2026/10/4 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、しっぽの研究者、京都工芸繊維大学の助教「東島沙弥佳(とうじま・さやか)」さんです。
東島さんは1986年、大阪府生まれ。奈良女子大学を卒業後、京都大学大学院で、理学の博士号を取得。その後、京都大学白眉センターなどを経て、去年の春から京都工芸繊維大学の助教として活躍されています。
これまでにしっぽについて書いた本を数冊出版されていますが、新しい本がこの夏に出された『もしも、しっぽが生えたなら〜動物たちが語る しっぽのひみつ』です。
きょうはそんな東島さんに「しっぽ学」という学問や、しっぽの定義のほか、しっぽの機能や役割などうかがいます。
☆写真協力:東島沙弥佳

「しっぽ学」は、ヒトを知るための学問
※まずは、しっぽの研究をしようと思ったのは、どうしてなんですか?
「これは話すとちょっと長くなるのと、あとアカデミックな話ではないので恐縮なんですが、実はきっかけは天から降ってきたみたいな、すごくビビッ! ときたというのが正直なところです。
昔、研究のテーマを何にしようかなって悩んでいた時期があって、そんな時期にアフリカの発掘調査に参加していたんですね。それは人類の進化の始まった場所でもある大地溝帯っていう大きな崖のところなんですね。


そこできょうも研究のテーマが決まらなかったなと思って、帰ろうかなと腰を上げた時に“そうだ! しっぽ、どうかな!”みたいな感じで降ってきたっていうのが、本当に最初のスタートです」
●そうだったんですね。ビビッときたんですね!(笑)
「ビビッと来ちゃいましたね!(笑)」
●「しっぽ学」っていう学問があるんですよね?
「私が作ったんです!」
●ええ~っ! 東島さんが創設者?
「そうです! しっぽ学ってひとことで言っても、しっぽの研究をしていれば、何でもしっぽ学っていうわけでは実はなくて・・・しっぽ学っていうのは、しっぽを通して、私たちがどんなふうに人になってきたのかっていうのを知りたいなっていう、自分の研究のことを“しっぽ学”というふうに名付けたんですね」

●しっぽの研究っていうと具体的には、何をどんなふうに研究しているのですか?
「私たちがどのように人になったかなんですけど、まず“人”っていう言い方が日本語だとすごく便利で、漢字で書いたり、カタカナで書いたり、ひらがなで書いたりすると思うんですね。
私はカタカナの“ヒト”が、生物学的にどのように人になったのかっていう側面と、我々が持っている人間らしいものの考え方とか人間性っていうのが、どのように培われてきたのか? っていうふたつの方向から、我々がどのように人になったのかを、しっぽの研究から解き明かしたいなと思っているので、かたや生物学的な研究もしつつ、かたや文化的な表現の中にたくさん出てくるしっぽを集めてきて分析するみたいなこともしています」
●しっぽと言ってもいろんな形がありますよね。
「そうですね」
●長かったり短かったり・・・脊椎動物のしっぽの定義みたいなものはあるんですか?
「あります、あります! 私の定義は脊椎動物のしっぽになるんですけれども、実は3つの大事な条件を満たしている必要があります。ひとつはまず位置。どこに生えているかなんですけれども、肛門よりも後ろ、その先に生えているのがまず大事な条件としてあります。
その次が中身でして、中に背骨が入っていること。しっぽは体幹部分、胴体の延長線上になるので、胴体と同じように中に背骨が入っていること。もうひとつは形なんですけれども、体の外に出っ張っていること。それ以外はいろんな形があるんですけど、最低限、出っ張っていること。この3つがしっぽの定義です」
しっぽのあれこれ〜クモザル、カンガルー、ガラガラヘビ

●では、東島さんが先頃出された本『もしも、しっぽが生えたなら〜動物たちが語る しっぽのひみつ』についてうかがいたいと思います。私も拝見させていただきました。
「よかったです」
●この本は物語形式になっていて・・・不思議な百貨店に迷い込んだ主人公が、生き物のコンシェルジュに案内されて、しっぽを見て回り、自分にぴったりなしっぽを探すというそんなストーリーなんです。登場する動物の店員さんの説明で、しっぽの基本的な知識を得ることができます。
その中からいくつかお聞きしていきたいんですけれども、木の上で生活するクモザルのしっぽはかなり長いですよね?
「そうですね。かなり長いです」
●これは、どんな役割を果たしているんですか?
「クモザルのしっぽは、かなり特殊なしっぽをしていて、しっぽだけで全体重を支えてぶら下がることができる、すごく頑丈なしっぽです。(枝を)つかめるしっぽですね」
●長さはどれくらいあるんですか?
