2022/10/16 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、一般社団法人「森の演出家協会」の代表「土屋一昭(つちや・かずあき)」さんです。
土屋さんは1977年、東京都青梅市生まれ。2009年からネイチャーガイドとして活動、その後、森林セラピーガイドの資格を取得。そして2015年に森の演出家協会を設立、現在は青梅と奥多摩にある2軒の古民家を拠点に、森・人・食をつなぐ森の演出家として活動されています。
きょうは森林セラピーガイドの活動や、マッチング率抜群のアウトドア婚活イベントのお話などうかがいます。
☆写真協力:一般社団法人 森の演出家協会

東京最後の野生児!?
※土屋さんは「東京最後の野生児」と呼ばれていたそうですね。そう呼ばれるようになったのは、どうしてなんですか?
「僕が高校時代に、フジテレビの『晴れたらイイねッ!』っていう番組で、アナウンサーの益田由美さんが東京最後の野生児と名をつけてくださって、そこからですね、野生児として活動し始めたのは・・・」
●そもそもその番組には、どうして出演することになったんですか?
「その当時、高校の生物部に入っていまして、自分が野鳥と話ができたりとかしていて・・・たまたまテレビ局が来て、自分を出したいということで・・・」
●へぇ〜そうなんですね〜。東京都っていうと高層ビルのイメージすごく強いですけれども、東京の西のほうはそうではないんですね?
「そうですね。自然豊かで自分の住んでいる所は、普通にクマさんがいる場所なので、東京なのに」
●えっ! 青梅で、ですか?
「はい、青梅のちょっと山奥に行くと、今年は栗が豊作で、栗を採りに行っている時もなんか気配を感じて、近くにクマがいたりとかしますね」

●子供の頃の遊び場が地元の森や川だったんですね。
「そうですね。多摩川の、羽田からずっと上っている上流では食べられる、すごく美味しいお魚がいっぱいいます」
●子供の頃はどんな遊びをしていたんですか?
「遊びというか、狩りですね。天然のヤマメを素手で採るっていう、代々受け継がれているんですけど、二代続けてできますね」
●すごいですね。そういうのはお父様から教わるのですか?
「はい、そうです。父親から学んで」
●お父様からの教えで、今でも大切にしていることってありますか?
「やっぱり自然は危ないこともあれば、すごく楽しいこともあるっていうことですね。日々カラダで体験体感しているので、ちょっとでも雨が降ったりとかしたら、いちばん早く逃げるガイドですね。最初に自らカラダが(危険を)感じ取れる、そういうのを目的にずーっと五感で体験して体感していますね」
●確かに自然の中で遊ぶには危ないことも含めて、いろいろ知っておかないといけないことも多いと思うんですけれども、そういうことはすべてお父様から教わってきたんですか?
「はい、そうですね」
ガイドとしての危機察知能力

※先ほど森の中で、危険を感じ取れるとおっしゃっていましたが、具体的にはどうやって察知するんですか?
「例えば、僕は先ほど言ったように五感で体験体感しているので、いつも鼻が効いているんですね。ちょっと風が吹いてきてクマ臭がするとか、例えばこれはサルだなとか、あとイタチ臭、タヌキ臭、全部分かるんですね、ヘビも。
さっき逃げるって言ったのも、いちばん最初に自分が感じて、危ないぞっていうのをまずお客様に知らせたい・・・だけど、クマの場合は逃げちゃいけないんで、クマがいた時には違う対処をするんですけど、なるべくキャーキャー言わせないように、クマがいたと知らせながら、目を離さずに降りていくとか。
ガイドウォークの前にも安全対策として、リスクマネージメントをちゃんとお教えしてから行きますね」
●臭いで分かるものなんですね?
「はい、マーキングをしていて、クマが自分のところに寄ってくるなって臭いを出しているんですね。クマはどんな臭いってよく聞かれるんですけど、自分はよく動物園に行って、クマだったり色んな(動物の)臭いを嗅いできたんですね。わからなかったら動物園に行くのが早くて、クマ臭はそのクマの臭いがすごくわかるんですよ。イノシシも特徴的で、動物はみんな違う臭いがしますね」
●なるほど、それで感知するわけですね。
「はい、ヘビも危ないなって思った瞬間に一瞬で逃げないと、マムシとかってそのまま飛んできたりするので。
ガイドがなんで逃げているんだって言われるかもしれないですけど、いつも体験体感しているからこそ、自分がやられちゃったら、二次被害が起きてしまうかもしれないので、瞬間に自分がぱっと動作をすることによって、お客様に知らせる行動もしているんです」
●天気の急変とかはどうやって感じるんですか?
「それも、急に冷たい風になったりとか・・・あとは土の匂い、雨の匂いがわかってくるんですね。風が読めると、あと10分ぐらいで雨が降ってくるなとか、そういうのもわかってきますね」
●匂いで!?
「匂いと肌感覚で、風が来た時にちょっと冷たく感じたりとかですね。この頃、豪雨も多いので、小っちゃい落ち葉が流れてきた瞬間から、これは上流で(大雨が)降っているから離れましょうとか、そういう形でわかりますね」

鳥の鳴き真似、まるで本物!
※自然遊びの先生はお父さん、ということでしたが、お父さんから鳥の鳴き真似も習ったそうですね?
「そうですね。二代続けて小さい頃から鳥の鳴き声ができるように、歯笛(はぶえ)で・・・父親もちょっと歯に隙間があって、そこに息を吹き込んだりして鳴き真似をするんですね」
●レパートリーってどれぐらいあるんですか?
「だいたい10種類くらいの鳥を呼べますね」
●へぇ〜! 今(鳴き真似を)できたりしますか?
「やってみましょうか」
●やったぁー! お願いします。
「森に来たと思って聴いてみてください。何種類かやってみますね。[土屋さんの歯笛で鳴き真似♪] 聴こえましたか?」
●すごーい! 森ですね!
「森に来ましたか」
●森にいました!(笑)すごーい! 本当に鳥じゃないですか、土屋さん!
「そうですね。きのうもガイドウォークで鳥を呼んだら20羽ぐらいきて、みなさんびっくりしていましたね」
●ちなみに今やっていただいたのは、なんという鳥なんですか?
「シジュウカラっていう鳥と、あとはメジロですね」
●今は歯でやっていたんですよね。
「そうですね。歯の隙間で・・・」
●それで鳥を呼び寄せるわけですね。
「そうです。シジュウカラは何を言っているかがわかるようになってきて、それを研究しているかたもいますね。その鳴き声によって、逃げろーとか、ヘビが来たよーとか、求愛だったりとかですね」
●どうやって聴き分けるんですか?
「鳴き声のトーンがやっぱり違ったりするので・・・。さっきはメジロの高鳴っていうのをやっていて、これは求愛だったんですけど、”チュウチュウチュウチュウ”と上にあがって、ずーっと鳴いていくんですね」
●では、求愛じゃないバージョンもあるっていうことですね。
「はい、鳥をずーっと1年中、見ていると、ウグイスは春から夏にオスしか鳴かなくて、”ホーホケキョ”と。でもそれ以外は地鳴きと言って、”チャッチャ”っていう鳴き声だったりとか、実は1年中、ウグイスはいるんです」
●面白いですね〜。鳴き真似をいろいろ研究するっていうのもいいですね〜。
「そうですね。地方によってウグイスも鳴き方が違ったり、方言があったりとかして面白いですね」
●えーっ! 鳥にも方言があるんですか?
「はい。やっぱりそこにいる鳥の、いちばんかっこいいオスの鳴き真似をするんですね。鳥はそこが面白いんですね」
●鳥の世界にもカリスマがいるんですね!
「そうですね。かっこいい鳴き声がするほど、メスが寄ってくるという・・・」
※もう少し野鳥の鳴き真似を聴きたいと思って、土屋さんにお願いしました。続いては、シジュウカラの求愛です。
[土屋さんの歯笛♪]
●あともうひとつ、なにかあります?
「いちばんみなさんがわかるウグイスですかね。ウグイスの場合は歯笛じゃなくて口笛ですけど、ちょっとやってみましょうか。[土屋さん歯笛♪]」

