすごいことですよね!

「これね、ちょっと字面だけ聞いていると、すっげえ! ってなるんですけど、その時は子供が2人、今は3人なんですけど、子供が2人の時で、下がその時2歳だったのかな。小っちゃいと、飛行機の待ち時間が結構耐えられなくなるっていうか、荷物も多いし、すぐ寝るし、起きたら泣いていなくなるし、みたいな・・・。キャンピングカーにバンっと荷物も子供も放り投げておくと、旅としてはすごくカロリー低く行けますよね。

 アメリカはレストランに行っても、すごく食事の量が多いじゃないですか。頼むと食べきれないし、残さなきゃいけないし、そういうのもなんかちょっとフラストレーションが溜まったりするんですけど、キャンピングカーだとママの料理で、ずっと必要な分だけ、日本食で食べられるものを選んでいけるので、そういう意味では、アメリカのキャンピングカー旅は本当に安全極まりなく快適でよかったですよ。

 RVパークっていうキャンピングカー用の施設がすごく充実していて、どこの街に行ってもそれがちゃんとあって、停めて電気と排水をつないで、(パークの)真ん中に行くとプールがあってみたいな、そういう感じです」

移動中にウカスカジー の曲が出来た!

※近々、キャンピングカーで出かける予定はあるんですか?

「今、実はMr.Childrenの桜井とやっているウカスカジーのツアーが始まっておりまして、これは飛行機と新幹線を使って、ホテルに泊まるツアーなんですけど(笑)」

●キャンピングカーではないんですね?

「このツアーはキャンピングカーではないんですけど(笑)、実はこのウカスカジーのツアーで、桜井含めバンド・メンバーに、キャンピングカーすごくいいんだぜ!って言って、前回のツアーで1カ所、キャンピングカーを持っていって、みんなで乗って移動して、楽しんだっていうことがありまして、またツアーのどこかでやりたいなとは思っているんですよ。

 ちなみに前回ウカスカジーがキャンピングカーで移動した時、車内で出来た曲(*)っていうのが、(ウカスカジーの)新しいアルバムに入っておりますので、機会があったら、聴いていただけると嬉しいなと思っています」

(編集部注:*曲名は「プリーズ・サマー・ブリーズ」。今月リリースされたウカスカジーのニュー・アルバム『どんなことでも起こりうる』に収録)

●やっぱり、キャンピングカーでの移動中に出来る曲ってあるんですね。

「あります! あります! ギターのやつが急に弾きだして、僕と桜井が鼻歌でふふ〜んって歌いながら、出来た〜! みたいなね、そんなんありましたからね」

●ええ〜っ、すごい! 

「やっぱりそういう意味でも、長い移動、車の中だと寝ちゃうやつもいるんですけど、キャンピングカーってスイッチが入った時、みんなテンションが高く、話も盛り上がりながら進んで行くんでね、その時はすごく楽しかったです」

●本当にキャンピングカーって、人生とかライフスタイルを豊かにしてくれそうですね。

「はい! そうだと思います、ぜひ! まだ未体験の人は最初から購入を考えると、ちょっと二の足を踏むと思うので、今はレンタルのキャンピングカーはどこにでもありますし、まずそこからやってみるっていうのと、あとAirbnb(エアビーアンドビー)ってわかります? 誰かが家を貸すサービスみたいのあるじゃないですか?
  あんな感じのサービスがキャンピングカー・バージョンであるので、普段、所有されているかたが使っていない時、どうぞ、みたいのも結構、今あって、そこで借りると、色んなこだわった車種とかもたくさんあるので、まずそういうのを試してみるといいかなと思いますね」

☆この他のGAKU-MCさんのトークもご覧下さい


INFORMATION


人生にキャンピングカーを

『人生にキャンピングカーを』

 キャンピングカーライフをエンジョイされている方々、21名が登場。そのこだわりが美しい写真とともに紹介されていて、見ているだけでも夢が膨らみますよ。キャンピングカーが欲しくなること請け合いです! ぜひ読んでください。A-WORKSから絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎A-WORKS:http://www.a-works.gr.jp

 GAKUさんはミスター・チルドレンの桜井和寿さんとのユニット「ウカスカジー」で現在、全国ツアー中。1月30日の広島公演まで続きます。

 また、来年2022年4月のソロ・ツアーが決定! 東京公演は4月22日(金)に渋谷プレジャー・プレジャーとなっています。

 詳しくはGAKUさんのオフィシャルサイトを見てください。

◎GAKU-MC :http://www.gaku-mc.net

<プレゼントの応募方法>

GAKU-MCさんの本『人生にキャンピングカーを』を直筆サイン入りで、抽選で3名のかたにプレゼントいたします。

応募はメールでお願いします。
件名に「本のプレゼント希望」と書いて、番組までお送りください。

flint@bayfm.co.jp

あなたの住所、氏名、職業、電話番号を忘れずに。番組を聴いての感想なども書いてくださると嬉しいです。応募の締め切りは12月24日(金)。当選発表は発送をもって代えさせていただきます。たくさんのご応募、お待ちしています。

応募は締め切られました。たくさんのご応募、誠にありがとうございました。

面白いな、可愛いな、ちょっと見てみよう〜漫画がいざなう生き物の世界

2021/12/12 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、生き物が大好きなイラストレーター「一日一種(いちにちいっしゅ)」さんです。

 一種さんは、環境アセスメントなどに関する、生き物や環境の調査を行なう会社に勤務後、独立。現在はフリーのイラストレーターとして「いきものデザイン研究所」というサイトを運営しているほか、生き物に関する本を数多く出版されています。

 「いきものデザイン研究所」では、生き物の面白い生態を4コマ漫画でわかりやすく紹介、その可愛くて親しみやすい絵と、ユニークな世界観がSNSなどで話題になっています。そんな一種さんが先頃、初心者向けのバードウォッチングの本を出されました。

 きょうは、バードウォッチングの初心者に向けてのアドバイス、そして、好奇心をくすぐる生き物たちの面白話をお届けします。

☆イラストレーション&漫画:一日一種

秋から冬がベスト・シーズン

イラストレーション&漫画:一日一種

※一種さんの新しい本『今日からはじめる ばーどらいふ!』。この本はひとりの男性がバードウォッチングにハマっていく様子を漫画やイラストで紹介していますが、これは一種さんの体験がもとになっているんですか?

「中身のところで、鳥の楽しさとか見つける喜びとか、あとは図鑑で調べる面白さ、そういうのはやっぱり実体験がベースにはなっていますね。ストーリーは全く体験は関係ないんですけど(笑)」

●この本は、まさにバードウォッチングの初心者の入門書みたいな感じですよね?

「意識的にはそういうものになればいいかなって。それよりも、バードウォッチングを始めようかなっていう人って正直そんな多くないかなって思ったので。ただ、バードウォッチングって何だろう?とか、興味があるっていう人は割といるかと思うんですよ。だから、始めようかなぐらいよりも、もっと手前の人も含めて、見てもらえるような本になればいいかなと思って、特に親しみやすさを含めて漫画にしました」

イラストレーション&漫画:一日一種

●とっても読みやすかったです! 一種さんはもともと、野鳥がお好きだったんですか? 

「そうですね。私も環境コンサルタントの会社に勤めていた頃は、鳥を主に調査をしていたので、専門家っていうほどでは全然ないんですけれども、生き物の中ではいちばん鳥は接してきたグループではあります」

私もこの番組でバードウォッチングの体験を海浜幕張でさせていただいたんですね。こんな都会に鳥っているんだなっていうのがすごく驚きで、カラスやハトしかいないんじゃないかっていう風に思っていたので、色んな鳥が実は身近にいるんだなということをすごく感じたんです。実際、この時期がちょうどバードウォッチングにいい季節なんですよね? 

「秋の終わりぐらいから葉っぱが落ち始めて、冬ぐらいまでは特にいい時期とは言われますね。年間を通してそれぞれ(の季節)に見どころはあるんですね。やっぱり初心者のかたとか、ベテランのかたでもそうですけれども、冬がやりやすい、始める人には結構いいかなっていうのは言われていますし、僕もそう思います」

●それはどうしてですか? 

「色々理由はあるんですけれども、主なところだとやっぱり、落葉樹の葉っぱが落ちて、鳥が見やすくなるっていうのがありますし、秋までに生まれた個体が加わって全体的に数が増えるとかですね。あとは混群(こんぐん)というのを作る、違う種類同士が集まって、一緒にグループになって見やすくなることがあったりとか、あと大きなところは渡り鳥がやってくることですね。

 夏ぐらいまでは山の標高の高いところで繁殖していた、棲んでいた鳥たちが、冬になって食べるものがないとか寒いとかって理由で降りてくるんですよね。だから私たちの身近でも普通に見られるようになります。あと北国の鳥とかも渡ってきますし、全体的に種類が増えるし、数も増えるし、見やすくなるのでやっぱり冬が個人的にもおすすめです」

野鳥観察におすすめは公園

※この時期だと、どんな野鳥を見ることができますか?

「環境にもよるんですけれども、普通の雑木林とか緑地であれば、小鳥類のシジュウカラやコゲラ、あとメジロとか。冬っていうことを考えるとツグミ類、地上をトコトコ歩いている中型の鳥、あとはジョウビタキっていう(今回番組で)ご紹介いただく本にも出てくる、オスはお腹がオレンジ色の、結構可愛い鳥も見られますね」

イラストレーション&漫画:一日一種

●おすすめの観察場所はありますか? 

「ピンポイントで特定の場所でなければ、やっぱりこれから(バードウォッチングを)やろうかな、やってみたいなっていう人におすすめなのは公園ですね。公園に行けば、水辺、池があったりして、そこで冬になってきてカモ類とかたくさん見られたり、広葉樹に小鳥類の群れが来ていたりしますね。

 鳥も公園だと警戒心が薄いんですよね。大自然の中に行くと全然見られない、すぐ逃げていっちゃうような距離でも、公園だと鳥の警戒心が薄いので、とても近くて見やすいので、すごくおすすめです」

●確かに池とかそういった水辺がある場所と、雑木林がある場所では見られる野鳥の種類も違いますよね。

「そうですね。その点では公園はどちらもセットになっていたりして、水辺で色んなカモ類を見て、そのあと雑木林で小鳥類を見たりとか出来ますね。本当におっしゃる通り環境によって全然違います。林、水辺、ちょっと流れのある川、草地、それぞれでやっぱり見られる野鳥が結構違うので、色んな環境で見るといいかなと思います」

●公園で野鳥を見つけるコツってありますか? 観察のポイントとかあったら教えてください。 

「公園に行って、水辺のカモ類は、特にコツとかあんまりなくて、すぐに見つけられると思うんですよ。ただ、昼ぐらいになるとカモ類って結構岸辺で休んでいたりするので、朝方は普通に見られたカモがいないなって思ったら、岸辺のほうを見ると見つけられたりとか、環境と環境の際辺りにいるようなことが多いと思いますね。

 川でも、川のど真ん中よりも、ちょっと岸辺の辺りを目でなぞるように探していくと、割とセキレイ類を見つけられたりとか、ちょっと休んでいる水鳥を見つけられたりしますよ。
 林を見ている時も、林全体を見ているとなかなか見つからないと思うんですけれども、林間というか、こずえの辺りを舐めるように見ていくと、上のほうに止まっている鳥を見つけられたりとかします。

 もっと簡単なコツを言えば、やっぱり聴くことですかね。声を聴く、バードウォッチングですけれども、割とリスニングが大事だったりします。まず声を聴いて、どこにいるんだろうって探す、その順番で見つけられることが多いですね。まず耳を澄ますのは大事だと思います」 

イラストレーション&漫画:一日一種

*編集部注:千葉でおすすめの観察場所として、一種さんがあげてくださったのは、習志野市の谷津干潟。自然観察センターには備え付けのフィールドスコープもあるし、野鳥観察のガイドさんもいるそうです。そしてもう1箇所が銚子漁港。何種類ものカモメが見られる、野鳥好きにはマニアックな場所だそうです。

 バードウォッチングの初心者のかたは、「日本野鳥の会」が開催しているバードウォッチングのイベントに参加するのもおすすめと一種さんはおっしゃっていました。全国で開催しているので「日本野鳥の会」のホームページをチェックしてみてください。

◎日本野鳥の会:https://www.wbsj.org/

イライラの由来、二度寝するカエル!?

●一種さんが運営されているサイト「いきものデザイン研究所」には、生き物に関する4コマ漫画が掲載されています。その中から、私が特に気になった漫画を色々お聞きします。

  まずは「由来が意外なあの言葉」という4コマ漫画がありまして、イラクサという多年草から”イライラ”という言葉だったり、”ひし形”というのは菱(ひし)という植物から来たんだよ! っていうことでしたが、それは本当なんですか? 

イラストレーション&漫画:一日一種

「はい、語源の由来自体は、どんなものでも諸説があったりするので、絶対にこれが正しいっていうわけじゃないんですけども、一説としては言われていますね。意外と植物が先だったんだっていう、ちょっとびっくりする由来ですけれども」

●びっくりです! 

「イラクサは、棘(トゲ)を全般的にイラって呼んだりして、その中でもイラクサっていう草はガラス状の棘で、刺さると簡単に砕けてしまって、しばらく取りづらいんですね。毒が入っている棘なので、結構痛痒いんですよ。ずーっとイラクサが刺さると痛痒い感じがして、まさにイライラするみたいな状態になるんですね(笑)。

 ”苛立つ(イラダツ)”から来るとも言われますね。棘(イラ)が立つ、刺さって立つことからイラダツ、イライラが苛立つから来たのかもしれないですけれども、そういうイラクサを含む、棘のある植物から来てるっていうことはどうやら確からしいです」

●へえ~〜〜! 

