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面白いな、可愛いな、ちょっと見てみよう〜漫画がいざなう生き物の世界

2021/12/12 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、生き物が大好きなイラストレーター「一日一種(いちにちいっしゅ)」さんです。

 一種さんは、環境アセスメントなどに関する、生き物や環境の調査を行なう会社に勤務後、独立。現在はフリーのイラストレーターとして「いきものデザイン研究所」というサイトを運営しているほか、生き物に関する本を数多く出版されています。

 「いきものデザイン研究所」では、生き物の面白い生態を4コマ漫画でわかりやすく紹介、その可愛くて親しみやすい絵と、ユニークな世界観がSNSなどで話題になっています。そんな一種さんが先頃、初心者向けのバードウォッチングの本を出されました。

 きょうは、バードウォッチングの初心者に向けてのアドバイス、そして、好奇心をくすぐる生き物たちの面白話をお届けします。

☆イラストレーション&漫画:一日一種

秋から冬がベスト・シーズン

イラストレーション&漫画:一日一種

※一種さんの新しい本『今日からはじめる ばーどらいふ!』。この本はひとりの男性がバードウォッチングにハマっていく様子を漫画やイラストで紹介していますが、これは一種さんの体験がもとになっているんですか?

「中身のところで、鳥の楽しさとか見つける喜びとか、あとは図鑑で調べる面白さ、そういうのはやっぱり実体験がベースにはなっていますね。ストーリーは全く体験は関係ないんですけど(笑)」

●この本は、まさにバードウォッチングの初心者の入門書みたいな感じですよね?

「意識的にはそういうものになればいいかなって。それよりも、バードウォッチングを始めようかなっていう人って正直そんな多くないかなって思ったので。ただ、バードウォッチングって何だろう?とか、興味があるっていう人は割といるかと思うんですよ。だから、始めようかなぐらいよりも、もっと手前の人も含めて、見てもらえるような本になればいいかなと思って、特に親しみやすさを含めて漫画にしました」

イラストレーション&漫画:一日一種

●とっても読みやすかったです! 一種さんはもともと、野鳥がお好きだったんですか? 

「そうですね。私も環境コンサルタントの会社に勤めていた頃は、鳥を主に調査をしていたので、専門家っていうほどでは全然ないんですけれども、生き物の中ではいちばん鳥は接してきたグループではあります」

私もこの番組でバードウォッチングの体験を海浜幕張でさせていただいたんですね。こんな都会に鳥っているんだなっていうのがすごく驚きで、カラスやハトしかいないんじゃないかっていう風に思っていたので、色んな鳥が実は身近にいるんだなということをすごく感じたんです。実際、この時期がちょうどバードウォッチングにいい季節なんですよね? 

「秋の終わりぐらいから葉っぱが落ち始めて、冬ぐらいまでは特にいい時期とは言われますね。年間を通してそれぞれ(の季節)に見どころはあるんですね。やっぱり初心者のかたとか、ベテランのかたでもそうですけれども、冬がやりやすい、始める人には結構いいかなっていうのは言われていますし、僕もそう思います」

●それはどうしてですか? 

「色々理由はあるんですけれども、主なところだとやっぱり、落葉樹の葉っぱが落ちて、鳥が見やすくなるっていうのがありますし、秋までに生まれた個体が加わって全体的に数が増えるとかですね。あとは混群(こんぐん)というのを作る、違う種類同士が集まって、一緒にグループになって見やすくなることがあったりとか、あと大きなところは渡り鳥がやってくることですね。

 夏ぐらいまでは山の標高の高いところで繁殖していた、棲んでいた鳥たちが、冬になって食べるものがないとか寒いとかって理由で降りてくるんですよね。だから私たちの身近でも普通に見られるようになります。あと北国の鳥とかも渡ってきますし、全体的に種類が増えるし、数も増えるし、見やすくなるのでやっぱり冬が個人的にもおすすめです」

野鳥観察におすすめは公園

※この時期だと、どんな野鳥を見ることができますか?

「環境にもよるんですけれども、普通の雑木林とか緑地であれば、小鳥類のシジュウカラやコゲラ、あとメジロとか。冬っていうことを考えるとツグミ類、地上をトコトコ歩いている中型の鳥、あとはジョウビタキっていう(今回番組で)ご紹介いただく本にも出てくる、オスはお腹がオレンジ色の、結構可愛い鳥も見られますね」

イラストレーション&漫画:一日一種

●おすすめの観察場所はありますか? 

「ピンポイントで特定の場所でなければ、やっぱりこれから(バードウォッチングを)やろうかな、やってみたいなっていう人におすすめなのは公園ですね。公園に行けば、水辺、池があったりして、そこで冬になってきてカモ類とかたくさん見られたり、広葉樹に小鳥類の群れが来ていたりしますね。

 鳥も公園だと警戒心が薄いんですよね。大自然の中に行くと全然見られない、すぐ逃げていっちゃうような距離でも、公園だと鳥の警戒心が薄いので、とても近くて見やすいので、すごくおすすめです」

●確かに池とかそういった水辺がある場所と、雑木林がある場所では見られる野鳥の種類も違いますよね。

「そうですね。その点では公園はどちらもセットになっていたりして、水辺で色んなカモ類を見て、そのあと雑木林で小鳥類を見たりとか出来ますね。本当におっしゃる通り環境によって全然違います。林、水辺、ちょっと流れのある川、草地、それぞれでやっぱり見られる野鳥が結構違うので、色んな環境で見るといいかなと思います」

●公園で野鳥を見つけるコツってありますか? 観察のポイントとかあったら教えてください。 

「公園に行って、水辺のカモ類は、特にコツとかあんまりなくて、すぐに見つけられると思うんですよ。ただ、昼ぐらいになるとカモ類って結構岸辺で休んでいたりするので、朝方は普通に見られたカモがいないなって思ったら、岸辺のほうを見ると見つけられたりとか、環境と環境の際辺りにいるようなことが多いと思いますね。

 川でも、川のど真ん中よりも、ちょっと岸辺の辺りを目でなぞるように探していくと、割とセキレイ類を見つけられたりとか、ちょっと休んでいる水鳥を見つけられたりしますよ。
 林を見ている時も、林全体を見ているとなかなか見つからないと思うんですけれども、林間というか、こずえの辺りを舐めるように見ていくと、上のほうに止まっている鳥を見つけられたりとかします。

 もっと簡単なコツを言えば、やっぱり聴くことですかね。声を聴く、バードウォッチングですけれども、割とリスニングが大事だったりします。まず声を聴いて、どこにいるんだろうって探す、その順番で見つけられることが多いですね。まず耳を澄ますのは大事だと思います」 

イラストレーション&漫画:一日一種

*編集部注:千葉でおすすめの観察場所として、一種さんがあげてくださったのは、習志野市の谷津干潟。自然観察センターには備え付けのフィールドスコープもあるし、野鳥観察のガイドさんもいるそうです。そしてもう1箇所が銚子漁港。何種類ものカモメが見られる、野鳥好きにはマニアックな場所だそうです。

 バードウォッチングの初心者のかたは、「日本野鳥の会」が開催しているバードウォッチングのイベントに参加するのもおすすめと一種さんはおっしゃっていました。全国で開催しているので「日本野鳥の会」のホームページをチェックしてみてください。

◎日本野鳥の会:https://www.wbsj.org/

イライラの由来、二度寝するカエル!?

●一種さんが運営されているサイト「いきものデザイン研究所」には、生き物に関する4コマ漫画が掲載されています。その中から、私が特に気になった漫画を色々お聞きします。

  まずは「由来が意外なあの言葉」という4コマ漫画がありまして、イラクサという多年草から”イライラ”という言葉だったり、”ひし形”というのは菱(ひし)という植物から来たんだよ! っていうことでしたが、それは本当なんですか? 

イラストレーション&漫画:一日一種

「はい、語源の由来自体は、どんなものでも諸説があったりするので、絶対にこれが正しいっていうわけじゃないんですけども、一説としては言われていますね。意外と植物が先だったんだっていう、ちょっとびっくりする由来ですけれども」

●びっくりです! 

「イラクサは、棘(トゲ)を全般的にイラって呼んだりして、その中でもイラクサっていう草はガラス状の棘で、刺さると簡単に砕けてしまって、しばらく取りづらいんですね。毒が入っている棘なので、結構痛痒いんですよ。ずーっとイラクサが刺さると痛痒い感じがして、まさにイライラするみたいな状態になるんですね(笑)。

 ”苛立つ(イラダツ)”から来るとも言われますね。棘(イラ)が立つ、刺さって立つことからイラダツ、イライラが苛立つから来たのかもしれないですけれども、そういうイラクサを含む、棘のある植物から来てるっていうことはどうやら確からしいです」

●へえ~〜〜! 

「ひし形もそうですね。水草の菱を見ると、そこまでひし形でもないかなっていう気はするんですけど、ただ漢字もやっぱり同じ菱、水草の菱と同じで、ひし形の由来は、どうやらそこから来ているっていうのは読めますね。葉っぱも果実も、ややひし形っぽい形をしていて、どちらから来ているのかは確かじゃないんですけども、どうやら水草から来ているようです」

●面白いですね~。それから「早起きだが、二度寝するカエル」っていうのもありましたよね。アカガエルの産卵のお話でしたけれども・・・。

イラストレーション&漫画:一日一種

「そうですね。それを漫画にしたのは、やっぱり早起きするのがまずは面白くて、さらに産卵したあと二度寝しちゃうのが、ふたつ目の面白いところで、漫画にしてみたいなって思ったんですね。

 カエル類は、冬眠して春に起きて産卵みたいなイメージが、どちらかというと強いかと思うんですけれども、アカガエル類はちょっと特殊な産卵方法です。戦略だと思うんですけど、天敵があんまりいないような、まだ寒い2月くらいに、まず起きて産卵をします。産卵をしたあとは、起きていればいいかなとも思うんですけど、やっぱり食べる物がないのか、ちょっと活動はしづらいみたいで、春が来て暖かくなるまで寝ちゃうっていう(笑)」

●二度寝しちゃうんですね?(笑)

「人間でいうところの二度寝、ちょっと真面目な二度寝ですけども」

変身するニホンウナギ

※一種さんが主宰されているサイト「いきものデザイン研究所」にアップされていた4コマ漫画の中からもうひとつ。「ニホンウナギの変態」という漫画がありましたよね?

「そうですね。あれは土用の丑の日に合わせて、何かしらウナギの面白い話をアップ出来ればなと思っていたんですね。今ウナギって絶滅危惧種なところにまず、すごく関心がいっているじゃないですか。それもすごく大事なテーマなんですけれども、それですごい乱獲がどうのこうのとか、ウナギを食べないようにしなきゃみたいなところに、みんな意識が集中しちゃっているかなと思ったので、それより以前に、別の視点でウナギってこんなところが、実はすごく面白い生き物なんだっていうのを知ってもらえればな~と思って、敢えて変態っていうテーマで書いたんですね。

 食のウナギっていうよりも、生き物のウナギとしての見方でも、実はすごく魅力的な生き物なんですね。産卵場所をようやく特定できたことは、数年前にニュースになったりもしましたけれども、本当に謎だらけの、何かすごくダイナミックな生き方をしている面白い生き物です。そういう面も知ってもらえたら、食べ方とか、食としてのウナギのほうの接し方も変わるのかなと思って、そういう漫画を描きました。

イラストレーション&漫画:一日一種

 変態は、蝶がやっぱり有名だと思いますけれど、イモムシからサナギになって成虫になるみたいな変態を、ウナギも何段階かの変態をします。最初は葉っぱ型のレプトケファルスっていう、海流に乗りやすい不思議な平べったい形をしているんですけれども、それが段々日本に近づいて来ると、細長いいわゆるウナギ型みたいな形になって、シラスウナギっていう状態になります。

 それがどんどん成長していくと、お腹が黄色くなったり、黒くなったり、最後に銀ウナギっていうお腹が銀色のウナギになったりする、変身を何回も繰り返す、実は面白い魚なんですね。なので、”変態するウナギ”っていうテーマで、面白さを知ってもらえればなと思って、漫画を描きました」

漫画だけど、裏付けはちゃんと

※「いきものデザイン研究所」のサイトにあげている4コマ漫画のネタは、どうやって決めているんですか?

「生き物のネタ自体は世の中ありふれているので、僕は出来るだけ多くの人に興味を持ってもらえそうなものを決めて、それからどうやって漫画にしようとか、どうやったら面白く伝えられるかを考えて作りますね」

●でも、漫画を描くにもやっぱり生き物とか自然のことをよく分かっていないと描けないですよね。

「そうかもしれないですね。僕もそれなりに調査とか仕事でやっていても全然、今もそうですけれども、まだまだ知らないなと思うので、漫画にする前に間違いがないように、フィクションの部分はフィクションとしてちゃんと伝わるようにして、情報として伝える部分は間違いないように、ちゃんと調べたりしたりとかはしていますね。そこがいちばん正直、神経が擦り減る辛いところですね」

●漫画を描くこと以上に大変なことなんですね。

「そうですね。やっぱりこういうものをやっていると、どうしても漫画なので、誇張して伝わっちゃう部分もあるんですけれども、出来るだけ、おかしな伝わり方をしないように、こう見えても一応は気を使っているつもりです。はい!」

●改めて一種さんが漫画やイラストを通じて、どんなことを伝えたいですか?

「正直そんなすごい意識を持って欲しいわけじゃ全然ないんですよね。ただ単純に、生き物ってこういうところが面白いなとか、可愛いなとか、ちょっと見てみようかなぐらいな感じで、ちょっと入口になればいいかなくらいに思っています。

 生き物が嫌いな人に無理やり勧めようとか、好きになってもらいたいなんて全然思っていなくて、本当に普通に暮らしている人が、ちょっと知って特になればくらいに思って漫画を描いています。基本的に漫画ってほんと娯楽なので、それぐらいですね」

*編集部注:一種さんがいま注目しているのが微生物、例えば身近な生き物として、苔などいるクマムシ、乾燥にも強いスーパー微生物ですよね。そんな微生物のミクロの世界を描いてみたいそうです。


INFORMATION

『今日からはじめる ばーどらいふ!』


『今日からはじめる ばーどらいふ!』

 初心者に向けて、バードウォッチングのポイントやノウハウ、そして面白さなどを漫画とイラストでわかりやすく解説、本当に楽しく読めますよ。これからやってみようと思っているかたに最適な入門書。ぜひ活用してください。文一総合出版から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎文一総合出版HP:
 https://www.bun-ichi.co.jp/tabid/57/pdid/978-4-8299-7236-6/Default.aspx

 一種さんが主宰しているサイト「いきものデザイン研究所」もぜひご覧くださいね。4コマ漫画、面白いですよ。

◎「いきものデザイン研究所」HP:http://wildlife-d.xsrv.jp

生き物の宝庫、奄美大島〜自然と人の営みが近い島

2021/12/5 UP!

 今年の嬉しい出来事のひとつとして、7月に奄美大島が沖縄ほかとともに世界自然遺産に登録されたことがあげられます。国内では白神山地、屋久島、知床、小笠原諸島についで5件目になります。

 鹿児島県に属する奄美大島が選ばれた理由は、なんといっても生物多様性の高さで、固有種の多さは際立っています。奄美大島は日本の国土の0.2%にも満たないのに、国内全体の、生物の種類のおよそ13%が確認されているそうです。そんな生き物の楽園、奄美大島にご案内します。

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、生きものカメラマン「松橋利光(まつはし・としみつ)」さんです。

 松橋さんは1969年、神奈川県出身。水族館に勤務後、フリーのカメラマンとしておもにカエルなどの水生生物をメインに、いろいろな生き物を撮影、これまでに児童向けの本や写真絵本を数多く出版。また、子供向けの生き物教室も開催されています。

 そんな松橋さんの新しい絵本が『奄美の道で生きものみーつけた』。これまでに40回ほど通ったという奄美大島の生き物や自然について、きょうはたっぷりお話をうかがいます。

☆写真:松橋利光

松橋利光さん

道で出会える生き物たち

●本のタイトルに「奄美の道」と入れたのは、奄美大島では道でたくさんの生き物に出会えるからなんですか?

「そうですね。奄美大島は森の中にたくさん林道が走っていて、身近な生活道路だったりもするんですけど、生き物を探す時の基本として、そういう道で車をゆっくり走らせて、まずその状況を知るのが第一歩なんですね。そこで出会う生き物を集めてみました」

写真:松橋利光

●奄美大島は道を歩いているだけで、こんなにたくさんの生き物に出会えるんですね。

「(生き物に出会えるのは)道だけじゃないですけど、生き物の数というか量は沖縄のやんばる以上だと思っています」

●以前よりも生き物は増えてきているんですか? 

「”マングースバスターズ(*)”がすごく機能しているようです。外来のハブの退治のために導入されたマングーズが増えて、結構カエルとか食べちゃったりするんですけど、その駆除が世界でも珍しいぐらいうまくいっている島なんです。それだけじゃなく、ほかの保全活動とか色々相まって、この10年でかなり爆発的に生き物が増えていると思います」

●今年7月には沖縄本島などと共に世界自然遺産に登録されましたけれども、何度も通っている松橋さんとしてはどうですか? 決まった瞬間はどんなお気持ちでした? 

「やっぱり世界遺産に向けて頑張っている人たちも見てきましたし、ものすごく嬉しい気持ちでいっぱいだったんですけど、自分はシンプルに自然を好きな人間として言ってしまえば、若干注目されて観光で人が増えると、また道で何かが起きてしまうんじゃないかみたいな、そういう弊害みたいなものに対しての心配も少しありました」

*ハブなどの駆除を目的に導入されたマングースがハブなどを食べずにアマミノクロウサギなどを捕食して、固有の生き物が減る一方でハブが増えてしまったそうです。そのため、環境省では2000年から本格的にマングースの駆除に着手、その事業のことを「奄美マングースバスターズ」と呼んでいます。その取り組みがうまくいき、奄美大島の生き物たちが増えているのではないかということなんですね。
 環境省の奄美野生生物保護センターでは保護活動など、様々な取り組みを行なっています。ぜひオフィシャルサイトをご覧ください。

◎奄美野生生物保護センターHP:https://www.env.go.jp/nature/kisho/wildlifecenter/amami.html

日本一美しいアマミイシカワガエル

※改めて、奄美大島の気候や天候について教えていただけますか。

「亜熱帯なんですけれども、暑さは、最近関東の夏はすごい暑さですよね。ああいう暑さとはまた違っていて、しっかり雨も降りますし、夜は涼しくなりますから、それほど過ごしにくいというか過酷な状況ではなくて、かえって夏は奄美で過ごしたいぐらいに思う時がありますよ」

写真:松橋利光

●そうですか! すごく高温多湿なイメージあるんですけれども、湿気とかも多いですよね? 

「湿気はすごいです。湿気はすごいですけど、そのおかげで、雨が定期的に降ることで、カエルの撮影がしやすいので、かえってありがたいです(笑)」

●自然相手だと撮影もなかなか大変なんじゃないですか? 

「今の時期は繁殖期だからと思って行っても大外しすることがありますし、ふいにチャンスが訪れる時もあるので、そこは努力してもしょうがないというか、なるべく回数を行ってチャンスを増やすっていうだけですかね」

●奄美大島は、そこにしかいない生き物もたくさんいるんですよね?

写真:松橋利光

「そうですね。有名なところだとアマミノクロウサギとか、ルリカケス、あとはアマミイシカワガエルとか、アマミと名の付く生き物はとても多いですね。固有種と言われるものが脊椎動物だけでも何種類かいて、昆虫も含めるともう何百といるようなので、奄美でしか見られない生き物はたくさんいます」

●アマミイシカワガエルは写真絵本にも写真が載っていましたけれども、実際に見ると、どれほど美しいんですか? 

