2026/6/14 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、「逃避行動」の研究者、長崎大学大学院・総合生産科学研究科の准教授「河端雄毅(かわばた・ゆうき)」さんです。
河端さんは1983年、熊本生まれ、福岡育ち。子供の頃から生き物が好きで、通っていた幼稚園の隣りにあった川で、いつもカニを捕まえていたとか。幼稚園に行きたがらない時は、お母さんが「カニを捕まえに行こうね!」と誘っていたそうですよ。
そんな河端さん、中学・高校生の頃には生き物好きだったことは、すっかり忘れていて、研究者になろうなんて、まったく思っていなかったそうです。
ところが大学を選ぶ時に、生き物が好きだったことを思い出し、京都大学農学部に進学。大学院生の時に石垣島で魚の移動パターンなどを研究。当時、研究室の研究者たちが生き生きしていたことに影響を受けて、研究者の道へ。
生き物の逃げる行動「逃避行動」を研究するようになったのは、重要な行動なのに、ほとんど研究されていなかったからだそうですよ。

きょうはそんな河端さんに、カニはいつから横歩きをするようになったのか、逃避行動としての横歩きにはどんなメリットがあるのかなどうかがいます。
☆写真提供:河端雄毅研究室
カニの横歩き、珍しい行動
※河端さんの研究チームが、多くのカニに見られる「横歩き」がおよそ2億年前の共通祖先に由来する可能性が高いことを明らかにされました。そもそもなんですが、カニの横歩きは、生き物としては珍しい行動なんですか?
「めちゃくちゃ珍しい行動だと思います。みなさん、おそらくカニ以外に横歩きする動物って知らないんじゃないですかね」
●確かに想像つかないです!
「ほかに一応、横歩きする生き物として、ヨコバイっていう昆虫が・・・葉っぱの上にいて、敵が近づいたらシュッと横に動いて、葉っぱの裏に隠れるっていう昆虫がいるんですけど、それ以外、私も知らないです。なので、動物界を見渡してもかなり珍しい行動だと思います」
●前歩きするカニもいますよね?
「そうですね。前歩きするカニもいます。それもあって、今回の研究につながりはしたんですけど・・・」
●横歩きするカニと前歩きするカニって、どちらが多いんですか?
「横歩きと前歩きを調べた研究が・・・今回たくさんの種で調べたっていう研究が初めてなので、何割何割とは言えないんですけれども、一般的には横歩きするカニのほうが多いと思います」
●形の違いとかっていうのはあるんですか?
「形は横歩きするカニのほうが横長になっていて、前歩きをするカニのほうが縦長になるという傾向にはあるんですけれども、そのシンプルな形からだけでは、どっちかわからない種も結構いて、かなりオーバーラップする・・・中間的な形でこいつは前歩き、こいつは同じような形だけど横歩き、っていうふうに種によって違ったりします」
●そもそも素朴な疑問なんですけど、なんで横歩きするカニと前歩きするカニがいるんですかね?
「そうですね・・・これは私の今回の研究成果とも関わってくると思うんですけど、前歩きするカニは、祖先からずっともともと前歩きだったんですよ。カニはカニとヤドカリの仲間の共通の祖先がいて、そこはもともと前歩きだと考えられています。
カニっていうのが新たに初めて現れて、そこから進んだあとに横歩きっていうのが現れる・・・これは推定ではあるんですけど、2億年ほど前に現れただろうという推定になっています。
もともと祖先からずっと前歩きだった、一度も横歩きっていう進化を経験せずに前歩きだったっていうカニと、それと一度、横歩きに進化したんだけれども、もう一度先祖帰りというか、何らかの理由で前歩きに戻ったタイプと、この2タイプがいると思います」