「ひし形もそうですね。水草の菱を見ると、そこまでひし形でもないかなっていう気はするんですけど、ただ漢字もやっぱり同じ菱、水草の菱と同じで、ひし形の由来は、どうやらそこから来ているっていうのは読めますね。葉っぱも果実も、ややひし形っぽい形をしていて、どちらから来ているのかは確かじゃないんですけども、どうやら水草から来ているようです」

●面白いですね~。それから「早起きだが、二度寝するカエル」っていうのもありましたよね。アカガエルの産卵のお話でしたけれども・・・。

イラストレーション&漫画:一日一種

「そうですね。それを漫画にしたのは、やっぱり早起きするのがまずは面白くて、さらに産卵したあと二度寝しちゃうのが、ふたつ目の面白いところで、漫画にしてみたいなって思ったんですね。

 カエル類は、冬眠して春に起きて産卵みたいなイメージが、どちらかというと強いかと思うんですけれども、アカガエル類はちょっと特殊な産卵方法です。戦略だと思うんですけど、天敵があんまりいないような、まだ寒い2月くらいに、まず起きて産卵をします。産卵をしたあとは、起きていればいいかなとも思うんですけど、やっぱり食べる物がないのか、ちょっと活動はしづらいみたいで、春が来て暖かくなるまで寝ちゃうっていう(笑)」

●二度寝しちゃうんですね?(笑)

「人間でいうところの二度寝、ちょっと真面目な二度寝ですけども」

変身するニホンウナギ

※一種さんが主宰されているサイト「いきものデザイン研究所」にアップされていた4コマ漫画の中からもうひとつ。「ニホンウナギの変態」という漫画がありましたよね?

「そうですね。あれは土用の丑の日に合わせて、何かしらウナギの面白い話をアップ出来ればなと思っていたんですね。今ウナギって絶滅危惧種なところにまず、すごく関心がいっているじゃないですか。それもすごく大事なテーマなんですけれども、それですごい乱獲がどうのこうのとか、ウナギを食べないようにしなきゃみたいなところに、みんな意識が集中しちゃっているかなと思ったので、それより以前に、別の視点でウナギってこんなところが、実はすごく面白い生き物なんだっていうのを知ってもらえればな~と思って、敢えて変態っていうテーマで書いたんですね。

 食のウナギっていうよりも、生き物のウナギとしての見方でも、実はすごく魅力的な生き物なんですね。産卵場所をようやく特定できたことは、数年前にニュースになったりもしましたけれども、本当に謎だらけの、何かすごくダイナミックな生き方をしている面白い生き物です。そういう面も知ってもらえたら、食べ方とか、食としてのウナギのほうの接し方も変わるのかなと思って、そういう漫画を描きました。

イラストレーション&漫画:一日一種

 変態は、蝶がやっぱり有名だと思いますけれど、イモムシからサナギになって成虫になるみたいな変態を、ウナギも何段階かの変態をします。最初は葉っぱ型のレプトケファルスっていう、海流に乗りやすい不思議な平べったい形をしているんですけれども、それが段々日本に近づいて来ると、細長いいわゆるウナギ型みたいな形になって、シラスウナギっていう状態になります。

 それがどんどん成長していくと、お腹が黄色くなったり、黒くなったり、最後に銀ウナギっていうお腹が銀色のウナギになったりする、変身を何回も繰り返す、実は面白い魚なんですね。なので、”変態するウナギ”っていうテーマで、面白さを知ってもらえればなと思って、漫画を描きました」

漫画だけど、裏付けはちゃんと

※「いきものデザイン研究所」のサイトにあげている4コマ漫画のネタは、どうやって決めているんですか?

「生き物のネタ自体は世の中ありふれているので、僕は出来るだけ多くの人に興味を持ってもらえそうなものを決めて、それからどうやって漫画にしようとか、どうやったら面白く伝えられるかを考えて作りますね」

●でも、漫画を描くにもやっぱり生き物とか自然のことをよく分かっていないと描けないですよね。

「そうかもしれないですね。僕もそれなりに調査とか仕事でやっていても全然、今もそうですけれども、まだまだ知らないなと思うので、漫画にする前に間違いがないように、フィクションの部分はフィクションとしてちゃんと伝わるようにして、情報として伝える部分は間違いないように、ちゃんと調べたりしたりとかはしていますね。そこがいちばん正直、神経が擦り減る辛いところですね」

●漫画を描くこと以上に大変なことなんですね。

「そうですね。やっぱりこういうものをやっていると、どうしても漫画なので、誇張して伝わっちゃう部分もあるんですけれども、出来るだけ、おかしな伝わり方をしないように、こう見えても一応は気を使っているつもりです。はい!」

●改めて一種さんが漫画やイラストを通じて、どんなことを伝えたいですか?

「正直そんなすごい意識を持って欲しいわけじゃ全然ないんですよね。ただ単純に、生き物ってこういうところが面白いなとか、可愛いなとか、ちょっと見てみようかなぐらいな感じで、ちょっと入口になればいいかなくらいに思っています。

 生き物が嫌いな人に無理やり勧めようとか、好きになってもらいたいなんて全然思っていなくて、本当に普通に暮らしている人が、ちょっと知って特になればくらいに思って漫画を描いています。基本的に漫画ってほんと娯楽なので、それぐらいですね」

*編集部注:一種さんがいま注目しているのが微生物、例えば身近な生き物として、苔などいるクマムシ、乾燥にも強いスーパー微生物ですよね。そんな微生物のミクロの世界を描いてみたいそうです。


INFORMATION

『今日からはじめる ばーどらいふ!』


『今日からはじめる ばーどらいふ!』

 初心者に向けて、バードウォッチングのポイントやノウハウ、そして面白さなどを漫画とイラストでわかりやすく解説、本当に楽しく読めますよ。これからやってみようと思っているかたに最適な入門書。ぜひ活用してください。文一総合出版から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎文一総合出版HP:
 https://www.bun-ichi.co.jp/tabid/57/pdid/978-4-8299-7236-6/Default.aspx

 一種さんが主宰しているサイト「いきものデザイン研究所」もぜひご覧くださいね。4コマ漫画、面白いですよ。

◎「いきものデザイン研究所」HP:http://wildlife-d.xsrv.jp

生き物の宝庫、奄美大島〜自然と人の営みが近い島

2021/12/5 UP!

 今年の嬉しい出来事のひとつとして、7月に奄美大島が沖縄ほかとともに世界自然遺産に登録されたことがあげられます。国内では白神山地、屋久島、知床、小笠原諸島についで5件目になります。

 鹿児島県に属する奄美大島が選ばれた理由は、なんといっても生物多様性の高さで、固有種の多さは際立っています。奄美大島は日本の国土の0.2%にも満たないのに、国内全体の、生物の種類のおよそ13%が確認されているそうです。そんな生き物の楽園、奄美大島にご案内します。

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、生きものカメラマン「松橋利光(まつはし・としみつ)」さんです。

 松橋さんは1969年、神奈川県出身。水族館に勤務後、フリーのカメラマンとしておもにカエルなどの水生生物をメインに、いろいろな生き物を撮影、これまでに児童向けの本や写真絵本を数多く出版。また、子供向けの生き物教室も開催されています。

 そんな松橋さんの新しい絵本が『奄美の道で生きものみーつけた』。これまでに40回ほど通ったという奄美大島の生き物や自然について、きょうはたっぷりお話をうかがいます。

☆写真:松橋利光

松橋利光さん

道で出会える生き物たち

●本のタイトルに「奄美の道」と入れたのは、奄美大島では道でたくさんの生き物に出会えるからなんですか?

「そうですね。奄美大島は森の中にたくさん林道が走っていて、身近な生活道路だったりもするんですけど、生き物を探す時の基本として、そういう道で車をゆっくり走らせて、まずその状況を知るのが第一歩なんですね。そこで出会う生き物を集めてみました」

写真:松橋利光

●奄美大島は道を歩いているだけで、こんなにたくさんの生き物に出会えるんですね。

「(生き物に出会えるのは)道だけじゃないですけど、生き物の数というか量は沖縄のやんばる以上だと思っています」

●以前よりも生き物は増えてきているんですか? 

「”マングースバスターズ(*)”がすごく機能しているようです。外来のハブの退治のために導入されたマングーズが増えて、結構カエルとか食べちゃったりするんですけど、その駆除が世界でも珍しいぐらいうまくいっている島なんです。それだけじゃなく、ほかの保全活動とか色々相まって、この10年でかなり爆発的に生き物が増えていると思います」

●今年7月には沖縄本島などと共に世界自然遺産に登録されましたけれども、何度も通っている松橋さんとしてはどうですか? 決まった瞬間はどんなお気持ちでした? 

「やっぱり世界遺産に向けて頑張っている人たちも見てきましたし、ものすごく嬉しい気持ちでいっぱいだったんですけど、自分はシンプルに自然を好きな人間として言ってしまえば、若干注目されて観光で人が増えると、また道で何かが起きてしまうんじゃないかみたいな、そういう弊害みたいなものに対しての心配も少しありました」

*ハブなどの駆除を目的に導入されたマングースがハブなどを食べずにアマミノクロウサギなどを捕食して、固有の生き物が減る一方でハブが増えてしまったそうです。そのため、環境省では2000年から本格的にマングースの駆除に着手、その事業のことを「奄美マングースバスターズ」と呼んでいます。その取り組みがうまくいき、奄美大島の生き物たちが増えているのではないかということなんですね。
 環境省の奄美野生生物保護センターでは保護活動など、様々な取り組みを行なっています。ぜひオフィシャルサイトをご覧ください。

◎奄美野生生物保護センターHP:https://www.env.go.jp/nature/kisho/wildlifecenter/amami.html

日本一美しいアマミイシカワガエル

※改めて、奄美大島の気候や天候について教えていただけますか。

「亜熱帯なんですけれども、暑さは、最近関東の夏はすごい暑さですよね。ああいう暑さとはまた違っていて、しっかり雨も降りますし、夜は涼しくなりますから、それほど過ごしにくいというか過酷な状況ではなくて、かえって夏は奄美で過ごしたいぐらいに思う時がありますよ」

写真:松橋利光

●そうですか! すごく高温多湿なイメージあるんですけれども、湿気とかも多いですよね? 

「湿気はすごいです。湿気はすごいですけど、そのおかげで、雨が定期的に降ることで、カエルの撮影がしやすいので、かえってありがたいです(笑)」

●自然相手だと撮影もなかなか大変なんじゃないですか? 

「今の時期は繁殖期だからと思って行っても大外しすることがありますし、ふいにチャンスが訪れる時もあるので、そこは努力してもしょうがないというか、なるべく回数を行ってチャンスを増やすっていうだけですかね」

●奄美大島は、そこにしかいない生き物もたくさんいるんですよね?

写真:松橋利光

「そうですね。有名なところだとアマミノクロウサギとか、ルリカケス、あとはアマミイシカワガエルとか、アマミと名の付く生き物はとても多いですね。固有種と言われるものが脊椎動物だけでも何種類かいて、昆虫も含めるともう何百といるようなので、奄美でしか見られない生き物はたくさんいます」

●アマミイシカワガエルは写真絵本にも写真が載っていましたけれども、実際に見ると、どれほど美しいんですか? 

「日本一美しいって言われていますね。沖縄に棲むイシカワガエルと元々同種とされていたんですけど、何年か前に種として別れたんです。明らかにアマミイシカワガエルのほうが、緑色が、何色かのグラデーションの中に金をまぶしたような縁取りができていたり、背中だけをアップで撮ったりすると何かの模様ですよね。すごく美しいですよ。

 沖縄の種も含め本当に迷彩色なんですよ。緑色なので実は目立たないんですけど、でもよく見るとすごく複雑な色彩をしていて美しいです。実は結構大きいんですよ。本州で見られるようなカエルとは違っていて、子供の手のひらぐらいはあります。大きい種類だと大人の女性の手のひらぐらいはあるので、模様もはっきり見えますし、すごく綺麗ですよ」

写真:松橋利光

五感を駆使して見つけ出す

※松橋さんが奄美大島で、撮影のためによく通っている場所はどの辺なんですか?

「空港から(車で)1時間ぐらい南下したところに、大和村っていう集落があるんですね。そこの森が林道に沿って渓流もかなり多くて、林道を走っているだけで繁殖期とかですとカエルの鳴き声が聴こえてくるんですよ。この下で産卵しているんじゃないかと思って、車を停めて沢を下りていくみたいな、割と気軽に観察ができる場所があるので、その大和村がいちばん通っていますかね」

●それで降りて行って、実際やっぱりカエルがいた! みたいな感じなんですか? 

「そうです、そうです。カエルって鳴き声が全部違うので、この声はハナサキガエルだ! しかも数がいっぱい、ピヨピヨ鳴いているぞ! って思って降りていくと、産卵しやすい溜まりがあったりするんですよ。そこに何百と集まって産卵しているところに出会うんですね。(大和村は)川と生活が近いって言うんですかね。なので、耳や五感を駆使すれば、そういうシーンに出会うチャンスがたくさんあります」

写真:松橋利光

●同じ場所でも季節によって出会える生き物は違いますよね? 

「(生き物が)食べるもので出てくる場所も違いますし、繁殖期が近ければ、カエルなどは鳴き声が全然季節で違います。そういう季節の移り変わりで見られる生き物が違ったり、図鑑に書いてある通りに解釈していると全然繁殖期とか違ったりするので、とにかく(奄美大島に)行って、耳をすませて風を感じながら行動するしかないっていう感じですけどね」

●一日の撮影スケジュールはどういう感じなんですか?

「夜がメインなんですよ。朝は例えば鳥の渡りだとか面白いことがあれば、朝から鳥の撮影をして、昼間の生き物があまり動かない時間にちょっと仮眠をとって、夜森に入って、(カエルの)産卵に出会ってしまったりしたら、一応産卵が終わるまでか、もしくは明るくなるまで待って、朝帰って仮眠してみたいな感じなので、本当に寝るとか食事っていうのはいちばん後回しで、ほぼ森にいます」

繁殖期、必死なカエルと紳士的なカエル

※撮影のためのフィールドワーク中に、なかなか出会えない生き物と出会えた時って、やっぱりどきどきするんですか?

