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「アズキの起源」を明らかにした、今話題の研究者、登場!

2026/9/20 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、「農研機構 遺伝資源研究センター」の上級研究員「内藤 健(ないとう・けん)」さんです。

 内藤さんは1978年、滋賀県出身。京都大学大学院で農学の博士号を取得。現在、農研機構での研究のほか、東京大学大学院で客員教授として講義も担当されています。

 茨城県つくば市にある「農研機構」は、食料・農業・農村に関する研究開発を行なう国立の機関です。その農研機構で遺伝資源の研究などに取り組んでいる内藤さんは、日本人には馴染みのあるアズキの研究で世界からも注目されている研究者です。

 そんな内藤さんがこの春『アズキの起源』という本を出されたんですが、この本が先頃「第42回 講談社科学出版賞」を受賞。そのタイミングで番組にお迎えすることになりました。

 実は内藤さんによると、最終候補となった5作品の中からの受賞だそうです。ほかの作品は、宇宙や生命といった壮大なテーマの本だったのに対し、アズキは最初から名前負けしているから、これは選ばれないと思っていたら、受賞の知らせが届き、びっくり! とても嬉しかったそうですよ。

 きょうは、アズキがいったいいつ頃、どこで生まれたのかを突き止めた研究のほか、聞いて面白いアズキの雑学についてもうかがいます。

☆写真:内藤 健

内藤 健さん

「ジーンバンク」=作物版「ノアの箱舟」

※受賞作『アズキの起源』に沿ったお話の前に、内藤さんが勤務されている「農研機構 遺伝資源研究センター」は「農業生物資源ジーンバンク」と言われる事業をメインに行なう研究機関だそうですね。このジーンバンクとは、どんな事業なんですか?

「ひとことで言ったら“ノアの箱舟”の作物版とか食べ物版というか、そういう施設なんですよね。イネとかムギとかダイズとか、そういういろんな作物を世界中のいろんなところから集めてきて、整理して保存しておく施設になります」

●保存している農作物の遺伝子資源の内訳は、どんな感じなんですか?

「イネが4万点、ムギが6万点、ダイズも1万点で、僕がやっているアズキだと3千点とか、そんな感じの内訳になっていますかね」

●すごい数ですね?

「すごい数ですよね」

写真:内藤 健

●保存しているのは、タネってことですか?

「まあそうですね。いちばん多いのはタネなんですけども、タネでは置いておけないジャガイモとかサツマイモとかは、イモで保存します。
 ウシ、ブタ、ニワトリなど家畜の精液なんかも保存しますし、あと害虫とか、人間の生活に関係のありそうな動植物は、だいたい保存するというのが目的の機関ですね」

●このジーンバンクというのは世界各国にあるんですか?

「すべての国にあるかというと、そうでもないかもしれないですけど、持っている国は多いんじゃないんですかね」

●日本のジーンバンクは規模的に世界から見ると、どんな感じなんですか?

「まあ有数ですかね。アメリカ、中国、ロシア、インド、この4つは(遺伝資源を)むちゃうくちゃたくさん持っていて桁違いなんですけど、その次を争う国のひとつが日本という感じです」

●遺伝資源を集めてくるのは、ジーンバンクの研究者のみなさんということなんでしょうか?

「基本的にはうちの研究所で探索隊みたいなのを結成して、日本国内だったり、たまには世界の果てみたいなところに行ったりと、そんな感じです。そこら辺に植わっている作物をとにかく集めてこよう! というそういう感じで集めてきます」

●内藤さんも実際に行かれたことはあるんですか?

「はい、何回か行ったことありますね。行くときは頑張って集めてきます」

●どちらに行かれたんですか?

「いちばんきつかったのはミャンマー・・・とんでもない山奥に派遣された時ですね」

写真:内藤 健

●何がどうきついのでしょうか? 

「最初に“行ってこい!”って言われた時に、まず“電気も水道もないところやから、ちゃんと準備していくように!”って言われたんですよね。ちゃんとって何? みたいな・・・(笑)。

 すごく大きいカバンに3週間分の着替えと、あとは険しい山道でも歩けそうな靴とかテントに寝袋に、そういうのも全部買い揃えて行くっていう・・・行ったところは、ほんまに電気もガスも水道もない。水は雨水を貯めたようなのを使うとか、そんな感じでした」

●そのミャンマーからは、どれくらい持って帰ることができたんですか?