「彼らの胴体と同じくらいの長さだと思ってもらったらいいと思います」
●自分の全体重をしっぽが支えているって、なかなか想像つかないですけど・・・。
「そうですね。サルのしっぽっていうと、みなさん、しっぽ一本でブラーンってぶら下がっている状態を想像されると思うので、それがまさにクモザルです。ああいうことできるおサルさんは本当に一部の霊長類だけなんですね」
●すごいことですよね。
「すごいです!」

●あと、地上に暮らすカンガルーにも長いしっぽがありますよね。
「立派ですね」
●カンガルーのしっぽには、どんな特徴があるんですか?
「カンガルーのしっぽは、非常に太くてがっちりしている、ひとことでいうとそんな感じなんです。彼らのしっぽは、見てもらえばわかるように割と地面に半分くらいペタッとついている時が多いんですよね、じっとしている時は・・・。
例えば、2本足で立ち上がったりする時には、それで体重を支えることもできたりとか、あるいはオス同士がボクシングで戦ったりする時には、しっぽ一本でビョーンと立ち上がっちゃったりするような時もあります。
ぴょんぴょん跳ねている時には跳躍、ホッピングしている時には推進力を生み出すような役割なんかもあったりしますね」
●いろんな役割があるんですね。
「そうですね」
●川に暮らすビーバーは平ぺったいしっぽを持っています。これは泳ぐのに適しているんですか?
「そうです、そうです! 船のオールみたいな使い方をします」
●へぇ~! 硬いんですか、あのしっぽって?
「いや、たぶん船のオールよりは、ずいぶん柔らかい素材なんですよね。泳いでいる映像なんかを見ると意外としなっているので、まあまあそこそこ柔らかいんだと思います」
●へぇ~! ガラガラヘビのしっぽは、その名の通り音が鳴りますよね?
「はい、鳴りますね」
●しっぽの中に音が鳴るものが入っているってことですか?
「いえ、そう思っちゃいそうなんですけど(笑)、マラカスみたいに・・・。実は中は空洞になっていて、カサカサしたものが積み重なっているっていうイメージですね」
●どうやって音が鳴っているんですか?
「なんていうのかな・・・あれはケラチンみたいな皮膚と似たような成分のものでできているんです。乾燥したカサカサのものが擦れ合うことで、カラカラカラっていう音が鳴っているので、中にビーズとかが入っているわけではないんです」
●トカゲは敵に襲われると、しっぽを切って逃げると思いますけれども、哺乳類ではそんな動物はいないですよね?
「実は(しっぽを)切ってというよりは、しっぽが取れちゃうみたいな動物は一部います。例えばリスの仲間とか、あとはそうだな・・・ムササビ、モモンガみたいな、ああいう動物たちはしっぽをパン! と抑えられてしまうと、しっぽの毛がずるって取れてしまう、それをおとりにして本体は逃げるっていうような時もあります」
しっぽの長さは気温で決まる!?
※いろんな生き物のしっぽについてうかがってきましたが・・・しっぽの長さは、何が影響して長くなったり、短くなったりするんですか?
「難しい質問ですね。ひとことで一対一の関係があるわけではないんです。いくつかしっぽの長さに関係する要因というのは知られています。
そのひとつが暮らしている地域の温度、気温が結構大事なんだというのが哺乳類では言われています。というのは、例えば我々がスキー場とかに行くと、手の先とか耳とかすぐ冷たくなってきちゃうと思うんです。
そんな感じで出っ張っている部分が多いと、そこから体の熱が逃げやすくなるんですよね。なので、寒い地域に暮らしている生き物は、耳とか手足とかしっぽとか、そういう出っ張っている部分が短くなる傾向があると言われています。
一方で長いと、やはり体の熱を発散したほうが体の温度を一定に保ちやすいので、逆に耳が大きくなったり、しっぽが長くなったりという傾向が一部あるって言われていて、しっぽもそうで、そういう影響があるとは言われています」
●木の上で暮らすサルは、しっぽが長くなって、枝に巻き付けたりして、木から落ちないようにしているんですよね?
「それは先ほどご紹介いただいたクモザルはそうなんですけど、ほかのサルは巻きつけられないんですよね」
●あっ! ニホンザルとかは確かにしっぽは短いですよね?
「そうです、短いです。あと、しっぽの長いおサルさんでも、巻きつけられないしっぽを持つものというのは結構いて、そういうやつはどうやってバランスを取っているかっていうと、(しっぽを)左右に振ってバランスを取るんですよね」
●なるほど。巻きつけられない分、振るんですね!