「生き物との出会いや、そのシーンの出会いは毎回嬉しいですし、ドキッとするんです。それを体の動きで(いきなり)近づくと、生き物がびっくりするっていうのは、みなさん分かると思うんですけど、こっちの、”わっ、いた!”って気持ちの高揚が生きものに伝わるんですよ。なのでとにかく“いたっ!”って思っても、“いたっ!” って思わないようにしていたり、冷静を装うというか、本当になるべく心静かにっていうのがいちばんですね。いくら出会って感動しても」

●いた〜! って声に出さなくても、そういったワクワク感っていうのは生き物に伝わっちゃうものなんですか?

「多分、そう感じています。もちろん、その時に無駄な動きが出ちゃっているのかもしれないんですけど、やっぱり“あっ!”って思った時は、パッとこっちを見られた気がすることもあるので、“あっ!”って思っても、とにかく、すっと心を落ち着けるように意識はしています」

●難しいですね〜(笑)。

「難しいですよ。もう長年やっているので、何とかなっていますけど」

●生き物の撮影をしていて、思わずクスッと笑ってしまうような瞬間はありますか?

「本当に、生き物ってドジなので、ちょっと食べ物を落としたりとか、そういう日常の、クスッと笑えるようなトラブルってよくあるんですけど、カエルは普段すごく警戒心が強いのに、繁殖期になると、わけがわからないくらい必死なんですよ」

●必死なんですか?

「アマミハナサキガエルは、沢でピヨピヨ鳴いて集まるカエルなんですけど、数百と集まるので、オスがメスを探すことに必死なんですね。そういう時に胴長を履いて沢に行って、川の水が濁らないように水の中に半分入って、石に座ってずーっと待つんですけど、そうすると、自分の膝が石だと思われて、膝に4匹も5匹もカエルが乗っかってきたり・・・」

写真:松橋利光
写真:松橋利光

●へぇ〜!(笑)

「水中カメラで近づいたら、メスだと思って人の手につかまってきたり、なかなかその必死さは面白いですよ(笑)」

●面白いですね(笑)。微笑ましいというかなんというか・・・。

「面白いです! とにかく、もう笑いながら撮っています」

●ほかのカエルで、なにか面白い生態があったら教えてください。

「日本一美しいと言われているアマミイシカワガエルですとか、オットンガエル、奄美固有のカエルがいるんですけど、その2種類は逆にとても紳士的で、目の前にメスが現れても抱きついたりしないんですよ」

●ええっ!

「イシカワガエルは岩の隙間というか、穴の中で産卵するんですけど、穴の入口で鳴いて、メスがこっちに来るまで誘導するようにして鳴き続けて、一緒に穴の中に消えていくっていう感じですね。

写真:松橋利光

 オットンガエルは産卵のための小さな巣を作るんです。砂利をどけたような水たまりを作るんですけど、そこでオスが鳴いてメスが来ると、まずオスは一度巣を出て、メスがそれを値踏みするようにぐるぐる動くんですね」

●へぇ〜〜! 

「オスはまた戻って来て鳴いたりするんですけど、見ているとメスが姿勢を低くして、もう産卵してもいいよ!っていうような合図のようなものを出すんですよ。そうすると、(オスが)のそのそっと来て、背中に抱きついて産卵が始まったり、すごく紳士的なカエルがいて、面白いですよ」

写真:松橋利光

大事なのは謙虚さ

※奄美大島が世界自然遺産に登録されたことで、現地に行って生き物の写真を撮ってみたいと思うかたも多いと思います。プロのカメラマンとして何かアドバイスがあれば、お願いします。

「自然保護という観点からも、あとは危険防止という観点からも、シンプルに自然の中にいることをすごく意識して、常に謙虚に行動していれば、生き物ってそんなに逃げないんですよ。なので、ちゃんとルールを守って、自分が撮るっていうよりは、(生き物と)会えた喜びを普通に分かち合うぐらいな、余裕を持って森に入ってもらえれば、あれだけ生き物が多くて、出会うチャンスが多いので、いい写真が撮れちゃったりするのかなって思います」

●謙虚さ、が大事なんですね。

「そうですね」

●では最後に、この写真絵本を通して、どんなことを伝えたいですか?

「奄美大島の素晴らしさを伝えるっていうことはもちろんなんですけど、やっぱり生き物が多くて、自然と人の生活が近いイメージなんですね。本当に集落の裏に珍しいカエルやネズミが普通に現れるので、ロードキルのような事故があったりすることをきちんと知ってもらって、自分がどう行動したらいいのかを少し考えるきっかけになればいいかな思って作りました」

写真:松橋利光
写真:松橋利光

☆この他の松橋利光さんのトークもご覧ください


INFORMATION

『奄美の道で生きものみーつけた』


『奄美の道で生きものみーつけた』

 松橋さんの新しい絵本、お勧めです! 奄美の道で出会ったカエルやヘビ、ウサギや野鳥などの写真が満載。元環境省のアクティヴ・レンジャー木元侑菜(きもと・ゆうな)さんとの共著。松橋さんは木元さんから教えていただく現地の生き物情報に、とても助けられているとおっしゃっていました。奄美大島の美しくて可愛い生き物たちをぜひ感じてください。新日本出版社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎新日本出版社HP:
https://www.shinnihon-net.co.jp/child/detail/name/%E5%A5%84%E7%BE%8E%E3%81%AE%E9%81%93%E3%81%A7%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%BF%E3%83%BC%E3%81%A4%E3%81%91%E3%81%9F/code/978-4-406-06599-3/

恐竜の卵化石は時空を超えたミステリー!〜謎だらけの恐竜卵に挑む、若き恐竜学者〜

2021/11/28 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、筑波大学の恐竜学者「田中康平(たなか・こうへい)」さんです。

 田中さんは1985年、名古屋市生まれ。北海道大学卒業後、カナダのカリガリー大学に留学し、博士号を取得。現在は筑波大学・生命環境系の助教として、恐竜の繁殖行動や子育ての研究を中心に、恐竜の進化や生態の謎を解き明かそうとされています。

 恐竜の研究者というと、おもに骨の化石を研究しているイメージがありますよね。でも田中さんは、恐竜の骨ではなく、卵の化石を専門に研究されているスペシャリストとして注目されています。

 そんな「田中」さんの本『恐竜学者は止まらない!〜読み解け、卵化石ミステリー』が話題になっているということで、ゲストとしてお迎えいたしました。

 きょうは大発見となったモンゴル・ゴビ砂漠の卵化石や、恐竜の繁殖行動、そして謎多き恐竜卵についてお話しいただきます。

☆写真協力:田中康平

田中康平さん

ティラノサウルスは卵を温めていたのか!?

●『恐竜学者は止まらない!〜読み解け、卵化石ミステリー』という本を私も読ませていただきました。恐竜研究の本ですけれども、代表的なティラノサウルスやトリケラトプスはあまり出てこなくて、卵化石にここまで焦点を当てた本ってなかなかないですよね? 

「そうですよね。結構マニアックなところですよね(笑)」

●すごく興味深かったですし、田中さんのワクワクさがすごく伝わってきました。

「よかったです。本を書いていて、研究の楽しさが伝わればいいかなと思っていまして、そう言っていただいて本当によかったです」

田中康平さん

●田中さんが本当に恐竜がお好きなんだなーっていうのが伝わってきました! きょうは主に、田中さんのご専門である恐竜の繁殖行動についてうかがっていきたいと思うんです。

 恐竜の研究は日進月歩ということで、以前私たちがよく目にしていた恐竜の絵は、肌が爬虫類のようで、色もどちらかというと地味で、大型のトカゲのようなイメージでしたけれども、今は羽毛が生えた恐竜の絵が一般的になっていますよね? 

「そうですね。結構大人のかたのほうが驚かれるかたが多いですね」

●羽毛が生えていたという発見は、田中さんの研究でも大きなことだったんじゃないですか? 

「羽毛恐竜は、1990年代に実は最初のが見つかり始めていて、かなり前なんですよね。僕が子供の頃にも既に羽毛恐竜が出始めていたので、僕は結構すんなり羽毛がある恐竜にはスッと入っていけたんですけども、やっぱり卵化石を研究していて、恐竜が鳥みたいに卵を温めていたっていう説を言う時、羽毛があるかないかって結構違うじゃないですか。羽毛恐竜が見つかったことで、より説が浸透したというか、より確からしく感じますよね」

●映画『ジュラシックパーク』とかも私好きでよく観るんですけれども、あのティラノサウルスが卵を温めていたっていうことですよね? 

「恐竜の中でも、卵を温められたやつと、温めることができなかったやつがいると思うんですよ。ティラノサウルスは流石にちょっと身体が大きすぎて、温めようとすると多分、卵は割れたんじゃないかなと・・・」

●そうですよね! ちょっと想像がつかないなと思ったんですけど・・・恐竜によって色々違うんですね。

「恐竜は爬虫類から生まれてきて、最終的に鳥が恐竜の中から出現するんですけど、爬虫類と鳥だと全然子育てをする方法って違いますよね。恐竜はその中間にいるので、繁殖行動がどんな風に移り変わっていくかっていうのを研究するのには、すごくベストなグループなんですよね」

●恐竜卵の最大のものは、どれぐらいの大きさになるんですか? 

「今見つかっている中でいちばん大きいのは、中国から見つかっているんですけれども、結構、細長い卵で、長さが50 センチ近くあって、幅が16〜17センチぐらいですかね。かなり細長くて、生きていた時は(重さが)6キロぐらいあったんじゃないかなって言われています」

●6キロ!? 形は細長いものが多いんですか? 

「これも恐竜によって様々なんですけれども、鳥に近づくほど細長くなっていくことが分かっています」

●カメのようにピンポン球みたいな卵も中にはあるんですか? 

「見つかっています。そういうのもいっぱいあります」

●すごいですね。色んなバリエーションがあるんですね。

「そうなんですよ! 世界中で恐竜の卵はいっぱい見つかっているんですけど、全然今まで研究する人がいなかったんですよね」

卵の殻から謎を読み解く

※恐竜の卵化石は、海外ではお話に出てきた中国のほか、モンゴル、カナダ、アメリカ、アルゼンチンなど、そして国内では兵庫や福井、岐阜や山口などでも見つかっているそうですよ。

 そんな卵化石、田中さんはどこに着目して、どんな研究をされているんですか?

「顕微鏡で卵の細かな構造を調べたりとか、卵はどういうところに埋まっているかを調べたりとか、色んな情報を集めていくと、恐竜たちがどんな風に卵を産んで温めて孵化させていたのかが結構分かってくるものなんですよね」

●殻からも色々分かってくるんですよね? 

「卵化石は、そもそも卵の殻しか化石には残っていないんですね。中の黄身とか白身ってなくなっちゃうので」

写真協力:田中康平

●そうですよね。でもその殻だけを見て何が分かるんですか? 殻ですよね!? 

「そうなんですよ、証拠は本当にちょっとしかなくて。例えば卵の殻に小っちゃな穴がいっぱいあいているんですよ。ゆで卵を作るとプチプチと気泡みたいなのができますよね。中の赤ちゃんが息するための穴なんですけども、あれがたくさんあいていたら地面に埋めるタイプとか、穴が少なかったら鳥みたいに地上に巣を作って卵を産み落とすタイプっていうふうに、結構そういう形や構造に違いが出てくるんですね」

●すごい! 色んな研究があるんですね。野鳥は繁殖のために巣を作りますよね。 巣を作る材料も様々で、キツツキのように木に穴を開けて巣作りするものもあれば、コアジサシのように海岸の平坦な場所に、小石を敷き詰めて産卵するための場所を作る種もいますけど、恐竜の場合はどんな巣を作っていたんですか? 

「これもまた恐竜によって色々あったという風に考えられています。先ほど出てきた鳥に近い羽毛恐竜は、本当に鳥みたいに地面に巣を作って、親が卵を温めていたというのが分かっていますし、それよりもうちょっと古い恐竜だと、ウミガメみたいに卵を地面の中に埋めて、周りの熱で卵を孵化させていたことが分かっていますね」

●きょうはスタジオに卵化石の模型とレプリカを持ってきていただいたんですけれども、このふたつ、全然違う形ですよね? 

「まず大きさが違いますね」

●こちらが親指ぐらいの大きさというか、ウズラの卵をちょっと細長くしたような感じですよね。もうひとつのほうが? 

「これはニワトリの卵をふたつ、くっ付けたくらいの長さですかね」

●そうですね〜。

「どちらも同じ、鳥に近い羽毛恐竜の卵なんですね。ただ身体の大きさが違うので、ちょっと大きいのと、ちょっと小っちゃいのっていう感じですね」

写真協力:田中康平

●卵の殻の素材というか・・・このウズラの卵をちょっと細長くしたような小さめの卵のほうはツルツルですけど、大きいほうはブツブツというか・・・。

「表面をよく見るとなんかブツブツがいっぱいありますよね? 恐竜によって表面の模様みたいなものに実は色んなパターンがあって、それによって分類することができるし、例えばどの恐竜が産んだ(卵)だろうっていうことが推測できるんですね」

●へ〜〜そうなんですね。この卵ですと・・・?