五感メソッド〜12段の石積み
※森林セラピーガイドとして、一般のかたを森にいざなう活動を続けていく中で「五感メソッド」という手法が確立していったと聞いています。どんなメソッドなのか、教えていただけますか。
「自分の五感メソッドは、やっぱり鳥と会話ができるっていうのが強みですね。見る体験、聴く体験の、五感のうちの二感を自分ができるというのが・・・。
あと調理師(免許)を持っているので、地産地消じゃなくて自産自消ですね。自分が作ったものとか、あとそこにあるものをみなさんで採って食べる・・・食活って言うんですけど、嫌いなものも、お子さんでも自分で採ったものは食べられるっていう食育活動・・・そういうのもやっていますね。
森活と言って、森の活動もしていながら、森の中でゴミ拾いだったりとか、あと森の中に来てもらって、座感って言うんですけど、座って深呼吸してもらったりとか・・・。
普通のガイドウォークではなくて、石積みをするんですね。石も12段積むっていう、これも自分が考えたメソッドに入っているんですけど、5段6段は誰でもできちゃうんです。12段っていう壁がありまして、これは石と意思の疎通ができないと、自分の心と石が体験や体感して、本当に体が一体にならないと12段って結構難しいんですね」
●確かに。石を12段積み上げるんですよね。グラグラしちゃいそうですけれど。
「グラグラしている時は心も揺らいでいたりとか、それこそ本当に石と意思疎通・・・(笑)」
●すごく集中できそうですね。
「最初はみなさん、ちょっと疲れているかたとか、あんまりやりたくなかったりとかする中、それでもよくて、深呼吸をしながら・・・誰かがひとつ達成すると、私も! ってなるんですね。最後には本気で12段を積んで帰って行かれるんですね」
●みなさん、できるようにはなるんですか?
「はい、必ずみなさん、なっていますね。時間はかかりますけど」
(編集部注:土屋さんが森林セラピーガイドの資格を取ることにしたのは、新宿で調理師として働いていた頃、都会の空気や仕事のストレスで体に不調をきたした時に、森の中に座っているだけで体力や気力が蘇ってきたからだそうです。
そんな経験から森には癒しの効果があると確信、その理論や科学的な根拠を身につけるために、試験の3日前に申込み、猛勉強をして見事、合格したそうです)
森の中で婚活イベント
※土屋さんは、意外な活動として、アウトドアでのウェディングや婚活のプロデュースもされていますよね。
「そうですね。自分も装飾デザイナーとかフラワーデザインの資格を取りました。生け花とかもひと通り全部学んで、それもちゃんと勉強したんですけど、やっぱり自然を知っているので、先生たちはなにも教えることがないっていう、最初から基本を知っているというか、自然で僕は生まれているので、ほかの人よりは全然違うというふうに言われましたね」
●さすが野生児ですね!
「もう野生爺になってきましたけど(笑)」
●あははは。アウトドアでのウエディングですとか、婚活のプロデュースっていうのは、具体的にどんなことをされているんですか?
「婚活については、自分が手掛けたのは、森の中で、石のところに女性が座っていて、それで男性がそこに5分なら5分、最初から座ってもらって、リラックスしたアイスブレイクした状態から始まるんですね。だからやっていく回数ごとに結婚された方とかいらっしゃいますね」
●え〜っ! マッチング率が高いんですね。
「マッチング率、すごく高いですね」
●どういうパターンがいちばんマッチング率が高いなって感じましたか?
「やっぱり自然の中で体験や体感することですね。それこそヤマメを手で捕ってもらうとか、男女がキャーキャー言いながら捕って、それを塩焼きにして、みなさん同じ行動をして焼いて食べる、そのヤマメの美味しさと同時に婚活ができるみたいな・・・」
●面白いですね。確かに自然の中でやるっていうのがすごくリフレッシュ、リラックスして、素になれそうな感じもしますよね。
「そうなんです。最初からもう素で、お互いが素で、そこでバーベキューとかすると、所作が綺麗だったりとか、違うところが見えてくるじゃないですか、お互いに。この人、火を起こせてかっこいいって思ったりとか、そういうのが生身の人間なので、最初に飲み会とかではなくて、自分の場合はフィールドが森なので、森の中で演出しながら、森の婚活事業をやっています」

野生児を次世代に
※それでは「森の演出家」としての夢を教えてください。
「夢はやっぱり次世代に残したいなと思って、全国に森の演出家が、森プロがいっぱい増えればいいなと。結構これは難しいと思ってはいるんですけど、野生児を次世代に残さないといけないので、小さいお子さんもどんどんフィールドに行ってもらって、野生児を今増やしているところです」
●では最後に、東京最後の野生児として伝えたいことをお願いします。
「やっぱり野生児は森に生かされている、自然がなければ、森の活動ができないので、自然はやっぱりすごく大切なものですよね。
温暖化になってきましたけど、いろいろなものがやっぱり変わって、東京の奥多摩でも変わってきたり、温度が高くなっているとか・・・そういうことも小さいお子にも学んでもらう、そういう教室も始めていますので、次に繋がる森の演出家になりたいと思っています」

INFORMATION

土屋さんは、東京の青梅と奥多摩の古民家を拠点に森林浴ほか、森の中で鳥の声を聴いたり、多摩川の水に触れたり、森の恵みを食べたりと、五感を使った2時間のガイドウォークを実施。企業研修や免疫力アップなどにも活用されているそうです。
ほかにも森の演出家協会では新潟県長岡で、キャンプのノウハウを、実践を通して学ぶ「キャンプの楽校」なども実施されています。
詳しくは一般社団法人「森の演出家協会」のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎「森の演出家協会」HP:https://www.mori-pro.life/
2022/10/16 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. COUNTRY ROAD / JAMES TAYLOR
M2. WILD WORLD / MR. BIG
M3. DANGER ZONE / THE G.GARDEN SINGERS
M4. ヘロン / 山下達郎
M5. いつまでも feat. SoulJa / 青山テルマ
M6. MARRY YOU / BRUNO MARS
M7. NEXT TO YOU / BEBEL GILBERTO
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2022/10/9 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、海洋ごみ由来の再生ポリエステルで作ったウエアを展開するアパレルブランド「マリブシャツ」のブランドマネージャー「菅井章弘(すがい・あきひろ)」さんです。
2004年にアメリカ・カリフォルニアのマリブビーチで誕生したマリブシャツ。創業者はグラフィック・デザイナーで広告デザイン事務所を経営していたデニー・ムーアさん。
若い頃から海とサーフィンを愛し、アンティークな広告アートやサーフシーンの写真をコレクションしていたデニーさんが、Tシャツに、集めたアートや写真をプリントして販売したのがきっかけで、マリブシャツというブランドが生まれたそうです。その特徴はビンテージライクでシンプルなデザイン、ラインナップはTシャツやパーカーがメインとなっています。
日本版のマリブシャツは2021年から販売がスタート。オリジナルのマリブシャツがコットン製なのに対して、日本版は海洋ごみ由来の再生ポリエステルを使っているのが大きな特徴です。
これは菅井さんをはじめとする日本側のスタッフが、ビーチやサーフシーンで愛されているマリブシャツであるならば、ブランドとして自然環境になにか貢献できないか、そんな思いから「海への恩返し」というコンセプトが生まれ、海洋ごみを原料とする再生素材のブランド「マリブシャツ・ジャパン」が誕生しました。キャッチコピーは「このウエアは海をきれいにする」となっています。
菅井さんにお話をうかがう前に、海洋ごみの現状について。
プラごみは、年間におよそ800万トンもの量が世界の海に流れ出ているとされていて、これはごみの収集車に換算すると、1分に1台分のプラごみを海に捨てているのと同じだそうです。このまま増え続けると、世界の海に流れ出ているプラごみは2050年には魚の量を超えると言われています。
海洋ごみの問題にどう取り組んでいくのか、いま私たちの覚悟と行動が問われています。
そこで今週は、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」第9弾! 「SDGs=持続可能な開発目標」の中から「海の豊かさを守ろう」!
☆写真協力:マリブシャツ

シンプルでお洒落! 水陸両用!?
※それでは、ブランドマネージャーの菅井章弘さんに商品の特徴について具体的にお話をうかがっていきます。

●きょうはマリブシャツの商品をたくさんスタジオにお持ちいただきました。ありがとうございます。それぞれ商品の説明をお願いします。これはショートパンツですか?
「これは我々がラッシュガードと呼ぶ素材、あだ名なんですけど、その素材を使用しております。要は海でも街中でもプールでも着用できる、そういうものです」
●すごくシンプルでワンポイントのロゴがあって、これはいいですね。女性も男性も着やすいというか・・・いま菅井さんが着てらっしゃるのもそうですか?
「同じ素材のTシャツです。そもそもこの素材でTシャツを販売していたんですね。で、お客様のリクエストで、この素材でパンツができないですかという声をいくつか聞くようになったのと、あとは今の流行りですけど、セットアップできるとかっこいいので、それでパンツも作ってみたという次第です」

●シンプルですごくお洒落、モダンでかっこいいですね。ほかにもTシャツ、パーカー、ロング Tシャツ、トレーナーなど、いろんな商品をお持ちいただきましたけれども、ひとつずつご紹介いただけますか。
「まず、今おっしゃっていただいたような商品群というかアイテムを作っている理由なんですけど、これも本国のマリブシャツ、彼らも同じようにTシャツやパーカーばかりを作っているんですね。彼らはそのことでカリフォルニアであるとか、ハワイとかの海辺のライフスタイル、これを提案しているんです。
僕らの場合はビーチサイドというよりは、ベイエリアって感じで都市部も含んだ、でも海を感じられるようなリラックスしたライフスタイルの提案をしたいということで、トレーナーやパーカー、Tシャツなどに商品を絞っております。

僕たちの特徴としては、先ほどからお話している海洋ごみからリサイクルされたポリエステルを原料にして商品を作ろうということを決めてやっております。ただポリエステル100%にしてしまうと、作れる商品の幅が狭くなってしまいますので、ポリエステルと綿のミックスのグループであるとか・・・」
●気持ちいいですね、肌触りも・・・。
「これはすごく手をかけて作っております。あとは先ほどのショートパンツや、僕が着ているT シャツに機能を持たせるために、敢えてポリエステル100%で作っている商品のグループもあります」
●撥水加工というか・・・?
「撥水というより、濡れても全然いいっていう状態ですね。これを販売されているアパレル様にも僕ら卸しているんですが、水陸両用なんて言って販売されたりしています」
ONE OCEAN、未来につなぐ
※マリブシャツの素材になっている再生ポリエステルの原料は、どこで作っているんですか?
「北米にある再生原料を主に作っているプラント、企業がございます。そちらから原料を購入して、僕たちが糸から作って生地にして、洋服にしているという流れです。
ここにその見本があるんですが、その北米の企業は大型の船を出して、例えば太平洋でごみを回収するんですね。その回収したごみを自分たちのプラントに持ち込んで、洗浄して砕いたものがこの状態です。ガラスの破片みたいな、これを溶かして、ティペットっていうんですけど、このつぶ状のものがポリエステルの原料です」

●ガラスの破片みたいなものからビーズのような形状になりましたね。
「この状態にすると移動ができるんですね。この状態から様々な、例えばこういうペットボトルも作られます。この状態のものを、彼らが原料を供給する工場が中国にあるんですが、その工場に持ち込んで、この綿の状態にまで彼らがしてくれます」
●ビーズのような状態から綿に・・・?
「溶かして小さなノズルから吹き出すことで、この繊維状のものができるんです。ただこの綿だと洋服にはならないんですね。ここから綿とミックスしたり、いろいろな手法で、僕たちが糸を作るんです。この糸を編んで生地にして洋服になっています」
●なるほど〜、そういう経緯なんですね。海洋ごみ由来のエコ素材の名前が「ONE OCEAN」って言うんですよね?
「マリブシャツを始めるにあたって、立ち上げたというより、そもそも我々が開発を進めていた素材になります。マリブシャツ・ジャパンとしてマリブシャツ・チームとして、今はマリブシャツのためにこのONE OCEANという素材グループを使っております。
ONE OCEANというのは、海洋ごみからリサイクルしたポリエステルを原料にした素材のグループです。その中にこのような、ボクらがTCと呼ぶ、綿と混紡した素材であるとか、ポリエステル100%の素材であるとか様々あります。
我々がONE OCEANっていう名前をこのグループに付けたのは、やはり海はひとつしかない、これに尽きます。しかも未来につなぐのにもひとつしかないから、そのひとつを守ろうという意味でONE OCEANという名前をつけました」
使ったプラごみの量を表示!?
※商品に「ONE OCEAN」のカードが付けられていて、その裏にペットボトルの絵が表示されていますが、これは何ですか?

