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登山の安全対策「食事と栄養」〜日頃から栄養素の役割を意識

2026/8/2 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、筑波大学大学院の助教で、管理栄養士そして日本スポーツ協会公認のスポーツ栄養士でもいらっしゃる「清野 隼(せいの・じゅん)」さんです。

 清野さんは山形県出身。スポーツ栄養士として、森永製菓のトレーニング・ラボで、トレーニングや商品開発に携わったあと、筑波大学でコーチング学の博士号を取得。その後、日本オリンピック委員会のハイパフォーマンス・ディレクターなどを歴任。

 現在は、栄養を理論から実践に落とし込み、スポーツ選手から一般のかたまで幅広くコンディショニングを支援する活動をされています。

 そんな清野さんが監修された新しい本が、登山を栄養学の視点で解説した『山に登るなら知っておきたい〜登山のための食事と栄養〜安全に山を楽しむための栄養学入門』。

 きょうは登山の安全対策とも言える「食事と栄養」というテーマのもと、行動食や予備食、冷えや食欲がない時の対処法、熱中症対策、そして下山後のリカバリーについてもうかがいます。

☆写真協力:清野 隼

清野 隼さん

スポーツウエルネス学とは

※清野さんは筑波大学大学院で「スポーツウエルネス学」を研究されているんですよね。この「スポーツウエルネス学」とは、どんな学問なんですか?

「ひとことで言うと、スポーツを競技力とかパフォーマンスだけではなくて、人がよりよく生きるということに、どうつなげていくかということを考える学問になります。

 健康ですとか地域、街づくりですとか、マネジメントとか、幅広く扱っておりまして、私はその中でもスポーツ栄養学やコーチング学を専門にしております」

●スポーツ栄養士のお仕事は、スポーツ選手の栄養管理を専門にされているということなんですか?

「そうですね。広く言えば、もっと一般のかたや健康増進をされているかたもサポートしたりはしていますけれども、主にはそういったスポーツ選手、アスリートを対象としています」

●選手のパフォーマンスにも影響してくる食事ですけれども、試合前と後では食事のメニューももちろん変わってきますよね。

「はい、目的が変わってきますので・・・例えば、試合前ですと力を出しやすい状態を作るために、糖質を中心にエネルギーを取りましょうとか、消化しやすく食べ慣れたものを食べましょう、そういったことが考えられます。

 一方で試合後については、いかに消費されたものをリカバリーできるかとか、または水分や電解質などをしっかり早く補給できるかとか、そういった目的に応じてタイミングや食べるものも変わってきます」

●例えば、具体的な食べ物を食材で言うと、どんな感じなんですか? 試合前と試合後では・・・。

「日本人ならではで言えば、試合前も試合後もお米、主食ですね。非常に大事な食べ物になります。両方ともエネルギー源になります。または麺類ですとかパンなども大事になります。

 一方でタンパク質源になりますと、終わってからなどは例えば、乳製品ですとか、または食べやすい肉など火を通したものですとか、そういったもので筋肉や疲労の除去、そういったところにつなげられるものを選んだりしています」

●清野さんが栄養士、しかもスポーツ分野の栄養士を目指そうと思ったきっかけというのは、何かあったんですか?

「もともと私も野球をやっていました。実際、肘をけがしたことがあって、リハビリテーションしていたんですけども、母親が非常にスポーツ栄養のことを考えて、台所にいろいろまとめたものを張り出していたんですね。

 それを見て、とても興味を持って、支える側にもこういったスポーツの栄養の大切さっていうのがあるんだということを初めて知って、自分も目指してみたいなと思いました」

「食」は登山の安全対策

『山に登るなら知っておきたい〜登山のための食事と栄養〜安全に山を楽しむための栄養学入門』

※ここからは清野さんが監修された本『山に登るなら知っておきたい〜登山のための食事と栄養〜安全に山を楽しむための栄養学入門』をもとにお話をうかがっていきます。

●改めてなんですが、この本のコンセプトを教えてください。

「登山の食を安全対策のひとつとして、準備できるようにするということが、いちばん大きなコンセプトです。

 例えば、靴ですとかレインウェアなど、地図や天気予報もそうなんですが、よく準備して登山に臨まれていると思うんですけども、なかなか体の中のエネルギー量ですとか、栄養面といったところまでは見えてきていないのではないかなと思いました。