「日本一美しいって言われていますね。沖縄に棲むイシカワガエルと元々同種とされていたんですけど、何年か前に種として別れたんです。明らかにアマミイシカワガエルのほうが、緑色が、何色かのグラデーションの中に金をまぶしたような縁取りができていたり、背中だけをアップで撮ったりすると何かの模様ですよね。すごく美しいですよ。

 沖縄の種も含め本当に迷彩色なんですよ。緑色なので実は目立たないんですけど、でもよく見るとすごく複雑な色彩をしていて美しいです。実は結構大きいんですよ。本州で見られるようなカエルとは違っていて、子供の手のひらぐらいはあります。大きい種類だと大人の女性の手のひらぐらいはあるので、模様もはっきり見えますし、すごく綺麗ですよ」

写真:松橋利光

五感を駆使して見つけ出す

※松橋さんが奄美大島で、撮影のためによく通っている場所はどの辺なんですか?

「空港から(車で)1時間ぐらい南下したところに、大和村っていう集落があるんですね。そこの森が林道に沿って渓流もかなり多くて、林道を走っているだけで繁殖期とかですとカエルの鳴き声が聴こえてくるんですよ。この下で産卵しているんじゃないかと思って、車を停めて沢を下りていくみたいな、割と気軽に観察ができる場所があるので、その大和村がいちばん通っていますかね」

●それで降りて行って、実際やっぱりカエルがいた! みたいな感じなんですか? 

「そうです、そうです。カエルって鳴き声が全部違うので、この声はハナサキガエルだ! しかも数がいっぱい、ピヨピヨ鳴いているぞ! って思って降りていくと、産卵しやすい溜まりがあったりするんですよ。そこに何百と集まって産卵しているところに出会うんですね。(大和村は)川と生活が近いって言うんですかね。なので、耳や五感を駆使すれば、そういうシーンに出会うチャンスがたくさんあります」

写真:松橋利光

●同じ場所でも季節によって出会える生き物は違いますよね? 

「(生き物が)食べるもので出てくる場所も違いますし、繁殖期が近ければ、カエルなどは鳴き声が全然季節で違います。そういう季節の移り変わりで見られる生き物が違ったり、図鑑に書いてある通りに解釈していると全然繁殖期とか違ったりするので、とにかく(奄美大島に)行って、耳をすませて風を感じながら行動するしかないっていう感じですけどね」

●一日の撮影スケジュールはどういう感じなんですか?

「夜がメインなんですよ。朝は例えば鳥の渡りだとか面白いことがあれば、朝から鳥の撮影をして、昼間の生き物があまり動かない時間にちょっと仮眠をとって、夜森に入って、(カエルの)産卵に出会ってしまったりしたら、一応産卵が終わるまでか、もしくは明るくなるまで待って、朝帰って仮眠してみたいな感じなので、本当に寝るとか食事っていうのはいちばん後回しで、ほぼ森にいます」

繁殖期、必死なカエルと紳士的なカエル

※撮影のためのフィールドワーク中に、なかなか出会えない生き物と出会えた時って、やっぱりどきどきするんですか?

「生き物との出会いや、そのシーンの出会いは毎回嬉しいですし、ドキッとするんです。それを体の動きで(いきなり)近づくと、生き物がびっくりするっていうのは、みなさん分かると思うんですけど、こっちの、”わっ、いた!”って気持ちの高揚が生きものに伝わるんですよ。なのでとにかく“いたっ!”って思っても、“いたっ!” って思わないようにしていたり、冷静を装うというか、本当になるべく心静かにっていうのがいちばんですね。いくら出会って感動しても」

●いた〜! って声に出さなくても、そういったワクワク感っていうのは生き物に伝わっちゃうものなんですか?

「多分、そう感じています。もちろん、その時に無駄な動きが出ちゃっているのかもしれないんですけど、やっぱり“あっ!”って思った時は、パッとこっちを見られた気がすることもあるので、“あっ!”って思っても、とにかく、すっと心を落ち着けるように意識はしています」

●難しいですね〜(笑)。

「難しいですよ。もう長年やっているので、何とかなっていますけど」

●生き物の撮影をしていて、思わずクスッと笑ってしまうような瞬間はありますか?

「本当に、生き物ってドジなので、ちょっと食べ物を落としたりとか、そういう日常の、クスッと笑えるようなトラブルってよくあるんですけど、カエルは普段すごく警戒心が強いのに、繁殖期になると、わけがわからないくらい必死なんですよ」

●必死なんですか?

「アマミハナサキガエルは、沢でピヨピヨ鳴いて集まるカエルなんですけど、数百と集まるので、オスがメスを探すことに必死なんですね。そういう時に胴長を履いて沢に行って、川の水が濁らないように水の中に半分入って、石に座ってずーっと待つんですけど、そうすると、自分の膝が石だと思われて、膝に4匹も5匹もカエルが乗っかってきたり・・・」

写真:松橋利光
写真:松橋利光

●へぇ〜!(笑)

「水中カメラで近づいたら、メスだと思って人の手につかまってきたり、なかなかその必死さは面白いですよ(笑)」

●面白いですね(笑)。微笑ましいというかなんというか・・・。

「面白いです! とにかく、もう笑いながら撮っています」

●ほかのカエルで、なにか面白い生態があったら教えてください。

「日本一美しいと言われているアマミイシカワガエルですとか、オットンガエル、奄美固有のカエルがいるんですけど、その2種類は逆にとても紳士的で、目の前にメスが現れても抱きついたりしないんですよ」

●ええっ!

「イシカワガエルは岩の隙間というか、穴の中で産卵するんですけど、穴の入口で鳴いて、メスがこっちに来るまで誘導するようにして鳴き続けて、一緒に穴の中に消えていくっていう感じですね。

写真:松橋利光

 オットンガエルは産卵のための小さな巣を作るんです。砂利をどけたような水たまりを作るんですけど、そこでオスが鳴いてメスが来ると、まずオスは一度巣を出て、メスがそれを値踏みするようにぐるぐる動くんですね」

●へぇ〜〜! 

「オスはまた戻って来て鳴いたりするんですけど、見ているとメスが姿勢を低くして、もう産卵してもいいよ!っていうような合図のようなものを出すんですよ。そうすると、(オスが)のそのそっと来て、背中に抱きついて産卵が始まったり、すごく紳士的なカエルがいて、面白いですよ」

写真:松橋利光

大事なのは謙虚さ

※奄美大島が世界自然遺産に登録されたことで、現地に行って生き物の写真を撮ってみたいと思うかたも多いと思います。プロのカメラマンとして何かアドバイスがあれば、お願いします。

「自然保護という観点からも、あとは危険防止という観点からも、シンプルに自然の中にいることをすごく意識して、常に謙虚に行動していれば、生き物ってそんなに逃げないんですよ。なので、ちゃんとルールを守って、自分が撮るっていうよりは、(生き物と)会えた喜びを普通に分かち合うぐらいな、余裕を持って森に入ってもらえれば、あれだけ生き物が多くて、出会うチャンスが多いので、いい写真が撮れちゃったりするのかなって思います」

●謙虚さ、が大事なんですね。

「そうですね」

●では最後に、この写真絵本を通して、どんなことを伝えたいですか?

「奄美大島の素晴らしさを伝えるっていうことはもちろんなんですけど、やっぱり生き物が多くて、自然と人の生活が近いイメージなんですね。本当に集落の裏に珍しいカエルやネズミが普通に現れるので、ロードキルのような事故があったりすることをきちんと知ってもらって、自分がどう行動したらいいのかを少し考えるきっかけになればいいかな思って作りました」

写真:松橋利光
写真:松橋利光

☆この他の松橋利光さんのトークもご覧ください


INFORMATION

『奄美の道で生きものみーつけた』


『奄美の道で生きものみーつけた』

 松橋さんの新しい絵本、お勧めです! 奄美の道で出会ったカエルやヘビ、ウサギや野鳥などの写真が満載。元環境省のアクティヴ・レンジャー木元侑菜(きもと・ゆうな)さんとの共著。松橋さんは木元さんから教えていただく現地の生き物情報に、とても助けられているとおっしゃっていました。奄美大島の美しくて可愛い生き物たちをぜひ感じてください。新日本出版社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎新日本出版社HP:
https://www.shinnihon-net.co.jp/child/detail/name/%E5%A5%84%E7%BE%8E%E3%81%AE%E9%81%93%E3%81%A7%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%BF%E3%83%BC%E3%81%A4%E3%81%91%E3%81%9F/code/978-4-406-06599-3/

恐竜の卵化石は時空を超えたミステリー!〜謎だらけの恐竜卵に挑む、若き恐竜学者〜

2021/11/28 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、筑波大学の恐竜学者「田中康平(たなか・こうへい)」さんです。

 田中さんは1985年、名古屋市生まれ。北海道大学卒業後、カナダのカリガリー大学に留学し、博士号を取得。現在は筑波大学・生命環境系の助教として、恐竜の繁殖行動や子育ての研究を中心に、恐竜の進化や生態の謎を解き明かそうとされています。

 恐竜の研究者というと、おもに骨の化石を研究しているイメージがありますよね。でも田中さんは、恐竜の骨ではなく、卵の化石を専門に研究されているスペシャリストとして注目されています。

 そんな「田中」さんの本『恐竜学者は止まらない!〜読み解け、卵化石ミステリー』が話題になっているということで、ゲストとしてお迎えいたしました。

 きょうは大発見となったモンゴル・ゴビ砂漠の卵化石や、恐竜の繁殖行動、そして謎多き恐竜卵についてお話しいただきます。

☆写真協力:田中康平

田中康平さん

ティラノサウルスは卵を温めていたのか!?

●『恐竜学者は止まらない!〜読み解け、卵化石ミステリー』という本を私も読ませていただきました。恐竜研究の本ですけれども、代表的なティラノサウルスやトリケラトプスはあまり出てこなくて、卵化石にここまで焦点を当てた本ってなかなかないですよね? 

「そうですよね。結構マニアックなところですよね(笑)」

●すごく興味深かったですし、田中さんのワクワクさがすごく伝わってきました。

「よかったです。本を書いていて、研究の楽しさが伝わればいいかなと思っていまして、そう言っていただいて本当によかったです」

田中康平さん

●田中さんが本当に恐竜がお好きなんだなーっていうのが伝わってきました! きょうは主に、田中さんのご専門である恐竜の繁殖行動についてうかがっていきたいと思うんです。

 恐竜の研究は日進月歩ということで、以前私たちがよく目にしていた恐竜の絵は、肌が爬虫類のようで、色もどちらかというと地味で、大型のトカゲのようなイメージでしたけれども、今は羽毛が生えた恐竜の絵が一般的になっていますよね? 

「そうですね。結構大人のかたのほうが驚かれるかたが多いですね」

●羽毛が生えていたという発見は、田中さんの研究でも大きなことだったんじゃないですか? 

「羽毛恐竜は、1990年代に実は最初のが見つかり始めていて、かなり前なんですよね。僕が子供の頃にも既に羽毛恐竜が出始めていたので、僕は結構すんなり羽毛がある恐竜にはスッと入っていけたんですけども、やっぱり卵化石を研究していて、恐竜が鳥みたいに卵を温めていたっていう説を言う時、羽毛があるかないかって結構違うじゃないですか。羽毛恐竜が見つかったことで、より説が浸透したというか、より確からしく感じますよね」

●映画『ジュラシックパーク』とかも私好きでよく観るんですけれども、あのティラノサウルスが卵を温めていたっていうことですよね? 

「恐竜の中でも、卵を温められたやつと、温めることができなかったやつがいると思うんですよ。ティラノサウルスは流石にちょっと身体が大きすぎて、温めようとすると多分、卵は割れたんじゃないかなと・・・」

●そうですよね! ちょっと想像がつかないなと思ったんですけど・・・恐竜によって色々違うんですね。

「恐竜は爬虫類から生まれてきて、最終的に鳥が恐竜の中から出現するんですけど、爬虫類と鳥だと全然子育てをする方法って違いますよね。恐竜はその中間にいるので、繁殖行動がどんな風に移り変わっていくかっていうのを研究するのには、すごくベストなグループなんですよね」

●恐竜卵の最大のものは、どれぐらいの大きさになるんですか? 

「今見つかっている中でいちばん大きいのは、中国から見つかっているんですけれども、結構、細長い卵で、長さが50 センチ近くあって、幅が16〜17センチぐらいですかね。かなり細長くて、生きていた時は(重さが)6キロぐらいあったんじゃないかなって言われています」

●6キロ!? 形は細長いものが多いんですか? 

「これも恐竜によって様々なんですけれども、鳥に近づくほど細長くなっていくことが分かっています」

●カメのようにピンポン球みたいな卵も中にはあるんですか? 

「見つかっています。そういうのもいっぱいあります」

●すごいですね。色んなバリエーションがあるんですね。

「そうなんですよ! 世界中で恐竜の卵はいっぱい見つかっているんですけど、全然今まで研究する人がいなかったんですよね」

卵の殻から謎を読み解く

※恐竜の卵化石は、海外ではお話に出てきた中国のほか、モンゴル、カナダ、アメリカ、アルゼンチンなど、そして国内では兵庫や福井、岐阜や山口などでも見つかっているそうですよ。

 そんな卵化石、田中さんはどこに着目して、どんな研究をされているんですか?

「顕微鏡で卵の細かな構造を調べたりとか、卵はどういうところに埋まっているかを調べたりとか、色んな情報を集めていくと、恐竜たちがどんな風に卵を産んで温めて孵化させていたのかが結構分かってくるものなんですよね」

●殻からも色々分かってくるんですよね? 

「卵化石は、そもそも卵の殻しか化石には残っていないんですね。中の黄身とか白身ってなくなっちゃうので」

写真協力:田中康平

●そうですよね。でもその殻だけを見て何が分かるんですか? 殻ですよね!? 

「そうなんですよ、証拠は本当にちょっとしかなくて。例えば卵の殻に小っちゃな穴がいっぱいあいているんですよ。ゆで卵を作るとプチプチと気泡みたいなのができますよね。中の赤ちゃんが息するための穴なんですけども、あれがたくさんあいていたら地面に埋めるタイプとか、穴が少なかったら鳥みたいに地上に巣を作って卵を産み落とすタイプっていうふうに、結構そういう形や構造に違いが出てくるんですね」

●すごい! 色んな研究があるんですね。野鳥は繁殖のために巣を作りますよね。 巣を作る材料も様々で、キツツキのように木に穴を開けて巣作りするものもあれば、コアジサシのように海岸の平坦な場所に、小石を敷き詰めて産卵するための場所を作る種もいますけど、恐竜の場合はどんな巣を作っていたんですか? 

「これもまた恐竜によって色々あったという風に考えられています。先ほど出てきた鳥に近い羽毛恐竜は、本当に鳥みたいに地面に巣を作って、親が卵を温めていたというのが分かっていますし、それよりもうちょっと古い恐竜だと、ウミガメみたいに卵を地面の中に埋めて、周りの熱で卵を孵化させていたことが分かっていますね」

●きょうはスタジオに卵化石の模型とレプリカを持ってきていただいたんですけれども、このふたつ、全然違う形ですよね? 

「まず大きさが違いますね」

●こちらが親指ぐらいの大きさというか、ウズラの卵をちょっと細長くしたような感じですよね。もうひとつのほうが? 

「これはニワトリの卵をふたつ、くっ付けたくらいの長さですかね」

●そうですね〜。

「どちらも同じ、鳥に近い羽毛恐竜の卵なんですね。ただ身体の大きさが違うので、ちょっと大きいのと、ちょっと小っちゃいのっていう感じですね」

写真協力:田中康平

●卵の殻の素材というか・・・このウズラの卵をちょっと細長くしたような小さめの卵のほうはツルツルですけど、大きいほうはブツブツというか・・・。

「表面をよく見るとなんかブツブツがいっぱいありますよね? 恐竜によって表面の模様みたいなものに実は色んなパターンがあって、それによって分類することができるし、例えばどの恐竜が産んだ(卵)だろうっていうことが推測できるんですね」

●へ〜〜そうなんですね。この卵ですと・・・?

「ブツブツの模様が付いている卵は、オヴィラプトルの仲間にみられる特徴です。オヴィラプトルは、オウムみたいな顔にダチョウのような体つきをした、小型の恐竜なんですけども、彼らが特徴的な卵を産むんですね。だから破片が見つかれば、オヴィラプトルの卵だって分かるんですね」

●そうやって読み解いていくんですね。

「もう1個の小っちゃなほうは、実は兵庫県の丹波市で見つかった卵なんですけど、めちゃくちゃ小さいですよね? 本当にウズラの卵ぐらいですね。これ今のところ世界最小の恐竜卵とされています」

モンゴルで発見! 大規模な集団営巣

※本に書いてあった、モンゴル・ゴビ砂漠で発見した恐竜卵の話がとても興味深く、面白かったんですが、改めていつ頃、どんな発見があったのか、教えていただけますか。

「これは僕がまだ大学院生の時だったんです。一緒に研究をしている北海道大学の先生で有名な小林快次先生っていう恐竜研究の先生がいらっしゃるんですけど、その先生がモンゴルで調査を毎年ずっとやっていて、そこで恐竜の巣の化石がいくつか見つかったんですね。それで僕に連絡をくださって、一緒に調査しないかっていうことで、僕もモンゴルに行ったんです。

写真協力:田中康平

 テニスコートぐらいのところに恐竜の巣の化石が、ぽこぽこぽこっていっぱいあったんですよ。同じ場所にたくさんあるのは集団営巣、”コロニー”って言って、ペンギンがよくテレビの映像で(同じ場所に)一緒に巣を作っていますよね。あんな感じのことを恐竜もしていたんじゃないかっていうことが分かってきたんですね」

●集団で巣を作っていたっていう発見は、恐竜研究の歴史に刻まれるすごいことですよね? 

「集団で巣を作っていた痕跡は、実は今までにも結構見つかってはいたんですよ。ただ、今回のモンゴルの(発見)は結構大きな規模で、詳しく研究したら恐竜の面白い行動パターンが分かってきたので、僕たちは論文にしたんですけど、どういう行動をしていたと思います? なんで恐竜って群れていたんでしょうね? 群れることで実はいいことがあるんですけど・・・」

●何だろう??? 

「群れると敵が来た時にすぐに発見できるんですよね。みんなに知らせられるので、ひとりでいるよりもたくさんでいたほうが、たくさんの目で敵を見つけやすいというメリットがあるわけなんですね。多分そうしていたんじゃないかと思っています。そうすることで巣をみんなで守っているというか、親がたくさんいるから敵が来た時でもすぐ見つけられて、営巣地を守っていたんじゃないかっていう風に考えています」

●先ほど規模が大きかったっておっしゃっていましたけれど、どれくらいの規模だったんですか? 

「少なくとも15個、巣の化石が見つかっています。本当に狭いエリアからですね」

●密集してみんなで群れていたんですね。この恐竜は自分たちで卵を温めていたタイプなんですか? 

「この恐竜の面白いことに、自分たちで温めていないパターンの恐竜なんですよね。爬虫類みたいに卵を地面の中に埋めていたタイプなんですよ。なのに集団で巣を守っているっていうのは、爬虫類的でもあるし、鳥によく似ているし、本当にちょっとモザイク上というか、進化の途中だっていうのが分かりますよね」

●肉食獣、草食獣っていう風に考えると、どっちなんですか? 

