2026/11/8 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、里山湿地研究所の代表
「富田啓介(とみた・けいすけ)」さんです。
富田さんは1980年、愛知県生まれ。中学生の頃、当時住んでいた知多半島を自転車で巡り、宝探しのように、珍しい植物の写真を撮っていたそうです。
ある時、自分が行くフィールドが、ニュースに出てくる里山ではないかと気づき、その後は、風景の写真も撮るようになったとか。
そして2009年に、名古屋大学大学院・環境学研究科を修了後、愛知教育大学・准教授などを経て、去年からフリーランスの研究者として活躍されています。
ご専門は「自然地理学」、中でも「地生態学」。景色そのものを丸ごと対象とし、自然と人が関わり、どうしてそんな景色ができたのかを研究。
去年設立した「里山湿地研究所」はフリーで活動するための屋号のようなもので、ご自宅の部屋が研究所だそうですよ。
そんな富田さんは昔から湿地や水辺にも興味があり、里山と湿地を関連づけて研究されています。現在のおもな活動は、企業との森づくりや自然観察会、講演活動や本の執筆など。活動のメインフィールドは愛知や岐阜、三重や静岡などの東海地方だそうです。

きょうはそんな富田さんに里山の特徴や役割、保全活動とSDGsの関連性、そして研究所専用のプライベート里山のお話などうかがいます。
☆写真協力:富田啓介

里山×奥山、その違い
※去年、富田さんは『一冊でまるごとわかる「里山」入門』という本を出されています。この本は「里山」をいろいろな視点で解説した本だと感じたんですが・・・「里山」とは、何か定義があるのでしょうか?
「里山という言葉、最近よく聞くようになったんですけれでも、どんな意味なのかというと、結構幅が広くて、戸惑ってしまう人も多いんじゃないのかなと思うんですよね。いちばん簡単にいうと・・・里山というのは人と共にあった自然ということです。
もう少し細かく言いますと、人が例えば農業をやったり、生活をしたりしていく上で、必要に応じて作り変えて、それを維持管理してきた自然環境ということです。一般には森林、雑木林を指すことも多いんですけれども、私はそこから少し広げて、雑木林と一緒にあるような田んぼとか畑とか、住宅地の中にある鎮守の森とか、あとは農業用の水路とかため池といった水辺も含めて、里山と呼んでいます」

●「奥山」っていう言葉もありますけれども、里山とは違いますよね。
「そうですね。里山が先ほどお話ししたように身近なところにある、人と関わり合ってきた自然であるのに対して、奥山というのは人が滅多に入らない、遠いところにある山っていうイメージの場所です。
自然科学的にいうと、原生林とか天然林と言ったりしますけれども、人の影響を受けずにもともとあった状態で育った大きな木がたくさんあるようなところです。世界遺産になった白神山地とか、あるいは知床半島の森とか、そういったところが当てはまるのかなと思います」
●里山の地形的な特徴はあるんですか?
「はい、里山が多い地形と言いますと奥山のあるような険しい山岳地帯でもなくて、一方で町がたくさん発展している低地でもなくて、その間にある台地とか丘陵地とか、細かい起伏がたくさん連なっているような場所が相当するんですよね。
木の枝のようにたくさん細かい谷が入り込んで、そういったところを『谷戸(やと)』や『谷津(やつ)』と呼んだりして、里山の原風景的な扱いでよく取り上げられたりしています」
●樹木とか植生でいうと、代表的なものはどんなものがありますか?
「里山の樹木といっても地域によっていろいろあるんですが、例えば関東地方でいうとコナラとかクヌギといったような、冬に葉っぱの落ちるどんぐりの木が代表的なものかなと思います。
一方で私の住んでいるような東海から西のほうにいきますと、マツの木が結構多く生えていて、地域柄がよく出ている部分かなと思います」
里山〜恩恵、神事
※私たちはこれまで里山から、どんな恩恵を受けてきたのでしょうか?
「里山っていうと、今でこそ生き物が棲む場所っていうイメージが強いんですけれども、昔は里山からいろんな生活の物資を得ていたんですよね。まず燃料が当てはまるかなと思います。
高度経済成長期の前まではガスや電気はありませんでしたので、お風呂を沸かすにしても、それからご飯を炊くにしても、山から木を伐ってきて、それを燃料にして火を起こしていたということがあります。当然、食料も里山で育てられた野菜とかお米を食べていたわけです。
あと珍しい事例では、里山の木で家を建てるなんていうこともあったりします。一見、里山と無関係に見える都会に暮らす人たちも、里山から仕入れたもので生活していたという点では、ほとんどの人が何らかの恩恵を受けていたんじゃないのかなと思います」

●なるほど。里山ってその土地のお祭りとか神事とかにも関連する場所だと思うんですけれども・・・。
「そうですね。昔は里山のいろんなところに神様が宿っているっていうふうに言われていまして、そうした神様に例えば農業の実りを守ってもらうとか、あるいは災害が起こらないように、神様が怒らないように沈めるといったようなことで、お祭りや神事が行なわれてきたのかなと思うんですよね。
私は、昔から里山に暮らしているかたにお話をうかがったりという研究もやっているんですけれども、ちょっと驚いたのは、なんと大正時代くらいまで雨乞いをしていた地域があったりして、それだけやっぱり神様に里山の恵みを祈っていたんだなっていうのを深く実感した次第です」
里山を子供たちの教育の場に
※富田さんの本『一冊でまるごとわかる「里山」入門』で、里山の保全とSDGsを関連づけて紹介されています。そのあたりを、解説していただけますか?