「これはそのものずばりこの商品に含まれている、海で回収されたごみの量を1.5リットルのペットボトルに換算して表しております」
●このパーカーは8本分くらいですね。
「8.3本ですかね。大きなペットボトル8.3本分の、海のプラごみがなくなって、ここに入っているという、その証です」
●そうなんですね〜。地球にいいことしているなっていうことを、着ながら感じられますね。
「そう思っていただきたく・・・」
●ブランド「マリブシャツ」のデザイン的な特徴っていうのは、どんなところなんですか?
「やっぱり僕たち、せっかく海洋ごみを再生して洋服にしたのに、すぐ飽きられて捨てられてしまうようなものを作りたくなかったので、そのことがあって、定番っていうものにこだわりました。
それと本国のマリブシャツも同じ考え方で、カジュアルな定番のお洋服、でもリラックスした生活を提供するっていうのが僕たちの狙いなんで、デザインのこだわりはもうとにかく定番の商品を作ること。
ここには私たちマリブシャツ・チームのメンバーの葛藤もあるんですけど、定番というのはなかなか難しくて、どこまでシンプルにするか、でもこれはデザインのポイントとして入れたい、みたいなことを話し合って、その中からシンプルで長く着られて、様々なコーディネートに取り入れやすいものを狙って作っております」

●シンプルなのに地味すぎないっていうのが、すごいなって思います。お洒落です。 アーティストとのコラボ商品もあるんですよね?
「これが、無地にこだわっている理由なんですが、本国のマリブシャツは、デニーさんが集めたアートをあしらって販売しております。我々もそれを考えたんですが、僕たちだけで洋服を完成させきらず、着てくださるかたとか、外の人たちと何かをすることによって完成する余白を残したいっていうのもあって、僕らは無地がメインになっているんですね。なので、時折アーティストのかたとコラボレーションをして、そのかたのアートをプリントして販売しております。
その中で国内だと、中西伶さんや小泉遼さんの絵をプリントしてっていうことをしております。アーティストさんとのコラボは、いま名前を挙げた画家のかた、あとはカメラマンさんとか・・・アーティストという意味では、フラワーアレンジメントのとても著名というか若いかたなんですけど、元気に活動されているかたがいます。そのかたとも共感した時に、アレンジした花をカメラマンさんに撮っていただいて、コラージュしてっていう形でのコラボもあります。
コラボレーションする時の考え方は、そのかたとシンパシーがあった時とか、アーティストのかたも、マリブシャツが海洋ごみから再生して上質なものを作っている、そういうことに共鳴して(一緒に)やろうって言ってくださったり・・・そういう時にコラボレーションしております」
(編集部注:マリブシャツはアーティストとのコラボのほか、BEAMSのB:MINGやSNIDELといったアパレルブランドともコラボレーションしたことがあるそうです)
マニラ麻やバナナでエコ素材を開発!?
※マリブシャツは、アパレル関連の事業を行なっている「MNインターファッション」という会社のブランドですが、このMNインターファッションでは、マリブシャツで使っている海洋ごみ由来の素材のほかにも、エコ素材を開発しているそうです。どんな素材があるんですか?
「素材では”ブリコ”という素材のブランドを持っております。特徴としては、インドの工場にいらなくなった廃棄衣料を持ち込んで、反毛(はんもう)っていうんですけど、砕くんです。そして綿状にして、ここからまた糸を再生して生地を作る、そういうリサイクルの生地のブランドがあります。
あとは、エコ素材で”ワクロス”あるいは”バナナクロス”という、これも商標をとっている我々の生地ブランドなんですが、綿=コットンは栽培するために水を大量に使う、あるいは土地を痩せさせてしまうことがあるんですね。
なので、綿よりももっと効率的に成長してくれて繊維が取れるもの、ということで、ワクロスには成長の早いマニラ麻を使っています。これはひとつの畑で1年間に何度でも採れるんですね。水を使わずに土地も傷めずにどんどん成長してくれます。このマニラ麻を紙にして、この紙を繊維状にしたものがワクロスです。紙にすると抗菌性とかいろいろな機能がつくので、役に立つ素晴らしい素材になるんです。
あとはちょっと面白いんですけど、バナナクロスはバナナの幹の部分を使っているんですよ。栽培されているバナナは、実を採る時に幹ごと切っちゃうんですよね。実を採ったあとの廃棄される幹はすごい量になるから、これを再利用しようと・・・植物なので幹から繊維が採れますから、その繊維を生地にしたり・・・このような素材があります」
海のごみをなくしたい!
※国連が主導する「持続可能な開発目標=SDGs」もそうですけど、環境に配慮しない企業は今後、生き残れないと思うんですが、菅井さんはどう思いますか?
「これは本当にそう思います。企業にだけその責任を負わせるのではなく、我々も生活の中で、そのことを考えるべきだなってものすごく思います。
そこがそもそもマリブシャツをやろうなんて言い出したところでもあるんですけど、我々マリブシャツ・ジャパンのメンバーはアウトドアとかサーフィンをやるメンバーが多くて、常に自分が触れている自然が汚れているとか、海が汚れているとかって気になるんです。
ほんとに目に見えて分かることだから、まずはそういうこともあるし、あとはカーボンニュートラルのこともそうですけど、とにかく、僕たちが安全に生きるためには、どうしても化学的に作ったケミカルなものも必要だと思うんです。
ただ、やりすぎ、使いすぎで、地球がおかしくなるようなところには行ってはいけないし、行きつつあるから、今おっしゃられたようなサステナブルな目標はいろいろ項目がありますけれども、ちゃんと考えて、それを抑えてやっていく活動がなかったら、もう地球が持たないと思うので必要なことだと思います」
●そうですね。先ほどマリブシャツ・ジャパンのメンバーにはアウトドア好きが多いとおっしゃっていましたけど、菅井さんもサーフィンをされるんですよね。
「恥ずかしながら。もう引退してしまったんですけど・・・」
●引退・・・?
「もう僕は50を越しているので、ちょっと今は行っていないんですけど、40ちょっとまで・・・20代前半ぐらいから20年間ぐらいはサーフィンをやっておりました」
●わ〜〜、どの辺りで?
「僕、生まれが茨城県なのですが、阿字ヶ浦とか大洗とかでガンガンにやっていました」
●かっこいいですねー!
「全然(笑)カッコよくないです。ちょっとここでサーフィンの話を挟みたいんですけど、僕ら茨城勢から見ると湘南のサーファーとかすごくカッコよくて、ウエットスーツとかも綺麗だし、持っているボードのブランドとかも! 千葉もそうですよね、お洒落! だけど茨城のサーファーは今は違うんでしょうけど、僕がやっていた頃はウエットスーツはみんな黒一色だし、あまりカッコよくなかったです」
●え〜〜、そうなんですか(笑)。マリブシャツの創業者デニー・ムーアさんもサーファーなんですよね?
「デニーさんもサーファーです。彼はマリブビーチってところで生まれたから、小さい頃から海に触れ合っていて・・・あとはご両親の趣味なんでしょうね。デニーさんから聞いたんですが、小さい頃からハワイによく連れて行かれていて、日本でいう沖縄旅行みたいなものですよね」
●菅井さんもデニーさんもサーファーということですから、お互いにシンパシーみたいなものを感じたんじゃないですか?
「お互いにルックス的には元サーファーですね。現サーファーって感じじゃないですね(笑)」
※では最後に、ブランド・マネージャーとして、マリブシャツというブランドを、どんな風に育てていきたいですか?
「やっぱり最初に立てた志というか、本当に海洋ごみはすごいことになっていて、これを取り除くためには、ただ取り除いてくださいって言っても、誰も手を出せない。でも取ってくれば、このように原料になって再利用して洋服が作れる。だからこれをどんどんとにかく続けていきたいですよね。そして海のゴミをなくしたい。これが僕たちの今強い思いになっているので、それを続けていくというのが願いですね」

INFORMATION
アパレルブランド「マリブシャツ」

マリブシャツの Tシャツやパーカーは、本当にシンプルなデザインで、カラーの基本は黒と白。素材の質感が素晴らしく、生地もしっかりしているので、長く着られる、まさに定番ウエア、おすすめです。ぜひお試しください。
お買い求めは「マリブシャツ」のECサイトから、どうぞ。
◎「マリブシャツ」HP: https://malibushirtsjapan.com/concept
2022/10/9 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. I’M YOURS / JASON MRAZ
M2. Life is Beautiful / 平井大
M3. OCEAN EYES / BILLIE EILISH
M4. THE LAZY SONG / BRUNO MARS
M5. 東京VICTORY / サザンオールスターズ
M6. FREE / DONAVON FRANKENREITER feat. JACK JOHNSON
M7. THIS ONE / ROOS JONKER & DEAN TIPPET
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2022/10/2 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、イラストエッセイストの「松鳥むう」さんです。
漫画風なイラストと親しみやすいエッセイで人気の松鳥さんは、離島とゲストハウス、そして地元滋賀県内の民俗行事をめぐる旅をライフワークとされています。
20歳のときの卒業旅行で、屋久島に行ったことをきっかけに島旅にハマってしまった松鳥さんは、これまでに118の有人島を訪れていて、泊まったゲストハウスは100軒以上。その土地の日常の暮らしに、ちょっとだけお邪魔させてもらう旅が好きで、地元の民俗行事や郷土料理との出会いも大事にされています。
きょうは主に、あまり知られていない珍しい郷土料理のお話などうかがいます。
☆写真&イラストレーション:松鳥むう

元気の素、鹿児島の茶節
※松鳥さんは先頃『むう風土記(ふどき)〜ごはんで紐解く日本の民俗・ならわし 再発見録』という本を出されました。この本の狙いは、どんなところにありますか?