「これがまたややこしいんですけど、肉食から進化した植物食の恐竜なんですよ」

●ええ!? なんですかそれ! 

「ちょっと不思議ですよね。鳥に近いんですけども、そこまでまだ近くはない、本当に中途半端というか変わった恐竜なんですよ。テリジノサウルス類っていう恐竜なんですけど、可愛いテディベアみたいな可愛い恐竜です」

●どんな特徴があるんですか? 

「前足に長い爪を持っていまして、大きい種だと1メートル近い爪を持っています」

●すごいですね! 

「でも植物食なので、二足歩行で爪を熊手みたいに使って、木の枝をかき集めて植物を食べていたんじゃないかって言われています」

●で、敵から守るためにみんなで集まっていたんですね。 

「そうですね。強い恐竜ではなかったので、みんなで集まって巣を作って、卵を守っていたと思います」

●孵化したことは分かっているんですか? 

「それも分かってきていて、孵化したのが化石を詳しく調べていくと分かりました」

●15個の中からどれくらい孵化していたんですか? 

「15個巣があった内の9個の巣で孵化した形跡が見られたんですね。15個の内の9個っていうと、結構割合としては成功しているほうなんですね。60%の成功率なんですけど、この高い成功率は親が巣を守っている場合に見られる割合なんですね」

注:お話に出てきた北海道大学・総合博物館の教授「小林快次(こばやし・よしつぐ)」先生は恐竜ファンの間では「ダイナソー小林」として有名な、恐竜研究のエキスパートで、その先生との出会いが少年時代、自然や恐竜が大好きだった田中さんを本格的に恐竜学者への道にいざなったと言っても過言ではないでしょうね。

写真協力:田中康平

 田中さんは留学していたカナダでも発掘調査を行なっていますが、今後、発掘調査に行きたい場所としてウズベキスタンをあげてくださいました。実はコロナ禍になる前にウズベキスタンに行ったことがあるそうです。まだまだ未開拓の地で、たくさんの恐竜卵の化石が埋まっているのではないかと田中さんは胸を膨らませています。

恐竜の子育てミステリー

※恐竜の種類にもよると思いますが、卵から孵化したあと、親は子供にどうやって食べさせていたんですか?

「小尾さん、どうやっていたと思います?」

●鳥は口移しとか、ですよね・・・。

「はいはいはい、ツバメみたいな感じで」

●そういうイメージがありますけど、恐竜もそうですか?

「えーっとですね、クイズにしましょうか! 1:ツバメみたいに親が直接餌を与えていた。2:親が餌を巣まで持ってきて、それを子供がパクパクと食べていた。3:餌はあげなかった」

●う〜ん、2番! 

「2番、餌を持ってきて、巣の中でヒナが自分で食べていた。正解は、どれも分かりませんでした」

●え〜〜〜〜なんですか、それ!

「すみません。まだそこまで分かっていないんですよ」

●そうなんですか?

「生まれたあとの行動って化石には残らないので・・・。研究者によっては、親が餌を運んできただろうと言っている研究者もいるんですけども、なかなか確固たる証拠がないんですね。まだまだ謎に満ち溢れているという(笑)」

●そうなんですね。でもそういったことも今後分かってくるかもしれないってことですよね?

「そうです! アイデア次第でまだ気づいていないだけで、ヒントが隠されているかもしれないですよね」

●子育ての期間とかもまだ分かっていないっていう感じなんですか?

「分かっていないですね。ただ、卵が孵化するまでの期間は分かっているんですよ。何か月だと思います?」

●ちょっと見当もつかないです。どれくらいですか?

「例えば、体の大きなハドロサウルス類っていう恐竜がいるんですよ。体長が7〜8メートルくらいある恐竜で、直径20センチくらいの丸い卵を産むんですけど、何日くらいだと思います?」

●何日だろう? 時間がかかるのかな~?

「大きいからそれなりに時間はかかりそうですよね」

●正解は? 

「正解は半年って言われているんです。長いですよね、半年! 」

●半年! 

「僕はそんなに長くはないんじゃないかと思っているんですけど、そういう研究があります」

●野鳥の中ではカッコウのように、他の野鳥の巣に卵を産み付ける「托卵」という繁殖行動をとる種もいますけれども、恐竜でもあったと推測できるんですか?

「鋭い質問ですね~、それ(笑)。今のところ、托卵していた確かな証拠はないんですね。ただ、中国とかモンゴルとか、恐竜の卵化石がたくさん見つかる地域で、色んな博物館によって調べたりしているんですね。恐竜のきれいな巣の化石があって、卵がたくさん産んであるんですけども、明らかに種類が違う卵が混じっていたりすることがたまにあるんですよ」

●ほお~〜〜〜!

「もしかしたら、そういうのは托卵しているのかもしれないですね。ただ、まだ公表はされていないので、すごく興味ありますよね。今後、僕も詳しく調べてみたいなと思います」

恐竜の謎を一緒に解き明かそう!

写真協力:田中康平

※田中さんが調査や研究をしていく中で、いちばんワクワクするのはどんな時ですか?

「やっぱり研究のアイデアを思いついた時ですかね」

●アイデア!?

「砂漠で化石を発掘したり新種を見つけたりするのも、それはそれで楽しいと思うんですけども、卵が孵化するまでの日数をどうやって調べるかとか、恐竜は親が卵を温めていたのかっていうのは、アイデア勝負というか、いくつか限られた証拠から、仮説を立てて調べていくわけですね。そこで研究をこうやったら分かるんじゃないかっていう方法を思いついた時は、すごく嬉しいです」

●恐竜学者として心がけていることとか、大事にしていることはありますか?

「ちょっとした謎でも思いついたら、不思議だなって思ったことはメモしています。もしかしたら、それが次の研究に繫がるかもしれないですよね」

●子どもの時に感じていたような、何でなんだろう? っていう気持ちを大事にされているっていうことですか?

「本当にそれは重要だと思います。お子さんが質問してくることって大概、僕たち(研究者は)答えられないんです(笑)。本当にいいところを突いていて難しい質問が多いんですよね。でもそれは、逆を言えば今分かっていないから、大いに今後の研究のテーマになりうるってことですよね」

●なるほど〜。やりたいことがたくさんあると思うんですけれども、今後の大きな目標は何かありますか?

「そうですね。やっぱりまだみんなが思いつかないような、思いもしなかったような恐竜たちの行動とか暮らしぶりを明らかにしたいなって思いますよね」

●なにか具体的なことはありますか?

「やっぱり卵の研究をしているので、卵でもまだ分かっていないこと、ですね。さっきおっしゃったように、恐竜の親が赤ちゃんに餌を与えていたのか、何日くらいで巣立ったのか、そういうこともほとんど分かっていないんですよ。ぜひ何かしら、きっかけを見つけて謎を解き明かしたいなと思います」

●楽しみですね〜。夢が広がりますね! 恐竜が大好きな子供たちや、恐竜学者を目指そうとしている学生さんたちに、もし伝えたいことが何かありましたらお願いします。

「はい! 研究は大変ではあるんですけれども、とっても楽しいです。まだまだたくさんの謎があって、見つかっていない恐竜もたくさんまだ埋まっています。だからみんなが、お子さんたちが研究者になる頃には、謎がまだたくさんあふれているので、ぜひ一緒に恐竜の謎を解いていけたら嬉しいなって思っています」


INFORMATION


『恐竜学者は止まらない!〜読み解け、卵化石ミステリー』

『恐竜学者は止まらない!〜読み解け、卵化石ミステリー』

 カナダやモンゴル、中国などの発掘現場での奮闘の様子や、卵化石の研究成果、そしてなにより研究者として邁進していく姿に圧倒されると思います。恐竜卵の研究はまさに時空を超えてつながるミステリー。丸くて硬くて面白い、卵化石の世界にぜひ触れてみてください。創元社(そうげんしゃ)から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎創元社HP:https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4275

リヤカーを引いて、世界5大陸単独踏破!〜小さな一歩を積み重ねて77500キロ!

2021/11/21 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、徒歩旅行家「吉田正仁(よしだ・まさひと)」さんです。

 吉田さんは1981年、鳥取県生まれ。2009年から、ユーラシア大陸の横断を皮切りに、北米大陸、オーストラリア大陸の横断、東南アジアの縦断、その後、2014年からアフリカ大陸、2015年からは南米・北米大陸の縦断に挑戦し、たくさんの困難を乗り越え、リヤカーを引いて5大陸の単独踏破を成し遂げました。およそ10年かけて歩いた距離は全部で77500キロ! 地球一周がおよそ4万キロなので、2周分に近い距離になるんです。

 きょうはそんな吉田さんに、時速5キロの旅で出会った人々や、忘れられない絶景など、お話しいただきます。

☆写真協力:吉田正仁

吉田正仁さん
写真協力:吉田正仁

ひとつのことをやり遂げたい!

※吉田さんの新しい本が『歩みを止めるな! 世界の果てまで 952日リヤカー奮闘記』。この本は南米大陸の南の端から、北米大陸の北の端まで歩いた旅の紀行文です。
 やはり気になるのが、どうして歩いて世界をまわってみようと思ったのか。何度も聞かれていると思うんですけど、大陸を横断するような旅に挑戦しようと思ったのは、どうしてなんですか?

「25歳くらいになって、自分の人生を振り返った時に、何かひとつのことをやり遂げたっていう経験がなかったんですね。スポーツや勉強も何をやっても中途半端で、自分の人生って何だろうと考えていた時期がありました。私の場合は何かひとつのことをやり遂げたいと思って、元々旅好きだったというのもあるんですけど、どうせだったら歩いて、中国からユーラシア大陸の最西端のロカ岬まで自分の足で歩いてみようと、それがきっかけでした」

●その発想があっても、実際実行に移すのはなかなか大変なことなんじゃないですか? 

「そうですね。まずお金がなかったので、2年ぐらい仕事をして、お酒もやめてタバコもやめて、お金をしっかり貯めました。あと装備品ですね。テントや寝袋、リアカー、そういったものは色んな企業にお願いをしたんです。会社の昼休みにひとり、車にこもって、ずっと営業の電話をかけて、装備の支援をいただく交渉をしたりとか。ひとつひとつ自分だけの力で、あまり誰かにお金とかで頼ることもなくやりたいって思いがあったので、資金に関しても全部自己資金でやりました」

●旅の相棒はリアカーですよね? どうしてリアカーなんですか? 

「歩くとなると衣食住、どこにでもホテルとか宿があるわけではないので、テントも必要ですし、無人地帯では食料も必要になって、衣食住すべて揃えたら、時には50キロとかになるんです。それらは全部背負って歩くと足の故障にも繋がると思いますし、そういうリスクがあって、荷物の運搬手段として、動物も考えたんですけど、やっぱり国境を越える時に何かしらのトラブルが生じたりとか、途中で死なれても困りますし、そういうこともあって色々と考えていき着いたのがリアカーというものでした」

写真協力:吉田正仁

●野営のために必要な道具を全部詰め込むんですよね。

「そうですね。全てないと、野営に必要なものもですし、タイヤのパンク修理とかそういう道具や工具、そういったものも必要です」

●いちばん重い時で何キロくらいになるんですか? 

「食料や水に左右されるんですよ。いちばん長い時で320キロとか無補給地帯、水も食料も補給できないところもあるんですけど、そういうところでもいちばん重い時で水だけで32リットル、32キロですね。あと食料も10日分とか詰め込んで、いちばん重い時で100キロを超えるぐらいですね」

(注:大陸を横断するような旅に出ようと思ったのは、今までの人生を振り返って、ひとつのことをやり遂げたことがなかったから、というお話でしたが、大陸に挑戦する前に、バックパッカーとしてアフリカを旅したときに、観光地や大きな街を巡って、物足りなさを感じたそうです。もっと小さな村や街を訪れ、現地の人たちと触れ合いたい、という思いも大陸に挑戦する理由だったそうです)

アースウォーカー「ポール・コールマン」との出会い

※吉田さんの本を読んでいると、南米大陸の旅でもいろんなかたたちと出会っています。中でも、パタゴニアの小さな町に暮らすポール・コールマンさんとの出会いが興味深いんです。ポールさんは「アースウォーカー」と呼ばれ、世界を歩いて旅をしながら、100万本以上の木を植えた人として知られています。ポールさんとはどうやって出会ったんですか?

「私がポール・コールマンという名前を知ったのは、日本を出る前の話なんですね。登山とか極地探検とか、結構色んな冒険の歴史ってあるんですけど、なかなか歩いて大陸を横断したっていう前例が、記録として文章として残っているかというとそうでもないんです。インターネットで歩いている人について調べていたら、ポール・コールマンっていう名前が出てきて、それが最初のきっかけですね。100万本の木を植えながら世界4万キロを歩いた男がいると、それが彼を知ったひとつのきっかけだったんです。

 そして、チリを歩いていた時に、旅行者だったと思うんですけど、”ラフンタっていう町に木を植えながら(地球を)歩いた男がいるよ”と(教えてもらって)、その情報だけでポール・コールマンだと(わかって)すぐに思い立って、会いに行きました」

写真協力:吉田正仁

●実際、会っていかがでしたか? 

「やっぱり普通に考えて、歩いて旅をするって、最初できるんだろうか? って、経験も知識も何もなくて、大きな不安がやっぱりあったんですけど、ポール・コールマンとか、あと何人か歩いて(旅をして)いる人がいて、そういった人の前例が不安とか迷いがあった自分の背中を後押ししてくれました。

 それがあったのは確かなので、彼と出会えたことはすごく幸せだったと思います。彼は今、自給自足に近いような生活をしていて、元々荒地だったところ、そこにも木を植えて、今は野鳥や虫の、色んな生物の楽園になっているんです。

 彼も”ひとつひとつ目の前のことをやっていくことは、歩いているのと同じだ”というような話をしてくれて、歩き終えた時も自分の生きかたを、進む道を同じように一歩一歩行くんだよっていうことを教えてくれたような気がしました」

(注:ポール・コールマンさんの奥様は実は、活動を共にしている日本人の「菊池木乃実(きくち・このみ)」さんというかたです。菊池さんはポールさんの本も出していらっしゃいます)

旅が交わる砂漠のレストラン

写真協力:吉田正仁

●南米のペルーの砂漠にポツンとレストランがありましたよね? 

「それもすごく印象的ですね。ポール・コールマンと同じように自分の背中を後押ししてくれたかたのひとりが、池田拓さんっていうかたなんですね。池田さんの名前を知った時には、彼は既に亡くなっていて、もちろん面識はないんですけど、池田さんが南米(大陸)を縦断したということはもちろん自分の頭にもあって、南米を実際に歩きながら、池田さんもこういう場所を歩いたのかなと想像しながら歩いていたんですね。

 ペルーの砂漠地帯、首都リマの北300キロぐらいのところに、そのレストランはありました。レストランに着く3日前ぐらいに、1台の車が止まって、おじさんがこの先に家があるから寄って行けよと、そういうこと言ってくださったんすね。
 住所は、1キロ毎にマイルストーンっていうんですかね、距離の数字が書いてあるんです。337とかそういう数字だったと思うんですけど、くしゃくしゃのレシートに337キロって書いて渡してくれて、実際3日ぐらいでそこに辿り着いた時、レストランが現れたんです。

写真協力:吉田正仁

 そこが彼のレストランで、この砂漠地帯を旅する、自転車で旅する人もいるし、バイクで通り過ぎるような人もいるんですけど、そういう人を善意で招いて食事を与えてくれるかたなんです。そこを訪れた人のゲストブックっていうんですかね、記録で名前を書いていたり、色んな感想を書いていたり、そういうものが5冊くらいありました。それを渡されて、ページをめくった瞬間にもうビビビっと、稲妻が走るような衝撃があって、そこには池田拓さんの書き込みがあったんですね。衝撃的でしたね」

●吉田さんにとっては、池田拓さんは憧れに近いような存在ですよね?  

「そうですね。歩くきっかけを与えてくれた、直接面識はないんですけど、間接的にきっかけを与えてくれたようなかたで、こういう形で自分の旅と池田さんの旅が交わるということに感動を覚えました」

●すごいですね。ゲストブックには色々な歴史が刻まれているんですね。

「そうですね。グレートジャーニーっていう旅をされた関野吉晴さんっていう探検家もいらっしゃるんですけど、池田さんの数ページあとに関野さんの書き込みがあったり、個人的にいちばん尊敬しているカール・ブッシュビーっていう30年くらい歩き続けている人がいて、彼の書き込みもあって、こういう形で旅路が交わる、重なることにすごく嬉しく思いました。

 池田さんの話には後日談があって、日本に帰って本を出したあとに、知り合いの知り合いくらいを辿って、池田さんのお父さんも亡くなられているんですけど、お姉さんがまだお元気で、お姉さんに連絡を取って、本と池田さんの(ゲストブックの)書き込みの写真を送らせていただいて、喜んでくださったと、そういうことがありました」

●旅が繋いでくれた絆っていう感じですね! 

「そうですね」

(注:お話に出てきた吉田さん憧れの冒険家「池田拓」さんは、1988年から3年かけて、徒歩で北米大陸の横断と南米大陸の縦断を成し遂げた人です。残念ながら1992年に26歳の若さで亡くなっています)

忘れられないペルーの絶景

※南米大陸の旅で出会った未だに忘れられない絶景があれば、教えていただけますか?

「絶景ということであれば、ペルーにワスカラン国立公園というところがあるんですね。ちょうどペルーの首都リマに着いたあと、3週間くらい足を止めていたんです。その時に、リマの北東300キロくらい離れているんですけど、そのワスカラン国立公園は自分の歩くルートとちょっとずれるので、バスでワラスという街まで行ってトレッキングをしたんですね。テントとか寝袋を持って山を歩いて。

 それもすごく息をのむような景色の連続で、満足のいくものだったんですけど、トレッキングを終えて、バスに乗ってワラスに戻る時に、峠があって、峠を超えた瞬間、目の前にもう信じられないような景色が現れたんですね。6000メートル級の山が連なっていて、全部氷河を抱いているような山で、眼下にはターコイズブルーの湖が見えて」

●へぇ〜〜! 

「これ凄いな! と思って、トレッキングを終えて、一回リマに戻るんですけど、その景色を忘れられないんですね。戻りたいなって思って。でもペルーのリマからずーっと北を目指す当初の予定では、海抜0メートルの海岸線をずっと歩くだけなんです。ワラスに戻るにはアンデスを越えないといけなくて、4000メートルの峠を3つくらい越えないといけないんですよ。

 そういうことを考えていたら、戻りたくないという気持ちもあるんですけど、キツいのは目に見えているから。でも帰国後に、例えば今もなんですけど、どこがいちばん綺麗でした? と言われた時に、ワスカラン国立公園って堂々と答えるには、やっぱり自分の足でそこをリヤカーを引いて歩かないといけないなと思って、その4000メートルの峠を3つ越えて、2週間ぐらいかけて戻って、バスから見た景色と同じものをリヤカーと一緒に見ることができました」

写真協力:吉田正仁

会社務めは、新しい冒険!?

※世界5大陸をおよそ10年かけて踏破して、すでに3年近く経ちました。現在はモンベルの社員として仕事をされていますが、吉田さんの旅は次のステージに入っていると言ってもいいのでしょうか。

「そうですね。新しい冒険ですね、今の仕事は」

●おお〜! それはどんな冒険なんですか?

「未知ですね!(笑)。今の業務も全くの未知なんですね。仕事を教えてくださるかたは“北極圏を歩くほうが大変です”って言うんですけど(笑)」

●あははは(笑)

「僕は今の仕事のほうがよっぽど大変かな〜と思っています」

●ガラッと、生活も変わりますよね。

「はい」

●12月11日に開催されるモンベル主催の」冒険塾」で講師を務めることになっていますけれども、どんな内容になりそうなんですか?