「SDGsっていうのは、持続可能な社会を作るために2030年までに進めたいことということで、17の項目が掲げられているんですけれども、私はその中のほとんどが里山と関わっているんじゃないかなと思っています。言い換えれば、里山の保全はSDGsの実践そのものになるんじゃないのかなということですね。
例えば『住み続けられるまちづくりを』とか、『陸の豊かさも守ろう』というような項目があったりします。これはまさに里山の保全そのものを指しています。
一見関係がなさそうな『質の高い教育をみんなに』っていう項目も、やっぱり里山の歴史とか環境とか生物、もちろん地理なんかもそうですけれども、そういったものを教育する実践の場だというふうに捉えれば、里山もやはりSDGsの現場と捉えることができるのかなと思うわけです」
●里山の維持、管理、保全を行なうことが、SDGsの実現につながっているということですね。
「おっしゃる通りだと思います」
●荒れている里山が増えているというお話もよく聞きます。やはり保全活動は当然必要ですよね。
「そうですね。本来里山というところは、生活とか産業のための必要性から常に人の手が入っていて、そのことが結果として、人や生き物にとって、いい環境を育んできたっていう場所なんです。
高度経済成長期の頃から、ガスや電気が普及して薪を取らなくなったり、あるいは農業も海外から安い作物が入ってきて輸入の量が増えたりしますと、里山に人がなかなか入らなくなってしまうんですね。
私は里山に人がいるっていうのは、人の気配なんていう言葉で呼んでいたりするんですけれども、そうした人の気配がなくなって荒れてしまう、つまり草木が野放図に茂ってしまうというような状態になっていると思います。
そうした状態を”自然に戻るんだから、いいんじゃないか”というふうにおっしゃるかたもいるかと思うんですけれども、今はこうやって放置しておくと、外来生物が入ってきてしまったりします。
本来の自然にそのまま戻っていくっていうふうにはなかなかうまくいかないですので、適度に手を入れて、昔ながらの里山の管理を続けていくのが大事かなというふうに考えています」
●改めてになりますけれども、現代の里山の役割を挙げるとしたら、どんなことがありますか?
「先ほどもお話ししたように里山っていうと、生物の保全する場所っていうイメージが強いようにも思います。もちろんそれも大事なんですけれども、それだけではなくて、お祭りとか神事などのように地域の精神世界の拠り所でもあります。あと子どもたちが遊んだり、教育を受けたりするような、そういう実践の場でもあるんですよね。
教育っていう観点で私がちょっと興味を持ったのは、野外で教育を行なうと、自然に興味がある子が進んで自ら物事を行なう、そんな子が増えるといったような研究もあったりします。里山の中で単に生き物を学ぶっていうだけではなくて、生き方とか、社会の中で使う能力を育むということでも、大事な場所なのかなというふうに思っています」
(編集部注:里山の所有者について富田さんにうかがったところ、昔は集落の共有の管理地で「入会(いりあい)」と呼ばれていたそうですが、明治以降に安定した税収を確保するために、個人が持つようになり、今も個人所有の私有地が多いそうです。また、企業が購入し、工場を建てたり、太陽光パネルなど設置するパターンも増えているとか)
里山を五感で感じよう
※これからの時代、里山をどのような形で未来へ残していけばいいでしょうか?
「大事なところだと思います。里山保全に関心が高くなってきて、今各地で保全作業が始まっているのは、とても喜ばしいことだと思うんです。一方で大きな課題もあるんですね。
何かというと、やはり保全に関わっているかたの多くがご高齢のかたが多いんですね。リタイアされてから少し時間ができて、何かやろうっていうかたが里山に関わっておられる。これはひとつ重要な“生きがいの場”という機能を果たしていて、いいとは思うんですけれども、一方でなかなか若いかたが里山保全に関わらない。
次の世代に受け継いでいくっていう点では、そこがやっぱりクリアされないと、なかなか難しいということで、例えばおカタい“保全”というところを前面に出すのではなくて、“里山で木を伐る体験をしてみよう“というような、ちょっとレクリエーション的なところを少しアピールして、作業が終わった後、みんなで楽しくご飯を食べるとか、そういったような遊びの側面も入れて、どんどん若い人に参加してもらえるといいのかなというふうに思ったりしています」