「ブツブツの模様が付いている卵は、オヴィラプトルの仲間にみられる特徴です。オヴィラプトルは、オウムみたいな顔にダチョウのような体つきをした、小型の恐竜なんですけども、彼らが特徴的な卵を産むんですね。だから破片が見つかれば、オヴィラプトルの卵だって分かるんですね」

●そうやって読み解いていくんですね。

「もう1個の小っちゃなほうは、実は兵庫県の丹波市で見つかった卵なんですけど、めちゃくちゃ小さいですよね? 本当にウズラの卵ぐらいですね。これ今のところ世界最小の恐竜卵とされています」

モンゴルで発見! 大規模な集団営巣

※本に書いてあった、モンゴル・ゴビ砂漠で発見した恐竜卵の話がとても興味深く、面白かったんですが、改めていつ頃、どんな発見があったのか、教えていただけますか。

「これは僕がまだ大学院生の時だったんです。一緒に研究をしている北海道大学の先生で有名な小林快次先生っていう恐竜研究の先生がいらっしゃるんですけど、その先生がモンゴルで調査を毎年ずっとやっていて、そこで恐竜の巣の化石がいくつか見つかったんですね。それで僕に連絡をくださって、一緒に調査しないかっていうことで、僕もモンゴルに行ったんです。

写真協力:田中康平

 テニスコートぐらいのところに恐竜の巣の化石が、ぽこぽこぽこっていっぱいあったんですよ。同じ場所にたくさんあるのは集団営巣、”コロニー”って言って、ペンギンがよくテレビの映像で(同じ場所に)一緒に巣を作っていますよね。あんな感じのことを恐竜もしていたんじゃないかっていうことが分かってきたんですね」

●集団で巣を作っていたっていう発見は、恐竜研究の歴史に刻まれるすごいことですよね? 

「集団で巣を作っていた痕跡は、実は今までにも結構見つかってはいたんですよ。ただ、今回のモンゴルの(発見)は結構大きな規模で、詳しく研究したら恐竜の面白い行動パターンが分かってきたので、僕たちは論文にしたんですけど、どういう行動をしていたと思います? なんで恐竜って群れていたんでしょうね? 群れることで実はいいことがあるんですけど・・・」

●何だろう??? 

「群れると敵が来た時にすぐに発見できるんですよね。みんなに知らせられるので、ひとりでいるよりもたくさんでいたほうが、たくさんの目で敵を見つけやすいというメリットがあるわけなんですね。多分そうしていたんじゃないかと思っています。そうすることで巣をみんなで守っているというか、親がたくさんいるから敵が来た時でもすぐ見つけられて、営巣地を守っていたんじゃないかっていう風に考えています」

●先ほど規模が大きかったっておっしゃっていましたけれど、どれくらいの規模だったんですか? 

「少なくとも15個、巣の化石が見つかっています。本当に狭いエリアからですね」

●密集してみんなで群れていたんですね。この恐竜は自分たちで卵を温めていたタイプなんですか? 

「この恐竜の面白いことに、自分たちで温めていないパターンの恐竜なんですよね。爬虫類みたいに卵を地面の中に埋めていたタイプなんですよ。なのに集団で巣を守っているっていうのは、爬虫類的でもあるし、鳥によく似ているし、本当にちょっとモザイク上というか、進化の途中だっていうのが分かりますよね」

●肉食獣、草食獣っていう風に考えると、どっちなんですか? 

「これがまたややこしいんですけど、肉食から進化した植物食の恐竜なんですよ」

●ええ!? なんですかそれ! 

「ちょっと不思議ですよね。鳥に近いんですけども、そこまでまだ近くはない、本当に中途半端というか変わった恐竜なんですよ。テリジノサウルス類っていう恐竜なんですけど、可愛いテディベアみたいな可愛い恐竜です」

●どんな特徴があるんですか? 

「前足に長い爪を持っていまして、大きい種だと1メートル近い爪を持っています」

●すごいですね! 

「でも植物食なので、二足歩行で爪を熊手みたいに使って、木の枝をかき集めて植物を食べていたんじゃないかって言われています」

●で、敵から守るためにみんなで集まっていたんですね。 

「そうですね。強い恐竜ではなかったので、みんなで集まって巣を作って、卵を守っていたと思います」

●孵化したことは分かっているんですか? 

「それも分かってきていて、孵化したのが化石を詳しく調べていくと分かりました」

●15個の中からどれくらい孵化していたんですか? 

「15個巣があった内の9個の巣で孵化した形跡が見られたんですね。15個の内の9個っていうと、結構割合としては成功しているほうなんですね。60%の成功率なんですけど、この高い成功率は親が巣を守っている場合に見られる割合なんですね」

注:お話に出てきた北海道大学・総合博物館の教授「小林快次(こばやし・よしつぐ)」先生は恐竜ファンの間では「ダイナソー小林」として有名な、恐竜研究のエキスパートで、その先生との出会いが少年時代、自然や恐竜が大好きだった田中さんを本格的に恐竜学者への道にいざなったと言っても過言ではないでしょうね。

写真協力:田中康平

 田中さんは留学していたカナダでも発掘調査を行なっていますが、今後、発掘調査に行きたい場所としてウズベキスタンをあげてくださいました。実はコロナ禍になる前にウズベキスタンに行ったことがあるそうです。まだまだ未開拓の地で、たくさんの恐竜卵の化石が埋まっているのではないかと田中さんは胸を膨らませています。

恐竜の子育てミステリー

※恐竜の種類にもよると思いますが、卵から孵化したあと、親は子供にどうやって食べさせていたんですか?

「小尾さん、どうやっていたと思います?」

●鳥は口移しとか、ですよね・・・。

「はいはいはい、ツバメみたいな感じで」

●そういうイメージがありますけど、恐竜もそうですか?

「えーっとですね、クイズにしましょうか! 1:ツバメみたいに親が直接餌を与えていた。2:親が餌を巣まで持ってきて、それを子供がパクパクと食べていた。3:餌はあげなかった」

●う〜ん、2番! 

「2番、餌を持ってきて、巣の中でヒナが自分で食べていた。正解は、どれも分かりませんでした」

●え〜〜〜〜なんですか、それ!

「すみません。まだそこまで分かっていないんですよ」

●そうなんですか?

「生まれたあとの行動って化石には残らないので・・・。研究者によっては、親が餌を運んできただろうと言っている研究者もいるんですけども、なかなか確固たる証拠がないんですね。まだまだ謎に満ち溢れているという(笑)」

●そうなんですね。でもそういったことも今後分かってくるかもしれないってことですよね?

「そうです! アイデア次第でまだ気づいていないだけで、ヒントが隠されているかもしれないですよね」

●子育ての期間とかもまだ分かっていないっていう感じなんですか?

「分かっていないですね。ただ、卵が孵化するまでの期間は分かっているんですよ。何か月だと思います?」

●ちょっと見当もつかないです。どれくらいですか?

「例えば、体の大きなハドロサウルス類っていう恐竜がいるんですよ。体長が7〜8メートルくらいある恐竜で、直径20センチくらいの丸い卵を産むんですけど、何日くらいだと思います?」

●何日だろう? 時間がかかるのかな~?

「大きいからそれなりに時間はかかりそうですよね」

●正解は? 

「正解は半年って言われているんです。長いですよね、半年! 」

●半年! 

「僕はそんなに長くはないんじゃないかと思っているんですけど、そういう研究があります」

●野鳥の中ではカッコウのように、他の野鳥の巣に卵を産み付ける「托卵」という繁殖行動をとる種もいますけれども、恐竜でもあったと推測できるんですか?

「鋭い質問ですね~、それ(笑)。今のところ、托卵していた確かな証拠はないんですね。ただ、中国とかモンゴルとか、恐竜の卵化石がたくさん見つかる地域で、色んな博物館によって調べたりしているんですね。恐竜のきれいな巣の化石があって、卵がたくさん産んであるんですけども、明らかに種類が違う卵が混じっていたりすることがたまにあるんですよ」

●ほお~〜〜〜!

「もしかしたら、そういうのは托卵しているのかもしれないですね。ただ、まだ公表はされていないので、すごく興味ありますよね。今後、僕も詳しく調べてみたいなと思います」

恐竜の謎を一緒に解き明かそう!

写真協力:田中康平

※田中さんが調査や研究をしていく中で、いちばんワクワクするのはどんな時ですか?

「やっぱり研究のアイデアを思いついた時ですかね」

●アイデア!?

「砂漠で化石を発掘したり新種を見つけたりするのも、それはそれで楽しいと思うんですけども、卵が孵化するまでの日数をどうやって調べるかとか、恐竜は親が卵を温めていたのかっていうのは、アイデア勝負というか、いくつか限られた証拠から、仮説を立てて調べていくわけですね。そこで研究をこうやったら分かるんじゃないかっていう方法を思いついた時は、すごく嬉しいです」

●恐竜学者として心がけていることとか、大事にしていることはありますか?

「ちょっとした謎でも思いついたら、不思議だなって思ったことはメモしています。もしかしたら、それが次の研究に繫がるかもしれないですよね」

●子どもの時に感じていたような、何でなんだろう? っていう気持ちを大事にされているっていうことですか?

「本当にそれは重要だと思います。お子さんが質問してくることって大概、僕たち(研究者は)答えられないんです(笑)。本当にいいところを突いていて難しい質問が多いんですよね。でもそれは、逆を言えば今分かっていないから、大いに今後の研究のテーマになりうるってことですよね」

●なるほど〜。やりたいことがたくさんあると思うんですけれども、今後の大きな目標は何かありますか?

「そうですね。やっぱりまだみんなが思いつかないような、思いもしなかったような恐竜たちの行動とか暮らしぶりを明らかにしたいなって思いますよね」

●なにか具体的なことはありますか?

「やっぱり卵の研究をしているので、卵でもまだ分かっていないこと、ですね。さっきおっしゃったように、恐竜の親が赤ちゃんに餌を与えていたのか、何日くらいで巣立ったのか、そういうこともほとんど分かっていないんですよ。ぜひ何かしら、きっかけを見つけて謎を解き明かしたいなと思います」

●楽しみですね〜。夢が広がりますね! 恐竜が大好きな子供たちや、恐竜学者を目指そうとしている学生さんたちに、もし伝えたいことが何かありましたらお願いします。

「はい! 研究は大変ではあるんですけれども、とっても楽しいです。まだまだたくさんの謎があって、見つかっていない恐竜もたくさんまだ埋まっています。だからみんなが、お子さんたちが研究者になる頃には、謎がまだたくさんあふれているので、ぜひ一緒に恐竜の謎を解いていけたら嬉しいなって思っています」


INFORMATION


『恐竜学者は止まらない!〜読み解け、卵化石ミステリー』

『恐竜学者は止まらない!〜読み解け、卵化石ミステリー』

 カナダやモンゴル、中国などの発掘現場での奮闘の様子や、卵化石の研究成果、そしてなにより研究者として邁進していく姿に圧倒されると思います。恐竜卵の研究はまさに時空を超えてつながるミステリー。丸くて硬くて面白い、卵化石の世界にぜひ触れてみてください。創元社(そうげんしゃ)から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎創元社HP:https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4275

リヤカーを引いて、世界5大陸単独踏破!〜小さな一歩を積み重ねて77500キロ!

2021/11/21 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、徒歩旅行家「吉田正仁(よしだ・まさひと)」さんです。

 吉田さんは1981年、鳥取県生まれ。2009年から、ユーラシア大陸の横断を皮切りに、北米大陸、オーストラリア大陸の横断、東南アジアの縦断、その後、2014年からアフリカ大陸、2015年からは南米・北米大陸の縦断に挑戦し、たくさんの困難を乗り越え、リヤカーを引いて5大陸の単独踏破を成し遂げました。およそ10年かけて歩いた距離は全部で77500キロ! 地球一周がおよそ4万キロなので、2周分に近い距離になるんです。

 きょうはそんな吉田さんに、時速5キロの旅で出会った人々や、忘れられない絶景など、お話しいただきます。

☆写真協力:吉田正仁

吉田正仁さん
写真協力:吉田正仁

ひとつのことをやり遂げたい!

※吉田さんの新しい本が『歩みを止めるな! 世界の果てまで 952日リヤカー奮闘記』。この本は南米大陸の南の端から、北米大陸の北の端まで歩いた旅の紀行文です。
 やはり気になるのが、どうして歩いて世界をまわってみようと思ったのか。何度も聞かれていると思うんですけど、大陸を横断するような旅に挑戦しようと思ったのは、どうしてなんですか?

「25歳くらいになって、自分の人生を振り返った時に、何かひとつのことをやり遂げたっていう経験がなかったんですね。スポーツや勉強も何をやっても中途半端で、自分の人生って何だろうと考えていた時期がありました。私の場合は何かひとつのことをやり遂げたいと思って、元々旅好きだったというのもあるんですけど、どうせだったら歩いて、中国からユーラシア大陸の最西端のロカ岬まで自分の足で歩いてみようと、それがきっかけでした」

●その発想があっても、実際実行に移すのはなかなか大変なことなんじゃないですか? 

「そうですね。まずお金がなかったので、2年ぐらい仕事をして、お酒もやめてタバコもやめて、お金をしっかり貯めました。あと装備品ですね。テントや寝袋、リアカー、そういったものは色んな企業にお願いをしたんです。会社の昼休みにひとり、車にこもって、ずっと営業の電話をかけて、装備の支援をいただく交渉をしたりとか。ひとつひとつ自分だけの力で、あまり誰かにお金とかで頼ることもなくやりたいって思いがあったので、資金に関しても全部自己資金でやりました」

●旅の相棒はリアカーですよね? どうしてリアカーなんですか? 

「歩くとなると衣食住、どこにでもホテルとか宿があるわけではないので、テントも必要ですし、無人地帯では食料も必要になって、衣食住すべて揃えたら、時には50キロとかになるんです。それらは全部背負って歩くと足の故障にも繋がると思いますし、そういうリスクがあって、荷物の運搬手段として、動物も考えたんですけど、やっぱり国境を越える時に何かしらのトラブルが生じたりとか、途中で死なれても困りますし、そういうこともあって色々と考えていき着いたのがリアカーというものでした」

写真協力:吉田正仁

●野営のために必要な道具を全部詰め込むんですよね。

「そうですね。全てないと、野営に必要なものもですし、タイヤのパンク修理とかそういう道具や工具、そういったものも必要です」

●いちばん重い時で何キロくらいになるんですか? 