「自分としては、踏み出す最初の一歩、踏み出すきっかけを与えるようなお話ができたらなと思っています。旅で歩く理由はもちろん、色んな国々でのエピソードもちょっとお話できたらと考えています」

●本を出版されるということは、人に影響を与える立場になられていると思うんですけれども、世界の旅で得たこと、感じたことで、どんなことをいちばん伝えたいですか?

「自分が伝えられること、いちばん、唯一にして最大のことっていうのは、どんな小さな一歩でもそれを積み重ねることで、夢とか目標とか、そういうものに辿り着く、近づくことができるっていうことかなと思います。

 歩いてきた距離が77500キロ、年月は10年くらいなんです。その77500キロとか、10年っていう数字だけを見たら、すごく大きなものに思われるかもしれないんですけど、結局やってきたことって、目の前の一歩を着実に確実に刻んでいくことなんですね。その結果そういう大きな数字になっていたということなので、そういうことを伝えられたらなと思っています」


INFORMATION

『歩みを止めるな! 世界の果てまで 952日リヤカー奮闘記』


『歩みを止めるな! 世界の果てまで 952日リヤカー奮闘記』

 南米・北米大陸を単独踏破したときの紀行文。奇跡的で印象的な出会いの数々や、大自然の過酷さや絶景など、読み応えのある話が満載です。ぜひ読んでください。産業編集センターから絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎産業編集センターHP:https://www.shc.co.jp/book/15058

「モンベル冒険塾」開催!

 吉田さんが講師として登壇する「モンベル冒険塾」が12月11日(土)の午後2時から開催されます。講師の顔ぶれは吉田さんのほかに、ヨットで太平洋往復単独横断を達成した辛坊治郎さん、冒険作家の佐藤ジョアナ玲子さん、そしてモンベルの辰野会長です。今回はモンベル大阪本社でのリアル開催と、オンライン配信となっています。参加者の募集は11月30日まで。参加費など、詳しくはモンベルのオフィシャルサイトをご覧ください。

◎モンベルHP:https://www.montbell.jp/generalpage/disp.php?id=590

散歩のすすめ〜日々ご機嫌でいるために

2021/11/14 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、小説家の「森沢明夫(もりさわ・あきお)」さんです。

 森沢さんは1969年、船橋市生まれ。早稲田大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーライターに。そして2007年に『海を抱いたビー玉』で小説家デビュー。その後、話題作を次々と発表されています。

 映画化されている作品も多く、例えば、高倉健さん主演の映画『あなたへ』や、吉永小百合さん主演の『ふしぎな岬の物語』、そして、有村架純さん主演の『夏美のホタル』など、原作は森沢さんの小説です。

 そんな森沢さんとこの番組は、14〜5年前からのお付き合いで、事あるごとにご出演いただいていますが、今回は、先頃出されたエッセイ集『ごきげんな散歩道』に沿ってお話をうかがうことになりました。

 森沢さん流の、日々「ごきげん」でいるためのコツや、小さな幸せに出会える散歩のお話にはきっと、心と体をリフレッシュさせるヒントがたくさんあると思いますよ。

☆写真:森沢明夫

森沢明夫さん
『ごきげんな散歩道』

深夜の散歩、霧の夜

※おうち時間が増えている中、本のタイトルにある「ごきげん」と「散歩」が、日々を過ごすための大切なキーワードになっていると思ったんですが、そのあたりはいかがですか?

「僕、単純に家の中にいるより、外をふらふらしているとそれだけでご機嫌になれる体質なのか分からないんですけど、散歩って科学的にも精神や心にすごく良いって言いますよね。歩いていると色んな出会いとか、人とも出会うし、例えば綺麗な空とも出会ったり、その季節の例えば花とか、色んなものと出会えるので、そういうものを見ていると、それだけでご機嫌になっていくなと思っていますね」

●私は移動手段として、ただただ歩いていたなっていう風に感じました。ちゃんと散歩で楽しんでなかったなと思ったので、やっぱり視野を広げて色々な世界を見てみると色んな発見がありますよね。

「足もとの世界に、よく見れば見るほど、色んな世界が実は広がっていて、子供の頃、よく“ありんこ”とかしゃがんで見ていませんでした? 大人になるとあまり見ないですよね。
 子供の視点で足もとに何かないかなーと思って探す、何か面白いものを探そうって目を持って歩いていると、意外と何でもない国道の道端に見たことのない雑草の花が、可愛いのが咲いていたりとか、色んな発見があるので、すごく楽しいですよね」

●日々、立ち止まりながら散歩されているんですか? 

「そうですね。この歳で道端でしゃがんで写真を撮ったりすると、結構怪しがられますよね(笑)」

●そうですよね(笑)。深夜にもお散歩されるってうかがったんですけども? 

「します。結構、深夜率も高いです。3割ぐらい深夜かもしれない」

●深夜というと何時ごろですか? 

「僕は寝る時間とか決めていないんで、夜中の2時、3時、4時とかありますね」

●え〜! 真っ暗ですよね? 

「真っ暗だったり、朝方になりつつあったりとかもします」

●深夜のお散歩だと、どんな発見があるんですか? 

「深夜は、例えば星が綺麗だったり・・・ツイッターとか見ていたりすると、星の観察されているかたがいて、今どこの方向に金星と土星が光っていますとか、そういうのを見て、ちょっと散歩しようと思って見たり・・・。あと星座を見られるアプリがあるんですよ。そのアプリを見ながら空にスマホをかざして、あれが何座であれが何座だなと思いながら歩いたり・・・意外と面白いのが霧の夜。雰囲気が好きですね」

写真:森沢明夫

●霧の夜、何か幻想的ですね。

「そうなんですよ。小説の中の世界に、ミステリー小説の中に入り込んだみたいな不思議な感覚になって・・・男だから(深夜に散歩が)できるんだと思うんですけど」

●確かにちょっと女性の深夜の散歩は危ないかも。

「深夜の霧の夜に、わざと狭い路地に入っていくとかって雰囲気がちょっと面白いですよね。
 本当に朝、昼、晩の散歩の面白さがあるし、日本って四季があるじゃないですか。だから春夏秋冬、同じ道を通っていても色んな発見があって、雰囲気も違って、すごく面白いんですよね」

メモが止まらなくなる散歩!?

※森沢さんは散歩をしているときに、小説家らしいというのか・・・、こんなこともよくあるそうですよ。

「小説を書いていると、頭の中がぎゅーって圧迫されている状態が続くっていうか、集中している状態が続くじゃないですか。でも一回それをふわって解きほぐす時間帯が欲しくて散歩するんですけど、意外なことに、そのふわって何も考えずにいる散歩の瞬間にむしろアイデアがいっぱい降ってくるんですよね」

●この本の中にも「メモが止まらなくなる散歩」という項目があって、「歩き始めてすぐに僕の内側から言葉とひらめきが溢れ出した」というような文章がありますけど、やっぱりそういう切り替えというか、あえて外だからこそ浮かんでくるものって何かあるんですか? 

「やっぱり歩いていると、視覚から入ってくる情報とか、嗅覚、風の匂いとか、風の触感もそうだし、色んな感覚が新しく入ってくるんで、脳に刺激がいくのかなと思ってますね」

●「(本に)脳と心がしゃきっと目覚めた」っていう表現もありましたけれども、森沢さんが散歩中に出会った印象に残っている出来事って何かありますか? 

「いっぱいありますけど、暗い夜道にひとりで路地を歩いていたら、前に若い女性がいたんです。悪いことしたなと思ったんですけど、その女性が僕のことを振り返ってダッシュで逃げていった時、まじか!と思って・・・追いかけていって、僕は悪い人間じゃありませんって言いたいぐらいですけど、追いかけていったらそれこそ怖いんで(笑)」

写真:森沢明夫

●そうですね(笑)。何か素敵な出会い、生き物だったり人だったり、そういったことはありますか? 

「結構、猫と出会えたりとか、野良猫なのか分からないけど、人懐っこい猫が結構いたり・・・猫と触れ合っていると通学中の子供たちが寄ってきて話しかけてくれたり。
 あと、子供のころよく遊んでいた草花を久しぶりに見つけて、子供のころやっていた遊びをやってみると、何かちょっと癒されますね。懐かしいなーって」

●すごく癒されそう、ほっこりしそうですね。

「本にも書いたんですけど、オシロイバナで遊んだりしませんでした?」

●やりました〜!

「ああいうのって懐かしいな〜と思って」

写真:森沢明夫

●何かふわ〜っと子供のころの情景も思い浮かびますし。

「地元を歩いていると、当時の通学路を歩いたりするんで、思い出がたくさん蘇ってくるんですよね 」

註釈:森沢さんが散歩に行くときに持っていくのは、ほぼスマホのみ。散歩の平均時間は1時間半くらい。お天気の良い日には公園で本を読んだり、行きつけの喫茶店に行くこともあるそうですよ。

渚の旅人、釣りを楽しむ!?

●森沢さんは昔「渚の旅人」ということで、日本の海岸線を巡っていたんですよね? 

「そうですね。日本の海岸線を尺取虫状に、今回はここからここまで、その次はこっからここまでって繋いでいって、一周しようっていう企画が雑誌の連載であったんですよ。一周しながらそれを紀行エッセイにしていくっていう」

●私の名前が「渚沙」なので、すごく興味深いんです(笑)。

「いい名前ですね〜!」

●渚を旅されて、いかがでした? 

「最高に面白くて、エキサイティングで、釣り好きなんで。でも釣竿を持って旅するのは編集長に禁止されていたんです。なぜなら先に進まないから(笑)。
 僕がやっていたのは、海岸にいる釣り人に話しかけて、釣れている人にちょっと竿を貸してって言って、竿を奪い取って自分で釣って楽しんだり。

 あとは日本の美味しい海産物とたくさん出会えたり。風景も、色んな独特の風景がたくさんあるんで、7年以上やったんですけど、全く飽きることがなかったですね」

●特に印象に残っている場所はありますか? 

「難しいな〜。めちゃくちゃ難しいけど、ここ日本かよって思うぐらいびっくりしたのは、青森県の仏ヶ浦っていう海岸。白い巨大な岩がたくさん海岸線沿いに屹立していて、そのスケールが大きいんで、日本じゃないみたいと思いましたね。
 海も本当にソーダ水みたいな綺麗な海で、5メートルとかそれ以上深いところの小石が見えます」

●ええ!? すごいですね! 

「本当に綺麗です。よくテレビとかでカヌーが(水面から)浮いているように見える(シーンがありますが)、あれぐらい綺麗かもっと綺麗かってくらいでした」

註釈:森沢さんのおすすめスポットとして、散歩コースではないんですが、 「ふなばし三番瀬(さんばんぜ)海浜公園」をあげてくださいました。海好きな森沢さんは散歩の代わりに、オートバイに乗って出かけることもあるそうです。

森沢さん流の「散歩の極意」

※「だから散歩はやめられない!」という瞬間はどんな時なんですか?

「個人的には、単純に歩いて帰ってきた時の、家を出た時と家に帰って来た時の、心と身体の軽さが違うんですよね。それはやっぱり、もう本当にやめられない」

●煮詰まって出かけたのに・・・。

「そうですね。背中も肩も首も凝りっこりで、ガチガチに凝って、精神的にも疲弊して、頭もなんかこう、重たいような状況で歩きはじめて、1時間して帰って来たらものすごくすっきりしているんですよね。これはもう(散歩を)やめられないですよね」

●森沢さんが思う散歩の極意っていうのは?

「極意!? 極意はやっぱり“五感”を使うこと! 情報はたくさん目から入ってくるし、途中で花の匂いがしたり、例えば秋だったらキンモクセイの匂いがしたりね。あと、カレーライスの匂いがしてきたり・・・」

●あ〜! 

「どっかの家でね、今夜はカレーなんだなあ(笑)とか思いながら。あとツツジの花をたまに吸ってみたり。サルビアとか、サルビアって分かります?」

●はい! 分かります。

「赤い花なんですけど、あれを、ちゅっと吸うと蜜の味がしたりするじゃないですか。あとね、空気の感じとか。たまに枯れ葉を拾ってみたり、そういう色んな五感を使って楽しむ。

 ひとつひとつに小さな感動があると思うんです。その小さな感動をしっかり身体で味わうっていうのかな。それをやっているとなんかね、すごく小さな幸せをたくさん蓄積していく感があって、個人的にはすごくいいと思うんですよね。
 だから極意は? って言われたら、五感を使って、身近なことを、場所を、味わいましょうっていうことかな」

写真:森沢明夫

●身体全体で感じられますよね。

「散歩、しません?」

●そうですね。でも私は本当に森沢さんの本を読んで散歩しよう! って思いました。歩くことが手段でしかなかったので、散歩をすることでもっともっと心が豊かになりそうだなって思いました。

「単純に、家から駅まで通勤で歩いている間にも、多分何かしらの発見はあるはずなんですよね」

●本当ですよね〜。ただ今、テレワークも増えていて、朝起きてから夜寝るまで、ずっと家にいるってかたも多いと思うので、本当に息抜きで散歩って大事ですよね?

「大事ですね〜。ずっと家にいるのが小説家ですからね」

●そうですよね〜。締め切りに追われてとかも多いと思うんですけど。

「締め切りに追われた時ほど散歩した方がいい! そのほうが多分、筆が走る」

●むしろはかどる?

「むしろはかどると思います。30分でもいいから歩いて帰ってきたほうが、その分、時間を無駄にしたというよりは、30分ぶん以上、筆が走るんで・・・経験上僕はそうだと思います」

写真:森沢明夫

新しい小説は「チェアリング」!

※明かせる範囲内でいいんですけど、これから書こうと思っている小説の構想だけでも教えていただくことはできますか?

「実はそれこそフリントストーンっぽいんですけど・・・」

●おっ〜!

「“チェアリング”って知っています?」

●チェアリング? 何でしょう?

「チェアって英語で椅子ですよね。その椅子ひとつを持って、風景のいいところに出かけて行って、そこに椅子を置いて、そこでビールを呑んだり、コーヒーを飲んだり、っていうのを楽しむのをチェアリングって言うんですって。もっとも手軽なアウトドアって言われているらしいんです。

 大学生が主人公なんですけど、友達や仲間とチェアリングをやって、彼らが成長していく物語みたいなものを今、日本農業新聞というところで連載しています」

●森沢さん自身もチェアリングはされるんですか?

「僕はそんなやっていないんですけど、ただ昔、野宿であちこち放浪していたので、その時はやっぱり椅子をキャンプ地にぽんと置いて、ここから視界に入る風景は全部俺の庭! と思って、贅沢な気分で遊んでいましたね。それを今の大学生達がどうやって楽しんで、どんな出会いをして、どうやって成長していくかっていう物語です」

●どうやって小説って思い描いていくんですか? 森沢さんの脳はどうなっているんですか?

「脳はちょっとお見せできないんですけど(笑)。最初は“人間関係図”みたいなものが閃めくんです。パッて降って来るんです。こういう悩みを持った、何歳くらいの、こういう人を主人公にして、それに対してサブキャラ、こういう人とこういう人がいて、こういう関係性っていうのが最初に降って来るんです」

●へぇ〜〜。

「その人間関係の中に色んな問題があったり、それぞれ抱えている悩みがあったりして、それを何かしら、今回だったらチェアリングを使って、成長させていくにはどうしたらいいのかなって考えていくんですよね。最初は人間関係ができて、キャラクター設定をするんです。

 どういうキャラクターにするかって、すごく細かくいっぱい書き出していって、架空の人なんだけど、本当にいるんじゃないかって自分が勘違いしそうなぐらいまで、夢に出てくるくらいまで結構書いていくんですよね。
 そのキャラクターたちを、例えば地方の大学とかそういう舞台にキャラクターを置いてあげて、あとは彼らがどういう動きをしていくか観察していく感じですね」

●かつてのアウトドアの経験も活かされているんですよね?

「めちゃくちゃ活きていますね〜。結構、釣りのシーンとかよく書くんですけど」

●では、最後にお散歩マイスターとしてリスナーの皆さんにアドバイスがあればお願いします。

「アドバイスは、四季を活かした日本の散歩をすごく楽しんで欲しいので、同じ道でも色んな時間帯と色んな季節を楽しんで欲しいのと、あとはすごくおすすめなのが、かつての通学路に、あえて行ってみて歩いてほしいですね。懐かしい子供の頃の想い出の道を歩いてみて欲しいなと思います。すごく胸がきゅ〜ってなるのでおすすめですね」

(注:写真や記事の無断複製、複写、転載は禁じられています)


INFORMATION

『ごきげんな散歩道』


『ごきげんな散歩道』

 エッセイ集『ごきげんな散歩道』をぜひ読んでください。森沢さんが散歩の途中に出会った「ひと」や「もの」「こと」が、やわらかい文章で書かれています。写真も全部「森沢」さんがスマホで撮ったもの。読み進めていくうちにふわっとした感じに包まれて、きっと心が軽くなると思います。春陽堂書店から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎春陽堂書店HP:https://www.shunyodo.co.jp/shopdetail/000000000762/

『カナルタ〜螺旋状の夢』〜アマゾンの先住民、その叡智に今こそ学べ!

2021/11/7 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、新進気鋭の映像人類学者「太田光海(おおた・あきみ)」さんです。

 太田さんは1989年、東京都生まれ。神戸大学卒業後、パリに渡り、人類学の修士号を取得。その後、英国マンチェスター大学・グラナダ映像人類学センターに在籍しているときにアマゾンの熱帯雨林の村に1年間滞在、その成果を映像作品にまとめ、博士号を取得されています。

 太田さんの初監督作品、ドキュメンタリー映画『カナルタ〜螺旋状の夢』は、その斬新な手法と内容が高く評価され、海外の映画祭で数多くの賞を受賞!

 ちなみに映像人類学とは太田さんによれば、自分の研究を社会に伝える方法が、映像だったり、写真だったり、音であったりとされていて、日本には専門の学校がなく、マンチェスター大学やハーバード大学などが有名だそうです。

 きょうは日本でも公開中の同映画をクローズアップ! 太田さんの、アマゾンの森の先住民たちと暮らした日々と、映像に込めた思いに迫ります。

☆写真協力:太田光海

太田光海さん

セバスティアンとの奇跡的な出会い

※まずは映画のタイトル「カナルタ」にはどんな意味があるのか、教えてください。

「”カナルタ”というのはシュアール語で”おやすみなさい”という意味がありますね。毎日、夜寝る前にみんなで言い合う言葉です。同時に”いい夢を見なさい”という意味や、”いいヴィジョンを見なさい”という意味も含まれているんですね。
 寝るということはつまり夢を見ることと同じだし、その夢を見るということはビジョンを見る、自分自身が何者なのかを知るという意味も含まれているという、深い意味があるなと思いまして、それでこのタイトルを選びました」

●撮影場所は南米エクアドルということですけれども、どのあたりなんですか? 

「エクアドルの若干東のほうに、アマゾンと呼ばれるいわゆる熱帯雨林が広がっていまして、その中のちょっと南のほうですね」

●シュアール族という先住民が暮らしている村っていうことですよね? 

「シュアール族の村はたくさんあるんですけど、その中で集合的にその辺に住んでいると・・・」

●だいたい何人ぐらいの村になるんですか? 

「僕がいた村は200人ぐらいですね。ただ子供の数がすごく多いので」

●そこに太田さんがおひとりで行ってたんですか? 