●都会暮らしのかたに里山を知ってもらうには、まずは里山に行ってもらうっていうことが大事ですよね?
「はい、そうですね。まずは出かけていただいて、里山ってこんなところだな~っていうのを、五感をフルに活用して感じてほしいなと思うんですね。
里山というと、どうしても勉強しようとか課題を学ぼうとか、そんなふうに気負ってしまうところがあると思うんですが、そんなことはなくて、ふらっと出かけて写真を撮って、感じたことを例えばSNSとかを通じて、友達と共有したりして楽しんでもらえればいいなと、そういうふうに思います。
具体的な場所でいうと、私が以前、横浜のほうに住んでいたことがあるんですけれども、その時によく行った場所なんですが、横浜の南の港南台という団地の駅があります。そのあたりからず~っと鎌倉のほうに森をつたって歩いて行ける道があるんですね。
横浜市の制度で“市民の森”っていうのがあって、保全されている場所なんです。そこを歩くと結構ボリュームのある雑木林があったりとか、小川が流れていたりとか、里山の雰囲気をかなり密度濃く感じることができるのかなというふうに思います」
●五感でフルにいろいろ感じられそうですね!
「はい、ぜひそういった所に行ってみていただけると嬉しいなと思いますね」
瑞浪サテライトラボ
※「里山湿地研究所」のオフィシャルサイトに「瑞浪(みずなみ)サテライトラボ」というのがありました。これについてご説明いただけますか。

「これは岐阜県の南部に瑞浪っていう町があるんですけれども、そこに私が雑木林と湿地を所有していて、そこをちょっとかっこよく“サテライトラボ”と呼んでいるんですね。
6年ほど前に不動産屋のウェブサイトを何気なく見ていたところ、雑木林と湿地がセットになっていた土地が売り出されていて、ここを手に入れたら自由に里山と湿地の研究ができると思って・・・当時車を買うためにお金を貯めていたんですけれども、そのお金をそっちに使っちゃって (笑)土地を手に入れました。
今そこにいろんな気象の観測装置を付けたりとか、動物の自動撮影カメラを付けたりとか、里山と湿地を研究して学ぶ場として活用しています」
●車ではなく湿地を手に入れたんですね(笑)。そこではどんな動植物が確認されているんですか?
「はい、いろんなものが見られるんですけど、いちばん多いのはイノシシです。湿地に“ヌタ場”っていって、イノシシがお風呂に入るみたいに泥で身体を洗ったりする、そういう姿が見られたりします。あとイノシシの親子連れが一緒に歩いていたりします。

ほかには、カモシカとかニホンジカとか、あと小っちゃいリスとか、あと化かされたことはないんですが、タヌキやキツネもいます」
●植物だと、どんな植物が見られますか?
「瑞浪サテライトラボの中には湿地がありますので、湿地の植物がたくさん生えています。その中には”食虫植物”といって虫を捕まえて食べる『モウセンゴケ』とか、あとは『ミミカキグサ』といって、夏に小っちゃい黄色とか紫の花を咲かせるものがあるんですけれども、地中に袋がついていて、プランクトンを吸い込んで捕まえちゃうみたいなものがあったりして、とても珍しくて面白いものがたくさんあります」
●今後、瑞浪サテライトラボから、どんなことを発信していきたいですか?
「はい、ラボの様子については一般のかた向けには、今年の春からドローンで空撮を始めたりして、あと先ほどお話しした動物の動画も含めて、季節ごとに編集して研究所のYouTubeチャンネルで短い動画として発信しております。
そのほか、調査の結果に関しては、これまでもそうだったんですけれども、学会などで学術研究の成果という形でも発信していきたいと思っています」
●では最後にご自身の活動を通して、一般のかたにどんなことを伝えていきたいか教えてください。
「はい、ありがとうございます。伝えたいことは本当にたくさんあるんですけれども、いちばんは里山の魅力ですね。
私は研究者ですので、もちろん里山を理解するためのベーシックな知識とか新しくわかったことなんていうのも発信していきたいんですけれども、それよりも何より、まず里山を面白い! 楽しい!と思っていただけるかたが増えるのが大事かなと思っていますので、これからも里山の綺麗な景色や面白いエピソードなどを本や動画とか講演などでお伝えしていければなと思っています」
INFORMATION
里山を科学的かつ歴史的な視点で捉えていて、この本で里山とは何かがすべてわかる内容になっています。写真も豊富に載っていて、説明もわかりやすく、まさに里山入門のためのテキストブックと言える一冊、おすすめです。ぜひ読んでください。ベレ出版から発売中。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎ベレ出版:https://www.beret.co.jp/book/48077
富田さんはこの本を教科書にして、オンデマンドの「楽しい里山講座 入門編」を開催。一回の講座が30分で、初回のみYouTubeで無料で視聴できます。2回目以降は「NOTE」というサイトで、ワンコイン500円で見られます。先月3回目が配信されました。詳しくは、里山湿地研究所のオフィシャルサイトを見てください。
◎里山湿地研究所:https://hoshikusa.jpn.org/