「食料や水に左右されるんですよ。いちばん長い時で320キロとか無補給地帯、水も食料も補給できないところもあるんですけど、そういうところでもいちばん重い時で水だけで32リットル、32キロですね。あと食料も10日分とか詰め込んで、いちばん重い時で100キロを超えるぐらいですね」

(注:大陸を横断するような旅に出ようと思ったのは、今までの人生を振り返って、ひとつのことをやり遂げたことがなかったから、というお話でしたが、大陸に挑戦する前に、バックパッカーとしてアフリカを旅したときに、観光地や大きな街を巡って、物足りなさを感じたそうです。もっと小さな村や街を訪れ、現地の人たちと触れ合いたい、という思いも大陸に挑戦する理由だったそうです)

アースウォーカー「ポール・コールマン」との出会い

※吉田さんの本を読んでいると、南米大陸の旅でもいろんなかたたちと出会っています。中でも、パタゴニアの小さな町に暮らすポール・コールマンさんとの出会いが興味深いんです。ポールさんは「アースウォーカー」と呼ばれ、世界を歩いて旅をしながら、100万本以上の木を植えた人として知られています。ポールさんとはどうやって出会ったんですか?

「私がポール・コールマンという名前を知ったのは、日本を出る前の話なんですね。登山とか極地探検とか、結構色んな冒険の歴史ってあるんですけど、なかなか歩いて大陸を横断したっていう前例が、記録として文章として残っているかというとそうでもないんです。インターネットで歩いている人について調べていたら、ポール・コールマンっていう名前が出てきて、それが最初のきっかけですね。100万本の木を植えながら世界4万キロを歩いた男がいると、それが彼を知ったひとつのきっかけだったんです。

 そして、チリを歩いていた時に、旅行者だったと思うんですけど、”ラフンタっていう町に木を植えながら(地球を)歩いた男がいるよ”と(教えてもらって)、その情報だけでポール・コールマンだと(わかって)すぐに思い立って、会いに行きました」

写真協力:吉田正仁

●実際、会っていかがでしたか? 

「やっぱり普通に考えて、歩いて旅をするって、最初できるんだろうか? って、経験も知識も何もなくて、大きな不安がやっぱりあったんですけど、ポール・コールマンとか、あと何人か歩いて(旅をして)いる人がいて、そういった人の前例が不安とか迷いがあった自分の背中を後押ししてくれました。

 それがあったのは確かなので、彼と出会えたことはすごく幸せだったと思います。彼は今、自給自足に近いような生活をしていて、元々荒地だったところ、そこにも木を植えて、今は野鳥や虫の、色んな生物の楽園になっているんです。

 彼も”ひとつひとつ目の前のことをやっていくことは、歩いているのと同じだ”というような話をしてくれて、歩き終えた時も自分の生きかたを、進む道を同じように一歩一歩行くんだよっていうことを教えてくれたような気がしました」

(注:ポール・コールマンさんの奥様は実は、活動を共にしている日本人の「菊池木乃実(きくち・このみ)」さんというかたです。菊池さんはポールさんの本も出していらっしゃいます)

旅が交わる砂漠のレストラン

写真協力:吉田正仁

●南米のペルーの砂漠にポツンとレストランがありましたよね? 

「それもすごく印象的ですね。ポール・コールマンと同じように自分の背中を後押ししてくれたかたのひとりが、池田拓さんっていうかたなんですね。池田さんの名前を知った時には、彼は既に亡くなっていて、もちろん面識はないんですけど、池田さんが南米(大陸)を縦断したということはもちろん自分の頭にもあって、南米を実際に歩きながら、池田さんもこういう場所を歩いたのかなと想像しながら歩いていたんですね。

 ペルーの砂漠地帯、首都リマの北300キロぐらいのところに、そのレストランはありました。レストランに着く3日前ぐらいに、1台の車が止まって、おじさんがこの先に家があるから寄って行けよと、そういうこと言ってくださったんすね。
 住所は、1キロ毎にマイルストーンっていうんですかね、距離の数字が書いてあるんです。337とかそういう数字だったと思うんですけど、くしゃくしゃのレシートに337キロって書いて渡してくれて、実際3日ぐらいでそこに辿り着いた時、レストランが現れたんです。

写真協力:吉田正仁

 そこが彼のレストランで、この砂漠地帯を旅する、自転車で旅する人もいるし、バイクで通り過ぎるような人もいるんですけど、そういう人を善意で招いて食事を与えてくれるかたなんです。そこを訪れた人のゲストブックっていうんですかね、記録で名前を書いていたり、色んな感想を書いていたり、そういうものが5冊くらいありました。それを渡されて、ページをめくった瞬間にもうビビビっと、稲妻が走るような衝撃があって、そこには池田拓さんの書き込みがあったんですね。衝撃的でしたね」

●吉田さんにとっては、池田拓さんは憧れに近いような存在ですよね?  

「そうですね。歩くきっかけを与えてくれた、直接面識はないんですけど、間接的にきっかけを与えてくれたようなかたで、こういう形で自分の旅と池田さんの旅が交わるということに感動を覚えました」

●すごいですね。ゲストブックには色々な歴史が刻まれているんですね。

「そうですね。グレートジャーニーっていう旅をされた関野吉晴さんっていう探検家もいらっしゃるんですけど、池田さんの数ページあとに関野さんの書き込みがあったり、個人的にいちばん尊敬しているカール・ブッシュビーっていう30年くらい歩き続けている人がいて、彼の書き込みもあって、こういう形で旅路が交わる、重なることにすごく嬉しく思いました。

 池田さんの話には後日談があって、日本に帰って本を出したあとに、知り合いの知り合いくらいを辿って、池田さんのお父さんも亡くなられているんですけど、お姉さんがまだお元気で、お姉さんに連絡を取って、本と池田さんの(ゲストブックの)書き込みの写真を送らせていただいて、喜んでくださったと、そういうことがありました」

●旅が繋いでくれた絆っていう感じですね! 

「そうですね」

(注:お話に出てきた吉田さん憧れの冒険家「池田拓」さんは、1988年から3年かけて、徒歩で北米大陸の横断と南米大陸の縦断を成し遂げた人です。残念ながら1992年に26歳の若さで亡くなっています)

忘れられないペルーの絶景

※南米大陸の旅で出会った未だに忘れられない絶景があれば、教えていただけますか?

「絶景ということであれば、ペルーにワスカラン国立公園というところがあるんですね。ちょうどペルーの首都リマに着いたあと、3週間くらい足を止めていたんです。その時に、リマの北東300キロくらい離れているんですけど、そのワスカラン国立公園は自分の歩くルートとちょっとずれるので、バスでワラスという街まで行ってトレッキングをしたんですね。テントとか寝袋を持って山を歩いて。

 それもすごく息をのむような景色の連続で、満足のいくものだったんですけど、トレッキングを終えて、バスに乗ってワラスに戻る時に、峠があって、峠を超えた瞬間、目の前にもう信じられないような景色が現れたんですね。6000メートル級の山が連なっていて、全部氷河を抱いているような山で、眼下にはターコイズブルーの湖が見えて」

●へぇ〜〜! 

「これ凄いな! と思って、トレッキングを終えて、一回リマに戻るんですけど、その景色を忘れられないんですね。戻りたいなって思って。でもペルーのリマからずーっと北を目指す当初の予定では、海抜0メートルの海岸線をずっと歩くだけなんです。ワラスに戻るにはアンデスを越えないといけなくて、4000メートルの峠を3つくらい越えないといけないんですよ。

 そういうことを考えていたら、戻りたくないという気持ちもあるんですけど、キツいのは目に見えているから。でも帰国後に、例えば今もなんですけど、どこがいちばん綺麗でした? と言われた時に、ワスカラン国立公園って堂々と答えるには、やっぱり自分の足でそこをリヤカーを引いて歩かないといけないなと思って、その4000メートルの峠を3つ越えて、2週間ぐらいかけて戻って、バスから見た景色と同じものをリヤカーと一緒に見ることができました」

写真協力:吉田正仁

会社務めは、新しい冒険!?

※世界5大陸をおよそ10年かけて踏破して、すでに3年近く経ちました。現在はモンベルの社員として仕事をされていますが、吉田さんの旅は次のステージに入っていると言ってもいいのでしょうか。

「そうですね。新しい冒険ですね、今の仕事は」

●おお〜! それはどんな冒険なんですか?

「未知ですね!(笑)。今の業務も全くの未知なんですね。仕事を教えてくださるかたは“北極圏を歩くほうが大変です”って言うんですけど(笑)」

●あははは(笑)

「僕は今の仕事のほうがよっぽど大変かな〜と思っています」

●ガラッと、生活も変わりますよね。

「はい」

●12月11日に開催されるモンベル主催の」冒険塾」で講師を務めることになっていますけれども、どんな内容になりそうなんですか?

「自分としては、踏み出す最初の一歩、踏み出すきっかけを与えるようなお話ができたらなと思っています。旅で歩く理由はもちろん、色んな国々でのエピソードもちょっとお話できたらと考えています」

●本を出版されるということは、人に影響を与える立場になられていると思うんですけれども、世界の旅で得たこと、感じたことで、どんなことをいちばん伝えたいですか?

「自分が伝えられること、いちばん、唯一にして最大のことっていうのは、どんな小さな一歩でもそれを積み重ねることで、夢とか目標とか、そういうものに辿り着く、近づくことができるっていうことかなと思います。

 歩いてきた距離が77500キロ、年月は10年くらいなんです。その77500キロとか、10年っていう数字だけを見たら、すごく大きなものに思われるかもしれないんですけど、結局やってきたことって、目の前の一歩を着実に確実に刻んでいくことなんですね。その結果そういう大きな数字になっていたということなので、そういうことを伝えられたらなと思っています」


INFORMATION

『歩みを止めるな! 世界の果てまで 952日リヤカー奮闘記』


『歩みを止めるな! 世界の果てまで 952日リヤカー奮闘記』

 南米・北米大陸を単独踏破したときの紀行文。奇跡的で印象的な出会いの数々や、大自然の過酷さや絶景など、読み応えのある話が満載です。ぜひ読んでください。産業編集センターから絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎産業編集センターHP:https://www.shc.co.jp/book/15058

「モンベル冒険塾」開催!

 吉田さんが講師として登壇する「モンベル冒険塾」が12月11日(土)の午後2時から開催されます。講師の顔ぶれは吉田さんのほかに、ヨットで太平洋往復単独横断を達成した辛坊治郎さん、冒険作家の佐藤ジョアナ玲子さん、そしてモンベルの辰野会長です。今回はモンベル大阪本社でのリアル開催と、オンライン配信となっています。参加者の募集は11月30日まで。参加費など、詳しくはモンベルのオフィシャルサイトをご覧ください。

◎モンベルHP:https://www.montbell.jp/generalpage/disp.php?id=590

散歩のすすめ〜日々ご機嫌でいるために

2021/11/14 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、小説家の「森沢明夫(もりさわ・あきお)」さんです。

 森沢さんは1969年、船橋市生まれ。早稲田大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーライターに。そして2007年に『海を抱いたビー玉』で小説家デビュー。その後、話題作を次々と発表されています。

 映画化されている作品も多く、例えば、高倉健さん主演の映画『あなたへ』や、吉永小百合さん主演の『ふしぎな岬の物語』、そして、有村架純さん主演の『夏美のホタル』など、原作は森沢さんの小説です。

 そんな森沢さんとこの番組は、14〜5年前からのお付き合いで、事あるごとにご出演いただいていますが、今回は、先頃出されたエッセイ集『ごきげんな散歩道』に沿ってお話をうかがうことになりました。

 森沢さん流の、日々「ごきげん」でいるためのコツや、小さな幸せに出会える散歩のお話にはきっと、心と体をリフレッシュさせるヒントがたくさんあると思いますよ。

☆写真:森沢明夫

森沢明夫さん
『ごきげんな散歩道』

深夜の散歩、霧の夜

※おうち時間が増えている中、本のタイトルにある「ごきげん」と「散歩」が、日々を過ごすための大切なキーワードになっていると思ったんですが、そのあたりはいかがですか?

「僕、単純に家の中にいるより、外をふらふらしているとそれだけでご機嫌になれる体質なのか分からないんですけど、散歩って科学的にも精神や心にすごく良いって言いますよね。歩いていると色んな出会いとか、人とも出会うし、例えば綺麗な空とも出会ったり、その季節の例えば花とか、色んなものと出会えるので、そういうものを見ていると、それだけでご機嫌になっていくなと思っていますね」

●私は移動手段として、ただただ歩いていたなっていう風に感じました。ちゃんと散歩で楽しんでなかったなと思ったので、やっぱり視野を広げて色々な世界を見てみると色んな発見がありますよね。

「足もとの世界に、よく見れば見るほど、色んな世界が実は広がっていて、子供の頃、よく“ありんこ”とかしゃがんで見ていませんでした? 大人になるとあまり見ないですよね。
 子供の視点で足もとに何かないかなーと思って探す、何か面白いものを探そうって目を持って歩いていると、意外と何でもない国道の道端に見たことのない雑草の花が、可愛いのが咲いていたりとか、色んな発見があるので、すごく楽しいですよね」

●日々、立ち止まりながら散歩されているんですか? 

「そうですね。この歳で道端でしゃがんで写真を撮ったりすると、結構怪しがられますよね(笑)」

●そうですよね(笑)。深夜にもお散歩されるってうかがったんですけども? 

「します。結構、深夜率も高いです。3割ぐらい深夜かもしれない」

●深夜というと何時ごろですか? 

「僕は寝る時間とか決めていないんで、夜中の2時、3時、4時とかありますね」

●え〜! 真っ暗ですよね? 

「真っ暗だったり、朝方になりつつあったりとかもします」

●深夜のお散歩だと、どんな発見があるんですか? 