 そういう意味では、空腹ですとか脱水ですとか、足を止めるだけではなくて、思考力を鈍らせるようなコンディション、そういったところもしっかり準備して臨めるように、登山で試せるようにまとめてみたものになります」

●登山の安全対策として、レインウエアとか、そういった装備の準備だったり、天気予報のチェックなどと同じぐらい食事も大事だよということなんですね。

「そうですね。なかなか体内のエネルギーですとか、水分というのは見えにくいもので、気づかないうちに減っているということがあります。そういう意味で行動しながら、計画的に使うという意味では、雨具や靴などとも一緒かなと思います」

●清野さんご自身も登山はされるんですか?

「私は何度か登山やトレイルなどは経験しています。子どもたちと100マイルを歩くような冒険旅を行なったりですとか、自分自身もトライアスロンをよくしたり、そういった野外でのスポーツなどは定期的に行なっています」

●トライアスロンもされるんですか?

「そうですね(笑)。年に1回から2回はレースに出ようと思って頑張っています」

清野 隼さん

●登山と、ほかのスポーツでは、運動という点でどんな違いがありますか?

「非常に難しいんですけども、やはり何時間も一定の力を出し続けて歩くという登山の特徴があるかなと思っています。

 さらに環境面の変化というのは非常に大きいのが特徴かなと・・・。例えば、標高差ですとか気温の変化ですとか、もちろん荷物や足場や、上りと下りなど、かなり環境面に応じて変化する特徴があるかなと捉えています」

●登山も日頃の食事が大事だと思うんですけれども、山に行く前は、特にどんな食事を心がけたらいいんでしょうか?

「書籍の中でもかなり強く書いているんですけども、前日とか、なかなか直前に何か変えようとして、やってしまうというかたもいらっしゃると思うんですね。やはりそうではなくて、普段から三食を整えておくということは基本中の基本かと思っています。

 その中で例えば、炭水化物という栄養素は歩くための主要なエネルギーになりますし、タンパク質という栄養素は筋肉や血液など体を作る材料にもなります。登山前というのは、そういった意味でご飯やパン、麺類などの炭水化物を中心に卵や魚や肉や乳製品など、タンパク質源も組み合わせるといいと思います」

(編集部注:先ほどお話に出てきた、子どもたちと100マイルを歩く冒険旅、というのは、実はこの番組にも出てくださった北極冒険家「荻田泰永(おぎた・やすなが)」さんが計画し、子どもたちと一緒に100マイル(160キロ)を踏破する冒険プロジェクトのこと。

 2012年から毎年、国内で開催されているこの「100マイルズ・アドヴェンチャー」に、清野さんは2017年と2019年に参加し、栄養士の視点で、子どもたちや荻田さんのコンディションを見ていたそうですよ)

清野 隼さん

行動食と予備食

※山の専門誌などにも「行動食」、つまり歩きながら食べられる食材の話がよく載っています。やはり行動食って重要なんですか?

「はい、とても重要だと思っています。これも書籍でかなり強く触れているんですけども、行動食というのはおやつではなくて、歩き続けるための補給計画の一部になります。

 空腹を感じてから食べると、やっぱりその時点で集中力や判断力も落ち始めていることがありますので、少量をこまめに、できれば時間を決めて摂るというのが基本になるかなと思います。

 選ぶ条件なども実はいくつかポイントがあって、もちろん携帯しやすさとか劣化のしにくさとか、あとはエネルギー密度ですね。小さくてもエネルギーがしっかり摂れるような密度の高いもの、あとは本当に自分が食べられる、食べやすいようなもの、そういったものが行動食としては適しているかなと思います」

●夏だと、どんな行動食がおすすめですか?