横歩きのメリット? 左右に素早く!?
※カニの横歩きには、なにかメリットがあるんでしょうか?
「まだそのメリットっていうのは、実はあまりきちんと解明されてないというところではあるんですが、ひとつ研究者の間で言われているのは、速度が速いというデータがあります。横のほうが歩幅が大きくなって、素早く移動できるんじゃないかっていう、そんなことを言っている研究グループがあります」
●素早く動くのも、それこそ逃避行動ですよね?
「そうですね。さらに右・左に逃げることができるので、普通だと一方向なんですけど、素早く、さらに左右に行けるということで、非常に逃げる上ではメリットが大きいです」
●大きなカニって動きが鈍いように思うんですけれども、やっぱり体が小さいほうが素早く逃げられるということですか?
「意外と絶対的な速度は大きくなるほうが早いんですよね。なので、体重が重くなればなるほど早くなります。歩幅が大きくなるんで、早くなるんですけど、小さいほうがやっぱり小回りが効くんですよね。
車をイメージすると小さい車だと小回りが効くけど、大きい車だと速度が出るんだけど、小回りが効かないっていう、そういうことはあります。 なので、小さいほうが相手をかわすっていう意味では逃げることができると思うんですけど、速度だけで言うと大きいほうが速いです」
●素早く逃げるっていうのは、危険を察知する能力だと思うんですけど、カニってどうやって察知するんですか?
「カニは視覚で感知することもあります。カニにちょっと細かい毛がついているのってわかりますか。そこがセンサーになっていて、水の流れとか振動とか接触とかを感知することができるので・・・もちろん視覚がめちゃくちゃ重要なんですけれども、それだけじゃなくて、そういうセンサーも使っていると思います」
●察知する能力は高いって言えるっていうことですか?
「そうですね。もちろん種にもよるんですけれども、いろんなカニの種がいるので・・・(察知する能力が)高い種が多いと思います」

カニたちの家系図!?
※カニがなぜ横歩きをするようになったのか、その疑問に近づくような研究結果が、河端さんの研究チームが発表された「およそ2億年前の共通祖先に由来する可能性が高い」ということだと思うんですが・・・
「共通祖先」を明らかにする意味というか、そこに研究を絞ったのは、どうしてなんですか?
「私たちの研究グループは、どういうメリットがあるのかを並行して、今も研究を進めているんですけれども、その中でそもそも横歩きの種もいるし、前歩きの種もいるっていう、そういうところから、いったいどこから横歩きが始まったんだろう・・・
例えば、並行して何回も進化が起こっている場合もあるし、一回しか進化が起こってなくて、そこから広がった可能性とかもあるので、そういう研究も非常に面白いなと思って始めたという・・・
それに最近、遺伝子情報がすごく手に入りやすくなっていて、系統樹と言って、いろんなカニたちの家系図のような、そういうものが遺伝情報をもとに作られるようになってきたので、そこから一般の私みたいにそんなに遺伝情報とかに詳しくないそういう人でも、そういう研究ができるようになってきたっていうそんな背景があるわけです」
●この研究を始めたのは、いつ頃なんですか?
「2020年から一応開始はしたんですが、コロナ禍ということもあって、本格的に研究を開始できたのは2021年からになります」
●データもたくさん集めないといけないですよね?
「そうですね。そこはすごく大変だったところで、学生たちがすごく頑張ってくれました」
●どんなふうに集めていくんですか?
「自分たちで(カニを)捕りに行くことも、もちろんあるんですけれども、いっぱいデータを集めることができたのは、まずエビカニ水族館のかたの協力があって、そこに展示されているカニの行動をたくさん撮影させてもらいました」
●いろんな種類のカニっていうことですか?
「そうですね。今回使ったデータは50種なんですけれども、実際にはもうちょっと取っていて、家系図というものがなくて、実際に解析には使えなかった種とかも含めると100種近く集めています」
●ええ〜っ! そうなんですね。研究していたカニの中で横歩きと前歩きっていうのは、どれぐらいの割合だったんですか?
「今回使うことができたデータ50種のカニ、正確には49種のカニと1種のヤドカリなんですけど、その中では35種が横歩き、15種が前歩きに分類されます」
●研究用のカニを集めるだけでも本当に大変ですよね。
「そうですね。水族館にも協力してもらいましたし、さらにひとりの学生が台湾の大学に1年間留学していて、そこは実はすごくありがたいと言いますか・・・長崎大学と台湾の高雄科技大学が協定を結んでいて、1年間、留学がしやすいという状況にあって、さらにそこにカニの分類の専門家の先生がいました。
台湾は熱帯地方なので、カニの種類がすごく豊富なんですよね。そういうありがたい状況もあって、そこでもかなりの数のカニを集めることができました」
●海外の研究者のかたにも協力をお願いしてっていう感じだったんですね。
「そうですね。そのかたも共同研究者として、共著者として論文には入っているんですけど、すごく喜んでくれました」
●どんな方法で研究するんですか?
「すごくシンプルなんですけども、円形の水槽を作って、そこにカニを1匹入れて、そのカニが横に移動するのか、前に移動するのかっていうのをビデオで撮影して数値化してやるという、そんな方法です」