「幅広い年齢のかたに読んでもらいたいのと、自分の地域を改めて見る、みたいなことをしてもらいたいなと思ってるんですね。イラストをいっぱい入れたのは、文字が読めない小っちゃい子でも、イラストを見て面白いなと思ってくれたらいいなと思って・・・。
あと、私がボキャブラリーが少ないっていうのもあるんですけど、わかりやすい言葉で書いているので難しくないです。私が民俗行事にハマった時に、いろいろ面白いなと思って、本をあさったんですけど、先生がたが書いていらっしゃるのが多くて、興味はあるけど難しくて、読んでいる途中からカァーって寝てしまって(笑)・・・もうちょっととっつきやすいのがあったらいいなと思って、そんな感じで書いています」
●とっても読みやすかったです〜。この本に載っている記事の中からいくつかお聞きしたいと思うんですけれども、いろんなご飯が載っていましたね。興味深い食がたくさんあったんですけれども、まずは鹿児島県の”茶節(ちゃぶし)”。これはどんなものなんでしょうか?
「味噌汁を飲むような汁物の茶碗にお味噌を大さじ一杯、鹿児島なんで麦味噌なんですけど、そこに鰹節をひと握り入れて、そこにお茶をかけて飲むんです。簡単に言えば、グツグツしない超簡単な味噌汁ですね」

●本には「元気の素(もと)」、そして「のんべえの安らぎ」とも書かれていましたね。
「後半のは私の感想なんですよ、のんべえなんで(笑)。元気の素は鹿児島の郷土料理で、茶節はそうだって言われているんですけど、おばあちゃん世代でも、今はあまり飲む人がおられないらしくって、だいぶ上のおばあちゃん世代の人たちが毎朝飲んだりとか・・・。
あと、風邪をひいた時に親が作ってくれたという人がいたりしますけど、私はこれ(お酒を)飲んだあとの一杯に絶対いいと思っていて、全国の居酒屋の締めのメニューに入れるべきだと私は思っているんですよ(笑)」
●私ものんべえなので、すごく興味深いです!
「ちょっと飲んだあと、茶節を飲んだら二日酔いないですから、ぜひ飲んでください、簡単なんで」
●味はお味噌汁みたいな感じってことですよね?
「そうですね。お味噌の味と鰹節の出汁が勝っちゃうので、そんなにお茶の味はしないです。自分で作るときは、地元の人がお茶でもお湯でもいいって言ってたんで、自分の家でやるときはお湯をかけてやります」
(編集部注:沖縄にも「カチューユー」という、同じような汁物のお料理があるそうです。茶碗などに味噌と鰹節を入れてお湯を注ぐだけ。食欲がないときや風邪をひいた時などにおすすめだそうです)
記憶を失う!? 白川村の「どぶろく祭り」
※新しい本『むう風土記』で、岐阜県・白川村で開催される「どぶろく祭り」が紹介されていました。これはどんなお祭りなんですか?
「 毎年9月から10月に行なわれるんですけど、私が書いたのはその白川村の中でも平瀬温泉っていう、みなさんが知っているあの観光地の白川郷からちょっと離れているところなんですよ。10数キロ離れているところで、同じ村なんですけど、そこの集落の『どぶろく祭り』にお邪魔したんです。
どぶろくは、みなさんご存知の通り、あの白いどろっとしたやつなんですけど、それを神社で作っていらっしゃいます。全国各地にどぶろく祭りはあって、そういうところはたいがい地元の神社にどぶろくを作る場所があって、地元の人が作らはるんですけど、特別な許可をもらって作っていらっしゃって・・・。
この祭りがすごいのが、コロナ禍ではほかの場所の人とか入れなくてダメなんですけど、コロナ前の時はお客さんとか観光の人も来てよかったんです。観光地の白川郷のほうでも、別の神社でどぶろく祭りがあるんですけど、そっちだと観光客が多いから、どぶろくをひとり一杯ぐらいしかもらえないらしいんです。平瀬温泉のほうはそこまで観光客が来ないらしくて、何杯も飲めるって言われたんで喜んで行ったんですよ。

最初からどぶろくを飲むだけの祭りじゃなくって、ちゃんと獅子舞とかまわったりするんですよ。それで最後、神社でみんなござを敷いて、そこにみんな座って、どぶろくを注いでくれるお姉さまがたが、席をまわってくれはるんです。
まぁ“わんこそば”のように、なくなったと思ったら、いきなり現れてまた注いでいって(笑)、最初は観光客やからあんまり飲んだら申し訳ないと思って、遠慮していたんですけど、あまりにも来てくれるんで、喜んで飲んでいたら、記憶が一瞬のうちに消えて! すごいです、どぶろく。
でも地元の人たちはみんなそれを飲んで、さらにそのどぶろくを飲んだあとに、集落の別のスペースにステージを組んでいて、その平瀬温泉地区に住んでいる人たちはみんな芸達者で、みんなそこのステージで(芸を)発表されるんですよ、どぶろくをたんまり飲んだあとに!
私は記憶がなくなっているから、それを見てないんですけど、見た友達はめっちゃ素晴らしくレベルが高いって言ってはりました。しかもその平瀬温泉集落の人は芸達者の人が多くて、芸能プロダクションみたいなものを自分らで作っていて、若い人からおじいちゃんおばあちゃんまで入ってらっしゃるそうです」
●活気がありますね!
「ありすぎて、普段すごく小っちゃい集落なんで、そんな人がたくさんいるように見えないんですけど、すごいんです」
地元の人でも知らない納豆餅
※松鳥さんの地元滋賀に「納豆餅」という食べ物があるんですね?
「そうなんですよ。滋賀でも、私もその地域の人ではないので、全然知らなかったんですよ。滋賀県の大津市の山のほうに仰木(おうぎ)っていう地区があるんですけど、そこだけで食べられていて、ほかの人は多分、滋賀県の人も全然知らないんですよ」

行事食「納豆餅」
●どんな食べ物なんですか?
「たぶん関東の人は納豆餅っていうと、東北の丸めたお餅に納豆をまぶして食べるっていうのを知っている人が結構多いと思うんですけど、滋賀県のほうのは丸めたお餅を一回開いて、丸い平らな形にして、そこに納豆を置いて、納豆を餅で包んで食べるんですよ。三角チックな形で手も汚れず食べやすいという・・・。
しかもその餅のまわりにきなこをまぶすんですけど、きなこは砂糖じゃなくて塩味にしてまぶすんです。納豆と塩は合うじゃないですか。めっちゃいいですよね。
東北の納豆餅をお箸で食べると、納豆と餅がいつもバラバラになってうまく食べられないんですよね。餅を食べたあとに納豆を食べるみたいになってたから、包んでしまうとめっちゃ食べやすいみたいな・・・」
●なるほど〜。
「その滋賀県の納豆餅が、山を越えた隣の京都の山側にも、同じような納豆餅があって、そちらはバリエーションがもっと豊かなんですよ。
滋賀県と同じ包むバーションもあったり、ロールケーキみたいにして、ロールケーキのスポンジが餅で、中のクリームの部分が納豆みたいなロール状のとか、あと普通に切り餅、餅に埋め込んで四角い、よく売っている形にしたバーションとがあるんですよ」
●へぇ〜すごい。納豆文化があるっていうことなんですかね?
「そうです、そうです。昔から、平安時代の貴族の人は食べていたっていう文献があるらしいので(納豆文化は)あるんですね。その納豆餅のエリアは、田んぼのまわりに昔は大豆を植えていたので、どこの地域でも植えていると思うんですけど、大豆の栄養が稲にいくからいいっていうので、それで大豆があるから納豆を作っていたっていう感じらしいです」
(編集部注:ほかにも松鳥さんの地元滋賀には、ドジョウとナマズとご飯を漬け込み、発酵させた「ドショウとナマズのなれずし」という珍味があるそうです。松鳥さんがおっしゃるには、ブルーチーズの味にやや近い感じだそうですよ)