「そうです、そうです! 人間でも不安定なところを歩くと結構、手がつい左右に出ちゃうと思うんですが、イメージとしてはあのような感じで、重心をまっすぐ保つために、しっぽをムチみたいに振るっていう使い方があります」
●私たちの身近な場所にいる犬は、喜びをしっぽを振って表しています。感情をしっぽで表現する動物は、ほかにもいるんですか?
「いますね!(しっぽを)振るっていうのだと、いくつかの動物で楽しい時に振るみたいなのはあるんですけど、あまり論文としては発表されていないので、割と身近な動物では経験則で、そうだろうって人間が判断しているものが多いんです。
それ以外では、例えば、仲間で暮らす“ティティ”っていう南米に暮らすサルがいるんですけど、仲良し同士の個体で、しっぽを三つ編みみたいに絡め合って、仲よしだね! っていう確認に使ったりとか・・・」
●絡めあうんですか?
「そうです。可愛いですよ! あとは、群れの中に順位があるようなおサルさんだと、偉いサルと偉くないサルで、しっぽの上げ方を変えて、自分の順位を表したりとか、そういう使い方なんかもあったりします」
●偉いサルはどういう上げ方をするんですか?
「例えば、偉いサルはグッといちばん高く、S字状にギュッとしっぽを上げるんですけど、2番目に偉いサルは、それよりちょっと控えめに上げる・・・」
●ええ~っ!(笑)
「もちろんサルの種類によって、どう上げるかはいろいろ違いはあるんですけど、そんな使い方もあったりします。そのサルが面白いのは、いちばん偉いサルが不在の時は、2番目のサルがちょっと気持ち1番目ぐらい上げちゃうとか(笑)」
●面白いですね(笑)
「そうなんです(笑)」
●不思議だな・・・東島さんが知る中で興味深いしっぽの使い方をしている生き物ってほかにいますか?
「いろいろ千差万別なので全部面白いんですけど、そうですね・・・変わったものでいうと、ガラガラヘビの仲間で、しっぽの先端が擬餌(ぎじえ)みたいなルアーみたいな使い方をして、それを振ってやることで、クモが弱っているみたいに見えるんですよ。
なんかケパケパしていて・・・そうすると鳥が餌かもしれないって寄ってきて、それを狩るっていう、狩りのためにしっぽを使うなんていう変わった使い方もあります」
(編集部注:しっぽは、日本のことわざにも登場しますよね。例えば、しっぽをつかむ、しっぽを巻く、しっぽを振るなど。その語源は、東島さんによると、多くは犬の行動から、来ているのではないかとのことですよ)
人はどうして、しっぽをなくしたのか・・・!?
※人間に近い生き物、ゴリラやチンパンジー、オランウータンなどにはしっぽはないですよね?
「ないですね」
●これは進化の過程で退化していったということですか?
「そうですね。実はチンパンジー、ゴリラ、オランウータンと人は、共通の先祖から進化をしてきているんですけど、その共通の先祖の段階で、すでにしっぽをなくしているということが、化石の記録からわかっています」
●木の上で暮らしているから、しっぽがあったほうがいいのではないかなと思っちゃうんですけど。
「そう! おっしゃる通りで、実はチンパンジー、ゴリラ、そして我々人の共通のご先祖様は、木の上で四足歩行で暮らしていたんですが、しっぽがあったほうがよさそうなのに、そしてほかの木の上で暮らす動物は、そうやってしっぽを便利に使っているのに、なぜか我々の場合はなくしちゃっていたので、なぜなくしちゃったのかが未だにミステリーなんですね」
●まだ明らかにされてないんですね?
「そうなんです」
●人の進化の過程で、しっぽがなくなったということになるんですか?
「そうです! 人、チンパンジー、ゴリラ、オランウータンは同じタイミングで、そのご先祖様の段階でしっぽをなくしているということになります」
●人はお母さんのお腹の中で、人類の進化を体現しているという話を聞いたことがあるんです。ということは、お腹の中で成長している時に、しっぽのある時期というのがあるんですか?

「そうです、そうです! 最初におっしゃった“進化を発生は繰り返すのか”というのは、ロマンのある話で、昔はよく言われたんですが、最近は“お腹の中での形の変化自体は、進化を繰り返しているわけではない。たまたまそう見えちゃうだけだ“というふうに言われているんですけど、実際にお腹の中で私たちは、一回しっぽが生えてなくなる時期というのがあります。それは正しいです」
●時期はいつ頃になるんですか?