「深夜は、例えば星が綺麗だったり・・・ツイッターとか見ていたりすると、星の観察されているかたがいて、今どこの方向に金星と土星が光っていますとか、そういうのを見て、ちょっと散歩しようと思って見たり・・・。あと星座を見られるアプリがあるんですよ。そのアプリを見ながら空にスマホをかざして、あれが何座であれが何座だなと思いながら歩いたり・・・意外と面白いのが霧の夜。雰囲気が好きですね」

写真:森沢明夫

●霧の夜、何か幻想的ですね。

「そうなんですよ。小説の中の世界に、ミステリー小説の中に入り込んだみたいな不思議な感覚になって・・・男だから(深夜に散歩が)できるんだと思うんですけど」

●確かにちょっと女性の深夜の散歩は危ないかも。

「深夜の霧の夜に、わざと狭い路地に入っていくとかって雰囲気がちょっと面白いですよね。
 本当に朝、昼、晩の散歩の面白さがあるし、日本って四季があるじゃないですか。だから春夏秋冬、同じ道を通っていても色んな発見があって、雰囲気も違って、すごく面白いんですよね」

メモが止まらなくなる散歩!?

※森沢さんは散歩をしているときに、小説家らしいというのか・・・、こんなこともよくあるそうですよ。

「小説を書いていると、頭の中がぎゅーって圧迫されている状態が続くっていうか、集中している状態が続くじゃないですか。でも一回それをふわって解きほぐす時間帯が欲しくて散歩するんですけど、意外なことに、そのふわって何も考えずにいる散歩の瞬間にむしろアイデアがいっぱい降ってくるんですよね」

●この本の中にも「メモが止まらなくなる散歩」という項目があって、「歩き始めてすぐに僕の内側から言葉とひらめきが溢れ出した」というような文章がありますけど、やっぱりそういう切り替えというか、あえて外だからこそ浮かんでくるものって何かあるんですか? 

「やっぱり歩いていると、視覚から入ってくる情報とか、嗅覚、風の匂いとか、風の触感もそうだし、色んな感覚が新しく入ってくるんで、脳に刺激がいくのかなと思ってますね」

●「(本に)脳と心がしゃきっと目覚めた」っていう表現もありましたけれども、森沢さんが散歩中に出会った印象に残っている出来事って何かありますか? 

「いっぱいありますけど、暗い夜道にひとりで路地を歩いていたら、前に若い女性がいたんです。悪いことしたなと思ったんですけど、その女性が僕のことを振り返ってダッシュで逃げていった時、まじか!と思って・・・追いかけていって、僕は悪い人間じゃありませんって言いたいぐらいですけど、追いかけていったらそれこそ怖いんで(笑)」

写真:森沢明夫

●そうですね(笑)。何か素敵な出会い、生き物だったり人だったり、そういったことはありますか? 

「結構、猫と出会えたりとか、野良猫なのか分からないけど、人懐っこい猫が結構いたり・・・猫と触れ合っていると通学中の子供たちが寄ってきて話しかけてくれたり。
 あと、子供のころよく遊んでいた草花を久しぶりに見つけて、子供のころやっていた遊びをやってみると、何かちょっと癒されますね。懐かしいなーって」

●すごく癒されそう、ほっこりしそうですね。

「本にも書いたんですけど、オシロイバナで遊んだりしませんでした?」

●やりました〜!

「ああいうのって懐かしいな〜と思って」

写真:森沢明夫

●何かふわ〜っと子供のころの情景も思い浮かびますし。

「地元を歩いていると、当時の通学路を歩いたりするんで、思い出がたくさん蘇ってくるんですよね 」

註釈:森沢さんが散歩に行くときに持っていくのは、ほぼスマホのみ。散歩の平均時間は1時間半くらい。お天気の良い日には公園で本を読んだり、行きつけの喫茶店に行くこともあるそうですよ。

渚の旅人、釣りを楽しむ!?

●森沢さんは昔「渚の旅人」ということで、日本の海岸線を巡っていたんですよね? 

「そうですね。日本の海岸線を尺取虫状に、今回はここからここまで、その次はこっからここまでって繋いでいって、一周しようっていう企画が雑誌の連載であったんですよ。一周しながらそれを紀行エッセイにしていくっていう」

●私の名前が「渚沙」なので、すごく興味深いんです(笑)。

「いい名前ですね〜!」

●渚を旅されて、いかがでした? 

「最高に面白くて、エキサイティングで、釣り好きなんで。でも釣竿を持って旅するのは編集長に禁止されていたんです。なぜなら先に進まないから(笑)。
 僕がやっていたのは、海岸にいる釣り人に話しかけて、釣れている人にちょっと竿を貸してって言って、竿を奪い取って自分で釣って楽しんだり。

 あとは日本の美味しい海産物とたくさん出会えたり。風景も、色んな独特の風景がたくさんあるんで、7年以上やったんですけど、全く飽きることがなかったですね」

●特に印象に残っている場所はありますか? 

「難しいな〜。めちゃくちゃ難しいけど、ここ日本かよって思うぐらいびっくりしたのは、青森県の仏ヶ浦っていう海岸。白い巨大な岩がたくさん海岸線沿いに屹立していて、そのスケールが大きいんで、日本じゃないみたいと思いましたね。
 海も本当にソーダ水みたいな綺麗な海で、5メートルとかそれ以上深いところの小石が見えます」

●ええ!? すごいですね! 

「本当に綺麗です。よくテレビとかでカヌーが(水面から)浮いているように見える(シーンがありますが)、あれぐらい綺麗かもっと綺麗かってくらいでした」

註釈:森沢さんのおすすめスポットとして、散歩コースではないんですが、 「ふなばし三番瀬(さんばんぜ)海浜公園」をあげてくださいました。海好きな森沢さんは散歩の代わりに、オートバイに乗って出かけることもあるそうです。

森沢さん流の「散歩の極意」

※「だから散歩はやめられない!」という瞬間はどんな時なんですか?

「個人的には、単純に歩いて帰ってきた時の、家を出た時と家に帰って来た時の、心と身体の軽さが違うんですよね。それはやっぱり、もう本当にやめられない」

●煮詰まって出かけたのに・・・。

「そうですね。背中も肩も首も凝りっこりで、ガチガチに凝って、精神的にも疲弊して、頭もなんかこう、重たいような状況で歩きはじめて、1時間して帰って来たらものすごくすっきりしているんですよね。これはもう(散歩を)やめられないですよね」

●森沢さんが思う散歩の極意っていうのは?

「極意!? 極意はやっぱり“五感”を使うこと! 情報はたくさん目から入ってくるし、途中で花の匂いがしたり、例えば秋だったらキンモクセイの匂いがしたりね。あと、カレーライスの匂いがしてきたり・・・」

●あ〜! 

「どっかの家でね、今夜はカレーなんだなあ(笑)とか思いながら。あとツツジの花をたまに吸ってみたり。サルビアとか、サルビアって分かります?」

●はい! 分かります。

「赤い花なんですけど、あれを、ちゅっと吸うと蜜の味がしたりするじゃないですか。あとね、空気の感じとか。たまに枯れ葉を拾ってみたり、そういう色んな五感を使って楽しむ。

 ひとつひとつに小さな感動があると思うんです。その小さな感動をしっかり身体で味わうっていうのかな。それをやっているとなんかね、すごく小さな幸せをたくさん蓄積していく感があって、個人的にはすごくいいと思うんですよね。
 だから極意は? って言われたら、五感を使って、身近なことを、場所を、味わいましょうっていうことかな」

写真:森沢明夫

●身体全体で感じられますよね。

「散歩、しません?」

●そうですね。でも私は本当に森沢さんの本を読んで散歩しよう! って思いました。歩くことが手段でしかなかったので、散歩をすることでもっともっと心が豊かになりそうだなって思いました。

「単純に、家から駅まで通勤で歩いている間にも、多分何かしらの発見はあるはずなんですよね」

●本当ですよね〜。ただ今、テレワークも増えていて、朝起きてから夜寝るまで、ずっと家にいるってかたも多いと思うので、本当に息抜きで散歩って大事ですよね?

「大事ですね〜。ずっと家にいるのが小説家ですからね」

●そうですよね〜。締め切りに追われてとかも多いと思うんですけど。

「締め切りに追われた時ほど散歩した方がいい! そのほうが多分、筆が走る」

●むしろはかどる?

「むしろはかどると思います。30分でもいいから歩いて帰ってきたほうが、その分、時間を無駄にしたというよりは、30分ぶん以上、筆が走るんで・・・経験上僕はそうだと思います」

写真:森沢明夫

新しい小説は「チェアリング」!

※明かせる範囲内でいいんですけど、これから書こうと思っている小説の構想だけでも教えていただくことはできますか?

「実はそれこそフリントストーンっぽいんですけど・・・」

●おっ〜!

「“チェアリング”って知っています?」

●チェアリング? 何でしょう?

「チェアって英語で椅子ですよね。その椅子ひとつを持って、風景のいいところに出かけて行って、そこに椅子を置いて、そこでビールを呑んだり、コーヒーを飲んだり、っていうのを楽しむのをチェアリングって言うんですって。もっとも手軽なアウトドアって言われているらしいんです。

 大学生が主人公なんですけど、友達や仲間とチェアリングをやって、彼らが成長していく物語みたいなものを今、日本農業新聞というところで連載しています」

●森沢さん自身もチェアリングはされるんですか?

「僕はそんなやっていないんですけど、ただ昔、野宿であちこち放浪していたので、その時はやっぱり椅子をキャンプ地にぽんと置いて、ここから視界に入る風景は全部俺の庭! と思って、贅沢な気分で遊んでいましたね。それを今の大学生達がどうやって楽しんで、どんな出会いをして、どうやって成長していくかっていう物語です」

●どうやって小説って思い描いていくんですか? 森沢さんの脳はどうなっているんですか?

「脳はちょっとお見せできないんですけど(笑)。最初は“人間関係図”みたいなものが閃めくんです。パッて降って来るんです。こういう悩みを持った、何歳くらいの、こういう人を主人公にして、それに対してサブキャラ、こういう人とこういう人がいて、こういう関係性っていうのが最初に降って来るんです」

●へぇ〜〜。

「その人間関係の中に色んな問題があったり、それぞれ抱えている悩みがあったりして、それを何かしら、今回だったらチェアリングを使って、成長させていくにはどうしたらいいのかなって考えていくんですよね。最初は人間関係ができて、キャラクター設定をするんです。

 どういうキャラクターにするかって、すごく細かくいっぱい書き出していって、架空の人なんだけど、本当にいるんじゃないかって自分が勘違いしそうなぐらいまで、夢に出てくるくらいまで結構書いていくんですよね。
 そのキャラクターたちを、例えば地方の大学とかそういう舞台にキャラクターを置いてあげて、あとは彼らがどういう動きをしていくか観察していく感じですね」

●かつてのアウトドアの経験も活かされているんですよね?

「めちゃくちゃ活きていますね〜。結構、釣りのシーンとかよく書くんですけど」

●では、最後にお散歩マイスターとしてリスナーの皆さんにアドバイスがあればお願いします。

「アドバイスは、四季を活かした日本の散歩をすごく楽しんで欲しいので、同じ道でも色んな時間帯と色んな季節を楽しんで欲しいのと、あとはすごくおすすめなのが、かつての通学路に、あえて行ってみて歩いてほしいですね。懐かしい子供の頃の想い出の道を歩いてみて欲しいなと思います。すごく胸がきゅ〜ってなるのでおすすめですね」

(注:写真や記事の無断複製、複写、転載は禁じられています)


INFORMATION

『ごきげんな散歩道』


『ごきげんな散歩道』

 エッセイ集『ごきげんな散歩道』をぜひ読んでください。森沢さんが散歩の途中に出会った「ひと」や「もの」「こと」が、やわらかい文章で書かれています。写真も全部「森沢」さんがスマホで撮ったもの。読み進めていくうちにふわっとした感じに包まれて、きっと心が軽くなると思います。春陽堂書店から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎春陽堂書店HP:https://www.shunyodo.co.jp/shopdetail/000000000762/

『カナルタ〜螺旋状の夢』〜アマゾンの先住民、その叡智に今こそ学べ!

2021/11/7 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、新進気鋭の映像人類学者「太田光海(おおた・あきみ)」さんです。

 太田さんは1989年、東京都生まれ。神戸大学卒業後、パリに渡り、人類学の修士号を取得。その後、英国マンチェスター大学・グラナダ映像人類学センターに在籍しているときにアマゾンの熱帯雨林の村に1年間滞在、その成果を映像作品にまとめ、博士号を取得されています。

 太田さんの初監督作品、ドキュメンタリー映画『カナルタ〜螺旋状の夢』は、その斬新な手法と内容が高く評価され、海外の映画祭で数多くの賞を受賞!

 ちなみに映像人類学とは太田さんによれば、自分の研究を社会に伝える方法が、映像だったり、写真だったり、音であったりとされていて、日本には専門の学校がなく、マンチェスター大学やハーバード大学などが有名だそうです。

 きょうは日本でも公開中の同映画をクローズアップ! 太田さんの、アマゾンの森の先住民たちと暮らした日々と、映像に込めた思いに迫ります。

☆写真協力:太田光海

太田光海さん

セバスティアンとの奇跡的な出会い

※まずは映画のタイトル「カナルタ」にはどんな意味があるのか、教えてください。

「”カナルタ”というのはシュアール語で”おやすみなさい”という意味がありますね。毎日、夜寝る前にみんなで言い合う言葉です。同時に”いい夢を見なさい”という意味や、”いいヴィジョンを見なさい”という意味も含まれているんですね。
 寝るということはつまり夢を見ることと同じだし、その夢を見るということはビジョンを見る、自分自身が何者なのかを知るという意味も含まれているという、深い意味があるなと思いまして、それでこのタイトルを選びました」

●撮影場所は南米エクアドルということですけれども、どのあたりなんですか? 

「エクアドルの若干東のほうに、アマゾンと呼ばれるいわゆる熱帯雨林が広がっていまして、その中のちょっと南のほうですね」

●シュアール族という先住民が暮らしている村っていうことですよね? 