千葉の郷土料理「しもつかれ」
※千葉県のおすすめの伝統料理はありますか?
「千葉の人には多分メジャーではないと思うんですけど、今回の本にもちょっと書いている”しもつかれ”っていう料理があって、主には栃木県あたりがメインの郷土料理として取り上げられることが多いんですね。
このしもつかれっていうのが千葉と茨城と栃木と埼玉・・・きゅっと集まった県境があるじゃないですか。あの辺の郷土料理で、毎年初午(はつうま)の日に食べられる郷土料理なんです。だいたい2月の節分のあとぐらいなんですけど、その時に農家さんが地元の稲荷神社に、赤飯としもつかれを供えるっていうことなんです。
なぜ名前が“しもつかれか”っていうのは、話が長くなるので、それは本を読んでいただきたいなって思うんですけどね(笑)。
(具材として)入れるのは、大根と人参と油揚げ、あと酒粕と鮭の頭を入れて煮て、大根と人参は“鬼おろし”っていう台所用具でガリガリガリガリ擦って、鮭の頭も細かくなるまで煮る料理なんですね。
昔は年末に“年取り魚”っていって、塩鮭か塩鰤(しおぶり)を食べる文化が昔は各地域にあったんですけど、塩鮭が1月になってもちょこちょこ食べて、最後に余った頭まで残さず全部食べてしまおう、みたいのも合わさってできた郷土料理ですね。酒粕も入れるんで、蔵で酒粕が余っているのを入れるみたいな、農家さんだから大根いっぱい余っているから入れるみたいになったらしいんです。
そこに節分の時に出る大豆も入れちゃう、みたいな・・・それでグツグツ煮るんですね。好き嫌いがぱーんと分かれる郷土料理で、酒粕と鮭の匂いが相まって、嫌いな人は嫌いらしいなんですけど、私は好きなんですけどね。酒粕は好きなんで・・・」
●私、千葉出身ですけど、ぜんぜん知らなかったですね〜。
「千葉も上から下まで広いですもんね! そりゃ知らんですよ」
●興味深いですね〜。
「しもつかれ、ぜひ食べてみてください」
地元のスーパーのお惣菜コーナー!?
●伝統的なお祭りとか行事って、意外と近くにあるのかもっていうのをこの本を読んで思ったんですけど。
「あります、あります! 私もきっかけは、実家の隣の町にたまたま行った日に、神社でお祭りをやっていて、そこで行事食を出されて分けてもらったのがきっかけだったんですよ。
郷土食とか民族行事に興味を持ったのは、30後半か40歳の時なんです。その民族行事に出会ったのが・・・ぜんぜん知らなかったので、探したら多分めっちゃいろいろ出てくると思います。ただ、その料理を作れる人は年配のかたがたが圧倒的に多いので、今のうちに巡っておかないとなくなるなっていうのはありますね」
●旅先で美味しい郷土料理とか、代々伝わる家庭の味に出会うための、なにかコツのようなものってありますか?
「地元の図書館で調べるのと、もうひとつは地元のスーパーのお惣菜コーナーに行くと、知らん食べ物がちょろっと現れるんですよ。だいたいどこに行ってもメジャーなお惣菜は一緒なんですけど、あれ? これなんやろ? みたいなのがあるので、その時はそれを買って食べてみて、みたいな・・・」
●旅先で出会う食から、松鳥さんはどんなことを感じますか?
「材料が当時は豊富にあったであろうから、その郷土料理ができあがったけれど、環境や物流の変化でどんどん変わっていって、逆に揃えるのが大変になって、それでどんどん食べる人がいなくなって、現代の環境と合わないから、廃れていくんだろうなと思いつつ・・・。
でも、その料理がこの食材で作られたのはどうしてかって調べていくと、昔の人の生活とか物とか、人がどういうふうに動いていたのか・・・今とは違うルートで動いているんですよね。離れた地域に同じ食があったりしていて、その辺を巡っていくのも楽しいなって思います」

有人島・沖島から比良山系を望む

☆この他の松鳥むうさんのトークもご覧下さい。
INFORMATION
『むう風土記〜ごはんで紐解く日本の民俗・ならわし 再発見録』
松鳥さんの新しい本をぜひ読んでください。松鳥さんが旅で出会った食文化や伝統行事などがイラストともに紹介されています。こんな郷土料理があったのか、と驚きの連続で、楽しく読めますよ。おすすめです。
「A&F」から絶賛発売中です。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎「A&F」HP:https://aandf.co.jp/books/detail/mufudoki
本の発売を記念して、松鳥さんのトークイベントが10月22日(土)の午後2時から、東京駅前の新丸ビル7階の「MUSMUS」で開催されることになっています。山形県酒田市の郷土ごはんと飲み物がついて、入場料は2,000円。
詳しくは松鳥さんのオフィシャルサイトを見てくださいね。
◎松鳥むうさんのサイト http://muu-m.com
2022/10/2 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. MEMORIES / MAROON 5
M2. THE POWER / SUEDE
M3. FUNKY SIGN / STRUTT
M4. NEVER EVER / CIARA feat. YOUNG JEEZY
M5. ヒトツボシ / KOH+
M6. Hometown / Nulbarich
M7. HOMETOWN GLORY / ADELE
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2022/9/25 UP!
◎堀部貴紀(中部大学・准教授/サボテン博士)
『サボテンが地球を救う!? 計り知れないサボテンの可能性』(2022.09.25)
◎山本高樹(フリーライター・写真家)
『味の記憶は、旅の記憶 〜世界の旅で出会った「食」紀行』(2022.09.18)
◎中田兼介(京都女子大学・教授/動物行動学者)
『不思議で面白い!生き物の「りくつ」』(2022.09.11)
◎中嶋亮太・古賀陽子(情報サイト「プラなし生活」運営)
『シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第8弾!「目指せ! プラスチックフリーのライフスタイル!」』(2022.09.04)
2022/9/25 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、中部大学・准教授で、
サボテン博士の「堀部貴紀(ほりべ・たかのり)」さんです。
堀部さんは岐阜県出身。名古屋大学大学院を修了後、1年ほど岐阜放送・報道部に勤務。その後、研究の道に戻り、現在は中部大学でサボテンを研究中。日本では数少ないサボテン博士でいらっしゃいます。
堀部さんがサボテンを研究するようになったきっかけは、日本でいちばんサボテンの生産量が多いとされている愛知県春日井市のお祭りで、食用のサボテンに遭遇したこと。名古屋大学で園芸学や植物生態学を専攻していた堀部さんは俄然、サボテンに興味がわき、また、国内でほとんど研究されていないことを知って、春日井市にある中部大学にいれば、サボテンのサンプルがたくさん手に入る、そう思い、2015年からサボテンを専門に研究されています。
そして先頃『サボテンはすごい! 過酷な環境を生き抜く驚きのしくみ』という本を出されました。
きょうは、ほとんど知られていないサボテンのトゲの秘密のほか、いま世界が注目している、地球を救うかも知れない、サボテンの計り知れない可能性についてうかがいます。
☆写真協力:堀部貴紀

トゲの、驚きの役割
※園芸用として人気の多肉植物がありますが、サボテンも多肉植物、ですよね?
「はい。サボテンも基本的には多肉植物です。ただし、多肉植物って結構いい加減な言葉でして、学術上の定義がないんですね。こうだったら多肉植物という定義がなくて、だいたい水っぽくて膨らんでいたら、多肉植物っていう言葉の使われ方をしているんです。
でもサボテンの中には見た目が樹木みたいな、木みたいなサボテンもいるので、多肉植物じゃないサボテンもいます」
●へぇ~、そうなんですね。アロエはサボテンじゃないんですか?
「よく言われるんですけど、アロエはサボテンじゃないんですね。で、サボテンは何か? ってことなんですけど、サボテンは、バラ科とかイネ科とかあると思うんですけど、サボテン科っていうのがあって、サボテン科に含まれるやつをサボテンと言います」

●サボテンは世界に何種類ぐらいいるんですか?
「だいたい最近の研究だと、2000種類ぐらいですかね。ただし、品種がいろいろあって、イチゴでも『とちおとめ』とか『あまおう』とかあると思うんですけど、そういう品種を入れると、大体8000品種と言われています」
●そんなにあるんですね~。サボテンの原産国はどちらになるんですか?
「サボテンの原産国は、だいたい南北アメリカですね。結構広くて、北はカナダ南部から南はアルゼンチン・パタゴニア地方の先端までですね。南北アメリカ全体にサボテンはいます」

●そうなんですね~。サボテンの大きな特徴といえば、トゲですけれども、あれは何ですか?(笑)
「あれは葉っぱが変化したものだと言われています」
●葉っぱ!?
「昔、サボテンのトゲは葉っぱだったんですけど、葉っぱがだんだんと変化していって、葉っぱになったと考えられています」
●トゲの役割って何ですか?
「実はいろんな役割があって、まずは動物から食べられないように体を守っているよ、っていうのもあるんですけど、ほかにも例えば、強い光から身を守るカーテンみたいな役割をしたりですとか、あと高温とか低温から身を守る毛布みたいな役割をしてたりとか・・・まだまだあって、トゲから蜜をだしてアリを呼んだりとか、あと空気中の水を吸着するような機能も報告されています」
●ほぉ~、そうなんですね。サボテンは独特な形をしていますけど、どうしてあんな形になったんですか?
「まずサボテンは、丸っこいイメージがあるかと思うんですけど、あれはまず体の中に水を貯めているんですね。より具体的にいうと、茎の中に貯水組織といって、水をいっぱい貯める細胞があるんです。それがいっぱいあるから、ああいう丸くて水のタンクみたいになっているんですね。なので、長い期間、雨が降らなくても平気なんです。これまで長いものだと6年間、雨が降らなくても枯れなかったという報告がありますね」

体の一部からも繁殖!?
※植物のほとんどは花を咲かせ、タネを作って自分たちの生存範囲を広げていますが、サボテンはどうやって増えていくんですか?
「ほかの植物と同じようにまずタネで増えます。花が咲いて果実がなって、その中にタネが入っていて、そこから増えるんですけど、もうひとつ特徴的な増え方があって、植物体の一部からも繁殖するんですね。
具体的にはサボテンの枝とか茎の一部がぽろっと落ちて、そこからまた大きくなるんです。そういうのを『栄養繁殖』って言うんですけど、イモとか球根みたいなイメージですね。ぽろっと落ちた茎とかには水分がたくさん含まれているので、タネよりも生存する確率が高くなるんですね。タネはやっぱり小さいし、水もぜんぜん含んでいないけど、植物体の一部ですといっぱい水があるから、生存する確率が高いってことになります」
●サボテンの花は毎年咲くわけじゃないですよね!? 毎年咲くんですか?
「一応、毎年咲くんです。あまりサボテンの花が咲くイメージはないと思うんですけど、花が咲くまでに時間がかかるんです。種類にもよるんですけど、例えば”桃栗三年柿八年”という言葉がありますけれども、サボテンだと長いものだと最初の花が咲くまでに30年ぐらいかかります」
●だから花のイメージがあまりないんですね。
「そうなんですよね。でも1回咲くようになったら、毎年だいたい咲くんですよ」
●受粉は昆虫ですか?
「自生地ですとハチとか、夜咲く花だとコウモリとか蛾とか、まあやっぱり昆虫が多いですね」
●過酷な環境の自然界で、どうやって増えているのか、ちょっと想像がつかない世界なんですけど・・・。
「そうですよね。まあ普通にタネで増えるのもありますし、それこそトゲを使って、ほかの動物にくっついて移動していくサボテンもいるんですよ。
アリゾナ砂漠にいるやつなんですけど、“ジャンピング・カクタス”って呼ばれていて、ちょっとでも触るとトゲで体にくっ付いてくるんですよ。体の一部がぽろっと取れて、それを取ろうとすると、またその手にくっ付くので、ジャンプしているみたいだから、ジャンピング・カクタスっていうんですね。
そういうやつなんかは、本当にすれ違った動物にペタッとくっ付いて運ばれていって、別の場所で落ちて、根を張って成長するみたいな育ち方をするやつもいます。たくましいですね」
巨大なサボテンの林!?