「そうです。完全にひとりで行きました」

●ええ!? 怖いとかそういった気持ちはなかったですか? 

「正直、最初はそういう不安とかもありますけど、アマゾンと呼ばれる地帯に入ってから、もう少し奥に行かないとその村に入れないので、その村に入る時点ではある程度、そういう怖さみたいなものに慣れていましたね」

●映画の主な登場人物が(シュワール族の)セバスティアンというかたでした。このかたとは、どのようにして出会ったんですか? 

「偶然と言えば偶然です。なぜかと言いますと、彼らの村というのは基本的に地図に全く表示されないんです。住所という概念が存在しないので・・・僕のような外部の人間が行きたいと思っても、そもそもどこにあるのかも分からない、行きかたも全く調べようがない場所にあるので、人に連れて行ってもらうしか方法がないんですよ。

 僕は一回、エクアドルの首都のキトという町に飛行機で着きまして、1〜2週間そこに滞在して、その間に知り合いのかた、友人を介して紹介してもらった現地のかたに何人か会って、その人たちに、アマゾンでこういう映画を撮りたくて研究もしたいんだけど、どうすればいいだろう? ということを聞くわけですね。

 そうすると、彼らが、僕がアマゾンの人を直接知っているわけじゃないけど、僕の知り合いで、アマゾンの人を知ってそうな人がいるよということで、また紹介してくれたりするんですね。
 そういうのを繰り返していくと、ある時から、シュアール族なんですけど、今はちょっと都市に住んでいるよっていう人もいるので、そういう人と繋がったりします。

 その人に同じような内容、こういう映画が撮りたくて、こういうことに興味があるんだけどっていう話をした時に、その人が、そういうことならうってつけの人がいるから連れて行くよということで、連れて行かれたのが、そのセバスティアンの住む村でした」

注釈:セバスティアンは、年齢は50歳くらい。長い黒髪で火焼けして精悍。家族構成は奥さんのパストーラと5人の子供たち。森から調達した木で建てた家で生活。服装は民族衣装を着るときもあるようですが、Tシャツやズボンなど着用し、プラスチックの容器なども使用。村の仲間たちと助け合い、伝統を大切にしながら、現代文明の恩恵は受け入れるところは受け入れています

 太田さんがいうには、村にはゆったりとした時間が流れているとのことでした。ちなみに言葉はスペイン語とシュアール語で会話していたそうです。

写真協力:太田光海

出されたものは全部平らげた!?

※いきなり見ず知らずの人が村に行くと、警戒されたりすると思うんですけど、太田さんは、どうやって信頼関係を築いていったんですか?

「いろいろやりかたはあって、本当に些細なことの積み重ねなんですけど、ひとつ、すごく大きかったなと思うのは、僕が彼らが出してくれたご飯や飲み物を、もう全部、嫌な顔せずに平らげたというのが、多分彼らにとってはすごく大きかったかなと。

 やっぱり人間誰しも、日本でもそうだと思うんですけど、自分たちがめちゃくちゃ美味しいと思っているものを外の人に、これすごくまずいよとか、これはよく分かんないから手を付けられないとかって言われたら、ちょっとショックというか、傷付くじゃないですか。
 多分そういう感覚が彼らもあって、彼らの料理には口噛み酒っていう唾液の中の微生物で発酵させた、自家製のお酒みたいなのもあるんですけど、ああいうのってエクアドル国内の人でも、アマゾン出身じゃない人ってやっぱり手を付けにくかったりするんです。

 彼らはそれを知っているので、僕が村を訪ねた時に、躊躇せずに全部飲んだんです。その時に彼らは、この人は何でも食べるし、飲んでくれるということになって、すごくみんながいろいろものをくれるようになって、そこから仲よくなったなと思いますね」

●実際そういった食事は、太田さんの中でちょっと美味しくないなっていう感じもありました? 

「美味しくないって感じたことは正直ほとんどなくて、すごく本当に美味しいんですよ。というのも、彼らの食材って全部すごく新鮮で、何もしなくてもナチュラルに有機栽培なんですね。彼らは農薬とかわざわざ手に入れるために動くわけではないので、そのまま生えているわけですから、だから採れたてで有機栽培だと。

 で、アマゾンの土地のエネルギーというか、栄養価もすごく高いので、単純に素材としてすごく美味しかったです。ただ、同じようなものをずっと食べているので、僕らにとっての白ご飯みたいなものかもしれないですけど、時々ちょっと違うものを食べたいなっていうのは正直思いましたけど(笑)、基本的にはすごく美味しいです」

写真協力:太田光海

少子化!? それでいいのか!?

※太田さんはシュアール族の村に1年滞在されましたが、撮り貯めた映像は35時間だったんですよね。映画を作るにしては、とても短い気がしたんですけど、撮影以外には何をしていたんですか?

「撮影以外には、本当に彼らと同じ生活をなるべくしようとしていました。彼らが森で作業する時は僕も映画にも出てくる鉈ですね、あれを持って、僕も自分用の鉈を手に入れて一緒に作業したり、魚を捕る時は一緒に川で魚を捕ったり、もう本当に彼らと同じようなことをできるだけやろうとしました。

 あとはもうたくさん彼らと話しましたね。いろんな話を聞いて、研究者としてとかインタビューする人としてではなくて、ひとりの人間として、僕の人生についてもいろいろ話しましたし、そういう個人的な関係を作るようにしましたね」

●例えば、どんな話をされたんですか? 

「僕の家族の話ですとか、彼は結構、興味津々なので・・・当時、僕はイギリスに住んでいたんですけど、マンチェスター大学にいたので、そのイギリスでの生活とかについて彼らに話すんですけど、彼らは僕らの生活がすごく不思議なんですよ。

 例えば、僕は東京出身なんですけど、東京ではこういう家がたくさん建っていて、渋谷の話をすると、すごく高いビルがたくさん建って、電車が何本通っていて、人がめちゃくちゃたくさんいて、みんな会社とかに勤めている・・・日本では最近少子化というのがあって、みんななかなか子供を持ちにくいとか、そういう話をすると、何で!? ってなるんです。

 何で子供がいなくて君たちはそれでいいの? みたいな感じなんですけど、そういう話、パソコンに向かうのはなぜ? って聞いてくるわけです。パソコンに向かって君たちは何しているの? みたいなこと言われるんですけど、そういう時に、確かになんでだろう? みたいなことを思うんです。そういう素朴な話とかをいろいろしました」

●太田さん自身の人生を振り返るいい機会にもなったような感じですね。

「そうですね」

●確かに村ではすごくお子さんも多いとおっしゃっていましたよね。

「やっぱり子供がたくさんいて、家族がみんな健康で幸せであるという、単純な話なんですけど、そこをすごく彼らは重視していますね」

鬱蒼とした熱帯雨林を歩く能力

※映画『カナルタ〜螺旋状の夢』を見ていると、主人公セバスティアンの存在感が際立ちます。彼は神話、薬草、歌に詳しい文化的なリーダーとして尊敬されていて、薬草を使って村人の治療もします。ちなみに村の政治的リーダーは奥さんなんです。

 映画の中でセバスティアンと一緒に森を歩くシーンが多くありましたが、一緒に歩いていて、驚くことがたくさんあったんじゃないですか?

「ありましたね。驚きの連続過ぎて、何から話していいかちょっと分からないんですね。いちばん最初にやっぱり衝撃だったのは、彼らが森を歩く時のスピードというか、全てなんですけど、僕が急に森に入ってもそもそも歩けないんですよ。

 障害物がまず多すぎる。日本で例えば登山やハイキングに行くと、確かに自然に溢れた場所に行けるんですけど、階段があったりとか、道がとりあえず舗装されていたりっていうのはある程度あると思うんですね。

 そういうのがアマゾンはもう一切ない。木が倒れていたら、その木は倒れたままだし、そこを人間が行く時はそれを飛び越えていくわけですよね。その上にはたくさんの蔓性植物がとんでもない量で垂れ下がっているんですけど、そこに枝もあって、そういうのを全部避けながら進んでいくわけです。

 しかもその地面は泥だらけだったり、どこに沼があるか分からない。急に足がズボって本当に1メートルぐらい中に入ってしまうってこともあります。その上、横から急に蛇が襲ってくる可能性もある。毒蛇に噛まれると結構、死に至る可能性もあるので、そういうのを全部気を付けながら前に進んでいくわけですよ。

 僕は最初それはできなくて、ものすごく歩くスピードが遅かったんですけれども、彼らは僕が普通に街を歩くのと同じスピードで、そこを歩いていくんですね。その時に僕が目で1回確認して、大丈夫だなっていって進むみたいな、そういう感覚ではここでは生きていけないんだなってことは気づきました」

写真協力:太田光海

“似ている”から始まる薬草の見つけ方

※映画の中にセバスティアンが薬草を探すシーンが収められていました。彼はどうやって森の中で薬草を探し出すんですか?

「彼は、むやみやたらに自分の知らない薬草を食べているわけではないんですね。彼はもともと、先祖から受け継いできた薬草の知識を、ある程度は持った状態で独自の研究に進むわけですね。

 彼が薬草を見つけるにはどうするかというと、”似ている”というところから始まるんですよ。この葉っぱやこの草は、僕が知っているこの病気に効くあの草にすごく形が似ているぞとか、匂いが似ているぞとか、そういうところから始まるんですよ。匂いが似ているってことは、同じような効果があるんじゃないかって考えるわけです。

 もしくは、映画のシーンにも出てくるんですけれど、その植物の生き様のようなものを見るんですよ。例えば、形がまるで蛇のようだとか・・・僕がちょっと笑っちゃったのは彼が、髪の毛がすごくふさふさしているように見える草を見つけた時があって、一緒に僕がいた時に、彼は“この草はまるで髪の毛のように見える”、ということは、これで髪の毛を洗ったらいいんじゃないかみたいなことを言い出して・・・実際に効果があったのか分からないんですけれど、彼はそうやって植物自体が持っている姿とか、ある種、主張していることを、ひとりの人間と接するように見るわけです。

 そこでこの植物にはこんな力があるんじゃないかって予測を立てていくわけですね。実際に食べたり試したりして、なんか効くなって思ったら、そこからだんだん調べていくと、そういうプロセスですね」

●へぇ〜それでどんどん知識が増えていくわけですよね。

「そうですね。増やせば増やすほど、もちろん比較出来るものがどんどん増えていくので、それでまた新しいものが分かってきたりとか。

 面白いのは、薬草っていうと植物が思い浮かぶんですけど、彼らはアリもそうですし、ほかの動物も含めて、虫とかも含めて、身体にいいものは薬なんだっていう認識をしていて、そこはあまりほかの研究書を読んでも載っていなかったようなことなので、面白い発見でしたね」

写真協力:太田光海

自分の未来を見る儀式

※映画の中の印象的なシーンとして、薬草から作った飲み物を飲むことで「ヴィジョン」が見えてくるとセバスティアンは言ってました。これはシュアール族の、先祖から伝わる儀式のようなものなんですか?

「これは本当に、彼らの重要な部分ですね。劇中に出てくるのは“アヤワスカ”と呼ばれる覚醒植物の薬草なんですけど、あと“マイキュア”という別の薬草も出てきます。彼らにとってはすごく重要な植物で飲むと、ちょっと身体の感覚が変わって、夢を見るような状態になるんです。同時に吐いたりとかするんですけど、劇中で出てくるように・・・。

 そこで見えたものを自分の中に落とし込んで考えることで、自分の未来を一部垣間みることが出来るっていう風に彼らは考えるんですね。常にそこから得たイメージと対話しながら人生を生きているというか、そういう世界ですね」

●映画の中でもセバスチャンが「森を破壊することは自分を破壊することだ」とおっしゃっていましたけれども、太田さんがこの映画を通して伝えたいことっていうのはこういったことにも繫がってくるのですか?

「間違いなく! 伝えたいことのひとつとして大きなものです。それは決して彼らだけではないと思うんですよね。彼らはもちろん、それが直接的に感じられる場所にいるので、そういう風にダイレクトに言葉が出てきますけれども、僕らも同じ世界に生きているわけで、巡り巡って本当はしわ寄せは来ているかも知れないし、今後来るかもしれないわけですよね。

 だからそれを、なかなか僕らは日々のせわしない生活の中で感じることは難しいんですね。でもこの映画があることで、彼らはどういうプロセスと生活の中で、そういうことを言うに至っているのかということを、ちょっとでも垣間みることが出来たらいいなって思っています」

●映画の最後にセバスチャンが太田さんに、薬草で作った飲み物を手渡していましたけれども、あれは全て飲み干されたんですか?

「はい、飲み干しました! 」

●お〜! ヴィジョンは見えました?

「見えたと言えば見えたし、見えなかったとは言いたくないですね。見えたと言えば見えました。それを解釈するのは僕自身なので、今後の人生がどうなっていくのかっていうのは楽しみなところですね」


INFORMATION

『ドキュメンタリー映画『カナルタ〜螺旋状の夢』


ドキュメンタリー映画『カナルタ〜螺旋状の夢』

 太田さん渾身の一作、ドキュメンタリー映画『カナルタ〜螺旋状の夢』をぜひご覧ください。実は構想から完成までおよそ7年を要した力作です。海外の映画祭で数多くの賞を受賞しています。淡々と流れていく映像・・・2時間を超える作品ですが、釘付けになりますよ。
 首都圏では現在、神奈川の横浜シネマリンで上映中。11月28日からは同じく神奈川のシネマアミーゴで上映される予定です。上映スケジュールなど、詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎『カナルタ〜螺旋状の夢』オフィシャルサイト:https://akimiota.net/Kanarta-1

生きる知恵「ブッシュクラフト」〜古い道具や技術を見直す〜

2021/10/31 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、イラストレーターでブッシュクラフターの「スズキサトル」さんです。

 スズキさんは1973年、山形県生まれ。京都造形芸術大学を卒業。絵本制作とブッシュクラフトワークの活動をするために、東京から長野県・松本に移住。現在はイラストの制作ほか、ブッシュクラフトや野営のアドバイザーとしてワークショップを行なうなど幅広く活動中。絵本などの著作も多く、新刊としては先頃『森のブッシュクラフト図鑑』の新装改訂版を出されています。

 この本は、野外でナイフなどの道具を使って必要なものを作る、その技術や知恵をイラストや写真でわかりやすく解説していて、とても好評なんです。

 きょうはそんなスズキさんに究極のアウトドアスキルといわれる「ブッシュクラフト」の極意や、必要な道具についてお話しいただきます。

☆写真協力:スズキサトル

スズキサトルさん

野営とキャンプ

※まず、ブッシュクラフトとは何かご説明しておきましょう。ブッシュは「やぶ」、クラフトは「工作」ですよね。でも、ふたつの言葉が合体すると、「生きる知恵」という意味合いになるそうです。

 必要最小限の道具を持って、自然の中に出かけ、足りないものは自分で作ってキャンプをするなど、慣れれば、誰でも楽しくできる「自然遊び」と言っていいかも知れません。そんなブッシュクラフトは、自然の中で生きる知恵を身に付けられる、ということで、ここ数年、特にキャンプ好きに注目されています。

 スズキさんは、新刊『森のブッシュクラフト図鑑』新装改訂版の第1章で、「野営とキャンプ」の違いについて書いていらっしゃいます。改めて説明していただけますか。

新装改訂版『森のブッシュクラフト図鑑〜スズキサトルのクラフトワークブック』

「キャンプは、要するにキャンプ場という場所がちゃんと提供されていて、車でそこまで行って、そこでテントを張って一夜を過ごすのがキャンプですけど、ブッシュクラフトはひとりでバックパックを背負って、その背負っている道具だけで山の中に入って、焚き火して野営して帰ってくるみたいな、そういう感じですね。

 ただ、日本だとやっぱり土地の所有者の関係で、そういうことは難しいので、ある意味、ブッシュクラフト風キャンプみたいな感じだと思うんですよね。ソロキャンプに近いかもですね。みんなで大勢集まって、道具を持ち寄ってやるのも楽しいんですけど、ブッシュクラフトってひとりとか少人数で焚き火して、限られた道具で・・・だから誰でもできるんです。お金もかけようと思えば、すごくかけたりできますけど、お金をかけないようにしようと思えば、全然かけなくてもできるし、幅が広いですね」

●野営に必要な道具を自分で作るっていうのも醍醐味なんですか? 

「そうです。例えば、売っている製品を使ってもいいですし、自分でナイフ1本でそれを作って代用するっていうのも、ブッシュクラフトの面白さですね」

●サバイバルに近いですよね?

「サバイバルは危機的状況、例えば自然の中で困難に陥った時にそこから脱出するのがサバイバルなんですよね。サバイバルの火起こしとか、野営する技術を使って。で、ブッシュクラフトは全く真逆で、自分から自然の中に入って、自然と共に時間を過ごして、楽しく帰ってくるアクテビティに近いかも・・・遊びに近いですよね(笑)。

 そんなこと言っている僕も実はマンションに住んでいるんですね。だからずっと自然の中にいることって難しいんで、遊びっていう風に考えてもらえるといいかもですね。何がなんでもブッシュクラフトっていうんじゃなくって、例えばキャンプでブッシュクラフトの技を使ったりとか、そういう程度でいいんじゃないかなと思います」

●日常とはまた違った空間で過ごせそうですね。

「女の子も結構、最近そういうのを好きなかたがたくさんいらっしゃいますね。意外と女の子のほうが多いかもしれないですね。さばいどるの“かほなん”さんとか、あのかたがやっていることって、結構ブッシュクラフトに近いところがたくさんあるんですよね。お笑い芸人さんでいうと、ヒロシさんのキャンプもブッシュクラフトのそういう技をたくさん使っていますね。とても素晴らしいと思います」

ナイフ、ノコギリ、メタルマッチ

写真協力:スズキサトル

※ブッシュクラフトや野営に最低限、必要な道具を教えてください。

「まずナイフですね。これちょっと専門のナイフなんですけど、スカンジグラインドっていう刃が直刃になっているやつなんですけど、刃厚も4ミリくらい。これだと薪が割れるんで、このぐらいのナイフがあるといいですね、フルタング(*1)で。

 あとノコギリ。僕がいつも持っていくノコギリは、枝挽ノコギリで(長さは)30センチくらい。この鞘は僕が作ったんですけど、丸太を伐ったりとかできるんで、とりあえずこのノコギリと、あとはメタルマッチ(*2)ですかね。これA&Fさんのメタルマッチなんですけども、こういうものが売られているんですね」

  (*1 刃がハンドルの後ろまで貫通しているタイプ)
  (*2 火を起こす道具。ロッドというマグネシウムなどの
     金属の棒を、ステンレス鋼などのプレートで
     削って火花を飛ばし、火を起こす)

●(メタルマッチで火花を飛ばす実演)
 おお! 火が出ました!

「これでこのフェザースティックに火を付けると」

写真協力:スズキサトル

●木を細かくしておくと、すぐに着火がするっていうことなんですね。

「メタルマッチは水に濡れても使えますしね」

●カギかな? って、一瞬思ったくらい、それくらい小さいんですね。

「そうですね。特にA&Fさんのメタルマッチがいいのは、持ち手のところがオレンジになっていて、普通だいたい黒っぽいものなんですけど、それだと結構落としたりとかして外で失くすんですよね(笑)。落とした時に森の中だと落ち葉とかで隠れて、(持ち手が)黒や緑色だと見えなくなっちゃうので、このオレンジのほうがいいかもですね」

写真協力:スズキサトル

●なるほど〜! 