「夏は非常に食材の劣化も進みますので、傷みにくくないようなそういったものが向いていると思います。暑くても口にしやすいような、例えばゼリー状の栄養食であったり、飴や羊羹やエネルギーバー、それからナッツ、溶けにくい焼きチョコなんかは適しているかなと思います。

 一方でおにぎりやサンドイッチといった、いわゆる先ほど行動食のエネルギー源にもなるようなものというのは、非常に便利ではあるんですけれども、保管や消費期限といったところに少し難しいポイントかなというふうにも思います。お腹を壊さないようなものですとか、保管のしやすいようなもの、そういったことも心がけていただくといいかなと思います」

●本に行動食とは別に予備食を持っていくこともお勧めされていました。その理由と、どんな予備食がいいのか教えていただけますか。

「行動食は先ほどお話しした通り、計画的に普段から食べてほしいものではあるんです。予備食というものは予定通り行なわれなかったり、例えば、悪天候になってしまったり、想定外のことが起こった時に備えるものとして捉えていただければと思います。

 私も登山をしているときに、けがをしてしまったりですとか、道に迷ってしまったり、そういったこともあって、どうしても行動時間が伸びる可能性があるかと思いますので、軽くて高エネルギーで劣化しにくいようなものを選んでいただければと思います。

 例えば、すぐ食べられるようなバーですとか、それこそ羊羹やナッツ、そういった持ち運びしやすいものに加えて、お湯や調理環境などを使える行程であれば、フリーズドライの食品や味噌汁、棒ラーメンなんかも選択肢としてあるかなというふうに思います」

登山もリカバリーが大事

※ここ数年、スポーツ選手の試合後のコメントで、「リカバリー」という言葉がよく出てくるようになったと思います。登山も山小屋に到着したあととか、下山後のリカバリーは大事ですよね?

「はい、とても大切になります。本書では下山直後から段階的に回復させるような流れというのを示しております。まず5分から15分ほどで水分を補って、スポーツドリンクですとか、ゼリーですとか、バナナなどの糖質をまず補給するということをお伝えしています。

 胃が落ち着いてきたら、例えば、おにぎりにヨーグルトや牛乳など、糖質とタンパク質を組み合わせて、その後に主食や主菜、汁物などの食事につなげていただくというリカバリーが大事になるかなと思います。

 食事だけでなくて入浴して軽いストレッチで整えたり、寝る前に水分と少量のタンパク質をとったりして、山小屋に宿泊するのであれば、翌日の行動まで考えて補給していくっていうことが大事かなと思います」

●いきなり、おにぎりというよりも、徐々に段階を経てっていうほうがいいんですね?

「そうですね。段階的なリカバリーっていうのは、トップアスリートも実施していることです。ファースト・リカバリー、セカンド・リカバリー、サード・リカバリーっていう形で、少しずつ少しずつ、摂るもの飲むもの休むことっていう、そういったものを計画的にやっていくのがポイントかなと思います」

栄養や水分補給の予行演習

※清野さん監修の本の第2章「栄養学の実践的活用術」に山の標高による登山のポイントが載っています。

 標高が1000メートル以下のから、3000メートルを超える山までそれぞれ必要な技術などが解説されているんですが、標高に合わせた、事前の、おすすめトレーニングも載っていますので、これから山に行こうと思っているかたは、参考にされてみてはいかがでしょうか。

●事前のトレーニングで、栄養や水分の補給を、どのタイミングで取るかなどの予行演習もやっておいたほうがいいですか?

「そうですね。非常にこれは歩く練習と同じくらい大切になると思います。本番で使う装備、靴やザックや食品、飲料とかそういったものを使って、補給と休憩と、それからペース歩行、そういったものをセットで試していくっていうのが大事かなと思います。

 例えば、美味しくても動いた後になかなか食べにくいっていう物もありますし、普段は食べられるのに胃が重くなってしまって、受け付けないっていったものもあります。

 できれば、何時にいつ何を食べて、どれくらい飲んだのかとか、そういったものを簡単に記録していくと、自分に合うパターンなんかを見つけられて、本番で初めて食べて、こんなものを食べられない、みたいなことを体験することはなくなるんじゃないかなと思います」

●夏でも標高が高くなれば、気温は下がります。冷えとか食欲がない時の対処法はどうしたらよいでしょうか?