「シュアール族の村はたくさんあるんですけど、その中で集合的にその辺に住んでいると・・・」

●だいたい何人ぐらいの村になるんですか? 

「僕がいた村は200人ぐらいですね。ただ子供の数がすごく多いので」

●そこに太田さんがおひとりで行ってたんですか? 

「そうです。完全にひとりで行きました」

●ええ!? 怖いとかそういった気持ちはなかったですか? 

「正直、最初はそういう不安とかもありますけど、アマゾンと呼ばれる地帯に入ってから、もう少し奥に行かないとその村に入れないので、その村に入る時点ではある程度、そういう怖さみたいなものに慣れていましたね」

●映画の主な登場人物が(シュワール族の)セバスティアンというかたでした。このかたとは、どのようにして出会ったんですか? 

「偶然と言えば偶然です。なぜかと言いますと、彼らの村というのは基本的に地図に全く表示されないんです。住所という概念が存在しないので・・・僕のような外部の人間が行きたいと思っても、そもそもどこにあるのかも分からない、行きかたも全く調べようがない場所にあるので、人に連れて行ってもらうしか方法がないんですよ。

 僕は一回、エクアドルの首都のキトという町に飛行機で着きまして、1〜2週間そこに滞在して、その間に知り合いのかた、友人を介して紹介してもらった現地のかたに何人か会って、その人たちに、アマゾンでこういう映画を撮りたくて研究もしたいんだけど、どうすればいいだろう? ということを聞くわけですね。

 そうすると、彼らが、僕がアマゾンの人を直接知っているわけじゃないけど、僕の知り合いで、アマゾンの人を知ってそうな人がいるよということで、また紹介してくれたりするんですね。
 そういうのを繰り返していくと、ある時から、シュアール族なんですけど、今はちょっと都市に住んでいるよっていう人もいるので、そういう人と繋がったりします。

 その人に同じような内容、こういう映画が撮りたくて、こういうことに興味があるんだけどっていう話をした時に、その人が、そういうことならうってつけの人がいるから連れて行くよということで、連れて行かれたのが、そのセバスティアンの住む村でした」

注釈:セバスティアンは、年齢は50歳くらい。長い黒髪で火焼けして精悍。家族構成は奥さんのパストーラと5人の子供たち。森から調達した木で建てた家で生活。服装は民族衣装を着るときもあるようですが、Tシャツやズボンなど着用し、プラスチックの容器なども使用。村の仲間たちと助け合い、伝統を大切にしながら、現代文明の恩恵は受け入れるところは受け入れています

 太田さんがいうには、村にはゆったりとした時間が流れているとのことでした。ちなみに言葉はスペイン語とシュアール語で会話していたそうです。

写真協力:太田光海

出されたものは全部平らげた!?

※いきなり見ず知らずの人が村に行くと、警戒されたりすると思うんですけど、太田さんは、どうやって信頼関係を築いていったんですか?

「いろいろやりかたはあって、本当に些細なことの積み重ねなんですけど、ひとつ、すごく大きかったなと思うのは、僕が彼らが出してくれたご飯や飲み物を、もう全部、嫌な顔せずに平らげたというのが、多分彼らにとってはすごく大きかったかなと。

 やっぱり人間誰しも、日本でもそうだと思うんですけど、自分たちがめちゃくちゃ美味しいと思っているものを外の人に、これすごくまずいよとか、これはよく分かんないから手を付けられないとかって言われたら、ちょっとショックというか、傷付くじゃないですか。
 多分そういう感覚が彼らもあって、彼らの料理には口噛み酒っていう唾液の中の微生物で発酵させた、自家製のお酒みたいなのもあるんですけど、ああいうのってエクアドル国内の人でも、アマゾン出身じゃない人ってやっぱり手を付けにくかったりするんです。

 彼らはそれを知っているので、僕が村を訪ねた時に、躊躇せずに全部飲んだんです。その時に彼らは、この人は何でも食べるし、飲んでくれるということになって、すごくみんながいろいろものをくれるようになって、そこから仲よくなったなと思いますね」

●実際そういった食事は、太田さんの中でちょっと美味しくないなっていう感じもありました? 

「美味しくないって感じたことは正直ほとんどなくて、すごく本当に美味しいんですよ。というのも、彼らの食材って全部すごく新鮮で、何もしなくてもナチュラルに有機栽培なんですね。彼らは農薬とかわざわざ手に入れるために動くわけではないので、そのまま生えているわけですから、だから採れたてで有機栽培だと。

 で、アマゾンの土地のエネルギーというか、栄養価もすごく高いので、単純に素材としてすごく美味しかったです。ただ、同じようなものをずっと食べているので、僕らにとっての白ご飯みたいなものかもしれないですけど、時々ちょっと違うものを食べたいなっていうのは正直思いましたけど(笑)、基本的にはすごく美味しいです」

写真協力:太田光海

少子化!? それでいいのか!?

※太田さんはシュアール族の村に1年滞在されましたが、撮り貯めた映像は35時間だったんですよね。映画を作るにしては、とても短い気がしたんですけど、撮影以外には何をしていたんですか?

「撮影以外には、本当に彼らと同じ生活をなるべくしようとしていました。彼らが森で作業する時は僕も映画にも出てくる鉈ですね、あれを持って、僕も自分用の鉈を手に入れて一緒に作業したり、魚を捕る時は一緒に川で魚を捕ったり、もう本当に彼らと同じようなことをできるだけやろうとしました。

 あとはもうたくさん彼らと話しましたね。いろんな話を聞いて、研究者としてとかインタビューする人としてではなくて、ひとりの人間として、僕の人生についてもいろいろ話しましたし、そういう個人的な関係を作るようにしましたね」

●例えば、どんな話をされたんですか? 

「僕の家族の話ですとか、彼は結構、興味津々なので・・・当時、僕はイギリスに住んでいたんですけど、マンチェスター大学にいたので、そのイギリスでの生活とかについて彼らに話すんですけど、彼らは僕らの生活がすごく不思議なんですよ。

 例えば、僕は東京出身なんですけど、東京ではこういう家がたくさん建っていて、渋谷の話をすると、すごく高いビルがたくさん建って、電車が何本通っていて、人がめちゃくちゃたくさんいて、みんな会社とかに勤めている・・・日本では最近少子化というのがあって、みんななかなか子供を持ちにくいとか、そういう話をすると、何で!? ってなるんです。

 何で子供がいなくて君たちはそれでいいの? みたいな感じなんですけど、そういう話、パソコンに向かうのはなぜ? って聞いてくるわけです。パソコンに向かって君たちは何しているの? みたいなこと言われるんですけど、そういう時に、確かになんでだろう? みたいなことを思うんです。そういう素朴な話とかをいろいろしました」

●太田さん自身の人生を振り返るいい機会にもなったような感じですね。

「そうですね」

●確かに村ではすごくお子さんも多いとおっしゃっていましたよね。

「やっぱり子供がたくさんいて、家族がみんな健康で幸せであるという、単純な話なんですけど、そこをすごく彼らは重視していますね」

鬱蒼とした熱帯雨林を歩く能力

※映画『カナルタ〜螺旋状の夢』を見ていると、主人公セバスティアンの存在感が際立ちます。彼は神話、薬草、歌に詳しい文化的なリーダーとして尊敬されていて、薬草を使って村人の治療もします。ちなみに村の政治的リーダーは奥さんなんです。

 映画の中でセバスティアンと一緒に森を歩くシーンが多くありましたが、一緒に歩いていて、驚くことがたくさんあったんじゃないですか?

「ありましたね。驚きの連続過ぎて、何から話していいかちょっと分からないんですね。いちばん最初にやっぱり衝撃だったのは、彼らが森を歩く時のスピードというか、全てなんですけど、僕が急に森に入ってもそもそも歩けないんですよ。

 障害物がまず多すぎる。日本で例えば登山やハイキングに行くと、確かに自然に溢れた場所に行けるんですけど、階段があったりとか、道がとりあえず舗装されていたりっていうのはある程度あると思うんですね。

 そういうのがアマゾンはもう一切ない。木が倒れていたら、その木は倒れたままだし、そこを人間が行く時はそれを飛び越えていくわけですよね。その上にはたくさんの蔓性植物がとんでもない量で垂れ下がっているんですけど、そこに枝もあって、そういうのを全部避けながら進んでいくわけです。

 しかもその地面は泥だらけだったり、どこに沼があるか分からない。急に足がズボって本当に1メートルぐらい中に入ってしまうってこともあります。その上、横から急に蛇が襲ってくる可能性もある。毒蛇に噛まれると結構、死に至る可能性もあるので、そういうのを全部気を付けながら前に進んでいくわけですよ。

 僕は最初それはできなくて、ものすごく歩くスピードが遅かったんですけれども、彼らは僕が普通に街を歩くのと同じスピードで、そこを歩いていくんですね。その時に僕が目で1回確認して、大丈夫だなっていって進むみたいな、そういう感覚ではここでは生きていけないんだなってことは気づきました」

写真協力:太田光海

“似ている”から始まる薬草の見つけ方

※映画の中にセバスティアンが薬草を探すシーンが収められていました。彼はどうやって森の中で薬草を探し出すんですか?

「彼は、むやみやたらに自分の知らない薬草を食べているわけではないんですね。彼はもともと、先祖から受け継いできた薬草の知識を、ある程度は持った状態で独自の研究に進むわけですね。

 彼が薬草を見つけるにはどうするかというと、”似ている”というところから始まるんですよ。この葉っぱやこの草は、僕が知っているこの病気に効くあの草にすごく形が似ているぞとか、匂いが似ているぞとか、そういうところから始まるんですよ。匂いが似ているってことは、同じような効果があるんじゃないかって考えるわけです。

 もしくは、映画のシーンにも出てくるんですけれど、その植物の生き様のようなものを見るんですよ。例えば、形がまるで蛇のようだとか・・・僕がちょっと笑っちゃったのは彼が、髪の毛がすごくふさふさしているように見える草を見つけた時があって、一緒に僕がいた時に、彼は“この草はまるで髪の毛のように見える”、ということは、これで髪の毛を洗ったらいいんじゃないかみたいなことを言い出して・・・実際に効果があったのか分からないんですけれど、彼はそうやって植物自体が持っている姿とか、ある種、主張していることを、ひとりの人間と接するように見るわけです。

 そこでこの植物にはこんな力があるんじゃないかって予測を立てていくわけですね。実際に食べたり試したりして、なんか効くなって思ったら、そこからだんだん調べていくと、そういうプロセスですね」

●へぇ〜それでどんどん知識が増えていくわけですよね。

「そうですね。増やせば増やすほど、もちろん比較出来るものがどんどん増えていくので、それでまた新しいものが分かってきたりとか。

 面白いのは、薬草っていうと植物が思い浮かぶんですけど、彼らはアリもそうですし、ほかの動物も含めて、虫とかも含めて、身体にいいものは薬なんだっていう認識をしていて、そこはあまりほかの研究書を読んでも載っていなかったようなことなので、面白い発見でしたね」

写真協力:太田光海

自分の未来を見る儀式

※映画の中の印象的なシーンとして、薬草から作った飲み物を飲むことで「ヴィジョン」が見えてくるとセバスティアンは言ってました。これはシュアール族の、先祖から伝わる儀式のようなものなんですか?

「これは本当に、彼らの重要な部分ですね。劇中に出てくるのは“アヤワスカ”と呼ばれる覚醒植物の薬草なんですけど、あと“マイキュア”という別の薬草も出てきます。彼らにとってはすごく重要な植物で飲むと、ちょっと身体の感覚が変わって、夢を見るような状態になるんです。同時に吐いたりとかするんですけど、劇中で出てくるように・・・。

 そこで見えたものを自分の中に落とし込んで考えることで、自分の未来を一部垣間みることが出来るっていう風に彼らは考えるんですね。常にそこから得たイメージと対話しながら人生を生きているというか、そういう世界ですね」

●映画の中でもセバスチャンが「森を破壊することは自分を破壊することだ」とおっしゃっていましたけれども、太田さんがこの映画を通して伝えたいことっていうのはこういったことにも繫がってくるのですか?

「間違いなく! 伝えたいことのひとつとして大きなものです。それは決して彼らだけではないと思うんですよね。彼らはもちろん、それが直接的に感じられる場所にいるので、そういう風にダイレクトに言葉が出てきますけれども、僕らも同じ世界に生きているわけで、巡り巡って本当はしわ寄せは来ているかも知れないし、今後来るかもしれないわけですよね。

 だからそれを、なかなか僕らは日々のせわしない生活の中で感じることは難しいんですね。でもこの映画があることで、彼らはどういうプロセスと生活の中で、そういうことを言うに至っているのかということを、ちょっとでも垣間みることが出来たらいいなって思っています」

●映画の最後にセバスチャンが太田さんに、薬草で作った飲み物を手渡していましたけれども、あれは全て飲み干されたんですか?

「はい、飲み干しました! 」

●お〜! ヴィジョンは見えました?