「150点くらい集めてきたんですけど、見たこともないような珍しいトウガラシだったり、お米もたくさん集めましたね。

写真:内藤 健
野生のアズキ

 自分がやっているのは野生のアズキの仲間なんですけど、車で移動している間、ず~っと道端を見て、僕の研究対象になっている植物が生えていないかって、ず~っと見ながら旅をしていたりという、そんな感じでしたね。

 すごく景色が綺麗で、珍しい食べ物もいっぱいあって、それは楽しかったんですけど、まあしんどい(苦笑)・・・日没と共に寝て夜明けと共に起きるみたいな生活を2週間しなきゃいけないっていうは、なかなかしんどかったですね」

写真:内藤 健

(編集部注:農研機構では、およそ24万点の農作物の遺伝資源を保存してあるそうです)

アズキと運命的な出会い

※内藤さんは、本のタイトル通り「アズキの起源」を明らかにした研究者として権威ある科学雑誌「サイエンス誌」にその論文が掲載されるなど、世界的に注目されています。

 もともとアメリカの大学でイネの研究をされていた内藤さんがアズキの研究をすることになったのは、いまの職場「農研機構 遺伝資源研究センター」に入ったことが大きかったですか?

「そうですね。ここに就職しなかったら絶対やらなかっただろうと思いますね。イネの研究でほかの大学のポストを狙っていて、そこを落とされて、滑り止めで受かったのが今の職場なんですよね(苦笑)。
 たまたま入ったところの上司がアズキの研究者だったという縁があってアズキの研究することになったと・・・きっかけはそんな感じですね。

 (農研機構に)入ってその上司がやっていたのは、アズキっていうよりは野生のアズキの仲間なんですけども、入った初日にその上司のコレクションをパッと見せられて、ものすごい多様性だったんですよね。

 “ここに今植えられている植物は、全部同じ種だ!”というふうに言われたんですけど、見た目がもう全部、全然違うやんけ! ってなったんですよね。

 葉っぱが丸いのもあったら、針みたいにすごく細いのもあったりして、見た目がまず全然違うと・・・見た目の違いはその環境ですかね。それぞれの系統が生えている環境の違いで、自然選択というか、その環境に合わせて進化してきたようなものだと思ったんですよ。

 こんだけいっぱいあって、それぞれいろんな異なる環境に生えていて、異なる進化を遂げている。でもみんなアズキの仲間っていう、バックグラウンドは共通しているのに、その末端のところが全然違うっていうのが、“これは面白い!”って思ったんですよね」

●アズキだけで、どれくらいの種類だったんですか。

「え~っと106種、上司の友岡さんが集めていたのが、アズキだけで3千種、アズキの仲間まで入れると7千500種とかそれくらいやったかな。すごい数ですよね! 

 おもに友岡さんがひとりで集めていたっていうような感じで、“俺、これ使って研究していいんや!”みたいな、第一希望を落ちてよかったなとさえ思うくらい、ほんま運命感じるくらいの出会いでしたね」

『アズキの起源』

縄文人がアズキを栽培!

※その後、内藤さんはアズキの研究に心血をそそぎ「アズキの起源」を明らかにされたわけですが、具体的にはどんなことを明らかにされたんですか?

「アズキってたぶんだいたいの人は、中国から朝鮮半島を経て日本に入ってきたというような、イネもそうですし、ムギもそうですし、そういうほかの作物と似たような経緯で日本に入ってきたやろうなと思っている人が多かったでしょうし、僕自身もそう思っていたんですね。

 でもそうじゃなくてアズキは、稲作が日本に入ってきて弥生時代が始まるんですけど、それより前の縄文時代に縄文人が日本列島でアズキの栽培を始めていた! っていうことですね。

 その日本生まれのアズキが逆に中国に広がっていったんだよ! という、ほかの作物とは起源も伝わった経緯も逆っていう、それを明らかにしてしまったんですよね、僕が!(笑)。いや〜もうびっくりでしたけど、“そんなことあるんや!”みたいな・・・」

●アズキの起源を、どんな手法を使って明らかにされたんですか?