※新しい本に、6〜7年前にアリゾナ州の国立公園に調査に行った話が載っていました。なぜアリゾナに行くことにしたんですか?
「それは、サワロサボテンっていうほんとに西部劇に出てくるような、ザ・サボテンがアリゾナ砂漠にいるんですね。それを見たかったからです」
●本の表紙になっている、大きなサボテンが林のようになっているのがその場所ですよね?
「そうです、そうです! アリゾナのサワロ国立公園っていう所ですね」
●実際にこの大きなサボテンをご覧になっていかがでしたか?
「いや〜もうびっくりというか感動ですよね! 普段そんなに生き物を見て感動するほうではないんですけれども、本当に初めて圧倒されて感動しましたね。おっ! すごいみたいな」

●大木ですよね、このサボテン!
「そうなんです。乾燥地なので木があまり生えていないんですね。さっきの大きなサワロサボテンは10メートル以上になるものも多いんですけど、それが何千本と見渡す限り生えていてなかなか感動ですよ。日本の人にも行ってほしい、本当に!」
●世界最大のサボテンが、このサワロサボテンになるんですか?
「昔はそのサワロサボテンが世界で最大だって言われていたんですけど、実は今は世界最大じゃないんです。
当時1996年には、17.5メートルあったので、ギネス記録を持っていたんですけど、2007年にほかのサボテンが19.2メートルの記録を出して、それは和名でいうと武倫柱(ぶりんちゅう)っていうサボテンがいて、(サワロサボテンと)同じような見た目のサボテンなんですけど、そっちが今は世界最大だと言われています」
●それはどこにいるんですか?
「それもアリゾナに生えているんですね。サワロと同じような場所に生えていて、見た目はそっくりですね」
●そんな大きなサボテンがいるんですね~。
「いやもう~びっくりしますよ! 近くで見たら」
●サワロサボテンに巣を作る鳥がいるんですよね?
「はい、キツツキですね。あとフクロウなんかも棲んでいますね。というのも乾燥地に行きますと木がないもんですから、サボテンがいちばん大きな植物になるんですね。なので、キツツキなんかがサボテンの幹に穴を開けて巣を作って、そこに棲んでいるんです」
●サボテンにキツツキ!?
「実際にソノラ砂漠に行きますと、サワロサボテンは穴だらけなんですよ。いたるところに穴が開いていて、その中に鳥が棲んでいるんですね。(現地に)行った時に幹をパーンと叩いたら、中から鳥がバサバサって出てきたんです。ガイドに怒られましたけれども、叩くなって(苦笑)」
●動物たちとの関係性があるんですね。
「生態系において大事な役割をしている植物を『キーストーン種』というんです」
●キーストーン種!?
「そうです。サワロサボテンはアリゾナ砂漠において、キーストーン種であるっていうふうに言われています。大事な役割をしているよ、っていうことですね」
*編集部注:堀部さんの本には、国内でサボテンを見られるスポットも掲載されています。伊豆シャボテン動物公園や筑波実験植物園などのほかに、なんと千葉県銚子市にあるウチワサボテンの群生地が紹介されています。
銚子市長崎町の海岸沿いにあって、海を背景にサボテンが見られる場所は珍しいそうで、堀部さんいわく、青い海にサボテンが映えて、おすすめだそうですよ。

メキシコは国旗にもスーパーにもサボテン!?
※サボテンといえば、メキシコをイメージするかたも多いと思います。堀部さんは、サボテンの聖地ともいえるメキシコにも調査に行かれていますが、メキシコの国旗には、サボテンが描かれているんですよね?
「そうなんです! あまり知られていないんですけど、メキシコの国旗を見ると、ど真ん中にサボテンが描かれているんですよ」
●知らなかったです! その由来は?
「ちょっと難しい話になっちゃうんですけど、昔アステカ人があちこちさまよっていた時に、神様のお告げとして、サボテンの上でヘビを食らっているワシがいる土地を探しなさい! そういうお告げがあったんですね。
そして見つかったのが、今メキシコシティがある場所なんですよ。そういう建国神話に由来していて、それで未だに国旗にはサボテンとワシが描かれているんです。国旗をよく見ると真ん中にサボテンがあって、その上にワシが乗っていて、さらに(ワシの)口にはヘビをくわえているんですよ」
●なるほど! 神話の通りなんですね。
「そうなんです!」
●メキシコでは食用サボテンをたくさん作っているんですよね。
「メキシコだとサボテンは、どちらかというと野菜なんですね」

●へぇ〜、どんなサボテンが食用に向いているんですか?
「だいたい食べるのはウチワサボテンですね。ウチワ型の平たいサボテンがあるんですけど、それを食べますね」
●どんな味がするんですか? サボテンって。
「日本にいると(サボテンは)食べられるの? みたいな、絶対まずいだろって言われるんですけど、結構美味しいんですよ。ちゃんと調理するとサボテンは美味しいんです! 言い切れますね」
●メキシコのスーパーマーケットに行くと、野菜と同じように食用のサボテンが並んでいるっていうことですか?
「普通に並んでいますし、特設コーナーを設けられることが多いですね、食用サボテン専門のコーナーが・・・。
サボテンはメキシコに行くと普通にその辺に生えているんですね。なので、昔は貧しい人が食べるものだと思われていたらしいんですけど、最近は機能性の報告なんかも多くて、富裕層が敢えてサボテンを食べるようになっているみたいです」

●ちょっとサボテンの味、想像がつかないんですけど〜。
「味はひとことでいうとネバネバして酸っぱいのが、サボテンの味なんですね。ちゃんと理由があって、サボテンはCAM(キャム)型光合成っていうちょっと変わった光合成をしていて、その光合成をするとリンゴ酸っていう酸が溜まるんです。だから酸っぱいっていうのと、ネバネバの物質は多糖なんですけど、水を逃さないためにそういうネバネバ物質を溜めているんですよ。だから酸っぱくてネバネバした味になるんです」
●酸っぱくてネバネバ・・・!?
「日本でいうとオクラとかメカブが近いですね。結構美味しいですよ」
●どうやってサボテンを調理するんですか? どんな料理に使われるんですか?
「日本だとちょっと誤った認識が広がってるんですけど(笑)、まず食べるサボテンは若くて柔らかい時のサボテンを使うんですよ。日本だと大きくなったサボテンをサボテンステーキだって言って食べちゃったりする、あれは違うんですよ。ああいうふうには食べないんですよ。大きいと固くなっちゃって、あまり食べられないんですね、タケノコみたいな感じで・・・。
メキシコや海外だと、柔らかいウチワサボテンを肉料理の添え物にすることが多いですね。というのもヌルネバ系なので、チキンとか赤みの肉とかと一緒に食べると飲み込みやすくなるんですよ。嚥下促進作用(えんげそくしんさよう)があって食べ合わせがいいと・・・。あとはそのままちょっと焼いたりとか、生でサラダに入れたりとかして食べることも多いですよね」

●へぇ〜、食べて見たいです〜。
「美味しいですよ、結構!」
*編集部注:サボテンの生産量と消費量は、やはりメキシコが世界一とされています。
サボテンが地球を救う!?
※サボテンが地球を救うと本に書かれていますが、いま世界でサボテンが注目されているそうですね。
「はい。まずサボテンに注目が集まっている理由はひとことで言いますと、どこでも育てられて用途が広いからなんですね。
具体的に言いますと、例えば野菜が育てられないような乾燥地でもサボテンなら育てられる。なので、地球温暖化や砂漠化に対して強いんですね。用途も例えば野菜にもできるし、家畜の飼料にもできるし、加工食品にもできるし、最近だとサプリメントや化粧品にも使える。つまりなんでも使えると。
さらに少ない水や肥料でも育てられるし、無駄がないと! つまり持続性がある植物として注目が集まっています。すごいんですよね。
2017年には国連食糧農業機関FAOが、これからはサボテンを積極的に使っていこうという声明も出しています。世界が注目!」