「見えたと言えば見えたし、見えなかったとは言いたくないですね。見えたと言えば見えました。それを解釈するのは僕自身なので、今後の人生がどうなっていくのかっていうのは楽しみなところですね」


INFORMATION

『ドキュメンタリー映画『カナルタ〜螺旋状の夢』


ドキュメンタリー映画『カナルタ〜螺旋状の夢』

 太田さん渾身の一作、ドキュメンタリー映画『カナルタ〜螺旋状の夢』をぜひご覧ください。実は構想から完成までおよそ7年を要した力作です。海外の映画祭で数多くの賞を受賞しています。淡々と流れていく映像・・・2時間を超える作品ですが、釘付けになりますよ。
 首都圏では現在、神奈川の横浜シネマリンで上映中。11月28日からは同じく神奈川のシネマアミーゴで上映される予定です。上映スケジュールなど、詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎『カナルタ〜螺旋状の夢』オフィシャルサイト:https://akimiota.net/Kanarta-1

生きる知恵「ブッシュクラフト」〜古い道具や技術を見直す〜

2021/10/31 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、イラストレーターでブッシュクラフターの「スズキサトル」さんです。

 スズキさんは1973年、山形県生まれ。京都造形芸術大学を卒業。絵本制作とブッシュクラフトワークの活動をするために、東京から長野県・松本に移住。現在はイラストの制作ほか、ブッシュクラフトや野営のアドバイザーとしてワークショップを行なうなど幅広く活動中。絵本などの著作も多く、新刊としては先頃『森のブッシュクラフト図鑑』の新装改訂版を出されています。

 この本は、野外でナイフなどの道具を使って必要なものを作る、その技術や知恵をイラストや写真でわかりやすく解説していて、とても好評なんです。

 きょうはそんなスズキさんに究極のアウトドアスキルといわれる「ブッシュクラフト」の極意や、必要な道具についてお話しいただきます。

☆写真協力:スズキサトル

スズキサトルさん

野営とキャンプ

※まず、ブッシュクラフトとは何かご説明しておきましょう。ブッシュは「やぶ」、クラフトは「工作」ですよね。でも、ふたつの言葉が合体すると、「生きる知恵」という意味合いになるそうです。

 必要最小限の道具を持って、自然の中に出かけ、足りないものは自分で作ってキャンプをするなど、慣れれば、誰でも楽しくできる「自然遊び」と言っていいかも知れません。そんなブッシュクラフトは、自然の中で生きる知恵を身に付けられる、ということで、ここ数年、特にキャンプ好きに注目されています。

 スズキさんは、新刊『森のブッシュクラフト図鑑』新装改訂版の第1章で、「野営とキャンプ」の違いについて書いていらっしゃいます。改めて説明していただけますか。

新装改訂版『森のブッシュクラフト図鑑〜スズキサトルのクラフトワークブック』

「キャンプは、要するにキャンプ場という場所がちゃんと提供されていて、車でそこまで行って、そこでテントを張って一夜を過ごすのがキャンプですけど、ブッシュクラフトはひとりでバックパックを背負って、その背負っている道具だけで山の中に入って、焚き火して野営して帰ってくるみたいな、そういう感じですね。

 ただ、日本だとやっぱり土地の所有者の関係で、そういうことは難しいので、ある意味、ブッシュクラフト風キャンプみたいな感じだと思うんですよね。ソロキャンプに近いかもですね。みんなで大勢集まって、道具を持ち寄ってやるのも楽しいんですけど、ブッシュクラフトってひとりとか少人数で焚き火して、限られた道具で・・・だから誰でもできるんです。お金もかけようと思えば、すごくかけたりできますけど、お金をかけないようにしようと思えば、全然かけなくてもできるし、幅が広いですね」

●野営に必要な道具を自分で作るっていうのも醍醐味なんですか? 

「そうです。例えば、売っている製品を使ってもいいですし、自分でナイフ1本でそれを作って代用するっていうのも、ブッシュクラフトの面白さですね」

●サバイバルに近いですよね?

「サバイバルは危機的状況、例えば自然の中で困難に陥った時にそこから脱出するのがサバイバルなんですよね。サバイバルの火起こしとか、野営する技術を使って。で、ブッシュクラフトは全く真逆で、自分から自然の中に入って、自然と共に時間を過ごして、楽しく帰ってくるアクテビティに近いかも・・・遊びに近いですよね(笑)。

 そんなこと言っている僕も実はマンションに住んでいるんですね。だからずっと自然の中にいることって難しいんで、遊びっていう風に考えてもらえるといいかもですね。何がなんでもブッシュクラフトっていうんじゃなくって、例えばキャンプでブッシュクラフトの技を使ったりとか、そういう程度でいいんじゃないかなと思います」

●日常とはまた違った空間で過ごせそうですね。

「女の子も結構、最近そういうのを好きなかたがたくさんいらっしゃいますね。意外と女の子のほうが多いかもしれないですね。さばいどるの“かほなん”さんとか、あのかたがやっていることって、結構ブッシュクラフトに近いところがたくさんあるんですよね。お笑い芸人さんでいうと、ヒロシさんのキャンプもブッシュクラフトのそういう技をたくさん使っていますね。とても素晴らしいと思います」

ナイフ、ノコギリ、メタルマッチ

写真協力:スズキサトル

※ブッシュクラフトや野営に最低限、必要な道具を教えてください。

「まずナイフですね。これちょっと専門のナイフなんですけど、スカンジグラインドっていう刃が直刃になっているやつなんですけど、刃厚も4ミリくらい。これだと薪が割れるんで、このぐらいのナイフがあるといいですね、フルタング(*1)で。

 あとノコギリ。僕がいつも持っていくノコギリは、枝挽ノコギリで(長さは)30センチくらい。この鞘は僕が作ったんですけど、丸太を伐ったりとかできるんで、とりあえずこのノコギリと、あとはメタルマッチ(*2)ですかね。これA&Fさんのメタルマッチなんですけども、こういうものが売られているんですね」

  (*1 刃がハンドルの後ろまで貫通しているタイプ)
  (*2 火を起こす道具。ロッドというマグネシウムなどの
     金属の棒を、ステンレス鋼などのプレートで
     削って火花を飛ばし、火を起こす)

●(メタルマッチで火花を飛ばす実演)
 おお! 火が出ました!

「これでこのフェザースティックに火を付けると」

写真協力:スズキサトル

●木を細かくしておくと、すぐに着火がするっていうことなんですね。

「メタルマッチは水に濡れても使えますしね」

●カギかな? って、一瞬思ったくらい、それくらい小さいんですね。

「そうですね。特にA&Fさんのメタルマッチがいいのは、持ち手のところがオレンジになっていて、普通だいたい黒っぽいものなんですけど、それだと結構落としたりとかして外で失くすんですよね(笑)。落とした時に森の中だと落ち葉とかで隠れて、(持ち手が)黒や緑色だと見えなくなっちゃうので、このオレンジのほうがいいかもですね」

写真協力:スズキサトル

●なるほど〜! 

「特に初めてのかたは失くしやすいんです。僕も何回も失くしているんで、(持ち手は)オレンジがいいと思いますね。
 で、このナイフ、僕がデザインしたやつなんですけど、ちょっと高いんですね。こういうものじゃなくても、例えばモーラナイフっていうメーカーさんがすごくリーズナブルなお手頃価格のナイフを作っているんですよ。2000円くらいの、ロバストって種類なんですけども、これでもいいですね。

 カスタムナイフは何万円もするんで、なかなかそれを買うのは難しいんで、こういうモーラナイフさんのロバストはおすすめですね。あとノコギリも先ほどのような長いものじゃなくて、(長さが)12センチくらいの、ホームセンターで売っているようなノコギリでも大丈夫ですね」

●折り畳みもできて、コンパクトになるんですね? 

「このノコギリがいいのは、刃の背のところ、これも実はこういう・・・」
(火花を飛ばす実演)

●おお! また火花が出ました! (笑)

「これもストライカーみたいに(マグネシウムの金属棒を)削ることができるんで、こういう方法もできますね。だから道具は多ければ多いほどいいっていうものでもなくて、本当に必要なものだけ持っていくっていうのがいいのかもですね」

山で培われた日本のブッシュクラフト

写真協力:スズキサトル

※日本にはクマやシカなどの狩猟をなりわいにしている「マタギ」や、山で木を素材にお碗などを作る木地師(きじし)というかたがちが、いまは少なくなっていますがいらっしゃいます。そんなかたたちの技術や知識はブッシュクラフトに通じますよね?

「そうです、そうです! ブッシュクラフトは西洋のものなので、どうしても北欧や北米、イギリスやロシアとかのブッシュクラフトが今すごく人気で流行っているんですけど、僕たち日本人の、またはアジア人のブッシュクラフトも実はすごいんだぞ! っていうのを、僕はお知らせしたいなっていう感じなんです」

●何か大きな違いとかはありますか? 

「そうですね。大きな違いはやっぱり、特に日本人は山岳民族だと思うんですよね。国土のほとんどは山、特に険しい山に囲まれて、僕が今生活している信州もそうですけど、山岳地帯が多いんですよね。だから傾斜が多い(場所で培われた)ブッシュクラフトなんですよね。

 カナダやフィンランドなどの北欧は大雪原やツンドラ、あとはすごく背の高い木がたくさん生い茂っているところとか、高い山はそんなにはないんですよね。どっちかっていうと平原をスノーシューで渡って移動したりとか、犬ゾリとか、イヌイットもそうですけど、そういう文化。日本でいうと北海道に近いのかもしれないですけど、日本の場合はやっぱり山ありきなんで、山で移動するっていう、そういう野外技術が多いと思うんですよね」

羽根ペンで風景画

写真協力:スズキサトル

※スズキさんは絵をかくために山によく出かけるそうですが、山の絵を描いているときはどんな気持ちなんですか?

「山の絵は、僕は風景を描いているっていう感じじゃなくて、生き物を描いている感じですね。僕、山の絵を描く時はこの羽根ペン、これ“鳶(とび)”の羽根ですけど、この羽根ペンを使って絵を描いています」

●ハリーポッターに出てくるような(笑)

「そうそう、丸眼鏡でね!(笑)。笠かぶってね、そうハリーポッターみたいな・・・」

●へえ〜! 

「やっぱり、画材も自分で作るのがブッシュクラフトなのかなと」

●いいですね! 

「何かしら作るのが好きなんですね」

写真協力:スズキサトル

●山や森で野営をしていて、どんな瞬間がいちばんお好きですか?

「やっぱり自然、同じ山も何回も登りますし、毎回ちょっと自然って勉強させられることがたくさんあるっていうことですね。気付くというか気付かされるところがありますね。それが楽しいですね」

●例えば、どんなことを?

「ここにこんな虫がいたのか! とか、例えば写真で見るようなものとはまたちょっと違う、そういう面も見られるという感じですね。今はインターネットとかで検索すれば何でも知ることができるんですけど、例えば蜘蛛の裏側とか、そういうのってやっぱり見てみないと分からない。

 あとキノコなんかもそうですね。実際見てみないと分からない。その状況によって違いますしね。そういうのもやっぱり自分の目で見て確かめたほうがいいというか、楽しいですよね! 」

●カメラがなかった時代は、全部絵に描いて残していたってことですよね?

「そうです! やっぱりそれは凄いなと思いますよ。昔の画家っていうか絵描きはみんなある意味アスリートというか、探検家と同じくらいのレベルだったのかなと思って、あんな画材を背負って探検家と一緒に冒険に行くって、凄いですよね!」

忘れ去られた技術にしたくない

※スズキさんの新しい本は、伝統的な道具や技術を、次の世代に伝えるという意味もあると思うんですけど、その辺は意識していらっしゃいますか?

「そうですね。やっぱり誰かがこういうのを書き残したりとかしないと・・・。僕がよく言ってるのは“ロストテクノロジー”と、もうひとつ“ロストカルチャー”。道具自体は残っていたりするんですけど、それの本当の使い方って実際にもう分からなくなってきてるんですね。日常で使うことがないんで、もう本当に博物館に飾っていたりとか、そういうレベルになっちゃうのがたくさんあるので。昔の人は当たり前にやっていた“火打石”とかもそうですね。ああいう方法なんかは、ほとんどみかんの皮を剥くみたいな感じでやっていたと思うんですよね。

 今はほとんどそんなことをやる必要もないんで、もう多分忘れ去られた技術になってきちゃうのかなって。でも最近、ブッシュクラフトを通して結構できるかたが増えてきたんですよね。火打金で火起こしできるのが、それはすごくいいなと思いますね」

写真協力:スズキサトル

●人間が本来もっている本能みたいなものですよね。

「そうですね。そうするとまた今度、鍛冶屋さんで火打金を作ってみようかなっていうかたも現れてきますし、またそれで、ひとつの産業が増えるので、いいかなと思いますね」

●この本『森のブッシュクラフト図鑑』を通して、いちばん伝えたいことはどんなことですか?

「そんなに難しいことじゃないですね。みなさん、是非一度ブッシュクラフトをちょっとやってみよう! みたいな・・・まさに全然知らない、やったことない人がやってみるっていうのが僕、すごくいいことだと思うんですよね。

 できる、できないは別にして、知るっていうのがすごく最初に必要かなと。こういうものがあるんだよっていうのをちょっと知ってもらいたいなと。分かりやすく、できれば絵でみなさんにお伝えできればいいなっていう意味で、今回また描いてみました。

 ただ、前回の『森の生活図集』で載っていたものが、マニアック過ぎた部分がたくさんあって、それで今回、改訂版で普通のかたたちがキャンプでも使えるようなものに、別のクラフトにちょっと差し替えました。

 だから例えば、タヌキの“尻皮(しりかわ)”っていうのがあるんですけど、猟師さんが腰に巻いているものとか、そういうのを知りたい人は、『森の生活図集』を是非購入していただいて、キャンプで椅子とかスプーンとか作ってみたいなというかたは『森のブッシュクラフト図鑑』のほうがいいかもですね」


INFORMATION

新装改訂版『森のブッシュクラフト図鑑〜スズキサトルのクラフトワークブック』

新装改訂版『森のブッシュクラフト図鑑〜スズキサトルのクラフトワークブック』


 この新装改訂版には道具の選び方や使い方、野営と焚き火のコツなど、ブッシュクラフトの基本となるような技術と知識を、イラストと写真でわかりやすく解説。スズキさんは本の中で「最新のものが最善とは限らない。古い道具や技術を見直してみよう」と書いています。その思いが込められたブッシュクラフトの入門書ともいえる一冊です。ぜひ読んでください。笠倉出版社から絶賛発売中です。

 詳しくはスズキさんのオフィシャルサイト、または出版社のサイトをご覧ください。

◎「スズキサトル」オフィシャルサイト:https://suzuki-satoru.com/

◎笠倉出版社HP:https://www.kasakura.co.jp/esp.php?_page=detail&_category=general&idItem=4648

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