「特に初めてのかたは失くしやすいんです。僕も何回も失くしているんで、(持ち手は)オレンジがいいと思いますね。
 で、このナイフ、僕がデザインしたやつなんですけど、ちょっと高いんですね。こういうものじゃなくても、例えばモーラナイフっていうメーカーさんがすごくリーズナブルなお手頃価格のナイフを作っているんですよ。2000円くらいの、ロバストって種類なんですけども、これでもいいですね。

 カスタムナイフは何万円もするんで、なかなかそれを買うのは難しいんで、こういうモーラナイフさんのロバストはおすすめですね。あとノコギリも先ほどのような長いものじゃなくて、(長さが)12センチくらいの、ホームセンターで売っているようなノコギリでも大丈夫ですね」

●折り畳みもできて、コンパクトになるんですね? 

「このノコギリがいいのは、刃の背のところ、これも実はこういう・・・」
(火花を飛ばす実演)

●おお! また火花が出ました! (笑)

「これもストライカーみたいに(マグネシウムの金属棒を)削ることができるんで、こういう方法もできますね。だから道具は多ければ多いほどいいっていうものでもなくて、本当に必要なものだけ持っていくっていうのがいいのかもですね」

山で培われた日本のブッシュクラフト

写真協力:スズキサトル

※日本にはクマやシカなどの狩猟をなりわいにしている「マタギ」や、山で木を素材にお碗などを作る木地師(きじし)というかたがちが、いまは少なくなっていますがいらっしゃいます。そんなかたたちの技術や知識はブッシュクラフトに通じますよね?

「そうです、そうです! ブッシュクラフトは西洋のものなので、どうしても北欧や北米、イギリスやロシアとかのブッシュクラフトが今すごく人気で流行っているんですけど、僕たち日本人の、またはアジア人のブッシュクラフトも実はすごいんだぞ! っていうのを、僕はお知らせしたいなっていう感じなんです」

●何か大きな違いとかはありますか? 

「そうですね。大きな違いはやっぱり、特に日本人は山岳民族だと思うんですよね。国土のほとんどは山、特に険しい山に囲まれて、僕が今生活している信州もそうですけど、山岳地帯が多いんですよね。だから傾斜が多い(場所で培われた)ブッシュクラフトなんですよね。

 カナダやフィンランドなどの北欧は大雪原やツンドラ、あとはすごく背の高い木がたくさん生い茂っているところとか、高い山はそんなにはないんですよね。どっちかっていうと平原をスノーシューで渡って移動したりとか、犬ゾリとか、イヌイットもそうですけど、そういう文化。日本でいうと北海道に近いのかもしれないですけど、日本の場合はやっぱり山ありきなんで、山で移動するっていう、そういう野外技術が多いと思うんですよね」

羽根ペンで風景画

写真協力:スズキサトル

※スズキさんは絵をかくために山によく出かけるそうですが、山の絵を描いているときはどんな気持ちなんですか?

「山の絵は、僕は風景を描いているっていう感じじゃなくて、生き物を描いている感じですね。僕、山の絵を描く時はこの羽根ペン、これ“鳶(とび)”の羽根ですけど、この羽根ペンを使って絵を描いています」

●ハリーポッターに出てくるような(笑)

「そうそう、丸眼鏡でね!(笑)。笠かぶってね、そうハリーポッターみたいな・・・」

●へえ〜! 

「やっぱり、画材も自分で作るのがブッシュクラフトなのかなと」

●いいですね! 

「何かしら作るのが好きなんですね」

写真協力:スズキサトル

●山や森で野営をしていて、どんな瞬間がいちばんお好きですか?

「やっぱり自然、同じ山も何回も登りますし、毎回ちょっと自然って勉強させられることがたくさんあるっていうことですね。気付くというか気付かされるところがありますね。それが楽しいですね」

●例えば、どんなことを?

「ここにこんな虫がいたのか! とか、例えば写真で見るようなものとはまたちょっと違う、そういう面も見られるという感じですね。今はインターネットとかで検索すれば何でも知ることができるんですけど、例えば蜘蛛の裏側とか、そういうのってやっぱり見てみないと分からない。

 あとキノコなんかもそうですね。実際見てみないと分からない。その状況によって違いますしね。そういうのもやっぱり自分の目で見て確かめたほうがいいというか、楽しいですよね! 」

●カメラがなかった時代は、全部絵に描いて残していたってことですよね?

「そうです! やっぱりそれは凄いなと思いますよ。昔の画家っていうか絵描きはみんなある意味アスリートというか、探検家と同じくらいのレベルだったのかなと思って、あんな画材を背負って探検家と一緒に冒険に行くって、凄いですよね!」

忘れ去られた技術にしたくない

※スズキさんの新しい本は、伝統的な道具や技術を、次の世代に伝えるという意味もあると思うんですけど、その辺は意識していらっしゃいますか?

「そうですね。やっぱり誰かがこういうのを書き残したりとかしないと・・・。僕がよく言ってるのは“ロストテクノロジー”と、もうひとつ“ロストカルチャー”。道具自体は残っていたりするんですけど、それの本当の使い方って実際にもう分からなくなってきてるんですね。日常で使うことがないんで、もう本当に博物館に飾っていたりとか、そういうレベルになっちゃうのがたくさんあるので。昔の人は当たり前にやっていた“火打石”とかもそうですね。ああいう方法なんかは、ほとんどみかんの皮を剥くみたいな感じでやっていたと思うんですよね。

 今はほとんどそんなことをやる必要もないんで、もう多分忘れ去られた技術になってきちゃうのかなって。でも最近、ブッシュクラフトを通して結構できるかたが増えてきたんですよね。火打金で火起こしできるのが、それはすごくいいなと思いますね」

写真協力:スズキサトル

●人間が本来もっている本能みたいなものですよね。

「そうですね。そうするとまた今度、鍛冶屋さんで火打金を作ってみようかなっていうかたも現れてきますし、またそれで、ひとつの産業が増えるので、いいかなと思いますね」

●この本『森のブッシュクラフト図鑑』を通して、いちばん伝えたいことはどんなことですか?

「そんなに難しいことじゃないですね。みなさん、是非一度ブッシュクラフトをちょっとやってみよう! みたいな・・・まさに全然知らない、やったことない人がやってみるっていうのが僕、すごくいいことだと思うんですよね。

 できる、できないは別にして、知るっていうのがすごく最初に必要かなと。こういうものがあるんだよっていうのをちょっと知ってもらいたいなと。分かりやすく、できれば絵でみなさんにお伝えできればいいなっていう意味で、今回また描いてみました。

 ただ、前回の『森の生活図集』で載っていたものが、マニアック過ぎた部分がたくさんあって、それで今回、改訂版で普通のかたたちがキャンプでも使えるようなものに、別のクラフトにちょっと差し替えました。

 だから例えば、タヌキの“尻皮(しりかわ)”っていうのがあるんですけど、猟師さんが腰に巻いているものとか、そういうのを知りたい人は、『森の生活図集』を是非購入していただいて、キャンプで椅子とかスプーンとか作ってみたいなというかたは『森のブッシュクラフト図鑑』のほうがいいかもですね」


INFORMATION

新装改訂版『森のブッシュクラフト図鑑〜スズキサトルのクラフトワークブック』

新装改訂版『森のブッシュクラフト図鑑〜スズキサトルのクラフトワークブック』


 この新装改訂版には道具の選び方や使い方、野営と焚き火のコツなど、ブッシュクラフトの基本となるような技術と知識を、イラストと写真でわかりやすく解説。スズキさんは本の中で「最新のものが最善とは限らない。古い道具や技術を見直してみよう」と書いています。その思いが込められたブッシュクラフトの入門書ともいえる一冊です。ぜひ読んでください。笠倉出版社から絶賛発売中です。

 詳しくはスズキさんのオフィシャルサイト、または出版社のサイトをご覧ください。

◎「スズキサトル」オフィシャルサイト:https://suzuki-satoru.com/

◎笠倉出版社HP:https://www.kasakura.co.jp/esp.php?_page=detail&_category=general&idItem=4648

旅の一期一会が生んだ「今のキミを忘れない」〜ナオト ・インティライミの旅と音楽〜

2021/10/24 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、太陽のお祭り男、シンガー・ソングライターの「ナオト ・インティライミ」さんです。

 先月、デビュー10周年記念のベスト・アルバムをリリースし、現在ツアー! そんな忙しい合間をぬって、この番組に来てくださいました。ナオトさんといえば、旅好き、それも世界を66カ国も巡った旅人としても知られていますよね。

 きょうはそんなナオトさんに旅への思いや、あのヒット曲に隠された切なく暖かいエピソードなどをたっぷり語っていただきます。

ナオト ・インティライミさん

アフリカのディープな旅

※ナオトさんと言えばやっぱり旅! ということで、今回は旅にまつわるお話を色々とおうかがいしたいなと思うんですけれども、いちばん最近の旅というと、いつになるんですか? 

「そうか、旅しばりね。最近はね、旅っていうよりは世界の活動をするために、LA、マイアミ、メキシコに行くことが多いんですよ。それは旅とは呼んでいないというか」

●活動というのはどういう? 

「向こうでデビュー(*)をしまして、向こうで歌っているという、これは旅カウントじゃないので、旅でいくと2017年の19ヵ国、旅したやつでしょうかね」

(*2019年に世界三大レーベルのひとつ「ユニバーサルミュージック ラテン」から世界デビュー!)

●19ヵ国! 例えばどの辺りを旅されたんですか? 

「モザンビーク、タンザニア、ジンバブエ、ボツアナ、ザンビア、マダガスカル、南アフリカ・・・西に飛び、ダカール、セネガル、カーボベルデ、ギニアビサウ、ガーナ、トーゴ、べナン、ルーマニア、スウェーデンを旅しましたね」

●すごい! 

「今これ、手で地図を描きながら答えてるっていう(笑)」

●旅人っぽかったです! この旅はどんな思いで19ヵ国を周わられたんですか?

「これは本当に久しぶりの長旅で、1年半日本の活動を止めさせていただいて、もうスタッフと何度も話をしてそうなるんですけど、世界の挑戦も始めていきたい・・・ただその前に、もう1回最後の長旅に出たいということでしたね」

●原点に戻るための旅って感じですか? 

「そうですね。本当にありがたく、デビューして6年間、2010年にデビューして2016年までの6年間、ファンのかたが応援してくださった、スタッフのかたが支えてくださったおかげで、色んな景色を見せてくださって。ただそこから、ちょっとアウトプットが増えていて、インプットすることが必要だろうと、そういうことでしたね」

●19ヵ国のインプット、すごかったんじゃないですか? 

「すごかった! すごかったね〜。特にアフリカはかなりディープな旅になりましたね。しかも行く国も決めず、本当にその時その時の相変わらずの放浪っぷりで、ここで何か起きそうだから、もうちょっと長くいるとか、ここは何も感じないから次に行こうとかっていうのは、感じたままにやっていましたね」

●特に印象に残っている国ってありますか? 

「そうだなぁ・・・タンザニアのザンジバル島っていう、アフリカなんだけど、イスラムとか東南アジアの影響や、インドの影響もすごく受けているような、クイーンのフレディ・マーキュリーが育ったと言われている島があるんだけど、そこで『サウティ・ザ・ブサラ』っていう、アフリカ中の200組以上のバンドやアーティストが参加するフェスが4日間行なわれて、あれはくらったな〜。何かもう色んなアフリカ(の音楽)がそこで奏でられていて、すごかったね〜、トランシーでしたね」

ナオト ・インティライミさん

サッカーは100の情報を飛び越える!

※旅に出る前に、事前に現地でどこに行こうかなど、計画を立てていかないそうですね。それはどうしてなんですか?

「だって決めちゃうと、何かここから起こりそうなのにその場を立ち去らなきゃいけないわけじゃん」

●確かにそうですね。

「旅人としては何か起きそうだったら、それに従おうよ、直感にっていう」

●見知らぬ国で不安みたいなのはないんですか? 

「あるさ〜! 相田みつを、人間だもの、あるけどね! もちろんだから身の危険とか、ここからこう行ったら、ちょっと危ないだろうなとか、崖の感じとか、自分の命に何か危険があるようなことは絶対しないし、そこのアンテナはすごく立てているよね。

 人に対しては、これはちょっと難しくて、甘えちゃいけないんだけど、ちょっと飛び込んでみるっていうのが結構大事で・・・男性女性でまた危険な度合いが違うからおすすめってわけじゃなくて、僕の場合の話だけでいうと、例えば現地の人と仲良くなって何かに誘われたと、全部断っていたら面白くない、全部乗っかっていたら騙されると。

 ここのさじ加減というか、警戒しながらちょっと乗っかっていって、そいつが本当にいいやつかどうかとか、“ん〜?”って思ったらすぐそこから立ち去るとか、常に危険察知をしながら。でも、その現地の文化を体感するためにはちょっと飛び込んでみるっていう・・・だからもう3秒とかで、いいやつか悪いやつかを見抜くスカウターが付いているんでしょうね(笑)」

●そうなんですね(笑)。そういった力がもう身に付いているんですね! 

「だって生きなきゃ! 生きてこそ!」

●そうですよね。でも言葉はどうされているんですか? 

「言葉は、できる限りやっぱり寄り添ったほうがいいんだわ。覚えたほうがより深く現地の人と話せるし、より深くその国やその町の文化や歴史に触れられるっていうのはあるから、頑張って覚える。頑張って覚えて、すぐ忘れるっていう。でもまた行くとスッと、次はリロードすればいいだけというか、もうインストールされているものをもう1回入れ直す作業というか・・・」

●へ〜! 先ほどもフェスっていうお話がありましたけれども、やっぱり音楽が言語の壁を壊してくれるみたいなのはあるんですか? 

「これはあるね〜。音楽とスポーツ、これはやっぱり言葉のいらない2大コミュニケーション・ツールだなと思っていて、しかもスポーツの中でも世界中で人口が多かったりとか、すぐそこでやっているのってサッカーだよね。ここはやっぱり千葉・柏レイソル・ジュニアユース出身としては、こんな強い武器、ありがとうレイソル!(笑)。それだけでやっぱりすぐ打ち解ける、一緒にボールを蹴るだけで100の情報を飛び越えるね。

 肌の色も宗教も、社長さんなのか平社員なのかどうでもいいと。そういうことじゃないっていう、100の情報を飛び越えられるのがサッカーだし、音楽も然りで、あっという間に心の距離が縮まる。その共通言語がふたつ、もうすでに備わった時点での旅だから、これはもうありがたいなって本当に素直に思います」

ナオト ・インティライミさん

「今のキミを忘れない」に込められた思い

※ナオトさんは世界を巡る旅で、体験を通していろいろなものを吸収していると思うんですけど、曲作りをするうえで、旅はどんな影響を与えていますか?

「迫るねぇ〜! ティライミの奥のほうをくすぐるね! 旅と作り手としての関係性ね〜?」

●はい! 

「これはですね、何か嬉しい〜、なかなか人にこういうことを話さないような、質問で奥の引き出しを開けてくれて、何か嬉しい! 喜びがすごいね。

 あのね、ナオト・インティライミ、世界中を旅している割にめっちゃJポップじゃねぇ〜!? っていう(かたもいるんです)。別に僕は中傷とは思っていないですよ。それはそれでJポッパーとして嬉しいわけですよ、めっちゃJポップじゃねぇ〜!? って。でもちょっと悪口なんですよ。あんな旅しているのにめっちゃ普通のJポップじゃねぇ〜!? の言いかたなんです。

 でも俺は嬉しいわけですよ。これは旅してきたことを、世界中の色んなジャンルやリズムが体内にはあるものの、ひけらかすつもりも別にないし・・・でもJポッパーとしてね、やっぱりそれはありがたく受け止めているんだけど。

 でも自分の中のひとつ芯みたいなところでいうと、めっちゃJポップに昇華しているけど、その中に色んなエッセンスや色んなシーンが入っていて、例えばパッと今思い付くのが『今のキミを忘れない』っていう曲があって、”今キミを、今のキミを、いつまでも忘れないから”っていう歌詞がある・・・。

 これも普通のJポップじゃねぇ〜!? なんだけど。でもこれって僕のシーンの中では、旅をしていて、例えば地球の裏側の南米で一緒にサッカーをして仲良くなった少年と、“ナオト、明日も来てね!”って、“来れたら来るぜ!”って。でも俺は明日違う町に行こうと思っていて、この子は名前は分かるけれど、住所は分からなくて、ラインやメールもつながっていないから、もう一生会わない可能性のほうが多いことを知っていると。だがら今[の]キミを、この[の]を入れたことにより、その瞬間を切り取ったんですよ。

 この曲はもちろん恋人との別れの歌だったり、日本だったら卒業ソングとして使われたりとかもしてくださっている。でも何気ないことだけど、自分の中ではあの旅のあの瞬間を楽しんだけれども、二度と会えないかもしれないキミに捧げる歌でもあるというか・・・。

 こういうところが実は色んな曲に散りばめられていて、そういう『今のキミを忘れない』だったりとか、だからその瞬間瞬間を、もう二度と会わないことを分かっている。だからこそ今[の]キミを、この時間を何気なくじゃなくて、本当に幸せな瞬間なんだっていうことを噛みしめたいっていうか・・・」

●グッと来ました。そういう背景があったんですね。

「そういう聴きかたで、もしかしてティライミ・ソングを今一度、10周年ベストを今の話を聞いたうえで聴いていくと、ただのJポップじゃねぇ〜!? でもちょっと違うかもねぇ〜!? っていう何か備考欄が付くのかなという・・・」

ナオト ・インティライミさん

ザ・旅人ソング「Catch The Moment」

※ナオトさんは先月末にデビュー10周年記念のベスト・アルバム『The Best-10th Anniversary-』をリリースされました。このベストはCD2枚組で、DISC 1が「BEST」で20曲、DISC 2が「MUST」で22曲、全部で42曲! 新曲も収録された大ボリュームのアルバムになっていますが、ナオトさんご自身で曲を2枚にふり分けたんですか?

「これ、難しかったんですけど」

●ナオトさんが選曲されてるんですね?

「もう、大至急させていただきましたね」

●おお〜!

「ベストを出すと、色んなベストの形態がある中で、シングル曲をやっぱりベストで出すことが多いと思うんですよ。僕も5周年の時のアルバムはシングル集だったんです。

 ただ、シングル曲はシングル曲で聴いて欲しいんだけど、それ以外のいわゆる”旅人ミュージック”だったりとか、色んなジャンルの音楽って、実はアルバムに入っていたりとかするので、そういったティライミの、誰も知らないようなアルバム収録曲やカップリング曲だけど、あるいは売れなかったけど、この曲は聴いて欲しいな〜の曲を『MUST』のほうで。他にもライヴでの定番曲とか、ファンのかたのアンケートをもとに選んだ曲とか。

 ティライミのことを初めて知ってライヴに行きたいと思ったけど、コロナ禍で行けなくて、今度初めて行くよっていうかたもいらっしゃると思うんです。この『BEST』と『MUST』の42曲を聴いてくださると置いていかないよっていう、その予習にもなるというかね」

●へ〜〜いいですね!

「そんな2枚組になっておりますね」

●旅をイメージされたというのは例えば、どの曲になるんですか?