●サボテンには知られていないポテンシャルが、もっともっとありそうですね!
「そうなんです! これまでは、今もそうなんですけど、サボテンを食べるっていうことに注目が集まっていたんですね。でも、私が個人的に注目しているのは二酸化炭素の固定です。地球温暖化対策にサボテンが使えるかも知れない、というのに注目しています」
●え〜っ、サボテンが、ですか?
「そうなんです。具体的に言いますと、例えば地球温暖化を防ごうと思ったら、空気中の二酸化炭素を吸収しないといけないんですね。それで植林というのがひとつの選択肢としてあります。木を植えると。ただし、乾燥地だと木が植えられないんですね。でもサボテンだと乾燥地でも植林できる。なので、乾燥地で二酸化炭素を固定できるっていうのがひとつあるんですね。
しかも最近、実際に昨年の11月にイギリスで、COP26気候変動枠組み条約締約国会議というのがあったんですけど、そこでメキシコの企業がサボテンを使った植林事業、カーボンオフセット事業を実際に紹介しているんです。なので、すでに世界の企業は、サボテンを使ったカーボンオフセットを始めているんですね」
●サボテンって本当にすごいですね!
「すごいです! ついでに私の研究も紹介していいですか?」
●もちろんです!
「ちょうどそこをやっていまして、実はサボテンを二酸化炭素の固定に使うメリットがもうひとつあって、サボテンは空気中の二酸化炭素を結晶化することができるんです」
●結晶化!?
「具体的に言いますと、透明な金平糖(こんぺいとう)みたいな結晶に二酸化炭素を変換しちゃうんですよ。バイオミネラルって言うんですけど、石みたいにしちゃうんですね。そうするとなにがいいかって言いますと、普通の木だと枯れた時に木の中にあった二酸化炭素は全部また逃げていっちゃうんです。
なので、保持できるのは一時的なんですけど、サボテンだと体に閉じ込めた二酸化炭素の一部が結晶化しているので、サボテンが枯れても出ていかないんです」
●残るわけですね!
「残るんですね、地面に。なので、二酸化炭素の長期固定にサボテンは使えるかもしれないということです。そうすると1000年以上、安定して二酸化炭素を固定できる、そのメカニズム、どうやってサボテンが二酸化炭素を結晶化しているのかとか、その結晶がサボテンの中で何をやっているのかを私は今調べています」
*編集部注:実は堀部さんはつい最近、カンボジアに行っていたそうです。これは日本の企業や政府機関とともに行なう人道支援事業のためで、カンボジアにたくさん残されている地雷原の跡地に、食用になるウチワサボテンを植え、雇用を産み出し、産業を作るというものだそうです。サボテンの可能性がさらに広がりそうですね。
●では最後に、サボテン博士として研究対象であるサボテンから、改めてどんなことを感じていらっしゃいますか?
「そうですね。正直、サボテンに限ったことではないんですけれども、生き物ってすごいなぁっていうことですね。と言いますのは、サボテンについて調べていると、乾燥とか高温に耐えるための仕組みが何重にも存在するんです。
さっきご紹介した茎の形だったりとかトゲだったりとか、あと根っこの構造なんかも乾燥に強くなるための仕組みが何重にも備わっているんですね。それはサボテンだけではなくて、すべての生き物はそれぞれに特徴的な生きる力っていうのを持っているんです。
そういうのを見るとすごく感心しますし、なんか元気づけられるんです。生き物は、生きるための仕組みをすごく備えて、よくできているから、多分自分も大丈夫なんじゃないかなみたいに思っているんですよね。勝手に励まされるみたいな感じです」
INFORMATION
サボテンに興味を持ったかたは、堀部さんの本をぜひ読んでください。サボテンに関する学術的なことも載っていますが、サボテンの初心者のかたが読んでも「へ〜〜っ! そうなんだ〜!」の連続で、面白いですよ。アリゾナやメキシコに調査に行った時の珍道中も楽しく読めます。サボテン・多肉植物のミニ図鑑も掲載されています。ぜひご覧ください。
ベレ出版から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎ベレ出版HP:https://www.beret.co.jp/books/detail/841
堀部さんの研究室のサイトもぜひ見てくださいね。
◎堀部さんの研究室HP:https://www3.chubu.ac.jp/faculty/horibe_takanori/
2022/9/25 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. LOVE STORY / TAYLOR SWIFT
M2. RING OF FIRE / JOHNNY CASH
M3. JUMPIN’ JACK FLASH / THE ROLLING STONES
M4. RAWHIDE / FRANKIE LAINE
M5. サボテン / ポルノグラフィティ
M6. DESPACITO feat. JUSTINE BIEBER / LUIS FONSI & DADDY YANKEE
M7. ALWAYS ON MY MIND / WILLIE NELSON
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2022/9/18 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、フリーライターで写真家の「山本高樹」さんです。
山本さんは1969年、岡山生まれ。出版社勤務と海外を巡る旅のあと、2001年からフリーランスとして活動、2007年からはインド北部の山岳地帯、標高3500メートルの地に広がるチベット文化圏「ラダック」地方を長期取材。
その後もラダックの取材をライフワークとし、現地の人たちやその土地の気候風土と向き合い、丁寧な取材をもとに文章を書き、本として出版されています。そして2020年に出版した『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』が第6回「斎藤茂太賞」を受賞。
そんな「山本」さんが3年ぶりにインド北部を訪れ、先頃帰国されたということで、改めて番組にお迎えすることになりました。
きょうは最新版のラダックの旅、そして先頃出された本『旅は旨くて、時々苦い』から世界の旅で出会った「食」のお話をうかがいます。
☆写真:山本高樹

インド北部、へき地をまわるひとり旅
※山本さんはこの夏に、次に出版する本の取材のためにインド北部を訪れています。3年ぶりの海外ということで、最初は英語のフレーズがすぐに出てこなかったり、荷造りに手間取ったりと、勘が戻らなかったそうですよ。
今回訪れたのは、山本さんのメイン・フィールド、インド北部のラダック地方ということなんですが、日本から目的地まで、どうやって行ったんですか?
「僕が取材した範囲に関しては、インドの首都デリーまで日本から直行便が飛んでいますので、それに乗って行きました。
デリーからラダック地方の中心地になるレイという町までは、飛行機で1時間ちょっとで飛ぶので、往路は飛行機でそこまで行って、そのあとはひたすら1ヶ月半ぐらいずーっと車だったりバスだったり、陸路でだいたい1800キロぐらい移動しました。平坦な道は最後の300キロぐらいしかなくて(苦笑)、あとはずっと悪路でしたね」

●えぇ〜、そうなんですか。タフな旅でしたね。
「そうでしたね。トレッキングはしなかったので、そういう意味では体力は使わなかったんですけど、ずーっと悪路で揺られている状態だったので、別の意味で体力を使う旅だったのかなと思います」
●行かれたのは8月ですか?
「7月の中旬から8月の下旬ぐらいまで、1ヶ月半ぐらいという感じです」
●その頃のインド北部はどんな気候なんですか?
「僕が行った地域は、ほとんど標高が3500メートル以上の富士山ぐらいの標高のところが多くて、日差しは強くて暑いんですけれども、夜は涼しくてクーラーとか全然なくても眠れるような、乾燥してすっきりした気候ですね」
●今回もやっぱり、へき地を巡る旅っていう感じだったんでしょうか?
「そうですね(笑)。本当にへき地ばっかり。ただ、行き慣れている場所ではあるので、新鮮な驚きを持つ旅というよりは、どっちかというと帰省したみたいな感じの(笑)、久しぶりに戻ったなみたいな感じの旅でしたね」
●どのあたりを重点的にまわられたんですか?
「本のための取材という目的があったので、陸路で少しずつ移動しながら、行く先々を少しずつ、町や村の調査をしながらまわってましたね」
●今回もおひとりで行かれたんですか?
「そうですね。僕は職業がライターで、写真も撮る人間なんですね。人件費を余分にかけられないので、写真が撮れなかったらカメラマンさんをお願いするんですけど、僕は自分で撮れるので、より予算を節約するためにひとりで行くというパターンです。どんな仕事でもひとりで取材に行っていますね」

忘れられない衝撃の味
※へき地の旅は体力を維持するためにも、特に食事が大事になってくると思いますが、今回の旅で美味しいものとの出会いはありましたか?
「まわっている中で、スピティというチベット文化圏の、標高4000メートルぐらいのところにあるデムルという村に行ったんですけれども、そこに10年以上前から友達の実家があって、彼の家に泊めてもらったんです。
昔も食べさせてもらったんですけども・・・その村はたくさん牛を飼っていて、新鮮なミルクでヨーグルトやバター、チーズとか作るんですね。そこで朝ごはんにパンに付けて食べたバターやヨーグルトがすっごいフレッシュで、忘れられない衝撃の味で、本当に美味しいんですよ!
標高4000メートルの青い草しか食べていない、牛から採った牛乳で作ったバターとかヨーグルトなので、混じりっけなしのスッキリとした味なんですよ。10年ぶりぐらいに食べさせてもらって、やっぱり感動しましたね」

●いいですね〜。今回そのお友達のおうちにずっと泊まっていたんですか?
「その家に泊まっていたのは、3日間ぐらいでした。たまたま彼と連絡がとれて、行っていい? って言ったら、ちょうど今町まで車で来ているから乗っけてってあげるよって言われて、(彼の家まで連れて行ってもらって)泊まったんです」
●本当にそういうフランクな感じで旅をされているんですね。
「行く先々で知り合いの馴染みの宿のおうちに泊めてもらったりとか、友達が車を出してあげるよって言って、乗っけていってもらったりとか、その友達のやっている宿に泊めてもらったりとか、そのパターンがすごく多いですね」
●今回の旅で印象的な出来事ってありましたか?
「その友達の家に泊めてもらった時に、スピティのデムルという村に滞在している最中に、その村で夏の終わりに収穫祭をやるんですけれども、その儀式に立ち合わせてもらったのがすごく印象的でした。
あまり詳しくは話せないんですけれども、まだマル秘の部分があるので・・・(笑)、すごくいい体験をさせてもらって、いい写真を撮らせてもらって・・・それもたまたま呼んでもらって、たまたまその場に居合わせて、たまたま天気がよくってっていうパターンだったので、本当に運がよかったなと思います」
●次回の本を楽しみにしていますね! 今回の旅を通してインドやラダックの方々に対する思いとか、何か変化はありましたか?
「いや〜どうなんですかね〜。3年ぶりぐらいに行ったので、みんな感動の再会をしてくれると思ったんですけど、全然普通でなんにもなかったです(笑)。あ〜また来たの、みたいな感じで、当たり前のように扱われて、全然なにもなかったですね(笑)」
●ある意味いいですね。家族のような感じでね!
「まったくなんにも・・・親戚に久しぶりに会ったぐらいの感じです(笑)」