前期ジュラ紀に特別な進化!?
※「2億年前」にたどりつくためには、化石を調べたりしたんですか?
「私は化石は使っていないんですけど、化石データも家系図のようなもの・・・先ほど言ったのを作るには、化石の情報とかも使われていると思います。
私たちが今回やったのが・・・既に遺伝子情報から作ってくれているカニの家系図があるんですね。そこの末端の部分に、これが前だったか横だったかというのを入れてやる。
そうすると、家系図が近いカニ同士の共通祖先は前だったか横だったか。さらにもっと遡ると前だったか横だったかというのを、今生きている生物が前だったか横だったかというのから、過去をどんどんどんどん推定していく、そういうやり方なんです」
●2億年前には、カニはいたっていうことなんですよね
「そうですね。2億年前にカニがいたっていうのは、化石のデータからもわかっています。ただそこも分類的に、やっぱり化石ってどっちの分類になるかというのが非常に難しいらしいですね、2億年前ぐらいの化石だと・・・。実は形態的には前歩きしそうな、先ほど言ったような縦長っぽいカニがたくさん見つかっています」
●2億年前って恐竜の時代ということですか?
「そうですね。前期ジュラ紀という時代で恐竜も出てきますし、カニに関して言うなら、ちょうど浅い海がどんどん(できて)・・・カニは浅い海に棲んでいると思うんですけど、ちょうど大陸が分断される時期で、新しい浅い海がどんどん作られるような時期だったと思います」
●カニにとっては棲みやすい環境だったんですか?
「そうですね。棲みやすいというか、ちょうど(その時期は)ほかの生物があまり入っていないような、そこに侵入できるであろう環境が広がっているような、そんな時代だったと思います」
●そんな時代にカニが横歩きするようになったのは、何かそうせざるを得ないものがあったんですか?
「これは本当に難しいところで、非常に面白いところではあるんですが、どうしてそうなのかっていうのは、わからないとしか言いようがないんですね。
そういう新しい環境が広がった、そういう時はもしかすると、特殊な進化が起きやすかったのかもしれないですね。ただ進化は特別な、生まれてそれにメリットがあったら、すごく広がっていくんですけど、生み出すのは非常に・・・なんていうか、特に前移動から横移動は物凄く体の構造とか変わるわけなんですね。
そんな特殊なものが生まれる、そういう進化は本当になかなかないイベントですし、これがどういう状況で起こるかっていうのを理解するのは、非常に難しい問題です」
●でもそうやって一度横歩きに進化したのに、また前歩きに戻るみたいなカニもいるんですよね?
「そうですね。そこがまた面白いところで、おそらく横歩きにメリットがあるんだろうけども、それが必要なくなったり、前歩きのほうのメリットが高い場合、いろいろな状況に応じて、前歩きと横歩きは変わっていったりするのかなと・・・」

横歩きのメリット、デメリット
※今後もカニの横歩きについての研究は続けていくんですか?
「そうですね。これからもまだ、今やっている最中で、きょうはそこまでお話しできなかった“どんなメリットがあるのか?”っていう、そんな研究もやっています。逆に“どんなデメリットがありそうだ“っていうこともいくつか仮説があるので、そういう研究も進めていきたいと思います」
●現段階で言える範囲で、メリットやデメリットはありますか?
「先ほど言った速度が早いっていうのは、可能性として、ほかの研究者も言っていて、現在私たちもデータをとっている最中ですけど、そういう傾向がありそうだという結果は出ています」
●横歩きのデメリットはあるんですか?
「そうですね・・・横歩きのデメリット、これはちょっとまだお話をできる段階ではないんですけど、例えば、横歩きをする必要がない状況はあると思うんですね。
横歩きが、捕食者をかわすのに速度が早いというメリットがあるとして・・・だけど例えば、群れでいるとか、貝の中に入るカニとか、寄生するカニとか、そういうほかの逃げ方、捕食者を回避する方法をとっているようなグループで、頻繁に前歩きへの先祖帰りっていうのが起こっているので、もしかすると必要がない状況下になったら、前歩きに戻るっていうようなことも考えられるかもしれません」
INFORMATION
河端さんは、これまでの逃避行動の研究で、ほかにも大発見をされています。それはウナギの稚魚の逃避行動。それはほかの魚に捕食され、胃の中にまで取り込まれているのに、なんと! ウナギの稚魚は、胃から出てきて、エラの隙間から逃げ出したそうですよ。

生き物の逃避行動について、もっと知りたいと思ったかたは、ぜひ河端さんの研究室のサイトをご覧ください。
◎河端雄毅研究室:https://sites.google.com/site/kawabatalaboratory/