「そうだね・・・ちょこちょこ散りばめはられてはいるが、ザ・旅人ソングっていうのが1曲ありまして、こちらは、2枚目の『MUST』のほうの”Catch the Moment”という曲ですね!」

●世界中の言語が出てくるという曲ですね。

「そうなんです。”シェイシェイ、カムサハムニダ、コップンカップ、トゥリマカシー”みたいな、世界十数カ国の“ありがとう”がまず歌詞に入っていて、これもね、さっきの理論でいうと、『今のキミを忘れない』の話とつながるんですけど、サビで”シャララララ♫ シャララララ♫  ハロー、ナイス・トゥー・ミート・ユー、グッバイ、シー・ユー・アゲイン”っていう、ものすごく簡単な、中1で習うような英語が4つ並んでいるんです。これって旅人の中の、すごく切ない想いが詰まっていて、旅人ってやっぱり色んなかたに現地で会うでしょ?」

●ええ、そうですね。

「その時に、すれ違うだけの人もいるけど、その瞬間に目が合って”イェイ〜!”って。で、その人とはきっと二度と会わないんだけど、明らかに心が通じ合う瞬間があると。そのすれ違う3〜4秒の中に” ハロー、ナイス・トゥー・ミート・ユー、グッバイ、シー・ユー・アゲイン”っていうのが凝縮されているというか・・・それも全部出会いだなっていう。でも”シー・ユー・アゲイン”がないことも分かっているけど、そう呼ばせてっていうかね。なんか旅人のセンチな部分であり、でも”シャラララ♫”みんなで歌おうって。

 『旅歌ダイアリー2』のドキュメンタリーにも収められているシーンなんだけど、線路沿いを歩いていたら、たまたま村にたどり着いて。線路沿いと言っても、日本では危ないですよ、みなさん。でもそのアフリカの、1日に1台(列車が)通るかわからないような、安全なというか、(そんな線路沿いを)気にしながら歩いていたら町に着いて、子供たちがぶわぁ〜っと30人くらい集まってきて取り囲まれて・・・日本人なんか来やしない、マダガスカルの奥地の村だから。

 そこで、なんかわぁーっと囲まれて、じゃあ遊ぼうぜって。サッカーやったり、ギターを持ってるから、歌え歌えになるじゃない? じゃあ歌おう! って。どの曲を歌おうかなって、そんな時にこの曲は子供たちも歌えるんじゃないかと思って、”シャララララ♫”で一緒に歌ったんですね。

 そのあと、またその村に戻った時に、その子供たちが覚えていてくれて、それを子供たちから歌ってくれるみたいな・・・自分にとってはやっぱこの”Catch The Moment”という曲は、旅人として一生歌い続けていくんだろうなという特別な曲です」

横一線で歩んで行く

※では最後に、デビュー10周年記念のベスト・アルバム『The Best-10th Anniversary-』を、どんな感じで聴いて欲しいですか?

「そうですね・・・あの〜CDは買わなくて大丈夫です。みなさん(笑)」

●あれ〜〜?(笑)

「CD高いですし・・・もちろん、家にCDプレイヤーがあるよと、CDが好きなのよというかたはぜひ! この時代だからこそ嬉しい形っていうのもありますから、お手に取っていただけたら嬉しいですし、CDがないよ! っていう家もございます。そして世代的にはもうサブスクで聴いているよっていう・・・いいんですよ! 逆にCD屋さんに行ってナオト・インティライミのCDを手に取って、家に帰って封を開けて聴く、それって結構好きじゃないと行なわない作業なんですよ。

 でも、今だったら、この番組をたまたま、この夜に家族で、お父さんが運転していてね、ラジオでベイエフエムをかけて、ティライミが出てきて、こんな話を聞いたと。そしたらもう後ろの席で娘さん、あるいは息子さんは、サブスクでいいんですよ。アップル・ミュージックでもライン・ミュージックでもスポティファイでも何でもいいんですけど、ナオトで検索して、ベスト・アルバムに7秒後にはそこに辿り着けるという、これはこれでやっぱりありがたい時代なんですよ。今一度、これがきっかけになってナオト・インティライミの音楽に、改めて触れていただく機会にしていただけたらなと思います」

●コロナ禍はまだまだちょっと続きそうですけれども、ミュージシャンとして発信したいこととか、伝えたいことっていうのはありますか?

「そうだな〜、これは自分とファンの方の関係値もそうなんだけど、よっしゃ〜行くぞーっていう、先頭を切って、お前らついてこーい! みたいなリーダーではなくて、横一線になって、みんなで歩んで行くような感覚をずっとやっぱり思っていて・・・。

 それはやっぱりコロナも、コロナじゃなくとも、生きていれば大変なこと、いいことばかりじゃない、むしろいいことじゃないほうが、嫌なことのほうが多いと思うんですよ。でも、あなたの人生に、どこかしらで、なにか一言でも、いちメロディでも、ナオト・インティライミの何かが横にいられたら、それは僕の作り手としての本望です」


INFORMATION

『The Best-10th Anniversary-』

『The Best-10th Anniversary-』
(初回限定ファンクラブ盤:2CD+2DVD+BOOK)』


『The Best-10th Anniversary-』

The Best-10th Anniversary-』
(通常盤:2CD)


 先月末にリリースされたデビュー10周年記念のベスト・アルバム、CD2枚組の『The Best-10th Anniversary-』をぜひ聴いてください。ナオトさん自身が選曲したヒット曲や名曲が全部で42曲収録されています。

 2017年の旅のドキュメンタリーはDVD『ナオト ・インティライミ冒険記:旅歌ダイアリー2』に納められています。

 今月初めに千葉の松戸から始まった「10TH ANNIVERSARY LIVE TOUR 2021」。
11月11日は神奈川、11月20日は東京、12月2日は千葉の柏、そして最終は
12月10日の東京公演の予定となっています。ソールドアウトの公演も多くありますので詳しくは、ナオトさんのオフィシャルサイトをご覧ください。

◎「ナオト ・インティライミ」オフィシャルサイト:https://www.nananaoto.com

「世界は目覚めなければいけない」〜第76回 国連総会〜SDGsの行方

2021/10/17 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは先月、ニューヨークの国連本部で開幕した「第76回 国連総会」を特集! ゲストは、国連の活動全般に関する広報活動を行なっている国連広報センターの所長「根本かおる」さんです。

 根本さんにご登場いただく前に、国連とSDGsのおさらいをしておきましょう。

 国連は国際の平和と安全の維持、人権の擁護と推進、経済社会開発 の推進の三本柱に沿って、多岐にわたる活動を世界中で行なっています。そして国連総会は、すべての加盟国によって構成される国連の主要な機関のひとつで、現在の加盟国数は193カ国となっています。

 国連サミットで2015年に採択されたのがSDGs。「SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS(サステナブル・デベロップメント・ゴールズ)」の頭文字を並べたもので、日本語では「持続可能な開発目標」。

 私たちがこれからも地球で暮らしていくために、世界共通の目標を作って、将来世代のことも考えて、地球の資源を大切にしながら、すべての人にとって、よりよい社会を作っていこう、そのための約束と言えるのがSDGsなんですね。

 設定されている目標=ゴールは全部で17。その範囲は飢餓や貧困、気候変動対策、経済成長、そしてジェンダーに関することまで、いろいろな課題が入っています。

 SDGsの前身MDGs「ミレニアム開発目標」との大きな違いは、SDGsの場合、国や自治体に加え、民間企業や一般の人々も取り組むこと。そして開発途上国だけでなく、先進国の課題解決も含まれていることなんです。

 そんなSDGsの17の目標は2030年までの達成を目指していますが、世界各国の状況は、果たしてどうなんでしょうね。きょうはおもにSDGsの動向、気候変動、そして食料問題について、根本さんに解説していただきます。

根本かおるさん

「警鐘を鳴らすためにここにいる」

※それでは根本さんにお話をうかがっていきましょう。今回、国連総会の一般討論の冒頭で、グテーレス事務総長がかなり強い口調でスピーチをされたと聞いたんですが、そうだったんですか?

「国連総会、第76回の会議は9月14日から始まりました。そしてその1週間後の21日からのおよそ1週間が、世界の首脳が国連に集結して演説合戦をするというハイレベル・ウィークだったんですね。日本の国会で言えば、所信表明演説があって、代表質問があってということになりますけれども、そういった国連外交の花形的な1週間でした。

 その一般討論演説の冒頭、国連事務局のトップ、アントニオ・グテーレス国連事務総長が演説をしたんです。世界の動向について、”私は警鐘を鳴らすためにここにいるんだ。世界は目覚めなければいけない。世界は誤った方向にいっている”と言って、非常に強いメッセージを投げかけたんです。

UN photo Loey Felipe
UN photo Loey Felipe

 その背景には、新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行があって、物凄いスピードでワクチン開発があって、ワクチン接種が始まっていますけれども、蓋を開けてみるとそのほとんどが豊かな国、あるいはワクチンを製造・開発している国々での接種であって、途上国を中心とした低所得国に回っているワクチンの割合というのは、全体の0.3%にしか過ぎないという現状があるんですね。物凄い格差です。

 また、貧富の格差も拡大しています。気候変動も人類存続の危機というレベルぐらいに脅威が高まっています。そして紛争も増えて長引いていると。そういう状況の中で、世界は目覚めなければいけないと警鐘を鳴らしたんですね」

●このままいくと、ますます誤った方向にいってしまうということですよね。

「千葉県も2年前に大きな台風被害がありましたよね。そして毎年のように、非常に大きな規模の風水害が日本でも起こっています。これは明らかに気候変動由来で、ここまで強くなって、そして頻度が上がっているわけなんですね。こういった大きな気候災害が起きると、それまで積み上げてきた、経済活動であったり、人の営みというものがいっぺんに吹き飛んでしまいます。

 余裕のある人たちは、自分の足で立っていられますけれども、非常に弱い立場にあるギリギリの生活をしている人たちは、ひとたまりもありません。それからこういった風水害が起きた時にスラムなども直撃を受けます。そこに住んでいるのはやはり弱い立場の人たちです。そういったことは日本も他人ごとではない、まさに自分ごとだと捉えなければいけないと思いますね」

UN photo Mark Garten
UN photo Mark Garten

SDGs報告書が示す危機的状況

※先日、SDGsに関する国連の報告書が公開されました。17の目標ごとに進捗状況がイラストや図などをまじえ、表示されていますが、新型コロナウイルスの感染拡大が多くの目標に深刻な影響を与えていることがわかりました。根本さんはこの報告書をご覧になって、どう思われましたか?

「新型コロナウイルス感染症の大流行が始まる以前から、SDGsの2030年までの達成の目処というのは全く立っていなかったんですね。それが新型コロナウイルス感染症がここまで流行してしまって、さらに達成が遠のいてしまったという現状があります。

 わかりやすい例が飢餓だと思います。世界の飢餓人口というのは2010年代に入って、ずっと減ってきたんですね。それが後半に入ってから、残念ながらまた増えてきています。

 その背景には、紛争が長引いている。それから気候危機の影響で干ばつや洪水があって、その直撃を受けている。そういったことがあったんですが、新型コロナウイルス感染症が大流行して、人が思うように(畑を)耕せなくなった。あるいは、物が実ってもそれを収穫できない。あるいは物流という形で運べない。色々な要因があって、飢餓人口が2019年から20年にかけて1億人以上、一気に増えてしまったんです。

 これで、世界で最大8億人を超える人たちが飢餓に直面しているという状況になりました。飢餓人口の増加率というのは1年間で20%も増えたんですね」

※この番組としてはやはり気候変動に関する目標が気になりました。SDGsの報告書に「気候変動は続いていて、ほとんど収まっていない」と書かれていたんですが、そうなんですか?

「8月に、”IPCC”という世界の第一線で活躍している気候科学者による、国連の気候変動に対する政府間パネルというネットワークが報告書を出しました。アントニオ・グテーレス事務総長に言わせると、人類に対しての赤信号だと称しているんですね。

 パリ協定が最大限の努力目標としている(世界の平均気温上昇を)1.5℃上昇未満に抑えるということは、残念ながらできなくなっていると。どんなに頑張っても一度は1.5℃上昇を超えてしまうんですね。しかしながら、あらゆる国が温室効果ガス削減に取り組めば、この1.5℃上昇を超えた時期というのを短く抑えて、1.5℃上昇未満に抑えることができる。手をこまねいていれば、4度上昇まっしぐらと。

 9月には、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局が、これまでに表明されている温室効果ガス削減目標を足しこんで、どれくらいに抑えることができるのかを割り出しました。残念ながら、本来減らなければいけない温室効果ガスが、2030年に今と比べて16%増えてしまうという状況となっています。このままでは2.7度上昇の道をまっしぐらに進んでいます。

 これは個人的な努力を積み上げるだけではもう間に合いません。社会の仕組みを根本的に変える。エネルギー構成、それから建築物の建築方法、あるいはその食のあり方、交通手段、こういった社会の仕組みを根本から変えることをしなければ間に合いません」

COP26〜今こそアクション!

※今月末からイギリスのグラスゴーで気候変動に関する国際会議が開かれます。正式名称は「国連気候変動枠組条約締約国会議」通称COP(コップ)。26回目を迎える「COP 26」に根本さんが期待されていることはなんでしょうか。

「やはり危機感を持って、2050年の脱炭素(社会の実現)、そして2030年の(温室効果ガス)45%削減、それを確かなものにする。美辞麗句、そして美しい演説はいりません。欲しいのはアクションです。

 そして、豊かな国は自国で対策を取ることができますけれども、温室効果ガスの排出にほとんど寄与していない小さな島国などは、地球温暖化で北極圏、南極圏の氷が大きく溶けて海面上昇が起こると、その影響をまず受けることになります。

 温室効果ガスを排出している大国のしわ寄せを受けるのはこうした国々です。自分たちの国力だけで対策を取ることができない国々に対し、国際協力として、そして排出をしてきた大国の責務、責任として、気候変動対策への資金的な援助、それが必要とされています」

BTS、国連総会でスピーチ!

UN photo Loey Felipe
UN photo Loey Felipe

※今回、国連総会で「SDGモーメント」という会合がありました。根本さん、これはどんな会合だったんですか?

「SDGモーメントは国連総会のハイレベル・ウィークの期間中に、SDGsの推進の気運を高めようということで、SDGsに特化した会合です。

 今年は韓国の人気アイドルグループのBTSが、若者代表としてスピーチをしました。
 若い人たちが、新型コロナウイルス感染症の影響を非常に深刻に受けていると。学校に行きたくても行けない。健康な生活が送れない。メンタルへのダメージも受けてしまう。様々な打撃を受けているわけなんですけれども、決して若者たちは”ロスト・ジェネレーション”ではない。未来を切り開く可能性を持った”ウェルカム・ジェネレーション”なんだと。そういった若い人たちに向けた前向きなメッセージを(BTSのメンバーは)スピーチで伝えてくれました。

 そして彼らの大ヒット曲で『Permission to Dance』という曲がありますけれども、これを国連本部の敷地内で撮影をし、披露してくれました」

●私もBTS大好きなんですけれども、若い方々がSDGsなどに興味を持ってくれる、いいきっかけになったんじゃないかなって思ったんです。

「そうですね。#国連総会、#SDGmoment、こういった言葉が、日本でもTwitter、それからYahooのトレンドワードに入ってました。こういったことは私の知っている限りありません。日頃、国際的な課題、あるいは国連に関心を持ってくれている人たちだけではなくて、そういったことに日頃は振り向いてくれなかった人たちも、BTSがきっかけになって関心を持ってくれたというところがあります」

●国連本部で撮影された「Permission to Dance」の動画も、少なくとも私5回は見たんですけれども、スーツ姿ですごくかっこよかったです。なかなか国連本部の中を見る機会もないですし、改めて日本でもこういった方々がいらっしゃると、もっと広まるかなと思うんですけれども・・・。

「ピコ太郎さん来ましたよ」

●あ〜! そうですね! 

「ピコ太郎さんは“PPAP SDGバージョン”を国連で披露しました。それからハローキティも国連とSDGsを広めるキャンペーンに協力してくれていまして、国連でお披露目のパフォーマンスをしてくれましたよ」

(*ピコ太郎さんは2017年の国連総会に登場し、話題になりましたね)

人と地球の健康はひとつ!

※今回、国連総会で「食料システムサミット」がありました。これはどんな目的で開催されたんですか?

「食料というのは生産から、加工、流通、消費、廃棄と非常に裾野の広い産業ですよね。この裾野の広い”食”をテーマにして、すべてをシステムとして捉えて、これを見直す。SDGsの2030年までの達成に拍車をかけようと、そういう目的で開かれたサミットなんですね」

●フードロスの問題も絡んできますよね?

「もちろんです。それは消費のところですね。消費ももちろん大切なんですけれども、生産、加工、流通、消費、そして廃棄と全部を見る。そして気候変動にも非常に関わっているんです。

 食は生産部門だけで、世界全体の温室効果ガス排出の4分の1を占めています。そして、川上から川下の全部を見ていくと、温室効果ガス排出の3分の1を占めています。食のシステムのあり方を変えるということは、気候変動対策にもなるわけです」

●どのように変えたらいいのでしょう?

「それはやはり環境負荷の少ない生産の仕方、加工の仕方、流通の仕方に変えていく。それから途上国などでは、生産してから流通に回るまでのところで、多くの食料が無駄になっているんですね。効果的な倉庫のシステムがないとか、そういったことも関係しているんですけれども、そこを改善していくと。

 先ほど私は、饑餓人口が8億人を超えたと申し上げましたけれども、実をいうと、世界人口78億人の胃袋を満たすだけの食料はあるんです。あるんですが、豊かなところにいき過ぎて、必要としているところにはいっていない。無駄もたくさんある、ということで、饑餓人口が生まれてしまっているんですね。

 それから、気候変動と食料不安というのは、負の循環でつながっています。気候変動があって干ばつがある、あるいは洪水がある、あるいは水不足がある。そうすると十分な収穫がない、それが人々をさらに貧困化させる、食料が手に入らない。そして食料がなくなると、食料価格が上がる、貧しいと買えない。ということで、負のスパイラルになるんです。

 それをポジティブなスパイラルに変えていかなければいけないと。そのためには人の健康、地球の健康を別々に考えるのではなく、それは”ひとつの健康”なんだと。人と地球の健康をつなげて考えて、人と地球は一蓮托生だと考えて、両方の健康を考えていくことが必要なわけですね」

UN photo Loey Felipe
UN photo Loey Felipe

自分ごととして取り組む

※根本さんは日本国内でSDGsの普及活動を行なっていらっしゃいます。今はどんなことにいちばん力を入れてるんですか?

「SDGsの認知ですけれども、おかげさまで今、平均で半分以上の人たちが何らかの形でSDGsのことを聞いたことがある、そういう段階に達しました。また、小学校、中学校の学習指導要領にSDGsが盛り込まれています。それから大学などでも教えるようになっていると。そういったことを受けて、若い世代では認知度はもう7割を超えているんです。認知拡大のレベルは過ぎたと言えます。

 これからは認知拡大ではなくて、アクション! アクションを加速、そして拡大していくと。そしてSDGsの実現に効果、インパクトの大きいアクションって何なのか。やはり社会の仕組みを根底から変えることで、達成につなげていくということが、今私たちのいちばんの課題ですね」

●SDGsの17の目標達成は2030年までですよね。

「あと9年しかないです」

●そうですよね。私たち一般市民が出来ること、やるべきことはどういったことですか?

「まずは知ることですよね。こうして番組で取り上げてくださること、大変ありがたいと思っています。知ったからにはアクションを起こし、そのアクションをもっと広げていく。そして、周りの人たちにも働きかけて、広げていく。ただ、個人で積み上げても、残念ながら限りがあります。

 やはり社会の仕組みを変えられるように、選挙に行きましょう。それからエネルギーとか食のあり方とか、消費、廃棄の仕方、そういった影響の大きい分野に対して、“物を言いましょう! 働きかけましょう!”ということで、どうやったらその範囲を広げていけるのかを、地域の方々と一緒に考えてもらえればと思います」

●ベイエフエムは、千葉県のメディアとしては初めて「SDGメディア・コンパクト」に加盟しました。今後、SDGsの目標達成のために、根本さんがメディアに期待されることはどんなことですか?