「はい、これはまず、ウエアの重ね着は大事かなと思います。私も体験したことがあるんですけれども、外からの冷えを防ぐのが、まず前提ではあると思います。一方で食べ物や飲み物は、体の内側から温めてくれるものでもありますので、温かい飲み物や食べ物は非常に大切になります。

 例えば、インスタントの味噌汁ですとかフリーズドライの食品ですとか、固形のスープや温かい麺などは軽くて使いやすいですので、そういったものをどのように食べることができるかというのを本書でも詳しく説明しています。

 よくあるんですけれども、味噌に粉末出汁とかネギやワカメを合わせて、“味噌玉”を作って、それを持って行って、簡単に食べることもできたりしますので、参考にしてみていただけたらなと思います」

●この時期は熱中症にも注意しなければいけないですよね?

「これは難しいですね。気温が高くなったり低くなったりする、とても変化の起こりやすい気候になりますので、水を飲んでいれば安心だというふうに思われるかも知れませんけど、決してそうではなくて(登山の前に)朝食を食べてエネルギーと水分を身体の中に入れて出発することが、まず最低限のポイントになります。

 暑い時間帯を避けて計画したり、無理のないペースで日陰で休憩したりですとか・・・。もちろん帽子やウエアや水分、電解質など大切なポイントっていうのは多々あるんですけども、その予防のひとつとして、動いた後に体重の減少をしっかり2パーセント以内に抑えましょうということを本書では訴求しています。

 気づきにくい脱水が起こったりしていて、結果的に体重がどんどん落ちているということもあります。それも熱中症につながってしまいますから、こまめに水分をとりながら体重も動いた後、トレーニングした後に測っていくような習慣を作っていけるといいかなと思います。

 熱中症予防の観点で体重減少2パーセント以内に抑えるってことですけれども、もちろん登山中に体重を計ることはできませんので、下山後にお風呂に入った後とか、または寝る前とかに体重をしっかり計って、普段の自分の体重との変化というのを比べてほしいなというふうに思います」

山に行く前に、日頃の食事と睡眠

※清野さん監修の新しい本では「栄養学の基礎知識」もわかりやすく解説されています。栄養にはどんなものがあって、どんなふうに体に吸収されるのか、とても参考になります。

●登山に限らず、普段の生活でも栄養の知識を身につけておくことって、大切ですよね?

「もちろん大切です。ただ、選手にもよく話をするんですけれども、毎食の栄養素を細かく計算することは難しいことです。炭水化物やタンパク質などの栄養素がどんな役割を持つかということを知ることが一歩目かなと思います。

 そうすると、自分で選んだりとか、自分の状態と対話しながら食事内容を考えたりとか、そういったこともできると思いますので、選択肢を増やすための知識として捉えていただけたらいいのかなと思います」

●この夏、山に行こうと思っているかたに、食事と栄養の面からアドバイスをお願いします。

「山で何を食べるかということだけでなくて、日頃の食事と睡眠から考えてみていただきたいと思います。そして、朝食を食べることですとか、何時ごろ何を補給するのかとか、そういったことも計画して、予備食や下山後のリカバリーまで考えていただけるといいかなと思います。

 そういう意味で山に登る時の“食”っていうのは、あくまでも自分の準備のひとつで、身体とそれから装備や環境と一緒にセットで考えていただくものだと思っていただければなと思います」

(編集部注:登山のあとに冷たいビールを飲みたくなるというかた、多いと思いますが、アルコールは利尿作用があるため、脱水症状を招く可能性があったり、睡眠にも影響が出たりするので山では控えたほうがいいということです。

 下山後の飲酒もリカバリーを阻害したりと、マイナスの側面があるので、自分の体と対話し、体調を確認してからにしましょう)


INFORMATION

『山に登るなら知っておきたい〜登山のための食事と栄養〜安全に山を楽しむための栄養学入門』

『山に登るなら知っておきたい〜登山のための食事と栄養〜安全に山を楽しむための栄養学入門』

 これから山に行こうと思っているかた、清野さん監修のこの本をぜひ参考になさってみてください。「山登りのための栄養学」に始まり、実践的活用術、基礎知識、そして「登山に適した食事メニューとトレーニング」と、4つの章に分けて写真やイラスト、図などでわかりやすく解説されています。

 登山の食事と栄養を、安全対策のひとつとして、考えていただければと思います。メイツ出版から絶賛発売中です。詳しくは出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎メイツ出版:https://www.mates-publishing.co.jp/archives/32115

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