「ゲノムというDNA分析というやつですね。僕が所属する農研機構ジーンバンクには、アズキのコレクションがありますので、アズキの祖先のサンプルも、今栽培されているアズキのサンプルも、全部DNAを抽出して、そのDNAの配列をお互い比べるっていうことをするんですよね。

 DNA配列は、ひとりひとりの個性を決めるような設計図みたいな働きをしていますんで、みんな少しずつ配列が違うと・・・親子関係みたいな近縁の者同士だと。すごく配列は似ているし、遠くの親戚とはだいぶ違うっていう、そういう配列がどれくらい似ていて、どれくらい違うかを総当たりで比較して、こいつとこいつは近い、こいつとこいつは遠いみたいなところから祖先をたどっていう、そういうことをします」

●研究でいちばん大変だったことって、どんなことですか?

「いちばん大変だったのは、最初にDNA解析をした時にパッと見、どう見てもアズキの起源は中国やん! っていう、そういう結果が出てきたんですね(笑)。普通の人が解釈したら、これは中国起源としか考えられないっていう結果が出てきたんですけど、でもそれをよく見るとちょっと怪しい・・・この結果をこのまま信じたらあかんのちゃうか? っていう結果になっていたんですよね。

 そこから一回疑って、もうちょっとディープな解析をしたほうがいいじゃないかっていう流れになって、やってみたら、すごい大逆転ですよね。やっぱり日本起源やん! っていうことが明らかになって、あの瞬間がめちゃくちゃ気持ちよかったというか・・・」

※大逆転のきっかけはなんだったのか・・・それは「葉緑体・ミトコンドリア」! 内藤さんによると、当初は細胞の中の、核のゲノムだけを見て研究していたそうですが、核のゲノムは、父親と母親から半分ずつ受け継がれるのに対し、葉緑体のゲノムはお母さんから丸ごとコピーしたものが受け継がれ、交雑をしても混ざることはない。これに着目したこと。

 では、具体的に説明をお願いします。

「同じ畑に植えて、そこから収穫したタネを植え続けるということは、結局、現代のアズキにも、いちばん最初に栽培され始めたアズキの葉緑体・ミトコンドリアが受け継がれているんじゃないか、という事実をハッと思い至って、実際調べてみると本当にそうだったと。

 日本のアズキも中国で栽培されているアズキも、果てはネパール、ブータンまでアズキって広まっているんですけど、そのネパール、ブータンまで運ばれていったアズキも、みんな葉緑体を見ると日本のヤブツルアズキ、日本の祖先種と同じ葉緑体を持っていたということだったんですよね。

ヤブツルアズキ(左)アズキ(右)
ヤブツルアズキ(左)アズキ(右)

 ということは、日本の祖先種から最初のアズキが生まれて、そのアズキを誰かが中国に持って行き、それがさらに果てはネパール、ブータンまで運ばれていったという、そういうことになるということだったんです。100%の証明じゃないんですけど、これが個人的には決定的な決め手になったといいますか、それが逆転の一発目だったわけですよね」

(編集部注:アズキの研究を2019年に始めた内藤さん、2025年に論文を発表されていますので、アズキの起源を明らかにされるまでに約6年を費やしたということです。
 内藤さんによると、縄文時代はクリやドングリのほかに、原始的なアズキやダイズも食べていたことは、考古学の研究者の間では、いまや常識だそうですよ)

アズキにまつわる内藤家の因縁

※内藤さんは番組の最初のほうでアズキの研究をすることになったのは、運命的だとおっしゃっていましたが、アズキとの因縁は、内藤さんのご先祖様までさかのぼるそうですね?

「そうなんですよね(笑)。僕、全然知らなかったんですけど、”内藤家は徳川家康の重臣やった人の末裔なんやでと。今、田舎ですごく貧乏しているけど、それは江戸時代から明治時代に変わった時に、あんたのひいひい爺さんがアズキの先物取引に手を出して、すってんてんになったからや!“ってことを言われまして、えっ! ってなって・・・なんか財産運用に失敗したっていうのは聞いていたけど、アズキやったん! みたいな感じですよね(笑)」

●運命ですね(笑)

「ほんまですよね(笑)。最近さらに知って怖くなっているのが、徳川家康の重臣だったいう『内藤正成』っていう武将がいるんですけど、その人が最初に名を挙げた戦いっていうのが『小豆坂(あずきざか)の戦い』っていうらしいんです(笑)」

●すごいですね~!(笑)

「因縁深いにもほどがあるやろうと! いう感じで、ちょっと怖くなっていますね、はい・・・」

●話は変わるんですけれども、大豆は漢字で書くと、大きな豆と書いて “だいず”ですよね。小豆は小さな豆と書いて“あずき”と読みますけど、これは“しょうず”とは読まないじゃないですか?