「メディアとして、やはりSDGsを多くの人たちに知ってもらって、自分ごととして考えてアクションを起こしてもらう。これをひとつの幹として考えていただきたいんですね。どうしたら効果、そしてインパクトの大きな運動にしていくことができるのか。旗ふり役になれるのもメディアだと私は思うんですね」

●では、最後に改めてリスナーのみなさんに伝えたいことを教えてください。

「リスナーの方々は、環境というアングルからSDGsに関心を持ってくださった方が多いのかなと思うんですけれども、SDGsというのは環境、社会、そして経済、この3つの分野を統合的に捉えて、私たちの暮らし、そして権利をぐいぐい引っ張っていってくれる、2030年までに、より持続可能で、より平等な、包摂的な社会を一緒に目指そうという、大変野心的な世界目標です。

 環境の入り口で関心を持っても、それは例えば格差であったり、あるいは人の権利であったり、ジェンダー平等であったり、子どもに対する暴力の課題であったり、そういった社会的な側面、それから貧困というような経済に関する側面につながっていきます。
 環境を入口に、でもそこで止まらずに社会、及び経済まで考えながらSDGsを見守って、そして自分ごととして取り組んでいただければと思います」


INFORMATION

 国連広報センターのオフィシャルサイトをぜひご覧ください。
 SDGsの進捗状況に関する報告書は、どなたでも見られます。トップページのお知らせ欄に「持続可能な開発目標(SDGs)報告2021」という見出しがありますよ。日本語版でイラストや図も多くあって見やすくなっていますので、ぜひ確かめてください。

◎国連広報センター:https://www.unic.or.jp

◎持続可能な開発目標(SDGs)報告2021:https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_report/

書道具は自然由来の宝物〜子供たちに伝えたい毛筆文化

2021/10/10 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、硯(すずり)の職人、製硯師(せいけんし)の「青栁貴史(あおやぎ・たかし)」さんです。

 青栁さんは1979年、台東区浅草生まれ。浅草にある書道用具専門店「宝研堂(ほうけんどう)」の四代目。20代から中国の硯の作家との交流を経て、伝統的な硯を研究。その後、中国や日本の石材を使って硯を製作、また、文化財の修復や復刻も行なっていらっしゃいます。

 青栁さんが創る硯は美しく芸術的で、月の石で硯を創るなど、若手のクリエイターとして注目されています。また、書道にも造詣が深く、大学の書道学科の講師も務めていらっしゃいます。そんな青栁さんが先頃『すずりくん〜書道具のおはなし』という絵本を出されました。

 きょうは、宝物といわれる書道の道具、そして硯製作にかける思いなどうかがいます。

☆写真協力:青栁貴史

青栁貴史さん

日本の石は寡黙!?

2年ほど前に浅草の工房にお邪魔してお話をうかがったことがありますが、硯になる石って、どんな石がいいのか、興味ありますよね。まずは青栁さんに、改めて、硯に向いている石についてお話しいただきました。

「硯に向いている石、これはもう硯が何たるかっていうところから始まりますけれど、墨がよく擦れる石が硯に向いているんですね。この石は日本と中国ではもう採れているところが分かっているんです。毛筆文化圏では、この辺りは硯に向いている石が出るよって分かっている、そういった場所から採石しているんですね。

 主に”堆積粘砂岩”(たいせきねんさがん)だったり、”粘板岩”(ねんばんがん)とか、そういったものが硯に向いている石になるわけですけれど、その中からひび割れが少なくてキメの細かい石を私たちは探してくるんですね」

●ちなみに日本だと、どの辺りになるんですか?

「日本では、有名なところだと宮城県の雄勝町(おがつちょう)の”玄昌石(げんしょうせき)“ですね。あとは山梨県に南巨摩郡(みなみこまぐん)っていうところがあるんですけれど、その辺りから採れている“雨畑真石(あまはたしんせき)”っていう石ですね。あと山口県に赤い石があるんですけれど、この”赤間石(あかまいし)“も非常に硯に向いている石ですね。この3種類は有名ですよね」

写真協力:青栁貴史

●本場は中国っていうことになるんですよね? 

「そうですね。日本より中国のほうが大陸が大きいですから、採れる石材の種類も多いので、硬い、柔らかい、細かい、荒い、色んな模様が出るとか、すごく様々な表情の石が中国には眠っているんですね。日本の石は基本的には寡黙なものが多くて、静々と黒い、静々と赤い、そういう石ですね」

●中国の石となると具体的にどんな石になるんですか? 

「中国の石は、みなさんがご存知なところだと大理石も硯の石に使われるんですね。あとは北方のほうから採れる石で、舐めるとしょっぱい石なんかもあるんですけれど、こういう石も硯として使われていたり・・・。

 あとは”紅糸石(こうしせき)”っていう、これも中国の北方の石ですけれど、珍しい石で、紅い糸が走っているような模様から紅糸石っていうんですね。日本人にとっていちばん馴染みがあるのはコンビーフかもしれないですね(笑)。コンビーフを敷き詰めたような模様が出るような石とか、色んな石が中国では出ているんですね」

墨を擦ることを知らない子供たち

※青栁さんが先頃出された絵本『すずりくん〜書道具のおはなし』。ストーリーはもちろん青栁さんなんですが、絵は青栁さんがその作品を見て、惚れ込み、毛筆の手紙でラブコールを送って実現した、京都在住のお坊さんであり、イラストレーターの中川学(なかがわ・がく)さんが担当されています。

 「硯」や「筆」などの書道の道具が擬人化され、平安時代の衣装を身にまとい、登場しているんですが、絵が可愛いくて、色使いが和風な感じでとても素敵なんです。実は、語り部として青栁さんも登場しています。

『すずりくん〜書道具のおはなし』

 ところで、なぜこの絵本を出そうと思われたのか、お話しいただきました。

「本のことは3年半前から考えていたんです。僕が様々なメディアで硯の話とかをする時に、やはり毛筆文化では、毛筆は人の生活に密着していると必ずお話をするんです。
 非常に考えさせられる出来事が小学生との間では多くて、小学校に硯の授業をしに来てくださいという特別授業のご依頼をいただいた時に、小学校に行ってみて、まずお兄さんは何を作っている人か分かりますか? って話をしてみるわけですね。

 そして硯職人だよって話をした時に、硯っていう漢字を書いてみても、もちろん子供たちは分からないんですね。“しじみ?”とか言われますね(笑)。硯は書道の時に、習字の時に、字を書く時に使うでしょって話をすると、今の子供たちは硯は溶けるものだと思っている子が多いんですね。

 墨汁を普段使っているじゃないですか。今の子供たちは墨を擦ることがスタンダードではないんです。僕たち子供の頃は擦ったと思うんですよ。今の子供たちはほとんどの子が墨液ですね。擦る固形木の墨は、(書道)セットの中に入っているんですけど、ほとんどの子が使っていないんですね。授業では墨汁を開けて、それをかき混ぜる棒になっているんですね。

 プラスチックの硯、かき混ぜる墨という棒、墨汁っていう、本来の使いかたと違う方法で覚えてしまっている子供たちも多かったんですね。これは大人になってから違うんだよとお話をするんじゃないなと思って、僕、全国の小学校に教えに行きたいな、授業しに行きたいなっていう気持ちがその時ものすごく芽生えたんです。

 (全国の小学校に行くのは)もう現実的じゃないですね。難しいですね。なので本をお作りして、学校で45分の授業で1回この絵本を読んでいただければと。

 みんなが使っている今の書道セット、大筆が入って小筆が入って、プラスチックの硯が入って、そしてみんなが使っている硯のセットっていうものは、プラスチックの硯だけれど、元々はこういうもので出来ていて、こういう歴史があるんだよっていうことを知った上で、今のものを使ってもらい、今の道具は現代の硯セットなんだ、今私たちが使っているのは現代の便利な道具なんだっていうのを知って欲しかったんですね。

 プラスチックの硯がダメって言っているわけではなくて、時代に合わせた道具、時代に求められた便利さを子供たちに知ってもらいたいっていう、自分の頭で考えられるそういうものになってほしいなって思っていますね」

書道具は宝〜文房四宝

※青栁さんの絵本には、紙、筆、墨、そして硯が、文房具の文房に、四つの宝と書いて「文房四宝(ぶんぼうしほう)」として登場しています。
 文房具の中でも宝物される書道具は、考えてみれば全部、自然由来のものなんですよね?

「そうですね。全部自然から出来ているって、意外と知らないかたが多いんじゃないかなと思うんです。この本を見ていただくことで、硯(の石材)は山から出てくるんだな。筆はイタチとかウマとかヤギとか、そういった毛を束ねて作られているんだな。紙も山に自生している植物を使って、人が1枚1枚すいて作っているんだな。墨なんかも植物ですね。そういったことを伝えることも大事でしたね。

 ”文房四宝”っていうちょっと難しい言葉を使いましたけれど、元々、筆、墨、硯、紙、この4つをまとめて、我々の毛筆文化圏では文房四宝って呼んだんだよっていうことを、言葉を覚えてもらおうと思って、ちょっと難しいですけど使ったんですね」

●すごく勉強になりました! 改めてそれぞれ解説していただきたいんですけれども、まず紙から教えていただけますか? 

「紙も面白いですよ〜。僕、実は10年以上前ですけれど、中国に長期滞在して紙の研究をしていたんです。硯を作っている人ですけれど、実は紙のコーディネートをずっとしていまして、色んな紙を作っていたんですね。中国の紙を主に作っていましたけれど、紙に関しては論文も書いたことがあるんですね(笑)。

 そんな紙、僕が夢中になった紙、これどういったものなのかっていうと、石で出来た硯が出来上がる前から、紙はあったとされているんですね。今漫画で有名な『キングダム』、その中に登場している蒙恬将軍(もうてんしょうぐん)っていますけれど、彼が筆を作った人っていう風には言われているんです。史実とちょっと異なるところがありそうですけれど、その辺りから紙が開発され始めていたということが分かっているんですね。

 2000年以上前にはなっていますけれど、実際に現存している紙なども1000年とか2000年、普通にもつ素材なんですね。紙は中国と日本ですきかたがちょっと違うところもあるんです。原料も違いますね。

 主には日本だと“雁皮(がんぴ)”とか、お札の原料の“みつまた”とか、ちょっと郊外に行ってみると“楮(こうぞ)”なんかもありますね。あとは竹、ほかには木材パルプなんかも使いますね。カナダから輸入されている木材を溶かしたものですね。
 そういったものを混ぜて、工程を話してしまうとめちゃめちゃ長いんで、そこは絵本を読んでいただく形になりますけれど、植物を紙の原料にするんですね」

●ひとくちに和紙といっても色んな種類がありますね。

「そうですね。民芸紙などもあれば、あとは書道用紙、あと障子紙みたいなものもありますし、様々ですね」

●国内だと和紙の生産地はどの辺りになるんですか? 

「有名なものは甲州(こうしゅう)と因州(いんしゅう)、山梨、鳥取ですね。あとは四国なんかも有名ですね。それぞれに特徴がありますけれど、白さが際立っているとか、柔らかいとか、にじみがあるとか、それぞれの産地が特徴を持っているので、(和紙を)使われるかた、書道の先生だったり、水墨画のかた、絵手紙のかた、お手紙を書くかた、色んな人がいますけれど、あそこの産地の紙がいいんだよ〜っていう風に自分で選んでお使いいただけるわけですね」

墨の原料は自然だらけ!?

※絵本『すずりくん〜書道具のおはなし』に文房具の4つの宝「文房四宝(ぶんぼうしほう)」として登場する紙、筆、墨、そして硯、その4つが全部、自然由来のものということで解説していただいています。

 ちなみに筆は、小筆はイタチやタヌキ、シカなどの毛、大筆はウマ、ヤギなどの毛を使って作るそうです。青栁さんは知り合いの筆職人さんに頼んで、毛を揃える作業をやらせてもらったそうですが、まったくうまくいかず、筆職人さんの技に改めて感心したとおっしゃっていました。

 続いて、あの黒くて長方形の「墨」について解説していただきました。

「墨は主に今、奈良と三重の鈴鹿で作られているものがほとんどというか、それで全部だと思うんです。日本では(原料は)主には植物です。たとえば、菜種、ごま、椿。ほかにも重油なんかもありますけれど、タイヤの原料になっているものですね。真っ黒を求めた時に使われる煤(すす)は、そういった重油などですね。

 昔の話をちょっとしちゃうと、面白い話があって、江戸時代はどんな墨だったのっていう話なんですけど、時代劇を観ていると、お侍さんが夜、和とじの本を読んでいるシーンありますよね。あの時に灯りを炊いていますね。あれが”菜種の油”だったらしいんですね」

●へぇ〜〜!  

「菜種の油を炊いて、その時に出た煤を集めて作ったっていう話もあるんですね。なので、江戸時代の墨は、菜種の油を燃やして出た煤を集めて、そこに動物のタンパク質、要するに骨とか皮を煮て出来たコラーゲンです。それを混ぜて、それだけだと臭いものになってしまうので、墨って擦るといい香りするじゃないですか。そこで竜脳(りゅうのう)とか麝香(じゃこう)、麝香というとムスクですね。そういった香りを中に入れて練ることで、いい香りの墨が出来るわけですね。

 植物の油、あとは動物の骨や皮、そして竜脳だったら植物の木ですけれど、麝香だったら動物のものなので、本当に(墨は)もう自然だらけで出来ているものですね」

「硯」は王様!

写真協力:青栁貴史

※絵本に登場する「文房四宝」の中で、王様と表現されている「硯」について。硯が王様と言われるのは、どうしてなんですか?

「これは、僕がひいきして付けたわけじゃないですよ(笑)、先に言っておきますけど。これは僕が生まれる前から言われていたことです。なんで王様って呼ばれ始めたの? っていう話なんですけど、ここから、王様になりましたっていう記述はないんです。なんとなくそう言われていったっていうのが答えなんですね。

 じゃあどうしてなんだろう? っていうのを我々も含め、文房四宝全般を研究した人や、携わった人はそこを考えるんですね。その結果、今、行きついている説がありまして、この文房四宝の中で唯一、消耗しないもの、なんですね」

●ほ〜〜! 消耗しない。

「ほかは消耗品、使って朽ちていくものですね。なくなっていくもの、形を変えていくもの。硯だけは形を変えずに手元に残り続けるものなんです。そういう理由があることを踏まえて、過去を振り返ってみるんです。

 そうすると、例えば、時の中国の皇帝なんかもそうですけれど、書斎が自分の象徴のようなものに使われていたんですね。私はこういう書斎に囲まれて生活している、私はこういったものを愛でていると。中国の歴代皇帝たちは、そういった文房を作ってきたわけなんです。そこの中心地に置いたものが硯なんです」

●へぇ〜〜!

「硯を中心に、ほかの調度品をどうしようかって考えたわけなんです。そういった記述があることから、中国では硯が文房四宝の王様的な位置づけにあったとされています。実際のところ、皇帝たちが使っていた硯は色々な美術館に入っていますけれど、一時オークションなどで、本当に何千万以上の値段が付いて流通したことがあったんですね」

地球最古の石「アカスタ片麻岩」!

※では最後に、今後この石で硯を創ってみたいというものはありますか?

「それも一択しかなくて、地球最古の石ですね」

●地球最古!? 

「はい。これはカナダの北東、北側から出ているものなんですけど、”アカスタ片麻岩”(へんまがん)」と言います。地球がまだドロドロしていて、色んなものがぶつかって固まっては溶けて、固まっては溶けてを繰り返していた時期がありますね。その間が6億年あるんですね」

●6億年!

「6億年の間、そういった時期があって、ようやくひとつの岩盤が出来たんです。それがアカスタ片麻岩っていう40億年前の石。この石が今の地球の表面を突き破ってオーロラの下に出ている場所があるんですね。

 実はこの石に関して僕、どんな石か分かっていて・・・国立極地研究所でその石を触らせてもらったことがあるんですけど、大きさとして、シーズーくらいの大きさです。マルチーズとか、5歳くらいのシーズーくらい(笑)」

●子犬とか、赤ちゃんのような!(笑)

「そうですね。10何キロありましたけれど、実際に抱っこさせてもらって、この重み、この質量感・・・実際に自分でその場所に行って、地球の中に手を差し込んで、その産声を聴きたいと思いましたね」

●そのアカスタ片麻岩はどんな色なんですか?

「これ複雑な色なんですよ、一言で何色って言えないような色で。僕がアカスタ片麻岩を抱っこさせていただいた時から、もう1年以上経ちますけれど、今、覚えている色はピンクですね。ピンクを帯びた青と灰色が混ざったような色ですね」

●へぇ〜〜! 

「あちらこちらにピンクが点在していて、素石としては青、灰色、そういったものが中心になっていて。ただ、この石は硯には向かないです」

●あ、そうなんですか!?

「固すぎると思います。でもね、向く、向かないじゃないですね。僕たちが硯を創る時に、様々な石で硯を創ります。中国の石、日本の石、色んな石を使って創ってはいますけれど、”母なる石”はその石ですね。

 いちばん最初に地球を作った石、地球の石のルーツがそこにありますね。やはり、2000年以上、我々の生活を支えてきてくれた、最古の筆記用具を創っている者として、そのルーツのいちばん最初の部分に触れてみたいんですね。だからコロナが少し落ち着いたら行って来ます!」

●楽しみです! またお話を聞かせてくださいね! では最後に、この絵本『すずりくん〜書道具のおはなし』を手にする子供たちに伝えたいことを改めて教えてください。

「そうですね。一言でまとめてしまうと・・・今はやはり文字に心を込めることが非常に少なくなっていますね。字を書くことが少なくなっています。入力するってことが多くなってしまっていますね。

 この絵本を読んでいただいて、僕たちが”書く”っていうことは、こんなに昔から大事にされてきていて、色んなものが伝わるんだなって、本当はとっても便利な道具なんだなって、しかも愛せる道具なんだなっていうことに、触れてもらえるきっかけになるような本であってもらいたいなと思いますね。ぜひ読んでみてください」


INFORMATION

『すずりくん〜書道具のおはなし』

すずりくん〜書道具のおはなし


 文房具の四つの宝といわれる紙、筆、墨、そして硯のルーツや歴史が分かります。擬人化された道具の絵が可愛いくて、和風な色使いが素敵です。青栁さんの書道具や毛筆文化に対する思いに溢れた絵本を、ぜひお子さんに読み聞かせてください。
 「あかね書房」から絶賛発売中です。詳しくは出版社のオフィシャルサイトをご覧くださいね。

◎あかね書房HP:https://www.akaneshobo.co.jp/search/info.php?isbn=9784251099457


書道用具専門店「宝研堂」


 青栁さんの書道用具専門店のサイトもぜひ見てください。コロナ禍のため、個展の開催が難しくなったということで、サイト上に「在宅美術館」を開設し、これまでに製作した代表作が掲載されています。

写真協力:青栁貴史

 硯という字は「石」を「見る」と書きますが、青栁さんは製作するときに、とにかく「石の表情」にこだわって硯を創っているとおっしゃっていました。作品の精密な写真から、その表情を感じ取ることができます。何時間でも見ていられる、そんな魅力に溢れています。ぜひサイト内にある「在宅美術館」もご覧ください。

◎宝研堂HP:http://houkendo.co.jp

◎在宅美術館:https://home-museum.net

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