「妊娠のだいたい8週目ぐらい、もちろん個人差はあります。人が生まれる前というと、“胎児”という言葉がピンとくると思うんですけど、実は胎児の前に“胚(はい)”と呼ばれる時期があって、その胚と呼ばれる時期に我々の人らしい体の形ができてくるんです。ものすごくダイナミックに体の形が人らしくなっていく時に、一回できたしっぽが消えてしまいます」
●そうなんですね。今後、しっぽの研究でどんなことを明らかにしたいと思っていますか?
「やっぱり我々がどのように人になったのかというのに、一歩でも近づくというのがこのしっぽ学の目標なので・・・生物学的には我々がどう人になったかというのは、言い換えると我々がどんなふうにしっぽをなくしたのか、というような言い換えができるんです。
そういうメカニズム、仕組みというのを少しでも明らかにしたいなというのと同時に、なんで生物学的にしっぽがないのに、私たちはこんなにしっぽが気になっちゃうのかっていう、心の中、人間らしいものの考え方というのも気になっていますので、そういったものも追いかけていきたいなと思っています」
動物園で、しっぽ観察のすすめ
※何度も聞かれていると思いますが、東島さんがしっぽをつけられるとしたら、どんなしっぽが欲しいですか?
「難しいですね。これはいつも困るんです。正直しっぽを知りすぎていて、一本に絞れないっていうのが私の本当のところなので(笑)、私の最適な答えというか、いちばん中庸な答えとしては、いる時に付け替えられるいろんなしっぽがいいというのが私の答えです」
●いいですね。便利ですね(笑)
「そうなんです(笑)」
●しっぽの研究者としては、生のしっぽを観察できる動物園はやはりパラダイスですよね?
「そうですね! 楽しいですね」
●おすすめの動物園はありますか?
「う~ん、難しいですね。すべての動物園、全部楽しいので、なかなかこれもいちばんが決められないんですけれども、やっぱりいろんな動物に生で会えるところとか、あとお尻が見やすいところがいいなと思います(笑)。
例えば関東圏ですと、以前お邪魔した(よこはま動物園)ズーラシアさんはとても気に入っています。あと私自身は関西人なので、やはり職場に近い京都市動物園は何回もお邪魔したりもします。それぞれ九州、四国にも大きい動物園あると思うので、ぜひ生でご覧いただきたいと思います」
●いいですね。私も息子が生まれてから動物園はよく行くんですけれども、しっぽに注目してなかったな~と改めて思っていて・・・。
「例えば、動物園に行くと、どうしてもみなさん、顔を見ているんですよね、動物の・・・」
●見ちゃっています。
「そうですよね。お尻を向けているとみなさん、ほぼ素通りしちゃうんですよ。“なんかもういい、次に行こう!”みたいな・・・でもそれはもったいなくて、やっぱり顔からしか得られない情報と、お尻側からしか得られない情報があるんですね。
お尻を向けている時はしっぽがどれくらい長いのかとか、どんな時に(しっぽを)振っているのかとか、仲間が近くにいる時に振るのか、ひとりの時に振るのか、障害物が近い時に振るのかとか、そんなことも気にしつつ・・・。
あとは動物のパネルもあると思うので、そういうパネルでこの子は暑いところに棲む子なのか、あるいはちょっと涼しいところに棲んでいるのかとか、そういう情報を自分の中で積み重ねていくと、パズルみたいにその動物の解像度がどんどん上がっていきますね」
●しっぽ、観察してみます!
「ぜひぜひ! 後ろをお尻を向けている動物の前は空いていますので、おすすめですね(笑)」
●そうですね(笑)。では最後に東島さんにとって、しっぽとはなんでしょう?
「難しいですね(笑)。私はしっぽを知ったことで、自分の世界がだいぶ広くなったなと、いろんなことが楽しめるようになったなと思うので、私にとっては、しっぽの研究者としては人生のパートナーですけれども、二人三脚で人生を楽しんでいるって感じです」
INFORMATION
『もしも、しっぽが生えたなら〜動物たちが語る しっぽのひみつ』
東島さんの新しい本をぜひ読んでください。この本は物語形式になっていて、不思議な百貨店に迷い込んだ主人公が生き物のコンシェルジュに案内されて、しっぽを見てまわり、自分にぴったりなしっぽを探すというストーリー。読み進めていくうちに、動物の店員さんの説明で、「しっぽ」の基本的な知識を得ることができますよ。
岩波ジュニアスタートブックス・シリーズの一冊として絶賛発馬中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎岩波書店:https://www.iwanami.co.jp/book/b10170450.html
東島さんのホームページも見てくださいね。
◎https://tojima-anthro-japanese.jimdofree.com/