「そうですよね」

●これはどうしてなんですか?

「不思議ですよね。確かに小豆業界の人たちは“しょうず”って読むんですけど、自分の扱っている商品のことを。でも“アズキ”って言うじゃないですか。アズキっていう言葉自体は『やまとことば』というか、漢字が日本に入ってくるより前から、日本に住んでいた人たちは、小豆のことを“アズキ”と呼んでいたということなんですよね。

 その語源は諸説あるんですけど、どの説を見てもアズキの“あ”は、赤から来ていると、赤色の“あ”やと・・・“ずき”っていうのが、火が通りやすい、火が通って煮崩れしやすいとか、柔らかくなるとか・・・あとは赤い粒がなる植物『アカツブキ』から転じて、“アズキ”になったとかはあるんですけど・・・。

 なんにせよ、アズキの“あ”は赤から来ていると・・・なので、アズキっていう言葉が成立したころにはアズキって赤かったと、そうとう昔から赤かったんちゃうか! みたいなことは、アズキの名前からも想像できるというか、そんな感じがしますよ」

(編集部注:内藤さんたちの研究チームは、赤いアズキはおそらく1万年前から存在していたことも明らかにしたそうです)本には、このワカケホンセイ インコの解説も詳しく載っていますので、ぜひ読んでみてください)

アズキもクリも日本オリジナル

※今後の研究対象や、明らかにしたいことはなんでしょう?

「今ひとつちょっと面白そうだなと思っているのは、アズキって日本や中国とか東アジア一帯で栽培されているんですけど、日本のアズキだけ、やたらでかいんですよね。

 でかくなった変異というか原因の遺伝子は何か? とか、日本人が大きいアズキばかりを好んでより分けていったのは、いつ頃からそういうプレッシャーをかけてきたのか? みたいなのを明らかにできると、面白そうかなというのはあります。

 あと、考古学関連だとアズキだけじゃなくて、クリも縄文時代からの作物としては結構有力どころで、日本のクリが少なくとも日本起源というのは間違いないんですよね。

 中国にもクリはありますけど、日本のクリと中国のクリは種として別種なので、中国のクリは中国で栽培化されているし、日本のクリは日本で栽培化された、日本に起源があるというのは間違いないと言えます。

 ただそれが日本のどこで、いつ頃かっていうのはちょっと面白そうではあるので、その辺も追々っていうか、もうそろそろ発表できるかなというところですけどね。

 まあなんにしても和菓子の二大プレイヤー、二大エースみたいな存在がどっちも日本起源っていうのが面白いというか、そんなところに日本オリジナルが残っているんや、みたいなっていうのはちょっと面白いですよね」

●研究者として大事にしていることってなんですか?

「研究者として大事にしていること・・・ワクワク感ですかね。自分だけじゃなくて、自分の周りに話しても“それ、おもろいな~!”って言ってもらえそうみたいな、そういうのはやっぱ大事にしたいですよね」

●最後にこの本『アズキの起源』に込めた思いを教えてください。

「この本はとにかくやっぱり、みなさん基本的にアズキもほかの作物と同じ中国起源だと思っていらっしゃるかたが多いと思うので、その常識をとりあえず壊したい。なるべく多くの人にアズキは日本の作物なんだよっていうのを知ってほしいと思って書いた本です!」


INFORMATION

『アズキの起源』

『アズキの起源』

 「講談社科学出版賞」を受賞した、科学的な研究本としての充実度に加え、内藤さんのプライベートなことも散りばめられていて、人となりを垣間見られる読み物としての面白さも秀逸です。ぜひ読んでください。
 東京書籍から絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトをご覧ください

◎東京書籍:https://www.tokyo-shoseki.co.jp/product/books/81888/

 農研機構のオフィシャルサイトもぜひ見てください。

◎農研機構:https://www.naro.go.jp

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