旅の記憶は、味の記憶に結びつく

●山本さんは先頃『旅は旨くて、時々苦い』という本を出されました。私も読ませていただいたんですけれども、「人は旅に出るとそのうちのかなりの時間を食べるという行為のために費やす」と書かれていましたね。それぞれの国で出会った「食」と共に、様々な思い出が綴られていて、情景をすごくイメージしながら、一緒に旅をしている気分になれました。
「ありがとうございます!」
●今回、「食」を切り口にした本を出そうと思ったのは、どうしてなんですか?
「もともと僕30年ぐらい前から、あっちこっち旅を繰り返してきていて、その度にまめに日記とか書いていたので、ノートは全部手元にあるんですね。そういう旅の話を、いつか振り返って書く機会があればいいなと思っていたんです。
すごく雑多な記憶の集積だったので、何をどうまとめていいのかみたいなところで考えていたんですけれども、ある時、あ! 食べたことの味の記憶っていうのは、意外とその時、経験した旅の記憶と結びついてよく覚えているなと。
やっぱり味覚って結構、五感全部を使って感じるものなので、そうやって自分の記憶に深く結ぶついた状態で保存されているんじゃないかなと思って、味の記憶を手がかりに記憶を振り返っていくと、たくさん思い出されることがありました。そういうのをまとめていくと、どうなるんだろうと思いついて書き始めたのが、今回の本のきっかけですね」

●確かに旅先での食事は、ただ空腹を満たすだけじゃない何かがありますよね?
「そうですよね。成功する時もあれば、あまりうまくいかないこともあったりとか(笑)、こんなはずじゃなかったものが出てきたりとかしますよね」
●それも思い出になりますよね。
「そうですよね。よく覚えていたりとか・・・あとトラブルにあってすごく困っている時に食べた物ってよく覚えているじゃないですか」
●確かににそうですね。
「逆に誰かに助けてもらった時に食べさせてもらった物もすごくよく覚えているし、そういう物ってずーっと思い続けていくと思うんですよね。そういうのを手がかりに本を、文章を書いてみたらどうだろうって思ったのが、この本のスタートラインだったというところです」
ドイツの安いパンと、ラダックのコーヒー
※この本に載っているエピソードから、いくつかお聞きしますね。「スーパーでいちばん安いパンとベルリンの壁」という記事がありましたが、これはどんなお話なんですか?
「これはひとつふたつ前の話から始まるんですけど、中国を旅したあとに、同じ最初の海外旅行の時に、北京からモスクワまでシベリア鉄道に乗ったんですね。
その時にたまたま同じコンパートメントになったドイツ人の若者がいて、僕とほぼ同じ歳ぐらいの人で、僕がベルリンに行くと言うと、彼がベルリンに来たらうちの大学の学生寮に泊めてあげるよって、夏休みだから空いている部屋あるから来い来い、って言ってくれて、僕はバカ正直に本当に行ったんです。
住所を頼りに出かけて行って、彼のところに1週間ぐらい泊めてもらって、居候させてもらった時の話を書いたんですけれども、今考えると、すごいなと(笑)、無茶やっているなと思うんですけどね。
その時に彼の住んでいた学生寮のすぐ近くにスーパーマーケットがあって、彼に案内してもらって、毎朝、朝ご飯に食べるパンとか、間に挟むハムとかをそこで買っていたんです。彼がいちばん安いパンがいちばん美味いぞ! って言ってくれて、確かにいちばん美味しかったんですね(笑)。
ドイツなのでパンがとても美味しくて、しかもいろんな種類のパンがスーパーに山積みになっていて、店の中にパンの焼きたての香りがふわ〜っと漂っているんです。その中でいちばん安いパンを3つ4つ買って、持って帰って半分に切って、サワークリームを塗ったりハムを挟んだり、みたいな形で食べていたっていうのを思い出して・・・」
●いいですよね〜。
「そういう話はやっぱりよく覚えているんですよね。あの時に食べたパン、美味かったなぁ〜みたいな感じで、なんか似たような匂いとか嗅ぐと、あ! あの時のあれ! みたいな感じで思い出したりとか、そういうことありますよね」
●そうですよね。記憶が蘇ってきますよね〜。あと「スノーキャップ・カプチーノと勉強の日々」、こちらはインドのお話でしたけれども・・・。
「そうですね。今年の夏も行ったラダックという場所での話なんです。僕は2007年から1年半くらい足掛け、時間をかけて、ラダックで長期取材をしていた時期があって、それはラダックについて本を書こうと思い立ったからなんですけれども、そのためには現地の言葉を学ばなければということで・・・」
●ラダック語、ですよね?
「チベット語の方言で、チベット語とも少し発音が違うんですけれども、とにかく学ぶしかないと。ちょっとでも現地の人に近づきたいなと思って・・・やっぱり現地語を喋れると現地の人の心のハードルも下がるので、なんとかしてそういう技術を身につけたいと思っていました。
時間だけはあったので、取材に行かない時に、町にいる時にはずっと勉強していたんです。その時によく通っていたお店の、当時はまともなコーヒーを出してくれる店が、そのレイという町にはあまりなくて、貴重なカフェインを摂取しながら、勉強していた時期を思い出しながら書いた文章ですね」
●「砂漠に降る恵みの雨のような存在」っていうふうに本に書かれていましたね。
「お店の名前が「Dessert Rain Café(デザートレインカフェ)」という名前だったんですね。もう今は閉店してしまったんですけど、あの頃あのお店の中で涼しい風に吹かれながら勉強していた日々を今でもよく覚えています」
(編集部注:山本さん流の美味しいご飯の探し方として、行った先でぶらぶらしながら、地元の人たちが集まっているお店に入って、おじさんたちが食べているものを注文するそうです。ほかにも宿のおかみさんが作ってくれる「おうちごはん」的なものがいいとのことでした。つまり土地の人が食べているものが、いちばん美味しいということなんですね)
※今まで旅先で食べたもので、強烈に印象に残っているお料理はありますか?
「またラダックで食べた物なんですけれども、トレッキングに行っている時に食べさせてもらった”トゥクパ”って言って、すいとんとか、ほうとうみたいな感じで、小麦粉を練ったものを汁で煮込んだ料理があるんですね。
ガイドしてくれた男の人がきょうはヤクの干し肉があるぞ! って言ってくれて・・・ヤクは毛長牛という、ヒマラヤの高地に住んでいる毛が長い牛なんですけど、その肉が美味しいんです。さらにそれを干し肉にしているものがあって、それをトゥクパにして煮込むと素晴らしい旨味が出て、お肉自体もホロホロに美味しくて、それはすごく美味しかったですね。
干し肉は、ラダック人でも高地に行って遊牧民と交渉して、もしあったら買ってきてくれって言われるぐらいすごくレアなものらしくて、とても美味しくいただいた記憶です」

時々いただけるご褒美
※都会で暮らしていると、食材は買ってくるもので、お腹が空けば、食べるものはすぐ手に入ります。でも山本さんが取材に行くへき地では、そうはいきませんよね。
「そうですね。まず大地を耕しタネを蒔くところから始めますからね」
●そうですよね〜。やっぱり現地では食材は育てる物、収穫する物っていう感じなんですか?
「全部が全部、もちろんそうではなくて、やっぱり近代化に伴って外部から輸入している物だったりとかもたくさんあるんですね。でもやっぱり伝統的な料理であったり、そもそも生活を支えている基盤は、農業だったり牧畜だったりしている部分が未だにたくさんあるので、その辺はすごく大事にしているというか、生活に根ざしている、生きるために働いているっていう感じがすごくあると思います」
●食べることと生きることが直結しているんだろうなっていう印象があるんですけれども、実際にいかがですか? 感じられることはありますか?
「やっぱり旅に出ると、食べることと生きることの結びつきみたいなものが、すごく解像度が上がったように感じられる部分があると思うんですよ。
路頭に迷ったら困るじゃないですか。泊まる宿が見つかんなかったり、どこかでご飯を食べようと思ったら、お店が全部閉まっていたりとか、ストライキかなんかでとか、実際にそういうことが時々あるんですね。
そういう時に、どうしようって思った時に、たまたまご飯を見つけられたりとかすると、あ〜食べる物があって良かったなってしみじみ思いますし、お腹を壊して辛い時に、だれか優しい人がお粥とか作ってくれたりすると、なんかそれもしみじみ美味しかったりしますよね。
そういう時にありがたみを感じることがあるので、やっぱり旅は僕たちが生きている、当たり前のことをわかりやすく示してくれる効能があるのかなって思いますね」
●山本さんは旅をされていて、どんな瞬間に幸せを感じますか?
「どうですかね〜。人によっていっぱいあると思うんですけど、今回に関しても自分が想像もしていなかった時にとてつもないギフトを貰える時があって、あまり詳しくは話せないんですけど・・・(笑)。
今までの旅でも、本当に奇跡なんかじゃないかと思うような瞬間に立ち会えることがあったりしたんです。それは狙って体験できるものでは、絶対ないんですけれども、ずっと現地のことを見守り続けていると、時々そういうご褒美をもらえることがあるのかなと思える時があります。
そういう自分がいただいたものを、僕は物書きであったり写真家であったりするので、ひとりでも多くの人に本という形で伝えていけたらなと思っています」
☆この他の山本高樹さんのトークもご覧下さい。
INFORMATION
30年以上、世界を旅してきた山本さんが訪問先で出会った「食」をテーマに書き上げた本です。味の記憶とともに綴られた旅の紀行文を、じっくり味わうことができますよ。ぜひ読んでください。「産業編集センター」から絶賛発売中です。
詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎「産業編集センター」HP:https://www.shc.co.jp/book/17377
本の出版を記念して、鎌倉市大船の書店「ポルべニール ブックストア」で現在、ラオス写真展と、世界の食文化フェアが開催されています。会期は10月3日まで。ぜひお出かけください。
詳しくは「ポルべニール ブックストア」のサイトをご覧ください。
◎「ポルべニール ブックストア」HP:https://www.porvenir-bookstore.com/
山本さんのオフィシャルサイト「ラダック滞在記」そして個人サイトもぜひ見てください。
◎「ラダック滞在記」HP:https://ymtk.jp/ladakh/
◎山本高樹さんの個人サイト:https://ymtk.jp/wind/